人間と行動 - 名古屋大学 大学院環境学研究科 心理学講座

人間と行動
科目区分:
科目名:
担当教官:
文系教養
人間と行動
飯高哲也
Web版:2004年度
目的
• 人間の行動はそのほとんど全てを脳
の働きによっていると考えられる。
• 従って、人間の行動を研究することは
脳の活動を研究することに他ならない。
• 本講義は基本的な脳の構造や機能を
学ぶとともに、精神医学的な観点から
心の病や社会と人との関わりについ
ても論じる。
1
授業予定−1
1. 概論
2. 脳科学の歴史
3. 中枢神経系の構造と機能
4. 認知と脳の働き
5. 性と脳
6. ライフサイクルの心性と病気
7. ストレスと精神障害
8. 薬物乱用と依存
9. 女性と心の病
10. 高齢化社会と痴呆
11. 天才と精神医学
12. 犯罪と精神医学
13. 比較文化精神医学
14. まとめ
成績評価
• テスト
• 記述式または多肢選択式
• キーワードや重要項目の理解度
2
1.
•
•
•
•
1.1.
1.2.
1.3.
1.4.
概論
授業予定
人間と行動
心と脳を理解するためには
脳の検査方法
人間と行動(分子から地球まで)
構造物
• 分子・遺伝子
• シナプス
• 神経細胞
• 脳
• ヒト
• 下位文化・集団
• 文化・国家
• 環境・地球
大きさ(m)
10-10
10-8
10-5
10-1
100
103
106
107
3
心と脳の関係を理解するため
• 一元論
唯物論
観念論
二元論
独立説
平行説
デカルト(1596∼1650)の人間論から
• 足が火に触
れる
• 神経により
脳に穴が開
く
• 脳室から液
体が流れ
出す
• 足の筋肉を
収縮させる
4
デカルトの著書から
• 直線を見る
• 空間での
位置が脳
に伝わる
• 神経が腕
の筋肉を
収縮させる
• モッソー(1846∼
1910)の著書「疲
労」から
• 脳内の血管の拍動
を記録している
5
ドイツの精神科医ベルガーが
脳波を発見する(1929年)
脳内の血液の循環を見る
方法の確立(1980年代)
単光子放射CT(SPECT)
6
事象関連電位
µV
msec
•
•
•
•
頭皮上から脳の電位変化を測定
各事象(event)の始まりをトリガーとして加算平均
電位変化(µV)をミリ秒単位で測定
空間情報の乏しさ
磁気共鳴画像の進歩(1990年代)
高い空間解
像度で脳の
形態的情報
を得る
3テスラMRI装置
生理学研究所
7
高次脳機能の非侵襲的測定(21世紀)
• fMRI(機能的磁気共鳴画 L
像)により形態的情報と機
能的情報を同時に収集
R
近赤外線分光法・光トポグラフィー
• 日常的な実験環境で脳機
能を測定できる利点。
8
fMRIと光トポグラフィーの測定
fM RI (2.3s/ sample)
0.6
ワーキングメモリー課題
前頭前野の賦活
Task
0.5
Signa l
0.4
0.3
0.2
0.1
0
-0.1 -1 -5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
0
-0.2
Tim e (sec)
fNIRS (1s/ sample)
3
Task
2.5
• 局所脳血流値の
非侵襲的測定
H bO2 μ M ol
2
1.5
1
0.5
0
-0.5 -1 -5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
0
-1
Tim e (sec)
認知神経科学の体系的位置付け
情報・工学
心理物理学
生物物理学
認知神経科学
脳生理学
心理学
神経心理学
9
人間と行動
2.脳科学の歴史
脳神経科学の発祥
• 我々は既に、神経系、即ち脳、脊髄、末梢神
経が生命維持に必要であることを知っている。
• 古代人は?
