「映画フォーラム」ベストテン号版 シネマ1987のホームページ「シネマ1987 online 」には映画の感想を書き込む掲示板「映 画フォーラム」があります。この中からベスト3に 入った作品の感想をピックアップしてみました。 ■外国映画1位 「冬の小鳥」 ●素晴らしい作品でした。 子どもや動物の瞳は確かに卑怯なのですが、そ の点を差し引いても文句なしに素晴らしいと思い ました。 強く求めたものを諦めざるおえないではなく諦め る瞬間、その時に見えるもの、そこから一歩前に 踏み出すこと、歩き出せたから思うことができる 見ることができる過去、そして新しい未来、それ らがラストのたった何分かの間にグッと凝縮され ていて、今思い出しても胸が熱くなります。 主人公ジニのラストの瞳や表情は最高でした。 ジニがなぜあの夢をみたのか、理解できる人に なれたことを私はとても嬉しく誇りに思います。 映画にしろテレビにしろ映像に関するもので監 督の腕や脚本より大事なのは編集じゃないかと 常々感じているのですが、この作品、そのあたり が秀逸だと思いました。 ひとつのシーンのちょっとした時間や場面のつ なぎようや音楽でベタにもできるだろうに、そん な部分が少しもないです。 物語や主人公の姿勢もなんですが、何から何ま で人に媚びていない凜とした作品です。 とにかく最高。 (手塚) ●心の奥の奥まで感動してしまいました。 ジニを演じる子役のキム・セロンの細いからだ、 体温のなさ、凍える瞳、何もかもが震える感動で した 子役が素晴らしいのはもちろんですが、自分の 子ども時代を描く監督のなみなみならぬ意気込 みが伺えました。そして新しく踏み出す時の目の 輝き、あまりにもいじらしくて、つい自分の体をよ じって両手で自分を抱きしめてしまいました。 今までの映画とは全然違うのは、孤児院の描き 方です。決して明るくはないけれど, 必要以上に惨めな描き方をしていない。 ともだち、寮母さん、などのさりげない暖かさに救 われました. 韓国語で歌う蛍の光が、胸を打ちます。 1月で,もうベストテン1位が決まるなんて困りま すよね. (林田) ■日本映画1位 「八日目の蟬」 ●観ていて、つい大きな嗚咽が・・・ヤバかった です。 私だったらあそこで娘にあんな叫ばれたら言わ れたら、誰に腕つかまれていても振りきって走っ て行って抱きかかえるでしょう。。。 たまらんかったです。 出演者全員、タクシー運転手の徳井さんまでも がハマっていて、余計な人などいませんでした。 演出もすごく上手いさじ加減で、どうしたって泣 かせなのに、そこまで観せたら余計だったのにと 思う部分が何一つなかったです。 このラストの母子も、ほんっと素敵。 あえて難を言えばエンドロールの中島美嘉の歌 でした。 もうちょっと歌詞をさりげなくしてくれたら良かっ たのに。でも、まぁいいかな。 永作博美は超うま。 森口遙子も上手、バカ男の旦那も劇団ひとりも、 本気でイラッとするぐらい上手。 また小池栄子がいい。 子役は赤ちゃんもあの女の子も、私がさらって行 きたいほど可愛い。 とにかくセリフのある人たち皆、すごく雰囲気が 良かったです。 田中泯さん、えらい格好良かった。 それにしても劇場でも声出して泣いてしまったの は、永作博美のこらえ切れない泣きの演技がす ごかったからでしょうねぇ。。。 ホントに・・・・ 愛人に二度も堕胎させておいて、自分は奥さん に2人も3人も子どもを産ませていた馬鹿男が、 愛人に家に放火されて子どもを死なせてしまっ た事件がありました。 その事件を基にしています。 原作は読んでいませんが、その事件は知ってい ます。 女ふたり、何もそんな馬鹿男にいつまでもくっつ いていなくてもいいのに、と思った記憶が。 