第 86 回 CPC 報告書 主討論:川島美可子先生(岐阜

第 86 回 CPC 報告書
主討論:川島美可子先生(岐阜大学附属病院)
症例提示者:長縄先生(松波総合病院)
<会場から症例提示者への質問> なし。
<主討論>
プロブレムリスト
#1 ぶどう膜炎[2016.1.4]→包含(#3) [2016.1.4]
#2 ワレンベルグ症候群(#3)[2016.1.4]
#3 サルコイドーシス[2016.1.4]
各プロブレムを考察する。
#1 ぶどう膜炎[2016.1.4]→包含(#3) [2016.1.4]
ぶどう膜炎には前部、中間部、後部、びまん性がある。前部ぶどう膜炎は最も自覚症状が現れやすく,眼
痛,充血,羞明,視力低下がみられる。細隙灯顕微鏡所見では,房水中に細胞とフレア,角膜後面沈着物,虹
彩後癒着を認める。中間部ぶどう膜炎は典型的には無痛で,飛蚊症と視力低下が現れる。主な徴候は硝子体内
の細胞であり、毛様体扁平部上で凝集し,“雪玉状混濁”となる。浮遊物または嚢胞様黄斑浮腫のため,視力
が低下しうる。後部ぶどう膜炎は多様な症状を引き起こしうるが,一般的なものは飛蚊症および視力低下であ
る。徴候には,硝子体内の細胞,網膜炎、脈絡膜炎、滲出性網膜剥離,網膜血管炎,乳頭浮腫がある。びまん
性ぶどう膜炎では,上記のいずれかまたは全てが出現しうる。本症例も 2015 年 8 月頃に、右眼の視野にごまの
ようなつぶつぶ(飛蚊症)を自覚、虹彩炎と診断された。2015 年 10 月にも左眼の視野がぼやけて見にくさ
(霧視)を自覚、左眼の充血をみとめ、網膜静脈炎・ぶどう膜炎と診断された。入院後 2016 年 1 月 4 日の眼底
検査では右眼には隅角下方に周辺虹彩前癒着があり、2015 年 8 月の虹彩炎後の変化と考えられる。また本症例
ではいずれの側も前部~後部ぶどう膜が傷害されている。ぶどう膜炎の原因は、結合組織疾患によるもの(脊
椎関節症、JIA、サルコイドーシス、ベーチェット病、Vogt-小柳-原田病など)、眼内炎によるもの(急性,び
まん性ぶどう膜炎で,原因は外傷などの外因性の細菌感染が最も多い。)、感染性(へルペスウイルス、トキソ
プラズマなど)
、悪性腫瘍がある。後部ぶどう膜炎は前部のそれと比して基礎にある全身疾患がはっきり分かっ
ていることが多い。日本眼炎症学会による 2009 年調査ではぶどう膜炎の原因疾患としてサルコイドーシス
(10.6%)
、Vogt-小柳-原田病(7.0%)
、急性前部ぶどう膜炎(6.5%)、強膜炎(6.1%)、ヘルペス虹彩毛様体炎
(4.2%)、ベーチェット病(3.9%)
、分類不能(33.5%)とされる。本症例はステロイド反応性であり主に結合
組織疾患によるものが考えられる。Vogt-小柳-原田病はメラニン色素細胞に対する自己免疫疾患であり、眼、
耳、皮膚、毛髪、髄膜などで炎症が生じる。眼症状に先行し前駆症状として髄膜炎に伴う頭痛、発熱、頭皮の
ピリピリ感、全身倦怠感などが見られる。発症初期の症状として両眼の網膜剥離による充血、霧視、歪視が典
型的であるが一側の場合や網膜剥離の所見をみとめない場合もある。また、内耳の炎症により感音性難聴(程
度は個人差が大きい)、耳鳴り、めまいも見られる。本症例の場合、頭痛は眼症状に先行していない点、網膜剥
離をみとめていない点、聴力検査で異常がない点はこの疾患の特徴と合致しないが、非典型例の可能性も念頭
に入れると鑑別すべき疾患である。またベーチェット病も鑑別すべき疾患である。髄液所見(後述)はベーチ
ェット病に妥当である。眼症状+Ⅰ副症状:中枢神経症状(神経巣症状:下記の Wallenberg 症候群)があり、
厚生労働省ベーチェット病診断基準 2010 年の疑いに該当(急性型/慢性進行型神経ベーチェットの診断基準い
ずれもベーチェット病の診断基準の不全型または完全型を満たすことが前提である)。急性型の典型例では急性
ないし亜急性に頭痛、発熱、局所症状、髄液細胞数の増加(6.2/mm3 以上)が見られる。慢性進行型の典型例
では認知症様症状、精神症状、体幹失調、構音障害の潜在的な進行、髄液 IL-6 の増加(17.0pg/ml 以上)、MRI
で脳幹萎縮などが見られる。病状出現パターンは多様であるが典型的には再発性口腔内アフタが先行し、他の
主症状が出現して診断に至り、その後一部の患者で特殊型が発症する。本症例は口腔内アフタや外陰部潰瘍と
いった主所見は陰性であり神経ベーチェット病である可能性は低い。しかし症状出現パターンの多様性を考慮
に入れると鑑別すべき疾患ではある。
次に肺門部リンパ節腫脹について考察する。
肺門部など縦隔部のリンパ節腫脹をきたす主な疾患に結核、サルコイドーシス、悪性リンパ腫、肺癌、塵肺
症、膠原病などがある。生活環境や職業からは塵肺症は否定的である。結核について。初感染結核における初
期変化群の病変として、一般的には肺野病巣+肺門や傍気管リンパ節病変であり、病変は軽微で石灰化を残し
て治癒する。時に肺野病変がはっきりせずリンパ節腫脹のみが目立つことがある。ハリソン内科学によれば稀
な肺外結核として網脈絡膜炎、虹彩炎などもある。
(参考:Kekkaku Vol.87,No. 6:469-474,2012 によれば結核
と診断された症例の中で眼病変を合併しているのは 1.4%と報告されており、HIV 陽性例に頻度が高いとされて
いる。結核性ぶどう膜炎の後発部位は脈絡膜とされ、臨床病型は網膜血管炎、脈絡膜結核腫、粟粒結核の 3 型
があるが、網膜血管炎が最も高頻度である。病因として結核菌の直接感染や結核菌蛋白に対する過剰反応とし
て免疫反応の機序が考えられているが不明なことも多い。症状は視力低下を伴うことが多いとされるが無症状