• 既に脳が重要だと知っていた。
• 100万年前に頭部に致命的打撃を受けた頭
蓋骨が見つかった。
10
7000年前
• 治療的目的で頭蓋骨に穴をあけていた。な
ぜなら手術後も生存した徴候が骨に残って
いたからである。
• また複数回の手術の証もある。
• その目的は不明であるが、頭痛・精神疾患
の治療、悪霊を体から逃すために行われた。
5000年前の古代エジプト人
– 脳の病気の症状を記述している。しかし脳では
なく心臓に魂が宿ると考えていた。ミイラは死後、
体を保存するが脳は鼻穴から抜かれ棄てられ
た。心臓が思考・意識の座という考えはその後
も長く信じられた。
11
古代ギリシア
•
手と足は形も働きも異なる。従って形態と機能は相関すると
信じられていた。
•
頭の形は周囲の環境で何が起こっているかを知覚すること
に最も適している。
•
•
目・耳・舌から頭蓋骨を通して脳につながっていると考えた。
ヒポクラテス(460−379 BC)
–
•
脳⇔知覚+知性の座
アリストテレス(384−322 BC)
–
心臓⇔知性の座
•
脳は心臓で沸騰した血液の冷却器と考えた
ローマ時代
•
ガレン(130−200 A.D)は脳に関してヒポクラテスと同じ
意見であった。
–
彼は羊を用いて解剖を行い、以下のことを明らかにした。
•
•
•
•
•
•
•
•
•
大脳と小脳の区別
大脳→やわらかい
小脳→硬い
大脳→知覚を受けている 小脳→筋肉に指示をだす
知覚→記憶として刻まれるにはやわらかい大脳が良い(可塑性)。
理由は間違っていたが、現代でも大脳は記憶の座と考えられている。
更に、脳を切開し脳室を発見し液体で満たされていることを明らかに
した。
それは当時の4つの液体で体が動いているという学説と一致した。
神経系は体液を運ぶ管で血管系は血液を運ぶ管であるとされた。
ルネッサンスから19世紀までガレンの学説は1500年間信
じられた。
12
ルネッサンス期
• ベルサリウス(1514−1564)はさらに詳細に
脳の解剖を研究した。
• 脳室に脳の機能が存在するという説は不変
→ポンプ機能により体が動くとされた。
• デカルト(1596−1650)もその一人であった。
– 彼はヒトは特別に魂を持つと考えた。脳(brain)
の他に“mind(心、魂、精神)”がある。mindは松
果体(pineal gland)にある。これらは脳と心の
二元論に関係する。
17∼18世紀
• 科学的基盤から脳を見るようになる。
• 灰白質(gray matter)と白質(white matter)。
– 白質は灰白質への線維連絡である。
• 18世紀までに解剖学的研究は集大成される。その
内容は、
–
–
–
–
中枢神経系→脳と脊髄
末梢神経系→体中へと広がる神経線維
脳回(gyrus)と脳溝・裂(sulcus)が全てのヒトにある。
脳は葉(lobe)に分けられる
•
異なった機能が異なった領域にあるという局在論
13
19世紀の見方−1
• 脳の損傷は知覚、運動、思考を障害し、更に
死に至ることもある。
• 脳は神経を通じて体と交通する。
• 脳には異なった領域があり、それぞれ異なっ
た機能を持っている。
• 脳は機械のようなもので、自然の法則に従う。
19世紀の見方−2
• イタリアのガルバニらは神経を電気的に刺
激すると筋肉が収縮することから、脳が電気
を発するとした。
• これは脳室・体液説をくつがえした。
• 神経は細い線維から成っており、それぞれ
が異なる方向性(運動と知覚)を持つ(1810
年、ベルとマジェンディ)
• 神経を切ると麻痺が生じることも分かった。
14
脳の局在−1
•
ベル(1811):運動→小脳 知覚→大脳という説を提唱した。
•
フローレンス(1823年):小脳を破壊すると鳥は飛べなくなる。
•
ガル(1809年):頭蓋骨の隆起と脳回を同じと考えた。
–
性格傾向は頭部の大きさに関係している。
–
数百人の頭の大きさを測定→天才から犯罪者まで。
–
骨相学(phrenology)
–
一般大衆には受け入れられたが、似非科学に陥った。
脳の局在ー2
• ブロカ(1861年)
– 聞けるが話せない男の解剖
– 左前頭葉の損傷を発見→発話に関係
– ブロカ領域
• 後頭葉の刺激で視覚が生じることも分かった。
15
ニューロン:脳の基本的ユニット
• 1800年代に入り顕微鏡が発達する。
• シュワン(1839年)
– 細胞学説を発表
