Title 電気インピーダンス法による心拍出量の非観血的測定法 : 第Ⅰ法 本法の精度に関する研究 Author(s) 山田, 明夫; 伊藤, 寛志; 山越, 憲一; 三浦, 茂; 富野, 哲夫; 栗沢, 貫治; 熊本, 三矢戒 Journal URL 東京女子医科大学雑誌, 43(4):292-301, 1990 http://hdl.handle.net/10470/2079 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 38 (東女医大誌 第43巻 第4号頁 292∼301昭和48年4月) 電気インピーダンス法による心拍出量 の非観血的測定法 第1報 本法の精度に関する研究 東京女子医科大学医用技術研究施設(主任 講師 山 田 ..明 ヤマ ダ アキ コシ 一一・ ケン ウ 授 イチ 富 西 新 井 病 院 ト 日本光電工業KK 栗 クリ 日立レントゲンKK 茂教授) 伊 藤 寛 イ 才 山 越 憲 ヤマ 夫・助教授 三浦 士 ’ヲ ヒ ロ 三 浦 茂 .ミ ウラ シゲル 野 ミノ 沢 サウ 熊 本 クマ トウ モト 哲 夫 テツ オ 貫 治 カン ジ 矢 戒 ヤ カイ (受付 昭和48年1.月5日) Measureme蹴of Cardiac Output by t血e Tra轟stboracic Impedance Pletkysmography Part夏. Correlation between the lmpedance and the Electromagnet量。 nowmetry Institute of Medi.cal Engineering(Director and Pro£Shigeru MIURA) Tokyo Women,s Medical College Ak量。 YAMAI)A*, H圭rosぬi ITO㌔Kenichi YムMAK:OSHI*, Shige瓢MIURA*, Tetsuo TOMINO**, Kanji KUR夏SAWA***, and M量yakai KUMAMOTO**** Atransthoracic impedance plethysmography with長)ur electrodes was developed to measure cardiac output. According to Nyl)oer,s theory, stroke volume(」V)can be calculated by the R)llowing equatめn: ・v一・・(LZo)2・藩一・T whereρ:resistivity of blood, L:distanoe between the potential electrodes, Zo:the total impedance be. tween theβ1ectrodes, dz/dt:the derivative of z witll respect to time, and T:ventricular(彗ection time obtained f}om dz/dt curve. *lnstitute of Medical Enginccring, Tokyo Women’s Mcdical College. **Nishiarai. Hospita1, Tokyo. ***Nihon Koden Kogyo Co. Ltd. ****Hitachi Rocntgen Co. Ltd. 一292一 39 Acomparison study with simultaneous impedance and electromagnetic Howmetry was carried out orl 28 dogs. The correlation coe缶cient on individual dogs was r;0.79. And that on a dog whose cardiac output was controlled by chemical agents(epinephrine and vagostigmin)was r=0.92. Based on these results, we have conc】uded that the impedance method could be usefhl in clinics so魚r as re− Iative values are concerned. L 緒 言 能である,3)循環系に逆流または短絡があって 循環系の動態をあらわすパラメーターとして も比較的正しい値が測定できる.4)測定に伴な は,動脈圧をはじめとする種々の要素が挙げられ うショソク,感染などの心配がないこと,5)安 るが,とりわけ心拍出量は心臓の動的機能を直接 全であること,6)安価であること,などの利 的に表現する指標として重要なものである.近年 点を有する.しかしながら本法の精度に関しては ICUやCCUなどが開発されると共に,循環系 現在まで多くの研究老によりまちまちの値が報告 の種々の要素を連続的に測定し,監視する方法が されている.