この作品では、鬱積した怒りや悲しみ、孤独が、 負の思いを超えて大きな愛へと浄化できると謳 っています。 ささやかな母子が見た「美しいものたち」。 それらは子どもの心に大きな自信を与えてくれま した。 人は愛されて育てば、人を愛することができま す。ぜひ、観てください。(手塚) ■外国映画2位 「キック・アス」 ● R15も納得の最強のバイオレンス映画です ぞ。 しかし、面白い! こんなに歓んじゃっていいの?と思うくらい残酷 で愉快です。 冴えない高校生が、なんの根拠も無く、技も特 技も持ち合わせていないまま,ただ,自分勝手 にスーパーヒーローになっちゃうのですが、めち ゃくちゃにやられても立ち上がる、撃たれ強さが 見もの。 ヒットガールに扮した女の子クロエ.モレッツが可 愛くて凄い。末はアンジョリーナ・ジョリー間違い 無しのアクションを見せてくれます。 最近老けちゃって冴えなかったニコラス・ケージ のビック・ダディぶりも面白いし、 本物の悪になった気になる俳優は誰? 画面は血だらけ,音楽もガンガン,主役の二人 は実に可愛い。私好みではありましたが、でも、 子どもに見せちゃ駄目。 (林田) ■日本映画2位 「一枚のハガキ」 ● 水桶をかつぐ大竹しのぶの格好は「裸の 島」の乙羽信子と同じだ。苦境にあった近代映 画協会を救い、新藤兼人監督の評価を世界的 に高めた「裸の島」と同じモチーフを取り入れた のはこれが99歳の新藤兼人最後の作品であるこ とも影響しているだろう。しかし、それ以上にこれ は人間の営みを表すものである。セリフがなかっ た「裸の島」とは異なり、この作品は饒舌で、しか も叫ぶセリフが多いけれど、性も含めた人間の 営みを重層的にとらえる視点はまったく揺るがな い。そうしたところが映画に厚みが出てくる要因 だろう。浮ついた薄っぺらなキャラが多い最近の 邦画の中でこの映画が光っているのはそうした 人 間 の 描 き 方 が 優 れ て い るか ら に ほか なら な い。見ていて重喜劇、人間喜劇という言葉が思 い浮かんだ。豊川悦司と大杉漣が殴り合うシー ンなどは血の通った人間であるからこそのおかし みが生まれている。 パンフレットの裏表紙にある言葉がこの映画を 端的に物語っている。「戦争がすべてを奪った。 戦争が人生を狂わせた。それでも命がある限り、 人は強く生きていく」。強く生きていくというか、生 きていかねばならないのだ。どんな不幸があろう とも、それでも人生は続く。被害者意識や自己 憐憫に浸ってばかりはいられないのだ。 夫が戦死し、再婚した夫の弟も戦死し、義父 母を相次いでなくしてひとりぼっちになった友子 (大竹しのぶ)は古い家とともに「野垂れ死んで」 いく覚悟だ。そこへ戦争中、夫が託したハガキを 携えて松山啓太(豊川悦司)が訪れる。100人中 94人が死ぬという状況の中で、松山は幸運にも 生き残ったが、復員してみれば、妻は父親と駆 け落ちしていた。毎日を無為に過ごしていくうち に、ブラジルへ移住しようと考えた松山は整理し ていた荷物の中から一枚のハガキを見つける。 このどちらも失意の2人が出会うことで再生を果 たしていく姿に説得力がある。どちらかが優れた 人間 で あっ た わけで はな い。 人が再 生するの に、優れた指導者のような人間は必要ない。神 も宗教も書物も不用だ。人と人が出会うことで、 何らかの小さな変化が生まれるのだ。新藤兼人 の体験を元に書かれたこの脚本はそういう視点 があるからこそ素晴らしい。「裸の島」にあった麦 踏みのシーンはこの映画でも繰り返される。踏ま れた麦はたくましく育つ。いや、麦は踏まれなけ れば、強くならない。麦踏みのシーンが踏まれて も立ち上がる人の比喩であることは明白だ。 