のこともある。眼外病変を随伴するものとしないものがある。)本症例は結核の発症リスクは高くなく可能性は
低いが鑑別の1つとして残る。体重減少もきたしており、悪性リンパ腫、肺癌(きわめて稀であるが、腫瘍随
伴性網膜症もある。参考:日本肺癌学会)も鑑別に残る。サルコイドーシスに関しての考察は後述する。
気管支鏡所見について。網状血管はサルコイドーシスの症例でよく見られる所見であるが、感度や特異度は
不明であり、この所見のみでは診断は確定できない。なお、サルコイドーシスでは粘膜下の側副血管やその吻
合により網状血管増生を呈する機序が考えられているが、リンパ節腫大との関連性は不明である。
BALF の所見について。BALF の細胞数は非喫煙者では平均±SD:62.7±37.2×10*3/ml であり、本症例は
1.0×10*5/ml、(100×10*2/ml)で基準上限。リンパ球比率は 11.7±9.1%であり本症例は 20%で基準上限。
肺胞大食細胞は 87.3±9.5%であり本症例は 80%で基準範囲内。CD4/CD8 比は 2.71±14.2 であり本症例は
11.26 で有意に高値と言える。BALF でリンパ球が増加する疾患として過敏性肺炎、サルコイドーシス、放射性
肺炎、慢性ベリリウム肺、COP/BOOP など。CD4/CD8 比は増加する疾患としてサルコイドーシス、慢性ベリリウ
ム肺、金製剤肺炎、珪肺症、肺好酸球性肉芽腫症、農夫肺が挙がる。社会生活歴からは慢性ベリリウム肺、金
製剤肺炎、珪肺症、農夫肺は否定的である。肺好酸球性肉芽腫症も喫煙歴がないことや、呼吸器系症状がない
こと、Xp で特徴的な上・中葉の嚢胞性変化が見られないことなどから否定的である。
EBUS-TBNA の所見について。#7リンパ節(気管分岐下リンパ節)の病理所見は明らかな異常をみとめて
いないが、正診率は 100%ではない為この所見のみでは診断的評価は困難である。肺門部リンパ節は検体材料が
標本作製できなかったほど微量であり、こちらも診断的評価は困難である。
#2 ワレンベルグ症候群(#3)[2016.1.4]
ハリソン内科学及び神経内科ハンドブックによれば、Wallenberg 症候群は徴候と症状:障害部位として下記
≪病側≫
顔面半分の痛み、しびれ、感覚障害:三叉神経下行路と核
上下肢の失調、病側への転倒:不明 索状体、小脳半球、小脳線維、脊髄小脳路
眼振・複視、動揺視、めまい、悪心、嘔吐:前庭神経核
Horner 症候群(縮瞳、眼瞼下垂、発汗減少)
:交感神経下行路
嚥下障害、嗄声、軟口蓋麻痺、声帯麻痺、咽頭反射の消失:舌咽神経、迷走神経線維
味覚消失:孤束核、孤束
同側上下肢の体幹のしびれ:同側の薄束核、楔状束核
≪対側≫
体幹半分の温痛覚低下(時に顔面も含む)
:脊髄視床路
本症例では上記において、病側への転倒:左に吸い込まれるように倒れこんだ、動揺視:ふわふわした感じ、
縮瞳・眼瞼下垂、体幹半分の温痛覚低下、嚥下障害などが見られていることや、頭部 Gd 造影 MRI の DWI で
左側延髄外側に高信号をみとめており、Wallenberg 症候群と考えられる。この症候群では典型的には病側顔面
半分および対側体幹部の温痛覚障害をみとめる。しかしながら延髄における血管支配は他の脳幹部と同様にバ
リエーションに富み、支配血管の閉塞に伴い様々な病変分布とそれに対応する多彩な症状を呈する。症例によ
り顔面の温痛覚障害は両側または対側に認めたり、異常なしである場合もある(山本 徹 Wallenberg 症候群
BRAIN MEDICAL 17(2):159-166,2005)
。したがって本症例では非典型的であるが、顔面の温痛覚障害は病変
と対側すなわち体幹部と同側にみとめられたと考えられる。また、本症例では左肩挙上の筋力低下をみとめて
おり、これは僧帽筋筋力低下と考えられる。僧帽筋は第Ⅺ脳神経支配であり、この神経の走行は、起始核が延
髄から頚髄の上半におよび、延髄根と脊髄根と分類される。前者は3~6本の根をなし迷走神経の下で延髄の
後外側溝から出、後者は6~7本の根をなして頚神経の前後両根の間から出て上行して前者と合して副神経の
幹を作り、舌咽迷走両神経とともに頚静脈孔の前部を通って頭蓋底の外に出、内枝と外枝とに分かれる。内枝
は延髄根の延長で、迷走神経下神経節の上端で迷走神経に合し、外枝は脊髄恨の延長で下外方に走って胸鎖乳
突筋および僧帽筋に分布する。よって、本症例では延髄外側~一部上位頸髄の病変の存在が示唆される。この
Wallenberg 症候群は椎骨動脈、後下小脳動脈、上中下延髄外側動脈のいずれの閉塞でも起こり、椎骨動脈の延
髄への穿通枝や後下小脳動脈の障害では部分型を呈することがある。これらの血管障害の原因として、
1心疾患
弁膜症(リウマチ性心疾患、心内膜炎、僧帽弁逸脱症)、不整脈(心房細動)、奇異性脳塞栓症(卵円孔開
存、心房中隔欠損)
、心房中隔瘤、心室瘤、心筋症、左房粘腫
2非感染性血管炎
高安病、側頭動脈炎、EGPA、GPA、PN、SLE、シェーグレン症候群、MRA、サルコイドーシスなど
3感染性血管炎
梅毒、細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、マイコプラズマ感染症、ライム病、AIDS など
4非炎症性疾患
もやもや病、Fibromuscular dysplasia、動脈解離、動静脈奇形、海綿状血管腫、アミロイドアンギオパ
チー
5血液疾患
血液粘調度亢進(真性多血症、血小板増多症、多発性骨髄腫、造血系腫瘍、マクログロブリン血症、クリ
オグロブリン血症など)、凝固・線溶系異常(DIC、抗リン脂質抗体症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、
