2013年 5月 30日 モーニングカンファレンス 抗菌薬とTDM 松山赤十字病院 ICT 薬剤部 宮岡 純也 TDM(Therapeutic Drug Monitoring) 血中の薬物濃度に基づいて投与量を設定 どんな薬が適応になるか? ・投与量と濃度の関係にばらつき ・治療域と毒性発現域が近い ・血中濃度と効果,副作用が相関 →血中濃度=薬物治療における指標の一つ 薬物動態学 ・物質収支 ・活性代謝物の動態 ・光学異性体の動態 ・消失経路(代謝、胆汁、腎) ・代謝部位、代謝酵素 ・バイオアベイラビリティ ・消失半減期 ・蓄積性 ・単回、反復投与における動態パラメー タの整合性 ・蛋白結合率 ・作用、副作用発現部位への移行性 ・薬物動態の変動要因(高齢者、腎・肝 障害、小児など) TDM対象薬剤 • • • • • • • ジゴキシン テオフィリン 抗てんかん薬(バルプロ酸、フェニトイン) 免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン) 抗不整脈薬 抗菌薬(グリコペプチド、アミノグリコシド) 抗真菌薬(ボリコナゾール) グリコペプチド系 ・抗MRSA薬のバンコマイシン、テイコプラニン アミノグリコシド系 主にグラム陰性菌のスペクトルカバーのため併用 腎障害、耳毒性の副作用のため使用頻度少。 ・ゲンタマイシン・・・グラム陽性球菌に相乗効果 ・トブラマイシン、アミカシン・・・グラム陰性菌用 ・ストレプトマイシン・・・結核等抗酸菌治療 ・アルベカシン・・・MRSAに活性 抗菌薬投与法の考え方の変化 Defensive 安全性確保のため + Offensive 効果を最大限発揮させる PK-PD理論に基づいた投与法 PK:薬物動態(pharmaco-kinetics) Cmax 濃 度 AUC 時間 投与→吸収→分布→代謝→排泄 薬の用法・用量と生体内での濃度推移の関係 Cmax・・・最高血中濃度 AUC・・・血中濃度曲線下面積 T1/2・・・半減期 PD:薬力学(pharmaco-dynamics) Con. 1/2MIC 菌 量 MIC 2MIC 時間 薬の濃度推移と有効性、安全性の関係 MIC(minimum inhibitory concentration)・・・最小発育阻止濃度 MBC(minimum bactericide concentration)・・・最小殺菌濃度 PK-PD解析 PK 宿主×抗菌薬 PD 起炎菌×抗菌薬 PK-PD 宿主×抗菌薬×起炎菌 抗菌薬を投与して、期待する有効性を得るために、また予測される副 作用を軽減するために、どのように用法・用量を設定すべきか? Cmax/MIC、AUC/MIC、Time above MIC、 各種抗菌薬とPK-PD 濃度依存性 濃度依存性 時間依存性 各種抗菌薬のPK-PDターゲット PK-PDに基づいた投与量の変化 クラビット® 100mg×3 → 500mg×1 ゾシン® 2.5~5g/日(分2) → 13.5~18g/日(分3~4) メロペン® 最大2g/日 → 最大3g/日 ユナシンS(スルバシリン) 最大 1回3gを1日4回 (12g/日) ※正式に保険適応をもつのは先発品のみ 抗MRSA薬 TDM推奨 • VCM バンコマイシン • TEIC テイコプラニン(タゴシッド®) • ABK アルベカシン(ハベカシン®) TDM不要 • LZD リネゾリド (ザイボックス®) • DAP ダプトマイシン(キュビシン®) VCM:バンコマイシン • 抗MRSA薬のゴールドスタンダード • グラム陰性菌には抗菌力なし • 主な副作用:腎障害 • 急速投与でレッドマン症候群(アレルギー様症状) →1時間以上かけて点滴(1gあたり) VCMの使いどころ ・あらゆるMRSA感染症 (肺、皮膚、血流、骨) ・耐性グラム陽性菌 腸球菌 (E.faecium) コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表ブ菌、S.lugdunensis) ペニシリン耐性連鎖球菌による髄膜炎、心内膜炎など ・β-ラクタムアレルギー患者の代替薬 添付文書の投与法 ・通常,1日2g(0.5g×4回) または (1g×2回) ・高齢者には,(0.5g×2回) または (1g×1回) 点滴終了1~2時間後の血中濃度は25~40μg/mL 最低血中濃度(谷間値・次回投与直前値)は10μg/mL を超えないことが望ましい