鉛・カドミの溶出に関して 東濃四試験 安全な飲食器を作るには 研究機関協議会 美濃焼技術研究会 はじめに 飲食器の安全性を確保するために、厚生省(現厚生労働省)は 1986 年(昭和 61 年)食品衛生法により、 ガラス製、陶磁器製、ほうろう引きの器具、または容器包装から溶出する鉛およびカドミウムの溶出基準を 規定しました。そもそもこの食品衛生法の規格は、国際標準化機構 (ISO) の規格を参考にして制定されまし たが、その基 ISO 規格は 1999 年に改正されています。それに伴い、およそ 20 年間経過した現行の食品衛 生法も見直しが検討され、2007 年に新基準改正が予定されています。新基準が制定されると、美濃焼業界 の上絵付製品は大丈夫か?作ることが困難になる、最悪の場合作れなくなってしまうのではないかと、過剰 な危機感をお持ちになる方がいらっしゃるようです。そこで、正しく状況を認識していただくために新基準 の基となると考えられる ISO-6486(国際標準化機構)を参考に Q&A 方式で実状を検証していきたいと思 います。 ISO-6486 は厳しい基準ですか Q1 (A)3ページに一覧を掲載しますが、現在の基準のおよそ 1/2 以下となります。浅型、深型容器に関して は約 1/2 強、特に碗&マグカップの鉛溶出については 1/10 の厳しい基準に引き上げられます。 Q2 上絵具はどんな絵具ですか (A)800℃前後で焼き付ける加飾用フリット顔料の事です。通常、色素(顔料)と低融点ガラス(フリット) を混ぜて作ります。糊と一緒に水溶きしたり、油溶きした状態にして筆で図柄を描きます。あるいは、スクリー ン印刷の方法で紙に図柄を印刷したものを本焼成施釉器体に張り付けた後、上絵焼成をします。 Q3 上絵具に求められる要件とは (A)①色 ②艶(光沢) ③釉薬との適合性 ④低温度の焼成 ⑤筆はなれ ⑥安全性です。①必要とする色 がきれいに発現する事がまず第1です。例えば、赤(南天赤など)はカドミウムを使用ます。②艶・光沢は フリットの屈折率に深く関連があります。屈折率が大きいほど艶が出ます。(ダイヤモンド>クリスタルガラ ス>並ガラス)③適合性とは、釉薬と上絵具の熱膨張が問題となります。剥離しないことが条件です。④低 温度域での焼成はフリットの組成に因ります。800℃前後の温度で熔融する必要があります。⑤筆はなれの 良し悪しは分散性の他に絵具の比重によります。比重の大きい絵具ほど筆はなれは良くなり塗り易くなりま す。⑥人体にとって安全であることが絶対条件です。すなわち鉛、カドミウムが溶出しない事。できれば鉛・ カドミをはじめから使わないようにすればよいのですが、簡単には代替原料が見つからないのが現状です。 なぜ鉛を使うの Q4 (A)上絵具に必要な要件のうち ②艶(光沢)、③釉薬との適合性、④低温度の焼成、⑤筆はなれを同時に満 たす鉛に勝る原料は無いといっても過言ではありません。しかし鉛は有害ですので、できれば使用したくあ りませんし、仮に使用しても溶出は限りなく「0」にしなければなりません。明治時代以来多くの国や地方 の公設試験研究機関、企業が研究開発を行ってきましたが、特に上絵具の要件の ②艶(光沢)、③釉薬との 適合性、④低温度の焼成を、同時に満たす無鉛上絵具は、まだ完成していないようです。 Q5 溶出試験の工程は (A)食品衛生法に規定された現在の試験方法を以下に表示します。 試 験 方法 1 2 試験体のサイズ(面積・容積)を測定します 試験体の内側に 4% 酢酸を満たし、24 時間放置します CH3COOH メスシリンダー 3 4 24 時間放置後、酢酸 20ml を採取し、湯煎で蒸発させ ます 酢酸を蒸発させた後、塩酸 2ml を加え、さらに蒸発さ せます ピペット HCL ビーカー 5 ウォーターバス ウォーターバス 塩酸が蒸発したら、硝酸 10ml を加え、それを試験管に 移します 原子吸光分析器で鉛・カドミウムの濃度を測定し、報告 書を作成します 6 HNO3 Q6 溶出基準は? (A) 食品衛生法による基準(現行)と ISO-6486 を示します。 