プロテイン C 欠乏症、プロテイン S 欠乏症、アンチトロンビンⅢ欠損症、ネフローゼ症候群、急性アルコ
ール中毒、経口避妊薬、妊娠・周産期)
6その他
外傷・機械的圧迫、遺伝性素因(MELAS など)
、片頭痛、全身的血圧変動
以上が挙げられる。本症例では、ECG や心エコー所見からは 1 の可能性は低く、MRA からも4の可能性も低
い。採血結果からも5も積極的に疑わない。6も基礎資料からは考えられない。すると2,3の可能性が残
る。MRI の DWI は水分子の拡散の影響を強く受け、拡散が低下すると高信号を示す。急性期脳梗塞、膿瘍、
類上皮腫、脳炎・脳症などで高信号となる。また、造影 MRI では血液脳関門の破綻あるいは機能障害で血管外
に造影剤が漏出した場合に、造影増強効果が見られるようになる。本症例では、MRI-DWI で左側延髄外側に高
信号あり、同部位に造影効果をみとめないことから、造影剤移行に必要な血流が乏しい虚血の状態、梗塞の病
態が起こっていると考えられる。D-dimer は、線溶現象による安定化フィブリンのプラスミン分解産物であ
り、血栓症や凝固亢進状態が先行して起こり、二次線溶の亢進を意味する。本症例も血栓症・凝固亢進→二次
線溶亢進の病態も存在すると考えられる。また本症例は MRA で血管狭窄をみとめなかったことから、MRI で
は検出困難な血管径レベルの血管の血栓により左側延髄外側に虚血性病変が生じていると考えられる。
次に左側口角下垂について。本症例では額部しわ寄せが左右差なく良好である。左側額部のしわ寄せが困難
であれば左側末梢性顔面神経障害が考えられ、左側延髄外側病変が頭部方向にも及び、左側橋下部外側も部分
的に障害されていると考えられ、病変が左側橋下部~延髄~頸髄上位まで存在することで全ての神経学的所見
の説明がつく。しかし本症例では額部しわ寄せは左右差なく良好であり中枢性末梢神経障害の所見である。し
かしながら中枢性病変は画像所見では明らかなものはみとめていない。すると本症例の所見の可能性として
・左側顔面神経下顎縁枝のみの障害により左側口角下垂が起こっている
・MRI 画像では顕在化しない核上性の顔面神経麻痺が存在する
などが考えられ、その他の臨床所見と合わせると下記のヘールホルト症候群不全型と考えられる。
Heerfordt's syndrome is classified into complete type, in which all four main symptoms are presented, and
incomplete type, in which two out of the three symptoms of facial nerve palsy, parotid gland enlargement,
and anterior uveitis are detected.
Cranial nerve palsy in neurosarcoidosis may be caused by nerve granulomas, perineural inflammatory
infiltrates, increased cranial pressure, or granulomatous basal meningitis [11, 12]. Further, there is a
possibility that epineurial necrotizing vasculitis could also lead to nerve ischemia with subsequent axonal
degeneration [13]. There are some hypotheses regarding the site of the facial nerve lesion in Heerfordt's
syndrome. Facial nerve palsy is thought to be the result of direct involvement of the facial nerve branches
by the parotid lesion [14]. This is the most reasonable cause in cases in which nodular lesions are detected
in the patients' parotid gland. On the other hand, the facial nerve lesion might be in the internal auditory
canal or intratemporal fallopian canal in the cases with hearing loss and/or vertigo (i.e., Case 2). Cases
with loss of taste and hyperacusis have also been reported [7]. The presence of these cases implies the site
of the facial nerve lesion is not limited to the parotid gland.
Two Cases of Heerfordt's Syndrome: A Rare Manifestation of Sarcoidosis.
Fujiwara K, Furuta Y, Fukuda S.
Case Rep Otolaryngol. 2016;2016:3642735. doi: 10.1155/2016/3642735. Epub 2016 Jan 17.
