算数の教育ゲームの開発研究

平成 25 年度
東京学芸大学 教育学部
卒業論文
算数の教育ゲームの開発研究
―論理的思考と空間的思考に焦点をあてて―
指導教官
学籍番号
論文執筆者名
西村 圭一 准教授
A10-0242
瀬下 俊吾
平成 26 年 2 月 9 日提出
1
目次
序章 研究の目的と方法.................................................................................................... 3
0.1 研究の目的 ............................................................................................................. 3
0.2 研究の方法 ............................................................................................................. 3
第 1 章 算数・数学科におけるゲームの教育的価値と課題 ............................................... 4
1.1 「数学活用」におけるゲームの扱い ...................................................................... 4
1.1.1 学習指導要領からの考察 ................................................................................. 4
1.1.2 「数学活用」の教科書の分析 .......................................................................... 5
1.2 算数・数学教育に関わるゲーム ............................................................................. 9
1.2.1 世界にある文化的なゲーム .............................................................................. 9
1.2.2 コンピュータを用いる教育ゲーム ..................................................................14
1.3 算数・数学科におけるゲームの教育的価値と課題 ................................................19
第2章 算数・数学科における教育ゲームで身につけさせたい力....................................21
2.1 論理的思考 ............................................................................................................21
2.1.1
『論理的思考のための数学教室』における論理的思考 ...............................21
2.1.2
国立教育政策研究所の論理的思考に関する調査(2013) ...........................26
2.1.3 本研究における「論理的思考」 ......................................................................29
2.2 空間的思考 ............................................................................................................29
2.2.1 「数学教育における空間的思考の水準に関する研究」における空間的思考 .....30
2.2.2 本研究における「空間的思考」 ......................................................................32
第3章 算数教育ゲーム『ろじきゅー~LOGIQ~』の開発 .............................................34
3.1 本研究で開発するゲームの要件 ............................................................................34
3.2 ゲーム開発の実際 .................................................................................................35
3.3 開発したゲームの概要と特長 ................................................................................36
3.3.1
ゲーム『ろじきゅー~LOGIQ~』の概要 ...................................................36
3.3.2
各レベルの設定と論理的思考 ......................................................................37
3.3.3
その他の画面について ................................................................................44
3.3.4
ゲーム『ろじきゅー~LOGIQ~』の特長 ...................................................47
終 章
研究のまとめと今後の課題 ..........................................................................51
4.1
研究のまとめ .................................................................................................51
4.2
今後の課題 .....................................................................................................51
引用・参考文献.................................................................................................................53
2
序章
研究の目的と方法
0.1 研究の目的
IEA 国際数学・理科教育動向調査の 2011 年調査(TIMSS2011)では、小学 4 年生を対
象にした質問紙調査で、「算数は楽しいか」の問いに対し、
「強くそう思う」に解答してい
る児童の割合が 29.2%であり、国際平均の 57.8%よりも大幅に低い結果となっている。
そこで著者が注目したものが、平成21年の学習指導要領の改訂で新たな科目として誕
生した「数学活用」である。
「数学活用」は数学的な見方や考え方、数学的な表現や処理、
数学的活動や思索することの『楽しさ』に焦点を当て、具体的な事象の考察を通して数学
のよさを認識できるようにするとされている。その中でも「数学と人間の活動」の中にあ
る「遊びの中の数学」の内容であれば、高等学校でなく小学生でも扱うことができ、算数
の楽しさが実感できるのではないだろうかと考える。
しかし、ただ単に遊びやゲーム1をするだけでは、楽しいだけで終わってしまう。ゲーム
をすることで算数・数学の「力」がつくように意図した教育的価値のあるゲーム(教育的
価値のあるゲームを以後『教育ゲーム』とする)を開発する必要がある。
そこで本研究は、既存の教育ゲームから算数教育における教育ゲームとしての必要な要
素を見いだした上で、算数・数学の力がつき、算数の楽しさが実感できるようなゲームの
開発をすることを目的とする。
ここで、算数に関する教育ゲームを以後『算数教育ゲーム』
、中学生レベルの数学の内容
を扱う教育ゲームを『数学教育ゲーム』
、これら 2 つをまとめて『算数・数学教育ゲーム』
とする。
0.2 研究の方法
上記の研究の目的に対して、以下のように研究を進める。
まず、算数・数学科におけるゲームの教育的価値と課題について考察する。
次に、ゲームを通して身につけさせたい力について、先行研究をもとに考察し、本研究
で焦点を当てる力を特定する。その上で,開発する教育ゲームの要件を明確にし,ベネッ
セコーポレーションの支援のもと、コンピュータ教育ゲームを開発する。
1
「ゲーム」…遊びの中でルールが決まっていたり、終わり方(勝ち方)が決まっていたり
するものを、この論文では『ゲーム』とする。
3
第1章
算数・数学科におけるゲームの教育的価値と課題
1.1 「数学活用」におけるゲームの扱い
1.1.1 学習指導要領からの考察
平成20年1月の中央教育審議会答申に基づき、平成21年12月に高等学校の学習指導要領が
改訂された。
「高等学校における数学の意義として、数学的な知識や技能の「量」だけでなく、いか
にそれらを身に付けたかなど学習の「質」を問う必要があり、数学的な見方や考え方のよ
さを認識させ、知的好奇心、豊かな感性、健全な批判力、直観力、洞察力、論理的思考力、
想像力、根気強く考え続ける力などの創造性の基礎を養うことや、論理に基づき自分で判
断する力を育成することなどが特に大切である」(p.4) とされている。また、「文化に数学
が果たしている役割も重要であり、ゲームやパズルの構造や戦法などを考えることによっ
て、数学的な思考を楽しみ、知的な喜びを得ることができる。さらには高度情報通信社会
の進展する現代では数学教育でコンピュータなどを積極的に活用していくことも重要であ
る」(p.5) とされている。
以上のような意義や、数学が文化と密接にかかわりながら発展してきたことを踏まえ、
知識基盤社会において求められる数学的リテラシー2を育てるために、新たに「数学活用」
の科目が新設された。
以下が「数学活用」の目標及び遊び・ゲームに関する内容である。
【目標】
数学と人間とのかかわりや数学の社会的有用性についての認識を深めるとともに,事象
を数理的に考察する能力を養い,数学を積極的に活用する態度を育てる。
【内容】
(1) 数学と人間の活動
数学が人間の活動にかかわってつくられ発展してきたことやその方法を理解すると
ともに,数学と文化とのかかわりについての認識を深める。
・遊びの中の数学
数理的なゲームやパズルなどを通して論理的に考えることのよさを認識し,数学
と文化とのかかわりについて理解すること。
人間を「遊ぶ人」を意味するホモ・ルーデンスという言葉で規定することがあるよ
うに,遊びは人間の活動の本質的なものであり,文化を生み出す源である。
数学と遊びにも深い関係があり,ここでは遊びの中に数学が顕在する例として,論
理的な思考を必要とする数理的なゲームやパズルなどを取り上げ,戦法などを考え
2
知識基盤社会に求められている事象を数理的に考察する能力や数学を積極的に活用する
態度をさす
4
させることを通して論理的に考えることのよさを認識させるとともに,数学と文化
とのかかわりを理解させる。
指導に当たっては,自分の見いだした方法や考えについて,その根拠が的確に伝
わるよう,わかりやすく表現させるようにすることが大切である。
例えば,図のような,様々な国や地域にある三目並べを取り上げる。はじめに,
それぞれのゲームを実際に行わせる。そして,グループで,必勝法などを考え,自
分の考えを表現したり伝え合ったりする活動を行う。これらの活動を通して,論理
的に考えることの楽しさやよさを認識させる。
さらに,ゲーム盤やコマのデザインや設定等に文化的な差異が見られる一方で,
ルールには共通性が見られることから,数学と文化や人間の活動とのかかわりにつ
いても考えさせる。
また,いろいろな形のマス目を合同な図形で敷き詰めるパズルを扱い,二値化や
数学的帰納法を用いて考えることのよさを認識させたり,覆面算,ナンバープレイ
スなどを扱い,これらの背景に背理法の考えがあることを認識させたりすることも
考えられる。
この他にも,「ハノイの塔」や「河渡りの問題」を扱い,再帰的な考えのよさを
認識させることも考えられる。(pp.59-62)
今回の学習指導要領の改訂及び科目「数学活用」の新設により、文化と数学の関わりの
内容として、数学教育においてゲームが扱われるようになった。
高等学校でのゲームは、数学は嫌いな子でも数学のよさを理解できたり、創造性の基礎を
養うことや、論理に基づいた判断力の育成ができたりするために取り入れられたものと考
えられる。
では,このような学習指導要領の趣旨は、教科書でどのように具現化されているのだろ
うか。
1.1.2 「数学活用」の教科書の分析
本研究では,既に発行されている「数学活用」の教科書の中で啓林館の教科書(2012)
をみていくことにする。どのようなゲームが、どのように扱われているのかを整理すると,
以下の通りである。
5
頁
ゲーム名
ゲームのやり方
扱われ方
p.44
O×ゲーム
ルールや詳しいボードの形に関する
【問】OXゲームの必勝法はあるで
3 目ならべ
記載は一切ない。
(モリス)
異なった 3 種類のボードの写真のみ
・世界各国にOXゲームと同じよう
掲載。
に自分の3つのコマで直線を作れば
(3×3のボードに交互に○×をお
勝ちというゲームが有ることを紹
いていき、3つが縦・横・斜めでそ
介。
ろったら勝ち)
ボードの形に関する記載は一切な
(モリスなどは決まったコマを置い
い。
た後に交互に線上に動かして3つが
★のちの課題において、モリスにつ
並ぶ状態をつくっていく)
いて調べ、実際にやり、戦略を立て
(イー)
(タバリン)
しょうか?
しかしルールや
させている。
p.45
川渡りの問題
農夫はオオカミ、ヤギ、キャベツ
【問】どうしたら全てを対岸まで運
オオカミ・ヤギ・
がボートに乗せて対岸まで運ぶ。1 度
キャベツ問題
に1つのものしか運べなく、農夫が
・日本、中国にも「虎の子渡し」と
(虎の子渡し)
いないとオオカミはヤギを、ヤギは
いう似たものがあることを紹介。
べるか?
キャベツをたべてしまう。全てを無
事に対岸に移動さ せる方法を考え
る。
(虎の子渡しでは、農夫が母虎で 1
匹の子虎のみ母虎がいないと他の子
虎を食べてしまうという設定)
p.48
川渡りの問題
p.49
先住民3人と宣教師3人が2人乗り
用ボートで川を渡る。常に(宣教師
【問】全員渡るにはどうしたらいい
か?
の人数)≧(先住民の人数)とする。 ・先住民を▲、宣教師を○、ボート
全員を対岸まで渡らす方法を考え
を_で表し、各岸の様子を(左岸|
る。 のとき全員渡るにはどのよう
右岸)として(▲▲○_|▲○○)
にすればいいか?
のように表す。そして考えられる行
動の仕方を線で結び、目的である(|
_▲▲▲○○○)に線をたどって行
き方を考えている。(図 1.1-1)
p.45
おしどりの遊び
白と黒の碁石を同じ数ずつ交互に1
【問】白石だけ黒石だけに分けるに
(図 1.1-2)
列に並べる。
(教科書の場合、各 4 個
は何手かかるでしょうか?
