強度変調放射線治療の線量検証法 日本医学物理学会 2008-2009 年度研究援助課題 「強度変調放射線治療における吸収線量測定法の標準化に関する研究」 研究報告書 序 文 強度変調放射線治療(IMRT)は,複雑な形状の標的に一致した高線量投与と隣接するリスク臓器に対する 線量低減が可能であるため,放射線腫瘍医の理想に近い線量分布を実現できる照射法である.IMRT におい て,逆方向治療計画と放射線強度の変調は不可欠な技術である.前者は複数の線量制約を達成するための放 射線強度分布をコンピュータによる最適化計算を用いて計画する技術であり,後者は計画された不均一な強 度分布を多分割コリメータ(Multi-leaf Collimator; MLC)や補償フィルタによって実現する技術である.よっ て,IMRT では治療計画と照射の双方で高度な技術の導入を必要とする. 放射線治療では治療計画装置の計算精度や治療装置の機械的,線量的な照射精度が十分でない場合,計画 とは異なる線量投与が行われる危険性がある.特に,IMRT では治療計画と照射法が複雑なため不確かさの 因子が非常に多く,計画と照射の双方に潜在している.よって,治療計画における線量と投与線量が一致す ることを確認するための線量検証は,IMRT を安全に実施するための品質保証/品質管理において欠くことが できない項目である. しかし,本邦を含め米国や欧州においても IMRT の標準的な線量検証法は確立されておらず,新たに IMRT を開始する施設の大きな障壁となっている.さらに,本邦では 2008 年 4 月より IMRT が保険診療となり実施 施設が急増しているため,技術書やガイドライン等の早急な整備が求められている.これらの状況を鑑みて, 我々は IMRT における線量検証法の標準化を目的とした研究を立ち上げ, 「強度変調放射線治療における吸収 線量測定法の標準化に関する研究」が 2008-2009 年度の日本医学物理学会研究援助課題として採択されたこ とに端を発して本書の執筆を進めてきた. 本書は IMRT の線量検証に関する多くの研究報告に基づいて,検証の目的,基本的な手順,測定理論,注 意点,判定基準について詳説するものである.ただし,本書は画一的な線量検証法を示すものではなく,現 段階での知識と技術を整理することで臨床現場での混乱を排除し,将来の真の標準化に備えることを目的と して執筆した.よって,各施設においては本書を参考にして自施設のシステムに適した線量検証プロトコル を作成する必要がある.また,記載した検証手順や理論,注意点の多くは IMRT 以外の線量検証においても 適用できるため,本書は IMRT を実施しない施設においても有用であると考える.本書が多くの施設で参考 にされ,より安全な放射線治療を実施するための一助となれば幸いである. 「強度変調放射線治療における吸収線量測定法の標準化に関する研究」 研究代表者 河内 徹 2008-2009 年度 日本医学物理学会 研究援助課題 「強度変調放射線治療における吸収線量測定法の標準化に関する研究」 研究代表者 河内 徹 千葉県がんセンター 共同研究者 遠山尚紀 千葉県がんセンター 小島 徹 千葉県がんセンター (現 埼玉県立がんセンター) 黒岡将彦 東京女子医科大学病院 (現 神奈川県立がんセンター) 木藤哲史 国立がんセンター東病院 (現 東京都立駒込病院) 岡本裕之 国立がん研究センター中央病院 熊崎 祐 埼玉医科大学国際医療センター 橋本慎平 慶應義塾大学病院 (現 東京都立駒込病院) 藤田幸男 首都大学東京 大学院 (現 東北大学大学院) 林 直樹 藤田保健衛生大学 (現 東京ベイ先端医療・幕張クリニック) (2013 年 4 月 18 日) 図表等の転載許諾について 本報告における他の著作物から転載した図表等は次の出版機関または企業より転載許諾を得た上で掲載し た.この転載許諾は本報告にのみ有効であるため,本報告の図表等を他の著作物に転載する場合は権利者よ り別途許諾が必要であることに注意されたい. Australasian College of Physical Scientists & Engineers in Medicine (ACPSEM) American Association of Physicists in Medicine (AAPM) American College of Medical Physics Elsevier Science Inc. Elsevier Scientific Publishers Institute of Physics (IOP) Publishing International Atomic Energy Agency (IAEA) International Commission on Radiation Units and Measurements, Inc. (ICRU) International Commission on Radiological Protection (ICRP) Springer Science + Business Media 医用標準線量研究会 International Specialty Products (ISP) Ion Beam Applications (IBA) dosimetry Physikalisch Technische Werkstätten (PTW) ScandiDos Sun Nuclear 強度変調放射線治療の線量検証法 (表題英文名:The dosimetric verification of IMRT) 目次 本書の利用法 謝辞 概 論 1. 2. 3. IMRT における線量検証の重要性 …………………………………………………………………………… 1 1.1. 治療計画装置に由来する不確かさ 1.2. 放射線治療装置に由来する不確かさ IMRT 線量検証の分類 2.1. 評価点線量検証 2.2. 線量分布検証 IMRT 線量検証の手順 ……………………………………………………………………………………... 12 ……………………………………………………………………………………... 15 3.1. 検出器の選択 3.2. ファントムの選択 3.3. 検証プランの作成と計画線量の算出 3.4. R&V システムへの登録 3.5. 線量測定・解析 3.6. 独立線量検証 3.7. 判定基準 各 論 4. 5. 6. 固体ファントム ……………………………………………………………………………………... 21 4.1. 深さスケーリング 4.2. フルエンススケーリング 4.3. スケーリング補正の適用 計画線量の算出 ……………………………………………………………………………………... 35 5.1. 事前準備 5.2. 検証プラン用ファントムデータの作成 5.3. 検証プランの作成 5.4. 計画線量の算出 電離箱線量計 6.1. 事前準備 6.2. 計画線量の算出 ……………………………………………………………………………………... 43 7. 8. 9. 6.3. 測定線量の取得 6.4. 判定 6.5. 測定理論 フィルム ……………………………………………………………………………………... 57 7.1. フィルムによる線量分布検証 7.2. ラジオグラフィックフィルム 7.3. ラジオクロミックフィルム 7.4. スキャナ 2 次元検出器 ……………………………………………………………………………………. 107 8.1. 種類と構造 8.2. 物理特性 8.3. 解析 EPID …………………………………………………………………………………………….…. 125 9.1. 構造 9.2. 事前測定 9.3. 物理特性・注意点 9.4. フルエンス検証 9.5. MLC の QA 10. 線量分布の解析 …………………………………...…………………………………………….…. 137 10.1. 比較方法の種類 10.2. ガンマ解析法の特性 11. 独立線量検証 …………………………………...…………………………………………….…. 153 11.1. モンテカルロシミュレーション 11.2. その他の方法 11.3. 独立検証ソフトウェアの導入に向けて 12. 判定基準の設定と評価・管理の実際 …………………………………..…………………………. 165 12.1. 放射線治療における吸収線量の不確かさ 12.2. 放射線治療に求められる投与線量の正確さ 12.3. IMRT に対する投与線量精度の判定基準の設定 12.4. 判定基準を超えた場合の対処法 12.5. 施設ごとの IMRT 線量検証の統計的品質管理 付録1 施設別の線量検証プロトコル 付録2 用語集 …………………………………..…………………………. 192 …………………………………...…………………………………………….…………….. 202 本書の利用法 本書は 2008-2009 年度の日本医学物理学会研究援助課題「強度変調放射線治療における吸収線量測定法の 標準化に関する研究」の報告書であり,IMRT の線量検証法について詳説することを目的とする.ただし, 本書は画一的な線量検証法を示すガイドラインではなく,検証の目的,手順,計測理論,注意点および判定 基準を整理することで臨床現場での混乱を排除し,各施設において自施設のシステムに適した線量検証プロ トコルを作成するための参考書として位置付ける. 本書は概論,各論および付録で構成され,概論で線量検証の目的と全体の流れを理解し,詳細は各論を参 照する構成としている.概論は,線量検証の重要性(1 章) ,分類(2 章)および手順(3 章)から成る.本 書を利用する際に,はじめに必ず読んで頂きたい. 各論では,線量検証の手法,理論および注意点をより詳細に示している.4 章では固体ファントムのスケ ーリング理論,5 章では計画線量の算出について示している.また,各検出器(電離箱線量計,フィルム,2 次元検出器,EPID)を用いた測定について詳説する 6 章から 9 章では,はじめに一般的な検証手順を示し, その根拠となる理論や検出器特性を後述する構成とした.ここで,フィルム,2 次元検出器および EPID に関 わる線量分布の比較と解析方法は 10 章に集約した.さらに,12 章(判定基準の設定と評価・管理の実際) では本書が推奨する IMRT 線量検証の判定基準を示している.ただし,より効果的な線量検証を行うために は各施設で最適な判定基準を設定する必要があり,同章ではこの手法を示している. 付録 1(施設別の線量検証プロトコル)には,IMRT 実施施設の線量検証プロトコルについて実施したアン ケートの結果を示している.これらの情報は線量検証プロトコルを新規に作成する場合や見直す場合に有用 であるため参考にして頂きたい.また,付録 2(用語集)では本書で使用した用語を示し,解説した. 謝 辞 本書の執筆,発刊において,懇切丁寧なるご指導とご助力を賜りました首都大学東京大学院の齋藤秀敏先 生,ならびに放射線医学総合研究所の福村明史先生に深く感謝いたします. また,数々の助言,実験協力を頂きました臨床医学物理研究会(CMPFG)の皆様,ラジオクロミックフィ ルムに関する貴重な研究成果を数多くご提供頂きました中部放射線治療技術・治療物理勉強会(Chubu Radiation Therapy Technologies and Physics group;CRTTPG)の皆様,快く測定機器をお貸し頂きましたユーロ メディテック株式会社様に厚く御礼申し上げます. 最後に,本活動にご理解,ご協力を頂きました各執筆者の所属施設の皆様に心より感謝いたします. 1章 IMRT における線量検証の重要性 近 年 , IMRT の 臨 床 利 用 に お け る 多 く の 注 意 点 が 報 告 さ れ て い る 1)~4) . ま た , 2003 年 に 米 国 医 学 物 理 学 会( AAPM)が 主 催 し た Summer school の テ キ ス ト で あ る The state of the art of IMRT 5) は ,IMRT を 技 術 的 ,物 理 的 お よ び 臨 床 的 な 側 面 か ら 議 論 し て い る .こ れ ら の 報 告 で は ,治 療 計 画 装 置 と 放 射 線 治 療 装 置 を 中 心 と し た シ ス テ ム の 受 け 入 れ 試 験 ,コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ お よ び 定 期 的 な 品 質 保 証 /品 質 管 理 ( QA/QC) を 実 行 す る こ と の 重 要 性 が 強 調 さ れ て い る . 線 量 検 証 は コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ お よ び 品 質 管 理 に お い て 特 に 重 要 な 項 目 で あ る .患 者 投 与 線 量 の 不 確 か さ の 要 因 は ,(1) Computed Tomography( CT)お よ び 治 療 計 画 装 置 に 由 来 す る 不 確 か さ , (2) 放 射 線 治 療 装 置 に 由 来 す る 不 確 か さ , (3) 標 的 お よ び 臓 器 の 位 置 精 度 に 由 来 す る 不 確 か さ の 3 つ に 分 類 で き る . こ こ で , 線 量 検 証 は (1), (2)に つ い て , 立 案 し た 治 療 計 画 が 正 し く デ ー タ 転 送 さ れ ,計 画 通 り の 線 量 投 与 が 行 わ れ て い る こ と を 確 認 す る た め に 実 施 す る .現 在 ,IMRT の 線 量 検 証 法 の ガ イ ド ラ イ ン と し て ESTRO booklet No.9 6) が あ る が , 多 く の 研 究 報 告 を 集 約 し た 内 容 に 留 ま っ て お り ,各 施 設 に お い て 線 量 検 証 法 を 確 立 す る た め 実 用 性 に 欠 け る 部 分 が あ る . IMRT に お け る 線 量 検 証 の 重 要 性 を 示 す 資 料 と し て , 表 1.1 に Radiological Physics Centre ( RPC)が 実 施 し た IMRT 投 与 線 量 精 度 の 多 施 設 調 査 に お け る 合 格 率 を 示 す 7) .こ れ は Radiation Therapy Oncology Group( RTOG) の 臨 床 試 験 に お け る IMRT プ ロ ト コ ル へ の 参 加 施 設 を 対 象 と し , 熱 ル ミ ネ セ ン ス 線 量 計 ( TLD) と ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム ( RCF) を 用 い た 郵 送 調 査 で 行われた 8) . 結 果 と し て 頭 頸 部 の 積 算 合 格 率 は 75%が 示 さ れ て い る が , 調 査 初 年 の 2003 年 で は 約 半 数 の 57%で あ っ た 7), 9 ) .近年,治療計画装置の技術革新は目覚しいものがあるが,それ で も IMRT ビ ー ム の コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ は 容 易 で は な い .コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ や 品 質 管 理 が 適 切 で ない場合,誤った線量投与が継続的に行われる可能性がある. 表 1.1 米 国 に お け る 人 体 模 擬 フ ァ ン ト ム を 用 い た IMRT 投 与 線 量 精 度 の 多 施 設 調 査 に おける合格率 ※ 7) 部位 施設数 測定数 合格率 頭頚部 472 631 75% 骨盤部 108 130 82% 肺 67 77 71% 肝 15 18 50% 熱 ル ミ ネ セ ン ス 線 量 計( TLD)と ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム( RCF)が 用 い ら れ ,TLD / RCF の 合 否 判 定 基 準 は 胸 部 フ ァ ン ト ム( 肺 )で 5% / 5 mm,そ の 他 は 7% / 4 mm で あ る . ※ 合 格 率 は 2003 年 か ら 2008 年 の 積 算 合 格 率 を 示 す . 1 図 1.1 M. D. Anderson Cancer Center の IMRT 線 量 検 証 に お け る 計 算 値 と 測 定 値 の 相 対 差 ( %) の 度 数 分 布 10) 751 症 例 ( 1591 検 証 ) の 内 , 約 3%の 検 証 で 3.5%を 超 え る 相 対 差 が 観 察 さ れ た . IMRT で は 患 者 投 与 線 量 の 不 確 か さ を 増 大 す る 因 子 が 非 常 に 多 く , 計 画 と 照 射 の 双 方 に 潜 在 し て い る .さ ら に ,個 々 の 治 療 計 画 に よ っ て 影 響 が 変 化 す る た め ,適 切 な コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ が 行 わ れ て い て も 稀 に 計 画 線 量 と 投 与 線 量 に は 許 容 で き な い 不 一 致 が 生 じ る 場 合 が あ る .よ っ て , 国 際 的 に は “ 全 て の IMRT で 線 量 検 証 が 必 要 で あ る ” と い う 見 解 が 支 持 さ れ て い る . 図 1.1 に M. D. Anderson Cancer Center に お け る 評 価 点 線 量 検 証 の 結 果 の ば ら つ き を 示 す 10) .こ の 結 果 か ら ,Dong ら は 数 件 の 許 容 で き な い 線 量 の 不 一 致( 最 大 で 9%)を 検 出 す る た め に も 患 者 個 々 の 線 量 検 証 が 必 要 で あ る と 結 論 付 け て い る . ま た , 欧 州 の 複 数 の 施 設 を 対 象 と し て 2679 例 の 線 量 検 証 を 調 査 し た Zefkili ら 11) の報告においても同様の結論が得られている. MLC の 位 置 精 度 の 確 認 な ど シ ス テ ム の 一 部 を 対 象 と し た QA/QC は IMRT に お い て も 当 然 重 要 で あ る . 線 量 検 証 で は 僅 か な MLC 位 置 ま た は 動 作 の 不 良 を 検 出 で き な い 場 合 が あ り , 仮 に 線 量 の 不 一 致 が 検 出 で き た 場 合 に お い て も 原 因 が MLC 不 良 に あ る こ と を 特 定 す る た め に は さ ら に 調 査 が 必 要 で あ る . よ っ て , 本 来 で あ れ ば 安 全 な IMRT を 実 施 す る た め の QA/QC 項 目 と 頻 度 を 策 定 す る こ と が 望 ま し い . し か し , IMRT に お け る 不 確 か さ の 因 子 は シ ス テ ム 全 体 に 潜 在しており, “ 個 別 の QA/QC を ど の 程 度 行 え ば 安 全 な IMRT を 実 施 で き る か ? ”は 未 だ に 明 ら かではない 12), 13) . 従 っ て , シ ス テ ム 全 体 を 総 合 的 に 管 理 で き る 線 量 検 証 は IMRT に お い て 特 に重要であり,治療計画装置のコミッショニング後も継続して実施されなければならない. 2 1章 IMRT における線量検証の重要性 1.1. 治 療 計 画 装 置 に 由 来 す る 不 確 か さ 治療計画装置で算出した計画線量がもつ不確かさの原因として,次の項目が挙げられる. (1) 入 力 パ ラ メ ー タ の 誤 り (2) 予 期 し な い 動 作 ( バ グ ) (3) 線 量 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム の 精 度 の 限 界 (4) ビ ー ム モ デ リ ン グ と コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ の 限 界 (1)は 誤 照 射 事 故 に 直 結 す る た め ,仮 に 誤 っ た パ ラ メ ー タ が 入 力 さ れ た 場 合 で も 読 み 上 げ 確 認 によるダブルチェックや治療開始前のコミッショニングの段階で必ず検出しなければならな い .(2)は メ ー カ ー か ら の エ ラ ー 情 報 を 共 有 す る と と も に ,ユ ー ザ ー は エ ラ ー の 発 生 状 況 を 特 定 して直ちにメーカーへフィードバックする必要がある. (3) に 示 さ れ る 計 算 精 度 は ,線 量 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム の 種 類 に よ っ て 異 な る .例 え ば Batho 法 , 等 価 TAR 法 お よ び Clarkson 法 の よ う な , 測 定 値 に 基 づ い た 離 散 的 な デ ー タ を 利 用 す る タ イ プ の 線 量 計 算 法 は ,計 算 条 件 が 測 定 条 件 か ら 外 れ る 場 合 に 必 ず 線 量 的 な 不 確 か さ を 生 じ る .こ の ア ル ゴ リ ズ ム に 由 来 す る 不 確 か さ は ビ ー ム モ デ リ ン グ の 不 良 に よ る も の で は な く ,ア ル ゴ リ ズ ムが正しく計算できる条件から逸脱した場合に生じる不確かさを指す 14), 1 5) . Pencil Beam 法 と Convolution 法 は 重 畳 積 分 法 を 用 い た モ デ ル ベ ー ス 型 の ア ル ゴ リ ズ ム で あ る . 前 者 は 微 小 ビ ー ム 束 の 線 量 分 布 を 用 い る 計 算 法 ,後 者 は 相 互 作 用 点 で 放 出 さ れ る 全 エ ネ ル ギ ー を 示 す TERMA( Total Energy Released per unit Mass) と 散 乱 線 の 三 次 元 的 な 広 が り を 表 現 す る 線量カーネルを用いる計算法 16) で あ り ,均 質 な フ ァ ン ト ム 中 で は ア ル ゴ リ ズ ム に 由 来 す る 不 確 か さ が 非 常 に 小 さ い .し か し ,不 均 質 な フ ァ ン ト ム 中 で は 線 量 カ ー ネ ル の 変 化 を 完 全 に は 表 現 し て い な い ,あ る い は 全 く 考 慮 し な い 場 合 が あ り ,大 き な 不 確 か さ を 生 じ る 場 合 が あ る 17), 18 ) . Superposition 法 は 不 均 質 な フ ァ ン ト ム 中 で も 密 度 の 変 化 に 応 じ て 3 次 元 の 線 量 カ ー ネ ル を 変 形 さ せ る こ と で 精 度 を 高 め た 計 算 法 で あ る .放 射 線 の 減 弱 と エ ネ ル ギ ー 付 与 に お け る 微 視 的 な 違いを容認すれば,アルゴリズムに由来する不確かさは非常に小さい. Monte Carlo 法 は 原 子 番 号 や 密 度 な ど の 物 質 情 報 に 応 じ て 放 射 線 の 相 互 作 用 の 確 率 を 変 化 さ せ て 輸 送 計 算 を 行 う た め ,不 均 質 な フ ァ ン ト ム 中 に お い て も ア ル ゴ リ ズ ム に 由 来 す る 不 確 か さ は ほ と ん ど な い .大 き な 密 度 差 を 有 す る 2 つ の 物 質 の 境 界 で 生 じ る ビ ル ド ア ッ プ や ビ ル ド ダ ウ ン な ど も , Monte Carlo 法 は 精 度 良 く 計 算 で き る . た だ し , 乱 数 を 用 い た 確 率 論 的 計 算 法 で あ るため,計算値に統計的な不確かさを生じる欠点がある. このようにモデルベース型のアルゴリズムにおいても種類によって不確かさの原因は異な る .ア ル ゴ リ ズ ム 間 の こ れ ら の 相 違 は フ ァ ン ト ム の 辺 縁 や 不 均 質 な 媒 体 中 で 顕 著 に 現 れ る 場 合 が 多 い .よ っ て ,我 々 は 線 量 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム を 十 分 に 理 解 し ,様 々 な 照 射 条 件 を 想 定 し た 線 量検証によって治療計画装置の計算精度を把握しなければならない. (4)で 治 療 計 画 装 置 が 高 い 計 算 精 度 を 持 つ た め に は ,当 然 ,放 射 線 治 療 装 置 の 対 象 と な る ビ ー ム の 特 性 が 正 確 に モ デ リ ン グ さ れ て い な け れ ば な ら な い .モ デ リ ン グ は 基 本 的 な 照 射 野 の PDD, OCR, 出 力 係 数 ( 全 散 乱 係 数 , フ ァ ン ト ム 散 乱 係 数 , ヘ ッ ド 散 乱 係 数 ), エ ネ ル ギ ー ス ペ ク ト ル ,Collimator Transmission,MLC Transmission( Inter Leaf Transmission & Intra Leaf Transmission), MLC の Tongue & Groove な ど を 調 整 し て 行 わ れ る 2) . し か し , 全 て の IMRT で 正 し く 計 算 で き 3 (a) (b) 図 1.2 (c) Monte Carlo 法( MCDOSE)で 計 算 し た ,Tongue & Groove 効 果 の 考 慮 の 有 無 に よ る Intensity Map の 相 違 (b)お よ び (c)は そ れ ぞ れ (a)の 直 線 1 お よ び 直 線 2 の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル を 示 す .実 線 は Tongue & Groove 効 果 を 考 慮 し な い 場 合 , プ ロ ッ ト 付 の 実 線 は Tongue & Groove 効 果 を 考 慮 し た 場 合を示す. る ビ ー ム モ デ ル を 作 成 す る こ と は 非 常 に 困 難 で あ る . 特 に , IMRT で 用 い ら れ る 大 き く オ フ セ ン タ ー し た 複 雑 な 形 状 の 小 照 射 野 で は ,治 療 計 画 装 置 の 入 力 パ ラ メ ー タ を 如 何 に 調 節 し て も 実 際 の 線 量 分 布 を 完 璧 に 再 現 す る こ と は 難 し い . 同 様 に , Intra Leaf Transmission や Tongue & Groove と い っ た 局 所 的 に 生 じ る 現 象 も 治 療 計 画 装 置 で は 考 慮 さ れ な い 場 合 が あ る ( 図 1.2). こ の た め ,優 れ た 線 量 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム で も ,治 療 計 画 装 置 に お け る モ デ リ ン グ の 限 界 か ら 生 じる線量計算の不確かさは必ず存在する. 4 1章 IMRT における線量検証の重要性 治 療 計 画 装 置 で は 計 算 点 間 隔 の 大 き さ に よ っ て 線 量 分 布 が 変 化 し ,ま た ,計 算 点 間 隔 が 大 き いほど線量と位置の不確かさは増大する 19), 20 ) . 図 1.3 に 計 算 点 間 隔 が 異 な る 2 つ の 線 量 分 布 を ,図 1.4 に 両 者 の Dose-Volume Histogram( DVH)を 示 す .線 量 分 布 上 で は 計 算 点 間 隔 が 大 き い と ホ ッ ト ス ポ ッ ト を 見 逃 す 可 能 性 が あ り , ま た DVH に も 乖 離 が 観 察 で き る . 基 本 的 に 計 算 点 間 隔 が 小 さ い ほ ど 正 確 で あ る .従 来 の 照 射 法 に お い て も コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ で は 1~ 2 mm が 推 奨されており 21) , 線 量 勾 配 が 急 峻 に 変 化 す る IMRT で は 同 程 度 の 計 算 点 間 隔 が 必 要 で あ る . (a) 計 算 点 間 隔 2 mm 図 1.3 (b) 計 算 点 間 隔 4 mm 計算点間隔の違いによる線量分布の変化 治 療 計 画 装 置 Pinnacle 3 ver8.0h の Adaptive Convolution( Superposition) 法 を 用 い て 計 画 し た 6 MV 光 子 線 に よ る 頭 頸 部 IMRT, 放 射 線 治 療 装 置 は Siemsns ONCOR で あ る . 1.000 0.900 Normarized Volume 0.800 0.700 0.600 0.500 0.400 0.300 0.200 0.100 0.000 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 PTV_H_0.2 PTV_H_0.4 Brainstem_0.2 Brainstem_0.4 Cord_0.2 Cord_0.4 CTV_H_0.2 CTV_H_0.4 Lparotis_0.2 Lparotis_0.4 PTV_M_0.2 PTV_M_0.4 Rparotis_0.2 Rparotis_0.4 Dose (cGy) 図 1.4 計 算 点 間 隔 の 違 い に よ る DVH の 変 化 DVH の 計 算 点 間 隔 は そ れ ぞ れ 2 mm( 実 線 ) と 4 mm( 破 線 ) で あ る . 5 1.2. 放 射 線 治 療 装 置 に 由 来 す る 不 確 か さ IMRT に お け る 放 射 線 治 療 装 置 に 由 来 す る 投 与 線 量 の 不 確 か さ は The state of art of IMRT 中 で LoSasso 22 ) 5) の が 詳 細 に ま と め て い る .こ こ で は 代 表 的 な ,(1) MLC の 位 置 精 度 ,(2) 軸 外 の 線 量 特 性 ,MU が 過 度 に 少 な い 場 合 の (3)ビ ー ム 特 性 の 変 化 と (4)応 答 遅 延 ,に 由 来 す る 不 確 か さ に ついて示す. (1) MLC の 位 置 精 度 コ リ メ ー タ や MLC の 位 置 精 度 は , 一 般 的 な 照 射 法 で は 主 と し て 標 的 の 辺 縁 に 影 響 す る た め 位 置 誤 差 は 1 mm が 許 容 さ れ て き た .し か し ,IMRT で は MLC の 移 動 お よ び 停 止 が 標 的 内 で 行 わ れ る た め , MLC の 位 置 を よ り 高 い 精 度 で 管 理 す る こ と が 要 求 さ れ る . DMLC 方 式 で は 1 cm の MLC 間 隙 幅 に 対 し て 1 mm の MLC 位 置 誤 差 が あ る 場 合 ,約 10%の 線 量 変 化 が 標 的 内 に 生 じ る 23) ( 図 1.5). さ ら に , SMLC 方 式 に お け る MLC の 位 置 精 度 の 影 響 は セ グ メ ン ト の 接 合 位 置 に hot / cold spot と し て 生 じ る が , Low ら 24 ) は 1 mm の MLC 位 置 誤 差 に よ っ て 生 じ る hot/cold spot の ピ ー ク 線 量 の 最 大 変 化 量 は 平 均 し て 13 %( 6 MV) と 17 %( 18 MV) を 報 告 し て い る . こ れ ら の 報 告 に 基 づ い て ,典 型 的 な IMRT 照 射 野 に つ い て 線 量 誤 差 を 1.0 %未 満 と す る た め , LoSasso は ア イ ソ セ ン タ を 基 準 と し た MLC ユ ニ ッ ト 全 体 の 取 り 付 け 精 度 と 個 々 の MLC 位 置 精 度 に つ い て そ れ ぞ れ 0.5 mm と 0.2 mm を 許 容 水 準 と し て 推 奨 し て い る 図 1.5 DMLC 方 式 に お け る MLC 間 隙 幅 の 誤 差 と 線 量 誤 差 の 関 係 22) . 23) 単 純 な DMLC 照 射 野 で は 間 隙 幅 の 誤 差 が 0.2 mm 以 下 で あ る 場 合 ,線 量 誤 差 は 1.0%以 下 に な る . (2) 軸 外 の 線 量 特 性 軸 外 の MLC 照 射 野 で は 照 射 野 の 線 量 平 坦 性 と 対 称 性 が 従 来 の コ リ メ ー タ を 用 い た 固 定 照 射 野 と 比 較 し て 一 致 し な い 場 合 が あ る .図 1.6 は DMLC 照 射 野 と 従 来 の コ リ メ ー タ を 用 い た 固 定 6 1章 (a) 図 1.6 IMRT における線量検証の重要性 (b) MLC を 用 い た 5 mm 間 隙 の sliding window 法( DMLC)と 従 来 の コ リ メ ー タ を 用 い た 固 定 照 射 法 ( open) に よ る 線 量 プ ロ フ ァ イ ル の 比 較 25) 縦 軸 は 中 心 軸 で 規 格 化 し た 相 対 出 力 比 と 5 mm/open の 線 量 比 を 示 し , 横 軸 は MLC 移 動 方 向 の 軸 外 距 離( cm)を 示 す .デ ー タ は 6 MV 光 子 線 ,水 中 深 さ 10 cm,照 射 野 は 12 cm × 12 cm で あ り , 照 射 野 中 心 は 中 心 軸 と ±8 cm の 位 置 で あ る .( a) 両 者 の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル と 出 力 比 ( DMLC/open),( b) MLC 透 過 光 子 の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル と 透 過 光 子 成 分 を 除 い た 出 力 比 . 照射野の線量プロファイルを比較したものである 25) . 両 者 は 中 心 軸 付 近 で は 0.5%以 内 で 一 致 し て い る が ,軸 外 距 離 10 cm で は 2%程 度 DMLC 照 射 野 の 線 量 出 力 が 減 少 し て い る[ 図 1.6 (a)]. LoSasso ら は こ の 原 因 と し て ,軸 外 で の MLC 透 過 光 子 の 減 少 が 影 響 し て い る と 結 論 付 け て い る [ 図 1.6 (b)]. し か し , こ の よ う な MLC 透 過 光 子 の 変 化 は 治 療 計 画 装 置 で は 考 慮 さ れ な い . (3) 低 MU 設 定 時 の 線 量 特 性 MU 設 定 値 が 過 度 に 少 な い 場 合 ,十 分 な MU が 設 定 さ れ て い る 場 合 と 比 較 し て 出 力 線 量 の 再 現性や直線性,照射野の対称性などのビーム特性が変化することがある.黒岡ら 2 6) は Varian 社 製 Clinac 21EX の MU 設 定 値 に 対 す る 正 方 形 照 射 野 の ビ ー ム 特 性 を 調 査 し , 再 現 性 , 直 線 性 お よ び 対 称 性 に つ い て 許 容 値 を ±0.5%, ±2.0%お よ び 2.0%と し た 場 合 , そ れ ぞ れ 1 MU, 3 MU お よ び 3 MU 以 上 の MU 設 定 値 が 必 要 で あ っ た こ と を 報 告 し た ( 図 1.7). よ っ て , SMLC 方 式 の IMRT で は 各 セ グ メ ン ト の MU 設 定 値 に 注 意 す る 必 要 が あ る . (4) 応 答 遅 延 の 影 響 MU が 過 度 に 少 な い 場 合 の 応 答 遅 延 に よ る 線 量 出 力 の 不 確 か さ は , タ イ ミ ン グ エ ラ ー や オ ー バーシュート効果として報告されている 27), 28 ) . こ れ は MLC 制 御 シ ス テ ム の 応 答 遅 延 ( Varian 社 の シ ス テ ム で は 約 55 ms) に よ っ て 生 じ る . Varian 社 の 放 射 線 治 療 装 置 を 用 い て SMLC 方 式 の IMRT を 行 う 場 合 ,最 初 の セ グ メ ン ト で 照 射 MU の オ ー バ ー シ ュ ー ト が 生 じ ,最 後 の セ グ メ ン ト で は 既 定 の MU が 照 射 さ れ た 時 点 で 機 械 的 に ビ ー ム が 遮 断 さ れ 照 射 MU は 過 小 と な る こ と が あ る .よ っ て ,SMLC 方 式 に お け る オ ー バ ー シ ュ ー ト 効 果 は 主 と し て 最 初 と 最 後 の セ グ メ ン ト に 影 響 す る ( 図 1.8) が , MU が 過 度 に 少 な い 中 間 の セ グ メ ン ト が ス キ ッ プ さ れ る こ と も あ 7 る ( 図 1.9). DMLC 方 式 で の 応 答 遅 延 に よ る 線 量 の 不 確 か さ は , MU 設 定 値 に 加 え て 線 量 率 , MLC 位 置 の 許 容 誤 差 に 関 す る 設 定 値 お よ び MLC の 最 大 移 動 速 度 に 影 響 さ れ る .必 要 と さ れ る MLC 移 動 速 度 が 許 容 速 度 を 超 え る 場 合 , 線 量 率 を 下 げ る こ と で 調 整 さ れ る 24) .この場合,計 画 さ れ た MLC シ ー ケ ン ス が 滑 ら か で あ っ て も 波 紋 の よ う な 線 量 の ば ら つ き が 生 じ る こ と が あ る .応 答 遅 延 の 影 響 を 軽 減 す る た め ,SMLC 方 式 で は セ グ メ ン ト あ た り の MU 設 定 値 を 大 き く す る こ と ,DMLC 方 式 で は 線 量 率 ,MLC 位 置 の 許 容 誤 差 に 関 す る 設 定 値 お よ び MLC 最 大 移 動 速 度 を 考 慮 し た MLC シ ー ケ ン ス を 選 択 す る こ と が 重 要 で あ る (a) 再 現 性 29) . (b) 直 線 性 図 1.7 MU 設 定 値 に 対 す る 出 力 線 量 の (a)再 現 性 , (b)直 線 性 お よ び (c)対 称 性 26) 再 現 性 は 変 動 係 数( Fc)を 示 す .MU 設 定 値 が (c) 対 称 性 8 過度に小さい場合,特性の変化が観察できる. 1章 図 1.8 IMRT における線量検証の重要性 1st segment 3rd segment 2nd segment 4th segment MU/seg に 対 す る 4 セ グ メ ン ト そ れ ぞ れ の 出 力 の 相 対 差 27) 0.25 MU/seg な ど 1 セ グ メ ン ト あ た り に 照 射 さ れ る MU( = MU/seg) が 過 度 に 少 な い 場 合 , 十 分 な MU が あ る 場 合 と 比 較 し て 応 答 遅 延 の 影 響 が 顕 著 と な る た め 大 き な 誤 差 が 生 じ て い る .し か し , 1 セ グ メ ン ト あ た り に 照 射 さ れ る MU が 増 大 す る に 従 っ て , 誤 差 が 小 さ く な る 様 子 が 観 察 で き る .( Varian 2300CD 6 MV 線 量 率 : 400 MU/min) 図 1.9 様 々 な パ タ ー ン の オ ー バ ー シ ュ ー ト 効 果 の 模 式 図 28) 5 つ の segment に つ い て 計 画 MU( Planned)と 実 際 に 照 射 さ れ た MU( Given)を 比 較 し て い る . (A) 細 い 横 棒 で 示 す 一 定 の オ ー バ ー シ ュ ー ト が 生 じ ,Segment 1 は 過 大 ,Segment 5 は 過 小 を 示 す . (B) オ ー バ ー シ ュ ー ト に よ っ て 照 射 MU が Segment 3 の 計 画 MU を 上 回 る た め Segment 3 が ス キ ッ プ さ れ て い る . (C) オ ー バ ー シ ュ ー ト の 程 度 が 変 化 し て い る . 9 参考文献 1. Intensity Modulated Radiation Therapy Collaborative Working Group: Intensity-modulated radiotherapy: current status and issues of interest. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 51: 880-914, 2001 2. Ezzell G, Galvin JM, Low D, et al.: Guidance document on delivery, treatment planning, and clinical implementation of IMRT: Report of the IMRT subcommittee of the AAPM Radiation Therapy Committee. Med. Phys. 30: 2089–2115, 2003 3. Galvin JM, Ezzell G, Eisbruch A, et al.: Implementing IMRT in clinical practice: a joint document of the American Society for Therapeutic Radiology and Oncology (ASTRO) and the American Association of Physicists in Medicine (AAPM). Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 58: 1616-1634, 2004 4. Bortfeld T, Schmidt-Ullrich R, De Neve, et al.: Image-Guided IMRT. 2006, Springer, Germany 5. Palta JR and Mackie TR eds.: AAPM Medical Physics Monograph No. 29, Intensity-Modulated Radiation Therapy, The State of the Art, 2003, Medical Physics Publishing, WI, USA 6. 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Xia P, Chuang CF and Verhey LJ: Communication and sampling rate limitations in IMRT delivery with a dynamic multileaf collimator system. Med. Phys. 29: 412–423, 2002 28. Ezzell GA and Chungbin S: The overshoot phenomenon in step-and-shoot IMRT delivery. J. Appl. Clin. Med. Phys. 2: 138–148, 2001 29. Litzenberg DW, Moran JM and Fraass BA: Incorporation of realistic delivery limitations into dynamic MLC treatment delivery. Med. Phys. 29: 810–820, 2002 〔河内,木藤〕 11 2章 IMRT 線量検証の分類 線 量 検 証 は 水 吸 収 線 量 に つ い て 計 算 値 と 測 定 値 を 比 較 し ,許 容 で き る 範 囲 で 一 致 し て い る か 否 か を 評 価 す る こ と を 目 的 と し て 行 わ れ る . IMRT の 線 量 検 証 は 評 価 点 線 量 検 証 と 線 量 分 布 検 証に分類され 1, 2) ,評価点線量検証は電離箱線量計を用いた絶対線量の検証,線量分布検証は 空 間 分 解 能 が 高 い フ ィ ル ム を 用 い た 絶 対 ま た は 相 対 線 量 分 布 の 検 証 を 指 す .本 書 で は 電 離 箱 線 量 計 と フ ィ ル ム を 用 い た 検 証 を 必 須 と し , こ れ ら が 2 次 元 検 出 器 , EPID ま た は 独 立 線 量 検 証 に 置 き 換 わ る 検 証 は 不 適 切 と す る ( 3.1 参 照 ). 図 2.1 に IMRT 線 量 検 証 の 構 成 を 示 す . 線 量 検 証 に お け る 評 価 の 基 準 は ,治 療 計 画 装 置 の コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ を 目 的 と す る 場 合 と ,患 者 毎 の 治 療 計 画 の 検 証 を 目 的 と す る 場 合 で 異 な る .コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ に お け る 評 価 の 基 準 は 測 定 値 で あ る た め , 検 証 で 得 ら れ る 相 対 差 δ plan, δ plan, meas = Dplan − Dmeas Dmeas meas は次式で表される. × 100 ( %) (2.1) こ こ で ,計 画 線 量 D plan と 測 定 線 量 D mea s は そ れ ぞ れ 治 療 計 画 装 置 と 測 定 で 得 た 水 吸 収 線 量 で あ る .一 方 で ,患 者 毎 の 治 療 計 画 の 検 証 で は 計 画 線 量 に 対 し 実 際 の 投 与 線 量( 測 定 線 量 )が 許 容 さ れ る 範 囲 内 で 一 致 す る か 否 か を 確 認 す る た め ,評 価 の 基 準 は 計 画 線 量 と な る .患 者 毎 の 治 療 計 画 の 検 証 に お け る 相 対 差 δ mea s, pla n は 次 式 で 表 さ れ る . δ meas,plan = Dmeas − Dplan Dplan × 100 ( %) (2.2) た だ し ,式 (2.1)お よ び 式 (2.2)を 低 線 量 領 域 に 適 用 す る 場 合 は 注 意 が 必 要 で あ る( 12.3.2.4 参 照 ). ま た ,解 析 ソ フ ト ウ ェ ア の 設 定 で 評 価 の 基 準 を 選 択 で き な い 場 合 は ,ユ ー ザ ー 側 で 検 証 目 的 に 応じた評価を行う必要がある. 図 2.1 12 IMRT 線 量 検 証 の 構 成 2章 (a) 各 門 検 証 IMRT 線量検証の分類 (b) 全 門 検 証 図 2.2 各門検証と全門検証 ま た ,IMRT の 線 量 検 証 は 各 門 検 証 と 全 門 検 証 に 分 け ら れ る .図 2.2 (a) に 示 す よ う に ,各 門 検 証 は 臨 床 プ ラ ン で 配 置 さ れ た そ れ ぞ れ の ビ ー ム に つ い て ,ガ ン ト リ 角 度 を 0 度 に し て 再 計 算 し た 検 証 プ ラ ン を 作 成 し ,門 毎 に 測 定 値 と 比 較 す る 検 証 で あ る .ま た ,位 置 情 報 を 正 確 に 把 握 す る た め ,コ リ メ ー タ 角 度 も 0 度 に す る の が 一 般 的 で あ る .原 則 と し て 直 方 体 の 板 状 フ ァ ン ト ム を 用 い た 検 証 で あ り ,利 点 と し て フ ァ ン ト ム 表 面 に 対 し て ビ ー ム が 垂 直 入 射 す る た め 計 算 精 度 と 測 定 精 度 の 双 方 が 向 上 す る ,門 毎 に 生 じ た 誤 差 を 特 定 で き る ,な ど が 挙 げ ら れ る .し か し , 総 合 的 な 評 価 が で き な い ,ガ ン ト リ 角 度 に 依 存 し て 発 生 す る 誤 差 を 検 出 で き な い な ど の 欠 点 が あ る . 一 方 で , 図 2.2 (b) に 示 す 全 門 検 証 は 臨 床 プ ラ ン と 同 じ ガ ン ト リ 角 度 で 行 わ れ , フ ァ ン ト ム サ イ ズ は 患 者 体 厚 に 近 い こ と が 望 ま し い .利 点 と し て ,全 て の ビ ー ム が 合 成 さ れ た 状 態 で 標 的 や リ ス ク 臓 器 の 線 量 評 価 が 可 能 で あ る ,予 期 せ ぬ hot/cold spot が 検 出 で き る , な ど が 挙 げ られる.しかし,全門検証では誤差原因の特定が困難となる欠点がある. 2.1. 評 価 点 線 量 検 証 評 価 点 線 量 検 証 で は ,照 射 領 域 に 設 定 し た 評 価 点 に つ い て 治 療 計 画 装 置 と 電 離 箱 線 量 計 を 用 い た 測 定 の そ れ ぞ れ で 得 ら れ た 水 吸 収 線 量 の 絶 対 量 を 比 較 す る .正 確 な 測 定 を 行 う た め ,評 価 点 は 可 能 な 限 り 線 量 勾 配 が 緩 や か な 領 域 に 設 定 さ れ な け れ ば な ら な い .こ の た め ,各 門 検 証 で は 評 価 点 を 門 毎 に 設 定 す る 必 要 が あ る . ま た , 全 門 検 証 で は 計 画 標 的 体 積 ( PTV) の 中 心 付 近 な ど 標 的 の 線 量 を 検 証 す る た め の 評 価 点 を 設 定 し ,こ の 他 に リ ス ク 臓 器 に 該 当 す る 領 域 な ど 複 数の評価点が設定することが望ましい. 線 量 勾 配 に 注 意 し て 評 価 点 が 設 定 さ れ た 場 合 で も , IMRT ビ ー ム で は 基 準 条 件 と 同 程 度 の 線 量 平 坦 性 を 得 る こ と は 困 難 で あ り ,線 量 勾 配 と 電 離 空 洞 サ イ ズ に 依 存 し た 体 積 平 均 効 果 に よ っ て 不 確 か さ が 増 大 す る 場 合 が あ る .こ の 体 積 平 均 効 果 の 不 確 か さ を 低 減 す る た め ,評 価 点 線 量 検 証 で は 計 画 線 量 と 測 定 線 量 を と も に 体 積 平 均 線 量 と し て 比 較 す る 検 証 を 推 奨 す る .評 価 点 線 量検証は 6 章で解説する. 13 2.2. 線 量 分 布 検 証 線 量 分 布 検 証 で は ,照 射 領 域 に 設 定 し た 評 価 面 に つ い て 治 療 計 画 装 置 と フ ィ ル ム を 用 い た 測 定 の そ れ ぞ れ で 得 ら れ た 水 吸 収 線 量 の 絶 対 ま た は 相 対 線 量 分 布 を 比 較 す る .両 者 の 比 較 は 一 般 的 に フ ィ ル ム 解 析 ソ フ ト を 使 用 し , 線 量 プ ロ フ ァ イ ル の 視 覚 的 比 較 に 加 え , 線 量 差 ( Dose difference) と 等 線 量 曲 線 の 位 置 の ズ レ ( Distance-to-agreement: DTA), さ ら に Dose difference と DTA を 併 せ て 評 価 す る ガ ン マ 解 析 法 な ど の 定 量 的 比 較 を 行 う . ま た , こ れ ら を 組 み 合 わ せ る こ と で ,評 価 面 の 線 量 勾 配 が 緩 や か な 領 域 で は 線 量 差 ,線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で は 等 線 量 曲 線の位置のズレに注目して評価を行う. 線 量 分 布 検 証 に お け る 各 門 検 証 で は ,誤 差 原 因 が 検 出 し や す い ,特 性 曲 線 の 取 得 条 件 と 同 条 件 で 測 定 が 可 能 で あ る た め 深 さ の 影 響 を 抑 え る こ と が で き る ,な ど の 利 点 が あ る .一 方 で ,全 門 検 証 で は PTV に 対 す る 線 量 集 中 性 や リ ス ク 臓 器 に 対 す る 線 量 低 減 の 目 標 値 が 達 成 さ れ て い ること,さらに,これらの境界の線量勾配を評価するなど,臨床的な評価が可能となる. 線 量 分 布 検 証 は ,フ ィ ル ム( 7 章 ),2 次 元 検 出 器( 8 章 ),EPID( 9 章 )お よ び 線 量 分 布 の 解 析 ( 10 章 ) で 解 説 す る . 参考文献 1. Gary AE, James MG, Low D, et al.: Guidance document on delivery, treatment planning, and clinical implementation of IMRT: Report of the IMRT subcommittee of the AAPM radiation therapy committee. Med. Phys. 30, 2089-2115, 2003 2. Alber M, Broggi S, De Wagter C, et al.: Guidelines for the verification of IMRT, Booklet No. 9, 2008, ESTRO, Belgium 〔橋本,河内〕 14 3章 IMRT 線量検証の手順 IMRT 線 量 検 証 の 手 順 に 従 っ て ,3.1 検 出 器 の 選 択 ,3.2 フ ァ ン ト ム の 選 択 ,3.3 検 証 プ ラ ン の 作 成 と 計 画 線 量 の 算 出 , 3.4 R&V シ ス テ ム へ の 登 録 , 3.5 線 量 測 定 ・ 解 析 , 3.6 独 立 線 量 検 証 , 3.7 判 定 基 準 , の 順 に 概 論 を 示 す . 各 項 目 の 詳 細 は 4 章 以 降 の 各 論 を 参 照 さ れ た い . 3.1. 検 出 器 の 選 択 IMRT 線 量 検 証 で は , 評 価 点 線 量 検 証 に は 電 離 箱 線 量 計 を , 線 量 分 布 検 証 に は フ ィ ル ム を 用 い る こ と を 推 奨 す る( 図 2.1).さ ら に ,多 く の 電 離 箱 線 量 計 お よ び フ ィ ル ム が 市 販 さ れ て い る た め ,ユ ー ザ ー は 検 出 器 の 特 性 を 十 分 に 理 解 し て 選 択 す る 必 要 が あ る .特 に ,電 離 箱 線 量 計 で は 空 洞 サ イ ズ の 選 択 が 重 要 で あ り ,空 洞 サ イ ズ に 合 わ せ て 挿 入 可 能 な フ ァ ン ト ム を 準 備 し な け れ ば な ら な い .ま た ,フ ィ ル ム で は ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム と ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム に よ っ て 注 意 す べ き 特 性 が 異 な り ,ま た ,暗 室 ,自 動 現 像 機 の 有 無 な ど の 設 備 も 考 慮 し て 選 択 しなければならない. IMRT 線 量 検 証 に は 2 次 元 検 出 器 や EPID を 用 い た 線 量 検 証 や , 治 療 計 画 装 置 と は 別 系 統 の システムでの再計算による独立線量検証なども手法として挙げられる 1) .しかし,2 次元検出 器 は フ ィ ル ム と 比 較 し て 空 間 分 解 能 が 劣 る . EPID は 線 量 分 布 で は な く フ ル エ ン ス 分 布 の 検 証 で あ り ,さ ら に ,全 門 検 証 が 困 難 で あ る .ま た ,独 立 線 量 検 証 は 放 射 線 治 療 装 置 に 由 来 す る 誤 差 を 検 出 で き な い .従 っ て ,こ れ ら の 手 法 を 単 独 で 行 う 場 合 は IMRT の 線 量 検 証 と し て 不 十 分 で あ る .し か し ,十 分 な 症 例 数 を 経 験 し ,治 療 シ ス テ ム の 特 性 を 把 握 で き て い る 施 設 に お い て , 線 量 検 証 を 効 率 的 に 行 う た め に こ れ ら の 検 出 器 を 導 入 す る こ と は 間 違 い で は な い .た だ し ,こ れ ら の 施 設 で は 検 出 器 が 持 つ 欠 点 を 補 う た め の QA/QC 項 目 を 組 み 込 ん だ 線 量 検 証 プ ロ ト コ ル を作成して実施することが重要である. 3.1.1. 電 離 箱 線 量 計 評 価 点 線 量 検 証 で は ,電 離 箱 線 量 計 を 用 い て 水 吸 収 線 量 の 絶 対 量 を 測 定 す る 必 要 が あ る .評 価 点 は 医 学 的 に 評 価 価 値 の あ る 領 域 に 設 定 す る が ,同 時 に 線 量 が 平 坦 な 領 域 を 選 択 す る こ と が 重 要 で あ る .こ の た め ,作 成 し た 検 証 プ ラ ン の 線 量 分 布 を 確 認 し ,電 離 空 洞 内 と そ の 近 傍 で 可 能な限り線量が平坦となる領域を評価点として決定する. 電 離 箱 線 量 計 の 空 洞 サ イ ズ を 分 類 す る と Farmer 形 ( 約 0.6 cm 3 ), Mini 型 ( 約 0.1 cm 3 ), お よ び Micro 型 ( 約 0.01 cm 3 ) が あ り , い ず れ も 使 用 可 能 で あ る . た だ し , IMRT で は 線 量 が 平 坦 な 領 域 が 少 な く 、 Farmer 形 で は 評 価 点 の 位 置 が 制 限 さ れ る こ と が 多 い . ま た , Micro 型 で は 漏れ電流の影響によって不確かさが増大するなどの問題がある. 本 書 で は ,評 価 点 線 量 検 証 に お け る 計 算 値 お よ び 測 定 値 を 体 積 平 均 線 量 と し て 比 較 す る 検 証 を 推 奨 す る .こ れ は ,IMRT で は 基 準 条 件 と 同 等 の 線 量 平 坦 性 を 得 る こ と が 困 難 な 場 合 が 多 く , 点 線 量 測 定 で は 体 積 平 均 効 果 に よ る 不 確 か さ の 増 大 が 問 題 と な る た め で あ る .た だ し ,線 量 勾 配 の 急 峻 な 領 域 で は ,体 積 平 均 効 果 の み で は な く ,電 離 箱 線 量 計 の 位 置 誤 差 や 線 質 変 換 係 数 の 変 化 に よ っ て 不 確 か さ が 増 大 す る た め ,体 積 平 均 線 量 を 用 い る 場 合 に お い て も 可 能 な 限 り 線 量 が 平 坦 と な る 評 価 点 を 選 定 す る こ と が 不 可 欠 で あ る .体 積 平 均 線 量 の 測 定 は 評 価 点 に 電 離 空 洞 15 の 幾 何 学 中 心 を 配 置 し ,従 来 と 同 様 に 標 準 測 定 法 2) に従って電離電荷から水吸収線量に変換す る.6 章では評価点線量検証の手順を詳説するとともに,電離箱線量計のサイズや評価位置な どを決定する際の注意点を示した. 3.1.2. フ ィ ル ム フ ィ ル ム 法 は 線 量 分 布 測 定 の 中 で は 最 も 一 般 的 な 方 法 で あ る .こ の 方 法 は ,フ ィ ル ム 濃 度 と 吸 収 線 量 の 相 関 関 係 を 表 す 特 性 曲 線 を 用 い て ,フ ィ ル ム の 濃 度 を 吸 収 線 量 に 変 換 す る こ と で 線 量 分 布 を 取 得 す る .フ ィ ル ム に は ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム( Radiographic film: RGF)と ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム ( Radiochromic film: RCF) の 2 種 類 が あ り , 表 3.1 に 示 す よ う な 特 性 を 有 す る .両 フ ィ ル ム と も 線 量 測 定 精 度 に 影 響 を 与 え る 因 子 が 多 い た め ,施 設 毎 に 測 定 か ら フ ィ ル ム ス キ ャ ン ま で の プ ロ ト コ ル を 作 成 す る こ と を 推 奨 す る .フ ィ ル ム に つ い て の 詳 細 は 7 章 にて述べる. 表 3.1. ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム と ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム の 特 性 ラジオグラフィックフィルム ラジオクロミックフィルム ハロゲン化銀粒子の感光作用を利用 ラジオクロミック現象を利用 現像が必要であり,自現機の管理が必要 現像の必要なし 暗室で処理 明室で処理可能 エネルギー依存性大 エネルギー依存性小 固体ファントムと組み合わせて使用 固体ファントムのみでなく水中でも使用可 フィルムの有感部分の均質性が高い フィルムの有感部分の均質性が低い 空間分解能が高い 特性曲線を取得する必要がある 測定後,線量分布評価までに時間を要する スキャナによる不確かさがある 3.1.3. 2 次 元 検 出 器 近年,フィルムレス化の流れに伴い,2 次元検出器を利用する施設は著しく増加している. 一 般 的 に 2 次 元 検 出 器 は ,平 面 的 に 配 列 さ れ た 小 型 の 半 導 体 や 電 離 箱 線 量 計 で 構 成 さ れ て お り , 2 次元の線量分布をリアルタイムに取得することができる.また,ユーザー責任によるクロス キャリブレーションを行うことで,吸収線量での評価が可能になる.2 次元検出器は,フィル ム 法 に 比 べ 測 定 が 簡 便 で ,照 射 し た そ の 場 で 解 析 が 可 能 で あ る .欠 点 は ,フ ィ ル ム に 比 べ 空 間 分 解 能 が 低 い 点 で あ る . 今 日 の 2 次 元 検 出 器 の 素 子 間 の 距 離 は 約 1 cm で あ る た め , 連 続 し た 線量分布が得られない.また,2 次元検出器は素子の種類により異なる物理特性を持ち,半導 体素子の場合は線量率依存性と温度依存性,電離箱素子の場合は体積平均効果が問題になる. さらに,基本的に検出面に対して垂直に入射するビームの測定を目的とした設計であるため, 全門検証を行う場合の問題点として方向依存性が挙げられる. 16 3章 IMRT 線量検証の手順 2 次 元 検 出 器 は 今 後 , IMRT の 線 量 検 証 に お い て 主 要 な ツ ー ル に な る こ と は 明 ら か で あ る . しかし,2 次元検出器単独では線量検証として不十分であり,状況に応じてフィルムを併用す る な ど , 2 次 元 検 出 器 の 特 性 を 踏 ま え た QA プ ロ グ ラ ム を 作 成 す る 必 要 が あ る . 2 次 元 検 出 器 についての詳細は 8 章にて述べる. 3.1.4. EPID 近 年 で は ,Linac 付 属 の EPID を 用 い た フ ル エ ン ス 分 布 測 定 が IMRT の 線 量 分 布 検 証 と し て 利 用 さ れ つ つ あ る .こ の 検 出 器 の 利 点 は ,他 の 2 次 元 検 出 器 に 比 べ 高 分 解 能 で あ る た め デ ー タ 補 間 の 必 要 が な く ,線 量 勾 配 の 急 峻 な 領 域 や 線 量 の 起 伏 が 激 し い 領 域 に お い て も 補 間 に よ る 不 確 か さ が 小 さ い こ と で あ る . こ の た め , MLC を は じ め と す る 機 械 的 な 位 置 誤 差 の 検 出 能 に 優 れ ている.また,フィルム法と比べて測定や解析に費やす時間が短く, 線量検証の効率化および 省 力 化 を 図 る こ と が で き る . 現 時 点 で IMRT フ ィ ー ル ド の フ ル エ ン ス 分 布 検 証 が 可 能 な EPID は Varian 社 の 製 品 の み で あ る が ,他 の メ ー カ で も 開 発 が 進 ん で お り ,今 後 が 期 待 さ れ る ツ ー ル の一つである. EPID を 用 い た 検 証 は ,治 療 計 画 装 置 で 計 算 さ れ た EPID 検 出 面 の フ ル エ ン ス 分 布( predicted image) と 照 射 時 に EPID で 取 得 し た フ ル エ ン ス 分 布 ( measured image) を 比 較 す る こ と で 行 わ れ る . Varian 社 の EPID を 用 い た 検 証 で は , 固 体 フ ァ ン ト ム で の 線 量 計 算 を 含 む 従 来 の 線 量 分 布 検 証 と は 異 な り ,フ ィ ー ル ド 内 の フ ル エ ン ス 分 布 を 検 証 す る シ ス テ ム で あ る .ま た ,全 門 検 証 が で き な い な ど の 欠 点 が あ り , EPID も 2 次 元 検 出 器 と 同 様 に 単 独 で は 検 証 と し て 不 十 分 な 部 分 が あ る .IMRT の 線 量 検 証 に 用 い る 際 は ,こ れ ら を 補 う な う た め の QA プ ロ グ ラ ム の 立 案 ・ 施 行 が 必 須 で あ る . EPID に つ い て の 詳 細 は 9 章 で 述 べ る . 3.2. フ ァ ン ト ム の 選 択 放 射 線 治 療 に お い て 患 者 投 与 線 量 は 水 の 吸 収 線 量 で 評 価 さ れ る た め , IMRT の 線 量 検 証 に お い て も フ ァ ン ト ム と し て 水 を 用 い た 検 証 が 望 ま し い .特 に ,治 療 計 画 装 置 の コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ は 可 能 な 限 り 水 中 で の 測 定 に よ り 実 施 す る こ と を 推 奨 す る .こ れ は ,固 体 フ ァ ン ト ム で は 深 さ スケーリングやフルエンススケーリングなど水では不要な補正が必要であり不確かさが増大 す る た め で あ る .し か し ,フ ィ ル ム や 2 次 元 検 出 器 な ど 水 中 測 定 が で き な い 測 定 器 で は 固 体 フ ァ ン ト ム が 用 い ら れ る .ま た ,固 体 フ ァ ン ト ム は セ ッ ト ア ッ プ が 簡 便 で あ る た め ,患 者 毎 の 線 量検証では広く用いられる. 固 体 フ ァ ン ト ム を 構 成 す る 物 質 は 電 子 濃 度 が 水 に 近 い 元 素 組 成 に な っ て い る .し か し ,各 メ ー カ で 組 成 は 異 な り ,さ ら に ,同 じ 種 類 の フ ァ ン ト ム に お い て も 製 造 精 度 に よ る 厚 さ や 密 度 の 違 い が 存 在 す る .こ の た め ,ユ ー ザ ー は 検 証 前 に 固 体 フ ァ ン ト ム の 正 確 な 寸 法 と 質 量 密 度 ,さ らに 4 章で詳説する各スケーリング係数を求めるなど特性の把握する必要がある. 形 状 と 構 造 に つ い て ,板 形 フ ァ ン ト ム[ 図 3.1 (a)]は 各 門 検 証 と 全 門 検 証 の そ れ ぞ れ で 利 用 で き 汎 用 性 が 高 い .ま た ,円 柱 形 な ど の 患 者 体 型 を 模 擬 し た フ ァ ン ト ム[ 図 3.1 (b)]は 全 門 検 証 に 有 用 で あ る .特 に ,フ ィ ル ム を 用 い た 線 量 分 布 検 証 で は 標 的 と リ ス ク 臓 器 の 形 状 と 位 置 関 係 か ら 重 要 度 の 高 い 評 価 面 で 検 証 す る 必 要 が あ る た め ,少 な く と も コ ロ ナ ル 面 と ア キ シ ャ ル 面 は検証できるようファントムを準備することを推奨する. 17 (a) 板 形 フ ァ ン ト ム (b) 円 柱 形 フ ァ ン ト ム 図 3.1 検証用ファントム 3.3. 検 証 プ ラ ン の 作 成 と 計 画 線 量 の 算 出 線 量 検 証 は フ ァ ン ト ム 内 の 吸 収 線 量 を 測 定 し て 行 う た め ,計 画 線 量 も 患 者 で は な く フ ァ ン ト ム 内 の 線 量 と し て 算 出 し て お く 必 要 が あ る . こ の た め , 患 者 CT デ ー タ を 用 い て 計 画 さ れ た 臨 床 プ ラ ン に お い て ,患 者 を フ ァ ン ト ム に 置 き 換 え て 検 証 プ ラ ン を 作 成 し ,再 び 線 量 計 算 を 行 っ て計画線量を算出する. 検 証 用 プ ラ ン の 作 成 後 ,評 価 点 お よ び 評 価 面 を 設 定 し て 計 画 線 量 を 取 得 す る .評 価 点 は 検 証 用 プ ラ ン の 線 量 分 布 を 確 認 し ,電 離 空 洞 内 と そ の 近 傍 で 可 能 な 限 り 線 量 が 均 一 と な る 領 域 を 選 定する.評価点の計画線量は電離箱線量計の空洞体積について体積平均線量として算出する. た だ し ,空 洞 体 積 が 点 と み な せ る 程 に 小 さ い サ イ ズ で あ れ ば ,計 画 線 量 を 点 線 量 と す る こ と が で き る .ま た ,評 価 面 の 計 画 線 量 に つ い て 計 算 グ リ ッ ド サ イ ズ は 小 さ い ほ ど 正 確 な 検 証 が 可 能 で あ り ,1~ 2 mm と し て 取 得 す る こ と を 推 奨 す る .計 画 線 量 は ,固 体 フ ァ ン ト ム の 不 均 質 補 正 , 臨 床 プ ラ ン と の MU 設 定 値 の 整 合 性 な ど に 注 意 が 必 要 で あ り ,詳 細 は 4 章 お よ び 5 章 に 記 述 す る. 3.4. R&V シ ス テ ム へ の 登 録 R&V シ ス テ ム ( Record and Verify system) と は 放 射 線 治 療 装 置 の 患 者 情 報 と 照 射 情 報 の 管 理 シ ス テ ム で あ り ,治 療 計 画 装 置 で 立 案 し た 照 射 情 報 の 登 録 ,照 射 時 の 照 合 お よ び 記 録 を 行 う シ ス テ ム で あ る . 過 去 に , 治 療 計 画 装 置 と R&V シ ス テ ム 間 の 通 信 エ ラ ー に よ る 誤 照 射 事 故 が 発 生 し て お り ,IMRT で は MLC シ ー ケ ン ス フ ァ イ ル が 適 切 に 保 存 さ れ ず 全 て の MU 設 定 値 を 矩 形 照射野で照射した事例がある 3) .よ っ て ,IMRT に 限 ら ず 治 療 計 画 装 置 と R&V シ ス テ ム で 照 射 情 報 の 一 致 を 確 認 す る こ と は 必 須 で あ る . 