「プライマリ・ケア研究のフロントライン」 企画および司会:松島雅人(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究室) プライマリ・ケアの現場では,高次機能病院とは質的,量的に異なった,しかし重要な問題が多く存在し ている. そこでプライマリ・ケア現場で臨床研究の特徴,バリアを実際の研究を踏まえた演者に講演いただき,今 後の方向性を含め議論を深めたい. ①プライマリ・ケア現場での臨床研究(家庭医療学の立場から):藤沼康樹 生協浮間診療所 家庭医療学(Family Medicine)は,質の高い家庭医療・プライマリ・ケアを効果的・効率的に提供すること に寄与する学問分野である.よって,研究対象としては,疾患,医師自身,患者医師関係,家族,地域,ヘルスケア システムなど多岐にわたり,手法も量的研究だけでなく,質的研究も含まれる.近年注目されている,第 2 世 代橋渡し研究(T2 研究)や Community-based participatory research などに言及しつつ,今後プライマ リ・ケア研究の基盤となる,practice-based research network(PBRN)構築の試みを紹介する. ②プライマリ・ケア現場での臨床研究(病院総合医の立場から):尾藤誠司 国立病院機構東京医療センター プライマリ・ケア領域における研究においてなされる変革は 2 点,第一点は発想と研究テーマの変革,第二 点は研究基盤の構築である.研究の発想やテーマに関しては,薬剤に代表されるハードな医療行為の有効 性に発想の力点を置くのではなく,コミュニケーションの方法や関係性などに力点を置く必要がある.ま たプライマリ・ケア医が現場の認識に基づき,既存の技術の妥当性の検証や,良い技術が普及されるための 改善などをテーマにした研究が直接的に患者の利益となる.臨床研究を成功させるには,研究基盤,すなわ ち,ヒト・モノ・カネの有効活用が必須であり,このインフラをプライマリ・ケア集団は持つ必要がある. ③EBM をどのように臨床研究につなげるか:名郷直樹 東京北社会保険病院 臨床研修センター 多忙な臨床現場で臨床医が臨床研究をするためには,数々の障害を乗り越える必要がある.その基盤とな るのが日々の EBM の実践である.特別な臨床研究についてのトレーニングを受けなくても,日々の EBM の実践を根気よく積み重ねていけば,臨床研究を計画するための地力が自然と身についてくる.そうした EBM の実践から臨床研究へのつながりを,臨床現場で臨床研究に取り組もうとしている臨床医に対して 示すことができればと考えている. ④プライマリ・ケアでの臨床研究の経験,バリア:横林賢一 広島大学病院 総合内科・総合診療科 在宅高齢者の発熱につき,他施設コホート研究を実施中である.そこで感じられたバリアは, ①研究の知識 技術⇒リサーチクエスチョンの立て方,研究手法,解析,研究費の習得法など研究一般に対する知識・技術 が無いため,興味はあっても踏み込めない,②プロトコール作成~研究の実施~発表・論文化のサポート体 制⇒プロトコール作成の意思があっても,継続的にサーポートしてくれる人がいないので実施までこぎつ けることができない,③協力者,職場のスタッフの理解が必須であること,であった.これらを克服できる知 識,技術を獲得する機会を増やし,さらに研究テーマにおけるスタッフとの連携を深めていくことがそれ らを乗り越える方策と考える.
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