人生のプロフェッショナル思考

 人生のプロフェッショナル思考
ジム・バグノーラ(著)
藤井義彦(監修)
原田稔久(訳)
Becoming a Professional Human Being
How to Enjoy Stress-Free Work and Personal Happiness
Using the Mind/Body/Work Connection
Jim Bagnola
© Jim Bagnola 2012
Published by Global Thinking Press
First Edition
版権所有。本書のいかなる部分も、著者の書面による許可なしには、写真複写または録音ま
たは情報蓄積検索システムを含む、電子的または機械的の如何なる形または手段によっても、
複製されてはならない。
本書は、個人の幸福を増進するという教育的目的で書かれ出版されたものである。健康の問
題に関しては、本書の中の情報は、医療従事者からの適切な治療や助言に代わることを意図
したものではない。また、本書の中の情報は、出版者または著者の側が医療的またはその他
の形の責任を負うことを意味するものではない。出版者と著者は、本書の中の情報によって
直接的または間接的に引き起こされたと主張される損失、損害、傷害に関しては、いかなる
人または団体に対しても義務または責任を負わない。
2
はじめに
はじめに
この人生では大きなことはできない。
――マザー・テレサ(カトリックの修道女、一九七九年ノーベル平和賞受賞)
ただ大きな愛をもって小さなことができるだけだ。
私は、テキサス州ダラスにあるロウズ・アナトール・ホテルに着いた。その晩、ダラス地域
の 高 速 交 通 シ ス テ ム を つ く っ て い る 技 術 者 た ち に ホ テ ル で 講 演 す る こ と に な っ て い た。 私 は、
講演前に靴を磨いておこうと思い立ち、ロビーを見渡した。すると靴磨きのスタンドと、一人
の紳士が店じまいをしている姿が目に入った。
「靴を磨いてもらう時間はありませんか?」と声をかけた。
私は急いでスタンドに向かい、
その紳士の髪の毛は白くなりかけ、痩せていたが、パリッとした白いワイシャツを着て、蝶ネ
クタイまで付けていた。
3
「もちろんです。さあ、座ってください」
と彼は人なつこい笑顔で答えた。注意深く私のズボンの裾を折り、片付けかけていた商売道
具をまた拡げた。時計を見ると、すでに六時を過ぎていることに、私は気がついた。
「朝は、何時から仕事を始めたのですか?」
「今日は、七時ぐらいからです」
「一二時間もここで仕事をしているのですか。あまり疲れているようには見えませんが……」
「たぶん、この仕事が好きだからでしょうね」
「失礼ですが、お歳をお尋ねしてもよろしいですか?」
「七二歳です。健康で楽しくやっていますよ。ほとんど毎日、一二時間ぐらい仕事をしていま
すかね」
驚いている私をよそに、彼は話を続けた。
「正直言って、私はこの仕事が大好きなんです。それに、妻は私に一日中家にいてほしくない
んですよ。結婚して何年もすると、そうなりますよね」
私たちは笑った。私が自己紹介をすると、彼は心のこもった握手をしながら、「自分はリロ
イ・グラントだ」と名のった。
「ところで、靴磨きは、どのくらいやっているのですか。リロイ?」
4
はじめに
彼は真剣な表情で私を見上げて言った。
「すみませんが、私は靴磨きではありません。革職人です」
彼は、戸惑う私を見て説明した。
「靴磨きは単に靴を磨くだけですが、革職人はアーティストです。今日、私はあなたにこれま
でで最高の輝きを差し上げます。それに、私は自分のした仕事を保証します」
私は世界中で靴を磨いてもらったことがあるが、保証してもらったことは一度もなかった。
「保証とは、どういう意味ですか?」
「私は、あなたが満足するまで、あなたの靴を磨きます。二週間はピカピカの靴を履けるよう
に。もし、二週間たたないうちに輝きがなくなったら、すぐにここに戻って来てください。も
う一度、磨いて差し上げます。無料でね。でも、泥水の中を歩いて汚れたのであれば、そのと
きは有料ですよ。
