(報 告書 ) 嗜 好 品 カー ト の流 通 ― サ ナ アと 地 方都 市 の比 較 ― 助成 研究 者 大坪 玲子 ((東 京大 学) 文化 人 類学 ) 1. 研究 目的 カ ー ト は 紅 海 を 挟 ん だ 東 ア フ リ カ と ア ラ ビ ア 半 島 で 主 に 栽 培 さ れ 、 そ の 新 鮮 な 若葉 を 噛 む と 軽 い 覚 醒 作 用 を 感 じ る 嗜 好 品 で あ る 。 宗 教 上 の 理 由 で ア ル コ ー ル 飲 料 が ほと ん ど 手 に 入 ら ず 、 ま た 娯 楽 施 設 が 極 端 に 少 な い イ エ メ ン 共 和 国 で は 、 気 の 合 っ た 友人 とカ ート を噛 みな がら 過ご す午 後の 数時 間は 、老 若男 女の 楽し みと なっ てい る。 イ エ メ ン で は 原 則 と し て カ ー ト の 輸 出 入 が 禁 止 さ れ て い る が 、 エ チ オ ピ ア や ケ ニア で は カ ー ト は 外 貨 を 稼 ぐ 貴 重 な 輸 出 品 と な っ て い る 。 カ ー ト は 国 に よ っ て は 違 法 薬物 と 認 定 さ れ て い る が 、 イ エ メ ン 、 エ チ オ ピ ア 、 ケ ニ ア 、 イ ギ リ ス で は 嗜 好 品 と し て扱 われ てい る。 カ ー ト は 、 イ エ メ ン 経 済 を 考 え る 上 で 無 視 す る こ と の で き な い 重 要 な 商 品 作 物 であ る。世 界銀 行に よれ ばカ ートは GDP の 6%を 占め、 イエ メン 人の 労働 者の 7 人に 1 人 はカ ート に関 係す る仕 事( 生 産や 流通 )に 就 いて いる 。カ ート はイ エメ ン の農 地の 10% を占 める にす ぎな いが 、農業 GDP の 3 分の 1 を占める 。農業 労働 力の 3 分の 1 がカ ー ト生 産に 携わ って いる (2005 年)[World Bank 2007]。 筆 者 は こ れ ま で イ エ メ ン の 首 都 サ ナ ア で 消 費 さ れ る カ ー ト に つ い て 調 査 を 行 っ てき た 。 雑 穀 や コ ー ヒ ー を 凌 駕 し て 生 産 量 が 増 加 し て い る カ ー ト は 、 食 料 自 給 率 を 下 げ、 外貨 獲得 につ な がら ない こと を しば しば 非難 され てき た [大 坪 2013-b]。 しか しカ ート は 生 産 者 に と っ て 貴 重 な 現 金 収 入 源 で あ り 、 頼 り に な る 地 縁 血 縁 関 係 の な い 人 に とっ て は 小 額 の 資 金 で 始 め ら れ る 手 軽 な 商 売 で あ り 、 消 費 者 に と っ て は 社 交 の 場 の 潤 滑油 とな って いる [大 坪 2012]。 サ ナ ア の カ ー ト の 流 通 は 、 非 常 に 効 率 的 に 行 わ れ て い る 。 早 朝 サ ナ ア 近 郊 で 収 穫さ れ た カ ー ト は 、 そ の 日 の 昼 前 に サ ナ ア 市 内 の 市 場 に 並 び 、 そ の 日 の 午 後 に は 消 費 され る。 介在 する 商人は 1-2 人で あり 、生 産者 は家 族経 営で あり 、商 人は ほと んど の場 合 個人 事業 であ る。サ ナア 近郊 の野 菜・果物 は 政府 が設 置し た卸 売市 場を 経由 し、豆 類 ・ 香 辛 料 は 少 数 の 民 間 会 社 が 集 荷 か ら 輸 出 ま で 手 掛 け て い る こ と と 比 較 す る と 、 カ ート の 流 通 は 官 民 ど ち ら か ら も 規 制 が な く 、 近 代 化 も 進 ん で い な い 。 し か し こ の 方 法 が、 新鮮 で多 種類 ある カー トを 流通 する のに 効率 的な ので ある [大 坪 2010]。さ らに 付け 加 える と、 カー トの 流通 は反 社会 的な 組織 が関 与し てい ない “健 全” なも ので もあ る。 - 115 - 本研 究は これ まで 行っ たサ ナア での 調査 をふ まえ て、 地方 都市 ホデ イダ とタ イズ に おけ るカ ート の流 通経 路を 明ら かに し、 サナ アの 流通 方法 と比 較す るこ とを 目的 とす る。 ホデ イダ とタ イズ を選 んだ 理由 は以 下の とお りで ある 。ホ デイ ダは 高温 多湿 ゆえ にカ ート も傷 みや すく 、カ ート 生産 地か ら遠 く離 れて いる ため 、迅 速な 流通 が必 要と され る。 タイ ズは 歴史 的に サナ アよ りも ずっ と古 いカ ート の生 産地 、消 費地 であ る。 また 女性 が小 売り に参 入し てい る 1 。 2. 研究 方法 イエ メン のサ ナア 、ホ デイ ダ、 タイ ズで 、カ ート 商人 を中 心に 聞き 取り 調査 を行 っ た。サナ アで はこ れま での 調査 との 変化、“ アラ ブの 春”によ る影 響、昔の カー ト産 業 の状 況に 関し てサ ナア 市内 でカ ート 商人 や消 費者 から 、サ ナア 近郊 の生 産地 (ハ ムダ ーン 、バ ニー ・マ タル )を 訪問 して 生産 者か ら、 聞き 取り 調査 を行 った 。ホ デイ ダ、 タイ ズの カー ト商 人に 対す る聞 き取 り調 査で 明ら かに した こと は以 下の 項目 であ る。 カー トの 種類 と生 産地 の分 布 カー トを 販売 する 場所 流通 経路 カー トの 仕入 れ方 取引 相手 との 信頼 関係 カー ト商 人に なっ たき っか け カー ト販 売に 対す る価 値観 3. 研究 計画 と実 施状 況 現地 調査 は以 下の 日程 で実 施し た。 2013 年 8 月 15~17 日:サナ ア 18~23 日:ホデ イダ 24~30 日:タイ ズ 31~9 月 4 日:サナ ア イエ メン の政 情が 不安 定だ った ので 出発 を遅 らせ たた め、 当初 の予 定よ りも 1 週 間 少な い滞 在と なっ た。 聞き 取り 調査 をし た人 数は サナ アで 11 人 2 、 ホデ イダで 14 人 、 タイ ズで 17 人であ る。 1 商品 を問わ ず、 女性 が小売 りを するこ とは イ エメン のほ とんど の地 域 で “ は し た な い ” ことと 考え られて いる 。タ イズ のサ ブル山 出身 の女性 は市 場で小 売り に参入 して いる“進 んだ” 女性 として 知ら れてい る。 2 紙幅 の都 合で、 サナ アのイ ンフ ォー マント は 省略す る。 - 116 - 【ホ デイ ダの イン フォ ーマ ント 】 年齢(才 ) 出身地 職業 ① 26 サナア州 マナー ハ郡 カート商 人 ② 45 ベイダ州 アルシ ュ郡 ワキール ③ 38 ホデイダ 市 カート商 人 ④ 30 ホデイダ 州ムラ ーワア ウンマー ル 3 ⑤ 30 サナア州 マナー ハ郡 カート商人/ウンマール ⑥ 50 ホデイダ 市 カート商 人 ⑦ 35 ホデイダ 市 カート商 人 ⑧ 37 ホデイダ 市 カート商 人 ⑨ 65 タイズ州 ホジャ リヤ カート商 人 ⑩ 60 ホデイダ 市 カート商 人 ⑪ 70 タイズ州 ムカー ティラ カート商 人 ⑫ 65 タイズ州 ムカー ティラ カート商 人 ⑬ 40 マフウィ ート州 カート商 人 ⑭ 27 ライマ州 カート商人/アーキル 3 3 【タ イズ のイ ンフ ォー マン ト】 年齢(才 ) 3 出身地 職業 ① 27 タイズ市 ホテル従 業員 ② 38 サナア州 ハウラ ーン郡 カート商人/ディレクター ③ 30 イッブ州 ホベイ シュ郡 カート商 人 ④ 14 ライマ州 カート商 人 ⑤ 32 イッブ州 カート商 人 ⑥ 22 ライマ州 カート商 人 ⑦ 65 タイズ州 サブル 山 カート商 人 ⑧ 58 タイズ州 サブル 山 カート商 人 ⑨ 38 タイズ州 サブル 山 カート商 人 ⑩ 35 タイズ州 サブル 山 生産者・ カート 商人 ⑪ 28 タイズ州 シャル アブ・ ラウナ 郡 カート商 人 ⑫ 34 タイズ州 シャル アブ・サラ ーム郡 カート商 人 ⑬ 25 ダーリゥ 州ホシ ャー郡 カート商 人 ⑭ 35 タイズ州 サブル 山 カート農 民 ⑮ 47 イッブ州 ウデイ ン郡 ワキール ⑯ 45 タイズ州 サブル 山 カート商 人(女 性) ⑰ 50 タイズ州 サブル 山 カート商 人(女 性) ワキール、ウンマールは後で説明する。アーキルは市場の場所代の徴収、喧嘩の仲裁などを行っている。 - 117 - 4. 研究 成果 4-1.調 査の 前提 4-1-1. 