多国籍企業論 ー 持続的競争優位 ー ケース・スタディ 2

ブランド・イメージが国際競争優位性の源泉
多国籍企業論
ー 持続的競争優位 ー
ケース・スタディ 2
- ジョルジオ アルマーニ社の事例-
• G. ARMANI
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ジョルジオ アルマーニ社
アパレル業界は魅力度低い産業?
アパレル業界は
◆ 今後の大幅な市場規模拡大は望めない。
◆ 競合多数で供給過多。顧客は大量な選択肢を持つ。
◆ 顧客は非常に移り気。
◆ 技術(=デザイン)はすぐコピーされ代替製品はあっという間に出回る。
ポーター理論の視点からは魅力度の低い産業
低魅力度業界で企業は競争優位性をいかに確立、維持するか?
ジョルジオ アルマーニ社はどうしているのか?
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売上高地域別構成比(2008年:単位:%)
設立
設立者
事業内容
取扱商品
1975年
ジョルジオ・アルマーニとセルジオ・ガレオッティ
ファッション商品のデザイン、生産、流通、小売
アパレル、アイウェア、時計、ホーム・ウェア、フレグランス、コス
メティック、等
売上高
23.6億ユーロ
収益:16.0億ユーロ(2007年)
営業利益:3.5億ユーロ(15%)
専門小売店 39か国、300店以上、13の工場を保有
本社所在地 イタリア、ミラノ(勤務者約300名:2003年):
全世界で5,075名(2007年末)(海外:1,991名)
Management(96);White Collars(1,804);Blue Collars(1,184)
CEO
ジョルジオ・アルマーニ
株式
非公開(主な株主はジョルジオ・アルマーニ本人)
http://www.giorgioarmani.com/
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2008
ブランド別構成比
Armani
Junior
20%
Other
2%
G.ARMANI
27%
2008
Rest
11%
Far East
13%
Armani
Exchange
7%
Armani
Jeans
10%
(単位:%)
ARMANI
Collezioni
10%
Europe
37%
Empolrio
ARMANI
24%
Watches
&
Jewelley Other
4%
6%
Eyewear
8%
2008
Italy
17%
商品別構成比
North
America
22%
5
Source:2008 Annual Report
Perfumes
&
Cosmetics
26%
Clothing
56%
Source:2006 Annual Report
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パリの高級ファッション
オートクチュール
(=デザイナーブランドによる高級注文服)
1950年代(一部の特権階級)
① Giorgio
Giorgio Armaniの
Armaniの
①
ファッションの哲学
ファッションの哲学
™ キーワード:シンプル、エレガント、男らしいがやさしい男性 、
女らしいが強い女性
私にとって、ファッションとは、人々に夢を見させるもの
ではなく、人々の生活を支えるものでなければならないの
です。私のファッションは、人々が活用し、自分のものと
し、自分流に解釈さえするためにあるのです。
イタリアファッションの再興
プレタポルテ
(=デザイナーブランドによる高級既製服)
1950年代に中産階級の台頭
私の愛する創
造性とは、信
頼できるファ
を買った男性
ッションや、
や女性がより
その服
良く見え、快
してシーズン
適になるよう
毎にがらりと
な服,そ
変わってしま
いものの流れ
うのではなく、新
をえつつ、文
し
明が発展する
よう
に進
服を作り出す
化していく
力なのです。
まず、上着を自分なりにデザインしようと思いました。
インフォーマルで、かつ肩苦しくない上着で、体を隠す
どころか体の官能性を強調する上着を創造しました。
G・アルマーニ:1970年代ヨーロッパファッション界に
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革命をもたらす
5
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ARMANI革命とは?
