求められるロジスティクスの戦略的対応-

“ロジ”達の‘モノ’ウォッチング
‘Object’-Watching by “Logistics’s”
新しい需要動向やロジスティクス手段の出現
-求められるロジスティクスの戦略的対応-
2015.5 MegumiCoLabo Co-Reflector 相田 剛
ネット社会が進む中で、オムニチャネルへの戦略
対応が課題になっています。それと同時に、オムニ
化した需要予測においても、ネット上でつながるリ
アルな個客の動向を如何に把握し、対応していくの
か、新しい課題が顕在化しているようです。そのネ
ット社会自体も変化しているのです。
◆
春には新商品の発売が続きます。需要を見誤った
結果、発売直後に出荷停止になる例があります。大
型の新製品には事前のサンプリングやモニターキャ
ンペーンなどで十分な事前準備がなされます。しか
し、先般出荷停止を発表した大手飲料メーカーの新
製品の場合は、発売後 2 日間で目標販売数(年度末
までの 9 ヵ月間)を超えた出荷になりました。原料
調達を含めた供給能力をオーバーし発売直後の出荷
停止となったのです。その新製品のツイート数は、
発売 3 日後には、この目標販売数の約 1 割近くにも
達していたといいます。またその後に出た新製品で
は、発売時に月間販売計画の約 1.5 倍を超す注文が
きて、
出荷停止となりました〔日本経済新聞電子版(以
下、日経電子版)2015.4〕
。メーカーでは混乱対応と
要因分析や再発防止策の検討がなされています。
様々なメディアに露出したことの影響もありますが、
報道で指摘されているのが、SNS〔交流サイト〕に
よる新しい需要の形成、ということでした。
「新製品発売」や「終売」のロジスティクスは非
常に難しく、SCM 基盤を構築し、その日常運営で安
定レベルに到達していたとしても、その上にさらに
新製品や終売品が持つ全く未知の要素への対応が求
められるのです。従来から、市場情報の確度向上、
供給増減の瞬発力確保、エリア別の順次実施などリ
スクへの工夫を組込み、例えば注文の潮吹き現象な
どにも、オペレーションとマネジメントで対応して
いる訳ですが、これでは不十分だった、ということ
です。
メーカーとしての矜持、
供給責任について、
“ロジ”
達もさらに考え対処する必要がありますが、変化の
激しい嗜好品などでは特に、顧客、市場の構造的な
変化、時代の変化にも《目》を向けるべきでしょう。
SNS にも匿名で参加する「疲れない」サイトが出
現し、昨秋には日本にも登場しました。また、ポイ
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ントカードでは、コンビニなど 2 万店舗が加盟する
カードに JAL やドコモが参加するなど 5 千万人を超
える個人契約者が Big Data を形成します。電力会社
も既存ポイントと連携します。ネット通販でのポイ
ント化も進み、カード間で競合化していきます。
SCM には、
新製品や終売のマネジメント対応だけ
ではなく、オムニチャネル時代のロジスティクスと
して新しい戦略対応が求められているのです。
例えば、Big Data 解析により需要予測精度を向上
させ、次なる売れ筋を探し、ロスをさらに削減する
取り組みが、食品や飲料メーカーで進みます。大手
ビールメーカーで導入する需要予測の仕組みでは、
2014 年の新製品 3 アイテムで検証した結果、予測
と実際の誤差で 0.1%、1.6%、2.4%であったといい
ます〔日経産業新聞(以下、日経産業)2015.5〕
勘頼みを脱し、予測精度を向上することは望まし
いのですが、いわゆる「当てもの」ではないので、
気象予測の精度でも同様ですが、メーカーの頭脳の
強化には正解がありません。従って、考え続け、新
陳代謝し、足腰を強化し続ける必要があります。供
給量の増減対応という瞬発力、プロセス力を確保す
るための新しい枠組みなどにも、ロジスティクスの