各州 の特 徴 【イ エメ ン州 別地 図】 1 アデン ハラ ブ 2 ア ムラー ン 9 マフウ ィート 15 ラヘジ 3 アブヤ ン 10 サナ ア市 16 マーリ ブ 4 ダー リ ゥ 11 ダマ ー ル 17 ライマ 18 サ ァダ 5 ベ イダ 6 ホデ イダ 12 ハド ラマウ ト 19 サナ ア 7 ジ ョウフ 13 ハッ ジャ 20 シャ ブワ 8マ 14 イッ 21 タイ ズ サ ナ ア 州(19)は イ エ メン 共 和国 の 内陸 西 部に 位 置 する 。 首都 の サナ ア 市 (10) に 人口 が集 中し てい るた め(1,747,834 人)、サナ ア州 の人 口は 多く はな い。タイ ズ州(21) はサ ナア 州の 南に 位置 する 。州 別人 口で はイ エメ ン最 大で ある (全 人口の 12.16%)。 降 水 量も 多 く 、 タ イズ 州 の 北 に ある イ ッ ブ 州 (14) とと も に 雨 期 にあ た る 夏 季 には 、 山頂 から 麓ま で緑 色の 階段 耕地 が広 がる。ホ デイ ダ州(6)はタ イズ 州に 次い で 2 番目 に人 口が 多い(全 人口 の 11%)。紅海 沿岸 に 位置 する ため に高 温多 湿で ある が、降水 量 は多 くな い。 - 118 - 【ホ デイ ダ、 タイ ズ、 サナ ア各 州の 人口 ・面 積・ 平均 気温 ・降 水量 】 ホデ イダ 州 タイ ズ州 サナ ア州 人口 (人 ) 2,157,552 2,393,425 918,727 面積 (㎢ ) 117,145 10,008 11,877 29 21 8-12 128.8 737.1 170.0 平均 気温 (℃) 降水 量(mm) http://www.yemen-nic.net/index.php より 筆者 作成 4-1-2. ホデ イダ 市、 タイ ズ市 、サ ナア 市の 特徴 主 な 調 査 地 は サ ナ ア 市 及 び そ れ ぞ れ の 州 の 州 都 ( ホ デ イ ダ 市 、 タ イ ズ 市 ) に な るの で、 それ らに 関し ても 説明 を補 足し てお く。 サナ ア市 は周 囲を 山に 囲ま れた 盆地 にあ る。 標高 2300mで、 年間 を通 して 湿度 が低 く、3 都市 の中 では 最も 寒い 4 。カー ト市 場 が 20 か所以上 ある 。 ホデ イダ 市は 年間 を通 して 非常 に暑 く、調 査 を行 った 8 月に は日中 40 度近 くま で気 温が 上が り、 夜間 でも 30 度 を下 らな かっ た (手 持ち の温 度計 によ る)。 現在 イエ メン 第 2 の 港湾 都市 であ る。 歴史 的に はモ カ、 アデ ンが 港と して 有名 であ り、 ホデ イダ の 港湾 整備 が進 んだ のは 20 世紀に 入っ てか ら であ る。 カー ト市 場は 6 か所 確認 した 。 【ホ デイ ダ市 にあ るカ ート 市場 】 通称 備考 アラ ビア 語表 記 オス マー ン 一部 に屋 根あ り。 カラ ア 小さ な市 場。 ジャ ディ ード 場内は屋根あり、場外は屋根なし。 サッダーム/シュハダー 通り に面 した とこ ろで カー ト、 奥で 野菜 、魚 を販 売。 マト ラー ク 古い 区画 にあ る小 さな 市場 。 カデ ィー ム/ ジュ ムラ 朝だ け卸 売(ジ ュム ラ)を やっ てい る。 ﺳﻭﻕ ﻋﺛﻣﺎﻥ ﺳﻭﻕ ﺍﻟﻘﻠﻌﺔ ﺳﻭﻕ ﺍﻟﻘﺎﺕ ﺍﻟﺟﺩﻳﺩ ﺳﻭﻕ/ ﺳﻭﻕ ﺻ ّﺩ ﺍﻡ ﺍﻟﺷﻬﺩﺍء ﺳﻭﻕ ﺍﻟﻣﻁﺭﺍﻕ ﺳﻭﻕ/ ﺍﻟﺳﻭﻕ ﺍﻟﻘﺩﻳﻡ ﺍﻟﻘﺎﺕ ﺑﺎﻟﺟﻣﻠﺔ タイ ズ市 は標高 1500 メー トル で、サナ アよ りも 夏は 暑く 、冬 はあ たた かく 、湿 度も やや 高い 。ド イツ 人の 探検 家ニ ーブ ール [1733-1815] 5 が 、1763 年にタ イズ でカ ート を P 4 F P サナ アは夏 季で 最低 気温 17 度 、最高 気温 32 度、冬季で 最低 気温 5 度 、最 高気 温 17 度 程度で ある (筆者 の体 験によ る)。 5 デン マーク 王フ レデ リク 5 世[在位 1746-1766]が 1761 年 に派 遣した エジ プトや アラ ビ ア半島 の探 索隊に 参加 した。 4 - 119 - 噛ん だ記 録[Niebuhr 1994]が 、外 国人 がイ エ メン でカ ート を噛 んだ 記録 の嚆 矢と なる。 カー ト市場 6 か 所確 認し た。 他に 2 か所 ある が、 訪問 でき なか った 。 【タ イズ 市に ある カー ト市 場】 通称 備考 アシ ュバ ト 現在 は閉 鎖中 。 ビー ル・ バー シャ ー 屋根 あり 。 バー ブ・ ムー サー 屋根 なし 。 ウセ イフ ィラ 屋根なし。 卸売、 セリも行う。 ザグ ルー リー 屋根 あり 。 シー ナ 歩道 上。 アラ ビア 語表 記 ﺳﻭﻕ ﺍﻷﺷﺑﻁ ﺳﻭﻕ ﺍﻟﺑﻳﺭ/ ﺳﻭﻕ ﺑﻳﺭ ﺑﺎﺷﺎ ﺳﻭﻕ ﺑﺎﺏ ﻣﻭﺳﻰ ﺍﻟﺳﻭﻕ ﺍﻟﻣﺭﻛﺯﻱ ﻋﺻﻳﻔﺭﺓ ﺳﻭﻕ ﺍﻟﺯﻏﻠﻭﻟﻲ ﺳﻭﻕ ﺻﻳﻧﺔ 4-1-3. 部族 イ エメ ンは 部族 社会 であ ると いわ れる が、非常 に大 雑把 な、誤 解を 生む 表現 であ る。 確 か に 数 百 年 前 か ら 部 族 と い う 社 会 組 織 が 存 在 し て い る 。 し か し 現 在 イ エ メ ン 人 皆が あ る 部 族 に 所 属 意 識 を 持 っ て い る わ け で は な く 、 イ エ メ ン の 国 土 が も れ な く 部 族 領土 に 分 割 さ れ る と い う わ け で も な く 、 有 力 部 族 が イ エ メ ン の 政 治 経 済 を 握 っ て い る わけ でも なく、政治 家が 特定 の部 族出 身と いう わ けで もな い。現 在で は一 部の 地域 が部 族、 一部 の人 々が 部族 民と 自称 ・他 称さ れる にす ぎな い。 現在 の イ エメ ン 共和 国 は 1990 年 に南 北 イ エメ ン が 統合 し て成 立 し た。 特 に部 族 的 な 紐 帯 が 強 い と い わ れ て い る の は 、 旧 北 イ エ メ ン ( 118 ペ ー ジ の 地 図 の 2,4,5,6,7,9,10,11,13,14,16,17,18,19,21)のダマー ル州(11)以北( 上イ エメ ン)であ り [Dresch 1989]、そ れ以 外の 地域 では 部族 組 織が 崩壊 した とい われ てい る。下 イエ メン ( ダ マ ー ル 以 南 ) は ア イ ユ ー ブ 朝 [1173-1229]、 ラ ス ー ル 朝 [1229-1454]支 配 下 で 部 族 組 織が 破 壊 さ れ 、1962 年の 共 和政 革 命 に 続 く 内戦 [1962-1970]に お いて さ ら に 破 壊が 進ん だ[Stookey 1978; Swagman 1988]。ホ デイ ダを 含む 紅海 沿岸 地方 にも 部族 は存 在 して い た が、20 世 紀前 半 に 上イ エ メン の 部 族を 率 い るザ イ ド派 イ マー ム 6 によ っ て破 P 5 F P 壊さ れた [Wenner 1967; Peterson 1982]。 旧 南イ エメ ンは 社会 主義 政権 下[1967-1990] で部 族的 な組 織は 崩壊 した [Serjeant 1977; Lackner 1985] 7 。 P 6 F 6 P ザイ ド派は イス ラー ムのシ ーア 派の一 派 。イ マーム には 多くの 意味 がある が 、本稿 では ザイド 派の 最高宗 教指 導者を 意味 する 。ザイ ド 派イマ ーム は、 1962 年 の革命 まで 1000 年以上 の間 、主 に上 イエメ ンで その 勢力範 囲を 大きく 変化 させな がら 存在し てい た 。現在 のイエ メン では上 イエ メンは ザイ ド派 、そ れ以 外の地 域は スンナ 派で あるが 、イス ラーム 世界で 想定 される スン ナ派と シー ア派 の対立 は 歴史上 ほと んど見 られ なかっ たし 、現在 も そのよ うな 対立構 造が 指摘さ れる こと はほと ん どない 。 7 ただ しこ こ数年 、旧南 イエ メンは 分離 独立 を 画策し てお り、そ の中で ハド ラマウ ト部 族 連合が “復 活”し てい る。 - 120 - 中 東 の 部 族 民 と い え ば 遊 牧 民 ( ベ ド ウ ィ ン ) が 有 名 で あ り 、 遊 動 生 活 を す る 彼 らは 定住 農耕 民を 蔑視 する 傾向 にあ る[例え ば片 倉 2002]が、上イ エメ ンの 部族 民の 生業 は 農業 で あ り、 農 業 は誇 る べ き生 業 で ある 。 彼 らは 自 分の 属 する 部 族の 領土 の 平和 は 自分 たちで 守る べきで 、も し平和 が脅 かさ れたら 武 力を使 って でもそ れを 阻止す るべ きで ある と考 える (実 際に か なり の軍 事力 を 保有 して い るこ とが 多い ) [Dresch 1989] 。 部族 民は その自 立を 誇りに して いるが 、保 守的 で攻撃 的 である こと を非難 され てきた 。 