特 に , IMRT の MLC シ ー ケ ン ス フ ァ イ ル な ど は デ ー タ の 細 部 ま で 確 認 す る こ と が 現 実 的 で は な い の で , 線 量 検 証 は R&V シ ス テ ム 登 録 デ ー タ の 最終確認として実施する意味もある. IMRT で は MU 設 定 値 や 線 量 率 に よ っ て 線 量 出 力 精 度 や MLC 位 置 精 度 が 変 化 す る 場 合 が あ る た め , 照 射 条 件 は 実 際 に 治 療 で 用 い る 条 件 に 一 致 さ せ る こ と が 望 ま し い ( 1.2 節 参 照 ). た だ し ,検 出 器 に 与 え ら れ る 線 量 が 少 な く ,正 し い 測 定 値 が 得 ら れ な い 場 合 は 調 節 を 必 要 と す る こ ともある. 18 3章 IMRT 線量検証の手順 3.5. 線 量 測 定 ・ 解 析 R&V シ ス テ ム に 登 録 し た プ ラ ン を 照 射 し , 目 的 に 合 う 検 出 器 で 測 定 を 行 う . こ の と き , 検 証 プ ラ ン と 同 じ 幾 何 学 的 配 置 を 忠 実 に 再 現 す る こ と が 重 要 と な る .ま た ,測 定 で は 照 射 ヘ ッ ド と 治 療 寝 台 の 衝 突 の 有 無 ,治 療 寝 台 に よ る 減 弱 の 有 無 に 注 意 す る .一 般 的 に 治 療 寝 台 や 固 定 具 に よ る 減 弱 を 最 低 限 に 抑 え た ガ ン ト リ 角 度 と 照 射 野 の 設 定 が 望 ま し い が ,避 け ら れ な い 場 合 は こ の 影 響 を 含 め て 検 証 を 行 う ,ま た は ,別 の 測 定 で 評 価 す る な ど ,対 応 を 予 め 明 確 に し て お く 必要がある. 電 離 箱 線 量 計 を 用 い た 評 価 点 線 量 の 測 定 は ,電 離 空 洞 の 幾 何 学 中 心 を 評 価 点 に 配 置 し ,標 準 測 定 法 に 従 っ て 電 離 電 荷 か ら 水 吸 収 線 量 に 変 換 す る .さ ら に ,測 定 線 量 と 計 画 線 量 の 相 対 差( 式 2.1, 式 2.2) が 許 容 値 内 で あ る か を 評 価 す る . フ ィ ル ム を 用 い た 線 量 分 布 の 測 定 は 評 価 面 に フ ィ ル ム を 挿 入 し て 測 定 し , さ ら に , 濃 度 -吸 収 線 量 変 換 の た め の 特 性 曲 線 を 取 得 し な け れ ば な ら な い .治 療 計 画 装 置 と 測 定 で 得 た 線 量 分 布 の 比 較 法 は ,同 じ 位 置( 点 )に お け る 線 量 の 差( Dose-difference),線 量 が 等 し い 点 ま で の 距 離 ( Distance-to-agreement; DTA) お よ び そ れ ら を 組 み 合 わ せ た ガ ン マ 解 析 な ど が あ る . ま た , 両 線 量 プ ロ フ ァ イ ル を 重 ね て 見 比 べ る 評 価 も 重 要 で あ り ,標 的 と リ ス ク 臓 器 の 境 界 な ど 臨 床 的 に 重 要 と な る 位 置 で は 必 ず 視 覚 的 に 確 認 す る 必 要 が あ る . 線 量 分 布 の 解 析 に つ い て は 10 章 で 詳 細に述べる. 3.6. 独 立 線 量 検 証 治 療 計 画 装 置 で 計 算 し た 線 量 分 布 や 計 画 MU の 妥 当 性 を 確 認 す る た め の 手 段 と し て ,MU 設 定 値 の 独 立 線 量 検 証 が 挙 げ ら れ る .独 立 検 証 シ ス テ ム は 機 械 的 な 位 置 誤 差 な ど 放 射 線 治 療 装 置 に 由 来 す る 誤 差 を 検 証 す る こ と は で き な い が ,測 定 の 負 担 を 減 ら す こ と が で き る と い う 利 点 が あ る .現 時 点 で は IMRT に 対 し て 利 用 し や す い MU 独 立 検 証 シ ス テ ム ,ま た は 方 法 が 限 ら れ て い る が , 実 用 化 へ の 可 能 性 に つ い て 11 章 に 示 す . 3.7. 判 定 基 準 線 量 検 証 で は ,結 果 と し て 得 ら れ た 計 画 線 量 と 測 定 線 量 の 差 が 許 容 で き る か 否 か を 判 断 し な け れ ば な ら な い .よ っ て ,科 学 的 エ ビ デ ン ス に 基 づ い て 客 観 的 な 判 断 を 下 す た め ,あ ら か じ め 許 容 レ ベ ル ( Tolerance level), 介 入 レ ベ ル ( Action level) な ど の 判 定 基 準 を 設 定 し て お く 必 要 がある. 検 出 器 を 使 用 し て 測 定 さ れ た 吸 収 線 量 お よ び 線 量 分 布 は ,い く つ も の 要 因 が 合 成 さ れ た 不 確 か さ を 持 つ .こ の 不 確 か さ を 持 っ た 測 定 線 量 値 か ら 治 療 実 施 の 可 否 の 判 断 を 下 す た め に は ,要 求 さ れ る 線 量 精 度 を 放 射 線 計 測 学 ,臨 床 医 学 ,腫 瘍 放 射 線 生 物 学 の 3 つ の 視 点 か ら 総 合 的 に 導 き 出 し , 判 定 基 準 を 設 定 す る 必 要 が あ る . 詳 細 は 12 章 に 示 し , こ こ で は 本 報 告 に お い て 推 奨 す る 判 定 基 準 ( 許 容 レ ベ ル , 介 入 レ ベ ル ) の み を 表 3.2 と し て 示 す . た だ し , 線 量 検 証 に お い て 統 計 的 品 質 管 理 は 重 要 で あ り ,各 施 設 に お い て 複 数 の 検 証 結 果 を 解 析 す る こ と で 系 統 誤 差 の 検出,最適な判定基準の設定を行わなければならない. 19 表 3.2 IMRT 線 量 検 証 の 許 容 レ ベ ル と 介 入 レ ベ ル ( 推 奨 値 ) 許容レベル 介入レベル ±3 % ±5 % ±4 % ±7 % 2 mm 3 mm 投与線量精度* 高線量領域 (腫瘍領域) 低線量領域 (リスク臓器領域) 等 線 量 曲 線 精 度 ( DTA) * 評 価 点 計 画 線 量 に 対 す る 相 対 差 ( %) 参考文献 1. Alber M, Broggi S, De Wagter C, et al.: Guidelines for the verification of IMRT, Booklet No. 9, 2008, ESTRO, Belgium. 2. 日 本 医 学 物 理 学 会:高 エ ネ ル ギ ー 光 子 線 の 線 量 測 定 . 外 部 照 射 線 治 療 に お け る 吸 収 線 量 の 標 準 測 定 法 ( 標 準 測 定 法 01) . 35-68, 2002, 通 商 産 業 研 究 社 , 東 京 3. FDA MAUDE Adverse Event Report. Report No.2914292-2005-00003, U.S. Food and Drug Administration, 2005, US. 〔橋本,河内〕 20 4 章 固体ファントム 目次 手順 4.1. 深さスケーリング 4.1.1. 深さスケーリングの理論 4.1.2. 深さスケーリング係数の算出 4.1.3. 治療計画装置における深さスケーリング 4.2. フルエンススケーリング 4.2.1. フルエンススケーリングの理論 4.2.2. フルエンススケーリング係数の算出 4.2.3. IMRT ビームのフルエンススケーリング係数 4.3. スケーリング補正の適用 4.3.1. 線量検証におけるスケーリング補正の適用方法 参考文献 21 ≪固体ファントムの各スケーリング係数決定の手順≫ 項目 I. 手順 事前準備 参照 (1) 固体ファントムの厚さおよび質量の測定 (2) 電離箱線量計とファントムを照射室内に入れる II. Cpl の決定 (1) 深部線量比の測定 4.1 (2) 実効線減弱係数の算出 (3) 深さスケーリング係数 Cpl の決定 III. hpl の決定 (1) 固体ファントムの測定深 dpl に対する等価深 dw の算出 (2) 固体ファントム中の dpl で,電離量 Mpl を測定 (3) 水ファントム中の dw で,電離量 Mw を測定 (4) フルエンススケーリング係数 hpl の決定 使用機器 電離箱線量計,電位計 固体ファントム, 水ファントム 温度計,気圧計 ノギス,質量計(電子天秤など) 22 4.2 4章 I. (1) 固体ファントム 事前準備 使用する固体ファントムの厚さおよび質量を測定し,密度を算出する.固体ファントムの公称密度 と比較し,著しい相違がないことを確認する. (2) 測定前に電離箱線量計とファントムを照射室内に入れておき室温と馴染ませる.電離箱線量計は 1 時間以上,固体ファントムおよび水は 1 日以上が望ましい. II. 深さスケーリング係数 Cpl の決定 (1) 水および固体ファントムを使用して深部線量比を測定する.この時,深さ 5 cm または 10 cm から 20 cm の間で少なくとも 6 点以上の測定が望ましい. (2) 測定した深部線量比の指数関数近似から得られた回帰曲線の傾き(実効線減弱係数)を算出する. この時,回帰曲線を算出する深部線量比の範囲は,水と固体ファントムで同一し,固体ファントム の深さは I.(1)で測定した厚さを用いて算出する. (3) 式(4.4)から Cpl を決定する.Cpl は使用する固体ファントムに対して光子エネルギーごとに決定する. III. フルエンススケーリング係数 hpl の決定 (1) 固体ファントムではミリメートル単位での深さ調整が困難であるため, II.(3)で決定した Cpl と式(4.1) から固体ファントムの測定深 dpl に対する水中での等価深 dw を算出する. (2) 電離箱線量計を固体ファントム中の dpl に設置し,アイソセンタと電離箱線量計の電離空洞の幾何 学的中心を一致させる. (3) ヒステリシス現象を考慮し,事前に電離空洞に対し約 3~5 Gy を照射する. (4) モニタ設定値 N MU で照射を行い,指示値 Mpl を測定する.指示値の再現性に注意し,必要に応じ て複数回の平均値とする.また,固体ファントムと水中の測定における温度と気圧の変化が誤差と なるため,測定時の温度と気圧を測定し,22.0℃,1013.3 hPa を基準とした温度気圧補正を行う. (5) 電離箱線量計を水ファントム中の dw に設置し,アイソセンタと電離箱線量計の電離空洞の幾何学的 中心を一致させる. (6) III.(3)と同様に,電離空洞に対し約 3~5 Gy を照射する. (7) III.(4)と同様のモニタ設定値 N MU で照射を行い, 指示値 Mw を測定する. 指示値の再現性に注意し, 必要に応じて複数回の平均値とする.また,III.(4)と同様に測定時の温度と気圧を測定して温度気 圧補正を行う. (8) 式(4.5)から hpl を決定する.hpl は使用する固体ファントムに対して光子エネルギーおよび電離箱線 量計ごとに決定する. 23 4. 固体ファントム 放射線治療の線量測定において,固体ファントムは,水ファントムと共によく利用される媒質である.IMRT に代表される高精度放射線治療において,固体ファントムは利便性が良いため評価点線量,線量分布の確認 に利用される.表 4.1 に市販されている主な固体ファントムの元素組成および各種パラメータを示す 1) ~ 5). 固体ファントムは水等価であること,すなわち,水と比べて同じ吸収および散乱特性を持っていることが 望ましい 6).しかし,厳密には水等価ではないため,ユーザーは使用する固体ファントムの水等価性を十分 に評価し,補正が必要であるか判断しなければならない. 水吸収線量測定に固体ファントムを用いる場合は,水との吸収・散乱特性の違いによる光子フルエンスの 相違を補正する深さスケーリングを施す.また,電離箱線量計を用いて固体ファントム内で水吸収線量測定 を実施する場合,水との電子フルエンスの違いによる電離箱線量計の応答の相違を補正するフルエンススケ ーリングを施す.本章では,この 2 つのスケーリングについて詳述するとともに,線量検証におけるスケー リング補正の適用方法について述べる. 表 4.1 各種固体ファントムの元素組成および各種パラメータ 1) ~ 5) Plastic RMI Water WERW3 WE- Plastic MixDP 457 TM Water 211 211R PMMA ABS Water phantom DT H 0.1119 0.0809 0.0759 0.1277 0.0821 0.0838 0.0779 0.0805 0.081 0.116 0.5998 0.849 0.884 0.0226 B C 0.6722 N 0.024 O 0.0740 0.8881 0.1984 0.9041 0.008 0.7682 0.0511 0.6633 0.6738 0.5982 0.4670 0.0221 0.0219 0.0178 0.0156 0.2065 0.1953 0.2357 0.3352 0.0386 Mg 0.070 0.3196 0.0688 0.0140 Al Cl 0.0013 0.004 0.0024 0.0023 Ca 0.0232 0.022 0.0228 0.0676 Ti 0.012 0.0144 0.0024 ρ 0.998 1.030 1.045 1.000 1.018 1.018 1.030 1.039 1.190 1.050 1.000 ρe 3.343 3.249 3.231 3.382 3.252 3.257 3.240 3.220 3.248 3.249 3.352 (ρe)pl, w 1.000 0.972 0.966 1.012 0.973 0.974 0.969 0.963 0.972 0.972 1.003 ρe* 3.336 3.346 3.376 3.382 3.310 3.316 3.337 3.345 3.865 3.411 3.352 (ρe*)pl, w 1.000 1.003 1.012 1.014 0.992 0.994 1.000 1.003 1.159 1.023 1.005 Z1 7.51 7.93 7.13 7.62 7.95 7.93 9.77 7.63 6.56 5.82 5.62 ρ:密度(g/cm3), ρe:電子密度(el/g), (ρe)pl, w:水に対する固体ファントムの相対電子密度, ρe*:電子濃度(el/cm3) (ρe*)pl, w:水に対する固体ファントムの相対電子濃度, Z1:光電効果に対する実効原子番号(m=3.5) 注:電子密度と電子濃度は上記の数値に 1023 を乗ずること. 24 4章 固体ファントム 4.1. 深さスケーリング 水吸収線量測定において固体ファントムを利用する場合, 深さスケーリングによる補正を施す必要がある. これは,固体ファントムの密度と元素組成が基準媒質である水と異なることによって,ファントム内での放 射線の吸収・散乱に違いが生じるためである.本節では,深さスケーリングの理論,係数の算出方法および 治療計画装置における適用法について示す. 4.1.1. 深さスケーリングの理論 光子における深さスケーリング理論は,同じ線源によって照射される 2 つの媒質での光子フルエンスの関 係を示している.基準媒質である水とは密度と元素組成が異なる固体ファントムを用いる場合,水中と等し いフルエンスを示す深さ(水等価深)を求めるためにこの理論が使用される.2 つの媒質の深さを関係付け, 水等価深を算出するための係数が深さスケーリング係数 Cpl であり,次式で定義される 1), 7). C pl = dw d pl (4.1) ここで,dw (cm) は水の測定深であり,dpl (cm) は固体ファントムでの水等価深である. 4.1.2. 深さスケーリング係数の算出 深さスケーリング係数の算出方法は次の 3 つに分類される.後者になるにつれて深さスケーリングの精度 は向上する 7). (1) 密度比による方法 (2) 電子濃度比による方法 (3) 実効線減弱係数比による方法 (1) 密度比による深さスケーリング このスケーリング法は光子の減弱が媒質の密度に依存することを利用する.深さスケーリング係数は,2 つのファントムの密度の比から決定する.深さスケーリング係数 Cpl は次式で算出できる. C= pl d w ρ pl = d pl ρ w (4.2) ここで,ρw とρpl はそれぞれ,水と固体ファントムの密度(g/cm3)である.この方法は,2 つの媒質が同一の 元素組成からなり,密度が異なる場合に適用できる.しかし,水と固体ファントムは元素組成が異なるため, 単純に密度の比では正確な水等価深の決定は困難である. (2) 電子濃度比による深さスケーリング 放射線治療に用いられる高エネルギー光子と媒質の相互作用はコンプトン効果が主である.よって,この スケーリング法は,コンプトン効果の断面積が単位質量当たりの電子数(=電子密度)に依存することを利 用する.深さスケーリング係数は,単位体積当たりの電子数(=電子濃度)の比から決定する 8).深さスケ ーリング係数 Cpl は水および固体ファントムの電子濃度を用いて次式で算出できる. C= pl * d w ( ρe ) pl = d pl ( ρe* ) w (4.3) 25 ここで, ( ρe* ) pl と ( ρe* ) w はそれぞれ固体ファントムと水の電子濃度である.しかし,このスケーリング法では 光子と物質との相互作用がコンプトン効果のみと仮定しているため,光子エネルギーと固体ファントムの元 素組成によって光電効果や電子対生成に対する断面積が水と著しく異なる場合は正確な深さスケーリングが 困難となる. (3) 実効線減弱係数比による深さスケーリング この方法の深さスケーリング係数は,深部線量比より求めた水と固体ファントムの実効線減弱係数の比か ら算出する 7), 9) .ファントム媒質の実効線減弱係数は深部線量比の指数関数近似から得られた回帰曲線の傾 き(実効線減弱係数)から決定する.算出した水に対する実効線減弱係数 µ w と固体ファントムの実効線減弱 係数 µ pl から深さスケーリング係数 Cpl は次式で算出できる. C= pl d w µ pl = d pl µ w (4.4) この方法は,すべての相互作用による影響を考慮し,深さスケーリング係数を測定した深部線量比から算出 することができる.測定点数による誤差を考慮して深部量比の測定では深さ 5 cm または 10 cm から 20 cm の 間で 6 点以上測定することが望ましい. (1) , (2) , (3)のいずれの深さスケーリング係数を利用する場合であっても,固体ファントムはその製造 上の不確かさが存在するため,使用する前に固体ファントムの厚さ,密度,均一性等をユーザー責任で確認 する.ファントム厚は,マイクロメータやノギス等で測定した実際のファントム厚と公称値との比較により 確認できる.ファントムの密度は,ファントムの実際の寸法から算出した体積(cm3)と質量(g)によって 実際の密度(g/cm3)を算出し,公称値と比較し確認する.ファントムの均一性は,ファントムを CT で撮影 し,その取得画像を解析することで評価できる. 深さスケーリング係数は,すべての相互作用による影響を考慮したスケーリングが可能な実効線減弱係数 比による方法を推奨する.しかし,測定による不確かさが存在するため,電子濃度比による深さスケーリン グ係数と比較し,その妥当性を確認し使用する.IMRT 専用ファントムを使用する場合,同じ材質の平板フ ァントムを所有しないことが考えられ,実効線減弱係数比による深さスケーリング係数の算出が困難な場合 がある.このような場合は電子濃度比による方法を用いることを検討する.しかし,上述のように固体ファ ントムは,製造上の不確かさがあるため,電子濃度もその影響を受ける.よって,使用するファントムが公 称値と一致しているかを上記の方法によってファントムの密度を確認し使用する.ファントム密度が公称値 と異なる場合はその違いを補正する. 4.1.3. 治療計画装置における深さスケーリング 治療計画装置における固体ファントムへの深さスケーリングの適用法には次の 2 つの方法がある. (1) 深さスケーリング係数を用いる方法 (2) CT 値-相対電子濃度変換を用いる方法 ただし,それぞれ利点と欠点があり使用する固体ファントムの特性に注意して適用法を決定する必要がある. 26 4章 (1) 固体ファントム 深さスケーリング係数を用いる方法 これは 4.1.2 で決定した深さスケーリング係数をファントム輪郭内の相対電子濃度として上書きする方法 である.固体ファントム内に電離箱線量計を設置する場合,電離空洞内は水等価(相対電子濃度 1.000, CT 値約 0 HU ) ,それ以外の領域の相対電子濃度は深さスケーリング係数 Cpl とする.相対電子濃度で上書きす る機能がない場合は CT 値として登録する.これは,患者の治療計画で使用している CT 値-相対電子濃度変 換を用いて指定したい相対電子濃度に相当する CT 値を算出して行う. この手法では,光子エネルギーによって深さスケーリング係数が変化するため,エネルギー毎にそれぞれ ファントムを作成する煩雑さが存在する.治療計画装置によっては登録できる相対電子濃度の桁数に制限が あり,エネルギーによらず一定の係数として登録することもある.また,積層したファントムの間に隙間が 存在する場合,その隙間も相対電子濃度で上書きするため不確かさの原因となる. (2) CT 値-相対電子濃度変換を用いる方法 これは通常の患者に対する治療計画と同様に,CT 値-相対電子濃度変換を使用する方法である.この方法 は CT 撮影で用いる光子のエネルギー領域において,水等価に調整されたファントムの場合のみ利用できる. このため,この方法を用いる際は撮像した固体ファントムの CT 値に対する相対電子濃度の公称値(または ファントムの密度を測定し,補正を施した相対電子濃度)が変換に使用する CT 値-相対電子濃度曲線上に存 在することを確認することで,この方法が使用可能であるか判断できる. 固体ファントムの光電効果に対する実効原子番号が水と異なる場合,光電効果の発生率が水と異なる.特 に,相互作用において光電効果の占める割合が大きい CT の kV エネルギー領域では顕著に影響し,これは CT 値の変化に影響する.このため,固体ファントムでは CT 値と相対電子濃度との関係が患者の治療計画で 使用している CT 値-相対電子濃度曲線から逸脱することがある.この場合,得られる相対電子濃度が実際の 相対電子濃度とは異なるため,結果的に正確な深さスケーリングを行うことができない. また,電離箱線量計を挿入した CT 画像を用いてこの方法を適用する場合,電離空洞内の材質は空気であ り,CT 値-相対電子濃度変換の影響を受ける.よって,水吸収線量の評価であるため電離空洞内の材質は水 (相対電子濃度 1.000)として登録する. 4.2. フルエンススケーリング 電離箱線量計を用いて固体ファントム内の水吸収線量測定を実施する場合,フルエンススケーリングによ る電子フルエンスの変化に対する補正が必要である.本節では,フルエンススケーリングの理論とフルエン ススケーリング係数の算出方法,IMRT ビームに対するフルエンススケーリング係数について述べる. 4.2.1. フルエンススケーリングの理論 フルエンススケーリングとは,固体ファントムで測定した電離量を水ファントムで測定した電離量に変換 することである.その変換係数をフルエンススケーリング係数という.また,フルエンススケーリング係数 は電離量変換係数 9)や Phantom dose conversion factor 10)とも呼ばれる.線質 Q の光子線に対するフルエンスス ケーリング係数 hQpl は,次式で定義される 1). hQpl = M wQ (d w ) M Qpl (d pl ) (4.5) ここで, M wQ および M Qpl はそれぞれ水中の基準深 dw(cm)と固体ファントム中の水等価深 dpl(cm)での電 27 離箱線量計の指示値である.dpl は深さスケーリング係数を用いて算出できる. フルエンススケーリング係数を用いて,固体ファントム中での水吸収線量 Dw (d w ) は,次式を表される. Dw (d w ) = M pl (d pl )h Qpl N D ,w kQ (4.6) ここで, N D , w は水吸収線量校正定数であり, kQ は標準測定法に示される基準条件の線質変換係数である. 4.2.2. フルエンススケーリング係数の算出 フルエンススケーリング係数の決定には次の 2 つの方法がある, (1) モンテカルロ法を用いた計算による方法 (2) 測定による方法 フルエンススケーリング係数も固体ファントムの密度と元素組成の製造上の不確かさの影響を受けるため, 使用する固体ファントムと電離箱線量計の組み合わせ毎に測定によって決定することを推奨する. (1) モンテカルロ法を用いた計算による方法 フルエンススケーリング係数の計算理論に関しては Seuntijens ら 10) によって報告されている.この計算理 論から荒木らはモンテカルロ計算によって各種固体ファントムに対するフルエンススケーリング係数を評価 し,報告している 4) , 9).荒木らによって報告されたフルエンススケーリング係数を表 4.2 に示す. モンテカルロ法を用いた計算による方法は,固体ファントムの密度および元素組成が公称値であると仮定 して計算している.したがって,実際に使用する固体ファントムが公称値から相違する場合,フルエンスス ケーリング係数に影響を与える. (2) 測定による方法 この方法では,式(4.5) に示したフルエンススケーリング係数の定義に基づき,実際の治療ビームを用いた 測定によって決定する.定義が明確であり理解しやすいが,測定における全ての不確かさの影響を受ける. つまり,フルエンススケーリング係数を算出するための測定手技に誤りがあった場合,間違った係数を使用 する可能性がある.IAEA-TRS398 1) における電子線の吸収線量測定において固体ファントムを基準媒質とし て認めない主な理由はこのフルエンススケーリング係数の不確かさが大きいためである.したがって,可能 であれば表 4.2 やその他の報告に示されるフルエンススケーリング係数と比較し,測定した係数の妥当性を 確認することが望ましい.さらに,固体ファントムは水と比較して室温と温度平衡に達するための時間が長 いため,使用する固体ファントムは測定前日から照射室内に入れておくべきである. 4.2.3. IMRT ビームのフルエンススケーリング係数 IMRT ビームでは MLC によるビームハードニング効果および照射野内の強度変調によって,式(4.5) に示 される基準条件で求めたフルエンススケーリング係数では正確な線量評価ができない可能性がある. しかし, 現在これらの影響を明らかにした報告はない.したがって,基準条件で求めたフルエンススケーリング係数 を用いてスケーリングを行う場合には,初めに IMRT ビームの水吸収線量を水および固体ファントムで測定 し,測定結果より基準条件に対するフルエンススケーリング係数で補正することの妥当性を十分に検討する ことが望ましい. 表 4.3 は基準条件に対するフルエンススケーリング係数を非基準条件(IMRT)に用いることに対する不確 28 4章 固体ファントム 表 4.2 各種固体ファントムおよび電離箱線量計に対するフルエンススケーリング係数 4), 9) TPR20, 10 0.615 0.669 0.737 0.779 PDD(10)x 61.8 66.3 73.3 80.9 C110 1.004 1.006 1.009 1.014 PTW 30001 1.005 1.006 1.009 1.014 PTW 30013 1.005 1.006 1.010 1.016 PTW 30002 & 30004 1.004 1.006 1.009 1.014 Exradin A12 1.004 1.006 1.009 1.015 C110 1.005 1.006 1.009 1.014 PTW 30001 1.005 1.006 1.010 1.015 PTW 30013 1.005 1.006 1.010 1.016 PTW 30002 & 30004 1.004 1.006 1.009 1.014 Exradin A12 1.004 1.006 1.010 1.015 C110 1.008 1.010 1.016 1.024 PTW 30001 1.008 1.010 1.016 1.024 PTW 30013 1.009 1.010 1.017 1.025 PTW 30002 & 30004 1.007 1.009 1.015 1.023 Exradin A12 1.007 1.009 1.015 1.024 C110 1.017 1.020 1.027 1.036 PTW 30001 1.018 1.021 1.027 1.037 PTW 30013 1.018 1.020 1.028 1.038 PTW 30002 & 30004 1.015 1.018 1.026 1.035 Exradin A12 1.014 1.018 1.026 1.036 C110 0.995 0.996 0.998 0.998 PTW 30001 0.994 0.996 0.998 0.998 PTW 30013 0.995 0.997 0.999 0.999 PTW 30002 & 30004 0.995 0.997 0.998 0.998 Exradin A12 0.997 0.998 0.999 0.999 C110 0.996 0.996 0.998 0.999 PTW 30001 0.996 0.996 0.997 0.998 PTW 30013 0.996 0.997 0.999 1.000 PTW 30002 & 30004 0.997 0.997 0.998 0.999 Exradin A12 0.998 0.998 0.999 1.000 Solid Chamber phantom RMI457 WE211 RW3 MixDP Plastic Water Plastic Water DT かさの検討を行った例である 11).この検討例では,前立腺がんに対する 10 MV 光子線を用いた 7 門照射の IMRT ビームを対象としており,各ビームは図 4.1 に示したフルエンス分布を有している.この検討では検出 器およびファントムの位置誤差による影響を受けないようにするために,式(4.5)に示したフルエンススケー リング係数測定の電離箱線量計を含む幾何学的配置をモンテカルロコード中に再現し,次式でフルエンスス 29 IMRT ケーリング係数 hpl hplIMRT = を評価している. MC [ Dair (d w , A)]chamber w MC [ Dair (d pl , A)]chamber pl (4.7) MC MC および [ Dair はそれぞれモンテカルロ法(MC)で算出した水中の基 ここで, [ Dair (d pl , A)]chamber (d w , A)]chamber pl w 準深 dw と固体ファントム中の水等価深 dpl での IMRT ビーム A における電離箱線量計の空洞空気の吸収線量 である.固体ファントムは WE211(Tough Water,京都科学) ,RMI457(Solid Water,GAMMEX) ,RW3(PTW) であり,電離箱線量計は Farmer 形(PTW N30013)とした. 表 4.3 に示した通り,IMRT ビームのフルエンススケーリング係数は基準条件に対して±1%程度の変化であ る.これは,IMRT ビームのエネルギースペクトルが照射野 10 cm × 10 cm のスペクトルと比べて変化が小さ いためである(図 4.2) .同様に,Doblado らは照射野 10 cm × 10 cm と IMRT で 6 MV 光子線の光子エネルギ ースペクトルがとほとんど一致したと報告している 12).これらの結果から,基準条件で得たフルエンススケ ーリング係数を IMRT で用いることによって生じる不確かさは小さく,IMRT の線量評価に使用可能である と考えられる. モンテカルロ法による検討は現実的に困難であるために,実際には測定によって同様の検討を行う.この とき,測定値が検出器およびファントムの設置位置誤差による影響を受けないように十分注意する必要があ る.基準条件に対するフルエンススケーリング係数で補正することの妥当性を決定するには,様々なパター ンの IMRT ビームに対して検討を行うことが望ましい. 固体ファントムを用いた水吸収線量測定は,深さスケーリングおよびフルエンススケーリングの不確かさ の影響を大きく受ける.したがって,固体ファントムを媒質に選択する場合は,水中と固体ファントム中で 測定した吸収線量が一致することを確認すべきである.IMRT ビームであってもガントリ角度を 0 度に設定 することで水ファントムを用いて水中での吸収線量評価が可能である.また,深さスケーリング係数および フルエンススケーリング係数を正確に評価できない場合は,測定線量の不確かさが大きくなるためにファン トム媒質には水を用いることを推奨する. 表 4.3 各種固体ファントムの IMRT ビームに対するフルエンススケーリング係数と 基準照射野(10 cm × 10 cm)のフルエンススケーリング係数に対する相対差(%diff) 30 Beam No. WE211 %diff RW3 %diff RMI457 %diff 1 1.007 0.3 1.014 0.8 1.006 0.7 2 1.001 -0.3 1.005 -0.1 1.001 0.2 3 0.998 -0.6 1.004 -0.2 1.000 0.1 4 1.001 -0.3 1.003 -0.3 0.995 -0.4 5 1.000 -0.4 1.006 0.0 1.002 0.3 6 1.001 -0.3 1.006 0.0 0.993 -0.6 7 1.001 -0.3 1.014 0.8 1.001 0.2 Total 1.001 -0.3 1.007 0.1 0.999 0.0 10 cm × 10 cm 1.004 1.006 0.999 4章 固体ファントム 図 4.1 評価対象とした各 IMRT ビームのフルエンスマップ 図 4.2 IMRT ビームと照射野サイズ 10 cm×10 cm のオープン照射野に対する ビーム中心軸領域の光子エネルギースペクトルの比較 "IMRT beam 1" は図 4.1 に示した beam No. 1 のエネルギースペクトルを示している. 4.3. スケーリング補正の適用 本節では, 4.1 節および 4.2 節で述べた各スケーリング法について実際の線量検証における適用方法を示す. 4.3.1. 線量検証におけるスケーリング補正の適用方法 線量検証におけるスケーリング補正の適用方法について表 4.4 にまとめた.ここで,表内の Cpl,hpl,dw, dpl はそれぞれ深さスケーリング係数,フルエンススケーリング係数,水ファントムにおける測定深(cm) , 固体ファントムにおける水等価深(cm)である.深さスケーリング係数とフルエンススケーリング係数の決 31 定方法はそれぞれ,4.1 節,4.2 節に示した.また,Mw と Mpl はそれぞれ水ファントム中 dw での電離箱線量 計の指示値と,固体ファントム中 dpl での指示値である.また,電離箱線量計の指示値は温度気圧補正係数等 の必要な補正が施された値である.以下に,表 4.4 に示した 4 つの場合に対する補正法について示す.一般 に固体ファントムを用いた IMRT の線量検証を実施する場合は補正法④が現実的である. 以下に示す「測定で使用するファントム」とは実際の線量測定において使用するファントムである.また, 「治療計画装置で使用するファントム」とは治療計画装置を用いて計算値を算出するときに使用するファン トムである. (1) 補正法 ① 測定で使用するファントム :水ファントム 治療計画装置で使用するファントム :水ファントム この場合,測定値および計算値の取得ともにファントム媒質に水が利用されるため,深さスケーリングお よびフルエンススケーリングは不要である. 電離箱線量計を用いた測定値の取得は,標準測定法 6) に従い測定を行う.電離箱線量計を用いた線量検証 の詳細は 6 章に示した.計算値の取得は,各治療計画装置に付属する仮想水ファントム作成の機能を利用し 取得する.詳細は,各治療計画装置のマニュアルを参照して頂きたい. この方法は,多くの放射線治療における線量検証(受入試験:アクセプタンステスト,臨床開始前試験: コミッショニングテスト)で利用され,最も単純であり,線量測定に対する不確かさが小さい方法である. 可能な限り,この方法を用いて線量検証を実施することを推奨する.これは,IMRT の線量検証でも同様で ある.他の補正法での測定を行い,その測定結果に疑問または矛盾等を生じた場合は,この方法で検証を実 施する. 表 4.4 固体ファントムへの補正法の適用方法 治療計画装置で使用するファントム 32 水ファントム 固体ファントム 補正法 ① 補正法 ② Cpl:1.000 Cpl:計算上適応し,dw = dpl × Cpl の水ファ hpl:1.000 ントム深で測定 hpl:1.000 ※ 通常,使用しない 固体ファントム 測定で使用するファントム 水ファントム 補正法 ③ 補正法 ④ Cpl:dpl = dw / Cpl の固体ファントム深で測定 Cpl:計算上適応 hpl:Mw = Mpl × hpl hpl:Mw = Mpl × hpl 4章 (2) 固体ファントム 補正法 ② 測定で使用するファントム :水ファントム 治療計画装置で使用するファントム :固体ファントム この方法は,水ファントムで測定できるのであれば,水ファントムで計算値を得るのが自然であるため, 一般的には使用されない.この場合,計算値の取得で固体ファントムが利用されるため,深さスケーリング のみの補正を施す必要がある. 深さスケーリングの補正は,治療計画装置上で適用する.この深さスケーリングに関する詳細な方法は 4.1.3 項に示した.測定値の取得は,水ファントムの測定深 dw で指示値 Mw を取得する.dw は,計算値取得上 の固体ファントム深 dpl と深さスケーリング係数 Cpl から次式で算出する. d= d pl × C pl w (4.8) 取得した指示値 Mw は,補正法①の水ファントムを用いた電離箱線量計による線量測定と同様に標準測定 法 6)に従い水吸収線量を求める. (3) 補正法 ③ 測定で使用するファントム :固体ファントム 治療計画装置で使用するファントム :水ファントム この方法は,測定時に固体ファントムが使用されるため,深さスケーリングおよびフルエンススケーリン グの補正を施す必要がある. 計算値の取得は,補正法①の計算値の取得と同様である.測定値の取得は,固体ファントムの測定深 dpl で指示値 Mpl を取得する.dpl は,計算値取得上の水ファントム深 dw と深さスケーリング係数 Cpl から次式で 算出する. d pl = dw C pl (4.9) 取得した Mpl は 4.2.2 に示した方法で算出したフルエンススケーリング係数を乗じて水中の指示値に変換し, 標準測定法 6)に準じて水吸収線量へ変換する. この方法は,水中で測定した水吸収線量を基準として固体ファントムによる水吸収線量の妥当性の評価に 利用される. (4) 補正法 ④ 測定で使用するファントム :固体ファントム 治療計画装置で使用するファントム :固体ファントム この方法は,測定値および計算値の取得において固体ファントムが使用される.深さスケーリングの補正 は,治療計画装置上で適用する.この深さスケーリングに関する詳細な方法は 4.1.3 項に示した.さらに,電 離箱線量計の指示値にはフルエンススケーリングの補正を行う.水吸収線量の評価は,補正法③で示した方 法で固体ファントム中での指示値から水吸収線量への変換を行う. この方法は,IMRT 線量検証などの固体ファントムを利用した線量検証(コミッショニングテストを含む) 33 で使用される. 参考文献 1. IAEA, Absorbed Dose Determination in External Beam Radiotherapy: An International Code of Practice for Dosimetry Based on Standards of Absorbed Dose to Water, TRS 398. 102-103, 2004, International Atomic Energy Agency, Vienna. 2. 平岡武: ファントム材料の基礎データ(1)放射線治療用ファントム,医用標準線量 4: 23-28, 1999 3. 平岡武,藤崎達也,齋藤秀敏,他: タフウォータファントムの再検討,医用標準線量 12: 37-42, 2007 4. 荒木不次男: 水等価固体ファントムによる吸収線量測定に必要な物理データの算出, 医用標準線量 14: 19-24, 2009. 5. タイセイメディカル 大西宏:私信 6. 日本医学物理学会: 外部照射線治療における吸収線量の標準測定法(標準測定法 01). 2002, 通商産業 研究社, 東京. 7. 齋藤秀敏, 明上山温, 他: 光子ビーム線量測定のための固体ファントムの減弱特性, 医用標準線量 10: 19-28, 2005. 8. Pruitt JS and Loevinger R: The photon-fluence scaling theorem for Compton-scattered radiation. Med. Phys. 9: 176-179, 1982. 9. 荒木不次男, 羽生裕二, 奥村雅彦, 他: 光子ビームにおける水等価固体ファントムを用いた水吸収線量 の評価, 日放腫会誌 19: 99-107, 2007. 10. Seuntjens J, Olivares M, Evans M, et al: Absorbed dose to water reference dosimetry using solid phantoms in the context of absorbed-dose protocols, Med. Phys. 32: 2945-2953, 2005. 11. 藤田幸男, 河内徹, 遠山尚紀, 他:強度変調放射線治療における水等価固体ファントムを用いた吸収線 量評価の不確かさの検討, 医学物理 Vol.29 Supplement No.3: 138 -139, 2009 12. Doblado FS, Hartmann G H, Capote R, et al.: Uncertainty estimation in IMRT absolute dosimetry verification. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 68: 301-310, 2007. 〔藤田,遠山〕 34 5 章 計画線量の算出 目次 手順 5.1. 事前準備 5.2. 検証プラン用ファントムデータの作成 5.2.1. 幾何学的形状の登録 5.2.2. 深さスケーリング 5.3. 検証プランの作成 5.4. 計画線量の算出 5.4.1. 評価点の計画線量の算出 5.4.2. 評価面の計画線量分布の算出 参考文献 35 ≪ファントムの CT 撮像による計画線量の算出手順≫ 項目 手順 参照 I. 事前準備 (1) ファントムと検出器の選択 5.1 II. 検証プラン用ファントムデ (1) ファントムの CT 撮像 5.2 ータの作成 (2) 関心領域の描出 (3) 深さスケーリング III. 検証プランの作成 (1) 臨床プランをファントムへ移し込む 5.3 (2) 評価点,評価面を決定する IV. 計画線量の算出 (1) 評価点の計画線量の算出 (2) 評価面の計画線量分布の算出 使用機器 電離箱線量計 固体ファントムまたは水ファントム 治療計画装置 36 5.4 5章 I. 計画線量の算出 事前準備 (1) ファントムと検出器の選択 線量検証に使用するファントム,電離箱線量計など測定機器を選択する. II. 検証プラン用ファントムデータの作成 (1) ファントムの CT 撮像 使用するファントムを CT で 1~2 mm など薄いスライス厚で撮像する.ファントム間に隙間がな いか確認する.評価点線量検証では,電離箱線量計をファントムに挿入して撮像する. (2) 関心領域の描出 撮像した CT 画像を治療計画装置に転送し,ファントムの外輪郭を描出する.電離箱線量計の電離 体積の輪郭を描出し,形状と体積を公称値と比較する.さらに,電離空洞内の相対電子濃度または CT 値を水等価とする. (3) 深さスケーリング 4.1.3 を参考に,治療計画装置における深さスケーリングの適用方法を決定する. III. 検証プランの作成 (1) 臨床プランをファントムへ移し込む 検証する臨床プランの照射情報を検証用ファントムデータへ移し込む.照射条件は実際に治療で用 いる条件に一致させることが望ましい. (2) 評価点と評価面の決定 評価点線量検証では,評価点が臨床的な評価意義があり線量が平坦な領域になるようにアイソセン タを設定する.線量分布検証では,評価面が検証可能となるようにアイソセンタおよびフィルム挿 入面を設定する. IV. 計画線量の算出 (1) 評価点の計画線量の算出 電離箱線量計の有感体積の平均線量を DVH から算出する.有感体積の小さな電離箱線量計の場合 は,点線量として算出してもよい.いずれの場合も小さい計算点間隔を使用する. (2) 評価面の計画線量分布の算出 治療計画装置の機能を用いて,評価面の計画線量分布を算出する.一般にフィルムを用いて検証す るため,計算点間隔,出力間隔は小さく設定する.複数枚のフィルムを同時に挿入して検証する場 合,フィルムの厚さを考慮した評価面を設定する. 37 5. 計画線量の算出 患者体内での線量測定は困難であるため,線量検証は患者をファントムに置き換えて実施する.治療計 画装置を用いて計画線量を正しく算出するには,以下の 3 つが求められる. ・ ファントムの幾何学的形状を正確に設定する. ・ ファントムの減弱特性を反映する. ・ 線量検証を行う位置(点,面,体積)を正確に設定する. 本章では,治療計画装置を用いて評価点と評価面の計画線量を算出する上で注意すべき項目を,事前準備, 検証プラン用ファントムデータの作成,検証プランの作成,計画線量の算出に分けて述べる. 5.1. 事前準備 はじめに,使用するファントムと電離箱線量計,フィルムなどの測定器を選択する.注意点について, ファントムは 3.2 節,電離箱線量計は 6.1.1 項,フィルムは 3.1.2 項および 7 章を参照されたい.また,固 体ファントムを用いる場合は,検証前に固体ファントムの正確な寸法と質量密度,さらに各スケーリング 係数などの特性の把握する必要がある(4 章参照) .電離箱線量計については,Farmer 形(約 0.6 cm3), Mini 型(約 0.1 cm3)および Micro 型(約 0.01 cm3)の全てが使用可能であるが,IMRT では総合的に Mini 型が適すると考えられる.さらに,水吸収線量校正定数 N D , w, Q0 (または, N D , w, Q )を決定しておく必要が ある. 5.2. 検証プラン用ファントムデータの作成 5.2.1. 幾何学的形状の登録 治療計画装置に検証プランで使用するファントムの幾何学的形状を登録する方法は次の 2 つがある. (1) ファントムを CT 撮像し利用する方法 (2) 仮想ファントム作成機能を利用する方法 必要な関心領域はいずれにおいてもファントムの外輪郭と電離空洞であり,これに加えてファントム設置 時に基準となる座標(ファントム表面の印など)と電離空洞の幾何学的中心の座標が必要である. (1)ファントムを CT 撮像し利用する方法 検証ファントムの幾何学的形状を忠実に再現するにはファントムを CT で撮像し利用するのが簡便であ る.また,評価点線量検証に用いる場合はファントムに電離箱線量計を挿入した状態で撮像する(図 5.1) . 治療計画装置の表示条件(ウィンドウ幅 / ウィンドウレベル)によって,ファントムの外寸や,電離箱 線量計の電離空洞の大きさの見え方が変化するため,実際のファントムの寸法と治療計画装置上のそれと の確認や,電離空洞の大きさや容積が公称値と一致するか確認する.図 5.2 に電離箱線量計の電離空洞が 表示条件によって変化する例を示す. (2)仮想ファントム作成機能を利用する方法 使用するファントムが単純な形状の場合,既知のサイズに基づいて治療計画装置の仮想ファントム作成 機能を利用して幾何学的形状を登録する方法がある.図 5.3 にその例を示す. 38 5章 図 5.1 図 5.2 図 5.3 計画線量の算出 検証用ファントムを CT で撮像し,治療計画装置に登録した例 Farmer 型電離箱線量計の電離空洞が表示条件によって変化する例 仮想ファントム作成機能を利用し,検証ファントムを治療計画装置に登録した例 5.2.2. 深さスケーリング 検証に用いる固体ファントムが水等価ではない場合,減弱特性の違いを補正するため深さスケーリング が必要となる.深さスケーリングには測定時にファントムの厚さ(深さ)を調整する方法もあるが,複雑 であるため IMRT の線量検証では困難である.このため,治療計画装置の不均質補正の機能を利用した深 さスケーリングが簡便で現実的な方法であると考える.治療計画装置を用いた深さスケーリングは 4.1.3 項を参照すること. 5.3. 検証プランの作成 検証プランは,治療計画装置において臨床プランの照射情報を検証プラン用ファントムデータに移し込 んで作成する.このとき,IMRT では MU 設定値が過小な場合に線量出力の精度が低下する場合があるた 39 め,照射条件は実際に治療で用いる条件に一致させることが望ましい.ただし,検出器に与えられる線量 が少なく,正しい測定値が得られない場合は調節を必要とすることもある. 評価点は臨床的な評価意義がある標的やリスク臓器内部の線量が平坦な領域に選択し,アイソセンタを 移動することで設定する.ここで,線量平坦性は特に重要であるため線量分布を観察するとともに Dose-Volume Histogram(DVH)解析ツールで電離空洞内の最大線量,最小線量および線量のばらつきを観 察しながら評価点の位置を調整する.エビデンスに基づいた線量平坦性の指標は明らかではないが,付録 1(施設別の線量検証プロトコル)の質問 2-7 に指標の例を示しているため参考にされたい. 評価面は,各門検証では標的の深さ近傍となるよう設置し,各治療部位で設定することが望ましい.た だし,フィルムを用いた検証では同一の深さにおける特性曲線を作成する必要がある.全門検証では標的 とリスク臓器の位置関係を観察し,両者が含まれる断面を選択する.また,複数の評価面を設定すること が望ましい. 5.4. 計画線量の算出 5.4.1. 評価点の計画線量の算出 評価点の計画線量の算出法には次の 2 つがある. (1) 電離体積内の平均線量を計画線量として使用する方法 (2) 点線量を計画線量として使用する方法 (1)電離体積内の平均線量を計画線量として使用する方法 電離空洞サイズが計算点間隔より大きい Farmer 形(0.6 cm3)や Mini 型(約 0.1 cm3)の電離箱線量計で は,点線量を計画線量とした場合に体積平均効果が生じる[図 5.4 (a)] .この場合,電離空洞内の各計算点 の平均線量を計画線量として用いる.平均線量は,登録した電離空洞の輪郭内の DVH から算出する.計 算点間隔は可能な限り小さいことが望ましく,少なくとも Farmer 形では 2 mm 以下,Mini 型では 1 mm 以 下に設定する 1).また,DVH の計算点間隔が線量分布のそれとは別に設定する治療計画装置もあるので注 意が必要である.さらに,十分な桁数で計画線量が得られない場合は MU 設定値を 10 倍して計画線量の 表示桁数を増やすことができる.ただし,測定における照射条件(MU 設定値を含む)は実際の治療と同 じ条件である必要がある. (a) 電離体積の大きい電離箱線量計 (b) 電離体積の小さい電離箱線量計 図 5.4 電離箱線量計の電離体積の大きさと計算点間隔 40 5章 計画線量の算出 (2)点線量を計画線量として使用する方法 計算点間隔と同等またはより小さい電離空洞サイズでは,電離空洞の平均線量と幾何学的中心の点線量 が一致する場合がある[図 5.4 (b)] .この場合は点線量を計画線量として使用できる.ただし,Micro 型(0.01 cm3)においても空洞半径は 1~2 mm,空洞長さは 3~5 mm であるため全ての検証で点線量を使用するこ とは検証の不確かさが増大すると考えられる. 5.4.2. 評価面の計画線量分布の算出 線量分布検証のための計画線量の算出は,検証する 2 次元平面を幾何学的に忠実に設定し,出力するこ とが重要である.フィルムは空間分解能が高いため,計画線量分布の計算点間隔は十分に小さく設定する. また,治療計画装置によってはフィルム解析ソフトに線量分布を出力する際の出力点間隔について,計算 点間隔とは異なる設定が必要となる場合があるため注意する. 複数断面にフィルムを挿入して検証する場合,実際の測定ではフィルム厚により位置のズレが生じる. このため,計画線量を算出する平面は影響するフィルム枚数と厚さを考慮して設定,出力する.また,一 般にフィルム解析ソフトは出力した計画線量分布の中心をアイソセンタとするため,計算領域または出力 領域の中心をアイソセンタと一致させて出力する.計画線量が小さく,出力される計算値の桁落ちが問題 となる場合は MU 設定値を 10 倍して出力し解析ソフト上で 10 分の 1 にすることで,有効桁数を 1 桁増加 できる場合がある.計画線量の算出および解析手順の詳細は,それぞれ治療計画装置及びフィルム解析ソ フトのマニュアルを参照して頂きたい. 参考文献 1. 川守田龍,岩井啓介,竹内康,他:Intensity modulated radiation therapy(IMRT)治療計画における線 量検証の検討 –電離箱体積平均線量検証法を用いて–, Jpn J Radiol Technol 58,783-792,2002 〔遠山〕 41 42 6章 電離箱線量計 目次 手順 6.1. 事前準備 6.1.1. 電離箱線量計の選択 6.1.2. ファントムの選択 6.1.3. 検証プラン用ファントムデータの作成 6.2. 計画線量の算出 6.3. 測定線量の取得 6.3.1. 照射情報の登録 6.3.2. ファントムと電離箱線量計の設置 6.3.3. 指示値の取得と水吸収線量への変換 6.4. 判定 6.5. 測定理論 6.5.1. Micro 型電離箱線量計の特性 6.5.2. IMRT ビームのエネルギースペクトル 6.5.3. 臨床条件における測定理論 6.5.4. 体積平均線量の測定理論 6.5.5. IMRT における k Qclin ,Q の変化 参考文献 43 ≪電離箱線量計を用いた評価点線量検証手順≫ 項目 I. 事前準備 手順 参照 (1) 電離箱線量計の選択 6.1 (2) ファントムの選択 (3) 検証用ファントムデータの作成 II. D plan の算出 (1) 検証プランの作成 6.2 (2) 評価点の選択と移動量の算出 (3) 計画線量 D plan の算出 III. Dmeas の測定 (1) 照射情報の登録 6.3 (2) ファントムと電離箱線量計の設置 (3) 臨床条件で照射し,指示値 Mraw を記録 (4) Mraw を補正し, M Qclin を得る IV. 判定 (5) M Qclin を水吸収線量 Dmeas に変換 ( N D , w, Q0 , kQ , Q0 ) (1) D plan と Dmeas の比較と判定 使用機器 電離箱線量計,電位計 固体ファントムまたは水ファントム 温度計,気圧計 44 (kTP, kpol, ks, kelec) 6.4 6章 I. 電離箱線量計 事前準備 (1) 円筒形電離箱線量計のサイズを選択する.電離箱線量計は医療用線量標準センターによる校正, または施設における比較校正によって予め水吸収線量校正定数 N D , w, Q0 (または, N D , w, Q )を決 定しておく. (2) ファントムを選択する. (3) 検証プラン用ファントムデータを作成する.方法として,実際に撮像された CT データを使用 する方法と治療計画装置で仮想ファントムを作成する方法,がある.電離空洞の正確な形状と 寸法を取得するため,Farmer 形(0.6 cm3)では 2 mm 以下,Mini 型(0.1 cm3)および Micro 型 (0.01 cm3)では 1 mm 以下のスライス厚が望ましい.さらに,電離空洞を関心領域として登録 し,空洞内は水等価とする(密度 1.000 g/cm3、CT 値約 0 HU,相対電子濃度 1.000) . II. 計画線量の算出 (1) 検証プランの作成は,治療計画装置で計画した臨床プランの照射情報を検証プラン用ファント ムデータに移し込んで行う. (2) 評価点(電離空洞の幾何学的中心)を,臨床的な評価意義があり,線量が平坦な領域に配置す る.さらに,この移動量を記録する. (3) DVH 解析ツールを用いて電離空洞の平均水吸収線量(=計画線量 D plan )を算出する. III. 測定線量の取得 (1) 照射情報を R&V システムに登録する.このとき,MU 設定値は臨床プランで 1 回の治療に予定 されている照射情報と一致させる. (2) 測定時の温度の平衡状態を保つため,電離箱線量計とファントムは予め照射室内に入れておく. 電離箱線量計は 1 時間以上,固体ファントムと水は 1 日以上が望ましい. (3) ファントムに電離箱線量計を挿入し,アイソセンタとファントムの基準点(表面の印,電離空 洞の幾何学的中心など)を一致させる.続いて,ファントムを移動させて評価点と電離空洞の 幾何学的中心を一致させる. (4) ヒステリシス現象を考慮し,事前に電離空洞に対し約 3~5 Gy を照射する. (5) 検証のための臨床条件で IMRT ビーム(線質 Qclin)を照射し,指示値 Mraw を測定する.指示値 の再現性に注意し,必要に応じて複数回測定した平均値とする.続いて,必要な補正(温度気 圧補正係数,イオン再結合補正係数,極性効果補正係数,電位計校正定数)を施して指示値 M Qclin を取得する.( M Qclin = M raw k TP k pol k s k elec ) (6) 標準測定法に従い, M Qclin , N D , w, Q0 および線質変換係数の積より測定線量 Dmeas を取得する.こ こで,線質変換係数は基準条件の係数 kQ , Q0 を代用する. ( Dmeas = M Qclin N D , w, Q0 kQ , Q0 ) IV. 判定 (1) [δ は 2 章の式(2.1)お D plan と Dmeas の相対差 δ を算出し,判定基準に基づいて合否を判定する. よび式(2.2),判定基準は 12 章参照] 45 6. 電離箱線量計 線量検証の目的は,計画線量と測定線量を比較して許容できる範囲で一致するか否かを評価すること である.評価点線量検証では,電離箱線量計を用いて水吸収線量の絶対量を検証する.手順は,立案し た臨床プラン[図 6.1(a) ]から検証プラン[図 6.1(b) ]を作成して計画線量を取得し,同一の照射条 件において測定線量を取得する[図 6.1(c)] .さらに,計画線量と測定線量の相対差 δ を式(2.1)または 式(2.2)で求め,施設の判定基準や本書の推奨値と比較して評価する. IMRT の評価点線量検証で最も注意すべき点は,評価点周囲の線量平坦性である.急峻な線量勾配や線 量の起伏が存在する領域では,電離箱線量計の設置位置精度,体積平均効果(または部分体積効果)お よび線質変換係数の変化,によって測定線量の不確かさが増大するため正確な検証が困難となる.この ため,評価点は標的やリスク臓器など臨床的に評価意義がある領域で,かつ線量が平坦な領域に設定す る. 線量平坦性に注意して評価点を決定しても,IMRT では少なからず体積平均効果が問題となる.この体 積平均効果によって生じる不確かさを低減するため計画線量と測定線量を体積平均線量とする検証が有 用であり 1), 2),本報告もこれを推奨する.ここで,体積平均線量は「電離空洞と同体積の水に投与される 平均吸収線量」として定義される.ただし,体積平均線量の検証と点線量の検証について,両者の違い は計画線量をどちらで算出するかのみであり,実際の測定と吸収線量への変換過程における違いはない. これは,現段階では両者とも検証時の測定条件に応じた線質変換係数の補正ができないためで,実際に は標準測定法 3)と同じ手順で水吸収線量を決定するためである.このため,測定理論に関する詳細は 6.5 節に集約した. Chamber (a) 臨床プラン 図 6.1 46 (b) 検証プラン (c) 実測の概観 評価点線量検証における(a)臨床プラン,(b)検証プランおよび(c)実測の概観 6章 電離箱線量計 6.1. 事前準備 6.1.1. 電離箱線量計の選択 円筒形の電離箱線量計は電離体積によって Farmer 形(約 0.6 cm3),Mini 型(約 0.1 cm3)および Micro 型(約 0.01 cm3)に分類される.電離体積の大きい Farmer 形は IMRT において線量平坦性の確保が困難 な場合があるが,測定値の安定性が優れノイズに影響されにくい利点がある.一方で,電離体積の小さ い Micro 型は容易に線量平坦性が確保できる利点があるが,得られる電離電荷が小さいため相対的に漏 れ電流などノイズの影響が大きくなる問題がある.Step & shoot 法の IMRT について調査した Leybovich ら 4)は,Farmer 形で 0.25%, Micro 型で 5.3%の漏れ電流補正が必要であったことを報告している(表 6.1) . さらに,Micro 型では極性効果が大きいこと,イオン収集効率の補正において従来の 2 点電圧法が採用で きないこと,などの報告がある(6.5.1 項 参照)5), 6).このため,全てのサイズの電離箱線量計が使用可 能であるが,IMRT では総合的に Mini 型が適すると考えられる. さらに,電離箱線量計は医療用線量標準センターによる校正,または施設における比較校正によって 水吸収線量校正定数 N D , w, Q0 (または N D , w, Q )を決定しておく必要がある. 6.1.2. ファントムの選択 水吸収線量の測定は水中で行なわれることが望ましい.これは,固体ファントムを用いた測定では深 さスケーリングとフルエンススケーリングが必要となり,測定線量の不確かさが増大するためである(4 章 参照).しかし,全門検証では固体ファントムが有用であるため広く用いられている.固体ファント ムは検証の目的に応じて形状と構造を選択し,同時にスケーリング係数に影響する原子番号と質量密度 が水に近いことが望ましい(3.2 節 参照) . 6.1.3. 検証プラン用ファントムデータの作成 ファントムの幾何学的形状を登録する方法は,(1) ファントムを CT 撮像し利用する方法,(2) 仮想フ ァントム作成機能を利用する方法,がある(5.2 節 参照) .このとき,電離空洞の正確な形状と寸法を取 得するため,Farmer 形では 2 mm 以下,Mini 型および Micro 型では 1 mm 以下のスライス厚で撮像する 2) .続いて,ファントム外輪郭と電離空洞を関心領域として登録し,形状,寸法および設置される方向を 測定環境と一致させる.また,水吸収線量の検証であるため,電離空洞内は水等価(密度 1.000 g/cm3、 CT 値約 0 HU,相対電子濃度 1.000)とする. 表 6.1 漏電補正の有無による前立腺がん IMRT 線量検証結果(計画線量:2.04 Gy)4) 測定線量(Gy) 電離箱線量計 漏電補正なし 相対差 測定線量(Gy) 漏電補正あり 相対差 CapintecPR-06, 0.6 cm3 2.03 -0.5 % 2.035 -0.25 % 3 PTW 31010, 0.125 cm 2.01 -1.5 % 2.05 0.5 % 3 1.90 -7 % 2.005 -1.7 % Exradin1A, 0.009 cm ※漏電補正は照射後 5 分間の指示値の変化から照射時間に相当する漏電を見積り補正. 47 6.2. 計画線量の算出 手順は,(1) 検証プランの作成,(2) 評価点の選択および移動量の算出,(3) 計画線量の算出,である. 詳細は 5 章に示したため,本節では測定に関する重要項目についてのみ示す. 計画線量の算出において評価点(電離空洞の幾何学的中心)の位置の決定には細心の注意が必要であ る.急峻な線量勾配や線量の起伏が存在する領域では,電離箱線量計の設置位置精度,体積平均効果(ま たは部分体積効果)および線質変換係数の変化,によって測定線量の不確かさが増大するため正確な検 証が困難となる.このため,評価点は標的やリスク臓器など臨床的に評価意義がある領域で,同時に線 量が平坦な領域に設定する.線量平坦性の確認は線量分布を観察するとともに,関心領域として登録し た電離空洞内の最大線量,最小線量または線量のばらつきを DVH 解析ツールで求め,これらを指標とす る.線量平坦性の指標についてエビデンスに基づいた数値は明らかではないが,付録 1(施設別の線量 検証プロトコル)の質問 2-7 に指標の例を示しており,経験的に PTV 内の高線量領域(処方線量の 80% 以上)で線量勾配が緩やかな領域において電離空洞内の最小/最大線量比が 0.95 以上の点を評価点とする などの条件を採用している.この他に,Tongue & Groove 効果が顕著に現れる MLC 間隙などの検証はフ ィルムなど空間分解能が高い検出器が適するため,電離箱線量計を設置する評価点は MLC 間隙を避けて 設定することが望ましい. 評価点を目的の位置に配置する作業は,検証プランのアイソセンタを移動することで線量分布全体を 移動して行う(図 6.2).さらに,この移動量を記録する. 計画線量 D plan は,治療計画装置によって計算される電離体積と同体積の水の平均線量である.よって, 関心領域として登録した電離空洞の平均線量を DVH 解析ツールで計算する. 図 6.2 評価点と電離空洞の幾何学的中心を一致させるための移動の概説図 ともにアイソセンタとファントムの基準点(ファントム表面の印,電離空洞の幾何学的中心,など) を一致させ,(a)の検証プランではアイソセンタを移動して評価点を電離空洞に一致させる.一方で, (b)の実測ではファントムを移動して電離空洞を評価点に一致させる. 48 6章 電離箱線量計 6.3. 測定線量の取得 手順は,(1) 照射情報の登録,(2) ファントムと電離箱線量計の設置,(3) 指示値の取得と水吸収線量 への変換,である. 6.3.1. 照射情報の登録 照射情報を R&V システムに登録する.検証では臨床プランと同じ照射条件で検証することが望ましい. 特に,MU 設定値および線量率は放射線治療装置の出力精度に影響を与えるため,臨床プランで 1 回の 治療に予定されている照射情報と一致させる. 6.3.2. ファントムと電離箱線量計の設置 ファントムに電離箱線量計を挿入し,アイソセンタとファントムの基準点(表面の印,電離空洞の幾 何学的中心,など)を一致させる.続いて,ファントムを移動させて評価点と電離空洞の幾何学的中心 を一致させる. (図 6.2) . 6.3.3. 指示値の取得と水吸収線量への変換 水中測定では式(6.1),固体ファントム中での測定では式(6.2)を用いて水吸収線量に変換する. Dmeas = M Qclin N D , w, Q0 kQ , Q0 (6.1) Dmeas = M Qclin N D , w, Q0 k Q , Q0 h pl (6.2) ここで, M Qclin は検証のための臨床条件(線質 Qclin)で取得した指示値 Mraw に必要な補正を施した電離 電荷, N D , w, Q0 は水吸収線量校正定数, kQ , Q0 は基準条件の線質変換係数,hpl は固体ファントム使用時の フルエンススケーリング係数である. 正しい電離電荷を得るための補正係数(温度気圧補正係数,イオン再結合補正係数,極性効果補正係 数,電位計校正定数)は,IMRT においても標準測定法 3)と同じ補正法が適用できる.また,これらは本 来であれば全ての測定で考慮する必要があるが,全ての線量検証で各補正係数を得ることは多大な労力 を要する.このため,最初の数例でこれらの補正係数とその不確かさを評価し,その後の検証で代用す る方法が実際的である.特に,Micro 型では測定条件によって極性効果が大きく変化するため 5), 6),予め IMRT ビームで不確かさを評価することが重要である(6.5.1 項 参照). 続いて, M Qclin を測定線量 Dmeas に変換する.リファレンス線量計では与えられた N D , w, Q0 を使用する. N D , w, Q0 を持たない電離箱はユーザーによる比較校正によって N D , w, Q0 (または N D , w, Q )を求めなければな らない.線質変換係数について,線量が平坦な領域では標準測定法 3)に示されている基準条件の kQ , Q0 を 代用できる.しかし,急峻な線量勾配が電離空洞内に存在する場合に線質変換係数が大きく変化するこ とが報告されており 1),実用的な補正法は確立されていない.詳細は 6.5 節を参照されたい. 6.4. 判定 取得した計画線量 D plan と測定線量 Dmeas を用いて式(2.1)および式(2.2)で定義される相対差 δ(%)を算 出し,施設の判定基準に基づいて合否を判定する.本報告における δ(%)の許容レベル(tolerance level) と介入レベル(action level)は 3%と 5%である(12 章 参照). 49 6.5. 測定理論 6.5.1. Micro 型電離箱線量計の特性 Micro 型電離箱線量計は極性効果補正係数 kpol が照射野サイズと水中深さによって大きく変化すること がある 5), 6).図 6.3 は Micro 型(PTW 社製 N31014)の kpol の照射野依存性を示している(最大で約 3%) . Micro 型は中心電極が細く,小さい電極間隔に高電圧が印加されるため非常に強い電場が生じる.この ため,空洞で生じたイオン自身が新たな電離を生じることで収集イオン数が増大することがある(図 6.4) . この場合,1/Q - 1/V 曲線が直線(図 6.4 破線)であるという仮定に基づく 2 点電圧法では正確な飽和電 荷 Qsat を得ることはできない.よって,Micro 形では個々の電離箱線量計で飽和曲線を予め測定し,イオ ン収集効果に対する補正係数 Js は次式で求める必要がある. Js = Q sat QV1 (6.3) ここで,Qsat は飽和電荷, QV1 は常用電圧 V1 で測定された電離電荷である.Agostinelli らの報告 5)では, ,Js = 0.999 ± 0.002(15 MV)であり 2 点電圧法では+0.5%の誤差が生 400 V で Js = 0.996 ± 0.002(6 MV) じること,Js は照射野サイズに依存しないこと(< 0.2%)が報告されている. 図 6.3 Micro 型電離箱線量計(PTW 社製 N31014)の照射野に対する極性効果補正係数 Kpol(=kpol)5) グラフはビーム中心軸上の水中深さ 10 cm で取得した値である. 図 6.4 Micro 型電離箱線量計(PTW 社製 N31014)の飽和曲線 5) 照射野 10 cm × 10 cm,水中深さ 10 cm における印加電圧 50 V から 400 V で調査され,破線は 50 V から 150 V の線形近似式である.常用電圧である 400 V で飽和電流以上の電流が流入している. 50 6章 電離箱線量計 6.5.2. IMRT ビームのエネルギースペクトル 光子エネルギー(または,2 次電子エネルギー)が大きく変化する場合,水/空気の平均制限質量衝突 ( 阻止能比 L ρ ) w, air と擾乱補正係数が変化することで電離箱線量計の感度が変化する.しかし,照射野 10 ( cm × 10 cm と比較して IMRT ビームの光子エネルギースペクトルと L ρ ) w, air はほぼ等しい(図 6.5,表 ( 6.2)7), 8).また,MLC 透過光子の光子スペクトル形状は大きく変化したが, L ρ ) w, air は 1%以内で照射 野 10 cm × 10 cm と一致した.