次世代へ向けた戦略的取組が必要なのだと考えます。
こうした視点は、俯瞰洞察とともに、フィードバ
ック構造をもつ、需給サイクルや商品開発を起点と
する Business-Turn-Around Cycle(タビオ社の事例
で紹介)にとって大変重要な《目》なのです。
◆
IoT への対応の動きにも注目されます。パナソニッ
クは IoT 特許を無償公開し、ネット家電関連の開発
を加速することで自社家電の販売規模の拡大を狙い
ます〔日経電子版 2015.3〕。東芝は米マイクロソフト
と IoT 分野で提携し、その第 1 弾として物流会社向
けサービスを年内に開始するといいます。また、Big
Data 収集・分析の劇的な能力向上が進み、様々な企
業の農業、物流、売り場など動態領域に IoT が広が
っています〔日経産業 2015.6〕
一方で、IoT 家電のセキュリティ欠陥が報告され
ています。日本ヒューレット・パッカードの調査で
は、市販家電(ネット接続可能)15 種に個人情報が
盗み見られる脆弱性が 250 件見つかった、と安全性
に警告を発します〔日経産業 2015.3,4〕。
また、トレンドマイクロによる昨年 12 月の日米
欧 12 カ国の個人情報に関する意識調査では、IoT 家
電から個人情報の漏れる懸念を持つ人が約 8 割に及
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び、遺漏の被害経験は平均で 61%を占めています。
そこで個人情報の入手に払うべき価格を聞いたとこ
ろ、平均価格(1$=100 円)は、氏名 3.89$、購
入履歴 20.65$、健康状態 59.83$、パスワード 75.84
$などだった、といいます〔日経産業 2015.3,4〕。
トイレに臭いセンサーが付き、ネット上の排泄物
IoT、トイレの腸内健康診断開発も進みます。IoT の
機能、領域の広がりには爆発的な勢いを感じます。
しかし、発明、開発品の導入には個人情報、セキ
ュリティと併せて、正しさを観る《目》や影響を受
ける主体も構成要素とされるべきです。デジタル情
報などそもそも今までに存在したことがないために、
その影響の想像や提示が難しいのです。
だからこそ、
「便利だし、できるからやる」だけでなく、生活現
場に入り込む速度に、人知・外部淘汰を超えている
側面があることを決して忘れてはならないのです。
◆
さて、空の産業革命ともいわれているドローン〔無
人飛行機〕は、国内では首相官邸の屋上落下を契機
に規制が検討されるようですが、米国ではアマゾン
の商品配達における試験飛行が、2 月に発表された
規制案より厳しい条件付きで認可されました〔日経
産業 2015.4〕
。米国の規制案は、本体重量は約 25kg
以下で、飛行は時速約 160 ㎞以下、高度約 152m 以
下、夜間および直接関係者以外の頭上禁止、操縦者
の視認範囲内等です。
スイス誌ルマタンの報道では、アルプスの山深い
離村を有するスイスの郵便公社スイスポストはドロ
ーンによる配送サービスに向けた試験飛行を 6 月に
実施する予定です。最大 1kg の小包などを 20km の
距離まで飛行運搬します〔日経産業 2015.5〕。
第 1 回目の国際ドローン展が 5 月 20 日から千葉
県の幕張メッセで開催されています。機体性能や制
御技術、適用サービス機能や修理サービスなどで注
目を集めている、といいます〔日経産業 2015.5〕。
既に、大手警備会社ではドローンの検知・通報サ
ービスを開始しています。センサーから半径 150m
の範囲で飛行音を検知し、機種も特定して、スマホ
に通知するのです。画像センサーも併用して検出精
度を高める、といいます〔日経産業 2015.5〕。
3D プリンタも柔らかな造形物が可能になる樹脂
が開発され、例えば緩衝材も簡単に最適化されると
いいます〔杜師康裕氏 日経産業 2015.4〕。まだまだ
素材機能やコストなどの課題がありますが、多様な
深化がもう目前にあると思います。
開発試作は勿論、