調査地 の中 ではサ ナア が最も 部族 的な 紐帯が 強 い地域 にあ り、ホ デイ ダ、タ イズ は部 族 な組織 は崩 壊し、人々は「自 分たち が部 族民 だ なんて とん でもな い。部 族で はな く家族 だ」 と、部 族や 部族民 を否 定的に 捉え る傾 向にあ る 。 4-1-4. カー トと “浮 気性 ” カー トは 鮮度 が重 要な ので 、買 いだ めは しな いで 、毎 日噛 みた い人 は毎 日購 入す る。 カ ー トの 味 は 、 一 言 でい え ば 苦 い 8 。 農 薬 や 化 学 肥料 を 使 っ て い ない と 、 良 い 匂 いが する そう であ るが 、あ まり 強い 匂い では なく 、筆 者は よく わか らな い。1 回分 のカ ー トの 値段 は日 本円で 100 円~1 万 円近 くま で ある が、高 額な カー トは それ なり にう ま いと 思う 。 カー トと イエ メン 人の 関係 は酒 と日 本人 の関 係に 似て いる。つま り酩 酊だ けを 求め て酒を飲む人もいるが、皆で集まって歓談しながら飲むのが楽しいという点であり、 カー トも 覚醒 作用 を求 めて 噛む より も、友 人 と集 まっ て歓 談し なが ら噛 むの が楽 しい ので ある [大 坪 2005]。 カ ー トを 違 法 薬 物 と し 、規 制 対 象 と し て いる 国 も 多い 9 。た だ し 現 在 の と ころ 、 国 際 機 関 で は 特 に カ ー ト を 危 険 視 し て い な い よ う で あ る 。 WHOは カ ー ト を 「 深 刻 な 中 毒性 薬物(a seriously addictive drug)」と 分 類し てい ない [Al-Mugahed 2008]。雑 誌 WHO Drug Information でも カー トを 分析 し た記 事は ない。 また 国連 薬物 犯罪 事務 所 の 2009 年の報 告書 にお いて も、 カー トは エ チオ ピア とケ ニア での 乱用 が、 表で 示さ れて いる にす ぎな い 10 。 カ ー ト が 薬 物 と し て 注 目 さ れ て い な い 理 由 は 、 他 の 薬 物 に 比 べ れ ば そ の 心 身 へ の効 果は 大き くな く、1990 年代 以降 世界 的に カ ート の消 費地 域は 拡大 して いる もの の( そ の 大 き な 原 因 は ソ マ リ ア 内 戦 の 激化 で 同 移 民 ・ 難 民 が 世 界 中 に 拡 散 し た こ と であ る )、 使用 する 人口 が限 定さ れて いる こと が指 摘で きる 。 イ エ メ ン に 話 を 戻 す と 、 サ ナ ア で 出 回 っ て い る カ ー ト の 名 称 は 生 産 地 の 郡 名 に ちな む こ と が 多 い が 、 郡 名 は 部 族 名 で あ る こ と が 多 い 。 こ の こ と か ら 、 カ ー ト は 部 族 的な 8 ある 日本人 は雑 草の 苦さに 似て いると 表現 し た。日本 に留 学し たイエ メン 人はカ ート が 恋しく なり 、いろ いろ 試した 結果 、煎 茶の葉 を かじる 方法 にたど り着 いたそ うで ある 。 9 違法 薬物と して のカ ートの 位置 づけに 関し て は[大坪 2013-b]参照 。 10 http://www.unodc.org/documents/wdr/WDR_2009/WDR2009_eng_web.pdf - 121 - 紐 帯 を 利 用 し て 流 通 し て い る こ と が 想 定 さ れ る が 、 そ う で は な く 、 カ ー ト 商 人 は 部族 的 な 紐 帯 が な く て も カ ー ト を 仕 入 れ ら れ る 。 ま た カ ー ト に 定 価 は な く 、 購 入 す る には 値 段 交 渉 が 必 要 に な る が 、 バ ザ ー ル 経 済 で 情 報 の 非 対 称 性 を 補 完 す る 方 法 と し て 利用 さ れ る 売 り 手 と 買 い 手 と の 間 の 顧 客 関 係 も ま た カ ー ト 売 買 に 万 能 で は な い 。 と い うの も 、 カ ー ト は 同 じ 畑 で あ っ て も 、 季 節 、 降 水 量 、 灌 水 、 施 肥 な と に よ っ て 品 質 が 変わ り や す い た め 、 買 い 手 ( 購 入 者 、 カ ー ト 商 人 ) は 売 り 手 ( カ ー ト 商 人 、 生 産 者 ) に対 して“浮 気性 ”であ り 、そ れを 知っ てい る売 り手 も買 い手 に対 して“浮 気性 ”であ る。 つ ま り 顧 客 関 係 に よ っ て 得 ら れ る メ リ ッ ト ( 値 段 交 渉 の 時 間 が か か ら な く な り 、 粗悪 な 商 品 を 売 り つ け ら れ る 心 配 も な く 、 つ け 払 い も 行 え る ) は 、 カ ー ト 売 買 で は メ リッ トに なら ない ので ある [大 坪 2013-a]。 【サ ナア に出 回っ てい る主 なカ ート 】 名称 生産 地 ハム ダー ニー サナ ア州 ハム ダー ン郡 アル =ガ ルヤ サナ ア州 ハム ダー ン郡 アル ハビ ー サナ ア州 アル ハブ 郡 ハウ ラー ニー サナ ア州 ハウ ラー ン郡 ハイ ミー サナ ア州 外ハ イマ 郡、 内ハ イマ 郡 マタ リー サナ ア州 バニ ー・ マタ ル郡 ホシ ェイ シー サナ ア郡 バニ ー・ ホシ ェイ シュ ニフ ミー サナ ア州 ニフ ム郡 ホー シー アム ラー ン州 ホー ス郡 サウ ティ ー アム ラー ン州 シャ ハー ラ郡 アン シー ダマ ール 州 アハ ジュ リー マフ ウィ ート 州シ バー ム・コー カバ ーン 郡 サァ ディ ー サァ ダ州 [大坪 2005]を一 部訂 正 4-2.主 なカ ート の種 類 ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ で 出 回 っ て い る 主 な カ ー ト は 表 の と お り で あ る 。 カ ー ト の 名 称は シ ス テ マ チ ッ ク で は な く 、 例 え ば サ ァ ダ 州 産 の カ ー ト は す べ て サ ァ デ ィ ー と 呼 ば れる が 、 そ の 中 の ラ ー ジ フ 郡 産 で あ れ ば ラ ー ジ ヒ ー と も 呼 ば れ る 。 ラ ー ジ フ 郡 産 の カ ート を ど う 呼 ぶ か は そ の 商 人 次 第 で あ る 。 煩 雑 に な る た め 、 本 稿 で は 下 線 を 引 い た も のを 総称 とし て使 う。 - 122 - サナア、ホデイダ、タイズで流通しているカートの種類は大きく異なっている。3 都市 で共 通し て販 売さ れて いる のは アム ラー ニー( アム ラー ン州 産)、アン シー( ダマ ー ル 州 産 )、 サ ァデ ィ ー ( サ ァ ダ 州 産 ) だ け で あ る 。 こ れ ら の カ ー ト は 安 価 で ある た め 、 一 定 の 需 要 が あ る も の の 、 う ま い カ ー ト で あ る 評 価 は あ ま り 聞 か れ な い 。 サ ナ ア の場 合は ほと んど の生 産地 が市 内か ら車 で片 道 2 時間 程度 の距 離に ある が、 ホデ イダ の場 合は それ 以上 であ るこ とが 多く (近 い産 地市 場ま で 2-3 時 間、 遠い 産地 市場 では 5 時 間以 上)、 タイ ズの 場合は 1 時 間以 内の 生産 地か ら仕 入れ るこ とが 多い 。 【ホ デイ ダに 出回 って いる 主な カー ト】 名称 生産 地 シャ ーミ ー 、マハ ービ シャ 、ジ ェイ ハッ ジャ 州 ヤー ハ、 ガフ ル・ シャ ムル ラダ ーイ ー 、ウ マリ ー、ゲイ フィ ー、 ベイ ダ州 ラダ ーァ 郡 ファ ラー ザ、マラ ーハ 、ア ッバ ーン アン シー 、ス レイ ーマ ーニ ー・アー ダマ ール 州 ディ 、ス レイ マー ニー・ア サー キル サァ ディ ー 、ラー ジヒ ー、ハウ ラー サァ ダ州 ニー 、シ ャア ーラ 、ハ フジ ー アム ラー ニー 、 サウ ティ ー アム ラー ン州 マタ リー サナ ア州 バニ ー・ マタ ル郡 ハイ ミー サナ ア州 外ハ イマ 郡、 内ハ イマ 郡 ハラ ージ ー サナ ア州 マナ ーハ 郡 ウデ イニ ー イッ ブ州 ウデ イン 郡 ライ ミー ライ マ州 マー ウィ ヤ タイ ズ州 マー ウィ ヤ郡 ホデ イダ で夏 季に 流通 量が 多い のは シャ ーミ ー、ラ ダー イー、アン シー 、サ ァデ ィー、 アム ラー ニー であ る( 市場 での 聞き 取り 調査 によ る 11 ) 。シャ ーミ ー( ハッ ジャ 州)は サ ナ ア 、 タ イ ズ で は ほ と ん ど 流 通 し て い な い 。 