【資料】インターンシップ事例集 - HiRC|青山学院大学 ヒューマン

平成25年度
成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業
【資料】インターンシップ事例集
次世代インターネットの利用環境整備に向けた産学官連携資格認定プログラム
1
目 次
1
事例集作成にあたって
2
米国のインターンシップに関する調査結果概要
2-1
A 大学
2-2
B 社(実務に関連したインターンシップを実施する企業)
2-3
C 社(業務に関連したインターンシップ選考条件を提示する企業)
2-4
D 社(新しい産業分野で実践的な業務スキルを経験させる企業)
2-5
E 社(プロジェクトベースで参加させる企業)
3
北欧のインターンシップに関する調査結果概要
3-1
英国と北欧の比較
3-2
英国事例
3-2-1 オックスフォード大学
3-2-2 ブリストル大学
3-2-3 リッチモンド大学
3-2-4 英国政府
3-2-5 まとめ
3-3
北欧事例
3-3-1 ウメオ大学(スウェーデン)
3-3-2 アーフス大学(デンマーク)
3-3-3 まとめ
4
国内事例調査にあたって
4-1成功事例
4-1-1 S社(中途採用社員研修用のコンテンツの設計・開発業務)
4-1-2 A社(通信添削講座コンテンツの問題作成業務)
4-1-3 F社(コンテンツ設計・開発業務補佐業務)
4-1-4 B社(中学生向け遠隔教育関連業務)
4-1-5 インターンシップの効果
4-2失敗事例
4-2-1 S社
4-2-2 F社
4-2-3 D社
4-2-4 失敗事例から見えてくるポイント
4-3総括と展望
2
1.事例集作成にあたって
インターンシップを効果効率的に進めるには、インターンを派遣する大学側、受け入れ
る企業側双方のコミュニケーションは欠かせない。最終的に求められていることは、実際
に社会に出て活用できる知識や理論を身につけることができ、しっかりとしたキャリアを
形成ができるかに尽きる。
2 節以降は、実際のインターンシップの現場において行われている業務内容、対象者、課
題の有無、実施効果の評価方法などを中心に取り上げている。取り上げた事例については、
日本国内に事例を限定せず、各国間の比較ができるよう米国、英国、北欧諸国における現
状についても取り上げている。
インターシップによる学生の採用が、採用活動の一環として組み込まれ定着している米
国、興味のある分野や自分の専攻分野に関連する企業での職業経験を積ませることを重視
している英国、正規科目として取り組むことで単位取得と関連付け評価基準も明確な北欧
諸国といったように、それぞれ特徴を持っていることが明らかになっている。
日本において取り上げた事例では、同一企業に対して成功できたケースと、失敗に終わ
ったケースの両者を対比する形式で取り上げることにより、ある年はなぜ成功し、ある年
はなぜ失敗したのかについて因果の言及が可能となった。
海外そして日本における事例から見えてくるものは、大学と企業の両方で改善につなげ
られなければならない問題点や、大学と学生の間で事前に調整していく必要がある課題な
ど、インターンシップを効果的かつ効率的に進める上で非常に重要なエッセンスが明らか
になった。
3
2.米国のインターンシップに関する調査結果概要
米国については、先行研究「社会の多様なニーズに対応した産学連携教育手法に関する
調査研究」のほか、WG メンバーによる成長分野での最新のインターシップ実施企業の事例
を収集した。事例は、Web から得られる情報として先行研究や、実際のインターンシップ
の募集要項などを中心に収集を試みた。
先行研究からは、米国では「キャリアフォーラム」という企業と学生をマッチングさせ
るイベントでインターシップ生を募集したり、企業や大学にインターンシップ専任のスタ
ッフ(キャンパスリクルーター)を配置するなど、企業がインターシップを通じて学生を
選考する取り組みや実施する体制が定着している。
大学では、4 年間のキャリア形成過程を管理する「キャリアパスポート」を用意し、イン
ターシップを必修科目として取り組む事例もみられた。米国では、企業、学生、大学とも
に選考を前提とした優秀な人材育成・確保を目的とする傾向がみられた。
インターシップのガイドラインという視点から着目すると、前述の大学では専用の人材
(Director of Career Services and Student Service)を配置しているほか、企業とのパートナー
シップの関係をまとめたカタログ、インターンシップ評価用紙、インターンシップ監督者
ガイドライン、インターンシップ学生誓約書、インターンシップ同意書、インターンシッ
プ学生評価表、インターンシップ受け入れ企業情報収集票など、インターンシップの実施
にあたり必要な事項が準備されていた(事例2-1
