日本におけるスポーツ仲裁の現状と分析 岩田浩* 志田健太郎* 山口亮* はじめに I.スポーツ仲裁機構(JSAA)について 1.JSAA 設立の経緯 2.JSAA とは何か Ⅱ.仲裁判断の先例 6 件 Ⅲ.アンケート調査概要 Ⅳ.スポーツ仲裁に関するアンケート調査~質問の趣旨と結果の考察~ Ⅴ.結論 1. 「上智 10 原則」の提案 2.JSAA による仲裁判断を通じた分析 おわりに はじめに 2003 年 4 月 7 日、わが国で最初の(そして、唯一の)スポーツに関する紛争を解決する た め の 常 設 仲 裁 機 関 で あ る 、 日 本 ス ポ ー ツ 仲 裁 機 構 (Japan Sports Arbitration Agency:JSAA)が設立された。 我々は、今回の研究に際して、JSAA の設立が、スポーツに関する紛争の予防・解決に 何らかの影響を及ぼしたのではないかという仮説を立てた。そこで、その仮説を検証する ため、①JSAA 設立の意義とそれが果たす役割、および、②スポーツ紛争を JSAA の仲裁 を通して解決することについての事実的・法的問題点を確認し、その解決策を提示するこ とを目標に、そのためのアンケート調査1を実施した。 このアンケート調査は、日本オリンピック委員会(JOC)、日本体育協会(JASA)、および、 日本障害者スポーツ協会(JSAD)に加盟している 99 団体に対してご協力を依頼し、そのう ち、44 通の返信を頂戴した。ご協力を頂いた団体の方々に、心より御礼申し上げる。 I.スポーツ仲裁機構(JSAA)について * 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻 2 年次 1 アンケート自体については、別紙 1 を、アンケート結果をまとめたものについては、別紙 2 を参照。 74 1.JSAA 設立の経緯2 (1)わが国におけるスポーツ紛争解決制度、 すなわち JSAA 創設の端緒となったのは、 1998 年 1 月に「アンチ・ドーピング体制に関する協議会」(JOC と JASA が中心となって 1996 年に設立)が作成した「我が国におけるアンチ・ドーピング体制について」と題する報告書 であった。これは、世界的なドーピングに対する規制強化の動きに対応し、わが国でもド ーピングに関する紛争を解決するための仲裁機関を設立すべしとする提言であり、現在の JSAA のような仲裁機関の設立を希望していたかどうかはともかく、スポーツに関する紛 争を仲裁するための常設機関の創設は、スポーツ界の要望するところでもあった。 (2) そもそも、国際的には、スポーツに関する紛争を解決する機関として、1984 年に国 際オリンピック委員会(IOC)によって設立された、「スポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport:CAS)」が存在する。わが国でも、シドニー・オリンピックの際に、 水泳競技の代表選手選考からもれた千葉すず氏が、2000 年 5 月、日本水泳連盟を相手取 って CAS に仲裁を申し立てたことで話題になった。 この事件に対する CAS の仲裁判断は、 選手選考自体には問題はないということで、日本水泳連盟側の主張が認められたものの、 代表選手の選考基準を事前に公表していなかった点に問題があるということで、千葉すず 氏の弁護士費用の一部(1 万スイス・フラン(約 62 万円))の支払を、日本水泳連盟に命じる ものであった。しかし、何はともあれ、CAS の仲裁によってこの事件が決着したことは、 スポーツ団体側がスポーツ仲裁に対して好意的な印象を抱くことにつながったのものと思 われる。 (3) その後、 「スポーツ仲裁研究会」(JOC の研究会)の設置(1999 年 12 月)、スポーツ団 体に対するアンケート調査(2000 年 11 月)、 「日本スポーツ仲裁機構創設準備委員会」 (JOC、JASA、JSAD の 3 団体からの委員を含む)の設立(2002 年 8 月)等を経て、2003 年 4 月 7 日、ついに JSAA が設立されることとなった。 2.JSAA とは何か (1) <JSAA とは> JSAA は、スポーツに関する紛争を公正中立・迅速に解決するために 2003 年 4 月に設 立された、常設の仲裁機関である。JSAA は、JOC、JASA、JSAD の 3 団体からの拠出金 により運営されている。 (2) <なぜ JSAA が必要なのか> そもそも裁判所は「法律上の争訟」3(裁判所法 3 条)しか取り扱わないので、誰を代表選 2 以下の記述は、道垣内正人「日本におけるスポーツ仲裁制度の設計-日本スポーツ仲裁機構(JSAA)発足 にあたって」 『ジュリスト』1249 号,2 頁(有斐閣,2003)に負う。 75 手に選ぶのかというようなスポーツに関する紛争の多くは、裁判所に提訴しても訴えが却 下される可能性が極めて高いと言われている4。 また、たとえ訴状が受理されたとしても、通常、判決が確定するまでには多くの時間・ 費用がかかることに加え、選手選考の事案などは、大会が終了してしまえば、 「訴えの利益」 5 が消滅してしまう。不法行為に基づく慰謝料請求は、場合によっては認められる可能性も あり得るが6、大会に出場する機会を奪われることは、事後的な金銭賠償で代替できるもの ではない。 そこで、裁判所に代わる紛争解決機関が必要となるのである。 (3) <仲裁の種類> JSAA に申し立てることができる紛争は、 「競技団体が下した決定(競技中になされる審判 の判定は除く。)」である(スポーツ仲裁規則 2 条 1 項)。 このように紛争の類型を限定した理由は、JSAA の主たる目的は、 「競技者の権利の擁護 とスポーツにおけるルールの明確化の一翼を担うこと」にあるところ、以上の目的のため に限りある物的・人的資源を有効に利用するためだとされている7。 JSAA 設立当初は、仲裁の種類はこの 1 種類のみであったが、その後、関係者の需要に 応えるため、その対象範囲を拡大した「特定仲裁合意に基づくスポーツ仲裁」という手続 が別途定められた。 JSAA によれば、これは、町のソフトボール大会の組み合わせをめぐる争い、コーチの 選手に対するハラスメントの告発、競技会の運営団体とスポンサー企業との契約解釈をめ ぐる対立、競技者と競技団体との肖像権問題、競技団体とスポンサーとの間の問題など、 3 判例によれば、 「 『法律上の争訟』 」とは法令を適用することによつて解決し得べき権利義務に関する当事者 間の紛争をいう」とされている。(最高裁昭和29年2月11日民集 8 巻 2 号 419 頁)これは、 「A と B の学 説のどちらが正しいか、A という神と B という神のどちらが正しいか、A という絵と B という絵どちらが美し いか」といった「学問上、宗教上、審美上の争いは裁判になじまない」 (高橋宏志『重点講義民事訴訟法・上』 297 頁(有斐閣,2005) )といった理由からである。 スポーツに関する紛争の場合も、①「F1 のレース中にドライバーに課された一周減算のペナルティを取り消 せ」といった、スポーツの順位そのものを対象とする紛争は勿論(東京地裁平成 6 年 8 月 25 日判時 1533 号 84 頁)、②「○○は代表選手として選ばれるべきか」といった、競技外でなされるスポーツ団体の決定を対象とす る紛争についても、裁判所がそのようなことを判断することはできないと解されている。 4 Masato Dogauchi「The Activities of the Japan, Sports Arbitration Agency」in IAN BLACKSHAW/ROBERT SIEKMANN/JANWILLEM SOEK, THE COURT OF ARBITRATION FOR SPORT 1984-2004 (T.M.C.Asser Press, 2006), pp.300 参照。 5 「訴えの利益」とは、 「本案判決をすることの必要性およびその実際上の効果(実効性)を、個々の請求内容 について吟味するために設けられる要件」 (新堂幸司『新民事訴訟法〔第 3 版〕 』237 頁(有斐閣,2004) )など と定義されており、これが認められないと訴えが却下されてしまうことになる。 6 全日本柔道連盟(全柔連)と対立を続けていた日本学生柔道連盟の所属選手 7 人が、全柔連の不当な資格 制限のため、1984 年世界大学柔道選手権大会の日本代表選手会に参加できず、世界大会の道が閉ざされたと して、全柔連に対し、精神的苦痛に対する慰謝料を請求し、それが認められた(1 人 5 万円)という事案があ る(東京地裁昭和 63 年 2 月 25 日判時 1273 号 3 頁) 。 7 JSAA の公式コメントである「特定仲裁合意に基づくスポーツ仲裁について」参照。 76 スポーツに関するあらゆる紛争を対象とする8。 なお、 「特定仲裁合意に基づくスポーツ仲裁」は、基本的に本稿の検討の対象外であり、 以下、JSAA の仲裁といった場合には、特別に断る場合を除き、 「スポーツ仲裁規則」に基 づき「競技団体が下した決定」を争う仲裁のことを述べているものとする。 また、 通常の仲裁手続とは別に、 緊急仲裁手続が定められている(スポーツ仲裁規則 50 条)。 これは、JSAA が、事態の緊急性または事案の性質に鑑み極めて迅速に紛争を解決する必 要があると判断したとき、仲裁人を 1 名とし(JSAA がこれを選任)、簡略化された手続の もとに、仲裁判断を下すものである。 主に、大会が差し迫った時期における選手選考に対する不服などに使われることが予定 されており、過去に JSAA で行われた仲裁のうち 6 件中 2 件が緊急仲裁手続で行われてい る。 (4) <JSAA で仲裁を行うために必要なこと> 裁判と異なり、仲裁を行うためには、相手方との間で、紛争を仲裁で解決するとの合意 (仲裁合意)が必要である。この合意は、競技者等から実際に仲裁を申し立てられた後で行 ってもよい。もっとも、スポーツ団体が仲裁で争うことを拒否をすれば、競技者等は JSAA による仲裁を受けられないこととなる。 実際に紛争が生じた後では、自分達に不利な事案ほど仲裁で争うことを避けたいと思う のが心情であることからすれば、予めスポーツ団体の規則の中に仲裁合意を規定しておく 方が、競技者等の権利保護のためには望ましい。2005 年 9 月 30 日現在で、仲裁合意条 項を採択済みのスポーツ団体は、JOC、JASA、JSAD の 3 団体を合わせて 38 団体ある。 ただし、各団体によって採択している仲裁条項の内容は異なるから、事案によっては、仲 裁合意は自働的に発生せず、新たな合意を結ぶ必要がある。(たとえば、ドーピングに関す る紛争のみを JSAA の仲裁に付託する旨の規定を定めている団体に対しては、オリンピッ クの代表選手選考に関する紛争については仲裁合意はなされていないこととなる。) (5) <仲裁人> 仲裁手続は、通常、中立的な立場の 3 名の仲裁人からなる仲裁パネルにより進められる ことになっている。3 名の仲裁人は、まず、当事者がそれぞれ 1 名ずつ仲裁人を選定し、 その両者により第 3 の仲裁人が選定されるという方法で選ばれることになっている(スポ ーツ仲裁規則 22 条)。 仲裁人は、原則として仲裁人リストの中から選ぶこととなっているが、特に合理的な理 由がある場合には、それ以外から選ぶこともできる(スポーツ仲裁規則 20 条 4 項)。仲裁 8 前掲(注 7)参照。 77 人の属性の内訳は、弁護士 31 名、大学教授・助教授 30 名、その他 1 名であり、全員が 法律の素養がある者である(2004 年 11 月 1 日現在)。 (6) <仲裁手続> 仲裁パネルは、両当事者の主張や提出された証拠に基づいて事実を認定し、それに競技 団体の規則その他のルール、および法の一般原則を適用して、仲裁判断を下す(スポーツ仲 裁規則 43 条)。 仲裁パネルが両当事者の意見を直接聞く機会としては、 「審問手続」が設けられている(ス ポーツ仲裁規則 26 条以下)。その具体的内容は、以下のとおりである。 仲裁パネルは当事者の意見を聞いたうえで、審問期日を決定する(同規則 28 条 1 項)。 紛争解決の迅速性を重視するという観点から、審問は 1 回だけ開くのが原則とされ、これ までの 6 件の仲裁すべてにおいて、審問期日は1日だけ指定された。なお、それらの仲裁 における審問時間は 4 時間から 5.5 時間であった。 審問期日では、主張書面の提出(スポーツ仲裁規則 29 条)・証拠の申し出(同規則 31 条)・ 証拠調べ(同規則 32 条)が行われ、両当事者の出席が原則とされている(同規則 33 条)。 もっとも、主張書面の提出・証拠の申し出・証拠調べはいずれも審問期日外でも行うこ とが可能であることがスポーツ仲裁規則で定められている。これまでの仲裁においても、 審問期日には主に当事者尋問や証人尋問が行われ、主張・証拠の申し出の大部分は審問期 日前になされている。 (7) <仲裁の費用> 競技者が負担する申立費用は、選手等がなるべく JSAA を利用しやすくなるように、紛 争の種類・規模に関わらず、一律 5 万円とされている。 これに対し、 「特定仲裁合意に基づくスポーツ仲裁」は、一般の商事仲裁などと同じよ うに、仲裁にかかる費用を当事者から徴収することとなっており、その額は、請求額によ って異なる。(「特定合意に基づくスポーツ仲裁仲裁料金規程」参照。) (8) <仲裁パネルの下した仲裁判断の効力> JSAA による仲裁の仲裁パネルが下した仲裁判断には、裁判所における確定判決と同一 の効力はないと解されている。すなわち、仲裁法の適用があれば、仲裁判断には、確定判 決と同一の効力があるから、裁判所から別途執行決定を得たうえで、その仲裁判断を強制 的に履行することができるが(仲裁法 45 条)、JSAA による、スポーツ団体の決定を争う仲 裁は、仲裁法 13 条の定める「当事者が和解をすることができる民事上の紛争」ではない から、仲裁法の適用はなく、したがって、それを強制的に執行することはできないと解さ 78 れている9。 しかし、JSAA の仲裁判断はインターネット上で一般に公開されるため(スポーツ仲裁規 則 37 条 2 項)、当事者が仲裁判断の内容を自主的に履行する期待は高く、事実上の拘束力 は大きいといえる。(この点については、アンケートの調査結果との関係で、(Ⅳ.二.4) で詳しく検討する。) (9) <スポーツ団体からの独立性> スポーツ仲裁機構がスポーツ団体から独立していることは、公平な仲裁を行うために必 要不可欠なことである。 JSAA は、運営資金を、JOC、JASA、JSAD の 3 団体からの拠出金に頼っており、一見 すると、独立性に若干の疑問があるようも思える。 しかし、理事 9 名のうち 6 名は、上記 3 団体が各 2 名任命できるところ、そのうち 1 名は競技者ないし元競技者でなければならないことになっている(日本スポーツ仲裁機構 規定 14 条 1・2)。 