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議事要旨(PDF:179KB)

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シンポジウム
作成年月日
平成27年
「子どもの貧困にどう向き合うか」
作成者
足立区福祉部
議事要旨
3月18日
福祉管理課調整担当
開催日時
開催場所
平成27年
2月
2日(月)午後2時∼
東京芸術センター・天空劇場
当日配布資料
1 プログラム
2 出演者のご紹介
3 質問票
4 (前半)基調講演資料「子どもの未来を考える ∼子どもの貧困対策大綱の策定に関
わる事前検討会に関わって∼」
5 (前半)説明資料「なぜ足立区は子どもの貧困対策に取り組むのか」
6 (後半)パネルディスカッション資料1〈キッズドア〉
7 (後半)パネルディスカッション資料2〈内閣府〉
9 (後半)パネルディスカッション資料3〈足立区〉
10
参加者アンケート
11 【参考】予算のあらまし抜粋(子どもの貧困対策)
登壇者(以下、敬称略)
宮本 みち子
放送大学副学長【基調講演(前半)・コーディネーター】
渡辺 由美子
特定非営利活動法人キッズドア理事長【パネラー】
加藤 弘樹
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(子どもの貧困対策担当)
【パネラー】
近藤 やよい
足立区長【説明(前半)・パネラー】
参加者
420名(区内各関係機関・区民等 191名
区職員 229名)
説明「なぜ足立区は子どもの貧困対策に取り組むのか」
<説明要旨>
近藤 やよい
[資料:(前半)説明資料「なぜ足立区は子どもの貧困対策に取り組むのか」]
平成27年度、足立区は「子どもの貧困対策元年」と位置づけて、様々な取り組みを行
っていくが、なぜ、足立区が子どもの貧困対策に率先して取り組まなければいけないのか
を説明する。
〈今後の人口推計〉
平成25年度の足立区の高齢化率(65歳以上の割合)は22.9%、ほぼ4人に1人
が高齢者となっている。すでに子どもの人口が減っており、人口ピラミッドの「幹」の部
分は細くなっている。それが30年後には、さらに縮小傾向になると予想される。足立区
においても、社会保障の負担は数名の若年者で高齢者を支えていた「騎馬戦型」から、二
人もしくは一人で高齢者を支えなくてはならない「肩車型」へと確実に変化する。高齢者
1
を支えるべき若年者が、力がなくて支えきれない状態になると、高齢者の将来不安が非常
に高まるが、同時に若年者にも不安が広がり、若年者も高齢者も共倒れになりかねない。
若年者が着実に社会を支えうる状況でないと、足立区が活気を持って成長していくことが
難しくなる。足立区は、23区では豊島区に続いて消滅可能性が高いと言われている。そ
うした危機感を持って、今から将来を支える若年者をしっかり育てていくことは、すなわ
ち高齢者対策にもなる。
〈就学援助認定率の推移〉
(平成24年現在)就学援助認定率の全国平均が15.6%であるのに対し、足立区全
体は約2.4倍の37.0%となっている。
〈18歳未満の人口及び生活保護受給者数の推移〉
18歳未満の人口について、平成12年を100%として13年間の推移を見ると、ほ
ぼ横ばいで推移しているのに対し、18歳未満の生活保護受給者数は13年間で約1.5
倍となり、確実に18歳未満の生活保護受給者が増えている。
〈区内の都立高校中途退学者数の推移〉
平成17年の区内都立高校中途退学者は502名であるが、対策を進めて徐々に減少し
てきた。しかし、これを23区で比較すると、足立区はいまだに断然に多い。区内の都立
高校に通う区内在住の生徒は7割強なので、かなりの人数の高校生が中途退学(中退)し
ていると思われる。大学を卒業しても正規の就労が厳しくなっている現在、高校中退や中
卒の子どもが抱える将来のリスクがいかに大きいかということは想像に難くない。
〈足立区の3歳児歯科健診の結果から
貧困と「子どものむし歯」の関係〉
足立区はむし歯のある子(3歳児)の割合が23区で一番多い。また、貧困家庭の小学
生は貧困でない家庭の小学生に比べ、むし歯のある子の割合が約2倍になる。むし歯と貧
困には相関関係があるといえる。次に、区内保健総合センター別のむし歯のある子の割合
を見ると、多いところと少ないところで約2倍の開きがある。区内でもこれだけの差があ
るが、これは生活保護受給世帯の多い地域と比較的少ない地域にも相関しており、経済格
差が健康格差につながっているといえる。
〈就学援助認定率と学力調査結果<中学校> 就学援助認定率と学力調査結果<小学校>〉
就学援助認定率と学力調査結果にも相関関係がある。中学校の分布図の平成21年度と
平成25年度を比較すると、様々な学力向上対策を実施しているにも関わらず、残念なが
らこの相関関係にくさびを打ち込んだといえる状況にはない。しかし、小学校の分布図を
見ると、一転して変化が見られる。小学校においても様々な学力向上対策を実施している
が、A小学校を見ると、平成25年度の就学援助認定率は平成21年度とほぼ変わらない
のに、学力テストの正答率は区内平均を上回っている。早め早めに、適切な対応を取るこ
とで、学力と貧困の相関関係にくさびを打つことができるのである。これは、正しい戦略
を持って早めに手当てをしてあげれば、確実に成果が現れるということで、子どもの貧困
対策に一つの光明が差していると思う。
〈子どもの未来のために、今。新たなステージへ〉
足立区では平成27年度予算案のタイトルは「子どもの未来のために、今。新たなステ
ージへ」と名付けた。学力対策の成果を踏まえ、他の対策もしっかり行っていけば、必ず
結果が付いてくるという信念で、ありとあらゆる方向から貧困対策に取り組んでいく。
2
今まで、「治安、学力、健康、貧困の連鎖」を区のボトルネック的課題と捉え、ここを
解決しない限り区内外から正当な評価をいただけないということで取り組んできた。しか
し、今までの取り組みは貧困の連鎖から発する課題に対処療法的に取り組んでいた。いよ
いよ、負のスパイラルの根幹である「貧困の連鎖」に立ち向かうところまで来た。まさに
これからが正念場である。今日は「子どもの貧困対策元年」のキックオフとして、皆さん
とともにこれに立ち向かうという共通認識を持ちたいと思う。
基調講演「子どもの未来を考える ∼子どもの貧困対策大綱の策定に関わる事前検討会に
関わって∼」
<講演要旨>
宮本 みち子
[資料:(前半)基調講演資料「子どもの未来を考える ∼子どもの貧困対策大綱の策定
に関わる事前検討会に関わって∼」]
昨年、内閣府で「子どもの貧困対策大綱」の事前検討会が開かれ、その座長を務めた。
そこには毎回オブザーバーが数十名参加しており、この問題に対して非常に熱心に見守っ
ている人がいることに驚かされた。
〈貧困率とは(定義)〉
OECD加盟の先進国の中で、日本は「貧困率」が高い方に入る。貧困率には2種類あ
るが、日本の場合、所得のある人を並べてその中央の値から更に半分の所得のところを「貧
困線」としている。
〈わが国における子どもの貧困の実態・経過〉
1997年(平成9年)の日本の子どもの貧困率は13.4%だったが、2009年
(平成21年)には15.7%にまで上昇した。現在は6人に1人(16.3%)の割合
になっている。1980年代は「ジャパンアズナンバーワン(Japan as No.1)」と言われ、
それだけ豊かとされた日本においても、子どもの貧困率は結構高かった。しかし、豊かさ
の影に隠れている子どもや母親の貧困に対して、誰も見向きもしなかった。それから、徐々
に子どもの貧困率は上がり、現在は6人に1人となったが、いまだに信じない人がいる。