アルマーニ革命の核心
従来のヨーロッパファッション界を支配していた
オートクチュールは特権階級の人々に
権力とStatusを誇示するもの
アルマーニの服作りの基本コンセプト
•
(1) 魅力的で官能的な美しいもの
• 1970年代ヨーロッパファッション界に革命をもたらす。
• G.ARMANIは紳士用ジャケットの脱神聖化を図る
(1) シンプルにするために肩パット、裏地を除去
(2) 軽くて柔らかい婦人生地を使用
(3) 黒・グレー・ベージュなど落ち着いた上品な色の無地を採用
•
(2) 人間の自然な動きにマッチした着やすいもの
ルネッサンス時代のモーダの原点に帰る事
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ファッションをUpper から
Upper Middleへ拡大
G.ARMANIの戦略
(イタリア式ビジネス)
単なる既存市場内での差別化
or
Blue Ocean(新たな市場)
×
Commodity Goods
(汎用品=個性を持たない、無機質なもの)
Upper
+
Upper Middle
Middle
○
Speciality Goods
(個性を持ち、その個性を理解する特定の層の
消費者に向けた限定品=生産量は限定)
明確な差別化(Differentiation)
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Lower
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集中
(Focus)
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ラグジャリーブランドを維持し、 コモディティ化を避ける
「アルマーニ」というブランドはない。
ジョルジオ アルマーニ社の3ブランド
「アルマーニは高級ブランド」というのが一般的な認識であるが、
◆GIORGIO ARMANI
ファーストライン。最も高価格でターゲットが絞り込まれているライン。平均的なスーツ
は30万円前後、300万円の女性用ドレスは衣料品というより美術品に近い。日常から
逸脱した世界ではあるがキーワードは「シンプル、モダン、エレガント」。
ところが実は「アルマーニ」というブランドは、存在しない。
広く一般に「アルマーニ」と認知されている製品のほとんどは、
ジョルジオ アルマーニ社が取り扱う 3つのブランドのいずれかである。
◆ARMANI COLLEZIONI
ディフュージョンライン。ファーストラインのデザインモチーフを使いながら商品的にも価
格的にもより日常感。最も店舗数が多いので物理的に一番手に入れやすい「アルマー
ニ」。百貨店でのインショップ展開がメイン。ビジネスパーソンがターゲット・イメージ。平
均的なスーツは12万円前後。
◆EMPORIO ARMANI
ライフスタイル型ブランド。よって商品の幅が最も広く(スーツ、ジーンズ、時計等のアク
セサリーまで)雰囲気を重視するので路面店展開のみ。ターゲットは”young at
heart”な人(実際の顧客年令は必ずしも若くはない)。平均的なスーツは12万円前後
であるが、5,500円のTシャツもあるので経済的に一番手に入れやすい「アルマーニ」。
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3ブランド戦略
G.ARMANIの戦略
「アルマーニ」という共通ワードを背景に、少しずつ異なるキャラクターを持たせた3ブラン
○
自らのライフスタイル・生き方
ドを使い分けることによってより幅広いターゲットにアプローチし、共通ワード「アルマー
いかに美しく・楽しく生きるかを
ブランドを通じてUpper Middle以上に提案
ニ」の広範囲での認知を狙う、というメカニズム。
ジョルジオ
アルマーニ
価格
アルマーニ
コレツィオーニ
×
売り上げと利益の最大化を至上命題にして企業
価値を増大させるビジネス・モデルとは異なる。
アングロ・サクソン型モデルの否定
エンポリオ
アルマーニ アルマーニ
エクスチェンジ
ファッション性
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「アルマーニ」を創るもの
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「ブランド・イメージ」が競争優位性の源泉
「我々の唯一、最高の資産は”イメージ”だ。」
(ジュゼッペ・プルゾーネ G.アルマーニ社元General Manager)
「アルマーニ」というブランドの製品はない。
プラダはナイロン・バッグ、ルイ・ヴィトンはモノグラム・バッグ、エルメスはケリ−バッグ
と他の多くのブランドがアイコンとなる「ヒット・アイテム」を抱える中、そのような象徴的
アイテムを持たないジョルジオ アルマーニ社の最大のヒット・アイテムは「イメージ」で
あると考えられる。
実体がないのに広く認知されている「アルマーニ」とは何モノか?
