スパコンで心臓を再現する 分子の動きから心臓の拍動まで 東京大学新領域創成科学研究科 久田俊明(研究代表者)、杉浦清了、渡邊浩志、 岡田純一、鷲尾巧、高橋彰仁、○米田一徳 「心臓を再現」すること 心臓シミュレータ “UT-HEART” 2013/3/16 ©久田研究室 1 心臓は高性能ポンプ 心臓は,全身に血液を送り出すポンプ 1心拍で60~130mLの血液を送り出す しかも,全く休むことなく動き続ける 1日で中型タンクローリー1台分(~10kL) 一生でタンカー1隻分(約20万kL) 1心拍 1日 2013/3/16 ©久田研究室 一生 2 心臓は複雑で緻密な臓器 幅広いスケールで,様々な物理現象が絡み合う。 2013/3/16 ©久田研究室 3 心臓シミュレーションの流れ 前処理 シミュレーション 可視化 効用 モデル生成 “UT-Heart” マルチフィジックス 心臓シミュレータ CT, MRI 心臓モデル トルソモデル 心臓が保有する情報の付加 例) 心筋繊維方向 2013/3/16 刺激伝導系 ポスト可視化 システム 手術計画・ 効果予測 臨床への応用 PCクラスタ上で動作 診断支援・ 予後予測 マルチスケール 心臓シミュレータ 基礎医学・分子生 物学の最先端研究 に活用 京のようなスパコン を利用 投薬効果予測 創薬 難病治療支援 ©久田研究室 4 例)心電図の再現 体表面電位分布 心臓の興奮伝播(膜電位) 心臓の拍動・血液拍出 実際の 心電図 一 致 ! 2013/3/16 第2誘導 ©久田研究室 6 今回のトピック これから,ご紹介する部分 2013/3/16 ©久田研究室 8 仮想の心臓を組み立てる サルコメア(収縮タンパク質分子) 2013/3/16 ©久田研究室 9 心臓を拡大して見ると… 現 実 サルコメア 心筋細胞 分子 細胞 心筋繊維 μm 組織 臓器 mm cm 仮 想 サルコメアを再現 心筋細胞と線維方向 を再現 2013/3/16 ©久田研究室 仮想心臓 層構造を再現 10 サルコメアのモデル化 アクチン T/Tユニット状態遷移モデル 仮想サルコメア Caなし K on [Ca] Koff Ca2+ Caあり T/Tユニット サルコメアの挙動 ミオシン ミオシン状態遷移モデル ミオシン・ヘッド トロポニン ミオシン・アーム 2013/3/16 ©久田研究室 Ca2+イオン 11 状態遷移モデルとは 変化なし 次の3つによって,物事の「ふるまい」を 表す。 Off状態 電灯を消す 状態 有限個の「状態」 ある状態から別の状態へ「遷移する条件」 遷移した時の「動作」 off on スイッチが On側にある スイッチが Off側にある サルコメアのモデルにおいては, 遷移条件 「状態」 → 物理的状態 「遷移する条件」 → 自身や周囲の状態 によって変わる確率 「動作」 → 物理現象(化学変化など) On状態 電灯を点ける 変化なし 2013/3/16 ©久田研究室 動作 12 ミオシンの確率的ふるまい(1) この状態に留まる アクチン 解離する ミオシン 首を振る ミオシン・ヘッド ミオシン・ヘッドは確率的にふるまう。 T/Tユニットの状態 周囲のミオシン・ヘッドの状態(協調性) 統計力学的要因(Boltzmann分布) ルーレットを回して… 2013/3/16 ©久田研究室 13 ミオシンの確率的ふるまい(2) この状態に留まる 首を振る 解離する それぞれの状態に遷移する確率も,現時点の 状態や周囲の状況によって刻々と変化する。 分子1つ1つの動きを再現する必要がある。 こうしたシミュレーションを一般に 「モンテカルロ・シミュレーション」と呼ぶ。 ルーレットを回して… 2013/3/16 ©久田研究室 14 サルコメア・モデルの例 トロポニン T/T ユニットモデル トロポミオシン Caなし K on [Ca] Koff Ca2+ Caあり ミオシン4状態モデル 非結合 結合 サルコメアが 収縮する様子 首振り前 2013/3/16 ©久田研究室 首振り後 15 仮想の心臓を組み立てる サルコメアから心臓へ 2013/3/16 ©久田研究室 16 ニュートンの運動方程式 質量mの物体が力Fを受けるとき,Fと同じ向 きで,Fに比例した大きさの加速度aが生じる。 𝑚𝐚 = 𝐅 F a m この方程式は形や大きさがない「質点」に対 する式である。実在の物体は形がある上,力 を加えれば変形もする。 