本試験特別座談会 - 資格の学校TAC

平成 29年
本 試 験を
第Ⅰ回短答式試験
特別
座談会 ふりかえる
2016 年 12 月 11 日(日)、平成 29 年公認会計士第Ⅰ回短答式試験の幕が切って落とされ、全国で熱い戦いが繰り
広げられた。TAC では本試験問題の入手後、直ちに講師による短答式試験検討会を開き、今年の本試験傾向の
分析を行った。出題傾向に変化はあったのか等、短答式試験の全貌が克明に解き明かされた。
特別座談会 出席者
企業法
田
監査論
高橋 亮介 講師
財務会計論(理論)
晴久 講師
岡安 俊英 講師
管理会計論
財務会計論(計算)
司
会
高岡 徹
講師
金杉 光弘 講師
久野 元靖 講師
CERTIFIED
PUBLIC
ACCOUNTANT
平成 29年 公認会計士第Ⅰ回短答式試験 特別座談会
本 試 験をふりかえる
司会
久野 元靖 講師
はじ め に
久野 それでは, 本日 2016 年 12 月 11 日 (日)に行われた平成 29 年公認会計士試験第Ⅰ回短答式試験の出題傾向を
分析していきます。
第Ⅰ回短答式試験のこの座談会の場で毎年この 1 年を振り返っているのですが ・ ・ ・ まぁ, 今年も。
今年 2016 年という年, 1 月, 税や社会保障に関連する共通番号制度 「個人番号 (通称 『マイナンバー』)」がスタートし
ました。 1 月 29 日には日本銀行が日本において初めて 「マイナス金利」を導入することを決定しました。 2月には 「環太
平洋戦略的経済連携協定 (TPP)」に署名されましたが,TPPはどうなるんでしょうね。 3月 26 日には北海道新幹線新青
森駅〜新函館北斗駅間が開業しました。 新幹線駅のホームで 「新函館北斗」行きという掲示を見るとなんか違和感があっ
たのですが, なんとなく慣れてきました。 4月 1 日には改正電気事業法が施行され 「電力完全自由化」が行われていま
す。 4月 14 日, 「平成 28 年 (2016 年)熊本地震」の前震が発生しました。�6.5 で益城町では気象庁震度階級で最大と
なる震度7を観測しています。 16 日には 「平成 28 年 (2016 年)熊本地震」の本震が発生しました。�7.3 で西原村と再び
益城町で震度 7 を観測しています。 熊本県の他の地域で震度6強, 大分県で震度6弱, さらに九州の広い地域でも震度
5強が観測されました。 5月 26 日 ・ 27 日には三重県志摩市賢島で 「第 42 回先進国首脳会議 (伊勢志摩サミット)」が行
われ, 27 日にはアメリカ合衆国バラク ・ オバマ大統領が現職のアメリカ大統領として初めて広島市を訪問し, 広島平和記
念公園で献花を行っています。 6月には 18 歳選挙権に関連する公職選挙法が施行され, 18 歳から選挙投票が可能とな
りました。 7月には 「国立西洋美術館」が世界文化遺産に登録決定されました。 これで国内の世界遺産は 20 件になりまし
たね。 6月から8月にかけ, アメリカ ・ メジャーリーグ (���), マイアミ ・ マーリンズのイチロー選手が, 日米通算の安打
数を 4,257 本 (日本 1,278 本, 米国 2,979 本)とし, メジャーリーグ通算最多安打数 4,256 安打を更新し, さらに, 史上
30 人目の���通算 3,000 本安打も達成しました。 8月5日から 21 日まではブラジルのリオデジャネイロで第 31 回夏季
オリンピックが開催されました。 競泳の萩野公介 ・ 金藤理絵, 体操の内村航平 ・ 男子団体 (内村航平 ・ 加藤凌平 ・ 山室
光史・田中佑典・白井健三),レスリングの登坂絵莉・伊調馨・川井梨紗子・土性沙羅,柔道の大野将平・ベイカー茉秋 ・
田知本遥, バドミントンの女子ダブルス (髙橋礼華 ・ 松友美佐紀)の各選手が 12 個の金メダル, 陸上競技の男子4 ×
100m リレー, 卓球の男子団体などで8個の銀メダル, 競泳の男子4 ×200m リレー, シンクロナイズドスイミングのチーム ・
デュエット, 卓球の女子団体等で 21 個の銅メダルを獲得しています。 10 月にはスウェーデンのカロリンスカ研究が, ノー
ベル生理学 ・ 医学賞を大隅良典東京工業大学栄誉教授に授与することを発表しました。 秋には自然災害が多く発生し
ましたね。 10 月8日に熊本県の阿蘇山中岳第 1 火口で爆発的噴火が発生し, 火山灰による停電などの被害がありまし
た。 噴火警戒レベルが 1 ( 火口周辺規制 ) から3 ( 入山規制 ) に引き上げられました。 10 月 21 日には鳥取県中部を震源と
する�6.6 の地震が発生し, 最大震度は6弱でした。 西日本の広い地域で揺れを感じたようです。 11 月 22 日には�7.4
の東北地方太平洋沖地震 (東日本大震災)の余震が発生し, 宮城県の仙台港で最大 1 m40cm の津波を観測していま
す。 11 月末には, 昨年 12 月に国際純正 ・ 応用化学連合 (IUPAC) が日本の理化学研究所の研究グループによって発
見された 「113 番元素」を認定しましたが, その名称が 「ニホニウム (nihonium, 元素記号 : Nh)」となることが確定しまし
た。 12 月に入り今年も 「新語 ・ 流行語大賞」が公表されましたね。 「神ってる」だそうです。 「今年の漢字」の発表は明日
12 月 12 日ですね。 (注 : 「金」と公表されました。)
本 試 験 を ふりか える ----------------------
はじめに
公認会計士試験受験生を取り巻く環境には, 2006 年の試験制度変更以降, 合格者の就職問題が存在していましたが,