すなわち本法で測定した心拍出量と 求められ,特に心拍出量を長時間,連続かっ非観 上述した種々の:方法で求めたそれとの相関係数 血的に測定する新らしい方法に対する要望がたか は,後述するように0.26∼0.93であるという(参 まっている. 考文献24)参照).このような相関係数のばらつき 今日,心拍出量の測定には種々の方法が考案さ がいかなる原因に基づくものかという疑問を明ら れ,その多くは臨床的に日常用いられている.すな かにするために開始したのが一連の本研究10)40)で わち,色素またはラジオアイソトープなどを用い ある.したがって,本研究の第1の目的は著者ら る指示薬希釈法Indicator Dilution Method, F童ck が新らしく試作したインピーダンス測定装置を用 の方法,胸部X線撮影による心拍運動の直接計測 いて心拍出:量を測定し,それにより本法の精度を 法,大動脈圧曲線から求めるPulse Contour法と 検討することである,そのためにはインピーダン Pulse Pressure法, Ballistocardiographyさらに電 スの測定条件をいかに厳密に定めるかというこ 磁流量計,超音波血流計など枚挙にいとまがな と,次に心拍出量の対照をどのような方法をもっ い6).これらの測定法のいずれをとっても上記の て測定するかについて極力留意した.すなわち, 要望を完全にみたすものではない. 心拍出量測定には種々.の方法があるが,著者らは 胸部に微小な高周波定電流を通電し,そのイン 電磁流量計のプローブを大動脈基部に挿入して当 ピーダンス変化波形を数学的処理して心拍出:量を 該部の血流量を測定し,本法と比較して相関係数 求める理論は,NyboerおよびBonjerらにより提 を求めている. 唱され(参考文献34)参照),さらに今日Kubicek 11・実験方法 ら26)27),AUison1)らおよびKinnen21)らにより 1,胸部インピーダンス変化から心拍出量Card量ac Outputを求める理論 ほぼ実用の域に達している.これに対する理論 Nyboer32>およびBonjer注1)は長さL,断面積S。の 上7)31)および精度上5)の批判はあるが,わが国に 血管または弾性管を考え,この中に血液が流入したとき おいても岩根11)12)13),吉良22)23),Hukushima8), この血管は長さLをかえずに断面積がSになると考える Sugano37)および斉藤ら35)36)が本法に着目し,その (図!参照).血液流入前後の血管長軸方向の電気的イン 成果を報告している.また著者らもすでにKinnen らとほぼ同様な装置を試作し,動物実験および ピーダンスをそれぞれZ。,Z,血液の抵抗率をρとすれ ば, 臨床実験を行ない,本法の有用性を確認してい る28)29)38).すなわち本法は,1)非観血的方法で 注1)本理論はNyboerらおよびBonjerらにより あり被検者にいささかの苦痛も与えない,2) ! ほぼ独立に完成されたものである,(参考文献33) 回心三二量Stroke Volumeの長時間連続監視が可 のAddendum参照.) 一293一 40 T L ・V一・(去)2・誓・T S P一一 ……(1・) である.但し本実験では ユ ρ:50K:Hzで求めた血液の抵抗率で,ヘマトクリ ット値による変動を無視して一応1400hm. cm Vo とする49. ⇒ L,.一…\ L:電圧電極間距離(cm)(電極の接着法に関して 」 は後述する). Z。:胸部全インピーダンス(ohm) dZ/dt:胸部インピーダンスの時間での微分値(・hm/ sec)の最小値. 図1 インピーダンス心拍出量計測法の原理を説明 T:心室駆出時間(sec)であるが, dZ/dt波形から する円筒模型(説明本文) 求めている. 瑞一・計 心拍出:量はCardiac Output(以下C.0.と略称する) ……、(1) は,求めた∠Vに1分間の平均心拍数をかけ1/minの単 または, ・一・÷ 位であらわす. ……(・) 2.実験動物および実験装置 となる.血液流入前後のインピーダンス変化を∠Zとす 1)実験動物 れば 本実験はすべて体重約10∼20㎏の雑種成犬を用いて行 4Z=Zo−Z …… (3) なった.体重を1㎏あたり25∼30mgのベントバルビター となり,式(1),(2)を代入すれば式(3)は, ・Z一・L(1 1So S) ルナトリウム (ミンタール,田辺製薬K.K.)を静脈内 ・・一(・) に徐々に注入して全身麻酔を行なったが,実験中麻酔深 度に応じて追加投与し,一定の麻酔深度が得られるよう となる. 一方,それぞれの体積をV。,Vとすれば式(4)は, ・z一・・(L ■VD つとめた.気管内挿管を行なって人工呼吸器(ACOMA V)一・L2(紬一)一(・) Respirator, AR−300)により調節呼吸を行なった.イン ピーダンス測定中は呼吸運動による影響をさけるため, ここで!