数字の操作だという人もいる。
〈いくつかの事例〉
最近、いろいろな事例を耳にするようになった。
3年前、児童館のある職員と話をする機会があった。普通、児童館には高校生くらいの
子どもは来ないが、最近は18歳を過ぎた若者も来ているという。そして、何かをするわ
けでもなく、ただそこにいるらしい。規則上は認められないのだが、何かわけがあるのだ
ろう。だめとはいえないのが指導員の悩みだという。そして、その子たちが食事をしてい
ない例が増えている。例えば、土曜日や日曜日の朝から来る子たちが食事を摂ってこない
例が多く、今までそれは単に親が朝寝坊などで作ることができなかったのだろうと思って
いた。しかし、それが恒常化するにつれ、おかしいと気づき出したという。閉館の時間に
なると、その子たちを帰さないといけないのだが、その後どこへ行くのだろうと心配にな
るという。
いわゆる「底辺校」の生徒の場合は、家庭の問題が色濃く反映されており、学校だけで
はどうにもしようがない実態がある。例えば「早い時期に親から経済的自立を迫られる高
3
校生」がいる。「お金がかかるので高校に行かないでくれ。行くなら親からのお金を期待
するな」などと言われる。もっと言えば「親から頼られる高校生」もいて、「高校へ行っ
たら、アルバイトして家に金を入れるように」などと言われる子がいる。そういった家庭
環境で勉強ができるのかという問題がある。学力だけでなく、家庭の貧困、親の離婚や家
庭崩壊、いじめ、DV、精神疾患など、高校のあるレベルのところに行けばまとまって見
られる。小中学校などの義務教育の段階では、あらゆる家庭の子どもが混ざっているので、
見る目がないと通り過ぎてしまうが、高校の段階になると全部現れてくる。「底辺校」の
中には熱心にこの問題に取り組んでいるところもあるが、こうしたところには、高校を卒
業した居場所のない子がよく遊びに来るという。朝まで働いて、家に帰るでもなく、どこ
に行くでもなく学校に来てしまう。その高校では、こうした卒業生だけでなく現役の生徒
に向けても取り組みを始めたとのことである。卒業しても就職の決まらない子なども見守
っていく必要があるという。
戦後20年くらいは、社会全体の生活レベルが低かったので、自分の家が貧乏でも他と
比べて恥ずかしいというようなことはなかった。その当時は、中学を出ると就職するのが
当たり前だったので、貧しいことが今のようなハンデにはならなかった。今の日本は、極
めて高度化した社会となり、貧困の問題はその社会に乗っていけないことにある。
〈子どもの貧困がなぜ問題になるのか〉
では、子どもの貧困がなぜ問題となるのか。
一つは「貧困による負の影響は生涯続く」可能性があること。中には、非常に努力して、
あるいは幸運に恵まれて、貧困から脱出できる人もいる。しかし、多くの統計データが示
しているのは、貧困の影響は生涯にわたって続く傾向にあるということ。それから「不況
の影響を真っ先に受ける」のも貧困家庭の子どもたちである。恵まれている家庭では、ど
んな不況であってもそれを乗り越えるだけの親の支援があり、情報があり、知恵がある。
この10年間を振り返ると、日本の深刻な不況の影響をまともに受けたのは、まずは家庭
が貧しかった人たち、それから低学歴の人たち。若者の中でもこうした人たちが、一番不
況の影響を受けた。
「学業成績の悪化(悪さ)」による影響は、15歳になれば実社会に出て働くことがで
き、それに合った仕事が豊富にあった時代と今とでは事情が異なる。首都圏では8割以上
の人が18歳以降も何らかの高等教育機関で学ぶという時代に、中卒や高校中退の子ども
たちがその後どうなるのか。これに関しては、内閣府の調査により徐々に明らかになって
きている。
「仕事に就くための力の低さ」について。政治家や企業の人事担当の人などはよく「貧
しければ貧しいだけ、それをバネにして頑張れば何とかなる。自分達もそうやって来たか
ら」という。確かにそれもいえるだろうが、今は労働市場が高度化しており、職場にもス
ピードが求められ、たくさんの仕事を短期にミス無くこなさないといけない。加えて、複
数の仕事を同時にこなさなければいけないというような時代において、そこに対応できる
ようにするにはそれなりの力が必要になる。多くの若者はそこの段階で意欲や自信を失っ
てしまう。こうした状態になりがちなのも、今の時代の特徴といえる。
「自立の困難」というのは、親にいつも足を引っ張られて、なかなか自立できない。早
く家を出たくても、出られない人たちのことである。
4
「家族形成の困難・家族崩壊に陥りやすい」というのは、なかなか家庭を持つことがで
きない。できたとしても、家族崩壊に至りやすい。家族崩壊に至った家庭は再び貧困に陥
りやすい。こうした形で「貧困の連鎖」が起こりやすいということである。
「社会的疎外感の増大」については、戦後、皆が貧しい中では、貧しいことが特別なこ
とではないという意味で皆が連帯感を持っていた時代と今とは違うということである。そ
うしたところから、貧困であることによる社会的な疎外感が大きくなっていく。
〈日本の貧困の連鎖〉
生活保護を受けている母子世帯の母親の特徴を挙げてみる。道中隆氏(関西国際大学教
育学部教授)のデータからは、低学歴は49%、10代での出産経験21%、非嫡出子の
出産31%、離別・死別など出身家庭が崩壊していたのが76%、精神疾患を持っている
のが36%という状況である。生活保護に至った母子家庭の母親がいかに不利な状況にあ
った人たちなのかということがわかる。今、20代の生活保護受給者が増加しているが、
特に女性が貧しい家庭に育ち、そのまま社会に出て行ったときに、その女性たちが崩壊し
やすい家庭を持つことが多い。また、労働市場においても最低のところに入っていかざる
を得ない。そして、産まれた子どもたちはそのまま不利を被ることになる。その意味で、
女性の状況が良くない社会というのは、子どもが貧困に陥りやすく、貧困も連鎖しやすい。
今の日本の社会は恵まれている女性たちと恵まれない女性たちの二極に分かれると思う
が、その恵まれていない若い女性たちの状況を改善しないと、子どもの貧困は抜本的に解
決できないと感じている。
(道中隆氏のデータによると)生活保護受給世帯の世帯主が、過去の出身世帯でも生活
保護を受給していたことが確認されたのは25%だった。しかし、これは確認できただけ
の数字である。NHKスペシャルで「イスラム国」がどうやって勢力を拡大してきたのか
ということを詳細に報道していたが、イギリスの例で、路上にたむろしているニート状態
のティーンエイジャーの若者たちに声をかけていき、彼らの日頃からの怒りを利用して「イ
スラム国」に引き込んでいくというショッキングな内容の報道があった。そうやって、世
界中から若者を集めているという。子どもの貧困を放置すると、社会としてもリスクを抱
えることになりかねない。
〈貧困家庭の子どもが貧困から抜け出せない原因は何か〉
子どもが貧困から抜け出せない原因の一つには学力の問題がある。どこで勉強について
いけなくなるのかというと、小学校2、3年生頃からが多い。まずは算数の分数、少数の
つまづ
あたりで 躓 く。これは、どの子にとってもハードルといえるが、うちに帰れば親が教えて
くれるなどして何とか乗り越える。ところが、内閣府が10代の終わりから20代の始め
の高校を中退している人たちを調査したところ、押し並べて小学校2、3年生で勉強は諦
めたという人が多かった。家に帰っても教えてくれる人がいない。教科書を広げる場所が
ない。親は「宿題をやったのか」と一度たりとも言わない。ある人は、家で両親が絶えず
喧嘩をしている。
ある女性の家庭では、父親がよく母親に暴力を振るうのだが、警察を呼んでも帰ってし
