「宗教学通論」授業用ハンドアウト(2):現代日本人の宗教意識

「宗教学通論」ハンドアウト(2)
「宗教学通論」授業用ハンドアウト(2):現代日本人の宗教意識
Ⅰ
現代日本人の宗教意識とその特殊性
1.無宗教・宗教嫌い
2.年中行事などとの深い関わり
3.統計上の奇妙な現象
Ⅱ
「無宗教」や「宗教嫌い」という意識の背景にある歴史的経緯
1.檀家制度
2.国家神道
Ⅲ
「無宗教」や「宗教嫌い」という意識の背景にある日本の伝統宗教:自然宗教性
参考文献)
教科書 pp.2-4
序章「現代人と宗教」、第 1 節「現代日本人の宗教意識」、
教科書 p.257「日本の宗教団体信者数」
教科書 p.132「コラムⅡ
宗教における新しいものと古いもの」
阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』筑摩書房(ちくま新書 085)、1996 年
ヨアヒム・ヴァッハ『宗教の比較研究』法蔵館、1999 年
Ⅰ
現代日本人の宗教意識とその特殊性
1.無宗教・宗教嫌い
○自覚的信仰者 20~30 %、大学生はわずか数%
○その理由:a 世俗主義・科学主義、政策としての政教分離、宗教教育の否定の結果
としての無知
b.宗教に関するマスコミの諸報道──危険なもの・胡散臭いものとしての
宗教
b.1 宗教が関わる国際紛争:タリバーンによるバーミヤンの大仏破壊
(2001 年)、9・11アメリカ同時多発テロ、その他
b.2 国内でのカルト・宗教問題:「オーム真理教(現アーレフ)」事件
(1995 年)、
○南北アメリカ大陸や韓国、東南アジア、南アジア、アフリカ、東欧と比較しても特
異。西ヨーロッパは若干似ているのかも?
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「宗教学通論」ハンドアウト(2)
2.年中行事などとの深い関わり:習俗化した行動・何とはなしの信仰心
教団としての宗教
何とはなしの〈信仰心〉
自然を畏敬する気持ち
仏壇、神棚。お盆、お彼岸、お墓参り、初詣、お宮参り、七五三、
交通安全・安産・商売繁盛・入試合格などの祈願
結婚式、お葬式、(「人前結婚式」や「お別れの集い」という方法もあるが)
原初的な自然信仰や先祖崇拝
風水、占い、スピリチュアル・カウンセリング
宗教的情操教育の必要性を叫ぶ声の存在
3.統計上の奇妙な現象:教科書 p.257「日本の宗教団体信者数」
Ⅱ
「無宗教」や「宗教嫌い」という意識の背景にある歴史的経緯
1.近世における檀家制度(寺請制度、寺檀制度)
→血縁原理による結びつきで檀家のメンバーとしてカウントされる。
仏教の堕落(布教等の努力の要をなくし、切磋琢磨の機会を奪った。葬式仏教化の促
進:「愚夫愚婦の宗教」(浄土真宗))
2.神仏分離令、国家神道(明治から昭和初期にかけての)
→地縁原理を担う神道、神社によって氏子としてカウントされる。
廃仏毀釈、僧侶の還俗、修験道の廃止:日本の宗教風景の激変・荒廃
(→作られた宗教伝統、教科書 p.132「コラムⅡ
宗教における新しいものと古いも
の」参照。)
国家神道・国民道徳は日本国民を戦争の悲惨へと導き、幸福にはしなかったし、戦後、
徹底的に否定された。
1と2から、「宗教嫌い」「無宗教」という意識が説明できるのではないか。
また1と2は、統計上の奇妙な現象の原因でもある。
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「宗教学通論」ハンドアウト(2)
Ⅲ
「無宗教」や「宗教嫌い」という意識の背景にある日本の伝統宗教:自然宗教性
さらに時代を遡って日本人の宗教性を「自然宗教」性(「創唱宗教」嫌い)として理解
し、そこから無宗教という言説の意味を探ることができるのではないか。
J・ワッハらによる宗教の四つの構成要素との関わりで
(1)教え・教義(「神話」か「教義」か)
(2)宗教的実践・儀礼
(3)宗教共同体・宗教集団(「合致的集団」か「特殊的集団」か)
(4)宗教体験
「宗教」という概念は、religion の翻訳以上のものでなく、religion は、やはり、キリス
ト教をモデルとした概念であるという限界を超えられていなかったとしたら……。
ただし、阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』は、だからといって、このような日本
人の無宗教・自然宗教性を肯定・讃美するのではなく、浄土真宗の立場に立つ仏教者とし
て、批判的に見ている。
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