回心拍出量Str・ke V・lume(以下S.V・と略称) 人工呼吸器を一時停止して肺を呼気位にとめる. を訂Vとすればこれを, 4V=V−Vo 2)胸部インピーダンス変化4Z,その時間微分値dZ …… (6) dtおよび胸部全インピーダンスZoの測定法. とあらわすことがでぎる.ここで4V<<V。と仮定す れば,V、・V≒V。2とみなすことができる.それゆえに 図2は本実験装置のブロック結線図である,胸部イン 式(5)は. ピーダンス変化4Zを測定するためには,実験動物の頚 ・z≒・・2 ツ ……(・) となる.ここで 』議題一・号 定電流回路 ……(・) 高周波 増幅器 (30qμA, 50kHz) Zo を代入すれば式(7)は. ・V一・(却2・・Z’. ・一(・) 電流電極 な、 電圧電極 が成り立つ。 .式(9!において,ρ,しおよグZ。をそれぞれ定数とす れ1託胸部インピーダンスの変化4Zを測定することに より,f回心拍出量4Vが求まることになる. 実際には4Zをどのように求めるかについて今日種々 の議論があるが,本論文においては,Kubicek27)らに従 い,・z. 壽!・と骸て求照とにした・・た・・つ 整流回路 廿 低周波 増幅器 微分増幅器 図2 装置のブ・ック結線図 て著者らが用いた式は 一294一. △Z dZ d毛 41 部と上腹部を剃毛し,それぞれ1対のアルミ箔テープ電 陰の 極(巾12㎜;Scotch Electrical Tape, Minnesota Mining ,。≧ AIムZ &Mig, Co., Minn., U.S.A.)を巻きつけ,ペースト 100 8量 ま (Redux Creme, Hewlett Packard)を皮膚によくすり込 80 んで電極を接着する.出力絶縁型の高周波発振器を外側 且 の1対の電流電極間に与えて300μALm・s・,50KHzの 爲 定電流を頚胸部間に通電する,胸部インピーダンス変化 〈 6ミ E60 AldZ/dt 20 4Zに伴なって発生する電位変化を内側の1対の電圧電 2 ’ oo” %Ol 極で導出し,入力絶縁型高周波増幅器で増幅する.この 罎 4く ε40 α1 Frequency 1 Hz 10 100 0 EIectrlcal Frequency Charac†eresti6s of I.RG 出力を整流して電圧電極間の胸部全インピーダンスZ。を 図5 低周波増幅器(①)と微分増幅器(●)の周 波数特性 メーターに直示すると共に,更に低周波増幅器でインピ ーダンスの変化分だけを増幅し4Zの出力を得る. dZ!dt はこれを微分回路噂導入して求めるものである.図3に 周波および微分増幅器の周波数特性をそれぞれ示す. 本装置の全景,図4に増幅回路の入出力特性,図5セこ低 本研究で採用したのはいわゆる4電極法であり,2ま たは3電極法に比して測定上種々の利点を有するもので ある34).電極接着の要領は,頚部電圧電極をできるだけ 胸部に近く設置し,約3cm頭側に電流電極を巻きつけ る.腹部電圧電極は剣状突起下3c皿の点,電流電極は1そ れよりさらに3cm尾側に巻く。 山 3) T,しの測定と4Vの算定 心室駆出時間Tは心音図を同時測定してその第1∼第 ◎. 雛鍵箋 H酒間の時間として求めることができるが,ここでは微 分波形dZ/dtからこれを求めた27》.すなわちdZ/dtの 上行脚15%の高さ (4Zは上向きをインピーダンス減少 陰 mmHg 図3 装置全景 、.10」へ\一/\\ノ\ パネル面右上部にZ。を直示するメーター,右下部 に4z, dZ/dtの出力端子が設置してある.左下部の コネクターは電極コード接続用である. o 〔V 10 △Z 壽・罷s d%t O.15↓ ↑ T Eo 。∼紗L」L」L 4 mV ECG1 2 020 〇 40 60 80 Ei (mV) 20 40 60(ohm) Z オ」L_⊥_ 図6 ポリコーダー記録の1例と,dZ/dtおよびT 100 の求め方, 図の上からタイマー,大動脈圧(A・P・),4z, dZ/dt, 大動脈基部血流量(A.F.)および心電図(ECG) をそれぞれ示す,なお図中にKubicek27}らに従っ たdZldtとTの求め方を示してある(説明本文). 図4 増幅器系の入(Ei)出力(E。)特性,とz・E。 特性 一295一 42 としている)の点と,Dicrotic Notchに一致する最小点 Z,SM (ml1 との時間をもつてTとした.参考のため図6にTの測定 30 ..・ 法を示す.Lは電圧電極内縁間の距離をメジャーで計測 25 して求め,ρは全て1400hm cmとする18)41).以上の数 値を式(10)に代入して1回心拍出量4Vを求める.ま / 20 た心拍数を数えて4Vにがければ心拍出量(1/min)が 求められる. 15 /.㌘ 4) 電磁流量計による心拍出量の測定 Io インピーダンス法から求めた心拍出量:の精度を検討す ■ るため,電磁流量計(Mult呈channel Square Wave Ele− 5 ● ctromagnetic Flowmeter MF 26日本光電工業K・K・)の 051015202530(rnD E.M,F.S.〉,、 プローブを大動脈基部に挿入し,その血流量を測定して 両者の相関係数を求めた.