海岸侵食に伴う崖崩壊危険度評価のための崖形状と力学特性の

海岸侵食に伴う崖崩壊危険度評価のための崖形状と力学特性のデータベース化
海岸崖 泥岩 現地調査
茨城大学 学生会員 ○薄井 隆義
茨城大学 国際会員
村上 哲
茨城大学 国際会員
安原 一哉
茨城大学 国際会員
小峯 秀雄
1.研究の背景と目的
近年、海岸侵食を受ける海岸崖崩壊によって景勝地における観光資源の損失や、
人家や公共施設が危険にさらされるという事例が増えてきている。日本で唯一の海
鵜の捕獲地でもある国民宿舎「鵜の岬」のある伊師海岸崖侵食もそのひとつに数え
られる。この伊師海岸崖の侵食を防止する対策として、従来用いられてきたコンク
リート護岸や景観維持という立場から擬岩など新しい工法で対応する方策が考え
られるが、経済的時間的側面から見ても延長 2kmの海岸にこのような対策を緊急
に施すことは不可能である。そこで、様々な制約の下、生態系・観光資源の保全と
ともに、安全性を維持するために優先的に対策を講じるべき地点を比較的早く抽出
写真-1 国民宿舎「鵜の岬」
できる技術が必要とされている。
本文は、伊師海岸崖を研究対象として、菅野(2002)による危険度
伊師海岸の崖侵食問題
1)
評価式 を使用する海岸崖危険度評価を行うために必要となる崖
形状と力学特性の取得と、得られた結果のベータベース化について
現地調査
述べたものである。具体的には、危険度評価を行うに当たって必要
となる形状に関する情報である崖の高さ・勾配、ノッチ深さを高解
・写真撮影
・写真測量
像度ディジタルカメラによる写真測量によって、崖の一軸圧縮強度
・SH 試験
・圧縮強度の選定
を現地でシュミットハンマー試験を行う事によって求めた。特に、
・サンプルの取得
・X 線回折
シュミットハンマー試験と写真測量の結果をデータベース化した
経緯ついて述べる。
2.写真測量とシュミットハンマー試験の結果
現地調査を行う事によって、伊師海岸崖は国民宿舎を境にして北
被害影響評価
危険度評価
側と南側では地質が違うことが判明した。地質の違いによって崩落
メカニズムも違っており、北側はノッチの発達によって崩落が起こ
優先的に対策を講じる地点の特定
るが、南側は風化によって崩落している。よって、北側と南側を区
別することとした。
図-1 研究フロー
2.1.写真測量の結果
表-1 写真測量の結果
本研究では、崖形状の把握を高解像度ディジタルカメラを使用
した写真測量によって求めた。写真測量とは対象物が 2 枚以上写っ
た画像を用いて、対象物の 3 次元の位置関係を求める測定方法であ
る。写真測量の利点としては、崖から離れて計測できるため安全で
あり、作業が単純で時間がかからないという点が上げられる。今回
行った写真測量は、形状に特徴がある断面を選定して行った。写真
測量によって、北側・南側のほぼ全域の崖の高さ・勾配、ノッチ深
さを求める事ができた。その結果は表-1 に示した。この結果から、
南側は高さが 30m と一定で、勾配もそれほぼ大きな差はなかった
が平成 8 年に護岸対策が行われているため、ノッチは確認すること
が出来なかった。逆に北側は高さ・勾配は南側と比べる小さいが、
ノッチ深さが最大で 5.25m と非常に深い結果となった。
2.2.シュミットハンマー試験の結果
力学的特性を把握するために、現地でシュミットハンマー試験を
高さ[m]
勾配[°]
北側
7.72〜11.57
51.45〜85.24
0.13〜5.25
南側
30
85〜70
確認できず
鵜の 岬1− 1
鵜の 岬1− 2
鵜の 岬1− 3
鵜の 岬2− 1
鵜の 岬2− 2
鵜の 岬3− 1
鵜の 岬3− 2
鵜の岬 4
鵜の 岬5(北 )
鵜の 岬6(北 )
鵜の 岬7(北 )
鵜の 岬8(北 )
鵜の 岬9(北 )
20
行うことによって一軸圧縮強度を求めた。シュミットハンマー試験
Geometrical and Mechanical Database for collapse risk evaluation of cliff subjected to coastal erosion
;Usui,T.,Murakami,S.,Yasuhara,K.,Komine,H. (Ibaraki University)
ノッチ深さ[m]
30
40
50
60
70
反発 値の 範囲