私はあなたの靴を満足するまでお世話します。それが私の保証です」
「リロイ、あなたは本当に『勤め』が好きなんですね」
「
『勤め』ですって? 私を見てください。私はボスに見張られて仕事をしているのではあり
ません。私がボスです。私のオフィスを見てください」
彼は広くて立派なホテルのロビーを手ぶりで示した。そして、彼は近くに並んでいる公衆電
5
話を指差した。
「あれは私の電話です。妻や友人たちが私に電話をかけてきます。私の子供たちもかけてきま
す。子供たちはみんな学校に行かせてやりました。もし、あなたがここにやって来て、私がい
なければ、代わりに子供たちの誰かがここにいます。私の息子は副社長で、彼も革職人です」
「この仕事を始めてどれぐらいになるのですか?」
「六〇年になります」
「六〇年ですか! 一二歳のときに始めたんですね」
彼はうなずいた。
「家計を助けるために働けと、父に言われました。ちょうど大恐慌のころです。父は新聞を売
れと言いました。小さな子供がお金を稼ぐには、それがいちばんだと考えたのでしょう。でも、
私は靴磨きがしたかったんです。髪を切ってもらいに床屋に行ったときに、いつもその店にい
る靴磨きを見ていましたから。彼らはとても楽しそうに仕事をしていました。それで、自分も
やってみたいと思ったんです。父にそう言うと『靴磨きなんかじゃ稼げない。新聞を売ったほ
うがいいに決まってる』と言うのです。靴磨きをさせてもらえそうにないので、私は新聞売り
私は床屋の主人に言いました。
『 靴 磨 き の 仕 方 を 教 え て も ら え れ ば、 チ ッ プ だ け で 靴 磨 き の
と靴磨きの両方ができる方法を考え出しました。
6
はじめに
アルバイトをします。給料はいりません』と。主人は『いいだろう』と言ってくれました。
『 靴 磨 き 無 料、 チ ッ プ だ け 』 と い う 小 さ な 看 板 を 掲 げ ま
それが、私の靴磨きの始まりです。
した。そして、その二、三カ月後に、新聞売りと靴磨きで稼いだお金を父の目の前に出して言
いました。
『 こ っ ち の 小 さ な 山 が 新 聞 売 り で 稼 い だ お 金、 こ っ ち の 大 き な 山 が 靴 磨 き の ア ル バ
イトで稼いだお金だよ』
。父はそれを見て『よし、靴磨きをやりな!』と言ってくれたのです」
リロイは私を見て、大きく微笑んだ。
「私は好運です。なぜって、一人で仕事をしているので、あれこれ悩むことがありません。一
日中、すてきな人たちに出会えます。毎日、この世界を少しずつきれいにできます。
私には使命があるんです。それは、この世界を美しくすること。少しずつ、密かにね!」
私は感動した。彼と別れる前に、もう一つ質問した。聞かずにはいられなかった。
「リロイ、あなたは一日中仕事をしたのに、どうしてワイシャツが真っ白なのですか?」
服を汚さずに靴磨きをするコツを教えてもらえると思ったのだが、彼の答えは意外だった。
「旦那、昼食のときに着替えているのですよ!」
私は声を上げて笑った。大きなサービスから小さな心配りまで、リロイにはまったくそつが
ない。
最高とも言える輝きを私の靴に与えてくれた後で、彼は割引券を差し出した。それを使えば
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半額の二五ドルで何度も靴を磨いてもらえるという割引券だった。私はそれを買うことにした。
近い将来またホテルに来る予定があったからではない。彼がしていることはどんなことでも応
援してやりたいと思ったからだ。それに、チップも奮発することにした。たぶん、他の客もみ
んなそうしているだろう。
その晩、私は技術者たちに講演をした。私が何を話したか、あなたはもうおわかりだろう。
リロイ・グラントのことだ。彼がどのようにして靴磨きの仕事をもっと大きな仕事に、彼が愛
する一つの専門職に、実際に一つのアートに変えたのか、それを話したのだ。
私はあなたに借りができました」
数カ月後に、別の仕事で再度、ダラスへ行く機会があった。もちろん、少し寄り道をしてリ
ロイに会いに行った。彼はすぐに私を思い出して言った。
「旦那は先日ここで講演をした方ですね?
