ロケーションベースサービスの動向について 酒井嘉昭 Location Based Services in the world Yoshiaki SAKAI Abstract: The world of Location Based Services has grown in popularity since the middle of 2000 when we first saw commercial systems available in Japan. This coincided with the launch of DoCoMo's i-mode, which became one of the most fascinating mobile Internet services in the world. Location based services or mobile location services are defined as network based services that integrate a derived estimate of a mobile device's location or position with other information that adds value for the user. The key to services on the wireless Internet is Information at Anytime in Any Place. Location based services utilizes the fact that the device is accessing information in different locations every time you use it - this is the fundamental difference to the landline Internet where your PC sits on your desk everyday. Japan not only provides the expertise to create this technology, it also creates markets where consumers are eager to use it - this makes Japan the most advanced location based services showcase in the world. Keywords: 位置情報サービス(location based services), モバイルロケーションサービス (mobile location services),ワイヤレスインターネット(wireless Internet), モバイルインターネット(mobile internet) 1. はじめに に普及し,欧米では第三世代の携帯電話サー ロケーションベースサービス(Location ビスへの入札が盛んにおこなわれた 2000 年 Based Service)もしくは,モバイルロケーシ 中ごろから頻繁に利用されるようになった. ョンサービス(Mobile Location Services)と 今年 2 月にシンガポールでまた,5 月にロンド いう用語は携帯電話利用のコンテンツサービ ンで Mobile Location Services 2001 という偶 ス(Wireless Internet)が日本で爆発的 然にも同一名の会議がそれぞれ別々の主催者 酒井:〒102-0073 千代田区九段北 1-13-5 によって開催され,携帯電話会社をはじめア 株式会社アーパス ナリスト,サービスプロバイダー,システムイ APAS Inc. ンテグレータ,ソフトウエアベンダーなど多 1-13-5 Kudan Kita Chiyoda-ku Tokyo,102-0073, Japan E-Mail:[email protected] 数が出席し,活発な議論が展開された. 一般にロケーションサービスという用語 は,GIS と区別されて使用されることが多く, 日本をはじめ欧米の主要なサービス提供企業 普及している計算になる. は,これまでの GIS ベンダーとは異なるプレ 欧米の携帯電話の通信環境は,その多くが イヤーで構成されている. 位置情報機能を組 SMS(short message service)を中心とした み込んだモバイル e- コ マ ー ス の 市 場 規 模 WAP ブラウザ環境で,日本のようにカラーの は,2006 年までには 96 億ドルになると試算さ 携帯端末でコンテンツをブラウジングするこ れている. このロケーションサービスを検討 とはできない. 128 バイトのショートメッセ するにあたっては通信事業者などネットワー ージでメールや情報を受配信するサービスが ク提供者や携帯端末の製造をおこなうベンダ 中心である. このため,携帯電話の利用は音声 ーの技術動向や経営戦略を注意深く見てゆく 通話が中心で,携帯電話でコンテンツを閲覧 必要がある. するユーザはきわめて少ない.これは,WAP を GSM という通信環境で利用した場合,サービ 2. ロケーションサービスの定義 スにアクセスする度にダイヤルアップが発生 イギリスの市場調査会社 Ovum によると, し,ネゴシエーション,回線接続,メニューのダ モバイルロケーションサービスとは「携帯端 ウンロードなど,日本の DoCoMo のi-モード 末によって得られた位置情報とユーザに役立 や KDDI の EZ-Web,J-フォンの J-Sky などの つ情報をインテグレートするネットワークサ ようなパッケト型のサービスに比べて必要な ービス」と定義されている. この定義から,ロ 情報を取得するための時間が長く実用にはな ケーションサービスは,「モバイルを含む位置 っていないのが現状である. 情報と各種の情報をインテグレートするサー ビス一般」と定義することができる. 4.アジア太平洋地域 日本では,95 年ころからこの分野の商用利 アジア太平洋地域のモバイルインターネッ 用は始まっており,PHS を利用した現在位置 トに対する関心は,ヨーロッパ以上に高いが, の検索サービスや携帯電話向け地図配信サー GSM 方式が中心で,CDMA 方式を使用してい ビス,最近の総合警備会社セコムの「ココセコ る韓国以外の国では,コンテンツビジネスは ム」のような位置情報提供サービスや,インタ 普及していない. パケット型の GPRS システ ーネットの地図検索サービスもこれらロケー ムへの移行は,今年から本格的に普及する見 ションサービスとして位置付けることができ 通しだが,小さな画面サイズ,白黒2階調の画 る. 像表示など端末の性能が低いためユーザの関 心は低い. 3. 欧州 台湾や韓国では地図を携帯電話に提供して 欧州における携帯電話ユーザ数は 2001 年 1 いるサイトは複数あるが,実際にレストラン 月現在 2 億 4200 万人で,世界の携帯ユーザ数 名を入力して地図を表示するまで多くの画面 7 億 2700 万人の 33%強を占めている. 