ニームは健康に効く - Neem-ニーム

ニームは健康に効く
富山県国際伝統医学センター 次長 上馬塲 和夫
●インド伝統医学アーユルヴェーダにおけるニーム
ニ ー ム ( Azadirachta indica A. Juss. 和 名 イ ン ド セ ン ダ ン ) は 、 Neem, nim ( ヒ ン ヅ ー
語),Nimba(サンスクリット語)と呼ばれ、インドから、南東アジアに分布している。特に、インド
のアンドラプラデシュ、タミールナド、カルナータカ州の森には自生している。インドや東南ア
ジア以外でも、西アフリカ、カリブ海沿岸から南〜中央アメリカなど熱帯地方にも分布する 1)。
インド伝統医学アーユルヴェーダでは、4000 年以上前からニームを神から授かった薬木
として、珍重してきた。アーユルヴェーダでは、「すべてのものが、道理を目的に従えば、薬
になる」(『チャラカ・サンヒター』(紀元1世紀頃)と教えられており、薬になる有用植物の代表
がニームである 2,13)。
ニームは、種子、果実の仁、葉、花、樹皮など、あらゆる部分が薬として利用できるという
が、樹皮と葉、種子からのニームオイルが主に使われている。これらは苦味で冷性があるた
め、体内に火のエネルギーや余分な水分が増大した状態において効果をもつとアーユルヴ
ェーダでは教えられている。そのような体内の過剰な熱を下げる作用をもつことから、苦味強
壮剤、血液浄化剤、駆虫剤などとして、幼少児から高齢者まで幅広く活用されてきた 1,3)。
具体的には、幹の樹皮は抗菌作用があり、葉や根の樹皮や若い果実は、苦味強壮剤とし
て、糖尿病やメタボリックシンドローム、歯肉疾患などに使われる。花は、消化不良に、実は、
寫下・駆虫剤として、新鮮な小枝は、主に歯槽膿漏に対して日常的に使われる。葉や種子
から絞ったオイルは、抗菌、抗虫作用があるため、皮膚の膿瘍や潰瘍、湿疹に、浴剤などと
して外用される。また、リウマチや打ち身などにも湿布されることもある 1,3)。
ヒト以外の獣医学的な利用価値も大きく、樹皮を動物の傷や下痢、のみなどに使ってきた。
葉は、膿瘍の治療に使われている。出血や感染、発熱、しらみなどに使われる。ニームのど
こでも、樹脂やオイルでも、虫や口内の傷、舌炎、肝炎、黄疸、皮膚病、リウマチに対して効
果があるとして伝統的に利用されてきた 1)。
アーユルヴェーダの考えに従えば、ニームは、火と水のエネルギーの過剰状態(体内に
過剰な熱と余分な水分がたまった状態)に用いれば、それらを鎮静化してバランスをもたら
す結果、上記のような種々の薬効を発揮すると考えられている。しかし、過量に用いると風の
エネルギーを増大させて、逆に病気を起こしてしまうこともある。そのため、冷えによる病気
(風のエネルギーの増大した病気)や、組織が欠乏した状態(栄養失調など)には禁忌とされ
ている 2)。
● ヒトへの効果に対する現代医学的基礎的&臨床的研究
ニームのヒトや動物の健康に関する研究は、これまでインドでは多くなされてきた。これらを
項目別にまとめてみると、以下の 1.〜22.までになろう。詳しくは文献 1)-15)を参考にされた
い。
1. 現代医学的研究:含有成分
① : リ モ ノ イ ド ( azadirachtin, nimbanal, nimbidiol, margocin な ど ) , ② : テ ル ペ ノ イ ド
( isoazadirolide, nimbocinolide, nimbonone, nibonolone, methylgrevillate, margosinone,
margosinolone, nimosone, nimbosone),③オイル(salannin, nimbidin, nimbinin, nimbidinin)④
多糖:arabinogalatane, G-Ⅱa, G-Ⅲa, G-Ⅲb, GⅢDO2, Ⅱa, GⅢDO2 Ⅱb, CSP-Ⅱ, CSPⅢ, CSSP-Ⅰ, CSSP-Ⅱ, CSSP-Ⅲなど)などが、樹皮に多く含まれている 1)。
2. 抗真菌、抗細菌、抗ウイルス活性:
葉のエキスは、アフラトキシン産生を強力に阻害する。種子から絞ったオイルには、サルモネ
ラなどに対する抗菌活性が強い。NIM-76 と呼ばれる殺精子分画は、強い抗菌活性も持って
いる 1)。
3. 皮膚病改善作用:
真菌(白癬菌やカンジダなど)や細菌、ウイルスなどによる皮膚疾患全般に効果をもつことが
いわれている。ウコンとニームの葉のペーストを、はしかや水痘の痒みに対して伝統的につ
かわれてきた。疥癬患者に 4:1(新鮮なニーム葉:ウコン粉)のペーストを 3-15 日間塗布した
ところ、97%で改善したという。副作用の報告はなかったという。500mg の葉と小枝、花のニ
ームエキスをカプセルに詰めて、一日2回食事と一緒に摂取すると、慢性の真菌感染が改