彼はにっこり笑って言った。
「借りですか?」
私は、彼が何のことを言っているのかわからなかった。
「旦那が私のことを話してくださった次の日、話を聞いた人たちがここにどっと押し寄せてき
たんです。みんな、革職人に靴を磨いてほしいと言ってね」
「リロイ、ぼくはあなたに貸しがあるなんて思っていませんよ。ただ、靴を磨いてもらいなが
8
はじめに
ら、また何かいい話を聞かせてもらおうと思っただけです」
私は、常にリロイのような人物と一緒に仕事をしたいと思っている。それだけではなく、自
分もリロイのようになりたいとさえ思っている。自分が行うすべてのことを肯定的にとらえ、
自分が行うことを愛し、七二歳になったときも自分自身に対して幸せでありたいと思う。
ジム・バグノーラ
リロイは幸せで健康そうだった。彼は自分の大好きな仕事をして、子供たちを学校にやり、
六〇年以上、家族を養ってきた。
リロイ・グラントは、実に「人生のプロフェッショナル」であった。
9
ジム・バグノーラについて
ジムは、二五年以上にわたって世界中でリーダーシップ、ストレスマネジメント、顧客サー
ビス、コーチング、変化といった話題について、心と体の繋がりという観点から講演し、コー
チし、教育してきた。彼はリーダーシップと心と体のマネジメントの専門家である。彼は特に、
健康、幸福、成功、指導力に対する思考パターンの影響を重視している。彼の焦点は、「人生
のプロフェッショナル」を育てることにある。
ジムは政治学をアクロン大学(オハイオ州)で、ヴェーダ科学(人間の開発)をスイスのマ
ハリシ・ヨーロッパ研究大学で、精神心理学をサンタモニカ大学(カリフォルニア州)で学ん
だ。また、ヴェーダ科学の修士号をマハリシ経営大学(アイオワ州)で取得した。
彼は一九七五年からストレスマネジメントのインストラクターをしている。また、フォーチ
ュン五〇〇の経営者たちへのコーチングも行っている。
ジムはさまざまな仕事の経験を持っている。ジムは多くの組織で重要な地位に就いた。アク
ロン大学の学費援助部では副部長を、ウェスタンイリノイ大学では会議ディレクターを、そし
てハリウッドでは世界的に有名なマジシャンのダグ・ヘニングのビジネス・マネージャーを務
めた。
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ジム・バグノーラについて
二〇〇二年に、ジムは「全米講演家協会」と「国際プロフェッショナル講演家連盟」から与
えられる「公認講演プロフェッショナル(CSP)」の資格を取得した。この資格は世界でも
六〇〇人ほどのプロの講演家にしか与えられていない資格である。これはジムが北アメリカで
もトップレベルの講演家であることを示している。また、「リーダーシップ・グルズ・インタ
ーナショナル」は二〇〇七年から二〇一〇年の「世界のリーダーシップ・プロフェッショナ
ル・トップ三〇」のリストの中にジムを入れている。これは、独創性、アイデアの実際性、プ
レゼンテーションのスタイル、組織が優れた結果を達成するのを助ける能力などの点で卓越し
ていると認められたプロフェッショナルにのみ与えられる栄誉である。
現在、ジムはリーダーシップ・グループ・インターナショナルの会長、デンバーのウエスタ
ン・マネジメント・ディベロップメント・センターの客員教授、ルーマニア・リーダーズ会議
の議長、オハイオ州のオリーブ・ブランチ財団の理事を務めている。また、多くの時間を割い
て、大学生に国際的なインターンシップを提供している学生団体「国際経済商学学生協会(A
IESEC)
」のために講演をしている。
ジムは私的な団体から公的な団体まで、さまざまなクライアントを持っている。主なクライ
アントは、シェル・オイル・カンパニー、クローガー・カンパニー、米国シークレット・サー
ビス、米国国務省、米国空軍、国連開発計画、 マ リ オ ッ ト・ホ テル ズ、 シ ー メ ン ス、 モ ト ロ
11
ーラ、スコティアバンク(カナダ)
、 マ ク ニ ア ニ・ ア ル ス ト ン ズ ト
( リニダード 、)PT・イス
パット・インド(インドネシア)
、ヘラ(ルーマニア)、エコラブ(ルーマニア)
、キャスル&
クーキー(ハワイ)
、テキサス大学、コンチネンタル航空、エアフランス、タレント・プラス、
ポンティフィシア・ユニヴェルシダード・ジャヴェリアナ(コロンビア)、ラディソン・ホテ
ルズなどである。
ジムはオハイオ州カントン出身。旺盛な読書家、勉強家、健康マニア、世界を飛び回る旅行
家、熱心なスポーツファンである。ホテルに滞在していないときには、テキサス州オースチン
の自宅にいる。
ジムは、本書があなたにどんな刺激を与えたか知りたがっている。
Eメール [email protected]
ウェブサイト http://www.jimbagnola.com
12
人生のプロフェッショナル思考■□■目次
はじめに ジム・バグノーラについて 内面の〝私〟を見つけ出そう
自分の才能に気づいてますか? 18
序章
10
3
第1章
PhB思考が心・体・仕事の絆を強くする
37
1 思考を「逆さま」にする 2 人生のプロフェッショナルとは、どんな人か? 3 外側から内側へ 心身の時代の到来 4 あなたの職場は思考停止していないか? 6 生きるための仕事か、死ぬための仕事か? 7 あなたの内側にある薬局 8 「自分との対話」は、有害か、有益か? 96
5 あなたの心は「否定」という毒におかされている 54
45
130
67
30
114
第2章
人生のプロフェッショナルになる7つの方法
9 レッスン1 あなたのマジックを行おう レッスン2 「ここに私がいる」から、「そこにあなたがいる」へ レッスン4 ブロードウェイにいる自分を見よう レッスン7 心と体のバッテリーを充電しよう レッスン6 目的地がわかっていなければ意味がない レッスン5 最も大切な価値のために立ち上がろう 200
239 220
177
262
163
148
レッスン3 冷静さを失わないようにしよう 15 14 13 12 11 10
第3章
PhB総代 コロンビアの聖人 304
人生を輝かせる旅に出よう!