– 「全ての体組織は細胞の集まりである。」
– 脳の神経細胞は細胞体と突起からなる
• 1800年代後半から本格的な神経学が興って
くる。
現在の神経科学
•
分子生物学 (Molecular Neuroscience)
•
細胞生物学 (Cellular Neuroscience)
–
–
•
視覚や運動といった機能的システムについて研究する。神経病理学や解
剖学
行動神経科学 (Behavioral Neuroscience)
–
•
ニューロンの働きや相互作用などについて研究する。
システム神経科学 (System Neuroscience)
–
•
最も基本的な分子や遺伝子の働きについて研究する
感情や記憶などが脳内のどのようなシステムによるものかを研究する。
認知神経科学 (Cognitive Neuroscience)
–
さらに高次な脳機能について研究し、心と脳の関係を解明する。主にヒトや
損傷脳を用いる。
16
精神・神経系の疾患
•
アルツハイマー病は65歳以上の10%を占める。
•
生涯にうつ病を経験する人の割合は予想より多い。
•
自殺者は年間3万人をこえる。
•
数十万人の人が精神病で苦しんでいる。
•
脳卒中は死因の3位であり、多くの人が後遺症に悩んでい
る。
•
これらの予防や治療のためにも脳の研究は必要である。
3.中枢神経系の構造と機能
•
•
•
•
•
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
前頭葉(Frontal Lobe)
側頭葉(Temporal Lobe)
頭頂葉(Parietal Lobe)
後頭葉(Occipital Lobe)
神経伝達物質
17
誰の脳みそ?
視覚と脳
•
•
•
•
哺乳類では視神経が交叉しているため
右視野の映像は左半球に入り
左視野の映像は右半球に入る
各大脳半球の機能を別個に調べることも
可能
18
神経細胞(ニューロン)の構造
他の体細胞と異なる点は
•多くの突起を持つことと、
•他の神経細胞とシナプスで接していること
シナプスの模式図
• 神経細胞どうしは完全にはつながっていない
• シナプスという構造を形成している
• 神経伝達物質が放出されて刺激が伝わる
19
4. 認知と脳の働き
•
•
•
•
言語
人格
注意
記憶
– エピソード記憶
• 損傷脳研究
• 神経画像研究
• 天才の脳
骨相学 (Phrenology)
• 脳の各領域には異なった役割があることを
予言した
• 現代の神経科学の先駆的役割を果たした
20
言語中枢の発見
「タン」と呼ばれた男
•卒中発作で入院
•意識が回復した後も話せない
•言われたことの理解は可能
•対話はジェスチャーにより
•発語はただ「タン」と言うのみ
•20年間同じ状態の後その男が死亡
•脳を解剖したブロカ博士が発見したものは
感情・人格:Emotion・Personality
• Phineas Gageの記録(1868)
–有能な鉄道技術者
–工事中の事故
–回復した後に
–的外れな行動
–粗暴・頑固・気まぐれ
–麻痺、失語などはない
21
Gageの頭に刺さった杭
• 左は杭と頭蓋
骨の大きさを
示す
• 右は穴の開い
た骨と脳実質
• これだけの損
傷を脳に受け
ながらの身体
的には障害は
わずかであっ
た
前頭葉障害の徴候
• 無欲
• 多幸
• 易刺激性
• 保続
22
保続の例
円を1つ描いてください
違います、
円を1つだけです
注意:Attention
• カクテルパーティー効果
• 選択的注意:Selective Attention
• 分割注意:Divided Attention
• 失認
23
失認の例
• 左のテスト用図
形をそっくり模写
する
• 右が患者の描い
た図
• いずれも左半分
が描かれていな
いことが分かる
記憶:Memory
• 1.
顕在的記憶
• 2.
潜在的記憶
• 3.
作動記憶
(ワーキングメモリー)
24
顕在的記憶
• エピソード記憶
• 過去に自分が何をしていたか
に関する自伝的記憶
• 意味記憶
• 物事や単語の意味などに関す
る辞書的記憶
健忘症患者 H.M.
• できないこと
– 新たなことを覚える
– 毎日会う人の顔や名前
– 自分の新しい写真
– 手術前数年間の記憶
• できること
– 知能テスト(正常I.Q.)
– 数唱
– 短期記憶
25
H.M.の脳には大きな欠損があった!