まうし、だれも助けてくれなかったという。彼女も小学2年生くらいで勉強は早々に諦め
たという。彼女は九九の後半がいえないのだが、これでは社会に出て困るのではないかと
思う。鹿児島の高校を中退した19歳の男性にインタビューをしたことがあった。中退後、
5
3年間くらい小さな会社に入ったが、そこで資格を取ればもっと収入が得られると聞いて
資格試験の本を開けたが、字がたくさん並んでいて、とても自分には無理だと思ったとい
う。彼にはその資格を取るための勉強する場所もなく、また誰も手伝ってくれない。ヨー
ロッパなら、そういった人たちには職業訓練のチャンスがあるのだが、日本にはない。
〈増える高校中退:中退は偏在している
高校中退問題は象徴的現象(埼玉県の場合)〉
埼玉県で学習支援のNPOを運営している青砥恭氏(NPO法人さいたまユースサポー
トネット代表)のデータより。埼玉県の全公立高校の中退率を入学時の偏差値で比較した
ところ、中退は底辺校で集中的に起こっていた。
〈高校中退にみる貧困〉
貧困家庭の子どもは、15∼17歳の年齢で社会に出てもことごとく挫折して、失敗体
験を重ねることが多い。彼らには同じような境遇の人たちが集まっていて、有用な情報が
なかなか入らない。仕事の情報も入りにくい。ハローワークを知らない。彼らにとっては
公的な機関は敷居が高い。そして、具体的な情報のなさが目立つ。仲間は皆同じような情
報を持っていて、そこから脱出することが難しくなっている。
〈家庭の経済的力と文化的力の規定性〉
貧困問題はお金の多寡だけの問題ではない。経済力だけでなく、文化的力の問題でもあ
る。この文化的力というのは実は非常に大きい。家で教科書を開く場所がない。親は子ど
もの勉強に関心を示さない。大学・専門学校に進学できるかどうかは親の経済力だけでな
く、文化資本にも比例している。その文化資本は経済力あってのものといえる。貧困の時
期が長引いて、場合によっては世代を跨いで貧困に陥っている家庭では、文化資本も失っ
ている場合が多い。したがって、家族だけに任せておくとこの連鎖から脱出できない。
各地で子どもへの学習支援の取り組みが広がりつつある。大阪の小中学校の先生と話す
機会があったが、話を聞くと、親から引き離したほうが良いと思うような子どもがいるそ
うである。しかし、学校としてはなんとも致しかたがない。そこで、その子がなるべく遅
くまで学校に留まっていられるようにしているという。足立区でも様々な取り組みが始ま
っているが、できるだけ家に早く帰さないというだけでなく、意味のある有意義な時間を
その子のために作ってあげたほうが良いと思う。
〈日本の貧困の連鎖〉
15歳のときに貧困であった人がその後どのように影響を受けたのかというデータがあ
る。15歳時点の暮らし向きが良くないと直に「食糧困窮」等へ、もしくは「低学歴」、
「非正規労働」、「低所得」などにつながり、そこから「食糧困窮」等に行き着く。表は、
それぞれの要因からの「食糧困窮」等への影響の割合を示している。
〈学歴が貧困率に与える影響〉
表を見ると、20代から30代の中卒の女性の貧困率が最も高い。低学歴のために貧困
の影響を被っている女性が子どもを持つことを考えると、この年代の女性の状況はとても
重要である。
〈学歴別無業者の割合〉
学歴が低くなるほど、無業者になる割合が高くなるが、年齢を重ねてもその状況からな
かなか抜け出せない状況が見られる。
〈どうすればよいのか1〉
6
津富教授のデータより。アメリカの研究で、初めて妊娠した女性のうち、「低年齢」、
「未婚」、「社会的経済的地位が低い」のどれか一つでも該当するような人について、そ
の後状況を改善するにはどうすればいいのかというものがある。一つの介入方法は妊娠中
だけ介入する、もう一つは妊娠中と出産後の2年間介入するというもので、それぞれ指導
を行っていった結果が示されている。その介入により、出生46カ月後にどうなったのか、
4年後にどうなったのか、そして15年後はどうかと見ていくと、恵まれていない女性が
妊娠したあとに、適切な介入が続けば、非常に長期にわたってリスクを軽減できることが
わかった。出生15年後の児童虐待・ネグレクトの頻度を介入しなかった場合と介入した
場合とで比較すると、介入した場合に54%の減少が見られた。また、子どもの逮捕回数
も介入した場合には56%の減少が見られたとのことである。
〈高校の取り組み 神奈川県立田奈高校の場合〉
複雑な事情を抱えた生徒に対して、外部のいろいろな機関と協力しながら取り組む高校
が出てきている。その一つが神奈川県立田奈高校である。「キャリア支援センター」とい
う組織を作って、外部人材を入れて、在校生だけでなく卒業生も受け入れ、家庭の問題、
心身の問題すべて扱うということで始めた。その結果、中退率が顕著に減少した。また、
高校では、地域の経済界と協力しながら、無業の子どもが生まれないようにしている。
〈貧困家庭に育つ子ども・若者 複合的な困難を抱える子ども・若者に教育投資の強化を!〉
ポジティブ・ウェルフェアとは「経済的に貧しい人に対し、お金を」ということだけで
はなく、自立し、生きていけるようになるための積極的な福祉が必要であるということ。
子どもの貧困対策はまさに積極的福祉の重要な分野であるといえる。
パネルディスカッション「子どもの貧困にどう向き合うか」
<ディスカッション要旨>
宮本 みち子
(コーディネーター)
足立区の子どもの貧困対策のスタートにあたり、具体的に対策を進めるうえで何が必要
か、そしてどういうことができるのかなどを話し合っていきたい。
最初に、加藤参事官から子どもの貧困対策法、政府大綱の概要とそのねらいについて、
お話いただきたい。
加藤 弘樹
(パネラー)
[資料:(後半)パネルディスカッション資料2]
子どもの貧困対策の推進に関する法律が平成25年6月に成立し、平成26年1月から
施行している。担当する仕事を進める中で、親からも大事にされない子どもたちの存在に
ついて考えた。どんな事情の下にあっても、社会が子どもを大事にするよ、というメッセ
ージを子どもたちに送り、実際に応援していくことが必要だと感じた。そして、子どもた
ちは、そうしたみんなの期待や応援に感謝し、応えてくれるものだと思う。
〈参考:子どもの貧困関連の基礎データ〉
対策のターゲットについて、法律上「子ども」の定義がないのは、対象者を限定せずに
柔軟に対応し、必要な支援を行っていくためである。しかし、対策の対象者がどのくらい
いるのかということは念頭に置いて取り組まないといけない。統計上の2千万人余の18
歳未満の子どもの数に、子どもの貧困率をかけて対象者数を計算すると、330万人弱と
7
いう数字が出てくる。また、生活保護世帯の子どもの数は、平成23年7月末現在で28
万人余である。また、児童養護施設入所の子どもの数は2万8千人ほどである。ひとり親
世帯の子どもの数については統計がない。主にこうした子どもたちが対策の対象になるも
のと考えている。
〈『子どもの貧困対策の推進に関する法律』について〉
「現状・背景」に貧困に関わる厳しい数字が並んでいる。これを踏まえ、法律は、世代
を超えて貧困が連鎖することはどうしても断ち切らなければならないという認識に立って
いる。
「目的・基本理念」では、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境整備、教
育の機会均等を図り、子どもの貧困対策を総合的に推進するとある。子どもの将来が生ま
れ育った環境によって左右されることのない社会を実現するとしている。そのため、国と
地方公共団体の関係機関相互の密接連携により、総合的に取り組んでいくという内容にな
っている。
制度の枠組について。内閣総理大臣を会長とする「子どもの貧困対策会議」を設置し、
