スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度について

JAIS
論文
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
津田 守
(大阪大学)
T
his paper examines the backgrounds and characteristics of the publicly
certified Translators and/or Interpreters in Sweden, based on the fieldwork
done under the commission of Japan’s Ministry of Justice. A Swedish government
institution, called Kammarkollegiet, since 1994 has been conducting the first level
“Certified Interpreters” exam in selected languages, and for those who have alreday
passed the first level, the examinations are held for “Certified Court Interpreters”
and “Certified Medical Interpreters.” On translation, the examinations are in two
folds, one from Swedish to a foreign language, and another from a foreign language
to Swedish. In 1996, the Kammarkollegiet also issued “God tolksed” (i.e.,
guidelines for good interpreting practice) for the practitioners. Sweden would give
important lessons for Japan, in case the latter considers the introduction of a
certification system in order to guarantee the quality of professional interpreters
and translators for the public interests.
背景
スウェーデン王国における通訳・翻訳役務は平等、選択の自由、共生といった
移民政策の目的として始まった。今日に至るまで、刑法および(刑事)訴訟法、
行政手続法、国家公務員法などのもとで、スウェーデン語を解しない者には誰で
あろうと通訳を依頼することを権利として保障している。
通訳人を付けることは権利であると社会的にも広く認識されている。刑事事件
に お い て は 、警 察 の 取 調 べ や 裁 判 所 の 公 判 で 通 常 、通 訳 人 が 使 わ れ て い る 。ま た 、
裁判官が証拠として重要であると判断した場合には、翻訳人による書面の翻訳も
行われている。
TSUDA Mamoru, “A Study of the Public Certification System for Interpreters and Translators
in Sweden.” Interpretation Studies, No. 7, December 2007, Pages 167-187.
(c) 2007 by the Japan Association for Interpretation Studies
『通訳研究』第 7 号 (2007)
民亊事件では、通訳人の費用は保険あるいは法律扶助制度でまかなえるように
なっている。
スウェーデンには通訳人・翻訳人に関する公認制度および養成機関が存在して
い る 。 認 定 機 関 で あ る カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト ( Kammarkollegiet) が 行 う 通 訳 人 認
定制度について、歴史的背景にも触れながら説明してみよう。
カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト ( 英 語 の 通 称 は The Legal, Financial and Administrative
Services Agency、邦 訳 は 国 家 法 務・財 務・行 政 サ ー ビ ス 庁 )は 1539 年 、グ ス タ ー
フ・ヴァーサ国王によって税の徴収や公共の会計を扱う機関として設立された。
現在では近代的組織として、おもに法務、財務、行政を専門として幅広い領域で
活動を行っており、その業務範囲は通訳人および翻訳人の認定、旅行保険業務認
可、税金免除措置、婚姻を司る資格者の指名などにまで及んでいる。
ス ウ ェ ー デ ン 政 府 の 関 わ る 通 訳 の 歴 史 は 1940 年 代 に 遡 る 。ロ シ ア 人 の 捕 虜 を 取
り調べる諜報将校が通訳人を必要としたのが始まりだとされている。これらは戦
争 捕 虜 を 対 象 と し た 通 訳 だ っ た の で 、通 訳 人 の 中 立 性 は 問 わ れ る こ と は な か っ た 。
第 2 次 大 戦 後 、最 も 初 期 に ス ウ ェ ー デ ン に 移 住 し て き た 労 働 者 は イ タ リ ア か ら で 、
当時はすでにスウェーデンに移住していてスウェーデン語を習得したイタリア系
の人々が、通訳や翻訳に携わった。すぐ隣国のフィンランドから労働移民が圧倒
的多数であったのも特徴で、その場合にはフィンランド語の通訳者は比較的容易
に見つかった。
1970 年 代 に は 、ス ウ ェ ー デ ン が 移 民 社 会 に な っ て い る こ と が 認 識 さ れ る よ う に
な っ て き た 。1976 年 、ス ウ ェ ー デ ン 政 府 は 、ス ウ ェ ー デ ン 語 を 解 し な い 新 来 移 民
に対し、行政・司法の各方面で移民とのコミュニケーションを図っていくため、
通訳人および翻訳人を国家試験により公認していく制度を打ち立てることを決め
たのである。そして運用実施機関として商務委員会を選んだ。
そ の 後 、商 務 委 員 会 か ら 貿 易 に 関 す る こ と 以 外 の 業 務 を 除 く た め 、1994 年 に 通
訳人および翻訳人についての事項はカンマルコレギェットに移行されることとな
っ た 。1994 年 9 月 29 日 、
「 カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト 通 訳 人 規 則 」が 定 め ら れ 、試 験
方法や証明書といった、いわばハード面が整備されたわけである。
カンマルコレギェットでは、第 1 年目には「公認通訳人」のみについての認定
試験をフィンランド語、スペイン語、ユーゴスラビア語、アラビア語、イタリア
語などの言語で実施した。
第 2 年目からは「法廷通訳人」と「医療サービス通訳人」という 2 種類の専門
的エキスパートとして「特別資格通訳人」認定試験が実施されることになった。
このふたつの試験の受験資格はすでに、
「 公 認 通 訳 人 」で あ る こ と で あ っ た 。こ れ
らとは別に、翻訳に関する資格試験も導入された。
通訳はスウェーデン語と「対象言語」との間の双方向についての資質が問われ
168
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
る が 、翻 訳 は 高 度 な 技 術 が 要 求 さ れ 、し か も 多 く の 需 要 が あ っ た た め 、
「スウェー
デン語へ」の翻訳に関する資格と「スウェーデン語から」の翻訳に関する資格の
2 種類が用意されている。
1996 年 に は 、そ れ ま で に 設 立 さ れ て い た 通 訳 人 や 翻 訳 人 の 職 業 団 体 等 と の 協 議
を 経 て 、 カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト は 「 通 訳 人 慣 習 法 ( God tolksed = 文 字 通 り は <良
い 通 訳 業 務 の あ り 方 >)」 と い う ガ イ ド ラ イ ン を 全 面 的 に 改 訂 し た 。 そ こ で は 会 通
訳とは違い、さまざまな機関やコミュニティで働くことが多いという状況を想定
して、通訳人がするべきことやしてはいけないことが細かく規定されているので
あ る 。( 文 末 に 【 資 料 】 と し て 示 す 。)
公認翻訳人と公認通訳人の認定試験
現在、カンマルコレギェットが実施する認定試験は 5 種類ある。図 1 に示すよ
うに、大きく分けると翻訳に関わる資格認定が 2 種類、通訳に関する資格認定が
2 段階の 3 種類である。
図 1
公認資格概略
翻訳に関わる資格認定では、既述のようにスウェーデン語からと、スウェーデ
ン語へとの両方向で、別々に能力を認定する。ということは、すべての認定翻訳