シ ャ ー ミ ー は 良 質 な カ ー ト で あ る とサ ナア でも 評判 が高 いが 、サ ナア まで 運搬 する と 6 時 間か かる 。ホ デイ ダで シャ ーミ ー を仕 入れ るの なら 片道 3 時間 で済 む。 サナ ア 州の カー トも 3 時間 程度 でホ デイ ダに 流 1970 年 代か ら 20 年以上 、イ エメン 政府 が発 行する 統計 年鑑に カー トの項 目は 抹消 され た。こ れは カート が薬 物に類 する 農作 物であ る からと いう 理由で あろ う[大坪 2014]。 1997 年 の統計 年鑑 から カート の総 生産量 、総 作付面 積は 公開さ れる ように なっ たが 、生 産地別 のデ ータ、 カー ト商人 の総 数、 カート 市 場の数 は公 表され てい ない。 11 - 123 - 通 し て い る が 、 流 通 量 は 多 く な い 。 ハ ッ ジ ャ 州 や サ ナ ア 州 以 外 か ら 運 搬 さ れ る カ ート はホ デイ ダ市 まで 5 時間 以上 かか る。 サナ ア― ホデ イダ は急 峻な 山道 が続 くが 、こ の 山 道 を 使 わ ず に シ ャ ー ミ ー 、 ア ム ラ ー ニ ー 、 サ ァ デ ィ ー 、 ラ ダ ー イ ー 、 ア ン シ ー はホ デイ ダに 運搬 でき る。 【タ イズ に出 回っ てい る主 なカ ート 】 名称 生産 地 マー ウィ ヤ タイ ズ州 マー ウィ ヤ郡 ムレ イシ ー ダー リゥ 郡ム レイ ス山 サブ リー タイ ズ州 サブ ル山 シャ ルア ビー 、 アウ ニー タイ ズ州 シャ ルア ブ・サラ ーム 郡 、シ ャ ルア ブ・ ラウ ナ郡 メイ タミ ー ジャ ァシ ャニ ー イッ ブ州 ウデ イニ ー スフ ーリ ー ワカ シー ラダ ーイ ー ベイ ダ州 ラダ ーァ 郡 アン シー ダマ ール 州 アム ラー ニー アム ラー ン州 サァ ディ ー サァ ダ州 タイ ズで 夏季 に流 通量 が多 いの はマ ーウ ィヤ 、ム レイ シー 、サ ブリ ー、シャ ルア ビー である 12 。 こ れ ら の カ ー ト は ア デ ン に も 出 荷 さ れ て い る 。 タ イ ズの カ ー ト は 少 量 ホ デ イ ダ に も 流 通 し て い る が 、 サ ナ ア で は 流 通 し て い な い 。 サ ナ ア ― タ イ ズ は 急 峻 な 山道 が あ り 、 ま た タ イ ズ の カ ー ト は 遠 方 か ら 運 ぶ ほ ど 特 徴 的 な 性 質 を 持 っ て い な い こ とが その 理由 だと 考え られ る 13 。 ホ デ イ ダ に 運 搬 さ れ る カ ー ト は 、 長 距 離 移 動 と 高 温 多 湿 の 不 利 を 補 う た め に 、 カー トを 飼料 など で覆 った り(ア ンシ ー、ラ ダー イー)、カー トに 濡れ たテ ィッ シュ を巻 き つ け た り ( ハ イ ミ ー)、 氷 を 挟 ん だ り ( ア ム ラ ー ニ ー )、 バナ ナ の 葉 で く る み 、 丁 寧 に 12 ホデイ ダで 人気 のある カー トはア ンシ ー、ラ ダーイ ーで 、タ イズで 人気 のあ るカー トは マーウ ィヤ である が 、いず れも 化学 肥料や 農薬 を使っ てい ること でも 有名で ある 。サナア では“ 有機 栽培” のも のが人 気が あり 、化学 肥 料や農 薬の 利用は 隠さ れるこ とも 多い 。 13 サナア の人 は、タイ ズ州や イッ ブ州 のカー ト をあま り高 く評価 しな い。サナ アより も降 水量も 多い ため、 カー トの品 質が 良く ないと い うので ある 。 - 124 - 形作 って あっ たり(シ ャー ミー のマ フサ ル【 写真 1】など )とい った 工夫 がな され てい る。 布袋 に俵 状態 で包 まれ て市 場ま で運 ばれ るも のも ある 。 タイ ズも カー トを 丁寧 にく るん であ るこ とが 多い 。ア ウニ ーは 40 セン チ四 方の 座布 団状(ト ゥワ ーク )に 包ま れて いる(ト ゥワ ーク 1 つで 4-5 人 分に なる)。サ ブリ ーも 丁 寧 に 包 まれ ( マ ン デ ィ ー ル)、 生 産 者 の 名 前 や マ ー クが 入 っ て い る 【 写真 2】。 マン ディ ール の中 には カー トの 他に 飼料 が一 束入 って いて、保冷 材の 役割 を果 たす。ビニ ー ル袋 の色 によ って 主な 生産 地が わか るよ うに なっ てい る (ア ウニ ーは 緑、マー ウィ ヤ は青 、サ ブリ ーは 半透 明)。 【写真 1】円錐形 にまと められ たマフ サル。 【 写 真 2】 生 産 者 の 名 前 が 書 い て あ る サ ブ バナナの 葉から 出した ところ 。 リー。葉 が同じ 方向に 並んで 包まれ ている。 4-3.仕 入れ るカ ート サ ナ ア の カ ー ト 商 人 が 、 自 分 や 消 費 者 の 嗜 好 に 基 づ い て 仕 入 れ る カ ー ト の 種 類 を変 更 す る こ と は 容 易 で あ る 。 ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ の カ ー ト 商 人 も 現 在 の カ ー ト は 自 分 や消 費 者 の 嗜 好 に 基 づ い て 選 ん で い る こ と が 多 い が 、 仕 入 れ る カ ー ト を 変 更 す る こ と はサ ナア ほど 容易 では ない 。カ ート の種 類が サナ アほ ど多 くな いと いう のが 理由 の 1 つ で ある (取 引相 手と の信 頼関 係に つい ては 後述 )。 ま た サ ナ ア で は 、 夏 季 と 冬 季 で 仕 入 れ る カ ー ト を か え る カ ー ト 商 人 は 、 ほ と ん どい な い 。 カ ー ト は 夏 季 に 生 産 量 が 増 え 、 冬 季 に 減 る が 、 畑 の 標 高 差 や 収 穫 時 期 を 考 慮す れ ば 、 年 間 を 通 し て 同 じ 生 産 地 の カ ー ト を 仕 入 れ る こ と は 難 し い こ と で は な い 。 年間 に 5-6 種 類の カー トを 1-2 か 月ご とに 扱う カ ート 商人 もい るが、彼ら はそ の畑 の “ 旬” のカ ート を追 って いる だけ であ り、季節 に左 右さ れて いる わけ では ない [大 坪 2013-a]。 タ イ ズ も 同 様 に 夏 季 と 冬 季 で カ ー ト を か え る 商 人 は 少 な い 。 夏 季 と 冬 季 で カ ー トを かえ る商 人は 2 人い るが 、ど ちら も夏 季に マー ウィ ヤ、 冬季 にム レイ シー を扱 って い - 125 - る 。 冬 季 に マ ー ウ ィ ヤ の 生 産 量 が 減 る か ら と い う 理 由 で あ る ( 年 間 を 通 し て マ ー ウィ ヤを 吸う 商人 もい る)。サ ブリ ーは 冬季 に生 産量 が激 減す るが 、⑨ ⑩は 別の カー トに か えず 、カ ート 販売 以外 の仕 事を する 。 【タ イズ のカ ート 商人 が扱 うカ ート 】 年間 同じ カー トを 扱う ③④ ⑥⑦ ⑧⑨ ⑩⑪ ⑬⑭ ⑮⑯ ⑰ 夏季 と冬 季で 異な るカ ート を扱 う ②⑤ その 他 ⑫(年 間を 通し て複 数の カー トを 扱う) ホデ イダ では 冬季 と夏 季で 仕入 れる カー トを かえ る商 人が 多い 。ホ デイ ダは 年間 同 じカ ート を扱 う商 人が 6 人、 夏季 と冬 季で 扱 うカ ート をか える 商人が 8 人 いる 。こ の 8 人を見る と、①⑤ ⑥が 冬季 に仕 入れ るハ ウ ラー ニー、ラー ジヒ ー、ハ フジ ー、シャ アー ラは サァ ダ州 のカ ート であ る。 サァ ダ州 はイ エメ ン最 北端 に位 置す るが 、場 所に よっ ては 温暖 であ る。 夏季 に多 く出 回る アン シー やラ ダー イー が冬 季に 減る ため 、サ ァダ 産カ ート にか える 。 【ホ デイ ダの カー ト商 人が 扱う カー ト】 年間 同じ カー トを 扱う ②③ ④⑨ ⑩⑬ 夏季 と冬 季で 異な るカ ート を扱 う ①⑤ ⑥⑦ ⑧⑪ ⑫⑭ 【ホ デイ ダの 商人 で夏 季と 冬季 で異 なる カー トの 種類 】 商人 夏季 のカ ート 冬季 のカ ート ① マタ リー、ハラ ージ ー、ウ マリ ー ハウ ラー ニー 、ラ ージ ヒー ⑤ アン シー ラー ジヒ ー ⑥ ウマ リー 、ア ンシ ー ハフジー、シャアーラ、ラージヒー、アムラーニー ⑦ ハイ ミー 、マ タリ ー アン シー ⑧ ラダ ーイ ー ウデイニー、ラージヒー、サァディー+イッビー ⑪ シャ ーミ ー サウ ティ ー ⑫ ラダ ーイ ー シャ ーミ ー、 サウ ティ ー ⑭ ライ ミー ブル イー 4-4.