ずつ)隣同士の 2 つの石を同時に空
・日本の江戸時代に考えられた遊び
いている場所に移動することを繰り
が世界に広まった例として取り上げ
返して、白石だけ黒石だけに分ける。 られている。
6
★のちの課題として碁石の数を増や
した場合何手かかるのかをかんがえ
させている。
p.46
タングラム
正方形を分割して得られる7つの三
【問】
(いくつかの影絵が紹介されて
(七巧図)
角形や四角形のタイルを使って与え
いる上で)上図の影絵の形を作って
られた影絵の形を作るパズル
みよう。
清少納言知恵の板
(図 1.1-3)
・中国発祥の七巧図、それがヨーロ
ッパに広まったタングラムの紹介。
・日本でも清少納言の板というもの
があったことや、タングラムとの違
いを説明。
★のちの課題として、タングラム・
清少納言知恵の板で作ることのでき
る凸角形をすべて列挙させる。
p.50
数学パズル
縦、横、と3×3のブロック全てに
(数独)
おいて、1~9の数字を被らないよ
(図 1.1-4)
うにおいていく。
【問】空いているマスに1~9まで
の数字を埋めてください。
【問】自分で数学パズルを作ってみ
よう
p.82
敷き詰めの問題
正方形が2つ繋がった畳を正方形を
【問】図1.1-5のような正方形を2つ
|
(図 1.1-5)
いくつかつなげた部屋に敷き詰めら
つなげた畳を敷き詰めることが
れるか考える。
できるかどうか?
p.85
【問】図1.1-5のAやBのように実際
に頭の中で考えられるものだけ
でなく大きな部屋の場合でも考
える
・色の塗り分けにより、敷き詰めら
れるかどうかの一般性を見つけてい
く
・畳が3マス分になったときの場合
へと拡張する
・「色分けしたそれぞれが同じ個数
でない」ならば「敷き詰められない」
つまり「敷き詰められる」ならば「色
分けした個数が同じ」が成り立つこ
とを確認したあとで、その逆である
「色分けした個数」ならば「敷き詰
7
められる」が成り立たないことを色
分けの仕方の違いから説明してい
る。
p.114
ハノイの塔
|
(図 1.1-6)
p.117
・1 回に 1 つの円板だけを他の棒に移
・円盤の枚数によって移動数がそれ
動する
ぞれどのように変化するか表にまと
・小さな円板の上に大きい円板を乗
める
せてはいけない
・ハノイの塔の移動の仕方の一般性
の 2 つの条件をまもって円板を違う
を確認する
棒に移動させる。
< a1=1 , an = 2an-1 + 1 ( n ≧ 2) >
・移動数を数学的帰納法を用いて漸
化式で表す。
< an = 2n – 1 >
・遷移図を用いて最短ルートを確認
する。
<図 1.1-1:川渡り問題>
<図 1.1-2:おしどりの問題>
<図1.1-3:タングラム/七巧図・清少納言知恵の板>
<図1.1-4:数学パズル>
8
<図1.1-5:敷き詰めの問題>
<図1.1-6:ハノイの塔>
B
A
以上のようなゲームが教科書では紹介されている。これらのゲームを実際にしたり、考
えたりすることを通じて、著者は,これらの内容であれば高校生でなく小学生でも楽しめ
るのではないかと考えた。
「数学活用」の目標が数学的思考の楽しさやよさを感じることで
あるように、小学生に対してゲームを用いることで,算数の楽しさやよさを伝えることが
できるのではないかと考える。
1.2 算数・数学教育に関わるゲーム
1.2.1 世界にある文化的なゲーム
「数学活用」では1.1章にも挙げたように、数学と文化とのかかわりについての認識を深
めるために、「遊びの中の数学」が位置づけられ、数理的なゲームやパズルなどを通して
論理的に考えることのよさを認識し,数学と文化とのかかわりについて理解することとさ
れている。また、遊びは人間の活動の本質的なものであり,文化を生み出す源である。
そこで、世界にある文化的なゲームに目を向けてみる。『親子であそんで学力がのびる
世界の算数ゲーム』(Claudia Zaslavsky 2004)では,ゲームの特徴ごとにグループ分け
して、身につく力を示している。
その中からいくつか以下紹介する。
①3目ならべゲーム
【身につく力】:先を読む力
【共通のルール】・コマを順番にボード上に置いていく
・すべて置き終わったら、置いてあるコマを飛び越さないように、1
回に1つコマを動かす
・先に3コマをボード上に1列にならべた方の勝利
9
<図 1.2-1:シシマ盤面>
【ゲームの例】
(1)シシマ(ケニア)(図1.2-1)
コマ数:3つ×2セット
ルール:[1]コマを置いていくのでなく、
最初は向かい合うように3つ並べて置いてある状態から始まる
[2]中央のマス(池)をシシマと呼ぶ
発展:先攻はコマを最初にシシマへ入れる方が良いか、良くないか?またそ
れはなぜか?
もしそれぞれのプレイヤーにコマが4つずつあったら遊ぶことはでき
るか?
(2)タパタン(フィリピン) (図1.2-2)
コマ数:3つ×2セット
ルール:共通ルールに従う
<図1.2-2:タパタン盤面>
発展:専攻は最初のコマをどこに置くと有利か?
もしそれぞれのプレイヤーにコマが4つずつあったら遊ぶことはでき
るか?
タパタンと○×ゲームの似ているところ、及び違いは?
先攻の1コマ目置く場所パターンは何通りあるか?
<図 1.2-3:ツォロ・
(3)ツォロ・イェマタトゥ(ジンバブエ)(図1.2-3)
イェマタトゥ盤面>
コマ数:3つ×2セット
ルール:共通ルールに従う
発展:もしそれぞれのプレイヤーに
コマが4つずつあったら遊ぶことはできない、なぜか?
(4)ピカリア(アメリカインディアン)(図1.2-4)
<図1.2-4:ピカリア盤面>
コマ数:3つ×2セット
ルール:コマを置く場所が9点バージョンと
全ての交点における13点バージョンがある
発展:2つのバージョンではそれぞれ、
プレイヤーにコマが4つずつあったら遊ぶことはできるか?
(5)9メンズ・モーリス(イギリス)(図1.2-5)
コマ数:9つ×2セット
ルール:[1]3コマが1直線に並ぶことを「ミル」と呼ぶ
10
[2]ミルを作ったら勝利ではなく、
ミルを作ったら相手のコマを1つ外へ除外することができる
[3]コマが動かせなくなってしまった人、残り2コマになってしまっ
た人の負け
発展:コマを前後に動かすだけでミルが繰り返し作れれば1ターンおきに
<図 1.2-5:9 メンズ・
モーリス盤面>
コマを除外することができます。そのためにはどのような作戦を考
えればいいか?
「コマの前後作戦」を防ぐにはどうしたらよいか?
(6)トリーク(コロンビア)(図1.2-6)
<図 1.2-6:トリーク・ネレンチ盤面>
コマ数:9つ×2セット
ルール及び発展:9メンズ・モーリスと同じ
(7)ネレンチ(スリランカ)(図1.2-6)
コマ数:12こ×2セット
ルール:[1]3コマが1直線上に並ぶことを「ネレンチ」と呼ぶ
[2]ボード上に両者の合計が22個になるようにコマを順番に置く
ただしネレンチができる度に続けてもう1回置くことができる。
[3]22個目のコマを置いたプレイヤーからコマを動かす
ただし角を結んだ線分上は動かせない
(角を結んだ線分上でネレンチを作ることは可能)
[4]あとは9メンズ・モーリスと同じ
<図 1.2-7:
ダラ盤面>
(8)ダラ(図1.2-7)
コマ数:12こ×2セット
ルール:[1]合計24個のコマをすべて並べる
ただしこのとき3つが直線にならんでもコマを取れない
[2]3コマが直線になるように順番に動かす
ただし4コマ以上が直線にならんではいけなく、ななめにも動か
せない
[3]3コマが縦、横どちらかに1直線上に並べば相手のコマを1つ外に
除外できる
[4]1つも3つならびができなくなったら負け
発展:5つのコマを置いて連続して3つならびが作れるようにするためにはどう
したら良いか?(このような状態を「馬」と呼ぶ。)
下の図1.2-8に挙げた例の馬意外に、馬は考えられるか?
11
<図1.2-8:ダラの馬の例>
●
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●
●
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●
これらのような3目ならべのゲームは,「高等学校学習指導要領数学編」や教科書「数
学活用」(啓林館)にも例が挙げられている。
実際に遊んでみると、勝つためには、自分の動かせるいくつかのコマの中から、このよ
うに動かしたときは相手はこのように動く可能性があるだろうと先を読みながら、場合分
けをして論理的に考えてコマを動かす必要があった。
また、共通性を持ちながらも少しずつルールや遊び方がちがったり、ボードの形が違っ
たりする。それぞれのルールや遊び方・コマの数は適当に決められているわけでなく、よ
り公平にするために論理的に考えて工夫しながら決められたものである。この点に注目す
ると、共通ルールはそのままにして、児童・生徒自身にボードの形や適切なコマの数や遊
び方を作らせる活動をすれば論理的思考力がつき、それを他者へ根拠を持ってわかりやす
く伝えることによって表現力がつくのではないかと考える。
さらに<○×ゲーム→シシマ→ツォロ・イエマトゥ→タパタン→9点ピカリア→13点ピ
カリア>や<9メンズ・モーリス→トリーク→ネレンチ>と段階的に進めていけば3目な
らべゲーム内で数学的活動ができるのではないかと考える。
②チャンス型ゲーム
【身に着く力】
確率の考え方
<図1.2-9>
【世界のゲーム】
(1)ルル(ハワイ)
ルール:[1]図1.2-9のような4枚の円盤を用意する。
[2]テーブル等に投げる。
[3]表向きの円盤のみ点の数を数え、得点①とする
[4]裏向きの円盤のみ再度投げ、表が出た円盤のみ点の数を数え、得点②
とする
[5]得点①と②の合計がそのラウンドの点数となる
[6]1回目ですべて表だった場合のみもう1度4つの円盤を投げる
[7]勝敗は始めにどうなれば勝ちかを各自で決めておく
発展:1回目投げた時点で、0~9点までそれぞれ何通り考えられますか?
2回目投げた時点で、0~20点までそれぞれ何通り考えられますか?
12
(2)皿のゲーム(アメリカインディアン)
<図1.2-11>
ルール:[1]図1.2-10のようにコマの片側に印をつける
(こちらが表となる)
[2]籠やボールなどの中にコマを投げ入れる
[3]得点は図1.2-11の得点表に従う
[4]勝敗は始めにどうなれば勝ちかを各自決めておく
発展:このゲームの得点の付け方は公平か?
コマを5つ、6つと増やした場合得点はどのように
つければよいか?
<図1.2-10>
<得点>
(表,裏)
(4,0)ならば5点
(3,1)ならば2点
(2,2)ならば1点
(1,3)ならば2点
(0,4)ならば5点
皿ゲームでは確率を使うことによって、公平かどうかを判断している。何を持って公平
なのかが人それぞれであるため、もし児童・生徒に考えさせたら、おそらくさまざまな意
見が出てくるだろう。そのようなときにちゃんとした自分なりの根拠をもって自分の考え
を発表させることは、学習指導要領解説の「数学活用」における「自分の見いだした方法
や考えについて,その根拠が的確に伝わるよう,わかりやすく表現させる」という箇所に
も当てはまるのではないかと考える。
それを踏まえて②(1)のルルにおいても2回分の合計の点の個数に応じて得点を決めると
いった活動へと発展できるのではと考える。
③数のゲーム
【身に着く力】
計算力
【世界のゲーム・問題】
(1)秘密の暗号(古代ヘブライ、ギリシア)
ルール:[1]A B C D E F G H I J K・・・・・・・・・・ X Y Z
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11・・・・・・・・・・ 24 25 26
このようにアルファベットを1~26の数字に対応させる
[2]自分の名前がいくつなのか計算する
例:せしも→SESHIMO=19+5+19+8+9+13+15=88
[3]アルファベットの穴埋めをする
例:C_T(切る)=44 _にはどのアルファベットが入るか?
発展:もっと大きな数を表すにはどうしたらよいか?