善したという 3)。
4. 歯科疾患への作用
ニームの場所による抗菌活性についてまとめた文献がある 4)が、ニームのどこでも抗菌活性
があり、歯槽膿漏や虫歯をおこす Streptococcus mutans や Streptococcus faecalis の静菌さ
せる。ニームのマウスウオッシュを 150 名の児童(9-12 歳)に使用させた。5群のわけて、1:
3%のニームウオッシュをアルコールで溶かしたものと、2:アルコール以外で溶かしたもの。
3:クロールヘキシジンでうがいをした陽性対照群、4:陰性対照製剤でウオッシュした群、5:
口腔ケアのみ群で2ヶ月間実験した。その結果、1と2群では、唾液中の Streptococcus
mutans が減少したが、唾液中の Lactobacillus は変化なかった。3群では、Lactobacillus が
減少した 5)。
5. 抗動脈硬化作用
成熟葉のエキスは、ラットの実験で、血清蛋白質の変化を伴わないで、血清コレステロール
を低下させる 1)。
6. 抗糖尿病作用
5gの葉の水性エキスあるいは等量の乾燥葉は、インスリンの必要量を 30-50%減少させた 1)。
インスリンだけでは、血糖値が低下しない量でも、ニームと一緒に与えると血糖が低下する。
一方、血糖値が正常の動物にニーム葉エキスを投与すると、低血糖になる。葉の 50%エキス
を、0.15mg/kg 犬に投与すると、正常血糖値の動物でも、アドレナリン投与により高血糖にし
た動物でも、血糖が低下する 1)。
葉のエキスや種子のオイルは、正常うさぎも糖尿病うさぎも血糖値を低下させて。これは西
洋医学的血糖降下薬であるグリベンクラミドの強さに相当する 1)。
葉の水性エキス、メタノールエキスは、アドレナリンや糖負荷による高血糖やストレプトゾトシ
ン誘発DMラットで血糖値を低下させる。種子オイルも同様な作用がある。種子オイルをゼラ
チンカプセルに入れて投与したところ、Ⅱ型糖尿病患者にニームオイルを投与した実験でも、
血糖値を低下させて、西洋薬の量を減少させることができたという。さらに痒みや筋肉痛、疲
労感なども改善し、創傷が治りやすくなったという。軽症から中等症、さらには重症の50%の
患者に効果があった 6)。
7. 抗マラリア作用:
Limonoid の gedunin を含む葉のエキスは、強い抗マラリア作用を持っている 1)。
8. 鎮痛作用:
マウスで、水性エキスの鎮痛作用を検討した。これは、酢酸ライジング法を使い、
10,30,100mg/kg 投与すると、容量依存性に反応を抑制した 1)。
9. 解熱作用:
葉や樹皮の 75%メタノールエキスは、ウサギの実験で、400mg/kg 投与により解熱作用を示
し た 。 同 じ 作 用 は 、 ヘ キ サ ン や ク ロ ロ フ ォ ル ム 、 90% エ タ ノ ー ル 、 水 で 抽 出 し た 画 分 の
150mg/kg 投与でも得られる 1)。
10. 不安減弱作用:
新鮮な葉のエキスをラットに 10-200mg/kg 投与することにより、行動評価法による不安の軽
減をみとめ、これは、ディアゼパムの 1mg/kg 量に匹敵するものであった 1)。
11. 循環系への作用:
葉のエキスは、うさぎとモルモットの実験で、容量依存性に強力な血圧低下作用を示した。
また、ウアバインで惹起した不整脈を抑制する作用も認められた。作用機序は、平滑筋弛緩
作用によるものと推定される 1)。
12. 中枢神経抑制作用:
葉のアセトン抽出エキスを経口投与することで、活動が抑制され、ペントバルビタール誘発
睡眠を延長させるなどの効果が得られた 1)。
13. 肝庇護作用:
パラセタモール誘発肝細胞障害を、葉のエキスが抑制した 1)。
14. 抗炎症作用:
葉や樹皮の 75%メタノール抽出エキスを 800mg/kg 投与すると、カラゲニン誘発足蹟浮腫を
抑制した。ニーム樹皮に含まれるアラビノガラクタン多糖体である G-Ⅱa, G-Ⅲa, G-Ⅲb, G
ⅢDO2, Ⅱa, GⅢDO2 Ⅱb も 有意な抗炎症作用を示した。 種子オイルから得られ る
Limonoids である Nimbidin 分画も、同じようにカラゲニン誘発浮腫を抑制した 1)。
15. 抗腫瘍作用:
サルコーマ 180 腹水腫瘍は、ニーム樹皮のエキスの多糖体である Gia、Gib の腹腔投与で抑
制された 1)。
16. 発ガン予防効果:
DMBA 誘発 Papilloma 発生防止作用:一群 15 匹のネズミにニーム葉エキスを経口投与し、1
4 日 後 に DMBA を 局 所 の 皮 膚 に つ け て 皮 膚 乳 頭 腫 を 発 生 さ せ る 。 ニ ー ム 葉エ キ ス
250mg/kg、500mg/kg 経口投与群とで、用量依存性の作用がある 7)。