2013/3/16 ©久田研究室 17 連続体の力学 微小切片ΔV ΔSi 面iに働く力= 𝝉𝑖 ∆𝑆𝑖 ΔV τi 質量×加速度=面に働く力の総和 Va τ i Si m i F τ 剛性 K E ・・・力の変化量 任意の微小切片で,上の運動方程式が満たされるようにする。 ・・・変形の変化量 固さを決める尺度: 筋肉の場合は状態により変化する 2013/3/16 ©久田研究室 18 分子の動きと連続体の動き 分子モデル 細胞連続体モデル 半サルコメア SL0 2 2 FMH ,i τ S ミオシンの腕が縮む 2013/3/16 フィラメント間のすべり SL0 S連続体内のミオシンの腕の L FMH ,i 総仕事量 A SL0 / 2 i 2 ©久田研究室 線維方向に縮める 連成! SL 連続体の仕事量 19 3スケールの連成計算 T間での仕事量の整合性 均質化法 (非圧縮に近い連続体) 血液の拍出 架橋運動 協調性 サルコメア長依存性 収縮力の分布 Cleavage planeでの すべり Δt=5μs ΔT=2.5ms 収縮力の分布 分子レベルの現象 細胞レベルの現象 臓器レベルの現象 20 スパコンで心臓を再現する スパコンで何が分かるか 2013/3/16 ©久田研究室 21 「京」でのシミュレーション例 Endo(内) 収縮力 Mid(中) Epi(外) 15000 アームの数 圧力 (Pa) Endo Middle Epi 10000 5000 0 40 60 80 100 120 左心室容積 (ml) 左心室圧容積ループ 2013/3/16 0 5 ミオシンアームの伸び [nm] アームの伸びの分布 ©久田研究室 サルコメア 細胞集合体モデル内の2000個のうちの1つ 22 「京」の利用により可能になったこと(1/2) 従来の現象論的アプローチ 巨視的な観測結果に基づくモデル化 巨視的な観測結果 臓器スケール連続体モデル 心室壁と血流の連成 Hillの関係式 張力 平均化モデル 収縮力 Log10[Ca2+] カルシウムイオン濃度 張力 短縮速度-張力関係 変形 短縮速度 巨視的な観測結果に基づいているため,微視的には平均化されている。 つまり,分子レベルでの正確な再現はできない。 2013/3/16 ©久田研究室 23 「京」の利用により可能になったこと(2/2) 分子の素過程から出発するアプローチ 分子間相互作用を考慮し 1つ1つの分子の動きを再現 アクチン 細胞スケールの連続体モデル 臓器スケール連続体モデル 心室壁と血流の連成 Ca2+ 収縮力 ミオシン 統計力学的法則に基づく 変形 均質化法 巨視的な観測結果 Hillの関係式 張力 張力 自然に再現できる! 2013/3/16 短縮速度-張力関係 Log10[Ca2+] カルシウムイオン濃度 ©久田研究室 短縮速度 24 例)肥大型心筋症 原因不明の心肥大 正常 マクロ現象としての 突然死 累 積 生 存 率 ( % ) Braunwald’s Heart Disease 7th ed. Elsevier Saunders 2つを繋ぐメカニズムは不明 Watkins H et al. New Engl J Med 1992 「京」で解明できるか!? 0 20 40 60 Braunwald’s Heart Disease 7th ed. Elsevier Saunders 細胞の錯綜配列 80(歳) ミクロ現象としての 分子レベルでの異常 Braunwald’s Heart Disease 7th ed. Elsevier Saunders Braunwald’s Heart Disease 7th ed. Elsevier Saunders A.D.A.M Interactive physiology 2013/3/16 ミオシンの構造と変異部位 ©久田研究室 25 まとめ 心臓は複雑で緻密なメカニズムを持つ 未だに分からないことも多い 分子レベルから心臓全体を再現することは, その解明に繋がる 「京」以上のスパコンがあれば,基礎医学・分 子生物学と臨床医学の橋渡しとなれる(かも) 2013/3/16 ©久田研究室 26 共同研究者 東京大学医学部付属病院 永井良三、山下尋史、今井靖、藤生克仁、假屋太郎、 保田壮一郎 富士通(株) 門岡良昌、細井聡、渡邉正宏、平原隆生、山﨑崇史、 岩村尚、中川真智子、畠中耕平、Vladimir Chalupecky、安宅正、中西誠、 松永浩之(富士通九州システムズ) 2013/3/16 ©久田研究室 27
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