さらに、その 6 名のうち 3 名が、出資団体にも属さず、競技の経験もない「中立理事」 として選任されることになっており(日本スポーツ仲裁機構規定 14 条 3)、いずれの側も 単独では多数意見を形成することができない仕組みになっており、中立性は確保されてい るといえる。 Ⅱ.仲裁判断の先例 6 件 ここで、JSAA の現状を分析するため、実際に JSAA で行われた過去の仲裁 6 件を紹介 する。その際に、必要な限りで、簡単なコメントを付記する。 以下、仲裁の申立人を X、被申立人を Y と記す。 (なお、判旨「」内は、仲裁判断の完全な引用ではなく、その論旨を明確にするために、必 要に応じて下線を引き、番号を付す等している) (1)ウエイトリフティング事件(2003 年 8 月 4 日) (仲裁人:小幡純子 萩原金美 小寺彰) <申立人> X 9 道垣内正人「日本スポーツ仲裁機構(JSAA) 」 『法学教室』276 号,2 頁(有斐閣,2003) 。 79 <被申立人> 社団法人日本ウエイトリフティング協会(Y) <事件の概要> A 大学ウエイトリフティング部に所属していた男子部員が、大麻取締法違反の被疑事実 で逮捕された。 Y は、この男子部員に対し、理事会決定により、2 年間の資格停止処分を下すとともに、 同女子部コーチである X に対しても、Y の「普通会員登録規程」に基づき、「部員に対す る監督不行届き」を理由として、「平成 15 年 3 月 23 日をもって本協会の登録から除籍 する。平成 15 年 3 月 23 日から平成 15 年 9 月 22 日までの間、本協会への登録を拒否す る。」との処分決定を行った。 ところが、Y には、本件のような処分を行うことについて直接的に定める規定は存在しな かった。 <判旨> 請求認容。 本件仲裁パネルは、一般論として、(1)スポーツ団体の運営には「一定の自律性が認め られ、その限度において仲裁機関は団体の決定を尊重しなければなら」ず、(2)仲裁機関 は、スポーツ団体の決定が「①その制定した規則に違反している場合(以下、 「原則①」と いう)、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合(以下、 「原則②」という)、 または③決定に至る手続に瑕疵がある場合(以下、 「原則③」という)等において、それを取 り消すことができるにとどまる」とした。 その上で、本件大麻所持事件によって逮捕された学生が、A 大ウエイト部の男子部員で あり、他方、申立人は A 大ウエイト部女子部のコーチであって、男子部員に対する指導監 督には直接関与せず、男女の部員によって練習場も異っており、男子部員に対する指導監 督は、申立人が負う指導監督義務の範囲を超えるものである、という処分の実体上(内容上) の不備に対する X の主張に対しては、 「(3)大麻がドーピング物質(禁止薬物)であること を考えると、…監督不行届きを理由にしてその責任を問う余地が全くない、とまで断言す ることはできないが(筆者注:原則①の場合とはいえないが)、(4)この場合にも、(ⅰ)処分 を決定する判断過程に重大な誤認があったり、(ⅱ)違反事実の重大さに応じて処分を選択 すべきであるとする比例原則に反したりするなど、当該処分が著しく合理性を欠く場合(筆 者注:原則②の場合)には、違法となりうる」とした。 また、処分の際の手続上の不備に対する X の主張に対しては、 「(5)確かに公益法人であ る相手方協会に対して行政手続法等が直接的に適用される余地はない」が、 「(6)その規定 の趣旨が法の一般原則・条理の表現でもある場合には、それが本件処分のような決定に対 しても適用されることを妨げるものではない」とし、具体的には、(7)スポーツ団体が、 「構 成員に対して、…除籍等の重大な不利益処分を行う場合には、個々の処分対象者について、 80 具体的にどのような点で監督が不行届きであったかを認定して行うべきであ(り)、その場 合、…本人からの事情聴取を行うなど何らかの弁明の機会を与えることは不可欠の手続で ある」にもかかわらず、「本件処分は…X に告知もされることなく不意打ちで処分が決定 されており、処分決定手続に明らかに重大な違法があるといわざるをえず、取り消される べきである」、また、(8)「実質的に指導していた者と、実質的には指導に関与する余地 がないのに形式的に部のコーチと位置づけられている者に対して、全く同一の処分を行う ことは、比例原則違反…である」、さらに、(9)「本件のような処分を行う場合に、最低限、 処分の根拠となる規定を示すことは不可欠であり、…根拠規定が明確に示されずになされ た本件処分はきわめて不適切といわなければならない」などとして、Y の行った処分を違 法だとした。 <コメント> (1)本件仲裁パネルは、一般論として、スポーツ団体の内部運営には一定の自律性が認め られることを承認し、そのことから、原則として、仲裁機関は団体の決定を尊重しなけれ ばならないと述べている。 法律学上、団体の自律権については、 「自主的な団体の内部紛争に対して、裁判所が審査す ることができるか」という形で問題とされる。 かつては、これらの団体を一般市民社会の中にあってこれとは別個に自律的な法規範を有 する特殊な部分社会」であるとし、それを理由に、その内部紛争はすべて司法審査の対象 にならない、と解する見解もあった(「部分社会論」)。 しかし、現在では、団体の内部紛争を、 「部分社会論」のように、一律に裁判所の審査対象 外に追いやるという態度はとられておらず、団体の目的・性質、紛争や争われている権利 の性質等を考慮に入れて個別具体的に検討しなければならないとする説が多数を占めてい る10。 本件仲裁パネルも、団体の自律権を最大限尊重しつつ、(原則①~③に該当する)例外的な 場合には団体の決定を取り消すことができるとしており、多数説の方向にあるといえる。 (2)本件仲裁パネルの定立した原則のうち、原則①及び②は、処分の実体上(内容上)の問題 に関するものであり、原則③は処分の際の手続上の問題に関するものである。 実体上の問題につき、原則②をみるとわかるように、団体の規則に違反していない決定 は、 「著しく」合理性を欠く場合にのみ取り消すことができるとされている。このことは、 スポーツ団体の決定が、単に合理性を欠く程度では取り消されることはないということで あり、JSAA の行う仲裁において、スポーツ団体の自律権は最大限尊重されていると評価 することができる。 また、手続上の問題につき、本判断も適切に述べるように、公益法人である団体に対し 10 芦部信喜=高橋和之補訂『憲法〔第 3 版〕 』 (有斐閣,2002)316 頁 81 て行政手続法等が直接的に適用される余地はない。 しかし、その規定の趣旨が法の一般原則・条理の表現でもある場合には、それが本件処分 のような決定に対しても適用されるという判断が示され、そこで例示されている「弁明の 機会の付与」や「処分の根拠となる規定を示す」などは、スポーツ団体が実際に処分を課 す際に守るべき規範として参考とされるべき事柄である。 もっとも、処分の内容は正しいが、処分の際の手続が妥当でない場合、その処分は取り消 されるべきかという問題については、判旨から判断することはできない。 仮に、そのような場合にもスポーツ団体の決定が取り消されるべきであるという判断を下 すとしても、本件のような不利益処分を争う場合と、代表選手選考を争う場合とでは、そ れをやり直す時間・関係者に及ぼす影響等の違いを考慮すると、同様の判断できるかどう かにも疑問がある。 (3)本仲裁判断は、記念すべき第 1 号案件として、具体的にその後の仲裁判断においても 参照されることとなる 3 つの原則を定立した。 また、 スポーツ団体の行う決定についても、 行政手続法の趣旨が適用されることを示した。 以上の点に加え、実際に被処分者の側の申立てが認められ、その権利が保護されることと なった唯一の仲裁判断として、その先例的価値は極めて高い。 (2) テコンドー事件(2003 年 8 月 18 日) (仲裁人:望月浩一郎) <申立人> X <被申立人> 財団法人日本オリンピック委員会(Y) <事件の概要> 諸般の事情により、自らを日本におけるテコンドー競技団体と主張する団体が 2 つ存在 する状況で、夏季ユニバーシアード大会に派遣するテコンドー競技日本代表選手及び同競 技役員の選任権限を有する Y は、選手 1 名、役員 2 名を選任した。 それに対し、仲裁規則 2 条の「競技支援要員」にあたる X は、①本大会派遣の選手と役員 との比率は、少なくとも役員数は選手数以下であるという明文上または慣習上の規定に反 する、②選手と役員と併せて 3 名の派遣枠があるのであれば、選手を 2 名派遣すべきであ り、派遣する代表選手数以上の役員を派遣する合理的理由がないことを理由として、 代表役 員 2 名の決定の取消しを求めた。 <判旨> 請求棄却(一部申立て却下)。 82 本件仲裁パネルは、 「(1)オリンピックにおいては、選手数と役員数との関係(種目別では なく国別の総数である)では、役員数は選手数の 2 分の 1 以下とするルールはある」が、ユ ニバーシアード大会との関係では、 「派遣する選手数と役員数との関係について、明確な規 定は存在しない」、「(2)選手の実力を発揮するための配慮と、テコンドー競技団体間の組 織問題を複雑化させることを避ける配慮の結果、(上記のような決定をしたことについ て、)Y の決定は裁量権を逸脱したとは認められない」とした。 (3) 身体障害者水泳事件(2004 年 2 月 16 日) (仲裁人:野村美明 浦川道太郎 水戸重之) <申立人> X <被申立人> 日本身体障害者水泳連盟(Y) <事実の概要> X は、 平成 12 年 10 月に開催されたシドニー・パラリンピック大会において、 女子 200m 自由形リレーの第 2 泳者として出場し、世界新記録で優勝し金メダルを受賞した。 ところが、翌日 JOC の外出許可を得て外出した X は、選手村に帰るバスの中で気分が悪 くなり、選手村に到着時には意識消失状態となったが、その時予備のステロイド薬を携帯 していなかった。 その後、X が平成 13 年度及び平成 14 年度の強化指定選手に選出されることはなく、さ らに、平成 15 年度強化指定選手の選考に際しても、X が、代理人を通じて候補者に対し て配布されている書類を送付することを求めたところ、Y は、Xを強化指定選手に指定し ない旨を通知した。 その主たる理由は、①シドニー大会の際の体調不良が重症であったこと、②薬の量に変化 はないこと、③年齢、④以下(ア)乃至(ウ)の X の行為は、Y の国際大会強化指定選手規定(以 下、 「本規定」という)(平成 15 年 2 月改定)にある、 『トップアスリートとして礼儀と規律 を遵守し、日本の代表となり得る者』との選考条件に該当しないことであった。 具体的には、(ア)シドニー大会の年に、X が主治医から「競技の引退、身体の安静」を勧 められていたことを Y に報告しなかったこと、(イ)X のホームページで Y 役員とのやり取 りを一方的な解釈のもとに非難、実名を掲載するといった行為、(ウ)政治家を使う行為、 である。 これに対し、X は、①自らを強化指定選手に指定しない決定の取消しと、②自分を強化指 定選手に指定することの義務付けなどを求めた。 83 ②の請求に関しては、そもそも仲裁パネルがこのような義務付けをスポーツ団体に命じる 権限があるのかどうかが問題となり得るが、本件では、後述するように、①の請求が認め られないから、その点について判断するまでもなく、②の請求は棄却するという判断がな された。 なお、平成 13 年 2 月改定の本規定は、 『年齢、体力、健康などに著しい支障がないこと』 (4 項)、 『トップアスリートとして、他の選手の手本となるもの』(5 項)であったところ、 平成 15 年 2 月改定の本規定では、それぞれ、 『健康上の問題がなく、競技水泳を行う上で 心身ともに適した状態であること』(4 項)、 『トップアスリートとして、礼儀と規律を遵守 し、日本代表となり得る者』(5 項)に変更されている。 <判旨> 請求棄却(一部申立て却下)。 本件仲裁パネルは、一般論として、(1)ウエイトリフティング協会事件の仲裁パネルが述 べる 3 つの原則(原則①~③)に依拠することを確認した上で、新たに、(2)④スポーツ団 体の「制定した規則自体が法秩序に違反しまたは著しく合理性を欠く場合」(以下、 「原則 ④」という)にも、かかる規則を適用した決定を取り消すことができる」とした。 そして、第 1 に、平成 13 年 2 月改定の本規定の定める『年齢、体力、健康などに著しい 支障がないこと』(以下、 「年齢基準」と「健康基準」という)、および、 『トップアスリー トとして、他の選手の手本となるもの』(以下、 「品格基準」という)という基準は著しく合 理性を欠く(原則④)、との X の主張については、 「(3)「健康基準」…は、それ自体合理的 な基準」であり、 「(4)「年齢基準」…は、体力とともに「加味する」というのみであって、 …考慮すべき問題と考えたとしても著しく合理性を欠くとはいえない。 」とし、また、 「(5) 「品格基準」…は、抽象的であり、濫用されるおそれがないとはいえないが、他の選考基 準はすべて満たしつつも著しい非行の見られる選手…を除外すべき場合がないとはいいき れず、著しく合理性を欠くとはいえない」とした。 第 2 に、Y は、変更後の本規定の下で、健康上の問題だけでなく年齢や品格も考慮に入れ て本件決定をした、そのような本規定の運用は著しく合理性を欠く、との X の主張につい ては、 「(6)(そのような)事実は否定しきれないものの、X の健康問題が主たる理由であり、 年齢、品格の点はあくまで付加的な理由に過ぎないから、結論には影響を与えない」とし た。 第 3 に、Y は、メダル獲得に関心をもつ競技団体として、世界ランク 5 位相当である X に ついて選考対象として検討するのは自然であり、X に対して、改めての健康診断、面談を すべきであったのにそれをしなかった手続上の瑕疵がある、という X の主張(原則③)につ いては、 「(7)(本決定の内容は、)本決定時及び事後の判断として、結論において著しく不 合理ということはできないものであるから、仮に手続きに問題があったとしても、本決定 を無効にするだけの重大な瑕疵があったとは言い難い」とした。 なお、本件では、仲裁パネルの意見が付されている。仲裁人がこのような意見を述べるこ 84 とに対しては、我々が実施したアンケートの個別意見で、 「意見は結論を直接導く論拠とは なっておらず、単なる傍論11であり、それが一人歩きしてマスコミに報道されることは好 ましくない」という批判を頂いた12。 また、そもそもなぜ仲裁人がこのような意見を言うことができるのかという疑問もあると ころではある。 確かに、判断の結論を導くうえで意味のある理由付けの部分と、仲裁人の意見の部分を安 易に混同することは慎まなければならない。 しかし、JSAA には、スポーツ団体にあるべき行動規範を示すという役割もあると考え れば(一般的な仲裁は、本来非公開であるはずであるが、JSAA による仲裁は、スポーツ仲 裁規則 37 条 2 項により、インターネット上で一般に公開されることは、このことを裏付 ける一つの理由となると考える。)