さ あ 、
あとがき 16
311
装幀/岡 孝治
序章
内面の〝私〟を見つけ出そう
自分の才能に気づいてますか?
――ラルフ・ウォルドー・エマーソン(アメリカの詩人)
どのアーティストも最初はアマチュアだった。
リロイ・グラントのように仕事をしている人を、あなたは何人知っているだろうか?
自分の仕事に喜びと目的をもっているだろうか?
自分の仕事を創造的なアートに変えているだろうか?
自分に課した使命を果たしているだろうか?
顧客を喜ばせているだろうか?
あなたの専門技術を頼ってくる人たちに喜んで奉仕しているだろうか?
あなたの仕事を保証しているだろうか?
仕事を楽しんでいるだろうか?
18
序章 内面の〝私″を見つけ出そう
リロイのように人生のプロフェッショナルになっているだろうか?
もし、あなたがこれらの質問のほとんどに「はい」と答えられなければ、あなたとあなたが
属している組織の健康は危険な状態にある! 組織の健康と個人の健康が別だということはあ
りえないからだ。
私は、不確かでストレスに満ちた職場の中でどうしたら最高の仕事ができるかを、フォーチ
ュン五〇〇の大企業、連邦や各州の行政機関、中小の私企業などのリピート客を相手に二五年
以上教えている。
クライアントから見た私のアピール・ポイントは、心・体・仕事の繋がりの重要性を教えて
いることだ。クライアントは、ギアを入れ替えたり情報を定着させたりするのに私の話が役立
つと言う。これから私はあなたに、心・体・仕事の繋がりを詳しく説明する。建設的な思考パ
ターンが、どのように成功を支え、人生のプロフェッショナルをつくり、また同時に、よりよ
い健康をもたらすかを、あなたは理解するだろう。
私の講演では、職場での思考や行動の結果を業績に結びつけるだけでなく、直接的に健康に
も結びつける。職場での時間が、よくあるように病気や若死にをもたらすのではなく、健康や
若返りをもたらす、そのような方法を提示する。私の賢い友人であるリロイ・グラントのこと
も話す。
19
私が聴衆と分ちあうアドバイスはこれだ。
「死計ではなく、生計を立てよう」
私は、仕事を健康や長寿に結びつけていない人たちに言いたい。否定的で、自滅的で、病気
を助長するような想念は、創造性、生産性、達成感、調和的人間関係を生み出す態度に変わら
なければならない。その結果は、あなた自身とあなたの組織のより高度な健康になる。実際の
ところ、組織と個人が別のものであることはありえない。
アメリカ国立労働安全衛生研究所の所長ジョン・ハワードは、こう言った。
「生産性の向上を続けたいのであれば、従業員を健康に保たなければならない」
一九八〇年代後半のことであった。私と私の友人マルシ・シモフ(『
Happy for No Reason
健康が個人と組織の両方にとっていかに重要か、それを示す例を一つ挙げよう。
(理由のない幸福と理由のない愛)』の著者)はゼネラルモーター社
and Love for No Reason
に雇われて、従業員にストレス管理の技術を教えた。
その理由はというと、一台の車の売上の中の一五〇〇ドルから一八〇〇ドルほどが医療費の
ために使われていたからだ。政府から援助を受けなければならないほど会社の厳しい財政状態
は、一部には、その従業員と退職者の不健康にその原因があった。健康管理は、組織が前に進
めるかどうかというときに重要な要素となる。
20
序章 内面の〝私″を見つけ出そう
私の考えでは、従業員の健康管理は、雇用者が従業員に提供する医療サービスをはるかに超
えたものである。実際に、それは雇用者が行うことのすべてをはるかに超えている。健康管理
は、職場のいちばん上からいちばん下まで、あらゆるレベルの人が自分自身のために行うこと
である。もし、あなたが自分の健康を大切にしないならば、どんな健康管理の制度を作ったと
しても、それは上手く機能しないだろう。
●「人生のプロフェッショナル」になるために
私は、毎年一五〇以上の講演を行っている。そこで私は参加者の思考をひっくり返して、彼
らを「人生のプロフェッショナル」になる道に(私自身もまだその途上にあるのだが)載せる。