本症例では額のしわ寄せが良好すなわち前頭筋が支配を受ける側頭枝の障害は受けていないということであ
る。よって左側頚部顔面神経の下顎縁枝が障害され、口輪筋の筋力低下により左側口角下垂が起こっていると
考えられる。頚部顔面神経は耳下腺より遠位(末梢)でありかつ本症例は耳下腺腫張もみとめなかったことか
ら、その機序として耳下腺病変による顔面神経の直接的な傷害というよりも、より末梢部位にて上述の nerve
granulomas, perineural inflammatory infiltrates, epineurial necrotizing vasculitis などが起こっていると考
えられる。
#3 サルコイドーシス[2016.1.4]
本症例を一元的に考えるとサルコイドーシスが考えられる。以下その考察を記述する。
ハリソン内科学によると、病態生理の最初の徴候として炎症性単核細胞(CD4+Th1 リンパ球と単核貪食細
胞)が罹患臓器に集族する。続いてマクロファージとその系列の細胞、類上皮細胞及び多核巨細胞が集族し、
肉芽腫が形成される。集族した T 細胞、単核貪食細胞および肉芽腫は疾患が活動性であることを示す。自然経
過または治療により疾患が抑制されれば炎症は軽減し肉芽腫も減少する。肉芽腫はその細胞が分散するか、辺
縁の線維芽細胞が内側に増殖してくることにより消失し小瘢痕となる。臓器機能障害のほとんどは集族した炎
症性細胞が罹患組織の構造をゆがめた結果である。ある組織が機能するために欠かせない構造が十分に障害さ
れた時その臓器の臨床症状が顕在化する。剖検例の大部分においてほとんどの臓器が有る程度おかされている
が、臨床的に症状が発現するのは障害が機能に影響を及ぼすような肺や眼のような組織、BHL など Xp などで
観察しやすい組織だけであるという。本症例では MRI-DWI で高信号・造影効果なし・血管狭窄なしや Ddimer の上昇からも、左側外側延髄~左側頸髄上位の支配領域の血管(椎骨動脈の MRA では描出困難な細い
レベルの血管が予想される)が肉芽腫性炎症により障害され、その部位の血栓性虚血が生じ、機能障害に至
り、Wallenberg 症候群や第Ⅺ脳神経障害をきたしたと考えられる。ハリソン内科学によれば、血管炎は経過が
亜急性~慢性になると単核細胞が血管壁に浸潤し、内腔の傷害と支配組織の虚血を特徴とする症候群が生じて
くる。では、なぜ本症例はその部位で起こったかが論点になる。そこでまず、
≪サルコイドーシスの神経系病変について≫
サルコイドーシスの有病率は人口 10 万人当たり 10-20 人で神経サルコイドーシスはその 5-7%である。あら
ゆる神経系組織が障害されるが、中枢神経系では主に髄膜病変(髄膜炎、肥厚性肉芽腫性硬膜炎)、実質性肉芽
腫性病変(脳、脊髄)、水頭症、血管病変(血管炎、脳室周囲白質病変、静脈洞血栓症)、脳症を、末梢神経で
は脳神経や末梢神経障害を生じる。髄液検査は症例の 1/3 は正常である。リンパ球増多、蛋白増加、ACE 高
値、sIL-2R の上昇をみとめるが非特異的である。画像診断では、病変部位によって種種の非特異的所見を示す
が、MRIT1 で低~淡い高信号域、T2 では高信号域を示し、Ga 造影効果をみとめる。病理組織の生検では非乾
酪性上皮細胞肉芽腫、微小血管症や肉芽腫性血管炎をみとめる。肉芽腫は類上皮細胞、マクロファージ(CD68
陽性)
、CD4 陽性 T 細胞、周辺部には CD8 陽性細胞より成り、しばしば Langhans 型巨細胞をみとめる。ま
た、肉芽腫は early/premature,mature,healing,fibrosis の各ステージのライフサイクルをとり、自然消退す
る。後 2 者では肉芽腫がみられないこともある。
なお、Neurologic sarcoidosis について UP-TO-DATE では:
・cranial mononeuropathy:神経サルコイドーシス患者の 25-50%で末梢性顔面神経麻痺を呈する。視神経や
第 8 脳神経の障害では間欠的または進行性の視覚、聴覚、前庭障害などが起こる。
・Neuroendocrine dysfunction:典型的には視床下部の炎症により起こる。なお、サルコイドーシスにおける
多尿は複数の要因によって起こる。視床下部傷害による中枢性尿崩症・多飲、高 Ca 血症による腎性尿崩症であ
る。
・血管周囲の肉芽腫性炎症により部分または全般てんかん、部分またはびまん性の脳障害や血管障害が起こ
る。解剖学的部位に応じて認知・行動障害や神経巣症状が起こる。まれなケースでは、focal な脳梗塞としてこ
の症状を呈する。
・脊髄症や神経根症は、肉芽腫性炎症が脊髄を傷害すると起こる。病変は典型的には血管周囲であり、髄外ま
たは髄内であり、馬尾にもきたしうる。
・交通性または非交通性水頭症は急性ないし亜急性に起こる。無症候性の脳室拡大が偶然画像で発見されるこ
とがある。脳脊髄液の急性閉塞によりまれに突然死をきたしうる。
・髄膜合併症は、急性の無菌性髄膜炎または慢性髄膜炎の形で起こる。髄膜の mass 病変をきたすこともあ
る。
・末梢神経症状としては単神経炎、多発性単神経炎、感覚神経・運動神経・自律神経の多発神経障害をおこ
す。症状は急性、亜急性、慢性であり、EMG では通常は軸索型障害を示す。急性びまん性脱髄性の運動神経障
害は GBS に類似する。手根管症候群は一般集団と比してサルコイドーシス患者でより多くみられる。
・筋病変では、無症候性の顕微鏡レベルの結節や、蝕知可能な結節、急性または慢性の近位筋障害、筋萎縮が
見られる。
神経サルコイドーシス患者ではこの疾患の系統的な特徴が何も見られないこともある。神経サルコイドーシス
は他疾患と鑑別困難な場合も多い。例えば顔面神経麻痺は Bell 麻痺やライム病に伴うものと鑑別困難である。