、肯定的な評価がなされ得よう13。本稿の執筆者として は、JSAA にはそうした役割が期待されていると考える。 本仲裁判断において意見に該当する部分の内容は以下のとおりである。 「①競技水泳への参加を「心の糧」としてきた X にとって、オリンピックへの出場が不可 能となることは、極めて重大な問題であり、X の心情に大きな喪失感をもたらすことは想 像に難くない。 ②平成 13 年度の強化指定選手への不選出の際、その時点ですでに健康上の理由により今 後Xが強化指定選手や日本代表選手に選出される可能性はなくなっていたと考えられるに もかかわらず、書面に「年齢とランキングを考慮し選考しました。また、今後予定されて いる国際大会派遣資格を失ったものではありませんので申し添えます。 」 と記載していたこ とは不適切である。 ③年齢基準についても、その目安として 40 歳以上を挙げていたにもかかわらず、当時 44 歳であった A 選手を平成 14 年度の強化指定選手に選出するなど、不透明な運用をし ており、平成 15 年の本規定の改正の際に、年齢基準を本規定から削除するなど、ちぐは ぐな対応をしており、X において自己を恣意的に排除しているのではないかと強く疑わせ ることとなったと思われる。不選出の理由として障害者の健康問題を挙げることはデリケ 11 法律学上は、判決の結論を導くうえで意味のある法的理由づけの部分、すなわち「判決理由」 (レイシオ・ デシデンダイ ratio decidendi)と、判決文中これと関係のない部分、すなわち「傍論」 (オビタ・ディクタム obiter dictum)とは明確に区別されており、後に起こる別の事件で同じ法律問題が争点となったとき、その裁 判のよりどころとなりうる先例として扱われるかのような法的効力を有するのは前者のみであるとされている。 (芦部信喜=高橋和之補訂『憲法〔第 3 版〕 』361 頁(有斐閣,2002) ) 。 12 同じく、意見と仲裁判断の峻別を強調する見解として、日本障害者水泳連盟の公式コメントである「スポ ーツ仲裁裁定に関して会員から執行部の対応について見解を求められている点についての連盟執行部の見解」 (平成 16 年 2 月 28 日)参照。 13 道垣内正人教授は、仲裁パネルが意見を述べることに対して、法律家の間にも、スポーツ界の人々に法の ルールを学んでもらうことになるとして積極的に支持する見解と、当事者の利益をいたずらに害さないように 細心の注意すべきであるとして慎重な態度をとる見解の、2 つの異なる見解があると述べられている(前掲(注 4)pp.310 参照) 。 85 ートな問題があるので、あえて年齢問題で説明したと証言しているが、そのような不透明 な説明はかえって X の疑念を強くしただけであり、Y としては、適切な医師の所見に基づ き下した正当な判断であるのであれば、毅然として真実の理由を伝えるべきであった。 ④ボランティアによる活動であるからといって、競技者に重大な影響のある選考の基準や 手続きが不透明であったり恣意的であったりしてよいということにはならないことはいう までもない。のみならず、上記判断中に指摘した点は少人数のボランティアによる運営で あったとしても対応可能なものであった。 ⑤仮にボランティアによる活動であることを理由に上記に指摘した点が肯定されるとすれ ば、はたして相手方がわが国の代表選手を選考する団体としての「社会的期待」に応える だけの組織及び体制といえるのか、疑問なしとしない。相手方においては、その選考に関 する判断が、競技スポーツを「生きがい」とし、実力的にも日本を代表するレベルの競技 者の競技人生にとって極めて大きな影響のあることを認識し、選手選考手続きの透明性及 び客観性の確保を図るべきである。 」 <コメント> (1)本件仲裁パネルは、ウエイトリフティング協会事件の仲裁パネルが述べる 3 つの原則 (原則①~③)に依拠した上で、「年齢基準」は、体力とともに「加味する」というのみで あるから、また、「品格基準」は、抽象的であり、濫用されるおそれがないとはいえない が、他の選考基準はすべて満たしつつも著しい非行の見られる選手を除外すべき場合がな いとはいいきれないから、著しく合理性を欠くとはいえないとした。 このことは、「年齢基準」を主たる目的とする選手選考は許されないこと、また、「品格 基準」は抽象的であり、乱用されるおそれがあるから、「著しい」非行に限るべきことを 示唆しており、スポーツ団体が選手選考基準を作成する際の参考になるのではないかと思 われる。 (2)また、本件でそのような判断がなされたわけではないが、手続に関する瑕疵があって も、処分の内容が適正であれば、スポーツ団体の決定を取り消す必要はないという趣旨の 判示に対しては、異論もありうるところである。 確かに、法律学上の議論では、手続自体の価値を重視し、手続に関する瑕疵自体で、そ の後になされた行為を取り消すべきであるというような主張がなされる場面も数多くある が、本件のように代表選手選考の場面で、手続を取り消した後、結果が変わらないのに再 び選手選考をし直すということは、関係者に及ぼす影響の大きさを考慮すると、あまり意 味のあることとは思われないから、 本件事案との関係では、 この判断は妥当だと思われる。 (3)仲裁パネルの意見の部分に関しては、①の部分で本件のような代表選手選考では、競 技者等の主張する利益の要保護性は大きいことを述べており、賛成する。 また、④⑤(とくに⑤)について、スポーツ団体側にとってかなり厳しい意見が示された という事実は、そのことに対する賛否は別として、団体関係者の方に知っておいて頂きた 86 いと思う。 (4)馬術事件(2004 年 7 月 14 日) (仲裁人:小寺彰 竹之下義弘 浦川道太郎) <申立人> X <被申立人> 日本馬術連盟(Y) <事実の概要> アテネオリンピック代表選手(人馬)に選出されなかった X が、「Y が2004年6月1 5日に行ったアテネオリンピック障害馬術出場人馬の決定は、Y の定めたアテネオリンピ ック障害馬術代表選手選考基準を満たしていない人馬を代表に決定しているので、取り消 されるべきである」ことを理由に、①Y が平成16年6月15日に行ったアテネオリンピ ック障害馬術出場人馬の決定を取消しと、②自分と自分の馬を、アテネオリンピック障害 馬術出場人馬として選手として選出することを求めて JSAA に仲裁を申し立てた。 <判旨> 請求棄却。ただし、申立料金 5 万円と、X が要した仲裁費用のうち 50 万円は、 Y の負担とする。 本件仲裁パネルは、(1)先例によって確立されつつある 4 原則の妥当性を確認した上で、 (2)認定された事実のもとでは、「本件選考に利用された基準が著しく合理性を欠く(原則 ④)とはいえない」としたが、(3)Y にも落ち度があったことを認め、スポーツ仲裁規則第 44 条第 3 項および第 51 条第 4 項に基づき、少なくとも申立料金 5 万円と申立人の弁護 士費用の一部に当たる 50 万円は Y が負担するのが適当だと判断した。 判旨の中で、特に興味を引くのは、選考基準が公表されていなかったことに対する判断で あり、本件仲裁判断は、 「(4)公表されなかった選考基準によって評価がなされた場合に、 未公表選考基準が選手に公表されていたとすれば異なった代表決定がなされていた蓋然性 が高いといえるときは、当該決定を取り消すべきである」とした点である。 <意見> 「①オリンピック大会への出場は多くのスポーツ選手にとって大きな夢であり、またその ために一流スポーツ選手は練習に明け暮れる毎日を送っている。… ②選手・役員の渡航費ならびに滞在費の 3 分の 2 を国庫から補助し、また例年の選手強化 費用の 3 分の 2 を負担している。このようなオリンピック大会の公的意義を踏まえれば、 各競技団体が行っている代表選手選考は公平で透明性の高い方法で実施されなければなら ず、またスポーツ選手は、国民の一人として、合理的な基準を満たせばオリンピック大会 に参加する権利をもつと考えなければならない。選手選考を委ねられた各国内スポーツ連 87 盟はオリンピック大会の公的性格を踏まえて、 「国の代行機関」として代表選手選考に当た っていることを深く自覚する必要がある。 」 <コメント> (1)本件仲裁判断は、公表されなかった選考基準によって評価がなされた場合に、未公表 選考基準が選手に公表されていたとすれば異なった代表決定がなされていた蓋然性が高い といえるときは、当該決定を取り消すべきであるとしている。このことは、身体障害者水 泳事件の仲裁判断と同じく、手続の瑕疵自体が選手選考決定の取消しを直接導くものでは なく、結果を左右する時である場合にだけ決定は取り消されるべきであるという、結果志 向ともいうべき考え方があると思われる。 このことは前述の通り、選手選考決定との関係では妥当だと思われる。 もっとも、本件仲裁パネルは、Y にスポーツ仲裁規則第 44 条第 3 項および第 51 条第 4 項に基づき、少なくとも申立料金 5 万円と申立人の弁護士費用の一部に当たる 50 万円は Y が負担させており、スポーツ団体側は決して手続を軽視してはならないということもあ わせて警告している点が注目されるべきである。 (2)仲裁パネルの意見は、①②を通じて、身体障害者水泳事件の仲裁判断と同じく、代表 選手選考における競技者等の利益の要保護性を強調している。 とくに、②で、スポーツ選手は、国民の一人として、合理的な基準を満たせばオリンピッ ク大会に参加する権利をもつと考えなければならない、 としているのは注目すべきである。 また、②で、諸費用を国庫から負担していることなどを踏まえ、繰り返し「オリンピック の公共性」 、および、 「スポーツ団体の国家代行機関性」が強調されている。このような「公」 性の強調は、オリンピックの代表選手選考に関する紛争については、同じく「公」の機関 の決定の際に適用される行政手続法の趣旨を類推して適用することが許される下地ないし 補強材料になると考えることもできるのではないかと思われる。 (5) 視覚障害三段跳び事件(2004 年 8 月 26 日) (仲裁人:笠井正俊 桂充弘 野村美明) <申立人> X <被申立人> 日本身体障害者陸上競技連盟(Y) <事実の概要> 視覚障害三段跳びの競技者であり、2000 年に開催されたシドニーパラリンピックに日本 代表選手として参加し、6 位となった経験を有する申立人 X が、自らをアテネパラリンピ 88 ックのおける視覚障害三段跳びの代表選手に推薦しないこととした Y の決定の取り消しを 求めたものである。 <判旨> 請求棄却(一部申立て却下)。 X の主張のうち、①選手選考の対象となる大会の事前周知がなされていなかったという 点に関しては、「(1)国外の対象大会がいつの時点で被申立人の各登録団体及び登録会員 に周知されたかは明らかでなく、被申立人による対象大会の周知については、必ずしも万 全のものではないというべき点がある(が、)…国内の対象大会については大会前に周知が されているし、また、前回のシドニーパラリンピックに三段跳びの日本代表選手に選出さ れた経験を有する申立人としては、今回のアテネパラリンピックについての対象大会がど のようになっているかについては事前にある程度予測ができた上に、現実にもそれらに出 場する機会があった。以上によれば、被申立人の推薦選手の決定や推薦行為が不当、不合 理であるとまではいえず、選考を再度実施しなければならないほどの事情があるとはいえ ない」とした。 また、②対象大会における競技規則(ルール)の適用等の運営に問題があったという主張 に対しては、(2)認定された事実によれば、 「本件で、大会運営の不当性をもたらすとまで 認めるべき事情があったということはできない」とした。 さらに、③選考基準及び選考結果の不当性ないし不合理性に対する主張も、(3)認定さ れた事実からは、そのようなことは認められないとした。 <今後の対応> 本件で注目されるのは、本件仲裁パネルは、本件においても結論として Y の主張を認めな かったが、Y の側にも反省すべきところがあることから、仲裁手続の審問の過程で、Y の 側から、①国内の大会においては、選手が選定した者がコーラー(踏み切りの位置を選手に 知らせる人)として参加できるよう、最大限配慮すること、および、国外の大会にコーラー を派遣する場合においては、コーラーの選定に関する選手の意見をできる限り尊重する、 ②ルールの内容の理解と周知徹底に努める、③国際大会の選手選考大会の周知に努める、 といった方策が示されたことである。 <コメント> 仲裁は、紛争解決の内容が第三者によって決せられる「裁断型」の紛争解決手段であり 第三者関与のもと当事者間の互譲を核として紛争解決の内容が形成される「調整型」ない し「交渉型」の紛争解決手段である調停・あっせんとは異なるから、その安易な混同は慎 むべきであるが14、そもそもどちらも自主的に紛争を解決しようとする当事者の合意が根 幹をなすものであり、本件のように両当事者が希望すれば、現実に仲裁が団体側と選手側 14 小島武司『仲裁法』18 頁(青林書院,2000) 89 の将来の関係を発展的に構築していく場としての機能を有していることが示された点にお いて、本件仲裁判断は注目される。 (6) ローラースケート事件(2005 年 5 月 6 日) (仲裁人:早川吉尚) <申立人> X <被申立人> 日本ローラースケート連盟(Y) <事実の概要> Y の行った第 11 回アジア大会のフィギュア部門の代表選手選考に不満を抱いた X が、 ①代表選手選考のやり直し、および、②選考基準の明確化を求めて仲裁を申し立てた。 なお、②の請求については、選考基準の明確化は、スポーツ仲裁規則第 2 条の定める「ス ポーツ競技またはその運営に関して競技団体またはその機関がした決定」ではないから、 却下を免れないとしている。 <判旨> 申立て却下。 本件仲裁パネルは、本案に入る前に、そもそも本件は、X が本件仲裁合意成立の根拠と して主張する Y の倫理規定第 8 条の要件を満たしていないから、仲裁の合意は存在しない として却下の判断をした。 すなわち、X は、Y の競技団体規則である「日本ローラースケート連盟倫理規程」には、 第 8 条において、 「本連盟の倫理委員会の行った決定に対する不服申立ては、日本スポー ツ仲裁機構の『スポーツ仲裁規則』に従って行う仲裁により解決することができる」との 定めがあることを理由に JSAA に本件仲裁の申し立てを行った。 それに対し、Y は、倫理委員会は本件選考に関して何らの判断も行っていない以上、本 件選考に関して日本スポーツ仲裁機構の仲裁に応じる義務はない、と反論した。 本件仲裁パネルは、「(1)本事案において選考決定を行ったのは「専門委員会」なる機 関であり…、この機関は、Y の倫理規程の第 6 条に「委員は、理事の中から会長が委嘱す る」と定められている第 5 条以下の「倫理委員会」とは異なる存在であると認められる。 また、(2)本件において、このような倫理委員会が設置された様子はなく、したがって、 倫理規程第8条が働く前提となる「倫理委員会の行った決定」も無かったものと認められ る」として、上述のように、本件訴えを却下した。 <意見> 「①日本スポーツ仲裁機構におけるスポーツ仲裁は、競技団体の決定が取り消される場合 90 に関する上記の先例基準に顕れているように、代表選考等における競技団体の選考基準の 透明性・公平性を高め、選考手続の公正さを担保するために設けられたものである。そし て、その背景には、国際競技等に日本を代表して出場する選手の選考にあたって、現代に おいては、各競技団体は大きな責任を負っており、また、その選考基準や選考過程に外部 からみて不明な点があれば、これにつき十分な説明を行う責任を負わなくてはならないと いう倫理意識がある。 」 「②選手選考にあたっての競技団体の責任という観点からは、そうした不服申立手続に関 する詳細な規定が明文で定められ、かつ、競技者が自由にアクセス可能な形で公開されて いることが要請され、さらに、そこに定められた機関が現実に機能している必要がある。」 「③選考基準に関する説明責任を追及したことを理由に X に対して不利益な扱いをしない ことを切に願う。 」 <コメント> 本件仲裁パネルは、本案に入る前に、そもそも本件には、仲裁の合意は存在しないとし て却下の判断をした。 本件で問題となったように、競技者等がスポーツ団体の決定に不服を申し立てようとし ても、不服申立手続に関する規定がない、あるいは、その意味する内容が曖昧である場合 や、競技者等が自由にアクセス可能な形で公開されていない場合には、たとえ不服申立手 続が存在されていたとしても、実質的にみて、競技者等が不服を申し立てる途は閉ざされ ているといえる。 したがって、スポーツ団体の関係者には、本件仲裁パネルの意見①②に述べられている ことを意識し、それを実践することが望まれる。 91 Ⅲ アンケート調査概要 1.アンケートの目的 我々は、本アンケートで、主に以下の4つの点について調査することを目的とした。 ①スポーツ団体におけるガバナンスの状況 ②スポーツ団体における適正・公平な手続の履践の有無 ③日本スポーツ仲裁機構(以下JSAA)の設立がスポーツ団体に及ぼした影響 ④これからのJSAAのあるべき姿 2.調査概要 調査方法 郵送による調査 回答期間 2005年12月7日~12月24日 調査対象 日本オリンピック委員会、日本体育協会、日本障害者スポーツ 協会加盟団体(合計99団体) 回答総数 44団体 質問数 15問 ※具体的なアンケートの内容、回答については別紙1.別紙2を参照 3.実施結果概要 アンケートを送付した99団体のうち、44団体から回答を得ることができた。短期間 のうちにこのような多くの回答を得ることができたことについて、協力していただいたス ポーツ団体に深く御礼申し上げるとともに、スポーツ団体のスポーツ仲裁に対する関心の 高さを知ることができた。 また、個別的な意見として各所で回答していただいたものからは、我々が事前に予想し なかった新たな視点や問題点も見つかり、今後の研究のために非常に有意義なものとなっ た。 92 Ⅳ スポーツ仲裁に関するアンケート調査 (質問の趣旨と結果の考察) 一.1では団体の組織や選手選考の方法について基本的な質問を行った。 1. 3.貴団体の役職員に主に法務関係の仕事を担当されている方はおられますか。 ※ア.いると答えた団体にお聞きします。具体的にどのような肩書きの担当者ですか。 4.貴団体内部には、選手や役員とのトラブルが生じた場合に紛争解決をはかる仕組 み(ex 裁定委員会、紛争処理委員会)が存在しますか。 ※ア.存在すると答えた団体にお聞きします。具体的にどのようなシステムですか。 可能な限りでお答えください。 <質問の趣旨> まず、質問3、質問4では「団体内の法務担当者の有無」および、「紛争処理シス テムの有無」について質問することによって、スポーツ団体におけるガバナンスの状 況を調べることを目的とした。 <結果と考察> アンケート結果によれば、法務担当者については 19%(8 団体)、紛争処理システム については 33%(14 団体)の団体が設置しているという回答が得られた。そのうち法 務担当者と紛争処理システムの両方を備えた団体は 4 団体であった。 法務担当者が存在すると答えた団体の中では、その役職名として「理事長」や「総 務委員」という回答が多く、法務を専門とする役員が少ないという結果であった。 日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体の回答結果と日本障害者スポーツ 協会加盟団体の回答結果とを比較してみると、 法務担当者については前者のうち 22% (7 団体)が、後者のうち 9%(1 団体)が設置し、紛争処理システムについては前者の うち 41%(13 団体)が、後者のうち 9%(1 団体)が設置していた。両者の回答結果に 大きな違いが出たことは注目に値する。 障害者スポーツ団体の中には規模も小さくボランティアで運営している場合もあ ることから(もちろん日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体にもそのよう な団体はあるが)、法務担当者や紛争処理システムの構築には団体の規模が関係して いるのではないかということが推察される。すなわち、法務担当者や紛争処理システ ムの設置にはある程度のコストがかかることを考えると、規模の小さな団体において はコストの問題から、設置することが困難である場合が多いと考えられる。 93 3 .法務担当者の有無 ア.いる 19% イ.いない 81% 日本障害者スポーツ協会加盟団体 日本オリンピック委員会・日本体育協会 加盟団体 ア.いる 22% ア.いる 9% イ.いない 91% イ.いない 78% 4. 紛争処理シ ステ ム の有無 ア.存在する 33% イ.存在しない 67% 日本障害者スポー ツ 協会 加盟団体 日本オリンピック委員会・日本体育協会 加盟団体 ア.存在 する 41% ア.存在す る 9% イ.存在 しない 59% イ.存在し ない 91% 94 2. 5.オリンピック等の国際大会の代表選手の選考にあたって貴団体が行っている ことに○をつけてください。(複数可) ア.選考基準を事前にすべて公開する イ.選考基準の内容をできる限り明確にする ウ.選考過程を公開する エ.選考結果に対する不服申し立て制度を設けている オ.その他 6.代表選手の選考にあたり、オリンピック等の国際大会と国内大会では選考方 法に違いがありますか。 ア.大きな違いがある イ.少し違いがある ウ.違いはない 7.団体内で、選手等の団体関係者に対して何らかの処分(ex 資格停止、出場停 止)をする際に行っていることに○をつけてください。(複数可) ア.処分の理由を明確に示す イ.処分された者の意見を聞く機会を設ける ウ.処分に対する不服申し立て制度を設けている エ.その他 <質問の趣旨> 質問 5 および質問 7 では、選手選考(質問 5)、選手等の団体関係者に対する処分(質 問 7)を行う際に具体的にどのような手続をとっているかについて質問を行った。 これらの質問では選手選考・団体関係者に対する処分という、選手等の権利に重大 な影響をおよぼす場面において、スポーツ団体が適正かつ公平な手続のもとにそれら を行っているのかを調査することを目的とした。 また、質問 5 では団体競技と個人競技とで選手選考に違いがあるかについて調査す ることも目的とした。なぜなら、団体競技においては選考にあたって、チームワーク やチームバランスなど、基準の明確化が困難な要素もあると考えられるからである。 質問6では、オリンピックなどの国際大会は、馬術事案の「意見」で指摘されたよ うに、公的意義が強く、選手にとっても重要な大会であるために、選考にあたって手 続を詳細にしたり、意識的な面でも慎重を期すなどの違いがあるのではないかと予測 95 して質問した。 <結果と考察> まず、質問5の回答からは全体の約半数の団体が「選考基準を事前にすべて公開し ている」という結果がでた。 選手選考における「選考基準の公開」は、選考される側の者にとって、選考会等に 望む上で、最低限知らされるべきことであるし、オリンピックなど、国民の関心の高 い大会においては国民の納得を得るという点でも重要な役割を果たしている。このよ うな「選考基準の公開」の重要性に鑑みると、約半数の団体でしか果たされていない という結果は物足りないように感じられる。もちろん、選考基準の「すべて」を公開 していないだけで、なんらかの選考基準は公開しているという団体もあろうが、 「すべ て」の選考基準を公開していなければ、それは実質的に公開しているとは評価できな いのでこのような質問の仕方とした。 「選考基準の明確化」になると、さらに数は減り、明確化に努めている団体は半数 を下回った。 次に、団体競技と個人競技との違いであるが、ア.選考基準のすべての公開、イ. 選考基準の明確化を行っている団体の割合について比較してみると、団体競技の方が 明らかに低いという結果が出た。これは我々が予測したとおり、団体競技における選 考基準の公開・明確化の困難さが影響していると考えられる。実際に、個別的な意見 として、団体競技における選考の難しさを指摘するものもみられた。 質問7については 7 割以上の団体で処分の際には理由の明示を行っているという結 果がでた。処分にあたっての理由の明示は、後に被処分者が不服申し立てを行うため に必要であるとともに、処分の公正を担保する上でも重要である。すなわち、処分を するにあたっての最低限の要請であると考えられるので、7 割という数字は少なく感 じられる。さらに、処分された者の意見を聞く機会を設けている団体は半数にも満た なかったこともあわせて、今後の改善が望まれる。 質問 6 については「違いはない」と答えた団体が約 7 割を占めた。 「違いがある」 と答えた団体は、そのほとんどが手続的な違いを挙げるものであり、国際大会の選考 は国内大会の選考よりも詳細な手続で行われていることが明らかとなった。ただ本ア ンケートからは意識的な面でどのような違いがあるかについては、判明しなかった。 96 5.選手選考の際に行っていること (全体) 23 ア.選考基準の公開 21 22 イ.選考基準の明確化 23 11 ウ.選考過程の公開 33 7 エ.不服申し立ての制度 37 5 オ.その他 39 0 5 10 15 20 行っている団体 25 30 35 40 45 行っていない団体 個人競技 5 ア.選考基準の公開 2 4 イ.選考基準の明確化 3 ウ.選考過程の公開 2 5 エ.不服申し立ての制度 2 5 0 1 2 3 行っている団体 4 5 6 7 10 12 14 行っていない団体 団体競技 ア.選考基準の公開 5 9 イ.選考基準の明確化 5 9 ウ.選考過程の公開 2 12 エ.不服申し立ての制度 2 12 0 2 4 行っている団体 6 8 行っていない団体 団体・ 個人両方 13 ア.選考基準の公開 14 イ.選考基準の明確化 0 9 7 ウ.選考過程の公開 エ.不服申し立ての制度 10 16 3 20 5 行っている団体 10 15 行っていない団体 97 20 25 6.国際大会と国内大会の選手選考方法の違い ア.大きな違い 5% イ.少し違いがある 26% ウ.違いはない 69% 7.処分の際に行っていること(全体) 31 ア.処分理由の明示 13 21 イ.聴聞 23 12 ウ.不服申し立て制度 32 4 エ.その他 0 40 5 10 15 20 行っている団体 25 30 35 40 45 行っていない団体 個人競技 5 ア.処分理由の明示 4 イ.聴聞 3 3 ウ.不服申し立て制度 0 2 1 4 2 行っている団体 3 4 行っていない団体 5 6 7 団体競技 11 ア.処分理由の明示 6 イ.聴聞 ウ.不服申し立て制度 0 3 8 4 2 10 4 6 行っている団体 8 10 行っていない団体 98 12 14 個人・ 団体両方 15 ア.処分理由の明示 11 イ.聴聞 ウ.不服申し立て制度 8 12 5 0 18 5 10 行っている団体 15 20 25 行っていない団体 二.2では JSAA の設立によって団体がどのように変わったかについて質問を行った。 1. 1.日本スポーツ仲裁機構が設立されたことについてどうお考えで すか。 ア.賛成である イ.反対である ウ.どちらでもない エ.設立されたことを知らなかった <質問の趣旨> 質問1では JSAA の設立に対して肯定的な考え方を持っているかどうかについて、 質問を行った。 2000 年 11 月に「日本スポーツ仲裁機構創設準備委員会」が行ったアンケートで は 79%の団体が仲裁機関の必要性を認めていたことから、肯定的な意見が多いとい うことが予測された。 もっとも、団体としては、これまで団体内部で処理できると考えていたものが JSAA に持ち込まれるという煩わしさや、選手選考や処分が適正・公平に行われていなけれ ば JSAA に申し立てられるかもしれないという、危機感を抱かせるため、必ずしも肯 定的に捉えられていないと考えることも可能であった。 <結果と考察> アンケート結果からは、JSAA の設立に「賛成」という回答が 81%(33 団体)を占 め、 「反対」と回答する団体は一つもなかった。このような結果からはスポーツ団体に おける透明性、公平性の意識の高さがうかがえる。もっとも、 「どちらでもない」とい う回答(17%:8 団体)には否定的な意見も含まれているであろうし、実際当事者とな ってみなければ分からないという個別意見もあったことから、JSAA の今後のあり方 次第で、異なる結果となることもあろう。 99 また、このような肯定的な結果には、これまで JSAA で下された仲裁判断の 6 件中 5 件が申立人の訴えをしりぞけるもの(1 件却下)であったことも影響を与えていると 考えられる。 1.JSAAの設立について エ.設立をしらない 2% ウ.どちらでもない 17% イ.反対 0% ア.賛成 81% 日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体 ウ.どちら でもない 13% イ.反対 0% 日本障害者スポーツ協会加盟団体 エ.設立を しらない 3% ウ.どちら でもない 27% エ.設立 をしらない 0% イ.反対 0% ア.賛成 84% ア.賛成 73% 2. 2.貴団体では選手等が日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申し立てた場合にそれに応 じる旨の合意を団体規則等で規定していますか。 ※ウ.規定していないし今後もその予定はないと答えた団体にお聞きします。そ れはなぜですか。該当するものに○をしてください。(複数可) A.団体内部で紛争処理が可能だから B.スポーツにおける紛争を仲裁で解決することに疑問があるから C.現在の日本スポーツ仲裁機構に紛争解決を任せるのは不安だから D.仲裁が申し立てられてから、個々の事案について合意するか判断すればよい と考えるから E.その他 <質問の趣旨> 質問2では仲裁合意を団体規則等で規定しているかについて質問した。