地域対応型

「地域対応型」PB 戦略から見たチェーンストアの進化について
徐 斌(小樽商科大学大学院)
Keyword: 地域対応型 プライベートブランド 地域性 コンビニエンスストア
【問題・目的・背景】
2015)。小林(2015)は地域に根付いている店舗経営者と連
1.研究背景
携し、地域の嗜好に応じた商品を品揃えすることが売上を
近年、大手小売業者は地域特産品等の地域資源を活用し
確保するためには不可欠であると指摘した。
て開発し、地域限定で販売するオリジナル商品、いわゆる
「地域対応型」プライベートブランド(以下は PB とする)
商品の開発に取り組んできている。
「地域対応型」PB は従来の PB との違いについて明らか
にするため、下記の図 1 を作成した。
[図1 「地域対応型」PB の位置づけ]
例えば、イオングループは「根釧牛乳」等の生鮮品をこ
大手メーカー
だわった地域トップバリューを強化している。ローソンは、
各地の食材を使った弁当などを期間限定で提供する「北海
道味紀行」が注目されている。
地域限定 NB
全国的展開
地域的展開
「地域対応型」
PB
株式会社セブン-イレブン・ジャパン(セブンイレブンと
する)は「地域性」を取入れて PB 開発に取り組んできてい
る。
NB
PB
大手小売業者
(出所)筆者作成
[表1 セブンイレブンの地域密着戦略]
図1のように、大手メーカーが開発し、全国的に展開
地域密着戦略
具体的展開
されている NB 商品に対して大手小売業者が開発した PB
自治体との連携
「包括協定締結」:60 自治体(1道2
商品が挙げられる。地域的に展開されている、地域限定
(包括連携協定
府38県19市)
の NB もある。例えば、アサヒビールの関西仕立ての商品
の締結)
① 県産食材の活用
や、日清食品のカップ麺の北海道限定メニューもよく見
② 「地産地消フェア」とオリジナル
られている。それに対して、地域限定で展開されている
商品開発
PB 商品のことを「地域対応型」PB と位置付けている。
エリア別の「地
全国を8の地域に分けて商品開発部門
この PB の新しい展開である「地域対応型」PB の開発面
域限定」商品開
を配置し、エリア別の商品開発を強化
についての議論がまだ不十分であると考えて、本研究で
発
:(北海道、東北、関東、甲信越・北
は、この「地域対応型」PB に注目して考察していく。
陸、東海、近畿、中国・四国、九州)
(出所)セブンイレブンの HP より筆者作成
2.研究目的
2006 年から 2016 年まで日本全国にわたり 60 以上の自治
「地域対応型」PB の商品開発面に注目し、「地域性」と
体と地域活性化包括連携協定を結び、各地域向けに地域限
いう付加価値を創出する主たる要因を特定し、要因間の関
定のオリジナル商品・1570 品目を開発し販売した(セブン
係について明らかにする
イレブンのニュースリリースから集計した数)。
PB 開発についての既存研究から見ると、「地域対応型」
PB に関する研究はまだ少ないが、小売業者の商品開発にお
いて、「地域性」を重視する必要性があるといった主張が
[図 2 地域対応型 PB 開発にかかわる要因]
地域貢献の方針
話題性
カテゴリー
コンセプト
販売期間
「地域対応型」PB 開発
ある。
従来のチェーンストア理論によると、フォーマットや業
務手順等の標準化を実現し、
画一な店舗づくりで運営効率
広告戦略
展開エリア
地域特産品
提携者
を高めることが中心的な課題とされてきた。
高齢化が進ん
(出所)筆者作成
でいる地域にて当地の味が重要視されることから商品の
現段階では、図 2 のとおり、「地域性」を創出する要因
味覚を地域に合わせることが不可欠である。
地域や立地条
件に合った品揃えや店舗運営をするのも必要である
(矢作
はこの 9 つがあると想定している。
【研究方法・研究内容】
値訴求」へ移り、開発目的も価格競争力の強化からスト
本研究はセブンイレブンを対象として考察していく。
以下の四段階に分けて進めていく。
アロイヤルティの向上へと転換してきている。
その結果は、PB 商品の階層化が進んできている。下記
第1段階
PB 開発に関する文献研究
の表 4 のとおり、低価格ライン、基本ラインと高品質ラ
第2段階
「地域対応型」PB に関する情報収集
インの 3 層のほかに、健康志向や環境志向、オーガニッ