前述の実験動物を開胸して大 図7 28頭の個々の犬から求めた本法(縦軸)と 動脈基部を剥離し,電磁流量計プローブを挿入する。し 電磁流量計法(横軸)の相関々係 (説明本 かる後開胸して,両者の同時測定を行なう.心拍出量を 文). 調節するためには,体重1㎏あたり,0.005mgのボスミ ン注射液(1ml中,エピネフリン1.omgおよび安定剤, ● Z.SM 防腐剤を含む,第1製薬K.K.)あるいは体重1㎏あたり 〔mD 25 0.001mgのワゴスチグミン(1m1中メチル硫酸ネオス ● ● グミン0.5mg含有,塩野義製薬K.K.)などの薬物を経静 ・ ● ・ 。・こ● 20 脈的に投与する. ●・ 以上の実験から求めた測定値の中から1)4Z,2) ]5 ● dZ/dt,3)心電図,4)大動脈圧(大動脈基部にカテ ーテルを挿入し,ストレンゲージ型圧トランスジューサ ● ● 8 8 ・ ● ● ご.8” 10 MPU−0.5−290・0−III, Toyo Meas. Ins. Co. Ltd.,および ● ● 5 キャリア増幅器RP−5,日本光電工業K.K・を用いて測定 0 する.5)心音図.および6)大動脈基部血流量など ■ ● を8チャンネル型多用途監視装置(Multipurpose Poly− 0 graph, VC 85,日本光電工業K.K.)により同時記録した 図8 (図6). 5 10 15 20 E,M.F.Sy. 25 30(mD 」 一一_⊥___ 1頭の犬で心拍出量を薬物を用いて変化さ せ,本法(縦軸)と電磁流量計法 (横軸) 皿1・実験結果 との相関々係を求めた図(説明本文)。 28頭の個々の実験犬において本法と電磁流量計 による心拍出量の相関を求めた.図7の縦軸は ン(体重1㎏あたり0.002mg)を同様に投与する. インピーダンス法から求めた1回心拍出量(以後 図8はこの条件の下にZ.S.V,とE.M.F.S。V.と Z・S・V・と略称す),横軸は電磁流量計から求めた心 の相関をとったもので,その相関係数はr=0.88 拍出量(以後E.M.F.S.V.と略す)である.45。 となる.しかしながら図8の測定値から心拍数が の直線は両者の完全な一致を示し,その上下に± 異常に少ないかまたは異常に大きい(40以下, 25%の範囲を示す.25の測定値の中で約53.5%が ±25%範囲内にあり,両者の相関係数はr=0.79 200以上)ものを除いた相関係数を求めるとr= 0.92とが得られる. IV・考 である. 察 次に!頭の犬に対してアドレナリンを体重1㎏ 流体の流量は,今日工学的にはかなりの精度で あたり0.002皿g経静脈的に投与する。またアドレ 測定されているが(0.2%程度の確度),生体内」血 ナリンの効果が消失するのを待ってワゴスチグミ 流量を計測することははなはだ困難であり,完全 一296一 43 に満足できる計測法は未だ確立されていない. び図8,に示すように,28頭の個々の犬に対して したがってこの新らしく考案されたインピーダン はr=α79,1頭の犬に薬物を投与して心拍出量 ス法をどのような方法で校正するかについては様 を調節した例ではr=0.88である.その中から心 々な問題がある.本法の最終的な目的とすること 拍数が生理的範囲をこえているものを除くとr= は臨床的応用であり,それ故に多くの研究者は直 0,92という相関係数が求められる.これは上記の 接人体に対して本法を試みているので,対照とし 報告とほぼ一致するものであり,吉良24)の述べる 「本法で求められる心拍出量は,絶対値という点 ては今日臨床的に最も信頼性をもたれている指示 薬希釈法やFickの方法などが用いられている. ではなお問題があるが,心拍出量の相対的な変動 Kinnen21)は87例の弁膜疾患々者の中から67名を に関しては現在の方法でもかなり臨床にも使いう 選びインピーダンス法と色素希釈法とを比較し, る」という考えを確認した. 両者の相関係数がr=0.84,またその中から測定 以上,著者らの成績を諸研究老のそれと単純に 上疑問のあるものを除いた51名に対してはr= 比較してみたが,本質的にはなおいくつかの問題 0.88なる値を報告している.この値は17名の健 点が残されている.第/の問題は,動物実験で行 康成人に対してラジオアイソトープ1131を用い てrご0.58を求めたJuddyら14)の報告,さらに なった結果をそのまま人間に適用することの是非 についてであり,これはそのまま生体内の電流分 Harleyら5)が報告している健康入についてはr= 布の相違という問題にも置きかえられる.本法に 0.68,心疾患々者(但しこの中にはいわゆる短絡 おける生体内電流分布は既にイヌおよびウサギに 性疾患は含まない)ではr二〇.26にくらべてかな 用いて行なったKinnenら20)の詳細な報告がある り高い値である. が,更に他の動物やヒトについてのより詳細な報 一方,心拍出量を種々の方法で増減させて対照 告が期待される.