人が両方向で資格を持つわけではない。ここでの翻訳とは行政、司法、医療等の
169
『通訳研究』第 7 号 (2007)
領域における公式文書翻訳を念頭においている。であるから、これらの翻訳者認
定試験は一般的な言い方をすれば、通訳者認定試験よりも高度ないしは難解であ
るとされている。
スウェーデンでは外国語で記載された書類の手続きには必ず認定翻訳人に翻訳
してもらうか、あるいは認定されていない翻訳人が行った翻訳であれば、認定翻
訳人の認証印でもって法的に有効にしてもらわなければならない。
次に通訳人に関してだが、カンマルコレギェットの通訳人認定には全般的な領
域で業務を行う「公認通訳人」がある。そして「公認通訳人」の有資格者がさら
に特別資格認定試験に合格して与えられる「法廷通訳人」認定、そして「医療サ
ービス通訳人」認定の 3 種類がある。
「公認通訳人」は出入国や移民関係案件を含む行政一般通訳や警察通訳をも含
んでおり、試験ではそれらに見合った問題や実技の課題が与えられる。
公 認 通 訳 人 の 資 格 を 得 て 、さ ら な る 研 鑚 や 経 験 を 積 ん で 一 定 の 条 件 を 満 た す と 、
特別資格認定である「法廷通訳人」あるいは「医療サービス通訳人」認定試験を
受験することができる。これらの試験は高度かつ特別な能力検定と位置付けられ
ているからだ。
ちなみに、スウェーデンでは会議通訳者についての認定はしていない。欧州連
合( EU)が ス ウ ェ ー デ ン 語 と 他 の ヨ ー ロ ッ パ 言 語 と の 間 の 通 訳 に つ い て そ れ ぞ れ
資格認定試験を実施しているからである。
公認通訳人資格と更新制度
この認定は基本的に合格後 5 年間有効で、病気や死亡、一身上の理由、就業の
関係、年齢などのゆえに辞退をする場合等、更新を希望しない人は 1 パーセント
ほどにすぎない。カンマルコレギェットは、有効期限の 3 ヶ月前にひとりひとり
と連絡をとり、5 年間の活動報告を求め、更新を希望するか否か、希望する場合
には連絡先等に変更がないかを確認し、次回の名簿に収録している。更新の申請
用紙にはそれまでの 5 年間にどういう活動(実務)をしたかを報告するようにな
っている。通常、書類審査のみで更新される。
なんらかの問題があってカンマルコレギェットが公認資格を剥奪したり、更新
を拒否したりするケースはほとんど、発生していない。
公認翻訳人通訳人リストが冊子のかたちで毎年、刊行されている。ひとりひと
りの通訳人の公認されている言語名と資格、住所や電話番号等の連絡先などがリ
ストアップされており、登載者には毎年 1 回カンマルコレギェットが電話番号等
連絡先の確認をして新登載者の追加を行なっている。裁判所、警察等が当該外国
語の通訳を依頼するとき、通訳人翻訳人派遣エージェンシーがクライアントに推
薦をするときなどに、この名簿が全国で利用されている。
170
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
公認通訳人の報酬
法廷通訳で言えば、公認通訳人と法廷通訳人のどちらの資格認定を受けている
かで報酬レートを別々に規定している。言語によってはどちらの資格も持ってい
なくとも通訳人を務めなければならないような場合、有資格者の報酬よりも低い
レートが摘要されるようになっている。言語の希少性や需要の有無ではなく、あ
くまでも資格の有無を重要視する考え方の反映である。報酬は、国が定め、年 1
回改定され、全国一律にすべての裁判所で摘要されている。
「公認通訳人」認定試験
公 認 通 訳 人 認 定 試 験 は 、第 1 次 試 験( 筆 記 試 験 )お よ び 第 2 次 試 験( 実 技 試 験 )
を組み合わせたもので、いろいろな言語で実施されている。合格率は公認翻訳人
認 定 試 験 の 約 10 パ ー セ ン ト を 少 々 上 回 る 程 度 で あ る こ と か ら 、決 し て 簡 単 な 試 験
であるとは言えない。第 1 次、第 2 次のどちらの試験においても、実務専門職業
人、すなわち裁判官や医師、すでに認定された通訳人、および行政官がチームを
組んで試験を実施している。
第 1 次試験には、基本的に 3 種類の試験が課される。一般の英語の第 1 次試験
を例にあげてみよう。試験のひとつは英語の単語やフレーズをスウェーデン語に
訳 す と い う 課 題 で 、75 問 あ る 。各 問 3 点 ま で の 点 数 が つ け ら れ 、合 計 225 点 満 点
で 85 パ ー セ ン ト 以 上 の 得 点 で 合 格 と な る 。
も う ひ と つ は 、 ス ウ ェ ー デ ン 語 を 英 語 に 訳 す 試 験 で 、 同 様 に 75 問 、 85 パ ー セ
ント以上の得点が合格基準となっている。
3 番 目 の 行 政 な い し は 法 律 的 な 知 識 を 問 う 25 問 は 、1 問 3 点 で 75 点 満 点 の 記 述
式で、質問、回答ともにスウェーデン語である。その内容の正確さのみならず、
受験者がスウェーデン語を第 1 言語としない者の場合には、スペリングやスウェ
ーデン語の作文能力もそこでチェックできるような仕組みになっている。
第 2 次 試 験( 実 技 試 験 )で は 2 種 類 の 試 験 に 合 格 す る こ と が 必 要 と な っ て い る 。
公認通訳人の場合には法廷と病院以外の場所、つまり警察と検察、移民局、福祉
施設、行政の窓口等での場合が想定されていることから、かなり広範な知識や語
彙が求められるのである。それぞれの分野でのシナリオが用意されており、第 2
次試験受験者は各分野で複数用意されているシナリオなかから無作為に選ばれた
2 種類のシナリオを使った試験を受けるのである。もちろんその両方に合格しな
ければならない。
次に、カンマルコレギェット内で実施され、特別に許可を得た筆者が視察した
公認通訳人認定の第 2 次試験(実技試験)を説明してみよう。
図 2 に 示 す よ う に 、 お よ そ 16 畳 程 度 の 会 議 室 の よ う な 部 屋 の 中 央 に 丸 テ ー ブ
ルが置かれ、試験官 2 名が向かい合って座り、ひとりは警察官役、他方は被疑者
171
『通訳研究』第 7 号 (2007)
役を務める。受験者は、入
室時にこの 2 名の間に座る
ように指示される。丸テー
ブルの後方には長テーブル
があり、さらに 2 名の試験
官が受験者の後ろ姿を見る
形で着席している。
この長テーブルについて
いる 2 名の試験官のうち試
験 官 A は テ ス ト・リ ー ダ ー
と呼ばれ、公認通訳人資格
を有する人物で、大学教授
としてオランダ語学を教え
る と と も に EU の 会 議 通 訳
人でもある。このテスト・
リーダーは他の実技試験に
おいてもテスト・リーダー
を務めているそうだが、そ
れは言語が違っていても、
図 2
通訳人のスタンダード化を
試験室配置図
図るという目的のためだそ
うである。すなわちテスト・リーダーは当該言語の専門家、あるいは通訳人であ
る 必 要 は な く 、今 回 で い え ば 、ア ル バ ニ ア 語 に つ い て は 丸 テ ー ブ ル に い た 2 名 の意
見を聞いて取りまとめる役割を果たしていたのである。
も う 1 名 の 試 験 官 B は カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト の 専 任 ス タ ッ フ で 、本 実 技 試 験 に
おける書記として、試験の録取、試験後には必要部分の再生等の機器操作を行っ
て も い た 。被 疑 者 役 を 務 め た 試 験 官 D は 、ス ウ ェ ー デ ン 語 と ア ル バ ニ ア 語 の 間 の
みならず、さらに 2 つの別の言語でも公認通訳人の認定を受けているベテランで
ある。
今回の第 2 次試験はアルバニア語公認通訳人資格試験で、その日の受験者は 1
年前に同じ第 2 次試験で不合格になったが、今回、再度挑戦していた。不合格の
場合には、最低 1 年間は再受験できないという決まりになっているからである。
実 技 試 験 は 15 分 ほ ど で 終 わ る よ う に 設 定 さ れ て お り 、や り と り が 記 述 さ れ た ス
ウェーデン語のシナリオが事前に 4 名の試験実施官および私に配布されていた。
もちろん受験者にはシナリオは示されないままであった。
シナリオには、例えば今回の警察編では、警察官の発言ないしは問いにひとつ
172
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
ひとつ番号が振ってあり、それに対する被疑者からの返答や発言が印刷されてい
るだけでなく、キーワードなどにはアンダーラインが引かれ、例えば 5 点とか 3
点とかいった配点までもが記されている。これらの試験問題(シナリオ)は、卑
語や俗語も織り交ぜられており、通常、何種類かが用意されている。もちろん、
ときどき改訂もされるとのことである。
試 験 の 実 施 方 法 は 、警 察 官 役 の 試 験 官 C が シ ナ リ オ の 台 詞 を ひ と つ ひ と つ そ の
まま読み上げ、受験者はそれを聞いて、必要に応じてメモを取り、アルバニア語
に訳していく。
他 方 、被 疑 者 役 の 試 験 官 D は ス ウ ェ ー デ ン 語 の シ ナ リ オ を サ イ ト・ト ラ ン ス レ
