Ⅱ - Vector

40 回日林関西支講 1989
収穫予測表作成に関する研究(Ⅱ)
対数正規変動帯による地位別上層樹高曲線
島根大学農学部 稲 田 充 男
○ 新 宮
尚
1.はじめに
収穫予測表とは,ある施業体系のもとで管理された林分が健全な生育をした場合に得られるであ
ろう収穫を従来の収穫表のような形式に取りまとめたものである。これは適用区域・樹種ごとに作
成される。このとき,ha あたりの主・副林木の本数,幹材積,収量比数などの林分構成諸因子の
標準的な数億をどのように予測するかが問題となる。これに対して筆者らほ,これら林分構成諸因
子の数値を人工林林分密度管理図を基に計算する方法を示した(山本・安井,1983,1985,
1986)
。ただ,林分密度管理図では ha あたりの本数と上層樹高とから ha あたりの幹材積,平均胸
高直径などの推定は可能であるが,林齢および地位についてはなんら評価することはできない。そ
こで,林齢および地位については,林分密度の影響が少ないと考えられる上層樹高の生長曲線を地
位別に決定し,この地位別の上層樹高生長曲技と林分密度管理図とを組み合わせ,林齢および地位
を含む林分構成諸因子の評価を行っている.
この地位別の上層樹高生長曲線の決め方としで筆者らは,齢階ごとの上層樹高の平均と標準偏差
を用いる方法を示した(山本・安井,1984)。その方法は次の通りである.
1)全資料を齢階ごとに区分し,各齢階ごとに上層樹高の平均と家準備差を計算する。
2)求めた平均値に対して生長曲線式をあてはめ,地位中の上層樹高生長曲線式とする。
3)各齢階ごとに平均値に計算者の決めた倍率を掛けた標準偏差を加減する。
4)平均値に加えたものに生長曲線式をあてはめたものを地位上の生長曲線とする。
5)平均値から引いたものについて行った結果を地位下の生長曲禄とする。
本論ではこの方法とは別に,前報の異常値検出において用いた Jolicoeur & Heusner(1986)の対数正
規変動帯を利用して地位区分する新たな方法を提案し,その有効性について検討する.
2.対数正規変動帯による地位区分
Jolicoeur & Heusner(1986)は,生物的データに見られる個々の変動を調べるにほ予測帯(信頼
帯)や許容帯よりも変動帯の方が適当で,生物変量に数多く見られる正の歪度を持ち分散が不均一
であるような頻度分布に対しては対数正親変動帯がよいと述べている。この変動帯により仮定した
誤差モデルの妥当性をグラフィカルに検証することができる。言い換えると,変動帯はあてはめた
モデルを中心として,任意の割合に対応する観測値の存在範囲を図示することができるのである。
すなわち,あてはめたモデルのまわりに分布している観測値を累積確率によって区分することがで
きる。この性質を利用すれば,対数正規変動帯により地位区分することができる。以下,対数正規
変動帯による地位区分について概説する。
Mitsuo INADA and Takashi SHINGU(Fac. of Agric., Shimane Univ., Matsue 690)
The production system of the predictive yield table(Ⅱ)
The stand height curves by the log-normal variation belts
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対数正規変動帯は,
 2 

( q ;1) RSS

f (t i ) 
exp 

n k 



n
  yi 


log
f (t ) 

ただし, RSS 
i
1
 
f(t)
:あてはめるモデル
n
:観測値数
k
:あてはめるモデルのパラメータ数
yi
:観測値
χ2(q;1)
:自由度1,累積確率qにおけるχ2分布表の値
i