(2)アメリカの郵便番号(Zip Cord)
ルール:長線2本と短線の3本の組み合わせによって数字を表す
13
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
発展:0~9まで表した表をつくってみましょう。
秘密の暗号についてはただの計算でなくアルファベットに対応させ、単調な計算練習を
するよりかは、子どもたちが楽しく計算し、計算力も向上するのではないかと考える。ま
た方程式として穴抜きにしてあるのは小学生で言えば、□をつかった計算にあたるところ
である。単語を覚えることも含めると外国語活動とのつながりにもなり、算数が嫌いな子
でも楽しいと思えるのではないかと考える。
またZip Cordについては、ここから発展させようとすると、なぜ長線2本と短線3本の組
み合わせなのかなどを考えさせたり、1~9、0までの線の組み合わせ方の規則などを考
えさせたりすることはできるが、前者は高校生の組み合わせの考え方(nCr)を使い、後
者は2進数に近い考え方をするので小学生には難しいのではないかと考えられる。
以上のことから,文化的なゲーム中には,算数・数学に繋がるところがあり、ゲームを
通して算数・数学の力をつけることが可能だと感じた。しかも、楽しさもあり、算数が嫌
いな子も興味を示してくれるだろう。しかしながら、それぞれのゲームにおいてどのよう
な力がつくのかがわかりにくいものや、本当にこのゲームで力がつくのかが疑問に思える
ものもある。例えば、9メンズ・モーリスやトリーク、ネレンチなどは先を読む力のつくゲ
ームとされているが、置いたり動かしたりできるマスやコマが多く先を読む力をすでに身
に付けた人でないとプレイしていく中で2,3手先や勝利までの道筋を考えていくことは難
しいであろう。ゆえにこのゲームだけをやっても先を読む力はつかないと考える。またZip
Cordは数のゲームとして計算力がつくゲームとされているが、コードの読み取りや規則性
に注目してしまい計算力がつくのか分かりにくい部分がある。
「楽しい」だけで終わるのではなく、ゲームを通して、自分の見いだした方法や考えについ
て,その根拠が的確に伝わるよう,わかりやすく表現させるような授業を作らなければい
けないと考える。
1.2.2 コンピュータを用いる教育ゲーム
文化的なゲームとは異なり、高度情報通信社会の現代において、コンピュータを用いた
教育ゲームも開発されている。例えば,ベネッセコーポレーションでは,
『Global Math』 と
いう算数・数学教育ゲームのプラットホームをつくり、様々なクリエイターが作ったそれ
らのゲームを無料でプレイしたり、自分で作ったゲームを登録して公開したりできるよう
になっている。そこでは,計算や方程式の解法といった技能面の強化を意図したゲームで
はなく、きまりを見つける力、どんな順番で解けばいいかを考える力など、数学的に考え
る力を身につけるゲームを求めている。そのようなコンピュータを用いた教育ゲームの例
をいくつか挙げる。
14
①ロジモン3(ロジモン制作委員会)
(図 1.2-12)
概要:ロジモンが自動的に進む先に火・草・水タイプの敵が次々と襲ってくる
ロジモンは石によって【火】・
《草》
・〔水〕タイプになれる
タイプには強さがあり、
【火】>《草》 《草》>〔水〕 〔水〕>【火】 の
関係である。
・ロジモンが【火】で敵が《草》のようにロジモンのタイプの方が強い場合
→通り過ぎる際に相手を倒すことができ、倒した《草》タイプの石をGET
・ロジモンが【火】で敵が【火】のようにタイプが敵と同じ場合
→通り過ぎても何も起こらない(スルー)
・ロジモンが【火】で敵が〔水〕のように、敵のタイプの方が強い場合
→通り過ぎる際にダメージを受けてしまう
ゲームがスタートする前に、お題が出されその指令をクリアしなくてはいけない
→ただ単に全ての敵に勝てばいいというわけではない。
<例1>
お題:
「火の石を1つ持っている状態でゴールする」
始めに持っている石:
【火】1つ、〔水〕1つ
敵の並び方: S→【火】→《草》→〔水〕→《草》→G
このとき最後の《草》の敵の所で《草》の敵を倒すために【火】の石を使っ
てしまうと、火の石の数が 0 個になってしまい、クリアの条件を満たない。
よって 1 つ前の水の敵を倒すために《草》になったら、最後の《草》の敵も
《草》状態のまま通り過ぎ、スルーしなければいけない。
敵がこの程度の数ならば簡単に考えられる。しかし次のように複雑になると、論
理的に整理し考えながらやらなくてはいけない。
<例2>
お題:
「水の石を3つ以上持っている状態でゴールする」
始めに持っている石:
【火】1つ、
〔水〕2つ
敵の並び方:S→〔水〕→【火】→《草》→〔水〕→【火】→〔水〕→《草》
→〔水〕→【火】→《草》→〔水〕→G
このとき全てを倒しても水の石を3つもった状態でゴールできないし、変に
スル―しても石が足りなくダメージを受けたりしてしまう。ここでは、水の石を
3つ集めるためにはどうすればいいのか考える必要がある。水の石を手に入れ
るためには、
《草》の石を手に入れ、
〔水〕の敵を 3 体は倒さなくてはいけない。
3
・Global Math(ロジモン制作委員会) ,「ロジモン」http://beat.dev.supinf.info/
15
ここで〔水〕の敵の前に《草》の敵がいる個所は□で囲った 3 か所ある。つま
りここで〔水〕石を手に入れることができれば、他の箇所の水の石は無理にと
る必要がないわけである。また、最初に水が2つあるため、
【火】の石を手に入
れるために【火】の敵を倒すのは 2 回までである。さらに 1 番最初の〔水〕で
は、《草》の石を持っていないため〔水〕の石を使ってスル―するしかない。以
上のことを考えると以下のような表にまとめることができる。
敵
水
自 水
火
水
草
火
水
草
火
水
水
水
草
火
水
草
火
火
草
火
水
草
草
火 1
1
1
2
1
1
1
1
1
2
2
2
1
1
1
1
0
0
0
0
0
0
0
水 1
1
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
1
1
1
2
2
2
2
2
2
3
3
草 0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
1
0
0
0
このような表を使えば、1つのゴールへと導くことはできる。しかし次から次へと敵が
迫ってくるので、考える時間が限られている。そのような中でここまでの思考ができるの
か疑問に思うところである。
じっくり考えることができるならば、思考錯誤しながら、必要になる部分をもとに論理
を組み立てていけるので論理的思考力はつくと考えられる。
<図 1.2-12:ロジモン ゲーム画面>
②先読み探偵4(先読み探偵団工科大支局)
概要:規則的に進む怪盗を、怪盗が進んだ場所の色の並びから判断する。
(図 1.2-13)
実際規則的に進むというものが、縦にまっすぐ1マスずつ進むか、斜めにまっす
ぐ 1 マスずつ進むかのどちらかであり、各辺に行きついたあとも前者は来た道を
折り返し、後者は入射と反射の関係の要領で曲がって、進んでいく。そのため、
4
・Global Math(先読み探偵団工科大支局) ,「先読み探偵」http://beat.dev.supinf.info/
16
怪盗が進んできた道の色の並びになっている所を見つけられるかどうかの問題で
ある。
例えば、図 1.2-13 のようなステージの場合、図 1.2-14 のように版上で最も少な
い色である灰色に注目して、茶色→灰色→緑色の順に並んでいるところを探すと
①~④の 4 通りに絞ることができる。
しかしこれだけではどこに怪盗がいるのかはわからない。図 1.2-15 で示した通
り、次の行き先を見ると青色のマスである。すると①と④のルートはマスが緑色
になっているため候補から外れる。
すると考えられるのは①と③の 2 通りである。
怪盗は規則的に進むので、進み方は赤い矢印で示したように進む。
②と③のルートのどちらかを選択すれば、もし外れたとしてもその時点でルー
トを 1 通りに定めることができ、次のチャレンジではクリアすることができる。
<図 1.2-13:先読み探偵 ゲーム画面>
<図 1.2-14:先読み探偵 ゲーム攻略図①>
<図 1.2-15:先読み探偵 ゲーム攻略図②>
このように版上の少ない色の周りから当てはまるルートを探していくことによりモレが
なくルートの候補を見つけることができる。このゲームを攻略していく上で場合分けの考
え方を使っているようにも受け取れるが、実際はルートの候補を見つけられるか見つけら
れないかがゲームにおいて重要であり、それほど場合分けの考えを使っているわけでもな
い。場合の数を考えるときにモレがなく考えるためにはどうすればいいかを考える力を養
うこともできるが、中々伝わりにくい。また、算数・数学の教育ゲームとしてはどの領域
17
の力がつくのかも伝わりにくくなってしまっている。
③ますまふ(Benesse.co.jp)
概要:図 1.2-16 のようなボードの中に、自分の持っているコマを計算した時に3の倍
数になるように入れていく。図 1.2-16 では、真ん中の縦の列の下から 2 番目に
7をいれると、縦の列では
4+4-1-7+9=9
1-7=-6
となり、横の列では
3-7-2=-6
となり、3つの3の倍数が完成する。このようにして短い時間の中で計算し、
何をどこにいれれば、おおくの3の倍数を作ることができるか考えていく。
実際に試行すると1回に考える制限時間があまりに短いという印象を受けた。プレイ
していくに連れて、このゲームを論理的に考えていくためには、数の種類を3の倍数の
数、3で割ると余り1の数、3で割ると余り2の数で分類し、それぞれ余りの数だけを
用いて3の倍数かの判断をしていく方法が考えられる。数を余りによって場合分けして
く考え方は算数・数学の中でもしばしば行われることであり、それによって倍数という
集合を捉えていくことは算数・数学の力がつくことは間違いないと著者は考える。しか
し、先程も述べた通り、制限時間があまりにも短いためそのような思考をゲームプレイ
中にしていくことは不可能と思われる。
<図 1.2-16:ますまふ ゲーム画面>
18
④Nine Break5 (図 1.2-17)
概要:4×4と6×6のバージョンがある。
4×4・・・コマは①~④まで
(裏は足して5になる数)
それぞれ2枚ずつ
6×6・・・コマは①~④まで
(裏は足して7になる数)
<図 1.2-17:Nine Break ゲーム画面>
それぞれ3枚ずつ
・コマの置き方はオセロと一緒である。
・挟むコマの数の合計が挟まれるコマの数の合計よりも大きければ挟まれた
コマをひっくり返すことができる。(※ひっくり返せなくても置くことはで
きる)
ただし、挟まれるコマの合計が10以上の場合、その1の位をコマの合計
とする。
・ゲーム開始時は先攻が2枚選んでおいてから、後攻が2枚選んで置く。
・最終的にコマの多いほうの勝ち(同じ枚数のときのみ表示されている数字
の合計が多いほうの勝ち
実際にやってみると、オセロ同様に、不確定な未来に備えるために場合分けをして考
えていくゲームである。しかし、挟まれる数字が挟まれる数字より大きいとひっくり返
せないので、その点で予想することが難しくなっている。また、表と裏の数字が違って
いたり、それぞれの数字のコマの枚数が決まっていたりと、条件が多く考えにくい。特
に6×6では、
「挟まれるコマの合計が10以上の場合、その1の位をコマの合計とする。
」
というルールをどう使っていくのか考えながらやらなくてはいけないことも難しくさせ
る原因の1つである。このルールがないと何枚か大きな数が重なったところはどんなこ
とをしてもひっくり返すことができなくなってしまうため、必然的に必要なルールであ
るが、先を予想するのが困難になることは間違いないと考えられる。
1.3 算数・数学科におけるゲームの教育的価値と課題
ゲームを通して算数・数学の力がつくようになれば、ゲームの持つ楽しさによって算数
や数学が苦手な子でも意欲的に学ぶことができる。しかし、ただ単に「楽しい」だけで終
わってしまうと教育的に価値がなくなってしまう。教育ゲームは何かしらの力がつくよう
なゲームでなくてはいけないと著者は考える。
そこで、現存する様々な教育ゲームや文化的なゲームの共通事項に注目すると、ある根
5
ナインブレイク協会(2012),「Nine Break ASSOCIATION」http://ninebreak.jp/
19
拠に基づいて結果を出したりや試行をしていったりするといった論理的思考をする場面が
多いことに気付いた。ゲーム通して、自然と論理的思考をさせ、論理的に物事を考える力