溶 出 基準 表 区 分 食品衛生法 浅型容器 < 2.5cm) (深さ= カドミウム 食品衛生法 ISO-6486 ISO-6486 1.7 mg / dm2 0.8 mg / dm2 0.17 mg / dm2 0.07 mg / dm2 小容量 (<1.1ℓ) 5.0 mg /ℓ 2.0 mg /ℓ 0.50 mg /ℓ 0.50 mg /ℓ 大容量 (>1.1ℓ) 2.5 mg /ℓ 1.0 mg /ℓ 0.25 mg /ℓ 0.25 mg /ℓ 碗・マグ類 5.0 mg /ℓ 0.50 mg /ℓ 0.50 mg /ℓ 0.25 mg /ℓ 貯蔵容器 > 3ℓ) (容量 = 2.5 mg /ℓ 0.50 mg /ℓ 0.50 mg /ℓ 0.05 mg /ℓ 深型容器 (深さ>2.5cm) 鉛 ※浅型容器溶出基準の単位は ISO-6486 に合わせ、数値を換算してあります。 Q7 ISO-6486 の基準を当てはめると、基準を超えるのはどれぐらいになりますか (A)現在(H14/4∼H17/7)までの東濃四試験研究機関で試験した食器に関して、食品衛生法による基準 値以下のもののうち ISO-6486 の基準値を超えるものは以下の表のとおりです。 I SO 基 準 を上 回る試 験 体 数 多治見市陶磁器 意匠研究所 瑞浪市窯業技術 研究所 鉛 カドミウム 鉛 基準以下総数 7,254 7,218 871 I SO 基準以上 69 28 0.95 0.39 率(%) 土岐市立陶磁器 試験所 カドミウム 岐阜県セラミックス 技術研究所 鉛 カドミウム 鉛 カドミウム 880 2,562 2,629 206 206 9 1 85 1 11 0 1.03 0.11 3.32 0.04 5.34 0 Q8 ISO-6486 に準拠するとしたら、上絵具の使用は厳しくなるの (A)新基準になって、上絵具がまったく使えなくなるといった事態ではないことはお分かりいただけると思 います。しかし基準値は 1/2 以下になるわけですから、今まで以上に上絵具の使用に注意が必要です。また、 上絵具以外にも、鉛を使った釉薬(楽、ボーンチャイナなど)を使用した食器は注意が必要です。 Q9 具体的に、安全な食器を作るにはどうすればよいのですか (A)基本的には、上絵具を使用しないものは安全です。上絵具を使用する場合には、食品や唇が直接触れる ところに使用しないようにします。イングレーズや下絵を利用するのも良いでしょう。使用する場合は、適 切な焼成方法で熔着させ、鉛の溶出を防ぎます。 Q10 上絵具を使用する場合はどうすればよいのですか (A)上絵具は顔料とフリットで作られていますので、フリットがしっかりとしたガラス構造となるように 焼成すれば、耐酸性が増し、鉛の溶出が防げます。上絵焼成の温度でも鉛は若干揮発します。窯詰めの工夫や、 あぶり、練りを十分に行ってください。色が脱色しない範囲で、焼成温度をできるだけ上げて、ガラスを強 固にして鉛を封じ込めるようにして下さい。 市販の上絵具は適切な温度で焼成すれば最良の結果を出すように調整されていますので、焼成温度を下げる ためや、艶を出すために、勝手に鉛やフリットを加えないようにします。 Q11 溶出試験は何のためにするのですか (A) 東濃四試験研究機関では鉛、カドミウムの溶出試験を行っています。業界の皆さんが製造した製品の 安全性を確認するために試験し、もし基準を超えるものがあっても、水際で出荷を止めることができます。 わたしたち東濃四試験研究機関は、基準を超えても罰則を与えたり、商品を差し止めたりする機関ではあり ません。より安全な製品を作るための指導機関ですので、大いにご利用ください。 Q12 溶出試験はいつするの (A)食品や唇が直接触れるところに上絵具が使用してある製品や、鉛を使用した釉薬を使った製品が試験対 象となります。①新製品 ②大量出荷の場合、適当なロットごと ③製造、加工メーカーが替わった時 ④素地 の釉薬(鉛を含まない)が替わった時 ⑤上絵具が替わった時は試験をして溶出が基準以下であることを確認 すると良いと思います。もちろんすべての製品を試験できませんから、統計的手法を取り入れて、抜き取り 試験を行います。 Q13 溶出試験はどこでできるの (A)東濃四試験研究機関で行っています。また、それぞれで陶磁器に関する技術相談もお受けしてておりま すので、ご利用ください。 ・岐阜県セラミックス技術研究所 0572-22-5381 多治見市星ヶ台 3-11 ・多治見市陶磁器意匠研究所 0572-22-4731 多治見市美坂町 2-77 ・瑞浪市窯業技術研究所 0572-67-2427 瑞浪市上平町 5-5-1 ・土岐市立陶磁器試験場 0572-59-8312 土岐市肥田町肥田 287-3 ・セラテクノ土岐 発行責任者 東濃四試験研究機関協議会 美濃焼技術研究会 発 行 平成 17 年 9 月
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