金融庁の方針 ・ 経済環境の好転傾向も影響し, 現状において合格者サイドからの就職問題があるとは言えないでしょう。
平成 28 年論文式試験の合格者もおおむね順調に監査法人からの就職内定をいただいているようです。 平成 28 年論文
式試験合格者数は 1,108 人 (前年比 57 人増), 論文式試験合格率は 35.3% (前年比 1.2%増)でした。 この就職状況の
復調は公認会計士になるためにがんばって学習を継続している方々にとって喜ばしい傾向ですね。
また, 近年の願書提出者数減少傾向や監査報酬の低減傾向といった新たな課題を含め 「公認会計士試験合格者等
の育成と活動領域の拡大のための当面のアクションプラン」が金融庁, 公認会計士 ・ 監査審査会, 日本公認会計士協
会, 経団連, 銀行 ・ 証券 ・ 生保 ・ 損保の金融4団体により継続的に行われています。 また, 2013 年 12 月の 「金融 ・ 資本
市場活性化に向けての提言」 (金融 ・ 資本市場活性化有識者会合)において 「監査の質を向上し, 我が国の監査制度
に対する国際的な信用を維持 ・ 確保する必要がある。 そのためには, 公認会計士資格の魅力の向上を図ることも肝要で
ある。」との提言を受け, 公認会計士資格の魅力の向上に向けた取組が進められつつあります。
平成 25 年度の公認会計士試験からは 「受験者に対する試験結果に係る情報の提供を一層拡充するとの観点」から,
短答式試験においては 「試験問題」 「答案用紙」さらに 「答案提出者数」 「欠席者数」 「総合平均得点比率 ・ 科目別平
均得点比率」 「得点階層分布表 (総合得点比率)」,論文式試験でも 「試験問題」 「答案用紙」さらに 「答案提出者数」 「欠
席者数」 「得点階層分布表 (総合得点比率)」が公表されています。
なお 「公認会計士試験受験者等の利便性の向上」の観点から, 今回の平成 29 年第Ⅰ回短答式試験から受験申込等
におけるオンライン申請が導入されました。 当面の間は郵送申込も並存されます。
このような状況の中で平成 28 年第Ⅰ回短答式試験が実施されました。
本日12月11日(日)の天候は,札幌は雪で-5~-3℃,仙台は晴れのち雪で- 1 ℃~4℃,東京は晴れ4℃~ 11℃,
金沢は雪で2℃~4℃, 名古屋は晴れで 1 ℃~ 12℃, 大阪は晴れで4℃~ 11℃, 広島は晴れで4℃~ 11℃, 高松は
晴れで5℃~ 13℃, 福岡は晴れで5℃~ 15℃, 熊本は晴れで2℃~ 15℃, 那覇は曇りで 17℃~ 23℃だったようです。
公認会計士 ・ 監査審査会の公表する短答式試験の合格基準は, 「試験実施規則」によれば 「総点数の 70%を基準と
して, 公認会計士 ・ 監査審査会が相当と認めた得点比率となり, 1 科目につき, その満点の 40%に満たないもののある
者は, 不合格となることがある。」となっています。 一方, 例年 「公認会計士試験受験案内」に記載されていた 「試験の公
平性の観点から, 第Ⅰ回短答式試験と第Ⅱ回短答式試験の合格得点比率は, 原則として同じとします。」という文言は
昨年の 「平成 28 年公認会計士試験受験案内」には記載されず, 今年 「平成 29 年公認会計士試験受験案内」にも記載
されていません。
平成 29 年第Ⅰ回短答式試験出願者数は, 公認会計士 ・ 監査審査会の発表によれば, 7,818 人です。 この人数は昨
年平成 28 年第Ⅰ回短答式試験出願者数 7,030 人 (前年比 2.4%減)人から 788 人, 11.1%増となっています。 受験願書
提出者が増加に転じましたね。 監査法人への就職状況は改善に転じて複数年経過しましたが, ようやく, 願書提出数増
加に結びついたようです。
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久野 さて, 平成 27 年第Ⅰ回短答式試験以降, 大きな変化はないように思える短答式試験ですが, 今回の平成 29 年第
Ⅰ回短答式試験を概観していきましょう。 先生方, 実施順でお願いできますか。
田崎 企業法は, 基礎力の試される良問でした。Cランクの問題が 1 つもありませんでした。
高岡 管理会計論は, 計算問題一問当たりの配点が増加したことに伴い, より緊張感を持って慎重に取り組む必要があ
り, 精神的にしんどい試験でしたね。 お疲れ様でした。
高橋 今回の監査論は, 前回までと比較して, かなり易しくなりましたね。
本 試 験 を ふりか える ----------------------
はじめに
金杉 財務会計論-計算の問題に関しては, 幅広い範囲から満遍なく出題しているという印象です。
岡安 財務会計論-理論は, ここ数年の短答式試験よりも難しい問題が多く, 高得点は狙えないでしょう。
久野 日中から問題を一瞥しているだけの状況なんですが, 多くの科目で取り組みやすい印象を持ちました。 財務会計
論-理論はしんどいなって感じですね。 企業法 ・ 管理会計論 ・ 監査論でいただける問題はミスなくいただいて, 財務会
計論-理論のボディーブローに耐える様相でしょうか。
それでは, 個別の科目ごとにうかがっていきましょう。
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平成 29 年 公認会計士第Ⅰ回短答式試験 特別座談会
企 業 法
企業法担当
田﨑 晴久 講師
本 試 験 を ふりか えって ∼ 出 題 傾 向・合 格 ラ イン 等 ∼
久野 まず 12 月 11 日 1 限 (9:10 着席, 9:30 ~ 10:30)に行われた企業法です。