よって,IMRT における光子エネルギースペクトルの変化は無視できる程 度である. (a) Varian 10 MV 図 6.5 (b) Siemens 6 MV (a) Varian 10 MV および(b) Siemens 6MV 7)の光子エネルギースペクトル (a) 実線が照射野 10 cm × 10 cm,点線(PR IMRT)が前立腺 IMRT,破線(MLC Transmitted)が MLC を全閉したときの MLC 透過光子を示し,それぞれについて平均光子エネルギーEav(MeV)を示す. (b) 黒が照射野 10 cm × 10 cm,灰色が IMRT ビームを示す. 表 6.2 ( IMRT ビームおよび MLC 透過光子の水/空気の平均制限質量衝突阻止能比 L ρ Varian 10 MV ) w, air Siemens 6 MV 7) 10 cm × 10 cm 1.106 IMRT beam 1.104 (-0.2%) 1.120 (-0.1%) MLC Transmitted 1.104 (-0.2%) 1.130 (+0.8%) ( ※ 括弧内は 10 cm × 10 cm の L ρ ) w, air 1.122 に対する相対差(%)を示す. 51 6.5.3. 臨床条件における測定理論 臨床では様々な照射条件(以下,臨床条件)での水吸収線量測定が要求される.臨床条件での水吸収 線量測定の指針を示した Alfonso ら 8)の報告に従い,校正時の 60Co γ 線の線質を Q0,ユーザービームの 基準条件における線質を Q,臨床条件の線質を Qclin とする場合の水吸収線量 Dmeas は次式で表される. Dmeas = M Qclin N D , w, Q0 k Q , Q0 k Qclin , Q (6.4) ここで, kQclin , Q は基準条件と臨床条件の線質の違いによる電離箱線量計の感度の変化を補正する係数で ある. kQclin , Q は点線量の測定では式(6.5),体積平均線量の測定では式(6.6)として定義される. k Qclin , Q = k Qclin , Q = [( L ρ ) w, air Pcel Pwall Pcav Pdis ]Qclin (6.5) [( L ρ ) w, air Pcel Pwall Pcav Pdis ]Q [( L ρ ) w, air Pcel Pwall Pcav Pρ ] Qclin (6.6) [( L ρ ) w, air Pcel Pwall Pcav Pdis ] Q ここで,Pcel,Pwall,Pcav および Pdis はそれぞれ中心電極補正係数,壁材質補正係数,空洞補正係数および 変位補正係数である.さらに,式(6.6)に含まれる Pρ は密度補正係数であり,線量勾配の影響を補正する Pdis の 1 成分である.両者の関係は 6.5.4 項で詳説する. 臨床条件では,基準条件の線質変換係数 kQ , Q0 による補正のみでは理論的な矛盾があり,点線量と体積 平均線量の両測定において kQclin , Q の補正が必要となる.しかし,様々な臨床条件において正確な kQclin , Q を 決定することが不可能であるため,現実的に kQclin , Q は 1.000 と仮定せざるを得ない.幸いにも,IMRT に おいて電離空洞内およびその近傍で線量が平坦である場合では kQclin , Q を 1.000 と仮定できるため,これを 利用して評価点の位置に注意することで点または体積の水吸収線量は標準測定法 1) と同じ手順で決定で きる(6.5.5 項 参照).このため,混乱を避ける目的で式(6.1)の右辺では kQclin , Q を省略した.ただし,実 際には少なからず線量の起伏や勾配が存在する領域での測定が多いため,点線量と比較して体積平均線 量の測定では kQclin , Q を 1.000 と仮定することで生じる不確かさを低減できる利点がある. 6.5.4. 体積平均線量の測定理論 電離箱線量計は電離空洞内で生じたイオン対の一方を収集して電荷を測定する検出器である.このた め,本来ならば電離体積より小さい点の水吸収線量の測定は不可能であるが,標準測定法では側方向に おける 2 次電子フルエンスが均一であると仮定し,さらに,深さ方向の線量勾配の影響を変位補正係数 Pdis によって補正することで点の水吸収線量を決定している.しかし,IMRT では基準条件と同等の線量 平坦性が得られないことが多いため,Pdis は非常に大きい不確かさをもつ.体積平均線量による検証では この不確かさを低減することができるため,IMRT に適していると考えられる. 図 6.6 は電離箱線量計の空洞内の空気に付与された吸収線量(Dchamber)から,各擾乱補正係数を用い て体積,または点の水吸収線量(それぞれ Dw, vol,Dw, point)に変換する過程を示している.ここで,点線 量の測定で用いる Pdis の変化は,水と空気の密度の違いによる電子の擾乱を補正するための成分(図 6.6, 密度補正係数 Pρ)と,体積に投与された線量を点線量に変換するための成分(図 6.6, 体積平均効果の補 正係数 Pvol)の 2 成分で説明できる.体積平均線量の測定では,点線量に変換するための Pvol 補正が不要 であるためこの不確かさを低減できる利点がある.これは,Pdis = Pρ × Pvol であり,体積平均線量の測定 では Pvol =1.000 とみなすためである.Pρ については 6.5.5 項に示し,ここでは Pvol について解説する. 52 6章 図 6.6 電離箱線量計 擾乱補正係数と吸収線量の関係 1) それぞれ電離空洞と同一の体積について, Dchamber は検出物質である空気の吸収線量, D wall は中心 電極を除いたときの空気の吸収線量, Dair は中心電極および壁を除いたときの空気の吸収線量, Dvapor は空気と同密度の水(1.2048 mg cm-3)の吸収線量, D w, vol は水(1.000 g cm-3)の吸収線量で あり,体積平均線量である.また, D w, point は点の水吸収線量である.Pvol は体積平均線量を空洞の 幾何学中心の点線量に変換するための補正係数である. 図 6.7 IMRT ビームの電子エネルギーフルエンス分布(a, b)とそのプロファイル(c, d)9) (c)および(d)はそれぞれ電離箱線量計の電離空洞の長軸(Y)と短軸(X)のエネルギーフルエン ス曲線を示し, プロットの×は case (a)に, △は case (b) に対応する.(c)では,case (a)において Farmer 型の電離空洞内でエネルギーフルエンスが大きく変化しているが,その他の電離箱線量計では変 化していない様子が観察できる. 図 6.7 case (a) に IMRT ビームで Farmer 形電離箱線量計の体積平均効果が問題となる例を示す 9).従来 の点線量測定において電離空洞内で線量勾配が存在する場合に Pvol は変化するが,実際には正確な Pvol を決定することが困難であるため Pdis の不確かさは非常に大きくなる.この不確かさを低減する方法と 53 して, (1) 体積平均効果の影響(Pvol の変化)が小さい小型の電離箱線量計を使用する, (2) 計画線量および測定線量を体積平均線量として比較する, の 2 つがあり,両者を併用することが望ましい.ただし,(1)において Micro 型の電離箱線量計は漏れ電 流の影響が無視できない場合があるため注意が必要である(6.1.1 項 参照).また,(2)を採用することで Pvol の不確かさは低減するが,線量が平坦ではない領域では Pρ も同様に大きな不確かさを持つため.点 線量の測定と同様に測定点近傍の線量平坦性には注意が必要である. 6.5.5. IMRT における kQclin , Q の変化 臨床条件において正確な kQclin , Q を得るためにはその臨床条件を忠実に再現したモンテカルロ計算を必 要とするため,現段階で kQclin , Q の変化を補正することは困難である.よって,式(6.4)において kQclin , Q は 1.000 と仮定する必要があり,IMRT の線質 Qclin では次の 2 項目が成立しなければならない. (1) (L ρ ) w, air ,Pcel,Pwall および Pcav が基準条件から変化しない. (2) Pρ が基準条件の Pdis と一致する程度の線量平坦性がある. ( (1)は IMRT ビームにおいてもほぼ成立する.これは, L ρ ) w, air ,Pcel,Pwall および Pcav の変化が主として 光子および電子エネルギースペクトルの変化によって生じるためで,6.5.2 で示したように IMRT ビーム では無視できる程度である.また,(2)について,基準条件では Pvol はほぼ 1.000 であり Pρ= Pdis が成立す る 1).しかし,電離空洞内に急峻な線量勾配が存在する場合に Pρ は基準条件の Pdis から大きく変化する ため kQclin , Q =1.000 とみなすことができず,結果として測定で得た水吸収線量は大きな不確かさをもつ. ( 表 6.3 は電離空洞内で 2 次電子フルエンスが不均一となる 14 パターンの照射条件について L ρ ( Standard Imaging 社の Farmer 形と Mini 型の擾乱補正係数の変化を示す 1). L ρ ) w, air ) w, air と ,Pcel,Pwall および Pcav の変化が小さいのに対し,線量勾配に影響される Pdis と Pρ が大きく変化していることが分かる.Pdis と Pρ はそれぞれ点線量と体積平均線量の測定で用いる係数であるが,Pdis に対し Pρ は約 1/2 でありその 相対標準偏差も小さい.これは,電離空洞に対する不均一な線量投与によって Pvol が大きな不確かさを 持つことを意味し,Pvol 補正を必要としない体積平均線量の測定では不確かさを低減できることを示して いる.また,電離体積が小さい A14(Mini 型)は,A12(Farmer 形)と比較して Pdis と Pρ の変化がとも に小さい.これは,小型の電離箱線量計を選択することで線量勾配に起因する不確かさを低減できるこ とを示している. 表 6.4 は照射野 10 cm × 10 cm に対する前立腺 IMRT ビームの擾乱補正係数の変化と kQclin , Q を示す.こ の表において最も注目すべき点は,各門において Pρ が変化している条件では kQclin , Q が変化しているが, それらが合成され電離空洞内の線量がほぼ均一となる全門では kQclin , Q =1.000 となることである.この結 果から,IMRT においても線量が平坦となる領域では kQclin , Q の補正を無視することができると考えられる. Pρ について,電離空洞内の線量が不均一となる各門では大きく変化しているが,中には Beam number 7 のように変化しない場合が観察できる.Pρ の変化は,検出物質と水の密度の違いによって生じる 2 次電 子飛跡の変化(エネルギー付与の変化)によって説明されるが,この変化が線量勾配の程度とともに電 離空洞内における線量勾配の位置に影響されるためであると考えられる.Pρ の変化に対してこれら 2 成 分は複雑に影響するため,線量の起伏や勾配が存在する領域で正確な Pρ の決定することは非常に困難で 54 6章 電離箱線量計 ある.このため,評価点を決定する際に線量平坦性の明確な指標が求められるが,指標を確立するには 線量勾配の程度とその位置に対する Pρ の変化を明らかにする必要があり,今後の課題とされている. 線量勾配による擾乱補正係数の変化 1) 表 6.3 それぞれ基準条件に対する相対差の平均値とその相対標準偏差(括弧内)を示す. Exradin A12 Farmer Exradin A14 Mini -0.1% (± 0.1%) -0.1% (±0.1%) Pcel -0.8% (± 0.9%) 0.4% (±0.4%) Pwall -0.3% (± 0.6%) -0.7% (±1.1%) Pdis 11.6% (±22.4%) 5.0% (±9.1%) Pρ 5.0% (±7.0%) 2.6% (±3.9%) (L ρ) Pcav w, air ※ 右図は 14 パターンの照射条件を示す. 表 6.4 前立腺 IMRT における擾乱補正係数の変化(%)と kQclin , Q *1 Beam number *2 #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7 全門 rSD (%) *3 3.7 2.5 2.2 7.9 13.2 2.0 3.3 1.2 0.85 0.90 0.91 0.69 0.57 0.91 0.87 0.96 0.0 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 Pcel 0.0 0.1 0.2 0.0 -0.1 0.0 0.2 0.2 Pstem 0.2 0.0 -0.1 0.0 0.2 0.2 0.0 0.1 Pwall 0.1 0.0 0.2 0.0 -0.2 0.1 -0.1 -0.1 -2.5 0.6 -0.4 2.0 0.4 -0.8 0.2 0.2 0.997 1.006 0.997 1.018 1.002 0.993 1.001 1.000 3 Min / Max * (L ρ) w, air Pρ 4 k Qclin ,Q * Pcav ( * 電離箱線量計は PTW 社 N30013 Farmer 形であり, L ρ 1 ) w, air と擾乱補正係数は照射野 10 cm × 10 cm のそれらを基準とした場合の相対差(%)を示す. 2 * 各 beam number のフルエンス強度マップは図 4.1 に示す. *3 rSD(%)は電離空洞内の吸収線量の相対標準偏差,Min/Max は最小線量と最大線量の比を示す. *4 kQclin , Q は式(6.6)に示した体積平均線量のための係数である. 55 参考文献 1. Bouchard H., Seuntjens J., Carrier JF., et al.: Ionization chamber gradient effects in nonstandard beam configurations, Med. Phys. 36: 4654-4662, 2009 2. 川守田龍, 岩井啓介, 竹内康, 他:ntensity modulated radiation therapy (IMRT)治療計画における線量検 証の検討 –電離箱体積平均線量検証法を用いて–, 日本放射線技術学会誌, 58: 783-792, 2002 3. 日本医学物理学会編:外部放射線治療における吸収線量の標準測定法(標準測定法 01), 2002, 通商 産業研究社, 東京 4. Leybovich LB., Sethi A. and Dogan N.: Comparison of ionization chambers of various volumes for IMRT absolute dose verification, Med. Phys. 30: 119-123, 2003 5. Agostinelli S., Garelli S., Piergentili M., et al.: Response to high-energy photons of PTW31014 PinPoint ion chamber with a central aluminum electrode, Med Phys. 35: 3293-3301, 2008 6. Stasi M., Baiotto B., Barboni G., et al.: The behavior of several microionization chambers in small intensity modulated radiotherapy fields, Med Phys. 31: 2792-2795, 2004 7. Doblado FS., Andreo P., Capote R., et al.: Ionization chamber dosimetry of small photon fields: a Monte Carlo study on stopping-power ratios for radiosurgery and IMRT beams, Phys. Med. Biol. 48: 2081–2099, 2003 8. Alfonso R., Andreo P., Capote R., et al.: A new formalism for reference dosimetry of small and nonstandard fields, Med.Phys. 35: 5179-5186, 2008 9. Doblado FS., Hartmann GH., Pena J., et al.: Uncertainty estimation in IMRT absolute dosimetry verification. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 68: 301-310, 2007 〔河内〕 56 7章 フィルム 目次 7.1. フィルムによる線量分布検証 7.1.1. フ ィ ル ム の 有 用 性 7.1.2. 測 定 手 順 の 要 約 7.2. ラジオグラフィックフィルム 7.2.1. プ ロ ト コ ル の 作 成 7.2.2. 特 性 曲 線 ( 濃 度 -線 量 変 換 曲 線 ) の 取 得 7.2.2.1. Field by Field 法 7.2.2.2. MLC セ グ メ ン ト 法 7.2.2.3. 平行入射法 7.2.3. ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム の 特 性 7.2.3.1. 使用するフィルムの選択 7.2.3.2. 照射野サイズ依存性 7.2.3.3. 測定深依存性 7.2.3.4. 線量率依存性 7.2.3.5. 方向依存性 7.2.3.6. レディパックによる影響 7.2.4. フ ィ ル ム の 現 像 7.2.4.1. 現像条件 7.2.4.2. 暗室 7.2.4.3. 自動現像機と暗室の品質管理 7.2.5. 線 量 測 定 の 不 確 か さ 参考文献 7.3. ラジオクロミックフィルム 7.3.1. プ ロ ト コ ル の 作 成 7.3.2. 特 性 曲 線 の 取 得 7.3.3. ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム の 特 性 7.3.3.1. GAFCHROMIC®フ ィ ル ム の 特 性 7.3.3.2. EBT2 の 特 性 7.3.3.3. RTQA2 の 特 性 7.3.3.4. 照射後の濃度上昇 7.3.4. 線 量 測 定 の 不 確 か さ 57 7.3.5. 付 録 7.3.5.1. ラジオクロミックフィルムの歴史と変遷 7.3.5.2. 高感度型フィルムの種々の測定への応用 参考文献 7.4. スキャナ 7.4.1. 画 像 品 質 を 決 定 す る 因 子 7.4.2. 種 類 に よ る 特 性 の 相 違 7.4.3. 解 像 度 7.4.4. 光 の 散 乱 に よ る ア ー チ フ ァ ク ト 7.4.5. 位 置 依 存 性 7.4.6. 表 面 温 度 依 存 性 7.4.7. 回 数 依 存 性 7.4.8. モ ア レ 状 ア ー チ フ ァ ク ト ( RCF の み ) 7.4.9. 読 取 方 向 依 存 性 ( RCF の み ) 7.4.10. 品 質 管 理 参考文献 58 7章 フィルム 7. フ ィ ル ム 7.1. フィルムによる線量分布検証 フ ィ ル ム は 現 像 処 理 を 必 要 と す る ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム ( Radiographic film: 以 下 RGF)と ,現 像 処 理 を 必 要 と し な い ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム( Radiochromic film:以 下 RCF) に 大 別 で き る .両 者 は 特 性 が 異 な る た め ,そ の 取 り 扱 い や 注 意 点 も 大 き く 異 な る .本 節 は 共 通 項 目 を , 7.2 節 以 下 は そ れ ぞ れ の フ ィ ル ム の 特 性 を 示 す . RGF と RCF は と も に 長 く 線 量 測 定 に 利 用 さ れ て い る . フ ィ ル ム に よ る 線 量 分 布 測 定 は , 照 射 さ れ た 線 量 と フ ィ ル ム の 濃 度 の 関 係 を 表 す 特 性 曲 線 ( 濃 度 -線 量 変 換 曲 線 ) を 作 成 す る こ と が 必 要 で あ る .特 性 曲 線 に よ り フ ィ ル ム 濃 度 を 線 量 に 変 換 し ,計 画 線 量 と の 比 較 が 可 能 と な る . フ ィ ル ム は 数 多 く の 物 理 特 性 を 有 し ,同 様 に ス キ ャ ナ の 特 性 に も 影 響 さ れ る た め 得 ら れ る 線 量 分 布 が 系 統 的 に 過 大 ま た は 過 小 と な る こ と が あ る .本 章 は こ の 系 統 誤 差 を 低 減 す る た め の 方 法 を 詳 説 す る こ と を 目 的 と す る が , そ れ で も 図 7.1(a)に 示 す よ う に 計 画 線 量 と 測 定 線 量 の 間 に 差 異 が 生 じ 絶 対 線 量 評 価 が 困 難 と な る 場 合 は ,一 方 の 線 量 を 増 加 ま た は 減 少 さ せ る ノ ー マ ラ イ ズ ( 標 準 化 ま た は 基 準 化 ) を 行 い , 図 7.1(b)の よ う に 両 者 を 一 致 さ せ る こ と が 有 効 で あ る . た だ し ,ノ ー マ ラ イ ズ を 行 う と 相 対 線 量 評 価 と な る た め ,線 量 分 布 の 形 状 を 確 認 し て い る に す ぎ ないことに留意しなければならない. ノ ー マ ラ イ ズ は 点( 例 ,ア イ ソ セ ン タ や 最 大 線 量 を 示 す 点 な ど )や 領 域 に お け る 計 画 と 測 定 の 線 量 差 を 一 致 さ せ る 方 法 や ,任 意 に 線 量 を 調 整 し て 一 致 さ せ る 方 法 な ど が あ る .多 く の 場 合 , PTV 内 な ど の 高 線 量 領 域 で 一 致 す る よ う に ノ ー マ ラ イ ズ が 行 わ れ る が ,低 線 量 領 域 で も 同 様 の 傾 向 を 示 す と は 限 ら な い[ 図 7.1(b)白 矢 印 ].ノ ー マ ラ イ ズ を 行 う 場 合 は ,電 離 箱 線 量 計 に よ る 比 較 測 定 を 行 う こ と が 望 ま し い .特 に 臨 床 的 に 重 要 と な る 前 立 腺 IMRT で の 直 腸 ,頭 頚 部 IMRT で の 脊 髄 や 耳 下 腺 な ど の リ ス ク 臓 器 の 線 量 評 価 は ,フ ィ ル ム の み で の 線 量 測 定 精 度 が 保 証 で き 100 100 90 90 80 80 70 70 60 ノーマライズ 50 40 線 量 線 量 るまでは電離箱線量計と並行して実施することを推奨する. 60 50 40 30 30 20 20 10 10 0 0 1.5 3.5 5.5 7.5 9.5 11.5 13.5 15.5 17.5 19.5 21.5 1.5 3.5 5.5 7.5 9.5 11.5 13.5 位 置 位 置 (a) (b) 図 7.1 15.5 17.5 19.5 21.5 線量プロファイルのノーマライズ(標準化)の模式図 59 7.1.1. フ ィ ル ム の 有 用 性 線量分布の測定は電離箱線量計や半導体検出器を平面状や立体的に配置した多次元検出器 を用いても可能であるが,フィルムはそれらと比較して下記のような利点が挙げられる. 1) 高解像度のデータの取得 ホ ッ ト ま た は コ ー ル ド ス ポ ッ ト や Tongue & Groove 効 果 な ど , 狭 い 領 域 で 急 激 な 線 量 変化を有する線量分布を確認するには,解像度の高いフィルムが有用である. 2) 測定断面の多様性 アキシャルやサジタル面など任意の断面の線量分布を測定できる.多次元検出器では ソフトウェアにより再構成することが多い. 3) ノウハウが蓄積されている フィルムによる線量分布測定に関する参考文献が多く,使用の便が得られる. 4) 保存性 フィルム自体の保存を適正に行うことで,恒久的にデータを保存できる. 5) 低コスト 多次元検出器など他の検証機器と比較して初期導入費用が安価である. 7.1.2. 測 定 手 順 の 要 約 フ ィ ル ム を 用 い た 計 画 線 量 分 布 の 検 証 は 図 7.2 に 示 す と お り , ① 検 証 プ ラ ン の 作 成 , ② フ ィ ルムに照射,③スキャン,④ソフトウェアによる解析の順に行う. ま ず 検 証 を 行 う 評 価 面 を 決 定 す る . 評 価 面 は , 1) ビ ー ム 軸 に 対 し て 垂 直 な 面 と , 2) ビ ー ム 軸 に 対 し て 平 行 な 面 と に 分 類 で き る . 1)は フ ィ ル ム を 水 平 に 設 置 し て 各 門 検 証 と 全 門 検 証 , 2) は 全 門 検 証 で 行 わ れ る 事 が 多 い .1)と 2)は 互 い に 相 補 的 な 役 割 を 果 た す た め ,両 断 面 の 検 証 を 実施することが望ましい. ≪ 1) ビ ー ム 軸 に 垂 直 な 面 ≫ ビ ー ム デ ー タ 取 得 時 と 同 じ 幾 何 学 的 配 置 の た め ,計 算 値 と 測 定 値 で 乖 離 が 生 じ た 場 合 , その原因を判断しやすい. 各 門 検 証 で は ,フ ァ ン ト ム 中 の フ ィ ル ム を 設 置 す る 深 さ は 一 定 で あ る た め ,一 般 的 に 他の断面より線量測定精度が良好である. ファントムの自重によりフィルムとファントムの圧着が良好となる. フィルムの位置が安定しているため,位置確認用のマーキングが容易に可能である. ≪ 2) ビ ー ム 軸 に 平 行 な 面 ≫ 全 門 検 証 に お い て PTV へ の 線 量 集 中 性 や リ ス ク 臓 器 の 線 量 低 減 を 確 認 す る こ と が で き る .( 例 : 前 立 腺 IMRT に お け る 直 腸 ・ 膀 胱 へ の 線 量 低 減 . 頭 頸 部 IMRT に お け る 脊 髄 や 耳 下 腺 へ の 線 量 低 減 ). フ ィ ル ム と フ ァ ン ト ム の 圧 着 不 足 が 誤 差 の 原 因 と な る た め ,良 好 な 圧 着 の た め に 専 用 のファントムやジグが必須. 60 フ ァ ン ト ム か ら フ ィ ル ム が は み 出 て い る 場 合 ,フ ィ ル ム の 自 己 吸 収 に よ り 測 定 誤 差 の 7章 フィルム 原因となる. フ ァ ン ト ム 中 の 深 さ に よ っ て 低 エ ネ ル ギ ー 光 子 の 割 合 が 変 化 す る た め ,エ ネ ル ギ ー 依 存 性 を 有 す る RGF で は 測 定 精 度 が 低 下 す る 可 能 性 が あ る . 次 に ,治 療 計 画 装 置 か ら の 計 画 線 量 を 出 力 す る .臨 床 プ ラ ン の 情 報 を フ ァ ン ト ム に 移 し 込 ん だ検証プランを作成し,評価面の計画線量分布のデータをフィルム解析装置に送信する. そ の 後 ,検 証 プ ラ ン で 設 定 し た 評 価 面 に フ ィ ル ム を 挿 入 し て 放 射 線 を 照 射 す る .RGF は 現 像 す る こ と で ,RCF は 照 射 に よ る 着 色 す る こ と で ,線 量 に 対 応 し た 濃 淡 が 生 じ る .そ れ を ス キ ャ ナ で デ ジ タ ル 化 し て 画 像 デ ー タ を 保 存 す る .フ ィ ル ム 解 析 ソ フ ト を 用 い て ,特 性 曲 線 に よ り 濃 度 か ら 線 量 に 変 換 す る こ と で 測 定 線 量 分 布 が 得 ら れ る .測 定 線 量 分 布 を あ ら か じ め 送 信 し た 計 画線量分布と比較する. 線 量 分 布 評 価 で は ,両 者 が 一 致 と 乖 離 し た 位 置 や 程 度 を 視 覚 的 ま た は 定 量 的 に 明 ら か に す る こ と で , 合 否 を 判 定 す る . 線 量 分 布 の 解 析 方 法 の 詳 細 は 10 章 に 示 す . 図 7.2 フィルムによる線量検証の流れ 61 7.2. ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム ≪ラジオグラフィックフィルムを用いた線量分布検証手順≫ 項目 手順 参照 I. (1) 評 価 面 の 決 定 と フ ィ ル ム 解 析 ソ フ ト へ の 検 証 デ ー タ の 出 力 7.1. (2) 自 動 現 像 機 の 電 源 投 入 7.2.4. 事前準備 (3) ス キ ャ ナ の 電 源 投 入 II. フ ィ ル ム の 準備 (1) フ ィ ル ム の 選 択 ( XV2 ま た は EDR2) 7.2.3. (2) フ ィ ル ム の ロ ッ ト 番 号 の 確 認 と 使 用 す る 枚 数 の 準 備 (3) フ ィ ル ム パ ッ ケ ー ジ ( レ デ ィ パ ッ ク ) 内 の 空 気 の 排 出 III. 設 置 (1) 治 療 寝 台 へ の フ ァ ン ト ム の 設 置 7.2.3. (2) フ ァ ン ト ム 間 隙 の 空 気 層 の 確 認 (3) 治 療 寝 台 に よ る 放 射 線 吸 収 の 有 無 を 確 認 (4) ア イ ソ セ ン タ が わ か る よ う に レ デ ィ パ ッ ク か フ ィ ル ム に 印 をつける IV. 照 射 (1) 特 性 曲 線 作 成 用 と 検 証 用 の フ ィ ル ム を 照 射 7.2.3. (2) レ デ ィ パ ッ ク と フ ィ ル ム の 固 定 (3) EDR2 は 濃 度 安 定 の た め ,照 射 か ら 現 像 ま で の 時 間 を 最 低 1 時間,できれば約 3 時間あける. V. 現 像 (1) 自 動 現 像 機 の 設 定 を 確 認 す る (現 像 温 度 や 現 像 時 間 な ど ) 7.2.4. (2) 暗 室 内 の 確 認 (3) あ ら か じ め 十 分 な 枚 数 の テ ス ト フ ィ ル ム を 現 像 VI. ス キ ャ ン (1) テ ス ト ス キ ャ ン ( 3 回 は 行 う ) (2) ス キ ャ ナ の 温 度 や 位 置 依 存 性 な ど 注 意 事 項 を 考 慮 し て ス キ ャンを行う. 使用機器 ラジオグラフィックフィルム 自動現像機 スキャナ 固体ファントム フィルム解析ソフト 62 7.4. 7章 I. フィルム 事前準備 治療計画装置で臨床プランを固体ファントムに照射する計画(検証プラン)を作成 (1) し,治療計画装置が計算した計画線量分布をフィルム解析ソフトに出力する. 現像機の電源投入後に,現像液の温度が一定になるまでに時間を要することがある (2) ため,あらかじめ電源を投入する. 同様の理由により,スキャナもあらかじめ電源を投入する. (3) II. フ ィ ル ム の 準 備 適 切 な 濃 度 域 の フ ィ ル ム を 選 択 す る .測 定 す る 最 大 線 量 が 70 cGy 以 下 で は XV2,そ (1) れ 以 上 で は EDR2 を 推 奨 す る . 使 用 す る フ ィ ル ム( 検 証 用 ,特 性 曲 線 用 お よ び ベ ー ス + カ ブ リ 濃 度 用 )を 準 備 す る . (2) 同一のロット番号のものを使用することを推奨する. パッケージ(レディパック)内に多量の空気がある場合は,レディパックの端に穴 (3) を開け,空気を排出する. III. 設置 (1) 治療寝台上にファントムを設置し,測定断面の水平設置などの幾何学的配置を確認 する.積層形ファントムが十分にフィルムを圧着していることを確認する. (2) 治療寝台によって,放射線が吸収されないことを確認する. (3) アイソセンタがわかるようにフィルムまたはレディパックにマーキングする. IV. 照 射 (1) 幾何学的条件など(測定深,ビーム入射方向,照射後経過時間など)を特性曲線作 成用と検証用のフィルムで,できるだけ統一することが望ましい. (2) 照射後は速やかにフィルムがレディパック内で動かないようにホッチキスなどで固 定する. (3) EDR2 は 照 射 後 に 濃 度 上 昇 が あ る た め ,少 な く と も 1 時 間 ,で き れ ば 3 時 間 ほ ど 経 過 後 に 現 像 す る . XV2 は そ の よ う な 報 告 は な い . V. 現像 (1) 現像機の温度,時間および液量などの設定を確認する. (2) 暗室内のフィルムを操作する場所に,ホコリやフィルムを損傷するような突起物が 無いことを確認する. (3) 現像条件の安定のため,あらかじめ検証に使用しないフィルムを現像する.また, 自動現像機排出後のフィルムにゴミの付着やローラーによるアーチファクトがない ことを確認する. VI. ス キ ャ ン (1) スキャナの出力値にはスキャン回数依存性がある.よって,少なくとも 3 回はテス トスキャンを行う. (2) スキャン位置依存性を避けるため,検証フィルムと特性曲線作成フィルムで同じ場 所に設置してスキャンする. 63 ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム( Radiographic film 以 下 RGF)は 放 射 線 に よ る ハ ロ ゲ ン 化 銀 粒 子 の 感 光 作 用 を 利 用 し て 濃 度 を 呈 す る も の で あ り ,以 前 よ り 放 射 線 治 療 の 分 野 で も 広 く 利 用 さ れ て い る .RGF に よ る 線 量 検 証 は ,以 下 の 項 目 が 測 定 精 度 に 影 響 を 与 え る こ と が 報 告 さ れ て い 1) る . フィルムとファントムとの空気層 フィルム感度のエネルギー依存性 ・ 深さ,照射野サイズによる光子エネルギースペクトルの変化 ・ ビーム入射方向による光子エネルギースペクトルの変化 ・ MLC 端 部 で 発 生 し た 低 エ ネ ル ギ ー 光 子 に よ る オ ー バ ー レ ス ポ ン ス 日々の出力変動 現像機の条件 スキャナ・濃度計の特性 フィルムの保存環境 そ れ ら の 影 響 を 考 慮 し た RGF に よ る IMRT 線 量 分 布 測 定 の 要 約 は 下 記 の 通 り で あ る . 次 項 より詳述する. フィルム製造日(製造ロット番号)による特性の変化,自動現像機およびスキャナの 日々の特性の変化の影響を低減するため,線量とフィルム濃度の特性曲線は,毎回の 検証で取得することを推奨する 2) . 特性曲線作成用フィルムとの検証用フィルムは,ファントムや入射方向などの幾何学 的条件を統一して照射することが望ましい. 約 70 cGy 以 下 は XV2( X-Omat V 2, Eastman Kodak 社 ), そ れ 以 上 は EDR2( Extended Dose Range 2, Eastman Kodak 社 ) の 使 用 を 推 奨 す る . XV2 は 照 射 直 後 に 現 像 で き る が , EDR2 は 濃 度 安 定 の た め 現 像 ま で 最 低 1 時 間 , で き れば 3 時間ほど待つ. フィルムの感度は光子のエネルギー依存性があるため,注意を要する. レディパックの有無で濃度は変化するため,検証時と特性曲線取得時で統一する. 暗室の整理整頓および自動現像機の品質管理を実施する. スキャナの出力値は,スキャナの温度,スキャン回数およびスキャン位置によって変 化するため,事前に特性を把握する. フィルムの物理特性,現像条件やスキャナの特性などにより絶対線量評価が困難な場 合がある.よって,ノーマライズを行い相対線量評価となる場合が多い. 7.2.1. プ ロ ト コ ル の 作 成 RGF に よ る 線 量 測 定 に は さ ま ざ ま な 因 子 が 影 響 を 与 え る .従 事 者 間 や 同 一 従 事 者 に よ る 作 業 時 ご と の ば ら つ き を 低 減 す る た め ,各 施 設 に 適 し た プ ロ ト コ ル を 作 成 す る こ と を 推 奨 す る .プ ロ ト コ ル は 照 射 ,現 像 か ら ス キ ャ ン に 至 る ま で の 手 順 に つ い て ,冒 頭 に 記 載 し た ワ ー ク シ ー ト を参考にして作成する. 64 7章 フィルム 7.2.2. 特 性 曲 線 ( 濃 度 -線 量 変 換 曲 線 ) の 取 得 線 量 と 濃 度 ま た は ス キ ャ ナ の ADC (Analogue to Digital Converter) 値 の 関 係 を 表 し た も の が 特 性 曲 線 で あ る . 図 7.3 は 4 ヶ 月 間 で 取 得 し た 全 12 回 の フ ィ ル ム の 特 性 曲 線 に つ い て , 最 大 値 ,最 小 値 お よ び 平 均 値 を 示 し て い る .200 cGy 付 近 で は ,同 じ ADC 値 で あ っ て も 線 量 に 変 換 す る と 最 小 と 最 大 で 約 30 cGy( 約 15%)の 相 違 が 生 じ て い る .特 性 曲 線 が 変 化 す る 原 因 と し て , 現 像 条 件 の 相 違 ,製 品 ロ ッ ト ご と の 感 度 の 相 違 ,日 々 の 放 射 線 治 療 装 置 の 出 力 変 動 や ス キ ャ ナ の 読 み 取 り 再 現 性 な ど が 考 え ら れ る .こ れ ら の 影 響 を 低 減 す る た め ,毎 回 の 検 証 で 特 性 曲 線 を 取得することを推奨する. AAPM TG-69 2 ) は , 特 性 曲 線 の 形 状 を 再 現 す る た め に 濃 度 と 線 量 の ポ イ ン ト 数 を 13 点 取 得 す る こ と を 推 奨 し て い る .こ れ は ,フ ィ ル ム の 使 用 可 能 な 濃 度 範 囲 で 等 間 隔 に 取 得 し た 場 合 で あ る.特性曲線の変化が緩徐な場合は,取得する点数を減ずることが可能であると考えられる. 適 切 な 補 間 式 を 採 用 し ,作 成 し た 特 性 曲 線 の 形 状 に 歪 が 無 い こ と を 確 認 す る こ と が 重 要 で あ る . 特 性 曲 線 の 取 得 方 法 は ,フ ィ ル ム に 対 す る ビ ー ム の 入 射 方 向 を 線 量 検 証 時 と 統 一 す る こ と が 推奨されている 2) . 図 2.2.(a)の よ う な 各 門 検 証 で は , 特 性 曲 線 の 取 得 に お い て も 同 様 に フ ィ ル ム に ビ ー ム を 垂 直 入 射 す る 方 法 が 推 奨 さ れ る .図 2.2.(b)の よ う な 全 門 検 証 で は ,フ ィ ル ム に 対 してビームを平行入射する方法が望ましい.以下に代表的な特性曲線の取得方法を記述する. ま た , 7.2.3 項 に 示 す RGF の 特 性 を 考 慮 し , エ ネ ル ギ ー , 照 射 野 サ イ ズ , 測 定 深 , レ デ ィ パ ッ ク お よ び フ ァ ン ト ム の 種 類 と 大 き さ も ,特 性 曲 線 の 取 得 と 線 量 検 証 で 統 一 す る こ と に よ り 測 定 線量の不確かさを低減できる. 60000 50000 ADC 値 40000 30000 最大 平均 最小 20000 10000 0 50 100 150 200 250 線量 [cGy] 図 7.3 特性曲線の経時的変化 7.2.2.1 . Field by Field 法 Field by Field 法 は ,フ ィ ル ム に ビ ー ム を 垂 直 入 射 す る 方 法 で あ る .吸 収 線 量 が 既 知 で あ る フ ァ ン ト ム 中 の 深 さ に フ ィ ル ム を 設 置 し て 照 射 す る こ と で ,線 量 と フ ィ ル ム 濃 度 の 関 係 を 取 得 す る .照 射 条 件 は ,絶 対 線 量 評 価 の 不 確 か さ が 小 さ い 基 準 条 件( 照 射 野 : 10 cm x 10 cm,深 さ : 10 65 cm)で 行 う こ と が 多 い .最 も 一 般 的 で あ り ,垂 直 入 射 法 で は 本 手 法 を 採 用 す る こ と を 推 奨 す る . また,平行入射法での特性曲線の取得が困難な場合も,本手法で代用することを推奨する. Field by Field 法 は い く つ か の 欠 点 も 有 す る . 測 定 点 数 と 同 数 の フ ィ ル ム が 必 要 と な り , 照 射 ・ 現 像 ・ ス キ ャ ン に 多 く の 労 力 を 要 し ,環 境 や コ ス ト の 問 題 も あ る .ま た ,複 数 枚 を 処 理 し て い る 間 に 自 動 現 像 機 や ス キ ャ ナ の 経 時 的 変 化 が 生 じ ,フ ィ ル ム 濃 度 や 読 み 取 り 値 が 変 化 す る 可能性がある. 7.2.2.2 . MLC セ グ メ ン ト 法 MLC セ グ メ ン ト 法 は , フ ィ ル ム に ビ ー ム を 垂 直 入 射 す る 方 法 で あ り , 線 量 の 異 な る 複 数 の セ グ メ ン ト を MLC で 形 成 し , 1 枚 の フ ィ ル ム に 必 要 な 測 定 点 数 分 の 線 量 を 一 回 で 照 射 す る 方 法 で あ る .放 射 線 治 療 装 置 の MLC を 用 い る 方 法 1), 3) と Tomotherapy を 用 い る 方 法 4) が あ る .照 射 す る フ ィ ル ム は 1 枚 で 良 い た め ,迅 速 に 取 得 で き ,か つ 経 済 性 に 優 れ る .一 方 ,中 心 軸 外 の ビ ー ム を 使 用 す る た め ,フ ィ ル ム に 投 与 さ れ る 線 量 は ,ビ ー ム の 対 称 性 や 平 坦 度 の 影 響 を 受 け る . ま た , MLC の 位 置 精 度 が 影 響 す る な ど の 短 所 も あ る . 本 手 法 の 採 用 に 当 た っ て は , あ ら か じ め Field by Field 法 と 比 較 し , 大 き な 相 違 が 無 い こ と を 確 認 す る こ と を 推 奨 す る . 図 7.4 に MLC セ グ メ ン ト 法 の 一 例 を 示 す . 各 セ グ メ ン ト の 照 射 時 間 は , 1/12 と な る よ う 作 成 し た .小 型 の 電 離 箱 線 量 計 で は ス テ ム 効 果 を 避 け る た め ,照 射 野 外 側 か ら 各 セ グ メ ン ト の 長 軸 方 向 に 挿 入 す る .ま た ,各 セ グ メ ン ト の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル は 平 坦 な 領 域 が 狭 い た め ,電 離 箱 線 量 計 の 設 置 精 度 が 測 定 線 量 に 大 き く 影 響 す る .そ の た め ,あ ら か じ め 光 照 射 野 で 測 定 す る セ グ メ ン ト の 位 置 を 指 示 し て 電 離 箱 線 量 計 を 設 置 す る ,な ど の 注 意 が 必 要 で あ る .こ の よ う に 欠 点 も あ る た め ,本 手 法 が 最 適 で あ る と の 結 論 は 得 ら れ て い な い .各 施 設 で 最 適 な 方 法 を 検 討 し ていただきたい. 各 セ グ メ ン ト の 線 量 [cGy] 図 7.4 66 ① 258.3 ② 236.6 ③ 226.4 ④ 204.2 ⑤ 183.7 ⑥ 161.9 ⑦ 140.1 ⑧ 118.4 ⑨ 96.8 ⑩ 75.0 ⑪ 48.5 ⑫ 28.3 MLC セ グ メ ン ト 法 に よ る 特 性 曲 線 作 成 用 の フ ィ ル ム と セ グ メ ン ト 毎 の 線 量 の 例 7章 フィルム 7.2.2.3 . 平 行 入 射 法 フィルムにビームを平行入射させ,取得した線量分布から特性曲線を作成する方法である. 特 性 曲 線 作 成 の た め の 測 定 点 は ,あ ら か じ め 電 離 箱 線 量 計 に よ り 深 さ 方 向 の 絶 対 線 量 を 測 定 し , 対応する深さのフィルム濃度を取得して行う.フィルムと入射ビームが平行となる測定では, フ ァ ン ト ム 中 の 深 さ に よ り 光 子 の エ ネ ル ギ ー が 異 な る . 7.2.3.で 述 べ る よ う に RGF の 濃 度 は , 光 子 の エ ネ ル ギ ー に 依 存 す る が , 一 定 の フ ァ ン ト ム 深 さ に フ ィ ル ム を 設 置 し て 取 得 す る Field by Field 法 や MLC セ グ メ ン ト 法 は ,深 さ 方 向 の 光 子 の エ ネ ル ギ ー 変 化 に よ る 濃 度 変 化 を 考 慮 で き な い .よ っ て ,平 行 入 射 法 に よ る 特 性 曲 線 が 検 証 時 の 幾 何 学 的 条 件 に 近 い た め ,ア キ シ ャ ル やサジタル面の測定では本手法が推奨されている 2) . し か し ,本 手 法 は い く つ か の 欠 点 を 有 す る .1 枚 の フ ィ ル ム で は PDD の 減 弱 が 不 十 分 な た め , 高 線 量 か ら 低 線 量 ま で 十 分 な 線 量 域 が 取 得 で き な い .ま た ,複 数 枚 の フ ィ ル ム を 使 用 し た 場 合 は ,特 性 曲 線 が 歪 む こ と が あ る .さ ら に ,散 乱 線 が 飽 和 す る た め に は 大 き な フ ァ ン ト ム( 40 cm × 40 cm)が 必 要 で あ り ,フ ィ ル ム と フ ァ ン ト ム の 圧 着 に 注 意 が 必 要 5) であるなど実際には困難 な場合も多い. 7.2.3. ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム の 特 性 RGF の 黒 化 は ,ヨ ウ 化 銀 や 臭 化 銀 な ど の ハ ロ ゲ ン 化 銀 粒 子 の 還 元 作 用 を 利 用 し て い る .こ れ ら は 水 の 組 成 と は 異 な り 高 原 子 番 号 物 質 で あ る た め に ,光 子 の 振 る 舞 い が 水 と は 異 な る こ と が 知 ら れ て い る . 図 7.5(a)に National Institute of Standards and Technology( 以 下 , NIST) が 提 供 しているプログラム 6) を 用 い て 算 出 し た , 水 ( 液 体 ), 写 真 乳 剤 お よ び RCF 感 光 部 の 質 量 エ ネ ル ギ ー 吸 収 係 数 を 示 す . 各 物 質 の 組 成 , 重 量 比 お よ び 密 度 も 同 様 に NIST 6) よ り 引 用 し た . 400 keV 以 下 の 低 エ ネ ル ギ ー 光 子 に 対 し て ,水 と 写 真 乳 剤 の 質 量 エ ネ ル ギ ー 吸 収 係 数 の 関 係 が 一 定 で は な く な っ て い る .こ れ は 低 エ ネ ル ギ ー 光 子 と ハ ロ ゲ ン 化 銀 の 相 互 作 用 は 光 電 効 果 が 優 位 と なり,水との相互作用はコンプトン効果が優位となるためである 7), 8) .低エネルギー光子数が 増 加 す る と ,フ ィ ル ム の エ ネ ル ギ ー 吸 収 が 増 加 す る た め に 濃 度 も 増 加 す る こ と が 推 察 さ れ る 9) . 低 エ ネ ル ギ ー の 光 子 は ,主 に 物 質 と の コ ン プ ト ン 散 乱 に よ り 生 成 し ,全 光 子 数 に 対 す る 低 エ ネ ル ギ ー 成 分 の 比 率 は ① 照 射 野 サ イ ズ が 大 き い , ② 深 さ が 深 い , ③ MLC に よ る 散 乱 が 多 い , ④ ファントムが大きいほど大きくなる 告されている 11) 10) .ま た ,フ ァ ン ト ム の 組 成 に よ っ て も 相 違 す る こ と が 報 .こ れ ら の 条 件 が 検 証 時 と 特 性 曲 線 の 取 得 時 で 大 き く 異 な る 場 合 は ,両 者 で 同 一 線 量 を 照 射 し て も フ ィ ル ム 濃 度 が 異 な る た め ,可 能 な 限 り 統 一 す る こ と を 推 奨 す る .RGF に よる線量検証では,フィルム濃度の光子エネルギー依存性を理解することが重要である. 図 7.5(b)に NIST の estar 12 ) で 計 算 し た 電 子 の エ ネ ル ギ ー に 対 す る 質 量 衝 突 阻 止 能 を 示 す . 光 子 に よ る 相 互 作 用 確 率 と は 異 な り ,光 子 由 来 の 二 次 電 子 の 水 と 写 真 乳 剤 に 対 す る 阻 止 能( 物 質 へ の エ ネ ル ギ ー 付 与 )に 違 い は あ る が ,物 質 間 の 関 係 は 一 定 で あ る .し た が っ て ,物 質 に よ る 阻止能の相違は,水とフィルムとの間では重大な問題とはならない 13) . 67 1.0E+02 1.0E+02 μ en/ρ [cm2g-1] water liquid S coll/ρ [MeV cm2 g-1] water liquid 1.0E+01 Radiographic emulsion Radiochromic sensor 1.0E+00 Radiographic emulsion Radiochromic sensor 1.0E+01 1.0E-01 1.0E-02 0.01 0.10 1.00 10.00 X線エネルギー [MeV] 100.00 1.0E+00 0.01 0.10 (a) 図 7.5 1.00 10.00 100.00 電子線エネルギー [MeV] (b) 水 , RGF お よ び RCF の 質 量 エ ネ ル ギ ー 吸 収 係 数 ( a) 6) と 質 量 衝 突 阻 止 能 ( b) 12) 7.2.3.1 . 使 用 す る フ ィ ル ム の 選 択 現 在 ,放 射 線 治 療 の 線 量 検 証 で 用 い ら れ る RGF に は XV2 と EDR2 の 2 種 類 が あ る .表 7.1 2 ) に そ の 特 徴 を , 図 7.6 に 特 性 曲 線 の 相 違 を 示 す . そ れ ぞ れ 測 定 可 能 な 最 大 線 量 が 異 な る た め , フ ィ ル ム の 選 択 に は 十 分 な 注 意 を 要 す る . 1 Gy を 超 え る と XV2 で は フ ィ ル ム 濃 度 が 飽 和 す る た め , EDR2 を 使 用 し な け れ ば な ら な い . 一 方 , EDR2 で 数 十 cGy 程 度 の 測 定 で は , フ ィ ル ム 濃 度 の 変 化 が 小 さ い . そ の た め , 濃 度 分 解 能 の 低 い ス キ ャ ナ と の 組 み 合 わ せ で は 十 分 な SN 比 が 得 ら れ な い た め , XV2 の 使 用 を 推 奨 す る 14), 15) . MU 設 定 値 を 調 整 し て 測 定 可 能 な 濃 度 範 囲 に 線 量 を 変 更 す る 方 法 も あ る が , MU 設 定 値 を 増 加 さ せ る と 放 射 線 治 療 装 置 の 出 力 直 線 性 や 対 称 性 な ど ,低 MU 設 定 値 の 出 力 特 性 の 変 化 に よ る 線 量 誤 差 を 看 過 す る 可 能 性 が あ る た め 避 け る べきである. XV2 と EDR2 は と も に ハ ロ ゲ ン 化 銀 を 使 用 し て い る が ,表 7.1 よ り 結 晶 サ イ ズ と 密 度 が 異 な る . そ の た め 7.2.3.で 述 べ た エ ネ ル ギ ー 依 存 性 は , XV2 で よ り 影 響 が 大 き く な る . 7.2.3.2. 照 射 野 サ イ ズ 依 存 性 と 7.2.3.3. 測 定 深 依 存 性 は ,低 エ ネ ル ギ ー 光 子 数 の 増 減 に よ っ て フ ィ ル ム 濃 度 へ の 影 響 が 生 じ る と 考 え ら れ て い る た め , EDR2 よ り XV2 で そ の 影 響 は 大 き く な る 6) . 以 上 よ り , エ ネ ル ギ ー 依 存 性 と 測 定 可 能 な 線 量 域 を 考 慮 し , 検 証 を 行 う 最 大 線 量 が 70 cGy 以 下 で あ れ ば XV2, そ れ 以 上 で あ れ ば EDR2 を 使 用 す る こ と を 推 奨 す る . ま た EDR2 は 照 射 後 1 時 間 ま で は 急 峻 に ,そ の 後 は 徐 々 に 濃 度 が 増 加 す る た め ,照 射 直 後 に 現像すると濃度のばらつきが大きいことが報告されている 16) .照 射 後 は 最 低 1 時 間 ,で き れ ば 3 時 間 程 度 経 過 さ せ ,濃 度 が 安 定 し た 後 に 現 像 を 行 う こ と を 推 奨 す る .一 方 XV2 で は ,照 射 後 の濃度上昇は見られない 68 16) . 7章 表 7.1 XV2 と EDR2 の 特 性 の 比 較 2) XV2 EDR2 AgBr と AgI AgBr 銀 密 度 [g cm ] 4.2 2.3 実 効 サ イ ズ [µm] 0.43 0.24 結晶の形状 さまざまな形と大きさ 均一な立方体 180 180 ゼ ラ チ ン コ ー ト 厚 [g cm ] 3 5 両面照射可能 ○ ○ ダイナミックレンジ 0.05 - 0.80 cGy 0.1 - 5.0 Gy ダ イ ナ ミ ッ ク OD*レ ン ジ 0-4 0-4 OD1 当 た り の 線 量 [Gy] 0.4 2.0 推奨最大線量 0.8 Gy 5.0 Gy 結晶構造 -2 ベ ー ス の 厚 さ [µm] -2 フィルム *OD: Optical Density (光 学 濃 度 ) 2.5 XV2 net OD 2.0 EDR2 1.5 1.0 0.5 0.0 図 7.6 0 100 200 300 線量 [cGy] 400 500 EDR2 と XV2 の フ ィ ル ム の 特 性 曲 線 の 相 違 2) 7.2.3.2 . 照 射 野 サ イ ズ 依 存 性 フ ィ ル ム 濃 度 の 照 射 野 サ イ ズ 依 存 性 は , 7.2.3 で も 述 べ た と お り 低 エ ネ ル ギ ー 光 子 に よ る フ ィ ル ム の オ ー バ ー レ ス ポ ン ス に よ っ て 生 じ る と 考 え ら れ て い る .照 射 野 サ イ ズ 依 存 性 に つ い て は さ ま ざ ま な 報 告 が 有 り ,下 記 の 通 り 一 貫 性 が 無 い が ,照 射 野 サ イ ズ が 大 き い ほ ど ,ま た EDR2 よ り XV2 で 影 響 が 大 き い と 考 え ら れ る Esthappan ら 17) 2) . は , 15 cm × 15 cm と 4 cm × 4 cm で 同 一 の 線 量 を 照 射 し , そ の フ ィ ル ム 濃 度 の 相 違 を 検 討 し た .XV2 で は 両 者 に 差 が 見 ら れ た が ,EDR2 で は 相 違 が 無 か っ た と 報 告 し て い 69 る . 一 方 , Dogan ら 18 ) は , 同 様 に 24 cm × 24 cm と 6 cm × 6 cm で は , XV2 と EDR2 と も に フ ィ ル ム 濃 度 が 相 違 し た と 報 告 し て い る . Burch ら 19) は 4 MV の X 線 で XV2 を 5 cm 深 さ に 設 置 し , 照 射 野 を 6 cm × 6 cm か ら 25 cm × 25 cm ま で 変 化 さ せ た 場 合 , フ ィ ル ム 濃 度 は 最 大 で 5% 相 違 し た と 報 告 し て い る . し か し な が ら , Sykes ら 20 ) は Burch ら と 同 様 の 条 件 で 照 射 を 行 っ た が,フィルム濃度に相違は見られなかったと報告している. 7.2.3.3 . 測 定 深 依 存 性 フ ィ ル ム 濃 度 の 測 定 深 に よ る 相 違 も 照 射 野 サ イ ズ 依 存 性 と 同 様 に ,低 エ ネ ル ギ ー 光 子 に よ る フ ィ ル ム の オ ー バ ー レ ス ポ ン ス に よ っ て 生 じ る と 考 え ら れ て い る .光 子 が フ ァ ン ト ム 中 を 進 む に 従 い ,相 対 的 に 高 エ ネ ル ギ ー で あ る 一 次 光 子 の 割 合 は 減 少 し ,低 エ ネ ル ギ ー で あ る 散 乱 光 子 の 比 率 が 増 加 す る た め で あ る .測 定 深 に よ る 濃 度 の 変 化 に つ い て も ,照 射 野 サ イ ズ 依 存 性 と 同 様 に さ ま ざ ま な 報 告 が 有 り ,統 一 さ れ た 見 解 と は な っ て い な い .Burch ら 19 ) は 4 MV の X 線 で 照 射 野 を 25 cm × 25 cm と し て ,測 定 深 を 5 cm か ら 15 cm ま で 変 化 さ せ る と フ ィ ル ム 濃 度 は 10% 上 昇 し た と 報 告 し て い る .ま た ,Sykes ら 20) が 同 条 件 で 行 っ た 場 合 は ,4%程 度 の 上 昇 で あ っ た と報告している. 照射野サイズや測定深が,検証用フィルムと特性曲線作成用フィルムで大きく異なる場合, 線 量 誤 差 を 生 じ る 可 能 性 が あ る た め ,両 者 は 可 能 な 限 り 同 一 な 条 件 で 取 得 す る こ と を 推 奨 す る . 7.2.3.4 . 線 量 率 依 存 性 正 味 の 光 学 濃 度 ( net Optical Density, 以 下 net OD) は , 照 射 時 間 と 線 量 率 の 積 で あ る 線 量 の 関 数 で あ る .し か し フ ィ ル ム に 投 与 さ れ た 線 量 が 一 定 で あ っ て も ,net OD が 線 量 率 に 依 存 す る 10), 2 1), 2 2) .こ れ は ,相 反 則 不 軌 ま た は Schwarzschild 効 果 と 呼 ば れ る .線 量 率 依 存 性 は ,ハ ロ ゲ ン化銀粒子の組成,構造および現像条件により変化する. IMRT は 局 所 的 な 線 量 率 の 相 違 を 避 け る こ と が で き な い が ,Djouguela ら 2 2) は ,線 量 率 が 3 Gy / 6.6 min か ら 3 Gy / 1.6 min と 4 倍 程 度 で あ れ ば ,濃 度 の 相 違 は 2%を 超 え な か っ た と 報 告 し て い る .線 量 検 証 の 不 確 か さ を 増 加 さ せ る 要 因 で は あ る が ,検 証 結 果 に は そ れ ほ ど 大 き な 影 響 を 与えないと結論づけている. また,ビームのオンとオフを繰り返した回数によってフィルム濃度が変化する間欠効果 ( Intermittency effect) が あ る と 報 告 22), 23) されている.これも濃度変化の原因は線量率効果と 同一と推察されるため,大きく影響しないと考えられる. 7.2.3.5 . 方 向 依 存 性 放 射 線 の フ ィ ル ム へ の 入 射 方 向( 垂 直 も し く は 平 行 )に よ り 濃 度 が 変 化 す る こ と が XV2 13 ), 24 ) , 25) と EDR2 2 6) と も に 報 告 さ れ て い る . Suchowerska ら 27) は,フィルム自身と光子のコンプトン 効 果 に よ る 2 次 光 子 の 前 方 散 乱 よ り ,フ ィ ル ム と フ ァ ン ト ム の 圧 着 不 足 が 原 因 で あ る と 報 告 し ている.圧着不足によって生じたフィルムとファントムとの空気層を通過してきたビームは, フ ァ ン ト ム と の 相 互 作 用 が 起 こ ら な い た め に 線 量 が 減 弱 さ れ な い .そ の た め ,深 部 で の フ ィ ル ム 濃 度 が 増 加 す る .こ の 影 響 を 低 減 す る た め ,フ ィ ル ム と フ ァ ン ト ム と を 十 分 に 圧 着 し ,か つ ガ ン ト リ 角 度 を 2 度 程 度 斜 入 射 さ せ ビ ー ム 中 心 軸 上 を 避 け る こ と を 推 奨 し て い る .ま た ガ ン ト リ 角 度 は 変 え ず , 5 mm 程 度 中 心 軸 か ら 離 れ た 面 の 測 定 を 行 う 方 法 も あ る 70 28) .フィルムとファ 7章 フィルム ン ト ム を 圧 着 す る た め の 専 用 の 器 具 が 無 い 場 合 は , 図 7.7 の よ う な 布 製 ク ラ ン プ ( 木 工 用 万 能 ベルトクランプ,ミツトモ製作所製)などを利用すると良い. 図 7.7 専用の器具を持たない固体ファントムでアキシャルやサジタル面を測定する場合,布 製クランプ(図右)などでファントムとフィルムを十分に圧着する必要がある. 7.2.3.6 . レ デ ィ パ ッ ク に よ る 影 響 フ ィ ル ム は レ デ ィ パ ッ ク で 包 装 さ れ て い る た め 明 室 で の 利 用 が 可 能 で あ り ,防 水 処 理 が さ れ て い る た め 水 中 で 使 用 で き る と い う 利 点 を 有 す る .し か し な が ら ,使 用 に 際 し て 注 意 を 要 す る 点 も あ る .レ デ ィ パ ッ ク 内 の 空 気 層 が ,フ ァ ン ト ム と フ ィ ル ム の 圧 着 を 妨 げ て 測 定 精 度 を 低 下 さ せ る こ と が あ る .よ っ て ,空 気 が 見 ら れ る 場 合 は ,レ デ ィ パ ッ ク の 端 に 数 ヶ 所 穴 を 空 け て あ らかじめ空気を排出する必要がある 29) .ま た フ ィ ル ム は レ デ ィ パ ッ ク 内 で 固 定 さ れ て い な い た め , 図 7.8 の よ う に 最 大 で 5 mm 程 度 移 動 す る . 照 射 後 速 や か に , フ ィ ル ム と レ デ ィ パ ッ ク を ホッチキスなどで固定することを推奨する. フ ィ ル ム は 約 0.2 mm と 非 常 に 薄 い が , レ デ ィ パ ッ ク に 包 装 さ れ る と 1 mm 程 度 の 厚 み を 有 す る .フ ァ ン ト ム に 複 数 枚 の フ ィ ル ム を 挿 入 す る 場 合 は ,計 算 値 を 出 力 し た 位 置 と フ ィ ル ム の 位置が一致していることを確認する必要がある. 放射線治療用のフィルムがチェレンコフ光により露光されることが報告されている 30) .フ ィ ル ム を レ デ ィ パ ッ ク か ら 取 り 出 し て 使 用 す る 場 合 ,黒 色 の 固 体 フ ァ ン ト ム を 使 用 す る 必 要 が あ る .レ デ ィ パ ッ ク 内 に は 遮 光 紙 と フ ィ ル ム の 間 に 白 紙 が 挟 ま れ て い る .白 紙 と 電 子 と の 相 互 作 用によりチェレンコフ光が生じてフィルム濃度が上昇することが報告されている 26) .図 7.9 は 白 紙 に 黒 色 の ペ ン で 文 字 を 書 い て 照 射 し た 結 果 で あ る .文 字 の あ る 部 分 は チ ェ レ ン コ フ 光 が 遮 光 さ れ た た め に ,濃 度 が 低 下 し た .以 上 よ り 検 証 時 と 特 性 曲 線 取 得 時 で レ デ ィ パ ッ ク の 有 無 を 統一することを推奨する. 71 図 7.8 レディパック内で意図的にフィルムを移動させた時のマーカー位置のずれ.右下側の 十時状 5 点の大丸があらかじめ穴を空け露光させていた部分.左上の小丸 5 点はレデ ィパック内でフィルムが移動するように操作した後露光された部分. 図 7.9 チェレンコフ光によるフィルム濃度への影響 7.2.4. フ ィ ル ム の 現 像 フ ィ ル ム の 濃 度 は 現 像 条 件( 現 像 液 の 濃 度 と 液 温 や 現 像 時 間 な ど )に 大 き く 依 存 す る .ま た 現 像 時 に フ ィ ル ム に キ ズ を 付 け た り ,ア ー チ フ ァ ク ト を 生 じ た り す る 可 能 性 が あ る た め ,注 意 が 必 要 で あ る .精 度 の 高 い 線 量 分 布 検 証 を 行 う た め に ,暗 室 の 整 理 整 頓 や 自 動 現 像 機 の 品 質 管 理が重要である. 7.2.4.1 . 現 像 条 件 図 7.10 に 2 機 の 自 動 現 像 機 で 生 じ た 特 性 曲 線 の 相 違 を 示 す . フ ィ ル ム は 同 一 条 件 で 照 射 を 行 っ た も の で あ る た め ,No. 1 と No.2 の フ ィ ル ム 濃 度 の 相 違 は 現 像 条 件 の 相 違 が 原 因 と 考 え ら 72 7章 れ る .Bos ら 3 1) フィルム や Olch 32 ) も ,現 像 条 件 の 違 い に よ る フ ィ ル ム 濃 度 の 変 化 を 報 告 し て い る .特 に 現 像 液 の 温 度 の 影 響 は 大 き く ,図 7.11 の よ う に 現 像 温 度 が 高 い ほ ど 濃 度 は 増 加 す る 傾 向 に あ る 33) .水 洗 後 の 乾 燥 の 熱 に よ り 現 像 温 度 が 上 昇 す る 可 能 性 が あ る た め ,現 像 液 の 温 度 は こ ま め に 確 認 す る 必 要 が あ る .特 に 一 度 に 多 数 の フ ィ ル ム を 現 像 す る と ,液 温 が 上 昇 し や す い た め 注 意 が 必 要 で あ る .ま た ,そ の 他 の 現 像 条 件 も 経 時 的 に 変 化 す る こ と が 多 く ,全 て の フ ィ ル ム を 可 能 な 限 り 短 時 間 で 現 像 す る こ と が 望 ま し い .た だ し ,Robar ら は 現 像 温 度 が 0.5℃ の 範 囲 内 で 管 理 さ れ ,か つ 現 像 液 や 定 着 液 が 自 動 で 補 充 さ れ る 現 像 機 を 使 用 し て も ,フ ィ ル ム 濃 度 の ば ら つ き を 2%以 内 と す る こ と は 困 難 で あ る と 報 告 し て い る 34) . 図 7.12 は 現 像 機 の ロ ー ラ ー の 劣 化 に よ る 偽 像 を 生 じ た 例 で あ る . ロ ー ラ ー は フ ィ ル ム の 移 送 と ,現 像 液 や 定 着 液 な ど の 水 分 を 搾 取 す る 機 能 を 持 つ .ロ ー ラ ー の 劣 化 に よ り 現 像 液 が フ ィ ルムに残り,過現像されたためにフィルム濃度が上昇している. 1.4 1.2 0.03 0.02 0.8 0.6 0.4 0.01 No. 1 No. 2 差 (No. 1 - No .2) 0.2 0.0 0 図 7.10 50 100 150 200 線量 [cGy] 250 (a) 図 7.12 0.00 2 機 の 自 動 現 像 機 (No. 1, No. 2) による特性曲線とその相違 差 (No. 1 - No .2) net OD 1.0 図 7.11 現像温度によるフィルム濃度 の変化 2) (b) 特 性 曲 線 作 成 用 フ ィ ル ム に 生 じ た ロ ー ラ ー に よ る 偽 画 像 (a)と そ の 拡 大 図 (b) 73 7.2.4.2 . 暗 室 暗 室 内 で は フ ィ ル ム を レ デ ィ パ ッ ク か ら 取 り 出 し た 状 態 で 扱 う た め ,傷 や ホ コ リ が 付 き や す い .作 業 場 所 は 十 分 な ス ペ ー ス を 確 保 し 清 潔 に 保 つ 必 要 が あ る .安 全 光 の 強 度 や 波 長 ,外 光 の 漏 洩 に よ り ,フ ィ ル ム に か ぶ り が 生 じ な い こ と を 確 認 す る .乾 燥 の た め の 熱 気 が 滞 留 し て 現 像 液の温度を上昇させる可能性があるため,換気を行うための設備を有することが望ましい. 7.2.4.3 . 自 動 現 像 機 と 暗 室 の 品 質 管 理 AAPM TG-69 2) で は 自 動 現 像 機 の 受 入 試 験 と コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ に つ い て 表 7.2 に 示 す 項 目 と 頻度を提案している.これを参考に自施設の品質管理プログラムを作成し,実施する. 表 7.2 AAPM TG-69 が 推 奨 す る 自 動 現 像 機 に 関 す る 試 験 項 目 項目 手順 頻度 暗室の管理 白色光下で整理整頓やほこりなどが無いことを確認す 毎週 2) る. 現像プロトコル センシトメトリーによる現像の再現性の確認頻度の決定 コミッショニング時 暗室の換気 暗室の換気ができているか確認する コミッショニング時 アーチファクト 同条件下で照射された 2 枚のフィルムを長軸および短軸 コミッショニング時 (偽像) 方向で現像し,アーチファクトが生じていないことを確 毎週 認する. 現像液の温度 現像時間 センシトメトリー 温度計にて現像液温度を測定し,表示値と一致している コミッショニング時 かを確認する. 毎週 フィルムを自動現像機に投入から現像終了までの時間を コミッショニング時 測定する. 毎週 セン シトメータ ーでフィ ルムを露 光後,現像して ベース , コミ ッショニン グ時 中心濃度などを比較する. 毎週 使用時毎回 かぶりの影響 暗室にて露光されたフィルムの半分を黒色の厚紙などで コミッショニング時 覆い,数分間置いた後に現像して,濃度の違いを調べる. 7.2.5. 線 量 測 定 の 不 確 か さ Gillis ら 28 ) は 欧 州 の 8 施 設 で 同 一 の CT 画 像 と 線 量 制 約 で IMRT の 治 療 計 画 を 作 成 し ,EDR2 を 用 い て ア キ シ ャ ル 面 の 全 門 検 証 を 報 告 し て い る .8 施 設 ,の べ 10 回 の 測 定 を 実 施 し ,計 算 値 と 測 定 値 そ れ ぞ れ の PTV お よ び OAR の 線 量 -面 積 ヒ ス ト グ ラ ム を 算 出 し た . 線 量 -面 積 ヒ ス ト グ ラ ム か ら 平 均 線 量 を 計 算 し ,計 算 値 と 測 定 値 の 差 を 評 価 し た .平 均 お よ び 最 大 線 量 差 は ,PTV 内 で 1.7%, 3.5%,OAR 内 で 2.9%, 5.8%で あ っ た .