TDMガイドライン コンセンサスレビュー IDSAガイドライン VCMのPK-PD • AUC24/MIC≧400 が有効性の指標 • 一般臨床でAUCは測定困難、トラフ値を代替指標 (ピーク値の測定意義は無し) ・目標トラフ値は通常10~15 ㎍/mL 重症感染では15~20㎍/mL (※添付文書 トラフ値10μg/mlを超えないことが望ましい) ・20㎍/mL以上は腎毒性が高リスクになり推奨しない VCMトラフとAUCの関係 【目標AUC/MIC≧400】 ★MRSAにおいてMIC=2はSusceptible 治療不良の報告があり、注意を要する(代替薬を考慮する) VCMの血中トラフ濃度と腎障害の関係 40% 33% Rate of nephrotoxicity 35% 30% 25% 21% 20% 10-15 mg/L (n=44) 15-20mg/L (n=15) 20% 15% 10% 5% 5% 0% <10 mg/L (n=95) >20 mg/L (n=12) Initial trough value, Lodise T P et al. Clin Infect Dis. 2009;49: 507-514 VCMの投与量目安 CCr 100 1g×3 1g×2 ←腎機能正常 500mg×3、750mg×2 50 500mg×2、1g×1 30 750mg×1 500mg×1 1~2日おき投与 ←高齢者(1g/日) 腎機能とVCM体内動態の関係 VCM0.5g1回投与 腎機能 AUC (μg/hr/ml) 半減期 (hr) 70≦Ccr 90 3 50~70 95 7 30~50 163 11 15~30 375 20 Ccr<15 683 35 カルテ記載 ↓ 新文書入力 ↓ 薬剤部 :抗MRSA薬TDM依頼書 【Ccr=70ml/min】 VCM1g×2回/day 【Ccr=20ml/min】 VCM1g×1回/day 【Ccr=20】 VCM 0.5g×1回/day 目標濃度到達に時間がかかる 【Ccr=20】 初回1g負荷、0.5g/day維持 負荷投与有りと無し ローディングドーズ1g 腎機能の推定 ■Cockcroft-Gault式 (Cr クリアランス ) ml/min (140-年齢)×体重kg (女性×0.85) 72 × 血清Cr (mg/dl) ■eGFR推算式 ml/min/ 1.73m2 →体表面積の考慮が必要 BSA 194×血清Cr -1.094×年齢 -0.287 × (女性×0.739) 1.73 検査報告のeGFRは標準体格(1.73㎡)当たりの糸球体濾過率。 体格の小さな患者で、そのまま扱うと過量投与になりうる 87歳女性: Scr:0.37 BUN 3.4 ⇒ eGFR=149 mL/min/1.73㎡ 身長141.5cm 体重28.5kg 体表面積1.08㎡ 総蛋白:6.3 g/dL Alb:1.6 g/dl 総Cho:127 mg/dl VCM 500mg/日→ トラフ 32㎍/mL ★血清Cr値 →産生量は筋肉量に依存 ・小さい高齢者、栄養不良、寝たきり →血清Crが低め ・循環動態不安定、熱傷患者では不正確な場合がある ★採血はトラフ値=投与直前(30分以内) →指示コメントを入れる ★濃度測定は4日目前後、 早めに測定してもまだ安定していない場合がある ★初回投与量の調節は不要 (全ての抗生剤) VCM→急性期はとりあえず1gを投与! 1日2回を9゜16゜で投与すると・・・ ★12時間おき、8時間おきなど 等間隔の投与指示を TEIC:テイコプラニン • スペクトル、有効性はVCMとほぼ同じ • 腎障害、レッドネック症はVCMより少ない • 安全域も広い(TEIC:10~30、VCM:10~20) • 半減期が非常に長い→蓄積性がある =定常状態になるまで時間がかかる →ローディングドーズが必須 【Ccr=30ml/min】 TEIC200mg×1回/day TEIC添付文書用法 初日 2日目以降 通常 400mg又は800mg/日 を2回に分けて 200mg又は400mg/日 1日1回 敗血症 800mg/日 を2回に分けて 400mg/日 1日1回 1バイアル=200mg 腎機能とTEIC体内動態 ※VCM:半減期3~35時間 TEIC初日400mg×2、以後400mg/日 Ccr=70 Ccr=30 TDMの目標値 a. 目標トラフ値は10~30µg/mL、しかしエキスパート は15µg/mL以上を推奨している b. 