平成 26 年第Ⅰ回試験以降平成 27 年第Ⅱ回試験までの4回の短答式試験では 18 問出題, 平成 28 年第Ⅰ回, 第Ⅱ回
短答式試験に続いて 20 問各5点の出題でしたね。
先ほど田崎先生から, 講師間の感想として 「基礎力の試される良問でした。Cランクの問題が 1 つもありませんでした。」
とのことでしたが, 難易度の 「A」 「B」 「C」評価というのはどういう観点で分類されていますか。
田崎 「A」評価というのは 「必ず正解に達すべき問題」で落としては駄目な問題, 「B」評価は 「通常の理解をしていれば
正解となり得る問題」で, 半分は正解する必要がある問題, 「C」評価は 「細かい知識を要する難問」で, 落としても合否
に影響しない問題です。
落としてもよいC評価の問題は, 例年2~3問あるのに, 今年はC評価の問題はゼロでした。
久野 では, 問題ごとにうかがっていきます。 問題 1 からお願いします。
田崎 問題1は 「個人商人」に関する問題です。 アは附属的商行為 (商法 503 条 1 項2項)で, 過去何度も出ている基本
的な条文です (H10 問題 42 エ,H14 問題 50 ウ,H26Ⅰ問題1エ,H28Ⅰ問題2ア)。 イは商人資格の取得時期に関する
判例 (最判昭 47. 2 .24)で, これも過去に出題されていますが (H13 問題 41 ウ)が手薄なところでしょう。 ウは小商人に関
する問題で, 個人商人の商号は任意的登記事項ですが (商法 11 条2項), 小商人に関してはこの規定の適用が排除さ
れています (商法7条)。 過去にも同じ問題が出ています (H22Ⅰ問題 1 ア)。 エは未成年者登記 (商法5条)に関する問
題で, 一種または数種の営業を許された場合には, その営業に関しては, 成年者と同一の行為能力を有し (民法6条
1 項), 自ら営業をなし得ますが, その場合には, その旨の登記をしなければなりません (商法5条)。 取引相手である第
三者にとって, 当該未成年者が営業の許可を受けているかを公示する必要があるからです。 商法5条を知っていれば,
未成年者も商人となれることは明らかです。 この問題も過去に出題されています (H9問題 41 ア,H17 問題 41,H28Ⅰ問
題 1 エ)。 過去問を知っていればできますが学習の手薄な分野からの出題なので,B評価です。
問題2は 「商行為」に関する問題です。 アは商行為の委任 (商法 505 条)に関する問題で, 過去にも出題されています
(H23Ⅱ問題2エ,H26Ⅰ問題2ウ)。 条文を知らなくても, 常識で解ける問題です。 イは安く仕入れて高く売るという典型
的な商売である投機購買 (商法 501 条 1 号)に関する問題で, 過去にも出ています (H23Ⅱ問題2イ)。 イは基礎答練第
2回問題 1 アでズバリ出題しています。 ウは商人間の留置権 (商法 521 条)に関する問題で, 経済的利益を特約で排除
することは可能ですから, 商人間の留置権も特約で排除できます (商法 521 条ただし書)。 ずいぶん前ですが, 同じ問題
が出ています (H11 問題 43 オ)。 エの運送に関する行為は営業的商行為です (商法 502 条4号)。 基礎答練第2回問題
1 アで関連問題を出しており, 商法 502 条4号は基礎答練第2回問題 1 アの解説で説明しています。 アイが簡単であり,
消去法で容易に答えが出るので,A評価です。
問題3は 「株式会社の設立」に関する基本的な問題です。 アは現物出資に関する問題で, 34 条 1 項本文と 63 条 1 項
の文言の対比から設立段階の現物出資は発起人のみ認められますが, 基礎答練第2回問題3アでズバリ出題していま
す。 イは払込金の保管証明 (64 条2項)に関する基本的な問題で, 直前答練第3回問題3イでズバリ出題しています。 ウ
の発起人の報酬は変態設立事項の一つとして定款の相対的記載事項 (28 条3号)だというのは基礎的知識です。 エは
25 条2項に関する基本的問題で, 基礎答練第3回問題4ウでズバリ出題しています。 基本的な問題であり, 容易に答え
企 業 法 ----------------------
本試験をふりかえって∼出題傾向・合格ライン等∼
が出るので,A評価です。
問題4は 「株式会社の設立」に関する問題です。 アは引っかかりそうですが, 原始定款は公証人の認証を受けなけれ
ば, その効力を生じません (30 条 1 項)。 イは定款の記載事項に係る 29 条に関する問題で, 定款の記載事項には絶対
的記載事項 ・ 相対的記載事項の他に任意的記載事項があります。 ウは 53 条2項に関する問題です。 エの発起人に対す
る失権予告付催告 (36 条 1 項~3項)に関する問題は, 直前答練第3回問題3イでズバリ出題しています。 冷静に読め
ば解けると思いますが, アイとかはケアレスミスをし易いので,B評価です。
問題5は 「取締役会設置会社」に関する基本的な問題です。 アは株式の併合の決定機関 (180 条2項, 309 条2項4号)
に関する問題で, 基礎答練第2回問題7アの解説で説明しています。 イは株式の分割の決定機関 (183 条2項)に関する
問題で, 基礎答練第2回問題7アでズバリ出題しています。 ウは, 株式無償割当ての決定機関 (186 条3項本文)で, 取
締役会設置会社では原則として取締役会です。 株式の分割も株式無償割当ても, 株式の併合と異なり, 株主に不利益
を与えませんから, 株主総会の決議によらなければならないというのは, 誤りと分かるでしょう。 エの単元株制度を採用す