A 大学)。
次に、Web ベースでインターンシップに関して収集し、15 のインターンシップの実施状
況を調査した。
実施時期については、ある程度時期を定めている企業、時期を問わず実施している企業
に分かれたが、実施期間については短いものでも 5 週間、長いものでは 18 カ月間というも
のもあり、日本と違って長期にわたるケースがほとんどであった。
プログラムの内容をみると通常業務の補助だけでなく、小売業界でのセールス経験を積
むなど(事例2-2
B社
アパレル企業)当該企業の実務に直結するものもみられた。
報酬の有無については、報酬あり 5、報酬なし 5(記載なし 5)と半数に分かれたが、実
務またはそれに近い経験を積むインターンシッププログラムでは有給となる傾向にあると
推察される。
インターンシップの事前準備に関しては、保険会社であれば商品知識を学ぶ機会や、イ
ンターネット関連では実際にテンプレートにもとづいた編集作業など、業務に関連する学
習や経験を積む準備を行う企業がみられた。
インターンシップへの参加の選考条件としては、学位・学年、成績(GPA)、人柄、当該
業界への関心度合、専門知識など多様にみられた(事例2-3
C社
web デザイン企業)。
また、情報通信などの成長分野や、製造業など、インターンシップの選考条件に関する
事例を調査したところ、次のような結果がみられた。
4
表
インターンシップ求人広告(30 件)中に記載の要求される項目
項目
件数
学歴
17
成績基準
1
熱意
13
業務に関連する知識
18
仕事の期間のコミットメント
コミュニケーションスキル
6
13
順応性・適用力
3
業務経験
15
チームワーク力
9
問題解決能力
3
指導力
1
※web ベースで情報を入手、うち 21 件がソフトウェア、映像配信等の成長分野企業
最も要求されることは、募集している職種に関連する業務知識であり、そのあとに学歴
(学生であることや、学部指定もあり)、業務に関連する経験、仕事に対する熱意、コミュ
ニケーションスキル、チームワーク力が続いた。
業務に関連する業務知識であるが、プログラム開発についてといった高度なものから、
PC ソフトを使えるものといった幅広い段階のものが要求されているものの、何の知識や技
能もない学生を受け入れる体制にはないことが推察される。また、上記に記載されていな
いものの、一人で業務を進めていける能力といったものを要求している企業や、厳しいス
ケジュールに間に合わせられることや、スピード感のある仕事を要求されているものも見
受けられた。こういった選考条件は、抽象的なものであるため、学生の適性を測ることは
難しいものの、自分がどういった職場で働きたいのか、ということが明確な学生にとって
は、職場の雰囲気をうかがえるものであると思われる。また、一人で業務を遂行すること
を求める会社であっても、周囲の同僚とうまくやる能力を求めているところもあり、コミ
ュニケーション能力や、チームワーク力が重視されていることが見受けられた。
実践的という観点からインターンシップの具体的な担当業務を見ると、情報通信など新
しい産業分野では実践的な業務スキルを経験させるものが多くみられた(事例 D インター
ネット付随サービス業)
。また、プロジェクトベースへの参加となるものもみられた(事例
E
広告制作または映像・音声・文字情報制作に附帯するサービス業)
。
5
2-1
A 大学
(先行研究より)
A 大学では、ビジネススクール(経営学科)を中心にインターンシップに取り組んでいる。
【対象】学士課程および修士課程(学士課程は必修)。
【支援】「キャリアパスポート」と呼ばれる学生のキャリア形成に関する過程を明示したガ
イドブックを配布。キャリア教育に関する戦略的なプログラム(4 ヵ年計画)を提供。
【企業】企業に対しては専用のパンフレットを提供。
【体制】教員とは別に学生のキャリア形成を支援するメンターも存在(実務経験を持って
いるリタイアした地域の人材が協力)。監督者ガイドラインも用意。
【記録】キャリア形成(必要なスキルに対する部活動などで身につけた体験等)に関する
記録は紙媒体で保管(記録を残すことは義務化、成績評価なし)。
【評価】「企業評価」「学生評価」など評価シートにもとづいて実施。
2-2
B 社(実務に関連したインターンシップを実施する企業)
B 社はアパレル企業で、上級学年の夏季(summer your senior year)に 10 週間のインター
ンシップ(報酬の支給有)を実施している。上級学年の夏に小売業界で働くために必要な
中心となる能力への強化と鍛錬に注力する。現場でのセールス経験を積み、当社での新店
舗でのアトラクションに関する商品知識について、トレーニングを積み、ビジネスがどう
動いているかの総体的な理解を得ることができる。インターンシップの最終週には、自ら
