第42号 - FORTH|厚生労働省検疫所

2012年 第 42号
発行日:平成24年12月10日
名古屋検疫所 感染症情報
今月のトピックス
『名古屋検疫所 感染症情報』はWHO、CDC
1.海外の感染症情報
など公的機関の情報をもとに編集しておりま
黄熱の流行【スーダン】
すがこれらの情報に加え、ProMEDなどの非
マールブルグ病の流行(続報)【ウガンダ】
公式な情報も含まれています。
エボラ出血熱の流行(続報)【ウガンダ、コンゴ民主共和国】
新種のコロナウイルス感染症の発生(続報)【サウジアラビア、カタール、ヨルダン】
2.特集・「鳥インフルエンザ(H5N1)にはご用心」のワケ
1.海外の感染症情報
感染経路別に分類し、マークをつけています。
・ダニ・ノミなど虫から感染するもの・・・
・唾液などが飛んで感染するもの(飛沫感染)・・・
・蚊が媒介して感染するもの・・・
・動物(ネズミ、犬、家畜等)から感染するもの・・・
・口から入って感染するもの(経口感染)・・・
・その他の経路から感染するもの・・・
黄熱
・・・スーダン連邦保健省は、10月末に西部のDarfur地域で黄熱の流行発生をWHOに報告しま
した。流行は同地域の30地区で確認されており、11月21日までに127名の死亡者を含む537名
の患者が確認されています。
現地ではWHOなど国際協力機関の支援のもと流行調査や集団予防接種の準備が進められ、
感染拡大防止のため流行被害の大きい12地区について220万人を対象にワクチンの集団接種
が開始されています。
(10月31日、11月22日、11月23日 WHO情報)
~ 黄熱と予防接種について ~
・黄熱は蚊に刺されることで感染する病気です。
・この病気には有効な予防接種があります。黄熱に感染する危険のある地域に入国する前に、
予防接種をおすすめしています。一部の国では、入国時に「黄熱の予防接種に関する国際
証明書(通称イエローカード)」の提示を要求される場合があります。予防接種は 1回の接
種で、接種後10日目から10年間有効です。
・検疫所では海外渡航者向けに黄熱の予防接種と国際証明書の発行を行っています。接種
には予約が必要となりますので、必ず事前に検疫所に電話で予約して下さい。
マールブ ・・・ウガンダ保健省は、10月21日に南西部のKabele地区におけるマールブルグ病(Marburg
ルグ病 hemorrhagic fever)の発生をWHOに報告し、その後の流行調査により11月23日までに南西部
のKabele、Ibanda、Mbararaと首都Kampalaで9名の死亡者を含む20名の患者が確認されてい
ます。
最後に確認された患者は10月31日に入院しています。保健省は患者が確認された4地域で積
極的な流行監視と全ての患者について詳しい調査を継続し、患者との濃厚接触者は21日間
経過観察されます。
(10月21日、11月23日 WHO情報)
発行元
厚生労働省 名古屋検疫所
〒455-0045 名古屋市港区築地町11-1 TEL:052-661-4131
新種の
コロナ
ウイルス
・・・新種のコロナウイルス感染症の発生
9月にWHOが公表した新種のコロナウイルスによる急性呼吸器感染症について、11月30
日付のWHO情報によると、新たにサウジアラビアで1名の死亡患者とヨルダンで2名の死
亡患者が確認されています。これまでに9名の患者(サウジアラビア=3名の死亡者を含
む5名、カタール=2名、ヨルダン2名の死亡患者)が確認されています。
これまでの調査によりサウジアラビアで確認された患者のうち3名は同じ家族内で発生し
たものです。
WHOはこの新種のコロナウイルス及びこれに伴う感染症の特徴をさらに解明するため、
その他の国際保健機関と連携を図るとともに、加盟国に対して重症急性呼吸器感染症
の監視を継続するよう奨励しています。
(9月23日、9月28日、9月29日、10月10日、11月23日、11月30日 WHO情報)
エボラ
出血熱
・・・ウガンダ保健省は、11月17日に同国中部のLuweero地区においてエボラ出血熱の流行
発生をWHOに報告しました。11月28日までに4名の死亡者を含む7名の患者がLuweero地
区と首都Kampalaで確認されています。これまでのところ最後に確認された患者は11月17日
に入院し、これらの患者との濃厚接触者は潜伏期である21日間経過観察されています。
保健省はWHOなどの国際協力機関の支援のもと流行監視や患者との接触者調査などを
行っています。
(11月17日、11月23日、11月30日 WHO情報)
・・・コンゴ民主共和国東部のOrientale州で8月に発生が確認されているエボラ出血熱の流
行は、10月24日までに25名の死亡者を含む52名の患者が確認されています。保健省は
WHOなどの国際協力機関の支援のもと現地での流行調査や感染拡大防止対策などを継
続しています。
(10月26日 WHO情報)
~エボラ出血熱の治療と予防~
・特異的な治療法はないため、症状を和らげるための治療が
行われます。
・ワクチンはありません。
・感染した人の血液や体液、排泄物などに触れて感染するた
め、患者にはむやみに触れない。やむを得ず看護や汚染物
を処理する場合は手袋などの防護具が必要です。
・野生動物が病原体(エボラウイルス)を体内に宿している可
能性が高いため、流行地では野生動物の死体に触れたり、
このような動物の肉(Bush meat)を調理する際に感染する危
険がありますので、むやみに動物に触れることは避けてくだ
さい。
ブッシュミートには
注意!!