重症例、難治例(心内膜炎,骨感染)は、20µg/mL以 上に設定 (20以下で治療失敗例の報告) c. 30µg/mL以上の維持は有効性の報告無く、 コスト面からも推奨しない d. トラフ値40~60以上では、腎・肝・血液毒性の報告 トラフ20µg/mL以上における腎障害発現率 TEICトラフ最高値 20~25 25~30 30~40 ≧40 腎障害発現率 7/129例 5.2% 9/47例 19.1% 1/23例 4.3% 0/5例 0% 腎障害発現率 8.3%(17/204例) 腎障害による治療中断 2.5%(5/204例) トラフ値と腎機能低下の発生率の間に正の相関は認められなかった 2012日本化療学会抗菌薬TDM ガイドライン作成委員会報告 高トラフ値におけるVCMとTEICの腎障害の比較 トラフ濃度 (µg/mL) 腎障害発現率 VCM P値 TEIC 20~25 15/39 (38.5%) 7/61 (11.5%) 0.003 25~30 7/13 (53.8%) 3/22 (13.6%) 0.005 ≧30 10/18 (55.6%) 1/13 (7.7%) 0.008 Total 32/60 (45.7%) 11/9 (11.5%) <0.001 TEIC はVCM と比較して, トラフ値≧20 μ gmL における腎機能障害の 発現リスクは少ない 日本化学療法学会雑誌 2012; 60: 157-161 TEIC高用量投与 通常投与 (初日800mg、以降400mg/日) 高用量投与 (初日1600mg、以降800mg/日) トラフ 4日目 9.4 vs 16.3 µg/mL 8日目 12.2 vs 20.5 µg/mL 上田康晴 他.日本化学療法学会雑誌 2007; 55: 8-15 初回のTDMでトラフ15µg/mL以上とするには 一般的なローディングドーズでは不十分、エキスパート は400mg、1日2回を2日間連続投与を推奨している。 さらなる高用量レジメンも検討されている TEIC高用量投与の臨床効果 Teicoplanin 高用量投与の有用性と血中濃度 日本化学療法学会雑誌 2007; 55: 8-15 TEIC高用量投与の細菌学的効果 Teicoplanin 高用量投与の有用性と血中濃度 日本化学療法学会雑誌 2007; 55: 8-15 TEICローディングドーズ ×3 ×2 1日目 ×3 ×2 ×2 2日目 ×2 ×2 3日目 3日目以降~は腎機能に応じて投与 TEICのすすめ ・腎機能低下が懸念される例にVCMの代わりに ・重症感染では高めのトラフ値(20~)を ・急性期には積極的なローディングドーズを! ABK:アルベカシン (添付文書用法) ・1日1回150~200mg ・必要に応じ、1日150~200mgを2回に 分けることもできる 濃度依存性抗菌薬 • ピーク値 9-20 ㎍/mL (治療効果) • トラフ値 2 ㎍/mL以下 (腎毒性) 同じABK 180mg/日でも ピーク値を確保 → 1回投与量は充分に トラフ値を下げるため → 分割投与しない ABKのPK-PD 推奨指標:Cpeak/MIC≧8 MIC=1 (S) MIC=2 (S) MIC=4 (S) MIC=8 (I) ・・・ピーク8 ・・・ピーク16 ・・・ピーク32 ・・・ピーク64 → 200mg/回でぎりぎり → 実用性無し 腎機能高度低下例 1回投与量を確保するとトラフ<2が困難 トラフ<2に合わせるとピーク不十分・投与数日おき CmaxとCpeakの違い Cmax Cpeak 血中に入った薬物が 各組織へ移行する間 見かけ上、血中濃度が急に下がる ピーク値の測定 投与開始1時間後 (30分点滴→投与終了30分後に) ABKの初期投与設計 a、ABKの初期投与設計では、理想体重に基づ いて投与設計を行う。病的肥満患者では補正 体重を用いる。 b、有効性と安全性の観点から1日1回投与 c、腎機能正常患者における重症感染では 300mg(5.5~6.0mg/kg)必要とするが、安全性に 関する証拠は限られている。 理想体重(kg) =身長(m)×身長(m)×22 補正体重(kg) ●低体重(実体重/理想体重<1)の場合 補正体重=実体重×1.13 ●過体重(病的肥満:実体重/理想体重>2の時) 補正体重=0.43(実体重-理想体重)+理想体重
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