がつくようにすることが教育現場でゲームを扱う教育的価値の1つだと考える。
また算数・数学科で扱う場合、ゲームの内容によっては、特定の分野・単元を想定し、
ゲームを通してその内容を理解し、算数・数学特有の力を身につけることができることも
算数・数学科における教育的価値の1つである。
しかし、既存のゲームでは楽しさ重視になってしまい、あまり身につく力のないものが
多い。例えば、先読み探偵は怪盗を見つけていくという設定は楽しめるが何の力をつけて
いるのか伝わりにくい部分があったり、ますまふでは時間制限を設けてハラハラとさせる
ところやステージ画面などは楽しい雰囲気となっているが、その分考える時間が少なく適
当になってしまう部分があったりする。
また、逆に算数・数学の内容や論理的思考を意識しすぎるあまり、楽しさのないゲーム
になってしまっているものも多い。例えば、ナインブレイクなどは複雑な場合分けや数の
計算も含まれていて、本当にルールを理解した人ならば楽しさを見出せるかもしれないが、
そのルールを理解することが難しく、教育現場では扱いにくくなってしまっている部分が
ある。
「楽しさ」と「身につく力」の両方がバランスよく取れているゲームを試行することを
通して算数・数学の内容を理解していくことに教育的価値を見出すことができると著者は
考える。
20
第2章
算数・数学科における教育ゲームで身につけさせたい力
2.1 論理的思考
1 章で述べたように既存のゲームの多くに論理的に考えていく要素が含まれている。著者
はこの論理的思考が教育ゲームに必要な1つの要素ではないかと考え、ゲームを通して論
理的思考力を身につけさせたいと考えた。
そこで、まず、「論理的思考」に関する先行研究にあたることにする。
2.1.1
『論理的思考のための数学教室』における論理的思考
小田(2011)は日常に活かせる「論理的思考」を身につけていく過程を次のように定め
ている。
本来、学問や研究をやる上で「論理」のいらない分野はない。そのような学問や研究を
成果は多くの人を説得し納得してもらう必要がある。そのためには説得力の持った「論理」
という道具が必要である。つまり「論理」とは解釈を一意に定めるための道具である。そ
れを適切に使えば誰がどうやっても同じ結論に辿り着くように作られている。(p.6)
<図 2.1-1 (p.8 より)>
日常で必要な論理的思考
数学で必要な論理的思考
①論理のルールを
②論理を組み立てる力
理解する
を身につける
④日常への応用力を
身につける
③思考錯誤する力
も必要
図 2.1-1 の「①論理のルール理解」の場面では、論理を使ってできることは、
「正しいか
どうか判断する」ということだけであるため、ルールを理解していなくても直感で使える
ものだと勘違いしている人がいる。しかし、論理は道具であり、きちんと理解し、どうい
うものが論理的に正しくないのか、判断できるようにしなければいけない。
①~④までが、論理的思考の基礎であり、数学に必要な力である。しかし、現在多くの
「論理的思考」の本が世間に出まわっているが、それらの内容は「日常への応用力」の部
分ばかりが強調されている。論理的な思考ができていない人の多くは①~③が身について
いないため、そのような人たちには基礎的な部分の論理的思考のトレーニングが必要であ
る。
21
現在の学校では、
「論理のルール」について言えば、中学の最初に証明問題を扱い、高校
の最初に「論理」や「集合」の基礎には触れるが、
「論理」重要性の認識は、“言われたら思
いだす”程度のものである。
現状で論理の得意な人の多くは、算数・数学以外の場面で、すでに論理のルールを身に
つけている人であり、算数・数学全体からなんとなく論理のにおいをかぎ取り、もともと
もっている論理的思考力を鍛えていくことができる。しかしその他の多くの場合において
は、論理のルールがわからないせいで、そもそも算数・数学ができない、ということにな
る。
(pp.9-13)
小田(2011)の述べたとおり、算数・数学科の中で扱う論理は、論理的に考えるとはどうい
ったことかを身につけさせるものではなく、論理的な考え方を使って問題に向き合ってい
くというものがほとんどである。学校教育の算数・数学の中で論理の仕組みを学ぶことは
少ないであろう。しかし、算数・数学ができない児童・生徒にとってその仕組みから理解
できるような、自然と身につくような教材が必要であると著者も感じる。つまりゲームを
通して身につけさせたい論理的思考力は試行錯誤しながら自然と論理の仕組みが理解でき
るような力でなくてはならない。
ではその論理的思考とはどのような考え方なのか小田(2011)は以下のように述べている。
数学において学んでいく論理の基本的な軸は以下の 2 点にある。
1.つながりが正しいかどうか
つながりが間違っているとすれば主に2つのパターンがある。1 つが根拠と結論が食い違
っている場合である。こちらは簡単に気付けることが多くそれほど問題ではない。2 つ目が
根拠に過不足がある場合である。こちらは一見気付かずに見過ごしてしまう場合が多い。
根拠が不足している場合間違った結論を導いてしまう危険もある。それをさけるためには
根拠が不足していないか毎回確かめる必要がある。
また図 2.1-2 のように論理構造が何段になる場合は同じようなチェックをそれぞれのつ
ながりに対して行う必要がある。
根拠1
全て確認
根拠3
全て確認
根拠2
根拠4
<図 2.1-2 (p.30 より)>
根拠5
2.論理構造を構成している要素が適切かどうか
22
結論
論理のつながりが問題なくても結論が正しくないということがある。つながりのただし
さは、あくまで「根拠がすべて正しければ、結論も正しい」ということしか保証しない。
そのため、論理を構成している1つ1つが正しいかチェックしていかなければならない。
(pp.26-33)
図 2.1-2 のように根拠 1 と 2 から根拠 3 へのつながりや根拠 3,4,5 からの結論へのつなが
りが正しいかどうかなどが正しくないと論理的思考とは言えずただの推測となってしまう。
また根拠 3 を述べる条件が根拠 1,2 だけでは導かれない場合もただの推測となってしまう。
1と2を両方満たしているからこそ論理的思考と言え、この 2 つを考えることは中学校の
数学では合同や相似の証明で特に顕著になされているところである。
算数・数学の教育ゲームにおいてもこのような推測だけでは、クリアできないような要
素を入れることにより図 2.1-2 のような論理的思考ができるようにする必要がある。
次にゲーム内でよく行われる場合分けについて小田(2011)は以下のように場合分けする
意義を 3 つに分けている。
[1]集合の要素を正確に数えるための工夫
集合の要素を考えるときにもっとも重要なことは「正確に数えること」であるが、
「効率
よく数えること」もその次に重要である。場合の数を数えていくとき、一番やってはいけ
ないのは、「目に付いたものから数える」というやりかたである。
論理の苦手な人がやりがちな方法であるが、それをやってしまうと、かなりの高い確率
で数え間違うことになる。
(実際に小学生にやらせてみても、見つけた順に数え、すべて数
え上げられる子はほとんどいない。
)集合の要素を正確に数えるための工夫として数学の中
で用いられる例としては次のようなものがある。
例題:1から 100 までの数字を順に書いていくとき、“5”の数字は何回書くことになるか?
解答例
この場合は図 2.2-3 のように5という数字が出てくる“位”によって場合分けをする。
U
1 の位に 10 回、10 の位に 10 回でてくる。
【A】
【B】
( n(A)=10 , n(B)=10 )
1の位に5が 10 の位に5が
よって 10+10=20
出てくる場合 でてくる場合
全部で 20 回出てくることになる。
<図 2.1-3>
5.15.25…
50.51.52…
[2]全体集合の特徴を調べたいときに利用できること
その集合に属している要素が共通して持つ特徴を調べようとした時、全体集合が大きく
なればなるほど、特徴をつかむことは難しくなる。全体集合の特徴をつかむことが難しい
とき、それをいくつかの部分集合のなかでの特徴を調べることで、全てに共通する特徴を
見つけることができる。その例として次のようなものが挙げられる。
23
例題:2 以上の自然数nに対し、nとn2+2がともに素数になるのはn=3のときだけ
であることを示せ。
解答例
図 2.1-4 のようにnを3で割った余りによって場合分けをする。
nが3の場合
nが3で割り切れる数の場合
nが3以外の場合
nは3の倍数
nと
n2+2は3の倍数
nが3で割ると1余る数の場合
n2+2
がともに
n2+2は3の倍数
nが3で割ると1余る数の場合
素数で
あること
<図 2.1-4>
はない
この例では自然数全体の特徴を考えるときに3で割ったときの余りを考えて3つに場合
分けをしてそれぞれで成り立つ共通事項から自然数全体としての特徴をとらえようとして
いる。
[3]不確定な未来に備えるとき
何が起こるか分からない時でも、事前に場合分けをしておいて、こうなった場合にはこう
する、ああなった場合はこう、と決めておくことで、物事はスムーズに進む。そのような例
に次のようなものがある。
例題:8枚の硬貨があります。8枚のうち7枚は同じ重さですが、残りの1枚は偽物で、
他の7枚より重くなっています。天秤を2回だけ使って、偽物を特定するにはどうすればい
いでしょう。
解答例
つりあう
<図 2.1-5>
左右のお皿に 3 個ずつのせる
右に下がる
左に下がる
図 2.2-6 のように考えることができる。しかしどちらか一方が下がるということは、下が
った側にのせた3つの金貨の中に偽物があるということである。つまり、右に下がろうと左
に下がろうと偽物の金貨のありかが 3 枚に絞り込めるという点では変わりがない。つまり
その2つは「かたむく」という同じ場合として考えることができる。そのように考えると図
2.2-8 のようになり 2 回の測定で偽物を判別できることがわかる。
24
つりあう
残り 2 枚を左右に
下がった方が
2 枚ずつのせる
偽物
左右のお皿に
3 個ずつのせる
下がった方にのっ
かたむく
ていた 3 枚のうち
のせなかった
つりあう
金貨が偽物
2 枚を選び左右に 1
<図 2.1-6>
枚ずつのせる
かたむく
下がった方が
偽物
このように場合分けをしていく問題をみていくと、以下の 3 点が重要であることがわか
る。
(ⅰ)場合分けを考えていくときは(樹形)図を使う
(ⅱ)実際に場合分けをするときは、モレなくダブりなく場合分けをする
モレがある
ダブりがある
(ⅲ)場合分けは変数がポイントである
場合分けをするときは、場合分けの「変数」を的確にとらえることが重要である。
要するに、何を基準に場合分けするのかをしっかり考える必要がある。
変数は数しか扱えないわけではなく、数値以外のものも変数にすることができる。
例えば図 2.1-6 の金貨の問題では「かたむく」
「つりあう」という天秤の状態を変数と
して扱っていた。もっと日常的な例では、
「男性」
「女性」や「日本人」「外国人」など
も、性別や国籍を変数にした場合分けである。
(pp.99-110)
多くの既存ゲームの中で利用する場合分けは、1.3 章で述べたように論理的思考を必要と
しており、意義の[3]で述べているような、
「不確定な未来に備えるため」がほとんどであ
る。この場合分けを考える上で、変数を的確にとらえて設定すること、モレがあるかどう
かの確認することなどが鍵となっている。このような事情からも教育ゲームでは論理的思
考力をみにつける必要がある。
小田は主に「①論理のルール」と、
「②論理を組み立てる」ことをメインに、その方法
及び例が示していた。この本で示しているように、論理的思考力を身に付けさせようと
25
するときに、どのように考えていけば論理的に考えることができるのか、論理のルール
をしっかりと始めに教えてしまってから、
「論理を組み立てる」練習や、
「日常への応用」
を考えていくことにより、
「算数・数学ができない」という人は少なくなるだろうと考え
られる。
小田が「論理の得意な人の多くは、算数・数学以外の場面で、すでに「論理のルール」
を身につけている人である」とこの本の中で述べている。この算数・数学以外の場面と
いうものが、子どもの生活の中では、ゲームや遊びではないかと著者は考える。よって
著者は、ゲームを通じて、その論理のルールを考えさせる機会を与えることができるよ
うなゲームを教育に取り入れていく必要があると感じた。
2.1.2
国立教育政策研究所の論理的思考に関する調査(2013)
国立教育政策研究所では日本の高校生の論理的思考力の育成状況を把握、分析するため