2.特集・「鳥インフルエンザ(H5N1)にはご用心」のワケ
「新型インフルエンザ」、「鳥インフルエンザ」と聞くと皆さんは何を思い浮かべますか。3年前に世界中で大流行した
インフルエンザA(H1N1)pdm09のことや、鳥インフルエンザが原因で、日本国内でも過去に養鶏場などが被害を受
けていることを思い出す人が多いでしょう。
しかし、「新型インフルエンザはもう終わったよね」、「鳥インフルエンザは鳥が感染するだけでしょ」と思ってしまった
そこのあなたは要注意!新型インフルエンザと鳥インフルエンザの脅威は、
ぼくは元気
いつあなたの近くにやってくるかわからないのです!
だけどね
そもそも、インフルエンザってどんな感染症?
鳥もインフルエンザ
にかかるんだね
ヒトや動物がインフルエンザウイルスに感染することで発症する感染症です。高熱、咳、鼻水、筋肉痛、関節痛な
どの症状が風邪と似ているため混同されやすいですが、風邪を起こすウイルスとインフルエンザウイルスは、異な
る種類のものです。インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の三つに大別され、ヒトに感染して流行を引き起す
のは主にA型とB型です。ウイルスは表面の構造の違いによって更に細かく分類され、「H△N□」という亜型で表
現されます。感染を繰り返していくうちに異なる亜型や性質のウイルスに変化することを「変異」といいます。
「新型インフルエンザ」とは?
「新型インフルエンザ」とは動物(特に水鳥やブタ)の間で感染が成り立っていたインフルエンザウイルスが変異し
て、ヒトに感染し易くなりヒトからヒトへと感染が広がり流行を引き起こすようになったものを指します。
つまり、2009年に大流行した豚インフルエンザが変異したインフルエンザA(H1N1)pdm09も新型インフルエンザ
と呼ばれていました。今後、新たにヒト社会で流行するような変異をとげたインフルエンザウイルスが現れたら、
「新型インフルエンザ」と呼ばれるようになるのです。
鳥インフルエンザ(H5N1)とヒト
日本でも渡り鳥によると思われる鳥インフルエンザ(H5N1)のニワトリなど家禽類への感染が報告されています。
ここ数年報道でも見かける機会も多く、「一羽が感染すると、養鶏施設内のその他の鳥も全て処分されて、施設の
消毒もしなくてはいけなくて、何だか大変なことになる・・・」というイメージがあるかもしれませんが、感染すると大
変なことになるのは鳥類だけではありません。
海外の一部地域では、発病した家禽類から鳥インフルエンザ(H5N1)に感染したと思われる報告例が頻繁にあり、
死亡者も多数確認されているのです。報告例のほとんどは病鳥を調理したりする際に血液や体液、排泄物などに
直接触れたことが感染の原因です。
鳥インフルエンザ(H5N1)と通常の季節性インフルエンザとの違いは症状の重さにあります。鳥インフルエンザ
(H5N1)は重い肺炎や多臓器不全などを引き起こすことから、致死率は約59%(WHO情報より計算、8月10日時
点)と高くなっています。
鳥インフルエンザ(H5N1)と新型インフルエンザの本当の脅威
ここまで読んでも「鳥インフルエンザは日本人が感染することはないでしょ」と思う人がいるかもしれません。しかし、
「鳥インフルエンザ(H5N1)は、今後変異して新型インフルエンザになるのではないか」といわれているのです。
例えば、「今のところ、鳥からヒトに限定的に感染している鳥インフルエンザウイルス(H5N1)が変異して、鳥に対
する病原性を持ったままヒト社会で流行する性質を獲得すると、新型インフルエンザとして世界的に大きな被害が
出る」と心配されているのです。日本から遠い海外で流行しているだけだから大丈夫と思っても、交通網の発達し
た現代では、ウイルスも簡単に素早く国境を越えてしまう可能性は十分にあるのです。
新型インフルエンザとの戦いに備える検疫所
ヒトに対して高い病原性を持った新型インフルエンザが海外で発生したときには、その影響が日本国内に及ぶこと
を最小限に抑えるため、検疫を強化します。検疫所ではそのような事態に備えるために検疫方法や患者搬送など
の訓練を行っています。備えあれば憂いなし!相手が見えぬうちから戦う準備をしているのです。
違うよ
ウイルスじゃないぞ!
新型インフルエンザウイルスだな!