• 図の赤い部分が欠損している
• 海馬と呼ばれる領域
• Milnerら(1959年)
単語の符号化を行っている部位
左半球
右半球
• 左半球の前頭葉が活動している。
• fMRIによる研究結果
26
単語の再認を行っている領域
• 左前頭葉が
活動してい
る
• 特に以前学
習した単語
に対して活
動が亢進し
ている
SW
Einsteinの脳(対照群)
•
•
•
•
•
•
•
•
年齢
76才
身長
176cm
脳重
1230g
固定後 550/545g
高さ
8.9/8.7cm
長さ
17.2/16.4cm
幅 *
7.5/7.5cm
神経細胞の数*
46995/mm3
(57才)
(178cm)
(1400g)
(591/591g)
(9.3/9.4cm)
(16.9/16.8cm)
(6.5/6.5cm)
(34962/mm3)
Witelsonら,1999
27
Stroop 効果
赤 緑 黄 青
赤 緑
黄 青
作動記憶(ワーキングメモリー)
• 音韻ループは言語的記憶を復唱して覚える
• 視空間メモは視覚的記憶を保存する
• それらは中央実行系の制御下にある
28
潜在的記憶
• 技術・習慣(手続き記憶)
•自転車や車の運転は何年後までも覚えて
いる。
• プライミング
•同じ刺激が繰り返されることにより、後の
刺激に対する処理が促進されること。
• 古典的条件付け
• 梅干を見て唾液が出る。
人間と行動
5. 性と脳
Sex and Brain
29
男女共同参画の流れ
• 男女共同参画社会基本法 平成11年
• 名古屋大学における男女共同参画を
推進するための提言 平成13年2月
• そのための具体的推進方策について
平成14年3月
• 毎年秋にシンポジウム開催
名古屋大学における大学院修士課程入学志願者
の女性比率
国際言語文化研究科
国際開発研究科
男性
20%
男性
40%
女性
60%
女性
80%
多元数理科学研究科
女性
4%
工学研究科
女性
6%
男性
96%
男性
94%
平成13年のデータ
30
性と脳(Gender,Sex and Brain)
• 性別は性染色体によって決定する。
– 46XXと46XY
– X染色体には数千の遺伝子があり、
– Y染色体には多くて15個程度の遺伝子
• ♀はXXなのでX染色体の一部が欠損しても遺伝
的な病気になりにくい。
• ♂はXYなのでXの一部でも欠損すると遺伝的な
病気を発症しやすい。例:色盲、血友病、筋ジス
Y染色体
• Y染色体の役割は性決定領域を持つこ
とである。
• これにより精巣決定因子が発現する。
• Y染色体があると♂になり、ないと♀に
なる。
• X、XXXは♀、XXY、XXYYは♂になる。
• この決定に関わる領域はY染色体の短
腕にあることが1990年に発見された。
31
脳とsexual dimorphism
•
•
•
•
性的二形性
男女の脳はどのような違いがあるか?
多くの領域では性差はないとされる。
Ratでは第3脳室の周辺にある視索前
野が♂では♀の5-6倍大きいとされる。
– しかしヒトでは必ずしも明らかではな
い。
• 女性ホルモンであるエストロゲンの受容体は視
床下部を含む性行動に関る領域に多く存在する。
32
脳とsexual dimorphism‐ヒトの場合
• 脳梁の大きさが異なるという研究がある
が、脳自体の大きさが異なる。
• しかし脳梁の後端の膨大部は女性の方
が大きいとされる。
– この違いは子供では見られない。
• さらに前交連も女性が12%大きいとさ
れる。
性と認知
• ♂♀の一方が知的に優位であるという説は
否定されている。
• しかし認知機能の特定の領域で♂♀のそれ
ぞれで得意、不得意がある可能性は残る。
• ♀:11歳から18歳頃までは言語的課題の得
点が高い。
• ♂:地図、迷路課題、数学、心的回転課題の
得点が高い。
33
現在では
• 認知機能については性差より個人間の差の方が
はるかに大きい。
• 子供の頃のしつけによる後天的なものの可能性。
– ♂は外で元気に遊ぶことを要求される。
– ♀は家の中にいる方が好ましいとされる。
• 基本的に認知機能にはほとんど性差はないとされ
ているが、言語的スキルと空間的スキルの差につ
いては現在も研究されている。
言語機能の性差
• ♀が語学を得意とすることが多い。
• 協調的でコミュニケーション能力が高い。
34
臨床的には
• 失語症になりやすいのは♂。
– 左半球に障害を受けるだけで失語症になる。
• 失語症になりにくいのは♀。
– 両側半球に障害を受けなければなりにくい。
• 失語症からの回復が遅いのも♂
• 吃音は♂に多い。
空間認知と性差
• ♂は空間的処理が得意である?