に平成 24 年に高等学校及び中等教育学校後期課程の第 2 学年を対象とした調査を行った。
この調査では上記の目的のため、論理的思考に必要とされる活動として次の6つを設定し
た。
①規則,定義,条件等を理解し適用する。
資料から読み取ることのできる規則や定義を理解し、それを具体的に適用する。
②必要な情報を抽出し、分析する。
多くの資料や条件から推論に必要な情報を抽出し、それに基づいて分析する。
③趣旨や主張を把握し、評価する。
資料は、全体としてどのような内容を述べているのかを的確に捉え、それについて評
価する。
④事象の関係性について洞察する。
資料に提示されている事象が、論理的にどのように関係があるのかを見極める。
⑤仮説を立てて、検証する。
前提となる資料から仮説を立て、他の資料などを用いて仮説を検証する。
⑥議論や論証の構造を判断する。
議論や競争の論点・争点について、前提となる暗黙の了解や根拠、また、推論の構造
などを明らかにするとともに、その適否を判断する。
この6つの活動が含まれる調査問題を行ったところ、平均通過率6で最も高かったのは「④
事象の関係性について洞察する」ことで 67.9%であった。逆に最も低かったのは「②必要
な情報を抽出し、分析する」ことで 30.3%であった。
④と②の活動がどのような調査問題によって検証されたのか例をあげる。
6
「通過率」…調査実施生徒数に対して正答又は準正答であった生徒の割合
26
・もっとも平均通過率の高い④の活動の例
大問1「三段論法」に関する問題
(1)次のア、イの空欄をそれぞれ埋めて、三段論法による推論を完成させなさい。
ア 金属は電気を通す。
水銀は〔
〕
。
ゆえに、水銀は電気を通す。
イ このスポーツ施設を利用できるのは〔
〕
。
山田さんはこのスポーツ施設の利用登録をしていない
ゆえに、山田さんはこのスポーツ施設を利用できない。
(2) 次の推論は正しくない。なぜ、正しくないと言えるのか、その理由を答えなさい。
3 の倍数を 2 つ加えて得られる数は 3 の倍数である。
a と b はいずれも 3 の倍数ではない。
ゆえに、a と b はを加えて得られる数は 3 の倍数ではない。
・もっとも平均通過率の低い②の活動の例
大問2「カレンダーの曜日」に関する問題
次の分を読み後の問いに答えなさい。
27
私たちが実生活を送る上で、必要なカレンダー。そこに曜日が 7 つ並んでいる理由をご存じだろう
か。実はここに、夜空を眺め、宇宙を考えた、古代の人々の宇宙観が反映されている。
夜空を眺めていると、お互いの位置関係を変えることはない星座を形作る構成に対して、その位置
を毎日のように変えていく星があった。動き回る、惑う星、つまり惑星である。水星、金星、火星、
木星、土星の5つである。惑星(planet)の語源をさかのぼれば、もともとギリシャ語の「planetes:さ
まようもの」に由来している。
これら肉眼で見る限り、大きさが分からない惑星に対し、夜と昼を支配する太陽と月がある。月は
東洋では太陰とも呼ばれているが、西洋では月も太陽も惑星と分類されていた。いずれにしろ太陽と
月と5つの惑星を加え、この7つの惑星が特別視された。
暦が考えられた古代、この7つの天体が、いわば聖なる惑星であり、空間も時間も、7 つの天体に
支配されていると信じていた。動く天体は、全部で7つなので、地上のサイクルも 1 週間 7 日間とな
った。
曜日の順番にも古代の人たちの宇宙観が反映されている。天動説では、宇宙の中心は地球で、その
周りを月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星の順に回っていた。すなわち、天球上を動く速度が
速い順に、月、水、金、日、火、木、土と並んでいると考えたのである。ただ、この順番がそのまま
曜日の順番になったわけではない。
この順番に、まずは時刻を支配する天体を決めた。週の第 1 日目の第1時には、もっとも遠くの惑
星を当てはめた。すなわち、週の第1日目の第1時が土星、第2時が木星、第3時が火星と第24時
まで支配する星を当てはめていく。すると第1日目は火星で終わる。第2日目の第1時は次の太陽か
ら始まり、木星で終わる。第3日目の第1時は月で始まり、第4日目の第2時は火で始まる。こうや
って1週間にわたって、各時刻を決めていったのが、その各日の最初の時刻を取り出し、それぞれの
日を支配する星が決められた。すなわち、第1日目が土星で始まり、第2日目以降、太陽、月、火星、
水星、木星、金星の順となる。これが、現在の曜日の順番、土、日、月、火、水、木、金の起源であ
る。
(「科学技術の智」プロジェクト『宇宙・地球・環境科学専門部会報告書』から)
問1
古代の人たちが曜日を考える上でもっていた宇宙観は次のア~オのどれか。正しいも
のには○を、正しくないものには×を付けなさい。
ア
恒星に対して5つの惑星がある。
イ
特別視している7つの惑星がある。
ウ
地球も7つの動く惑星の1つである。
エ
宇宙の中心は地球である。
オ
恒星である太陽は例外的な星である。
問2
古代の時刻の決め方では、1週間の第5日目の第4時を支配するのは天体になるか、
答えなさい。
28
大問1のように事象が与えられていてそれが正しく繋がるためにはどうすればよいか考
えることは通過率が高かったようである。これは論理的思考を用いているのは確かである
が論理的に考える骨組みがすでに与えられている状態であり、次の条件へ進む条件の数も
1つだけ考えればいい状態であるからである。
大問2は算数、数学というよりは国語に近い問題ではあるが問われていることは論理的
に考えなくてはいけない。しかも論理的なつながりのゴールだけ見えていてどのように繋
がりを考えていくのかや、起点となることはどこなのかを自分で多くの情報の中から抽出
して考えなくてはいけない。
ここから分かることとして、子どもたちは論理的なつながりがすでに与えられている状
態で論理的思考をすることはできるが、自ら目的のために論理的につながりをつくってい
くことやそれに必要な情報を適切に抽出していくことは苦手であるということである。
つまり、自ら図 2.1-2 のような論理のつながりを作っていけるようなゲームが必要とされ
ている。
2.1.3 本研究における「論理的思考」
2.1.1 及び 2.1.2 の先行研究をあたり、本研究では身につけさせたい論理的思考として以
下の点に焦点を当てて「論理的思考」とする。
・根拠をもとにして結果を導いていく思考
・ある結果を導くためにそこから逆算して考え、事象と事象のつながりの正しさおよび
図 2.1-2 のような、論理のつながりの骨組みを考える思考。
・骨組みをつくる要素を自ら多くの情報の中から抽出して、それが妥当であるか判断し
ようとする思考。
・モレなく重複なく場合分けをして不確定な先の事象を考察し仮説を立てて検証するこ
と。
この「論理的思考」が身につくようなゲームを考えていく。
2.2 空間的思考
論理的思考については,2.1.2 の国立教育政策研究所の問題の大問2のように算数・数学
でなくても、国語でも身につけることは可能である。では、算数・数学において教育ゲー
ムを行う意義は何かあるのか。著者は算数・数学の教育ゲームに、「数と計算」
「量と測定」
「図形」
「数量関係」のいずれかの領域の内容が含まれていないといけないと感じた。また、
教育ゲームだからこそ、それらの内容を学びやすくしたり、理解の助けになったりしなく
てはいけないと考えた。そこで、著者は空間的思考に注目した。空間図形は 3 次元のもの
であるが、教科書やノートは 2 次元であるため、見取り図を描くにもある程度どのような
29
図形か把握できていないと描けないだろう。また透明でない立方体なら、1つの視点から
は多くて 3 面しか見えず、
残りの 3 面がどのようになっているか把握しにくい部分がある。
著者は、コンピュータを使用したゲームを利用することにより、そのような立体図形の形
の把握や、空間的思考を身につけさせたいと考えた。
そこで、次に「空間的思考」における先行研究に当たるとする。
2.2.1 「数学教育における空間的思考の水準に関する研究」における空間的思考
影山(2004)は空間的思考を以下のように概念規定している。
「数学教育では、空間能力や空間思考は空間概念ないし空間観念を育成するという学習目
標と関連して述べられていたり、
「思考力」そのものを中心にして述べられていたりする。
以上のことから本研究では、課題解決においては様々な能力が相互に関わり合ったり、交
互に現れたりすることに着目し、
「課題を視覚的方略によって解決するときに関与する能力
で、空間関係の認識、視覚化などの様々な下位能力を総称するものであり、これらが統合
されて機能する能力」として空間能力をとらえることにした。
課題解決において働く空間的思考には、
「対象をどのように見るか」という知覚・認知的
な側面と、「対象をどのように捉えるか」という理解・思考的な側面とがある。この知覚・
認知的に関わる側面を「空間能力」として位置づけ、理解・思考に関わる側面を「幾何的
思考」と呼ぶことにした。
」(p.27)
空間的思考 = 空間能力
+
(認知的側面)
幾何的思考
(幾何的側面)
空間における関係の認識、
視覚化などの様々な下位能力
の総称もしくは統合
・図形・空間の学習内容と関連する
数学的な考え方
・高次の幾何的概念の認識
また影山は空間的思考を以下の3つの観点から検討している。
・「心的モデル構成・操作」という思考観に基づく空間的思考
・空間的思考の二側面-1次的認知様式と2次的認知様式-
・空間的思考を構成する3つの思考活動-イメージ活動及び視覚化、表現、空間的推論
1点目の心的モデルとは「頭の中の道具」である。これがどのように構成され変容して
いくかについては、対象(モノ)をどのように協応・統合させ、空間的構造化するかとい
う認識論的問題とともに、一面的・多面的・統合的という概念理解の3つの方法が関わっ
ている。
2点目は、空間能力には図 2.2-1 のように対象の認識と対象の操作の2面性がある。
30
空間的思考の概念規定における二側面
空間能力
幾何的思考
1次的認知様式(対象を認識する)
図形的情報の解釈
幾何的対象や概念の認識
2次的認知様式(対象を操作する)
視覚的処理
幾何的操作や変換
<図 2.2-1:空間的思考の二側面>
3点目では、幾何的活動は「イメージ活動および視覚化」
「表現」
「空間的推論」の3つ
の思考活動から捉えられることを示した。空間的思考はこれらの思考活動が相互に関わり
合ったり、一連の流れを形成したりすることで機能する。(pp.27-28)
さらに影山は、図 2.2-2 のような「知覚(Cognition)」
「分析(Analysis)」
「インフォーマル
な推論(Informal reasoning)」
「フォーマルな推論(Formal reasoning)」の4つの段階的な思
考水準を設定し、たとえ低い思考水準でも相応の思考活動が認められるという考えのもと
で、思考水準と思考活動の特徴を表している。
また上で挙げた3つの思考活動の間にはどの思考水準であっても3つの思考活動が同時
に存在する「同時性」がある。
影山は実際に記述式質問紙調査を行い、小中学生の空間的思考の実態を明らかにした。
その結果を影山は以下のようにまとめた。
・ 思考水準間の移行や到達には3つの時期が考えられる。それは、
「知覚」主体であり、
徐々に「分析」へと移行とする時期(第1期:小学校第3学年から第5学年)、
「知覚」
から「分析」へと移行する時期(第2期:小学校第6学年および中学校第1学年)
、
そして「分析」主体から徐々に「インフォーマルな推論」へと移行する時期(第3期:
中学校第2学年以上)である。
・ 全体的に「表現」がもっとも易しく、特に下位水準においては「空間的推論」も同程
度に易しいと言える。また「分析」以上の思考水準ではイメージ活動および視覚化が
もっとも困難であるが、インフォーマルな推論」に到達すると、全ての思考に対応で
きるようになることが期待される。
・ 「知覚」から「分析」への移行においては、「表現」と「空間的推論」はほぼ同時に
可能になるものの、イメージ活動および視覚化は必ずしも到達できるわけではない。
「分析」から「インフォーマルな推論」への移行においては「表現」が最初に可能に
なり、「イメージ活動及び視覚化」と「空間的推論」がほぼ同時に可能になるが、特
に「イメージ活動及び視覚化」は必ずしも到達できるわけではない。
「インフォーマルな推論」から「フォーマルな推論」への移行においては、「イメー
ジ活動及び視覚化」と「空間的推論」がほ同時に可能になり、これまでの移行の中で、
「イメージ活動および視覚化」をする力がより要求される。
(p.30)
31
<図 2.2-2 思考活動及び思考水準>(p.29 より)