がリーダーシップを発揮したチームと他のチームが提示した店舗毎のプロジェクトを通じ
て学んだことを発表する。
2-3
C 社(業務に関連したインターンシップに対応した選考条件を提示する企業)
C 社は web デザイン企業で、ソーシャルメディアへの対応スキルなど、業務に関連した
選考条件を提示している。具体的に以下の条件を提示していた。
・文章作成、発信、ソーシャルメディアチャネルを通じたつながり、ソーシャルメディ
アマネジメントについての専門的なスキル
・クリエイティビティ、フレキシビリティ、適応能力に価値を見出す環境でいいパフォ
ーマンスが出せること
・オープンマインド、集中力があり、適応力がある人間であることを証明する
・チャレンジ、迅速なペース、新しいアイディア、将来を見据え、確立されていない環
境を好む人材であること
2-4
D 社(新しい産業分野で実践的な業務スキルを経験させる企業)
D 社はウェブベースでのマーケティング等を行うインターネット付随サービス業である。
成長分野であるインターネット関連の事業を展開しており、業務に直結する実践的なスキ
ルを経験させるインターンシップを実施している。グラフィックデザインのインターンと
6
して、電子書籍、スライドシェア、ランディングページ、バナー広告、ウェブサイトなど
の特定のマーケティングニーズにあう画像のデザイン、作成を担当する。具体的な担当内
容は次のとおりである。
• レイアウト原理および美的設計コンセプトの知識に基づいたデザイン、コンセプト、サ
ンプルレイアウトの作成
• 実例となる素材およびコピーのサイズと配列の決定、タイプスタイルおよびサイズの選
択
• 最終的なレイアウトの再検討、必要な場合は改善の提案
• 素材の実例またはラフスケッチの準備、それらについてのクライアントまたは監督者と
の話し合い、必要な場合の変更
2-5
E 社(プロジェクトベースで参加させる企業)
E 社は広告制作または映像・音声・文字情報制作に附帯するサービス業である。インター
ン参加者は、同社のクライアントのために Drupal(ドルーパル:)※アプリケーションを開
発・維持することに主眼をおき、プロジェクトに参加する。 具体的な担当内容の説明は次
のとおりである。
・このポジションでは、あなたは団結したチームの不可欠な一部として働き、問題解決
やオープンソース・ソフトウェアからの革新的なウェブソリューションの構築をおこ
なう。あなたは様々なプロジェクトに貢献し、デザイン、開発、試行、実施、維持の
すべての段階に参加する。
※プログラム言語 PHP で記述されたフリーでオープンソースのモジュラー式フレームワー
クであり、コンテンツ管理システム (CMS)
(ウィキペディアより http://ja.wikipedia.org/wiki/Drupal)
7
3.北欧のインターンシップに関する調査結果概要
欧州については、英語圏(英国、北欧等)を中心にインターネットで入手できる情報を
参照した。企業と大学との連携に関する情報として、企業が中心となっているもの、学校
が中心となっているもの、行政が中心になっているものを、順に調査した。調査の結果、
公開されている情報源が限られていることから、大学の事例を中心に調査結果をまとめる。
英国では、オックスフォード大学などは「Careers Service」という大学独自のサービスを
通じてキャリアに関する様々な情報を提供している。その中で、インターンシップに関す
る情報提供も行われている。行政支援では、2009 年より「Graduate Talent Pool」という既卒
者を含めたキャリア支援のサービスがあり、インターンシップ情報の検索やマッチングと
いったサービスが活用できる。
北欧諸国については、スウェーデンとデンマークを取り上げている。これらの国が実施
しているインターンシップは、正規科目として実施されているものが多く修了後に単位と
して認定されている。そのため、内容だけでなく評価についての基準についても詳細な取
り決めがみられる。以降では、英国での実情と北欧諸国の実情との比較を説明し、それぞ
れの詳細を概説していく。
3-1.英国と欧州の比較
英国と欧州の事例を比較した結果、以下のような違いがみられた。
(1) 実施期間
インターンシップの実施期間をみると、イギリスでは多くが夏期休暇中に実施されてい
る。一方で、北欧ではインターンシップ開始前に必須コースの修了が必要な場合もあり、
秋以降の実施というのが主流となっている。
(2) キャリアセンター経由の有無
イギリスの大学は、就労支援の一環としてインターネット上で専用の HP を設けている
ケースが多く、窓口を一括しインターンシップに対応している。北欧では、窓口を一括
するという形よりも、個別のカウンセラーやアドバイザーに学生が連絡を入れ、相談を
する形が主流となっている。