第3段階
テキストマイニング、
クラスター分析等
クといった特定のニーズに応じた「α」型 PB があり、「3
の手法から情報分析・統合
層+α」といった PB の階層化が進んでいると指摘されて
考察
いる(矢作 2013)。
第4段階
まずは第1段階の文献研究の結果について以下の3点
PB の発展段階に関する既存研究から明らかになったの
に整理した。
は、「地域対応型」PB は「価値訴求型」PB の新しい展開
1. PB の発展段階からみた「地域対応型」PB の位置づけ
であると位置づけできる。
[表 2 PB の発展段階]
2.PB 商品に対する消費者の購買動機について
比較項目
第1段階
第2段階
第3段階
第4段階
消費者は低価格だけではなく、「価値訴求」の PB 商品
も求めていることである。
ブランド ジェネリ 準ブラン PB
拡張され
タイプ
ック
た PB
戦略
ノーブラ 低価格戦 模倣戦略
付加価値
層に対応できるPBの階層を作りあげていくことが今後の
ンド
戦略
課題である(重冨 2009)。宮下(2011)は消費者ニーズ
目的
品質
購買動機
ド
略
PB のターゲティングを精緻化・細分化し、異なる顧客
マージン マージン ストアイ ・差別化
に関する科学的手法による分析、把握を前提とする商品
の増加
・ストア
開発を強化することが不可欠で、特に NB 商品にはない価
イメージ
値としての地域性や季節性等を重視した商品価値によっ
の増加
メージ
低品質イ 知覚品質 NB と 同
革新的・
メージ
が低い
等
差別的
価格
価格
品質・価 ユニーク
格両立
性
て需要を喚起することがカギを握ると指摘し、本研究が
取り扱う「地域性」を訴求する「地域対応型」PB と似通
う視点を提示した。
3. PB 商品の開発動機について
(出所)Laaksonen and Reynolds (1994) p.38 より一部
PBを多く利用する消費者は特定小売業者のPBより、PB
表2のとおり、PB の発展段階はノーブランド戦略、低
の価格優位性にロイヤルティを示す傾向があるとした研
価格戦略、模倣戦略、付加価値戦略という四段階に分け
究もある(Ailawadi et al., 2008; Ngob, 2010)。PBの
られ、開発の目的がマージン増加の他に、差別化による
利用とストア・ロイヤルティの正の相関関係を強く示す
顧客基盤の拡大に移り、品質水準が低品質から、主要な
消費者行動の特性には、「価格志向」が強いことである
ブランドと同等、さらに革新的でユニークな付加価値へ
と実証した研究もある(Koschate-Fischer et al., 2014
の進展がみられる。
)。
矢作(2015)は日本における PB パラダイムの転換につ
陶山ら(2008)によれば、PBロイヤルティ構造の日英
米3ヶ国の比較を行った結果、3ヶ国に共通していたのは、
いて表 3 のように整理した。
表 3 日本における PB パラダイムの転換(矢作 2015)
低価格 PB
高品質 PB
基本特性
価格訴求型
品質重視型
開発目的
価格競争力強化
ストアロイヤルテ
ィの向上
競争上の差異
価格
価値
開発主体
スーパー
スーパー、コンビニ
製造委託企業
主に下位メーカー
上位メーカー含む
表 3 にように、日本の PB 開発が「価格訴求」から「価
PB価値優位性に対して価格要因の影響力が低く、環境・
健康といった付加価値要因がPBロイヤルティの形成に強
く寄与していることが明らかになった。低価格商品の供
給、品質の差別化、多ブランド化による顧客誘引によっ
て売上を増加させようとした結果として、ストア・ロイ
ヤルティの向上につながることが指摘されている(中村
2009)。
PB の導入によりストア・ロイヤルティを向上させるに
は、低価格 PB による「価格志向」が強い消費者を吸引し
ながら、環境・健康などの付加価値を訴求することが有
効な要因であり、本研究では、この付加価値を訴求する
「地域対応型」PB 開発について議論を深めたい。
【研究・調査・分析結果】
提携者がいる商品数
割合
北海道(246)
126
51.2%
長野県(110)
28
25.5%
提携者と組んで商品開発するケースは北海道のほうが
1.情報収集について
圧倒的に多く、北海道情報誌「じゃらん北海道」との連
本研究はセブンイレブンのHP に公開されているニュー