フォー
図形概念としての心的モデ
任意の様式による図表現
自然言語と数学的言語
「理論的推論」
マルな
ル
「投影図」による対象の作図
を用いた対象の記述
演繹的方法による推論の
推論
[統合的モデルの構成]
任意の図表現からの対象の
・数学的言語を表現の
展開
認識
ための唯一の媒体とす
・様々な数学的手法を用
る
いて推論を展開する
・
「思考上の」作図を行う
思
インフ
一貫した心的モデルの構成
対象の性質に着目した図表
自然言語と数学的言語
「自然推論」
ォーマ
[多面的モデルの構成]
現(展開図・投影図中心)
を用いた対象の記述
構成要素間の関係を意識
ルな推
・合成単位の協応、統合
論
・平行、垂直性、対称性など
任意の表現からの対象認識
定義や命題の解釈
多段階の視覚的操作によ
の諸性質を意識したイメー
る推論
ジの想起
考
いくつかの視点から心的モ
対象の性質に着目した図表
自然言語と数学的言語
「図形構成」
デルの構成
現(見取り図中心)
を用いた対象の記述
構成要素・合成単位への
・数学的用語の用い方
着目
[多面的モデルの構成]
水
分析
・構成要素からなる合成単位
図表現(展開図・投影図中心) は正しくない
を作りだす
からの対象の認識
一段階の視覚的操作によ
・想起したり、イメージを変
準
る推論
形したりすることによって
モデルを構成する
知覚
ある1つの視点から心的モ
ある1つの視点から具体物
自然言語と日常的な言
全体の特徴に基づく一段
デルを構成
の描写
葉による具体物の表現
階の推論
[一面的モデルの構成]
・図としての正しさはない
・言葉の使用は自らの
・
「~のように見える」
「~
図表現(見取り図中心)から
完成や具体物の機能に
のようだ」的な推論を行
対象の認識
基づくものである
う
イメージ活動および視覚化
描写的
言語的
空間的推論
表現
思考活動
2.2.2 本研究における「空間的思考」
2.2.1 章の影山は「知覚」→「分析」→「インフォーマルな推論」→「フォーマルな推論」
の4つの思考水準とそれぞれの水準で見られる「イメージ思考および視覚化」
「表現」
「空
間的推論」の様子をもとに空間的思考を捉えていた。また記述式質問紙調査によって思考
水準間の移行や到達には第1期から第3期まで学年に応じて段階的に発達していくことを
32
明らかにした。
2.2.1 章の内容をふまえて、本研究では小学生を対象に考え、身につけさせたい空間的思
考として以下の思考を「空間的思考」とする。
・一面的モデルからと多面的モデルを構成しようとすること。一方向だけでなく多方向
からの視点をもつ思考。
・対象を正しく認識し、その対象を操作する思考。
・
「知覚」から「分析」への水準が移行するときの思考。
この「空間的思考」が身につくようなゲームを考えていく。
33
第3章
算数教育ゲーム『ろじきゅー~LOGIQ~』の開発
3.1 本研究で開発するゲームの要件
ここで、本研究で開発するゲームの要件をまとめておく。
(1)論理のルールを理解し、
「論理的思考」の力を身につけるために行うゲーム
「論理的思考」を身につける1番の要件として根拠をふまえて、適切なつながりによっ
て結論を導く過程が含まれている必要がある。この過程が論理的思考の原則でありルール
であると著者は考える。図 3.1-1 のような考え方をしていく過程がゲームにふくまれている
ことが要件の1つである。
「論理的思考」が身についている人が出来るゲームではなく、ゲ
ームを通して「論理的思考」が身についていくようなゲームにしていく必要がある
図 3.1-1 だと、根拠1、2から根拠3がわかり、別の根拠4,5と組み合わせて考えるこ
とにより、結論へ達する流れを段階的に考えることができることが必要である。
この図 3.1-1 のように、結論側から自然と考えていくことができるように、段階を踏んで
「論理的思考」が身につける環境があることあることも必要な要件である。
<図 3.1-1>
どうすれば根拠3が言えるか → 根拠1、2が必要
根拠1
根拠3
→×
→ 根拠3~5が必要
根拠2
根拠4
どうすれば結論が言えるか
→○
結論
根拠5
→○
また、場合分けの際に漏れや、重複がないことを確認し不明確な先のことを予想し
ていかないといけない過程が含まれていることも必要な要素である。
(2)「空間的思考」を身につけるゲーム
「空間的思考」を高めていく上で、対象を認識し、その対象を何らかの操作をすること
がセットで存在することが要件の1つである。また、
「知覚」から「分析」の移行において、
イメージ活動およびに視覚化は他の思考活動に比べ困難な面をもっている。そこでコンピ
ュータのよさを活かして、1方向からの視点だけでなく多方向からの視点で空間図形を認
識できるようなゲームにしていく必要がある。思考水準を高度なものにするときの手助け
となり「空間的思考」を身につけやすくすることもゲームに必要な要件である。
(3)楽しさのあるゲーム
「論理的思考」や「空間的思考」を身につけさせようとすると、どうしても高度な内容
34
になってしまいがちである。しかしあくまで対象とするプレイヤーは子ども(主に小学生)
である。
「できない」=「つまらない」=「やりたくない」等式ができてしまいがちである。
楽しまずに「論理的思考」や「空間的思考」を身につけていっても、算数・数学の教育ゲ
ームとしては不十分である。楽しさを感じさせるためにも、操作をより簡単なものにし、
段階を追って難易度を上げていくような配慮が必要である。
3.2 ゲーム開発の実際
3.1 に挙げた教育ゲームの要素をもとに実際にゲームを開発する。この開発では、Global
Math のサイトに載せるゲームを作ること前提として、ベネッセコーポレーションの協力の
もと、ペラ企画7を含めたゲームの構想を練り、ベネッセコーポレーションの方とともに企
画をまとめていく。そして,同社の支援のもと,ソフトウェア製作会社((株)人響社)にプ
ログラミングを委託し実際にコンピュータゲーム化してく。
ゲーム開発の流れとしては以下のようにして進めた。
複数枚のペラ企画→ゲームの選定→ゲームの仕様書8を作る→ゲームの細かいルールを
ベネッセコーポレーションの方とともに詰めていく→人響社の方々にプログラミングを委
託→試作版の完成→仮完成(α版)
・デバッグ9→完成(β版)→Global Math への登録
(ⅰ)複数枚のペラ企画・ゲームの選定
ここでは、ゲームのアイディアを思いつく限り紙にゲームの様子がわかるようにまとめ
ていく。その中から論理的思考及び空間的思考に加え、ゲームを想定した時の楽しさや、
操作のしやすさをもとにゲームを選定していく。
(ⅱ)ゲームの仕様書を作る・ゲームの細かいルールをベネッセコーポレーションの方と
ともに詰めていく
まず、論理的思考、空間的思考がつくように決定したゲームの各レベルのステージを設
定していく。
(実際に設定したステージについては 3.3.2 章で述べる。)プログラミングの都
合上ステージかクリアとなる全条件も解答として考える必要がある。
この段階では、当初ステージは始めから展開図をいくつも使うステージを考えていたが、
論理のルールを身に付けられるように、展開図1つでクリアできるステージから段階的に
難易度をあげていき、自然と論理的思考が身につくようなステージを設定した。
その後、ゲーム中の画面の遷移や具体的なゲームの図面およびヒント画面の設定などを
考えていく。
7
8
9
「ペラ企画」…絵を用いて紙1枚でどんなゲームかを表すもっとも初期段階の企画案。
「仕様書」…画面構成、操作方法、全体の流れなど、ゲームの詳細に関する企画書
「デバッグ」…試作版の調整が終了し、仮完成したゲームのバグ(プログラムのミス)を
チェックする作業
35
ゲームの図面ではデザインの段階で橋に対して立方体の見える角度でどの角度が 1 番戦
術を立てやすい上に、立方体として立体図形をとらえやすいのかなどを試行錯誤していっ
た。立方体の展開する様子でもどのような色を使うのか、展開していく速さをどうするの
かなど空間的思考ができるような工夫を試行錯誤しながら検討した。
細かいルール設定としては、立方体の進み方やクリアの条件を明確にしていった。ゲー
ムは発案者 1 人でルールを考えようとするとどうしてもルールに漏れがある。ベネッセコ
ーポレーションの方のご指導を受けながらルールを明確化した。
(ⅲ)人響社の方々にプログラミングを委託・試作版の完成
今回の研究では仕様書をもとに人響社の方々がゲーム化して下さった。プログラミング
をしていく中で生じた不明点は随時ベネッセコーポレーションを通じて発案者のもとへ落
し込まれ、ベネッセコーポレーションの方とともにゲームのねらいに合うように訂正して
いった。試作版ができあがると、実際にプレイしてみておかしな点や、やりにくい点など
を挙げ、さらに改善していく。
(ⅳ)α版の完成・デバッグ・β版の完成・Global Math への登録
試作版を何回か繰り返し、ある程度ゲームとして成り立ってきたらα版として仮完成の
状態になる。ここでおしまいではなくこの後もプレイしていくなかで出てくるバグを修正
していく。ここでは Global Math への登録も見据えて、ゲームの中のどのような結果や、
操作過程を評価していくかを考え、ゲームをしたことによって送られるデータの種類など
を決めていく。そして、そのような修正を加えていき完成となったものがβ版となる。
以上の流れのもとにゲームの開発を行った。
3.3 開発したゲームの概要と特長
3.3.1
ゲーム『ろじきゅー~LOGIQ~』の概要
『ろじきゅー~LOGIQ~』とは論理的思考を意味する logic と立方体を意味する cube を
掛け合わせて作ったタイトルである。ゲームの内容としては川を渡るために障害物をよけ
ながら、立方体を展開していくゲームである。基本的な操作は基点が選択した先へ移動し
ながら展開する「Roll(転がる)
」と基点は動かないが選択した先へ1面分だけ開く「Open
(開く)
」の2種類あり、この2つを駆使することにより、立方体の全ての展開図を表現す
ることができる。また展開図が2つ以上必要な場合は、選択した方向に立方体を置く「Put
(置く)」の操作もあり、この3つの操作で川岸から川岸まで展開図の橋をつなげていく。
展開図として可能な形、不可能な形があるため、障害物をよけていくためにどのように展
開図を置いていけばいいのか考えたり、意図した形にするためには Roll の操作にするのか、
Open の操作にするのか考えたりして論理的に状況を判断し、アニメーションによって立体
の展開していく様子が理解できるようにしたゲームとなっている。
36
算数の教育ゲームの開発なので、小学生でも楽しくできるゲームを開発した。平成 20 年
改訂の小学校学習指導要領では立方体を扱うのは第4学年であり、立体図形の展開図を扱
うのは第5学年となっているが、その学年に満たない児童でもこのゲームを通して立体を
展開していく様子などが理解できるようになっている。
また、身につけさせたい力として 2 章に挙げた「論理的思考」については、各ステージ
設定においてステージごとに段階的に「論理的思考」がつくように設定した。このことに
ついては 3.3.2 章にて各ステージ述べることにする。
「空間的思考」についてはゲーム全体を通して身につくようにした。立方体が転がって
いくアニメーションによって、それまで見えていなかった面が見えるようになり、1方面
からの視点しかなかったプレイヤーにも立方体を実際に動かす様子をイメージできるよう
にした。また、立方体に透明感のある色にして奥の面が見えるような配慮もして、なるべ
く一面的モデル構成から多面的モデル構成への手助けになるようになっている。
さらに、ゲームをクリアしていくためには Roll や Open によって展開していく過程にあ
る立方体でどの面が残っているのか正しく認識し、意図した方向へ正しい操作をしていく
必要がある。それは徐々にどのような展開図が立方体の展開図として存在するパターンな
のかといった思考へ繋がっていくと考えられる。レベルが 20 に近づくにつれて、思考錯誤
しなくても、頭の中でそのイメージできる展開図を当てはめながらゴールへの道順を考え
たり、ゴールから逆算して考えたりする思考への発展も期待できる。
<図 3.3-1 タイトル画面>
3.3.2
<図 3.3-2 ゲーム画面>
各レベルの設定と論理的思考
「空間的思考」については 3.3.1 章内で述べたので、ここでは身につけさせたい力の「論理
的思考」について述べていく。また、「論理的思考」については段階的に身につけていくた
めに各ステージで身につけさせたい「論理的思考」を設定している。そのため、各レベル
の設定の説明とともに述べていく。
37
Lv.