販 売す る場 所と 時間 カ ー ト は 通 常 カ ー ト 市 場 と 呼 ば れ る 場 所 で 、 他 の 商 品 と は 明 確 に 区 別 さ れ て 販 売さ れ る 。 カ ー ト 市 場 に は 店 舗 や 露 天 の よ う に 数 種 類 の 売 り 場 が あ る 。 サ ナ ア に は ダ ッカ (70 セン チ程 度の 高さ のコ ンク リー ト製 の 台を 半畳 程度 に区 切っ た場 所)と呼 ばれ る - 126 - 売 り 場 が あ る が 、 ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ で は 見 ら れ な か っ た 。 ま た サ ナ ア で は 地 面 に 腰を 下ろ して 販売 する 商人( ムフ ァッ ラシ ュ、あ るい はバ ッサ ータ 14 )が多 く、市 場に よ っ て は 多 く の 面 積 を 占 め る が 、 ホ デ イ ダ で は ほ と ん ど な く 、 タ イ ズ で も 多 く な か っ た。 ホ デ イ ダ は 高 温 で あ る た め に 地 面 に 直 接 腰 を 下 ろ す の は 売 る 側 も 暑 く 、 カ ー ト も 傷み やす いか らで ある 。 【ホ デイ ダの カー ト商 人が 売る 場所 】 【タ イズ のカ ート 商人 が売 る場 所】 場所 カー ト商 人 場所 カー ト商 人 バス タ ⑥⑦ ⑪⑬ バス タ ③⑦⑧⑨⑪⑫ ⑬⑯ ムラ ッバ ア ②③ ④⑤ ⑧⑨ ⑩⑫ サリ ール ・マ ーサ ②③ ⑤ その 他 ①( 車の 中) 店舗 ④⑥ ⑩⑮ 不明 ⑭ 市場 のす ぐ外 ③ 路上 ⑰ ③は 市場 の込 み具 合を 見て 場外 で売 る。 サナアのダッカに相当する売り場として、タイズ、ホデイダも台状の売り場を設置 し てい る 。 ホデ イ ダ では 木 製 の 台( ム ラ ッバ ア )の 上 で 売る 【 写真 3】。 夏 は 日中 40 度 近 く な る が 、 屋 根 が つ い て い る と こ ろ は あ っ て も 冷 房 施 設 の あ る 市 場 は な い 。 場所 に よ っ て は 屋 根 も な く 、 日 差 し を 遮 る の は 日 除 け だ け で あ る 。 タ イ ズ で は 金 網 で 仕切 られ たマ ーサ ある いは サリ ール と呼 ばれ る売 り場 があ る【 写真 4】。誰 でも どこ でも 使 用で き、 場所 代も 一律 で、1 日に 数人 が利 用 する こと も可 能で ある 。 【写真 3】オス マーン 市場で 布に覆 われた ム ラッバア に座る 少年。手にし ている カート は アンシー 。日除 けで日 差しを 遮って いる。 14 【写真 4】マー サが並 んでい るザグ ルーリ ー 市場。 地面で 売る 人を バッサ ータ 、売る 場所 をバ ス タとい う。 - 127 - ホデ イダ のム ラッ バア は 1 日 1000-1500 リ ヤル 15 、 バス タは 1 日 50-500 リ ヤル で ある 。タ イズ では 店舗 は 1 日 1000-4000 リヤル、マー サは 2000-4000 リヤル 、バス タ は 500 リヤルで ある 。 サナ アの カー ト市 場は 午後 3 時を すぎ ると 客は 減り 、商 人は 安売 りを 始め る。 日が 落 ち て か ら 販 売 を 続 け る 商 人 は 非 常 に 少 な い 。 カ ー ト は ほ と ん ど の 人 が 午 後 か ら 夕方 に か け て 噛 む か ら で あ る 。 一 方 ホ デ イ ダ や タ イ ズ で は 夜 間 に カ ー ト を 噛 む 人 が 多 いた め 、 カ ー ト 市 場 も 遅 く ま で 賑 わ っ て い る 。 カ ー ト 商 人 が カ ー ト を 販 売 す る 時 間 も 、サ ナ ア に 比 べ て ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ で は 長 く な り 、 時 に は 明 け 方 ま で カ ー ト を 売 る こ とも ある 16 。ホ デ イ ダ で は 電 気 ラ ン プ 、 ホ デ イ ダ で は ガ ス ラ ン プ が 夜間 の カ ー ト 市 場 で は 使わ れる 。 4-5.流 通経 路 サナ ア同 様に、ホデ イダ、タイ ズに おい ても 流通 に介 在す る商 人は 1-2 人 であ り、 「細 く て 短 い 」 流 通 経 路 が 形 成 さ れ て い る 。 生 産 地 で 早 朝 に 収 穫 さ れ た カ ー ト は 昼 前 にそ れ ぞ れ の カ ー ト 市 場 で 販 売 が 開 始 さ れ る 。 政 府 や 民 間 企 業 に よ る 介 入 は な く 、 大 規模 化は 進ん でい ない 。 15 16 2014 年 8 月のレ ート は 1 ドル ≒ 215 リ ヤル ただしサブル山から下りてきてサブリーを売る商人は、暗くなる前に売り切り、山へ帰る。 - 128 - 4-5-1. サナ アの 特徴 サナ アの 流通 経路 は図 のよ うに 5 つの 方法 が ある が、ⓐ~ⓒが ほと んど であ り、ⓓ ⓔ は非 常に 少な い。商人 は生 産地 や産 地市 場で 、生 産者 やワ キー ル 17 と 相対 取引 して カ ー トを 仕入 れる こと が多 い[大坪 2010]。 ⓒは 商人 が生 産者 のカ ート 畑を 実際 に見 て、 数 日 分 の 契 約 を 口 頭 で す る 方 法 で あ る 。 契 約 は 数 日 分 で あ っ て も 、 毎 朝 カ ー ト を 収 穫す る 。 産 地 市 場 は 舗 装 さ れ た 幹 線 道 路 沿 い に あ る こ と が 多 い の で 、 産 地 市 場 ま で は 乗合 で 行 け る が 、 カ ー ト 畑 か ら 仕 入 れ る 場 合 は 、 畑 の あ る と こ ろ ま で 自 ら 行 か ね ば な らな いの で、 自分 の四 輪駆 動車 を持 つ必 要が ある 。 【サ ナア の流 通経 路】 [大 坪 2010]を 一部 訂正 17 ワキー ルは 生産 者と商 人の 間にい るや や大 規 模にカ ート を取引 する 商人で、生産 者から カート を仕 入れて 他の 商人に 売っ たり 、仕 入れ たカー トを 自分が 雇っ ている 労働 者(ウン マール )に 売らせ たり 、ドラ イバ ーを 雇った り 、時に は自 ら小売 りも 行った りす る。 - 129 - 4-5-2. ホデ イダ の特 徴 ホ デイ ダの 流通 経路 は 7 通 りあ るが 、生 産地 と流 通経 路が かな り関 係し てい る。 ⓐ ~ ⓒ は ラ ダ ー イ ー ( ベ イ ダ 州)、 ア ン シ ー ( ダ マ ー ル 州 )、サ ァ デ ィ ー ( サ ァ ダ 州 ) な ど 、 生 産 地 が 遠 い と こ ろ の カ ー ト の 流 通 経 路 で あ る 。 運 搬 は 運 搬 専 門 の 人 ( 本 稿 では ドラ イバ ーと 呼ぶ)が行 うこ とが 多い。ドラ イバ ーは ワキ ール に雇 われ てい る場 合と 、 個人 で営 業し てい る場 合が ある 18 。 ⓓ ~ ⓕ は シ ャ ー ミ ー 、 ⓓ ⓕ ⓖ は マ タ リ ー や ハ ラ ー ジ ー を 仕 入 れ る 方 法 で あ る 。 いず れ も 生 産 地 が 比 較 的 ホ デ イ ダ に 近 い 。 生 産 地 が 比 較 的 近 い と 、 農 民 か ら 仕 入 れ る こと も可 能で ある が、 畑を 見て 仕入 れる こと はほ とん どな い。 【ホ デイ ダの 流通 経路 】 18 ドライ バー は相 当スピ ード を出し てい る。例 えばサ ァダ ―ハラ ド― ホデイ ダは 筆者 のア シスタ ント (運転 は下 手では ない )な ら 8 時間 かかる とこ ろを、 ドラ イバー は 5 時 間し かかか らな い。も ちろ ん危険 な運 転は 事故に も つなが る。 ホデイ ダ⑦ は調査 の 2 か 月前 に父と 兄弟 2 人 合計 3 人を交 通事 故で失 い( 山 道から 転落 し、イ ンタ ビュー 当時 遺体 も 事故車 も見 つかっ てい なかっ た)、 4 家族 25 人 を養わ なけ ればな らな くなっ た。 - 130 - 4-5-3. タイ ズの 特徴 タ イ ズ も ホ デ イ ダ 同 様 に 生 産 地 と 流 通 経 路 が か な り 関 係 し て い る 。 ⓐ は マ ー ウ ィヤ を 仕 入 れ る 方 法 で あ る 。 生 産 地 で 生 産 者 が セ リ 人 と な り 、 商 人 は セ リ に 参 加 し て カー ト を 仕 入 れ る 。 ⓑ は サ ブ リ ー を 仕 入 れ る 方 法 で あ る 。 