そこで対策を考えていく。その第一の仕事である「大綱」が昨年8月閣議決定された。こ
れを受け、各地方公共団体において計画を策定していただくが、法律では特に都道府県に
対して計画策定の努力義務が課せられている。大綱に掲げる事項として、基本的な方針の
ほか、具体的な貧困に関する指標を設定し、その改善に向けた施策に取り組んでいく。支
援の類型としては、教育の支援、生活の支援、保護者への就労支援、経済的支援、また、
関連する調査研究も行うとしている。そして、それらの施策の取組状況を毎年1回公表す
る。
〈『子どもの貧困対策に関する大綱』について〉
昨年8月29日に閣議決定された大綱では、10の基本的な方針を示している。①貧困
の世代間連鎖を解消するとともに、積極的な人材育成を目指すこと、②第一に子どもに視
点を置いて、切れ目のない施策を実施すること、③子どもの貧困の実態を踏まえて対策に
取り組むことなどである。
子どもの貧困に関する指標は25掲げている。例えば、生活保護世帯の子どもの高校等
進学率(90.8%、平成25年)について、全体の進学率が100%に近い水準にある
中で、これに近づけていこうということ。また、学校から福祉につなぐ存在であるスクー
ルソーシャルワーカーについて、平成25年度に全国で約1,000人配置されているの
を、大幅に増員していくことなどがある。そして、それらの指標の改善に向けて、6つの
分野わたって、当面今後5年間の重点施策を掲げている。
宮本 みち子
(コーディネーター)
続いて、キッズドアの渡辺理事長には、支援活動を通じて、子どもの貧困の問題をどの
ように捉えているか。また、その取り組み等についてお話いただきたい。
渡辺 由美子
(パネラー)
[資料:(後半)パネルディスカッション資料1]
キッズドアでは、2010年から塾に行けない子どもたちが高校受験にあたり困ってい
るということで、「タダゼミ」という事業を新宿で始め、その後、徐々に拡大している。
現在は、継続的な学習支援を主に東京と福島の27か所で行っている。貧困状態にある子
8
どもは6人に1人といわれているが、実態が見えづらいと我々も感じている。
〈学習支援事業[ガクボラ]のコンセプト〉
学習支援事業のコンセプトについて。親の収入が少ないと、子どもは十分な教育を受け
られず、進学・就職で不利な状況になる。そして、その子ども世代も貧困に陥ってしまう。
そうした中で、我々は経済的な支援はできないが、十分な教育を受けられない子どもにつ
いて、ボランティアを使って学習支援していくことで、子どもたちを貧困の連鎖から脱し
てあげられないかと取り組んでいる。
学習支援の効果を遠目に見た場合にどのくらいあるのか。子ども1人を救うだけで、そ
の子は生活保護を受けずに、何とか就職して納税者になる。そして、国に対する貢献度も
大きくなる。こうした効果は金額にすると1億円、生活保護の医療扶助なども入ってくる
と、実際は1億3千万円程度の効果があるのではないかといわれている。
〈学力低下の原因〉
貧困家庭にはどういう子どもたちがいるのか。勉強部屋がない、勉強机も無い。母親は
働きに行っているので、弟の面倒を見なければならず、食卓に勉強道具を広げても、小さ
な弟や妹が邪魔をするので、勉強ができない。こういった家庭環境の不利がある。
日本の母子家庭の特徴として、母親の就業率は80%以上と世界的に見ても非常に高い。
しかし、日本は就業構造上、母親は出産のときに一度会社を辞めてしまうので、特に母子
家庭の母親は復職する際に正社員になれないことが多い。したがって、時給の安いパート
などの仕事をするようになるが、それだけでは足りないので2つ、3つと掛け持ちするよ
うになる。そうすると、家を留守にする母親が多くなり、子どもの面倒が見られなくなる。
用事があって夜9時に電話しても、母親が出てこないということがよくある。
親が低学歴のため、子どもを教えることができないという家庭もある。また、家に学習
用のパソコンがないなど、教育にわずかでも投資できないような環境の子どももいる。高
校受験を控えた子どもに対して、先日、入試の問題に慣れるために、過去問題集は 1000 円
ぐらいで買えるから、お年玉で買ったらどうかと進めたところ、高校の受験料に使ってし
まったということだった。子どもたちは参考書や問題集を1冊買うのさえ大変という状況
にある。
右のグラフは親の年収と学力テストの関係を示している。単に、塾に通うとか家庭教師
を雇うということだけでなく、家庭で親が「勉強しなさい」「宿題しなさい」などという
かどうかということもある。下の図は、所得の高い家では1時間から2時間くらい勉強す
るという子が8割くらいだが、所得が低い家では30分以内という子が7割くらいになっ
ていて、基本的に学習の習慣が身に付いていない子が多い。
〈子どもたちの状況〉
「今日のお昼代は100円!」という子がいる。今の時期、学習支援は日曜日などに集
中して行うが、午前11時からお昼を挟んで午後5時まで勉強する中で、お昼代が100
円ではコンビニでおにぎりも買えないので、安いお菓子で済ませるという子がいる。
「大学生って本当にいるんだ」というのは、学習支援で実際に教えてくれる大学生ボラ
ンティアを見て驚く子がいること。普段、周りに大学生がいないので、テレビか何かの世
界の人だと思っている。大学生を目の前にし、自分とあまり変わらないと思うと、もしか
したら自分も大学に行けるのではと思うようになる。
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「偏差値って何?」という子について。どの高校に行きたいかを聞くと、偏差値55く
らいの比較的レベルの高い学校をいう子がいる。とても、そのレベルに追いついていない
ので、本人に偏差値はいくつなのかと聞くと、「偏差値って何?」と返ってくる状況であ
る。塾に行っている子などは、模擬試験を受けて自分の偏差値を分かっている子が多いが、
所得の低い子は模擬試験も受けられないので、自分の偏差値がわからずに、志望校選びも
できない。
「これって現実かなぁ。」というのは、足立区の母子生活支援施設で支援している小学
生が「クリスマス会」でお菓子やケーキを食べたときに出た言葉である。
〈キッズドアのサポートコンセプト〉
そういう子どもたちに対し、我々は学生や社会人のボランティアによる無料学習支援や
体験活動を行っている。そうすることで、子どもたちの自己肯定感を高めることを大切に
している。将来は、社会に貢献するような人材を輩出していきたいと考えている。
〈教育支援による子ども達への成果〉
学習支援による効果としては、単に勉強ができるようになるだけでなく、ソーシャルス
キルの獲得というのもある。学習支援の場に参加しても、最初に挨拶のできない子が多い。
また、2時間話しかけても反応のない子もいるが、あきらめないで話しかけていると、半
年後には学校のことなどを話してくれるようになる。こうしたトレーニングの効果もある。
あとは、母親の中には社会への失望を感じている方が多いが、支えてくれる人がいるだ
けでも違ってくる。アンケートをとると、「日本も捨てたものではない」とか「もう一度
頑張りたいと思う」などの感想をいただく。また、子どもたちに目を向けると、「自分が
大きくなったら、今度は困った人を助けたい」という子もいる。
今回、足立区が全面的に取り組んでいただけることを、非常にありがたく感じている。
皆さんと一緒に取り組んで行きたいと思う。
宮本 みち子
(コーディネーター)
足立区の子どもの貧困対策が良いモデルとなって、全国的に広まっていくことが期待さ
れる。そこで、来年度の事業の全体像はどういったものか。また、どういった組織体制で
取り組んでいくのか、近藤区長に伺いたい。
近藤 やよい
(パネラー)