画面
内容
Roll のみで進めるチュートリアル10のステージで
ある。
進み方は渦巻きによって明確に示されており、操
1
作は誘導がついており、渦巻きの上に展開したら
どうなるのかということや、最後の1面は Open
でも Roll でも良いことが確認出来るようになっ
ている。立方体を展開していくとどのように変化
していくのかを認識できるステージである。
始めに下に進むステージ。今後のステージで、始
めに右に進まなくてもよいことに気付かせるね
らいがある。また、Roll しか使わないが最後は向
2
こう岸につくだけではなく、G マークにつかなく
てはいけないことに気付かせるステージとなっ
ている。
G マークに達して全て展開していればクリアに
なることを理解させるためのステージ。そのため
渦の配置は Lv.2 のステージと同じにしてある。
3
始めて途中で Open を使うステージとなってい
る。やみくもにまっすぐ進めててもクリアできな
いことに気付かせ、先を見通してから進めないと
4
いけないことを意識させるねらいがある。
10「チュートリアル」…ゲームの遊び方やボタンの操作の仕方をプレイしていく中で身につ
けるためのステージ
38
途中で Open を使いあらかじめ開いておく必要の
あるステージ。意識させたいこととしてはレベル
4 と同じである。
5
立方体を 3 回動かした後に残っている面の位置関
係から、その次の操作の場合分けして考えられる
ようになっている。ただし、どちらの形を選んで
6
も、最後の G マークへの調節さえ考えればクリア
出来るステージである。
初めて2つの立方体を使用するステージ。つまり
Put ボタンを初めて使用する。そのため1つ目が
展開し終わると誘導的にボタンを導いてくれる
ようになっている。
Put の操作はチュートリアルステージのため難し
さはないが、1つ目の展開図はいきなり 2 方向に
7
開かないとクリアできないステージになってい
るため、あらかじめ展開できるとしたらどのよう
にしなければいけないのか考えなくてはいけな
い。レベル 4,5 とこのレベル 7 を通して、中段に
4 つの正方形が並ぶときは反対方向に 1 つずつ正
方形がないといけないことを段々し始めること
をねらいとしている。
1つ目の立方体の展開の仕方はいくつかあり、一
見進めるルートとしても 2 つあるように思える。
しかし右上の広いスペースの方へでていくとど
うやっても G へたどり着けない。さらに最短ルー
8
トで移行として右に 2 回 Roll をしてその後下にい
ってしまうと展開出来るのが右方向だけになっ
てしまい間違いだと気付く。
このようにこのステージでは、思考錯誤を繰り返
しながら場合分けをしていき、ダメだったら場合
39
分けをしたところへ戻ることをしていくことが
と予想されるステージである。思考錯誤を通して
論理的な骨組みを自然と考えていくことをねら
いとする。
展開図同士のつながりが今までは 1 辺だけであっ
たが、このステージでは 2 辺以上が重なる。その
ためどの形の展開図が当てはまるのかがイメー
9
ジしにくい。逆算して考えどのように置けばいい
か考えてから操作しなくてはいけない。
また、このあたりから段々展開図の形やその規則
性に気付きているとクリアへ導きやすいことを
実感させることをねらいとしている。
途中で Open できるところがありしなくてはいけ
ないが、やみくもに Open してしまうとできなく
なってしまう。G から逆算して考え、どこマスで
1 つ目の展開図が終わらなくてはいけないのか考
えなくてはいけない。G から考えることをしてこ
10
なかったプレイヤーも G からのたどって考える
ようになることが予想される。このレベル 10 が
できるようになると中段に4つの正方形が並ぶ
ような展開図は4つの並んだものの反対側に1
つずつあるように展開できるということが確実
なものとなることをねらいとする。
Lv.10 とほぼ同じような考え方をする。レベル 10
で確認した経験や気付いた規則性を活用できる
ようにしたステージである。
11
また、2 つ目の展開図にあてはまるものが何通り
かある。そのためどの展開図があてはまるか判断
しにくく、場合分けをしながら進めていく必要が
ある。
40
1 つ目の立方体の置き方は 1 通りしかなく操作も
大変容易だが、2 つ目の立方体を Put できる箇所
が上・右下の 3 か所あり、実際にゴールまで辿り
12
着くことができるのは 1 か所しかない。ゆえに置
く位置によって場合分けをして考える必要があ
る。しかし場合分けの変数を考えることは簡単で
あり、後はその場合分けから G までの行き方があ
るかどうかを探すことが必要となってくる。
3つの立体を使う。川幅が増えて大変そうに見え
るが、展開図は 1 通り(1 つ目の展開図の置き方
は 2 通り考えられるが、どちらでも 2 つ目の置き
13
方は同じとなる)に限られているため、立方体数
は増えたものの、そこまで難しくはない。
行く道が 2 手に分かれている。しかし、レベル 10
で身についた正方形が横に 4 つならぶ展開図の規
則性や逆算して考える必要性から G の方から考
14
察すると、S から右に進んでいくルートでは展開
して行けないことに気付くことができる。
そこでもう1つの方のルートに絞って考えてい
くと 2 つ目の展開図で迷うが、3 つ目の展開図の
置き方がたくさんあるように見えて 1 通りしかな
いためそこから逆算して考えていく。
ルートが 2 手に分かれている。しかし右方向に進
んでいくルートは進めていくと閉じてしまって
いることがわかる。閉じているという情報を見ぬ
く力や閉じているから右方向に進めていくルー
トは考えないといった本拠をもとに推論してい
15
く力を身につけさせたい。
また、下方向に進むルートも Open 場所を判断す
ることが難しくなっている。いままで何回か自然
と使ってきた G から逆算して考える思考や、徐々
に気付いてきた展開図の規則性および、形の特徴
をもとに考えことをねらいとしている。
41
ルートが 2 手に分かれており、どちらでもクリア
出来るようになっている。
下方向のルートは置くことができる展開図は 1 通
りしかなく、渦巻きによってどのような展開図を
使用するのか分かりやすくなっているため容易
にクリアできると考えられる。ただし、使う立方
体の数は多くなっている。
右方向に進むルートはクリアするためには辺と
16
辺との重なりが多くなるようにつなげていかな
くてはいけない。そのため適当に進めているとな
いので最後の G マーク付近で面の数が合わない
ことに気付く。先まで見通しを持って考えられて
いることがクリアの条件となる。このあたりで展
開図をの規則性からどのような形が展開図とし
て考えられるのか考えていかないとクリアは難
しいので、そのような規則性を見つけていこうと
する意識を持たせたい。
ルートが 2 手に分かれている。どちらでもクリア
できるようになっている。上方向のルートは使う
立方体数は少ないが、最後 Open で終わったり、
やみくもに Open をしていくと展開できなかった
りと G から逆算しながら Open を上手く使わなく
17
てはいけない。下方向のルートは 1 通りの置き方
しかない状態で進めていくので簡単ではあるが
使う立方体数が多くなる。どちらにせよ渦巻きが
多いため展開図の形の規則性などが分かればそ
こまで難しい思考はしないステージである。
レベル 17 のステージの渦巻きを少なくしたバー
ジョン。渦巻きが少ない分どのように敷き詰めて
いくのか判断しにくいが、置き方のパターンは
Lv.17 と全く一緒のようにすればクリア出来る状
18
態なっている。一見ステージに見え渦巻きが少な
く逆算して考えたときに場合分けの数も多くな
るが、1 つ前で同じものをやっているため、場合
分けから正しいルートを導き出しやすいように
してある。
42
川幅が増えて逆算して考えることが難しくなっ
ている。しかも展開図の重なりが 2 辺以上のもの
も多く、逆算して考えることも難しくなってい
る。ただ、ルートは2つに分かれていないため、
いままで身につけた G から考えていく思考を使
えば答えは導き出せるものとなっている。また G
19
から考えることが難しくても、ある特定の置き方
でないと置けない箇所が1か所ある。その条件を
根拠として、G に進む方向の展開図の置き方や S
までの戻り方を考え、全体として論理のつながり
を作っていくことに気付けるかどうかもならい
の1つである。
ルートが 2 手に分かれている。下のルートは繋が
っているように見えるが、途中置ける展開図がな
く進めない。置ける展開図がないこともイメージ
しにくくなっている。しかし、下方向の展開の仕
方はそこまで多くはなく、下方向をすこし考えて
いけば進めないことが分かる。ここでもう一方の
正しい上方向のルートを考えていくのだが、図形
の置き方がうまく Open をつかわなくてはいけな
かったり、最後 Roll で終わるのでなく、Open で
20
終わって基点を動かさないようにしたりしなが
ら進めなくてはいけないため難しくなっている。
今までは G から逆算するといった考え方であっ
たが、レベル 19 と同様に途中ある特定の展開図
の置き方しかできない箇所がある。そこから論理
のつながりを考えていく思考も期待する思考で
ある。
このようにレベル 20 はそれまでのレベルで身
につけたことが発揮できるようなステージに設
定した。
43
3.3.3
その他の画面について
各レベルのゲーム画面は 3.3.2 に示した通りであるが、ゲームを進めていく上で「論理的思
考」や「空間的思考」をする手助けをするために「HELP 画面」(図 3.3-3,4,5)と「HINT
画面」(図 3.3-6,7)を設けた。
<図 3.3-3 HELP 画面(1/3) >
<図 3.3-4 HELP 画面(2/3) >
<図 3.3-5 HELP 画面(3/3) >
「HELP 画面」では、主に方向決定の矢印と[Roll]、[Open]、[Put]の3つボタンの操作
についてのイラストによる説明を載せた。操作の根本である3つのボタンの使い方が分か
っていないと、自由に立方体を操れなくなり、
「論理的思考」をする前段階としてつまずい
てしまったり、「空間的思考」をして一面的モデルから多面的モデルを認識できても、対象
を操作できなくなったりしてしまう。そのような身につけさせたい力の2つの思考の邪魔
にならないような配慮をした。
またこの図 3.3-3,4,5 の「HELP 画面」内の立方体は、それを見る視点がゲームのプレイ
44
画面よりも低い位置になっている。ゲーム画面は視点が高い位置に設定し展開図をどのよ
うにつなげていくのかを考えやすいようにした。つまりは「論理的思考」がしやすい状態
である。その分「HELP 画面」は立方体を見る視点を低くして、奥行きやどこの面が展開
していて、どこの面が展開していないかなど、展開している立方体の特徴を認識しやすい
ようにした。つまり「空間的思考」をしやすい状態にしてある。
<図 3.3-6 HINT 画面(全展開図) >
<図 3.3-7 HINT 画面(レベル 19) >
次に、
「HINT 画面」についてである。
どんなゲームであれ、ゲームをプレイしていくときに難しくて全く手がつけられないと、
プレイヤーは早い段階で「飽き」を感じてしまう。ある程度の難易度は必要であるが、そ
れが個人によっては「難しすぎる」から「つまらない」という状況を引き起こしてしまう。
ゲームの利点の1つに「楽しさ」が含まれているということがある。勉強は嫌いでもゲー
ムは好きという子どもはこの点が大きいことは明らかである。つまり「難しい」→「つま
らない」の構造になるようなゲームにしてしまったら、1.3 章でも挙げたように教育として
扱うゲームとして不十分である。
そこで、
「ろじきゅー~LOGIQ~」では各レベルのゲーム画面のなかに「HINT」を設けた。
HINT 画面ではすべてのレベルの「HINT」で図 3.3-6 の立方体の展開図全 11 種類を掲載
した。これは逆算などをして論理的に当てはめていくときの補助となるであろう。また立
方体の展開図の規則性に気づいたり、その規則性の確証を得たりするときにも役立つであ
ろう。
さらに、立方体を 2 つ以上使うレベル 7 以降の「HINT 画面」には図 3.3-6 の全展開図の
HINT に加え、クリアするために必要な立方体数に応じて、図 3.3-7 のように途中までの正
しい展開図のつなぎかたの例を示した。これは「論理的思考」をして G から逆算して考え
る上で考える幅を短くし、考えやすくした配慮である。ルートが2手に分かれている場合
など、そこでの場合分けの負担をなくし、より考えやすいようにしている。
45
<図 3.3-8:クリア後橋を渡る様子 >
<図 3.3-9: 橋を当たった後のセレクト画面>
<図 3.3-10:REVIEW 画面 >
<図 3.3-11 :Level Cleared 画面 >
ゲームをクリアすると、図 3.3-8 のように立方体の展開図が木の橋のようなイラストに変
わりキャラクターが橋を渡っていく。これはゲームの目的が「立方体の展開図をつなげて
橋を作り向こう岸まで渡ることである」ということを意識させるためである。
その後、図 3.3-9 のようなセレクト画面が出てきて[Play Back]をクリックすると図 3.3-10
のような「REVIEW 画面」になる。この画面ではプレイヤーが展開していった様子を見る
ことができる。この画面により、どうしてクリアできたのか、どう考えて展開していった
のを振り返ることによって「論理的思考」や「空間的思考」がそれぞれ力として確かなも
のへとなっていく。また、先程も述べたように、ゲーム画面では立方体を見る視点が高い
位置にあるため、プレイ中はどうしても「論理的思考」に偏りがちになる。この「REVIEW
画面」で展開していく様子を振り返ることにより、どのように立方体を認識して操作して
いったのかに気付くことができ、また、展開していく中で奥だった面が手前に来たり、下
にあった面が上に来たりする様子から多面的視点をもって立方体を見ることができるよう
になると考え、「REVIE 画面」を設定した。
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また、
図 3.3-9 の画面で[Next]をクリックすると図 3.3-11 のような
「Level Cleared 画面」
になる。ここでは、スタートからゴールまでの様子を評価する。立方体マークは使用した