ⓒ ⓓ は ム レ イ シ ー を 仕 入 れ る方 法 で あ る 。 ⓔ ⓕ は ア ウ ニ ー な ど を 仕 入 れ る 方 法 で 、 ウ セ イ フ ィ ラ 市 場 で セ リ 人 が セリ をす る。ド ライ バー はセ リ人 が雇 って いる。ⓒⓖ はザ グル ーリ ー市 場で アウ ニー やシ ャ ル ア ビ ー を 仕 入 れ る 方 法 で あ る 。 商 人 は ワ キ ー ル や 生 産 者 と 相 対 取 引 を す る 。 ⓗ はワ カシ ー( イッ ブ州 )を 仕入 れる 方法 であ る。 タ イ ズ 市 は 生 産 地 か ら 近 い が 、 商 人 が 畑 を 見 て 数 日 分 を 契 約 す る こ と は な い 。 生産 地 で 仕 入 れ る に し て も 、 マ ー ウ ィ ヤ で は 毎 朝 セ リ が 行 わ れ 、 サ ブ リ ー も 数 日 分 の カー トを 確保 する こと はな い。 【タ イズ の流 通経 路】 - 131 - 4-6.信 頼関 係の 諸相 4-6-1. 顧客 との 関係 サ ナ ア の カ ー ト 商 人 は 顧 客 を 抱 え て い る こ と が 多 い 。 顧 客 を 抱 え る こ と は 収 入 の安 定に もつ なが る。 将来 の需 要を 確保 する ため に、 顧客 には つけ 払い も認 める 。 顧客 を抱 えて いる カー ト商 人は ホデ イダで 10 人(① ②④ ⑤⑥ ⑧⑨ ⑪⑬ ⑭)、タ イズ で 10 人 (③ ④⑤ ⑥⑦ ⑧⑨ ⑩⑪ ⑫) であ る。 抱え てい る顧 客の 人数 は 5-6 人か ら 20 人 で あ る 。 中 に は 顧 客 か ら の 売 り 上 げ の 方 が 、 一 見 客 か ら の 売 り 上 げ よ り も 多 い と いう カ ー ト 商 人 ( タ イ ズ④ ) や 、 顧 客 に し か 売 ら な い 商 人 ( タ イ ズ ⑩) も い る 19 が 、 こ の よ う な カ ー ト 商 人 は 少 数 派 で あ り 、 顧 客 を 抱 え て い て も 、 一 見 客 か ら の 売 り 上 げ に頼 る商 人が 多い 。 顧客 とい えば つけ 払い であ るが、カー ト商 人 はど のく らい つけ を待 つの かと いう と、 多くは 1 週 間程 度で ある 。最 短で 翌日 、長 く ても 1 ヶ月 程度 であ る。100 リヤ ルの カー トを つけ で渡 し、 翌日 110 リ ヤル 支払 って もら うと いう 方法 もあ る。 つけ を払 わず に 逃 げ る 客 も 少 な く な く 、 そ の 経 験 か ら 、 つ け を 認 め な い と 断 言 す る カ ー ト 商 人 も いる (ホ デイ ダ③ ⑧ 、タ イズ ③)。カ ート 商人 に とっ て、毎 日買 いに 来て くれ てな おか つ支 払い が滞 らな い上 得意 客を 確保 する こと は難 しい 。 4-6-2. 仕入 れ先 との 関係 サ ナ ア で は 仕 入 れ 先 を 固 定 し て い る カ ー ト 商 人 は ほ と ん ど い な い が 、 ホ デ イ ダ 、タ イ ズ で も 少 数 で あ る( ホ デ イ ダ ④ ⑤ ⑧ ⑨ ⑫ 、 タ イ ズ ⑫ ⑯ ) 20 。 し か し ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ で は 頼 り に な る 地 縁 血 縁 関 係 が あ る と 、 カ ー ト 商 人 は 非 常 に 有 利 に な る 。 ホ デ イダ ② は 父 親 と 出 稼 ぎ 先 の サ ウ デ ィ ア ラ ビ ア か ら 故 郷 に 戻 り 、 出 稼 ぎ で 貯 め た 資 金 を もと に 故 郷 の ラ ダ ー ァ で カ ー ト 栽 培 を 始 め 、 そ の 後 ホ デ イ ダ に 出 て き て 、 故 郷 の カ ー トを 扱 う ワ キ ー ル と な った 21 。 タ イ ズ の サ ブ リ ー の 生 産 者 は 、 同 郷 の( つ ま り タ イ ズ 市 の 南 に 聳 え る サ ブ ル 山 出 身 者 ) 商 人 ( ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ) に し か カ ー ト を 売 ら な い 。サ ブ リ ーは これ まで の調 査で 最も 地縁 血縁 関係 に依 存し たカ ート であ る。 ホ デ イ ダ で は ア ン シ ー や ラ ダ ー イ ー に 地 縁 血 縁 関 係 の あ る 人 が ワ キ ー ル に な り 、大 量に仕入れる 22 。 タ イ ズ で は サ ブ リ ー は 出 身 者 し か 仕 入 れ る こ とが で き な い 。 特 定 の 生産 地と 地縁 血縁 関係 があ ると 有利 にな る。 19 ④は若 年な がら も今回 の調 査で一 番利 益を 上 げてい る。 ⑩は生 産者 でもあ り、 自分 の カート や知 り合い のカ ートを 少量 売っ ている 。 20 ホデイ ダ④ ⑤は ワキー ルに 雇われ てカ ート を 売り、固 定給を 毎日 もら ってい るウ ンマー ルであ る( 昼食、 自分 のカー ト、 場所 代など も ワキー ルが 支給)。彼ら は特 定のワ キー ル に雇わ れて いるの で、 当然仕 入れ 先も 固定さ れ ること にな る。 21 アンシ ーや ラダ ーイーは 1990 年代 以降 出稼 ぎ資金 をも とに生 産が 拡大し たと いわ れる 。 22 アンシーやラダーイーはサナア、タイズにも流通しているが、ホデイダほど地縁血縁関係 の有利さが目立たない。他のカートの割合が多く、あまり人気がないからだと考えられる。 - 132 - 4-6-3. 家族 との 関係 家 族の 中に 複数 カー ト販 売に 関わ る人 がい るの はホ デイ ダで 5 人( ①② ⑦⑧ ⑩)、タ イズ で 9 人 (③ ④⑤ ⑥⑦ ⑪⑫ ⑮⑰ :④ と⑥ は兄 弟) であ る。 その 中で 年少 の親 族に 手 伝い をさ せて いる のは 4 人( ホデ イダ ⑧⑩ 、タ イズ ⑦の 手伝 いは 息子 、タ イズ ③の 手 伝い は姉 妹の 息子 )で ある 。 ホ デ イ ダ か ら 説 明 を 補 足 す る と 、 ① は 冬 季 だ け お じ 、 兄 弟 と サ ァ ダ に 移 動 し 、 共同 で カ ー ト を 仕 入 れ て い る 。 ② は 現 在 ワ キ ー ル を 兄 弟 と 息 子 に 任 せ 、 多 く の ウ ン マ ール を 抱 え て い る ( ② 本 人 も 市 場 に いる こ と が 多 い の で 、 引 退 し た と い う わ け で はな い )。 ⑦は 以前 は父 、兄弟 2 人 の合 計 4 人で 商売 して いた 。父 が仕 入れ たカ ート を息 子た ち が販 売し たり 、地 方に 運搬 した りし てい た。 タ イ ズ で は 、 息 子 が 父 の 仕 事 の 見 習 い 中 な の は ⑮ で 、 高 校 生 の 息 子 た ち は 、 学 校が 休み の時 は父 の仕 事を 手伝 って いる。兄弟 み なが カー ト商 人に なっ てい るの は④ ⑥(兄 弟 6 人)と ⑤( 兄弟 6 人 )で ある 。④ ⑥は 父と おじ がラ イマ 州か らタ イズ に出 てき て カ ー ト 販 売 を 始 め 、 上 の 兄 弟 は 父 か ら 商 売 を 習 い 、 下 の 兄 弟 は 兄 た ち か ら 商 売 を 習っ た( 父、 おじ は現 在引 退)。 こ の よ う に 地 縁 血 縁 関 係 を 利 用 し て カ ー ト 販 売 に 従 事 し て い る 者 は 多 い 。 た だ し注 意が 必要 であ る。 ま ず 家 族 で 分 業 す る こ と は 少 な い と い う こ と で あ る 。 ホ デ イ ダ ⑦ は 上 に 述 べ た よう に 父 と 息 子 た ち で 分 業 し て い た が 、 こ の 事 例 だ け で あ る 。 息 子 が 年 少 の う ち は年 長者 の 手 伝 い を し 、 息 子 が 成 長 す れ ば 、 家 族 で 分 業 す る よ り も そ れ ぞ れ が 独 立 し て カ ート 販売 を行 う傾 向が 強い。分業 しな くても 1 人 で仕 入れ から 販売 まで でき ると いう 点で 、 カ ー ト 販 売 は 簡 単 な も の か も し れ な い 。 し か し そ の 分 商 人 個 々 人 の 局 所 的 知 識 [塩 沢 1990]は必要 とさ れ、 はっ きり と結 果と なっ て表 れる 。 次 に 、 家 族 で カ ー ト を 売 っ て い る の は 自 分 だ け と い う 商 人 も 多 い こ と で あ る 。 ホデ イダ では 4 人(⑤ ⑥⑫ ⑬)、タ イズ では 7 人(⑧ ⑨⑩ ⑫⑬ ⑭⑯ )は 、家 族で 本人 だけ が カー ト商 人で ある 。