るには, 定款に, 単元株式数を定款に定める必要があるので (188 条 1 項), 定款変更 (466 条)が必要となります。 エは
基礎答練第 1 回問題6アイでズバリ出題しています。 ア~エいずれも基本的な問題ですからA評価です。
問題6は 「種類株式」に関する典型かつ基本的な問題です。 アは 105 条2項に関する問題で, 本試験で何度も出てお
り (H18 問題5オ,H19 問題8ア,H20 問題4イ,H23Ⅰ問題4ウ), 基礎答練第 1 回問題5エでもズバリ出題しています。
イは取締役選任権付株式の発行に関する基本的な問題 (108 条1項柱書ただし書)で, 過去にも出ており (H18 問題5
ア,H19 問題8オ), 基礎答練第 1 回問題5でもズバリ出題しています。 ウの公開会社における議決権制限株式の発行数
に関する 115 条の問題も過去に出ており (H18 問題5イ,H19 問題8エ,H23Ⅱ問題4イ), 基礎答練第 1 回問題5イでも
ズバリ出題しています。 エの譲渡制限株式については, 議決権制限株式の発行数 (115 条)に対応するような規定はあり
ません。 ア~エいずれも種類株式に関する基本的な問題ですからA評価です。
問題7は 「株主の権利」に関して単独株主権か少数株主権かを問う問題です。 アの株主による株主総会招集請求権
(297 条 1 項)が少数株主権であることは, 直前答練第1回問題9エでズバリ出題しています。 イの会計帳簿閲覧請求権
(433 条 1 項)が少数株主権であることは, 直前答練第1回問題 15 アでズバリ出題しています。 ウの会社設立の無効の訴
え (828 条2項 1 号)は, 単独株主権です。 エの責任追及の訴え (847 条 1 項)が単独株主権であることは, 直前答練第
3回問題 14 アでズバリ出題しています。 少数株主権とされているのは, 株主による濫用の危険の大きいものであるという
基本的な観点から考えれば, 解けるとは思いますが, 細かい問題でもあることから,B評価です。
問題8は 「株式会社の機関」に関する基本的な問題です。 アイは 326 条2項, ウは 327 条4項, エは 327 条6項に関す
る問題で, イは基礎答練第2回問題 10 イでズバリ出題しています。 本問は, 機関設計に関するきわめて基本的な問題で
すからA評価です。
問題9は 「株主総会における議決権の代理行使」に関する問題です。 アは 310 条2項, イは 310 条5項, ウは論文式試
験で学習する 「代理人は株主に限る」旨の定款規定の効力の問題, エは 310 条 1 項後段3項に関する問題です。 基本
的な問題ではありますが, ウに関する判例が, 「代理人は株主に限る」旨の定款規定を①相当程度の制限で有効とした
うえで,②株主総会を攪乱するおそれがなく, これを認めないと株主の議決権の代理行使を保障した趣旨を害するような
場合には, もはや定款の効力が及ばないとしており,②の意味を正確に理解していないと間違いやすいことや, エにつ
いて 310 条3項の条文まで正確に読んでいることは少ないであろうことから,B評価にしました。
問題 10 は 「株主総会決議の瑕疵」に関する基本的な問題です。 アは判決の効力 (893 条)に関する問題で, 基礎答練
第2回問題9アでズバリ出題しています。 イは, 決議取消事由 (831 条 1 項 1 号)に関する問題で, 全国公開模試問題8
ウでズバリ出題しています。 ウは認容判決の効力が及ぶ者の範囲 (838 条)に関する問題で, 基礎答練第2回問題9ウで
ズバリ出題しています。 エは提訴期間の制限 (831 条 1 項柱書)に関する問題で, 基礎答練第2回問題9イでズバリ出題
しています。 基本的な問題ですからA評価です。
問題11は 「特別取締役による取締役会決議」に関する基本的な問題です。特別取締役による取締役会決議 (373条,
企 業 法 ----------------------
本試験をふりかえって∼出題傾向・合格ライン等∼
383 条 1 項ただし書)に関して, アは直前答練第 1 回問題 10 アでズバリ出題しています。 イは直前答練第 1 回問題 10 イ
でズバリ出題しています。 ウは直前答練第 1 回問題 10 エでズバリ出題しています。 エは直前答練第 1 回問題 10 ウでズ
バリ出題しています。 本問は, 直前答練第 1 回問題 10 と全く同じといってよく, 我ながらお見事と言いたいです。 基本的
な問題ですし, 答練でも同じ問題を出しているので,A評価です。
問題 12 は 「指名委員会等設置会社」に関する問題です。 アは 331 条4項, 415 条に関する問題で, 基礎答練第 1 回問
題 14 でズバリ出題しています。 イは 400 条4項に
関する問題で, 監査委員会の委員と異なって,
指名委員会の委員は執行役を兼ねることができ
ないとの規定はない (400 条4項参照)ので, 指名
委員会の委員は, 社外取締役 (2条 15 号イ)であ
る場合を除いて, 当該会社の執行役を兼ねること
ができます。 ウは監査委員会では, 組織的監査
がなされるという 405 条 1 項に関する問題で, 基
礎 答 練 第 1 回 問 題 14 エ で ズ バ リ 出 題 し て い ま
す。 ウは執行役に対する取締役会の監督の一環
としての 416 条 1 項 1 号ハに関する問題です。 基
本的な問題ですが, イとかエとか引っかかり易い
ので,B評価です。
問題 13 は 「会計限定監査役」に関する問題です。 アは 336 条4項3号に関する問題で, 監査役の任期は法定されてい
