世界最高強度の加速器実験による小林・益川理論を超えた

平成 23 年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究成果報告書
殿
申 請 者
所 属
自然科学系
代表者氏名 川崎 健夫
本年度の交付を受けたプロジェクト推進経費について,下記のとおり報告いたします。
プロジェクトの種目:助成研究 B
プロジェクトの課題:世界最高強度の加速器実験による小林-益川理論を超えた物理の探索
プロジェクトの代表者:所属 自然科学系 職名 准教授 氏名 川崎健夫 分担者 2 名
プロジェクトの成果:
本研究助成により、2016 年度実験開始予定の SuperB ファクトリー実験(SuperB)のための検出器の
開発を開始した。まず、SuperB ファクトリー実験グループ関係者と協議の上、新潟大学は、高性能
リングイメージ型粒子識別装置の開発を行うこととした。特に、HAPD と呼ばれる新型光検出器の
開発、総合性能テスト、データ収集系との接続回路、粒子識別ソフトウェアなどの開発を分担する
ことを決定した。
[1]HAPD の開発
強力な粒子識別検出器である、リングイメージ検出器(RICH)は、高性能かつ多チャンネルの光検
出器を必要とするが、要求性能を満たす光検出器は現存しない。高エネルギー加速器研究機構(KEK)
および国内外関連大学(首都大学東京・リュブリャナ大学(スロベニア))との共同開発により、全く
新しい信号増幅原理を用いた検出器 HAPD の開発を進めている。
高放射線環境下で性能劣化を起こす原因を調査するた
めに、複数のデザインの HAPD が試作されている。こ
れらの詳細な性能評価を行うことが、検出器開発の要と
なる。本年度 9 月には、欧州原子核研究機構(CERN)で、
高エネルギー陽子ビームを用いて、プロトタイプ HAPD
の総合性能テストを行った。当プロジェクトから分担者
が一名参加し、テストの準備から実際の測定の遂行に従
事した。現在は収集されたデータの解析を中心となって
進めている。左図は、実際に測定されたチェレンコフ光
の形を、再構成したものである。中央は陽子ビームが通
り抜けた信号であり、周囲に円形の影が作られているの
が判る。ビームテストでは、HAPD が、実際に Belle-II
検出器の RICH に使用できる性能を持つことが確認で
きた。時に、HAPD のピクセル間の干渉の大きさや、内部の反射光による影響が、測定データのみ
で修正できることも確認した。
この結果は、実際に SuperB が開始したときの、RICH 検出器のデータ処理ソフトウェアを開発す
るための重要な基礎となる。
(注)報告書は2枚以上とする。別紙による場合も同じ。
-1-
[2]HAPD 評価システムの開発
上記で述べたように、SuperB では 500 以上の多数の HAPD を使用する。大量生産は 2013 年度か
ら開始する予定であるが、生産されたすべての HAPD の、詳細な性能評価を行い、実際に SuperB
検出器にインストールできるかどうかを確認する必要がある。また、測定された性能パラメータは、
データ処理ソフトウエアや、モンテカルロシミュレーションにインプットしておく必要がある。
そのため、新潟大学・理学部の研究室内に、多数の HAPD
を自動的に短期間で性能評価するためのシステムを構築中
である。
これは、HAPD に特定の波長の光を照射し、HAPD の出力
信号をピコアンペアのレベルで測定する。左の写真は、
HAPD を正面からみた様子であり、1つの HAPD は 144 チ
ャンネルの信号回路を有している。これをすべての HAPD
に対して調べるのは非常な労力を要する。そのため、多数(~
50 程度)の HAPD を一度にセットし、コンピューターコン
トロールされたモーターや読み出し回路により、全自動で全
チャンネルを順番にチェックするシステムの構築を開始している。必要なアンペアメータや電源等
を、本研究助成で準備した。現在、これらを組み合わせた総合測定システムを開発中である。下図
はその概念図である。HAPD に照射する光は、高い安定性を持つハロゲン光源を利用する。さらに、
校正用のフォトダイオード(本経費で準備済)を HAPD と同様に設置し、常時光量をモニターする
ことにより、高い測定安定性を実現する。HAPD は、コンピュータにより自動制御で位置の移動、
信号の測定(同じく、ピコアンメータ)を行う。本システムは、2012 年夏ごろをめどに完成させ、
量産する HAPD の全数テストを新潟大学において行う。
[3]リングイメージ再構成手法の開発
結局 RICH 検出器では、144 チャンネル×~500 HPAD > 70,000 以上のヒット信号を用いて、
違った種類の粒子が生成するチェレンコフ光によるリングイメージを再構成することが必要であ
り、その性能を左右するのは、データを処理するプログラム、つまりソフトウェアである。
現在 SuperB 用の、検出器シミュレータは準備中である。まず、このシミュレータの完成させるこ
とを急いでいる(これは、謝金によって進められた研究であり、本年度、シミュレータの大枠の構成
が決定できた)。