図-2 反発値の範囲
80
90
100
とは、振り子の原理を利用したハンマーを、垂直な崖に打撃するこ
鵜 の 岬 1̲1
鵜 の 岬 1̲2
鵜 の 岬 1̲3
鵜 の 岬 2̲1
とによって得られる反発値から、換算式を使用して崖の一軸圧縮強
度を求める試験である。
シュミットハンマー試験は図-2 のようにデ
ータにばらつきが生じるため、1 地点で 30 回試験を行い、反発値
1.91864655
2.350629
1.871
2.16539865
鵜 の 岬 2̲2
鵜 の 岬 3̲1
鵜 の 岬 3̲2
鵜の岬4
鵜の岬5
の平均値を一軸圧縮強度に換算した。その結果を図-3 に示した。こ
の結果から、南側の一軸圧縮強度は 1.6MPa~2.4MPa の範囲に、北
側の一軸圧縮強度は0.4MPa~1.5MPaの範囲であることが判明した。
北側・南側ともそれぞれ同じ地質で測定したにもかかわらず、デー
2.383884
発生しており、風化の度合いによって一軸圧縮強度が低下したため
と考えられる。また、北側では石灰岩が他の砂岩よりも風化せずに
1.975956222
1.63
1.514819778
北側の
0.439575222
fc の範囲
3.969038778
1.308638778
2.687
0
残っていることから、
石灰岩に対して試験を行ったところ、
約4MPa
fc の範囲
2.28179115
鵜の岬6
鵜の岬7
鵜の岬8
鵜の岬9
タにばらつきが生じたこの理由としては、風化によって強度低下が
南側の
1
2
3
4
5
一軸圧縮強度 fc [MPa]
と非常に強度が高いことが判明した。
図-3 シュミットハンマー試験の結果
3.データベース化の必要性
本研究では、現地調査によって得られたデータのデータベース化を行った。データベース化する利点としては以下の点が挙げられ
る。
1)情報の追加や削除といったデータの変更が瞬時にでき、調査日ごとにデータを整理することが安易である。
2)形状特性・力学的特性など、様々なデータを総合的に閲覧することができる。
3)入力データをプログラムに組み込むことによって、危険度評価を行う際の効率が上昇する。
このような利点があるため、伊師海岸崖のデータベース化を行った。
3.1.崖形状のデータベース化
写真測量を行った際に、崖形
状は写真-3 に示したように、特
徴のある断面ごとに行ったため、
データベース化もその断面ごと
に行った。写真測量を行った日
ごとに崖形状をデータベース化
することによって、崩落が起き
た際はデータに違いが現れ、調
査の際に気づかなかった微小な
崩落もデータの差異によって判
明する。長期的に測定を行うこ
写真-3 写真測量を行った断面
とによって、伊師海岸崖の波の
作用によるノッチの進展速度も写真測量によって求める事が出来ると考えられる。また、南側の風化によって崩落している地点も写
真測量によってどのような地点が崩落する傾向にあるのかを調査することができる。
3.2.崖の物性のデータベース化
シュミットハンマー試験結果をデータベース化し、長期的に試験を行った地点のデータを時系列で表示させることにより、風化に
よって圧縮強度が低下するか検証できる。また、シュミットハンマー試験を行った地点の崖の岩石のサンプルを粉末 X 線回折で解析
し、含有される鉱物もデータベース化することによって、一軸圧縮強度と含有鉱物との関係を調査する事が可能になる。さらに、風
化によってどのように含有鉱物が変化するかを調査することによって、新たに X 線回折のデータを取得した際に、その地点の風化の
度合いも調べることができる。
4.結論
本研究によって、以下の知見を得た。
1).
崖形状を高解像度ディジタルカメラを使用した写真測量によって、崖の高さ・勾配・ノッチ深さを求める事ができた。
2).
シュミットハンマー試験を行うことによって、伊師海岸崖の北側・南側の一軸圧縮強度を求める事ができた。
3).
伊師海岸崖の形状と、力学特性のデータベース化を行うことによって、様々なデータを一括に管理することができるようにな
り、総合的に考えることが可能となった。
参考・引用文献
1) 安原 一哉・村 上哲・菅野 康範・呉 智深・金澤 浩明:崖侵食による岩盤斜面崩壊の亀裂進展解析とその利用,茨城大学工学
部研究集報第 49 巻,pp31-43,2002