結 果 は 系 統 的 な 差 を 示 し て お り ,フ ィ ル ム と フ ァ ン ト ム の 圧 着 不 足 が 主 因 で あ っ た と 考 察 し て い る . Shi ら 35) は , EDR2 を 使 用 し て 50 例 の 検 証 結 果 を 解 析 し ,フ ィ ル ム の 製 造 ロ ッ ト 番 号 や 自 動 現 像 機 の 管 理 ,ス キ ャ ナ の 使 用 法 に 至 74 7章 フィルム る ま で 細 心 の 注 意 を 払 っ た が ,絶 対 線 量 の 不 確 か さ は 最 大 で 3%と な っ た こ と を 報 告 し て い る . フ ィ ル ム に よ る 線 量 測 定 で は ,ス キ ャ ン 作 業 や フ ィ ル ム へ の マ ー キ ン グ な ど の 幾 何 学 的 な 不 確 か さ も 加 わ る .Winkler ら 3 6) は IMRT の 検 証 で 幾 何 学 的 な 不 確 か さ は 0.8 mm で あ っ た と 報 告 し て い る .ま た 絶 対 線 量 評 価 で は ,照 射 時 の 放 射 線 治 療 装 置 の 出 力 変 動 も 考 慮 に 入 れ な け れ ば ならない. こ の よ う に RGF で 測 定 し た 絶 対 線 量 は 電 離 箱 線 量 計 と 比 較 し て , よ り 大 き な 不 確 か さ を 持 つ と 考 え ら れ る .絶 対 線 量 で の 評 価 を 行 う 場 合 は こ れ ま で の 項 を 参 考 に ,自 施 設 の 線 量 測 定 精 度を評価する必要がある. 参考文献 1. Childress NL, Dong L and Rosen II: Rapid radiographic film calibration for IMRT verification using automated MLC fields. Med. Phys. 29: 2384-2390, 2002 2. Pai S, Das IJ, Dempsey JF, et al.: TG-69: Radiographic film for megavoltage beam dosimetry. Med. Phys. 34: 2228-2258, 2007 3. Kulasekere R, Moran JM, Fraass BA et al.: Accuracy of rapid radiographic film calibration for intensity-modulated radiation therapy verification. J. Appl. Clin. Med. Phys. 7: 86-95, 2006 4. Yan Y, Papanikolaou N, Weng X et al.: Fast radiographic film calibration procedure for helical tomotherapy intensity modulated radiation therapy dose verification. Med. Phys. 32: 1566-1570, 2005 5. Georg D, Kroupa B, Winkler P, et al.: Normalized sensitometric curves for the verification of hybrid IMRT treatment plan with multiple energies. Med. Phys. 30: 1142-1150. 2003 6. Hubble JH and Seltzer SM: Tables of x-ray mass attenuation coefficients and mass energy-absorption coefficients (version 1.4) あ あ あ あ あ あ [http://physics.nist.gov/PhysRefData/XrayMassCoef/] 7. Williamson JF, Khan FM and Sharma SC: Film dosimetery of megavoltage photon beams – a practical method of isondesity-to-isodose curve conversion. Med. Phys. 8: 94-98, 1981 8. 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Winkler P, Zurl B, Guss H, et al.: Performance analysis of a film dosimetric quality assurance procedure for IMRT with regard to the employment of quantitative evaluation methods. Phys. Med. Biol. 50: 643-654, 2005 〔小島〕 77 7.3 ラジオクロミックフィルム ≪ラジオクロミックフィルムを用いた線量分布検証手順≫ 項目 手順 I. (1) 事前準備 参照 評価面の決定とフィルム解析ソフトへの検証データの 7.1 出力 (2) フ ィ ル ム は 20 - 25℃ で 保 存 す る 7.3.3 (3) スキャナの電源投入 7.4 II. フ ィ ル ム (1) フ ィ ル ム の 選 択 ( EBT2 ま た は RTQA2) 7.3.3 の準備 (2) フィルムのロット番号の確認と使用する枚数の準備 7.1, 7.3.4 (3) 方向が分かるように印をつける (4) 必要があればフィルムを切断する (1) 治 療 寝 台 に フ ァ ン ト ム を 設 置 し ,フ ァ ン ト ム 間 隙 の 空 気 III. 設 置 7.3.3 層を確認 IV. 照 射 (2) 治療寝台による放射線吸収の有無を確認 (3) アイソセンタがわかるようにフィルムに印をつける (1) 特性曲線作成用のフィルムを照射 (2) 少 し 時 間 を お く( 後 の 特 性 曲 線 作 成 の 作 業 時 間 分 余 裕 を 7.3.4 とる) V. 待機 (3) 検証用フィルムを照射 (1) フ ィ ル ム は 紫 外 線 が 当 た ら ず , 25 - 30℃ の と こ ろ に 保 7.3 管する VI. ス キ ャ ン (2) スキャンの作業を円滑に行うために準備する. (1) テストスキャン(3 回は行う) (2) 特性曲線作成用フィルムからスキャンする 7.4 温度依存性,方向依存性や位置依存性などを考慮して スキャンする (3) 解析システムで特性曲線を作成する (4) 検証用フィルムをスキャンする ただし,待機時間は特性曲線作成用に一致させる 使用機器 ラジオクロミックフィルム スキャナ 固体ファントムまたは水ファントム フィルム解析ソフト 78 7.3.2 7章 I. フィルム 事前準備 (1) 治療計画装置で臨床プランを固体ファントムに照射する計画(検証プラン)を作成 し,治療計画装置が計算した計画線量分布をフィルム解析ソフトに出力する. (2) フ ィ ル ム は 20 - 25℃ の 乾 燥 し た と こ ろ に 保 存 し て お く . (3) スキャナは検証作業の数時間前に電源を投入する. II. フ ィ ル ム の 準 備 (1) 使 用 す る フ ィ ル ム ( EBT2 ま た は RTQA2) を 選 択 す る . (2) 使用予定のフィルム枚数を準備する(検証用と特性曲線作成用) (3) フィルムの方向が分かるように隅に印をつける.印はマジックで点をつける程度で 十 分 だ が , EBT2 で は 表 裏 を 判 別 す る た め 矢 印 を 推 奨 す る . (4) フ ァ ン ト ム に 対 し て フ ィ ル ム が 大 き い 場 合 や Field by Field 法 で 特 性 曲 線 を 得 る 場 合 はフィルムを切断する.切断後も方向が分かるように同じ側の隅に印をつける. III. 設 置 (1) ファントムの水平を確認し,積層形ファントムでは,フィルムとファントムの間に 隙間ができることがあるので注意する. (2) 放射線と治療寝台との干渉の有無を確認する. (3) 検証用フィルムにはアイソセンタがわかるように四点程度のマーカーをつける IV. 照 射 (1) 幾何学的条件など(測定深,ビーム入射方向,照射後経過時間など)を特性曲線作 成用と検証用で,できるだけ統一することが望ましい. (2) まず特性曲線用フィルムから照射する.その後,フィルム解析ソフトで特性曲線の 作成のための操作に費やす時間と同程度の時間待機する. (3) V. 検証用フィルムを照射する. 待機 (1) フィルムは微弱ながらも紫外線に感光するため,蛍光灯の下に置かず,フィルム保 管用の箱に入れておくことが望ましい.また経過時間中の温度変化により,不均一 な 色 素 沈 着 が 生 じ る 可 能 性 が あ る の で 20 - 25℃ 程 度 の と こ ろ に 保 存 す る . (2) スキャン以降の作業を円滑に行うための用意をしておく.スキャナの無反射シート やスキャンの設定条件などの確認をしておく. VI. ス キ ャ ン (1) スキャン時にはスキャン回数依存性があるため,少なくとも 3 回は,テストスキャ ンを行う. (2) 特性曲線作成用フィルムからスキャンを行う.スキャンは赤色成分を抽出するとダ イナミックレンジが広く感度も高い. (3) フィルム解析ソフトで特性曲線を作成する (4) 検証用フィルムをスキャンする.照射後の濃度上昇を検証用と特性曲線作成用で等 しくするため,照射とスキャンの時間間隔は特性曲線作成用フィルムと統一する. 79 ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム ( Radiochromic film: 以 下 RCF) に よ る 線 量 検 証 は , 放 射 性 感 受 性 単 量 体( モ ノ マ ー )に 対 し て 放 射 線 を 照 射 す る こ と で 化 学 反 応 が 生 じ ,開 環 重 合 し て 重 合 体(ポリマー)構造となり,無色透明な物質が青色に変色する現象(ラジオクロミック現象) を 利 用 し て い る .現 像 処 理 が 不 要 な た め 自 動 現 像 機 を 所 有 し な い 施 設 を 中 心 に 広 く 利 用 さ れ て い る . RGF と 比 較 し て , RCF に は 以 下 の 長 所 と 短 所 が あ る . 長所 ・ 現像処理が不要. ・ 明室で使用可能,暗室が不要. ・ 人体軟部組織に近い実効原子番号をもつため,エネルギー依存性が小さい. ・ 切断が可能. ・ 水中で使用可能. 短所 ・ スキャンの条件によって測定値が変化する. ・ 製造ロット番号間や製造ロット番号内で濃度のばらつきが大きい. ・ 水 中 測 定 で は ,フ ィ ル ム 設 置 精 度 や 水 面 の 波 の 影 響 を 受 け る .ま た ,切 断 面 か ら フ ィ ル ム材へ水が浸潤する. ・ 原稿移動型スキャナでは,そのままスキャンできない場合がある. 7.3.1. プ ロ ト コ ル の 作 成 RGF と 同 様 に RCF を 用 い た 検 証 に お い て も , 各 施 設 で 測 定 と ス キ ャ ン の た め の プ ロ ト コ ル を 作 成 す る 必 要 が あ る . こ れ は RCF の 濃 度 が 照 射 後 の 経 過 時 間 や ス キ ャ ン 方 向 な ど 様 々 な 因 子に影響されるため,毎回の検証や作業者間で生じるばらつきを低減することを目的とする. 図 7.13 に Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (MSKCC) と 筆 者 の 測 定 プ ロ ト コ ル を 示 す . MSKCC で は 正 味 の 光 学 濃 度 ( Net OD) で 評 価 す る た め , あ ら か じ め 未 照 射 の フ ィ ル ム を ス キ ャ ン し て ベ ー ス + カ ブ リ の 濃 度 を 測 定 す る .フ ィ ル ム の ス キ ャ ン は ,照 射 後 の 濃 度 上 昇 を 考 慮 し て ,低 感 度 型 の GAFCHROMIC®-HS( 以 下 HS)フ ィ ル ム で は 照 射 の 24 時 間 後 ,高 感 度 型 の GAFCHROMIC®-EBT ( 以 下 EBT ) フ ィ ル ム で は 照 射 の 6 時 間 後 に 実 施 す る . 最 新 の GAFCHROMIC-EBT2( 以 下 EBT2) フ ィ ル ム で は 照 射 後 3 時 間 で 良 い と の 報 告 が あ る . ま た , 特 性 曲 線 用 と 検 証 用 と で 同 じ タ イ ミ ン グ に ス キ ャ ン で き る よ う 時 間 調 整 を 行 っ て い る .こ の 他 , ス キ ャ ン 回 数 は 5 回 ,解 像 度 は 150 dpi,ノ イ ズ 除 去 の た め Wiener-filter を 使 用 す る ,な ど を 設 定している. 80 7章 プロトコルの一例 MSKCCのスキャンプロトコル 特性曲線作成時 線量分布解析時 線量計測時 フィルム切断 フィルム準備 フィルム準備 照射前フィルムのスキャン(5回) 照射前フィルムのスキャン(5回) スキャナの準備,設定 フィルムに照射 フィルムに照射 フィルムに照射 EBT2:3時間待機 HS:24時間,EBT:6時間待機 照射後フィルムのスキャン(5回) 照射後フィルムのスキャン(5回) スキャナ設定統一,プレスキャン ノイズ除去,フィルタ付加 ノイズ除去,フィルタ付加 照射後フィルムスキャン Net-OD値計算 ROIでのNet-OD値計算 特性曲線にフィットさせる 特性曲線関数算出 特性曲線関数にフィットさせる 線量分布描出 不確定度の決定 不確定度の推定 解析(DD,DTA,γ解析) 図 7.13 フィルム MSKCC と 筆 者 の 測 定 プ ロ ト コ ル 7.3.2. 特 性 曲 線 の 取 得 RGF と 同 様 に ,RCF を 用 い た 線 量 測 定 で も 特 性 曲 線 を 作 成 す る 必 要 が あ り ,正 確 な 特 性 曲 線 を 取 得 す る こ と が 重 要 と な る . 特 性 曲 線 の 取 得 方 法 は Field by Field 法 , MLC セ グ メ ン ト 法 お よ び 平 行 入 射 法 に 分 類 さ れ る が , 手 順 は 現 像 処 理 を 除 け ば RGF と 同 じ で あ る ( 7.2.2 参 照 ). た だ し RCF は , 明 室 下 で 使 用 可 能 で あ る , 水 中 で の 特 性 曲 線 が 取 得 可 能 で あ る , お よ び フ ィ ルムの切断が可能である,などの特徴があるため,これらについて以下に注意点を示す. 水 中 で の 使 用 は ,固 体 フ ァ ン ト ム の 水 と の 不 等 価 性 の 問 題 や フ ィ ル ム と フ ァ ン ト ム の 圧 着 不 良 に 起 因 す る 測 定 の 不 確 か さ を 排 除 で き る 利 点 が あ る .し か し ,正 確 な フ ィ ル ム 設 置 が 困 難 で あ る こ と や 切 断 面 か ら の 水 の 浸 潤 な ど の 欠 点 も あ る た め 注 意 が 必 要 で あ る .Field by Field 法 は 照 射 毎 に フ ィ ル ム を 交 換 す る 必 要 が あ り ,煩 雑 で 設 置 位 置 の 精 度 が 大 き く 影 響 す る .ま た ,フ ィ ル ム の 交 換 毎 に 波 面 が 静 止 す る ま で 待 機 し な け れ ば な ら な い . MLC セ グ メ ン ト 法 や 平 行 入 射 法 で は ,フ ィ ル ム の 設 置 が 一 回 で あ る た め 波 面 の 影 響 は 受 け に く い .ま た ,フ ィ ル ム を 長 時 間水中に放置すると切断端から水が浸入し,フィルム濃度に影響する可能性がある. RCF は 切 断 加 工 で き る た め , 多 く の フ ィ ル ム 枚 数 を 要 す る Field by Field 法 で は 必 要 分 に 切 断 し て 用 い る こ と が 多 い . た だ し , 切 断 し た フ ィ ル ム は Vidar 社 製 な ど の 原 稿 移 動 型 ス キ ャ ナ に で は ス キ ャ ン に 工 夫 を 要 す る . 一 方 , Epson 社 製 な ど の フ ラ ッ ト ベ ッ ド 型 で は 問 題 と な ら な い. 特 性 曲 線 の 取 得 方 法 に よ る 測 定 精 度 に つ い て , Ferreira ら 1) はビームに対してフィルムを垂 直 に 設 置 し た 場 合 と ,平 行 に 設 置 し た 場 合 と を 比 較 し て い る .調 査 対 象 は Epson 社 製 の フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ と EBT で あ る . フ ィ ル ム に 垂 直 に 照 射 す る ほ う が 高 精 度 で あ り , 全 体 の 不 確 か さ は 2%程 度 と 報 告 し て い る . こ の た め , 垂 直 に 照 射 す る Field by Field 法 や MLC セ グ メ ント法では不確かさを低減できると考えられる. 81 図 7.14 に 特 性 曲 線 取 得 時 の セ ッ ト ア ッ プ 例 を 示 す . ま た , 表 7.3 に Field by Field 法 で 照 射 す る MU 設 定 値 と 水 吸 収 線 量 の 例 を 示 す . 線 量 と 濃 度 の サ ン プ ル 数 に つ い て AAPM TG-69 2 ) で は 13 ス テ ッ プ 以 上 を 推 奨 し て い る が , IMRT の 検 証 で は 低 線 量 部 分 が 重 要 と な る た め 100 cGy 以下を多数取得すると良い. 図 7.14 表 7.3 特 性 曲 線 の MU 設 定 値 と 水 吸 収 線 量 ( cGy) の 例 水 吸 収 線 量 ( cGy) MU 値 82 特性曲線取得時のセットアップ例 4 MV 6 MV 10 MV 18 MV 10 7.36 7.86 8.39 8.93 25 18.41 19.65 20.97 22.34 50 55.23 39.29 41.94 44.68 75 55.23 58.94 62.90 67.02 100 73.64 78.59 83.87 89.35 125 92.05 98.24 104.84 111.69 150 110.46 117.89 125.81 134.03 200 147.28 157.18 167.75 178.71 250 184.09 196.48 209.68 223.38 300 220.91 235.77 251.62 268.06 350 257.73 275.07 293.56 312.74 400 294.55 314.36 335.49 357.42 450 331.37 353.66 377.43 402.09 500 368.19 393.03 419.36 446.77 7章 フィルム 7.3.3. ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム の 特 性 RCF は 現 像 処 理 が 不 要 で 明 室 下 で 取 り 扱 え る た め , 自 動 現 像 機 や 暗 室 が 不 要 で あ る . ま た , 銀 粒 子 を 含 ま ず ,主 に 炭 素 ,水 素 ,酸 素 で 構 成 さ れ る た め 人 体 軟 部 組 織 の 組 成 に 近 い .こ の た め , RGF で 問 題 と な る エ ネ ル ギ ー 依 存 性 が 小 さ い . RCF の 着 色 は 図 7.15 に 示 す よ う に 放 射 性 感 受 性 単 量 体 ( モ ノ マ ー ) に 放 射 線 を 照 射 す る こ と で 化 学 反 応 し ,開 環 重 合 し て 重 合 体( ポ リ マ ー )構 造 と な り ,無 色 透 明 な 物 質 が 青 色 に 変 色 す る 現 象 ( ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク 現 象 ) を 利 用 し て い る . 3)~11 ) . 図 7.15 7.3.3.1. ラジオクロミック現象の概念図 GAFCHROMIC®フ ィ ル ム の 特 性 GAFCHROMIC®フ ィ ル ム ( 以 下 GAF) は 米 国 の ISP 社 が 開 発 し た 医 療 用 の RCF で あ る . 現 在 市 販 さ れ て い る 主 な GAF を 表 7.4 に 示 す . GAF は 診 断 エ ネ ル ギ ー ( kV) 領 域 と 治 療 エ ネ ル ギ ー( MV)領 域 の 2 種 類 に 分 類 で き ,GAFCHROMIC® RTQA2( 以 下 RTQA2)と GAFCHROMIC® EBT2( 以 下 EBT2) が 治 療 エ ネ ル ギ ー 領 域 に 対 応 し て い る . 従 来 の GAF と 比 較 し て , 新 し い タ イ プ は 放 射 線 に 対 し て 高 感 度 と な る よ う 改 良 さ れ て い る . 低 感 度 の GAF は 現 在 で も ガ ン マ ナイフの線量測定などに利用されている. EBT2 は 透 過 型 フ ィ ル ム で IMRT の 線 量 検 証 な ど の 定 量 的 評 価 を 目 的 に ,RTQA2 は 反 射 型 フ ィ ル ム で 幾 何 学 的 QA な ど の 定 性 的 評 価 を 目 的 に 開 発 さ れ た .こ れ ら は 2009 年 か ら 市 販 さ れ , そ れ ぞ れ EBT や RTQA の 後 継 モ デ ル で あ る . EBT は 青 色 で あ っ た が EBT2 は 黄 色 の フ ィ ル ム となっている. 図 7.16 に RTQA,EBT お よ び EBT2 の 構 成 図 を 示 す .共 通 す る の は ,ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク 現 象 を 呈 す る 有 感 層( Active layer)の 組 成 で あ る .RTQA と EBT は 有 感 層 の 厚 み と 層 数 が 同 じ で あ る が ,EBT2 は 有 感 層 の 厚 み が 従 来 比 で 約 2 倍( 30 μm)と な り ,有 感 層 が 1 層 と な っ た .RTQA 83 は 白 色 ポ リ エ ス テ ル を ベ ー ス に 有 感 層 が あ り ,黄 色 ポ リ エ ス テ ル で ラ ミ ネ ー ト さ れ た 非 対 称 構 造 で あ る .EBT は Surface layer を 中 心 に 二 層 の 有 感 層 が あ り ,表 面 は 透 明 ポ リ エ ス テ ル で ラ ミ ネ ー ト さ れ た 対 称 構 造 で あ る .EBT2 で は 厚 さ 175 μm の ポ リ エ ス テ ル を ベ ー ス と し て 有 感 層 と 接 着 層 ( Adhesive layer) が 存 在 し , ポ リ エ ス テ ル で ラ ミ ネ ー ト 加 工 さ れ た 非 対 称 構 造 で あ る . こ の た め , EBT2 は 表 裏 依 存 性 や ス キ ャ ン 設 定 の 注 意 点 が EBT と 異 な る 可 能 性 が あ る . EBT2 の 使 用 上 の 注 意 点 お よ び 特 性 に つ い て は 7.3.3.2 に 示 す . 図 7.17 に MD-55 と EBT の 有 感 層 を 電 子 顕 微 鏡 で 観 察 し た も の を 示 す .MD-55 で は 球 状 に 近 い が ,EBT で は 針 状 の 構 造 に な っ て い る .EBT は 直 径 1~ 2 μm,長 さ 15 μm 程 度 の 感 応 物 質 が 均一に配列されているため,粒状性が大幅に改善されている. GAF の 利 点 の 一 つ と し て エ ネ ル ギ ー 依 存 性 が 小 さ い こ と が 挙 げ ら れ る . 図 7.18 は エ ネ ル ギ ー に 対 す る 水 /フ ィ ル ム の 質 量 エ ネ ル ギ ー 吸 収 係 数 比 ( µen ρ )Film お よ び 水 /フ ィ ル ム の 制 限 質 量 water 衝 突 阻 止 能 比 ( L ρ )Film を 示 す . 1 MeV か ら 10 MeV の 範 囲 に お い て , ( µen ρ )Kodak は 1.1 か ら 0.7 water water ま で 変 化 し て い る の に 対 し , ( µen ρ )EBT は ほ ぼ 一 定 の 値 を 保 っ て い る .同 様 に , ( L ρ )Film に つ い water water て も RGF と 比 較 し て RCF は 変 化 が 小 さ い こ と が 観 察 で き る . 表 7.4 市販されているガフクロミックフィルムの特性 MD-V2-55 XR-RV2 XR-QA2 XR-CT RTQA2 EBT2 枚 数 /箱 5 25 10 50 25 25 サイズ 14 x 15 35.5 x 42.5 25.5 x 20.5 12 x 1.75 25.5 x 25.5 25.5 x 20.5 2 - 100 Gy 1 - 5000 cGy 0.2 - 50 cGy 0.1 - 20 cGy 2 - 800 cGy 1 - 1000 cGy [cm x cm] 測定可能 線量域 対応線質 30 keV - 30 MeV 図 7.16 84 20 - 200 kVp ガフクロミックフィルムの構造 数 keV - 数 MeV 7章 フィルム 図 7.17 電 子 顕 微 鏡 で 観 た MD-55 と EBT の 有 感 層 の 構 造 の 違 い . (a) RGF 図 7.18 7.3.3.2. (b) RCF 水に対する質量エネルギー吸収係数比と質量衝突阻止能比 12) EBT2 の 特 性 EBT2 の 特 性 に つ い て , ISP 社 に よ る と , 1) 黄 色 ベ ー ス の 透 過 型 フ ィ ル ム で 線 量 投 与 に 対 す る 反 応 の 再 現 性 が 良 い , 2) keV か ら MeV ま で の 広 い エ ネ ル ギ ー に 対 応 し て お り エ ネ ル ギ ー 依 存 性 が 小 さ い , 3) 白 色 光 ( 紫 外 線 含 む ) に 対 す る 許 容 が 大 き い , 4) 切 断 時 に 断 端 の ダ メ ー ジ が少ない,とされている. EBT2 は EBT の 後 継 モ デ ル で あ り ,特 性 は EBT に 準 ず る .そ の た め EBT2 の 使 用 上 の 注 意 点 は EBT と 同 様 と 考 え て よ い . 実 際 に EBT お よ び EBT2 の 比 較 試 験 を 行 っ た 結 果 , フ ィ ル ム 本 来 の 均 質 性 は EBT と EBT2 そ れ ぞ れ 1.2%と 1.3%で あ り EBT の ほ う が 優 れ て い た が ,そ の ほ か の 不 確 か さ に つ い て は EBT フ ィ ル ム と 相 違 な か っ た . こ れ ま で 多 く の 研 究 者 が , EBT の 基 礎 特 性 と IMRT 線 量 検 証 に お け る 有 用 性 を 報 告 し て い る 14)~ 19) . こ こ で は EBT ま た は EBT2 に つ いて,以下の注意すべき特性を解説する.その他の報告は付録に列挙する. (1) GAF の 吸 収 ス ペ ク ト ル に よ る 測 定 可 能 線 量 の 相 違 (2) エ ネ ル ギ ー 特 性 85 (3) 水 の 浸 潤 (4) ス キ ャ ン (1) GAF の 吸 収 ス ペ ク ト ル に よ る 測 定 可 能 線 量 の 相 違 GAF の 吸 収 ス ペ ク ト ル の 特 性 の た め , ス キ ャ ン 時 に 選 択 さ れ る RGB 成 分 で 特 性 曲 線 の 形 状 が 異 な る . EBT の 吸 収 ス ペ ク ト ル の ピ ー ク の 波 長 は 635 nm で あ る た め , 赤 色 成 分 を 利 用 す る ことでダイナミックレンジが広く高精度な測定が可能である 20) . Devic ら 21 ) は EBT を 用 い た 線 量 測 定 に お い て RGB の 各 成 分 に つ い て ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ の 最 適 化 を 行 い , 1.5%未 満 の 標 準 不 確 か さ で 赤 色 成 分 で は 0 - 4 Gy, 緑 色 で は 4 - 50 Gy, 青 色 は 50 Gy 以 上 に 対 応 し た 測 定 が で き る と し て い る . Marker dye の 吸 収 ス ペ ク ト ル が 400 - 450 nm に 存 在 す る こ と を 除 い て , こ の 特 性 は EBT2 も 同 様 で あ る . Marker dye と は , 紫 外 線 な ど に よ る 影 響 を 低 減 す る た め に 付 加 さ れ た 色 素 で あ る .し か し Marker dye の 吸 収 ス ペ ク ト ル は 照 射 前 後 で 変 化 し な い た め ,実 際 に は 有 感 層 の 吸 収 ス ペ ク ト ル の 変 化 ,す な わ ち 照 射 後 に は 赤 色 成 分 の 吸 収 ス ペ ク ト ル の 上 昇 の み が 反 映 す る ( 図 7.19). ま た フ ィ ル ム 断 面 が 非 対 称 で あ る た め ,表 面 か ら の ス キ ャ ン と 裏 面 か ら の ス キ ャ ン で 濃 度 が 異 な る 可 能 性 が あ る .図 7.20 に EBT2 を 赤 色 成 分 と 緑 色 成 分 に つ い て ,そ れ ぞ れ 表 裏 で ス キ ャ ン し て 得 た 特 性 曲 線 を 示 す . 表 裏 に よ る 違 い は お よ そ 1%で あ っ た . ベ ー ス 濃 度 で は 緑 色 成 分 が 高 か っ た が ,読 み 取 り 感 度 は 赤 色 成 分 の ほ う が 高 い た め ,両 者 の 特 性 曲 線 は 途 中 で 交 差 し て いる.したがって赤色成分を利用することで,特性曲線の再現性は向上できると考えられる. 最近では赤色成分を青色成分で除すことでノイズを除去する方法が考案されている 22) .こ の 手 法 は , EBT2 が 採 用 し た Marker dye の 特 性 を 利 用 し た も の で , 吸 収 ス ペ ク ト ル の ピ ー ク 波 長 が 存 在 す る 赤 色 成 分 で の 取 得 値 は ,線 量 応 答 を 大 き く 反 映 し た 値 で あ る が ,フ ィ ル ム の 不 均 質 に よ る ノ イ ズ も 含 ま れ て い る .こ れ に 対 し て 青 色 成 分 は Marker dye の 存 在 す る ス ペ ク ト ル 領 域 で あ り ,線 量 応 答 の 影 響 は 極 め て 小 さ い .こ の 特 性 を 利 用 し て 赤 色 成 分 を 青 色 成 分 で 除 す る こ とでフィルム自身の不均質を差分して,線量応答を選択的に反映することができる. 照射後 照射前 図 7.19 EBT2 の 光 吸 収 ス ペ ク ト ル [ 中 部 放 射 線 治 療 技 術 ・ 治 療 物 理 勉 強 会 ( CRTTPG) の 実 験 結 果 ] 86 7章 図 7.20 フィルム 取 得 方 法 に よ る EBT2 の 特 性 曲 線 の 相 違 ( CRTTPG 実 験 結 果 ) (2) エ ネ ル ギ ー 依 存 性 表 7.5 に 示 す よ う に EBT2 は EBT と 同 様 に 水 素 ,窒 素 ,炭 素 ,酸 素 な ど の 元 素 で 構 成 さ れ て い る . EBT と 異 な り , EBT2 は カ リ ウ ム と 臭 素 が 微 量 に 加 わ っ て い る . EBT お よ び EBT2 の 実 効 原 子 番 号 は そ れ ぞ れ 6.98 と 6.84 で あ る . こ れ は 水 の 実 効 原 子 番 号 が 約 7.3 で あ る こ と を 考 え る と 人 体 に 近 い 組 成 で あ る . し た が っ て , ハ ロ ゲ ン 化 銀 の 感 光 作 用 を 利 用 す る RGF よ り も エネルギー依存性が小さい. 従 来 の HD-810 や MD-55 で は , 炭 素 , 水 素 , 窒 素 お よ び 酸 素 の み で 構 成 さ れ て い た た め , MV レ ベ ル と 比 較 し て kV レ ベ ル の 光 子 線 に 対 す る 感 度 が 約 25%低 下 す る 問 題 が あ っ た . し か し , EBT2 で は 塩 素 や カ リ ウ ム な ど が 加 わ り , さ ら に 有 感 層 の 組 成 の 改 善 に よ っ て 光 電 吸 収 断 面 積 が 引 き 上 げ ら れ た た め エ ネ ル ギ ー 依 存 性 が 改 善 さ れ て い る . 図 7.21 に 120, 180 kVp お よ び 6 MV 光 子 線 を EBT2 に 照 射 し た と き の 特 性 曲 線 を 示 す .HD-810 や MD-55 と 同 様 に kV レ ベ ル の 放 射 線 に 対 す る 感 度 は 低 下 し て い る が ,違 い は 10%程 度 で あ る .図 7.22 は 4 MV か ら 18 MV 光 子 線 で 得 ら れ た EBT2 の 特 性 曲 線 で あ る .治 療 領 域 の 6 MV と 18 MV に お い て も 特 性 曲 線 の 相 違 は 2%未 満 で あ っ た . 表 7.5 ラジオクロミックフィルムの構成元素の質量比. ρ Composition [Atom%] 3 Z e ff [g/cm ] H Li C N O Cl K Br Ag EBT 1.1 39.7 0.3 42.3 1.1 16.2 0.3 0 0 0 6.98 EBT2 1.2 40.85 0.1 42.37 0.01 16.59 0.04 0.01 0.01 0 6.84 87 図 7.21 図 7.22 治 療 お よ び 診 断 領 域 の 光 子 線 で 取 得 し た EBT2 の 特 性 曲 線 各 光 子 エ ネ ル ギ ー で 取 得 し た EBT2 の 特 性 曲 線 22) (CRTTPG 実 験 結 果 ) (3) 水 の 浸 潤 水 が 浸 潤 し た 領 域 の 有 感 層 は 白 濁 色 に 変 色 す る た め 測 定 精 度 に 影 響 を 与 え る .図 7.23 は EBT と EBT2 の 水 の 浸 潤 速 度 の 比 較 を 示 す . EBT は 有 感 層 と 表 面 の Topcoat の 接 合 素 材 に 天 然 ポ リ マ ー を 採 用 し た が , EBT2 は 合 成 ポ リ マ ー を 使 用 し て い る . 合 成 ポ リ マ ー は 天 然 ポ リ マ ー と 比 較 し て 構 成 が 安 定 し て い る た め 水 の 浸 潤 が 低 減 で き る . よ っ て , EBT2 は 水 中 で も 長 時 間 に わ たり使用可能である. 88 7章 図 7.23 EBT と EBT2 の 水 中 使 用 に お け る 水 の 浸 潤 度 の 相 違 フィルム 22) 7.3.3.3. RTQA2 の 特 性 EBT2 が 透 過 型 フ ィ ル ム で あ る の に 対 し ,RTQA2 は 反 射 型 フ ィ ル ム で あ る .RTQA2 は RTQA の 後 継 モ デ ル で あ り , 図 7.24 に 示 す よ う な 放 射 線 治 療 装 置 の 幾 何 学 的 な 品 質 管 理 を 目 的 と し て 製 造 さ れ た フ ィ ル ム で あ る .し か し 後 述 す る 特 性 か ら 判 断 す る と ,メ ー カ ー の 意 見 と は 異 な る が IMRT の 線 量 分 布 検 証 に も 利 用 で き る と 考 え ら れ る . 図 7.25 に RTQA2 の 6 MV と 18 MV 光 子 線 を 用 い て 赤 色 成 分 を 抽 出 し て 作 成 し た 特 性 曲 線 を 示 す . RTQA2 は EBT2 と 同 様 に ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ が 広 く , 直 線 性 が 高 い こ と が 観 察 で き る . 図 7.26 に 6 MV の 光 子 線 で 取 得 し た EBT2 と RTQA2 の 特 性 曲 線 を 示 す . RTQA2 は EBT2 よ り 線 量 と 濃 度 の 直 線 性 で は 劣 る が , 多 用 さ れ る 3 Gy 付 近 ま で は EBT2 の 赤 色 成 分 と 同 程 度 の ダ イナミックレンジを有する. RTQA2 は EBT2 と 同 じ 有 感 層 で あ る た め , エ ネ ル ギ ー 依 存 性 は 小 さ く 感 度 も 同 程 度 で あ る . 図 7.27 に 各 光 子 エ ネ ル ギ ー に お け る RTQA の 特 性 曲 線 を 示 す .エ ネ ル ギ ー に よ る 相 違 は ,50 cGy か ら 150 cGy の 範 囲 で 最 も 大 き か っ た が 3%未 満 で あ っ た .RTQA2 は RTQA と 類 似 す る 構 造 で あ る た め ,同 様 の 特 性 を 有 す る と 考 え ら れ る .こ の 他 に ,RTQA2 は EBT2 よ り 薄 く ,切 断 加 工 し や す い 利 点 が あ る .し か し な が ら ,低 線 量 領 域 で の 反 応 再 現 性 は EBT2 よ り 劣 る の で 注 意 が 必要である. 図 7.24 RTQA2 の 使 用 用 途 の 一 例 89 18MV red channel ADC value ADC value 6MV red channel Dose (Log) Dose (Log) 図 7.25 RTQA2 の 特 性 曲 線 ( CRTTPG 実 験 結 果 ) 35 30 net N et A DADC C valu 25 20 R ed 15 G re en B lu e 10 R TQ A2 5 0 0 100 200 30 0 400 線量 (cGy) 50 0 600 70 0 D ose (c G y) 図 7.26 EBT2( 各 色 成 分 ; Red, Green, Blue) と RTQA2( 赤 色 成 分 ) の 特 性 曲 線 図 7.27 90 光 子 エ ネ ル ギ ー に よ る RTQA の 特 性 曲 線 の 相 違 . 7章 7.3.3.4. フィルム 照射後の濃度上昇 RCF に は 照 射 後 に 徐 々 に 濃 度 が 上 昇 す る 現 象 ( Post-exposure density growth) が あ る . EBT2 と RTQA2 は 照 射 後 2 時 間 で 濃 度 上 昇 の 95%が 生 じ , お よ そ 6 時 間 で 飽 和 す る と さ れ て い る . こ の 影 響 を 低 減 す る た め に , 1) 濃 度 が 安 定 ( 飽 和 ) す る ま で 待 機 す る こ と , 2) 全 て の フ ィ ル ムにおいて照射からスキャンまでの経過時間が等しくなるよう調整すること,が重要である. 図 7.28 は HS お よ び EBT2 の 照 射 後 の 濃 度 上 昇 を 示 す .HS は EBT2 よ り 濃 度 安 定 ま で に 時 間 を 要する. 照射後の濃度上昇(HS) 照射後の濃度上昇(EBT2) OD値 1.4 OD値 0.35 1.2 0.30 1 0.25 0.8 0.20 0.6 0.15 0.4 10Gy 0.2 30Gy 0 0 6 12 24 0.10 20Gy 40Gy 48 0.00 72 経過時間 【時間】 (a) 図 7.28 0.5Gy 1Gy 2Gy 4Gy 0.05 0 1.5 3 6 12 24 経過時間 【時間】 (b) HS (a) と EBT2 (b) の 照 射 後 濃 度 上 昇 現 象 の 比 較 ( CRTTPG 実 験 結 果 ) 7.3.4. 線 量 測 定 の 不 確 か さ RCF を 用 い た 線 量 測 定 に お け る 不 確 か さ は ,フ ィ ル ム 自 身 の 特 性 に 由 来 す る 項 目 と ス キ ャ ン に 由 来 す る 項 目 に 分 類 さ れ る .特 に ス キ ャ ン 時 の 不 確 か さ が 大 き く ,線 量 測 定 精 度 に 大 き く 影 響 す る .以 下 に 各 項 目 の 不 確 か さ の 要 因 を 示 す .モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト は フ ィ ル ム の 階 層 間 で の 密 度 が 影 響 す る た め 前 者 に 分 類 さ れ て も 良 い が ,ス キ ャ ナ の 設 定 に よ り 低 減 で き る た め 後 者 とした. (1) フ ィ ル ム 特 性 に 由 来 す る 項 目 ・フィルムの不均質 ・製造ロット番号間での違い ・製造ロット番号内での違い ・特性曲線の精度 ・切断断端の階層剥離による不均質 ・照射後の濃度上昇の影響 (2) ス キ ャ ン に 由 来 す る 項 目 ・スキャナタイプの違い ・スキャナ位置依存性 ・モアレアーチファクト ・スキャナ設定の違いによる取得値のばらつき ・スキャナ使用時の環境による取得値のばらつき 91 こ こ で , ス キ ャ ン に 関 す る 項 目 は 7.4 節 を 参 照 さ れ た い . Buttum ら 2 3) は RCF を 使 用 す る 際 に 統 一 し た プ ロ ト コ ル を 用 い て も 全 体 と し て 2%程 度 の 不 確 か さ が あ る と 報 告 し て い る( 表 7.6). 表 7.6 EBT で の 線 量 測 定 の 不 確 か さ の 推 定 22) . 相対不確かさ% 不確定要素 ( 1SD) スキャナ依存性 0.3% スキャン位置依存性 1.0%以 内 スキャンモード依存性 1.0%以 内 OD-Dose の 正 確 性 0.5% 製造ロット番号内のばらつき 0.5% 製造ロット番号間のばらつき 0.2% バックグラウンドのばらつき 0.5% エネルギー依存性 0.5% 角度依存性 0.5% フィルム本来の不均質 1.1% 7.3.5. 付 録 7.3.5.1. ラジオクロミックフィルムの歴史と変遷 ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク 現 象 の 発 見 は 古 く , 1960 年 代 か ら 物 質 化 学 の 領 域 で 利 用 さ れ て き た 24) . 1980 年 代 に は ,放 射 線 感 受 性 単 量 体 を 薄 層 コ ー テ ィ ン グ す る こ と に よ っ て フ ィ ル ム 線 量 計 と し て 使 用 さ れ , 1990 年 代 に ISP 社 (米 国 )が 開 発 し た GAFCHROMIC® film の 登 場 に よ っ て 医 療 界 でも広く認知されるようになった. 日 本 で RCF が 使 用 さ れ た 当 初 は 感 度 が 低 く , 青 色 に 染 色 す る に は 高 線 量 を 投 与 す る 必 要 が あ っ た .ま た 使 用 方 法 が あ る 程 度 確 立 し て い た RGF と 比 較 し て ,RCF は 照 射 後 濃 度 上 昇 効 果 , ス キ ャ ン 時 の 方 向 依 存 性 お よ び フ ィ ル ム 自 体 の 不 均 質 な ど の 問 題 が あ っ た た め ,RCF を 利 用 し な い ユ ー ザ ー も 多 か っ た .ま た 高 価 で あ っ た こ と も 普 及 す る に 至 ら な か っ た 原 因 と 考 え ら れ る . AAPM report No.63 は 当 時 RCF の 主 流 で あ っ た GAFCHROMIC® MD-55 や GAFCHROMIC® HD-810 を 中 心 に 基 礎 特 性 と 使 用 法 が 細 か く 記 載 さ れ て お り , RCF の 使 用 上 の 注 意 点 が 多 い こ とを認識させる 25) . 図 7.29 に 示 す よ う に , 1990 年 代 か ら 10 年 余 り の 間 に フ ィ ル ム の 構 造 , 有 感 層 の 組 成 変 更 , 透 過 型 や 反 射 型 の フ ィ ル ム の 登 場 と い う 流 れ で 複 数 の フ ィ ル ム が 登 場 し た .ス キ ャ ナ も 依 然 は 光電子増倍管を用いたドラム式スキャナが主流であった 26) .し か し ,現 在 で は シ リ コ ン フ ォ ト ダ イ オ ー ド の 機 能 向 上 や カ ラ ー フ ィ ル タ リ ン グ 機 能 の 充 実 な ど に よ り ,読 み 取 り 精 度 が 向 上 し たリニアイメージセンサタイプが主流となっている 27) .こ れ ら 使 用 環 境 の 変 化 や ,放 射 線 治 療 領域のエネルギーにおける取り扱いの向上および医療現場のデジタル化への要望によって, RGF に 代 わ り RCF の 使 用 頻 度 が 増 し て い る . 92 7章 フィルム EBT は 有 感 層 の 構 成 を 変 更 す る こ と で 高 感 度 と し た フ ィ ル ム で あ り ,低 感 度 で あ っ た HS の 約 10 倍 の 感 度 を 有 す る . ま た 最 大 吸 収 波 長 は HS の 671 nm か ら EBT で は 636 nm に シ フ ト し た .後 に Devic ら は 4 種 類 の GAF( HD-810, MD-55, HS, EBT)に つ い て そ の 吸 収 ス ペ ク ト ル と 感 度 を 調 査 し た( 図 7.30).彼 ら の 研 究 に よ る と 4 種 類 の モ デ ル の 中 で HD-810 の 感 度 が 一 番 低 く , MD-55, HS, EBT と 後 発 モ デ ル に な る に つ れ 高 感 度 で あ っ た と 報 告 し て い る . な か で も HS と EBT の 感 度 は そ れ ぞ れ 0.06233 OD un/Gy と 0.52333 OD un/Gy で あ り ,EBT は HS の 8 - 9 倍 の 感 度 を 示 し た .最 大 吸 収 波 長 は ,HS で 673 nm,EBT で 635 nm を 示 し ,ISP 社 の 公 表 コ メ ン ト に 概 ね 一 致 し て い る 20) .EBT 以 降 の モ デ ル で は 高 感 度 型 が 主 流 で あ り ,EBT2 お よ び RTQA2 も同様に感度が高い. 図 7.29 図 7.30 ガフクロミックフィルムの変遷 各種ガフクロミックフィルムの吸収スペクトルと感度の違い. 93 7.3.5.2. 高感度型フィルムの種々の測定への応用 EBT は IMRT の 線 量 検 証 だ け で な く ,さ ま ざ ま な 用 途 で 放 射 線 治 療 の 線 量 測 定 に 使 用 さ れ て い る .Butson ら は 光 子 線 に よ る 外 部 照 射 に お い て 治 療 寝 台 に よ る 線 量 上 昇 お よ び 皮 膚 線 量 の 測 定を 28) , Su ら は 全 身 照 射 に お け る 皮 膚 線 量 の 測 定 を そ れ ぞ れ EBT で 行 っ て い る 29) .また, Nioutsikou ら は CyberKnife を 用 い た 呼 吸 追 跡 照 射 の 検 証 と し て EBT を 使 用 し , 腫 瘍 と 胸 壁 の 位相の検証を行なっている Bufacchi ら 32 ) 30 や Lightfoot ら . Gerbi ら は 電 子 線 に 対 す る EBT の 基 礎 特 性 を 報 告 し て お り 33) 31) , は EBT を 用 い て 全 身 電 子 線 照 射 の 線 量 測 定 を 行 な っ て い る .ま た , Poon ら は EBT を 用 い て 小 線 源 治 療 に お け る 有 用 性 を モ ン テ カ ル ロ コ ー ド の 一 つ で あ る GEANT4 と 比 較 す る こ と に よ っ て 示 し た 証を行なった 35) 34) . Chiu-Tsao ら は EBT を 用 い た Cs 小 線 源 治 療 の 検 . Le ら は 術 中 小 線 源 治 療 に お け る 検 証 を 行 な っ て い る 36) . こ の よ う に EBT フ ィ ル ム は 光 子 線 外 部 照 射 の み で な く , 小 線 源 治 療 の 検 証 に も 使 用 で き る こ と が 実 証 さ れ て い る . EBT2 に 関 す る 論 文 は ま だ 少 な い が , EBT と 同 様 に 幅 広 い 分 野 に 応 用 できるであろう. 参考文献 1. Ferreira BC, Lopes MC and Capela M: Evaluation of an Epson flatbed scanner to read Gafchromic EBT films for radiation dosimetry. Phys. Med. Biol. 54: 1073-1085, 2009 2. Pai S, Das IJ, Dempsey JF, et al.: TG-69: Radiographic film for megavoltage beam dosimetry. Med. Phys. 34: 2228-2258, 2007 3. Abdel RF, Abdel AS and Abdel AAF: A radiochromic dye film for UV dosimetry. J. Photochem. Photobiol. 64: 123-131, 1992 4. 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Onkol. 84: S53-53, 2007 〔林〕 96 7章 7.4. フィルム スキャナ ス キ ャ ナ に は 図 7.31 に 示 す よ う に , 原 稿 を 移 動 す る 形 式 と 原 稿 を 固 定 し て 使 用 す る 形 式 が あ る .Vidar 社 製 は シ ー ト フ ェ ッ ド ス キ ャ ナ ,Epson 社 製 は 原 稿 固 定 型 の フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ に 分 類 さ れ る . 主 な ス キ ャ ナ の 特 性 を 表 7.7 に 示 す . フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ は ,反 射 光 ま た は 透 過 光 を 使 用 す る .反 射 光 を 用 い た ス キ ャ ナ は 安 価 で あ る が ,RTQA な ど の 反 射 型 フ ィ ル ム を 用 い る 場 合 を 除 い て ,ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ が 小 さ い,フィルムの反り返りによる濃度への影響が大きい,などの理由で推奨できない. 図 7.31 ス キ ャ ナ の 種 類 表 7.7 主 な ス キ ャ ナ の 特 性 Vidar VXR-12 Vidar VXR-16 EPSON DosimetryPro 10000G 3.65 3.8 最高光学濃度 2.3 ( net 値 ) (測定値) 濃度階調 12 bit 16 bit 位置分解能 299 dpi 285 dpi (メーカー公称値) (メーカー公称値) 白 黒 16 bit カ ラ ー 各 色 16bit 2400 dpi 7.4.1. 画 像 品 質 を 決 定 す る 因 子 画 像 品 質 を 決 定 す る 3 大 因 子 は (1) 解 像 度 ,(2) 階 調 性 ,(3) 色 再 現 性 で あ り ,い ず れ も 検 証 結果に影響を及ぼす. 解 像 度 と は ,単 位 幅 を い く つ の 点 の 集 合 と し て 表 現 す る か の 尺 度 で あ り ,画 像 の 極 め 細 や か さ を 決 め る 因 子 で あ る .単 位 幅 に 対 し て サ ン プ リ ン グ 数 が 多 い ほ ど 自 然 に 近 い 画 質 が 得 ら れ る . 解 像 度 は デ ィ ス プ レ イ の 場 合 は 画 面 に 表 示 す る ド ッ ト 数 で 表 さ れ る が ,ス キ ャ ナ や プ リ ン タ の 97 場 合 は 1 イ ン チ あ た り の ド ッ ト 数 と し て 表 さ れ , 単 位 は dpi( dots per inch) を 用 い る . 階 調 性 と は ,色 の 幅 を ど れ だ け 細 か く 段 階 別 に 示 せ る か の 尺 度 で あ り ,濃 度 変 化 の 滑 ら か さ を 決 め る 因 子 で あ る . 単 位 は bit を 用 い , 2 の 累 乗 数 で 表 さ れ る . 例 え ば 12 bit な ら ば 2 1 2 す な わ ち 4096 階 調 で あ り ,4096 段 階 の 明 暗 の 分 解 能 が あ る と い う こ と で あ る .16 bit な ら ば 65536 階 調 で あ る .ス キ ャ ナ で 画 像 を 読 み 込 ん だ 時 に 濃 度 は ADC 値 と し て 示 さ れ る が ,16 bit で 読 み 込 ん だ 時 は ADC 値 の 範 囲 は 0 か ら 65535 で 示 さ れ る . ま た , カ ラ ー モ ー ド に お け る 48 bit と は , 各 原 色 ( RGB な ど ) そ れ ぞ れ に つ い て 16 bit で 読 み 込 む こ と を 示 す . フ ィ ル ム に よ る 線 量 測 定 で は ,線 量 の 分 解 能 が 重 要 と な る .線 量 の 分 解 能 と は ,線 量( 濃 度 ) の 違 い を ど れ だ け 詳 細 に 判 別 で き る か で あ り , ス キ ャ ナ の 階 調 性 に 依 存 す る . 図 7.32 は 線 量 と ADC 値 の 関 係 を 示 し ,縦 軸 は 対 数 表 示 し た ADC 値 ,横 軸 は 線 量 で あ る .Vidar 社 製 VXR-12 plus は 12 bit, EPSON 社 製 ES-10000G は 16 bit の 階 調 性 を 有 す る . VXR-12 plus は 0 - 50 cGy で ADC 値 が 1500 程 度 の 変 化 を 示 す た め , 約 0.03 cGy/ADC 値 と な る . 一 方 で 300 - 350 cGy で は , ADC 値 は 20 程 度 し か 変 化 し な い た め 約 2.5 cGy/ADC 値 と な り 線 量 分 解 能 が 低 下 す る . そ の た め 階 調 性 の 低 い ス キ ャ ナ を 使 用 す る と ,フ ィ ル ム に よ る 線 量 測 定 精 度 を 低 下 さ せ る 原 因 と な る . 一 方 で , 16 bit の 階 調 性 を 有 す る ES-10000G は 高 線 量 で あ っ て も 分 解 能 が 低 下 す る 事 は な く ,線 量 測 定 精 度 は 良 好 で あ る .こ の よ う な 図 を 作 成 す る こ と で ,フ ィ ル ム に よ る 線 量 測 定 システム全体での測定可能な線量域を判断できる. 色 再 現 性 と は 同 じ 色 を 伝 え る 能 力 の こ と で あ る .フ ィ ル ム に 光 を 当 て て ,反 射 し た 光 を 読 み 取 る 際 に そ の 光 を 正 し く 認 識 し な け れ ば 正 し い デ ー タ と は 言 え な い .色 再 現 性 を 左 右 す る 因 子 に 蛍 光 ラ ン プ の 発 光 ス ペ ク ト ル ,カ ラ ー フ ィ ル タ リ ン グ の 分 光 性 能 ,リ ニ ア イ メ ー ジ セ ン サ の 分 光 感 度 が 挙 げ ら れ る .ス キ ャ ナ の 経 年 変 化 に よ り 色 再 現 性 が 劣 化 す る と 赤 色 ス ペ ク ト ル に 対 し て 高 い 吸 収 を 示 す RCF で は ス キ ャ ン 効 率 が 低 下 す る . 同 様 に 赤 色 LED を 用 い た ス キ ャ ナ で あっても,センサの分光感度が劣化すればスキャン効率は低下する. 100000 ADC 値 10000 1000 100 VXR-12 plus ES-10000G 10 1 0 100 200 300 線量 [cGy] 400 図 7.32 同 じ フ ィ ル ム を ス キ ャ ン し た 時 の VXR-12 plus と ES-10000G の 特 性 曲 線 98 7章 フィルム 7.4.2. 種 類 に よ る 特 性 の 相 違 ス キ ャ ナ の 種 類 に よ り フ ィ ル ム 濃 度 が 変 化 す る た め 注 意 が 必 要 で あ る .図 7.33 1) に 示 す 通 り , EDR2 で は Epson と Vidar-log で 一 致 す る の に 対 し ,EBT で は Vidar-log 条 件 で PDD が 階 段 状 と な り Epson と 異 な る .た だ し ,Vidar-linear 条 件 で は Epson と 良 く 一 致 す る .Epson 社 製 の ス キ ャ ナ で は , EBT と EDR2 で 差 は 少 な い . 同 様 に 図 7.34 1) に IMRT の 線 量 分 布 検 証 に お け る 解 析 結果の違いを示す. 図 7.33 フ ィ ル ム と ス キ ャ ナ の 組 み 合 わ せ に よ る PDD 曲 線 の 相 違 1) 図 7.34 フ ィ ル ム と ス キ ャ ナ の 組 み 合 わ せ に よ る , IMRT 線 量 分 布 測 定 結 果 の 相 違 1) 99 7.4.3. 解 像 度 ス キ ャ ン 解 像 度 は 画 質 を 決 定 す る 重 要 な 因 子 で あ り ,測 定 結 果 に も 影 響 を 与 え る .ス キ ャ ン 解 像 度 は 高 い ほ ど 位 置 分 解 能 が 向 上 す る が ,同 時 に デ ー タ 量 の 増 大 や ノ イ ズ の 増 大 な ど の 欠 点 が 生 じ る ( 図 7.35). し た が っ て , 75 - 150 dpi を 使 用 し , メ デ ィ ア ン ( 中 央 値 ) フ ィ ル タ な ど を用いてノイズを除去する方法が適当であろう. 図 7.35 ス キ ャ ン 解 像 度 に よ る プ ロ フ ァ イ ル の 相 違 ( フ ィ ル タ は 使 用 し て い な い ) 7.4.4. 光 の 散 乱 に よ る ア ー チ フ ァ ク ト 光の散乱によるアーチファクトが報告されている 2) .こ れ は フ ィ ル ム 外 や フ ィ ル ム 内 の 低 濃 度 部 で 散 乱 し た 光 が 関 心 領 域 の 受 光 部 で 検 出 さ れ る こ と に よ っ て ,入 射 光 の 透 過 度 を 過 大 評 価 するために生じる.したがって,小照射野や高濃度部や線量勾配が急峻な領域で重要となる. フ ィ ル ム 内 で 発 生 し た 散 乱 光 は 除 去 で き な い た め 補 正 は 困 難 で あ る が ,フ ィ ル ム 外 で 発 生 し た 散 乱 光 は ,遮 光 紙 や 十 分 に 黒 化 し た フ ィ ル ム な ど を ス キ ャ ン す る フ ィ ル ム の 周 囲 に 置 く こ と で 除去することが可能である. 7.4.5. 位 置 依 存 性 特性曲線取得用フィルムと検証用フィルムはできるだけ同じ位置でスキャンする必要があ る .フ ィ ル ム を 設 置 し た 位 置 に よ り ス キ ャ ナ の 感 度 が 異 な る た め ,出 力 さ れ る 濃 度 が 変 化 す る ことが報告されている 3) . 特 に CCD タ イ プ の ス キ ャ ナ で 顕 著 で あ る . 図 7.36 に 2 種 類 の フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ の OD 値 の 変 化 を 示 す 3) . い ず れ の ス キ ャ ナ に お い て も 主 走 査 方 向 ( CCD ア レ イ 配 列 方 向 ) で は , ス キ ャ ナ の 中 心 か ら 外 側 に 向 か っ て 誤 差 が 大 き く な る . Epson の 場 合 は シ ェ ー デ ィ ン グ 補 正 の 影 響 も 考 え ら れ る が ,モ デ ル に よ っ て 異 な る の で 注 意 さ れ た い .ま た , 副 走 査 方 向 (CCD ア レ イ 配 列 と 直 交 方 向 )で は 読 み 取 り 始 め の OD 値 は 大 き く ,遠 位 側 に な る に し た が っ て 低 下 し て い る .こ れ ら の 特 性 は 個 々 の ス キ ャ ナ で 異 な る た め ,あ ら か じ め 確 認 す る ことが必要である. 100 7章 フィルム 図 7.36 種 々 の 均 一 な 濃 度 の ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム を ス キ ャ ン し た プ ロ フ ァ イ ル 3) EPSON 社 製 a)主 走 査 方 向 , b) 副 走 査 方 向 Microtek 社 製 c) 主 走 査 方 向 , d) 副 走 査 方 向 7.4.6. 表 面 温 度 依 存 性 Lynch ら は , ス キ ャ ナ の 表 面 温 度 が OD に 影 響 す る こ と を 報 告 し て い る 3) .これは蛍光ラン プ の 温 度 上 昇 に よ り ,CCD の シ リ コ ン フ ォ ト ダ イ オ ー ド の 温 度 特 性 が 変 化 す る た め に 生 じ る と 推 測 さ れ る .図 7.37 の よ う に ,ス キ ャ ナ の 表 面 温 度 が 上 が る ほ ど ,OD 値 は 高 く な る 傾 向 に あ る . ま た 濃 度 の ば ら つ き も , 低 線 量 で は 7%程 度 , 300 cGy 以 上 の 線 量 で は 1.5%程 度 ま で 増 加 し た と 報 告 し て い る .こ の た め ,連 続 し て ス キ ャ ン を 行 わ な い な ど ス キ ャ ナ の 温 度 変 化 を 低 減 するための工夫が必要である. 図 7.37 ス キ ャ ナ ベ ッ ド の 温 度 に よ る フ ィ ル ム 濃 度 へ の 影 響 3) 101 7.4.7. 回 数 依 存 性 スキャナの出力値は,電源投入からスキャンまでの時間間隔とスキャン回数に依存する. Mersseman と De Wagter は , 電 源 投 入 直 後 は ス キ ャ ナ の デ ジ タ ル 出 力 値 が 安 定 せ ず , フ ィ ル ム 濃 度 が 徐 々 に 上 昇 す る 傾 向 が あ る た め , 電 源 投 入 か ら 安 定 す る ま で 15 分 以 上 必 要 で あ っ た と 報告している 4) .よって,あらかじめスキャナの電源を入れておくことを推奨する. ス キ ャ ン を 行 う た び に 濃 度 が 変 化 し ,安 定 す る ま で 数 回 の ス キ ャ ン を 必 要 と す る と い う 報 告 がある 5) .図 7.38(a)は プ レ ビ ュ ー 機 能 を 持 つ ス キ ャ ナ ,図 7.38(b)は プ レ ビ ュ ー 機 能 の 無 い Vidar VXR-12 を 使 用 し た 結 果 で あ る . 測 定 結 果 を 安 定 さ せ る た め , 3 回 程 度 の 予 備 ス キ ャ ン 後 に 検 証用フィルムをスキャンすることを推奨する. 0.112 0.8 プレビュー無し 0.111 プレビュー有り 0.4 ODi-ODmean /ODmean [ ] 光学濃度値 0.111 0.2 0.110 0.0 0.110 -0.2 0.109 -0.4 0.109 -0.6 0.108 0.108 -0.8 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 スキャン回数 (a) 図 7.38 200 cGy 100 cGy 50 cGy 25 cGy 0.6 11 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 スキャン回数 (b) 読 み 取 り 回 数 に よ る フ ィ ル ム 濃 度 へ の 影 響 .(a)EPSON 社 製 5) , (b)Vidar 社製. 7.4.8. モ ア レ 状 ア ー チ フ ァ ク ト ( RCF の み ) RCF で は , 図 7.39 に 示 す よ う な 光 干 渉 性 の モ ア レ の 発 生 に 注 意 が 必 要 で あ る . こ の 現 象 は 偽 像 と な る た め に モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト と 呼 ば れ ,測 定 誤 差 の 原 因 と な る .画 像 学 で も モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト と い う 用 語 が あ る が ,こ の 場 合 は 画 像 の 量 子 化・標 本 化 に お い て サ ン プ リ ン グ 間隔を粗くして標本化処理を行なった際にエリアシング現象によって引き起こされるもので, 本項のモアレアーチファクトとは異なる. Gluckman ら は 数 種 類 の 濃 度 測 定 器 で 比 較 を 行 い , 662 nm の 光 源 波 長 を 示 す 高 強 度 の 赤 外 発 光 ダ イ オ ー ド を 装 備 す る 濃 度 測 定 器 以 外 で は ,モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト が 発 生 し た こ と を 報 告 し ている 6) .モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト は RCF の 組 成 が 異 な る 多 層 構 造 に 起 因 し ,各 層 の 屈 折 率 が 異 な る た め に 境 界 面 で 部 分 反 射 が 生 じ る た め と さ れ て い る .ま た ,RCF と ス キ ャ ナ の ガ ラ ス 面( フ ラ ッ ト ベ ッ ド 型 ス キ ャ ナ の 場 合 )で の 反 射 も モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト を 増 強 さ せ る と 考 察 し て い る .モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト の 発 生 頻 度 は フ ィ ル ム 設 置 面 へ の 圧 力 に 依 存 し ,照 射 線 量 が 少 な い ほど影響が大きく測定誤差の原因となる. モ ア レ ア ー チ フ ァ ク ト を 低 減 す る 方 法 と し て ,市 販 さ れ て い る 液 晶 モ ニ タ の 反 射 防 止 シ ー ト を ス キ ャ ナ の ガ ラ ス 面 に 貼 り 付 け ,か つ 適 度 に 荷 重 を か け た 状 態 で ス キ ャ ン す る こ と が 有 効 で ある.また,スキャン画像の数学的処理により発生を抑制させる方法も試みられている. 102 7章 フィルム Yu ら は RCF に 対 し て ス キ ャ ン 時 の 加 圧 な し 群 と 加 圧 あ り 群 ( 4.5, 11.5, 24.5, 39.5 kg) で 比 較 検 討 し て い る ( 図 7.40) 7) . 加 圧 に よ る 吸 収 ス ペ ク ト ル に 有 意 差 は 無 か っ た た め , 線 量 分 布 に 顕 著 な 差 は 見 ら れ な か っ た .し か し ,フ ィ ル ム を 切 断 し た 端 部 の 濃 度 に つ い て ,加 圧 有 り で ば ら つ き が 低 減 し た と し て い る .よ っ て ,ス キ ャ ン 時 に 加 圧 す る こ と で フ ィ ル ム の 端 部 ま で 均 一に圧着され,モアレアーチファクトの発生や読取誤差を減少できると考えられる. モアレ有り モ アレ有り モアレ無し モアレ無し 図 7.39 モ ア レ 状 ア ー チ フ ァ ク ト に よ る ス キ ャ ン 画 像 の 相 違 (a) (b) 図 7.40 フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ を 使 用 し た 際 の 加 圧 に よ る 濃 度 の 相 違 7) (a) 加 圧 に よ る 光 吸 収 ス ペ ク ト ル の 変 化 (b) 加 圧 に よ る 切 断 フ ィ ル ム と 非 切 断 フ ィ ル ム の 端 部 の 濃 度 変 化 の 違 い 7.4.9. 読 取 方 向 依 存 性 ( RCF の み ) RCF は ,ス キ ャ ン 時 の フ ィ ル ム の 方 向 に よ り 濃 度 が 異 な る た め ,読 み 取 り 方 向 を 統 一 す る 必 要 が あ る .特 に ,特 性 曲 線 用 と 検 証 用 の フ ィ ル ム で 読 み 取 り 方 向 が 異 な る と ,測 定 誤 差 の 原 因 と な る た め 注 意 が 必 要 で あ る . 図 7.41 は 縦 置 き ( Portrait mode) と 横 置 き ( Landscape mode) に よ る 濃 度 の 違 い を 示 す .一 般 的 に ,Portrait mode と 比 較 し て Landscape mode で は 読 み 取 り 感 度 が 低 い 欠 点 が あ る が ,読 み 取 り 値 の 安 定 性 が 良 好 で あ る と い う 利 点 が あ る .フ ィ ル ム を 用 い 103 た 測 定 に お い て は 測 定 誤 差 を 低 減 さ せ る こ と が 重 要 で あ る た め ,フ ラ ッ ト ベ ッ ド 型 ス キ ャ ナ で は Landscape mode で の 読 み 取 り を 推 奨 す る . (a) (b) (c) 図 7.41 ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム の ス キ ャ ン 方 向 依 存 性 (a): EBT2 に お け る Landscape 方 向 と Portrait 方 向 で の ADC 値 ( 赤 色 光 ) の 違 い (b): EPSON 社 製 フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ に よ る 読 取 角 度 依 存 3) (c): Microtek 社 製 フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ に よ る 読 取 角 度 依 存 3) 7.4.10. 品 質 管 理 AAPM TG-69 8) で は ス キ ャ ナ の 受 入 試 験 と 品 質 管 理 に つ い て 表 7.7 の よ う に 提 案 し て い る .ス キ ャ ナ の 品 質 保 証 に 必 要 な 項 目 が 網 羅 さ れ て お り ,こ れ を 参 考 に 自 施 設 の 品 質 管 理 プ ロ グ ラ ム を作成,実施することを推奨する. 