胸部の中を電流がどのように分 との相関々係をしらべることは,本法の再現性を 布し,それが胸廓内臓器のインピーダンス変化に 検討することにもなる。Kubicekら26)は!0名の健 高なってどのように変化するかということは,本 康人を対象として安静時および運動時における心 法の精度を研究するためには最も本質的なことで 拍出量を115回測定し,色素希釈法との一致性を ある. みた.すなわち両者は±8%以内の差で一致する 第2の問題は通電の:方法である.通電々流周波 ものが68%,±/6%以内ならぽ95%がその中に入 ることを報告している.同様にKinnen19)は本法 数に関して,著者らは一応便宜的に50KHzの高 周波電流を用いたが,現状では個々の研究者が と被検者の酸素消費量,あるいは色素希釈法を比 それぞれ独自の周波数を用いて測定を行なってい 較1し,それぞれr=0.962あるいはr竈0.93なる る.中川30)ら,およびKinnenら20)はこの問題に 値を得ている. つき検討し,本法には30KHz以上,100KHz以 希釈法以外の方法を対照としているものは,大 下という周波数が望ましいことを指摘している. 動脈圧波形から心拍出量を求めるPressure Gra− いずれにせよ,周波数により生体内の電流分布が dient法を用いたHarley5),および電磁流量計を 変わるならば,それに伴なって本法から求めら 用いたKubicek(参考文献24)参照)らであり,彼 れる心拍出量の測定値も当然変わることが予想さ らはそれぞれrヒ0.93およびr=0.97という相関 れる,通電々流に関して著者らが用いた300μA 係数を発表し,これらの方法が希釈法に比較し r・m・s・という値も,一応安全性を念頭においては てよりよい相関が得られることを指摘している. いるが,あくまで便宜的なものであり,研究者に AIIisonらもFick法(24)参照)あるいは電磁流 よっては1mA∼5mAという種々の値の定電流が 量計1)を対照とし犬を用いてほぼ同様の結果を得 用いられている.今日,心室壁を横切って少なく ている. とも60Hzで10拶Aのオーダーの電流が与えられ 電磁流量計を用いた本実験の結果は図7,およ れば,心室細動発生の危険があることが報告され 一297一 44 ている39),これについてGeddesらは実験犬の側 に,∠Zをどのように求めて式(9)に代入するか 胸部に左右1対の通電々極を装着し,心室細動を については諸研究者が各自の方法を行なってい 発生する通電々流量と周波数との関係を検討して る.本研究では一応Kubicekの方法に従いイン いる.すなわち,50Hzで175mA r,m・s.の電流を ピーダンス変化の微分値dZ/dtに心室駆動時間T 与えれば細動を発生するが,1KHzでは1370mA をかけた値を採用している. Lm.s.,3KHzでは3600mA r.m.s.すなわち約20 この方法は式(9)の計算をコンピューターを用 倍の電流が必要であることを指摘している(参考 いて行なうことを目的として考えられたものであ 文献2)参照).著老らが用いた通電々流周波数は50 り,他の方法に比してやや計算が容易であるとい KHzであり,周波数を考慮すれぽ300μA r・m・s・ う利点を有する.しかしながら富野38)をはじめ2 というオーダーの電流は充分安全な量といえる. ∼3の研究者14)26)が指摘するように,対照より約 第3は電極に関する問題である。本研究では, 10∼20%大きめの測定値が得られる.それゆえ測 いわゆる4電極法を用いている.この方法はそれ 定値を1.19で割ったり26),あるいはTの値をやや ぞれ!対の電流および電圧電極を用いるものであ 少な目に測定27)して式(10)に代入するという苦 る.これに対し電流,電圧両電極を兼用する2電 心をしている.4Zなどのように求めるのが最も 極法もしばしぽ用いられるものである.両者のい 正しいか,あるいは」ZをdZ/dtから求めるこ ずれがすぐれているかにつき今日でも議論がある との是非については本論文第H報10)にゆずるとし が,特殊の場合を除いては4電極法がはるかにす ても,これらの波形および振幅の記録は増幅回路 ぐれている34).もちろんこれは2電極法にくらべ の諸特性により大きな影響をうけることはいうま 電極装着が多少煩雑であることは否めない.本法 でもない.現在まで発表されている多くの報告を においては頚部および胸部にそれぞれ1対の電極 みても,この点にふれているものは絶無である. を装着し,胸部に長軸方向に通電を行なってイ したがって本法に用いる低周波増幅器および微分 ンピーダンス変化を測定している.これに対し, 増幅器の周波数特性をも含めた諸特性をすべて統 Hukushima8)および吉良22)23)らは胸部の左右方向 一する必要がそこに生じてくる. で,またGeddes4)らおよび岩根11)は心臓に直接 最後に本法の精度に関する研究上最も問題とな 電極を装着してインピーダンス測定を行なつ(い る対照について述べる.