「アルマーニ」というイメージがジョルジオ アルマーニ社にとっての
主力商品であり、競争優位性の源泉である。
3ブランドの背景にあるイメージ
イメージが製品に衣類の価値を超えた意味付けをするシステム
イメージを資源として生産され、それぞれブランド・ラベルをつけられ
た製品の売上高は年間24億ユーロになる。
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ブランド・イメージの維持=優位性の確保
優位性構築のための必要要因
イメージを競争優位性の源泉とするジョルジオ アルマーニ社にとって、
ブランド・イメージの維持が企業競争優位性の確保につながる。
「創業以来、イメージの重要性ということを第一に考えて仕事をして
きた。だから我々らしさを十分に発揮できるところでしか仕事はしな
い。売れるから、儲かるからという理由だけでは妥協はしない。」
ジョルジオ アルマーニ社がブランド・イメージ構築に成功した
主な要因として、以下の3つの主な要因が考えられる。
① 明確で一貫性のあるイメージ表現
② 協力他社(者)との関係強化・維持
(ジュゼッペ・プルゾーネ ジョルジオ アルマーニ社元ジェネラル・マネージャー)
③ 従業員が自社製品の熱烈なファン
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① 明確で一貫性のあるイメージ表現
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② 協力社(者)との関係強化・維持
的確なイメージ表現は外部スタッフとのアライアンス(提携)に支えられている。
(表現媒体)
商品
店鋪
接客
広告宣伝
イメージ
◆製作工場との関係
製品はその特徴となる部分においてコンピタンスを有する工場で生産されている。
革素材の衣料品:ベルフェ社(イタリア)、スーツ:ベスティメンタ社(イタリア)、
腕時計:フォッシル社(アメリカ)
イメージ伝達
顧客
◆店鋪設計スタッフとの関係
建築家:クラウディオ・シルベストリン(イタリア人)
共感、ファンになる
◆広告制作スタッフとの関係
カメラマン:ピーター・リンドバーグ(パリ在住)
◆セレブリティ=シンボリックな「スーパー顧客」としてイメージ訴求に一役
ジョディ・フォスター、その他ハリウッドスター、エリック・クラプトン、他
一貫性
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The Italian Leather, Footwear and
Fashion Cluster
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的確なイメージ表現は外部スタッフとの連携に支えられたもの
モデル=リトアニア人
③帽子=ベルフェ社製
①メイクアップ=
フランス ロレアル社製
Leather
Clothing
Design
Services
④ジャケット=アピモーダ社製
⑤パンツ=アピモーダ社製
②バッグ=
シャラパガーノ社製
⑥シューズ=インタイ社製
Textile
Fashion Cluster
(ジョルジオ アルマーニ 2002年春夏コレクション)
M.Porter, HBR, Nov-Dec,199823
会場:アルマーニ・テアトロ(ミラノ)=日本人(安藤忠雄)設計
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② 統合化・内部化:
Vertical Integration
製造の社内化の例 :
流通の社内化の例 :
™2000年に長期的な協力会社
である Vestimentaと新しい
Joint-Ventureを開始した。
60%を Giorgio Armani社が所
有している。
™以前は、香港の店舗を流通会社
が管理していたが、2001年から
Giorgio Armani社が 100%所有し、
自立的に管理することにした 。
™2001年にSimintという製造
会社を 100%買収。株は非公
開。
™Giorgio Armani Japan社は伊藤忠
商事とのJoint-Ventureであるが、
Giorgio Armani社が徐々に85%所有
へと高めた 。
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Jodie Foster
on Academy Awards in 1995,
as Best Actress Nominee for Nell,
wearing an ARMANI Gown
encrusted with ivory beads
that created an antique essence.
Star Style at the Academy Awards, P.Fox
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まとめ(1)
③ 従業員が自社製品の熱烈なファン
M.ポーターはアパレル業界を魅力の低い業界と考えるだろう。供給過多で競争は激
しく流行のデザインは模倣されるのが常である。こうした環境のなかで競争優位性の
持続は可能なのであろうか?