「あんたはなんで死なんかった! あんたは なんで生きとる!」。大竹しのぶが悲しみから怒 り、後悔までを見せる中盤の長いワンカットには 演劇のような緊張感が漂う。役者の演技と監督 の思いが重なって、充実した映画になった。新 藤兼人、引退はまだ早いのではないか。 (横 山) ■外国映画3位 「英国王のスピーチ」 ●このタイトルを観ただけでもわくわくしてしまう 程イギリス大好きな私には、待ちに待った上映で した。 英国王ジョージ6世が、吃音症を克服し、立派な スピーチをした、と言うだけの物語ではあります が、とにかくコリン・ファースの気品ある立ち居振 る舞いに、その立派さに、もう目が眩む程の憧れ を抱いて、心がとろけました。 彼は「シングルマン」での高級感も素敵でした が,今度は世界に誇る大英帝国国王ですから ね。彼にしか出来ないでしょう、この役。 演説は人々を鼓舞する魔法の力があります。言 葉の持つ力、言葉を発する人のオーラ。ヒトラー の足音が迫り来る世界大戦前のイギリスでは 国をひとつにもり立てるためには、国王の立派な スピーチがどうしても必要だった訳です。 もちろんクライマックスはラストの国王のスピー チ。 あとは起伏も無くこれと言った事件も無く、映画 はどちらかと言えば盛り上がりにかけます。 歴史上から見ても、シンプソン夫人との結婚のた めに王位を捨てた兄エドワードの事件が世界中 のトピックスだった訳で、その兄の跡を継いで王 になったジョージは目立たない存在でした。 そこに目を付けたイギリスの映画界に拍手です。 若い監督にこれほどの地道な器量があったとは 驚かされました. しかし、何と言っても、コリン・ファース、ヘレナ・ ボナム・カーター,ジェフリー・ラッシュ、という演 技派を揃えたことが、何よりの成功だったと思い ます。 夫を案じる妻、王妃役のボナム・カーターも素敵 でした。 鑑賞後、久々に満足感を味わい、飲めないワイ ンでも飲みたくなる気分。 (林田) ■日本映画3位 「冷たい熱帯魚」 ● DVD 鑑賞。ちょっとさわりだけでも観てみよう かと思ったらガッツリ2時間観てしまった。 いやはやこれは問題作だわ。『愛のむきだし』の 園子温監督「家賃三部作(実話を元にしたシリ ーズらしい)」の第一作。エログロ全開の作品で R-18指定も納得の内容。 でんでんの怪演が凄まじい。でんでんといえば 『鈴木先生』での先輩教師役や『モテキ』での幸 世の父役などフツーのどこにでもいる人の良さそ うなオッサンというイメージだが本作ではそれを 完全に払拭する強烈なキャラクターを演じてい る。 土足でドカドカと入り込み相手に隙を与えず自 分のペースに持ってってしまう、一本調子の大 声と胡散臭い笑顔。あーでんでんのフツーっぽ さがこれほどまでに恐ろしく感じるなんて。 吹越満もいつもの飄々とした軽いイメージを封印 してひたすら気弱な熱帯魚店の店主役を演じて いる。終盤の一皮むけた演技も人間に潜む狂気 の部分をうまく表現していたように思う。村田(で んでん)と社本(吹越満)は表裏一体であり狂気 が継承され伝染していく過程にグイグイと引き込 まれる。 万人向けではない映画だと思うし、軽く観たいと いう映画ではない。『愛のむきだし』が気に入っ た僕には刺激が強すぎた。しばらく唐揚げが食 べられないよぅ。 社本の娘役で『仮面ライダー剣』の天音こと梶原 ひかりが出演。クレジットみるまで全然わからな かったよ。剣の時はなんてブサイクな子役なんだ ろうと思ってたら案の定『女王の教室』でブサイク にワガママがプラスされた役で登場。本作でもそ んなブサイクかつワガママそうな雰囲気が全開。 これからもこの路線でしぶとく生き残ってもらいた い。切に。切に。(河野)
© Copyright 2024 Paperzz