ますが (336 条 1 項), 会計限定監査役と通常の監査役では権限の範囲が異なることから, 会計限定監査役の定款の定
めを廃止する場合には, 336 条 1 項の例外として, 当該定款変更の効力発生時に会計限定監査役の任期が満了するこ
とになります。 イですが, 取締役の利益相反取引の制限 (356 条 1 項3号)は業務執行に携わる取締役相互の馴れ合い
から会社の利益を守るためであり, そのような規定は, 業務執行に携わらない監査役にはありません。 ウは 389 条7項に
関する問題であり, 会計限定監査役について業務監査権に関する 381 条~ 386 条の適用を排除していますが, 費用の
前払い等に関する 388 条の適用は排除していないので, 費用の前払いが請求できるので, 誤りの記述です。 会計限定
監査役も経営者を会計の面から十分にチェックするには費用が必要であることからすれば, 費用の前払いが 「できない」
との記述は誤りと判断できるでしょうが, 条文操作としては細かいです。 エは 389 条3項に関する問題です。 本問も基本
的な良問ですが, 普段見慣れない条文に関する問題であること, また, 考えさせる問題でもあることから,B評価です。
問題 14 は 「株式会社の資本金及び準備金の額」に関する問題です。 アは準備金の額の減少には, 原則として債権者
異議手続が必要ですが, その例外である 449 条 1 項柱書かっこ書に関する問題で, 直前答練第 1 回問題 15 エでズバリ
出題しています。 イですが, 準備金の額の減少と異なり (449 条 1 項ただし書), 資本金の額の減少については, 必ず債
権者異議手続が必要です。 イは直前答練第3回問題 15 ウでズバリ出題しています。 エは 「株式の発行」と同時に資本金
の額を減少する場合には正しい記述ですが (447 条3項), 資本金の額が増加しない 「自己株式の処分」の場合 (445 条
1 項参照)には, そのような取扱いは認められていません。 エは 449 条6項ただし書に関する問題です。 本問も基本的な
問題ですが, 正確に理解しておかないと間違えやすいので,B評価です。
問題 15 は 「社債」に関する基本的な問題です。 アは社債管理者の設置義務の例外 (702 条, 施行規則 169 条)に関す
る問題であり,直前答練第 1 回問題16ウでズバリ出題しています。イは683条に関する問題で,株主名簿管理人(123条)
と同趣旨の規定です。 ウは 704 条2項に関する問題で, 社債管理者は社債発行者との委任契約で設置されますが
(702 条 1 項本文), 設置目的である社債権者保護の観点から, 社債権者に対して善管注意義務を負っており (704 条
2項), 直前答練第2回問題 18 イでズバリ出題しています。 エは 705 条 1 項の社債管理者の権限に関する問題で, 直前
答練第2回問題 16 ウでズバリ出題しています。 社債管理者に関するアウエは, 基本的な問題であり, 消去法で容易に解
企 業 法 ----------------------
本試験をふりかえって∼出題傾向・合格ライン等∼
答できる問題ですから,A評価です。
問題 16 は 「事業譲渡等」に関する問題です。 アは 467 条 1 項4号に関する問題で, 事業全部の賃貸借契約が締結さ
れると, 賃貸会社は賃料収入を得るだけの存在となり, 会社経営の形態が基本的に変わるため特別決議が要求されます
が, 事業の重要な一部を賃貸する場合には不要です。 アは全国公開模試問題 16 ウでズバリ出題しています。 イウは
467 条 1 項3号に関する問題で, 他の会社の事業の全部を譲り受ける場合には, 株主総会の特別決議による当該契約
の承認が必要です (467 条 1 項3号, 309 条2項 11 号)。 吸収合併の存続会社に近い立場に立つからですが, 事業の重
要な一部を譲り受ける場合には株主総会の特別決議による承認は不要です。 エは 467 条 1 項 1 号に関する問題です。
イウエについては, 全国公開模試問題 16 ウでズバリ出題しています。 本問は, 事業譲渡等をする場合の特別決議の要
否に関する基本的な問題であり,A評価です。
問題 17 は 「合同会社」に関する問題です。 アは 576 条 1 項6号かっこ書4項に関する問題で. 基礎答練第 1 回問題 16
ウの合名会社の出資に関連して説明しています。 イは 587 条に関する問題で, 直前答練第2回問題 17 イでズバリ出題し
ています。 ウは間接有限責任社員のみで構成される持分会社では, 株式会社と同様に会社債権者の担保となるのは会
社財産のみであることから, 会社債権者保護のための特則が規定されており (625 条~ 636 条), ウは 627 条, エは
625 条に関する問題です。 この点, 基礎答練第 1 回問題6エで関連問題を出題しています。 本問は, 合同会社に関する
基本的問題ですが, 持分会社という手薄な分野でもあり,B評価です。
問題 18 は 「株式会社が行う組織再編行為」に関する基本的な問題です。 吸収型再編 (吸収合併, 吸収分割, 株式交
換)は, 契約で定めた効力発生日にその効力を生じます (750 条 1 項, 752 条 1 項, 759 条 1 項, 769 条 1 項)。 これに対
し, 新設型再編 (新設合併, 新設分割, 株式移転)は, 新設会社に権利義務を移すのですから, 新設会社の成立の日
すなわち設立登記日にその効力が生じます (754 条 1 項, 756 条 1 項, 764 条 1 項, 766 条 1 項, 774 条 1 項)。 これさえ
理解していれば, 本問は容易に解けますから,A評価です。