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リングイメージの再構成(下図参照)は、SuperB のような高バックグラウンド環境下では、偽ヒッ
トが多数存在するために、容易ではない。1ページのビームテストの結果は、複数の事象を重ね書
きしたものであり、実際にはこのようにはっきりとしたリングイメージは得られない。
そのため、RICH に入射する粒子の飛跡を延長して、RICH 内の通過位置を“予測”して、妥当
と思われるリングイメージの信頼度を計算するという手法が適していると思われる。
その他、多数のヒットからリングを再構成する、
“パターン認識”と呼ばれる手法も有効性が指摘さ
れているため、現在いくつかの手法の性能を比較・検討中である。
23 年度中にシミュレータの大枠が完成したため、
それを用いて、シミュレーション事象を大量に生成
し、種々のアルゴリズムの評価を行うことを、24 年
度当初から開始する予定である。
この大量のシミュレーションデータを処理・保存
するために、高速計算サーバおよびストレージを、
本助成によって準備した。
[4]データバッファボードの開発
リングイメージ検出器は、多数のチャンネルからのデータを収集するため、高頻度実験である
SuperB では、データ読み出し系の速度がボトルネックとなることが予想されている。これを解決
するため、SuperB では、データ収集系に複数の階層を設け、途中でデータ量を削ることにより、
最終的に読み込むべきデータを圧縮することを考えている。
そのためには、検出器と、SuperB 総合データ収集システムの間に、“バッファボード”と呼ばれる、
データ処理・低減・圧縮を高速で行う電子回路を導入することが提案されている。このバッファボ
ードは、高性能の FPGA と呼ばれる、内部ロジックが書き換え可能な、特殊な LSI を有したものを
開発中である。また、FPGA の内部ロジック(Firmware code と呼ばれる)の開発も、重要である。
本研究プロジェクトでは、過去の Belle 実験で培った経験・知識を用いて、この Firmware の開発
も開始した。
RICH には多数の HPAD で構成されるが、実際に“ヒット”が記録されるのは、70,000 チャンネ
ルのうち 1-2%程度(約 1.3%)と想定されている。そのため、すべてのチャンネルの信号を記録しな
いで、ヒットチャンネルの“アドレス”を記録することにより、データ量を減らすことを目標とし
ている。23 年度は、所有する FPGA テストボードを用いて、まず非常に少ないチャンネル数(<20)
の入力に対して、SuperB で想定される~30kHz で行うロジックの開発を行った。その結果、チャ
ンネル数が多くなったときには、指数的に計算量が増える可能性があることが判ったため、1つの
FPGA が処理するチャンネル数を制限することを検討し、実際の RICH 検出器のデータ収集系の設
計デザインへ、フィードバックを行った。
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
(別紙可)
現在、上記で説明したビームテストの解析結果を、学術論文に投稿するため、データ解析および論
文執筆を進めている。
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収支決算書
単位:円
1,645,000 円
配分額:
費目別収支決算表
設備備品費
消耗品費
834,330
旅
331,542
設備備品費内訳
設備備品名
費
謝金・賃金
349,528
そ の 他
129,600
仕様・型式等
0
数 量
単
価
計
1,645,000
金
額
1
495,600
495,600
データストレージ SystemWorks POWER MASTER A8720
1
118,020
118,020
データ処理計算機 デル PowerEdge T110-II
1
220,710
20,710
ピコアンメータ
Keithley 6485
合
834,330
計
消耗品費内訳
品
目
数 量
単
価
金
額
フォトダイオード(校正作業込)
1
26,670
26,670
無停電電源装置
データストレージ用ハードディスク(14 台購入で、計
250,740 円。不足分は基盤研究経費)
2
42,735
85,470
219,402
331,542
計
旅
費 内訳
事
項 ・ 出張先
回 数
HAPD ビームテスト・欧州原子核研究機構(遊佐洋右)
単
1
価
金
349,528
額
349,528
(H23 年 9 月 6 日―21 日)
349,528
計
謝 金 ・ 賃 金
内訳
事
項
員 数
単
価
金
額
検出器シミュレータ作成(H23 年 8 月)
72 時間
1,200
86,400
検出器シミュレーションの補助(H23 年 9 月)
36 時間
1,200
43,200
129,600
計
そ
の 他 内訳
事
項
員 数
単
価
金
額
0
計
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