[資料:(後半)パネルディスカッション資料3]
平成27年4月から、政策経営部の中に「子どもの貧困対策部」を設け、そこに部長と
担当の課長を配置する。そして、福祉部、衛生部、教育委員会など、横串を刺して進めて
いけるような体制を整え、施策を一体的に進めていく。
本来なら、担当部長のもとでアクションプランを練ったり、新規事業を進めたりするが、
そうすると1年遅れになる。したがって、体制自体は4月から始まるのだが、今までの経
験上、優先的に前倒しで行う必要があると判断した事業を先行させ、新年度の予算に組み
込んでいる。本格実施となる4月から、アクションプランの作成や中長期、短期の目標・
指標をどこに求めていくのかといった青写真を描いていく。
〈【子どもの貧困対策】対策元年〉
ポイントは「早期」と「きめ細やか」というキーワードである。そして、3つの視点で
事業を構築する。まずは「救う」というところで、今貧困で困っているところに、手を差
10
し伸べていくということ。次が「連鎖を断つ」で、貧困が次世代に連鎖していかないよう
にすること。そして、一度救った方が後戻りしないような対策も必要である。次に、なん
といっても「予防」することである。貧困のリスクを早期に摘み取る。早め早めの対応を
取っていく。こうした考え方で事業を構築していく。
〈【子どもの貧困対策】産まれる前から支援する〉
十代での出産や望まない出産など、妊娠中から、すでに将来にわたっての貧困のリスク
を抱えている女性がいる。そこで、健康保険の加入状況や妊娠がわかったときの気持ち、
経済的な問題などについて、妊娠届を出してもらった段階で実施するアンケート調査の項
目を充実させることにより、どのようなリスクを抱えての出産になるのかということを子
どもが産まれてくる前に区として把握していく。こうして、生活の不安定さ、妊婦の経済
状況、産まれてくる子どもへの育児不安を早期に発見して、リスクが高いとなれば、保健
師等が直接訪問し、関連の分析機関等につなげていく。まさに、究極の「早め」の対応を
して、出産前からのリスクを回避していく。こうした「きめの細かい」対策を新年度から
実施していく。
〈【子どもの貧困対策】学びを支援する〉
「発達障がい」の問題は、どのように対応することがその子に一番適切なのか、保護者
でもわからない場合がある。そして、保育園でも保育士たちが大変苦慮している。そこで、
新年度から、公立保育園6園程度をモデルに「そだちチューター」という名称で、臨床心
理士などの子どもの発達障がいに対し高い知見を有する職員を採用する。そだちチュータ
ーが各園を巡回し、いわゆる「気になる子」を早めに見つけ出し、その子に合った対応を
図れるよう支援していくことで、「小1プロブレム」を未然に防ぐための手立てを取って
いく。まだモデル導入であるが、成果が上がれば拡充していく。
〈【子どもの貧困対策】元気なこころとからだをつくる〉
足立区内の様々な貧困に関わる実態は、基本的にはこれから調査して明らかにしていか
なければならない。その一つとして「国立成育医療研究センター」とともに子どもの健康・
生活実態調査に入る。「小学1年生(予定)」とあるが、学力との相関を調査するには、
小学校2年生からが良いという話もある。また、毎年小学校2年生を調査していくのか、
後追いで3年生、4年生とその子どもを見ていくのかなど、方法についても考えないとい
けない。5年、10年とこうした調査による数字を積み上げていき、どこが足立区の貧困
の根っ子なのか、といった様々な疑問に答えられるようにしていきたい。
〈【子どもの貧困対策】学びを支援する〉
これまで足立区は、小中学校で担任教師とともに副担任という2人目の「講師」を入れ
て、少人数の学級で少しでも子どもの学力向上を支えていこうと取り組んできた。しかし
副担任「講師」だけでは成果が十分に上がらないという様々な課題が見えてきた。そこで、
制度を再構築し、人数を19名増員し、予算も上乗せして、学力向上講師制度の再構築を
図っていくことにした。
特にポイントとなるのは「そだち指導員」である。今この時間、勉強について行けない
子どもをほかの教室に移して指導するのだが、ただ単に指導するだけでなく、その前段と
してS-T分析【授業中に出現する児童・生徒〔S〕の行動と教師〔T〕の行動を、ある観
点をもって分析すること】や学力ポートフォリオ【子どもの学習プリントや作品、自己評
11
価の記録、教師の指導と評価の記録などを蓄積したもの】を活用し、すべての子どもの躓
きの状況を感知する。その子どもが教室を移動したときには、何を教えなければいけない
のか、そだち指導員はしっかり把握していて、時間を無駄にしないように指導していく。
就学援助認定率と学力の相関を打ち破ったA小学校でも実施しており、着実に効果が現れ
たということで、平成27年度は小学校全校に拡充する。
かつて、小学校の先生は経験的に、子どもの躓く箇所を熟知していたが、今は若い先生
が多く、経験から察知することが難しくなっている。したがって、S-T分析や学力ポート
フォリオを活用して、子どもの学力の躓きがどこにあるのかということを数字として出し
ていかないと、本当の学力向上対策は打てないということがすでにわかっている。足立区
の学力対策は、特に小学校において、やりきるだけという段階にきている。
〈【子どもの貧困対策】就労支援〉
高校生、あるいは高校を卒業した人への対策も行う。この建物(東京芸術センター)に
入っている「若者サポートステーション」や「セーフティネットあだち」等との連携も進
めていきたい。
ひとり親家庭の場合には看護師、介護士など、しっかり子どもを育てうる資格を身につ
けてもらうようにする。こうした国家資格は取得するための国の給付金制度があるが、2
年の期間限定であり、短期では取れない場合が多い。そこで、足立区では区単独でもう2
年間延長し、4年間で資格が取れるよう職業訓練に係る給付金を支給する。それも、国が
対象としていない簿記等生活を支えるのに有効な資格の取得に関しても、区単独で拡大し
ていきたいと考えている。
次に、高校生の問題がある。都立高校に関しては、東京都との連携が決して十分ではな
い。一番連携が進まない理由は、プライバシーの問題である。例えば、高校を中退した生
徒の名前や住所を区は直接把握することができない。足立区では現在、都立高校に対する
支援事業を行っているが、「若者サポートステーション」や「セーフティネットあだち」
の案内を封筒に入れて切手を貼り、宛名は高校で記入してもらって出さなければならない。
プライバシーは非常に重要なことだが、一番重要な時期、一番困っている時期に必要な情
報が届けられないという矛盾を感じている。もう少し、東京都と区が実質的な連携を図っ
ていかないと、高校中退の問題解決は厳しいと感じている。まずは、東京都の方にも認識
していただき、連携を図れるような体制を粘り強く要望していきたい。
〈【貧困の連鎖】生活困窮者自立支援法施行!〉
生活困窮者自立支援法が成立したことにより、足立区では昨年度と今年度、2年続けて
モデル事業に取り組んできた。キーワードは「ワンストップ」である。いろいろ問題を抱
えている方は、あちらこちらの窓口に行くというエネルギーも精神的な余裕もないと思わ
れる。そこで、一つの窓口で相談を受け、必要な場合は相談員がその方とともに一緒に付
いて必要な窓口へ行く。国は2つの必須事業を示したが、足立区は任意の3事業も取り入
れて、フルスペックで生活困窮者対策を実施していく。
宮本 みち子
(コーディネーター)
数年前から、生活保護世帯の子どもたちの高校進学率を上げるために、中学3年生の後
半6ヶ月間の学習支援事業が行われているが、せっかく高校へ入学しても勉強についてい