推定作用機序:ニーム葉エキスが Cytb5 や Cytp450b などの活性を抑制→発癌成分の生成抑
制、と同時に、ニーム葉エキスが GST や DTD などの解毒酵素の活性は高める→発癌成分の
解毒亢進=発癌予防へと繋がると推定されている 7)。
17. 不妊作用:
ニーム花の 50%エタノールエキスを経口投与すると、雄性ラットで精巣や精巣上皮小体の重
量の減少を認めた。造精機能や精子の活動や精子濃度も有意に減少した。血清アンドロゲ
ンレベルも低下した。雌性ラットでも、卵胞の変性と子宮内膜の変性を認めた。ホルモンバラ
ンスには変化を認めなかった。種子のヘキサン抽出分画(一価と二価不飽和脂肪酸とそれ
らのメチルエステルが主体)は、一回の子宮内投与で、長時間だが、可逆性の不妊状態を
惹起することが示された。これは、細胞性免疫を介した生殖器系の変化が起こるためと推定
されている 1)。
18. 駆虫作用、害虫の成長調節作用:
種子、花、葉の水性あるいはメタノールエキスは、たばこの芋虫の幼虫の発生や成長を抑制
する。活性成分は、Azadirachtin、salannin, nimbin, 6-desacetylnimbin などで、主に種子の
仁 か ら 抽 出 さ れ る 成 分 で あ る 。 こ れ ら の 成 分 が 、 昆 虫 な ど の ecdysone
20-monooxygenase(E-20-M)を抑制するためと推定されている。経口摂取の方が、外用より
も効果的である 1,8)。
19. 抗潰瘍作用
Nimbidin は、アセチルサルチル酸やストレス、セロトニン、インドメサシン誘発胃潰瘍を抑制
する。ヒスタミンやシステアミン誘発十二指腸病変も同じように抑制できる。
また、潰瘍の治癒過程も促進される 1)。
20. 免疫調節作用
樹皮、葉、種子の水性エキスは、マクロファージの貪食能を増大させ、MHC-Ⅱ抗原の表出
を促進する。それらから、抗原への反応を高め、リンパ球増殖を促進し、とりわけ、T 細胞の
TH1 系を選択的に活性化するものと推定される。葉の粉エキスには、IgE 抗体産生抑制作
用、ヒスタミン遊離抑制作用なども報告されている。ちなみに、クラミディアやヘルペスウイル
スなどの細胞内増殖を阻害するのは、直接的な抗ウイルス作用だけでなく、免疫系を介する
ものと推定される 1)。
21. 内臓脂肪蓄積抑制作用
葉(ニームリーフ)の粉末エキスをラットに投与して、対照群と比較した結果、内臓脂肪蓄積
が抑制されていた(一丸ファルコス社 2006 年報告)。
22. 安全性に関する検討
適量であれば副作用はないが、新鮮な葉や乾燥葉の水性エキスの濃いエキスは、肝臓や
腎臓の毒性所見を認めるため、注意しなくてはいけない。樹皮の 50%エタノールエキスの
LD50 は、ラットで 1000mg/kg 以上である(腹腔内投与)。種子のオイルを 5-30ml 幼児に経
口投与して痙攣が起こった例が報告されたり 9)、肝障害などの毒性の報告があったが、これ
は、Melia azedarach(センダン)あるいは Persian lilac が混じったためか、アフラトキシンに
より汚染されていたためと推定されている。苦味物質を除去し脱臭処理した純粋なニームオ
イルは、経口も外用も無害であることがいわれている 10,11)。
●ニームの日本における可能性と問題点
しばしば健康食品で問題になることであるが、「良いとか、効く」とかという評判がたつと、
過量に、長期に、年齢や本人の身体の状態を問わず、摂取されることがある。ニームの機能
性を紹介するにあたって、このような用い方や副作用の危険性についても認識しておくこと
が必要と思われる。特に、苦味成分を含むニームオイルには、小児に痙攣を来す可能性や、
内服でも外用(膣剤などでは特に)でも、一過性の不妊を来すことなどが報告されている。ま
た、ニームを含む製剤の栽培と製造過程において、特に葉や樹皮などが、重金属(Pb、Hg、
As など)や農薬で汚染されたりする危険性がある 12)。さらにまた、センダンなど類似植物のオ
イルが誤用されることも指摘されている。そのような問題点を有しているため、日本への輸入
は、現在、葉と小枝に限られている。
前述のように、ニームはインドでは、幅広い年齢層に、日常の練り歯磨きや石鹸から、ア
ーユルヴェーダ医師や薬局で処方される抗菌剤や抗糖尿病薬まで、広範に使われて、イン
ドの人たちに健康を、効果的に守ってきた。前述のように科学的研究でもそれが裏付けられ
ている。また、ニームの副作用を来す主因とされてきた苦味成分を除去したニームオイルが
調整され、黴による汚染などにも注意されるようになってきた。そのような信頼性の高いニー
ム製品を栽培し、衛生的で厳密な行程によって製造し、アーユルヴェーダの原理に従って
体質や体調に応じて正しく適応すれば(幼少児、妊婦や妊娠希望女性、冷えが強い例、何