• 車の運転などを好む傾向がある。
35
顔の認知に関する実験課題
• 陰性(主に怒
りや嫌悪)、陽
性(笑顔)、中
性(真顔)の男
女の顔写真を
見ながら性別
判断を行う。
Negative
Positive
Neutral
Control
Iidaka et al., 2001
課題の遂行中の脳賦活
-24
0
24
陰性、
陽性、
中性条
件を合
わせて
対照条
件と比
較した
場合。
P=0.001
36
扁桃体領域の活動と表情
Neutral
Positive
Negative
L
R
P=0.001
左右扁桃体の信号変化
右 扁 桃 体
0.1
0.08
0.08
Adju ste d re spo n se
Adjusted response
左 扁 桃体
0.1
0.06
0.04
0.02
Ne g
Pos
Ne u
0
0.06
0.04
0.02
Ne g
Pos
Ne u
0
-0.02
-0.02
0
16
Time (s)
32
0
16
32
T ime (s)
37
扁桃体の活動と性差
Female Right AMG
Female Left AMG
0.15
0.15
0.1
neg-ctl
0.1
0.05
pos-ctl
0.05
neu-
0
0
5
0
10
-0.05
0
5
10
-0.05
Male Left AMG
0.15
Male Right AMG
0.15
0.1
0.1
0.05
0.05
0
0
0
5
10
-0.05
0
5
10
-0.05
扁桃体と性差
• ♂の方が怒り、嫌悪などの陰性表情
への反応が強い。
• 特に言語脳である左半球で顕著に見
られる。
• 闘争心や敵意などとの関連は?
38
6. ライフサイクルの心性と病気
•
•
•
•
•
•
•
6.1.
6.2.
6.3.
6.4.
6.5.
6.6.
6.7.
乳児期
幼児期
児童期
思春期
成人期
中年期
老年期
(∼1才)
(∼6才)
(∼12才)
(∼18才)
(19才∼)
(40才∼)
(65才∼)
哺乳動物の新生児
•「就巣性」
“「離巣性」
39
就巣性
• 未熟な状態で出生し、親の
全面的な養育を必要とする。
• イタチ ウサギなど。
• 進化が低く、1回に多くの子
供を出産する。
離巣性
• 発達した状態で出生し、すぐ
に自力で移動できる。
• ウマ クジラなど
• 進化が進んでおり、1回に生
まれる子供が少ない。
40
人間の誕生
→生理的早産
• 人間は出生後1年でやっと他の哺
乳動物が出生時に具現している発
育状態に達する。
人間の誕生
• 本来人間の妊娠期間は約1年長く
なければいけない。
• これは殆ど脳の発達に時間を必要
としているためである。
41
胎児期
•視覚
– 4ヶ月頃から体外からの光に心拍数が
反応する。
•聴覚
– 6ヶ月頃から機能。
•意識
– 7から8ヶ月頃に睡眠と覚醒のリズムが
形成され、母親のそれと同調する。
新生児期 (生後約1週間で確立)
• 視覚
– 眼前20∼30cmの顔を判断
• 聴覚
– 母親の声に強く反応
• 嗅覚
– 母親の臭いに反応
• 味覚
– 人工乳と母乳を判別
42
幼児期前期
• 身体的発育
• 言語発達
• 排便の自立
• 人格基礎の確立
幼児期後期
• 性格の原型の形成
• 学習能力
• 情緒面の分化
• 幼児的自己中心性からの脱却
43
幼児期に起こる病気
• 神経症的症状
– 夜鳴き、吃音、多動、チック、夜驚症、
登園拒否、集団への不適応
• 精神発達遅滞
– 先天性、後天性
• 自閉症
• てんかん
児童期
• 感受性の亢進
• 子供たちだけの社会
• 言語機能の確立
• 集団行動
• 反抗期
• 内省・自我の発見
44
児童期に起こる病気
•
•
•
•
•
•
•
•
学習障害
登校拒否
心身症
強迫行為
非行
てんかん
統合失調症(精神分裂病)