けず、高校1年生の夏休みが終わる頃に中退してしまう子が多い。勉強に絶望をいだかせ
12
ないようにするには、中学3年生では遅いと思う。そうした意味で、足立区の小学生から
支援していくということが本来のあるべき姿だと思う。
足立区は重要な対策のメニューとして、子どもに対する学習支援に非常に力を入れると
のことである。渡辺理事長は、学習支援を地域で実施しているが、その活動について少し
お話いただくとともに、足立区がこれから実施していく事業について、何かポイントとな
るようなことがあればお話いただきたい。
渡辺 由美子
(パネラー)
我々の学習支援にはいくつかパターンがある。まずは、このままだと高校に行けないと
いう子どもたちのための「高校受験対策講座」というのを開いている。そこで驚いたのは
基礎学力がまったくない子、正負の計算ができない子、そしてアルファベットを書けない
子である。中学3年生の夏でそういった子がいた。その子たちを高校に行かせないといけ
ないのだが、やはりより早い支援が必要だと感じた。
他の自治体で、ひとり親家庭の子どもの学習支援をやっているが、小学生の勉強からや
りたいということで、勉強が難しくなり始める小学4年生から始めることが多い。そうい
った意味で、小学2年生の九九の段階から脱落しないように、早い段階から取り組むのは
すばらしい。勉強は苦手意識を持つとそこで止まってしまう。そして、教えてくれる親が
居ないとなると、そこから勉強を放棄してしまう。
「お昼代100円」という話をしたが、おなかがすいていると勉強は頭に入らないだろ
ほしょく
うということで、現在「フードバンク」と連携して、学習支援の場で補食を出している。
仙台にある自前の教室では自炊ができるので、「フードバンク」からお米をいただいて、
簡単な夜ご飯を提供している。子どもたちはとても喜んで食べてくれる。このように、食
の支援というのも非常に重要なポイントだと感じている。
いろいろな貧困対策があるが、教育と福祉との連携など、縦割りに行うのではなく、関
係するところが連携して対策を行うことが重要だと思う。そういった意味で足立区の取り
組みを我々は非常に期待しており、これが全国に先駆けたモデルとなってほしいと思う。
宮本 みち子
(コーディネーター)
子どもの貧困対策は首長が決意を持って、先頭を切って取り組まなければいけない。こ
れまでも、各自治体の様々な取り組みを聞いてきたが、押し並べて財政的に厳しいという
事情があった。また、子どもの貧困対策は経済的な問題に限らず非常に幅広いので、一体
どの部署がやるのかということもある。こうした課題がある中で、近藤区長はこの先、子
どもの貧困対策をどう進めていきたいのか、その青写真を伺いたい。
近藤 やよい
(パネラー)
これまでも足立区は、ビューティフルウィンドウズ運動などの治安対策や学力対策を行
い、一定の結果が出てきた。また、健康格差の問題についても、健康寿命の増進、ベジタ
ベライフという運動も進めてきた。渡辺理事長から「大学生って本当にいるんだ」という
話があったが、私が千住地区への大学の誘致にこだわったのも、大学生が周りにいるのが
当たり前というような、学究的な雰囲気の中で子どもたちが育っていく環境を作りたかっ
たからである。今後は千住地区に終わらず、できれば学力的に厳しい地域にも大学を誘致
できないかという夢がある。
今まで子どもの貧困対策という意識はなかったかもしれないが、職員には既存の事業の
13
中で今一度この問題について考え、自分たちの事業も子どもの貧困対策になるのではない
かということに気付いてほしい。そして、さらにこうしたことを解決していくためには、
自分たちのところでどういった切り口で事業を打ち立てていったらいいのか、それぞれの
中で気付き、理解を深めてもらいたい。
子どもの貧困対策は2つの意味で難しさがあると思う。一つは、子どもの貧困がなかな
か目立って見えないことである。したがって、一般の方々に子どもの貧困対策が重要だと
いうことを理解してもらうことが非常に難しいと思う。もっと優先度の高い事業があるの
ではないか、やって効果があるのかというような意見も出てくるだろう。また、貧困とい
うのは特別な限られた方の問題であって、その人が怠けているのではないかと思う人もい
る。取り組んでいく以上、区民の皆さんに理解いただかなければならない。強く周知して
いかないと、途中で頓挫しかねない。
もう一つはイメージダウンになるのではないかということである。刑法犯認知件数のワ
ースト1からの脱出ということで、ビューティフルウィンドウズ運動を掲げたときに、ワ
ースト 1 と盛んにいって区のイメージを悪くしているのは区長ではないかということにな
った。ただ、今考えてみると、区民の皆さんには本当に厳しい状況だということをまず理
解してもらわないと、なかなか区の事業に参画いただけなかったのではないか。そして、
区が本気でこの状況から脱却していく気があるのかということを示すためにも、旗を振ら
なくてはいけないと思った。そうしたことを踏まえると、我々足立区もこの貧困の問題か
ら逃がれることができないと思う。
かつて足立区は「下層社会」と呼ばれて取り上げられたこともあった。ようやく、そう
したイメージが払拭されつつある今、なぜ、貧困という言葉を連呼し、正面から貧困に当
たらなければならないのか。もう少し、ひっそりと隠れてやればいいのではという議論も
出てくると思う。ただ、自分の経験から言うと、こそこそと隠れてやっていては、区が何
としても解決していくという熱意が関係者に伝わらないし、第一なるべく早く結果を出す
ためには全庁を挙げて取り組んでいくという姿勢がなければいけない。これは、ようやく
足立区に大学が来たり、利便性が整ったり、内外から評価が徐々にいただけるようになっ
た今だからこそ、これに立ち向かう基盤がようやく整ってきたということで、私自身も覚
悟を決めた。
いろいろと批判もあるかと思うが、始めた以上はやりきらなければ意味がない事業なの
で、ぜひ関わっていただく職員にも、そして地域の皆さんも、同じような気持ちで取り組
んでほしい。なかなかご理解いただけない人もいると思うが、皆さんの口からこうした事
業がなぜ足立区で重要なのかということを口コミで広めていただき、事業の推進役になっ
て、ぜひご協力いただきたい。そうしたところから徐々に効果が現れる。中長期的なこと
ばかりを言っていては息切れするので、やはり短期間で出てくる成果を一つひとつ積み重
ね、克服することによって、事業を進めていきたい。今の足立区の立ち位置は、そこにあ
ることをご理解いただきたい。
宮本 みち子
(コーディネーター)
私は10年以上、若者の問題を扱ってきた。自分の経験上、ひきこもりやニートの状態
にある若者が多い自治体などは、決して大きな顔して宣伝できるものではない。しかし、
自治体が本気で動けば、その結果として、その町に住む若者、子どもが大切にされるよう
14
になる。「育つ」チャンスが与えられる。そして、その若者、子どもに関わった人たちが、
明るくなっていく。ここで培ったノウハウは、若者や子どもに限らず、もっと広く人を育
てることができる、誰もが参加できる地域社会を作っていくことにつながる。したがって、
決して卑下するような、マイナスになるようなことではないと思う。足立区は子どもにと
って住みよい区だということに通じていくのではないかと思う。
そのあたりを渡辺理事長はどう捉えているか。
渡辺 由美子
(パネラー)
本当にその通りで、子どもたちを大切にすることがすごく地域社会を明るくすると思う。
お
き とうぜん
地方が消滅するといわれている中で、隠岐島前高校という学校がスポットを浴びている。
その島では高校が無くなったら島も無くなってしまうということで、高校にものすごく投