か不都合が発生した例には、特に長期の内服や大量の外用は控える等)、小児での痙攣や
肝障害、不妊によるトラブルなどの副作用も避けることができ、日本での活用も広がるであろ
う。また、農業分野での忌虫効果や土壌改良効果もニームは有していること 8)や、ニーム栽
培による森林育成で二酸化炭素を吸着させて環境問題に対処できることを考えると、ニーム
は将来、ヒトと動物や植物、さらに地球全体の健康にとって役立つミラクルハーブとなる可能
性があろう。
●引用文献
1) Elizabeth M. Williamson edi.: Dabur Research Foundation and Dabur Ayurvet limited
compiled: Major Herbs of Ayurveda, Churchill Livingston press, London, 2002.
2) 上馬場和夫監訳・編:アーユルヴェーダのハーブ医学、出帆新社、2000 年.Vasant Lad
& David Frawley, Yoga of Herbs, Lotus Press, New Mexico, USA, 1990.
3) Premila MS: A Clinical Guide to the Healing Plants of Traditional Median Medicine. The
Haworth Press, New York, 2006.
4) Gupta AK, Tandon N. (eds.). Reviews on Indian medicinal plants (vol.3,pp.356-358).
Indian Council of Medical Research, New Delhi, 2004.
5) Vanka A, Tandon S, Rao SR, Udupa N:The effect of indigenous Neem (Azadirachta indica)
mouthwash on Streptococcus mutans and Lactobacilli growth. Indian J Dent Res
12:133-144,2001.
6) Jha SN: Effect of neem oil (Azadirachta indica ) as antihyperglycemic agent. Indian med J
84:331,1991.
7) Dasgupta T, Banerjee S, Yadava PK, Rao AR: Chemopreventive potential of Azadiracta
indica (Neem) leaf extract in murine carcinogenesis model systems. J Ethnopharmacol
92:23-36, 2004.
8) ジョン・コリック著、大澤俊彦監訳、本堂由紀訳:ニーム 忌虫効果で無農薬を可能にす
るインドセンダン. フレグランスジャーナル社、東京、2001.
9) van der nat JM, van der Sluis, de Silva KTD, Labadie RP: Ethnopharmacological survey of
Azadirachta indica A. Juss.(Meliaceae). J Ethnopharmacol 35:1-24,1991.
10)Tandan SK, Gupta S, Chandra S, Lal J, Singh R: Safety evaluation of Azadirachta indica
seed oil, an herbal wound dressing agent. Fitoterapia 66:69-72,1995.
11) Chinnasamy N, harishakar N, Kumar PV, Rukmani C: Toxicological studies on
debitterized neem oil (Azadirachta indica). Food Chem Toxicol 31:297-301,1993.
12) 内藤裕史:健康食品・中毒百科.丸善株式会社、東京、2007.
13)草間章宏:健康にも環境にもよく効く樹.環境技術情報センター,東京,2007.
14) 上馬塲和夫:インド伝統医学(アーユルヴェーダとユナニ医学)における機能性食品素
材.Food Style 21, Vol.Ⅱ(10):48-58,1998.
15) 上馬塲和夫:インド伝統医学における機能性食品素材とその利用.Food Style 21,
Vol.9(11):1-7,2005.
16)上馬塲和夫:インド・東南アジア原産のハーブ・スパイス. 今日のサプリメント、薬局別冊、
2006 年1月:373-385,2006.