「人生のプロフェッショナル」とは、あなたが雇いたい、昇進させたい、自分のチームの一員
にしたい、一緒に仕事をしたい、知り合いになりたいと思う、そのような人のことである。
あなたが今、開いているこの本は、私が「PhB」と呼んでいるタイトルをあなたが取得
するのを、すなわち、
「人生のプロフェッショナル(プロフェッショナルな人/ Professional
)
」になるのを、助けるための本である。この本は、私が講演の参加者に提供し
Human Being
ているのと同じ全体的な知恵や行動のアドバイスをあなたに提供する。そして、それは従業員
のためにも雇用者のためにも、職場の指針として役立つものである。
21
従業員のためには、自己管理に、つまり、自分と自分自身との間の関係に、焦点が当てられ
ている。あなたが自分自身との関係を改善しないかぎり、あなたは自分の雇われる能力、昇進
する能力、目的を達成する能力を改善することも、職場の人間関係を高めることもできないだ
ろう。
雇用者や管理職にとっては、これと同様な自分自身との関係の改善が、生産性の向上や医療
費の削減(日本の場合は、病気によって発生する新たな経費の削減など)といった組織の目標
にも寄与することになる。
今日の職場によく見られるのは、これとは反対の現実である。つまり、生産性の低下や経費
の増大という現実が一般的となっている。
私の方法は、ガリレオの次の言葉からインスピレーションを得ている。
「あなたは人に何も教えられない。あなたができることは、人がその人自身の内側にそれを発
見するのを助けることだけだ」
そういうわけで、私は人々に注意を自分の内側に向けてもらう。それから、思考を逆さまに
ひっくり返してもらい、自分のユニークさや偉大さ、能力に目覚めてもらうのだ。
22
序章 内面の〝私″を見つけ出そう
●この本と他の本の違い
Standard
Professional Human
私 は こ の 本 を 三 つ の 部 分 に 分 け た。 第 一 章 で は、「 思 考 停 止 型 プ ロ グ ラ ム(
:StOP)
」 か ら「 人 生 の プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル(
Operating Programs
:PhB)
」の思考へと、思考を逆転させる必要があることを説明している。StOP
Being
思考は習慣的な思考パターンであり、仕事の満足や幸福や健康を損なう恐れがある。
簡単に言うと、StOP思考は私たちを行き止まらせる。それに対して、PhB思考は私た
ちを前に進ませる。私が何を言おうとしているか、おわかりだろうか?
たいていの自己啓発書は、行動に焦点を当てている。
しかし、行動は何に基づいているだろうか?
行動は思考に基づいている。人生を変えるような行動ができるためには、最初に思考パター
ンを変えなくてはならない。よくなりたいとは思うが変わりたくはない、こういう人たちは、
ギアがStOP に入ってしまっている。
この本の第二章では、PhBになるための七つのレッスン(思考パターンを変えるような斬
新な考え方)が展開される。物事に対する考え方を変えると、考えている物事が変わる。あら
ゆるものは、見方次第で変化する。
第三章は結論である。ここでは、人々の人生を救っている一人の「人生のプロフェッショナ
23
ル」を紹介する。
私の仕事は、最新の情報と実際的なアイデアを提供するだけでなく、それを実際にあなたに
覚えてもらうことだ。多くの場合、私たちは「ヒューマン・ビーイング(人間存在)」という
よりも「ヒューマン・フォーゲッティング(忘却する人)」である。
つまり、実際に覚えるよりも多くのことを忘れる傾向がある。のちに登場するマジシャンの
ダグ・ヘニングは、誰かに何かを覚えてもらうには、それを愉快で楽しくしなければならない
と、私に教えてくれた。だから、私は基本的なアイデアを魅力的な話や、忘れがたい逸話や、
ユーモラスな描写で包むことにしよう。
もし、あなたが私の話を覚えたのなら、あなたは私のアイデアも覚えたことになるだろう。