ーションでアルバニア語に訳し、今度は受験者にスウェーデン語に訳させるとい
う形式であった。
通訳人の後ろに座っていた 2 名の試験官はその間、ボールペンを使いながら細
かく試験問題(シナリオ)を追い、単語ないしは単語表現、キーワードなどシナ
リオのアンダーライン部分を細かくチェックしていた。
受験者がつかえたり、とまどったりした場合も、きちんと時間を計り、一定の
時間を過ぎた場合には、大きく減点されることになっている。つまり、正確性の
みならず、スピードも問われるのである。ということから、試験では所要時間も
厳格に記録されていた。
今回の受験者はやりとりをときどき理解できないことがあったようで、そのた
びごとに発言者に問い返していた。問い返すこと自体は問題ではないにしても、
今 回 の 試 験 に は 通 常 よ り 4 分 間 ほ ど 長 い 時 間 、つ ま り 約 19 分 か か っ た と の こ と で 、
減点の対象となったようである。
受験者が退出した後、ディスク録音した部分から何回か必要な部分を聞きなお
し、4 名それぞれの試験官が採点を行い、各々の採点の累計点を平均して点数化
し て 、成 績 を 出 し た 。こ う い っ た 評 価 採 点 お よ び 協 議 を 試 験 後 30 分 間 か け て 行 な
っていた。
受験後、別室に控えていた受験者が再度、入室し、試験の結果、評価などが伝
えられた。残念ながら、今回の試験結果は再度、不合格であった。
このような実技試験の合格基準は、シナリオのページごとに細かく点数が出さ
れ 、そ れ を 計 算 し て 成 績 を つ け る と い う 方 式 に よ る 90 パ ー セ ン ト 以 上 の 得 点 で あ
り、私はこの実技試験はかなり難しい試験であるとの印象を受けた。
受 験 者 に は 単 に 結 論 を 知 ら せ る だ け で な く 、テ ス ト・リ ー ダ ー ほ か の 試 験 官 が 、
問 題 点 や こ れ か ら の 課 題 を 15 分 ほ ど か け て 受 験 者 に 丁 寧 に 指 摘 し て も い た 。そ れ
でもこの受験者は前回以来 1 年間もの研鑚を重ね、十分に通訳ができるようにな
ったと思っていたようで、結果にはなかなか納得しない様子であった。また、す
でにさまざまな分野で通訳として経験を積んでいることを切々と訴え、いろいろ
173
『通訳研究』第 7 号 (2007)
と 説 明 や 釈 明 を し て い る よ う だ っ た が 、4 名 の 試 験 官 は そ う し た 訴 え に 耳 を 貸 し 、
受験者からの質問にすべて答え、さらに今後の自己研鑽への助言も行なっているよ
うであった。いずれにせよ、評価点が出ているので、結果が変わることはなかった。
試験官たちによれば、今回の不合格の理由は、受験者はアルバニア語を第 1 言
語とする移民であり、通訳自体はかなり上手にできるが、スウェーデン語の正確
性に問題があるだけでなく、スウェーデン語の表現力がやや不足していたという
ことである。また、スウェーデン語での聞き取りに問題はないが、スウェーデン
語に訳すときにその運用能力の不十分さが目立ったようであった。
「法廷通訳人」および「医療サービス通訳人」認定試験
法廷通訳人認定試験の第 1 次(筆記)試験は、ストックホルム、マルモーなど
全 国 4 都 市 で 、3 時 間 に わ た っ て 行 な わ れ て い る 。合 格 基 準 は 、3 種 類 の 試 験 の そ
れ ぞ れ で 80 パ ー セ ン ト の 得 点 と か な り 高 い こ と は こ れ ま で に 述 べ た 。
第 2 次(実技)試験は、第 1 次合格者を対象にストックホルムでのみ 2 時間か
けて行なわれている。法廷通訳人実技試験では模擬裁判を行って通訳人としての
資質を評価されるのだが、ここでは刑事事件と民事事件の 2 つに合格しなければ
な ら な い 。 そ れ ぞ れ に つ い て シ ナ リ オ が 用 意 さ れ て お り 、 お よ そ 150 行 に わ た っ
て細かい採点基準を設定している。
この実技試験では通訳内容と表現と文法の正確さ、発音などが勘案され、合格
基 準 は 90 パ ー セ ン ト と な っ て い る 。模 擬 裁 判 試 験 実 施 に お い て は 、現 役 裁 判 官( フ
ディンゲ地方裁判所とウプサラ地方裁判所の判事)が試験官として参加し、採点
にも加わっている。同様に医療サービス通訳人認定のための実技試験時には、医
学博士や医師を含む試験官チームが実施にあたることとなっている。
通 訳 人 養 成 の 要 と し て の ス ト ッ ク ホ ル ム 大 学 通 訳 翻 訳 学 研 究 所 ( T ÖI )
この研究所は専門的高度職業人としての通訳翻訳者を養成する大学院コースを
開設している。司法通訳関係では、ストックホルム大学法学部の教官に通訳人あ
るいは翻訳人としての法律等の知識を講義してもらう科目を 2 年に 1 度開講して
いる。もちろん、スウェーデン語でスウェーデンの法律や法制度などについて講
義が行なわれるのである。
研究所は、そのような学内コースを運営するだけではなく、全国の成人教育セ
ンターなどで行なわれている司法通訳者トレーニングのカリキュラムを作成した
り、運営の指導的役割を果たすよう政府から依頼されて行なったりしている。全
国 各 地 で ト レ ー ニ ン グ セ ミ ナ ー の 予 定 を 組 み 、カ リ キ ュ ラ ム を 用 意 し 、丸 1 週 間 、
すなわち、月曜日から金曜日までの 5 日間、集中的に通訳人トレーニングを成人
教育として行うのである。
174
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
これらのセミナーへの参加は無料であり、旅費、食事を含めた滞在費用、およ
び 1 週 間 就 業 し な い た め に 失 わ れ る 収 入 分 も す べ て 政 府 が 支 払 い 、補 償 し て い る 。
受講生はテキスト代を含むごくわずかな諸経費のみを負担すればよいことになっ
て い る 。こ の 種 の 集 中 的 ト レ ー ニ ン グ の 定 員 は 12 名 で あ る が 、地 域 な い し は 言 語
に よ っ て は 最 大 20 名 ま で は 受 け 付 け る こ と が あ る そ う だ 。 ま た 、 受 講 生 が 10 名
以下の場合には、そのセミナーは開催されず、不成立となってしまう。
こ の よ う な 制 度 は 1980 年 代 に 入 っ て 整 備 さ れ た の だ が 、そ れ 以 前 は 通 訳 人 派 遣
エージェンシーや地方のコミュニティが独自にセミナーを行なっていたそうであ
る。しかし、資格認定制度の成立と運用に伴い、今日では大学および公的成人教
育機関においてのみ訓練が実施されるようになったのである。認定された経験豊
かな通訳人の中から、講師を務める人々も多くなってきたため、以前のように大
学からそれほど講師を派遣しなくてもよくなったということである。地域と言語
によっては初心者用トレーニングのみならず、より高度なトレーニングコースも
開設されている。
な お 、こ の 研 究 所 は ス ト ッ ク ホ ル ム 大 学 の 外 に 1977 年 に 設 立 さ れ た の だ が 、政
府 の 指 示 の も と 、 1986 年 に ス ト ッ ク ホ ル ム 大 学 の 一 部 と し て 正 式 に 組 み 込 ま れ 、
全国の成人教育のカリキュラムおよび教材等の作成とそれらの運営を担うように
なっている。
学内で通訳翻訳コースを修了した者については、自動的にカンマルコレギェッ
トの「公認通訳人」資格を認定されることになっている。しかし、さらに「法廷
通訳人」あるいは「医療サービス通訳人」の資格を得るためには、カンマルコレ
ギェットにおいて受験をする必要がある。
司法機関における通訳人運用実態―フディンゲ地方裁判所
通訳人の公判準備についてだが、起訴前の資料を通訳人が公判の始まる前に読
ませることはせず、また検察官による冒頭陳述についても事前に渡さないことに
なっている。なぜならば、公判手続きは基本的にすべて口頭でなされるものだか
らである。
要通訳刑事事件の傍聴
ある 1 日の午前中から午後にかけて、3 つの要通訳事件を傍聴する機会があっ
た。それぞれ、裁判官がひとりに参審員 3 人が加わっていた。窃盗、強盗、外国
人法違反(不法再入国)事件で、それぞれペルシャ語とポルトガル語とスペイン
語の法廷通訳人がついていた。
公 判 は す べ て 録 取 さ れ 、マ イ ク ロ フ ォ ン が 裁 判 官 と 参 審 員 3 人 の 座 る 列 に 4 本 、
検察官の座る列(裁判官から見て左側)に 2 本、弁護人、被告人、そして通訳人
175
『通訳研究』第 7 号 (2007)
の 座 る 列 に 2 本 、設 置 さ れ て い た( 計 8 本 )。た だ し 、通 訳 人 は 常 に 被 告 人 の 隣( 裁
判官席からは遠い方)に並んで座り、ほとんどの場合、被告人に直接、同時ささ
やき通訳を行なっていたので、実際には、通訳人が使った外国語の部分について
は録取が完全にはなされていないと思われる。この位置関係は、検察官の脇に要