前述のように現在心拍出 る.Bonjer3)らおよび著者ら10)28)は長軸(頭一尾) 量の測定には多くの方法があるが,本研究に関与 方向のインピーダンス変化が主として大動脈血流 するほとんどの研究者は指示薬希釈法をもつて対 量を反映していることを指摘している.したがっ 照としている.これは主として人体において測定 てこの方向への通電はほとんど凡ての研究者が行 を行なったために,現在臨床的に頻用されている なっていることであるが,電極の厳密な位置に 希釈法を対照として用いたにすぎない.衆知のよ 関しては諸家まちまちである.生体が本文実験方 うに希釈法自体にも種々の問題点があり6)16)17), 法1.の理論と同一のものであれば,電極は多少位 これから求めた心拍出量が必ずしも絶対に正しい 置が変っても測定値に誤差は発生しない.しかし ものとは言いきれない.またその再現性にもかな ながら電極の位置のずれが生体内の電流分布に影 りの疑問が残されている.試みに希釈法とF三ckの 響を与えるならば,測定される心拍出量はこれに 法との相関を求めた報告を挙げると,r=0.66注2) より影響をうける可能性は充分ある.したがって からr=0.83,r=0.9521)などであり,これは両 現在諸研究者によってまちまちに行なわれている 者の優劣を論ずるものではなく,心拍出量測定 電極装着の位置は統一されなけれぽならないと思 法の限界をある意味で示しているものであると理 われる. 解してよい.Harley5)らはインピーダンス法を 第4の問題はゴZをいかに決めるかということ である.すでに吉良24)により指摘されているよう 注2)考文献16)の図3より著者が計算したもの 一298一 45 Pressure Gradient法と, AllisonおよびKinnen を求めた.装置一式は自作したが,そのプロヅク はこれを電磁流量計法と比較し,いずれも希釈法 結線図および増幅器の諸特性は本文に示す.但し にくらべてよりよい相関がみられることを報告し 上式のρ:血液の比抵抗,Z。:胸部全インピーダ ている.吉良はその理由を希釈法が心拍出量を一 ンス,L:電圧電極間距離,4Z:血液に伴なう 定時間の平均値として測定するものに対し,イン インピーダンス変化である. 本法により求めた心拍出量を,電磁流量計を大 ピーダンス法は個々の心拍に基く脈動流Pulsatile FIQwを測定しているゆえにPressure Gradient法 動脈基部に挿入して測定したそれと比較して,そ または電磁流量計法とよりよい相関が得られるの の相関係数を求めた.その結果,28頭の個々の犬 ではないかと指摘している25).著者らが電磁流量 を用いてはr憲0.79,また!頭の犬を用いてその 計を大動脈基部に挿入してその血流量を測り心拍 心拍出量を種々の薬物で変化させた場合の相関係 出量の対象としたのは以上の理由による.しかし 数はr=0.88,その中から極端に異常な心拍数を ながらここで注意しなけれぽならない点は,電磁 除いたものについてはr=0.92なる値が得られ 流量法では冠血流量を無視している点9)である. た.以上の結果から,本法が心拍出量の絶対値に 安静時においては冠血流量は心拍出量のほぼ5% ついてはともかく,その相対値については臨床的 であり,これは心拍出量測定の誤差範囲として無 に充分実用にたえるという結論を得た. 視し得る:量であるが,心拍出:量が大きく増大する 本法は非観血的方法であり,かつ1回心拍出量 条件の下でも5%以下にとどまるか否かに関して の長時闘連続監視に適するなどの数々の利点を有 は検討を要する.このような条件の下での両者の する.これらの長所は上記の欠点を補ってあまり 相関は以上の理由により詳細に検討されねばなら あるものと思われる.したがって本法は臨床的に ない. はCCU, ICUのモニター,人工ペースメーカ さて現在Kinnen, Kubicek, AllisonおよびNamon ーのパルスレートの決定,あるいは外科手術中, らを中心として盛んに行なわれている本研究は, 分娩中の心拍出量モニターなどに応用可能と思わ 原理的には多くの研究老間に差異はないが,細部 れる.また一方,循環動態の生理学的および病態 については多種多様である.したがってこれら諸 生理学的研究の新らしい手段として用いられるこ 家の発表した測定結果を単純に比較して本法の精 とも期待したい. 度を云々することはさけなければならない.すで にNybQer32)が述べているように「まず第1にそ 本研究は昭和47年度,東京女子医科大学付属日本心臓 の測定方式を統一し再現性を確実にする‘‘diH髄ere− 血圧研究所公募研究であり,同施設ならびに研究資金を nces in technic and apparatus must丘rst be stan. 利用して行なわれたものである.同研究所所長榊原任教 darized and the results musts always be reproducible 授ならびに職員諸氏に深甚なる謝意を表したい.