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第 1 回 小言を言わず

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第 1 回 小言を
小言を言わず、
わず、できるだけやさしく接
できるだけやさしく接する
奈良・おかたに病院
医師
田中茂樹
私は、不登校や引きこもり、摂食障害やリストカットなどの子どもの問題について、
その親の相談にのる仕事を、病院での診察や大学の心理臨床センターでおこなってき
ました。
また、共働きの家内と一緒に四人の男の子を育てる父でもあります。この連載では、
私自身の経験から得た「子どもを信じる」という子育ての具体的な方法を提案してい
きます。
【例】中学三年生の男の子。毎朝家を出るのが遅く、学校まで歩いて五分ほどなのに、
しょっちゅう遅刻している。
担任と親、男の子が同席する三者面談で、担任の先生は苦笑いしながら「私は彼の
顔を見るたびに、“早く来い、早く来い”と言っています。お父さんからも、もう少
し早く家を出るように言ってもらえると良いのですが」と言った。
父親は一瞬、謝ろうかと思った。しかし、効果がないのに同じことを言い続けてい
る担任の接し方にも少し違和感を覚えた。同時に「家でも同じことを言うようにすす
めるのはおかしいのではないか?」とも感じた。
そこで父親は「遅刻することがよくないのは彼も分かっていると思います。あくま
でも不利益を受けるのは彼自身です。どうすべきかについては彼が自分で決めたら良
いと私は考えています」と言った。
すると「担任としては放置するわけにはいきません。彼だけを特別扱いするわけに
もいきませんし」と困ったように話したので、父親は、ふとひらめいて、こう言って
しまった。
「ならば、いっそのこと“彼は不登校なのだ”と考えていただけませんか。
いつ不登校になってもおかしくない状態だけれど、なんとか力を振り絞って、少し遅
刻しながら毎朝通ってきているのだと。もしも不登校の生徒ががんばって登校してき
ているのだとすれば、先生は“早く来い”と注意し続けたりしないはずです。そのほ
うが、先生も子どもも、楽になりませんか?」
担任からは、なにも返答はなかった。父親は自分自身の発した言葉の意外さに自分
でも驚いていた。この三者面談後、担任の「早く来い」攻撃はなくなった。男の子は
父親に「父さんが訳の分からないことを先生に言ってくれたおかげで、もう“ハヨコ
イ”って言われなくなったよ。ありがとう」と、お礼を言った。
実は、この【例】に出てくる父親は私、男の子は私の長男です。担任の先生は生徒
からも信頼されている良い先生でした。だからこそ私も正直な思いを話せたのだと思
います。
このときのやりとりは、自分自身が長男のことを信じることができたという点で、
そして「毎日学校に通えている子どもにだって不登校の子どもと同じように接して良
いのだ」というアイデアをつかむことができたという点で、私にとって非常に貴重な
体験となりました。
子どもを信
どもを信じて、
じて、やさしく接
やさしく接する
このできごとの以前から私は、お子さんの不登校で相談に来られているお母さんや
お父さんに対して、「お子さんに対して指示や命令の言葉はできるだけ使わないよう
にしてください。お子さんを信じて、できるだけやさしく接するのが良いですよ」と
お伝えしていました。
しかし私自身、自分の子どもに対して、いつもそのように接することができていた
わけではありませんでした。この三者面談の直後から、私は自分の子どもへの接し方
を意識するようになりました。彼らは不登校ではなかったのですが、不登校の子ども
に対するように接したのです。
すると大きな変化が現れました。親子の関係、兄弟どうしの関係、そして家の中の
雰囲気はずっと明るく楽しくなりました。「子どもにやさしく接する」のは、不登校
の子どもに限ることはなく、不登校になる前からやさしく接して良かったのです。長
男はいま高校生ですが、楽しく充実した時間を送っています。なにより私たち家族は
長男との生活が楽しいと感じています。振り返れば、あの面談のときが分かれ道だっ
たなと感じます。
本当の
本当の幸せのためには
不登校やリストカットなど、子どもが必死のSOSを発してはじめて、親や周囲の
大人は子どもが苦しんでいることに気がつきます。そして彼らの元気を回復しようと
やさしく接するようになります。
しかし、そうであれば、はじめからやさしく接すれば良いのです。ここでいう「良
い」とは、子どもが親の言うことをよく聞くようになるとか、勉強が好きになるとか、
不登校の子が学校に通い始めるなどの「親が望むような結果が得られる」ことではあ
りません。子ども自身が「幸せになるためにはどうするのが良いのか」という課題に
自分でしっかりと向き合えるようになる、ということです。
私は日々、診察や面接の場面で、たくさんの親と会います。そして、私や私の妻が
毎日悩んでいるのとまったく同じように、どの親も「子どもが幸せになるために何を
どうしたら良いのか」を真剣に考えている姿に胸を打たれます。
しかし「子どもの幸せのために」と親が努力している、まさにそのことが、実は子
どもも親自身も、不幸せにしているというケースに出会います。
では、どうすればよいのか。私がこれまでの経験からたどりついた考えは、「子ど
もに起こる問題はさまざまでも、親のとるべき態度や方法はほとんどの場合同じであ
る」ということです。それは「子どもを信じる」こと。より具体的に言えば「子ども
に小言を言わず、やさしく接する」ことです。
本当にそれで大丈夫なのか?
小言を言ったり、厳しく注意をしたり、親が導いて
やったりしなければ、子どもはどんどんダメな方に進んでしまうのではないか等々、
不安に思われるかもしれません。次回からは、そんな不安にこたえていきたいと思い
ます。
著者紹介
田中茂樹(たなか・しげき)文学博士。医師・臨床心理士として地域医療、カウンセ
リングに従事している。近著『子どもを信じること』(2011年、大隅書店)。
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