欧州全 遷移が必要で,しかもこの操作だけで数分か 体での携帯電話の普及率は平均 57%で最も高 かるためユーザ数はなかなか増えないのが実 い地域がフィンランド 78%となっている. フ 情である. 電子地図の種類および整備状況も ィンランドの総人口 520 万人の内,400 万人に コンシューマを満足させるレベルではないの も普及につながらない原因の一つと考えられ マーケットである. る. 6.米国の現状 5.日本国内の現状 連邦通信委員会(FCC)は「Enhanced 911 昨年1年間で,携帯電話に地図を表示して (E911)」と呼ばれるプロジェクトの下,全 課金するサービスは日本国内で十数億円規模 ての携帯電話利用者の居場所を半径 50 メー であったと推定される. 携帯電話ユーザとっ トルまで特定できる機能を設けるようサービ て地図情報はとても関心の高いサービスであ ス業者に求めている. 今年 3 月までにこの位 る. インターネットによるアンケート調査 置特定精度に対応可能な技術の確立と,10 月 (goo リサーチ)によると 40%近い人が次世 までに新規に発売される携帯電話の 50%にこ 代の携帯電話サービスでロケーションサービ の機能を搭載するよう勧告している. また スを利用したいと回答しており,音楽配信サ 2002 年 10 月までにはその比率を 95%にする ービスやテレビ電話機能よりも希望者が多く よう求めている. 最も期待されるサービスとなっている. もともとこの E911 は緊急通報時に通報者 携帯電話によるポジショニング技術は,セ の発信場所の特定を容易にし,迅速に救難,救 ル ID を使用したサービスが実用化されてお 出ができるように定められたものではあるが, り J-フォンを皮切りに,KDDI, DoCoMo でそ この位置特定機能を応用した新しいサービス れぞれ提供されている. 都心部で 500m,郊外 に商機をみいだしている企業もある. 米国の で 3 から 5km の精度で自分の位置を把握する クアルコム社は,基地局からの電波の到達時 ことができる. 具体的には,現在位置をセル 間と,GPS信号から 95%の確率で 50m 以内 ID から取得して,周辺地図や最寄駅を表示す の精度で位置を特定できる携帯端末用内臓チ るサービスが提供されている. また,今年の暮 ップ gpsOne を製品化している. このチップ れから GPS 内臓の携帯電話が出荷されよう を利用すると,GPS 衛星の電波を受信できな になるといっそう位置精度は高くなり,数十 い屋内でも基地局の電波を受信することによ mの範囲で自分の位置が同定できるようにな って数十mの精度で位置を特定することが可 る. 能である. 位置情報と関連ある分野で今後注目される 車載型 PC 市場については車載情報(テレ のがモバイル ITS といわれるネット対応の車 マティックス)システムとして現在盛んに投 載 PDA マーケットである. 現行の高機能カー 資が行われており,同システムにとってロケ ナビゲーションシステムとは違ったマーケッ ーションサービスの機能は不可欠なものとな トセグメントを対象とした双方向性の通信機 っている. 米国では PC の出荷額が頭打ちに 能付きシステムが業務用に提供されると予想 なる中,テレマティックスシステム市場に熱 される(米国ではテレマティックス技術とし い視線が注がれている. て位置付けられている). マイクロソフトも 車 載 向 け OS と し て Windows CE for Automotive を提供しており今後注目される 7.モバイルロケーションサービス領域 迷子探しから,盗難車の発見,車両の運行管 理,目的地までの最短経路の検索などロケー リケーションが開発が可能な環境が求められ ションサービスにはさまざまアプリケーショ ている. ンが想定される. 一方これらのアプリケー ションを構築するには各種のサービスの提供 8.結論 が必要となる. ロケーションサービスについては,上記の (1)現在位置の把握など位置情報を計測す 5つの分野のサービス提供者が充実すること るサービス によって市場が活性化するものと考えられる. (2)緯度・経度をキーに関連情報を検索が また,これらの分野の相互作用によってマー できるようにするジオコードコンテンツサー ケットがダイナミックに形成されるものと考 ビス えられる. (3)複数の情報のフォーマットやプロトコ 一方,ユーザ側からの視点でみてみると, ルを変換するゲートウエイサービス たとえば携帯電話の地図サービスは目的の場 (4)位置情報を利用したアプリケーション 所を検索するための操作が面倒であったり, 開発環境の提供サービス データ量が少なく目的の場所が見つからなか (5)それらのアプリケーション開発環境を ったりと実用的に使えるようになるには多く 利用したアプリケーション開発サービス の課題を克服しなくてならない.第3世代か などの5つの領域に分類することができる. ら通信速度が飛躍的に早くなることによって 現在位置の把握のための位置計測技術とは具 現在のイライラ感から開放されることになる 体的には PHS による基地局間の三角測量の であろう.それと同時に増えつづけるユーザ, ためのアルゴリズムの提供やサーバ技術の提 デバイス,アプリケーション,データに対応 供などがあり,緯度・経度を利用したジオレフ しつつ満足できるサービスパフォーマンスを ァレンスのためのジオコーディングやそのた 維持してゆく必要もある. めの辞書の作成などは(2)に分類される. 通 日本は,モバイルロケーションサービスの 信事業者間や通信システム間のプロトコルの 実市場での実験が豊富にできるマーケットサ 変換はこのロケーションサービスを構築する イズと技術環境がととのっており,これらの 上で目に見えないが重要な役割を果たす. 米 環境を最大限に利用することによって日本発 国のように地方毎に携帯電話会社が存在する の世界的なロケーションサービスの雛型を提 場合特に需要がある. 日本の場合,たとえば携 供することも可能であろう. 帯電話の地図サービスを構築する場合,HTTP 参考文献 ベースで開発したものは DoCoMo と J-フォ goo リサーチ(2000) 次世代携帯電話に関する ンでサービスを提供することができるが 調査. KDDI には HDML ベースでコンテンツを作 <http://research.goo.ne.jp/Result/0101op19/0 成する必要がある. アプリケーションの開発 2.html>. 環境はこれまでの GIS では想定していなかっ Jeremy Green・Dario Betti・John Davison たマルチユーザ,マルチデバイス環境,高負荷 (2000) Mobile Location Services: Market トランザクションなどの環境に対応してアプ Strategies. Ovum, 41-5
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