104 7章 表 7.7 フィルム AAPM TG-69 が 推 奨 す る ス キ ャ ナ の QA 8) 項目 手順 許容値 頻度 ウォームアップ スキャン回数や電源投入後経過時間よるス 平 均 値 で 2% 受入時 キャナ出力値の変化 ば ら つ き で 2% 毎年 既知の距離が記されているフィルムをスキ 局 所 的 な ず れ で は 1 mm ま た は 受入時 ャ ン し て ,コ ン ピ ュ ー タ 上 で 表 示 さ れ る 距 離 10 cm に わ た り 0.5 mm 以 上 の ず 毎年 との一致を確認する.両軸に対して行う. れが生じる場合は修正が必要 既 知 の 濃 度 の フ ィ ル ム を ス キ ャ ン し て ,ス キ 最 小 自 乗 近 似 で , 正 確 な OD 曲 受入時 ャナの出力値の偏差やばらつきを評価する. 線が再現できるように校正常数 毎年 を決定する. 4 半期毎 受入時 ウォームアップの手順を確立する 幾何学的精度 校正 干渉性模様のア 均 一 な 濃 度 の フ ィ ル ム を ス キ ャ ン し て ,各 濃 使用する条件下において光学濃 ーチファクトの 度でのアーチファクトの程度を確認する. 度 で 2%. 光の散乱による 均一な濃度を持つフィルムのスキャン結果 円 か ら 1 mm 以 内 の と こ ろ で OD アーチファクト とそれの中心を円形にくりぬいたもののス ≦ 5% の確認 キャン結果を比較し,相違を確認する. 実効的な解像度 フ ィ ル ム に 数 本 の 線 を 書 き ,線 間 が 1 mm 程 線の無い部分の光学濃度の増加 の評価 度になるまで順に幅を狭くしたものを作成 が 5%以 内 確認 受入時 受入時 し,スキャンを行う. スキャナの均一 小 さ く フ ィ ル ム を 裁 断 し ,ス キ ャ ナ の 読 み 取 ス キ ャ ン 位 置 に よ る 相 違 が 5% 性の評価 り 位 置 の 中 央 部 と 端 部 で ス キ ャ ン を 行 い ,そ 以内でかつプロファイルが 1 れぞれの濃度の相違により評価する. mm 以 内 の 幅 で 一 致 す る . 受入時 105 参考文献 1. Wilcox E, Daskalov G and Nedialkova L: Comparison of the epson expression 1680 flatbed and the vidar VXR-16 dosimetry PRO film scanners for use in IMRT dosimetry using gafchromic and radiographic film. Med. Phys. 34:41-48. 2007 2. 中 島 健 雄 ,山 田 聖 ,大 野 吉 美 ,他:汎 用 ス キ ャ ナ を 用 い た 線 量 分 布 解 析 シ ス テ ム の 有 用 性 . 日 放 技 会 誌 58: 833-839, 2002 3. Lynch BD, Kozelka J, Ranade MK, et al.: Important considerations for radiochromic film dosimetry with flatbed CCD scanners and EBT GAFCHROMIC® film. Med. Phys. 33: 4551-4556. 2006 4. Mersseman B and De Wagter C: Characteristics of a commercially available film digitizer and their significance for film dosimetry. Phys. Med. Biol. 43: 1803-1812, 1998 5. Paelinck L, De Neve W and De Wagter C: Precautions and strategies in using a commercial flatbed scanner for radiochromic film dosimetry. Phys. Med. Biol. 52: 231-242, 2007 6. Gluckman GR and Reinstein LE: Comparison of three high resolution digitizers for radiochromic film dosimetry. Med. Phys. 29: 1839-46, 2002 7. Yu PKN, Butson M and Cheung T: Does mechanical pressure on radiochromic film affect optical absorption and dosimetry?. Austral. Phys. Eng. Sci. Med. 29: 1-3, 2006 8. Pai S, Das IJ, Dempsey JF, et al.: TG-69: Radiographic film for megavoltage beam dosimetry. Med. Phys. 34: 2228-2258, 2007 〔小島,林〕 106 8章 2 次元検出器 目次 手順 8.1. 種類と構造 8.2. 物理特性 8.2.1. 線 量 直 線 性 8.2.2. 線 量 率 依 存 性 8.2.3. 再 現 性 8.2.4. 温 度 気 圧 依 存 性 8.2.5. 出 力 係 数 8.2.6. 方 向 依 存 性 8.2.7. 体 積 平 均 効 果 8.2.8. 空 間 分 解 能 8.3. 解析 8.3.1. 評 価 方 法 8.3.2. 解 析 例 参考文献 107 ≪2 次元検出器による線量分布検証手順≫ 項目 手順 I. (1) 2 次元検出器の物理特性の確認 (2) 3DCRT と 単 純 な IMRT の 測 定 ・ 解 析 (1) 検証プランの作成と線量分布の出力 10.2.3 (2) 2 次元検出器の搬入・設置 8.2 (3) 測定前の温度,気圧の記録 (4) 素子の感度校正,線量校正,零点調整 (5) 動作の確認 (1) 各門の線量測定 8.3.1 (2) 測定,解析 10.1 (3) 測定後の温度,気圧の記録 10.2 使用前準備 II. 測 定 の 準 備 III. 測 定 ・ 解 析 参照 使用機器 2 次元検出器,温度計,気圧計 クロスキャリブレーション用電離箱線量計 固体ファントム 108 8.2 8章 I. 2 次元検出器 使用前準備 (1) 使 用 す る 前 に 基 本 的 な 物 理 特 性 を 確 認 す る . 確 認 項 目 は 8.2 節 を 参 考 に す る . (2) 3DCRT と 単 純 な IMRT の 測 定・解 析:3DCRT と 単 純 な IMRT を 用 い て[ 例 え ば 米 国 の QARC( http://www.qarc.org/ ) と RPC( http://rpc.mdanderson.org/RPC/home.htm ) が 提 供 し て い る IMRT Benchmark な ど ],測 定 か ら 解 析 と い っ た 一 連 の 流 れ を 確 認 し , 自施設の検証プロトコルを作成する. II. 測 定 の 準 備 (1) 治療計画装置で測定深における照射領域が検出器の測定範囲内にあることを確認し, 治 療 計 画 装 置 か ら 測 定 面 の 線 量 分 布 を 取 得 す る . そ の 際 , 2 次 元 検 出 器 の CT 画 像 を 用 い る か 或 い は 水( 均 質 )フ ァ ン ト ム を 用 い る か は 十 分 な 検 討 が 必 要 で あ る .特 に 2 次 元 検 出 器 の CT 画 像 を 用 い る 場 合 ,線 量 分 布 の 計 算 精 度 に よ っ て は 空 気 層 や 金 属 物 の影響を受けやすい.次に,線量分布の計算点間隔が何ミリで設定されているかを 確 認 す る . 計 算 点 間 隔 に つ い て は 10.2.3 節 を 参 考 に す る . (2) 2 次 元 検 出 器 本 体 を 治 療 室 内 の 温 度 に な じ ま せ る た め ,事 前 に 治 療 室 に 搬 入 し て お く . (3) 半導体素子の感度も温度に依存するため,測定前には必ず温度を調べる.半導体素 子 の 温 度 依 存 性 に つ い て は 8.2.4 節 を 参 考 に す る . (4) 2 次元検出器は非常に多くの素子を搭載しており,素子間の感度を統一させるため, 感 度 校 正 を 行 う 必 要 が あ る .ユ ー ザ で 行 う 場 合 と 出 荷 時 に 行 わ れ て い る 場 合 が あ る . 線量校正に関してはユーザの責任の下,基準条件でクロスキャリブレーションを実 施する.したがって,ファーマ形線量計で吸収線量を求めておく必要がある. (5) 検証を行う前に基準となる照射野で測定を行い,解析結果の傾向から 2 次元検出器 が正常に動作していることを確認する. III. 測定・解析 (1) ガントリ角度 0 度にして各門検証を行う. (2) 線 量 プ ロ フ ァ イ ル , Dose-difference, DTA, ガ ン マ 解 析 法 を 用 い て 多 角 的 に 評 価 す る . (3) 測定終了後も温度,気圧の変化を調べる. 109 8. 2 次 元 検 出 器 8.1. 種 類 と 構 造 図 8.1 に 示 す よ う に 近 年 様 々 な 種 類 の 2 次 元 検 出 器 が 開 発 さ れ て お り , 2D-ARRAY seven29 ( PTW Delta 4 1) ) , MapCHECK( SUN NUCLEAR 4) 2) ) , I’mRT MatriXX( IBA dosimetry 1) 3) ) , EPID, 2) ( ScandiDos ) , DAVID( PTW ) , ArcCHECK( SUN NUCLEAR ) な ど が 挙 げ ら れ る.これらの検出器の特徴は様々であり,小型の平行平板型電離箱線量計を搭載している 2D-ARRAY 5) , 6) , 半 導 体 検 出 器 を 用 い る こ と に よ り 素 子 の 分 解 能 を 向 上 さ せ て い る MapCHECK 7), 8) 10) ,他 検 出 器 で は 見 ら れ な い 非 常 に 多 く の シ リ ン ダ 型 電 離 箱 を 搭 載 し て い る I’mRT MatriXX 9), ,リ ニ ア ッ ク に 装 備 さ れ て お り 分 解 能 が 高 い EPID ,空 間 的 に ク ロ ス し た 2面 上 に 半 導 体 素 子 を 配 列 す る こ と に よ り 3次 元 線 量 分 布 の 取 得 が 可 能 な Delta 4 1 1) ,マ ル チ ワ イ ヤ 電 離 箱 を 使 用 す る こ と に よ り 治 療 時 の 検 証 が 可 能 な DAVID 12) ,ス パ イ ラ ル 状 に 半 導 体 素 子 を 配 列 さ せ ビ ー ム の 入 射 面 , 射 出 面 の フ ル エ ン ス 分 布 が 測 定 可 能 な ArcCHECK 2) などが挙げられる.また,検出器の 種 類 が 多 種 多 様 で あ る の と 同 様 に ,解 析 用 ア プ リ ケ ー シ ョ ン も メ ー カ ご と に バ リ エ ー シ ョ ン に 富 み 特 色 が 出 て い る . ま た 表 8.1に 2次 元 検 出 器 , 2D-ARRAY, MapCHECK, I’mRT MatriXXの 仕様を示す. 図 8.1 110 (a) 2D-ARRAY, (b) MapCHECK, (c) I’mRT MatriXX, (d) DAVID, (e) Delta 4 , (f) ArcCHECK 8章 表 8.1 Description メーカ 検出素子の 種類 検出素子の数 2 次元検出器 2D-ARRAY, MapCHECK, I’mRT MatriXXの 仕 様 ( 2010年 1月 作 成 ) 2D-ARRAY seven29 MapCHECK [ ]は MapCHECK2 I’mRT MatriXX PTW SUN NUCLEAR IBA dosimetry 平行平板型電離箱 N型 半 導 体 素 子 シリンダ型電離箱 729 445 [1536] 1020 5 x 5 x 5 mm 3 0.8 x 0.8 mm 2 4.5(Ø) x 5(h) mm 検出素子の サイズ 測定領域 27 x 27 cm 2 20 x 20cm 2 [32 x 26cm 2 ] 24.4 x 24.4 cm 2 表面から検出 器素子までの 0.5 cm 2 cm 0.33 cm 2 実 効 深 (g/cm ) ・10 x 10 cm 2 内 で は 10 mm 素子間距離 (素 子 の 中 心 から中心まで 縦と横方向では 10 mm間 隔 で 配 列 の距離) (縦 ・ 横 ), 7.07 mm(斜 ) ・ 10 x 10cm 2 外 で は 20 mm 縦と横方向では (縦 ・ 横 ), 14.14 mm(斜 ) 7.62 mm 間 隔 で 配 列 ・ [10 mm(縦 ・ 横 ), 7.07 mm (斜 )] 線量校正方法 素子の 感度校正 素子毎の交換 温 度・気 圧 補 正 係数の自動機能 クロスキャリブレーション(ユーザ責任) あり あり あり 可能 ユニットの交換 不可能 なし なし あり 8.2. 物 理 特 性 2次 元 検 出 器 の 最 大 の 特 徴 は , 再 現 性 や 線 量 率 依 存 性 な ど 検 出 素 子 の 物 理 特 性 の 改 良 に よ り 吸 収 線 量 が 正 確 に 測 定 で き る こ と , ま た , 素 子 の 小 型 化 に よ り 比 較 的 高 分 解 能 な 2次 元 線 量 分 布 の 取 得 が 可 能 で あ る こ と が 挙 げ ら れ る . つ ま り , 2次 元 検 出 器 に 求 め ら れ る 特 性 は , 線 量 計 の 特 性 と フ ィ ル ム の 特 性( 高 分 解 能 で あ る こ と )で あ る .し か し ,実 際 は 個 々 の 素 子 の 体 積 平 均 効 果 や 後 述 す る 物 理 特 性 に つ い て 様 々 な 問 題 が 残 さ れ て い る .こ の た め ,ユ ー ザ は 臨 床 使 用 前 ,さ ら に 使 用 開 始 後 に お い て も 定 期 的 に 物 理 特 性 を 確 認 す る 必 要 が あ る .各 検 出 器 の 基 本 的 な 物 理 特 性 の 測 定 方 法 や 結 果 は 論 文 5-12) で 報 告 さ れ て お り ,そ れ ら を 参 照 し て 実 施 す る と 良 い . 本 節 で は 2次 元 検 出 器 , 2D-ARRAY, MapCHECK, I’mRT MatriXXの 基 本 的 な 物 理 特 性 を 示 す . 111 8.2.1. 線 量 直 線 性 図 8.2は 前 立 腺 の 治 療 を 想 定 し ,ガ ン ト リ 角 度 180度 か ら 従 来 の 照 射 と IMRTで 照 射 し た 場 合 の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル を 示 し て い る .一 般 的 な 3DCRTで は 低 線 量 領 域 が PTVの 外 側 の み に 位 置 す る が , IMRTで は 低 線 量 域 が PTVの 内 部 に も 存 在 す る た め よ り 正 確 な 低 線 量 の 評 価 が 必 要 と な る . し た が っ て ,IMRT 線 量 検 証 に お い て は 低 線 量 に お い て も 十 分 な 測 定 精 度 が 必 要 で あ る .図 8.3 に 2D-ARRAYの 線 量 直 線 性 を 示 す 5) . 図 8.2 従 来 の 照 射 と IMRT の 低 線 量 領 域 の 臨 床 的 な 意 味 合 い 図 8.3 2D-ARRAYの 線 量 直 線 性 5) 8.2.2. 線 量 率 依 存 性 IMRT Fieldの 線 量 率 は ,MLC直 下 で は 数 cGy/min,照 射 野 内 で は 数 百 cGy/minと な り 線 量 率 に 大 き な 幅 を 持 つ . し た が っ て , IMRTで 正 確 な 測 定 を 行 う た め に は , 検 出 素 子 の 感 度 の 線 量 率 依 存 性 が 小 さ い こ と が 重 要 で あ る .特 に 半 導 体 素 子 は ,放 射 線 損 傷 に よ る 低 線 量 率 の 感 度 低 下 が 問 題 に な る 7), 8) . 図 8.4は Siemens MD2 Linac 6 MV X線 , MapCHECKに お け る 線 量 率 依 存 性 で あ る 8) .横 軸 は 線 量 率( Dose-per-pulse)で あ り ,Dose-per-pulse= 1.75が 約 200 cGy/minに 相 当 す 112 8章 2 次元検出器 る ( duration time =5.5 μsec, 190.7 pulse/sec) . 現 在 の MapCHECKに 搭 載 さ れ て い る N型 の 半 導 体 素 子 ( ● ) は 図 中 に 示 さ れ て い る 旧 モ デ ル の N型 半 導 体 ( ■ ) に 比 べ て 改 良 さ れ て い る が , 低 線 量 率 に お い て 僅 か な 感 度 低 下 が 見 ら れ る . 特 に 高 エ ネ ル ギ ー X線 や 長 期 の 使 用 に よ っ て 半 導体素子の放射線損傷が起きるため,定期的に線量率依存性を確認する必要がある. 8.2.3. 再 現 性 2D-ARRAY, MapCHECK, I’mRT MatriXXの 線 量 再 現 性 に 関 し て 表 8.2に 示 す .こ れ ら の 文 献 値 を参考に,正常に動作していることを確認する必要がある. 図 8.4 半導体素子の線量率依存性 表 8.2 8) 線量再現性 検出器 測定条件と結果 E.Spezi, Phys. Med. Biol. (2005) 5) 2D-ARRAY 6 MV, 15 cm x 15 cm, depth 5 cmに お い て 10回 連 続 60 MU照 射 し て 再 現 性 を 検 証 し た .ま た ,こ の 測 定 を 4カ 月 間 行 い ,長 期 的 な 再 現 性 も 検 証 し た .結 果 と し て , 10回 測 定 し た 時 の 最 大 の 標 準 偏 差 は 0.2%, 長 期 的 な 再 現 性 は 0.7%で あ っ た . D.Letourrneau, Radiat.Oncolo. (2004) 7) 18 MV, 25 cm x 25cm,depth 10 cmに お い て 15回 連 続 60 MU照 射 し て 標 準 偏 差 を 算 MapCHECK 出 し た .結 果 ,全 て の 素 子 で 最 大 を 示 し た 標 準 偏 差 は ±0.15%,中 心 の 素 子 は 0.06% を示した. I’mRT S. Amerio, Med.Phys. (2004) MatriXX 60 9) Coガ ン マ 線 に よ り 1カ 月 間 毎 日 測 定 を 行 っ た 結 果 , 標 準 偏 差 ±0.5%で あ っ た . 113 8.2.4. 温 度 気 圧 依 存 性 電 離 箱 素 子 の 場 合 は 温 度 気 圧 補 正 を 考 慮 す る 必 要 が あ る が ,自 動 で 補 正 す る 機 種 も あ る の で 確 認 が 必 要 で あ る .ま た ,リ フ ァ レ ン ス 線 量 計 と の 線 量 校 正 を 1 回 行 え ば ,以 降 の 測 定 は 温 度 気 圧 補 正 の み 考 慮 し ,測 定 毎 に 線 量 校 正 を 行 う 必 要 が な い 機 種 も 存 在 す る .さ ら に ,半 導 体 素 子 も 温 度 に 依 存 し て 感 度 が 変 化 す る .例 え ば MapCHECK の 場 合 ,室 内 の 温 度 が 22 度 の 時 に 1 度 変 化 す る と 感 度 が 約 0.54%変 化 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 8) . こ の た め , MapCHECK で は 室内の温度が 1 度変化した場合に線量校正を再度行うことが推奨されている MapCHECK の 感 度 の 温 度 依 存 性 を 示 す 8) 7, 8) . 図 8.5 に . 図 8.5 半 導 体 素 子 の 温 度 依 存 性 8) 8.2.5. 出 力 係 数 2次 元 検 出 器 で は , 検 出 器 内 部 の 構 造 や 欠 損 部 分 ( 図 8.6) の 影 響 に よ り 水 中 で 測 定 し た 出 力 係 数 と 同 じ 結 果 を 示 す と は 限 ら な い .特 に 大 照 射 野 で は 欠 損 部 分 に よ り 周 囲 か ら の 散 乱 線 が 減 少 す る た め , 水 中 で の 測 定 と 比 較 し て 出 力 係 数 が 過 小 評 価 さ れ る 場 合 が あ る 7) . ま た , 電 離 箱 素 子 を 使 用 し て い る 検 出 器 は 小 照 射 野 で 体 積 平 均 効 果 の 影 響 が 問 題 に な る .例 え ば 2D-ARRAY や I’mRT MatriXXに お い て は , 2 cm x 2 cm以 下 の 小 照 射 野 領 域 で 体 積 平 均 効 果 の 影 響 で 出 力 係 数 が 過 小 評 価 さ れ る と 報 告 さ れ て い る 6, 10) . 図 8.7に I’mRT MatriXX 10 ) , 図 8.8に 2D-ARRAY 6) の 出 力 係 数 を 示 す .そ れ ぞ れ の 電 離 空 洞 の サ イ ズ は ,I’mRT MatriXXは 直 径 4.5 mm, 高 さ 5 mmの シ リ ン ダ 型 , 2D-ARRAYは 1辺 が 5 mmの 立 方 体 ( 平 行 平 板 型 ) で あ る . 114 8章 図 8.6 図 8.7 図 8.8 2 次元検出器 2 次元検出器の設置時に生じる欠損部分 6 MV光 子 線 , 水 中 深 さ 10 cmに お け る I’mRT MatriXXと 様 々 な 検 出 器 の 出 力 係 数 10) 6 MV 光 子 線 , 水 中 深 さ 10 cm に お け る 2D-ARRAY と 様 々 な 検 出 器 の 出 力 係 数 6) 115 8.2.6. 方 向 依 存 性 出 力 信 号 の 方 向 依 存 性 の 原 因 は 2種 類 あ り ,素 子 の 形 状 と 検 出 器 の 内 部 構 造 で あ る .前 者 は , 素 子 の 形 状 が 円 盤 型 で あ る 場 合 ,素 子 へ の ビ ー ム 入 射 角( 横 軸 )に 対 す る 出 力 信 号( 縦 軸 )は お よ そ 正 弦 曲 線 と な る .形 状 が 球 の 場 合 は ど の 方 向 か ら ビ ー ム が 入 射 し て も 一 定 の 出 力 信 号 と な る .後 者 は 検 出 器 内 部 の 空 気 層 や 金 属 物 ,半 導 体 な ど が 影 響 す る .ま ず 臨 床 導 入 前 に は 素 子 が ど の よ う な 形 状 を し て い る の か を 調 べ る 必 要 が あ る .そ し て 検 出 器 の 内 部 構 造 に 関 し て は CT 撮 影 な ど を 行 い , ど の 程 度 空 気 層 や 金 属 物 な ど が 存 在 し て い る の か を 確 認 す る と 良 い . 図 8.9 に 2D-ARRAY, MapCHECK, I’mRT MatriXX, ガ フ ク ロ ミ ッ ク EBTの ビ ー ム 入 射 角 度 を 変 え た 場 合 の プ ロ フ ァ イ ル の 変 化 を 示 す (Report Number=MCRDW010908, “ MapCHECK T M for Rotational Dosimetry” 2 ) ).測 定 条 件 は 照 射 野 10 cm × 10 cmで ,ガ ン ト リ 角 度 が 0度 , 60度 , 80度 , 85度 , 90度 , 95度 , 120度 , 150度 で 照 射 し た 時 の Y軸 方 向 の プ ロ フ ァ イ ル を 取 得 し て お り ,図 8.9の 左 か ら 0度 , 90度 , 全 て の ビ ー ム を 合 計 ( コ ン ポ ジ ッ ト ) し た 時 の プ ロ フ ァ イ ル で あ る . 図 8.9の 0度 の プ ロ フ ァ イ ル に お い て は 3者 と も EBTと 良 く 一 致 し て い る . 90度 に お い て は 3者 と も EBTと の 乖 離 が 見 ら れ る .特 に MapCHECKに お い て は ,プ ロ フ ァ イ ル の 中 心 点 が 急 激 に 下 が っ て い る .こ れ は 中心軸上に半導体が配列されているため,減弱され出力が低下しているためである. 0度 図 8.9 Composite 90 2D-ARRAY( ▲ ) , MapCHECK( ■ ) , I’mRT MatriXX( ● ) ,ガ フ ク ロ ミ ッ ク EBT( ◆ ) のビーム入射角度を変えた場合のプロファイルの変化 2) 8.2.7. 体 積 平 均 効 果 有 感 体 積 が 最 も 小 さ い 検 出 器 素 子 は 半 導 体 素 子 で あ り ,体 積 平 均 効 果 の 影 響 は ほ と ん ど 受 け な い . し か し , 電 離 箱 素 子 は 小 型 化 が 技 術 的 に 困 難 で あ り , 一 般 的 な 有 感 体 積 が 5 mm 3 に 留 ま っ て い る .こ の よ う な 検 出 器 素 子 で 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 を 測 定 し た 場 合 ,体 積 平 均 効 果 の 影 響 が 問 題 に な る . 図 8.10で は 6 MV X線 , SCD = 100 cm, 測 定 深 1.5 cmに お い て 10 cm × 10 cmの 線 量 プ ロ フ ァ イ ル を 2D-ARRAY と 半 導 体 検 出 器 で あ る PFD ( Photon Field Detector, Scanditronix-Wellhofer社 ) で 測 定 し た 結 果 で あ る . 2D-ARRAYで は 素 子 間 の 距 離 が 10 mmで あ る た め ,こ こ で は よ り 細 か く デ ー タ を 取 得 す る た め に 検 出 器 を 1 mmピ ッ チ で シ フ ト さ せ て 測 定 を 行 い , 1つ の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル に 重 ね 合 わ せ て い る . 両 者 を 比 較 す る と 半 影 領 域 で 相 違 が 見 116 8章 2 次元検出器 ら れ る .半 導 体 検 出 器 で 求 め た 半 影 は 2.9 mm,2D-ARRAYで は 5.9 mmと な り ,約 3 mm大 き い . ま た 2D-ARRAYを 1 mmピ ッ チ で シ フ ト せ ず に 半 影 を 求 め た 場 合 , 13.0 mmと な る . IMRTで は よ り 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 が 存 在 す る .図 8.11, 8.12は 頭 頚 部 IMRT( Dynamic MLC) に お い て 2D-ARRAYを 用 い て 得 ら れ た 線 量 プ ロ フ ァ イ ル で あ り ,上 記 と 同 様 に 1 mmピ ッ チ で 検 出 器 を シ フ ト し て 測 定 し , 1つ の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル に し て い る . ま た 実 線 は 治 療 計 画 装 置 の 計 画 線 量 で あ る .図 8.11は 線 量 勾 配 が 緩 や か な ケ ー ス ,図 8.12は 線 量 勾 配 が 急 峻 な ケ ー ス で あ る . 図 8.11で は 比 較 的 線 量 勾 配 が 緩 や か で あ る た め 計 画 線 量 と 良 く 一 致 し て い る . 一 方 , 図 8.12で は 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 ,つ ま り 山 型 と 谷 型 に お い て 計 画 線 量 と の 違 い が 生 じ て い る .こ の よ うな領域においては,以下に示す傾向を持つ. ① 山型:体積平均効果により得られる測定値は過小評価になる ② 谷型:体積平均効果により得られる測定値は過大評価になる 図 8.11, 8.12に 示 す 点 線 は , 電 離 箱 素 子 の 空 間 的 な レ ス ポ ン ス フ ァ ン ク シ ョ ン 6) を 用 い て 計 画 線 量 に 対 し て 畳 み 込 み 積 分 を 行 っ た 結 果 で あ る .つ ま り 計 画 線 量 に お い て 体 積 平 均 効 果 を 考 慮 し た 結 果 と な る .点 線 が 2D-ARRAYの 測 定 値 に 一 致 し て い る 事 か ら ,線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で 生 じている相違は体積平均効果の影響であることが分かる. 図 8.10 6 MV,10 cm x 10 cmに お い て 2D-ARRAYと 半 導 体 検 出 器 で 取 得 し た 線 量 プ ロ フ ァ イ ル 117 図 8.11 6 MV, 頭 頚 部 IMRT Field の 2D-ARRAY の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル 線量勾配が緩やかなケース - – 図 8.12 6MV, 頭 頚 部 IMRT Field の 2D-ARRAY の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル - 118 線量勾配が急峻なケース - 8章 2 次元検出器 8.2.8. 空 間 分 解 能 X方 向 (図 8.13): 2次 元 検 出 器 の 素 子 間 の 距 離 は 10 mm程 度 が 多 く ,そ の 間 の 領 域 で は 素 子 が 存 在 し な い た め に MLCの 位 置 誤 差 の 検 出 能 は 優 れ て い な い .図 8.13は ,MLCを 1 mm毎 に 移 動 さ せ た 場 合 の 2D-ARRAY, MapCHECKの 素 子 毎 の 出 力 を 示 し て い る . エ ネ ル ギ ー は 6 MV, 測 定 深 は 10 cmと し て い る . 右 側 に 位 置 す る MLCは 固 定 し , 左 側 に 位 置 す る MLCの み X = -40 mm か ら X = -20 mmま で 1 mm毎 に 移 動 さ せ , 素 子 の 出 力 の 変 化 を 調 べ て い る . こ こ で は MLCの 移 動 範 囲 の 真 下 に 位 置 す る 2つ の 素 子 ,つ ま り X = -20 mmに あ る 素 子 と 移 動 距 離 の 中 間 に あ る X = -30 mmの 素 子 の 出 力 を 右 図 に 示 し て い る . 結 果 , 出 力 の 変 化 が 大 き い 素 子 は 両 検 出 器 と も X = -30mmに 位 置 す る 素 子 で あ る . ま た 2D-ARRAYで は 5 mm × 5 mmの 平 行 平 板 型 電 離 箱 で あ る こ と か ら ,MapCHECKよ り も 比 較 的 検 出 す る 領 域 は 広 く ,-32 mm付 近 か ら 出 力 の 変 化 が 起 き て い る .そ れ に 対 し て ,X = -20 mmに 位 置 す る 素 子 の 出 力 は 両 検 出 器 と も MLCが 近 づ い て も そ れ ほ ど 変 化 が な い .つ ま り 現 在 の 素 子 間 の 不 感 領 域 の 問 題 か ら ,MLCの 位 置 誤 差 を 効 果 的 に 検 出 す るには限界がある. Y方 向 ( 図 8.14) : Y方 向 に お い て も , 素 子 間 距 離 は 10 mm程 度 が 一 般 的 で あ る . こ こ で は Leaf に 位 置 誤 差 を 持 た せ た 時 の 素 子 の 出 力 の 変 化 を 調 べ て い る . 条 件 は 頭 頚 部 IMRT ( Dynamic MLC) に お い て , 矢 印 で 示 す Leafの み 人 為 的 に 位 置 誤 差 を 持 た せ ( そ れ 以 外 の Leaf は 計 画 通 り ) , 2D-ARRAYの 3つ の 素 子 ( 素 子 1-3) の 積 算 線 量 と 計 画 線 量 を 比 較 し た . 位 置 誤 差 を 持 た せ た Leafは 0.2, 0.5, 1.0, 2.0, 5.0, 10.0 mm, 計 画 の Leaf位 置 か ら 左 側 方 向 に シ フ ト さ せ て 照 射 を 行 っ て い る .つ ま り Leafが 広 が る 方 向 で あ る た め ,そ の Leafの 真 下 に 位 置 す る 素 子( 素 子 2)の 測 定 値 は シ フ ト 量 が 大 き い 程 高 い 値 を 示 す .右 の 図 で は 3つ の 素 子 の 積 算 線 量 と 計 画 線 量 を 比 較 し た 結 果 で あ り , 素 子 2が 位 置 誤 差 を 持 た せ た Leafの 真 下 に 位 置 す る 素 子 で あ る . 残 り の 素 子( 素 子 1, 3)は そ れ ぞ れ 10 mm上 側 に 位 置 す る 素 子 と 10 mm下 側 に 位 置 す る 素 子 で あ る . 横 軸 は Leafの シ フ ト 量 で あ り ,縦 軸 は 計 画 線 量 と の 相 違 で あ る .最 も 計 画 線 量 と の 相 違 が 大 き い 素 子 は 位 置 誤 差 を 持 た せ た Leafの 真 下 に あ る 素 子 で あ る . 注 目 す べ き こ と は 10 mm上 側 に 位 置 す る 素 子 と 10 mm下 側 に 位 置 す る 素 子 の 出 力 が 僅 か な 変 化 に 留 ま っ て い る こ と で あ る . こ の こ と か ら , Y方 向 に お い て も MLCの 位 置 誤 差 を 効 果 的 に 検 出 す る に は 限 界 が あ る と い え る . フ ィ ル ム と 比 較 し て , 体 積 平 均 効 果 や 素 子 間 の 不 感 領 域 が あ る 2次 元 検 出 器 は 空 間 分 解 能 が 劣 る .こ れ は ,2次 元 検 出 器 を 用 い た IMRTの 線 量 分 布 検 証 で は ,線 量 の hotま た は Cold spotを 見 落 と し ,標 的 と リ ス ク 臓 器 の 境 界 な ど に お け る 急 峻 な 線 量 勾 配 を 正 し く 測 定 で き な い 可 能 性 が あ る こ と を 意 味 す る . し た が っ て , 線 量 分 布 検 証 で 用 い る 検 出 器 を フ ィ ル ム か ら 2次 元 検 出 へ 移 行 す る 場 合 は 他 の QA/QCに よ っ て こ の 欠 点 を 補 う 必 要 が あ る . 例 え ば , 2次 元 検 出 器 の 場 合 は 測 定 直 後 に 解 析 で き る た め ,ガ ン マ 解 析 を 行 い ,Pass Rateが 最 も 悪 い Fieldに 対 し て フ ィ ル ム 法 を 実 施 す る な ど , 2次 元 検 出 器 と フ ィ ル ム 法 を 効 率 よ く 並 行 し て 実 施 す る の が 望 ま し い . 自 動 現 像 機 が 無 い 施 設 に お い て も ,2次 元 検 出 器 単 独 の IMRT検 証 は 避 け る べ き で あ り ,全 門 の 電 離 箱 法 や フ ィ ル ム 法 の 実 施 , ま た MLC QAを 並 行 し て 行 い , 総 合 的 な 線 量 検 証 の 評 価 を 行 う 必 要がある. 119 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 2D-ARRAY X=-30mm 0.3 2D-ARRAY X=-20mm 0.2 MapCHECK X=-30mm 0.1 MapCHECK X=-20mm -40 図 8.13 -38 -36 -34 -32 -30 -28 -26 MLC Position (mm) 0.0 -24 -22 Output normalized at 40mm LeafPsotion 1.0 -20 2D-ARRAY, MapCHECK に お け る MLC が 移 動 し た 場 合 の 素 子 の 出 力 変 化 図 8.14 MLCに 位 置 誤 差 を 持 た せ た 場 合 の 素 子 の 出 力 の 変 化 8.3. 解 析 8.3.1. 評 価 方 法 検 出 器 の 特 徴 と 同 様 ,解 析 用 ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 機 能 も 各 メ ー カ で 特 色 が あ り ,評 価 方 法 も 様 々 な 種 類 が 搭 載 さ れ て い る . 線 量 差 分 を 意 味 す る Dose Differenceや 視 覚 的 評 価 で あ る 線 量 プ ロ フ ァ イ ル , そ し て 相 違 を 距 離 と し て 評 価 す る Distance To Agreements( DTA) 1 3, 14 ) や DTAと 線 量 差 分 を 複 合 し て 評 価 す る ガ ン マ 解 析 15) な ど 利 用 す る こ と が で き る . ガ ン マ 解 析 法 は Dose difference( %)と DTA( mm)の そ れ ぞ れ に 判 定 基 準 を 持 た せ ,ユ ー ザ で 自 由 に 判 定 基 準 の 値 を 設 定 す る こ と が 可 能 で あ る .し か し ,判 定 基 準 の 値 は ガ ン マ 値 に 影 響 す る た め ,自 施 設 で 適 切 な 値 を 選 択 す る 必 要 が あ る .実 際 に は こ の 判 定 基 準 の 値 を 論 理 立 て て 決 定 す る こ と は 困 難 で あ り ,最 終 的 に は 施 設 の 判 断 に 委 ね ら れ て い る .判 定 基 準 の 妥 当 な 値 に つ い て は , 米 国 で IMRT QA の 実 態 調 査 と し て 行 わ れ た ア ン ケ ー ト 結 果 を 参 考 に す る と 良 い 16) ( 図 8.15). そ の 報 告 書 に よ る と , 広 く 利 用 さ れ て い る 判 定 基 準 の 値 は 前 立 線 IMRT で は 3%/3 120 8章 2 次元検出器 mm で あ る . ま た , 解 析 結 果 の 傾 向 を 把 握 し , 系 統 的 ・ 経 時 的 な 変 化 が な い こ と を 確 認 す る た め , 同 じ 判 定 基 準 を 継 続 的 に 用 い て ガ ン マ 解 析 を 行 う こ と が 重 要 で あ る . 特 に Pass Rate の 悪 さ か ら 判 定 基 準 を 安 易 に 緩 く す べ き で は な い .ま た ,Pass Rate は 全 体 の 素 子 を 基 準 と し た ガ ン マ 値 1.0 以 下 を 示 し た 素 子 数 の 割 合 で あ り , 相 対 的 な 情 報 で あ る . よ り 正 確 に 定 量 評 価 を 行 う た め に は ガ ン マ 値 で 評 価 す る 必 要 が あ り ,そ の 際 に 有 効 な ツ ー ル が ガ ン マ ヒ ス ト グ ラ ム で あ る ( 10.2.5.項 を 参 照 ). 図 8.15 IMRTの 線 量 分 布 検 証 に お け る 判 定 基 準 の ア ン ケ ー ト ア ン ケ ー ト 調 査 結 果 16) : 図 中 の WIPは 現 在 検 討 中 を 意 味 す る 8.3.2. 解 析 例 図 8.16 は 筆 者 が 2D-ARRAY と MapCHECK を 用 い て 頭 頚 部 IMRT Field に 対 し て ガ ン マ 解 析 ( 3%/3 mm)を 行 っ た 結 果 か ら ,比 較 的 成 績 が 悪 か っ た Fieldを 示 し て い る .測 定 条 件 は 6 MV X 線 で 深 さ は 5 cm, タ フ ウ ォ ー タ ( 京 都 科 学 ) に 検 出 器 を 設 置 し Dynamic MLCを 用 い た IMRTで 照 射 し て い る . 左 図 は 2D-ARRAYの 結 果 で あ り , 緑 色 は ガ ン マ 値 が 1.0以 下 , 赤 色 は 1.0以 上 を 示 し た 素 子 を 示 し , Pass Rateは 78.9%と な っ た . 右 図 は MapCHECKの 結 果 で あ り , 赤 色 は Dose differenceが プ ラ ス 方 向 で ガ ン マ 値 1.0以 上 を 示 し た 素 子 で あ り ,青 色 は Dose differenceが マ イ ナ ス 方 向 で ガ ン マ 値 1.0以 上 を 示 し た 素 子 で あ る .そ れ 以 外 の 素 子 は ガ ン マ 値 1.0以 下 を 示 し て い る . ガ ン マ 解 析 を 行 っ た 結 果 Pass Rateは 75.0%と な っ た . 両 者 と も 共 通 の 領 域 で ガ ン マ 値 が 1.0 以 下 を 示 し て い る .そ の 共 通 の 領 域 は 低 線 量 域 と 高 線 量 域 の 境 界 に あ り ,線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で あ る .そ の よ う な 領 域 は 半 影 に 相 当 し ,検 出 器 の 設 置 精 度 の 影 響 や 治 療 計 画 装 置 の ビ ー ム モデリングの精度,またビームデータの測定に用いられた検出器の種類に依存する.例えば Martin 17 ) ら は 2007年 に 2機 種 の 治 療 計 画 装 置 に お い て , 治 療 が 行 わ れ た 57例 の 頭 頚 部 IMRTに 対 し て フ ィ ル ム を 用 い て 検 証 を 行 い , ガ ン マ 解 析 を 行 っ た 結 果 , 2機 種 に 系 統 的 な 相 違 が あ る こ と を 見 出 し て い る . 1つ の 機 種 は 半 導 体 を 用 い て プ ロ フ ァ イ ル の デ ー タ を 取 得 し た 治 療 計 画 装 置 で ,一 方 は 体 積 平 均 効 果 が 生 じ る 電 離 箱 で プ ロ フ ァ イ ル の デ ー タ を 取 得 し た 治 療 計 画 装 置 で あ っ た .Martinら が 2機 種 で ガ ン マ 解 析 を 行 っ た 結 果 ,後 者 の 治 療 計 画 装 置 で 成 績 が 悪 い 結 果 と 121 な っ た .図 8.16に 示 す よ う な 低 線 量 域 で 計 算 精 度 が 悪 い Fieldに 対 し て は ,こ の 低 線 量 域 が 全 門 の 線 量 分 布 に ど の よ う な 影 響 が あ る の か を ,電 離 箱 法 ,フ ィ ル ム 法 を 用 い て 評 価 を 行 う .し た が っ て ,各 門 お よ び 全 門 の 検 証 結 果 を 総 合 的 に 評 価 し ,放 射 線 腫 瘍 医 と 十 分 協 議 し て 臨 床 に 使 用する. 図 8.17 は 筆 者 が 2D-ARRAY と MapCHECK を 用 い て 8 症 例 56 門 , 頭 頚 部 IMRT の 検 証 を 行 っ た 結 果 で あ る . 測 定 条 件 は 上 記 と 同 様 で あ る . 図 8.17 の 横 軸 は 2D-ARRAY を 用 い て ガ ン マ 解 析 ( 3%/3 mm) を 行 っ た 場 合 の Pass Rate で 示 し て い る . 縦 軸 は 同 様 に MapCHECK を 用 い た 場 合 の Pass Rate で あ る . 2D-ARRAY と MapCHECK の 大 き な 違 い は 検 出 器 素 子 の 種 類 で あ り , 2D-ARRAY で は 平 行 平 板 型 電 離 箱 , MapCHECK で は 半 導 体 素 子 を 使 用 し て い る . 結 果 を 見 る と , 両 検 出 器 は ほ ぼ 同 じ 解 析 結 果 を 示 し て お り , 相 関 性 が 高 い と 言 え る ( 相 関 係 数 0.73) . し か し 留 意 す べ き こ と は ,Pass Rate は 検 出 器 の 特 性 ,検 出 器 の 種 類( 素 子 の 種 類 ),ガ ン マ 解 析 の 計 算 方 法 ,ま た 治 療 計 画 装 置 や 放 射 線 治 療 装 置 な ど の 特 性 を 含 ん だ 結 果 で あ る .し た が っ て Pass Rate は 他 施 設 間 に お い て 包 括 で き る 絶 対 的 な 指 標 で は 無 く ,他 施 設 の Pass Rate は 参 考 と し て 受 け 止 め る べ き で あ る . 臨 床 導 入 前 に 10 例 程 検 証 を 行 い , 自 施 設 の Pass Rate の デ ー タを蓄積することが必要である. 次 に 図 8.17 で 示 す 解 析 結 果 の 中 で ,成 績 の 良 い グ ル ー プ と 成 績 の 悪 い グ ル ー プ に 対 し て MLC の 動 き を 確 認 す る と 成 績 の 悪 い グ ル ー プ で は よ り 複 雑 な 動 き を し て い る こ と が 分 か っ た .そ れ を 示 す た め ,そ れ ぞ れ の グ ル ー プ に 対 し て MLC の 平 均 Leaf Gap を 算 出 す る と ,成 績 の 悪 い グ ル ー プ で は 平 均 の Leaf Gap が 狭 い こ と が 分 か る( 表 8.3).こ の 平 均 Leaf Gap が 線 量 誤 差 に 及 ぼ す 影 響 に 関 し て は LoSasso 18 ) ら が 定 量 的 に 求 め て お り ,そ れ に よ る と Leaf Gap が 狭 い 程 ,Leaf の 位 置 誤 差 が 生 じ た 場 合 の 線 量 誤 差 の 影 響 は 大 き く な る と 報 告 し て い る . MLC の 動 き と 治 療 計 画 装 置 の 関 連 性 に 関 し て は ,メ ー カ に よ り 大 き く 依 存 す る .し か し 一 般 的 に は ,リ ス ク 臓 器 の 線 量 制 約 を 強 く す る 場 合 や , 最 適 化 計 算 の 計 算 回 数 が 多 い 場 合 な ど に は , MLC の 動 き が よ り複雑になることが知られている. (a) 2D-ARRAY 図 8.16 122 (b) MapCKECK (a)2D-ARRAY と (b)MapCHECKの 同 じ 頭 頚 部 IMRT Fieldに お け る ガ ン マ 解 析 結 果 8章 2 次元検出器 Pass Rate (MapCHECK vs RTPs) 120% H&N IMRT 6MV X-rays 相関係数0.73 8症例 56門 100% 80% 60% 40% 20% 0% 0% 図 8.17 表 8.3 20% 40% 60% 80% Pass Rate (2D-ARRAY vs RTPs) 100% 120% 頭 頚 部 IMRT Field に お け る 2D-ARRAY と MapCHECK の 解 析 結 果 Pass Rateと 平 均 Leaf Gapの 関 係( 左 が 成 績 の 良 い グ ル ー プ ,右 が 成 績 の 悪 い グ ル ー プ ) 平 均 Leaf Gap MapCHECK 2D-ARRAY 平 均 Leaf Gap MapCHECK 2D-ARRAY 95.9% 99.3% 1.54 cm 70.0% 77.2% 0.99 cm 96.0% 98.1% 1.89 cm 75.0% 78.9% 1.15 cm 97.2% 96.7% 1.58 cm 73.1% 82.5% 1.02 cm 96.8% 95.7% 1.58 cm 89.8% 78.8% 1.27 cm 94.7% 97.3% 1.38 cm 88.6% 80.2% 1.12 cm 参考文献 1. PTW, http://www.ptw.de/ 2. SUN NUCLEAR Corporation, http://www.sunnuclear.com (accessed February 5, 2010) 3. IBA dosimetry, http://www.iba-dosimetry.com/ (accessed February 6, 2010) 4. ScandiDos, http://www.scandidos.se/ 5. Spezi E, Angelini AL, Romani F, et al.: Characterization of a 2D ion chamber array for the (accessed February 5, 2010) (accessed February 6, 2010) verification of radiotherapy treatments. Phys. Med. Biol. 50, 3361-3373, 2005. 6. Poppe B, Blechschmidt A, Djouguela A, et al.: Two-dimensional ionization chamber arrays for IMRT plan verification. Med. Phys. 33, 1005-1015, 2006. 7. Letourrneau D, Gulam M, Yan D, et al.: Evaluation of a 2D diode array for IMRT quality assurance. Radiat Oncol, 70, 199-206, 2004. 8. Jursinic PA, Nelms BE. : A 2-D diode array and analysis software for verification of intensity 123 modulated radiation therapy delivery. Med. Phys. 30, 870-879, 2003. 9. Amerio S, Boriano A, Bourhaleb F, et al.: Dosimetric characterization of a large area pixel-segmented ionization chamber. Med.Phys. 31, 414-420, 2004. 10. Stasi M, Giordanengo S, Cirio R , et al.: D-IMRT verification with a 2D pixel ionization chamber: dosimetric and clinical results in head and neck cancer. Phys. Med. Biol. 50, 4681-4694, 2005. 11. Nilsson G: Delta4 – A new IMRT QA device, Med. Phys. 34: 2432, 2007. 12. Poppe B, Thieke C, Beyer D, et al.: DAVID—a translucent multi-wire transmission ionization chamber for in vivo verification of IMRT and conformal irradiation techniques. Phys. Med. Biol. 51: 1237-1248, 2006. 13. Van Dyk J, Barnett RB, Cygler JE, et al.: Commissioning and quality assurance of treatment planning computers. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 26: 261–73, 1993. 14. Venselaar J, Welleweerd H, and Mijnheer B: Tolerances for the accuracy of photon beam dose calculations of treatment planning systems. Radiother Oncol. 60, 191–201, 2001. 15. Low DA, Harms WB, Mutic S, et al.: technique for the quantitative evaluation of dose distributions. Med. Phys. 25: 656–61, 1998. 16. Nelms BE, Simon JA: A survey on planar IMRT QA analysis. J Appl Clin Med Phys. 8: 76-89, 2007. 17. Martin ED, Fiorino C, Broggi S, et al.: Agreement criteria between expected and measured field fluences in IMRT of head and neck cancer: The importance and use of the histograms statistical analysis. Radiother. Oncol. 85, 399-406, 2007. 18. LoSasso T, Chui CS, Ling CC: Physical and dosimetric aspects of a multileaf collimation system used in the dynamic mode for implementing intensity modulated radiotherapy. Med. Phys. 25, 1919-1927, 1998. 〔岡本〕 124 9章 EPID 目次 手順 9.1. 構造 9.2. 事前測定 9.3. 物理特性・注意点 9.3.1. 線 量 直 線 性 9.3.2. 幾 何 学 的 精 度 9.3.3. 残 像 の 影 響 9.4. フルエンス検証 9.5. MLC の QA 参考文献 125 ≪ Portal Dosimetry に よ る 測 定 手 順 ≫ 項目 手順 参照 I. (1) EPID の 物 理 特 性 を 確 認 す る 9.2 (2) image キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 う 9.3 使用前準備 (3) dosi metr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 う (4) Portal Do simetr y を 行 う た め の ビ ー ム デ ー タ 測 定 を 行 う II. 測 定 の 準 備 (1) 治 療 計 画 装 置 で EPID 上 の フ ル エ ン ス 分 布 を 計 算( ARI A T M 9.4 に自動保存)させ,検証プランを作成する (2) 同 時 に , dosimetr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 照 射 条 件 (線量校正条件)でのフィールドを作成する (3) ARI A T M で EPID イ メ ー ジ の 測 定 ス ケ ジ ュ ー ル を 設 定 す る III. 測 定 ・ 解 析 (1) 線 量 校 正 条 件 で 測 定 す る ( ARI A T M に 自 動 保 存 ) (2) フ ィ ー ル ド 毎 に 測 定 す る ( ARI A (3) Review に て 解 析 す る 使用機器 EPID ARI A T M Eclipse T M 126 TM に自動保存) 9.4 9章 I. EPID 使用前準備 (1) EPID の 物 理 特 性 を 確 認 す る . 確 認 項 目 に 関 し て は , 9.3 節 を 参 考 に す る . (2) 各 Pixel 感 度 の 相 違 を な く す た め に image キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 う .ま た ,画 質 劣化の有無を定期的に確認する. (3) デ ィ テ ク タ の 信 号 と 線 量 を 関 係 付 け る た め に dosi metr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 う.また,ディテクタの感度変化の有無を定期的に確認する. (4) Portal Do simetr y を 行 う た め の ビ ー ム デ ー タ 測 定 を 行 う .確 認 項 目 に 関 し て は ,9.2 節を参考にする. II. 測 定 の 準 備 (1) 検 証 で 設 定 す る EPID の 位 置 に つ い て 幾 何 学 的 精 度 を 予 め 確 認 す る . 治 療 計 画 装 置( Eclip se T M )で EPID 上 の フ ル エ ン ス 分 布 を 計 算 さ せ ,検 証 プ ラ ン を 作 成 す る . (2) dosi metr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 照 射 条 件 ( 線 量 校 正 条 件 ) で の フ ィ ー ル ドを作成する. (3) ARI A T M で EPI D イ メ ー ジ の 測 定 ス ケ ジ ュ ー ル を 設 定 す る . EPID 位 置 は フ ル エ ン ス分布を計算させた位置を設定する. III. 測 定 ・ 解 析 (1) 線 量 校 正 条 件 で 測 定 し ,デ ィ テ ク タ の 感 度( 出 力 信 号 )に 変 化 が な い か 確 認 す る . ま た ,フ ィ ー ル ド 毎 の 測 定 後 に も 同 様 に 測 定 し ,測 定 間 で 変 化 が な い こ と を 確 認 す る . 同 時 に , こ の 基 準 条 件 を 利 用 し て EPID の 幾 何 学 的 精 度 を 確 認 す る . (2) フィールド毎に測定する. (3) Review に て 線 量 プ ロ フ ァ イ ル ,Dose Differ ence,ガ ン マ 評 価 法 を 用 い て 評 価 す る . 127 9. EPID 近 年 , IMRT の 線 量 分 布 検 証 に 2 次 元 検 出 器 が 使 用 さ れ て い る が , 各 検 出 素 子 の 間 隔 が 大きいため急峻な線量分布の測定では空間分解能が不十分である可能性がある.特に,電 離箱型の 2 次元検出器では,検出器の平均体積効果によって,線量を過大または過小評価 をしてしまう 1) .また,高い空間分解能を有するフィルム法では,アナログデータをデジ タ ル デ ー タ に 変 換 す る た め 検 証 に 時 間 を 要 す る . 今 後 , フ ィ ル ム レ ス 化 , QA の 効 率 化 が 進 む と 予 想 さ れ る 中 で ,高 分 解 能 で あ り ,測 定・解 析 が 簡 易 に で き る リ ニ ア ッ ク 付 属 の EPID ( 図 9.1) を 利 用 し た 線 量 検 証 が 期 待 さ れ て い る . 現 在 , 本 邦 で 治 療 計 画 装 置 と リ ニ ア ッ ク 付 属 の EPID を 利 用 し て I MRT の フ ル エ ン ス 分 布 の 検 証 を 行 え る の は Varian 社 の み で あ る た め , 本 章 で は Varian 社 の Portal Dosimetr y に つ い て 述 べ る . Portal Dosimetr y と は EPID を 利 用 し た IMRT フ ィ ー ル ド の フ ル エ ン ス 分 布 を 検 証 す る シ ス テ ム で あ る . 具 体 的 に は , 治 療 計 画 装 置 ( Eclip se, Varian 社 ) で 計 算 さ れ た EPID 上 で 予 想 さ れ る フ ル エ ン ス 分 布 ( predicted image) と 照 射 時 の EPID で 取 得 し た フ ル エ ン ス 分 布 ( measured image) を 比 較 す る . フ ル エ ン ス 分 布 の 比 較 に お い て , predicted image と measur ed imag e は デ ー タ ベ ー ス で 自 動 的 に 紐 づ け ら れ て 保 存 さ れ る た め , 解 析 時 に デ ー タ を 移 動 す る 必 要 が な く デ ー タ 管 理 に 関 わ る 労 力 が 軽 減 で き る .こ の よ う に ,EPID を用いた線量検証では効率的に高い空間分解能で検証を行うことができる利点がある.し か し ,Portal Dosimetr y は ,フ ィ ル ム を 用 い た 検 証 の よ う な フ ァ ン ト ム 内 の 線 量 計 算 を 含 む 従来の線量分布検証とは異なり,フィールド内のフルエンス分布を検証するシステムであ る.そのため,標的への線量集中やリスク臓器の線量低減などを確認することができない 欠 点 が あ る .よ っ て ,EPID を 用 い た IMRT 線 量 検 証 へ の 移 行 時 に は 他 の 検 証 方 法 と 組 み 合 わ せ て 実 施 し ,そ の 有 効 性 に つ い て 十 分 な 検 討 を 行 う 必 要 が あ る .海 外 で は Varian 社 以 外 の リ ニ ア ッ ク で も DGRT 2 ) ( Dose-Guided Rad iatio n T herap y) と 称 さ れ る シ ス テ ム も あ り , 今 後 は 他 社 の リ ニ ア ッ ク で も EPID を 用 い た IMRT の QA が 可 能 に な る と 予 想 さ れ る .こ の 他 に ,Varian 社 以 外 の リ ニ ア ッ ク で も EPID を 使 用 し た IMRT の フ ル エ ン ス 分 布 検 証 を 可 能 と す る EPIDose( Sun Nuclear 社 ) や RIT ( Rad iolo gical I maging Technolo gy 社 ) な ど の ソ フ トウェアがある. 図 9.1 128 EPID の 外 観 9章 EPID 9.1. 構 造 EPID の 特 徴 と し て 検 出 器 が 高 い 空 間 分 解 能 を 有 す る こ と が 挙 げ ら れ る .よ っ て ,測 定 デ ータをそのまま用いてフルエンス分布の比較を行うことができ,データ補間による不確か さ が な い . 表 9.1 に 各 社 の EPID の 仕 様 を 示 す . 現 在 の EPID の 解 像 度 は 1024 pixel × 102 4 pixel が 主 流 で あ り , 0.39 mm/p ixel の 空 間 分 解 能 を も つ . そ の た め , IMRT の 線 量 検 証 だ け で な く MLC の QA に も 使 用 で き る .EPID( aS1000)は フ ィ ル ム カ セ ッ テ に 類 似 し て お り , 線量ビルドアップのための金属プレート,X 線を光に変換するための蛍光体プレート(シ ン チ レ ー タ ), 光 を 取 り 込 む た め の a-Si プ レ ー ト 上 の フ ォ ト ダ イ オ ー ド ア レ イ で 構 成 さ れ ている 3) . 照 射 野 は ア イ ソ セ ン タ [ SDD( So urce to Detector Distance) =100 cm] 上 で 最 大 40 cm × 3 0 cm で あ り , ア イ ソ セ ン タ か ら 最 大 で 80 cm 遠 ざ け て も 利 用 で き る が , そ の 場 合 の 照 射 野 は 22.2 cm × 1 6.7 cm に 限 定 さ れ る . 表 9.1 各 社 の EIPD の 仕 様 Varian Siemens Elekta 装置名 aS500 / 1000 Optivue500 / 1000 iViewGT ソフトウェア Portal Visio n Co her ence therap ist iViewGT wo r kstatio n wo r kspace 有感領域 40 cm × 30 cm 40 cm × 40 cm 2 41 cm × 41 cm 解 像 度 ( pixel) 512 × 384 / 1024 × 512 × 512 / 1024 × 1024 × 1024 764 1024 ピ ク セ ル 間 隔( mm) 0.78 / 0.39 0.78 / 0.39 0.39 9.2. 事 前 測 定 Portal Do si metr y の 事 前 測 定 項 目 を 表 9.2 に 示 す 4) .項目は大きく 2 つに別けられ,ディ テ ク タ の キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン と 治 療 計 画 装 置 で EPID 上 で の フ ル エ ン ス 分 布 を 計 算 す る た め の ビ ー ム デ ー タ 測 定 で あ る .ま ず デ ィ テ ク タ の キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン に お い て ,Dar k-field ( 以 下 , DF) と Flood -field ( 以 下 , FF) の 補 正 画 像 を 取 得 す る 必 要 が あ る . DF は 照 射 な し の 画 像 を 取 得 し , Pixel 値 の オ フ セ ッ ト を 補 正 す る . 一 方 , FF は 照 射 野 を 全 開 に し た 状 態 で 照 射 し た 画 像 を 取 得 し , 個 々 の pixel 感 度 の 相 違 を 決 定 す る . こ の 2 つ の 補 正 画 像 を 使 用 し て 式 (9.1)よ り 画 像 I( x, y) が 得 ら れ る 5) . I ( x, y ) − DF (x, y ) [FF ( x, y ) − DF (x, y )]mean I ( x, y ) = raw FF (x, y ) − DF (x, y ) (9.1) 次 に Calibr atio n Unit ( CU ) と 呼 ば れ る デ ィ テ ク タ の 信 号 と 線 量 を 関 係 付 け る た め に Dosimetr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を エ ネ ル ギ ー , 線 量 率 ご と に 行 う . こ の 時 , デ ィ テ ク タ を ア イ ソ セ ン タ ( 0, 0, 0 ) に 設 置 し て , 照 射 野 10 cm × 1 0 cm で 100 MU 照 射 し た と き に 1 CU = 100 MU と な る よ う 設 定 す る . こ れ に よ り , Gy 単 位 で は な い が , 計 画 値 と 絶 対 値 ( ノ ー 129 マライズを行わない測定値)でフルエンス分布の比較を行うことができる.しかし,ディ テクタの感度(信号出力)は比較的変動しやすいため,上述のキャリブレーションを定期 的に行わなければ絶対値でのフルエンス分布の比較はできない.また画質も次第に劣化す るため,定期的な画質評価を行い品質を保たなければならない 6) . メ ー カ ー で は EPID の キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン の 頻 度 を DF の み で 1, 2 週 間 毎 , FF, Do si metr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を含むすべてのキャリブレーションを 3 か月毎に行うことを推奨している 3) . 次 に 治 療 計 画 装 置 で EPID 上 で の フ ル エ ン ス 分 布 を 計 算 す る た め ,EPID 内 で の 線 量 の 広 が り を 表 わ す カ ー ネ ル を 求 め る 必 要 が あ る .図 9.2 (a) は カ ー ネ ル 取 得 時 に 使 用 す る キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン 用 テ ス ト プ ラ ン を 示 し , こ の テ ス ト プ ラ ン を 照 射 し て EPID で フ ル エ ン ス 分 布を取得して治療計画装置にフィードバックすることでカーネルを作成する.このとき測 定 時 の デ ィ テ ク タ 位 置 は SDD を 100 c m,140 cm と す る .ま た ,出 力 係 数 も SDD を 100 c m , 照 射 野 を 30 cm × 40 cm ま で の 条 件 で 測 定 し て 治 療 計 画 装 置 に 登 録 す る . こ れ に よ り 図 9.2 (b)の よ う な Portal Do simetr y で の ビ ー ム デ ー タ ( PDIP: Por tal Dose I mage Predictio n) が 作 成 さ れ , 治 療 計 画 装 置 上 で IMRT プ ラ ン に つ い て EPID 上 で の フ ル エ ン ス 分 布 を 得 る こ と が可能となる 7) . 表 9.2 Portal Do simetr y を 使 用 す る た め に 必 要 な 測 定 項 目 と 実 施 頻 度 測定項目 内容 実施頻度 ディテクタのキャリ I mage キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン DF の み : 1, 2 週 間 毎 ブレーション ( DF 画 像 の 取 得 , FF 画 像 の 取 得 ) FF,Do si metr y キ ャ リ ブ Dosimetr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン レーション:3 か月毎 (エネルギー,線量率毎) 治療計画装置へ登録 キャリブレーションテストプランの測定 するビームデータ ( デ ィ テ ク タ 位 置 100 cm と 140 cm) 少なくとも 1 年毎 出力係数 ( 30 cm × 40 cm ま で エ ネ ル ギ ー 毎 ) (a) キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン テ ス ト プ ラ ン 図 9.2 130 (b) Portal Do si metr y で の ビ ー ム デ ー タ キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン テ ス ト プ ラ ン と Portal Do simetr y で の ビ ー ム デ ー タ 9章 EPID 9.3. 物 理 特 性 ・ 注 意 点 EPID を 使 用 し て フ ル エ ン ス 分 布 評 価 を 行 う た め に は ,ま ず 検 出 器 の 物 理 特 性( 線 量 再 現 性,線量率依存性,線量直線性,残像など)を把握しなければならない.ここでは他の 2 次 元 検 出 器 と 異 な る EPID 固 有 の 注 意 点 を 述 べ る . 9.3.1. 