一般的に仲裁 100 を行うためには、両当事者の合意が必要であり、このことは JSAA による仲裁でも同様 である。したがって、選手等が仲裁を申し立てたところで、団体側が応じなければ仲裁 を行うことはできない。 もちろん、団体は仲裁に応じるかどうかを個々の事案ごとに決定することができるが、 申し立てる側からすれば、事案ごとに団体の決定が区々にならないように、事前に仲裁 合意を団体の規則等で規定しておくことが望ましいと考えられる。実際に、事前に仲裁 合意を規定していなかったことで、選手が JSAA による仲裁判断を受けられなかったと いう事案もあった。 <結果と考察> 仲裁合意を規定している団体と、いずれ規定する予定である団体あわせると 74%(32 団体)になり、仲裁合意を積極的に規定する団体が多いという結果が出た。その一方で、 規定していないし今後その予定もない団体は 26%(11 団体)あり、その理由としては 個々の事案ごとに判断するというものが半数以上であった。 仲裁合意を規則等で規定するのがよいのか、個々の事案ごとの判断で足りるのかにつ いては議論もある。しかし、①仲裁合意を団体規則等に規定することによって、選手等 に広く仲裁の機会を与えることができること、②いつ JSAA に申し立てられるかわから ないという意味で、適正で公平な手続の履践を団体に意識させることができること、③ 外部に対しては団体が手続きの適正・公平を意識しているということを知らしめる効果 があること、などから考えると原則規定しておくべきだと考える。 もっとも、個別の意見として、「規模の小さな団体においては、経費の観点から2~ 3回仲裁を申し立てられれば団体がつぶれてしまう」というものがあった。仲裁に応じ るためには弁護士費用等、ある程度の費用が必要であることから、規模の小さな団体に ついては仲裁合意を規則等で定めることは酷な場合もある。そこで、仲裁合意を規則等 で定める代わりに、選手の納得を得られるような内部の紛争処理システムを構築すべき ではないだろうか。 101 2.仲裁合意を規定しているか ウ.規定していな い(今後も規定の 予定なし) 26% ア.規定している 37% イ.いずれ規定す る予定 37% ウ.規定していないし、今後も規定する予定はないとする理由 2 A.内部で解決可能 B.仲裁に疑問 0 C.JSAAに対する疑問 0 6 D.個々の事案で判断 E.その他 0 2 1 2 3 4 5 6 3. 3.日本スポーツ仲裁機構が設立された結果、貴団体では組織や規則等を変更しまし たか ※ア.変更したと答えた団体にお聞きします。具体的にどのような変更をしまし たか。 A.団体内部に紛争処理システムを作った B.顧問弁護士と新たに契約した C.法務関係の役員を新たに設けた D.処分に対する不服申し立ての機会を与えるようになった E.その他 4.貴団体は日本スポーツ仲裁機構が設立されたことで、それ以前に比べて選手選考 や処分等をする際に明確性や公平性を意識するようになったと思いますか。 ア.そう思う 102 イ.そう思わない ウ.どちらともいえない <質問の趣旨> JSAA の設立が団体に与えた影響について調べるため、質問 3 では JSAA 設立後の団 体の組織や規則の変更等について、質問 4 では JSAA 設立後の意識の変化について質問 を行った。これは JSAA の設立が団体の客観面に与えた影響と、主観面に与えた影響に ついて調査する目的によるものであった。 <結果と考察> 質問3については 40%(17 団体)の団体で組織や規則等の変更があったという回答が 得られたが、 「仲裁合意を規則に規定した」という回答が 10 団体あり、仲裁合意以外で 実質的に変更のあった団体は 7 団体であった。 この結果は一見少ないようにも思えるが、コスト等の面を考えると、17%(6 団体)で 規則等の実質的な変更があったことは評価に値するのではないだろうか。(特に新たに顧 問弁護士と契約したという回答があったことは驚きであった。) 質問 4 については 41%(17 団体)が意識的な面での変化があったと回答した。この結 果は、非常に物足りないものであるように感じる。というのは、組織や規則等の変更は コストの面から困難があるとしても、主観的に公平性や明確性を意識することについて はそのような心配がなく、規模の大小にかかわらず、いかなる団体についても可能だと 考えられるからである。しかし、JSAA の設立が団体の意識に少なからず影響を与えて いることが明らかになったことには大きな意義がある。 また、日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体の回答と日本障害者スポーツ 協会加盟団体の回答とを比較すると、 「そう思う」という回答が前者では 30%であった のに対し、後者では 73%と大きな差となっていることは興味深い。 このような結果は、日本障害者スポーツ協会加盟団体の JSAA に対する関心の高さを 表すとともに、規模の小さな団体では、コストの面から紛争処理システムを構築すると いう客観的な変更が困難であるとしても、主観的な面で公平性や明確性を意識すること は可能である、ということを表しているのではないか。 103 3.JSAA設立後規則等の変更を行ったか 変更した (仲裁合意を規定) 24% 変更していない 59% 変更した (実質的な変更) 17% 日本障害者スポーツ協会加盟団体 日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体 変更した (仲裁合意 を規定) 23% 変更してい ない 58% 変更した (仲裁合意 を規定) 27% 変更した (実質的な 変更) 19% 変更してい ない 64% 変更した (実質的な 変更) 9% 4.JSA A 設立後、公平性・明確性を 意識す るようになっ たか ウ.どちらともいえない 39% ア.そう思う 41% イ.そう思わない 20% 日本障害者スポーツ協会加盟団体 日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体 ウ.どちら ともいえな い 50% ア.そう思 う 30% イ.そう思 わない 18% イ.そう思 わない 20% ウ.どちら ともいえな い 9% ア.そう思 う 73% 104 4. 5.仮に、貴団体に不利な仲裁判断が下された場合、その仲裁判断に従いますか。 ア.必ず従う イ.場合によって異なるので一概には言えない ウ.従わない <質問の趣旨> JSAA における仲裁判断には、一般的に執行力はないとされている。すなわち、仲裁 判断が下されても、団体がその任意の履行を拒めば、履行を強制する手段はないことに なる。したがって、JSAA の仲裁によって紛争が解決するかどうかは、団体側が仲裁人 の下した判断に従うかどうかにかかっているといえる。そこで、上のような質問をした。 <結果と考察> 不利な仲裁判断に従うかという質問に対する結果は、全体の 33%(14 団体)が「必ず 従う」 、67%(28 団体)が「場合によって異なる」というものであった。さすがに「従わ ない」と回答した団体は 1 つもなかったが、 「場合によって異なる」と答えた団体が全 体の 3 分の 2 を超えているのは、仲裁に対する一般的な理解が行き届いていないのかも しれない。すなわち、仲裁は、訴訟と同じく、公平・中立な立場の第三者が下した一定 の判断に、-たとえその判断が自己にとって有利であろうと不利であろうと-両当事者 が服することであり、仲裁合意は、単に仲裁を行う約束にとどまらず、下された判断に 服する点までを含めた契約である。したがって、仲裁人の下した判断が自己に不利であ ったからといって、それに従わないことは、「契約違反」である。仲裁法の適用を受け る一般的な仲裁であれば、一方当事者が仲裁判断に従わない場合には、公の機関である 裁判所を通じて、その仲裁判断を強制的に執行することができることになっているが、 JSAA によるスポーツ団体の決定に関する仲裁には、上で述べたように執行力がないと 一般的に解されており、このような「契約違反」は放置される。これでは、選手等の救 済が図れない。 もっとも、本質問は若干ミスリーディングであったかもしれない。 「不利」というのが 漠然としているからだ。しかし、今後は JSAA の仲裁判断に「必ず従う」という団体が 1 つでも多くなること望む。 なお、JSAA の仲裁判断は規則により公表されることになっており、実際は、マスコ ミを通じた世論による圧力が働き、団体側が仲裁判断を任意に履行する可能性は極めて 高いと思われる。(ただし、国民の関心の高い競技であれば世論が喚起される可能性は高 いが、認知度の低い競技においては、世論があまり喚起されないのではないかという懸 念はある。) 仲裁人としては、不利な判断を受けた当事者も、その判断を任意に履行す 105 ることになるように、当事者を十分に納得させるような理由付け・説明が求められるだ ろう。 5.不利な仲裁判断に従うか ウ.従わない 0% ア.必ず従う 33% イ.場合によって異なる 67% 日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体 ウ.従わ ない 0% イ.場合 によって 異なる 58% 日本障害者スポーツ協会加盟団体 ウ.従わ ない 0% ア.必ず 従う 42% ア.必ず 従う 9% イ.場合 によって 異なる 91% 三、3では JSAA の設立が選手等の関係者にどのような影響を与えたかについて質問を行 った。 1. 日本スポーツ仲裁機構ができてから今日までに団体と選手との間に何件の紛 争、トラブルがありましたか。 ①0件 ②1~5件 ③6~10件 ④11件以上 ⑤回答できない 2. 日本スポーツ仲裁機構が設立されてから(2003 年4月以降)選手との間の紛 争、トラブルの数は増えましたか。 ア.増えた イ.あまり変わっていない ウ.減った <質問の趣旨> 質問1、質問2は JSAA の設立後の紛争の数を調査することによって、選手等の権 利意識が高まり、選手等との紛争は増えたのか、あるいは逆に団体側が適正・公平を 106 より意識したことによって紛争は生じにくくなったのかについて分析する目的があっ た。 <結果と考察> 質問1については 83%(34 団体)が JSAA 設立後の紛争の発生件数は「0 件」と回 答し、質問2では JSAA 設立後の紛争の状況について、すべての団体が「変化がない」 と回答した。このような回答結果から JSAA の設立によって紛争やトラブルは増加し ていないことが明らかになった。ただ、紛争やトラブルにまではいたっていない段階 のものについては今回の調査結果からはわからず、今後は選手の側についてもアンケ ートなどを実施し、権利意識の変化について調査する必要があるだろう。また、個別 意見として、選手に対する教育の必要性を指摘するものもあったことから、選手に JSAA の存在を知らしめることも、今後の重要であるう。 1.JSAA設立後のトラブルの件数 ③6~10件 0% ②1~5件 15% ④11件以上 0% ⑤回答できない 2% ①0件 83% 2.JSA A 設立後のト ラ ブ ルの増減 ウ.減った 0% ア.増えた 0% イ.あまり変化なし 100% 107 四、4では現在の JSAA に対する考えについての質問を行った。 1.現在の日本スポーツ仲裁機構の組織、仲裁手続き、及びこれまでの仲裁判断に 満足していま すか。 ※イ.不満があると答えた団体にお聞きします。どのような不満がありますか。(複 数可) A.仲裁人リスト記載の仲裁人が法律家だけであること B.仲裁判断に対して不服申し立てができないこと C.これまでの仲裁判断の内容がわかりにくいこと D.スポーツにおける紛争を仲裁によって解決すること E.その他 <質問の趣旨> スポーツ団体が JSAA に満足しているのか、不満があればどのような点に不満がある のかについて質問することで、現在の JSAA の問題点と、今後の JSAA のあるべき姿を 探ることを目的とした。 <結果と考察> 「満足している」という結果は 19%(7団体)と、意外と少ないように思われる。もっと も 76%を占める「どちらでもない」という回答の中には、実際に当事者となってみな ければわからないという個別意見もあり、JSAA の問題点や課題については自らが当事 者とならなければ見えてこない面もあるということではないだろうか。 障害者スポーツについては、障害の程度により階級が異なるなどルールが複雑である とともに、治療のための薬物摂取とドーピングとの関係、健康状態をどう評価するか等、 考慮すべきことが多岐にわたることから、仲裁判断をするためには非常に困難を伴う。 そして、このような事情が JSAA に対する不満につながっているのではないかと考えら れる。 しかし、JSAA は今後もスポーツに関する紛争を解決するための機関として、重要な 役割が期待されるのであるから、両当事者に不満を残さないよう、事案に応じた慎重な 事実認定を行ったうえで仲裁判断をしていく必要があるだろう。 108 1.JSAAに 満 足 し て い る か ア .満 足 して い る 19% イ.不 満 が あ る 5% ウ .ど ち らともい えない 76% 日本障害者スポーツ協会加盟団体 日本オリンピック委員会・日本体育協会加盟団体 ア.満足してい る 21% ア.満足して いる 13% イ.不満があ る 3% イ.不満があ る 13% ウ.どちらとも いえない 76% ウ.どちらと もいえない 74% 109 Ⅴ.結論 1.上智 10 原則の提案 選手選考・処分にあたって考慮すべきこと 団体が常時心がけておくべきこと ①基準の設定・公表 ⑧教育 ②告知・聴聞の機会 ⑨仲裁合意規定の策定 ③他事考慮の禁止 ⑩紛争処理システムの構築 ④比例・平等原則 ⑤理由の呈示 ⑥明確性 ⑦教示 (1)目的 JSAA の発足により、スポーツ団体と選手等との間に第三者的立場からの紛争解決の道 が開かれるようになった。もっとも、スポーツ団体と選手等との間の紛争をゼロに近づけ ることが理想である。6 件の仲裁判断を分析すると、不利益処分や選手選考を行う過程に なすべきことをしていれば、未然に解決できる紛争があったのではないかと思われる。し かし、そのためには何をなすべきかが明らかであることが必要である。しかし、例えば、 法の一般原則といっても、その具体的内容は必ずしも明らかではない。そこで、我々は、 法の一般原則、仲裁判断の判旨や意見、行政法の思考や行政法判例、本論文に掲載したア ンケートを分析し、 紛争を未然に防止するためのツールとしての10原則の作成を試みた。 これまでに日本スポーツ仲裁機構で下された仲裁判断はわずかに6件であり、以下の上 智 10 原則も試みの域を出ない。しかし、完全なリストではないとしても、競技団体が守 るべきルールをこのような10原則に纏めておくことによって、ルールの分かりやすさが 向上するのではなかろうか。本10原則が、紛争の未然の防止の一助となれば望外の喜び である。 (2) 総論 スポーツ仲裁がなされる事案は原則として機関の決定について争うものなので、行政事 件と類似している。スポーツ団体と選手等との力関係の差や紛争状況に着目すれば、あた かも国家の決定につき私人が従わなければならないという利益状況と類似する。そこで、 スポーツ団体との紛争解決のためには行政法学上の思考が参考となると思われる。 110 例えば、外務大臣に旅券発給を申請したところ、外務大臣が申請拒否処分をした場合に、 国との関係で申請拒否処分を争うような事件15があげられる。許可権限を持つ外務大臣の 判断は、国民に対する不利益処分である。 スポーツに関する紛争においても不利益処分は問題となる。例えば、軽微なルール違反 をした者が、不相当に長期間の試合出場停止処分を団体から命じられるという事件があげ られる。このような試合出場停止処分は不利益処分であり、また、試合出場について決定 権を持つ団体が決定を下すという点においても、行政事件と類似する。 行政法学上、紛争解決のためには、法の一般原則が用いられる。行政法の分野において 法の一般原則により多くの紛争解決がなされてきたことに鑑みれば、行政事件と類似性を 持つスポーツに関する紛争においても法の一般原則の適用によって紛争解決がなされるこ とは妥当であろう。仲裁人の主観的な基準のみによる判断ではなく、法の一般原則という 客観的な基準で決定されたならば、両当事者の合意が得やすいと考えられる(スポーツ仲裁 規則 43 条に、法の一般原則にしたがって仲裁判断がなされる旨の規定がある。)。 行政法学者の塩野宏教授は、法の一般原則の具体化の一つである適正手続の内容につい ては以下のような、 「適正手続 4 原則」が普遍化されていると述べられている。(塩野宏『行 政法Ⅰ〔第四版〕行政法総論』56 頁、245 頁以下(有斐閣、2005 年)) (a) 告知・聴聞 行政処分をする前に、相手方に処分内容および理由を知らせ、その言い分を徴すること によって、処分の適法性、妥当性を担保し、公権力の侵害から国民の権利利益を保護しよ うとするものである。 (b) 文書閲覧 聴聞に際して処分の相手の相手方が当該事案に関し行政側の文書等の記録を閲覧するこ とをいう。 (c) 理由付記 行政処分をするに際して、その理由を処分書に付記して相手に知らせることをいう。 理由付記には、①恣意抑制機能ないし慎重配慮確保機能、③不服申立便宜機能、③相手 方に対する説得機能、④決定過程公開機能がある。 (d) 処分基準の設定・公表 行政庁が処分をする際によるべき基準を設定し、 これを事前に公表しておくことである。 これらの 4 原則のうち、文書閲覧についてはスポーツ界の紛争解決において別の考慮を 要すると考える。例えば、選手選考会議の議事録を公開すること、あるいは、直裁に選手 選考会議自体を公開することも考えられる。しかし、それは、選手選考会議の自由闊達な 15 最判昭和 60 年 1 月 22 日民集 39 巻 1 号 1 頁・判時 1145 号 28 頁 111 討議を阻害するという弊害もあるので慎重にならざるをえない。 (3) 各論 我々は上述の通り、スポーツ団体と選手等との間の紛争予防・解決の手掛かりとなるも のとして、法の一般原則、仲裁判断の判旨や意見、行政法の思考や行政法判例、本論文に 掲載したアンケートを分析しつつ上智 10 原則を考案した。 そこで、以下では、行政裁判例、仲裁判断に触れつつ、10 原則の具体的内容を紹介す る。 なお、①から⑦に関しては選手選考・処分にあたって考慮すべきことであり、⑧から⑩ は団体が常に心がけておくべきことである。 ①基準の設定・公表 団体は選手選考基準・不利益処分基準を公表しなければならない。 a.理由 いかなる行為が不利益処分の対象となるかが公表されれば、選手は不適切な行動を差し 控えるようになる。紛争の未然の防止に資することになるだろう。 また、選手は日頃の成果を試すため、大会に参加する。選手にとって大会に参加できる か否かは重大な関心事である。大会に参加できる条件が公表されることにより、選手は大 会出場条件を満たすために技術を磨く。団体が客観的な基準を呈示すれば、選手と団体の 信頼関係が築かれるだろう。 選手選考基準については、団体競技においてはチームの連携などを視野に入れなければ ならないことから、ある程度幅のある基準にならざるを得ない。しかし、その場合におい ても一定の基準の公表はなされるべきである。 b.好ましい例 「○○国際大会選考基準となる 4 大国内大会のうち、タイムが最も良い選手は、○○国 際大会に出場することができる。 」 c.好ましくない例 全く基準を公開しないこと。 d.行政法との関係 基準の設定・公表は上記 4 原則の(d)に対応する。 行政法上の不利益処分の処分基準の設定について行政手続法 12 条は基準設定を努力義 務であると定めているが、選手が思わぬ不利益処分を受け、その処分が選手生命に関わる こともあることに鑑みれば、不利益処分の基準も設定すべきである。 同じく行政法上の審査基準の設定については行政手続法 5 条に規定がされている。不利 益処分基準の設定については行政手続法 12 条に規定されている。 112 行政法上、この基準の設定・公表が問題となった判例は、最判昭和 46 年 10 月 28 日民 集 25 巻 7 号 1037 頁・判時 647 号 22 頁がある。これは申請人が個人タクシーの営業免 許申請を、陸運局長にしたところ、聴聞がなされたのちに申請却下されたが、免許の審査 基準は告知されていなかったという事案である。 判旨は「多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して 免許の許否を決しようとする行政庁については、事実の認定につき行政庁の判断を疑うこ とが客観的にもっともと認められるような不公正な手続をとってはならないものと解せら れる。すなわち、右 6 条(道路運送法 6 条)は抽象的な免許基準を定めているにすぎないの であるから、内部的にせよ、さらにその趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正 かつ合理的に運用すべく、…主張と証拠の提出の機会を与えなければならない」とした。 e. スポーツ仲裁との関係で問題になった事案 審査基準の設定・公表の重要性に言及する仲裁判断には、前期(CAS による判断である が、)千葉すず事件と、馬術事案がある。 ② 告知・聴聞の機会 団体は選手等に不利益処分を課す際に告知・聴聞の機会を与えなければならない。同様 に、選考結果に対して不満のある選手に対しても告知・聴聞の機会を与えなければならな い。 a.理由 団体が選手等に対して不利益処分を課す場合、不利益処分を課す原因となった事実を誤 認している可能性がある。また、選手等は不利益処分を課されるような行動をとらざるを 得なかったような特段の事情があった可能性がある。団体は不利益処分がなされる前に選 手等が有していた事情を聞くことにより、適切な不利益処分を課すことができる。その結 果として、紛争を未然に防ぐことができるようになるだろう。 一方、選手等は選考結果に対して不満のある告知・聴聞の機会を与えられれば、団体の 決定に対して納得するようになると考えられる。 b.好ましい例 不利益処分が課されるような行為を選手が行った場合、処分前に十分な時間をとって選 手の言い分を聴き、不利益処分の程度を告知する機会を設けること。 c.好ましくない例 不利益処分の内容を団体のみで決定し、一方的に決定事項を選手に伝えること。 d.行政法との関係 告知聴聞の機会は上記 4 原則の(a)に対応する。 行政法上の告知・聴聞については行政手続法 13 条 1 項 1 号に規定されている。 行政法上、この告知・聴聞が問題となった裁判例は、大阪地判昭和 55 年 3 月 19 日行 113 集 31 巻 3 号 483 号・判時 969 号 24 頁がある。これは、処分庁・陸運局長が免許取消 処分をなす前の聴聞に際し、被処分予定者に対して免許取消原因となるべき具体的事実を 告知しなかった事案である。 判旨は「聴聞制度の目的に反する重大な瑕疵であるから、この瑕疵は、本件処分に実体 的瑕疵があるかどうかに拘らず」取消原因になるとしている。 e. スポーツ仲裁との関係で問題になった事案 告知・聴聞の重要性に言及する仲裁判断には、前記ウェイトリフティング事案、障害者 水泳事案がある。 ③ 他事考慮の禁止 団体は、選手選考・不利益処分時に、本来考慮すべきでない事柄を考慮してはならない。 a.理由 団体が選手選考・不利益処分時に本来考慮すべきでない事柄を考慮するならば、団体の 恣意的な選考・処分がなされることとなり、結論において不当な結果を招く。 この他事考慮には二つのレベルがある。そのうちの一つは、元々選考基準に存在しない 事柄を考慮に入れることである。 例えば、 選考基準に全く年齢制限がないのにも関わらず、 年齢を考慮して選考することがあげられる。他の事由に付随して考慮する場合には認めら れることも考えられるが、独立の理由となる場合は他事考慮になると考えられる。 第二に、選考基準に競技とは無関係な事項を設定することである。例えば、個人競技に おいて、 「人気」を選考基準に入れることは明らかに他事考慮であると言える。 もっとも、何が「他事」であるかは厳密には定まらない問題である点が難しい。 b.好ましい例 客観的に示された選考基準のみによって選手選考を行うこと。 c.好ましくない例 個人競技において、 「人気」を選考基準に入れること。 d.行政法との関係 東京高判昭和 48 年 7 月 13 日行集 24 巻 6=7 号 533 頁・判時 710 号 23 頁は、建設 大臣が国道拡幅工事の事業認定を行ったのだが、これが土地収用法 20 条の「事業計画が土 地の適性且つ合理的な利用に寄与するものであること」に違反するとして宗教法人が提訴 した事案である。 判旨は「本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、容易に軽視し、その結果当然尽く すべき考慮を尽くさず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に入れもしくは本 来過大に評価すべきでない事項を過重に評価し…たと認められる場合には、…違法となる」 とした。 e. スポーツ仲裁との関係で問題になった事案 114 他事考慮の禁止の重要性について言及する仲裁判断には、障害者水泳事案がある。 ④ 比例・平等原則 団体は、処分時において、他の者との関係において平等な取り扱いをしなければなら ず、目的達成のために必要最小限度の処分をしなければならない。また、選考時には選 手を平等に取り扱わなければならない。 a.理由 法の一般原則や憲法、行政法においても、比例原則・平等原則に違反する行為は不当な ことであると理解されているので、このような事態を招いてはならない。 比例原則の具体例は、軽微な違反行為について試合出場資格を永久剥奪することは許さ れないというものが挙げられる。 なお、年齢制限を設けることについては平等・不平等の争いがあるが、当該制限に合理 的理由があれば、不平等とまでは言えないだろう。2006 年トリノオリンピックに浅田真 央選手は出場資格がなかった。オリンピック憲章 V-47 には『健康上の理由で IF の競技ル ールに定められている制限以外には、オリンピック競技大会に参加する競技者に年令制限 はない』と定められている。そして、ISU 国際スケート連盟 Rule108 の年齢制限には『ス ケート(スピード、ショートトラック、フィギュア)は大会前の 7 月 1 日現在で 15 歳以上 であること』定められている。若い選手への過度な精神的重圧と、成長を妨げる無理なト レーニングを避けるための年齢制限には合理的な理由があると言える。 b.好ましい例 ドーピングを行った当該処分選手に対して、1 年前に同じドーピングを行った別の選手 と同程度の大会停止処分に付すること。(平等原則に則っている) c.好ましくない例 軽微な違反行為について試合出場資格を永久剥奪すること(比例原則違反) ドーピングを行った当該処分選手に対して、1 年前に同じドーピングを行った別の選手 とは異なり、長期間大会停止処分に付すること。(平等原則違反) d.行政法との関係 最判昭和 52 年 12 月 20 日民集 31 巻 7 号 1101 頁・判時 874 号 3 頁は、税関長が公 務員に対し組合活動をした者に対して国家公務員法 82 条 1 号および 3 号に該当するとし て懲戒免職処分を行ったので、当該公務員がその処分の取消しを求めた事案である。 判旨は「懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を 逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にある」とし た。結果的には税関長の裁量権が認められた事案であるが、比例原則が適用されることを 示した判例である。 最判昭和 30 年 6 月 24 日民集 9 巻 7 号 930 頁は、米の拠出割当について割当権限を持 115 つ村長が一人だけ個別に割当を決定した事案である。 判旨は「事前割当の方法…については、…行政庁の裁量に任されていたものと解さざる を得ない。もっとも、かような場合においても、行政庁は、何等いわれがなく特定の個人 を差別的に取り扱いこれに不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味において は、行政庁の裁量権には一定の限界があるものと解すべきである。 」とした。 e. スポーツ仲裁との関係で問題になった事案 比例原則の重要性に言及する仲裁判断には、前記ウェイトリフティング事案がある。 ⑤ 理由の呈示 団体は選手選考・関係者に対する不利益処分などの決定事項につき理由の呈示をしなけ ればならない。その場合に、いかなる事実関係に基づき、いかなる基準を適用されたかを 示さなければならない。 a.理由 選手は団体の決定について不満を持つ場合がある。しかし、事実関係が明確に示され、 理由が合理的なものであれば当該決定について納得するだろう。理由の呈示は団体・選手 間の紛争の発生を未然に防止する役割を果たす。 b.好ましい例 「○○選手は○月○日に病気の治療薬を本連盟に何ら申告なく摂取したが、当該薬品は 本連盟のドーピング規定○条に違反するものだったので、本日より○日間本連盟における 大会の出場を停止する。 」 c.好ましくない例 「○○選手は、○月○日に、団体規則○条違反の行為をしたので、○日間、国際大会に出 場停止とする。 上記の例では、違反条項を示したのみで事実関係を摘示していないため適切な理由の呈 示ではない。 d.行政法との関係 理由の呈示については上記 4 原則の(c)に対応する。 なお、行政法上の理由の呈示については行政手続法 8 条 1 項に規定されている。 行政法上、この理由提示が問題となった判例には、最判昭和 60 年 1 月 22 日民集 39 巻 1 号 1 頁・判時 1145 号 28 頁がある。