スリリースの記事のから、2006 年から 2016 年までの「地
携が原因である。
④広告戦略について
域対応型」PB 開発にかかわるのを収集した。各都道府県
「地域性」といった商品価値をいかに消費者に情報発
向けと地域向けを合わせて、621 の記事の中で掲載した商
信するのかについて分析する。店内のポスターの掲載や、
品を 1572 品目に関する情報を収集し、整理した。
地域特産品を使って商品をネーミングしたり、地元の食
テキストの情報であるので、テキストマイニングの手
法を用いて、形態素を解析し、データベースを作成した。
材等をアピールするワインポイントシールを商品パッケ
ージに貼り付けしたりしているケースもみられる。
2.分析について
広告あり
割合
北海道(246)
76
30.1%
長野県(110)
26
23.6%
データベースから「地域対応型」PB 開発において「地
域性」という付加価値を創出する要因を特定するために、
各要因と要素が出現する頻度について分析した。
⑤商品開発コンセプトについて
現段階では、北海道(商品数:246)と長野県(商品数:
110)のデータに基づいて分析された結果を以下のように
まとめた。
①カテゴリーについて
北海道 (246)
長野県 (110)
カテゴリー
出現頻度
カテゴリー
出現頻度
おにぎり
58
弁当
24
デザート
48
サラダ
17
弁当
44
おにぎり
15
パン
25
デザート
10
惣菜
18
調理麺
10
多い順で上位 5 位のカテゴリーでは、北海道はおにぎ
りが一番多く、上位 3 位の占める割合が 60%強であり、長
野県のは 50%強である。長野県はサラダの開発が割と多い
ことが特徴である。
北海道 (246)
長野県 (110)
キーワード
出現頻度
キーワード
出現頻度
人気
41
旬
28
馴染み
23
監修
11
当地メニュ
10
人気
11
監修
9
馴染み
8
郷土料理
6
郷土料理
5
食育
3
当地メニュ
5
旬
1
伝統
3
伝統
1
食育
2
北海道では、人気の商品、メニュー、食材を活用して商
品開発するケースが圧倒的に多い。それに対して、長野
県では、旬の食材をコンセプトとして商品を開発するケ
ースが一番多い。
⑥話題性について
②地域特産品の使用
商品発売のインパクトを強め、地域への密着性を強化
出現頻度
割合
北海道(246)
171
69.5%
「初」の取り組み、包括協定記念、フェアの開催等とい
長野県(110)
75
68.1%
った要素が挙げられる。
地域特産品の使用は当地の農畜産物が中心で、地産地
消をテーマとして、「地域対応型」PB の開発においてよ
く見られる取り組みである。
③提携者
当地の自治体、JA、地元のメーカー、学校と情報誌等
と連携して、商品を共同開発することについて集計した
結果は下記の表のとおりである。
するため、地域のイベント、プロジェクトと連動したり、
北海道 (246)
長野県 (110)
キーワード
出現頻度
キーワード
出現頻度
フェア
153
協定記念
25
キャンペーン
114
認定・公認
20
初
39
キャンペーン
16
イベント記
39
初
12
念・応援
協定記念
38
イベント記念
4
れていると考えられている。
好評
36
好評
4
③地域貢献への方針からみた「地域対応型」PB 開発方向
認定・公認
21
プロジェクト
3
性としては、地産地消と地域活性化が重要なテーマであ
出店記念
8
り、安心・安全や優良な食材を使用した「価値訴求」も
北海道の場合は、フェアの開催が圧倒的に多く、「オ
図られ、地域の嗜好に合わせ、地元住民の愛顧を獲得し
ホーツクフェア」、「富良野フェア」、「留萌フェア」、
ようとしている。
「十勝フェア」等のフェアを各地の自治体と連携して道
④各要因の影響度や特徴が地域によって異なることが明
内全店で実施している。そのうち好評を受けたフェアは
らかである。
リピートで開催される場合も結構ある。長野県の特徴は、
今後は、他の地域のデータと合わせて、クラスター分
自治体が推進したプロジェクトとの連動である。長野県
析により各要因間の関係について分析し、「地域対応型」
が健康づくりの県民運動として取り組む「信州 ACE(エー
PB 開発の構造を明確にしていく。
ス)プロジェクト」が代表的である。
【引用・参考文献】
⑦地域貢献に関する方針について