ほとんどのスタッフは「アルマーニらしさが好き」
答えはYESであると考える。ジョルジオ アルマーニ社は「ブランド・イメージ」を使った
戦略(差別化と集中化)で 35年間にわたり事業を拡大してきた。デザインの模倣は簡
単であるが、実体のないイメージの模倣は簡単ではない。
競争優位の源泉をブランド・イメージに求めた場合、イメージを具現化する表現力は
必須だ。表現力とはつまり、ブランドという付加価値を明確に、一貫性をもって顧客に
伝達する「ノウハウ」である。このノウハウはイメージそのものよりもさらに模倣が難し
くなる。ジョルジオ アルマーニ社のイメージ表現力は、自社の経験で培われたものだ
けではなく、協力他社との積極的な連携によって構成されている。
自社の競争優位性の源泉、戦略を理解している。
社内モチベーションの維持が比較的容易。
人材が流出しにくい。
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• GIORGE ARMANI社の国際プロモーション戦略と映画
まとめ(2)
z 他社との強力な連携は同時に、ジョルジオ アルマーニ社が「イメージの構築(=商品
企画、デザイン)とコントロール」というコア・タスクに専念できる体制を可能にするもので
もある。
また、ジョルジオ アルマーニ社独特の強みは、従業員との感情的な強い繋がりであ
る。スタッフたちは会社の競争力の源泉であり企業戦略そのものである「アルマーニらし
さ」というイメージに共感を抱いている。こうした関係は組織内での戦略の浸透を容易くし
ている。
z
このように、産業として魅力の低いアパレル業界でも、自社内外のコアコンピタンスを
活用して、創造性豊かな差別化・集中化戦略を用いることによって、グローバルな競争
優位性を維持することが可能になっている。
z
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• GIORGE ARMANI社の国際プロモーション戦略と映画
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1980 AMERICAN GIGOLO, Paul Schrader: Richard Gere's wardrobe by Giorgio
Armani
1984 STREETS OF FIRE, Walter Hill
Michael Pare', Diane Lane, Willem Dafoe: costumes by Giorgio Armani
1985 PHENOMENA, Dario Argento
Jennifer Connelly, Patrick Bauchau, Donald Pleasance: costumes by Giorgio Armani
1985 IL DESIDERIO E LA CORRUZIONE, Philippe Labro
Natalie Baye's wardrobe by Giorgio Armani
1985 THE YEAR OF THE DRAGON, Michael Cimino: Ariane's wardrobe by Giorgio
Armani
1986 SPERIAMO CHE SIA FEMMINA, Mario MonicelliCatherine Deneuve's wardrobe
by G. Armani
1986 IL DIAVOLO IN CORPO, Marco Bellocchio: Marushka Detmers' wardrobe by G.
Armani
1986 LA SPOSA AMERICANA, Giovanni Soldati
Stefania Sandrelli, Trudie Styler, Harvey Keitel: costumes by Giorgio Armani
1987 THE UNTOUCHABLES, Brian de Palma: Kevin Costner, Sean Connery, Andy
Garcia, Charles Martin Smith ,Billy Drago: costumes by Giorgio Armani
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1997 RANSOM, Ron Howard : Mel Gibson and Rene Russo's wardrobe by Giorgio
Armani
1997 CARNE TREMULA, Pedro Almodovar: Francesca Neri's wardrobe by Giorgio
Armani
1997 ARLETTE, Claude Zidi: Christopher Lambert's wardrobe by Giorgio Armani
1997 EL AMOR PERJUDICA SERIAMENTE LA SALUD, Manuel Gomez Pereira
Ana Belen's wardrobe by Giorgio Armani
1997 FUOCHI DユARTIFICIO, Leonardo Pieraccioni
Leonardo Pieraccioni and Claudio Gerini's wardrobe by Emporio Armani
1997 MARS ATTACKS!, Tim Burton
Michael J. Fox, Jack Nicholson: selected wardrobe by Giorgio Armani
1997 MAD CITY, Constantin Costa-Gravas: Dustin Hoffman: selected costumes by
Giorgio Armani
1997 DAY OF THE JACKAL, Michael Caton Jones : Bruce Willis: selected costumes by
Giorgio Armani
1997 AIRFORCE ONE, Wolfgang Peterson: Glenn Close: selected wardrobe by Giorgio
Armani
1997 MIMIC, Guillermo Del Toro: Mira Sorvino: selected wardrobe by Giorgio Armani
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参考文献
• 林・関・坂本『経営戦略と競争優位』税務経理協会、2006年、
第1章・第2章・第8章
• レナータ・モルホ『ジョルジョ・アルマーニ:帝王の美学』日本
経済新聞社、2007年
• 小林 元『人生を楽しむイタリア式ビジネス』日経ビジネス文庫
、2003年
ジョルジョ・アルマーニの
「持続的国際競争優位の源泉」について、
講義内容を踏まえたうえで、
あなたの見解を述べてください