資をし、寮をつけて、学生を外からも入れるようにした。来てくれた生徒に学習支援をし
っかり行っていった結果、国公立大学や有名市立大学に進学したり、コンテストで優勝し
たりといったことが出てきた。外から生徒が来るようになってから、とても注目されてい
る。子どもの住みやすい地域社会ということが、何よりもその地域を発展させることにつ
ながるといえる。
子どもは発達障がいだったり、問題を起こす子だったり、一番大変な子にも手を差し伸
べていくような地域社会に自分がいると分かれば、のびのびと安心して才能を発揮できる
ようになり、そういった子どもが社会を変えていくことになる。特に困っている子どもに
支援していくということは、必ずその地域の安定、発展につながっていくと思う。
宮本 みち子
(コーディネーター)
国としては、全国の自治体に目配せをしながら、順調に進捗しているかを見届けていく
必要がある。加藤参事官は昨年、子どもの貧困対策大綱を大変苦労しながら策定されたが、
国の立場として、今後、子どもの貧困対策をどう進めていきたいと考えるか。また、近藤
区長の話に対して、何かお話ししたいことがあれば伺いたい。
加藤 弘樹
(パネラー)
[資料:(後半)パネルディスカッション資料2]
大綱に基づく各施策については、大綱でも規定されているとおり、25の指標の動向を
見ながら検証・評価をしっかり行い、必要な場合には見直しを加えつつ、継続的に取り組
んでいくことになる。また、そのための体制づくりにも取り組んでいく。
〈官公民の連携プロジェクト・国民運動の展開(案)〉
もう一つ、対策を進めるには、幅広く国民、地域の皆さんのご理解とご協力を得ること
が不可欠であることから、子どもの貧困対策を国民運動として展開していくことを考えて
いる。政府では内閣府が音頭を取り、教育・福祉関係団体、経済界、支援団体、メディア、
国・地方公共団体を含めた大きな協力の輪をつくっていく。今後様々な準備が必要となる
が、「子どもの夢応援国民運動」(仮称)といったものを推進していきたい。まずはキッ
クオフとして、総理大臣も出席して「発起人集会」を開催し、広報・啓発活動を進め、対
策推進の国民的な気運を醸成していく。また、地方公共団体や民間の優れた取組事例など
を把握し、これを全国に情報提供して広めていく。さらに、ポータルサイトを整備して各
種の支援情報を一元的に集約・情報提供することで、各地域での実際の支援ニーズにも応
えていく。これらの事業を「国民運動推進事務局」を設置して取り組んでいくことを考え
15
ている。
また、検討課題として、子どもの貧困対策に対する皆さんの善意を取りまとめて基金を
創設し、例えば、スポーツ・芸術分野で秀でた才能があるにもかかわらず、経済的に厳し
い状況にあってなかなか芽を出せない子どもたちを支援できないか、また、草の根の支援
活動を行う団体への助成に活用できないかと考えている。行政施策とともに、国民の皆さ
んと一緒に子どもの貧困対策を国民運動として進めていきたいと構想を練っている。
その他として、子どもの貧困対策は実態を踏まえて進めていくことが大事である。「子
供の貧困率16.3%」とあるが、担当としては若干焦点が絞り切れていない感じがする。
16.3%の中には様々な子どもがいる。しかし、厳しい財政事情を考えると、施策の優
先順位を考えないといけない。一番対策が生きる形で取り組まなければならないとすると、
より必要なところに、つまり一番困っている子どもたちのところにしっかりと支援の手を
差し伸べていきたい。そのためには、子どもの貧困の実態をいかにして捉えていくかが、
今後の重要な課題だと思っている。これは有識者の方々のご協力もいただきながら、どこ
を押さえていくべきなのか、しっかり見据えて取り組まなければいけない。
その他の二点目として、貧困率は年間の可処分所得をもとに算出しているが、給与など
のフローの収入がベースなので、資産は評価されていない。また、学習支援などの現物給
付(サービス)がノーカウントであるなど、貧困を捉える指標としては制約がある。この
点については、アイデアや知恵を出して、新しい指標を開発していくことも必要ではない
かと考えている。
足立区の皆様には、基礎自治体の取り組みモデルとして全国をリードするような対策を
今後進めていただきたい。そして、私たち内閣府も、足立区の取り組みからしっかり学ん
で、国の施策を一層充実させていきたい。
宮本 みち子
(コーディネーター)
会場の皆さんからいくつか質問をいただいているが、大事だと思った質問をいくつか取
り上げて、お答えいただきたい。
一つめは、対策を進めるうえで、行政の役割は非常に重要であるが、NPOの役割も非
常に重要であり、同時に一般の市民の協力も重要である。このあたりが連携を取ってうま
く動いているところが、最もレベルの高い自治体といえるというものである。
行政とNPOの連携については多くの課題があると思うが、そのあたりを渡辺理事長は
どう考えているか。
渡辺 由美子
(パネラー)
NPOはお金をいただかないと運営できない。皆さんから寄付をいただくとともに、行
政から委託事業を引き受けることが、安定した運営につながる。そういった意味で、NP
Oとしても積極的に行政と連携していきたいと考えている。
NPOとしてもしっかりやらないといけない。昨今、いろいろなNPOが問題を起こし
ているので、情報開示等により透明性を持たせ、ここはしっかり運営しているということ
を区民の方にも分かていただいて安心してもらう必要がある。
区との連携の中で、双方できることとできないことがある。我々が得意なこともあるし、
逆に区の方に頑張っていただくことでうまくいくこともある。そこで、お互いの情報を密
にすることも重要である。世田谷区でひとり親家庭子どもの学習事業を実施しているが、
16
そこでは3ヶ月に1回、区の方とミーティングをしている。心配な子どもがいる、あるい
はこの子は虐待されているかもしれないという場合に、ケース会議を開いていただいてい
る。そういう連携は区の方が取ってくれるとうまく対応できる場合が多い。ほかとの連携
の輪を広げることも重要だが、そこはNPO単独で頑張っていくのが難しい。
先ほど、プライバシーの問題の話があったが、我々だけでは支援が届きづらいというこ
とがある。そうしたときに、行政が広報で周知してもらうとか、ケースワーカー、民生委
員などを通じて、この子は気になるからといってつないでくれることが重要になる。また、
そこが行政の強みだと思うので、そこを活かしていってもらうことも重要だと思う。
宮本 みち子
(コーディネーター)
行政とNPOの関係について、近藤区長はどうお考えか。
近藤 やよい
(パネラー)
期待といえば、我々だけでは手が届かない部分について、NPOの皆さんはすごく柔軟
にやっていただけると思う。行政では予算面などで様々な縛りがある。そうした中で、N
POの皆さんは民間のノウハウを活用し、状況に合わせて、事業を組み立てていき、また
変えていくことができる。こうしたところに大きな期待を持っている。
宮本 みち子
(コーディネーター)
同じく、加藤参事官は何か考えることはあるか。
加藤 弘樹
(パネラー)
子どもの貧困対策を含め、青少年育成支援行政で課題となるのは、解決すべき事案に対
して、一つの機関では対応し切れないことである。問題が非常に複雑化している中で、行
政機関とNPO等の民間団体、それぞれの持つ強みを生かすことは大事なのだが、逆にそ
れぞれ弱みを抱えていることも事実である。行政と民間団体がお互いを理解し合い、お互
いの強みを生かすとともに、お互いの弱みを補い合えるような、そういう姿勢で相互に連
携していくことが重要である。そして、それぞれの地域において、青少年の育成支援にみ
んなが関わるネットワークによる取り組みが必要だと思う。