これは旅券発給希望者が外務大臣に旅券発給申 請をしたところ、 「旅券法 13 条 1 項 5 号に該当する」との理由を付して拒否処分がなさ れた事案である。 判旨は「いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して…拒否されたかを…了知し うるものでなければなら(ない)」とした。 e.スポーツ仲裁との関係で問題になった事案 116 理由の呈示の重要性に言及する仲裁判断として、前記ウェイトリフティング事案がある。 ⑥ 明確性 選考基準・不利益処分基準は明確でなければならない。 a.理由 この点は上記①と⑤に関係がある。処分理由が漠然としていた場合、不服申立ての機会 が形式的に与えられていたとしても、実質的に被処分者はいかなる主張をしなければなら ないかを理解することができなくなる。このような事態を避けるために、基準の明確性が 求められる。 また、選考基準が形式的に公開されていたとしても、いかなる場所に公開されているか を選手が認知していないならば、結局、選手等に知らされることなくスポーツ団体が基準 を変更する可能性がゼロとは言えない。そうだとすると、実質的には公開がされていない のと同様の結果を招きかねない。 b.好ましい例 「○○薬品は○○という病気の治療薬であるが、国際規定で定められたドーピング規定 に違反するおそれがある。したがって、本連盟に申告なく使用した場合はドーピングの使 用をしたとみなし、○日間の大会停止処分とする。 」 「国際大会の選考基準は、連盟ホームページ上にて公表することとする。 」 c.好ましくない例 「処分検討委員会の委員長が処分適当と認めた場合には、その処分に従わなければなら ない。 」 「国際大会の選考基準は選考役員に一任する。 」 「風紀を乱したものは大会参加資格を失う。 」この規定の仕方は、 「風紀を乱す」ことが 曖昧であるため、基準が明確であるとは言えない。 」 書面等によって客観的に掲示されていなければ、選考基準が誤って選手等に伝えられる 可能性もあるので、役員のみが熟知しているということは好ましくない。 d.行政法との関係 この明確性(審査基準の公表)に関する裁判例は東京高判平成 13 年 6 月 14 日・判時 1757 号 51 頁がある。これは、中国国籍を有する者が中国の医学校を卒業後、厚生大臣 に対し日本で医師国家試験の受験資格の認定申請を行ったところ、申請が却下されたが審 査基準が非公開であるとして却下処分の取消しを求めた事案である。 判旨は「行政手続法 5 条 3 項は、その規定の文言からも明らかなように、審査基準自体 を公にすべきことを定めたものであるところ、本件認定申請の際に控訴人に交付された本 件一覧は、医師国家試験受験資格の認定申請に当たって申請者が提出すべき書類を列挙し たにとどまるものであって、これを交付したことをもって審査基準である本件認定基準を 117 公にしたということはできない」とした。 ⑦ 教示 団体は決定と同時に、 「不服がある者は○○に申し立てるべし」という教示をしなけれ ばならない。 a.理由 選手等が団体の行った決定に対して異議申立てをなす場合、不服申立て機関が不明であ れば申立ての機会を失うこととなる。 b.好ましい例 「○○選手の 20 日間の大会停止処分に不服がある場合には、処分決定委員会に対し 1 ヶ月以内に不服申し立てを行わなければならない。 」 c.好ましくない例 「○○選手を 20 日間の大会停止処分に処する」旨の掲示のみで、不服申し立て先を記 載しないこと。 d.行政法との関係 行政法上の教示制度については、行政不服審査法 57 条に規定されている。 ⑧ 教育 団体は(1)団体関係者に適正手続を尊重する精神を浸透させるとともに、(2)選手等 に対して権利意識を高めるよう配慮しなければならない。 a.理由 (1)については、団体関係者が適正手続(行政手続法等に記載されている理由の呈示、告 知・聴聞等)を意識するようになれば、実際の手続も適正になり、選手等との紛争を未然に 防ぐことができる。 (2)については、選手等の権利意識が高まれば、選手等が団体側に対して申立てを行う 機会が増加し、団体側には不利益なようにも思える。しかし、団体側が積極的に選手の権 利について配慮しているという事実は、団体・選手間に信頼関係が構築されることとなる ので、 結果的に紛争機会が減少することにつながり、 団体側にとっても有益だと思われる。 具体的には、団体は選手の主張を聞き入れられる体制が整っていることを選手側に周知 させることが考えられる。 b.好ましい例 選手選考や処分がどのようにして行われるのか、そして、それに不満がある場合にはど のように行動すれば救済の道が開かれるかについて一年に一度、選手に対して会合を設け る。 上記内容についての注意書きを選手等に配ったり、掲示板に貼るなどして啓蒙を促す。 118 c.好ましくない例 団体は選手からの不服を受け入れないという強固な姿勢を見せること。 ⑨ 仲裁合意規定の策定 団体は、団体規則に仲裁合意規定を設けなければならない。 a.理由 選手にとって試合は人生を左右するものである。紛争発生時において第三者機関に裁定 を任せることは仲裁を申し立てられた結果、団体の主張が正しかったとしても選手の納得 が得られるだろう。 アンケート結果では、仲裁が申立てられれば費用の負担が大きすぎるため、団体運営に 支障を来たすとの意見があった。 その場合には真にやむをえない事情があると言えるので、例外的に仲裁合意規定を策定 する必要はない。ただし、その場合においても、選手の納得を得られるような団体内部の 紛争処理システムを構築すべきである。 なお、ローラースケート事案では仲裁規定が不明確なことを理由に結果として仲裁をす ることができなかった。仲裁規定は明確にすべきである。 b.好ましい例 団体規則に仲裁合意規定を設けること。 「○○連盟の決定に対する不服申し立ては、日本スポーツ仲裁機構の「スポーツ仲裁規 則」に従ってなされる仲裁により解決されるものとする」 c.好ましくない例 団体規則に仲裁合意規定を設けないこと。 e.スポーツ仲裁との関係で問題になった事案 仲裁合意規定の策定について問題となった仲裁判断はローラースケート事案がある。 ⑩紛争予防・処理システムの構築 団体は適正手続を意識した紛争予防・処理システムを構築しなければならない。 a.理由 上記のような法の一般原則を具体化した適正手続を意識した紛争予防・処理システムが 構築されれば、団体は適正手続に則って処分・選手選考を行うことになる。そうすると、 団体は事前に慎重な処分・選考をするようになる。また、事後の判断も慎重に行うように なるであろう。 アンケートでは 14 団体が紛争処理システムを構築しているとの結果が出た。しかし、 全ての団体において紛争処理システムを構築すべきである。例えば、日本サッカー協会が 規定する裁定委員会などである。裁定委員会に和解あっせん手続申し立てをすることによ 119 り、綿密な紛争処理がなされていくこととなる。このシステム構築には人材や費用がかか るため、一律なシステムを採用することはできない。スポーツ団体の規模に応じて、しか るべきシステムが構築されるべきである。 このシステムは形式的に存在しているだけではシステムとしての意味をなさない。この システムを充分に機能させるため、10 原則にあげた適正手続を考慮する必要がある。 紛争処理システムの構築に費用、人材の確保が必要なことに鑑みれば、JSAA の存在に よって適切な紛争処理がなされるのだから紛争処理システム構築が不要であるとも思える。 しかし、スポーツ団体が紛争処理システムを綿密に構築し、選手側の納得が得られれば、 仲裁の申立てがなされる機会はほとんどなくなるだろう。紛争処理システムと仲裁合意規 定の策定という二重の措置により、従来以上に、適切な紛争解決処理がなされるだろう。 2.JSAA による仲裁判断を通じた分析:裁量論との関係について スポーツ仲裁の 6 件の先例を通して、①団体の決定がその制定した規則に違反している 場合、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、③決定に至る手続に瑕疵が ある場合、または④団体の制定した規則自体が法秩序に違反しまたは著しく合理性を欠く 場合には取消し事由となるという原則が確立しつつある。 そのうち①②③で示された原則は、裁量論である。つまり、団体には一定程度自由に物 事を決定することができるが、その判断が著しく不当である場合に当該判断が是認されて 良いのかという問題である。 裁量論は行政法で議論されてきた事柄であり、行政法学説が参考になると思われる。行 政法において裁量が問題となる場合、 大きく分けて二つの場面で差が生じると考えられる。 第一に結果の適正性、第二に過程の適正性である16。 第一の場面では、行政機関が専門技術的な知見を有していることから、専門技術的判断 や政策判断を行うので、 結果の適正性について強度に法的規律を及ぼすことは困難となる。 そこで、行政機関の自由裁量が認められる範囲が広いと言える。もっとも、当該判断が著 しく妥当性を欠く場合には法的規律を及ぼすことができる(最判平成 9 年 8 月 29 日民集 51 巻 7 号 2921 頁・最判平成 8 年 7 月 2 日判時 1578 号 51 頁)。 第二の場面では、 「結果」の適正ではなく、 「過程」が適正か否かの判断であるので、当 該過程が適正に行われたか等の手続法的審査においては専門技術的知見を有している必要 はなく、第一の場面と比べて容易に行うことができる。手続的判断は従来から裁判所が積 極的に行ってきた。行政手続法が法制化されたことにより、より一層手続的判断が容易に なったといえる。 16 亘理格「行政裁量の法的統制」行政法の争点 第 3 版 116 頁 120 結果の適正性について判例の傾向は行政機関の裁量を尊重する立場をとるが、生命・身 体・健康や信教の自由等の高度の人権価値を認められその保障範囲も比較的明確な法益へ の侵害をもたらす行政活動については自由裁量の余地のある権限行使である場合でも結果 の適正性につき審査を行ってきた。伊方原発訴訟(最判平成 4 年 10 月 29 日民集 46 巻 7 号 1174 頁)では、原子炉施設の安全性判断につき行政の専門技術的知見による判断を認 めたが、判断過程の合理性の審査につき安全性に関する具体的審査基準の合理性は現在の 科学技術水準に照らした審査が必要であるとしている。従来の判断方法からすれば行政の 自由裁量の範囲内と判断されうる場合において被害法益について配慮した判断がなされて いる。 以上のように、行政は被侵害利益に着目して踏み込んだ判断をする場合がある。被侵害 利益によっては裁量に広狭が生じるのである。 3.スポーツ仲裁制度の現状分析 裁量の広狭の問題は、スポーツ団体の決定にもあてはまることではないかと考えられる。 すなわち、馬術事案の仲裁判断も述べるように、 「オリンピック大会への出場は多くのスポ ーツ選手にとって大きな夢であ(る)」 。オリンピック選手選考については手続違反のみなら ず、選考自体の合理性についても一定程度の仲裁判断ができると考えても良いのではない だろうか。確かに、団体競技と個人競技での特殊性の差異(チームワークを考慮するなど) や、国内競技、国際競技の差異などもあり、選考自体の合理性についての判断は容易では ない。しかし、誰もが不合理であると判断できるような選手選考・処分については、仲裁 判断できるのではなかろうか。 なお、筆者らの間で、大会の性質によって仲裁判断の対象を変更するという意見に否定 的な見解もあった。オリンピック大会であろうが、国内大会であろうが、当該選手にとっ ては自らの人生をかけて大会に臨んでいる。それにも関わらず、オリンピックだからとい う理由で特別に仲裁判断対象を広げるとすると、仲裁判断に統一性を持たせることができ なくなるおそれがある。また、大会によって自らの選考について審理してもらえないとい うのでは選手の納得が得られないとも考えられよう。 おわりに 我々はスポーツ仲裁機構(JSAA)の設立が、スポーツに関する紛争解決・予防について何 らかの影響を及ぼしたのではないかとの仮説を立てた。アンケートの結果からは、JSAA の設立によって適正手続に対する意識の変化の他、紛争処理機関を設置したことが明らか になった。このことからすると、JSAA 設立前と比べ、JSAA 設立後の方が、紛争解決・ 121 予防の点に関して、より望ましい状況になったと言える。 しかし、スポーツを巡る紛争には、いまだ乗り越えなければならない、事実的・法的問 題が存在する。 前者の事実的問題とは、選手選考・不利益処分の決定を行う際に適正手続がいまだ完全 ではないということである。確かに、アンケートの結果を見ると、一定程度の団体が適正 手続を意識していることは肯定的に評価できる。しかし、選手等の権利保護のためには、 さらに一つでも多くの団体が適正手続を意識し、それに従うことが望まれる。その点で、 本稿で我々が提言した「上智 10 原則」が、各スポーツ団体における紛争予防・解決に少 しでも役立つことができれば、望外の喜びである。 後者の法的問題点とは、仲裁合意がなされないと JSAA による仲裁を利用できないこと と、仲裁判断がなされてもそれを強制的に執行する方法がないということである。この点 で、いまだ、仲裁合意を行わない団体が存在することと、仲裁判断に必ず従うという団体 が半数を下回っていることは、問題である。今後、各団体が、あらかじめ団体規則に仲裁 合意を規定すること、および、仲裁判断には必ず従うということを意識・実践することを 期待したい。 以上 122 別紙1 平成 16 年度文部科学省 法科大学院等専門職大学院形成支援プログラム 「仲裁・ADR・交渉の研究と実践」 スポーツ仲裁に関するアンケート ○ 記入方法 選択肢については該当する選択肢に○をお付けください。 理由等をお尋ねしている部分については、該当欄に直接ご記入ください。 ○ 返信期限 平成17年12月24日までに、本アンケート用紙を同封の返信用封筒 でご返送頂けますと幸いです。 ○ お問合せ先 上智大学大学院法学研究科助教授 森下哲朗 連絡先 メールアドレス:[email protected] 電話番号:03-3238-3259 (法科大学院事務室:9:00-17:00(昼休みを除きます)) 上智大学法科大学院 http://lawschool.cc.sophia.ac.jp/project/index.html 123 1 はじめに貴団体の組織等についてお聞きします。 1.競技の形態について(該当するものに○を付けてください) ア.団体競技(ex ダブルス、チームスポーツ) イ.個人競技 ウ.個人団体両方あり 2.貴団体が加盟する団体に○を付けてください。(複数可) ア.日本オリンピック委員会 イ.日本体育協会 ウ.日本障害者スポーツ協会 3.貴団体の役職員に主に法務関係の仕事を担当されている方はおられますか。 ア.いる イ.いない ※ア.いると答えた団体にお聞きします。具体的にどのような肩書きの担当者 ですか。 4.貴団体内部には、選手や役員とのトラブルが生じた場合に紛争解決をはか る仕組み(ex 裁定委員会、紛争処理委員会)が存在しますか。 