問題 19 は 「直接開示」に関する基本的な問題です。 本問は, 直接開示 ・ 間接開示という過去にも出題されている金商
法のきわめて基本的な問題です (H18 問題 19,H24Ⅱ問題 19)。 金商法はこの数年Cランクの問題が続いており, 学習
しても無駄だという雰囲気を受験生に与えていましたが, 今回は2問とも基本的な問題でした。 収録した講義の中でテキ
ストの中に書かれている過去問を押さえておくよう念を押しておきましたが, 今回は, テキストを学習していれば, 2問とも
容易に正解できたでしょう。 イは基礎答練問題 19 エ, 直前答練第1回問題 19 アイウでズバリ出題しています。 落としては
いけない基本的な問題ですから,A評価です。
問題 20 は 「有価証券の募集の意義」に関する基本的な問題です。 有価証券の募集の意義 (金商法2条3項1号2号)
に関しては, 類問が過去に出題されています (H24Ⅰ問題 19)。 アイウは, 募集といえるための 「取得の申込みの勧誘」
があるかどうかの問題で, 全国公開模試問題 19 でズバリ出題しています。 エですが, 募集とは, 売出しとの関係から, 本
来は新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を言いますが, 自己株式を処分する場合も, 取得勧誘類似行
為として, 募集に含まれます (金商法2条3項柱書かっこ書, 定義府令9条 1 号)。 本問も, 落としてはいけない基本的な
問題ですから,A評価です。
久野 ありがとうございました。 かなり取り組みやすかったんですかね。
さて,ここ2年間の平成27年第Ⅰ回・第Ⅱ回短答式試験・平成28年第Ⅰ回・第Ⅱ回短答式試験は,合格者数・合格率・
合格者水準は違和感の無いものだったと考えています。 平成 27 年第Ⅰ回の合格得点比率は例外的な数値だったんで
しょうが。 この2年間の合格率 ・ 合格者水準を前提に, 短答式試験合格者として企業法でどれくらいの得点比率が求めら
れるでしょう。
田崎 20 問中A評価が 12 問,B評価が8問です。 「A」評価というのは 「必ず正解に達すべき問題」で落としては駄目な
問題, 「B」評価は 「通常の理解をしていれば正解となり得る問題」で, 半分は正解する必要がある問題, 「C」評価は 「細
かい知識を要する難問」で, 落としても合否に影響しない問題です。
B評価の問題は, 問題 1 ・ 問題4 ・ 問題7 ・ 問題9 ・ 問題 12 ・ 問題 13 ・ 問題 14 ・ 問題 17 の8問で, 他の 12 問は落として
企 業 法 ----------------------
本試験をふりかえって∼出題傾向・合格ライン等∼
はならないA評価の問題です。A評価の 12 問の合計点とB評価8問の合計点の半分を足すと, 80 点になります。 講師間
の話合いでは, 企業法の合格ラインは 80 点ということでした。
例年に比べると合格ラインが高いように感じます。 しかし, 落としてもよいC評価の問題が, 例年は2~3問あるのに, 今
年はゼロでしたし, 受験生が苦手な判例の問題が前回の平成 28 年第Ⅱ回短答式試験では7肢あったのに, 今回は2肢
しかありません。 全体的に条文ベースの基本的で素直な良問ですから, 金商法も含め, きちんと学習してさえいれば,
合格ラインは 80 点も納得できるはずです。 易しい問題を落とさなければ, 企業法はかなりの高得点が期待できるでしょ
う。
久野 いつにない水準ですね。 他の科目がどのような状況になるかは現段階では不明ですが, 企業法で 80%は確保し
ておかないと, 競争試験の観点からは苦しさが出るかもしれませんね。 免除科目のない全科目受験者で言えば 1 問5点
は総合得点比率 1 %になるわけですから。
さて, この本試験座談会を初めてご覧になる受験生さんもいらっしゃるでしょうが, 田崎先生, いつものシリーズ, 日本
刀鑑定のシリーズで受験生さんへのメッセージをお願いします。
田崎 10 年くらい前に函館に遊びに行った時に, 駅の観光案内で刀屋はあるかと聞いて, 函館税務署のそばの骨董屋
に行ったら, 日本美術刀剣保存協会の函館支部の事務局の看板が掛かっていたので, 栃木支部の者ですと店に入りま
した。 話を聞くと, 刀をやる人がいなくなって函館支部はすでに解散していたのですが, 店主と雑談をしていて, いずれ
ひ
ご つば
肥後鐔を勉強してみたいと言ったら, これで勉強しろと, 肥後金工大鑑という 23cm×31cm, 493 ページで重さ約 3.68kg
という大きな本をくれました。 古本屋で買えば, 4~5万円はする本です。 ずっしりと重いのを持って帰って, その本を見
ひ
ご つば
て, いつか自分も良い肥後鐔が欲しいとず~っと思っていたのですが, 去年, やっと誰が見ても, 良い鐔だと言うものを2
枚手に入れることができました。
何が言いたいかというと, 試験に1回で合格する人もいれば, 論文を3回, 中には論文を4回受けて合格した人もいま
す。 今年は, 1 回の受験で論文式試験まで合格した人がいたかと思えば, 今年の論文式試験が3回目で, 不合格なら
ば最初からやり直さなければならない状況にありながら見事論文合格した人もいました。 1 回の受験でも3回の受験で
も, それぞれ, よく頑張って, やり抜いたと感心しますが, 一念岩をも通すで, 合格したいという思いが強ければ, きっと
合格できるということです。 気持ちを強く持って欲しいと思います。
久野 合格祝賀会で様々な受験歴のある方の晴れ晴れしい笑顔を拝見できました。 論文式試験合格発表後の 「個別成