nedict E. M. (2008) “Private-Label Use and Store
地域貢献に関する方針と「地域対応型」PB 開発との関
Loyalty,”Journal of Marketing, Vol.72 (November),
連性についてキーワードから分析してみた。
北海道 (246)
Ailawadi, K. L., Pauwels, K. and Steenkamp, Jan-Be
19-30.
長野県 (110)

Coe, B. D. (1971), “Private Versus national Prefer
キーワード
頻度・割合
キーワード
頻度
地産地消
167
地元の愛顧
42
ence Among Lower and Middle-Income Consumers,
地域密着
77
地産地消
36
” Journal of Retailing, Vol.4 (Fall), 61-72.
地域活性化
64
安心・安全
33
優良な食材
59
地域活性化
25
地域の嗜好
56
当地メニュー
22
安心・安全
37
地域の嗜好
19
食文化
30
優良な食材
19
地元の愛顧
19
観光
13
観光
19
上質商品
9
当地メニュー
17
食文化
2
上質商品
15
地域密着
0
北海道の 246 品目の中、地産地消というテーマに合わ
せられたのは、167 で、67.9%を占めている。続いて地域
密着と地域活性化も頻出している。長野県は地域住民の

en do private labels succeed?”, Sloan Management
Review. Vol.34(Summer), 57-67.

【考察・今後の展開】
現段階の分析で得られた知見としては以下の 4 点が挙
げられる。
①「地域対応型」PB の開発において、影響度が一番大き
Management, Vol.2(1), 37-46.

盤がある人気商品や既存メニューの活用が多く見られる。
膨大な販売データから顧客ニーズの科学的分析も活用さ
Richardson,P.S., Jain,A.K., Dick,A., (1996),“Househol
d store brand proneness: a framework”, TJ. Retai
l. 72(2), 159-185.

小林二三夫(2015)「ビジネスモデルの違いに見る
地域対応の必然」『販売革新』11月,64-65頁。

陶山計介・後藤こず恵・大田謙一郎(2008)「PBロ
イヤルティ構造の日英米比較」『流通研究』,第11
巻第2号,55-69頁。

中村博(2009)「プライベート・ブランドの成長戦略
」『流通情報』(475)16-24頁。

矢作敏行 (2013)「NBとPB-2つのブランドの歴史の
素描」『経営志林』第50巻第1号,15-33頁。

矢作敏行(2015)「個店経営はチェーンストアを否
定するものではなく、その進化形である」『販売革
い要因は地域特産品の使用である。
②商品開発コンセプト面では、地域において既に顧客基
Laaksonen,H. and Raynolds,J. (1994),“Own brands
in food retailing across Europe”, Journal of Brand
愛顧を獲得することが重要視されている。安心・安全と
いうキーワードの出現確率も長野県は北海道の倍である。
Hoch,Stephen,J. and Shumeet, Banerji. [1993],”Wh
新』11月,67-69頁。

矢野尚幸(2009)「消費者購買行動で見るPB動向」『
流通情報』(475)33-38頁。(続き)