躁うつ病(気分障害)
思春期
•
•
•
•
•
•
•
•
親からの心理的独立
継続的な交友関係
社会的自立・責任性
自己の価値観
内省・自我の確立
不安との直面
無性的存在から性的存在へ
「思春期危機」
45
思春期に起こる病気
• (統合失調症)精神分裂病
• 自己臭症
• 神経症
– 抑うつ、心気、不安、強迫
• 境界型人格障害
• 家庭内暴力
• 不登校
• 摂食障害(拒食症、過食症)
• 薬物乱用
– シンナー、覚せい剤
成人期に起こる病気
• (統合失調症)精神分裂病
• 躁うつ病(感情障害、気分障害)
– 双極性(20%)と単極性(80%)
• 神経症
• 心身症
– 喘息、胃潰瘍、過敏性大腸等
• マタニティーブルー、産褥性精神障害
46
中年期−1
• 社会的・経済的地位
• 知的・技術的能力
• 育児・出産からの開放
中年期−2
• 人生についての根本的疑念
• 結婚に対する後悔
• 社会的地位の放棄
• 自我同一性の再定義に伴う混乱
• 社会的・家庭的ストレスの増加
• 失業やリストラ
• 「中年期危機」
47
中年期に起こる病気
•
•
•
•
•
•
躁うつ病
自殺
アルコール依存症 (内臓障害、精神障害)
(統合失調症)精神分裂病
薬物依存 (麻薬、覚せい剤)
睡眠障害
– 睡眠時無呼吸症候群
• 更年期障害
老年期
• 身体能力の低下
• 知覚入力の低下
• 知的能力の低下
• 廃用性機能低下
• 社会活動の低下
• 個人差の拡大
48
老年期に起こる病気
• 痴呆
一度発達した知能が脳の器質的障
害により永続的、不可逆的に低下した
もの
– アルツハイマー型痴呆
– 多発梗塞性痴呆
• うつ病,妄想症,せん妄,心気症
躁うつ病
アルコール依存症
痴呆
思春期
成人期
中年期
老年期
少ない
統合失調症
てんかん
自閉症
頻度
精神発達遅滞
多い
児童期
幼児期
0歳
80歳
49
7.ストレスと精神障害
統合失調症(精神分裂病)
躁うつ病
自閉症
PTSD
ストレスとは何か?
• 体外から加えられた物理的、化学
的、あるいは精神的な有害刺激に
より起こる生体の傷害と防衛反応
の総和である。(セリエ,1936)
– ストレス刺激
– ストレス反応
50
Social Readjustment Rating Scale
夏目誠ほか
• 1 配偶者の死
• 2 会社の倒産
• 3 親族の死
• 4 離婚
• 5 夫婦の別居
• 6 会社を変わる
• 7 自分の病気や怪我
83
74
73
72
67
64
62
つづき
•8
•9
• 10
• 11
• 12
• 13
• 14
多忙による心身の疲労
300万円以上の借金
仕事上のミス
転職
単身赴任
左遷
家族の健康の変化
62
61
61
61
60
60
59
51
メンタルヘルスへの関心が高くなった背景
1. 職業ストレス増加
1.
2.
3.
4.
2.
3.
4.
5.
6.
グローバル化と経済効率の追求
ダウンサイジング・リストラクチャリング
年棒制・評価主義の導入
終身雇用の崩壊
情報化・技術革新
個人志向性・個人主義
産業構造の変化と適応障害
不況
女性の就労
健康体力づくり事業財団HPより
セルフケア
1. ストレスへの気づき
1. ストレスやこころの健康への理解・認知
2. ストレス対処能力の向上
1. 積極的にストレスの軽減・解決・相談
3. 自発的な相談
1. 友人・同僚・上司・専門家
4. そのための環境整備
1. 研修・相談体制・情報提供
52
精神疾患:増える患者数
(毎日新聞2004年2月18日から)
• 2002年で入院と外来で約258万人
• 入院患者は34万人で横ばい
• 外来患者が224万人で3年前に比べ54万人
(30%)増加
• 統合失調症73万人(7万人増)、うつ病71万人(27
万人増)、神経症50万人(8万人増)など
• 受診機会が増えたことも原因か?