線 量 直 線 性 通 常 , EPID で 取 得 し た 画 像 は 式 (9.2)に 示 す よ う に 平 均 フ レ ー ム 画 像 と し て 得 ら れ る が , IMRT の フ ル エ ン ス 検 証 時 に は Integr ated image モ ー ド で 測 定 す る た め 1 フ レ ー ム 毎 の 画 像 を加算した積算画像として出力される. I ( x, y ) = 1 N N ∑ I ( x, y ) j =1 (9.2) j こ の た め ,EPID の 線 量 直 線 性 の 評 価 で は ,線 量 に 対 す る 信 号 の 直 線 性 に 加 え 照 射 時 間 に 対 す る 取 得 フ レ ー ム 数 の 直 線 性 が 重 要 と な る . 現 在 の EPID( aS1000) で は , 線 量 率 を 100~ 600 cGy/ min に 変 化 さ せ て も 線 量 に 対 す る 信 号 と 取 得 フ レ ー ム 数 の 直 線 性 は 優 れ て い る( 図 9.3).ま た ,aS500 で も 同 様 の 結 果 が 報 告 さ れ て い る が 5), 8) ,以 前 の Portal Visio n( ver.6.1.03) で は CPU に buffer の デ ー タ を 移 す た め 64 フ レ ー ム 毎 に リ セ ッ ト す る 必 要 が あ り , 0.28 秒 の不感時間が生じていた 5) . そ の 結 果 , 64 フ レ ー ム を 超 え る 場 合 に 信 号 が 低 下 し て い た . McDer mott ら は Portal Visio n( ver.6 .1.11)か ら 不 感 時 間 は な い と 報 告 し て い る 8) .し か し , 使用前には線量に対する信号と取得フレーム数の直線性を確かめることが望ましい. 図 9.3 EPID の 信 号 と 取 得 フ レ ー ム 数 の 線 量 直 線 性 131 9.3.2. 幾 何 学 的 精 度 EPID は 他 の 2 次 元 検 出 器 と は 異 な り 設 置 位 置 を 手 動 で 微 調 整 で き な い た め ,装 置 の 自 動 停止位置におけるディテクタの中心精度が重要となる.特に,ガントリ角度が 0 度以外で 注 意 が 必 要 で あ る . Portal Do si metr y で は , ガ ン ト リ 角 度 が 0 度 以 外 で も Beam’s E ye View で IMRT フ ィ ー ル ド の フ ル エ ン ス 分 布 検 証 を 容 易 に 行 う こ と が で き る が , 治 療 時 と 同 じ ガ ン ト リ 角 度 で Portal Do simetr y を 行 う た め に は , デ ィ テ ク タ の 幾 何 学 的 な 位 置 精 度 が 確 認 さ れ て い な け れ ば な ら な い . Varian 社 の EPI D は , ガ ン ト リ 角 度 0 度 に お い て デ ィ テ ク タ 中心をアイソセンタに合わせこむため,その他の角度ではディテクタ中心の変位を補正し ない.よって,ガントリ角度が 0 度以外では重力の方向にディテクタの中心が変位する傾 向にある. 図 9.4 は winsto n-lutz テ ス ト の よ う に 微 小 球 を ア イ ソ セ ン タ に 設 置 し ,ガ ン ト リ 角 度 を 変 化 さ せ て , 更 に EPID の 高 さ を 1 0 , 4 0 お よ び 8 0 c m と 変 化 さ せ て 撮 影 し た 画 像 に お い て , 図 9.4 の 矢 印 方 向 に お け る 画 像 中 心 か ら の 変 位 を 示 し た も の で あ る .特 に ガ ン ト リ 角 度 180 度ではディテクタは重力により位置精度が悪化する傾向を示している.また,ディテクタ 位 置 が 高 さ 10 cm( SDD=110 cm)よ り 80 cm( SDD=18 0 c m)の 変 位 が 全 体 的 に 小 さ い の は , デ ィ テ ク タ の 位 置 に か か わ ら ず 画 像 表 示 を SDD=10 0 cm の 位 置 で 行 っ て い る た め で あ る . つ ま り , デ ィ テ ク タ を SDD=100 cm か ら 遠 ざ け た 場 合 の デ ィ テ ク タ 中 心 の 変 位 は 小 さ く な る .た だ し ,図 9.4 の デ ィ テ ク タ 中 心 か ら の 変 位 量 は EPID の 重 力 だ け で な く ,ガ ン ト リ ヘ ッドのたわみも付加された値であるため,必ずしもディテクタ位置がアイソセンタに近い ほど変位が大きいとは限らない. EPID を 用 い た フ ル エ ン ス 分 布 検 証 を 行 う 際 は ,図 9.4 に 示 す よ う に あ ら か じ め デ ィ テ ク タ の 変 位 を 把 握 す る 必 要 が あ る .ま た ,Portal Do si metr y は デ ィ テ ク タ を ア イ ソ セ ン タ か ら 0~ 80 cm 離 れ た 位 置 で 任 意 に 行 う こ と が で き る た め , I mage の 拡 大 率 と 各 位 置 で の デ ィ テ クタの中心精度が問題となる.よって,アイソセンタ面以外で使用するときはあらかじめ 拡大率の検証を行い,ディテクタの中心精度を確認することが必須である. 図 9.4 132 ディテクタの中心精度 9章 EPID 9.3.3. 残 像 の 影 響 残 像 は Gho sting ま た は Memor y Effect と 呼 ば れ , 照 射 後 に デ ィ テ ク タ に 信 号 が 残 っ て し ま う こ と を い う . こ の 影 響 は 照 射 時 間 に 依 存 す る た め , 大 き な MU を 照 射 し た 後 に 小 さ な MU を 照 射 し た と き に 顕 著 に 表 れ る 7,8,9) . ま た aSi layer の デ ザ イ ン , 製 造 の 違 い , ト リ ガ ー レ ベ ル な ど の 撮 影 パ ラ メ ー タ の 違 い に も 影 響 さ れ る . aS1000 で は , I AS3 mo nitor と 呼 ば れるディテクタのライブイメージを見るためのツールを使用すると照射後の残像を可視化 できる.その残像は照射後数秒で視覚的には消失するが,信号は残っているため注意が必 要である. Ann ら 7) は 残 像 の 線 量 プ ロ フ ァ イ ル へ の 影 響 を 検 証 し ,5 cm × 5 cm で 500 MU 照 射 後 に , 15 cm × 15 cm で 10 MU 照 射 し た 場 合 に 約 1%線 量 が 増 加 し た と 報 告 し て い る . ま た 図 9.5 に 10 cm × 10 cm の 照 射 野 で 20 → 20, 50 → 50, 100 → 100 MU の 3 条 件 で 照 射 し た 場 合 で , 照 射 間 隔 を 15 秒 ,30 秒 ,60 秒 空 け た 時 の 残 像 を 比 較 し た 結 果 と ,照 射 MU を 100 → 2 0, 2 0 → 100 MU の 順 番 で 同 様 に 時 間 を 空 け て 照 射 し た 場 合 の 残 像 の 影 響 を 示 す . 50, 100 MU を そ れ ぞ れ 連 続 照 射 し た 時 に は , 照 射 後 15 秒 で 約 0.4% 信 号 が 高 く な る が , 照 射 後 30 秒 後 に は そ の 影 響 は 見 ら れ な い . し か し , 20 MU 照 射 時 に は 60 秒 時 間 を 空 け て も 依 然 と し て 約 0.4% 信 号 が 増 加 し て い る . こ れ は 低 MU の 照 射 で は , 残 像 に よ る 信 号 の 相 対 的 な 割 合 が 大 き く な る た め で あ る . ま た , 前 後 の 照 射 MU を 変 化 さ せ て 照 射 し た と き に は , 20, 100 MU を そ れ ぞ れ 連 続 し て 照 射 し た 場 合 よ り 20 → 100 MU の 順 番 で 照 射 し た ほ う が 残 像 の 影 響 が 小 さ く , 一 方 100→ 20 MU の 順 番 で 照 射 し た ほ う が 20, 100 MU そ れ ぞ れ 連 続 し て 照 射した場合より残像の影響が大きい.このことは残像が照射前後に付与された照射線量に 依 存 す る こ と を 意 味 し て い る .よ っ て ,Portal Do si metr y を 行 う 時 は 残 像 を 考 慮 し ,各 測 定 の間隔に注意する必要がある. 図 9.5 時間経過による残像の影響 133 9.4. フ ル エ ン ス 検 証 Portal Do simetr y で は , 治 療 計 画 装 置 で 得 た EPID 上 で 予 想 さ れ る フ ル エ ン ス 分 布 ( predicted image) と 実 際 に EPID で 取 得 し た フ ル エ ン ス 分 布 ( measur ed image) の 比 較 を 行っている.つまり,フィルム法のようにファントム中の線量計算を含む線量分布検証と は異なり,フルエンス分布を検証するものである.ガントリ角度を治療時と同じ角度でフ ル エ ン ス 分 布 検 証 を 行 う こ と は , お も に 重 力 を 加 味 し た MLC の 動 作 確 認 の た め に 有 用 で あ る . し か し な が ら , 9.3.2 項 で も 述 べ た よ う に Portal Dosimetr y で は ガ ン ト リ 0 度 以 外 で はディテクタの位置が重力により変位する可能性があるため,測定したフルエンス分布の ず れ の 原 因 が MLC の ず れ な の か , デ ィ テ ク タ の ず れ な の か の 区 別 が 困 難 で あ る . 重 要 な こ と は Portal Do si metr y で 何 を 検 証 す る か を 明 確 に す る こ と で あ る . 単 に ビ ー ム 毎 の フ ル エ ン ス 分 布 を 検 証 す る 場 合 で あ れ ば ,デ ィ テ ク タ の 中 心 精 度 が 確 認 で き て い る 角 度( 0 度 ) で行うほうが位置の不確かさを小さくできる. Portal Do si metr y の 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア で あ る Review で は , フ ル エ ン ス 分 布 を 評 価 す る 範 囲 を イ メ ー ジ 全 体 も し く は 照 射 野 か ら 1 cm の 範 囲 か ら 選 択 で き る .こ れ は ガ ン マ 解 析 な ど の結果に影響するため,施設ごとに決定すべきである.フルエンス分布の評価項目として は プ ロ フ ァ イ ル の 比 較 ,Do se Difference,ガ ン マ 評 価( Max Gamma, Aver age Gamma, Area > 1.0)が あ る .し か し ,Distance -to -Agree ment( DTA)単 独 で の 評 価 は 行 う こ と が で き な い . ま た ,EPID の 計 画 /測 定 画 像 は DICOM フ ァ イ ル 形 式 で 出 力 で き る た め ,他 の 評 価 ツ ー ル を 使 用 す る こ と も 可 能 で あ る .図 9.6 に Portal Dosimetr y を 用 い た IMRT フ ィ ー ル ド の 検 証 結 果 を 示 す .aS1000 は 0.39 mm の 空 間 分 解 能 が あ る た め ,プ ロ フ ァ イ ル の ピ ー ク ま で 再 現 さ れ て い る [ 図 9.6 (b)]. し か し , lo ng 方 向 の プ ロ フ ァ イ ル で は , や や 線 量 分 布 の 起 伏 が あ る 場 所 で ず れ を 生 じ て い る[ 図 9.6 (c)].こ れ は predicted image の 解 像 度 よ り EPID で 測 定 し た measur ed image の 解 像 度 が 高 い た め で あ る . こ の よ う に 線 量 分 布 の 起 伏 が あ る 場 所 で は 両 者 の 相 違 が 生 じ や す い . 図 9.6 は フ ル エ ン ス 分 布 の ノ ー マ ラ イ ズ な し で の 比 較 で あ る が ,フ ル エ ン ス 分 布 の 高 さ が 同 じ だ か ら ,dosimetr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン が 一 致 し て い る( 変 動 し て い な い )と は 限 ら な い .デ ィ テ ク タ の 感 度( 信 号 出 力 )は 比 較 的 変 動 し や す い た め , Portal Do simetr y を 行 う と き に は ,治 療 時 の IMRT フ ィ ー ル ド だ け で な く ,同 時 に dosi metr y キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 条 件 ( 照 射 野 10 cm × 10 cm, 100 MU, SDD 10 0 c m) の フ ィ ールドも測定し,信号出力とディテクタの感度に変化が無いことを確認することが望まし い. ま た ,治 療 計 画 で は Tongue-and -Groo ve 効 果( 以 下 ,T&G)の 影 響 が 考 慮 さ れ て い な い . よ っ て , T &G は 図 9.7 の よ う に 縞 模 様 の よ う な 誤 差 と し て 検 出 さ れ る . こ の よ う に Portal Dosimetr y で は , 空 間 分 解 能 の 低 い 2 次 元 検 出 器 と は 異 な り T&G 効 果 に よ る 誤 差 を 検 出 す る こ と が 可 能 で あ る .も し 許 容 で き な い ほ ど の 誤 差 が 生 じ た 場 合 に は ,T&G の 影 響 を 低 減 す る よ う な 治 療 計 画 に 変 更 す る こ と を 推 奨 す る .ま た ,EPID は 高 分 解 能 で あ る た め ,MLC の 動 作 異 常 を 発 見 し や す い と い う 利 点 も あ り ,Mathild a 1 0 ) ら は MLC の 動 作 異 常 が あ っ た 場 合 に , MLC モ ー タ ー 交 換 前 後 の イ メ ー ジ を 報 告 し て い る . 134 9章 (a) 測 定 フ ル エ ン ス 分 布 図 9.6 (b) Later al 方 向 の プ ロ フ ァ イ ル (c) lo ng 方 向 の プ ロ フ ァ イ ル Portal Do simetr y で の IMRT フ ィ ー ル ド の 検 証 結 果 ( 赤 線 :計 画 値 , 青 線 :実 測 値 ) (a) 測 定 し た フ ル エ ン ス 分 布 図 9.7 EPID (b) Predicted I mage と の ガ ン マ 評 価 Portal Do simetr y に お け る Tongue & Gr oove 効 果 に よ る フ ル エ ン ス 分 布 へ の 影 響 9.5. MLC の QA EPID を 用 い た MLC の 品 質 管 理 に つ い て は 様 々 な 報 告 が あ る 11 - 1 4 ) . EPID は 0.39 mm の 空 間 分 解 能 を 有 す る た め フ ィ ル ム と 同 等 の 位 置 分 解 能 で 測 定 が 可 能 で あ る .図 9.8 は MLC に 0.5 mm の エ ラ ー が あ る テ ス ト プ ラ ン に つ い て フ ェ ン ス テ ス ト を 行 っ た 結 果 で あ る が , ど ち ら も エ ラ ー の 検 出 が 可 能 で あ っ た . 同 様 に Chang 1 2 ) ら は 両 手 法 で ス リ ッ ト 間 隔 , ス リ ッ ト 幅 が 相 違 し な か っ た と 報 告 し て い る . EPID で MLC の QA を 行 う と き は , は じ め に フ ィルムを用いる方法と比較し相違が無いことを確認する必要がある. (a) EPID 図 9.8 (b) Film フェンステストの比較 135 参考文献 1. Herzen J, Todoro vic M, et al.: Do si metric evaluatio n o f a 2D pixel io nizatio n chamb er fo r implementatio n in clinical ro utine. P hys. Med. B iol. 52:1197 -1208, 2007 2. Pouliot J, Aubr y J, Aubin M, et al.: Do se-Guided Rad iatio n Therap y Strategies with Megavo ltage Co ne -Beam CT. Med . P hys. 34: 23 7 9, 2007 3. Visio n Refer ence Guide Portal Visio n T M & Do simetr y 6.5 . Var ian Medical Syste ms. 4. Portal Do simetr y Beam Data Measure ments fo r Portal Do simetr y. Varian Medical Systems. 5. Peter BG and Camen CP: Dosimetr ic properties of an amorp ho us silico n electro nic por tal imaging device for ver ificatio n o f d ynamic intensity mod ulated rad iatio n ther ap y. Med. P hys. 30: 1618 -1627, 200 3 6. Michael GH, James MB, David AJ , et al.: Clinical use o f electro nic portal imaging: Report o f Rad iatio n T herap y Co mmittee Task Gr o up 58. Med. Phys. 28: 712 -737, 2 001 7. Ann VE, To m D, and Do miniq ue PH: The use of an aSi -based EPI D for routine abso lute dosi metr ic pr e -tr eatment ver ificatio n o f d yna mic I MRT fields. Radio ther. Onco l. 71 : 223 -234, 2004 8. McDer mott LN, Nijsten SMJJG, So nke JJ, et al.: Co mpar iso n o f ghosting effects for thr ee co mmer cial a -Si EPI Ds. Med. P hys. 33 : 2448 -245 1, 2006 9. McDer mott LN, Lo uwe RJW, So nke JJ, et al.: Dose-respo nse and gho sting effects o f an amorp ho us silico n electr onic por tal imaging device . Med. P hys. 31 : 285 -2 95, 2004 10. 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Distance-to-agreement 10.1.4. コ ン ポ ジ ッ ト 解 析 法 10.1.5. ガ ン マ 解 析 法 10.2. ガ ン マ 解 析 法 の 特 性 10.2.1. ノ イ ズ の 影 響 10.2.2. 線 形 補 間 の 影 響 10.2.3. 評 価 用 線 量 分 布 の 分 解 能 10.2.4. 計 算 時 間 10.2.5. Gamma Angle 10.2.6. 臨 床 応 用 参考文献 137 10. 線 量 分 布 の 解 析 10.1. 比 較 方 法 の 種 類 表 10.1 に 線 量 分 布 を 比 較 す る 際 に 用 い る 手 法 と そ れ ぞ れ の 長 所 と 短 所 を 示 す .線 量 分 布 検 証では,計画線量分布と測定線量分布をこれらの方法で比較し,最終的に両者が十分に一致 しているか否かを判断しなければならない.通常,線量分布の比較は専用の解析ソフトを使 用するが,ユーザーはそれぞれの比較方法の特徴と得られる数値が表わす意味を理解し,総 合 的 に 判 断 す る こ と を 要 求 さ れ る . 例 え ば ,線 量 差 を 意 味 す る Dose-difference は 線 量 勾 配 が 緩 や か な 領 域 や Hot/Cold Spot で 生 じ る 線 量 差 を 検 出 す る た め に 有 効 で あ る .し か し ,線 量 勾 配が急峻な領域で生じる線量差については,根本的には位置ずれに原因がある場合が多い. よって,線量勾配が急峻な領域では位置のずれを同一線量点の間の距離として評価する Distance-to-agreement( DTA)が 有 効 で あ る .表 10.1 に 示 す そ れ ぞ れ の 比 較 方 法 は 相 補 的 で あ るため,少なくともこの 4 項目は評価することを推奨する.本節ではそれぞれの手法の特徴 について具体的に説明する. 表 10.1 手法 視覚的評価法 Dosedifference 線量分布の比較方法の長所と短所 長所 短所 • 容易である • 定量性と客観性に欠ける • 全体の傾向が読み取れる • 検出能が低い • 従来の線量差を意味する • 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で は ,僅 か な • 線量勾配が緩やかな領域で線量 誤差の検出に有効である. 位置誤差によって大きな線量差を 示 す た め ,重 要 で は な い 場 合 が あ る • Hot/Cold Spot の 検 出 に 有 効 • 等しい線量を示す点の間の距離 Distance-toagreement ( DTA) (最短)を意味する • 線量勾配が急峻な領域で位置ず 線 量 差 に よ っ て 大 き な DTA を 示 す ため,重要ではない場合がある れの検出に有効である • Dose-difference と DTA を 合 成 し た評価である ガンマ解析法 • 線 量 勾 配 が 平 坦 な 領 域 で は ,僅 か な • 線 量 分 布 全 体 を 共 通 の 指 標( ガ ン マ値)で定量的に評価できる • Hot/Cold Spot の 検 出 能 が 低 い • ガ ン マ 値 は Dose-difference と DTA が 複 合 さ れ て い る た め ,線 量 差 と 位 置誤差のどちらが支配的であるか が評価できない → Gamma Angle( 10.2.5 参 照 ) 10.1.1. 視 覚 的 評 価 法 線量分布を重ね合わせる方法や線量プロファイルを比較する方法は視覚的評価であるため 容 易 で 、か つ 全 体 の 傾 向 な ど を 観 察 す る 上 で 最 も 有 効 で あ る .特 に PTV の 線 量 集 中 性 や リ ス ク臓器の線量低減が確認できるなど,線量分布検証では重要な評価法である.しかし,主観 138 10 章 線量分布の解析 的な評価となるため,客観性に欠け,定量性に乏しい欠点がある.また,相違がある場合で も 見 落 と さ れ る 可 能 性 が あ り ,よ り 確 実 で 客 観 的 な 評 価 方 法 と 組 み 合 わ せ て 行 う 必 要 が あ る . 10.1.2. Dose-difference Dose-difference は 線 量 差 を 意 味 し , 視 覚 的 評 価 法 と 比 較 し て 客 観 的 か つ 定 量 的 な 評 価 が 可 能 で あ る .関 心 点 ri に お け る 計 画 線 量 Dc (ri ) と 測 定 線 量 Dm (ri ) を 用 い て ,Dose-difference[ δ (ri ) ] は次式で表される. δ (ri ) = Dm (ri ) − Dc (ri ) (10.1) 式 (10.1)は 計 画 線 量 を 基 準 に し た 場 合 で あ る が ,基 準 を 計 画 線 量 と 測 定 線 量 の ど ち ら に す る か で結果は異なる.一般的に,コミッショニング時には測定線量を基準,計画線量を評価対象 とし,患者毎の治療計画の検証ではその逆にする.解析ソフトによっては基準を選択するこ とができない場合があるので注意する.また,それぞれの線量分布を最大線量や処方線量な ど で ノ ー マ ラ イ ズ ( 規 格 化 ) し て Dose-difference を 得 る 場 合 が あ る . ノ ー マ ラ イ ズ に 関 す る 注 意 は 7.1 節 を 参 照 さ れ た い . 基 本 的 に ,Dose-difference は 線 量 勾 配 が 緩 や か な 領 域 や hot / cold spot の 検 出 に 有 効 な 評 価 法 で あ る . 特 に , Tongue & Groove 効 果 で 生 じ る cold Spot の 検 出 に は Dose-difference が 最 適 である.しかし,線量勾配が急峻な領域では僅かな位置ずれによって過大な線量差を示すた め , 線 量 差 自 体 は そ れ ほ ど 重 要 で は な い こ と が 多 い . 図 10.1 は 半 導 体 検 出 器 ( Photon Field Detector; PFD, Scanditronix- Wellhofer 社 製 ) を 用 い て 取 得 し た 軸 外 線 量 比 ( Off Center Ratio, OCR) と , そ れ を プ ラ ス 方 向 に 2 mm シ フ ト し た OCR を 示 し , さ ら に 両 者 の Dose-difference を 重 ね て い る .Dose-difference は 線 量 勾 配 が 急 峻 で あ る 照 射 野 辺 縁 で 非 常 に 大 き い 値 を 示 し , 100%を 超 え る 領 域 も あ る .こ の よ う に 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 に お け る Dose-difference は ,本 来 で あ れ ば 許 容 で き る 程 度 の 僅 か な 位 置 誤 差( 2 mm)に 過 剰 に 反 応 す る 傾 向 が あ る .線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で は 位 置 ず れ を 検 出 す る こ と が 重 要 で あ り ,10.1.3 節 に 示 す DTA が 有 効 で あ る. 図 10.1 6 MV 光 子 線 の OCR( 黒 実 線 ) と そ れ を プ ラ ス 方 向 に 2 mm シ フ ト し た OCR( 黒 破 線 ) と 両 者 の Dose-difference( 赤 実 線 ) 139 10.1.3. Distance-to-agreement Distance-to-agreement( DTA)は 位 置 の ず れ を 検 出 す る こ と を 目 的 と し て お り ,計 画 線 量 分 布 と 測 定 線 量 分 布 に つ い て 等 し い 線 量 を 示 す 点 を 検 索 し ,そ の 最 短 距 離 と し て 定 義 さ れ る 1, 2) . 例 え ば , 基 準 と す る 計 画 線 量 分 布 上 の 位 置 rc の 線 量 が 100 cGy で あ る 場 合 , 評 価 対 象 で あ る 測 定 線 量 分 布 上 の 100 cGy を 示 す 点 の 内 , rc か ら 最 も 近 い 位 置 に あ る 点 rm ま で の 距 離 が DTA となり,次式で表される. DTA = rm − rc (10.2) DTA の 単 位 は 距 離 ( mm) で あ り , 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で 有 効 で あ る . Dose-difference と は 逆 に , DTA は 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で 有 効 な 評 価 法 で あ り , 線 量 勾 配 が 平 坦 な 領 域 で は 過 大 に 評 価 さ れ る 欠 点 が あ る .図 10.2 は 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 と 緩 や か な 領 域 に お け る DTA を 示 し て い る . 図 中 の 青 色 の ポ イ ン ト を 基 準 と す る 場 合 , 矢 印 の 長 さ が DTA と な る .線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 に お い て は 基 準 付 近 に 等 し い 線 量 が 存 在 す る た め ,DTA は 比 較 的 小 さ い 値( 短 い 距 離 )と な る .通 常 ,こ の DTA は 検 出 器 の 位 置 ず れ ,放 射 線 治 療 装 置 の 幾 何 学 的 な 照 射 野 位 置 の ず れ ,ま た は 検 出 器 の 体 積 平 均 効 果 の 影 響 を 示 す と 考 え ら れ る . 一 方 で 線 量 勾 配 が 緩 や か な 領 域 に お い て DTA は 非 常 に 大 き な 値( 長 い 距 離 )を 示 す .こ の 場 合 の DTA は 線 量 分 布 に お け る 位 置 の ず れ と は ほ ぼ 無 関 係 で あ る . 図 10.2 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 と 緩 や か な 領 域 に お け る DTA 10.1.4. コ ン ポ ジ ッ ト 解 析 法 Dose-difference は 線 量 勾 配 が 緩 や か な 領 域 で ,DTA は 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で 重 要 と な る . 140 10 章 線量分布の解析 こ の た め , Harms 3, 4, 5) ら は Dose difference と DTA を 相 補 的 に 利 用 す る こ と に よ り , そ れ ぞ れ が 持 つ 欠 点 を 克 服 す る コ ン ポ ジ ッ ト 解 析 法 を 提 案 し た . 具 体 的 に は 、 Dose-difference と DTA の両試験を行い,両方で判定基準を満たさない場合を不合格とする評価法である. ・ 合格 : Dose difference と DTA の ど ち ら か の 判 定 基 準 を 満 た す 場 合 , ・ 不合格 : Dose difference と DTA の 両 方 で 判 定 基 準 を 満 さ な い 場 合 . 図 10.3 に Low ら 6) が 報 告 し た コ ン ポ ジ ッ ト 解 析 法 (c)と 後 述 す る ガ ン マ 解 析 法 (d)の 比 較 を 示 す . こ の 評 価 方 法 は 図 10.3(d)の ガ ン マ 値 1.0 と ほ ぼ 同 じ 形 状 を 示 す . し か し , 判 定 基 準 を 超 えた場合のみの情報しか得られないため,定量的な評価を行うことができない欠点がある. (a) (b) (c) 図 10.3 コ ン ポ ジ ッ ト 解 析 法 と ガ ン マ 解 析 法 の 比 較 (d) 6) (a) 基 準 と な る 照 射 野 10 cm × 10 cm の 線 量 分 布 , (b) (a)を 人 為 的 に 変 化 さ せ た 評 価 用 の 線 量 分 布 で あ り ,Quadrant 1 は 変 化 な し ,Quadrant 2 は ⊿ Dose = 0.012x の 線 量 を 加 算( x = ±2.5 mm で ±3%に 相 当 ), Quadrant 3 は ⊿ y = 0.12x の 位 置 シ フ ト ( x = ±2.5 mm で y 方 向 ±3 mm の 位 置 ず れ に 相 当 ), Quadrant 4 は そ の 両 方 を 行 っ て い る . (c) コ ン ポ ジ ッ ト 解 析 の 結 果 ( 赤 い 領 域 が 不 合 格 を 示 す ), (d) ガ ン マ 解 析 ( 3% / 3 mm) の 結 果 . 141 10.1.5. ガ ン マ 解 析 法 ガ ン マ 解 析 法 は Low 7) ら に よ っ て 1998 年 に 提 案 さ れ , そ の 特 徴 は Dose-difference と DTA を複合して評価するためそれぞれの持つ欠点を克服している点である.つまり,線量勾配が 急峻な領域においても緩やかな領域においても共通の指標であるガンマ値を計算して判定す るため,線量分布全体について定量的な評価を行うことができる. 図 10.4 に ガ ン マ 解 析 法 の 概 説 図 ,表 10.2 に ガ ン マ 解 析 法 で 用 い ら れ る パ ラ メ ー タ を 示 す . ガ ン マ 解 析 法 に お け る 判 定 基 準 は 式 (10.5)に 示 す よ う に ,基 準 点 rr を 中 心 と し ,Dose-difference と DTA そ れ ぞ れ の 判 定 基 準 で あ る ΔD と Δd を 2 変 数 と し た 楕 円 方 程 式 で 表 わ さ れ る . 通 例 と し て , こ れ ら の 判 定 基 準 は ΔD / Δd で 表 さ れ , 3% / 3 mm や 3% / 2 mm と 示 さ れ る . 基 準 点 rr の 小 ガ ン マ 値 [ γ (rr ) ,式 (10.7)] の 計 算 方 法 は , ま ず 線 量 分 布 上 の 全 て の 点 を 評 価 点 re と し て 大 ガ ン マ 値 [ Γ(re , rr ) , 式 (10.6)] を 計 算 し , 得 ら れ た 全 て の 大 ガ ン マ 値 の 最 小 値 を 小 ガ ン マ 値 [ 式 (10.7)] と し て 採 用 す る . 一 般 的 に , ガ ン マ 値 と は 式 (10.7)で 表 さ れ る 小 ガ ン マ 値 γ (rr ) を 指 す . ま た , 理 論 上 は 線 量 分 布 上 の 全 て の 点 を 評 価 点 rr と し て 大 ガ ン マ 値 を 計 算するが莫大な時間がかかるため,基準点を中心とした制限させた範囲内で大ガンマ値を求 め,その中の最小値が小ガンマ値となる. 判 定 は , 小 ガ ン マ 値 が 1 以 下 で あ れ ば 合 格 [ γ (rr ) ≤1], 1 を 超 え て い れ ば 不 合 格 [ γ (rr ) >1] となる.また,1 以下であってもより 0 に近い程良く一致していることを示す. Dose-difference の 判 定 基 準 ∆D に 関 す る 補 足 で あ る が , 表 10.2 中 の Dose-difference の 判 定 基 準 ∆D は 最 大 線 量 や 処 方 線 量 の 3%で あ る と 記 載 さ れ て い る .こ れ は 低 線 量 域 に お い て 過 大 に評価されることを避けるためである.しかし,解析ソフトの種類によっては最大線量では なく任意の値が採用されているものがあり,さらに閾値が設定可能な場合がある.また,ノ ー マ ラ イ ズ を 行 わ ず 吸 収 線 量 の 絶 対 量 と し て 比 較 す る 場 合 は , 処 方 線 量 を 200 cGy と す る と そ の 3%に 相 当 す る 6 cGy が ∆D と し て 採 用 さ れ る . 図 10.4 ガンマ解析法の概説図 7) 各 パ ラ メ ー タ の 説 明 は 表 10.2 に 示 す . 142 10 章 表 10.2 ガンマ解析法に関連するパラメータ 数式 線量分布の解析 6) シンボル Dr (rr ) De (re ) 定義 N/A 基 準 点 rr に お け る 線 量 D r 評 価 点 re に お け る 線 量 D e Δd N/A Distance-to-agreement の 判 定 基 準 . N/A 3 mm な ど が 用 い ら れ る . ΔD N/A r (re , rr ) δ (re , rr ) r (re , rr ) = re − rr δ (re , rr ) = De (re ) − Dr (rr ) Dose-difference の 判 定 基 準 . 最 大 線 量 や 処 方 線 量 、或 い は Dr (rr ) の 3%な ど が 用 い ら れ る . (10.3) (10.4) 基準点と評価点の距離. 基 準 点 rr に お け る 線 量 D r と 評 価 点 re に お け る 線 量 De の 差 . 判定基準 r 2 (r , rr ) δ 2 (r , rr ) 1.0 = + Δd 2 ΔD 2 (10.5) 小ガンマ値の判定基準. 長 軸 と 短 軸 を そ れ ぞ れ 2 Δd と 2 ΔD と した楕円体の表面を表す. Γ(re , rr ) γ (rr ) Γ(re , rr ) = r 2 (re , rr ) Δd 2 + δ 2 (re , rr ) γ (rr ) = min{Γ(re , rr )}∀{re } (10.6) ΔD 2 (10.7) 大ガンマ値. あ る 基 準 点 rr に 対 し ,全 て の 評 価 点 re で計算される. 基 準 点 rr の 小 ガ ン マ 値 . 全 て の 評 価 点 re に つ い て 計 算 さ れ た Γ(re , rr ) の 最 小 値 . 次 に 図 10.5 で 示 す モ デ ル を 使 っ て 、簡 単 な ガ ン マ 値 の 計 算 を 行 う .基 準 点 rr は 1 点 の み と し , そ の 線 量 を 100 と す る . 実 際 に は , こ の 基 準 点 は 線 量 分 布 の 1 ピ ク セ ル や 2 次 元 検 出 器 の 1 素子に相当する.評価用の線量分布は離散的なデータであるため,より正確にガンマ値 を計算するためには線形補間を用いてデータ間の領域についてもガンマ値を計算する必要が あ る . し か し , こ こ で は 計 算 を 簡 単 に す る た め 省 略 す る . 線 形 補 間 の 影 響 に つ い て は 10.2.2 節 を 参 照 さ れ た い . 図 10.6 (a)-(d)は 図 10.5 の 評 価 用 の 線 量 分 布 を 示 し , 4 ケ ー ス そ れ ぞ れ に 対してガンマ値を計算する.また,線量分布は第 2 象限のみ表示している.点線で書かれた 円 は DTA の 判 定 基 準 で あ り , 表 10.2 で は Δ d に 対 応 す る . こ こ で は 3 mm と し て お り , Dose-difference の 判 定 基 準 Δ D は 基 準 値 100 の 3%と す る . 143 図 10.5 基 準 用 線 量 分 布 ( Reference dose) と 評 価 用 線 量 分 布 ( Evaluated dose) 基 準 点 rr の 線 量 を 100, 評 価 用 線 量 分 布 を 図 10.6 と し て ガ ン マ 解 析 を 行 う . 図 10.6 a b c d 評価用の線量分布 図 中 の ○ は 全 て Evaluation Dose で あ り , 点 線 で 書 か れ た 円 の 半 径 は 3 mm で あ る . 判 定 基 準 は 3%/3 mm と し て ガ ン マ 解 析 を 行 う .評 価 用 の 線 量 分 布 は 計 算 を 簡 単 に す る た め に ,第 2 象 限のみ表示してある. 図 10.6 (a)の 場 合 ○ が Evaluation Dose で あ り , 基 準 点 の 線 量 は 100 で あ る . 基 準 点 か ら 最 も 近 い 距 離 で 線 量 の 相 違 が 少 な い 場 所 は 赤 色 で 示 し て あ る .よ っ て 赤 の ポ イ ン ト の 大 ガ ン マ 値 Γ を 計 算 す る と , 144 10 章 2 線量分布の解析 2 3 mm 2 0% Γ= = 0.5 + 3 mm 3% (10.8) で あ る .そ れ 以 外 の ポ イ ン ト で は 全 て 線 量 が 105 を 示 し て い る の で Dose-difference の 判 定 基 準 3%を 超 え て い る .し た が っ て , Γ は 必 然 的 に 1.0 以 上 を 示 す こ と に な る .小 ガ ン マ 値 は 全 て の ポ イ ン ト の 最 小 値 を 採 用 す る こ と か ら , 図 10.6 (a)の ガ ン マ 値 は 0.5 と な る . 図 10.6 (b)の 場 合 (b)は (a)の ポ イ ン ト が 上 方 向 に 1 ポ イ ン ト 移 動 し た 場 合 で あ る . 赤 の ポ イ ン ト の ガ ン マ 値 を 計算すると, 2 2 × 3 mm 2 0% 2 1 + ≅ 0.71 Γ= = 3 mm 2 3% (10.9) と な る . そ れ 以 外 の 点 は 全 て 線 量 が 105 を 示 す こ と か ら , Γ は 1.0 以 上 を 示 す . よ っ て 図 10.6(b)の 小 ガ ン マ 値 γ は 0.71 と な り 、 (a)の ケ ー ス よ り も γ が 大 き い 値 を 示 し て い る . こ れ は 基準点から距離が 2 倍だけ離れたことが影響している. 図 10.6 (c)の 場 合 (c)は (b)の 赤 の ポ イ ン ト と 同 じ 位 置 を 示 す が , 値 が 100 か ら 102 に 変 化 し た 場 合 で あ る . 赤 のポイントの大ガンマ値 Γ を計算すると, 2 2 × 3 mm 2 2% 2 17 + Γ= ≅ 0.97 = 3 mm 18 3% (10.10) で あ る . 注 目 す べ き こ と は (b)の ケ ー ス よ り も γ が 大 き い 値 を 示 し て い る こ と で あ る . こ れ は 線 量 が 100 か ら 102 に 変 化 し た た め で あ る . 図 10.6 (d)の ケ ー ス こ の ケ ー ス は DTA の 判 定 基 準 3 mm を 超 え た 領 域 に 最 小 値 で あ る 赤 の ポ イ ン ト が 位 置 し て いる場合である.赤のポイントの大ガンマ値 Γ を計算すると, 2 2 × 3 mm 0% 2 + = 2 ≅ 1.41 Γ= 3 mm 3% (10.11) で あ り 1.0 を 超 え て い る . 円 の 内 側 で 上 記 の Γ よ り 低 い 値 を 示 す 可 能 性 が あ る た め , 最 も 基 準点からの距離が短い,基準点の直上の Γ を計算する. 2 2 5 0 mm 5% Γ= = ≅ 1.67 + 3 mm 3 % 3 (10.12) 両 者 を 比 較 し た と こ ろ , (d)の 場 合 の 小 ガ ン マ 値 γ は 3 mm の 外 側 に 位 置 す る 赤 の ポ イ ン ト の 大 ガ ン マ 値 Γ で あ る 1.41 が 採 用 さ れ る .こ の よ う に ガ ン マ 解 析 法 は 基 準 点 か ら ど こ ま で 計 算 範囲に設定するかで計算結果が変化する.しかし,適切な計算範囲に関しては未だ論文など で報告されておらず,施設の判断に委ねられているのが現状である. 145 今 回 の 結 果 で は 図 10.6 (a) (b) (c)の 小 ガ ン マ 値 が 1.0 以 下 を 示 し て い る こ と か ら 合 格 と な る . ただし,ガンマ解析法は小ガンマ値によって相違を定量的に評価できることが大きな特徴で あ る . こ の た め , 小 ガ ン マ 値 が 最 も 0 に 近 い 値 を 示 し た (a)の 線 量 分 布 が 最 も 良 く 基 準 値 と 一致していることになる. 最 終 的 に ,ガ ン マ 解 析 法 で は 図 10.3 (c)に 示 す コ ン ポ ジ ッ ト 解 析 法 の 結 果 と 同 様 に 試 験 の 合 否 を 2 値 化 し て 表 示 す る 方 法 や , 図 10.3 (d)の よ う に 小 ガ ン マ 値 の 分 布 を 表 示 す る 方 法 に よ って,線量分布のどの位置で不合格となっているかを視覚的に評価することが重要となる. 特に,全門検証では標的やリスク臓器の解剖学的な位置を考慮して検証の合否を判定するこ とは必須である.また,ガンマ解析法では小ガンマ値が 0 に近いほど良好な結果が得られて いることを示すため,結果を統計的に解析することでより定量的な評価が可能となる.よっ て,線量分布全体における小ガンマ値の平均値や最頻値,判定の合格率,小ガンマ値の度数 分布ヒストグラムであるガンマヒストグラムなどが線量分布検証の合否を判定する際に重要 な 項 目 と な る . 図 10.7 は そ の 1 例 と し て SUN NUCLEAR 社 の MapCHECK 8, 9) で 求 め た ガ ン マ ヒストグラムである. 図 10.7 MapCHECK の 解 析 ソ フ ト の ガ ン マ ヒ ス ト グ ラ ム 8, 9) 10.2. ガ ン マ 解 析 法 の 特 性 10.2.1. ノ イ ズ の 影 響 Low ら は ノ イ ズ が ガ ン マ 解 析 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 報 告 し て い る 6) .これは特に粒状性が 問題になるフィルムや統計的な不確かさが伴うモンテカルロシュミレーションで得た線量分 布 に 対 し て 行 う ガ ン マ 解 析 で 問 題 と な る .図 10.8 は 線 量 勾 配 が 平 坦 な 領 域 に お い て 線 量 の 相 違 が す で に 3%あ る 場 合 に ノ イ ズ が ガ ン マ 解 析 に 及 ぼ す 影 響 を 調 べ た 結 果 で あ る 6) .横 軸 が ガ ンマ値,縦軸は加えたノイズのばらつき度を示している.マップ上に示している強度はガン マ ヒ ス ト グ ラ ム の 度 数 に 相 当 し , 判 定 基 準 は 3%/3 mm で あ る . 図 10.8 (a)は ノ イ ズ が 評 価 用 146 10 章 線量分布の解析 の線量分布上に生じた場合であり,ノイズのばらつき度の増加とともにガンマヒストグラム は左側にシフトしている.これはガンマ解析法の計算方法がガンマ値の最小値を採用してい ることが要因となっている.つまり,ノイズのばらつき度の増加とともに基準の値に近い値 を示す確率が増え,結果としてより低いガンマ値を返すことになる.このような現象はモン テカルロシミュレーションの計算値を評価用の線量分布とした場合に生じ,ノイズのばらつ き 度 の 増 加 と と も に 結 果 は 過 小 評 価 に な る . 一 方 で 図 10.8 (b)は 基 準 の 線 量 分 布 上 に ノ イ ズ が生じた場合であり,基準の値にノイズが追加されたことにより,得られるガンマ値自体に ノイズのようなばらつきの影響を直接受けることになる. (a) Evaluated dose に ノ イ ズ が 生 じ た 場 合 (b) Reference dose に ノ イ ズ が 生 じ た 場 合 図 10.8 ノ イ ズ が ガ ン マ 解 析 に 及 ぼ す 影 響 6) 10.2.2. 線 形 補 間 の 影 響 図 10.5 と 10.6 で は 離 散 的 な デ ー タ に 対 し て ガ ン マ 値 を 計 算 し て い る . し か し , よ り 正 確 にガンマ値を計算するためには,データ間を線形補間してガンマ値を計算する必要がある. 補 間 の 影 響 に つ い て ,Depuydt ら は EPID dosimetry を 用 い て 報 告 し て い る 10) .図 10.9 (a)に 示 すように,判定基準を意味する楕円を 2 つのデータが挟むような場合,離散的なデータとし て ガ ン マ 値 を 計 算 す る と 2 つ の デ ー タ は 楕 円 の 外 側 に 位 置 す る た め ガ ン マ 値 は 1.0 以 上 に な る . し か し , 実 際 に は 線 量 分 布 が 楕 円 を 貫 い て い る こ と か ら ガ ン マ 値 1.0 以 下 を 示 す ポ イ ン トは必ず存在し,この場合線形補間を用いて 2 点間のガンマ値を計算する必要がある.この ような条件は線量勾配が急峻な領域で見られ,離散的なデータでガンマ解析をした場合には ガ ン マ 値 を 過 大 評 価 し て し ま う . 図 10.9 (b)は EPID dosimetry を 基 準 の 線 量 分 布 と し て ガ ン マ値を計算した結果であり,黒が線形補間を使用しないで判定基準を満たした領域,白が判 定 基 準 を 満 た し て い な い 領 域 で あ る .線 形 補 間 を 必 要 と す る 図 10.9 (a)の よ う な 領 域 は グ レ ー で表示されており,線量勾配が急峻な領域で見られる. 147 (a) 図 10.9 (b) EPID を 用 い た Prostate IMRT Field に お け る ガ ン マ 解 析 10) ( 5% / 4.5 mm) 10.2.3. 評 価 用 線 量 分 布 の 分 解 能 ESTRO Booklet No.7 で は 評 価 用 線 量 分 布 の 分 解 能( 1pixel あ た り の 距 離 )は DTA に 対 す る 判 定 基 準 の 1/3 以 下 で あ る こ と が 望 ま し い と 報 告 さ れ て い る 11) .つ ま り ,判 定 基 準 を 3%/3 mm と し て 設 定 す る 場 合 は ,線 量 分 布 の 分 解 能 は 1 pixel あ た り 1.0 mm 以 下 が 望 ま し い と い え る . よ り 詳 細 な 結 果 に つ い て は , 2003 年 に Low ら が 分 解 能 を 変 化 さ せ た 時 の ガ ン マ 解 析 の 影 響 について報告している 6) . 10.2.4. 計 算 時 間 ガ ン マ 解 析 の 計 算 時 間 は 線 量 分 布 の ピ ク セ ル 数 に 依 存 す る . 例 え ば 2次 元 検 出 器 は 素 子 の 数 が 約 1000個 で あ る た め 計 算 時 間 は 短 い が ,高 分 解 能 が 特 徴 で あ る EPIDや フ ィ ル ム な ど で は よ り 長 い 計 算 時 間 を 要 す る .Lowら は 800 MHz Pentium4の コ ン ピ ュ ー タ を 用 い て 14.1 cm × 15.2 cm, 1 mm/pixelの 線 量 分 布 を ガ ン マ 解 析 し た 場 合 , 約 5分 の 計 算 時 間 を 要 し た と 報 告 し て い る 6) . ま た Stockら も Athlon AMD 1.6 GHzの コ ン ピ ュ ー タ を 用 い て 17 cm × 14 cmの 線 量 分 布 に 対 し て ガ ン マ 解 析 を 行 い , 約 15分 の 計 算 時 間 を 要 し た と 報 告 し て い る 12) . Depuydtら 1 0) は 治 療 前 に EPID の 画 像 を 取 得 し ,照 合 を 目 的 と し て ガ ン マ 解 析 を 行 っ て い る .し か し ,こ の 計 算 時 間 が 問 題 に な る こ と を 指 摘 し , 計 算 時 間 を 短 縮 す る た め の 新 し い 計 算 方 法 , a level based approachを 提 案 し て い る .ま た ,Bakaiら 13) も 計 算 時 間 を 短 縮 す る た め に ガ ン マ 解 析 法 を ベ ー ス に し た χ method を提案している. 10.2.5. Gamma Angle ガンマ解析法の特徴は,線量勾配が緩やかな領域でも急峻な領域でも共通の指標であるガ ン マ 値 で 定 量 的 な 評 価 が で き る こ と で あ る . し か し , ガ ン マ 値 の み で 評 価 す る た め Dosedifference が 支 配 的 な の か ,DTA が 支 配 的 な の か を 知 る こ と が で き な い .Stock ら 1 2) はこの問 題 を 指 摘 し ,Gamma Angle と い う 新 た な 指 標 を 導 入 し た .図 10.10 と 式 (10.13)に Gamma Angle の 定 義 を 示 す .Gamma Angle は Dose-difference と DTA を 変 数 と し た 時 の 楕 円 上 の ベ ク ト ル の 148 10 章 線量分布の解析 角 度 に 相 当 す る . こ こ で 式 (10.13)の 物 理 量 は 表 10.2 を 基 に し て い る . Gamma angle = tan −1 ( r ∆d δ ∆D (10.13) ) Gamma Angle が π /2 に 近 い 時 は ,Dose-difference よ り DTA が 支 配 的 に な り ,逆 に Gamma Angle が 0 に 近 い 時 は Dose-difference が 支 配 的 に な る .そ の た め ,Gamma Angle と ガ ン マ 値 の 分 布 を 併 用 す る こ と に よ り , よ り 高 度 な 解 析 が 可 能 と な る . 図 10.11 に Stock ら 1 2) による前立腺 IMRT の Gamma Angle の 解 析 結 果 を 示 す .左 の 図 は 3%/3 mm で 計 算 し た ガ ン マ 値 の 分 布 で あ り , 右 の 図 は Gamma Angle の 分 布 で あ る . 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 に お い て Gamma Angle が π /2 に 近 い 値 を 示 し て い る .こ れ よ り ,線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 で は Dose-difference よ り DTA が 支 配 的 で あ る こ と が 分 か る .一 方 ,線 量 勾 配 が 緩 や か な 領 域 で は Gamma Angle は 0 に 近 い 値 を 示 し , DTA よ り Dose-difference が 支 配 的 と な る . 図 10.10 図 10.11 Gamma Angle の 計 算 方 法 前 立 腺 IMRT に お け る ガ ン マ 値 ( 左 ) と Gamma Angle( 右 ) の 分 布 12) 149 10.2.6. 臨 床 応 用 ガ ン マ 解 析 の 臨 床 応 用 と し て は , Depuydt ら 10 ) は 2002 年 に 前 立 腺 IMRT の 患 者 に 対 し て , 直 腸 内 ガ ス の 有 無 な ど を よ り 迅 速 に 判 別 で き る よ う に , a level based approach と い う ガ ン マ 解 析 法 を 提 案 し ,日 々 撮 像 が 行 わ れ る EPID の 画 像 を ガ ン マ 解 析 し て い る .ま た Martin ら 1 4) は 2007 年 に 2 機 種 の 放 射 線 治 療 装 置 で 治 療 が 行 わ れ た 57 症 例 の 頭 頚 部 IMRT に 対 し て フ ィ ルムを用いた検証でガンマ解析を行った結果,2 機種の装置に系統的な相違があることを見 出 し て い る . McDermott ら 15) も 2007 年 に EPID dosimetry を 用 い て ガ ン マ ヒ ス ト グ ラ ム を 用 い て 統 計 的 な 解 析 を 行 い , γ a ve , γ ma x , P < 1 ( γ 値 が 1 以 下 を 示 す 割 合 ) な ど の 指 標 を 算 出 し 自 施 設 の プ ロ ト コ ル の 作 成 を 行 っ て い る . ま た Stock ら 12) も γ a ve , γ max , γ 1% ( 全 体 の 1%の 割 合 を 示 す ガ ン マ 値 ) を 算 出 し 判 定 基 準 の 構 築 を 行 っ て い る . ま た Spezi 16 ) らはモンテカルロシュ ミレーションを基準の線量分布として,治療計画装置の線量分布に対して 3 次元的な体積を 取 り 入 れ た Gamma Volume Histogram を 提 案 し て い る . 参考文献 1. Venselaar J, Welleweerd H, Mijnheer B, et al.: Tolerances for the accuracy of photon beam dose calculations of treatment planning systems. Radiother Oncol. 60, 191–201, 2001. 2. Van Dyk J, Barnett RB, Cygler JE, et al.: Commissioning and quality assurance of treatment planning computers. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 26: 261–73, 1993. 3. Harms WB, Low DA, Wong JW, et al.: A software tool for the quantitative evaluation of 3D dose calculation algorithms, Med. Phys. 25, 1830-1836, 1998. 4. Shiu AS, Tung S, Hogstrom KR, et al.: Verification data for electron beam dose algorithms, Med.Phys.19, 623-636, 1992. 5. Cheng A, Harms WB, Gerber RL, et al.: Systematic verification of a three-dimensional electron beam dose calculation algorithm, Med.Phys. 23, 685-693, 1996. 6. Low DA, Dempsey JF: Evaluation of the gamma dose distribution comparison method, Med. Phys, 30, 2455-2464, 2003. 7. Low DA, Harms WB, Mutic S, et al.: A technique for the quantitative evaluation of dose distributions. Med. Phys. 25: 656–61, 1998. 8. Letourrneau D, Gulam M, Yan D, et al.: Evaluation of a 2D diode array for IMRT quality assurance. Radiat Oncol, 70, 199-206, 2004. 9. Jursinic PA, Nelms BE, et al.: A 2-D diode array and analysis software for verification of intensity modulated radiation therapy delivery. Med. Phys. 30, 870-879, 2003. 10. Depuydt T, Esch AV, Huyskens DP.: A quantitative evaluation of IMRT dose distributions: refinement and clinical assessment of the gamma evaluation, Radiot Oncol, 62,309-319, 2002. 11. Mijnheer B: Quality assurance of treatment planning systems-practical examples for non-IMRT photon beams, ESTRO Booklet No.7, 2004. 12. Stock M, Kroupa B, Georg D. : Interpretation and evaluation of the γ index and the γ index angle for the verification of IMRT hybrid plans, Phys. Med. Biol. 50,399-411, 2005. 13. Bakai A, Alber M, Nusslin F: A revision of the γ-evaluation concept for the comparison of dose 150 10 章 線量分布の解析 distributions, Phys. Med.Biol. 48, 3543-3553, 2003. 14. Martin ED, Fiorino C, Broggi S, et al.: Agreement criteria between expected and measured field fluences in IMRT of head and neck cancer: The importance and use of the histograms statistical analysis. Radiot. Oncol. 85, 399-406, 2007. 15. McDermott L, B.A./B.SC.(HONS), Wendling M, et al.: Replacing pretreatment verification with in vivo EPID dosimetry for prostate IMRT, Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 67, 1568-1577, 2007. 16. Spezi E, Lewis DG: Gamma histograms for radiotherapy plan evaluation, Radiother Oncol, 79, 224-230,2006. 〔岡本〕 151 152 11 章 独立線量検証 目次 11.1. モンテカルロシミュレーション 11.2. その他の方法 11.3. 独立検証ソフトウェアの導入に向けて 参考文献 153 11. 独 立 線 量 検 証 安 全 な 放 射 線 治 療 を 実 施 す る た め に は , 治 療 計 画 装 置 ( RTPS) で 計 算 し た 線 量 分 布 や 計 画 MU 値 が 誤 っ て い な い か を 何 ら か の 方 法 で 確 認 し な け れ ば な ら な い . し か し , 治 療 計 画 装 置 で 計 算 し た 計 画 MU 値 や 線 量 分 布 の 正 確 度 と 精 度 を 検 証 す る た め に 全 て の ビ ー ム で 測 定 を 行 う こ と は 労 力 や コ ス ト の 面 か ら 考 え て 大 き な 負 担 で あ る .そ の た め ,従 来 の 放 射 線 治 療 で は 測 定 による検証の代わりに臨床業務で使用する治療計画装置とは異なる系統の線量計算システム で計算し,治療計画装置の計算値を保証することが推奨されている 1), 2) . この別系統の線量計算システムには治療計画装置の照射情報を参照しながらマニュアルで 線 量 計 算 す る 簡 単 な シ ス テ ム も あ れ ば , 治 療 計 画 装 置 か ら DICOM 形 式 で 出 力 し た 幾 何 学 的 情 報 ( 患 者 や フ ァ ン ト ム の CT デ ー タ , 関 心 領 域 な ど ) と 照 射 情 報 ( ガ ン ト リ 角 度 や コ リ メ ー タ 角 度 ,線 量 計 算 点 の 座 標 な ど )を 用 い る 高 度 な シ ス テ ム も あ る .ま た ,基 と な る 測 定 デ ー タ は 治 療 計 画 装 置 と 同 じ デ ー タ を 用 い る 場 合 と ,別 に 取 得 す る 場 合 が あ る .い ず れ に し て も ,線 量 計 算 の 過 程 が 治 療 計 画 装 置 か ら 独 立 し て い る 必 要 が あ り ,以 下 ,こ の よ う な シ ス テ ム を 独 立 検 証システムと呼ぶ. IMRT に お い て も 同 様 の 試 み が 可 能 で あ り 3), 4) , Step and Shoot 方 式 で は セ グ メ ン ト 毎 に , Dynamic MLC 方 式 は 各 コ ン ト ロ ー ル ポ イ ン ト で 分 割 し た 照 射 野 毎 に 線 量 計 算 を 行 い ,そ れ ら を 積 算 す る こ と で 最 終 的 な 線 量 分 布 を 取 得 で き る .た だ し ,現 状 で は IMRT に 適 用 で き る 独 立 検 証 シ ス テ ム や そ の 方 法 が 限 定 的 で あ り ,ま た ,治 療 計 画 装 置 と 独 立 検 証 シ ス テ ム と の 比 較 だ け で は 実 機 側 の 不 確 か さ か ら 生 じ る 投 与 線 量 の 誤 差 を 検 出 で き な い 欠 点 が あ る た め ,基 本 的 に 本 書では測定による検証を推奨する. IMRT の 場 合 , 独 立 検 証 シ ス テ ム は 多 数 の セ グ メ ン ト や 照 射 角 度 か ら の 計 算 に 対 応 し て い な け れ ば な ら な い .そ の た め ,手 作 業 で 入 力 を 行 う 方 法 は ,煩 雑 さ と 作 業 ミ ス の リ ス ク を 考 慮 す る と 仮 に 精 度 が 高 い 方 法 で あ っ て も 推 奨 で き な い . さ ら に , IMRT で は Jaw や MLC な ど の コ リ メ ー タ 系 か ら の 漏 洩 線 を 考 慮 し た 線 量 計 算 を 行 う 必 要 が あ る が ,従 来 の MU 検 証 シ ス テ ム で は全ての照射条件で漏洩線を正確に計算することは難しい. 現 在 ,IMRT の 独 立 検 証 が 可 能 な シ ス テ ム は ,汎 用 Monte Carlo コ ー ド を 用 い て 構 築 さ れ た シ ス テ ム , 別 機 種 の 治 療 計 画 装 置 の 利 用 , IMRT に 対 応 し た 独 立 検 証 専 用 の ソ フ ト ウ ェ ア , EPID を用いた検証システムなどがあげられる 4) . 本 章 で は EPID を 用 い た 検 証 シ ス テ ム を 除 く 独 立 検 証 シ ス テ ム を 紹 介 す る . EPID を 用 い た 検 証 シ ス テ ム に つ い て は 9 章 を 参 照 さ れ た い . 11.1. モ ン テ カ ル ロ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン モ ン テ カ ル ロ ( MC) シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 用 い た 独 立 線 量 検 証 は , 既 に 多 く の 論 文 で 報 告 さ れている 5)~ 10) . AAPM TG105 5) で は , MC 法 の 治 療 計 画 装 置 へ の 適 用 が 報 告 さ れ て お り , 合 わ せ て そ の 問 題 点 な ど も 挙 げ ら れ て い る . ま た , MC コ ー ド に は 色 々 な 種 類 が あ り , そ れ ぞ れ に 特徴がある 11) ~16 ) .バージョンによって相互作用の取り扱い方や反応断面積の値とそれらの計 算法に違いがあったり,省略されていたりするので,使用前に確認が必要である.使用する MC コ ー ド の 特 徴 を 理 解 し , 十 分 な 計 算 精 度 検 証 を 行 っ て , 測 定 と の 整 合 性 を 確 認 で き な け れ ば 検 証 の 意 味 を な さ な い . 表 11.1 に MC コ ー ド の 種 類 と 計 算 時 間 , 計 算 精 度 を 示 す . MC 法 は ユ ー ザ ー の 指 定 し た 物 質 情 報 に 対 し て , 光 電 効 果 , コ ン プ ト ン 散 乱 , 電 子 対 生 成 な ど に 代 表 さ れ る 光 子 ,電 子( あ る い は 中 性 子 )と 物 質 と の 相 互 作 用 に つ い て ,そ れ ら の 反 応 断 154 11 章 独立線量検証 面 積 や 散 乱 角 な ど の 基 本 的 な 物 理 情 報 を 確 率 的 に と ら え ,確 率 過 程 を 表 現 す る 確 率 変 数 を 導 き , 乱数を発生させてその過程を追跡する 11) .従 来 の 実 測 モ デ ル や 理 論 モ デ ル に 基 づ く 線 量 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム に 比 べ て ,二 次 粒 子 以 降 も 考 慮 さ れ る た め 物 質 内 の 粒 子 の 散 乱 や エ ネ ル ギ ー 吸 収 の 過 程 を よ り 忠 実 に 再 現 す る こ と が で き る .ま た ,不 均 質 な 物 質 中 で は ,物 理 特 性 の 異 な る 2 物 質 の 境 界 で 粒 子 の 移 動 距 離 が 再 評 価 さ れ ,物 質 特 性 に 応 じ た 反 応 断 面 積 が 採 用 さ れ る .本 書 で は 不 均 質 フ ァ ン ト ム を 用 い た 線 量 検 証 に つ い て 言 及 し な い が , MC 法 は こ の よ う な 不 均 質 物 質 内線量計算に対応できる利点がある 17) . 照 射 ヘ ッ ド 部 か ら 出 力 さ れ る ビ ー ム を モ デ リ ン グ し た MC 法 は ,照 射 ヘ ッ ド 部 か ら 二 次 的 に 発 生 す る X 線 や 電 子 線 が 考 慮 さ れ る た め ,線 量 ビ ル ド ア ッ プ 部 に お い て も 高 い 計 算 精 度 が 期 待 できる 13), 1 8) ~19 ) .このため,照射ヘッド内の構造を忠実に再現したシミュレーションモデルが 必 要 で あ る .NRCC( National Research Council Canada)が 提 供 す る BEAMnrc コ ー ド で は ,GUI ベ ー ス の ア プ リ ケ ー シ ョ ン に よ っ て 複 雑 な プ ロ グ ラ ミ ン グ の 技 術 が な く て も ,比 較 的 簡 単 に 加 速器の照射ヘッド部を構築することが可能である ッド部をモデリングする試みがなされている 10) 13) .ま た ,そ の 他 の コ ー ド に お い て も 照 射 ヘ .