(3) インターンシップの目的
双方を比較して見えてくる違いは、職業体験を重視するか専門能力形成を重視するかの
違いである。イギリスでは、まずは興味のある仕事を行っている企業で「試しに就業し
てみる」というとらえ方が大勢を占めている。北欧では、学業の一部としての認識が高
く、科目の一環として組み込まれているケースが多い。
(4) 対象者
双方ともに在学生が対象である。しかし、イギリスでは、卒業後 3 年以内の卒業生も対
象としているブリストル大学にみられるように、卒業生を対象としているケースがいく
つか散見された。
8
(5) 単位の付与
就業を試すことに重点が置かれているイギリスでは、一部の大学(エジンバラ大学ビジ
ネススクール)において単位が付与されているが、インターンシップと単位の付与を結
びつけることは大勢ではない。一方で、北欧の大学では科目のカリキュラムの一つとし
てインターンシップが組み込まれている形式が多く、科目に対する単位付与が行われて
いる。
(6) 単位認定のために評価基準
英国では、夏期休暇中にインターンシップを実施している場合が少なくない上に、職業
経験を積むことが重視される傾向があるため、インターネット上からは評価の方法を明
確に把握することができなかった。一方で北欧の場合は、単位認定される正規科目とし
ての扱いが多く、プレゼンテーションやレポートなどインターンシップ実習に付随する
内容や学習の評価基準が公表されていた。
(7) その他
報酬について:英国内のインターンシップでは、全国最低賃金法(2013 年 10 月からは
6.31 ポンド)が遵守されており、学びのためというよりは就業支援の一環である点が強
調されている。
3-2
英国事例
英国のインターンシップついては、3 大学と英国政府が行っている事例を取り上げた。日
本の就職センターに該当する専門部署の有無、対象者、実施期間、単位取得などいくつか
のポイントについてインターネットを用いて調査を行った。
3-2-1
オックスフォード大学
インターシップの特徴
(1) 「Careers Service」と呼ばれる部署が学生のキャリア形成関する様々なサービスを展開
しており、その中にインターンシップ情報も含まれている。
(2) データベースである「Career Connect」に登録し、
「My profile」に状況を記入することで
様々なインターンシップ関連情報を活用可能となる。
(3) 国際的経験を積ませるインターンシッププログラム「Global summer internships」は、学
生が様々な場所と分野で職業経験を積むことが目的となっている。
(4) インターンシップは夏休み中の 8~10 週間に実施され、業務の形態はフルタイム。
(5) インターンシップフェアなどの開催。
(6) 参考 URL http://www.careers.ox.ac.uk/
9
3-2-2
ブリストル大学
インターンシップの特徴
(1) オックスフォード大学と同様に、
「Careers Service」と呼ばれる部署が学生のキャリア形
成関する様々なサービスを展開しており、その中にインターンシップ情報も含まれてい
る。
(2) ウェブサイト上からデータベースである「mycareer」に登録することで、様々なサービ
スをインターンシップ関連情報が活用可能となる。
(3) 在学生だけでなく既卒者(卒業後 3 年以内)もインターンシップの対象となる。
(4) インターンシップは学期間中や夏休み中に実施される。
(5) インターンシップの期間は、160 時間か 320 時間となる(15 時間/週×10 週または 15
時間/週×20 週)。
(6) 参考 URL http://www.bris.ac.uk/careers/uobinterns/faq.asp
3-2-3
リッチモンド大学
インターンシップの特徴
(1) 「Internship Office」と呼ばれる部署が、インターンシップ関連業務を行っている。
(2) インターンシップによって得られる職業経験と関連するキャリアは、仕事の現場におい
て学生が理論や知識を用いる際に役立つ学術研究と結びついたものである。
(3) 8~9 週間のフルタイムの業務従事に対して、6 単位の取得へとつながる。
(4) 3、4 年生の学生で、75 単位以上取得し GPA が 2.75 以上、アドバイザーと専攻する学科
の 2 名以上の事前許可が必須となる。
(5) オックスフォード大学などと異なりデータベースに登録する方式は用いていない。参加
希望者はインビューが必要となるため、事前に担当者に連絡を取ることになる。
(6) 参考 URL http://www.richmond.ac.uk/content/student-affairs/internships.aspx
3-2-4
英国政府
インターシップの特徴