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車のボディデザインもオンデマンドされています。
自動車生産では金型やプレス機、ロボットも不要に
なる開発が進んでいます。キーワードは「フレキシ
ブル」です〔近岡裕氏 日経産業 2015.5〕
。もの造り
では前工程が省略され、その機能が次工程に組み込
まれます。消費するものを自家生産する、というこ
とです。ロジスティクス工程で果たすべき機能につ
いて戦略検討する要素があるはずです。
◆
ゼロ・エミッションに続いて、ゼロ・エネルギー
を標榜した事業所、施設や建物の開発も進みます。
ビル 1 棟で目標を達成しようという例では、風や
外部光を活用することで使用電力を大きく減らし、
壁一面に有機薄膜太陽電池を貼り、またセンサーと
連携したパーソナル照明や空調を活用します〔日経
産業 2015.4〕
。まさに「自律・分散」です。
リチウムよりコストが安く資源に優しいナトリ
ウムイオン電池の開発、実用化間近の振動発電、エ
ネルギー変換効率で 10%を達成した塗る太陽電池
〔OPV〕等々、分散と統合を担うロジスティクスに
おいても「自律化」はかなわぬ夢ではありません。
◆◆
ロジスティクス手段は新時代を迎えます。まだコ
ストや適用機能に壁はありますが、通信・データ共
有などの枠組み変化で、需給や輸配送構造も変わり
ます。口コミデータも対象にするデジタル・マーケ
ティングへと向かいます。これらと戦略連携しなが
らロジスティクスもデジタル・ロジスティクスへと、
また仮想統合などマネジメントや仕組みにおける次
世代への深化へと向かうでしょう。
◆
移動手段の未来はオンデマンド・サービスになる、
という長期予想(2030~2060 年)があります。ロ
ーランド・ベルガー社のまとめでは、米国で自動車
の保有台数は減りますが、その一方で必要な時にス
マートフォンでネットから自動運転車を呼び出す
「移動手段のオンデマンド・サービス」が普及する
とみます。キーワードは「自動運転」
「シェアード・
モビリティ」
「コネクティッド」の 3 つです。自動
運転の実用化ではグーグル社が注目されるといいま
す〔田中暁人氏 日経産業 2015.4〕。
日産自動車のカルロス・ゴーン社長は自動運転につ
いて、例えばグーグル社の「運転手が不要になる」
方向とは異なり、
「快適運転」を目指し、2020 年ま
でに技術をそろえる準備はできており、あとは各国
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“ロジ”達の‘モノ’ウォッチング
‘Object’-Watching by “Logistics’s”
の法的な対応次第だ、と述べます。また資本提携を
前提としない技術や開発提携など、関連する領域で
の協力はできる、というのです〔日経産業 2015.5〕。
自動運転はドライバー不足をも補うのでしょう
か。日本では、大手コンビニ店舗から半径 500m ま
でを台車で配送するという提携サービスが 6 月中旬
に始まります。宅配ラスト 1 マイルの救世主として
なのか、あるいはコンビニの戸配体制強化なのか、
新たに共同会社を設立し、個客サービスで協働しま
す〔日野なおみ氏 日経ビジネスオンライン 2015.4〕。
ビール配送の共同化でも、2011 年からアサヒとキ
リンの 2 社が一部地域で実施し、対象地域と品目の
拡大を進めていましたが、6 月からはサッポロが加
わり 3 社での共同化を都内から開始するといいます。
米国等の大都市では、ネット上でタクシーを仮想
統合する配車サービスが、同一インフラ・ソフト上
で外食の出前代行にまでサービスを広げています。
フィリピン政府は、ネット配車など、インターネッ
ト技術の応用を利用した輸送サービスを「公共輸送
機関」の分類に含めました〔日経産業 2015.5,6〕。
フィリピン政府は、ネット配車など、インターネッ
ト技術の応用を利用した輸送サービスを「公共輸送