通訳の被害者が座る場合も同様であった。
さらに、問題であると筆者が感じたのは、要通訳の被告人ないしは被害者が、
裁判官側からすると遠いほうの側にいる通訳人に向かって(すなわち裁判官には
背 を 向 け る 形 で )、し か も 傍 聴 席 に も 聞 こ え な い く ら い 、細 々 と し た 声 で つ ぶ や く
ような発言をすることが多かったということである。
通訳人のスウェーデン語の発言だけは比較的大きな声でなされていたので録取
は十分にできていたと思われるが、裁判官も通訳人も録音機の操作を行なった書
記役(日本で言えば司法修習生にあたる人が務めているそうである)もそういっ
た点について何も気にしていない様子であった。
なお、判決言い渡しがあった公判では、逐次通訳がなされていた。
通訳人翻訳人組織
スウェーデンにも通訳人と翻訳人の組織が存在している。1 例を挙げるなら、
ス ウ ェ ー デ ン 通 訳 人 協 会 で あ り 、ス ウ ェ ー デ ン 語 で の 呼 称 は Sveriges Tolk förbund
( 略 称 STOF) で 、 1975 年 に 設 立 さ れ て い る 。 STOF に は 全 国 に い く つ か の 支 部
が あ り 、そ れ ぞ れ 有 料 で 通 訳 人 訓 練・教 育 を 行 な っ て い る 。STOF の 年 会 費 は 250
SDK( ス ウ ィ ー デ ッ シ ュ ・ ク ロ ー ネ ) で 、 認 定 を 受 け て い る 者 も 受 け て い な い 者
も、誰でも一定の条件を満たせばメンバーになれる。
カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト で 実 施 さ れ て い る 試 験 は 32 言 語 で あ る が 、実 際 に 要 請 の
あ る 通 訳 言 語 は 80 以 上 に の ぼ る と い う 。STOF の 現 在 の 会 員 数 は 約 650 名 で 、そ
の う ち の 約 200 名 が 認 定 を 受 け て お り 、協 会 全 体 と し て は 45 言 語 を カ バ ー し て い
る と の こ と で あ っ た 。認 定 さ れ て い る 言 語 に つ い て 、認 定 者 と 未 認 定 者 が い る が 、
それ以外の言語においては認定がなされていないことから、全員が「非認定者」
という扱いになる。
このような通訳人組織は、専門的職業人の団体として政府や各機関に意見を述
べるという利点があり、他方、通訳人に対しては倫理規定や守秘義務や中立性を
守るように促がし、問題のある場合には会員としての資格を剥奪することもあり
え る の で あ る 。 STOF は 季 刊 ( 年 4 回 ) で ニ ュ ー ス レ タ ー を 発 行 し て い る 。
スウェーデンにおいては、もしスウェーデン語を十分理解しない人が自治体の
窓口や事務所に行くときには、希望すれば通訳人をつけてもらう権利があるのは
最初に書いたとおりである。また、警察、検察庁、裁判所、刑務所などの司法機
関とは別に移民局があり、スウェーデン全体が 4 地域の所轄に分かれており、そ
176
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
れぞれの地域ごとに通訳人が必要となっている。ただ、ストックホルムには通訳
人が集中しているため、地方の場合には通訳人がいない、あるいは足りないこと
が多いそうである。そのため、移民局からの要請に対しては電話通訳で対応せざ
るを得ないケースもあるそうだ。ただ、いずれにしてもスウェーデンには司法、
行 政 を 問 わ ず 、 さ ま ざ ま な 分 野 で の 需 要 が あ り 、 STOF も そ れ ら の 要 請 に 応 え る
べく努力しているようである。
な お 、 公 認 翻 訳 人 に つ い て も ス ウ ェ ー デ ン 公 認 通 訳 人 協 会 ( Föreningen
Auktoriserade Translatorer / The Federation of Authorized Translators in Sweden: FAT)
が 存 在 し て い る 。こ の 協 会 に は 30 言 語 の 翻 訳 者 が 登 録 し て い る 。ま た 、ホ ー ム ペ
ージでは翻訳者の言語(対象言語からスウェーデン語への翻訳かスウェーデン語
か ら 対 象 言 語 へ の 翻 訳 の 別 )、氏 名 、住 所 、電 話 番 号 、携 帯 電 話 番 号 、専 門 分 野 を
公開しており、利用者に活用してもらえるようになっている。
まとめ
スウェーデンの国家認定制度の特徴としては、アメリカの連邦裁判所通訳人試
験のように言語を少数限定して行うのではなく、需要を勘案して柔軟に対応して
いる点が挙げられる。
そして、特定の場面だけでの状況を想定するのではなく、行政面や警察、矯正
施設内での処遇時のコミュニケーション、医療と幅広いサービスを、一定の資質
を持った通訳人に任せようというきめ細やかな対応を考慮している点は評価され
るべきであろう。
認定有効期間が 5 年間というのも一定の資質を持つ通訳人の確保に役立ってい
ると思われる。さらに、リストを定期的に更新することで、いつも即戦力となる
通訳人が確保できるという安心感を依頼する側に与えることにもなっている。通
訳人の資格更新手続に関して言えば、実務実績のみならず、研修会等に出たこと
を報告してフォローアップのトレーニングをした証明書を求めるようにすれば、
なおいっそうの通訳人の資質向上に役立つのではないかと推察する。
また、通訳人が安心して業務に専念できるように報酬体系がきちんと決定され
ているということは、
「 通 訳 」と い う 業 務 が 専 門 的 訓 練 を 経 な け れ ば な ら な い「 職
業」であると国家が認識している証拠である。だからこそ、大学院レベルで通訳
および翻訳の授業が行われ、また各地の成人学級でもその育成に力を注いでいる
のである。
翻 訳 に つ い て も 同 様 で 、双 方 向 の 翻 訳 の 認 定 試 験 で は な く 、
「スウェーデン語か
ら 対 象 言 語 へ 」、そ し て「 対 象 言 語 か ら ス ウ ェ ー デ ン 語 へ 」と い う 2 種 類 の 試 験 が
用意されていることは、かなり翻訳についても研究がなされた結果であろう。公
認翻訳人が日本でいう「公証人」の役割をも果たしていることは一考に価する。
177
『通訳研究』第 7 号 (2007)
日本でも制度化を検討する場合、スウェーデンのように「きめ細やかな通訳・
翻 訳 サ ー ビ ス の 提 供 」、「 柔 軟 な 試 験 制 度 の 運 用 」、「 公 認 通 訳 人 の 資 質 の 維 持 」 の
3 点を考慮するのが望ましいのではないだろうか。
【 註 】 こ の 論 文 は 、 平 成 13 年 度 法 務 省 委 託 研 究 、「 諸 外 国 に お け る 司 法 通 訳 に 関 す る
法 制 度 等 の 調 査 」の 筆 者 提 出 に よ る 報 告 書『 ス ウ ェ ー デ ン に お け る 通 訳 人・翻 訳 人 の
国 家 認 定 制 度 と そ の 運 用 に つ い て : 比 較 司 法 通 訳 研 究 ・ ス ウ ェ ー デ ン 編 』( 平 成 14
年 3 月 、332 頁 )を 元 と し て い る 。今 回 の 掲 載 に 当 た っ て は 同 省 司 法 法 制 部 の 承 諾 を
得ているが、ここにその理解と快諾に対して謝意を表明したい。
な お 、上 記 報 告 書 の 提 出 後 、筆 者 は 下 記 文 献 を 入 手 し た 。同 国 に お け る 刑 事 裁 判 制
度 の 歴 史 的 、社 会 的 背 景 に つ い て 詳 述 さ れ て お り 、本 稿 の た め に も 参 考 に な る 。最 高
裁判所事務総局刑事局監修『陪審・参審制度
ス ウ ェ ー デ ン 編 』 司 法 協 会 、 平 成 14
年 5 月 、 167 頁 ( + 資 料 編 25 頁 )。
筆者紹介: 津田 守 (TSUDA Mamoru)
大阪大学グローバルコラボレーションセンター(同
大学院人間科学研究科兼任)教授。フィリピン語および英語の司法(法廷を含む)通訳人でもあ
る。社会学修士(フィリピン大学,1977 年)。オーストラリア国立大学太平洋学研究スクール
大学院博士課程(政治・社会変動論)中退。専門分野は多文化・多言語社会論、司法通訳翻訳論、
フィリピン社会論、ディアスポラ研究。主編著に『世界の大学・大学院における通訳翻訳の研究
と教育』(研究代表者)大阪外国語大学、2005 年および(続)2007 年、「 司 法 通 訳 翻 訳 」、
「在
日 フ ィ リ ピ ン 人 の 言 語 使 用 」真 田 信 治・庄 司 博 史 編『 事 典
書 店 、 2005 年 などがある。
178
日 本 の 多 言 語 社 会 』岩 波
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
【資 料 】
通訳人慣習法
(スウェーデン語からの邦訳:永森早苗)
公 認 通 訳 人 の た め の ガ イ ド ラ イ ン 1996
[編注:公認通訳人・翻訳人のための倫理規定を含む]
内
容
1.