(1) データベースへの登録の有無に関わらず、様々なインターンシップ情報が検索できる。
(2) 新卒だけでなく既卒も対象としたインターンシップのマッチングを行っている。
(3) 実際にインターンシップに参加した学生や既卒者の体験談を読むことができる。
(4) 参考 URL http://graduatetalentpool.direct.gov.uk/cms/ShowPage/Home_page/p!ecaaefg
3-2-5
まとめ
英国におけるインターンシップは職業経験を積むことであり、学生が専攻している分野
だけでなく興味を持っている分野の職業を経験することに重点が置かれている。夏休みの
ようなまとまった期間を活用し、フルタイムで就労するケースが多く見られるのはそのた
10
めである。正規科目の単位取得と関連するインターンシップも見られるが、上記のような
理由から主流であるとは言いがたいであろう。これ以外では、既卒者に対するケアが行き
届いている点は特筆すべきであり、日本の大学も見習うべき点は少なくない。
3-3
北欧の事例
北欧についてはスウェーデンとデンマークを取り上げ、事前準備や単位認定のための評
価といった項目にポイントを置き、英国同様インターネットを活用した調査を行った。
3-3-1
ウメオ大学(スウェーデン)
インターンシップ(「Umeå School of Business and Economics - Internships for Master's Program
/ウメオ大学経営経済学部修士課程のためのインターンシップ)」の特徴
(1) インターンシップの目的は、将来のキャリア形成のために労働市場との接点を持たせる
こと、理論的知識を実践するための機会を創造することにある。そのため、学生には企
業や組織の日々の活動に参加するだけでなく、プロジェクトや研究などの包括的な業務
に従事すること求められる。選択科目。
(2) インターンシップ先の選定については、インターンシップコーディネーター(IC)と相
談し、学生自身がスウェーデン内外の企業を見つける。
(3) 事前に「Internship Plan」(職場での監督者、訓練期間、業務内容、業務のフォローアッ
プ方法などが記載されたプラン)を作成し承認される必要がある。大学はこのプランの
標準的モデルを作成している。
(4) インターンシップコースはインターンシッププラン、書面による分析レポート、予め企
業側と学校側が書面合意した際に記載された参加者の業務が修了要件となる。書面によ
る分析レポートは、インターンシップ終了後に発表・評価される。指導教授の指示に従
って修正がおこなわれ、終了後 4 週間以内に完成させなければならない。インターンシ
ップコースは学生がコースに合格したか否かが評価される。学生の素行や能力に大きな
問題があった場合は不合格とみなされ、指導教授または試験官は、学生に通知の上、コ
ース終了前に不合格を通知することになる。その場合は、不合格となり学生は直ちにイ
ンターンシップコースを中断する。
(参考 URL:
http://www.usbe.umu.se/english/dept/fek/for-our-students/internship-for-masters-programs)
(5) インターンシップレポートについて
(a) 15 ページ以上 18 ページ以内にすること。
(b) 標準的な間隔を使用すること。
(c) 参考文献一覧をつけること。
(d) 書面のレポートをビジネススクールのデータベースにセミナー前に登録すること。
(e) 以下の 3 点が含まれるようにすること。
11
①
企業/組織についての記述(経営理念、製品・サービス、組織、所有形態、
経営管理)。
②
学生のインターンシップ中の活動実績。
③
学生自身によるインターンシップ期間を通しての省察(インターンシップを
通して経験したこと、学んだこと、自分がよくできたこと、改善できたこと
など)。
(7) インターンシップは試験の一部として実施される。25 分の間に、学生は作成したレポ
ートについてパワーポイントを用いて口頭プレゼンテーションを行う(最後の 5 分間
は質疑応答)
。
3-3-2
アーフス大学(デンマーク)
インターンシップ(Internship for the studies in econimics and business administraion/経済経営
管理を学ぶインターンシップ)の特徴
(1) インターンシップは以下の要素から構成されている。
(a) 企業での実習
(b) インターンシップレポート(インターンシップの学問的な成果についての簡易な
レポート)
(c) インターンシップセミナー(Theoretical Report)
(2) インターンシップの目的は、研究主題分野の理解を深め、表面的な知識だけではない洞