立方体の数を表している。クリアするとレベルごとに難易度従って決められた[CREAR
POINT]がもらえる。1番上の立方体のマークは使用した立方体の数を示している。クリア
に必要な必要最低限数との差が減点となる。渦巻きマークは渦巻きに当たってしまった数
を示しておりその回数に伴い減点となる。この2つを減点とした理由としては、「論理的思
考」や「空間的思考」を駆使しクリアできていないためそのようなミスが起こるからであ
る。頭の中で展開図や立方体が展開していく様子がイメージできたならミスなくクリア出
来るはずであり、たとえミスをしてクリアできたとしても、より高い点数にするためにミ
スをより少なくする工夫をしてほしいという願いから点数化した。
また、じっくりと考えてもらいたいためこのゲームで制限時間は設けていないが、それ
らの思考をより短時間でできるように、クリア時間によって[BONUS POINT]を設けた。
これらの得点化の設定は全て、
「論理的思考」や「空間的思考」をより高度なものへ高め
ていくためである。
3.3.4
ゲーム『ろじきゅー~LOGIQ~』の特長
まずは、3.1 で考えた要件について『ろじきゅー~LOGIQ~』では当てはまっているの
かを満たしているかを考察していく。
(1)論理のルールを理解し、
「論理的思考」の力が身につく
この項目に関しては逆算して考えるという点で立方体1つでは、目的の形にするために
前もって OPEN の操作において行い、立方体数が 2 つ以上のステージでは行うことであり
ゲームのレベルに応じたステージの設定の段階で自然とこの考え方ができるような配慮を
している。例えば Lv.7 では 2 つの展開図をつなげなくてはいけないが、先に右に進んでし
まうと展開しきれなくなってしまう。この場合すぐ気がつくことができるよう Lv.7 では展
開図の置き方は 1 通りしかなく、その置き方も渦によって分かりやすいようにしてある。
またその次の Lv.8 のステージでは 1 つ目の展開図の置き方は何通りかあり、渦巻きも少な
いためイメージしにくい部分がある。しかし 2 つ目の展開図の置き方はゴールするために
は 1 通りしか考えられない。これらのように段階的に自然と逆算して感がる事ができるた
めの配慮はしてある。
また、場合分けの際に漏れや、重複がないことを確認する過程も含まれている
この考え方は、Lv.14~18,20 のようなルートが 2 手に分かれている場合の場合分けだけ
でなく、図 3.3-1 のようにどの展開図を当てはめていくのか逆算していくなかで必ず出てく
る考え方である。
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スタートに繋がるかどうか
→②ならつながる
②
→○
③
→×
展開図①
展開図②
→×
どの展開図が置けるのか
→ 展開図②③ならおける
→○
ゴール
展開図③ →○
<図 3.3-1>
またゲームをしていくに連れて立方体の展開図 11 通りをパターン化して覚えるようにな
っていく。漏れがなく重複も無いように 11 種類の展開図を考えるときに場合分けの考え方
を用いる。展開図を正方形の並びから上段・中段・下段の 3 段存在するとして、中段に正
方形がいくつあるかによって場合分けをする。
図 3.3-2 の①~⑥、⑮のように中段が 4 つのグループと、⑦~⑩のように中段が 3 つのグ
ループと、⑪~⑬のように中段が 2 つ並んだグループと、⑭のように中段が1つのグルー
プの計4つのグループに分けて考えられる。
(立方体の展開図の正方形の数は本来 6 面であ
るので中段が5つの場合と6つの場合も考えなくてはいけないが立方体の展開図にならな
いことは明らかであるので今回は省くことにする。
)
中段が 4 つのグループからをみていくと大きく分けて(上段,下段)=(1,1),(2,0)
の2つのグループに分けられる。(重複を無くすため、対称性から考え、上段≧下段のみを
考える)すると①~⑥のような(上段,下段)=(1,1)のときは常に展開図として成り立
つが、⑮のような(2,0)のときは展開図として成り立たない。また(上段,下段)=(1,
1)のパターンを細かく見ていくと重複なく数えるためには、その対称性から①~④のよ
うに上段が 1 番端に正方形があるものと⑤~⑥のように端にないもののと、2 パターンの場
合分けをしなくてはいけない。
中段が 3 つのグループをみていくと⑦~⑨のように(上段,下段)=(2,1)と⑩のよう
に(上段,下段)=(3,0)の2つのグループに分けられる。そしてそのどちらも展開図と
して成り立つことが分かる。
中段が 2 つのグループは⑪のように(上段,下段)=(2,2)と⑫~⑬のように(上段,
下段)=(3,1)の2つのグループに分けられるが(上段,下段)=(3,1)の方は立方体
の展開図として成り立たない。ゆえに中段が2つの場合は(上段,下段)=(2,2)となる
⑪の 1 通りしか考えられない。
中段が 1 つのグループは(上段,下段)=(3,2)のパターンが考えられるがこの場合立
方体の展開図として成り立たない
以上の場合分けの考え方をまとめると図 3.3-3 のようなロジックツリーで考えることが
できる。
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<図 3.3-2>
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
<図 3.3-3>
(上,下)=(1,1)
中段4つ
⑮
上段が端にある
○
上段が端にない
○
(上,下)=(2,0)
×
(上,下)=(2,1)
○
(上,下)=(3,0)
○
(上,下)=(2,2)
○
(上,下)=(3,1)
×
(上,下)=(3,2)
×
中段3つ
中段2つ
中段 1 つ
このように『ろじきゅー~LOGIQ~』は「論理的思考」の要素を含んでいる。
(2)「空間的思考」を身につけることができる
このゲームは論理的思考だけでなく、空間的思考の面からもゲームを考えており、展開
図を考えていくときに、単に書きだしていったり、立方体の箱を切っていったりするより
も、ゲームを通して考え、ゲームをクリアする頃には全ての展開図について考えることが
できる方が楽しさもあり、学習性もあるのではないかと考える。また学校現場では立体が
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展開していく様子を表していくことはなかなかしにくいことであるが、コンピュータのア
ニメーションであれば伝わりやすくもなる。それは、学習の際にノートや教科書に書いて
ある1方向からの視点で立体を見ていくよりも、自らの意思でアニメーションによって動
いていく様子から多面的に立体を見ることができるからである。また、ゲーム内でもステ
ージクリアした後に REVIEW 画面(図 3.3-10)として展開していく様子を振り返ることがで
きるようになっている。
また、
(1)にも述べたが、展開図の全パターンを捉えていくとき、その特徴をゲームを
通して正しく認識する必要がある。さらに、全種類を場合分けして考えていくにはそれら
の形を分析していく発展が必要である。展開図を扱うのは小学校第 5 学年であるが、それ
以前にこのゲームに親しんでいれば、第 5 学年時に行う展開図の授業の理解度も変わって
くるであろう。
50
終
章
4.1
研究のまとめと今後の課題
研究のまとめ
本研究ではまず,算数・数学科におけるゲームの教育的価値と課題を「数学活用」の内
容や既存のゲームから明確にした。ゲームをすることを通して、自然と論理的思考をさせ、
論理的に物事を考える力がつくようにすることと、特定の分野・単元を想定し、その内容
を理解し、算数・数学特有の力を身につけることができることの2つの学習面での必要性
があり、ゲームは、その楽しさを通してそれらを身につけることができるものであるとし
た。しかし現状として既存のゲームでは楽しさか学習性のどちらかに偏っていることが多
いことが課題であった。
次に,教育ゲームを通して身に付けさせたい力として論理的思考と空間的思考に着目し
た。なぜなら,「論理的思考」については、既存の教育ゲームのほとんどで使用されていた
思考だからである。ゲームを通して身につけやすい力だと考えた。「空間的思考」について
は、コンピュータを使用する利点としてアニメーションを使用し、立体図形を動かすこと
ができるという点に注目した。学校現場では、教科書・ノート・黒板と2次元のものに立
体図形を描くことが多いため、一方向の視点しかみることができないので、立体図形の把
握がしにくい。そこで、コンピュータのゲームを通して、空間的思考の手助けになるので
はないかと考えたので、「空間的思考」に着目した。
そして,論理的思考と空間的思考を身に付けさせる教育ゲームの要件として,大きく分
けて以下の 3 点を挙げ,これに基づくゲーム『ろじきゅー~LOGIQ~』をベネッセコーポレ
ーションの支援のもとで開発した。
(1)論理のルールを理解し、
「論理的思考」の力を身につけることができる
(2)「空間的思考」を身につけることができる
(3)楽しさを感じ取とることができる
このように教育的立場からゲームを企画する視点と楽しいゲームを作る視点との両者が
手を取り合って協力しながら教育ゲームを作っていく必要があると感じた。そうすればこ
の先、算数・数学教育の授業で使われるようなゲームが数多く出てくるのではないだろう
かと考える。そしてそのようなゲームが多く出てくれば算数の楽しさを実感できる子ども
たちも今よりも増えていくだろうと著者は考える。
4.2
今後の課題
今後の課題としては、身につけさせたい力に即して『ろじきゅー~LOGIQ~』をよりよい
ものへ改善していく必要がある。現段階として挙がっている問題点は以下の点である。
・ 方向を決めてから Roll、Open、Put の 3 つのボタンを駆使して立方体を動かしてい
51
くため操作回数が多く、操作自体が難しくなってしまった。
・ [Roll]と[Open]の違いが分かりにくく、チュートリアルのステージでも伝わりにくく
なってしまった。
・ そもそも何をしていくゲームなのかがノンバーバル11なので伝わりにくくなってしま
った。
・ 中には空いている面すべてに敷き詰めていくゲームかと勘違いしてしまう試験者も
いた。
・ REVIEW 画面を作ったが、試験者の意識としては早く次のレベルにいきたいと思う
気持ちの方が強く REVIEW 画面全く見ずに進めてしまう試験者がほとんどであった。
そのため、アニメーションをじっくり見て「空間的思考」をする場面がすくなくなっ
てしまった。
以上の点で難しく感じてしまう試験者が多かった。大学生ですら難しく感じてしまうの
で、小学生がプレイしたときはもっと難しいと感じてしまうであろう。その原因を考察し
ていくと、論理的思考に注目しすぎて様々な面で場合分けを設定してしまったことが原因
と考えられる。例えば Put するときに Put する位置も 1 通りでなく場合分け出来る点から、
Put するところを選択できるようにした。論理的思考を突き詰めていくのであればその方が
良いと著者は考えたが、難しさの視点からいくと小学生を対象とするのには少し難しすぎ
てしまった面があると考える。
また、教育的価値をもたせて作ったゲームであるので、実際に小学生や中学生の子ども
にプレイしてもらい、どのような思考をしているのか調査する必要があると感じた。また
その調査にあたって、どのような操作ができていればどんな力が身について言えるのかな
どの評価を考えていくことも今後の課題である。
「ノンバーバル」…言語にたよらない非言語コミュニケーション。Global Math では世
界各国のプレイヤーがサイトと通して遊ぶことから、ノンバーバルなゲーム開発をしてい
る。
11
52
引用・参考文献
・ 国立教育政策研究所(2011),「IEA 国際数学・理科教育動向調査の 2011 年調査
(TIMSS2011)国際比較結果の概要・問題例」
http://www.nier.go.jp/timss/2011/index.html
pp.20-26
・ 文部科学省(2009),『高等学校学習指導要領解説 数学編 数理編』pp.4-5,pp.59-65
・ 根上生也他(2012),『数学活用』啓林館 pp.44-50, pp.82-85, pp.114-117
・ クラウディア・ザスラフスキー(2004),『親子で遊んで学力がのびる!世界の算数
ゲーム』ワニブックス pp.10-27 , pp.54-57 , pp.68-71
・ 小田敏弘(2011),『論理的思考のための数学教室』日本実業出版社
pp.6-33 , pp.98-111 , pp.116-117
・ 国立教育政策研究所(2013),「「特定の課題に関する調査(論理的な思考)調査結果報
告書」について」
http://www.nier.go.jp/03_laboratory/pdf/2013032701023.pdf
pp.9-23
・ 影山和也(2004),「数学教育における空間的思考の水準に関する研究」
『日本数学教育
会誌』第 86 巻 pp.25-34
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謝辞
本論文は,筆者が東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程数学選修在学中に数学科
教育研究室において行なった研究をまとめたものです。
本研究の遂行,また本論文の作成にあたり,終始適切な助言を賜り,丁寧に指導してい
ただき、さらにはゲーム開発の機会まで賜りました西村圭一准教授に深く感謝いたします。
また、ゲーム作成にあたり、支援してくださった株式会社ベネッセコーポレーション教
育事業部デジタル戦略推進部の木谷紀子様、星千枝様、伊藤あきたか様を始めとする同社
の皆様、並びに実際にプログラミングや各種画面・キャラクターのデザインをしていただ
いた株式会社人響社の坂口ひろみ様、逸見則之代表取締役を始めとする同社の皆様に厚く
御礼を申し上げます。
さらには、できあがったゲームを試していただいた著者の多くの知人・友人の皆様に対
してもこの場で感謝申し上げます。
最後になりましたが、さまざまな面で支え、ともに議論しあった西村圭一研究室の皆様,
論文執筆・ゲーム開発にあたり協力してくださった多くの方々に感謝申し上げます。あり
がとうございました。
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