序文
2.
通訳人の活動
2.1
通訳人翻訳人政令
2.2
カンマルコレギェットの通訳人規則
3.
証拠書類
4.
回避、守秘義務、証言の義務
4.1
回避
4.2
守秘義務
4.3
証言の義務
5.
他の通訳人法律規定の注釈
1.
序文
こ の 指 導 要 綱 は 第 1 に 公 認 通 訳 人 を 対 象 と し て い る 。こ こ に 挙 げ ら れ た 勧 告 は 、通
訳 業 務 を 受 任 す る 他 の 者 に と っ て も 貴 重 で あ る 。こ こ で は お も に 移 民 通 訳 人 の 状 況 が
取 り 扱 わ れ て い る が 、原 則 は 他 の 通 訳 分 野 、例 え ば 手 話 通 訳 人 や 盲 聾 通 訳 人 に も 指 導
的 な 役 割 を 果 た す こ と が で き る 。こ の 記 述 は 、通 訳 人 を 使 う 者 に も 、通 訳 人 が ど の よ
うに働いているかという情報を与えている。
指 導 要 綱 は 原 則 を 中 心 に 形 成 さ れ て い る 。つ ま り 、こ の 記 述 に お い て あ ら ゆ る 難 問
の 回 答 を 見 出 す こ と は で き な い 。問 題 が あ る 場 合 は 、規 則 や 勧 告 の 語 句 を 逐 次 追 う よ
り 、そ の 精 神 に 従 う ほ う が よ い 。多 く の 場 合 、そ れ ぞ れ の ケ ー ス に お け る 状 況 か ら 判
断しなければならない。
国 の 通 訳 人 公 認 に 関 す る 規 定 は 、政 府 に よ っ て 制 定 さ れ た 通 訳 人 と 翻 訳 人 に 関 す る
政 令 ( 1985: 613)、 通 訳 人 翻 訳 人 政 令 の 中 に あ る 。 カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト ( 訳 注 .
Kammarkollegiet: 法 務 省 の 下 に 置 か れ る 中 央 官 庁 ) は 、 通 訳 人 を 公 認 す る 責 任 を 持
ち 、公 認 通 訳 人 の 活 動 を 監 視 す る 官 庁 で あ る 。カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト は 、カ ン マ ル コ
レ ギ ェ ッ ト の 通 訳 人 規 則 ( KAMFS 1994: 1) の 中 で 、 政 令 の 適 用 規 則 を 作 成 し た 。
通訳人に関する規定は、他の幾つかの法令にもある。重要なものは:
179
『通訳研究』第 7 号 (2007)
▪
訴訟法、
▪
行 政 訴 訟 法 ( 1971: 291)、
▪
行 政 法 ( 1986: 223)、
▪
一 定 の 通 訳 人 翻 訳 人 の 守 秘 義 務 法 ( 1975: 689)、
▪
秘 密 法 ( 1980: 100)、
である。
法 律 規 定 は 、第 4 部 、第 5 部 で 、さ ら に 注 釈 が 行 わ れ る 。第 2 部 と 第 3 部 で は 、通
訳人翻訳人政令とカンマルコレギェットの通訳人規則の注釈が行われる。
2.
通訳人の活動
2.1
通訳人翻訳人政令
「 公 認 通 訳 人 又 は 翻 訳 人 は 依 頼 さ れ た 職 務 を 良 心 的 に 遂 行 し 、総 て に お い て 良 い 通
訳人又は翻訳人の慣習を守る。
公 認 通 訳 人 又 は 翻 訳 人 は 、彼 ら の 公 平 性 又 は 独 立 性 へ の 信 頼 を 失 う よ う な 特 別 な 事
情 が あ る 場 合 は 、 職 務 の 遂 行 を 断 わ ら な け れ ば な ら な い 。」
(第 9 条 通訳人翻訳人政令)
「良い通訳人慣習」
第 9 第 1 項 に あ る「 良 い 通 訳 人 慣 習 」と い う 表 現 は 、こ の 分 野 に あ る 規 則 、通 訳 人
の 間 で 発 達 し た 職 業 上 の 慣 習 、カ ン マ ル コ レ ギ ェ ッ ト の 通 訳 人 分 野 で の 監 視 や 発 展 活
動 に よ っ て 作 ら れ た 慣 習 、こ れ ら を 総 合 し た 概 念 で あ る 。良 い 通 訳 人 慣 習 に は 、通 訳
の 場 で 、自 分 自 身 と 通 訳 人 職 業 団 体 へ の 信 頼 を 得 て 、そ れ を 維 持 す る た め に 、各 職 業
通 訳 人 に 対 す る 適 正 な 要 求 が 含 ま れ て い る 。次 の 部 門 で は 、良 い 通 訳 人 慣 習 の 内 容 に
ついて一般的な指導を行う。
公平性
第 9 第 2 は 、通 訳 人 を 使 う 者 が 、公 平 で 独 立 し た 通 訳 人 の 立 場 を 常 に 信 用 で き な け
れ ば な ら な い と 強 調 し て い る 。下 記 に 述 べ る 幾 つ か の 規 則 は 、こ の 信 用 を 維 持 す る た
めに通訳人は何を遵守すべきかを取り扱っている。一般的な回避の規則は、特別に
4.1 で 取 り 扱 わ れ る 。
2.2
カンマルコレギェットの通訳人規則
通訳人の職務に対する適切さ
「 公 認 通 訳 人 は 、職 務 を 受 任 す る 前 に 、又 は 職 務 を 行 う 前 に 、自 分 は そ の 職 務 を 行
う に 適 切 な 人 物 で あ る か を 充 分 に 考 慮 し な け れ ば な ら な い 。通 訳 人 は 、職 務 を 行 う 能
力が十分にない場合、又は他の理由で適切でない場合、職務を断らなければならない。」
(カンマルコレギェットの通訳人規則)
180
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
通 訳 人 は 職 務 を 受 任 す る 前 に 、で き る だ け た く さ ん の 調 査 を し 、通 訳 が 十 分 に 行 え
る 可 能 性 が あ る か を 判 断 す べ き で あ る 。通 訳 人 は ま た 、起 こ り 得 る 回 避 が 最 初 か ら 発
見 で き る よ う に 、で き る だ け 情 報 を 集 め る べ き で あ る 。職 務 の 依 頼 者 に と っ て も 、通
訳人に必要な情報を与えることは重要なことである。
通訳人は、適当な準備の後、通訳ができないと判断した場合、職務を受任すべきでは
ない。通訳人が、通訳中に職務の遂行は困難と分かった場合は、その旨を双方に伝える
べきである。難しさが自分の能力を超える場合は、原則として職務を降りるべきである。
どのように通訳を行うか
「 通訳中、公認通訳人は、総ての情報をできるだけ正確に通訳しなければならない。」
(カンマルコレギェットの通訳人規則)
通 訳 人 の 任 務 と は 、同 じ 言 語 を 話 さ な い 者 の 間 に 立 っ て 会 話 を 可 能 に す る こ と で あ
る 。通 訳 人 は 伝 達 さ れ た 総 て の 情 報 を 、他 方 の 言 語 で 表 現 し な け れ ば な ら な い 。言 わ
れ て い る こ と の 中 で 、何 が 重 要 で あ り 、ま た は 重 要 で な い か の 判 断 は 、通 訳 人 の 任 務
に 含 ま れ な い 。 情 報 伝 達 の 原 則 は 、 “黙 秘 、 追 加 、 変 更 を し な い ” と い う 証 人 宣 誓 の
一節でまとめることができる。
優れた通訳をするためには、伝達事項が、総てのニュアンスとともに、他方の言語で、
できるだけ正確に表現されることが要求される。これは、用語や表現ができるだけ対応
し て 表 現 され る こ と であ る 。 感 情の 表 現 や 、強 調 の 表 現は 、 弱 め ら れ る べ き で は な い 。
通 訳 人 は 、つ い て い け な く な っ た り 、ま た は 情 報 を 落 と し た り す る 危 険 性 が あ る 場
合 、適 切 な や り 方 で 、話 し を 中 断 す る こ と が で き る 。通 訳 人 は 、用 語 を 翻 訳 で き な い
場 合 、別 な 言 い 方 で 表 現 し て も ら う よ う 依 頼 す べ き で あ る 。通 訳 人 が 、通 訳 時 に 、何
か を 間 違 っ て 通 訳 し た り 、ま た は 抜 け て い た と 後 で 気 づ い た り し た 場 合 、そ し て そ れ
が最小限の意味しかもたなくても、双方は直ちにそれを知らされるべきである。
双方のどちらかを無視した議論はすべきではない。通訳人は、聞き違えの時とか、
通 訳 人 自 身 が 表 現 を 理 解 で き な か っ た 場 合 だ け 、答 え た り 質 問 し た り す べ き で 、そ の
時 は 他 方 に 、問 題 と な っ て い る 事 項 を 知 ら せ な け れ ば な ら な い 。明 確 化 、ま た は 確 認
を意味する繰り返しの質問は、もちろん通訳されなければならない。