また、結核のような慢性炎症や癌・リンパ腫性の髄膜炎は多発性脳神経障害を呈することがあり神経サルコイ
ドーシスと鑑別困難なことがある。Astrocytoma や原発あるいは転移性脳腫瘍が見かけ上は実質性の肉芽腫性
病変のように見えることもある。MRI の T2 で高信号を呈する白質の多発性小病変は非特異的であることもあ
れば多発性硬化症などの炎症性疾患であることもある。サルコイドーシスの脳症や血管障害は梅毒や CNS の血
管炎と鑑別が困難なことがある。サルコイドーシスに関連した無菌性髄膜炎は HIV、結核、梅毒、ウイルス感
染による髄膜炎と鑑別困難である。髄膜の肉芽腫性病変は画像では髄膜腫に見える。しばしば MRI や腰椎穿刺
の所見により神経サルコイドーシスの診断が仮定される。造影 MRI が選択される。髄膜または実質の造影効果
は血液脳関門の破綻を伴う活動性炎症を示唆し、実質または髄膜の mass や水頭症が容易に同定される。実質
に見られる多発性結節病変は脳や脊髄の深部に入りこむ Virchow-Robin 腔に沿って進展した炎症を示す。ま
た、CSF の異常所見がしばしば見られる。初圧の上昇は約10%の患者に見られ、2/3 の患者で総蛋白が増加
しており典型的には 250mg/dⅬまで増加が見られる。細胞数の増加は約 50%の患者に見られる。髄液糖は感染
性または癌性髄膜炎で見られるように正常~低下である。単核細胞優位な増加が通常である。IgGindex は上昇
し、OCB が存在することもある。髄液中 ACE 濃度は時に上昇が見られるが、信頼性のある基準値はなく、感
染性や癌性髄膜炎でもおそらく上昇していると思われる。血清 ACE が上昇していれば髄液中 ACE 濃度も上昇
が見られ、そこでは血液脳関門が破綻している。髄液中 sIL-2R レベルの上昇が見られるが、神経サルコイドー
シスの診断にはルーチンに測定されていない。多発性硬化症や CNS 血管炎のような炎症性疾患患者およびコン
トロール群と神経サルコイドーシス患者で比較した一報告では、感度 61%、特異度 95%であったという。
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上記より本症例はサルコイドーシスの神経系症候として矛盾はない。椎骨動脈は先天的に低形成など解剖学
的変異が存在する場合が多くあると言われている。本症例も左側椎骨動脈に先天的な形態変異があり、解剖学
的に血栓形成・支配領域の虚血をきたしやすい状態であったかもしれない。2015 年 8 月から後頭部痛をきた
し、11 月に耳閉感と浮遊感、12 月に左眼瞼下垂、回転性めまいをきたし、亜急性の経過である。本症例は椎骨
動脈の血管(MRI では描出困難な血管径のレベルで)が先天的に解剖学的および形態学的に血栓形成・支配領
域の虚血をきたしやすい状態であり、そこに肉芽腫性血管炎が起こり、徐々に炎症細胞浸潤により内腔の傷害
と支配組織の虚血・血栓形成をきたし、左側延髄外側~一部頸髄上位の機能障害をきたしたと考えられる。そ
の際、頭痛は後頚部から後頭部にかけてズーンとしたものであり、椎骨動脈の血管痛であると考えられる。
また、左側口角下垂は上述したように、左側頚部顔面神経の下顎縁枝が nerve granulomas, perineural
inflammatory infiltrates, epineurial necrotizing vasculitis などのメカニズムにより傷害され、口輪筋の筋力
低下により不全型 Heerfordt's Syndrome の症状として呈していると考えられる。
次に、各検査所見がサルコイドーシスで矛盾しないか等考察する。
本症例の髄液検査所見では初圧 21cmH2O:基準値は 70-180mmH2O であり、低下。終圧 12cmH2O、単核
球 57/3:軽度増加しており鑑別疾患としてサルコイドーシス、ベーチェット病、多発性硬化症、脳脊髄腫瘍が
挙がる。多核球 0/3 、パンディー(-) 、キサントクロミー(-) 、アセトン体(-) 、髄液蛋白 36.3mg/dl:正常、髄液糖 30mg/dl:中
等度減少しており、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、癌性髄膜炎などが鑑別に挙がる。髄液クロール 119mEq/L:基
準下限。これらはサルコイドーシスの髄液所見として矛盾しない。本症例の髄液所見は髄膜病変というより上
記血管の肉芽腫性血管炎を反映したものと考える。
血液検査所見について。IgG 1047 mg/dl、IgM 114 mg/dl、C3 96 mg/dl、C4 23 mg/dl、CH50 41.3
CH50/ml
赤沈 17mm/hr、ACE 9.8 U/L、リゾチーム 4.2 μg/ml いずれも基準値内である。例えば ACE は肉芽腫内の
類上皮細胞と肺胞マクロファージが T 細胞から刺激されて産生される。ACE 高値は 40-90%の症例でみられ
疾患活動性と相関する。ACE は甲状腺機能亢進、糖尿病、過敏性肺臓炎、肝硬変により上昇し必ずしも特異的
ではない。本症例では、ステロイド投与後であり検査データが修飾されている可能性がある。サルコイドーシ
スにおける ACE の感度は 57%、特異度は 90%でありリゾチームの感度は ACE のそれと同等かやや高い程度、
特異度は低いと言われている。
CT所見について。リンパ節腫大は中縦隔・肺門(右気管傍, 大動脈傍,気管分岐下,両側肺門)に多く、
境界明瞭,辺縁平滑で“potato like”と称されるような累々とした腫大で、一般的に造影後期では淡く均一に
造影されることが多い。大きさは初回発見時が最大であることが多く、3–6ヵ月で縮小傾向を示すことが多
い。本症例の所見も妥当である。また、胸膜直下の病変もこの疾患のリンパ路に沿った病変であり矛盾ない。