また常 vことが急務である.具体的には,1)通 電々流の周波数と実効値,2)電極位置,3)増 科学教室八月力雄教授,早稲田大学理工学部土屋喜一教 ……” 幅器,微分器の特性,および4) 生体側の測定条 件などを国際的に統一し,はじめてデーターの比 較が真に有意義となることと思われる. V・結 論 胸部に微小な高周波電流(300μAr・m・s・,50 日頃ご指導ご鞭捲いたゴいている山口大学医学部第1外 授,日本光電工業KK大内清吾開発部長,および日立レ ントゲンKK児玉真塩副技師長に深甚なる謝意を捧げた い,資料の整理,原稿の清書などの労をとって下さった 星薬科大学月比多々内典子,渡辺武子および本研究施設 松田光枝の3嬢に感謝したい. (本論文の一部を第11回日本ME学会において発表した) KHz)を通電し,胸部インピーダンスの変化ノZ 参考文献 からKubicekの式 1)Allison, R.D.= Rccent Biomedical Ap− ・v一・(LZo)㌔z plications of Four−Electrode Impedance にそれぞれの測定値を代入し,1回心拍出量」V Measuring Techniques。 Biomed Sci Instr 3 一299一 46 2)Barker, L.E.:Biomedica豆Applications of P.c. Johnson= Comparative Evaluation of the Thoracic Impedance and Isotope Dilution Electrical−Impedance Measurements. IEE Mcthods飼r Measμring Cardiac Ou亡put. 309∼327 (1967) Acrospace Med 40(5)532∼536(.1969) Medical Electronics, Monographs I−6, Ed. by H圭11, D.W. and Watson, B.W., Peter 15> 金井 寛:血流の計測,循環系の力学と計測 鴫谷亮一ら編 ME選書12,コPナ社(1971) Peregrinus Ltd。, London (1971) P.1∼42. 3)Bonjer, F.HりV.1)・Berg and M・N・J・Dirken 3 The Origin of the Variations of Body Im− 16) pcdance Occurring during the Cardiac Cycle. Circulation 6415∼420(1952) 17) 4)Geddes, LA。, H.E. HoHl and A Me110,.3 The Development and Calibration of a Me− 53∼93頁 香取 瞭・宮沢光瑞・石川欽司:心拍出量,呼 吸と循環16(3)253∼259(1968) 香取 瞭・小林義典・宮沢光瑞・石川欽司・八 巻正昭・立木 楷・松永 亮:色素希釈法の 臨床的応用に関する研究.第8報色素濃度較正 法に関する検討.最新医学27(3)567∼571 thod{br thc Continuous Measurement of Strokevolume in the Experimental AnilhaL (1972) Jap H二eart J 7 (6) 556∼565 (1966) 18) Kinnen, E., W.G., Kubicek, p. Hill ahd 5)Harley, A. and J。c.Jr. Greenfield; Deter− mination of Cardiac Output in Man by Means G。 Turton= Thoracic Cage Impedancc of Impedance Plethysmography. Acrospace Med 39248∼252(1968) Transthoracic Impedance at 100 kc。 Tech− Measurements:Tissue Resistivity in vivo and nical Documentary Report No, SAM−TDR− 64−5,USAF School of Aerospace Medicine 6)Ham弧ton, W.F.=Mea.surement of the Cardiac Output. Handbook of Physiology, (玉964)p.1∼14 Section 2, qirculation Vol.1, Chap.17, Am. 19) Physiol. Soc., Wash. D.C,,(1962)p.551∼584 Kinnen, E., W.G. K曲icek and R.P. 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Jap Heart J 11(2)149∼159 続測定法に関する研究,第2報心拍動による Impedance変化量の前胸壁皮膚面における分 (1970) 23) 布.