イスラム教 ― 本音と建前 エジプトを旅して、改めてイスラム教の現実の姿を見る思いがした。エジプトの人口 は約7、000万人で、その90%がイスラム教徒であるという。残りの大半はキリスト 教徒であるとのこと。従って、国家の運営は、他の中東諸国と同様イスラム教により仕切 られている。 イスラム教の戒律は厳しく、豚肉とお酒が禁じられていることはよく知られている。 ホテルにはバーもないし、客室のミニバーにもお酒は置いてない。カイロの街並に酒屋 さんは見当たらない。カイロ空港のデューティーフリーにもワインは置いてない。 イスラム教徒は、1日5回の礼拝が義務付けられている。夜明け、正午、午後、日没、夜 半の5回である。時刻になるとモスクの塔(ミナレット)の大音量のスピーカーから、 聖職者からの呼びかけ(アザーン)が町中に流れてくる。場所によっては、アザーンが、 右から左から、又はあちらこちらから同時に聞こえてくることがあった。イスラム教徒 は、近くのモスクに出向き礼拝を行う。モスクに出向くことの出来ない場合には、屋内の 礼拝所で聖地メッカの方向を向き礼拝を行う。屋外の場合は、ゴザのようなものを地面 に敷き、その上で礼拝をしているのを滞在中見かけている。ところが、こうした礼拝は全 てのイスラム教徒が行っているわけではない。自分の周辺で礼拝をしているのを見かけ ても、そのまま見過ごしている人が多い。むしろこうしたイスラム教徒の方が多数派な のだ。現地ガイドのハマちゃんも、エジプト滞在中一度も礼拝をしているのを見かける ことはなかった。そのハマちゃんが、旅行中、そっと私につぶやいたことがあった。 「Kさん、ここだけの話ですが、日本で仕事をしていた時、アサヒスーパードライを毎 日飲んでいました。」 エジプトに於けるイスラム教は国教的な地位にあり、その規律により国が運営され、 国民がそれに従っているのは疑う余地はない。しかしながら、イスラム教の5つの柱 (五行) 1 アラーの他に神がないという信仰告白(シャハーダ) 2 1日5回の礼拝(サラート) 3 恵まれない人への喜捨(ザカート) 4 ラマダーン月の断食(サウム) 5 メッカへの巡礼(ヘッジ) が決められているが、その中の1つである礼拝が、現実にはゆるやかな対応になって いるのを見ると、日本的に言うと本音と建前を感じた。エジプトは、中東諸国のリーダー 格であるので、宗教面でも優等生国家であると思っていた私には驚きであった。 勿論、聖職者以外にも敬けんなイスラム教徒がいることも事実である。カイロで宿泊 していたラムセス・ヒルトンホテルで、額に黒いアザのようになった「お祈りダコ」を付 けているイスラム教徒の従業員を何人も見かけている。 「お祈りダコ」のイスラム教徒の 従業員は、恐らくモスク又はホテル内に設けられている礼拝所で毎日、熱心に礼拝をし ている正真証明のイスラム教信者である。 10 先年、トルコを旅行したが、トルコもイスラム教国家である。トルコが最もゆるやかな イスラム教であることは自他共に認めている。礼拝の現実、西欧化した女性の服装など を視て驚いたが、エジプトの現実もこれに近いものがある。こうしたエジプトの本音と 建前は、今後益々乖離していくのであろう。 11
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