リンパ節病理所見について。#7リンパ節の病理所見で肉芽腫をみとめないのは、自然消退または 2015 年
10 月に投与されたステロイドの影響を受けている可能性がある。また、EBUS-TBNA は正診率 100%ではない
ので、この所見のみで診断的評価は困難である。(参考:サルコイドーシス病理診断における EBUS-TBNA の
現状について検討した報告がある。(jssog.com) TBLB の診断率は 40-90%と報告により様々であり、縦隔リン
パ節腫大をみとめるサルコイドーシスでの EBUS-TBNA の診断率は 70-90%と報告され、従来の TBLB に比較
して高率であり診断アプローチとして first choice になりつつある。北村らの検討では、サルコイドーシスが疑
われた 72 例のうち 52 例(72.2%)で EBUS-TBNA で組織診断が可能であった。診断がつかなかった 20 例の
うち 7 例で TBLB で組織診断が可能であったがその 7 例中全て EBUS-TBNA の組織検体採取が不十分な症例
であった。なお、EUS-FNA による縦隔リンパ節診断に関しては、経食道後縦隔の病変が適応となり、傍食
道、気管分岐下、大動脈肺動脈窓部の腫大リンパ節の確定診断においては 90%以上の正診率が報告されてい
る。近年、サルコイドーシスの診断においてもその有用性が示され、診断率 82%、感度 89-100%、特異度 9496%と報告されている。EBUS-TBNA は経気道的アプローチが可能なリンパ節は基本的には全て穿刺可能であ
り不可能な場所は、食道傍リンパ節、肺靭帯リンパ節、大動脈下リンパ節、大動脈傍リンパ節である。EUSFNA や EBUS-TBNA を組み合わせることにより縦隔に存在するリンパ節のほぼ全領域が評価可能となる可能
性がある。
(日呼吸会誌 47(11).2008)
)
なお、静脈洞血栓症も神経サルコイドーシスの血管病変の一形態であり、頭痛は 90%の症例に見られる。ま
た D-dimer の上昇も見られる。MRI では静脈洞内の血栓が認められるが血栓形成の時期により性状が異なる。
多発性、両側性、動脈支配と一致しない、点状出血を伴うことなどが典型的であり、本症例では積極的には疑
わない。
最後に、本症例は日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会の診断基準においても、下記検査所見1)両側肺
門リンパ節腫脹、 5)気管支肺胞洗浄検査でリンパ球比率上昇、CD4/CD8 比が 3.5 を超える上昇、呼吸器・眼
で本症を強く示唆する臨床所見をみとめ、診断基準にも合致している。本症例の 1 月 14 日に行われた診断的検
査は EBUS-TBNA の再検と考える。
【組織診断群】
全身のいずれかの臓器で壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が陽性であり、かつ、既知の原因の肉芽腫および局
所サルコイド反応を除外できているもの。 ただし、特徴的な検査所見および全身の臓器病変を十分検討するこ
とが必要である。
【臨床診断群】
類上皮細胞肉芽腫病変は証明されていないが、 呼吸器、眼、心臓の3臓器中の2臓器以上において本症を強く
示唆する臨床所見を認め、かつ、特徴的検査所見の5項目中2項目以上が陽性のもの。
特徴的な検査所見
1)両側肺門リンパ節腫脹
2)血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値または血清リゾチーム値高値
3)血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)高値
4)Gallium-67 citrate シンチグラムまたは fluorine-18 fluorodeoxygluose PET における著明な集積所見
5)気管支肺胞洗浄検査でリンパ球比率上昇、CD4/CD8 比が 3.5 を超える上昇
特徴的な検査所見5項目中2項目以上陽性の場合に陽性とする。
サルコイドーシスを強く示唆する神経病変として、
≪中枢神経≫
a 実質内肉芽腫性病変:限局性腫瘤病変、びまん性散在性肉芽腫性病変、脊髄病変
b 髄膜病変:髄膜炎・髄膜脳炎、肥厚性肉芽腫性硬膜炎
c 水頭症
d 血管病変:血管炎、脳室周囲白質病変、静脈洞血栓症
e 脳炎
≪末梢神経≫
a 脳神経麻痺:顔面神経麻痺、舌咽・迷走神経障害、聴神経障害、視神経障害 、三叉神経障害 、嗅神経障害、
その他の脳神経の障害
b 脊髄神経麻痺、多発性単神経炎、多発神経炎 (small fiber neuropathy を含む、単神経麻痺、その他の障害
(神経根障害、馬尾症候群など)
補足:本症例の耳鳴りについて。
耳鳴とは外部からの音刺激がないのに耳に音を感じることで、主に聴覚経路、蝸牛神経由来の症候である。
原因としては外耳性(耳垢、外耳炎など)、中耳性(中耳炎、耳管狭窄など)、内耳性(メニエル病、突発性
難聴、老人性難聴など)、中枢性(聴神経腫瘍)、全身疾患(高血圧、低血圧、代謝性疾患)などがある。本
症例では 2002、2008、2013 年において耳鳴りを認めており、以降はみとめていない。2008、2013 年の聴
力検査では有意な異常はなく、すなわち蝸牛神経系に異常はなく、それによる耳鳴りは否定的である。した
がって、上記の内耳性、中枢性耳鳴りは否定的である。左側延髄外側病変の前庭神経核の障害により 2015 年
11 月以降に認めている浮遊感、12 月以降の回転性めまい、2016 年 1 月の左に吸い込まれるように倒れこん
だエピソードが説明できるが、仮にこの耳鳴りも左側延髄外側病変の一連のものと仮定すなわちこの前庭神
経核の近傍にある蝸牛神経核の障害に起因するならば、聴力検査で異常所見がみられるはずである。したが