これらのレッスンには、あなた自身の変化を促し、あなたをStOPからPhBへと進ませる
個人的な話や、科学的な研究や、行動のヒントがいっぱい詰まっている。
さらに、私はあなたに多くの友人や同僚を紹介して、彼らの感動的な話をお伝えする。これ
らの人たちはみな、私が「人生のプロフェッショナル」と考えている人たちだ。
この本の中で、私は思考パターンの変化を個人の健康の改善に結びつける。また、変化しな
い場合にも、それを健康への結果に結びつける。
これは、健康な組織を創ることにも関係している。私の話を聴く人たちは、StOP思考よ
24
序章 内面の〝私″を見つけ出そう
りもPhB思考のほうがいっそう快適で効果的であることをすぐに理解し、すぐに体験するこ
とになるだろう。
●心・体・仕事の繋がり
多くの人たちは、パソコンとインターネットが二十世紀の最も偉大な発見だと思っている。
外側の世界だけを見ているのなら、私もその意見に賛成しよう。しかし、人生の内側のフロン
ティアをも視野に入れるならば、二十世紀の最も偉大な出来事は「意識が現実となる」という
内側の発見もしくは再発見であろう。
たとえば、私が笑うときには、エンドルフィン(脳内で機能する神経伝達物質の一つ)など
の健康や幸福に関係する化学物質が体の中に作り出される。もし、私が顧客に上手に対応でき
れば、私はそのことを快適に感じる。また、私自身も快適に感じる。満足と成功に関係する内
側の生化学的状況が作り出されるからである。
もし、私が怒ったり、緊張していたり、不満足であったりしたら、ストレス・ホルモンの破
壊的な影響によって、まったく異なる生化学的状況が作り出されるだろう。
このように、あらゆる瞬間の選択が私の体と健康に影響を及ぼしている。こうしたすべての
選択の影響を最初に受け取るのは自分自身である。善かれ悪しかれ、思考は物質になるのだ。
25
「あなたが考えるようにあなたはなる」というのが、古くからの不変の真理である。
あなたはこの本の中に、自分自身に対する考え方が変わるような新鮮な情報を見い出すだろ
う。それによって、あなたは自分の感情をもっと満足できる、健康を養うような方向に向けら
れるようになるだろう。
この本のメッセージの狙いは、あなたの内面の対話、すなわち、あなたの心の中で行われて
いる自分との対話に、大変革を起こすことである。
・この対話が生み出しているのは、満足か失望か?
・この対話は、人間関係を高めているか傷つけているか?
・この対話は、エネルギーを磨り減らしているか生み出しているか?
・この対話が内側に作り出しているのは、成功の生化学物質か失敗の生化学物質か?
・自分との対話がどのように体、元気、態度、人間関係に影響しているのか、また、どのよ
うに私たちを成功または失敗に導くのか?
私はそれを説明しよう。 また、あなたは、犠牲・欠乏・狭い守りの思考パターンから情熱・
豊富・プロの思考パターンへの内面の変化を促す方法を見いだすだろう。正に、それこそが
PhBへの道なのだ。
26
序章 内面の〝私″を見つけ出そう
●自分を見つめなさい。
これはあなた自身の問題だ
あなたはこれから「人生のプロフェッショナル」になる旅に出ようとしている。もし、あな
たが自分の人生の大胆な創造主になって、より多くのことを達成し、人生の意味と満足を得て、
人の幸福にも貢献したいのなら、しかも、それを健康とバランスと活力をもって行いたいのな
ら、この本はあなたのための本である。
ここにあなたのシラバスがある。
最初にしなければならないことは、自分の専門分野を選ぶことだ。あなたがいちばん得意な
ことは何か、何があなたの情熱に火をつけるのか、それを考える。
次に、自分の専門分野、いちばん得意なことを使って人に奉仕するのはなぜか、あなたはそ
の理由を発見するだろう。あなたは自分が選んで追求すると決めた価値観に基づいて、自分の
専門分野をやり抜かなければならない。
自分の将来を思い描こう。
あなたは何になりたいのか? 誰になりたいのか?
それを偶然に任せてはいけない。それを計画しよう!