通 訳 人 は 、通 訳 と は 関 係 の な い 者 か ら の 話 に よ っ て 妨 害 さ れ た り 、中 断 さ せ ら れ た
り す る こ と が あ る 。 通 訳 時 に 、 双 方 の ど ち ら か が 、「 外 部 の 者 」 と 話 し を し 、 そ の 話
題 が 通 訳 の テ - マ に 関 連 し て い る 場 合 は 、話 は 通 訳 人 に よ っ て 通 訳 さ れ る べ き で あ る 。
会 話 が 全 く 別 な 話 題 で あ れ ば 、例 え ば 個 人 的 な 話 題 で あ れ ば 、通 訳 人 は そ の 旨 を 他 方
に 伝 え る だ け で よ い 。「 妨 害 」 す る 者 が 、 ど ち ら の 方 と も 会 話 を せ ず 、 言 わ れ て い る
事柄が明らかに重要でなければ、通訳人はそれを通訳する必要はない。
181
『通訳研究』第 7 号 (2007)
一般的助言
通 訳 人 は 単 語 集 や メ モ 用 紙 等 の 補 助 用 具 を 持 参 す る こ と が で き る 。日 付 、数 字 、名
前 を メ モ し た り 、通 訳 中 に 記 憶 の メ モ を 書 く こ と は 、情 報 が 脱 落 し た り 、間 違 っ て 伝
達 さ れ る 危 険 性 を 減 ら し て い る 。通 訳 終 了 後 、双 方 の 同 席 の も と で 、書 い た メ モ を 破
棄することが適切なこともある。
通 訳 は 高 度 な 集 中 力 を 要 求 し 、骨 が 折 れ る こ と も あ る 。通 訳 人 は 、長 時 間 の 通 訳 の
時 に は 、適 当 な 間 隔 を 置 い て 、短 い 休 憩 が 必 要 で あ る 。し か し 通 訳 人 自 身 が 、一 連 の
発表や説明の最中に、休憩を要求するのは適切ではない。
通 訳 人 が あ ら か じ め 双 方 に 、自 分 の 役 割 に つ い て 伝 え て お く の は 、よ い こ と で あ る 。
例えば次のような情報を伝えておくことができる:
y
双方とも、通訳して欲しくないことは言わない。
y
双方とも、自分の発言を短くし、不必要な専門用語、スラング、職業仲間同
士で使う特異な言葉はさけるよう努力すべきである。
y
双方のどちらかが、1 つの言葉や表現がわからなかった場合、その方自身が、
通訳を通して、他方に説明を依頼する。
y
双方とも、通訳人ではなく、お互いに対して話しをする。
y
通訳人は、言われたことは第 1 人称(私は、のタイプ)で表現する。
y
通訳人は中立であり、通訳の場で誰かの味方をしない。
y
通訳人は守秘義務の規則を守る。
中立性と公平性
「 公 認 通 訳 人 は 、通 訳 の 職 務 を 遂 行 す る 時 、自 分 の 意 見 や 価 値 観 を 述 べ た り 、そ れ
ら が 他 の 方 法 で 通 訳 に 影 響 を 与 え た り し て は な ら な い 。」
(カンマルコレギェットの通訳人規則)
通 訳 人 を 使 う 者 は 、通 訳 人 は ど ち ら か 一 方 の 味 方 を し な い 、ま た は 不 当 な 取 り 扱 い
を し な い と い う こ と を 、信 用 で き な け れ ば な ら な い 。双 方 か ら こ の よ う な 信 用 を 得 る
た め の 1 つ の 前 提 条 件 は 、通 訳 人 は 、通 訳 が 関 連 す る 問 題 に つ い て 中 立 を 保 つ こ と で
あ る 。従 っ て 、通 訳 人 は 、職 務 を 行 っ て い る 時 は 、争 点 に つ い て 自 分 の 考 え を 述 べ て
は い け な い 。こ の こ と は 、通 訳 人 が 職 務 を 受 け た 時 か ら 職 務 を 終 え る ま で 、あ ら ゆ る
時 点 で い え る こ と で あ る 。さ ら に 、通 訳 人 の 双 方 に 対 す る 見 解 は 、通 訳 に 影 響 を 与 え
てはならない。
双 方 に 関 す る 、ま た は 双 方 の 事 情 に 関 す る 通 訳 人 自 身 の 知 識 は 、通 訳 時 、言 及 さ れ
て は い け な い 。通 訳 人 が 、通 訳 に 関 係 の あ る 他 の 実 情 に つ い て 質 問 さ れ る 場 合 、そ し
て 質 問 者 が 通 訳 人 は 特 別 な 知 識 を 持 っ て い る と 期 待 し て い る 場 合 、例 え ば 外 国 の 事 情
について、通訳人は発言するかどうかを十分に考慮すべきである。通訳人の答えは、
182
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
片 方 に 味 方 を し て い る と 解 釈 さ れ る 可 能 性 が あ る 。間 違 っ た 情 報 が 、結 果 を 意 図 し た
り、通訳人の信用を損ねたりするものであってはならない。
こ こ で 記 述 さ れ た 事 柄 は 、普 段 、通 訳 に 先 行 す る 日 常 会 話 に は 適 用 し な い 。こ の よ
うな会話では、通訳人は勿論、自分の見解や知識を述べることができる。
通訳以外の職務
「公認通訳人は、通訳をしている時、一方に対して他方の代表をしてはいけない。
公 認 通 訳 人 は 、 通 訳 を し て い る 間 、 通 訳 以 外 の 職 務 を 行 っ て は い け な い 。」
(カンマルコレギェットの通訳人規則)
通 訳 人 は 、 依 頼 の 有 無 に か か わ ら ず 、 例 え ば 質 問 を し た り 、「 代 理 人 」 の よ う に 振
舞 う こ と に よ り 、ど ち ら か 一 方 の 助 手 で あ っ た り「 手 配 者 」で あ っ て は い け な い 。通
訳 人 は 、争 点 に つ い て 自 分 の 考 え を 述 べ て は い け な い こ と と 同 じ 理 由 で 、通 訳 時 に 他
の誰かの考えを代表してはいけない。
通 訳 人 は 中 立 的 な 立 場 に あ る の で 、通 訳 中 、通 訳 以 外 の 職 務 、例 え ば 記 録 を と っ た
り 、テ - プ レ コ ー ダ ー を 操 作 し た り し て は い け な い 。通 訳 を す る こ と 自 体 、高 度 な 集
中 力 が 要 求 さ れ る 。し た が っ て 、通 訳 人 が 、い く つ か の 職 務 で 注 意 が 散 漫 に な る の は
適切ではない。
通 訳 人 は 、職 務 は 通 訳 人 の 職 務 で は あ る が 、通 訳 の 場 所 以 外 で 行 わ れ る 場 合 、ど の
職 務 で あ れ ば 行 っ て も よ い か は 、ケ ー ス バ イ ケ ー ス で 判 断 す る 。通 訳 人 は 、1 人 で 来
る こ と の で き な い 人 を 迎 え に い っ た り 、通 訳 後 、例 え ば 薬 局 に 同 伴 し た り す る と い う
仕 事 は 、多 く の 場 合 、彼 の 公 平 さ を 問 わ れ る こ と な く 行 え る と 思 わ れ る 。し か し 、そ
う い う 仕 事 は 、受 け た 職 務 の 中 に 含 ま れ る も の で あ り 、自 分 の イ ニ シ ア テ ィ ブ で 行 う
ものではない。
通 訳 人 が 、通 訳 の 職 務 以 外 の 仕 事 を 引 き 受 け る 時 は 、将 来 、回 避 と い う 問 題 が 起 こ
りうることに注意をすべきである。
「公認通訳人」という肩書
「 公 認 通 訳 人 」 は 、 文 書 上 の 翻 訳 を 行 う 場 合 、 翻 訳 に 、 又 は 付 随 す る 書 類 に 、「 公
認通訳人」という肩書を付けてはいけない。
(カンマルコレギェットの通訳人規則)
通 訳 人 と 翻 訳 人 と の 違 い は 、 一 般 の 人 々 に と っ て 常 に 明 確 で は な い 。 第 18 条 の 規
則 は 、 誤 解 を 防 ぐ た め に 作 ら れ た 。「 公 認 通 訳 人 」 と い う 肩 書 は 、 文 書 上 の 翻 訳 が 、
社 会 か ら 試 験 を 受 け 、そ の 分 野 で 資 格 を 持 つ 者 に よ っ て な さ れ た と 受 け 取 ら れ る こ と
がある。肩書が他の言語に翻訳されると、誤解の危険性はさらに高くなる。
183
『通訳研究』第 7 号 (2007)
通 訳 人 は 、マ ー ケ テ ィ ン グ の 時 や 、職 務 の 依 頼 者 と 交 流 す る 時 、公 認 の 肩 書 を 、あ
た か も 記 録 さ れ た 翻 訳 人 の 資 格 の ご と く 使 う こ と は 避 け る べ き で あ る 。通 訳 人 は 、翻
訳 業 務 を 依 頼 さ れ た 場 合 、彼 の 通 訳 人 と し て の 公 認 は 、口 頭 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン だ
けを意図していることを伝えるべきである。
3.
