クリスマスは蜂蜜の香り 2013 年 12 月 7 日 朝日カルチャーセンター立川 岡部由紀子 <蜂蜜入りの菓子> 古代人にとって蜂蜜は神々の食べ物 古代エジプト 死者に蜂蜜と蜜蝋を塗って保存 蜂蜜と蜂蜜入り菓子、蜂蜜酒は副葬品 古代ギリシャ ゼウスは蜂蜜と乳で育ったといわれている 蜂蜜酒や蜂蜜入りの焼き菓子 … 神々への供物であり、神事のあとの宴のご馳走 生け贄の代わりに、動物をかたどった菓子を捧げた ピポクラテスは、蜂蜜、胡椒と酢を混ぜ、婦人病の薬とした ゲルマン人 ゲルマンの主神オーディンはその命と力、知恵を蜂蜜酒から得ていたとされる 冬至の頃、蜂蜜入り菓子を食べた … 太陽の再生を祈る古代信仰 祖霊がオーディンと共にやってくる時期 7世紀 聖エリギウスは「ゲルマン人が非キリスト教的で性的なモチーフの菓子を作る」と非難 キリスト教でも蜂蜜は聖なるもの 女王蜂は交尾せずに産卵すると思われていた →聖母マリアの処女懐胎との連想で聖性を付与された 働き蜂の勤勉さと秩序正しい営みは、修道院生活の模範となった →修道院は養蜂推進の中心的な役割をになった 聖アンブロジウス(339-397)は、養蜂と蜂蜜菓子職人、蜜蝋職人の守護聖人 蜂蜜は薬として用いられ、蜂蜜入りの菓子は精進潔斎の期間の食物 教会で用いるローソクは、蜜蝋から作られたものに限られた ミツバチの分蜂を捕獲する 聖アンブロジウス さまざまな蜂蜜入り菓子が生まれた中世 *カール大帝(742-814)は、養蜂を奨励 領地に税として蜂蜜を納めることを要求 居城があったアーヘンには、蜂蜜入り菓子の作り方がカール大帝の墓からみつかったという伝説 *修道院が養蜂の推進役 ラテン語で平型パンやお供えを意味する“libum” → レープクーヘン(Lebkuchen)=蜂蜜入り菓子の語源か? 生地に、鹿角塩や灰汁を加えて柔らかい食感にする工夫 (鹿の角の代わりに牛の角の粉末) 砕いたナッツを加えた柔らかい生地を、聖パンの上にのせて焼く方法も修道院で始まった *十字軍がサトウキビからできた砂糖をヨーロッパに伝える 交易の中心地では、贅沢な材料(砂糖・香辛料)を加えた蜂蜜入り菓子が作られるようになる 砂糖は贅沢品 … 1350 年には砂糖は蜂蜜の 10 倍ぐらいの価格 1500 年には7倍ぐらい ニュルンベルク… ベネチアから北ドイツへ向かう交易路とケルンから東欧へ向かう交易路が交差 「帝国のミツバチの園」と呼ばれた帝国領の森に囲まれる → ツァイドラー(蜂蜜採集職人)が蜂蜜を大量に供給 15 世紀には関税なしにレープクーヘンを 72 都市へ輸出(皇帝の勅令) 1487 年皇帝フリードリッヒⅡ世が帝国議会を開いたおり、4千人の子供を城に招き、 自分の肖像つきのレープクーヘンを与えた。 この故事にちなんだ菓子 → *巡礼土産としてのレープクーヘン さまざまなモチーフのレープクーヘン … 巡礼の記念、旅路の食料 菓子職人は、蜜蝋細工も作った … 奉納品、お守り、巡礼記念 近くの村や町の教会開基祭や市にも露店をだした バロック時代は木彫りの型の最盛期 果物の堅い木から緻密な木型を彫る職人も現れる 木型に押しつけて、細かい模様をつけた装飾的なレープクーヘン 彩色されることもあった 粉と蜂蜜、香辛料からできているレーブクーヘンは、歯が立たないほど 固く、ふくらまないので模様もくっきりとでた → 壁飾り 祝い事や記念日の贈り物 子供のおもちゃ 何年も日持ちのする菓子だった 食べるものではなく非常食 同じ木型で蜜蝋細工の飾りも作られた レープクーヘンの木型を彫る職人 レープクーヘンの職人は、蜜蝋細工の職人でもあった 蜂蜜入りの菓子 → 砂糖入りの菓子 17 世紀、サトウキビからできた砂糖が手にはいりやすくなり、 蜂蜜と共にレープクーヘンの材料になる 砂糖衣でレープクーヘンに飾りをつけることも始まる 18 世紀半ば、甜菜から砂糖の成分が発見される 19 世紀に入ると甜菜糖の製造が始まる ナポレオンの大陸封鎖令(1806 年)で、サトウキビ糖の輸入がとだえる → 蜂蜜も品薄だったアーヘンでは、甜菜糖シロップを用いた プリンテンと呼ばれる独特のレープクーヘンが考案される 1707 年 ザンクト・ガレン 砂糖菓子を売る店 <レープクーヘンや蜜蝋細工のモチーフ> ハート 愛のシンボル 恋人達はお互いにプレゼントしあう。婚約や結婚の贈り物にもなる。 古代、寿命の長いキヅタの葉は永遠の愛や命、友情のシンボルであった。 12・13 世紀の宮廷恋愛詩(ミンネ文学)において、キヅタが愛を象徴する赤い色で描かれて恋 愛場面に登場し、恋する心(ハート)と関連づけられる。 生きる力や魂、さまざまな感情の宿る場としての心臓 *1 13~16 世紀、人間の心臓はハートの形で表現された。 カトリック教会における「イエスの心臓崇拝」がハートを用いたことも、このシンボルの普及を後押しした。