として計算される。この累積確率をqを変えることにより,観測値の存在範囲を規定することがで
きる.各地位の中心線および上限,下限に対応する累積確率をいくらにするかは定かではない.本
論では地位を3区分する場合として,
地位上の上限
累積確率0.95の変動帯の上端
地位上の中心線
累積確率0.75の変動帯の上端
地位上・中の境界線
累積確率0.50の変動帯の上端
地位中の中心線
あてはめたモデルそのもの
地位中・下の境界線
累積確率0.50の変動帯の下端
地位下の中心線
累積確率0.75の変動帯の下端
地位下の下限
累積確率0.95の変動帯の下端
としてみた.なお・それぞれの累積確率に対応するχ2分布表の値はχ2(0.95;1)=3.841,χ2(0.75;1)=
1.323,χ2(0.50;1)=0.455である。
3.ヒノキ資科に対する適用例
ここで用いた資料は.北近畿・中国地方ヒノキ林分密度管理図調製に用いられた資料(20林分)
,
森林計画用資料(70林分),島根県既往資料(81林分)の計161林分の調査結果である.各林分に
ついて,上層樹高,haあたり本数,haあたり幹材積,haあたり胸高断面積,平均胸高直径,林分
平均樹高および林齢の7項目が調査されている.なお.資料の詳細については山本・安井(1985)
を参照されたい。また,あてはめるモデルとしてMITSCHERLICH生長曲線式を採用した。
変動帯法による地位区分の結果を図-1,2に示す。図-1には地位別の上層樹高曲線(中心線)
が,図-2には各地位の境界線が示してある.各地位の中心線はそれぞれ
地位上の中心線
地位中の中心線
地位下の中心線
であり,各地位の境界線はそれぞれ
地位上の上限
地位上・中の境界
地位中・下の境界
f (t ) 23.189 1 e 0.0397 (t 4.1067 )
f (t ) 20.581 1 e 0.0397 ( t 4.1067 )
f (t ) 18.266 1 e 0.0397 (t 4.1067 )












f (t ) 25.220 1 e 0.0397 (t 4.1067 )
f (t ) 22.072 1 e 0.0397 (t 4.1067 )
f (t ) 19.190 1 e 0.0397 (t 4.1067 )
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
f (t ) 16.795 1 e 0.0397 (t 4.1067 )
地位下の下限

である。なお,RSS=0.1193であった。
各地位の中心線・境界線ほ,いわゆるMITSCHERLICH生長曲線式の上限値を変えただけになって
いる。ただし,これらの線は地位中の中心線に対して対称にはなっていない。これは,観測値のば
らつきに対して正規分布ではなく対数正規分布を想定しているからである。これについては,ここ
で取り扱った観測値とは若干性格を異にするが,稲田他(1986)は一斉同齢林の樹高の頻度分布に対
して対数正規分布がよく適合することを認めている。また,対象とする観測値が上層樹高でり,必
ずその値は正で,下限を持っている。これらのことを考慮すれば,正規分布より対数正規分布を想
定する方が合理的であると思われる。
4.おわりに
本論では,変動帯により地位別の上層樹高曲線が規定できるか検討した。変動帯は,累積確率に
対応する観測値の存在する範囲を示すことができる。ここで行った地位区分はこの変動帯の特徴を
生かしたものである。ただ,ここで示した累積確率の値は試案で,どのような値が適当であるか,
さらに検討する必要がある。
また,Jolicoeur&Heusner(1986)は,対数変換後にも誤差の非均質性が残るような場合には,単
に最小二乗法を実行するのではなく,重みつきの最小二乗法を繰り返し行う必要があると述べてい
る。この重みが対数変換後の非均質性を記述するもので.これによりその非均質性を取り除くこと
ができるとしている。ただ,この重みの推定精度は悪いため,適当な制限つきで解を求めることが
勧められている。本論で取り扱った資料にはこの対数変換後の非均質性は認められなかったので,
重みをつけずに計算を行った。今後,種々の資料に対してこの地位区分法を実行するつもりである
が,ときには対数変換後にもなお誤差の非均質性が残るような場面に遭遇するかもしれない。その
ときには,新たな推定方法を検討する必要があろう。
引
用 文 献
(1) 稲田充男・安井 鈞・藤江
勲:対数正規分布その応用 2.直径および樹高の頻度分布に対
する2母数対数正規分布のあてはめ.島根大農研報 20:31-35,1986
(2) Jolicoeur,P. and Heusner,A.A. : Log - Normal Variation Belts for Growth Curves ,
BIOMETRICS 42:785-794,1986
(3) 山本充男・安井 鈞:島根県スギ人工林収穫予測表
1.林分密度管理図に基づく作成システ
ム.山陰文研紀要 23:55-69,1983
(4) 山本充男・安井 鈞:島根県スギ人工林収穫予測表
2.上層樹高生長曲操決定システム.山
陰文研紀要 24:41-53,1984
(5) 山本充男・安井 鈞:林分密度管理図に基づく島根県ヒノキ人工林収穫予測表.山陰地域研究
(森林資源)1:9-20,1985
(6) 山本充男・安井 鈞:島根県アカマツ人工林収穫予測表について.山陰地域研究(森林資源)
2:5-16,1986
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