図 11.1 に BEAMnrc コ ー ド を 用 い て 作 成 し た 照射ヘッド部構造の略図を示す. ビ ー ム モ デ リ ン グ に 大 き く 影 響 を 与 え る パ ラ メ ー タ を 表 11.2 に 示 す .照 射 ヘ ッ ド 部 の 構 造 が 決 ま っ て い る 場 合 ,入 射 電 子 束 の 平 均 エ ネ ル ギ ー ,及 び エ ネ ル ギ ー 分 布 は PDD( あ る い は TMR) に 影 響 を 与 え る .ま た ,軸 外 方 向 の 線 量 分 布 の 形 状 は ,入 射 電 子 束 の タ ー ゲ ッ ト に 衝 突 す る 位 置 の 揺 ら ぎ で 変 化 す る .こ の こ と か ら ,モ デ リ ン グ で は タ ー ゲ ッ ト に 衝 突 さ せ る 入 射 電 子 の パ 表 11.1 ICCR ベ ン チ マ ー ク に よ る 種 々 の MC コ ー ド を 使 用 し た 計 算 精 度 の 結 果 比 較 5) 計 算 時 間 は 照 射 野 10 cm × 10 cm, 6 MV 光 子 線 で , 計 算 精 度 は 1.5 cm × 1.5 cm, 18 MV 光 子 線 で 求 め た .計 算 条 件 は Pentium IV 3 GHz CPU の シ ン グ ル タ ス ク を 基 準 と し て い る .こ れ ら の 結 果はコンパイラやコンピュータの性能によって大きく変化する. EGS4/PRESTA/DOSXYZ と 比 較 モンテカルロコード 推 定 時 間 ( min) EGS4/PRESTA/DOSXYZ 43 0, 基 準 VMC++ 0.9 ±1 XVMC 1.1 ±1 MCDOSE( modified EGS4/PRESTA) 1.6 ±1 MCV( modified EGS4/PRESTA) 22 ±1 DPM( modified DPM) 7.3 ±1 MCNPX 60 PEREGRINE 43 GEANT4( 4.6.1) 193 し た 線 量 の 相 違 ( %) Al/lung の 設 定 で 最 大 8%の 相 違 ( 平 均 的 に は ±1%) ±1 ±1( 計 算 領 域 が 均 一 な 水 で ,水 / 空気の設定) 155 図 11.1 Varian 社 製 加 速 器 の X 線 モ ー ド で の 照 射 ヘ ッ ド 部 の 構 造 5) 図 中 の Phase-space plane 1 は 患 者 依 存 部 と 患 者 非 依 存 部 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 分 け る 平 面 を 示 す . ま た , 他 社 製 の 加 速 器 で Jaw や MLC の 構 造 が 異 な る 場 合 は 変 更 が 必 要 と な る . ラ メ ー タ を 調 整 す る こ と に な る . 照 射 野 外 の 漏 洩 線 量 に つ い て は , MLC に 使 わ れ て い る 物 質 (主にタングステン)の実効密度を変化させて調整することが多い 5), 13), 18 ), 19) . MC 法 は 様 々 な 現 象 の 決 定 に 乱 数 を 用 い る 確 率 論 的 解 法 で あ る た め 結 果 に 必 ず 統 計 誤 差 を 含 む が ,シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 中 の 計 算 量 は 連 続 的 で あ り ,あ る 計 算 グ リ ッ ド の 線 量 は そ の グ リ ッ ド 体 積 内 の 平 均 値 で あ る .一 方 ,従 来 の 治 療 計 画 装 置 で 用 い ら れ る Convolution 法 ,Superposition 法 や Clarkson 法 は ,計 算 グ リ ッ ド の あ る 位 置 の 点 の 線 量 を 計 算 す る 離 散 的 な 計 算 法 で あ る 17) . 図 11.2 に 示 す よ う な 2 つ の 照 射 野 の つ な ぎ 目 が 発 生 す る よ う な 場 合 ,離 散 的 な 計 算 法 で は 計 算 グ リ ッ ド の 位 置 に よ り 線 量 分 布 が 大 き く 異 な る 場 合 が あ る が ,純 粋 な MC 法 で は 計 算 グ リ ッ ド 体積内の平均値であるため,このような差異は小さくなる. MC 法 を 用 い た IMRT の 線 量 計 算 に つ い て は 多 く の 論 文 が 報 告 さ れ て お り ,そ の 有 用 性 の 高 さがわかる 5), 7) ~10 ) .図 11.3,11.4 に IMRT で フ ィ ル ム 法 と MC 法 ま た は 治 療 計 画 装 置 の 計 画 線 量 を 比 較 し た 例 を 示 す .こ の よ う に 良 好 に コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ さ れ た MC 法 は ,一 点 の 線 量 だ け でなく 2 次元線量分布検証においても高い精度を有する. EGS5 や MCNP な ど 汎 用 コ ー ド を 用 い た シ ス テ ム は ,シ ス テ ム 構 築 の 自 由 度 ,線 量 計 算 精 度 , 導 入 コ ス ト が 安 価 で あ る 点 を 考 え れ ば ,理 想 的 な 独 立 検 証 シ ス テ ム で あ る .欠 点 は ,コ ー ド の 作 成 に 相 応 の 知 識 を 要 し ,そ の 労 力 が 非 常 に 大 き い こ と が 挙 げ ら れ る .ま た ,マ ル チ コ ア CPU を 搭 載 し た コ ン ピ ュ ー タ に よ っ て 並 列 計 算 が 可 能 と な り ,計 算 時 間 は 大 き く 短 縮 さ れ て き て い るが,依然として線量計算に長時間を要することも課題である. 156 11 章 独立線量検証 表 11.2 ビ ー ム モ デ リ ン グ に 影 響 を 与 え る 因 子 ( BEAMnrc MC コ ー ド ) 5) ビームモデリング 軸外空中線量比への影響 中心軸深部線量への影響 入射電子強度分布 一次入射電子エネルギーの増加に伴い 0.2 MeV の 平 均 エ ネ ル ギ ー の 変 (正規分布)の平 低 下 .Siemens KD 6 MV で は ,15cm 軸 化 で 影 響 が あ る( 3σ で 2%,1σ 均エネルギー 外 の 位 置 で 1 MeV あ た り -0.105±0.007 で 0.7%線 量 変 化 ). パラメータ 変 化 . 0.2 MeV の 平 均 エ ネ ル ギ ー の 変 化で影響がある. 入射電子エネルギ ほ と ん ど 依 存 し な い . Siemens KD 6 ビルドアップ領域とかなり深い ー分布の正規分布 MV で は , 0%か ら 20%ま で FWHM を 位置の線量に少し影響がある. の幅 変えても影響なし.ピークから低エネ ピークより低エネルギー側に ル ギ ー 側 に 14%,高 エ ネ ル ギ ー 側 に 3% 14%, 高 エ ネ ル ギ ー 側 に 3%の 非 の 非 対 称 な 正 規 分 布 ( Siemens KD 10 対 称 な 正 規 分 布 ( Siemens KD 10 MV) で 2%変 化 . MV ) で , ビ ル ド ア ッ プ 領 域 で 1.5%線 量 増 加 . 入射電子の径方向 正規分布幅の増大に伴い,二次関数的 極僅かであり,統計的な誤差以 強度分布(正規分 に 減 少 . Varian 18MV に つ い て , 0.01 内. 布)の幅 か ら 0.15 cm に FWHM を 変 化 さ せ る と 15cm 軸 外 の 位 置 で 7%線 量 低 下 . 入射電子ビームの Varian 18MV に つ い て , 0.5°で は ほ と 極僅かであり,統計的な誤差以 発散(入射強度分 ん ど 依 存 な し . 1.0°で は , SSD 100cm 内 ( 1%あ る い は 1σ ). 布 の FWHM) の 15cm 軸 外 位 置 で 1%線 量 減 少 . プライマリコリメ 非 常 に 感 度 が 高 い . Varian 18MV に つ ータ上流側の開口 い て ,上 流 側 の 開 口 径 の 0.01cm の 変 化 径 は 15cm 軸 外 位 置 で 1%線 量 変 化 . フラットニングフ 大 き く 影 響 . Varian 15 MV に つ い て , 依存なし. 報告されていない. 3 ィルタの密度と材 タ ン グ ス テ ン 密 度 の 1g/cm の 減 少 で , 質 軸 外 15cm の 位 置 で 6%線 量 減 少 .材 質 の変更は,影響が非常に大きい. 157 (a) XiO で 計 算 グ リ ッ ド を 2 mm, 計 算 中 心 点 (b) XiO で 計 算 グ リ ッ ド を 2 mm,計 算 中 心 点 が ( 0 mm, 0 mm, 0 mm) の 分 布 . が ( 1 mm, 0 mm, 0 mm) の 分 布 . (c) EGS5 で 計 算 グ リ ッ ド を 2 mm,計 算 中 心 点 (d) EGS5 で 計 算 グ リ ッ ド を 2 mm,計 算 中 心 点 が ( 0 mm, 0 mm, 0 mm) の 分 布 . が ( 1 mm, 0 mm, 0 mm) の 分 布 . 図 11.2 Superposition 法 と MC 法 の 照 射 野 辺 縁 部 の 計 算 の 違 い MLC に よ る 1 cm × 20 cm ス リ ッ ト を 左 右 対 称 に そ れ ぞ れ 100 MU 照 射 し て 得 た 線 量 分 布 . (a)(b)は Elekta CMS Software 社 製 XiO Ver. 4.4.0 の Superposition で 計 算 グ リ ッ ド を 2 mm, 計 算 中 心 点 を (a):( Lateral, Long, Vertical) =( 0 mm, 0 mm, 0 mm), (b):( 1 mm, 0 mm, 0 mm) と し た と き の 水 中 深 さ 10 cm に お け る 線 量 分 布( ビ ー ム モ デ ル:Siemens 社 製 ONCOR 6MV X-ray). (c)(d)は EGS5 上 で モ デ リ ン グ し た リ ニ ア ッ ク を 用 い て ,XiO と 同 条 件 で 計 算 し た と き の 線 量 分 布( ビ ー ム モ デ ル は XiO と 同 じ ).XiO で は グ リ ッ ド の 計 算 中 心 点 の 違 い で 5.1%の 違 い を 生 じ て い る が , MC 法 で は そ の よ う な 違 い は 見 ら れ な い . 158 11 章 図 11.3 XVMC で の 計 算 結 果 と フ ィ ル ム の 測 定 結 果 の 比 較 独立線量検証 3) ビ ー ム は 6 MV 光 子 線 の Step & Shoot 法 に よ る IMRT( 25 セ グ メ ン ト ), フ ィ ル ム は Kodak 社 製 の X-Omat V を 用 い た . 図 11.4 前 立 腺 IMRT に お け る フ ィ ル ム , 治 療 計 画 装 置 お よ び MC の 分 布 比 較 9) 左 側 は 治 療 計 画 装 置( Nucletron 社 製 Plato)と フ ィ ル ム ,右 側 は MC 法 と フ ィ ル ム と の 比 較 を 示 す . %表 示 は 等 線 量 曲 線 の 値 で あ る . 治 療 計 画 装 置 で は 部 分 的 に 不 一 致 な 領 域 が あ る が , MC 法 で は 良 好 な 一 致 を 示 し て い る . 159 11.2. そ の 他 の 方 法 別 機 種 の 治 療 計 画 装 置 を 用 い た 独 立 検 証 シ ス テ ム は ,線 量 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム が 検 証 対 象 と な る 治 療 計 画 装 置 と 同 等 で あ れ ば 有 用 性 が 高 い .利 点 は シ ス テ ム 自 体 に 実 績 が あ り ,安 定 し た 動 作 で 結 果 が 得 ら れ る こ と で あ る .欠 点 は コ ス ト が 高 い ,現 時 点 で は メ ー カ 間 の 治 療 計 画 デ ー タ の 受 け 渡 し に ほ と ん ど 互 換 性 が な い ,各 治 療 計 画 装 置 の 計 画 線 量 が 異 な る 場 合 に 判 断 が 難 し い , などがある. 専 用 ソ フ ト ウ ェ ア を 用 い た 独 立 検 証 シ ス テ ム は ,導 入 コ ス ト を 比 較 的 低 く 抑 え る こ と が で き , 種 々 の メ ー カ の 治 療 計 画 デ ー タ に 対 応 し た も の が 市 販 さ れ て い る こ と か ら ,最 も 利 用 し や す い シ ス テ ム で あ る . こ の 独 立 検 証 ソ フ ト ウ ェ ア は , Clarkson 法 ま た は Pencil Beam 法 に 基 づ い た アルゴリズムが主に使われている 20)~ 25) .ESTRO Booklet No. 9 で は ,Pencil Beam ア ル ゴ リ ズ ム をベースとした独立検証システムの利用を勧めており 3) , そ の 中 で 紹 介 さ れ て い る ”MUV Software” EQUAL DOSE Ver.2.0 は , http://www.equal-dose.com か ら 無 料 で 取 得 で き る . 図 11.5 に ”MUV Software”を 用 い て 計 算 し た IMRT 線 量 分 布 を ,図 11.6 に ”MUV Software”と 治 療 計 画 装 置 と の 相 違 を 解 析 し た 多 施 設 調 査 の 結 果 を 示 す . ”MUV Software”は DICOM RTPLAN に 記 載 さ れ た 幾 何 学 的 深 さ を 線 量 計 算 に 使 用 し て い る .図 11.6(b)は ,こ の 幾 何 学 的 深 さ の 代 わ り に 密 度 を 考 慮 し た 等 価 長 を 入 力 す る こ と で 検 証 結 果 が 改 善 さ れ た こ と を 示 し て い る .”MUV Software” の 多 施 設 統 計 で は , 全 治 療 計 画 の 約 90%で ”MUV Software”の 計 算 線 量 と 計 画 線 量 の 差 が ±4.5% 以 内 と な っ た .こ の 結 果 か ら ,ESTRO Booklet No. 9 で は 独 立 検 証 に お け る 介 入 レ ベ ル( Action level) を 5%と し て い る 23) . 図 11.5 MUV Software, 治 療 計 画 装 置 ( Corvus) および測定で得た線量プロファイル 24) MLC に よ る 強 度 変 調 を 含 む 3 つ の テ ス ト パ タ ー ン に つ い て ,SSD = 95 cm,水 中 深 さ 10 cm で 得 た 線 量 プ ロ フ ァ イ ル を 示 す . 直 線 加 速 器 は Varian 社 製 Clinac 2100C/D( 15 MV 光 子 線 ), フ ァ ン ト ム は Gammex RMI 社 製 RMI-457 を 用 い た . 160 11 章 図 11.6 治 療 計 画 装 置 と 独 立 検 証 シ ス テ ム ( MUV Software) と の 差 の 頻 度 分 布 独立線量検証 22) (a)は 各 施 設 で 行 わ れ た 全 て の 検 証 結 果 , (b)は (a)に お い て 固 体 フ ァ ン ト ム 使 用 時 に 生 じ る 等 価 長 に 対 す る 補 正 を 行 っ た 施 設 の 結 果 .こ の 補 正 を 用 い た 場 合 ,前 立 腺 で は 約 98%の デ ー タ が ±5% 以 内 , 頭 頸 部 は 約 92%の デ ー タ が ±3%以 内 , 全 て の 治 療 部 位 で は , 約 90%の デ ー タ が ±4.5%以 内で一致した. 161 11.3. 独 立 検 証 ソ フ ト ウ ェ ア の 導 入 に 向 け て IMRT に 対 応 で き る 独 立 検 証 シ ス テ ム で あ っ て も , 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム の 精 度 を 検 証 し て 臨 床 使 用 の 可 否 を 判 断 す る 必 要 が あ る た め ,使 用 開 始 前 に 十 分 な コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ を 行 わ な け れ ば な ら な い .ア ル ゴ リ ズ ム が 臨 床 で 使 用 さ れ て い る 治 療 計 画 装 置 よ り 劣 る 場 合 ,ア ル ゴ リ ズ ム に 起因する誤差の評価は困難である 25) .そ の 場 合 ,検 証 可 能 な 項 目 は ,治 療 計 画 装 置 へ の 入 力 デ ー タ 間 違 い ,治 療 計 画 装 置 の 特 有 の エ ラ ー ,ま た は 計 画 者 の 作 業 ミ ス の 有 無 ,な ど と 制 限 さ れ る .ま た ,個 々 の セ グ メ ン ト で 検 証 を 行 う 場 合 に 計 算 値 と 測 定 値 が 大 き く 異 な る こ と は 決 し て 珍 し い こ と で は な い た め ,精 度 や 労 力 の 面 か ら 実 用 的 で は な い .こ の た め ,運 用 と し て は 各 門 または全門での線量検証として利用されることが多い. さ ら に ,独 立 検 証 シ ス テ ム の 役 割 は 単 に 照 射 MU や 線 量 分 布 を 検 証 す る だ け で は な い .特 に , 独 立 検 証 シ ス テ ム の 多 く は ,DICOM RTPLAN や R&V 形 式 ,RTOG 形 式 な ど の 治 療 計 画 デ ー タ フ ァ イ ル に 対 し て 種 々 の 解 析 機 能 を 有 し て い る . 将 来 , 線 量 勾 配 の 程 度 , MLC に 遮 蔽 さ れ て 照 射 さ れ て い る 線 量 の 割 合 や ,セ グ メ ン ト の MU や 照 射 野 の 大 き さ な ど を 統 計 的 に 解 析 し ,治 療 計 画 の 性 質 を 調 査 す る 研 究 も 可 能 と な る だ ろ う .参 考 に ,図 11.7 に 頭 頸 部 IMRT の 統 計 的 解 析 例 を 示 す . こ の 解 析 で は , IMRT の セ グ メ ン ト に つ い て 多 用 さ れ て い る 照 射 野 サ イ ズ と MU 値 が わ か り ,治 療 計 画 装 置 の コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ に お い て ど の パ ラ メ ー タ を 重 点 的 に 検 討 す べ き か を 示 す 目 安 と な る . ま た , MC 法 の 計 算 精 度 の 高 さ を 利 用 し て , 治 療 計 画 装 置 か ら 出 力 し た RTPLAN を 元 に MC 計 算 を 行 い ,各 セ グ メ ン ト の MU 値 を 最 適 化 し た 報 告 が あ る( 図 11.8)8) . こ の よ う に 独 立 検 証 シ ス テ ム は 研 究 用 途 に 対 し て 幅 広 い 可 能 性 が 有 り ,現 時 点 で は 立 案 し た 治療計画の性質を解析するシステムとして活用されることに価値があると考えられる. 図 11.7 頭 頸 部 Step & Shoot 方 式 IMRT に お け る 各 セ グ メ ン ト の 照 射 MU と 照 射 野 の 関 係 ONCOR Impression Plus 6 MV 光 子 線 , Pinnacle 3 を 用 い , 計 13 症 例 の 平 均 セ グ メ ン ト 数 は 100 で あ っ た .照 射 野 は Clarkson 法 で 計 算 し た 散 乱 係 数 と 等 価 な 正 方 形 照 射 野 の 一 辺 の 長 さ を 示 す . 162 11 章 (a) 前 立 腺 独立線量検証 (b) 頭 頸 部 図 11.8 治 療 計 画 装 置 で 計 算 し た MU 値 と MC シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て 計 算 し た 線 量 分 布 に よ っ て 最 適 化 さ れ た MU と の 相 関 8) 参考文献 1. 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IMRT 線 量 検 証 の 判 定 基 準 の 推 奨 値 12.3.2.2. 放 射 線 治 療 に 要 求 さ れ る 精 度 か ら 見 た IMRT 線 量 検 証 判 定 基 準 12.3.2.3. 多 施 設 遡 及 的 解 析 結 果 か ら 見 た IMRT 線 量 検 証 判 定 基 準 の 妥 当 性 12.3.2.4. 低 線 量 領 域 の 線 量 評 価 と IMRT 線 量 検 証 判 定 基 準 12.4. 判定基準を超えた場合の対処法 12.4.1. 測 定 結 果 の 評 価 の 実 際 12.4.2. 低 線 量 領 域 に お け る 対 応 策 12.4.3. 各 施 設 の 対 応 例 12.5. 施 設 ご と の IMRT 線 量 検 証 の 統 計 的 品 質 管 理 参考文献 165 12. 判 定 基 準 の 設 定 と 評 価 ・ 管 理 の 実 際 放射線治療を成功に導くためには,計画時の腫瘍およびリスク臓器に投与される吸収線 量とその 3 次元的分布を患者体内でいかに正確に再現するかが重要となる. IMRT は ,複 雑 な 線 量 計 算 お よ び 照 射 技 術 を 用 い る こ と で ,3D-CRT に 代 表 さ れ る 従 来 の 治療法よりも腫瘍への線量集中性を高め,加えて周囲のリスク臓器への線量投与を最小限 に 抑 制 す る 放 射 線 治 療 技 術 で あ る . I MRT は 複 雑 な 技 術 の 上 に 成 り 立 っ て は い る が , 目 指 す ゴ ー ル は 3D-CRT と 同 じ で あ り ,IMRT に 求 め ら れ る 線 量 精 度 は 3D-CRT の そ れ と 大 き く 異 な る も の で は な い . そ の た め , IMRT 線 量 検 証 の 判 定 基 準 を 設 定 す る に あ た り , 放 射 線 治療に求められる線量精度を再考することは,非常に有用である. 本 章 で は , ま ず 線 量 投 与 お よ び 線 量 評 価 に 付 随 す る 不 確 か さ ( 12.1 節 ) と , 臨 床 的 所 見 お よ び 腫 瘍 放 射 線 生 物 学 的 な 視 点 か ら , I MRT に 限 定 せ ず 放 射 線 治 療 全 般 に 対 し て 求 め ら れ る 投 与 線 量 の 不 確 か さ ( 12.2 節 ) に つ い て 考 察 す る . 12.3.1 項 で は , 品 質 管 理 に お け る 許 容 レ ベ ル ( Tolerance level) と 介 入 レ ベ ル ( Actio n level) の 概 念 を 紹 介 す る . こ れ ら の 知 見 に 基 づ き , 12.3.2 項 に 本 報 告 が 推 奨 す る I MRT 線 量 検 証 に お け る 評 価 基 準 ( 表 12.6) を 示 す . 各 施 設 は こ の 推 奨 値 を 参 考 に IMRT の 品 質 保 証 ( QA) お よ び 品 質 管 理 ( QC) に 努 め て い た だ き た い .ま た ,12.4 節 お よ び 12.5 節 で は 線 量 検 証 に 関 す る よ り 実 務 的 な 内 容 に 触 れ て い る . ま た , 12.3.2.4 項 お よ び 12.4.2 項 に お い て , こ れ ま で 詳 し く 検 討 さ れ る こ と のなかった低線量領域の評価について詳説していることも本章の特徴である. 12.1. 放射線治療における吸収線量の不確かさ 測定で得た吸収線量は他の科学データと同様に不確かさをもつ.これはバラつきあるい は広がりの程度を示す標準偏差のようなパラメータによって記述される 1) . 吸収線量の不確かさは,ビーム校正から実際の照射まで,治療の全ての段階で生じる. この中には,腫瘍位置の同定,患者固定などの患者要因の不確かさに加え,日々のビーム セットアップや患者位置合わせといった人的要因の不確かさを含む必要がある.放射線治 療 の 各 段 階 に お い て , 吸 収 線 量 の 不 確 か さ の 原 因 と な り 得 る 要 素 と そ の 程 度 を 表 12.1 に 示す. 表 12.1 の ビ ー ム 校 正 に つ い て , 国 際 原 子 力 機 関 ( I AEA) は , 彼 ら の 最 新 の 線 量 測 定 プ ロ ト コ ル で あ る IAE A T RS-398 2 ) に 従 え ば ,リ フ ァ レ ン ス ポ イ ン ト の 線 量 は 1.5 %( 1 SD)の 不確かさの範囲内で求めることが可能であるとしている 2) .こ の 場 合 ,表 12.1 の 第 1 段 階 の 合 成 不 確 か さ が 1.5 に 置 き 換 え ら れ , 合 成 標 準 不 確 か さ の 定 義 式 ( 付 録 ・ 用 語 集 参 照 ) に 従 え ば 全 段 階 に お け る 合 成 標 準 不 確 か さ は 5.6 %に な る . 166 12 章 表 12.1 判定基準の設定と評価・管理の実際 高エネルギー光子線による放射線治療の各段階で推定される相対標準不確かさ uc1). 線 量 の 決 定 と 治 療 の 実 施 に お い て 高 い 性 能 が 得 ら れ て い る 臨 床 環 境 に お け る 推 定 値 . 放射線治療の各段階 標準不確かさ 1.0 水ファントム内のリファレンスポイントの絶対線量(ビーム校正) 1.1 線量測定勧告(プロトコル,実施規定,実施基準など) 2.0 1.2 実験手順(モニタ誤差を含む) 1.0 第 1 段階における合成標準不確かさ 2.2 2.0 相対線量測定(水あるいはプラスチックファントムによる測定) 2.1 ビームサイズ出力因子(モニタ誤差を含む) 1.0 2.2 ビーム修飾因子(ウェッジ,ブロックなど) 1.0 2.3 等線量分布の測定 1.5 第 2 段階における合成標準不確かさ 2.1 3.0 患者への線量の計算 3.1 患 者 入 力 デ ー タ ( 輪 郭 , CT デ ー タ な ど ) 1.0 3.2 治 療 計 画 シ ス テ ム( ビ ー ム デ ー タ ,ア ル ゴ リ ズ ム ,不 均 質 補 正 な ど ) 3.0 3.3 水から組織への変換(物理データを含む) 2.0 第 3 段階における合成標準不確かさ 3.7 4.0 線量投与(全治療にわたり) 4.1 ビームセットアップや軸合わせなどの再現性 1.0 4.2 患者セットアップの再現性 2.0 4.3 輪郭,臓器移動 1.5 4.4 装置不安定性 2.0 第 4 段階における合成標準不確かさ 全段階における合成標準不確かさ 3.4 5.9 施設の線量投与の正確さを決定するためには,基準条件に限ることなく,放射線治療プ ロセス全体の精度を見積もるべきである.海外ではこの目的を果たすために,基準条件で の測定よりも複雑な実際の治療プロセスを模擬した多施設参加型の測定試験が実施されて い る ( 表 12.2). 標 準 偏 差 が や や 大 き い も の の , 表 12.2 で は 治 療 条 件 に お い て も 1~ 2 %程 度 の 精 度 で 線 量 投 与 が 可 能 で あ る こ と が 示 唆 さ れ て い る .ま た ,95 %信 頼 水 準 で は 5 – 7 % 程度の精度となる. IMRT の 場 合 で は ,通 常 治 療 や 3D-CRT と 比 較 し て ,非 常 に 複 雑 な 技 術 を 用 い て 照 射 が 行 われるため,従来の治療よりも吸収線量の不確かさが増大していると考えられる.近年, 欧 米 を 中 心 に IMRT の 臨 床 的 な 線 量 精 度 に 関 す る 多 施 設 調 査 が 行 わ れ て い る ( 表 12.3). 167 表 12.2 人 体 模 擬 フ ァ ン ト ム を 用 い た 通 常 治 療 お よ び 3D-CRT の 線 量 精 度 調 査 結 果 著者 Johansso n 地域 et 部位 3) 調査数 平均値* SD (%) a l. Europ e Tonsil 19 1.035 3.2 Netherland s Prostate 18 1.015 1.5 Pelvis-Ho mo geneo us 62 1.008 2.7 Lung-I nho mo geneo us 62 1.011 3.4 Head and Neck 13 1.007 2.1 Bronchus 13 0.989 2.4 Head and Neck 19 1.001 3.5 Pelvis 21 0.996 3.3 UK Breast 36 0.979 1.3 Italy Pelvis 16 1.009 2.2 1987 Wittkamper et a l. 1987 Thwaites et a l. UK 1992 Aird et a l. 1995 UK Kro n et al. 2002 Vanab les et Australasia al. 2003 De Angelis et al. 2005 * 表 12.3 各症例の計画線量と測定線量の比の平均値 IMRT 条 件 で の 多 施 設 参 加 型 線 量 精 度 調 査 の 結 果 試験名 地域 部位 3) 調査数 平均値* SD (%) 10 1.014 1.6 0.997 3.6 16 0.992 3.9 450 0.99 8 223 0.99 7 Pelvis Gillis et.al. 2005 Europ e PTV EST RO-QUASI MODO OAR To msej et.al. 2005 France GORT EC Belgiu m Head and Neck Head and Neck Ibbot et al. 2006 RP C-RTOG US Primar y PTV Seco nd ar y PTV * 各症例の計画線量と測定線量の比の平均値 表 12.2 と 表 12.3 を 比 較 す る と ,IMRT で は 3D-CRT よ り 標 準 偏 差( SD)が 若 干 高 い も の の , 計 画 線 量 と 測 定 線 量 の 比 の 平 均 値 に 大 き な 差 が な い こ と が わ か る . IMRT に 関 す る 調 査 で は ,測 定 線 量 を フ ィ ル ム か ら 求 め て い た り( EST RO-QUASIMODO; QUality ASsur ance o f Intensity MODurated rad iatio n Onco lo gy net wor k ), TLD を 使 用 し て い た り と ( RP C-RTOG), 画 一 し た 線 量 測 定 法 を 採 用 し て い な い こ と ,ま た GORT EC の 調 査 の よ う に ,腫 瘍 に 対 す る 168 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 評価とリスク臓器に対する評価を混合して結果を算出しているなど従来治療の調査と異な る 部 分 も 多 い た め ,現 時 点 で こ の 結 果 を 基 に 判 定 基 準 を 作 成 す る の は 難 し い と 考 え ら れ る . 次に線量分布の空間的位置精度について考察する.放射線治療において,放射線腫瘍医 による治療計画の承認は,主に患者体内の線量分布図のレビューによって行われる.医師 によって承認された治療計画の線量分布と実際に照射される線量分布に空間的な相違が発 生すると,腫瘍領域を十分な線量領域でカバーできていない,リスク臓器に不必要な高線 量領域が介入するといった,臨床上許容できない結果をもたらす可能性が生じる.そのた め,吸収線量の不確かさは評価点の吸収線量(絶対線量)だけでなく,空間的な線量投与 の不確かさ,つまり線量分布の空間的投与精度についても考察する必要がある.これにつ いては,機器の精度および呼吸や臓器移動などの患者因子を考慮した放射線治療の空間的 不 確 か さ が AAPM Task Gro up Repo rt No.13 4 ) の 中 で 試 算 さ れ て い る ( 図 12.1). 機 械 的 な 位 置 誤 差 と 患 者 に 起 因 す る 位 置 誤 差 に よ り , 最 終 的 な 空 間 的 不 確 か さ は 95 %信 頼 水 準 で 10 mm未 満 と 試 算 さ れ る . し か し , 装 置 の 幾 何 学 的 QA/QCと 患 者 固 定 , セ ッ ト ア ッ プ 精 度 の 向 上 を 図 る こ と で ,こ の 空 間 的 不 確 か さ を 減 少 さ せ る こ と が 可 能 で あ る .Gillis ら 5 ) は ESTROで の IMRTの QAに 関 す る 共 同 研 究 EST RO-QUASI MODOの 中 で , 多 施 設 参 加 型 の測定研究を実施した.その中でフィルムによる線量測定における空間的位置精度は,フ ィ ル ム の 設 置 誤 差 な ど 様 々 な 不 確 か さ を 考 慮 し て も ,2 mmほ ど の 精 度 で 測 定 が 可 能 で あ り , 統 計 的 変 動 を 考 慮 し て 3 mm程 度 の 基 準 で 測 定 線 量 を 評 価 す る の が 妥 当 で あ る と 結 論 付 け ている. 図 12.1 放射線治療プロセスにおける空間的不確かさの例 4) 169 12.2. 放 射 線 治 療 に求 められる 投 与 線 量 の正 確 さ 前節でも述べたように,放射線治療で患者へ投与される線量は,量的にも空間的にも不 確かさを持つ.治療プロセスの各段階での不確かさを低減させることは,最終的な放射線 治 療 の 不 確 か さ で あ る 合 成 標 準 不 確 か さ u c を 低 減 さ せ る こ と に な り ,よ り 精 度 の 高 い 放 射 線治療の提供が可能となる.究極の目標は,患者に対して我々が意図したとおりの線量を 空 間 的 誤 差 が な く ”パ ー フ ェ ク ト ”に 投 与 す る こ と で あ る が , 全 て の 不 確 か さ を 除 去 す る こ とは事実上不可能であるため,ある程度の不確かさを許容せざるを得ない.しかし,この 不確かさは腫瘍制御および正常組織の合併症の程度に影響を与えるため,どのレベルまで の不確かさであれば許容されるのか科学的なエビデンスに基づいて検討しておかなければ ならない. 本節では,臨床医学および放射線生物学の観点から放射線治療に必要な投与線量の正確 さを考察する. 12.2.1. 臨床医学的観点から 投与指示線量と実際に投与された線量との間に差を伴う症例について,臨床上の治療結 果を観察し,臨床的に発見された線量の差に関する情報を再検討することは,臨床医学的 な観点から投与線量の不確かさの許容範囲を考察するために非常に有益である. (i). Dutr eix は 6) 婦 人 科 領 域 の 腫 瘍 に 対 し 全 骨 盤 へ 腫 瘍 線 量 と し て 50 Gy 処 方( 週 5 回 5 週 間照射)されていた患者で,皺襞上の皮膚反応や下痢症状が通常より強いことに放射 線腫瘍医が気付いたと報告している.このとき観察された事象は放射線治療装置の校 正の誤りにより,患者に対し系統的に過大線量となっていたことに起因していた.推 定 さ れ た 過 大 線 量 は 67 人 の 患 者 で 7%, 21 人 の 患 者 で 10%で あ っ た . (ii). Ste war t と Jackso n は 7),8) , 1955 -1965 年 の 10 年 間 に 放 射 線 治 療 を 受 け た 喉 頭 が ん 584 症 例( T1~ 4 期 )に お い て ,5%程 度 の 線 量 変 化 が 生 じ た 場 合 に ,T 3 期 症 例 で 急 激 な 再 発率の変化が生じていることを発見した.それと同時に,壊死といった合併症が顕著 に 増 加 し て い た ( 図 12.2. a-c). (iii). Svensson ら 9) は乳癌術後の局所リンパ節に対する照射における上腕神経叢の放射線障 害 に つ い て 報 告 し て い る . こ の 中 で 神 経 障 害 の 頻 度 を cumulative r adiatio n effec t (CRE ; NSD ( 名 目 標 準 線 量 ) の 微 分 で 表 わ さ れ る 量 ) に 対 し て プ ロ ッ ト し , 生 物 学 的 に 許 容 さ れ る 線 量 の 不 確 か さ ( 標 準 偏 差 ) は 5%以 下 で あ る と 結 論 付 け た . (iv). 58 人 の 乳 癌 患 者 に お け る 皮 膚 反 応 に つ い て の 臨 床 試 行 研 究 で は ,両 側 の 内 胸 リ ン パ 節 領 域 に 電 子 線 を 用 い ,上 下 の 照 射 野 で 総 線 量 50~ 60 Gy を 照 射 し て い た が ,Wamber sie は 10) 症 例 の 80 %で ,電 子 線 と 60 Co の 照 射 野 間 で の 10 %の 線 量 差 が 発 見 さ れ た と 報 告 し た . 鎖 骨 上 窩 の 左 右 対 称 の 照 射 野 で は , 5 %の 線 量 差 で さ え 臨 床 的 に 検 出 可 能 で あ った. (v). Dische ら は 11) , 平 均 投 与 線 量 が わ ず か 5 %異 な る 患 者 群 で の 腫 瘍 局 所 制 御 と 生 存 率 の 差について報告し,その線量差が原病死に決定的な差を生じさせると警告した.放射 170 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 線治療における線量測定の精度に対する臨床的根拠についての 2 つの再調査研究では, Wamber isie ら 12) と Mij nheer ら 13) が ,5~ 10 %の 範 囲 の 吸 収 線 量 の 差 が 多 く の 状 況 で 発 見可能であったと結論付けた. 腫瘍制御と正常組織の合併症に対して,線量差の与える影響は照射される組織の種類や 分 割 方 法 ( 分 割 照 射 ), 照 射 体 積 な ど に 左 右 さ れ る が , i~ v の 報 告 か ら 臨 床 的 に 発 見 で き る 最 低 の 線 量 差 は ±5~ 10%の 程 度 で あ る と 考 え ら れ る .ま た ,一 般 的 に 患 者 へ の 過 大 線 量 のみが重要であると考えがちであるが,過小照射も過大照射と同様に重要である.不運な ことに,過小線量の事例は過大線量の事例よりも発見が難しく,多くの場合は治療完了か らずっと後になって見つけられ,予想より高い腫瘍再発率を示している (a) Recurrence 図 12.2 12.2.2. (b) Prolo nged reactio n 14) . ( c) Necro sis 投与線量変化に伴う,喉頭癌の再発率・合併症発生率の変化 7), 8) 腫瘍放射線生物学的観点から 腫瘍の放射線に対する応答特性から見た臨床で必要とされる投与線量精度は,腫瘍制御 率 ( TCP; Tumor co ntr ol prob ability ) と 正 常 組 織 の 障 害 発 生 率 ( NTCP; Nor mal tissue co mplicatio n probab ility) の 線 量 効 果 曲 線 か ら 導 く こ と が で き る . 図 12.3 に ,T CP と NT CP の 線 量 効 果 曲 線 を 示 す .グ ラ フ か ら も 明 ら か な よ う に ,線 量 が 増加するに従って腫瘍制御率は上昇するが,一方で正常組織の障害発生率も増加する.逆 に線量が減少すると,正常組織の障害が少なくなるが,腫瘍の制御率も低下してしまう. グ ラ フ 中 の 赤 線 の デ ー タ は , T CP と NT CP の 関 係 か ら 導 き 出 さ れ た , 正 常 組 織 の 障 害 が 許 容される程度に抑えながら,腫瘍の治癒が可能な確率を表しており,放射線治療の品質を 測 る 指 標 と な る . TCP と NT CP の 差 が 最 大 と な る 線 量 が 最 適 線 量 と 考 え ら れ , 治 療 の 品 質 が最も高くなる.このデータからも実際に投与される線量が最適線量からシフトすると, 治療の質が低下することが明らかである. T CP 曲 線 の 傾 き か ら , 線 量 変 化 に 伴 う T CP 変 化 率 が 算 出 で き る . こ の T CP の 変 化 率 を 171 考 え る 際 , Nor malized dose r espo nse gradient; γと い う 量 を 考 え る と 理 解 し や す い . 以 下 に γ の算出式 15),16) γ =D を , 図 1 2.4 に そ の 説 明 図 を 示 す . ∆P ∆D ( 12.1) 式 (12.1)か ら も 明 ら か な よ う に ,こ の γは 与 え ら れ た 投 与 線 量 の 相 対 変 化 に 伴 う T CP の 変 化 率 を 表 す . つ ま り 投 与 線 量 が 1 %変 化 す る と , T CP は γ %変 化 す る こ と に な る . こ の γは 生物学的に細胞増殖能の点から考える場合と,臨床医学的に考える場合で異なる指標が適 用 さ れ , そ れ ぞ れ γB, γC と い う 量 が 用 い ら れ る . 172 図 12.3 腫瘍制御率と正常組織障害発生率の線量効果曲線 図 12.4 Nor malized do se r espo nse grad ient; γ の 計 算 説 明 図 12 章 表 12.4 に 代 表 的 な 悪 性 腫 瘍 の γ C を 示 す 15) 判定基準の設定と評価・管理の実際 . 腫 瘍 の 種 類 に よ っ て γC が 異 な る の は 腫 瘍 ご と に T CP 曲 線 の 傾 き が 異 な る た め で あ る .表 12.4 よ り ,部 位 に よ っ て 5 %の 線 量 変 化 が 生 じ る と , 多 く の 腫 瘍 で 10 %以 上 の TCP の 変 化 が 生 じ る こ と が わ か る 15), 17) . 線 量 低 下 率 が 大 き い ほ ど TCP の 減 少 も 大 き く な る が ,そ れ と 同 時 に 線 量 が 低 下 す る 腫 瘍 体 積 が 大 き く な る ほ ど T CP は 線 量 低 下 の 影 響 を 受 け や す く な る . 図 12.5 に 各 照 射 腫 瘍 体 積 に お け る 投 与 線 量 の 減 少 と TCP の 減 少 の 関 係 を 示 す .線 量 が 低 下 す る 腫 瘍 体 積 が 2, 5, 10 , 20%の 場 合 , そ れ ぞ れ 10, 7, 5, 3 %の 線 量 低 下 で , T CP が 3 %減 少 す る 18), 19) . ICRU は Repor t 24 の 中 で ,TCP デ ー タ に 基 づ い て 放 射 線 治 療 で 必 要 と さ れ る 腫 瘍 線 量 精 度 を 検 討 し ,5 %の 線 量 精 度 が 必 要 で あ る と 結 論 付 け た 8) .こ の 結 果 が 幅 広 く 標 準 値 と し て 採 用 さ れ て い る が ,信 頼 水 準 が 明 記 さ れ て い な い と い う 問 題 が 残 る 析 が Mijnheer ら 17) や B rah me ら 21) 20) .そ の 後 ,同 様 の 解 に よ っ て 行 わ れ て お り , 3 – 3.5 %( 1SD)( 95%信 頼 水 準 で 6 – 7 %) の 線 量 精 度 が 必 要 で あ る と い う 結 果 を 得 て い る . 線 量 分 布 の 空 間 的 不 確 か さ に つ い て も T CP と NT CP へ の 影 響 を 考 慮 す る と ,95 %信 頼 水 準 で 5 mm 程 度 の 精 度 が 必 要 で あ る と 考 察 さ れ て い る 表 12.4 部位 22) . 代 表 的 な 悪 性 腫 瘍 の γC の 例 γC 15) 報告者 鼻咽頭 T1/2 2.8 T3 1.0 T1 1.7 T2 1.4 Metz et al. 舌 扁平上皮乳頭腫 Lees 3.5 Patterso n 3.9 Hliniak et al. 4.6 Har wood T3 4.0 Ste war t and Jackso n T3/4 8.0 Maciejewsli et al. T2/3 3.5 Shuko vsky 3.0 Kim 2.4 Aristizabal and Cald well 声門 T2 喉頭 喉頭 173 図 12.5 線 量 低 下 と TCP 減 少 の 関 係 18) . グ ラ フ 中 の ”volume ”は , 線 量 低 下 を 受 け る 腫 瘍 体 積 を 表 す . 12.3. IMRT に 対 す る 投 与 線 量 精 度 の 判 定 基 準 の 設 定 検出器を使用して測定した吸収線量および線量分布は,いくつもの要因が重なった不確 かさを持つ.この不確かさを含んだ測定線量値で臨床判断を下すためには,生物学と物理 学の各分野の情報を総合的に検討して,判定基準を設定する必要がある. ここでは,前節までに考察した吸収線量の不確かさや,放射線治療に求められる投与線 量 精 度 を 基 に ,臨 床 医 学 ,腫 瘍 放 射 線 生 物 学 ,放 射 線 計 測 学 の 3 つ の 知 見 を 総 合 し て ,IMRT 線量検証で達成することが要求される判定基準を提案する. 12.3.1. 許 容 レ ベ ル ( Tolerance level) と 介 入 レ ベ ル ( Action level) の 定 義 12.1 節 で 述 べ た 通 り , 線 量 測 定 の 結 果 に は 必 ず 種 々 の 不 確 か さ に よ る 誤 差 を 伴 う . つ ま り,線量検証の結果として得られる計画線量と測定線量の差は,系統誤差の最良推定値に 統 計 的 な 不 確 か さ を 加 え た も の と な る . そ の た め , I MRT 線 量 検 証 の 判 定 基 準 も 臨 床 的 に 推定される投与線量誤差だけでなく,測定上の不確かさによる統計的誤差を加味したもの でなければならない. 統計的誤差は,どのような確率分布に従ったとしても,非常に広い範囲の数値を取り得 る.真値に近い値が得られることもあるし,確率は低いものの真値から大きく外れた値が 得られることもある.線量検証の結果,計画線量と測定線量の間に生じた差について,1 群の測定だけではその差が真値,つまり,治療計画装置と放射線治療装置の出力の間に存 在する誤差を示すものなのか,それとも測定の不確かさの影響を受けた偶然誤差であるか を判断することは難しい. この問題を解消するため,偶然誤差によるバラつきを考慮した 2 段階の基準を設定して 評価を実施する 174 20) .図 12.6 は 誤 差 分 布 ,許 容 レ ベ ル ,介 入 レ ベ ル の 関 係 を 示 す .第 1 の 基 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 準として,統計学的に許容できる最大のラインを許容レベルとして設定する.この基準と しては一般的に差の平均値の正負方向に,標準偏差の 2 倍の幅を持たせた範囲が選択され る 20) .こ れ は 測 定 量 の 誤 差 分 布 が 正 規 分 布 に 従 う と い う 性 質 を 持 ち ,平 均 値 を 中 心 に 分 布 の 両 方 向 に そ れ ぞ れ 標 準 偏 差 の 2 倍 の 幅 を 持 た せ た 範 囲 内 に ,デ ー タ の 約 95 %が 含 ま れ る という統計学的な理論に基づいている.ただし,ここで注意しなければならないのは,こ の範囲内に放射線治療で必要とされる投与線量精度が含まれている必要があるということ である.次に第 2 の基準として,超過することは統計学的にほとんど起こり得ないと考え られるラインを介入レベルとして設定する.これは許容レベルの 2 倍の値が設定される場 合が多い 20) .つ ま り ,平 均 値 を 中 心 に 分 布 の 両 方 向 に 標 準 偏 差 の 4 倍 の 幅 を 持 た せ た 領 域 と な る が , 正 規 分 布 の 特 性 と し て こ の 領 域 内 に ほ ぼ 100 %の デ ー タ が 含 ま れ る こ と が 見 込 まれるため,この基準を超過するデータは非常に特殊なものと判断され,除外されるべき 対象と判定される. 許 容 レ ベ ル と 介 入 レ ベ ル の 基 準 を 設 定 し た 場 合 , 計 画 線 量 と 測 定 線 量 の 相 対 差 ∆D%は , ① ∆D % ≦ 許 容 レ ベ ル , ② 許 容 レ ベ ル < ∆ D % ≦ 介 入 レ ベ ル , ③ 介 入 レ ベ ル < ∆ D %の 3 つ のパターンで値を取り得る.差が許容レベル以下である場合(ケース①)は,統計的誤差 を考慮しても十分な投与線量精度を達成しているので,是正の処置を必要としない.差が 許容レベルよりも大きいが介入レベル以下である場合(ケース②)では,差が許容レベル を超えた原因が本来の計画線量と測定線量の差によるものなのか,それとも統計的なゆら ぎによるものなのかを断定するのが困難な状況であり,再測定や種々のパラメータ確認な ど測定上の問題やヒューマンエラーの確認が必要となる.最後に差が介入レベルを超える 場合(ケース③)は,統計学的に考えても発生する確率が極めて低い状況であるため,こ れは本来の計画線量と測定線量の差が許容される範囲を超えていると判断される. 図 12.6 測定線量の誤差分布と各判定水準の関係 20), 23) 175 表 12.5 12.3.2. 各判定基準でのプランへの対応 相 対 差 ∆ D% の 値 域 プランへの対応 ① ∆D% ≦ 許 容 レ ベ ル 承認 ② 許 容 レ ベ ル < ∆D% ≦ 介 入 レ ベ ル 要検討(再確認) ③ 介 入 レ ベ ル < ∆D% 棄却 許 容 レ ベ ル ( Tolerance level) と 介 入 レ ベ ル ( Action level) の 設 定 12.3.2.1. IMRT 線 量 検 証 の 判 定 基 準 の 推 奨 値 表 12.6 に 本 報 告 で 推 奨 す る IMRT 線 量 検 証 結 果 の 判 定 基 準 を 示 す .投 与 線 量 に 対 す る 判 定基準は,高線量領域と低線量領域にそれぞれ基準を設定している.低線量領域における 線 量 評 価 に 関 し て は , 12.3.2.4 項 お よ び 12.4.2 項 で 考 察 す る た め , そ ち ら を 参 照 し て い た だきたい.また,投与線量精度は評価点計画線量に対する相対差を示しており,他の文献 3), 24) で 示 さ れ て い る 判 定 基 準 の よ う な 腫 瘍 投 与 指 示 線 量( prescr ibed dose)に 対 す る 相 対 差 ではないことに注意されたい. 表 12.6 IMRT 線 量 検 証 の 許 容 レ ベ ル と 介 入 レ ベ ル ( 推 奨 値 ) 許容レベル 介入レベル ±3 % ±5 % ±4 % ±7 % 2 mm 3 mm 投与線量精度* 高線量領域 (腫瘍領域) 低線量領域 (リスク臓器領域) 等 線 量 曲 線 精 度 ( DTA) * 評 価 点 計 画 線 量 に 対 す る 相 対 差 ( %) 12.3.2.2. 放 射 線 治 療 に 要 求 さ れ る 精 度 か ら 見 た IMRT 線 量 検 証 判 定 基 準 本 項 で は 表 12.6 に 示 し た 判 定 基 準 の エ ビ デ ン ス に つ い て 考 察 す る .1 2.2.2 項 ま で に 考 察 し た 物 理 的 な 吸 収 線 量 の 不 確 か さ , お よ び 放 射 線 治 療 に 求 め ら れ る 投 与 線 量 精 度 を 表 12.7 に ま と め る .表 12.7 か ら ,通 常 治 療 に 対 す る 吸 収 線 量 の 判 定 基 準 は 5 – 7 %,線 量 分 布 の 空 間 的 位 置 精 度 は 5 mm 程 度 が 妥 当 な 数 値 で あ る と 考 え ら れ る . IMRT の よ う に 特 殊 な 線 量 計 算 手 法 , 複 雑 な 照 射 技 術 を 用 い , 且 つ 高 い 精 度 で の 位 置 合 わせが要求される治療に対しては,通常治療との相違点を良く理解した上で判定基準を再 検 討 す る 必 要 が あ る . 通 常 治 療 に 対 す る 判 定 基 準 を そ の ま ま IMRT へ 適 用 す る の は , 臨 床 的 に も 技 術 的 に も 正 当 な 判 定 を 妨 げ る 恐 れ が あ る . IMRT が 従 来 の 治 療 と 異 な る 点 は , 腫 瘍とリスク臓器の境界の急峻な線量分布形状であり,腫瘍への投与線量精度はこれまでの 治 療 で 求 め ら れ る も の と 相 違 は な い . つ ま り , IMRT 線 量 検 証 の 判 定 基 準 を 考 え る 時 , 吸 176 12 章 表 12.7 線量検証の判定基準において考慮すべき因子 吸収線量の不確かさ 治療過程の合成標準不確かさ 放射線治療に求められる精度 5.9 % § ‡ (5.6 % ) 1) 5 – 7 % 3) 多施設試験 (人 体 模 擬 フ ァ ン ト ム 使 用 時 ) 空間的不確かさ(通常治療) 〃 ( IMRT) 判定基準の設定と評価・管理の実際 腫瘍放射線生物学的観点 4) < 10 mm 3 mm 臨床医学的観点 5 – 10 % 6 – 7 % 空間的不確かさ 11 - 1 4 ) 15,17,21) 5 mm 22) 5) § I CRP の 公 表 デ ー タ ( 表 12.1) 1 ) ‡ 表 12.1 で ビ ー ム 校 正 不 確 か さ を 1.5%と し た 場 合 収 線 量 精 度 は 従 来 の 治 療 と 同 様 に 5 %程 度 の 基 準 と し , 線 量 分 布 の 空 間 的 位 置 精 度 を 従 来 の治療よりも厳しい基準で評価しなければならないと考えるのが妥当である 3) . ここでいう,腫瘍に対する吸収線量に要求される精度は,実際の患者の腫瘍に対して投 与 さ れ る 線 量 の 精 度 の こ と で あ る . こ の 線 量 に 5 %の 精 度 が 要 求 さ れ る と い う こ と は , IMRT 線 量 検 証 の よ う に 均 質 フ ァ ン ト ム を 用 い た 線 量 測 定 で は 5 %よ り も 高 水 準 の 精 度 を 達成しなければ実際の腫瘍線量に対して要求される精度が達成できないことになる.その た め 腫 瘍 領 域 の 吸 収 線 量 に つ い て は 5 %を 介 入 レ ベ ル と し , 許 容 レ ベ ル は 統 計 的 変 動 が 生 じ た 場 合 に も 5 %程 度 の 精 度 は 達 成 で き る と 考 え ら れ る 3 %を 基 準 と し て 推 奨 す る . 低 線 量 領 域 に 対 す る 評 価 基 準 に つ い て は , 12.3.2.4 項 で 議 論 す る . 表 12.7 に お け る 空 間 的 不 確 か さ の 5 mm と い う 値 は , 通 常 治 療 の 線 量 分 布 に つ い て の み 適 応 さ れ る 値 で あ り , こ れ は IMRT で は 致 命 的 な 誤 差 と な る で あ ろ う . 特 に IMRT に お け る 腫 瘍 と リ ス ク 臓 器 が 隣 接 す る 領 域 の 線 量 分 布 で は ,位 置 が 1 mm 変 位 す る だ け で 5 – 10 % の線量変化が生じることもあり,測定可能な精度の上限での評価が求められる.そこで表 12.6 で は Gillis ら の E ST RO-QUASIMODO の 結 果 5) に従って,測定が可能と結論された空 間 的 位 置 精 度 2 mm を 許 容 レ ベ ル と し , そ れ に 線 量 勾 配 が 急 峻 な 領 域 に お い て 3 - 5 %の 線 量 変 化 に 相 当 す る 1 mm を 加 え た 空 間 的 位 置 精 度 3 mm を 介 入 レ ベ ル と し た . 3 mm と い う 精 度 は ,EST RO-QUASI MODO の 報 告 5) で も ,統 計 的 変 動 を 考 慮 し た 測 定 可 能 な 線 量 分 布 位 置精度としている. ここで注意しなければならないのは,今回考察した判定基準は必ずしも全施設,全検出 器に適応できるとは限らないということである.当然のことながら,物理的な吸収線量の 不確かさは使用する検出器ごとに異なる.ここでは一般的に広く使用されている有感体積 0.6 cm 3 ク ラ ス の 円 筒 形 電 離 箱 線 量 計 と ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム を 想 定 し て ,物 理 的 な 吸 収 線 量 の 不 確 か さ を 試 算 し て い る .そ の た め Mini 型 ま た は Micro 型 の 電 離 箱 線 量 計 や 近 年普及著しい 2 次元検出器やラジオクロミックフィルムを使用する場合は,施設ごとにそ の 不 確 か さ を 検 証 し ,施 設 の 判 定 基 準 を 再 考 察 す る 必 要 が あ る .表 12.6 に 示 し た 判 定 基 準 は , 新 規 に IMRT を 開 始 す る 施 設 が 当 面 参 考 に す る 基 準 で あ る こ と を 十 分 に 認 識 し な け れ ばならない. 177 12.3.2.3. 多 施 設 遡 及 的 解 析 結 果 か ら 見 た IMRT 線 量 検 証 判 定 基 準 の 妥 当 性 表 12.7 に 示 さ れ て い る 多 施 設 試 験 の 結 果 に は , IMRT 条 件 で の 結 果 は 含 ま れ て い な い . IMRT の 臨 床 に 適 し た 判 定 基 準 を 設 定 す る た め に は ,複 数 の IMRT 実 施 施 設 の 線 量 検 証 結 果 を 統 計 解 析 す る こ と で IMRT 条 件 で の 吸 収 線 量 の 不 確 か さ を 算 出 す る こ と が 有 効 で あ る . 今 回 は 班 員 の 所 属 機 関 6 施 設 に つ い て 調 査 ・ 解 析 を 実 施 し た . な お , 施 設 名 は A~ F ま で のアルファベットで表記し,データと施設の組み合わせの公表を避ける. 今 回 の 調 査 ・ 解 析 は , 前 立 腺 癌 と 頭 頸 部 癌 の IMRT に お け る 治 療 前 の 各 門 線 量 検 証 お よ び 全 門 線 量 検 証 を 対 象 と し た .評 価 点 は 腫 瘍 位 置 に 該 当 す る 高 線 量 領 域 と し た .表 12.8 に 各 施 設 か ら 提 供 さ れ た デ ー タ の 内 訳 を 記 す .ま た ,図 12.7 に 測 定 線 量 と 計 画 線 量 の 相 対 差 の 確 率 密 度 分 布 を ,部 位 ,検 証 法 ご と に 示 す .図 12.7 の 青 線 は 正 規 分 布 を 示 し ,赤 点 線 は 各ヒストグラムから推定された確率密度関数を示す.正規分布関数と確率密度関数を比較 すると,いずれもピークの高さおよび形状が異なっている.しかし,ピークの位置と両関 .. 数のすその広がりは非常に類似しているため,それぞれの確率密度分布が正規分布に従う と仮定して解析できる. 12.3.1 項 に お い て , 許 容 レ ベ ル は 95 %信 頼 水 準 , 介 入 レ ベ ル は 許 容 レ ベ ル の 2 倍 の 値 に 設 定 す る こ と を 述 べ た . 表 12.9 は 各 確 率 密 度 分 布 か ら 基 本 統 計 量 を 求 め , さ ら に 許 容 レ ベ ル お よ び 介 入 レ ベ ル を 算 出 し た 結 果 を 示 す .ま た ,こ れ ら と は 別 に confidence limit と 呼 ば れ る 値 を 算 出 し た .Co nfidence limit は Venselaar 2 5 ) に よ っ て 基 礎 が 広 め ら れ ,Palta 2 4 ) に よ っ て IMRT へ の 拡 張 が 図 ら れ た 値 で あ り , 誤 差 分 布 の 正 負 へ の 偏 り に と ら わ れ ず に デ ー タ の 95 %信 頼 水 準 を 見 積 も る こ と が で き る . 表 12.8 IMRT 臨 床 プ ラ ン の 吸 収 線 量 測 定 の 不 確 か さ 解 析 に 使 用 し た デ ー タ 内 訳 前立腺 施設 症例数 測定点数 施設 症例数 測定点数 各 A 30 210 C 20 284 門 B 15 75 E 35 244 C 50 714 計 95 999 計 55 528 全 A 30 30 A 15 15 門 C 50 50 C 20 73 D 45 45 E 35 104 F 52 52 計 122 282 計 178 頭頸部 125 125 12 章 a. 前 立 腺 IMRT 各 門 線 量 検 証 c. 頭 頸 部 IMRT 各 門 線 量 検 証 図 12.7 判定基準の設定と評価・管理の実際 b. 前 立 腺 IMRT 全 門 線 量 検 証 d. 頭 頸 部 IMRT 全 門 線 量 検 証 各部位・各検証法における相対差の確率密度分布 179 表 12.9 各 部 位 ・ 検 証 法 の 基 本 統 計 量 ,許 容 レ ベ ル ,介 入 レ ベ ル お よ び confidence limit 前立腺 頭頸部 各門線量検証 全門線量検証 各門線量検証 全門線量検証 平 均 値 [%] -0.5 -0.2 -0.6 -0.1 中 央 値 [%] -0.4 -0.2 -1.0 -0.0 標 準 偏 差 [%] 1.3 1.1 2.0 2.0 下限 -3.0 -2.4 -4.5 -4.0 上限 2.2 2.0 3.3 4.0 下限 -6.2 -4.8 -9.0 -8.2 上限 4.4 4.0 6.6 8.0 Conf idence limit [ %] 3.0 2.4 4.5 4.0 許 容 レ ベ ル [%] 介 入 レ ベ ル [%] 表 12.9 に お い て , 許 容 レ ベ ル の 下 限 と 上 限 の 算 出 に は 次 式 を 用 い た . Lower level = Mean − 1.96 SD ( 12.2) Upper level = Mean + 1.96 SD ( 12.3) 式 (12.2)お よ び 式 (12.3) で は 標 準 偏 差( SD)の weight factor と し て 1.96 を 採 用 し た .1.96SD は 正 規 分 布 に 対 し て 正 確 な 95 %信 頼 水 準 を 示 す が , 図 12.6 の よ う に weight factor を 2.0 ( 2SD)と 概 算 す る 場 合 も あ る .こ れ に よ り Upper level と Lo wer level は そ れ ぞ れ 正 規 分 布 に 従 う と 予 測 さ れ る 母 集 団 の 95 %の デ ー タ が 含 ま れ る 範 囲( 95 %信 頼 区 間 )の 上 限 と 下 限 を 示 す . た だ し , こ こ で 示 し た 95 %信 頼 区 間 は , 区 間 推 定 で 用 い ら れ る 95 %信 頼 区 間 と は 異 な る 範 囲 を 表 し て い る こ と に 注 意 さ れ た い .こ の 95 %信 頼 区 間 か ら 逸 脱 す る デ ー タ は 統 計 学 的 に 考 え て 外 れ 値 と 判 定 さ れ る . 許 容 レ ベ ル に 着 目 す る と 前 立 腺 IMRT で は 各 門 ・ 全 門 線 量 検 証 と も に 2 %程 度 , 頭 頸 部 IMRT で は 4 %程 度 と い う 結 果 と な っ た . 次 に confidence limit の 算 出 式 24) を以下に示す. Confidence limit = | Mean | + 1.96 SD ( 12.4) 表 12.9 に お い て confid ence li mit は 先 の 許 容 レ ベ ル と ほ ぼ 同 等 の 数 値 を 示 し て お り , IMRT の 線 量 検 証 で confidence limit は こ れ ま で の 許 容 レ ベ ル や 介 入 レ ベ ル と 同 様 に 利 用 し ,ま た 同等の判定基準を設定できることが分かる. 頭 頸 部 の 許 容 レ ベ ル お よ び confidence limit は 各 門 線 量 検 証 ,全 門 線 量 検 証 と も に 前 立 腺 よ り も 大 き い 結 果 と な っ た が , こ れ は 頭 頸 部 の IMRT 治 療 計 画 は , 前 立 腺 と 比 較 し て 照 射 領 域 が MLC に 覆 わ れ て い る 割 合 が 長 い こ と , ま た 線 量 プ ロ フ ァ イ ル の 起 伏 が 非 常 に 激 し く複雑なことから,安定して線量を測定できるポイントが限られてしまうなど,線量測定 の不確かさが非常に大きいためであると考えられる.そのため前立腺の場合よりも測定線 量 の バ ラ つ き ,標 準 偏 差 が 大 き く ,そ れ に 伴 っ て 許 容 レ ベ ル と confidence limit も 大 き な 値 180 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 に な っ た と 考 え ら れ る . こ の 結 果 か ら , I MRT 線 量 検 証 で は , 全 部 位 で 統 一 さ れ た 基 準 で 評 価 す る の で は な く ,部 位 別 に 判 定 基 準 を 作 成 す る こ と が 有 用 で あ る こ と が 示 唆 さ れ る が , 統計解析された施設数が少ないためエビデンスは明確ではない.今後,調査範囲の拡大を 図ることで,さらに有用な判定基準の作成が期待される.治療部位によって線量検証の結 果 に バ ラ つ き が 生 じ る こ と は , Do ng ら 26) の報告からも明らかである. 統 計 解 析 さ れ た 施 設 数 は 少 な い が , 今 回 算 出 さ れ た 許 容 レ ベ ル , confidence limit の 結 果 か ら ,十 分 に 時 間 を か け て コ ミ ッ シ ョ ニ ン グ し ,QA/QC を し っ か り 行 っ て い る 施 設 で あ れ ば ,表 12.6 に 示 し た IMRT に 求 め ら れ る 投 与 線 量 精 度 は 十 分 に 達 成 で き る こ と が 明 ら か に なった.現在,国内の多くの施設が参考にしていると考えられる日本放射線腫瘍学会 ( J ASTRO) の 「 多 分 割 コ リ メ ー タ に よ る 強 度 変 調 放 射 線 治 療 の 機 器 的 精 度 確 保 に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン (ver.1 )」 2 7 ) で は , 許 容 レ ベ ル は 各 門 線 量 検 証 で 相 対 差 ±5 %以 内 , 全 門 線 量 検 証 で ±3 %以 内 と し て い る .し か し ,今 回 得 ら れ た 結 果 で は ,統 計 学 的 に 有 効 と 考 え ら れ る 許 容 レ ベ ル は 各 門 線 量 検 証 ・ 全 門 線 量 検 証 と も に 前 立 腺 の 場 合 で ±2.0%,頭 頸 部 で ±4.0 % となった.データを解析した施設数が少ない現状としては,両部位・両検証法の許容レベ ル を ±3.0 %と 統 一 す る こ と で ,両 部 位 の バ ラ ン ス が 考 慮 さ れ ,さ ら に 放 射 線 治 療 に 求 め ら れ る 線 量 精 度 の ±5.0 %も 十 分 に 達 成 す る こ と が で き る た め 合 理 的 で あ る と 考 え る . こ こ で 各 検 証 法 の 誤 差 分 布 が 正 規 分 布 に 従 う と 仮 定 し て ,許 容 レ ベ ル を ±3%,介 入 レ ベ ル を ±5%と し た 場 合 に ,今 回 調 査 し た 測 定 結 果 が 各 区 間 内( inter val)に 含 ま れ る 確 率 を 表 12.10 と し て 示 す . 表 12.10 か ら , ±3 %と い う 許 容 レ ベ ル は 前 立 腺 IMRT に 対 し て は 緩 く , 頭 頸 部 IMRT に は 比 較 的 厳 し い 基 準 で あ る こ と が わ か る . こ の 結 果 か ら も , IMRT 線 量 検 証 に お い て は , 各部位ごとに許容レベルを設定する必要があることが示唆される. こ の よ う に 現 状 で 設 定 さ れ る 許 容 レ ベ ル で は 頭 頸 部 の よ う な 複 雑 な IMRT 治 療 計 画 で は 達 成 が 厳 し い 場 合 も 生 じ る と 考 え ら れ る が ,そ の 場 合 は 12.4 節 を 参 考 に 評 価 を 行 っ て い た だきたい. 表 12.10 測 定 結 果 が 許 容 区 間 ( Toler ance inter val) と 介 入 区 間 ( Actio n inter val) に 含 まれる確率 許容区間 介入区間 P(-3 < X < 3 ) P(-5 < X < 5 ) 前立腺 各門線量検証 96.8 % 99.9 % 前立腺 全門線量検証 99.2 % 99.9 % 頭頸部 各門線量検証 85.2 % 98.4 % 頭頸部 全門線量検証 86.1 % 98.6 % 181 12.3.2.4. 低 線 量 領 域 の 線 量 評 価 と IMRT 線 量 検 証 判 定 基 準 前節までは腫瘍に該当する領域である高線量領域について議論してきた.腫瘍とリスク 臓 器 が 隣 接 す る よ う な 症 例 に お い て , IMRT で は リ ス ク 臓 器 の 線 量 が 十 分 に 抑 制 で き て い ることを前提として腫瘍に対して高線量を投与しているため,治療の安全を保証するため にはリスク臓器の位置に該当する低線量領域の線量評価は重要な意味を持つ.そこで本節 では低線量領域の評価の考え方と実践について解説する. 低線量領域の線量測定および評価には,高線量領域の場合と比較して以下の 3 点の特徴 (問題点)がある. ① MLC や Jaw に 覆 わ れ て い る 割 合 が 大 き い た め , 測 定 の 不 確 か さ が 大 き い . ② 照射野端近傍や照射野外では治療計画装置の計算精度が劣る ③ 評価点計画線量に対して相対差を算出すると,高線量領域に比べて相対差が大きな数 5), 28) . 値となる. こ れ ら の 特 徴 か ら ,多 く の 治 療 計 画 装 置 の QA に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン 29)~31) で は ,低 線 量 領 域の判定基準を高線量領域のものとは独立させて設定しており,その基準は高線量領域よ りも緩めに設定されている. IMRT の 線 量 検 証 に お け る 低 線 量 領 域 の 評 価 に つ い て は , Gillis ら 5) が EST RO- QUASI MODO に よ っ て ヨ ー ロ ッ パ 8 施 設 で 実 施 し た 線 量 検 証 試 験 の 結 果 を 報 告 し て い る . 