*2 *1 1225 年頃 ギョーム・ド・ロリス 『バラ物語』 騎士の「鍵をかれられた心臓」を愛の神が開閉する 13 世紀後半 コンラート・フォン・ヴルツブルク『心の臓の物語』夫の策略で愛する騎士の心臓を食べる *2 12 世紀 聖ベルナール 「いと甘きイエスの心臓」 キリスト受難とイエスの心臓への敬心を説く 聖なる心臓の傷への情動と、そこへ入り恩寵にあずかり、そこで憩いたいという燃えるような欲求 イエスから流れる水と血 … 教会の洗礼と聖体の源としてのイエスの傷ついた心臓がイメージされた 13,14 世紀 女子修道院での聖心崇拝熱のたかまり … イエスと心臓を交換する幻視や夢 池上俊一 『歴史としての身体』 1992 年 柏書房 おくるみに包まれた子供 結婚の贈り物や、子供の誕生祝いとなった。 クリスマスや新年のシンボルでもある … 幼子イエス 子宝に恵まれることや新しい生命のシンボル 雄鶏 時をつくることから、命の源である太陽を目覚めさせるといわれる 性的なシンボルでもあり、好意を抱いていることを知らせるために、好きな人に贈る 鹿 とてつもなく長命であると信じられていたので、健康や長寿の願いをこめて贈られる 鹿は傷をなおす薬草の知識をもっているともいわれ、男性の生殖力の象徴でもある 聖ニコラウス 聖人の中では一番よく登場するモチーフ 12月6日が祭日 幸運や富をもたらす気前の良い子供の守護聖人 しばしば鬼のクランプスと対で作られる ガマガエル 子宮のシンボル 安産のお守り 蜂蜜入り菓子ではなく、蝋細工で作られる 講座で紹介した蜂蜜入りの伝統菓子を扱う店舗 Bäckerei Konditorei Lebküchnerei Düll GmbH Mathildenstr.28 D-90489 Nürnberg Germany ドイツ ニュルンベルク 伝統的な蜂蜜入り菓子を、生地の攪拌以外は手仕事で作る老舗 http://www.lebkuchen-nuernberg.com/shop/about-us.php Lebkuchen-Schmidt GmbH & Co. KG ドイツ ニュルンベルク 蜂蜜入り高級菓子(エリーゼンクーヘン)や蜂蜜などを手広く商う。 外国へも通信販売 Zollhausstraße 30 90469 Nürnberg Germany http://www.lebkuchen-schmidt.com/en/home/ Printenbäckerei Klein · Aachen am Marschiertor Franzstraße 91 52064 Aachen Germany ドイツ アーヘン プリンテンの伝統的な製法を守る老舗 プリンテン博物館も店に併設 https://www.ssl-id.de/printen.de/welcome.html Nobis Printen e.K. Charlottenburger Allee 30 52068 Aachen Germany ドイツ アーヘン 蜂蜜の変わりに砂糖シロップを使った伝統菓子プリンテンを手広く商っている。 外国へも通信販売 http://www.nobis-printen.de/home.html Biber Bäckerei zur Dorfmühle Zung 16 Dorfmühle CH 9056 Gais AR Swiss スイス アッペンツェル地方の伝統菓子ビーベリ(蜂蜜入りの皮にマジパンの餡を包んだ饅頭) http://www.swiss-win.ch/biber-baeckerei/ PIRKER GmbH Grazer Straße 10 8630 Mariazell Austria オーストリア マリアツェル 巡礼土産の伝統的な蜂蜜入り菓子 蜜蝋細工 蜂蜜酒を作っている店。 外国へも通信販売 http://www.lebkuchen-pirker.at/ Gostilna, Penzion in Muzej LECTAR Linhartov trg 2, 4240 Radovljica スロベニアの古都 ラドヴィッツァ Slovenia 伝統の赤い飾り菓子を手作り 作業の様子を自由に見学できる http://www.lectar.com/_en/index.html Gabriela Miglová & Martin Lobík Latrán 54, Český Krumlov Czech Republic チェコ チェスキー・クルムロフ 伝統的型押し蜂蜜入り菓子「チェスキー・クルムロフ・オリジナル」の店 http://www.ceskykrumlovoriginal.com/jp.php
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