宮本 みち子
(コーディネーター)
次の質問は、PTAの役割が明確にあるのなら、何か役に立つのではないかと考えてい
るが、そのあたりのところを示していただきたいというものである。学校の先生、児童相
談所や子ども家庭支援センターだけで対応するのではなく、地域や市民でできることがあ
ればぜひ対応していきたい。つまり、地域の総合的な力を利用するということである。今、
行政はどこも財政的に厳しく対応に限界がある。子どもの貧困に限らずあらゆる問題があ
る中で、市民の力を動員しないと行政はとても対応できない時代になっている。地域力は
非常に重要であり、優れた活動をした自治体は全体として地域力も高まるという意味で、
足立区がこの対策を進めることにより、将来的に地域力の高い自治体として認められるの
ではないかと思う。
そこで、市民とどう連携すべきかというところについて、渡辺理事長にお答えいただき
たい。
渡辺 由美子
(パネラー)
市民の力は大変重要で、まずはこの問題について正しい理解をしてもらう必要がある。
貧困状態にある人は好んでその状況になっているわけではないし、何の努力もしていない
17
かといえばそういうことではない。一生懸命働いているけれども収入が増えない。働きす
ぎて身体を壊して生活保護を受けざるを得ないとか、そういったことで大変な状況になっ
ている。ただ、今の日本の場合、貧困が見えづらいので、皆さんはそうした状況がよくわ
からない。あのお子さんは荒れているが、お母さんは保護者会にも顔を出さない、行事に
も来ない。きっと、子育てに熱心でない、だらしない家庭だとか思う人がいる。しかし、
実はパートがなかなか休めずに、保護者会に行きたくても行けないお母さんがいるという
背景を皆さんが理解することが重要である。例えば、旗当番というのがある。当番に当た
ると朝の時間が取られるので、パートに遅刻して行かざるを得ない。そこのところがなか
なかわからずに、とにかくみんな平等にということで回してしまう。みんなが優しさを持
って、そういう人たちの背景を見てもらうだけでも、ずいぶん気が楽になると思う。
もしその先一歩できるのであれば、子どもが遊びに来たときに、ご飯を食べていっても
らうみたいに、そういった暖かい地域になると良いと思う。国民運動にするという話もあ
ったが、どんな環境にある子どもも劣等感を持つことなく育っていけるように、皆さんの
共通理解を高めることが重要だと思う。
我々が活動する中で一番困るのが、場所の確保である。活動するためには無料で使える
場所が必要になる。学校を使って何かをしてくれませんか、といったときに、それではP
TAも協力して英語のワークショップをしましょうかとか、学習支援の話がつながってい
く。そういうステップを踏んで、つながっていけばいいと思う。
宮本 みち子
(コーディネーター)
最後に加藤参事官、近藤区長から締めの一言をいただきたい。
加藤 弘樹
(パネラー)
一つ保護者の皆様にお願いするとなれば、「子どもは親の所有物ではない」ということ
をわかっていただきたい。この少子化の時代において、子どもは社会の宝であり、みんな
の宝である。そういった意味で、PTAの集まりなどでも、誰々さんの家の子、という見
方だけでなく、子どもは一人一人、みんなの子として大切だ、という共通認識を皆さんで
醸成していただきたい。わが子はもちろんかわいい。しかし、それと同じように地域の子
どもみんなかわいいと思って、大切に育てていきたい。
もう一つ、子どもの貧困対策を進める中で、支援の場に出て来られる子どもはまだ救わ
れる。しかし、より深刻なのは、何らかの事情でそこに出て来られない子どもである。地
域の皆さんで広くネットワークを組んで、敏感にアンテナを張って、本当に困っていて支
援にもつながっていないような子ども・家庭をどうやって捉え上げ、どうやって支援して
いったらよいかということを、みんなの課題として考えていけたら良いと思う。
近藤 やよい
(パネラー)
もう一度、足立の考え方について整理したい。非常にリスクが高い方に早めに手厚い対
応を取っていくということが一つ。もう一つは、限られた財源なので、現金給付はなかな
か難しいが、貧困のリスクを回避する機会を数多く与えていくことである。
今、足立区でおいしい給食の事業を展開しているが、これはもともと子どもの貧困対策
を意識して始めた事業ではない。しかし、この事業がいまや、子どもの健康を支え、貧困
おもむき
対策の最たる事業に 趣 を変えてきている。最初、この事業を始める際に、担当の栄養士
はできないといっていた。今の子どもたちはコンビニやファミレスなどの濃い味に慣れて
18
いて、本格的なだしを使っても、薄くてまずいと感じてしまう。残菜をなくしたいなら、
濃い味付けにすれば良いといっていた。ところが、事業を進めていくうちに、子どもたち
が「今日の味噌汁のダシは抜群だったね」というようになった。中学校の子ども達からダ
シという言葉が聞かれるようになった。これにより栄養士のモチベーションが高くなり、
さらにこの事業に力を入れるようになった。ダシの味をわかることが自分の健康を保持し
ていくためにいかに必要なことなのかということを、子どものうちに自分の舌で感覚的に
わかることが重要である。それがわからなければ、濃い味のものに慣れてしまい、将来、
糖尿病や肥満のリスクが非常に高くなる。こうして、子どもの頃から自分の健康を自分で
守っていく術を給食という一つのツールを通じて、子どもたちに伝えることができたこと
が大きい。
4月からの4歳、5歳の子ども全員に実施する歯科健診も機会の均等を子どもたちに与
えるものである。今までは、公立保育園に通っていたか、私立保育園に通っていたか、あ
るいは幼稚園に通っていたかによって健診を受けられたり、受けられなかったりした。足
立区がむし歯の子が多いということであれば、すべての子どもが学校に入る前にむし歯の
健診を受けてもらい、治療までつなげていく事業を始める。
こうして、足立区で生活しているだけで、なんとなく貧困のリスクが薄らぐような、そ
んな事業を手厚く重層的に重ねていく。これが、限られた財政の中で、効果を出していく
足立の一つの考え方である。
この対策を続けていったからといって、足立区から大金持ちがたくさん生まれるわけで
はないだろう。しかし、夢や希望を持って生きていける地域は、将来も活力を生み出して
いけると考えている。足立区は自主財源3割という自治体ではあるが、こうした取り組み
が区民の皆さんに提供できることが豊かさの一つでありたいと思うし、足立区の行く道は
そこにあるのではないかと思う。30年、40年経っても、持続性があり、ヒューマンキ
ャピタルやソーシャルキャピタル、メンタルキャピタルがしっかり整った自治体でありた
い。そのために今を頑張る。皆さんにぜひ、この運動に活力を与えていただきたいと思う。
宮本 みち子
(コーディネーター)
子どもの貧困対策は社会のインフラ作りであるといえる。子どもの貧困対策に真正面か
ら取り組んで、良い成果を出せるような自治体は、子どもだけではなく、母親だったり、
病人だったり、高齢者だったり、それぞれの層にとって必ず生きやすい社会になるといえ
る。そして、子どもの貧困に対して行政だけでなく、NPOや一般市民が関心を持ち、子
どもの様子にアンテナを張れる市民が多くなることが重要だと思う。
子どもに対してアンテナを張れる市民というのは、子どもだけでなく高齢者に対しても、
障がい者に対しても、生活に困窮している人に対しても、しっかりアンテナを張ることが
できる。その意味で、子どもの貧困対策を進めていくことは非常に価値があるといえる。
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