表 12.11 は そ の 結 果 を も と に 各 種 パ ラ メ ー タ を 算 出 し た も の で あ る . 表 12.11 の 許 容 レ ベ ル と confidence limit は ,前 出 の 式 (12.2) – (12 .4)を 用 い て 算 出 し た .最 大 相 対 差 の 欄 で 括 弧 内に記載された線量値は,最大の相対差を示した測定点の線量差を示す.低線量領域の相 対 差 の 標 準 偏 差 は , 高 線 量 領 域 に 比 べ て 2 %程 度 高 い 結 果 と な っ た . こ れ は 低 線 量 領 域 で は測定の不確かさが大きいためであると考えられる.この標準偏差の増大は許容レベルや confidence limit の 値 に も 大 き く 影 響 し , い ず れ も 低 線 量 領 域 で は 高 線 量 領 域 よ り も 大 き な 相対差を許容する結果となった.最大の相対差を示した測定点について見てみると,線量 差 は 同 等 で あ る に も 関 わ ら ず 相 対 差 で 表 わ す と 両 者 で 2 %程 度 の 相 違 が 生 じ た . こ れ は 先 にも挙げた,評価点計画線量を基準として相対差を算出した場合の低線量領域における問 題が明白に表れた好例である. 以上の結果より,線量評価における判定基準を設定する際,低線量領域については高線 量領域とは独立した緩めの判定基準を設定して評価する方法が支持されると考えられる. Palta ら 24) も高線量領域と低線量領域で判定基準を分けており,許容レベルと介入レベル を そ れ ぞ れ 高 線 量 領 域 で 3 %お よ び 5 %, 低 線 量 領 域 で は 4 %お よ び 7 %と し て い る . た だ し Palta ら は 相 対 差 を 算 出 す る 際 に 投 与 指 示 線 量( prescr ibed dose)を 基 準 と し て い る た め , こ の Palta ら が 示 し た 数 値 を 本 報 告 に そ の ま ま 適 用 さ せ る こ と は で き な い . 本 報 告 で は 評 価点計画線量を基準としており,低線量領域では投与指示線量を基準とする場合よりも相 対 差 が 大 き い こ と が 予 想 さ れ る た め ,Palta ら の 基 準 よ り も わ ず か に 緩 い 判 定 基 準 が 許 容 さ れると考えられる.ただ,低線量領域において,評価点計画線量を基準として線量評価を 行っている報告は非常に少なく,現状では明確なエビデンスを持った判定基準を設定する の は 困 難 で あ る .そ の た め ,Palta ら の 基 準 は 線 量 検 証 結 果 の 統 計 解 析 に よ り 導 き 出 さ れ て いることを考慮し 182 32) , 現 時 点 に お い て は 運 用 上 Palta ら の 基 準 に 従 う こ と が 最 も 合 理 的 な 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 解決策であろう. 表 12.11 IMRT 線 量 検 証 の 施 設 間 比 較 試 験 に よ る 相 対 差 の 結 果 ( EST RO QUASI MODO) 5 ) 評価点計画線量を基準として相対差を算出している.全門検証の結果. 腫 瘍 (PTV)領 域 リ ス ク 臓 器 (OAR)領 域 (高線量領域) (低線量領域) 平 均 値 [%] 1.4 -0.3 中 央 値 [%] 1.6 -1.5 標 準 偏 差 [%] 1.6 3.6 3.5 ( -6.8 cGy) 5.8 ( -6.8 cGy) 下限 -1.8 -7.3 上限 4.5 6.7 Conf idence limit [ %] 4.6 7.3 最 大 相 対 差 [%] 許 容 レ ベ ル [%] 12.4. 12.4.1. 判定基準を超えた場合の対処法 測定結果の評価の実際 12.3 節 で , IMRT 線 量 検 証 に お い て 測 定 線 量 と 計 画 線 量 の 相 対 差 の 判 定 基 準 ( 許 容 レ ベ ル,介入レベル)を設定した.相対差が許容レベル内に収まっている場合はそのプランは 承 認 さ れ る が ,問 題 と な る の は ,相 対 差 が 許 容 レ ベ ル と 介 入 レ ベ ル の 間 の 値 で あ る 場 合 と , 介入レベルを超えた場合である.この場合,仮に差が許容レベルや介入レベルを超えてい ても即座にプラン非承認として再治療計画を実施するのは適切な処置ではない.差を生じ た原因を追究し,それに対する処置を講じることで,臨床上問題となる差を解消するのが 最も合理的な方法である.誤差原因を除去しても,誤差が許容値を超える場合に初めて, 再プランなどの然るべき手段を講じることになる. 測定線量と計画線量の差の原因は,治療計画装置・放射線治療装置・測定上の問題の 3 つ に 大 別 す る こ と が で き , そ れ ら は 更 に 表 12.12 に 示 す よ う に 細 分 化 す る こ と が で き る . 測定線量と計画線量の差が許容レベルもしくは介入レベルを超える結果が出た場合,まず 表 12.12 の い ず れ か の 影 響 が な い か 確 認 す る . こ れ ら の 原 因 が 全 て ク リ ア さ れ て も 差 が 介 入レベルを超える場合には,統計学的にもほぼ取り得ない値であり,放射線治療に求めら れる線量精度を大きく侵害する結果であるため,そのプランを用いた治療は避けるのが賢 明であろう.再検討後に許容レベルを超えるが介入レベルを下回るという結果の場合,統 計学的にも取り得ない値ではなく,放射線治療に求められる線量精度は達成できていると 考えられるので,放射線腫瘍医と品質管理担当者が協議の上でその差が臨床的に許容でき ると判断されれば実際の治療に移行しても問題はないと考えられる. 183 表 12.12 IMRT 線 量 検 証 に お け る 測 定 線 量 と 計 画 線 量 の 差 の 原 因 大項目 小項目 ① 治療計画装置のアルゴリズム特性 治療計画装置 ② 計画線量の読み間違い ③ 不適切な測定ポイントの設定 ④ 検証プランの作成ミス ① 放射線治療装置 測定上の問題 ビ ー ム 出 力 ( cGy/DMU) の 誤 差 ( 不 適 切 な ビ ー ム 校正) ② MLC 位 置 の ズ レ ③ ガントリなどの幾何学的誤差 ① 測定シートへのパラメータの入力ミス ② 測定ジオメトリの間違い(ファントム種類など) ③ 線量計設置位置の間違い ④ 寝台等による減弱の影響 ⑤ 測定線量の統計的変動 表 12.12 の 治 療 計 画 装 置 の 小 項 目 ③ に あ る よ う に ,IMRT ビ ー ム は 線 量 強 度 分 布 が 複 雑 で 線量計での測定には不適切なポイントも多いため,装置の不具合や作業ミスがない場合で も,差が大きく出ることも多々見受けられる.そういった問題を解消するために,1 つの ビームもしくはプランについて複数点の測定を実施し,それらの結果の大多数が判定基準 を 満 た し て い る か で 判 断 す る と い う の が 賢 明 で あ ろ う .例 え ば Dong ら 26) の報告によると, MD. And er so n Cancer Center に お け る IMRT 線 量 検 証 で は ,ま ず 腫 瘍 に 該 当 す る 領 域 内 で の 1 点 で 測 定 を 実 施 し , こ の 結 果 が 3.5%を 超 え る 場 合 , 同 じ 領 域 内 に 更 に 2 点 の 測 定 点 を 追 加 し て , 計 3 点 の 平 均 値 が 3%以 内 で あ れ ば 承 認 と し て い る . また吸収線量測定の結果だけでなく,それに合わせて線量分布の測定検証を実施し,両 者を総合的に評価することも重要である. 12.4.2. 低線量領域における対応策 12.3.2.4 項 で 述 べ た よ う に , 評 価 点 計 画 線 量 を 基 準 と し て 線 量 評 価 を 実 施 し た 場 合 , 低 線量領域において算出される相対差は高線量領域のものと比べて非常に大きな値となる. そ の た め 低 線 量 領 域 で は ,表 12.6 に 示 し た 判 定 基 準 を 満 た す こ と が で き な い ケ ー ス が 多 く 発生することが考えられる.この場合,線量検証で評価するべき低線量領域はリスク臓器 に該当する領域であることを考慮して対応策を考える. 腫 瘍 ( 高 線 量 領 域 ) に 対 し て 求 め ら れ る 投 与 線 量 精 度 は , 12.2 節 で 詳 説 し た よ う に , 臨 床医学・腫瘍放射線生物学の経験と理論を基に“投与指示線量に対する相対差”として導 か れ た も の で あ る た め , 表 12.6 の 基 準 を 遵 守 す る べ き で あ る . 一方で通常リスク臓器に対しては, “ 投 与 線 量 精 度 ”と い う 考 え 方 で は な く , “耐容線量” という物差しで議論される.つまり,計画線量に対する相対差という基準だけでなく,実 184 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 測した線量が耐容線量を下回る線量であったかという基準で評価を行っても臨床上は許容 されることになる. 例 と し て , 頭 頸 部 IMRT 治 療 計 画 の ケ ー ス を 考 え る . 治 療 計 画 装 置 上 で 脊 髄 の 最 大 線 量 が 40 Gy で あ る プ ラ ン の 線 量 検 証 の 結 果 ,脊 髄 領 域 の 相 対 差 が +7 %で あ っ た と す る .表 12.6 を遵守するのであれば,介入レベルを超過する結果であるため,プランの再検討も視野に 入れなければならない.しかしここで耐容線量という観点から考えると,この場合に脊髄 へ投与されると考えられる総線量は, 40 Gy × 1.07 = 42.8 Gy (12.5) と 概 算 さ れ , 脊 髄 耐 容 線 量 の 50 Gy を 十 分 に 下 回 る . そ の た め こ の プ ラ ン は 臨 床 効 果 と し ては問題なく許容されると考えることができる. 以 上 の よ う に ,リ ス ク 臓 器 に 該 当 す る 低 線 量 領 域 に お い て は ,表 12.6 に 示 さ れ る 相 対 差 の判定基準だけでなく,対象臓器の耐容線量を下回る線量で制御されているかという判定 方法を採用することで,より柔軟な対応が可能になる. 12.4.3. 各施設の対応例 線量検証の結果が判定基準を満たさない場合の処置について,あらかじめ各施設で取り 決 め を 作 成 し て お く こ と で ,混 乱 な く 迅 速 に 対 応 す る こ と が 可 能 と な る .こ こ で は ,IMRT 実施施設での対応例を紹介し,各施設での取り決めの作成の一助にしていただきたい. 施 設 ① ************************************************************************* 各門線量検証 ① 線 量 計 を 再 度 位 置 合 わ せ し 直 し て 再 測 定 す る . そ の 結 果 が 問 題 な け れ ば P ass と す る . ② ①で問題が解決しない場合,許容レベルを超えた測定ポイントがどのようなプロファ イ ル ・ MLC 動 作 な の か を 治 療 計 画 装 置 で 再 度 確 認 す る . ③ 誤差を生じる可能性のあるポイントの場合,そのビームの 2 点の測定点のうち,一方 が許容レベルをクリアしていれば合格とする. ④ 2 点の測定点の両方が不合格の場合,それ以外に測定点を設定しなおして再測定を実 施する. ⑤ MLC QA( DMLC 出 力 比 試 験 ) を 実 施 し , 装 置 側 に 問 題 が な い か 確 認 す る . 全門線量検証 ① 許 容 レ ベ ル を 超 え た 測 定 ポ イ ン ト が ど の よ う な プ ロ フ ァ イ ル ・ MLC 動 作 な の か を 治 療 計画装置で確認する.誤差の大きいビームを特に注意して確認する. ② 誤 差 が 比 較 的 大 き か っ た ( 5%以 上 ) ビ ー ム の 各 門 線 量 検 証 測 定 結 果 を 確 認 す る . ③ PTV に 該 当 す る 領 域 内 の 複 数 の ポ イ ン ト の 誤 差 を 確 認 し , そ の 他 の ポ イ ン ト で 問 題 が ないことを確認する. ④ フ ィ ル ム の 線 量 分 布 検 証 を 確 認 し , MLC 動 作 が 正 常 で あ る こ と を 確 認 す る . ⑤ MLC QA( DMLC 出 力 比 試 験 ) を 実 施 し , 装 置 側 に 問 題 が な い こ と を 確 認 す る . ******************************************************************************** 185 施 設 ② ************************************************************************* 全門線量検証 ① その時点で,原因が特定できれば適宜対処する. ② 原 因 の 特 定 が 困 難 で あ る 場 合 , 過 去 の IMRT 線 量 検 証 を 再 測 定 す る . ③ ②の結果が過去の検証結果と同等の場合,現線量検証の中に問題があると判断し,誤 差要因を特定する. ④ ② の 結 果 が 過 去 の 検 証 結 果 と 異 な る 場 合 , 装 置 自 体 に 発 生 し た ト ラ ブ ル ( MLC や ア イ ソ セ ン タ の ズ レ 等 ) で あ る と 判 断 し , 幾 何 学 的 な QA を 行 っ て 原 因 を 特 定 す る . ******************************************************************************** 施 設 ③ ************************************************************************* ① 測定上のミスがなかったか,再測定を実施して確認する. ② 再 測 定 を し て も 誤 差 が 大 き い 場 合 , QA プ ラ ン に 問 題 が な い か 確 認 す る . ③ そ れ で も 原 因 が 特 定 で き な い 場 合 は ,フ ェ ン ス 試 験 の 実 施 や MLC Log File を 参 照 し て , MLC の 動 作 確 認 の 上 , 担 当 医 と 協 議 す る . ④ 最終的には医師,技師,物理士でのミーティングで考察を含めた測定結果の報告を行 い承認という形式を受けて治療を実施する. ******************************************************************************** 施 設 ④ ************************************************************************* ① MLC ロ グ フ ァ イ ル を 見 て , MLC の 動 作 不 良 が な い か 確 認 す る . ② 計画での測定ポイントを見直し,他の測定ポイントで再測定を実施する. ******************************************************************************** 施 設 ⑤ ************************************************************************* ① 転送データ,検証プランの作成手順および測定位置を確認する. ② ① に 問 題 が な け れ ば , MLC の QA を チ ェ ッ ク し , 位 置 精 度 に 問 題 が な い か 確 認 す る . ③ MLC 位 置 精 度 が 許 容 限 界 付 近 ま で き て い る よ う な ら ば , メ ー カ に 調 整 を 依 頼 し , 医 師 との日程調整を行う. ④ 再 調 整 が 間 に 合 う な ら ば , MLC 再 調 整 後 , 再 測 定 を 実 施 す る . ⑤ 再調整が間に合わない,または再測定線量に改善が見られない場合,医師の判断にて 再プランニングか治療実施かを決定する. ******************************************************************************** 上記のように,各施設で様々な取り決めを作成しているが,第一に取り掛かるのは測定 ミスや検証プラン作成上のミスといったヒューマンエラーの確認である.また,線量計を 再 度 セ ッ ト ア ッ プ し て 再 測 定 を 実 施 す る 対 応 も ,線 量 計 の 設 置 位 置 の 確 認 と い う 観 点 か ら , 複 雑 な 線 量 分 布 を 示 す IMRT の 測 定 で は 非 常 に 有 用 な 方 法 で あ る .機 器 関 連 の 確 認 事 項 は , MLC の 位 置 精 度 ,動 作 精 度 が 主 で あ る .考 え ら れ 得 る 原 因 追 求 の た め の 処 置 を 施 し て も 差 が許容レベルを超える場合,最終的には医師の判断となるケースが多いが,施設の品質管 186 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 理担当者は結果に対して十分な検討と考察を行った上で,医師が納得して判断を下せるた めのコンサルトを行う義務がある. 12.5. 施 設 ご と の IMRT 線 量 検 証 の 統 計 的 品 質 管 理 12.3 節 で は ,表 12.6 に 示 し た 許 容 レ ベ ル と 介 入 レ ベ ル の 妥 当 性 に つ い て 各 施 設 か ら 提 供 さ れ た IMRT 線 量 検 証 測 定 結 果 全 体 を 母 集 団 と し て 統 計 解 析 を 行 う こ と で 評 価 し , こ の 判 定基準が多施設で受け入れ可能であることを示した.しかし,施設によって使用する線量 測 定 シ ス テ ム( 線 量 計 ・ 電 位 計 ・ フ ァ ン ト ム な ど ),装 置 の 品 質 管 理 基 準 や IMRT プ ラ ン の 測定点の選択基準が異なるため,測定に関わる不確かさも施設ごとに異なることが予想さ れる.そこで,本節では線量検証結果の各施設における特徴を考慮に入れた判定基準につ いて考察する. 表 12.8 に お け る 頭 頸 部 IMRT の 全 門 線 量 検 証 結 果 の バ ラ つ き を 施 設 ご と に ボ ッ ク ス プ ロ ッ ト で 表 し た も の を 図 12.8 と し て 示 す . ま た 施 設 ご と に 算 出 さ れ た 許 容 レ ベ ル を 図 12.9 と し て 示 す . 図 12.8 お よ び 図 12.9 の 数 値 デ ー タ を 表 12.13 と し て 示 す . 図 12.8 お よ び 表 12.13 か ら ,測 定 結 果 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 は 各 施 設 で 異 な っ て い る こ と がわかる.それに伴って施設ごとに算出される許容レベルにも施設間のバラつきが生じて い る ( 図 12.9, 表 12.13). ど の 施 設 も 放 射 線 治 療 に 求 め ら れ る 線 量 精 度 は 概 ね 達 成 さ れ て い る が ,先 の 12.3 節 で 算 出 し た 許 容 レ ベ ル と は 異 な る 部 分 が 多 い .特 に 施 設 C と E で は , 施 設 A お よ び F よ り も 測 定 結 果 の バ ラ つ き が 大 き い 結 果 で あ っ た た め ,許 容 レ ベ ル も 高 め に 算 出 さ れ た . し か し , 測 定 結 果 の 平 均 値 µの ( 区 間 推 定 に よ る ) 95 %信 頼 区 間 は そ れ ぞ れ [-1.6 < µ < -0 .6], [ -0.4 < µ < 0.4]で あ り , 投 与 線 量 精 度 と し て 問 題 な い と 考 え ら れ る . 図 12.8 頭 頸 部 IMRT 全 門 線 量 検 証 結 果 の 各 施 設 の バ ラ つ き . 横 軸 の ア ル フ ァ ベ ッ ト 表 記 は , 表 12.8 の 施 設 分 類 に 対 応 . 187 図 12.9 頭 頸 部 IMRT 全 門 線 量 検 証 結 果 か ら 算 出 さ れ た 各 施 設 の 許 容 レ ベ ル . 横 軸 の ア ル フ ァ ベ ッ ト 表 記 は , 図 12.8 に 対 応 . 表 12.13 頭 頸 部 IMRT 全 門 線 量 検 証 結 果 か ら 算 出 さ れ た 施 設 ご と 統 計 値 . 図 12.8 お よ び 図 12.9 を 数 値 表 記 し た も の . A C E F 標本数 15 73 104 52 平均値 0.4 -1.1 0.02 0.9 標準偏差 1.3 2.0 2.2 1.1 下限 -2.2 -5.1 -4.3 -1.1 上限 2.9 2.8 4.3 3.0 許容レベル 医療の標準化および均てん化を考えると,全施設がある一定のレベルの精度を達成する ことが必要であり,全施設に適用される判定基準を設定することは重要である.その基準 を達成した上で,各施設の治療および品質管理状況を考慮した施設ごとの判定基準を含め たプロトコル作成が必須であることが今回の結果から明らかであろう. 線量検証は,測定を実施して許容レベル内の精度を担保できているかを確認するだけに 目的を置いているわけではないことに注意したい.複数症例の統計解析の結果得られる誤 差分布のピーク(平均値)が,ゼロから正負方向いずれかにシフトしている場合,治療計 画装置のコミッショニング不良や,測定プロトコルの不備などの系統誤差を有しているこ とが考えられるため,適切な処置を講ずる必要がある. IMRT の 線 量 検 証 は , 治 療 計 画 装 置 , 治 療 情 報 登 録 管 理 シ ス テ ム , 放 射 線 治 療 装 置 と い 188 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 っ た IMRT を 実 施 す る シ ス テ ム 全 体 の QA/QC を 総 合 的 に 実 施 す る こ と が で き る .そ の た め , IMRT 線 量 検 証 の 測 定 結 果 を 時 系 列 で 解 析 お よ び 管 理 す る こ と に よ っ て , 前 述 の よ う な 系 統 誤 差 の 発 見 に 有 効 な だ け で な く , 通 常 の QA/QC プ ロ ト コ ル で 見 落 と さ れ て い た 治 療 シ ステムの不具合を発見することができ,放射線治療装置の調整時期の設定などにも有効で ある 33, 34) . 参考文献 1. ICRP: Uncertainty in Radiotherap y. 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Fraass B, Dopp ke K, Hunt M , et al.: American Asso ciatio n o f Phys icists in Medicine 190 12 章 判定基準の設定と評価・管理の実際 Rad iatio n Ther ap y Co mmittee Task Gro up 53: Quality assurance for clinical rad iotherap y treatment p lanning. Med. Phys. 25 : 1773 -1829, 19 98 30. Mijnheer B, Olszewska K, Fior ino C, et al.: ESTRO Boo klet No.7, Quality assurance o f treatment p lanning systems p ractical examples fo r no n-IMRT p ho to n b eams. 2004, ESTRO, Brussels. 31. I AEA: Technical Repo rt Ser ies No.430: Co mmissio ning and q uality assur ance of co mp uterized planning systems for r adiatio n tr eatment o f cancer. 2004 , I AE A, Vienna. 32. Ezzell GA, B ur meister JW, Do gan N, et al.: I MRT co mmissio ning: Multiple institutio n planning and do si metr y co mpar iso n, a r eport fr o m AAP M Task Gro up 11 9. Med. P hys. 36 : 5359-5373, 2009 33. Breen SL, Moseley DJ, Zhang B, et al.: Statistical process co ntrol for IMRT do si metr ic ver ificatio n. Med. P hys. 35: 4417 -4425, 200 8 34. Gerard K, Gr and haye J -P, Marchesi V, et al.: A co mprehensive analysis of the IMRT do se deliver y pro cess using statistical process co ntro l (SPC). Med. P hys. 36 : 1 275-1285, 2009 〔黒岡〕 191 付録 1 施設別の線量検証プロトコル IMRT の 線 量 検 証 は , 電 離 箱 線 量 計 な ど を 使 用 し た 評 価 点 線 量 検 証 と , フ ィ ル ム を 用 い た 線 量 分 布 検 証 の 2 つ に 分 類 さ れ る . IMRT 線 量 検 証 に 関 す る 文 献 は , こ れ ま で に 海 外 を 中心に数多く出されているが,その手順について詳しく言及されたものは少なく,新規に IMRT を 開 始 す る 施 設 に と っ て 大 き な 壁 と な っ て い る . そ こ で 本 章 で は , 本 研 究 班 に 参 加 し て お り , IMRT を 実 施 し て い る 施 設 の 線 量 検 証 プ ロ ト コ ル を ア ン ケ ー ト 形 式 で 調 査 し た 結 果 を 記 載 し た . 特 に 新 規 に IMRT を 開 始 す る 施 設 は , 他 章 の 測 定 方 法 と 合 わ せ て , 施 設 の線量検証プロトコル作成の参考にしていただきたい. 調査対象施設 慶應義塾大学病院 国立がんセンター中央病院 国立がんセンター東病院 埼玉医科大学国際医療センター 東京女子医科大学病院 千葉県がんセンター (計 6 施設,五十音順) 結果の見方の注意 今 回 調 査 を 実 施 し た 施 設 で は , IMRT を 開 始 し て か ら 一 定 数 の 症 例 数 を 経 験 し て お り , その経験に基づいて検証プロトコルの見直しを実施している.そのため,一部の質問では IMRT を 開 始 し た 当 初 の 検 証 プ ロ ト コ ル と , 現 状 の 見 直 さ れ た プ ロ ト コ ル の 双 方 の 結 果 を 表記した. 192 付録 1 1. 施設別の線量検証プロトコル 基本情報 実 施 し て い る IMRT 線 量 検 証 項 目 前立腺 頭頸部 施設 開始当初 現状 開始当初 現状 1 A A A A 2 A A 3 A A A A A A 4 5 A C A C 6 A B A A A; ポ イ ン ト 線 量 + 線 量 分 布 , B; ポ イ ン ト 線 量 の み , C; 線 量 分 布 の み 2. 2-1. 評価点線量検証 使用している線量計 回答施設数 2-2. 電 離 箱 : 0.6 cm 3 5 電 離 箱 : 0.01 cm 3 1 リ フ ァ レ ン ス 線 量 計 以 外 の 線 量 計 を 使 用 し て い る 場 合 の , 補 正 係 数 の 取 り 扱 い .( 1 施設回答) ND,w: リ フ ァ レ ン ス 線 量 計 と の ク ロ ス キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン で 得 ら れ る 補 正 係 数 内 に 含まれる. kQ: リ フ ァ レ ン ス 線 量 計 と の ク ロ ス キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン で 得 ら れ る 補 正 係 数 内 に 含 まれる. k p o l : 測 定 に よ り 算 出 ( 主 に ク ロ ス キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 実 施 す る 時 ). k s : 測 定 に よ り 算 出 ( 主 に ク ロ ス キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 実 施 す る 時 ). 2-3. 実施している評価点線量検証の種類 前立腺 頭頸部 施設 開始当初 現状 開始当初 現状 1 C C C C 2 B B 3 A A A A A C 4 5 A D A D 6 A A A A A; 各 門 検 証 + 全 門 検 証 , B ; 各 門 検 証 の み , C; 全 門 検 証 の み , D ; 未 実 施 ( 線 量 193 分布検証のみ) 2-4. 使用しているファントム 各門検証 全門検証 ファントム 回答数 ファントム 回答数 Tough water 5 Tough water 2 Solid water 1 特製シンリンダ 1 型 2-5. CI RS 体 幹 部 1 RT-3000 2 評価点の数 前立腺 Each b eam * 施設 開始 当初 Total beam 開始 現状 当初 1 2 3 1 3 1 1 頭頸部 現状 1 1 3 3 4 * 2-6. 5 1 0 1 0 6 2 2 3 1 Each b eam * 開始 当初 現状 Total beam 開始 当初 現状 1 1 1 1 3 3 1 0 2or3 1or2 2 2 5 3 各門検証の評価点の数を示す. 治療計画装置での計算線量の取得方法 手法 回答数 体積平均線量 5 点線量 1 電 離 体 積 0.6 cm 3 を 使 用 し て い る 施 設 で は 全 て 体 積 平 均 線 量 で 実 施 し て お り , 0.01 cm 3 を 使 用 し て い る 施 設 は 点 線 量 を 読 み 取 っ て い る . 2-7. 体積平均線量で読み取る際の規定条件があるか. 手法 回答数 規定あり 2 規定なし 3 回 答 ① : PT V 内 で 高 線 量 ( 原 則 , 処 方 線 量 の 80%以 上 ) か つ 低 線 量 勾 配 で あ る 領 域 194 付録 1 施設別の線量検証プロトコル に つ い て ,電 離 空 洞 内 の 最 小 /最 大 線 量 比 > 0.95 と な る 評 価 点( 体 積 )を 選択している. 回 答 ② : 各 門 検 証 の 場 合 , Standard Deviation が 約 0.3%( 1 回 投 与 線 量 に 対 す る 相 対 値 ),全 門 検 証 で は 約 1.0%に な る よ う に 評 価 点 の 場 所 を 決 定 し て い る .ま た Hot spot が 生 じ て い な い 領 域 を 選 択 し て い る . 2-8. 各門検証の測定深 施設 前立腺 頭頸部 1 2 10 cm 3 10 cm 4 5 cm 5 cm 5 10 cm 6 12 cm 10 cm どの施設でも,前立腺より頭頸部の方が浅い位置で測定している.これは頭頸部で は腫瘍が比較的浅い位置に存在することや,使用するエネルギーが低いことなどを 考慮していると考えられる. 2-9. 測定領域 回答数 腫 瘍 に該 当 する領 域 6 リスク臓 器 に該 当 する領 域 2 全施設で腫瘍に該当する領域を測定している.また 2 施設はそれとは別にリスク臓 器に該当する領域も測定している.臨床的に意義のあるポイントで測定を行うこと が重要である. 2-10. 評価点の位置の選択で注意していること 回 答 ① : MLC 動 作 が 安 定 し た 場 所 と す る . 極 端 に 狭 い gap が 通 過 す る よ う な 領 域 や MLC が 飛 び 出 し て MLC sid e が 測 定 点 の 近 傍 を 通 過 す る よ う な 領 域 は 避 け る . マ イ ク ロ 型 電 離 箱 線 量 計 を 使 用 し て い る の で , Tongue and Groo ve 効 果 に 特 に 注 意 を 払 っ て い る . 電 離 箱 の 有 感 領 域 が MLC の 真 下 に 来 る よ う に 座 標 の 設 定 を 行 っ て い る . 使 用 し て い る 電 離 箱 の 長 径 が 3 ~ 4 mm な の で , MLC の 真 下 ( 1 本 の leaf で 有 感 領 域 が 覆 わ れ る 箇 所 )に 設 置 す る と ,Tongue and Groo ve 効 果 の 影 響 を 受けにくくなる. 電 離 箱 線 量 計 の 設 置 精 度 の 影 響 を 受 け に く い 場 所 と す る .広 く 平 坦 な 領 域 を 選 択 している.ピーク位置などは極力避ける. 195 回 答 ② : 主 に 電 離 箱 の 長 軸 方 向 の プ ロ フ ァ イ ル を 見 て 平 坦 な 場 所 を 探 す . ま た MLC の 動 きが他の領域と大きく異なる領域では測定の不確かさが増大する可能性が高い の で 避 け る . こ の た め , BEV で 評 価 点 付 近 の MLC の 動 き を 確 認 す る . 現 在 で は 測定誤差が大きい場合のみ確認作業を行っている. 回 答 ③ : 線 量 分 布 の 平 坦 な 場 所 ( ±1.5% / 1 mm 以 下 ) で 測 定 し て い る . 2-11. 測 定 結 果 の 評 価 基 準 ( Tolerance level) 前立腺 頭頸部 施設 Each 1 T otal Each 1.5% 2 5% 3% 3 5% 3% Total 3% 5% 4 3% 3% 5 5% 3% 5% 3% 6 3% 3% 3% 3% 施 設 1,4,6 は ,こ れ ま で の 症 例 の 統 計 解 析 の 結 果 を 基 に 評 価 基 準 を 設 定 し て い る . そ の 他 の 施 設 で は JASTRO の ガ イ ド ラ イ ン 「 多 分 割 コ リ メ ー タ に よ る 強 度 変 調 放 射 線 治 療 の 機 器 的 精 度 確 保 に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン (Ver.1)」 に 従 っ て 評 価 基 準 を 設 定 し て い る . 評 価 基 準 の 設 定 方 法 は 第 12 章 に 詳 説 さ れ て い る の で 参 考 に す る こ と . 196 付録 1 3. 施設別の線量検証プロトコル 線量分布測定 3-1. 実 施 し て い る 線 量 分 布 測 定 前立腺 頭頸部 施設 開始当初 現状 開始当初 現状 1 A C A C 2 A C 3 A A A A A C A B 4 5 A A 6 A D A; 各 門 検 証 + 全 門 検 証 , B; 各 門 検 証 の み , C; 全 門 検 証 の み , D; 実 施 し て い な い . 3-2. 使用しているフィルム フィルム 回答数 各門検証 全門検証 EDR2 2 3 XV2 1 0 Gaf EBT 1 1 Gaf RT QA 1 1 6 施 設 中 5 施 設 が フ ィ ル ム を 使 用 し て 線 量 分 布 の 測 定 を 実 施 し て い る .1 施 設 の み 多 次元検出器を使用して線量分布測定を実施している. 3-3. 使用しているファントム ファントム * 回答数 各門検証 全門検証* Solid water 1 1 Tough water 4 1 RW3 1 I’mRT 1 CI RS 体 幹 部 1 RT3000 1 特製シリンダ型 1 部 位 な ど ,状 況 に よ っ て 使 い 分 け て い る 施 設 が あ っ た た め ,回 答 数 が 施 設 数 を 上 回 っ て いる. 197 3-4. 多次元検出器を使用しているか. 回答数 Yes 3 No 3 多次元検出器を使用している 3 施設のうち 2 施設は,試験段階としてフィルムとの 併用によりデータ収集中との回答であった.1 施設はメインのモダリティとして使 用している. 3-5. 評価面とその数 前立腺 1 施設 開始 当初 2 開始 現状 Axial 3 0 Coro nal 1 1 3 現状 当初 3 開始 当初 1 5 現状 1 開始 当初 6 現状 開始 当初 1 現状 5 0 1 0 全門 検証 Sagittal 1 1 0 1 頭頸部 1 施設 開始 当初 3 現状 Axial 3 0 Coro nal 1 1 開始 当初 1 4 現状 1 開始 当初 6 現状 開始 当初 現状 3 0 5 0 0 1 0 0 1 0 全門 検証 Sagittal 3-6. 各門検証時のフィルムの測定深 回答数 198 前立腺 頭頸部 5 cm 2 2 10 cm 2 1 12 cm 1 付録 1 3-7. 施設別の線量検証プロトコル 特 性 曲 線 ( 濃 度 -線 量 変 換 曲 線 ) の 取 得 に つ い て 施設 1 2 3 4 5 6 取得頻度* 1 2 1 1 1 2 取得方法# 2 1 2 1 1 1 ファントム To ugh To ugh To ugh Solid To ugh To ugh 10 cm 5 cm 10 cm 10 x 10 5 x 5 30 x 30 H & N: 5 cm 深さ 5 cm 5 cm Pr os ta te : 1 0 cm 照 射 野 [ cm x cm] 4 x7 5 x 5 6 x 6 * 1: 毎 回 測 定 時 , 2: 1 箱 に 1 回 # 1: Field b y field 法 , 2 : MLC セ グ メ ン ト 法 特性曲線を 1 箱に 1 回取得している 2 施設は,ラジオクロミックフィルムを使用し ている施設である. 3-8. 線 量 分 布 測 定 は 絶 対 線 量 測 定 or 相 対 線 量 測 定 の ど ち ら で 行 っ て い る か 回答数 3-9. 絶対線量測定 2 相対線量測定 4 Normalization point の 設 定 箇 所 回答数 フィルム中心 2 任意の高線量 4 領域 3-8 で「 絶 対 線 量 測 定 」と 回 答 し た 施 設 も ,相 対 線 量 測 定 を 実 施 す る 場 合 に つ い て の 回 答 が 有 っ た た め ,3 -8 で「 相 対 線 量 測 定 」と 回 答 し た 施 設 数 よ り も ,総 回 答 数 が 多 い. 3-10. 線量分布解析で用いている解析手法 解析手法 回答数 ガンマ解析法 6 DT A 法 2 分布の視覚的評価 6 Dose difference 3 199 どの施設も,解析手法を 1 つに限っておらず,複数の解析手法を組み合わせて評価 を実施している. 3-11. ガ ン マ 解 析 法 の 許 容 基 準 ( Dose-Difference/DTA) 回答数 3-12. 3% / 3 mm 4 3% / 2 mm 2 ガンマ解析法の結果に対する判定基準を設定しているか 回答数 Yes 0 No 6 ガンマ解析法は,許容レベルをどのように設定すれば良いのか,エビデンスが明確 でないという問題がある.そのため,ガンマ解析法で合否分布の良し悪しと不合格 となっている領域を全体像として確認し,合格率などで定量的な評価を行う場合に おいても,明確な判定基準の決定までは至っていないのが現状ではないだろうか. 3-13. 具 体 的 な 線 量 分 布 の 評 価 方 法 ( 視 覚 的 評 価 お よ び DTA 評 価 ) 回 答 ①: 全 門 検 証 で ,リ ス ク 臓 器 に 隣 接 す る 領 域 に 不 自 然 な 分 布 の 乖 離 が な い か 確 認 す る . 特 に 前 立 腺 の 場 合 , 直 腸 側 の 50% dose line が 計 画 線 量 分 布 と 比 較 し て 大 き く 外 側にはみ出ていないか確認する. ガ ン マ 解 析 に お い て 不 合 格 と な っ た 領 域 で ,DTA が 3 mm 前 後 に 収 ま っ て い る か 確認する. 回 答 ② : DTA の 許 容 誤 差 を 3 mm と し て Pass/Fail 試 験 を 行 い , Fail が 目 立 つ 領 域 に 注 目 してプロファイルを観察する. PTV と リ ス ク 臓 器 が 隣 接 す る 領 域 の DTA と 線 量 プ ロ フ ァ イ ル を 確 認 す る . 回答⑤:線量の変化が急峻な部分のプロファイルを描出して計算値と実測値の視覚的な比 較 と 線 量 差 の 比 較 を 実 施 す る .ま た ,フ ィ ル ム で 測 定 し た 際 ,計 画 と 比 較 し て hot spot が 生 じ て い な い か を 視 覚 的 に 確 認 し て い る . 各施設,実施している線量検証項目に大きな相違はないが,評価方法については,各施 設で特色の出たプロトコルが作成されている. 調査を実施した 6 施設に共通して,線量分布測定の評価の際にガンマ解析法のみで評価 を行わず,必ず他の評価法を併用していることである.ガンマ解析法は,使用するフィル ム解析ソフトによってガンマ値の計算方法が異なり,またそれがブラックボックス化して いる場合もあるため,提示された結果をそのまま受け入れるのは危険である.またガンマ 解析法にも欠点があり,それが線量分布評価の妨げになる場合が多いため,効率的で適正 な評価を行うために他の評価法を併用することが望ましい. 200 付録 1 施設別の線量検証プロトコル IMRT の 線 量 検 証 で は , 治 療 計 画 装 置 の 線 量 計 算 精 度 , 機 器 の 幾 何 学 的 精 度 や Reco rd & Verify system を 含 め た 治 療 シ ス テ ム 全 体 の 運 転 状 況 な ど , 非 常 に 多 く の 項 目 を 確 認 す る こ とができる.そのため効率的なプロトコルを組み,そしてそれらの結果に対して適切な評 価 を 行 う こ と が , 安 全 な IMRT を 提 供 す る た め に 重 要 と な る . こ れ か ら IMRT を 開 始 す る 施 設 は , た だ 漠 然 と 線 量 測 定 を し て 計 算 値 と 合 っ て い る か を 評価するのではなく,安全で正確な治療を実施するために,何を,どのような方法で,ど のような基準で評価および確認しなければいけないのか,明確な意識を持たなければなら ない. 〔黒岡〕 201 付録 2 1. 用語集 ADC 値 , analog to digital converter value ス キ ャ ナ で 読 み 取 っ た フ ィ ル ム 濃 度 を 量 子 化 し ,ソ フ ト ウ ェ ア で 解 析 で き る よ う に デ ジ タ ル 化 し た 値 . ADC 値 は 濃 度 分 解 能 や 読 み 取 り 最 低 ・ 最 高 濃 度 に 依 存 す る . 2. collimator transmission X-Jaw ま た は Y-Jaw な ど 2 次 コ リ メ ー タ か ら の X 線 の 透 過 を 指 す . 3. CT 値 -相 対 電 子 濃 度 変 換 , CT number to relative electron density conversion 治 療 計 画 装 置 に お い て 深 さ ス ケ ー リ ン グ を 行 う た め に CT 値 か ら 相 対 電 子 濃 度 に 変 換 す る こ と を い う .一 般 に ,相 対 電 子 濃 度 が 既 知 の フ ァ ン ト ム を 治 療 計 画 で 使 用 す る 条 件 に て CT 撮 影 を 行 い , CT 値 と 相 対 電 子 濃 度 を 対 応 さ せ て 治 療 計 画 装 置 に 登 録 し 使 用 す る . 4. distance to agreements; DTA 位 置 の ず れ を 検 出 す る こ と を 目 的 と し た 線 量 分 布 評 価 法 の 一 つ .計 画 線 量 分 布 と 測 定 線 量 分布について等しい線量を示す点を検索し,その最短距離として定義される. 5. DMLC 方 式 , dynamic MLC IMRT technique IMRT 照 射 技 術 の 一 つ . 1 つ の フ ィ ー ル ド 内 に お い て , MLC の 開 度 を 変 え な が ら 線 量 の 強 度 変 調 を 行 い , 目 的 の 線 量 分 布 を 作 成 す る と い う 点 で は SMLC 方 式 ( 用 語 集 13 参 照 ) と 同 じ で あ る が , MLC を 駆 動 さ せ て い る 間 も 照 射 を 行 う 点 が 異 な る . 6. dose difference 線 量 評 価 法 の 一 つ .基 本 的 に は 2 つ の 線 量 分 布 上 の 同 じ 位 置 に つ い て ,計 画 線 量 と 測 定 線 量 の 線 量 差 示 す .ま た ,こ の 線 量 差 を 基 準 と な る 値 で 除 し て ,相 対 差 で 評 価 す る 場 合 も あ る. 7. dpi, dots per inch ス キ ャ ナ を 利 用 す る 際 の 解 像 度 の 単 位 で あ り ,1 イ ン チ( 25.4 mm)あ た り の ド ッ ト 数 を 示 す . ス キ ャ ナ な ど ピ ク セ ル 単 位 で 表 示 す る 場 合 は ppi( pixels per inch) を 用 い る . 8. EPID, electronic portal imaging device 放 射 線 治 療 装 置 に 付 属 し た 電 子 ポ ー タ ル 画 像 取 得 装 置 . 市 販 さ れ て い る EPID で は , 連 続 的にデータを収集することにより積算画像の取得が可能である. 9. MLC transmission( inter leaf transmission and intra leaf transmission) MLC か ら の X 線 の 透 過 を 指 す . MLC transmission は , inter leaf transmission( リ ー フ 間 か ら の 透 過 ) と , intra leaf transmission( リ ー フ 自 体 か ら の 透 過 ) の 2 つ に 分 類 さ れ る . 202 付録 2 用語集 10. portal dosimetry 放 射 線 治 療 装 置 付 属 の EPID を 利 用 し て フ ル エ ン ス 分 布 を 検 証 す る シ ス テ ム で , Varian 社 の 放射線治療装置におけるそのシステムの総称. 11. predicted image 治 療 計 画 装 置 で 計 算 さ れ る EPID 上 で 予 想 さ れ る フ ル エ ン ス 分 布 . predicted image は 治 療 計画時の吸収線量計算に使用される計算アルゴリズムとは異なる計算アルゴリズムで算 出されるため,吸収線量分布の計算精度の検証は行えない. 12. RGB 光 の 三 原 色 で , 赤 ( Red), 緑 ( Green), 青 ( Blue) の 頭 文 字 で あ る . 三 原 色 を 全 て 足 す と 白色となる.現在では白色光を用いたスキャナが多く,読取時には色分解方式によって RGB の 各 成 分 を 抽 出 す る こ と が 可 能 で あ る . 13. SMLC 方 式 , segmental MLC IMRT technique IMRT 照 射 技 術 の 1 つ .MLC で 形 成 さ れ る そ れ ぞ れ の 照 射 野 で ,MLC が 停 止 し た 状 態 で 照 射 を 繰 り 返 し ,線 量 分 布 を 積 み 重 ね て い く こ と に よ り 強 度 変 調 を 行 う 方 法 を 指 す .MLC が 駆 動 し て 止 ま り ( step or stop), 止 ま っ て い る 間 に 照 射 ( shoot) す る 動 作 を 繰 り 返 す こ と か ら , step and shoot 法 も し く は stop and shoot 法 と も 呼 ば れ て い る . 14. tongue and groove( 効 果 ) MLC の 側 面 を 凹 凸 の 形 状 ( tongue and groove) に す る こ と に よ っ て 隣 り 合 っ た リ ー フ を 重 ね 合 わ せ ,リ ー フ 間 か ら の 漏 え い 線 を 低 減 さ せ る 構 造 .リ ー フ の 移 動 パ タ ー ン に よ っ て は , こ の 構 造 に 起 因 し て 線 量 が 低 下 す る 現 象 ( tongue and groove 効 果 ) が 起 き る . 15. 95%信 頼 水 準 , 95% confidence level あ る 母 集 団 を 形 成 す る デ ー タ の 総 数 の 95%が 存 在 す る 範 囲 を 指 す .区 間 推 定 で は 母 平 均 が 存在すると考えられる範囲として定義されるが,本書では前者の意味として使用する. 16. 色 再 現 性 , color reproduction ス キ ャ ナ が 入 力 さ れ る 元 画 像 の 色 を 再 現 で き る 能 力 .階 調 度 を 高 く 設 定 し て も 色 再 現 性 が 低ければ,実際の階調度は低くなる. 17. 介 入 レ ベ ル , action level 誤 差 も し く は 差 と し て 容 認 で き な い 水 準 を 指 す .そ の 範 囲 を 超 え た 場 合 ,直 ち に 是 正 の た めの作業を必要とする. 18. 各 門 検 証 , each beam verification 臨 床 プ ラ ン を ガ ン ト リ 角 度 0 度 に 変 更 し 門 毎 に 行 う 線 量 検 証 を 指 す .線 量 計 に 適 し た 線 量 域 に す る た め に MU 値 の 調 整 や コ リ メ ー タ 角 度 を 0 度 に す る 場 合 も あ る . 203 19. ガ ン マ 解 析 , gamma evaluation method 線 量 評 価 法 の 一 つ .評 価 用 の 線 量 分 布 上 に お い て ,評 価 点 を 中 心 と し た 設 定 範 囲 内 で ,dose difference と DTA を 複 合 し た 指 標 ( ガ ン マ 値 ) を 計 算 し , 計 算 し た 全 て の ガ ン マ 値 の 最 小 値 を 指 標 と し て 評 価 を 行 う 方 法 .dose difference と DTA に 判 定 基 準 を 設 定 す る こ と が で き , 一 般 的 に 3% dose difference / 3 mm DTA が 用 い ら れ て い る . 20. ガ ン マ ヒ ス ト グ ラ ム , gamma histogram 横 軸 を ガ ン マ 値 ,縦 軸 を 度 数 で 表 わ し ,各 算 出 点 で の ガ ン マ 値 を ヒ ス ト グ ラ ム 形 式 に 表 示 さ せ る 方 法 を 呼 ぶ .微 分 形 式 と 積 分 形 式 が あ り ,全 体 の 傾 向 を 把 握 す る 場 合 や 統 計 的 な 解 析を行う場合に利用される. 21. 基 準 条 件 , reference condition 吸収線量を評価するための測定条件を指す.標準測定法における高エネルギー光子線の基 準 条 件 は , 照 射 野 10 cm × 10 cm で 測 定 深 は 水 中 10 cm で あ る . 22. 基 準 媒 質 , reference medium 吸 収 線 量 を 評 価 す る 際 に 基 準 と な る 媒 質 を 指 す .標 準 測 定 法 に お け る 吸 収 線 量 測 定 の 基 準 媒質は水である. 23. 吸 収 線 量 , absorbed dose; D, D w [Gy] 本報告における吸収線量は特記しない限り水吸収線量を指す. 24. 許 容 レ ベ ル , tolerance level 誤 差 も し く は 偏 差 と し て 容 認 で き る 水 準 を 指 す .そ の 範 囲 を 超 え る と ,是 正 の た め の 作 業 が必要となる場合がある. 25. 空 間 分 解 能 ( 解 像 度 ) , spatial resolution ど こ ま で 細 か い も の が 識 別 で き る か を 表 す 指 標 .デ ジ タ ル 画 像 の 場 合 ,空 間 分 解 能 は 表 現 す る 格 子 の 細 か さ に 依 存 し , dpi( dots per inch) や ppi( pixels per inch) で 表 さ れ る . 26. 偶 然 誤 差 , random error 繰 り 返 し 性 の あ る 計 測 を 行 っ た 時 ,測 定 の 不 確 か さ な ど に よ り ,測 定 の 度 に 結 果 が 異 な る 原因となる誤差.複数回の計測における偏位や変動のバラつき(標準偏差)に相当する. 27. 計 画 線 量 , planed dose 検 証 プ ラ ン に お け る 評 価 点 ま た は 評 価 断 面 の 水 吸 収 線 量 ( 分 布 ). 28. 系 統 誤 差 , systematic error ある測定を,同じ方法を用いて複数回実施した時に,真の値に対してある傾向を持って計 測される誤差のこと.複数回の計測における偏位や変動の平均値に相当する. 204 付録 2 用語集 29. 検 証 プ ラ ン , verification plan 臨床プランをファントムに移しこみ,再計算したプランを指す. 30. 光 学 濃 度 , optical density; OD フィルムの黒化度または濃度を表し,次式で算出できる. OD = -log T = log I/I 0 こ こ で , T は フ ィ ル ム の 光 の 透 過 度 , I0 お よ び I は そ れ ぞ れ 入 射 光 の 強 度 と フ ィ ル ム 透 過 後 の 光 の 強 度 を 示 す .OD に は 未 照 射 フ ィ ル ム の 濃 度 を 減 算 し た 正 味 の 光 学 濃 度( net OD) が用いられる事が多い. 31. 合 格 率 , pass rate 線量検証において, 全評価点に対する判定基準を満たす評価点の割合. 32. 合 成 標 準 不 確 か さ , combined standard uncertainty 1 つの系が複数の段階に分かれて構成されている時,その系全体の標準不確かさを合成標 準 不 確 か さ と 呼 び ,各 段 階 の 標 準 不 確 か さ の 二 乗 和 の 平 方 根 と し て 表 す .各 段 階 の 標 準 不 確 か さ を u( i i = 1, 2, 3, …, n)と す る と ,そ の 系 の 合 成 標 準 不 確 か さ u c は 次 式 で 表 さ れ る . u c = u1 + u 2 + u 3 + + u n = 2 2 2 2 n ∑u i =1 2 i 33. 光 電 効 果 に 対 す る 実 効 原 子 番 号 , effective atomic number 化 合 物 や 混 合 物 の よ う に ,複 数 の 原 子 が 含 ま れ た 物 質 に 対 す る 光 子 の 減 弱 特 性 と ,同 一 の 減弱特性となるような原子の原子番号を指す. 光電効果に対する実効原子番号 Z1は,次式で与えられる. Z1 = m ∑aZ i m i こ こ で , ai は , 全 体 の 電 子 数 に 対 す る i 番 目 原 子 Zi の 電 子 数 の 割 合 で あ る . m は 係 数 で , m = 2.94 が 用 い ら れ て い る が , 近 年 の 研 究 か ら よ り 大 き い 値 m = 3.5 が 提 案 さ れ て い る . 34. 固 体 フ ァ ン ト ム , solid phantom 放 射 線 計 測 に お い て 水 の 代 わ り に 使 用 さ れ る 固 体 の フ ァ ン ト ム を 指 す .固 体 フ ァ ン ト ム は , 水 代 用 フ ァ ン ト ム と , PMMA な ど の プ ラ ス チ ッ ク フ ァ ン ト ム に 分 け ら れ る . 水 代 用 フ ァ ン トムは水等価ファントムとも呼ばれる. 35. 残 像 , ghosting 照射後に検出器に信号が残る現象を指す. 36. シ ー ト フ ェ ッ ド ス キ ャ ナ , sheet fed scanner 走 査 方 式 の 一 つ で ,リ ニ ア セ ン サ を 固 定 し て フ ィ ル ム を 移 動 さ せ な が ら イ メ ー ジ を 読 み 取 205 る方式のスキャナ. 37. 主 走 査 方 向 , horizontal scanning direction スキャナにおいてリニアセンサが配置されている方向. 38. セ グ メ ン ト , segment セ グ メ ン ト と は ,何 か を 分 割 し た う ち の 一 つ の 部 分 と い う 意 味 で ,SMLC 方 式( 用 語 集 13 参照)において,強度変調分布を形成するための小照射野の集まりの中の一つを指す. 39. 線 源 検 出 器 間 距 離 , source to detector distance; SDD タ ー ゲ ッ ト か ら 検 出 器 の 実 効 中 心 ま で の 距 離 . 本 報 告 で は 主 に EPID の 実 効 中 心 ま で の 距 離をさす. 40. 全 門 検 証 , composite beam verification 臨 床 プ ラ ン と 同 一 の 照 射 条 件 で 行 う 線 量 検 証 を 指 す .線 量 計 に 適 し た 線 量 域 に す る た め に MU 値 を 調 整 す る 場 合 も あ る . 41. 線 量 検 証 , dose verification 立 案 さ れ た 治 療 計 画 が ,実 際 の 照 射 で 再 現 さ れ る こ と を 定 量 的 に 確 認 す る 作 業 .こ れ は 同 一 の 照 射 条 件 に お い て ,計 画 線 量 と 測 定 線 量 を 比 較 す る こ と で 実 施 さ れ る .評 価 点 線 量 検 証と線量分布検証で構成される. 42. 線 量 上 昇 効 果 , post-exposure density growth 照射後,フィルム濃度が一定の期間増加する現象.ラジオクロミックフィルムで顕著であ る が , ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム の EDR2 で も 生 じ る . 43. 線 量 分 布 検 証 , two-dimensional dose verification 立案された治療計画における線量分布が,実際の照射で再現されることを確認する作業. 44. 相 対 差 , relative difference 2 つ の 数 ( a, b) に つ い て a を 基 準 と す る 場 合 , 相 対 差 ( %) は (b-a)/a×100 で 表 さ れ る . 45. 相 反 則 不 軌 , reciprocity law failure ま た は Schwarzschild effect 照射線量率と照射時間の積である照射線量が一定であっても,照射時間を大きく変化させ た場合にフィルム濃度が一定とならない現象. 46. 測 定 深 , measurement depth 線 量 測 定 を 実 施 す る 深 さ を 指 し , 放 射 線 計 測 に お い て は cm の 単 位 が 使 用 さ れ る . 206 付録 2 用語集 47. 測 定 線 量 , measured dose 検 証 プ ラ ン と 同 一 の 照 射 条 件 で 測 定 さ れ る 水 吸 収 線 量 ( 分 布 ). 48. 体 積 平 均 効 果 , volume averaging effect 線 量 の 変 化 が 急 峻 な 領 域 で 測 定 を 行 う 場 合 ,測 定 器 の 有 感 体 積 が 測 定 値 に 影 響 を 及 ぼ す 現 象 .測 定 器 の 有 感 体 積 が 大 き い ほ ど 線 量 の 変 化 を 平 均 化 す る 為 ,線 量 を 点 で 評 価 す る の で な く ,電 離 箱 線 量 計 の 電 離 空 洞 と 同 体 積 の 水 の 平 均 吸 収 線 量( 体 積 平 均 線 量 )で 評 価 す る 場合もある. 49. ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ , dynamic range 広 義 で は 機 器 が 正 し く 再 現 で き る 信 号 の 範 囲 を 言 う .フ ィ ル ム ド ジ メ ト リ に お け る ダ イ ナ ミックレンジは,最大濃度からベースとかぶりの濃度を減算した濃度範囲を指す. 50. 電 子 に 対 す る 平 均 原 子 番 号 , average atomic number ICRU Report 35 で は 混 合 物 質 に お け る 電 子 に 対 す る 平 均 原 子 番 号 Z 2 を 次 式 の よ う に 定 義 している. ∑( p Z = ∑( p Z i Z2 2 i i i / Ai ) / Ai ) こ こ で , pi は i 番 目 の 原 子 Zi の 重 量 比 , Ai は 原 子 Zi の 原 子 量 で あ る . 51. 電 子 濃 度 , electron concentration; ρ e* [elec/cm 3 ] 単 位 体 積 当 り の 電 子 数 を 指 す . 電 子 濃 度 ρ e* は 物 質 の 密 度 が ρ ( g/cm 3 ) の 時 , 次 式 の よ う に電子密度と密度の積で表される. ρ e* = ρ ρ e 52. 電 子 密 度 , electron density; ρ e [elec/g] Z ,質量数 A の元素によって構成され, そ れ ぞ れ の 元 素 の 重 量 比 w が 既 知 の 時 , 電 子 密 度 ρe は 次 式 で 計 算 で き る . N w Z ρe = ∑ A i i Ai i 単位質量当たりの電子数を指す.物質が原子番号 ここで, NA は ア ボ ガ ド ロ定 数 で あ る . 53. 特 性 曲 線 , characteristic curve( 濃 度 -線 量 変 換 テ ー ブ ル , density to dose conversion table) フ ィ ル ム へ の 投 与 線 量 と 濃 度 と の 関 係 を 表 す 曲 線 .フ ィ ル ム 濃 度 か ら 線 量 へ 変 換 す る た め に用いる. 54. 独 立 検 証 シ ス テ ム , independent dose verification system 臨 床 に 使 用 す る 治 療 計 画 装 置 と は 別 系 統 で 線 量 検 証 が 可 能 な 計 算 シ ス テ ム .従 来 用 い ら れ て い た 測 定 デ ー タ に 基 づ く シ ス テ ム の 他 に ,Pencil Beam 法 や モ ン テ カ ル ロ 法 な ど の 計 算 ア 207 ルゴリズムを有するシステムがある. 55. 濃 度 分 解 能 , density resolution ど こ ま で 濃 度 差 を 細 か く 識 別 で き る か を 表 す 指 標 .ス キ ャ ナ 等 を 用 い た フ ィ ル ム 解 析 系 に おいては階調度と色再現性によって得られる全体の分解能を指す. 56. 判 定 基 準 , criterion 線量検証の結果の合否を判定するための基準値のこと. 57. 評 価 点 線 量 検 証 , specific point dose verification 立 案 さ れ た 治 療 計 画 に お け る 評 価 点 で の 吸 収 線 量 が ,実 際 の 照 射 で 再 現 さ れ る こ と を 確 認 する作業. 58. 標 準 不 確 か さ , standard uncertainty 不確かさを標準偏差の形で表したもの. 59. 品 質 管 理 , quality control; QC 現 状 の 品 質 を 測 定 ,基 準 と 比 較 す る プ ロ セ ス お よ び 基 準 を 達 成 す る た め に 必 要 な 品 質 維 持 活動および調整活動. 60. 品 質 保 証 , quality assurance; QA 製 品 や サ ー ビ ス が ,必 要 と さ れ る 品 質 を 満 足 す る と い う 確 か な 信 頼 を 提 供 す る た め に 計 画 さ れ た ,体 系 立 て ら れ た 活 動 .放 射 線 治 療 に 拡 張 し て 考 え る と ,タ ー ゲ ッ ト へ の 適 切 な 投 与 処 方 ,正 常 組 織 や 個 人 へ の 最 小 の 放 射 線 曝 露 ,治 療 効 果 判 定 の た め の 患 者 の 監 視 と い っ た,適切な医学的処方および安全の遂行を確実にする,全ての活動と定義される. 61. フ ィ ル ム ド ジ メ ト リ , film dosimetry 照射した線量とフィルム濃度の相関関係を利用して線量測定を行う方法.線量分布や幾何 学的精度の検証に用いられる. 62. 深 さ ス ケ ー リ ン グ 係 数 , depth scaling factor; C p l 固 体 フ ァ ン ト ム の 測 定 深 ( cm) を , 水 中 で の 測 定 深 ( cm) に 変 換 す る た め の 係 数 63. 不 感 時 間 , dead time 検出器が信号を検出してから,次の信号を検出可能になるまでの時間.不感時間の間は信 号を検出することができない. 64. 副 走 査 方 向 , vertical scanning direction 主走査方向と垂直な方向. 208 付録 2 用語集 65. 不 確 か さ , uncertainty 測 定 の 結 果 に 附 随 し た ,合 理 的 に 測 定 量 に 結 び 付 け ら れ 得 る 値 の ば ら つ き を 特 徴 づ け る パ ラ メ ー タ . す な わ ち ,「 誤 差 」 が 「 真 の 値 」 か ら の 測 定 線 量 の ず れ を 示 す も の で あ る の に 対 し ,「 不 確 か さ 」 は , 測 定 線 量 か ら ど の 程 度 の ば ら つ き の 範 囲 内 に 「 真 の 値 」 が あ る か を示すものである.不確かさには,統計解析によってその特性を評価できる「A タイプ」 の不確かさと,統計解析以外の手法により評価する「B タイプ」の不確かさがある. 66. フ ラ ッ ト ベ ッ ド ス キ ャ ナ , flat bed scanner 読 取 部 が 平 面 状 に な っ て お り ,そ の 上 に フ ィ ル ム を 設 置 し て ,読 み 取 り 作 業 を 行 う ス キ ャ ナ .読 み 取 る 原 稿 が 移 動 す る こ と に よ り 全 体 を ス キ ャ ン す る も の と ,原 稿 は 移 動 せ ず に 直 線上にセンサが配列されたカートリッジが副走査方向に移動してスキャンを行うものと がある. 67. フ ル エ ン ス ス ケ ー リ ン グ 係 数 ( 電 離 量 変 換 係 数 ) , fluence scaling factor; h pl 固体ファントム中での電離量を水中における電離量に変換し,間接的に水吸収線量を評価 するための係数.フルエンススケーリング係数は,水中の基準深と固体ファントム中の水 等価基準深での電離量比で決定される. 68. 水 等 価 深 , water equivalent depth 水以外の媒質で測定を行う場合,水と吸収・散乱が等価になる深さを指す. 69. 密 度 , density; ρ 単 位 体 積 あ た り の 質 量 を 指 す .放 射 線 計 測 に お い て は( g/cm 3 )の 単 位 が 使 用 さ れ る .ま た , 密 度 の 影 響 を 除 い て 長 さ を 評 価 す る 場 合 は , 密 度 ( g/cm 3 ) に 長 さ ( cm) を 乗 じ た 面 積 密 度 ( g/cm 2 ) が 用 い ら れ る . 70. モ ン テ カ ル ロ 法 , Monte Carlo method 事 象 の 発 生 が あ る 確 率 分 布 に 従 っ て い る も の と し て ,乱 数 を 用 い た シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て 数 値 解 を 求 め る 計 算 手 法 .放 射 線 物 理 で は モ ン テ カ ル ロ 法 に よ り ,粒 子 の 散 乱 や 吸 収 と い っ た 相 互 作 用 を そ れ ぞ れ の 確 率 分 布 に 基 づ い て 乱 数 で 決 定 し ,粒 子 を 追 跡 し て ,物 質 内での線量分布などを取得する. 71. 有 感 層 , active layer ラジオクロミックフィルムの構成層の中でラジオクロミック反応によって変色をする層 のこと.ラジオクロミック反応物質が充填されている. 72. ラ ジ オ グ ラ フ ィ ッ ク フ ィ ル ム , radiographic film; RGF 放射線によるハロゲン化銀粒子の感光作用を利用した,現像処理が必要なフィルム. 209 73. ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク 現 象 , radiochromic phenomenon 無 色 透 明 の 放 射 線 感 受 性 単 量 体 が ,放 射 線 の 電 離 作 用 に よ っ て 重 合 体 構 造 と な り ,青 色 に 染色する現象. 74. ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク フ ィ ル ム , radiochromic film; RCF ラ ジ オ ク ロ ミ ッ ク 反 応 を 用 い た 現 像 処 理 を 必 要 と し な い フ ィ ル ム .透 過 型 フ ィ ル ム( EBT2 な ど ) と 反 射 型 フ ィ ル ム ( RT-QA2 な ど ) に 分 類 さ れ る . 75. 臨 床 プ ラ ン , clinical plan 患 者 の CT デ ー タ を 用 い て 立 案 さ れ た 治 療 計 画 を 指 す . 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