富士山噴火の被害予測及び対策に関する研究 -1707

環境システム学科
2013年度総合研究「学士論文概要集」
富士山噴火の被害予測及び対策に関する研究
-1707 年宝永噴火を想定して-
R10075 保坂真司
指導教員 中村仁
1.はじめに
のように暗かった。③噴火規模の大きさから宝永火口と
1.1 研究背景と目的
いう穴ができ,富士山の外観が変わった。④気管支炎に
これまで富士山は休火山として分類されていたが、
なり咳の症状を訴える人が多くなった。⑤積灰により家
2000 年秋に噴火の前兆となる低周波地震を頻繁に観測
屋の崩壊とある。これらの記述から分かるように宝永噴
した。その数は 2000 年 10 月から 2001 年 7 月の間だけ
火では火山灰などの火山噴出物の量が多く、それによる
で過去 21 年間の記録と並ぶほどであった。その後は低
被害が大半であったといえる。
周波地震も収まり、国や研究機関は調査を進めてはいた
3.降灰による被害予想
ものの、人々の意識から薄れていった。しかし、東日本
富士山の火山灰は黒色スコリアと呼ばれている。富士
大震災により防災への関心が高まり、再び富士山に注目
山で火山灰の調査(2013 年 11 月)を行い、非常に多孔質
されるようになった。その理由として東日本大震災の 4
な形をしており、直径 1cm の小石大の大きさのものから
日後に富士山付近,静岡県東部で M6.4 の地震が起き、
非常に細かいものまであることを確認した。
二つの地震から噴火が誘発される可能性が出たことがあ
げられる。
本研究では富士山の噴火史で最も規模の大きかった
現代に宝永噴火級の降灰が起きた場合,表 1 のような
被害が予想される.表1は文献(2)、(3)、(4)をもとにま
とめたものである。
宝永噴火が現代で起きた場合の被害想定を検証し、その
表1 想定される被害
課題と対策の検討を目的とする。
道路
高速道路の数日間の閉鎖や交通規制
1.2 研究方法
鉄道
除灰完了まで運行休止
航空
火山灰が飛んでいる間は全便中止
電力
停電が起きる地域がある
本研究では山梨県環境科学研究所の資料などから既
往研究を行い、噴火の基礎知識や富士山の噴火について
農作物
土質の変化や積灰により収穫0
調査する。また現地調査及びヒアリング調査によって降
建物
30cm の積灰で木造家屋全壊
灰の被害と対策の
健康
気管支障害や角膜剥離
現状を把握する。
また、降灰により物流が停滞するので間接的に商業に
対策の検討では他
も被害が及ぶ。東京でも 2cm の積灰が予想されるため、
火山の文献をもと
首都圏での経済的打撃は大きい。人的被害を除いた被害
に実施された対策
総額は最大で 2 兆 5 千億円に及ぶ(3)(4)。
を参考にし、富士
4.現在行われている対策
山の噴火でどのよ
4.1 ハザードマップ
うに活かすことが
2001 年に内閣府により富士山ハザードマップ検討委
できるか検討する。
員会が組織され、約 4 年かけてハザードマップが作成さ
2.宝永噴火について
れた。これをもとに富士山周辺の山梨、静岡合わせて 10
宝永噴火とは 1707 年 12 月 16 日から 16 日間続いた
自治体が各地域に向けた防災マップを作成した。各防災
富士山の大噴火で、プリニー式噴火と呼ばれる噴火様式
マップには富士山の噴火では溶岩流などの到達範囲のほ
の中で最も噴火規模の大きいものに分類されている。富
か、どのような現象が起きるのか、避難所はどこか、避
士山の噴火はストロンボリ噴火と呼ばれる小・中規模の
難する際に準備するものはなにかなどが記されている。
噴火が多い中、宝永噴火は異質なものであった。
図 1 は文献(4)の委員会の作成したハザードマップに
富士山の歴史噴火総覧(小山:2007)によると、宝永
各自治体指定の避難所を記したものである。図を見るよ
噴火の特徴として①噴火の前兆となる宝永東海・南海地
うに、避難が必要な範囲に避難所があり、A(河口湖町の
震が起きている。②火山灰により昼でも日光が遮られ夜
精進湖・本栖湖・富士ヶ嶺)で 9 か所(河口湖町の 27%)、
環境システム学科