ってこの耳鳴りは 2015 年 8 月以降の左側延髄外側病変に由来する一連の症状との関連性は低い。また、サル
コイドーシスでの耳鳴りは、内耳神経障害ゆえに蝸牛神経障害に起因するため、聴力検査で異常所見を呈す
るはずである。よって、本症例の耳鳴りは何らか他の原因が考えられる。
<会場から主討論者への質問>
牧和歌子:頭痛について。椎骨動脈血管痛の詳しい機序は。
主討論者:椎骨動脈血管壁の肉芽腫性炎症による血管痛と考えた。
牧:どのような経過で脳梗塞を発症したと考えているのか。
主討論者:2015 年 8 月の数日で軽快した後頭部痛は数日で肉芽腫が良くなるとは考えにくいので、原因は肉芽
腫ではない。2015 年 11 月のめまい感を生じた時点で肉芽腫性血管炎が始まり、12 月の頭痛を生じた時点で血
管痛を生じたと考えている。
松本:肉芽腫が延髄実質に生じたのではなく、血管に生じたという理由は。
主討論者:延髄実質に肉芽腫が生じたのであれば、延髄が MRI で造影されるはずである。
濱田:MRI の所見の病理学的解釈は。髄液所見の解釈は。
主討論者:MRI の所見は楔形の病変であり、これに加えて D ダイマー上昇から血栓形成があると考えられるこ
とから、MRI の所見は延髄の虚血と解釈した。髄液白血球は血管炎による血管透過性の亢進の結果、髄液糖低
下は血管壁の機能的異常の結果であろう。
濱田:脳実質内の血管炎が髄液に影響を及ぼしたのか。
主討論者:髄腔に接触する血管に炎症があれば MRI で髄膜炎所見を得られるはずだが、実際そうではなかっ
た。討論内容に矛盾があると思う。
<参加者のプロブレムリスト>
牧
#1 サルコイドーシス
#2 延髄外側症候群
#1は提供資料から診断。亜急性経過の後頸部痛・神経障害を伴う急性発症脳梗塞。血管に何が起こっている
のか知りたい。診断手段の考察は行っていない。
池上
#1 ブドウ膜炎→全身性サルコイドーシス
#2 頭痛→髄膜サルコイドーシス(#1)
#3 脳梗塞
#3は生活習慣病のない若年発症脳梗塞であり etiology が特殊であるため、これは#1と関連があると考える
べき。#1と#3を関連付けるためには、#1が眼・肺門リンパ節などに病変を有するサルコイドーシスで、
#2が髄膜サルコイドーシスである必然がある。#3は血管サルコイドーシスの結果なのかもしれない。診断
手段は脳髄膜生検。
栗本
#1 サルコイドーシス
#2 ワレンベルグ症候群(#1)
#a 橋部顔面神経麻痺(#1)
#1は BHL と眼に病変を生じるのがサルコイドーシスの特徴であり明らか。
#2は独特なクリニカルエンティティ。主討論者はこれが肉芽腫性血管炎によって生じたと言った。そもそも
血管炎はサルコイドーシスによく生じるものではないと思う。血管の周囲に肉芽腫があって、それが血管に押
し寄せることはあるだろうが、血管肉芽腫とは言えないであろう。また、回転性めまいがどう起こったかだ
が、すぐに治まって以後はなんともない。このめまいは虚血性病変であるなら TIA であろう。もし血管炎なら
血管の炎症は持続するはずで、TIA 様にはならない。以上から#2はよしんば虚血性病変であっても血管炎に
はよらない。
#a の顔面神経だが、他の病変(#2)と場所が離れている。
この患者のサルコイドーシスの病変は、眼・縦隔・肺門・延髄・橋にあり、肝・脾・心・腎・筋・視床下部に
はないと言える。診断手段は考察のみ。ステロイドで十分治療すべき。
<症例のその後の経過>
主治医のプロブレムリスト
#1 網膜静脈炎[2016.1.4]→#4<包含>[2016.3.11]
#2 両側肺門部リンパ節腫脹症[2016.1.4]→#3<包含>[2016.1.19]
#a 延髄外側症候群[2016.1.4]→#3<包含>[2016.3.11]
#b 髄膜炎[2016.1.4]→無菌性髄膜炎[2016.1.13]→#3<包含>[2016.3.11]
#3 サルコイドーシス[2016.1.19]
・ 1 月 4 日の診察で Horner 症候群を伴い対側の温痛覚障害あり、Wallenberg 症候群を考えた。頭痛は髄膜
刺激徴候を伴い、腰椎穿刺の結果から髄膜炎と診断。診察上、左顔面神経麻痺を認めており、両側肺門部リ
ンパ節腫脹が背景にあるため神経サルコイドーシスが考えられた。1 月 4 日に施行した Gd 造影 MRI で
Wallenberg 症候群と診断。サルコイド結節を認めないが、病変が微小であれば MRI で検出されないため、
神経サルコイドーシスを除外できず。1 月 4 日の眼科による眼底所見で左網膜静脈炎を認め、この半年に起
きた一連の症状所見はサルコイドーシスによるものが最も考えられた。
・ 1 月 5 日よりバイアスピリン 100mg/日を内服し、同日よりリハビリテーションを開始した。
・ 髄液グラム染色で菌体を認めず、グロコット染色も異常なし。1 月 13 日に髄液培養陰性の結果で無菌性髄
膜炎と診断。髄液の結核菌 PCR 陰性で T-SPOT 陰性であり、結核性髄膜炎は否定した。
・ サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き 2006(サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会)によると、本患
・
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・
・
者は組織診断を欠く臨床診断群に該当。入院経過中にめまい症状も改善、独歩可能な状態となり、2016 年
1 月 14 日に当院呼吸器外科により胸腔鏡下肺門部リンパ節生検を施行した。
1 月 19 日に結果が出た病理組織所見は、ラングハンス巨細胞を含む類上皮細胞と肉芽腫を累々と認め、結