機関」の分類に含めました〔日経産業 2015.5〕。
ロジスティクス手段の新時代に、Shared Goal に
向かう新しい関係性モデルが生まれます。筆者のい
う新しい‘相律’による新しいソーシャル・ビジネ
ス・フェーズ〔S&B-Ph〕が戦略的に形成されながら、
ロジスティクスも新時代に入っていくと観ます。
◆
‘モノ’という Real な流れ、Transportation にお
ける戦略性も非常に重要です。それは「お届けする」
‘モノ’の交換価値と使用価値を実現することに加
え、
「つなぐ」という関係性を実現し、さらにその結
果としての新しい S&B-Ph を創出するからです。
ヤマトグループが 2013 年に竣工した羽田クロノ
ゲートは、アジアと日本を「結節」し、それにより
多様な付加価値サービスを実現する新しいネットワ
ークを形成させます。さらに東京、神奈川に次ぐ新
ネットワークの中核施設として
「三河ゲートウェイ」
を愛知県豊田市で 2016 年 10 月に稼働させますが
「バリュー・ネットワーキング」という構想の実現
を進めているのです。また、通販強化を目指すユニ
クロと多角化を進める大手住宅メーカー大和ハウス
が新会社を共同設立し、国内に 10 か所程度の拠点
を新設するといいます〔日経産業 2014.10〕。
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沖縄県那覇空港の「貨物ハブ」は既に5年を経過し、
航空貨物で国内と特にアジアを結ぶサービスがその
価値を拡大しています。昨年3月末で56社が進出し
ました。半導体メーカーの生産拠点移転も含まれて
います。米食品医薬局(FDA)の承認を得た医療関
連企業も研究拠点を移転するなど医療分野でも注目
されています。中国の通販最大手アリババ集団の配
送を担う中国物流の最大手も2014年に日本法人を
空港近くに設立しました。ブランド価値の高い日本
食材の鮮度サービスを提供できる「国際クール宅急
便」も頭打ち打破の課題があるとはいえ16億個以上
を取り扱います。今後は、鮮度重視の衣料品を含め
た「越境ネット通販」を支えていくと期待されます
〔沖縄貨物ハブの実力 日経産業2015.4〕。
また、プロロジスは茨木市に国内最大級(羽田ク
ロノゲートの延べ床面積の約 96%)で 79 棟目にな
る賃貸倉庫を起工し、
来年 9 月には竣工の予定です。
また、‘モノ’の流れはインターナショナル戦略でも
あります。中国主導で設立され、AIIB〔アジアイン
フラ投資銀行〕は、米国の予想に反して、G7 内の国
も参加し 57 カ国で年内の運用開始をめざします。
設立協定では、資本金が当初の倍 1000 億ドル(中
国の出資 29%、議決権 26%と拒否権を有する)に
なるといいます〔朝日新聞 2015.5〕。これらは、昨年
12 月に運用を始めたシルクロード基金(中国の出資
100%)が目指している「新シルクロード経済圏」
構想と地域や顔ぶれが重複して〔日経産業 2015.5〕
ようですが、いずれにしても、インフラ、実物交易
のルート構築が国境を超えた戦略として構想されて
いるのです。
そのルートは、西安から中央アジア、モスクワ、
ロッテルダムを経由してヴェニスに至る陸の「シル
クロード経済ベルト」と福建省・福州から、ベトナ
ム、インドネシアのジャカルタ、スリランカのコロ
ンボ、インドのコルカタ(カルカッタ)
、ケニアのナ
イロビ、スエズ運河を経由してギリシャのアテネ、
そしてヴェニスに至り、陸の新シルクロードとも繋
がる「21 世紀の海上シルクロード」です。
◆
世界人口の増大とその都市集中がもたらす「都市
化問題」でもエネルギーの Smart 化だけでない対応
変化を引き起こします。変化の中にいる当事者には
見えにくくても、新しいロジスティクスの時代はも
う始まっているのです。
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