証拠書類
「 公 認 の 再 新 や 、特 別 資 格 証 明 付 き 公 認 の 再 新 を 申 請 す る 公 認 通 訳 人 は 、公 認 通 訳
人 と し て の 活 動 、 又 は 他 の 言 語 的 活 動 を 報 告 し な け れ ば い け な い 。」
(カンマルコレギェットの通訳人規則)
通 訳 人 翻 訳 人 政 令 に よ る と 、通 訳 人 と し て の 公 認 ま た は 特 別 資 格 の 証 明 は 、5 年 間
有 効 で あ る 。通 訳 人 は 、公 認 や 証 明 を 再 新 し た い 場 合 、そ れ を 申 請 し な け れ ば な ら な
い 。彼 は 申 請 の 際 に 、公 認 通 訳 人 と し て の 活 動 と 、そ の 他 の 言 語 的 活 動 を 報 告 し な け
れ ば な ら な い 。こ の 報 告 の 根 拠 を 得 る た め に 、行 っ た 総 て の 通 訳 業 務 を 継 続 的 に 書 類
に記録しておくことは適切である。
証拠書類によって業務ごとに明確にされるべき事項は:
1)
業務の依頼者または斡旋者、
2)
通訳の主題、
3)
どの言語との間で通訳が行なわれたか、
4)
費やしたまたは報酬となる時間、
である。
4.
回避、守秘義務、証言の義務
こ こ で は 回 避 、守 秘 義 務 、証 言 の 義 務 の 規 則 が 取 り 扱 わ れ る 。こ れ ら の 規 定 の 一 部
は 、特 別 に 、通 訳 人 を 対 象 と す る が 、他 の 規 定 は 、一 般 的 に 、官 庁 や 裁 判 所 の 活 動 に
触 れ た り 参 加 し た り す る 者 に 適 用 さ れ る 。こ れ ら の 規 則 は 、第 1 に 、個 人 を 保 護 す る
た め に 規 定 さ れ て い る が 、場 合 に よ っ て は 、公 共 の 利 益 を 保 護 し て い る 。規 則 は 、双
方が通訳人に信頼感を抱くことに役立っている。
4.1
回避
回 避 に つ い て の 規 定 は 、 な か で も 、 通 訳 人 翻 訳 人 政 令 第 9 条 第 2 項 と 行 政 法 第 11
条 、 12 条 に あ る 。 裁 判 所 で の 通 訳 人 回 避 に 関 す る 特 別 規 定 は 、 訴 訟 法 第 5 章 第 6 条
第 4 項にある。
回避の理由
通 訳 人 が 、双 方 の 信 頼 を 受 け る た め に は 、彼 が 公 平 で あ り 、か つ 公 平 で あ る と 受 け
取られることが重要である。通訳人の公平である能力が問題になる場合がたびたびある。
184
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
次の場合、回避となる:
y
問題が通訳人自身か近親に関係している、
y
通 訳 人 か 、通 訳 人 に 近 い 関 係 を 持 つ 者 が 、問 題 に 関 係 す る 者 、ま た は 問 題 に 強
い利害関係をもつ者の代理人である、
y
通 訳 人 が 、 問 題 に お い て 、 代 理 人 か 補 佐 人 に な っ た ( ま た は な っ て い る )、
y
通訳人が、負債や他の理由で、双方のどちらかに経済的に依存している、
y
その他、通訳人の公平性の信頼を損なうような特別な事情がある。
回 避 が 存 在 す る 場 合 は 、公 平 性 の 問 題 が 明 ら か に 意 味 を 持 た な い 場 合 を 除 い て 、通
訳 人 は 職 務 を 放 棄 す る 義 務 が あ る 。回 避 が 存 在 す る か ど う か 不 確 か な 場 合 は 、通 訳 人
は 、こ れ を 双 方 に 伝 え 、ど の よ う に 事 態 を 判 断 す る か に つ き 、双 方 と 同 意 に 達 す る べ
きである。これは、通訳がすでに始められた場合でも同様である。
通 訳 人 は 、通 訳 人 の 独 立 性 と 公 平 性 が 問 題 と な ら ぬ よ う 、給 料 、報 酬 、そ の 他 の 相
当 す る 補 償 以 外 に 、職 務 を 行 う 上 で 彼 に 影 響 を 及 ぼ す と 思 わ れ る よ う な 贈 り 物 を 、通
訳前、通訳中、通訳後に、受け取るべきではない。
4.2
守秘義務
通 訳 人 の 守 秘 義 務 は 、一 定 の 通 訳 人 翻 訳 人 の 守 秘 義 務 法 で 、特 別 に 規 定 さ れ て い る 。
こ の 法 律 は 、通 訳 人 が 官 庁 か ら 依 頼 さ れ る 時 は 適 用 さ れ な い 。そ の 時 は 、代 わ り に 秘
密法が適用される。
一定の通訳人翻訳人の守秘義務法
一 定 の 通 訳 人 翻 訳 人 の 守 秘 義 務 法 は 、公 認 通 訳 人 だ け に 適 用 さ れ 、通 訳 人 が 官 庁 以
外の所から依頼された時だけ適用される。法律の主要規定は次の通りである:
「 通 訳 人 又 は 翻 訳 人 と し て 職 務 を 遂 行 し た 又 は 遂 行 す る 者 は 、個 人 の 私 的 事 情 、職
業 上 の 秘 密 、商 業 的 事 情 、国 家 の 安 全 に と っ て 重 要 な 事 情 に つ い て 職 務 上 知 り 得 た こ
と を 、 不 当 に 漏 ら し て は な ら な い 。」
つ ま り 、法 律 が 規 定 す る 守 秘 義 務 は 、数 え 上 げ た 種 類 の 情 報 だ け に 適 用 さ れ る 。“不
当 に ” と い う 言 葉 は 、あ ら ゆ る 状 況 で こ の 守 秘 義 務 が 適 用 さ れ る わ け で は な い こ と を
強 調 し て い る 。な か で も 、例 外 と さ れ る の は 、準 備 さ れ た 、ま た は 進 行 中 の 犯 罪 を 直
ち に 申 告 す る 義 務 と い う 刑 法 の 規 定 で あ る 。し か し 、こ こ で は 一 定 の 重 い 犯 罪 、例 え
ば 重 殺 人 、軽 殺 人 、誘 拐 、強 盗 、重 器 物 損 壊 、サ ボ タ ー ジ ュ 、ス パ イ 行 為 、だ け を 意
図 し て い る 。こ の 場 合 、通 訳 人 は 、警 察 官 か 検 察 官 に 申 告 す る こ と に よ っ て 、守 秘 義
務を破らなければならない。もう 1 つの例外は、4.3 で扱われる裁判所での証言である。
185
『通訳研究』第 7 号 (2007)
秘密法
官 庁 や 裁 判 所 で の 活 動 に は 、情 報 公 開 の 原 則 が 適 用 さ れ て い る 。こ の 原 則 は 、公 共
の 活 動 に よ っ て 生 じ た 情 報 は 一 般 の 人 々 に と っ て 入 手 可 能 で あ る こ と を 意 味 す る 。し
か し 秘 密 と さ れ た 情 報 は 自 由 に 手 渡 し て は い け な い 。官 庁 や 裁 判 所 で 、通 訳 時 に 、あ