節の中心にはフィブリン集積を認め、Z-N 染色で抗酸菌を認めなかった。以上より、サルコイドーシスと確
定診断した。
中枢神経系の類上皮細胞と肉芽腫を認めていないが、本症例は神経サルコイドーシスの診断は probable と
なりステロイドの絶対適応と考えられた。胸腔鏡か肺門部リンパ節生検の創治癒が合併症なく経過したこと
を確認し、1 月 22 日より PSL 0.5mg/kg/day を開始、1 月 22 日に当科退院した。
3 月 10 日に施行した Gd 造影 MRI(下図)で左延髄腹側と橋腹側に造影される線状部を認め、同部は血管
と連続しておらず、サルコイド結節が最も考えられた。PSL 投与開始後、髄膜刺激徴候を伴う頭痛・
Horner 症候群・顔面の温痛覚障害・顔面神経麻痺の消失を認めており、神経サルコイドーシスと診断した。
現在当科外来通院中であり、症状所見の経過をみて PSL を tapering する方針である。
<経過に対する質問>
栗本:眼底所見で静脈炎と記載されているが、詳しい所見は。
長縄:静脈周囲に滲出があり、静脈炎としか聞いていない。
栗本:その機序は。
長縄:眼底には肉芽腫の明らかなは所見はないが、小さな肉芽腫があると考えている。
栗本:それではブドウ膜炎の部分症と言えるのか。ステロイド投与後なのに治っていないのが不思議。
濱田:延髄外側症候群はどういう機序で生じたのか。
長縄:髄膜肉芽腫が大きくなり、延髄支配の血管へ浸潤 and/or 血管を圧迫して脳梗塞を生じたと考えている。
延髄実質が圧迫されたのではない。
森田:後日 MRI で造影されたのはどこか。
長縄:延髄左外側の髄膜。
森田:髄液の細胞診結果は。
長縄:変性した単核球を少数認めたのみ。
村山:左椎骨動脈の腹側の一部が白く造影されているように見える。ここの軟膜にサルコイド結節を生じ、さ
らにこれが血管外膜から侵入、血管周囲腔を通じて実質にも侵入したと想像している。
濱田:1 回目の MRI では、DWI で強く描出された病変が、T2WI・FLAIR では描出されていない。2 回目の
MRI はどのような所見であったのか。
長縄:2 回目の MRI の DWI では病変は完全消失、T2WI では消失したのか不明。
濱田:ADCmap で低信号なら梗塞と言えるのだが、その画像はないのか。画像がないにしても、梗塞なら
T2WI で描出されてもよさそうだが。この DWI 病変は、延髄にある髄膜肉芽腫が何らかの機序で延髄実質内の
軸索流
障害を生じ、さらのそれによって生じた神経細胞体の細胞内浮腫ではないのか。
松本:軸索流とは。
濱田:軸索流が障害されると、神経細胞体が可逆的に障害されることがあると自分は考えている。本症例はこ
ういった現象では。
長縄:軸索流が障害された機序は。
濱田:不明。
栗本:濱田の言う「流」とはどのような現象か。また、濱田の言う髄膜とはどの部分を示しているのか。
濱田:
「流」とは軸索内の化学物質の流れ。髄膜はくも膜。
栗本:村山は軟膜の病変と述べていた。
村山:MRI の病変が脳幹実質に接していたので軟膜かと考えた。
濱田:軟膜に訂正する。限局的な軟膜異常が軸索へ二次的に障害を起こしても良いだろうと考えている。
村山:本症例では体幹半分の温痛覚低下があり、脊髄視床路の障害を引き起こしている。軸索流障害により神
経細胞体が障害されるというのであれば、神経路である脊髄視床路の障害の説明はつくのか。
濱田:その点はうまく説明できない。
池上:これまでの議論はあくまで脳梗塞ではないことを前提にしての議論である。1 月 3 日に脳梗塞に至らな
い脳虚血が発症して、4 日夕の MRI 撮影直前に脳梗塞を発症したという解釈はできないか。それであれば
T2WI に所見がないという説明がつく。
濱田:そういう状態が起こり得るのかわからない。
栗本:自分は延髄実質に肉芽腫を生じていると考えている。ステロイドで良くなったのは、壊死まで至ってい
なかったのであろう。
濱田:1スライスしか提示されていないが、ある程度の体積を占めている病変なのか。
長縄:病変は延髄前面から外側にかけて 5mm 間隔で 3 スライスほど映っていた。
濱田:病変はそれなりに厚みがあるので、浸潤と言えるのか。
栗本:先ほどの村山見解だが、くも膜の炎症が Virchow-Robin space から軟膜を破壊して脳実質に及んだとい
うことか。
村山:造影された軟膜(くも膜)の肉芽腫が血管周囲腔を通って延髄実質内へ侵入した、また肉芽種に伴うリ
ンパ球が産生するサイトカインの影響があったのではと考える。
栗本:画像上、相当な炎症と考える。サルコイドーシスは肉芽腫周囲の炎症が乏しいのが特徴。仮にくも膜に
相当な炎症が起こったにしては、髄液中の細胞がそれほど増加していないことに矛盾があるかもしれないが、
それは病変がその時点で小さかったということで説明可能かもしれない。
<総合討論>
松本:主討論者のリストを元に研鑽会のプロブレムリストを作る。
長縄:1 月 4 日時点のプロブレムリスト。すでに#3は確定しているので#1は不要では。
牧:2013 年の耳鳴りは既往症なのか、ワレンベルグ症候群によるものか。
主討論者:既往症と考えている。
松本:どの時点でサルコイドーシスと判断できるのか。入院時点なら#1をサルコイドーシスとする。会場か
ら異論はないのでそうする。#2は延髄外側症候群とする。以上で議論を終了する。
<研鑽会のプロブレムリスト>
#1 サルコイドーシス
#2 延髄外側症候群(#1)
<後記>
・3 月 10 日に撮像された MRI について
1 月 4 日に撮像された MRI の DWI で異常信号を呈していた延髄外側部は、3 月 10 日の MRI では T1WI 低
信号・FLAIR 高信号に変化している。これはこの部位が壊死したことを示している。壊死の etiology が梗塞な
のか、肉芽腫なのかは MRI では判断できない。