績相談 ・ 学習方法相談」では論文式試験3回目で不合格になり, 論文科目免除を持ちながら, 短答式試験に挑む方が
いらっしゃいました。 その方は論文式合格発表後, 短答式試験に合格するためにご自身の足りない部分を冷静に反省さ
れ, 学習方法を改善されていました。 きっと2度目の短答式試験に合格され, 論文式試験もクリアされることでしょう。 「合
格する」という強い思いを持ちながら, 短答 ・ 論文に効果的な学習をしていっていただきたいですよね。
田崎先生, ありがとうございました。
CERTIFIED
PUBLIC
ACCOUNTANT
平成 29年 公認会計士第Ⅰ回短答式試験 特別座談会
管 理 会 計 論
管理会計論担当
高岡 徹 講師
本 試 験 を ふりか えって ∼ 出 題 傾 向・合 格 ラ イン 等 ∼
久野 次に 12 月 11 日2限 (11:10 着席, 11:30 ~ 12:30)に行われた管理会計論です。
高岡先生, 先ほどは 「計算問題一問当たりの配点が増加したことに伴い, より緊張感を持って慎重に取り組む必要が
あり, 精神的にしんどい試験」ということでした。 出題数 16 問という部分では 2016 年試験とは変化はなかったようですが,
問題構成 ・ 配点 ・ 難易度等に変化があったということでしょうか。
高岡 まず問題数ですが, 今回も前回 (2016 年度第Ⅱ回, 以下同様 ) と同様 16 問でしたね。 ただ内訳については大きな
変化がありました。 時間のかかる計算 ・ 融合問題が, 前回は8問だったのに対し, 今回は7問に減少していました。 計算 ・
融合問題が減少した分, 理論問題が増加し, 理論問題は9問となりました。
問題構成の変化に伴い, 配点も変化しています。 前回は理論問題5点 or 6点, 計算 ・ 融合問題6点~8点でした。 今
回は理論問題が一律5点であり, 計算 ・ 融合問題は9点の問題が加わって, 7点~9点でした。 9点問題の解答にあたっ
てはさぞ緊張したことでしょう。 8点問題の割合も増加しており, 1 問 1 問の重みが増しています。
最後に難易度についてですが,理論問題については,前回がA5問,B2問,C 1 問だったのに対して,今回はA6問,
B2問,C 1 問でした。
理論問題は, 文章が長い, かつ間違いを見つけにくい問題が多く, いつもより時間がかかる印象でした。 普段の答練と
は理論と計算の時間配分を変えざるを得なかったと思いますので, 焦ってしまった方もいらっしゃったと思います。
計算 ・ 融合問題については, 前回がA6問,B2問だったのに対し, 今回はA4問,B2問,C 1 問でした。Cの問題が 1 つ
ありましたが,Aの問題については短時間で容易に正答できる問題も多かったです。
総括すると, 前回と比較して, 計算 ・ 融合問題数の減少により時間制約が緩和されたものの, 理論問題の所要時間が
増加していることから, 内容的にも所要時間的にも前回と同レベル程度の試験だったのではないでしょうか。 ただし, そ
れ以前の試験と比べると, 時間制約は大分緩和されており, しっかり学習してきた方であれば正答しているかどうかは別
として全ての問題を解き切るのも難しくはなかったと思います。
久野 管理会計論は長く時間との戦いのイメージがあったのですが, その面は改善されているようですね。 計算でなんか
気になる表現がありましたね。
短答式試験の問題は, ここのところ, 選択肢6つの問題が標準形になっていますが, 管理会計論の計算問題, 問題4 ・
5 ・ 8 ・ 10 では選択肢が5つでした。
それでは各問題のコメントをお願いします。
高岡 問題1は 「理論 (正誤) 原価計算総論, 費目別計算」です。 誤りの記述である, イ. とエ. は典型的な引っかけ方
でしたね。 十分に対策できていたと思いますので容易に正答できたでしょう。
問題2は 「計算 費目別計算 (労務費の計算)」です。 基礎的な内容のみであり, 必要な計算量も少ないボーナス問題
でしたね。 容易にかつ短時間で正答できたでしょう。 取りこぼすことなく, 勢いをつけて欲しかった問題です。
問題3は 「理論 (正誤) 製造間接費の配賦計算」です。 やや細かい内容でした。
ア. は計算論点では出てこないような基準からの出題ですので, やや判断が難しかったのではないでしょうか。
イ. ついては, 基準操業度として理論的生産能力を挙げていますが, 理論的生産能力は原価計算基準では認められ
ていないという点で誤っています。
管 理 会 計 論 ----------------------
本試験をふりかえって∼出題傾向・合格ライン等∼
やや細かい内容であることは否めませんが, 何とか正答して欲しかったですね。
問題4は 「計算 部門別計算 (補助部門費の配賦)」です。 階梯式配賦法と連立方程式法と両方の計算を行う必要が
あり, さらに連立方程式法では, 補助部門費配賦基準が一部割り切れないため, 時間のかかる問題でした。 ただ, 内容
は基礎的な計算論点のため, 落ち着いて何とか正答して欲しかったです。 なお, 補助部門費配賦後の用水部門費が与
えられていることから, その部分の計算は不要でした。
久野 問題5は, 場合によっては, 考え込んでしまいそうな問題ですね。
高岡 問題5は 「計算 総合原価計算 (安定発生, 度外視法)」です。 見慣れない論点でしたね。 安定発生の度外視法
については学習していないため戸惑われたと思いますが, 埋没問題と考えて頂いて結構です。
久野 この問題については, 引き続き, 先生方でじっくり検討 ・ 協議 ・ 審議をお願いします。