統合失調症(精神分裂病)
• 歴史
– 19世紀末
– 1911年
– 2002年
クレペリン(独)早発性痴呆
ブロイラー(独)精神分裂病
日本精神神経学会
新たな名称
統合失調症
53
• 疫学
– 出現頻度 0.7∼0.8%
– 好発年齢 15∼25才
– 精神科外来患者の20∼40%
– 精神科入院患者の60∼80%
• 病因
– 現在では不明
– ドーパミン系の過剰興奮?
– 中枢神経系の発達障害?
– 遺伝的要因と環境的要因
54
遺伝的一致率
精神分裂病
1卵性
2卵性
うつ病
1卵性
2卵性
75%(4)
0%(13)
独
67%(21) 3%(60)
米
86%(268) 15%(685) 100%(27) 26%(58)
英
76%(41)
14%(115) 50%(8)
23%(30)
精神症状 (米国精神医学会−DSMⅣ)
• 奇異な妄想、幻聴あるいは思考障害
• 病前の社会的機能レベルからの低下
• 慢性の経過、症状が6ヶ月以上持続
• 器質性精神障害ではない
• 多面にわたる心理過程の特徴的な障害様式
– 自我意識障害、離人症、作為体験、体感幻覚、
感情鈍麻、両価性、連合弛緩、途絶
55
病型
• 破瓜型(解体型)
• 緊張型
• 妄想型
経過
環境要因
遺伝要因
環境要因
病前性格
治療
発病
寛解
寛解
再発
寛解
環境要因
再発
環境要因
56
病前行動特徴の通知表研究(岡崎ら)
• 一般的な評価項目
– 礼儀正しい
– 責任感がある
– 積極的
– よく手をあげて発表する
– 作業が正確
– 明るい
– 落ち着いている
統合失調症患者と
一般児童との比較
• 小学校高学年では
– 礼儀正しい
– 真面目・熱心・誠実
– 過緊張で場に溶け込めない
– 消極的・引っ込み思案
– 発表や質問が少ない
• 中学校では
– 作業が粗雑でむらがある
57
笑顔の認知と脳活動
健常
L
統合失調症患
L
R
R
両側扁桃体
(-18, -4, -10, Z = 3.15)
(20, -6, -10, Z = 5.20)
両側扁桃体
(-22, -6, -8, Z = 3.72)
(22, 0, -16, Z = 3.79)
笑顔の認知と脳活動
統合失調症患者 > 健常者
rt AMG
0.3
A d ju s t e d s ig n a l
0.25
L
R
右扁桃体
(22, -6, -12, Z = 3.49)
0.2
0.15
0.1
0.05
0
Schizo
Control
Kosaka et.al.、2002
58
躁うつ病(Manic Depressive Illness)
• 感情障害(Affective Disorder)
気分障害 (Mood Disorder)
• 特徴
– 感情または気分の障害
– 周期的経過
– 病期以外は正常
– 残遺症状がない
• 好発年齢
– 20代後半∼中年期、初老期
• 病因
– 遺伝素因
– 性格 執着気質, 循環気質
– 心因 状況因
59
精神症状
• 躁状態
–爽 快 気 分 、 観 念 奔 逸 、 興 奮 、
誇大妄想、不眠、多弁多動、浪費
• うつ状態
– 病的抑うつ感、思考制止、不眠、
貧困妄想、罪業妄想、心気妄想、
自殺
病型
抑うつ型
躁
うつ
躁
躁型
うつ
60
病型
躁
循環型
うつ
躁
Rapidcycler
うつ
躁うつ病患者の通知表研究
•
•
•
•
•
•
•
•
•
積極的・意欲的
よく手を上げて発表する
作業が丁寧
明るい・明朗
素直・温和
情緒不安定
お節介で押し付ける
喋らないと気がすまない
関心が分散する
61
自閉症 (Autism)
• 社会性の障害(知能水準に相応しない)、言語発
達の遅延と逸脱(反響言語)、さらに同一性への
固執を特徴とする。
• Kanner (1943) and Asperger (1944)
• 頻度
– 4∼5人/1万人(最近では/千人?)