もちろん、どんな学習にも困難は付き物だ。しかし、問題に取り組むときにも頭が混乱しな
い方法をあなたは見つけるだろう。
27
この旅を通して、あなたは自分自身のさまざまな面の世話をしなければならない。あなたは
自分の思考を吟味するためにここにいる。私は、これからあなたの中にあるボタンを押そう。
あなたの思考を刺激し、信念に異議を唱えよう。今までうまくいかなかったのに何となく続け
てきたことを、今後も続けるとどうなるか、その結果を示そう。科学的な調査によって支持さ
れた新しいアイデアを提案しよう。いくつかの選択肢を提供して、あなたに何かこれまでとは
違うことを試みていただこう。
それが私の仕事だ。
あなたの仕事はこのページをめくったときから始まる。
さあ、始めよう。あなたは刺激され、間違いなく啓発されるだろう。
28
第1章
PhB思考が心・体・仕事の絆を強くする
1 思考を「逆さま」にする
私の世代の最も偉大な革命は、
人は自分の心の内側の態度を変えれば
――ウィリアム・ジェイムズ(医学博士・現代心理学の基礎をつくった一人)
人生の外面を変えられるという発見である。
あなたは何歳まで生きたいか? 人生の最後の三〇年間にどのような状態にありたいか?
あなたはまだこうした目標を定めていないかもしれないが、考えてみてほしい。私は九五歳ま
で生きたいと思う。人生の最後の三〇年間は、柔軟で、歳の割には丈夫で早足で歩け、頭がは
っきりしていて自分の周りの人たちのために有益な知恵を持ち続けたいと思っている。あなた
は、どんなことを望むだろうか?
研究者たちは、長く健康的な人生を生きるための五つの基本を見つけた。これらの基本があ
30
第 1 章 PhB 思考が心・体・仕事の絆を強くする
なたの人生の長さと質を、つまりあなたの寿命と健康度を決定する。
(1)どれほど上手に休息しているか?
(2)どれほど上手に食べたり、飲んだりしているか?
(3)どれほど体が活発で柔軟か?
(4)どれほど行動に節度があるか?
(5)どれほど思考を逆転させているか?
●認識と行動のギャップを閉じる
健康のためには、これら五つの基本が重要である。あなたは、前述した五つの基本をすでに
ご承知だろう。あなたが子供のとき以来、ニュースや医師、母親から、ずっと言い聞かされて
きたことだ。問題は、それを実際に行なうかどうかにある。あなたの思考をひっくり返して、
あなたの知識と行動の間にあるギャップをなくしたい。
たとえば、果物や野菜の多い食事は、健康によい自然な要素が含まれている。ところが、あ
なたは健康によいと言われている食事法を実践しているだろうか? おそらくしていないだろ
う。興味深いことに、成人の多くはよいことを知っていても、実行している人は本当に少ない。
水はどうだろうか? 一日にコップ何杯かの水を飲むべきだと言われているが、あなたは実
31
際に飲んでいるだろうか? コーヒーや紅茶、ジュースではなく、真水でなければならない。
たいていの人はせいぜいコップ一~二杯だろう。一杯も飲まない人もいるぐらいだ。
自分が八五歳になったときのことを考えていただきたい。その年齢になるまで、あなたはど
んなものを食べ続けたいと思うだろうか? ジャンクフードか、それとも健康な食物か?
あなたはよく体を動かしているだろうか? 専門家が健康維持のために勧める最低の運動を
行うだけなら、ジョッギングやジム通いは必要ない。ふうふう息を切らせなくても、必要な毎
日の運動を行うことは可能だ。
私たちは長年、運動が健康のためにたいへん重要だと絶えず聞かされてきた。二〇年前には、
人口の二〇%が何らかの運動を規則的に行っていた。しかし、今日ではどれだけの人が規則的
な運動をしているだろうか? 調査によると、人口の一三%に過ぎない。誰も話を真面目に聞
かずに、人々は太り続けて、ますます不健康になっている。
あなたはどのぐらい眠っているだろうか? 普通は一晩に約八時間眠るのがよいと言われて
いる。しかし、成人の半分は不眠に悩まされており、多くの人は二週間分もの睡眠の負債を抱
えているという。つまり、ため込んだ睡眠不足を解消するためには、二週間ぐらい眠り続ける
節度に関しては、あなたは何をご存知だろうか? おそらく何もご存じないだろう。最近、
必要があるという。確かに、ほとんどの人は休息が足りていない。
32
第 1 章 PhB 思考が心・体・仕事の絆を強くする
私はコメディアンのビル・コスビーの『 I Am What I Ate
… and Iʼm Frightened
(私は私の食
べたものの結果である──そして私は驚愕した)』という本を読んだ。その本の中で、ビルは、
酒を飲み過ぎている友人に向かって、
「どうして君は適度に飲むということができないんだ?」
と言う。その友人は、
「どうして適度に食べるということができないんだ?」と、ビルに言い
返す。
「ぼくは節度について何を知っているのだろうか?」
ビルは考えたが、答えを得ることはできなかった。
たしかに、節度を守るのは簡単ではない。成人病や早期の老化は、少なすぎたり多すぎたり
する節度のないライフスタイルが原因である。節度というのは、不足と過剰の中間にある点で
ある。そして、それは人によって異なる。ニンジンジュースは健康によいと言われている。し
かし、それをたくさん飲み過ぎたり、頻繁に飲み過ぎたりすると、肝臓の負担になる。私たち
最後に、あなたは何を考えているだろうか?