先ほど連絡があったのですが他の受験指導校さんでは 「3」が多数派のようですね。 「3」と考えることもできますし、 別
の解法によって計算することもあるでしょうし ・ ・ ・ 。
高岡 問題6は 「理論 (正誤)個別原価計算, 総合
原価計算」です。 文章は長いものの, ウ. エ. に
ついては明らかに誤りと判断できますので, 確実
に正答して欲しかった問題です。
問題7は 「理論 (正誤)標準原価計算」です。 基
準47からの出題でした。 ア. は容易に誤りと判断
できると思います。 ウ. の原価差異の指図書別配
賦については, 計算論点では馴染みのない基準
ですが, 何とか正答して欲しかった問題です。
問題8は「計算 標準原価計算(歩留配合分析)」
です。 ボーナス問題再びです。 勢い加速装置とし
て, 短時間で正答して欲しかった問題です。
問題9は 「理論 (正誤) 管理会計総論」です。
ア. イ. ウ. エ. ともに, 判断が難しいと思いますので, 埋没問題と考えていただいて結構です。
誤りの記述だけ見ていくと, ウ. については経営管理の階層との対応関係により管理会計を体系付けた場合, トップマ
ネジメントが担う戦略的計画,ミドル・マネジメントが担うマネジメント・コントロール,ロワー・マネジメントが担うオペレーショ
ナル・コントロールに分類されます。戦略的計画を「戦術的計画」としている点で誤りです。ちなみに,全国公開模試にて,
戦術と戦略を入れ替えるひっかけ問題を出題していますので, ピンと来た方もいたのではないでしょうか。
エ. はオペレーショナル ・ コントロールの説明ですので,「マネジメント ・ コントロールとは,」としている点で誤りです。
問題 10 は 「融合 財務情報分析」です。 一見取り組みやすそうな問題ですが, 計算量が多く, また, 一部未学習の計
算が出題されていました。 計算方法を知らないと正答にたどり着けないため, 2択までは選択肢を絞り何とか正答して欲
しかった問題です。 なお, インタレスト ・ カバレッジ ・ レシオとは企業の安全性を評価する指標であり, 事業利益を金融費
用で除すことにより計算します。
問題 11 は 「理論 (正誤) 資金管理」です。 判断が難しい記述も含まれていますが, ア. は明らかに誤りと判断できるた
め, 何とか正答して欲しかった問題です。 ア. の正味運転資本は, 流動資産である期末売上債権と期末商品を差し引き
計算している点, また, 流動負債である期末買入債務を加算している点で誤りと判断できます。 イ. については製造業と
卸売業の資産に占める売上高及び減価償却費が生み出すキャッシュフローの大小の説明が逆となっている点で誤って
います。
問題 12 は 「理論 (正誤) 原価管理 (原価企画)」です。 テキストの内容を理解できていれば判断は容易でした。 確実
に正答して欲しかった問題です。
管 理 会 計 論 ----------------------
本試験をふりかえって∼出題傾向・合格ライン等∼
問題13は 「理論 (正誤) ABC/ABM」です。イ.は典型的な用語の引っかけですので容易に判断可能でしょう。エ.
はABCの問題と思いきや, 原価計算基準からの出題でしたね。 基準対策はばっちりだと思いますので, こちらも容易に
判断可能でしょう。
問題 14 は 「理論 (正誤) 業務的意思決定 (差額原価収益分析)」です。 明らかに誤りと判断できるエ. を軸にして, 確
実に正答して欲しかった問題です。
問題 15 は 「計算 設備投資意思決定 (法人税等の影響)」です。 9点問題ですので, 解く際にはさぞ緊張したことでしょ
う。 内部利益率の補間法が面倒ではありますが, 実は補間法を行わずとも解くことは可能です。 回収期間を求めると内部
利益率は選択肢2. 3. 4. の3択に絞ることができますので可能性がある3つの割引率により正味現在価値を計算し, ゼ
ロに近似する数値を選べば良かったですね。 (普通に計算した方が早いかもしれませんが。。。)どちらにせよ容易な問
題ですので, 確実に正答して欲しかった問題です。
問題 16 は 「計算 分権組織とグループ経営 (内部振替価格)」です。 最後の最後にボーナス問題でした。 監査論に向
けての勢い加速装置として, 確実に正答して欲しかった問題です。
久野 ありがとうございました。
さて,ここ2年間の平成27年第Ⅰ回・第Ⅱ回短答式試験・平成28年第Ⅰ回・第Ⅱ回短答式試験は,合格者数・合格率・
合格者水準は違和感の無いものだったと考えています。 この2年間の合格率 ・ 合格者水準を前提に, 短答式試験合格
者として管理会計論でどれくらいの得点比率が求められるでしょう。
高岡 計算 ・ 融合問題は難易度Aの問題2, 問題8, 問題 15, 問題 16 のすべてと難易度Bの問題4と問題 10 のどちらか
を正答し, 39 点は確保したいですね。 理論問題は難易度Aの問題 1 , 問題6, 問題 11, 問題 12, 問題 13, 問題 14 のす
べてと, 難易度Bの問題3と問題7のどちらかを正答し, 35 点は欲しいです。 合計すると 74 点となりますが, 本試験の緊
張感,誰にでも必ずあるケアレスミスを勘案すると, 1 問分差し引いた70点程度が合格ラインとなるのではないでしょうか。
久野 管理会計論では 70%ですね。 70%あれば他者に対して若干アドバンテージになるのかな。
企業法も取り組みやすかったようですし, ここまで近年より高い水準が求められています。 監査論と財務会計論次第で
すが, 合格得点比率が 60%台後半よりも上昇してくるかもしれませんね。
高岡先生, ありがとうございました。