タ イズ ⑧は 父は 農民 、兄 は教 師で、「カ ート に未 来は ない 」と反 対 され たが 、小 学 6 年 生の 時に 学校 をや めて カー トを 売り 始め た。 身内 にカ ート 商人 が い た り 、 ま た 故 郷 が カ ー ト 生 産 地 だ っ た り す る わ け で は な く 、 子 供 の 頃 か ら カ ー ト市 場で 手伝 いと して 働い てい た(ホ デイ ダ② ⑬ ⑭、タ イズ ⑦⑧ ⑯⑰)、ある いは まっ たく カ ー ト と 接 し た こ と な く 商 売 を 始 め る ( ホ デ イ ダ ⑤ ⑥ 、 タ イ ズ ② ③ ⑬ ⑮ ) と い う カー ト商 人も いる 。 最 後 に 、 息 子 を カ ー ト 商 人 に さ せ た く な い と い う 者 、 身 内 を 雇 っ て い な い 者 も いる とい うこ とで ある。息子 には カー ト商 人に な って ほし くな いと タイ ズ⑧ ⑨が 断言 した。 ⑧の 息子 は現 在無 職だ が、 ⑧は カー ト商 人に なる なと いっ てい る。 ⑨は 息子 3 人を 大 学 に 通 わ せ 、 毎 月 送 金 し て い る 。 タ イ ズ ⑯ ⑰ は 女 性 で 、 と も に 年 長 の 息 子 が い る にも - 133 - かか わら ず、 手伝 いさ えさ せて いな い。 手 伝い に身 内を 雇っ てい ない のは ホデ イダ で 3 人(④ ⑪⑫ )、 タイ ズで 2 人 (⑤ ⑥) い る 。 ホ デ イ ダ は 市 場 に 少 年 が う ろ つ い て い る の で 、 身 内 以 外 の 人 を 雇 い や す く 、ま た ⑥ は ま だ 本 人 が 若 い の で 年 少 の 親 族 が 少 な い と い う こ と も あ る が 、 必 ず し も 身 内だ けを 信頼 する とい うわ けで はな い。 頼 り に な る 地 縁 血 縁 関 係 があ れ ば 確 か に 有 利 で あ る 23 。 しか し 家 族 で 自 分 だ け カ ー トを 売っ てい たり 、息 子に はカ ート を売 らせ なか った りす る商 人も いる 。 4-7.カ ート 販売 に対 する 価値 観 上 イ エ メ ン で は 売 買 行 為 だ け で な く 、 売 買 行 為 を す る 人 、 売 買 行 為 が 行 わ れ る 場所 も蔑 視さ れる 傾向 にあ った。 この 中に カー ト 商人 も含 まれ てい た[Dresch 1989]。現在 で は 蔑 視 は 軽 減 さ れ て い る が 、 尊 敬 さ れ る 職 業 と い う わ け で は な い 。 こ の 背 景 に は上 イ エ メ ン で は 自 給 自 足 で き る 程 度 の 農 業 が 可 能 だ っ た こ と が 関 係 す る と 思 わ れ る 。一 方 タ イ ズ を 含 む 下 イ エ メ ン は 降 水 量 が 多 い こ と か ら 余 剰 作 物 を 生 み 出 し 、 そ れ が 歴代 王 朝 や ザ イ ド 派 イ マ ー ム の 進 出 の 理 由 で も あ っ た 。 ホ デ イ ダ 州 で は 農 業 が 盛 ん で ある が 、 ホ デ イ ダ 市 内 の 発 達 は 遅 か っ た 。 こ の た め タ イ ズ や ホ デ イ ダ で は カ ー ト 商 売 に対 し 、 サ ナ ア ほ ど カ ー ト 商 売 に 対 す る 蔑 視 は な い の で は な い か と 予 想 し て い た 。 し かし 予想 され た差 は確 認で きな かっ た。 小 学 校 を 中 退 し て カ ー ト 商 人 に な っ た 人 も い れ ば 、 大 学 を 卒 業 し て か ら カ ー ト 商人 に な っ た 人 も い る の で 、 カ ー ト 商 人 の 学 歴 が み な 低 い わ け で は な い 。 共 通 し て い る理 由 は 「 カ ー ト 以 外 に 仕 事 が な か っ た 」 と い う も の で あ る 。 カ ー ト 販 売 は 非 常 に 簡 単に 始め られ る。日 本円 で数 千円 あれ ば翌 日か ら でも カー トを 仕入 れて 売る こと がで きる。 取 得 す べ き ラ イ セ ン ス も 、 所 属 す べ き 団 体 も な い 。 乗 合 で カ ー ト を 仕 入 れ に 行 き 、市 場で 適当 な場 所を 探し て売 り始 めれ ばよ い。 ある カー ト商 人は 「カ ート を売 れば 2 年 で 自 分 の 家 が 持 て る ( ほ ど 儲 か る)」 と い っ た ( ホ デ イ ダ ②)。 し か し 調 査 し た カ ー ト 商人 の利 益は 1 日数 千リ ヤル から 数万 リヤ ルま で幅 があ り、 ほと んど の人 が利 益の な い 日 も あ る と い っ た 。 ホ デ イ ダ ② 自 身 は 賃 貸 住 宅 に 住 ん で い た 。 カ ー ト 販 売 を 始 める のは 簡単 であ るが 、毎 日十 分な 利益 を上 げる こと は簡 単で はな い。 4-8.お わり に サ ナ ア 、 ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ に 共 通 し て い る の は 、 新 鮮 さ が 求 め ら れ 、 な お か つ 多種 多 様 な カ ー ト を 供 給 す る た め に 、 効 率 的 な 流 通 経 路 が 形 成 さ れ て い る こ と で あ る 。地 23 父と息 子、兄弟と いう ように 、父 系親族 が利 用され るこ とが多 いが、兄は 頼れ ずに姉 妹 の夫に 故郷 の畑を 任せ ている (タ イズ ⑫)、 姉 妹の弟 を手 伝いに して いる( タイ ズ② )と いう事 例も あり、 アラ ブ人= 父系 社会 =父系 親 族とい うわ けでは ない 。 - 134 - 域 別 の 特 徴 と し て は 、 サ ナ ア で は 商 人 は 生 産 地 に ア ク セ ス し や す く 、 産 地 市 場 が 機能 し 、 生 産 地 で 数 日 分 の 契 約 を 結 ぶ こ と も 可 能 で あ る 。 し か し ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ で は消 費 地 市 場 で カ ー ト を 仕 入 れ る こ と が で き 、 生 産 地 で 長 期 契 約 を 結 ぶ こ と は な い 。 ホデ イ ダ で は 遠 距 離 か ら カ ー ト を 運 搬 す る た め に 、 運 搬 を 専 門 に す る 人 が 多 く 、 タ イ ズで は生 産地 や市 場で セリ が行 われ てい る 24 。 サ ナ ア は 部 族 的 な 紐 帯 が 強 い 地 域 か ら カ ー ト が 供 給 さ れ て い る が 、 商 人 は 部 族 的な 紐帯に縛られずに、むしろカート販売はそのような紐帯がない人に開かれた商売と な っ て い る 。 ホ デ イ ダ と タ イ ズ で は 部 族 的 な 紐 帯 は 崩 壊 し て い る が 、 し か し サ ナ アよ り も 地 縁 血 縁 関 係 が 有 利 に 働 く 。 こ の 理 由 は 、 ホ デ イ ダ で は カ ー ト の 種 類 が サ ナ アに 比 べ て 少 な く 、 夏 季 と 冬 季 で カ ー ト の 種 類 、 流 通 量 、 価 格 が 大 き く 変 化 し 、 生 産 地か ら 遠 い た め に 、 生 産 地 と 地 縁 血 縁 関 係 が あ る と 有 利 に 働 く こ と が 考 え ら れ る 。 タ イズ の 場 合 は ホ デ イ ダ 同 様 に カ ー ト の 種 類 が 少 な く 、 ホ デ イ ダ と は 反 対 に 生 産 地 に 近 く、 同 郷 の 商 人 に し か カ ー ト を 売 ら な い 生 産 者 が い る た め 、 生 産 地 と の 地 縁 血 縁 関 係 があ れ ば 有 利 に 働 く 。 も ち ろ ん 、 有 利 な 地 縁 血 縁 関 係 の な い カ ー ト 商 人 に も 仕 入 れ や すい カー トは 存在 して いて、それ はホ デイ ダで は シャ ーミ ーや サァ ディ ー、タ イズ では マー ウ ィ ヤ 、 ム レ イ シ ー 、 シ ャ ル ア ビ ー な ど で あ る 。 ワ キ ー ル に 雇 わ れ て 、 安 定 し た 仕入 れ先 と固 定給 25 を 確保 する 方法 もあ る。 しか し販 売す る上 で、地 縁血 縁関 係は 有効 で はな い。商 売を 年長 の親 族か ら習 える 、 年 長 者 の コ ネ を 多 少 は 利 用 で き る が 、 そ れ 以 外 は そ れ ぞ れ の 商 人 の 局 所 的 知 識 に 基づ く 。 