2013年度総合研究「学士論文概要集」
B(富士宮市)で 4 か所(富士宮市の 9%)、C(御殿場市と裾
ップ 2013(2013 年 11 月 29 日)に参加した結果、富士山
野市)で 6 か所(両市の 12%) 指定されている。
火山防災避難計画では避難方法が確立されておらず、各
自治体が独自に考えなくてはならないことや現在は溶岩
流の避難計画しか作られていないことがわかった。
5.現状分析・課題
富士山の噴火では火山灰の被害が深刻と予想されてい
るが、実施されている対策は溶岩流を対象としたものが
主であり、火山灰対策に関してはほとんど手が付けられ
ていない。
火山灰対策の今後の課題では降灰に影響されずに生活
できるようにすることが重要である。そのために①降灰
に影響されないインフラ整備、
②降灰に強い住宅の普及、
図 1 ハザードマップと避難所の位置
4.2 富士山火山防災避難計画
③降灰時に自動車の運転を可能にする、④健康被害の予
防の 4 点を行う必要がある。
富士山火山防災避難計画は2013 年3 月に策定された、
一方溶岩流であるが、富士山火山防災避難計画で各自
山梨、静岡、神奈川の 3 県に及ぶ広域避難計画である。
治体での避難方法が確立されていない状況にある。溶岩
富士山頂から放射状にラインを 17 本定め、噴火口の位
流対策はソフト面が重要となるので、今後の課題は避難
置や噴火警戒レベルによって避難すべき地域を公開する
方法などを決め、
自治体間で情報を共有することである。
もの(5)。図2は図1の X を拡大した河口湖町の精進湖・
6.今後すべき対策の提案
本栖湖・富士ヶ嶺地区の防災マップである。
河口湖町役
現状分析・課題から以下のような構造的対策と非構造
的対策を提案する。
場へのヒアリン
表2 構造的対策
グ調査(2013 年
ハード対策
目的
11 月)によると、
克灰住宅の推進
降灰に強い住宅
具体的な避難方
二重玄関の推進
灰の侵入防止
電線の地中化の推進
電線断裂による停電防止
砂防施設の建設
土石流対策
のは河口湖町だ
下水施設に堰の設置
灰の流入を防ぐ
けであり、図2
公共バスに高性能エアフィルター装備
降灰が多い時でも広域避難で使える
法を考えている
表3 非構造的対策
のように避難所
に溶岩流が流れ
ソフト対策
目的・理由
てくる場合、安
富士山火山防災避難計画を防災マップに記載
住民に認知してもらうため
全な地域へ県内
広域避難時に消防車による散水
避難ルート上の灰を除灰
神奈川県でも防災マップを作成
降灰の被害は神奈川が 1 番受ける
火山防災教育の徹底
住民の理解を深める
だけでなく県外
へも避難すると
図 2 精進湖・本栖湖・富士ヶ嶺地区の広域避難方向
している。避難方法では公共バスを利用することを想定
している。富士山周辺地域は鉄道が発達していないため
自動車による避難が前提となる。住民が一般車でそれぞ
れに行動してしまうと渋滞になる恐れがあるため、一度
に多人数を乗せることができる公共バスに注目したので
ある。避難ルートは確立されていないが、それは溶岩流
の流れに合わせて臨機応変に対応するためである。
また、火山災害のための方策に関する国際ワークショ
7.参考文献
1)小山:富士山の歴史噴火総覧 (富士火山 環境科学研究所)2007
2)宝島社:図解でわかる富士山大噴火 2012
3)気象庁:降灰の影響及び対策 2012
http://www.seisvol.kishou.go.jp/tokyo/STOCK/kouhai/kentokai/1st/san
kou2.pdf
4)富士山ハザードマップ検討委員会:報告書 2006
http://www.bousai.go.jp/kazan/fujisan-kyougikai/report/index.html
5)山梨県総務部防災危機管理課:富士山火山防災避難計画避難モデル第一次
2013
http://www.pref.yamanashi.jp/bousai/documents/01hinan_model_yamanas
hi.pdf
6)河口湖町:富士河口湖町版富士山火山防災避難マップ 2011