察を深めることであり、学生がインターンシップで以下のコンピテンシを身につけるこ
とが期待されている。
(a) 分析に関するコンピテンシ
(b) ナビゲーションに関するコンピテンシ
(c) イノベーションに関するコンピテンシ
(d) コラボレーションに関するコンピテンシ
(e) コミュニケーションに関するコンピテンシ
学生が上記の目的を達成するために、インターンシップに参加する前だけでなく参加
中も、例えば 1 週間に 1 度は業務記録をつけるよう勧めている。この業務記録は、イン
ターンシップ終了後 1 カ月以内に提出する Theoretical Report レポートの作成時に役立つ
ことになる。
参加したインターンシップのプロジェクトとインターンシップセミナーには、関連性
がない場合も想定される。しかし、インターンシップセミナーは Theoretical Report の提
出が必要であり、「問題提起、問題類型化、理論化、分析、結論」という要件を含める必
要がある。またレポート作成時には、指導教授の承認を得ることが求められる。
(3) インターンシップ開始前には、学生はインターンシップ参加の前提条件となるすべての
必須コースを修了する必要がある。そのため、インターンシップは早くとも 3 学期の始
12
まりからとなる。
10ECTS*1 を得るか 15ECTS を得るかにより二つのモデルがある。
10ECTS
インターンシップ期間
15ECTS
最低 296 時間
最低 444 時間
(2 カ月フルタイム)※
(3 カ月フルタイム)*2
インターンシップレポート
2 ページ
2 ページ
インターンシップセミナー
最大 20 ページ
最大 25 ページ
*1
ヨーロッパ単位互換制度
*2
最大 40 時間/週
(4) インターンシップレポートは、指導教授によって承認の有無が決まる。インターンシッ
プセミナーについては、デンマークの「7 ポイント評価スケール」を基に評価されるこ
とになる。尚、インターンシップレポートが承認されなければインターンシップセミナ
ーは評価されない。インターンシップセミナーは、10~15ECTS の範囲内で評価され
MSc(理学修士)学習プログラムの成績に反映されることになる。
(5) 学生は、受け入れ先企業を選び、書面による合意を結ぶ責任を持つ。合意内容について
は、①業務内容に関する記述、②インターンシップ実施期間、③インターンとしての労
働時間、④外部監督者(企業の担当者)の名前及び連絡先が記載されていなければなら
ない。尚、業務内容については、学問的な関連性とインターンシップの水準が規定を満
たしているか判断できるものである必要がある。
(6) 学生を受け入れる企業は、担当者(外部監督者)を選ばなければならない。外部監督者
は、インターンシップ中の学生についての責任を負い、学生との間でインターンシップ
合意を結ぶことになる。インターンシップ終了時には、学生のインターンシップに対す
る満足度を評価することが求められる。
(7) 学生は内部監督者を見つけなければならないが、この監督者は BSS(ビジネス・社会科
学部)で大学職員として雇用されている者でなければならない。内部監督者は、①イン
ターンシップ/インターンシップ合意の承認、②インターンシップレポートの承認、③
インターンシップセミナーの問題提起、問題類型化、目次作成の承認、その準備に関す
る指導、④インターンシップセミナーの評価を行うことになる。上記以外では、事前承
認の方法、登録の方法、インターンシップレポートおよびインターンシップセミナーの
提出方法及び提出期限などについても規定がある。
(8) 参考 URL
http://studerende.au.dk/en/studies/subject-portals/business-administration/counselling/internship
/guidelinesforinternshipforthestudiesineconomicsandbusinessad/
13
3-3-3
まとめ
北欧諸国におけるインターンシップは、単位取得と結びついた内容が多く見られた。イ
ンターンシップに参加するための必要条件を満たすために、学生は関連する科目を修了し
なければならない。インターンシップの実施が、3 学期終了後になってしまうケースが多い
のはこのためである。しかし、関連する科目を修了するということは、学生の知識やスキ
ルを担保することになるため、トライアル的なインターンシップよりも得るものが多くな
る可能性は非常に高い。インターンシップに対する評価基準が整備されている背景はここ
にある。
14
4.国内事例調査に当たって
国内のインターンシップの事例については、2009 年にヒューマン・イノベーション研究
センターに業務が移管された e ラーニング人材育成研究センター(以下 eLPCO)が実施し