あなたの心の空間を占拠しているのはどんな
にとって最も困難なことは、節度を知り、それを実行することだ。
ことだろうか? 専門家によると、私たちの日々の想念の七八%は機能不全の非生産的な、否
定的な想念である。そのために、人生を上手に生きる能力が阻害され、健康で長生きするため
に必要な他の四つの基本を達成するための能力も弱められている。
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最初にお話ししたリロイ・グラントがどのように自分の仕事を見ていたかに注意していただ
きたい。たいていの人は、リロイの仕事をどちらかというと低いレベルの仕事だと思うだろう。
しかし、リロイは自分の仕事を完全にプロとして最高レベルにまで引き上げていた。自分の職
業を成功した満足のいく営みに変えていた。つまらない単純労働だと思われるかもしれないこ
とを、彼は一つのアートと見ていた。人は靴磨きをその場限りの仕事だと思うかもしれないが、
リロイは自分の仕事を保証していた。人は彼の仕事場をホテルのロビーの片隅と思うかもしれ
ないが、彼は自分のオフィスからは広いロビーが眺められると考えていた。人は彼の仕事を雇
われ仕事と見るかもしれないが、彼は自分が自分のボスだと知っていた。
リロイは、思考を逆転させていた。彼はたくさんの否定的な事柄を、単に異なる角度から見
るだけで、肯定的な事柄に変えていた。実際に、それらの事柄はリロイにとっては決して否定
的ではなかったのだ。あなたの人生にも、思考を逆転できる場面がたくさんあるに違いない。
まずは、上下をひっくり返して考えてみよう!
●人間はいつも自分と対話している
本当に大切なのは、あなたの思考である。思考があなたの人生の質と量を形づくると言って
もよい。そして、思考は、自分以外の誰に責任があるだろうか? すべては自分自身の頭の中
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第 1 章 PhB 思考が心・体・仕事の絆を強くする
に入っているのだ。
この本は、基本的には、職場での考え方についての本である。しかし、この基本は仕事以外
の人生にも応用できる。私たちがどのように考えるかは、行動の基盤となり、行動は達成の基
盤となる。したがって、私たちの思考は、成功や幸福、生産性に、あるいはその反対のものに
直接的に結びつく。
あなたは気づいていないかもしれないが、心に浮かぶどの想念も、私たちの健康に結びつ
いている。
「体は心に従う」のである。想念を思い浮べるたびに、自分の健康にとって有益な、
または有害な化学物質を体の中に作り出しているのだ。人生のあらゆる瞬間に、私たちの想念
は体の中に健康な、または不健康な命令を発している。
ある研究によると、私たちは一日に六万回の想念を作り出しているという。基本的には、一
日の中の一秒たりとも何の想念もなしに過ぎることはない。そして、それらの想念の一つひと
つが、言葉でできている。人はあなたに「最初に考えろ!」と言うかもしれない。しかし、あ
なたはすでに考えているのだ!
あなたは一分間に五〇〇から一二〇〇の言葉を考えている。一日にすると、一〇〇万以上の
言葉が頭に浮かんでいることになる!
逆に考えれば、人はそれだけ速く考えられるということだ。ありがたいことに、私たちが話
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す速度は、考える速度よりもずっと遅い。平均すると一分間に一五〇語ぐらいで、一日にはわ
ずか一万五〇〇〇語から二万五〇〇〇語ぐらいしか話していないことになる。
一〇〇万語以上考えて、一万五〇〇〇語から二万五〇〇〇語しか話さないとしたら、ほとん
どの時間、人は誰と話しているのだろうか?
答えは明白ではないだろうか?
話の回線は、自分と自分自身に繋がっていて、いつも使用中である。そして、すべての想念
や言葉、心の操作プログラムは、私たちの行動や選択に影響している。それがさらに、仕事の
仕方、人間関係、健康、老化、寿命に影響している。要するに、想念はあらゆることに影響を
及ぼしている。
思考を逆転させよう! これまでとは違うことを考えよう!
人生のプロフェッショナルになる最初のステップは、進んで思考を逆さまにしようとするこ
とだ。人生の外面を変えるために、心の内面の態度を切り替えることだ。
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