こ の 理 由 は カ ー ト が 大 規 模 化 に 不 向 き な 商 品 で あ る か ら と い う 、 商 品 の 性 質 も関 係し てい るだ ろう 。 サ ナア のカ ート 商人 は“浮 気性 ”で ある と 最初 に述 べた が、ホ デイ ダ、タイ ズの カー ト 商 人 も “ 浮 気 性 ” で な け れ ば 商 売 を 続 け る こ と は で き な い 。 頼 り に な る 地 縁 血 縁関 係 も 、 父 の 代 か ら の 顧 客 も 、 一 瞬 で 失 い う る か ら で あ る 。 仕 入 れ 先 の カ ー ト が 旱 魃で 壊 滅 状 態 に 陥 る こ と も あ る 。 特 定 の 取 引 先 だ け を 一 途 に 信 頼 し て い て は あ っ と い う間 に商 売は 行き 詰っ てし まう 。し かし 3 都市 を 比べ ると 、サ ナア のカ ート 商人 が最 も“ 浮 気 性 ” で あ る よ う に 思 わ れ る 。 ホ デ イ ダ 、 タ イ ズ は サ ナ ア ほ ど “ 浮 気 性 ” で は な い理 由を 考え る上 で注 目す べき 特徴 を付 け加 えて おく 。 ホ デ イ ダ で は ワ キ ー ル の 存 在 が 大 き い 。 ワ キ ー ル に 雇 わ れ て い な く て も 、 特 定 のワ キ ー ル か ら 常 に カ ー ト を 仕 入 れ る 商 人 や 、 売 れ 残 っ た 分 の 支 払 い を 分 割 し て ワ キ ール に支 払う 商人 がい る。タ イズ では 地縁 血縁 関 係者 の結 束が 強い よう に思 える。サブ リー 24 サナア 近郊 の産 地市場 でも セリが 行わ れる と の情報 を得 たが、 未確 認。 ウンマ ール の固 定給は 2000-1 万 リヤル なの で 、特に ホデ イダの 夏季 に、商 売の うま く ない者 がウ ンマー ルと してワ キー ルに 雇われ る のは安 定し た収入 の確 保につ なが る。ウ ン マール はサ ナア、 タイ ズにも いる が、 ホデイ ダ が一番 多い と思わ れる 。 25 - 135 - は 同 郷 者 し か 仕 入 れ る こ と が で き な い だ け で な く 、 仕 入 れ る 時 に 生 産 者 と 値 段 交 渉せ ず に カ ー ト を 託 さ れ 、 販 売 し 、 売 り 上 げ か ら 一 定 の 割 合 か 一 定 額 を 商 人 が 取 り 、 後は 生 産 者 に 渡 す と い う 方 法 が 見 ら れ た 。 兄 弟 が み な カ ー ト 商 人 に な り な お か つ ほ と んど 同 じ 生 産 地 の カ ー トを 仕 入 れ て い る と い う の は タ イ ズ だ け で あ る 26 。 ホ デ イ ダ 、 タ イ ズの 家族 と信 頼の あり 方に 関し ては 今後 も考 えて いき たい 。 今 回わ ずか なが ら行 った 生産 地の 調査 で、 “有 機 ”農 法で 栽培 する ため に品 質は 高い が 大 量 生 産 が で き な い 地 域 ( シ ャ ー ミ ー 、 サ ブ リ ー ) と 、 化 学 肥 料 や 灌 漑 設 備 の 導入 でカ ート を大 量に 生産 して いる 地域( アン シ ー、ラ ダー イー 、ハ ムダ ーニ ー)が あり 、 冒 頭 の 研 究 目 的 で カ ー ト は 「 生 産 者 に と っ て 貴 重 な 現 金 収 入 源 で あ 」 る と 書 い た が、 前 者 の 地 域 で は カ ー ト は 「 貴 重 な 現 金 収 入 源 」 で あ る も の の 、 そ れ ほ ど 経 済 的 に 豊か に な っ て い る わ け で は な く 、 生 産 地 に も 格 差 が あ る こ と が わ か っ た 。 ま た シ ャ ー ミー や サ ァ デ ィ ー 出 身 の カ ー ト 商 人 は い な い と の 情 報 も 得 た 。 カ ー ト 生 産 だ け で 十 分 な経 済 力 を 得 ら れ る か ら な の か 、 そ れ と も 商 売 に 対 す る 蔑 視 が 強 い の か 。 以 上 の こ と も考 えて いき たい 。 5. 引用 文献 Dresch, Paul Tribes, Government and History in Yemen. Oxford: Clarendon Press. 1989. 片倉 もと こ、『 アラ ビア ・ノ ート :ア ラブ の 原像 を求 めて』、ち くま 学芸 文庫 、2002。 Lackner, Helen P. D. R. Yemen: Outpost of Socialist Development in Arabia. London: Ithaca Press.1985. Al-Mugahed, Leen “Khat Chewing in Yemen: Turning over a New Leaf.” Bulletin of the World Health Organization. pp. 741-742. 2008. Niebuhr, Carsten (translated into English by Robert Heron) Travels through Arabia and Other Countries in the East(1 ). 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It is harvested in the early morning, sold in the markets around noon, and consumed in the afternoon: all the stages of the process are done within a single day. The government and private companies intervene little in the process, and only one or two merchants are involved. In the case of Sana‘a, merchants go to the producing areas to get qat directly from producers, often making a contract which covers several days. Merchants in al-Hudayda and Taizz, however, can get qat in the markets inside the cities without going to the producing areas. There are many drivers specializing in the transportation of qat in al-Hudayda, which is far away from the producing areas. Auctions are held in a producing area and in a market in Taizz. Merchants in Sana‘a, where tribal ties are still strong, do not use the tribal ties to buy and sell qat. In al-Hudayda and Taizz, where it is said that the tribal structures were destroyed, blood relationships are more advantageous for getting qat. In al-Hudayda, where there are fewer kinds of qat and there is a big seasonal difference in the distribution amounts, a merchant is at a great advantage if he has a blood relationship with someone in the producing area. In Taizz, which is close to the producing areas but also has fewer kinds, there is a producing area whose producers sell their qat only to their relatives. But blood relationships are not so useful when merchants sell qat. 27 University of Tokyo - 138 -
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