てきたインターンシップについて、報告書や当時の担当者へのインタビューなどを参考に
調査を行った。
特にここでは、成功に終わった事例と、結果的に学生をインターンとして派遣できなか
ったり、応募したが参加希望者が無しとなった失敗事例を中心に報告する。
今回の報告書で成功事例として取り上げたインターンシップは、2007 年 7 月~12 月にか
けて実施したものである。参加した学生は、eLPCO が実施していた e ラーニング専門家育
成プログラム履修者の中で、各コースに共通の 4 科目を修了および履修中の 3、4 年生を対
象としたものであった。
4-1
成功事例
4-1-1
S社
2 名の学生が中途採用社員研修用のコンテンツの設計・開発に携わっていた。各自がコン
テンツのテーマを決め、設計・開発を行っている。外注する内容ではないため、設計から
開発に至るプロセスに一貫して携わる形となった。成果発表会も実施され、自らが開発し
たコンテンツを見せながらプレゼンテーションを行っている。
・
参加学生数
・
実施期間
2名
2007 年 8 月 8 日~9 月 20 日(週 3~4 回)
4-1-2 A社
1 名の学生が通信添削講座コンテンツの問題作成に携わっていた。ロジカルシンキングコ
ンテンツのドキュメンテーションの確認だけでなく、実際に問題作成に取り組んでいた。
・
参加学生数
・
実施期間
4-1-3
1名
2007 年 10 月 1 日~12 月 3 日(週 2 回)
F社
1 名の学生がコンテンツ設計・開発業務補佐に携わっている。設計・開発といった業務に
いきなり取り組むのではなく、最初にコンテンツの制作工程を学び、その後に実際に取り
組むという形を取った。コンテンツの品質チェック業務も体験している。成果発表会も実
施され、研修した内容だけでなく、研修を通じて自らが学んだことについても報告してい
る。
・
参加学生数
・
実施期間
2名
2007 年 11 月 7 日~12 月 12 日(週 1 回)
15
4-1-4
B社
2 名の学生が、中学生向けコンテンツを利用した遠隔教育の研究プロジェクトに携わって
いた。各自が、興味のある研究テーマを決め、研究プロジェクトに取り組む形を取ってい
る。成果発表会も実施され、研究成果を報告している。
・
参加学生数
・
2007 年 10 月 1 日~12 月 21 日(週 1 回)
4-1-5
2名
インターンシップの効果
参加した学生のほとんどが、受け入れ先企業からの高い評価を得てインターンシップを
終えている。A社でインターンシップに参加した学生からは、インストラクショナルデザ
インのスキルだけでなく、ロジカルに会話したり、ロジカルシンキングを活用して文章を
書くという貴重な体験ができたという報告を受けている。インターンシップ終了後に実施
された成果発表会では、短期間での学生の成果と努力に対して、企業側から高い評価を得
ている。
インターンシップが成功裡に終わった要因は何であったのだろうか。1 つ目の要因として
は、一定水準以上のレベルを持った学生を派遣できた点にある。成功事例で紹介した学生
は、インターンシップ参加に際して必要とされる科目を修了または履修中の学生であった。
技術的なスキルはともかく、少なくともある程度の知識を得ていたと推察できる。この参
加基準の設定が、受け入れ先企業側から見えれば学生の質を保証するものとなった。
2 つ目の要因としては、少なくとも 3 社とは教員側と企業側の人的な交流があった点であ
る。だからこそ、初めてインターンシップを行った企業にとっても、契約内容の一部にお
いて先送り事項となった点があったにも関わらず実施に至ったと考えることができる。し
かし、この点が事項以下で紹介する失敗事例の伏線となっていくことは確かである。
4-2
失敗事例
4-2-1
S社
同社には、成功事例で紹介した通り、2007 年度に 2 名の学生がインターンシップで業務
を行っている。翌 2008 年度も同社にインターンシップをお願いしたい旨打診し、打ち合わ
せをもっている。しかし、学生をインターンシップに送り出す際の保険について意見調整
がつけられなかった。具体的には、不測の事態が起こった際の責任の所在を大学に求める
S社の主張と、あくまで学生と企業の(臨時)雇用契約であるという主張が相容れること
がなく、結果として実施には至らなかった。
2008 年は、学内のインターンシップに関する覚書が統一された時期であったことも大き
なポイントになった。結果として同行でのインターンシップを希望していた学生は、イン
ターンシップ先を変更し、F社においてインターンシップを実施することとなった。
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4-2-2
F社
2007 年度に 1 名の学生をインターンとして受け入れた実績をもっていたため、その流れ