航空医学実験隊報告8(1・2)43∼49 吉良技郎:インピーダンスによる血流測定 一一 (/967) 試s循環を中心に一一.口引吸:と循環 18 (4) 308∼309 (1970) 13)岩根正昭:Impedance法による心拍出量の連 24> 吉良技郎;心拍動に伴なうインピーダンス変 続測定法に関する研究.第3報胸壁Impedance 化の測定,循環系の力学と計測,鴫谷亮一ら編 曲線とシネカルジオグラムとの比較.航空医学 ME選書12コロナ社(!97D 193∼215頁 実験隊報告8(1・2)50∼53(1967) 25) 14)Judy, W。V., F.M. Langley, K.D. Mc. 26) Cowe皿, D.M. Stinnett, L.E. Barker and 吉良技郎:私信による。 Kub畳cek, W.G., J.N. Karnegis, RP. Patte− rson, D.A. Witsoe and R.H。 Mattson;Dc一 一300一 47 vclopment and Evaluation of an Impedance Approach to Peripheral Vascular Study. Cardiac Output Systeln. Aerospace Med 37 1208∼1212 (1966) Circulation 2811∼821 (1950) 34)Nyboer, J.: Electrical Impedance Plethy− 27)Kub量ce監, W.G., R.P. Patterson and D。A. smography. Charles C. Thomas PubL, Witsoe=Impedance Cardiography as a Springfield (1970) Noninvasive Method of Monitoring Cardiac 35)斎藤一郎・岩根正昭・渋谷 実・沼尾香代子= Function and Other Parameters of the インピーダンスプレチスモグラフによる心容 量曲線.第6回日本ME学会予稿集(1967) Cardiovascular System. Ann NY Acad Sci 170 (2) 724ゴ∼732 (1970) 36)斎藤一郎:Impedance Plethysmograph.呼吸と 循環16(8)679∼682(1968) 28)三浦 茂・伊藤寛志・山田明夫・山越憲一・富 野哲夫・栗沢貫治・熊本三矢戒:胸部インピ ーダンス法による心拍出量測定法の一考察.第 37)Suga蹴。, H. and M。0雌a 3 A New Method fbr Blood Flow Measurement. Jap J pharmaco正 11回日本ME学会予稿集(1972)323∼324頁 10 30∼37 (1960) 29)三浦 茂・.伊藤寛志・山田明夫・山越憲一:心 拍出量の非観血的測定法に関する一方法.第!1 38)富野哲夫・伊藤寛志・三浦 勇・三浦 茂・栗 沢貫治:インピーダンス法による心拍出量測 回SICE学術講演会抄録(1972)85∼86頁 定,電子通信学会医用電子生体工学研究会資料 30)申川恭一・林寄人・高松公人・長野武正・・ 荒岡 弘・大野重久:心臓および大動脈レォ MBE71−3(1971)1∼9頁 39)Whalen, R..E., C.F. Starmer and H』). グラフィーに関する研究.日本循環器学誌 Mac亙ntosh3 Electrical Hazard Assoc1ated 28 (12) 970∼993 (1964) with Cardiac Pacing. Ann NY Acad Sci 111 31)Namon, R. and F. Gollan:The Cardiac Electrical Impedance Pulse, Ann NY Acad 922∼931 (1964) 40)山越憲一・伊藤寛志・山田明夫・三浦 茂・栗 Sci 170 (2) 733∼746 (1970) 沢貫治・熊本三矢戒:電気インピ」ダンス法 による心拍出量の非観血的測定法,第皿報一 弾性管を用いたモデル実験による本法の流体 32>Nyboer, J.3 Plethysmograph:Impedance. Medical Physics Ed. by Glasser,0., VoL II, The Year Book Pub1., Chicago(1950)p.736∼ 工学的検討 ,東女医大誌投稿中 41)山越憲一・伊藤寛志・山田明夫・三浦茂:電気 743 33)Nyboer, J.=旦lectrical Impedance Plethy− 的インピーダンス法による心拍出量測定に関 する研究.日本ME学会誌投稿中 smography: A Physical and Physiologic 一301一
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