単旋律を対象としたギター演奏の押弦位置決定システムの構築

単旋律を対象としたギター演奏の押弦位置決定システムの構築∗
◎三浦 雅展(同志社大院), 廣田 勲(同志社大・工),柳田 益造(同志社大・工)
1. まえがき
ギターの初心者がギターを練習あるいは演奏す
3. 押弦位置決定システム“S2T”
3.1 構築手法と決定アルゴリズム
る際に,「TAB 譜」と呼ばれる楽譜が一般によく用い
今回我々は,単旋律に対する TAB 譜を自動生成
られている.TAB 譜には各演奏音に対応する押弦
するシステム「Score to Tablature System(S2T)」を構
位置(弦およびフレット位置)が記述されている.ギタ
築した.S2T では,まず入力した旋律に対してフレ
ーの初心者が五線譜で記述された任意の楽曲を演
ーズ抽出を行う.本システムでは,実時間で0.5秒以
奏する際,当該楽譜を読むことができる/できない
上(譜面上で4分音符に対応する長さ)の休符が存
に拘らず,ギターで演奏する際の押弦位置がわから
在すると,フレーズの区切れであると判定させた.次
ない(あるいは決められない)場合でも,当該五線譜
に得られたフレーズ内で,左手首の動きを最小にす
に対応した TAB 譜を参考にすることにより演奏する
る押弦位置パタンを決定し,各音に対してどの指で
ことができる.また,TAB 譜に記載されている押弦位
弦を押さえるかの決定を行う.この際,各フレーズ内
置を参考にすることで,運指のパタンなどを習得し
で使用するフレットの開きが4以内であれば,各指と
ていけると考えられる.しかし,TAB 譜が用意されて
フレットを直接対応させることで運指が決定される.
いる譜面は稀で,多くの五線譜には,それに対応す
ただし,フレットの開きが5,6の場合は,人差し指お
る TAB 譜は添えられていない.それは,多くのギタ
よび小指を無理やりに伸ばして対応せざるを得ず,
ー熟練者にとって TAB 譜はそれほど必要でなく,
さらに7以上については手首の位置を移動させるこ
TAB 譜を必要とするのはギターの初心者に限定さ
とでしか対応できないものとした.
れることが原因の一つとして挙げることができる.
ここで提案するアルゴリズムは,「左手首の位置を
本研究では,ギターの初心者を対象として,ギタ
なるべく固定し,指の動きに集中することで,運指の
ー初心者がギター演奏を困難なく練習できることを
練習に適した押弦位置パタン」の生成を実現してお
目標として,任意の楽譜に対する TAB 譜を自動生
り,かつ,演奏者の左手首の冗長な移動を抑えるこ
成するシステムを提案する.本システムを用いること
とも実現している.最後に,「ハンマリング」「チョーキ
で,ギターの初心者がギター演奏を練習することに
ング」など,ギター演奏で頻繁によく用いられる奏法
貢献することができることが期待される.
2. 初心者にとって望ましい TAB 譜
一般に,与えられた五線譜上の各音について可
(ここでは特殊奏法と呼ぶことにする)が適用できる
能な押弦位置は複数通り存在する.演奏の技量によ
って最適な弾き方は異なるので,一つの五線譜に
個所を検索し,対応する個所においては特殊奏法
が使用可能であることをギター初心者に通知する.
本システムは 6 通りの特殊奏法に対応している.
3.2
対応する TAB 譜は複数通り存在することになる.そ
れら複数の TAB 譜の中で,初心者にとって理想的
な TAB 譜とは,「左手首(弦を押さえる手)の移動を
なるべく少なくし(無駄な移動を減らす),運指の練
習に適している」という性質を持つべきであると考え
られる.
∗
機能
S2T の機能を以下に示す.
・
特殊フォーマットによる,旋律データとテンポの
入力
・
使用する特殊奏法のユーザによる指定
・
開始押弦位置のユーザによる入力
・
最適な押弦位置の決定
A “Score to Tablature System(S2T)” for Solo Melody Performance on Guitar,
By Masanobu MIURA (School of Engng., Doshisha Univ.), Isao HIROTA and Masuzo YANAGIDA(Fac. of Engng., Doshisha
Univ.)
・
入力する旋律データの楽譜と TAB 譜のディスプ
251 フレーズ中,49 フレーズに対して S2T の出力が
レイ出力
システム F の出力結果に比べてフレットの移動幅が
各音に対応する指および手首の位置の表示
少ない押弦位置パタンを生成できることが確認され
S2T の動作例を Fig.1 に示す.Fig.1 より,入力され
た.逆にシステムFの方が移動幅の少ない押弦位置
た旋律データの楽譜と共に,TAB 譜が出力されてい
パタンを出力したのは 7 フレーズのみであった.こ
る様子がわかる.ここでは,各押弦位置に対応する
れはすなわち,システム F が生成した TAB 譜に従う
指を人(人差し指)・中(中指)・薬(薬指)・小(小指)で
のならば,左手首を固定したままの状態で,人差し
表示している.さらに,左手首の位置を人差し指の位
指あるいは小指を無理やり伸ばすことにより5フレッ
置によって表現している.例えば,Fig.1 内第1小節
ト幅を押さえなければならないか,あるいは実時間
内“7p”は,人差し指が第7フレットに位置するように
0.5 秒以内での左手首の移動を余儀なくされることを
左手首を置くことを意味する.また,“H”はハンマリン
意味する.このことから,S2T の出力結果は,システ
グを,“C”はチョーキングを意味する.
ムFと比べて,演奏者に負担がかからないTAB譜を
・
3.3
性能評価
S2T の性能評価を行うために,任意の J-POP8曲
生成することができたと言える.
4. まとめ
の旋律パート(ボーカルパート)についてS2Tを用い
今回我々は,ギターの初心者を対象とした,押弦
て TAB 譜の生成を試みた.その結果,各フレーズ
位置決定システム S2T を構築した.S2T では,TAB
内におけるフレット移動の最大幅は 4 フレットであっ
譜を楽譜形式で表示するため,初心者にとって有用
た.ただし,某M社が販売する自動TAB譜生成シス
なシステムであると言える.また市販システムと比較
テム(ここでは“システム F”と略す)による出力ではフ
したところ,市販システムに比べて演奏者に負担の
レーズ内で5フレットの移動幅を持つ TAB 譜が出力
かからない TAB 譜を出力することができた.今後,
されることがあるのが確認された.さらに,全8曲に
手首・運指を考慮した人間の演奏との比較の行い,
含まれる全フレーズを用いて,移動フレット幅の観点
また和音演奏に対応する予定である.
から,S2T とシステム F とを比較し,評価したところ,
Fig. 1. A display example of S2T(Japanese version). The current system reads a solo melody and
generates a tablature for given solo part. Fingers corresponding to each note are determined by this
system. 人: index finger, 中: middle finger, 薬: ring finger and 小: little finger. The position of
player’s left-hand is denoted by “xp”,where x means the position of the index finger.