を受けて 2008 年度も同様に受け入れをお願いすることになった。参加希望者は 2 名(4 年
生 1 名、3 年生 1 名)、事前に授業時間割との兼ね合いをはかり、就労曜日を決定する形を
取った。インターンシップの実施に際し、F社執行役員と青山学院大学わがの研究センタ
ー所長との間で覚書を取り交わしている。
翌 2009 年度も同社に依頼することになった。事前に調整を図り実施体制を構築したのだ
が、覚書の内容に修正する箇所が生じることとなった。修正の内容は、双方の契約者名で
あった。前年の時点で、執行役員と研究センター所長ではなく、F社と青山学院大学学長
にすべきという指摘があり、2009 年度はその点を考慮に入れての交渉であった。結果的に
は、この対応に時間がかかってしまい、学生募集の時期が大幅に遅れることとなり実施を
中止するに至った。
4-2-3
D社
同社については、先に取り上げた 2 社とは異なり前年度のインターンシップの実績はな
かった。事前の打ち合わせの際に、ソフトウェアを使用してコンテンツを開発する業務で
はなく、e ラーニングに関連する教材を販売する営業補助として、業務の流れを覚えること
が学生にとっては有意義ではないかということから、営業補助的な内容の公募を行った。
コンテンツ開発関連の業務を体験することも大切なことであり、こちらも対応したいとこ
ろではあったが、同社が求めるコンテンツ開発ソフトウェアの操作を学生が十分にできな
いという理由もあったことは事実である。パワーポイントやエクセルといった程度のスキ
ルでは、企業が要求する開発作業にかかわることは難しかった。
結果として応募者はおらず、このインターンシップは実施されずに終わっている。特に
コンテンツ開発に関連する分野では、adobe 系のソフトウェアのスキルは必須である。しか
し、学校が設置している PC にこれらのソフトウェアがインストールされていることは、稀
である。学生自らがこういったソフトウェアを所有し操作方法に習熟している必要性が求
められたことに対して、学生側の応募がなかった。
4-2-4
失敗事例から見えてくるポイント
失敗事例から見えてくるインターンシップを円滑に進める上で大切なポイントは、契約
内容の明確化である。教訓は、大学と企業が結ぶ契約内容を両者の間で明確にしておくこ
とがポイントになる。失敗事例では、この点でクレームがつき調整している間に募集の時
期を逸してしまっている。
次に学生のスキルと、企業側が求めるインターンシップの人材像をいかにマッチさせる
かは、非常に重要な項目である。しかし、より多くの企業にインターンを派遣するという
観点に立った場合、雇用契約、不測の事態が起こった際の責任の所在の明確化などが最重
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要課題となる。逆に言えば、これらの環境整備なくしてインターンシップの実施はあり得
ないであろう。
その意味では、授業の実施や研究が本業である教員や研究員が、限られた時間を活用し
てインターンシップに関わる業務を兼務することは、現実的に考えれば効率的ではない。
学生、企業、そして教員の 3 者をコーディネートし、環境や条件を整備する専門的な人材
が必要不可欠となってくることは確かである。
4-3
総括と展望
米国の事例は、インターンシップが企業の採用活動と密接に関連していることが容易に
理解できる内容であった。英国は職業経験を積むことが重視され、北欧では単位取得と結
びつく形式が主流となっていた。日本の事例として取り上げたインターンシップでは、参
加基準として特定の正規科目の修了または履修が義務付けられていた。このように、今回
取り上げたインターンシップの事例には、各国が持つ特徴が反映されていた。特に海外の
事例からは、新卒であっても即戦力が求められる厳しい社会においては、インターンシッ
プが、どの程度の仕事を学生がこなすことができるのかを推し量る、ひとつの基準となっ
ている可能性は高い。
どの事例にも共通して言えることだが、参加を希望している学生だけではインターンシ
ップは成立しない。反対に、受け入れ態勢が整っていても参加を希望する学生がいなけれ
ば、やはりインターンシップは成立しない。両者の間をいかにしてつなげるのかが、イン
ターンシップを成功へと導くカギとなっている。両者をつなぎ合わせる触媒として機能す
る部署、システムが必要不可欠となる。部署であってもシステムであっても、効果効率的
に稼動させるためには、やはり人材の充実が基本となる。そういった人材をいかに育成し
てくのかは、これからのインターンシップを考えるにあたり非常に重要となることは間違
いない。
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