る 情 報 を 知 り 得 た 通 訳 人 は 、秘 密 法 に 含 ま れ 、官 庁 や 裁 判 所 の 役 人 と 同 様 に 、発 言 の
自 由 ――と 守 秘 義 務 ――を 持 っ て い る 。秘 密 法 で は 、い つ 、情 報 が 公 共 の 活 動 に お い
て 秘 密 で あ る か が 規 定 さ れ て い る 。 こ の 法 律 は 秘 密 政 令 ( 1980: 657) に よ っ て 補 充
さ れ て い る 。こ れ ら の 法 令 の 規 則 は 複 雑 で あ る の で 、こ の 記 述 で は 、規 則 の 内 容 の 説
明 は 省 略 す る 。通 訳 人 は 、通 訳 が 官 庁 で 行 わ れ る 時 、そ の 官 庁 で は ど の よ う な 規 則 が
適用されているかという情報を得るよう努めるべきである。秘密法の草稿によると、
各官庁は、どの秘密規定がその活動で適用されているかを、自発的に伝えるべきである。
注釈
通 訳 人 は 常 に 、守 秘 義 務 の 目 的 、つ ま り 、あ る 情 報 が 漏 れ る こ と に よ る 被 害 を 防 ぐ
こ と 、を 思 い 出 す べ き で あ る 。こ の よ う な 状 態 を 避 け る 為 に 、通 訳 人 は 、当 事 者 や 当
事 者 の 事 情 に つ い て 、他 方 と 話 し 合 う べ き で は な い 。こ の 規 則 は 、職 務 依 頼 者 や 通 訳
斡旋所に対しても守られるべきである。
4.3
証言義務
訴 訟 法 で は 、原 則 的 に 、事 件 の 当 事 者 で な い 者 は 各 自 裁 判 所 で 証 言 を す る 義 務 が あ
る と 規 定 さ れ て い る 。こ の 市 民 の 義 務 は 、も ち ろ ん 通 訳 人 に も 適 用 さ れ る 。証 人 と し
て 召 喚 さ れ た 場 合 、出 頭 す る 義 務 が あ り 、そ し て 事 件 に 関 連 す る 事 情 や 出 来 事 を で き
る だ け 客 観 的 に 説 明 し な け れ ば な ら な い 。証 言 す る こ と は 、ど ち ら か 一 方 に 味 方 を す
る こ と で は な い 。し た が っ て 、証 言 義 務 と 、通 訳 人 の 公 平 性 と 中 立 性 の 要 求 と は 、相
反 す る も の で は な い 。裁 判 所 で 証 言 を 行 う 時 、普 通 、守 秘 義 務 に 含 ま れ る 情 報 も 伝 え
る 義 務 が あ る 。 し か し 、 訴 訟 法 第 36 章 第 5 条 で 、 証 人 に 守 秘 義 務 が あ る 事 項 に つ い
て は 、証 人 は 質 問 さ れ な い と い う 、い く つ か の 特 別 な 例 外 を 挙 げ て い る 。通 訳 人 が 守
秘 義 務 の も と で 、こ の 条 項 の 中 で 指 定 さ れ た 人 物 、つ ま り あ る 事 情 に つ い て の 証 人 と
し て 質 問 さ れ な い 人 物 、の 援 助 を し た 場 合 、そ の 事 情 に つ い て の 証 人 尋 問 は 通 訳 人 に
対 し て も 行 わ れ な い 。そ の よ う な 人 物 の 例 は 、弁 護 士 、医 者 、看 護 婦 、家 族 相 談 事 務
所の相談員である。訴訟法のこの規則は、普通裁判所と行政裁判所の両方で適用される。
5. 他 の 通 訳 人 法 律 規 定 の 注 釈
直接通訳人にかかわる法律規定は:
▪
訴訟法、
▪
行 政 訴 訟 法 ( 1971: 291)、
186
スウェーデンの通訳人及び翻訳人公認制度についての研究
▪
行 政 法 ( 1986: 223)、
にある。
訴訟法
普 通 裁 判 所( 地 方 裁 判 所 、高 等 裁 判 所 、最 高 裁 判 所 )で の 裁 判 は ス ウ ェ ー デ ン 語 で
行 な わ れ る 。訴 訟 法 第 5 章 第 6 条 に よ る と 、当 事 者 、証 人 、ま た は 法 廷 で 質 問 さ れ る
他 の 者 が ス ウ ェ ー デ ン 語 に 熟 達 し て い な い 場 合 、通 訳 人 が 依 頼 さ れ る 。裁 判 所 に い わ
ゆ る 一 般 通 訳 人( 裁 判 所 で 採 用 さ れ て い る 通 訳 人 )が い れ ば 、彼 が 依 頼 さ れ る 。そ の
他の場合、裁判所は事件の通訳人として適切な人を任命する。
法 廷 通 訳 人 に 任 命 さ れ た 者 は 、通 訳 人 と し て の 職 務 を「 最 善 の 能 力 で 遂 行 す る 」と
い う 宣 誓 を 行 う ( 訴 訟 法 第 5 章 第 7 条 )。 通 訳 人 は 、 裁 判 所 で の 、 将 来 の 法 廷 通 訳 人
としての職務の宣誓、いわゆる一般的通訳人宣誓を行うことができる。訴訟法第 5
章第 8 条では、通訳人の報酬について述べられている。
行政訴訟法
行 政 訴 訟 法 は 、行 政 最 高 裁 判 所 、行 政 高 等 裁 判 所 、行 政 地 方 裁 判 所 の 裁 判 権 の 行 使
に 適 用 さ れ る 。第 50 条 ~ 第 52 条 に は 、訴 訟 法 第 5 章 第 6 条 ~ 第 8 条 と 原 則 的 に 同 じ
よ う な 通 訳 人 規 定 が あ る 。通 訳 人 と い う 概 念 は 、行 政 訴 訟 法 の 中 で は 、1 つ の 言 語 か
ら 他 の 言 語 へ と 口 頭 で 通 訳 す る 者 と 、書 面 上 で 書 類 の 翻 訳 を す る 者 の 両 方 を 意 味 し て
いる。
行政法
行 政 官 庁 で の 問 題 の 取 り 扱 い に 適 用 さ れ る 行 政 法 で は 、第 8 条 に 、通 訳 人 に 関 す る
規 則 が あ る 。官 庁 は 、ス ウ ェ ー デ ン 語 に 熟 達 し て い な い 者( ま た は 重 度 の 聴 覚 か 言 語
障 害 を 持 つ 者 )と 関 係 を も つ と き 、必 要 で あ れ ば 通 訳 人 を 依 頼 す べ き で あ る 、と 規 定
の中で指示されている。
規 定 の 法 案 ( prop 1985/86: 80) に よ る と 、 諸 々 の 理 由 で 、 官 庁 と の 関 係 に お い て
通 訳 人 を 必 要 と す る 者 は 、可 能 な 限 り 、そ の よ う な 援 助 が 受 け ら れ る べ き で あ る 。官
庁 は 職 務 に 適 切 な 者 を 任 命 し な け れ ば な ら な い 。官 庁 は 、公 認 通 訳 人 が い る 時 は 、原
則的にそれを使うべきである、と法案の中でいわれている。
行政法では、通訳人という概念は、口頭で通訳を行う者と、書面上で書類の翻訳を
行う者の両方に使われている。
187
『通訳研究』第 7 号 (2007)
188