ア.存在する イ.存在しない ※ア.存在すると答えた団体にお聞きします。具体的にどのようなシステム ですか。可能な限りでお答えください。 124 5.オリンピック等の国際大会の代表選手の選考にあたって貴団体が行ってい ることに○をつけてください。(複数可) ア.選考基準を事前にすべて公開する イ.選考基準の内容をできる限り明確にする ウ.選考過程を公開する エ.選考結果に対する不服申し立て制度を設けている オ.その他 6.代表選手の選考にあたり、オリンピック等の国際大会と国内大会では選考 方法に違いがありますか。 ア.大きな違いがある イ.少し違いがある ウ.違いはない ※ア.イ.と答えた団体にお聞きします。具体的にどのような違いがあり ますか。可能な限りでお答えください。 7.団体内で、選手等の団体関係者に対して何らかの処分(ex 資格停止、出場 停止)をする際に行っていることに○をつけてください。 (複数可) ア.処分の理由を明確に示す イ.処分された者の意見を聞く機会を設ける ウ.処分に対する不服申し立て制度を設けている エ.その他 125 2 2003 年4月 7 日、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)が設立されました。 1.日本スポーツ仲裁機構が設立されたことについてどうお考えですか。 ア.賛成である イ.反対である ウ.どちらでもない エ.設立されたことを知らなかった ※賛成・反対について、具体的理由があれば、お書きください。 2.貴団体では選手等が日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申し立てた場合にそれ に応じる旨の合意を団体規則等で規定していますか。 ア.規定している イ.規定していないが、いずれ規定する予定である ウ.規定していないし、今後もその予定はない ※ウ.規定していないし今後もその予定はないと答えた団体にお聞きしま す。それはなぜですか。該当するものに○をしてください。(複数可) A.団体内部で紛争処理が可能だから B.スポーツにおける紛争を仲裁で解決することに疑問があるから C.現在の日本スポーツ仲裁機構に紛争解決を任せるのは不安だから D.仲裁が申し立てられてから、個々の事案について合意するか判断す ればよいと考えるから E.その他 3.日本スポーツ仲裁機構が設立された結果、貴団体では組織や規則等を変 更しましたか ア.変更した イ.特に変更していない 126 ※ア.変更したと答えた団体にお聞きします。具体的にどのような変更を しましたか。 A.団体内部に紛争処理システムを作った B.顧問弁護士と新たに契約した C.法務関係の役員を新たに設けた D.処分に対する不服申し立ての機会を与えるようになった E.その他 4.貴団体は日本スポーツ仲裁機構が設立されたことで、それ以前に比べて 選手選考や処分等をする際に明確性や公平性を意識するようになったと 思いますか。 ア.そう思う イ.そう思わない ウ.どちらともいえない 5 3 仮に、貴団体に不利な仲裁判断が下された場合、その仲裁判断に従いま すか。 ア.必ず従う イ.場合によって異なるので一概には言えない ウ.従わない 日本スポーツ仲裁機構ができてからの団体・選手間での紛争につ いておききします。 1.日本スポーツ仲裁機構ができてから今日までに団体と選手との間に何件 の紛争、トラブルがありましたか。 ①0件 ②1~5件 ③6~10件 127 ④11件以上 ⑤回答できない 2.日本スポーツ仲裁機構が設立されてから(2003 年4月以降)選手との間 の紛争、トラブルの数は増えましたか。 ア.増えた イ.あまり変わっていない ウ.減った 4 日本スポーツ仲裁機構についてお聞きします。 1.現在の日本スポーツ仲裁機構の組織、仲裁手続き、及びこれまでの仲裁 判断に満足していますか。 ア.満足している イ.不満がある ウ.どちらともいえない ※イ.不満があると答えた団体にお聞きします。どのような不満があります か。(複数可) A.仲裁人リスト記載の仲裁人が法律家だけであること B.仲裁判断に対して不服申し立てができないこと C.これまでの仲裁判断の内容がわかりにくいこと D.スポーツにおける紛争を仲裁によって解決すること E.その他 5 今後研究、調査が必要だと感じる事柄、よく法的に問題になる事柄等自由 にお書きください。 ご協力ありがとうございました。 128 別紙 2 1 3.貴団体の役職員に主に法務関係の仕事を担当されている方はおられますか。 ア.いる イ.いない ※ア.いると答えた団体にお聞きします。具体的にどのような肩書きの担当者ですか。 ア.いる 8 団体 <具体的な肩書き> ・ 法制委員長 ・ 総務委員 ・ 総務委員会・規律部長 ・ 理事長 イ.いない 35 団体 ・業務推進事業部長 ・監事 ・審議委員会委員 4.貴団体内部には、選手や役員とのトラブルが生じた場合に紛争解決をはかる仕組み (ex 裁定委員会、紛争処理委員会)が存在しますか。 ア.存在する イ.存在しない ※ア.存在すると答えた団体にお聞きします。具体的にどのようなシステムですか。可 能な限りでお答えください。 ア.存在する 12 団体 イ.存在しない 29 団体 <具体的なシステム> ・ 競技者資格審査委員会において処分判定を行い、理事会に答申する。その答申を受 け本人に処分を通告する。その通告に不服の申し出があった場合不服審査会が招集 される。 ・ 資格審査委員会を設置している。 ・ 大会トラブルは同大会裁定委員会、その他は懲罰委員会。 ・ 審査委員会→スポーツ仲裁機構 ・ 1.仲裁委員会に諮る、2.JSAA に諮る ・ 選手から異議申し立てがあった場合に不服審査会を設けている ・ 競技・審判委員会が所管。 ・ 各委員会、競技会本部で対応し、最終的には理事会に上程し判断する。 ・ ①総務委員会にて検討(担当者の決定)…問題解決をはかる ②倫理規定に抵触するか規律部にて検討 ③大きな問題について、明らかな違反が確認された場合、理事会が懲戒委員長を指 名し処分の検討をし、その結果を理事会にはかる。処分が決議された時、当事者に 通知。不服がある場合、申し出て、理事会で再審しその結果を通知。 5.オリンピック等の国際大会の代表選手の選考にあたって貴団体が行っていることに ○をつけてください。(複数可) ア.選考基準を事前にすべて公開する イ.選考基準の内容をできる限り明確にする ウ.選考過程を公開する エ.選考結果に対する不服申し立て制度を設けている オ.その他 ア. 23 団体 イ. 22 団体 ウ. 11 団体 エ. 7 団体 5 団体 オ.その他 ・ ・ ・ ・ チームゲームでは基準は難しい 結果が出る前に意見を聞くことがある 国際ランキング チームスポーツであり、また記録を競う競技ではないので、明確な基準はない。 129 6.代表選手の選考にあたり、オリンピック等の国際大会と国内大会では選考方法に 違いがありますか。 ア.大きな違いがある イ.少し違いがある ウ.違いはない ※ア.イ.と答えた団体にお聞きします。具体的にどのような違いがありますか。可 能な限りでお答えください。 ア. 2 団体 10 団体 ウ. イ. 26 団体 <具体的な違い> ・ オリンピックは発表された標準記録を突破した選手のみの選考になるが、他の大 会は連盟独自の記録を考慮する場合もある ・ 勝負を重視するか育成を重視するかで変わる ・ 国内大会:予選会を実施 国際大会:国内大会の成績により選考 ・ 個々の大会によって選考基準が異なる ・ 得点による申請をさせるが国際大会の場合にはそれをもとに選考会を開催する。 国内大会は得点順に選考する。 ・ 選手数、クラス(障害別)にバラつきがあるため、メダル獲得の可能性と種目成 立の兼ね合いにより選考している。 ・ 国際大会:毎年度ナショナルチームを選出し、その中から各国際大会の代表選手 を選出する。国内大会:予選会を行うことが多い。 ・ 代表選手はあくまで、対国際なので、その国際大会の質によって違いがある場合 がある。 7.団体内で、選手等の団体関係者に対して何らかの処分(ex 資格停止、出場停止) をする際に行っていることに○をつけてください。(複数可) ア.処分の理由を明確に示す イ.処分された者の意見を聞く機会を設ける ウ.処分に対する不服申し立て制度を設けている エ.その他 ア. 31 団体 ウ. 12 団体 イ. 130 21 団体 4 団体 エ.その他 ・これまでに処分の実例がない。(同回答4団体) ・選手選考とは別次元の綱紀問題での処分については、規則を定めて運用している。 ・審査委員会制度、スポーツ仲裁機構に加盟している旨を伝える。 2 1.日本スポーツ仲裁機構が設立されたことについてどうお考えですか。 ア.賛成である イ.反対である ウ.どちらでもない エ.設立されたことを知らなかった ※賛成・反対について、具体的理由があれば、お書きください。 33 団体 ア. ウ. イ. 0 団体 8 団体 エ. 1 団体 <※具体的理由> ・裁判に持っていく前に専門的判断をもって解決でき、且つスピードありより有益で ある(選手にとって) ・(設立が)少し遅い ・賛否を検討したことはない ・選手のためにはよい。小さい団体では訴訟は死活問題 ・どちらに非があるか第三者に入っていただき、はっきりでき、後に遺恨を残さない (?)可能性が高いが小さな団体では経費が問題。2~3回でつぶれてしまう。 ・第三者仲裁が一番よい。 ・従来選手との間でトラブル発生の例がなく今後も発生が想定されない。 ・スポーツ選手の選考の透明性を増す効果がある。 ・スポーツ全体を見渡した広い見解での裁定が期待できる。 2.貴団体では選手等が日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申し立てた場合にそれに応じ る旨の合意を団体規則等で規定していますか。 ア.規定している イ.規定していないが、いずれ規定する予定である ウ.規定していないし、今後もその予定はない 131 16 団体 イ. ア. 16 団体 ウ. 11 団体 ※ウ.規定していないし今後もその予定はないと答えた団体にお聞きします。そ れはなぜですか。該当するものに○をしてください。(複数可) A.団体内部で紛争処理が可能だから B.スポーツにおける紛争を仲裁で解決することに疑問があるから C.現在の日本スポーツ仲裁機構に紛争解決を任せるのは不安だから D.仲裁が申し立てられてから、個々の事案について合意するか判断すればよい と考えるから E.その他 2 団体 B. A. 0 団体 C. 0 団体 D. 6 団体 2 団体 E.その他 *なお、団体が仲裁合意を規定しているかどうかについては、JSAA の調査結果があ り、JSAA のホームページで公開されている。 3.日本スポーツ仲裁機構が設立された結果、貴団体では組織や規則等を変更しま したか ア.変更した イ.特に変更していない ア.変更した 17 団体 イ.変更していない 25 団体 ※ア.変更したと答えた団体にお聞きします。具体的にどのような変更をしま したか。 A.団体内部に紛争処理システムを作った B.顧問弁護士と新たに契約した C.法務関係の役員を新たに設けた D.処分に対する不服申し立ての機会を与えるようになった E.その他 A. 2 団体 B. 1 団体 C. 0 団体 D. 4 団体 132 10 団体 E.その他 ・仲裁合意を団体規則等で規定した(同回答 10 団体) 4.貴団体は日本スポーツ仲裁機構が設立されたことで、それ以前に比べて選手選 考や処分等をする際に明確性や公平性を意識するようになったと思いますか。 ア.そう思う イ.そう思わない ウ.どちらともいえない ア. 17 団体 イ. 8 団体 ウ. 16 団体 5.仮に、貴団体に不利な仲裁判断が下された場合、その仲裁判断に従いますか。 ア.必ず従う イ.場合によって異なるので一概には言えない ウ.従わない ア. 14 団体 イ. 28 団体 ウ. 0 団体 3 1.日本スポーツ仲裁機構ができてから今日までに団体と選手との間に何件の紛争、 トラブルがありましたか。 ①0件 ②1~5件 ③6~10件 ④11件以上 ⑤回答できない ① 34 団体 0 団体 ④ ② 6 団体 ⑤ 0 団体 ③ 0 団体 2.日本スポーツ仲裁機構が設立されてから(2003 年4月以降)選手との間の紛争 トラブルの数は増えましたか。 ア.増えた イ.あまり変わっていない ウ.減った ア. 0 団体 33 団体 ウ. イ. 133 0 団体 4 1.現在の日本スポーツ仲裁機構の組織、仲裁手続き、及びこれまでの仲裁判断に 満足していますか。 ア.満足している イ.不満がある ウ.どちらともいえない 7 団体 ア. 2 団体 イ. ウ. 27 団体 ※イ.不満があると答えた団体にお聞きします。どのような不満がありますか。 (複 数可) A.仲裁人リスト記載の仲裁人が法律家だけであること B.仲裁判断に対して不服申し立てができないこと C.これまでの仲裁判断の内容がわかりにくいこと D.スポーツにおける紛争を仲裁によって解決すること E.その他 A. 0 団体 B. 1 団体 C. 0 団体 D. 0 団体 2 団体 E.その他 ・仲裁人リストに載っている人が、弁護を引き受けることができる仕組みに疑問が ある ・訴え側の利益が実現される仲裁がなされても、訴え側がその利益となることを実行 したか否かを仲裁機構は見届けていない。訴え側にその利益を実行する意思がない 場合、訴える利益のない者の仲裁をすることになる。 ・競技の判定で調査が正確に行われていないのに、判断された。 134 5 今後研究、調査が必要だと感じる事柄、よく法的に問題になる事柄等自由にお書きく ださい。 ・ 選手からの不服申し立てが何でも通って、仲裁判断を受けるようなことになれば 困る。仲裁判断をする前の段階で取り上げていいものなのなのかを判断する組織 が必要なのかもしれない。小さな団体は 1 件あればつぶれてしまう。 ・ まだ、選手・役員ともスポーツ仲裁についての理解がそれほど進んでいないと思 うので、適切な教育が必要。 ・ トラブルが起こる可能性は団体と選手の間ばかりでなく団体とその登録者(選 手、指導者等)との間でも起こりうる。 ・ 「判断」の記載と仲裁が思うところの「意見」が書かれていることがある。マス コミ等は「意見」部分を強調して報道を行うことが多々ある。これらの影響は判 断と異なった影響を与え、客観性を失わせるものであると考える。判断とマスコ ミのあり方などの研究はどうか。 ・ 審判の判定と、所属県連の問題がトラブルの主である。審判の判定は、審査対象 外、所属問題は県連盟、ブロック理事との間で調整され、上部に上がってくるこ とはほとんどない。 ・ チーム編成上、団体スポーツにおける選手の客観的評価は、明確だが、数値化で きない。主観的評価が大きく影響するので、同明確にしていくかがこれからの課 題ではないか。 ・ 競技の内容上(法律との関係)、仲裁内容を100%受け入れるという宣言は発 表しづらい実情がある。 135
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