– 男児:女児=3∼4:1
• 症状
– 自閉的孤立
– 異常なコミュニケーション
– ごっこ遊びの障害
• 心の理論 (Theory of mind, Mentalizing)
– 通常われわれは他者が自分とは違った心
を持つという信念を持つ。
– そして自分が他者の行動を予測し、その意
図を推測する能力がある。
– 自閉症で欠けているのは、この能力である。
62
健常児の心の発達
• 1歳児
– 他人の目の動きを追う
• 2−3歳児
– 欲しい 知っている
語を覚える。
ふりをする などの単
• 5歳児
– だます
•
嘘をつく などの概念を理解する
Chocolate Test
Sally and Ann Test
63
前頭葉内側部と自閉症、自己との関連
• 最近では広汎性発達障害の中の1つ
として位置付けられる。
• 予後
– 社会適応可能
15%
– 不十分ながら適応
25%
– 自立不能
60%
64
B
A’
B’
メタ表象
A
心的外傷後ストレス障害
• Post-traumatic stress disorder (PTSD)
• 事例
– 阪神淡路大震災
1995年1月17日
65
PTSD
• 実際に死ぬまたは重傷を負うような出来事を体
験したり、目撃したりする。
• その後にその出来事の苦痛を伴う、また反復し
た想起(または夢)を経験する。
• その出来事が再び起こっているかのように感じる。
• 出来事と関連した思考、会話、活動、場所、人物
などを回避しようとする。
• これらにより不安、抑うつ、不眠などを生じ、日常
生活に障害を負う。
PTSDの時間的経過
80
精神障害の割合
70
60
A
B
C
D
50
40
30
20
10
0
1週 間 後
4週 後
8週 後
12週 後
16週 後
66
8.薬物乱用と依存
• 薬物作用を反複体験しようとし
て絶えず薬物を欲求する。
– 精神依存と身体依存
– 離脱症状(禁断症状)
•薬物を中断した時に生じる不快な
身体的または精神的状態。
– 耐性
• 同じ効果を示すのに用いる薬物の
使用量が次第に多くなること。
67
アルコール依存症
• アルコール性臓器障害
– 肝臓障害、高血圧、胃潰瘍、糖尿病、神経炎
• アルコール精神病
– 振戦せん妄、幻覚症、てんかん、コルサコフ病、
嫉妬妄想、痴呆
• アルコール性胎児症候群
• 診断
– 久里浜式アルコールスクリーニングテスト
• 治療
– 抗酒剤
– 断酒会
– AA(Alcoholic Anonymous)
68
久里浜式アルコールスクリーニングテスト(抜粋)
• 酒が原因で家族や友人関係にひびが入ったことがある。
• せめて今日だけは酒は飲むまいと思っても、つい飲んで
しまうことが多い。
• 周囲の人から大酒飲みと非難されたことがある。
• 適量でやめようと思っても、つい酔いつぶれるまで飲んで
しまう。
• 酒を飲んだ翌朝に、前夜のことを所々思い出せないこと
がしばしばある。
• 二日酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかった
りしたことがある。
• 麻薬中毒
– モルヒネ、コカイン、大麻(マリファナ、ハシシ)
• 覚醒剤中毒
– アンフェタミン、メタアンフェタミン
– 精神分裂病様の幻覚妄想状態
– フラッシュバック現象(逆耐性)
• シンナー(有機溶剤)中毒
– 酩酊作用(多幸、陶酔、眠気)、幻覚発現作用、
多発神経炎、脳波異常
• 睡眠薬、鎮痛薬、抗不安薬の乱用
– アルコールとの併用、多剤依存の問題
69
9.女性と心の病
摂食障害 (Eating Disorder)
• 神経性食思不振症、思春期やせ症、
拒食症
• 症状(DSM-Ⅳ)
– 標準体重の-15%以上のやせが続く。
– 低体重にもかかわらず,体重増加または
肥満への恐怖がある。
– 3ヶ月以上の無月経。
– 自己評価への体重や体型の過大な影響。
– 低体重の否認。
70
神経性大食症、過食症
• 1日のある時間に通常の人より明らかに
多い量を食べる。
• その間食べることを制御できないという感
覚がある。
• 体重増加を防ぐために不適切な行為を繰
り返す。(嘔吐、下剤)
• 症状は3ヶ月以上続く。
• 自己評価は体重や体型に過剰な影響を
受ける。
• 1.ミニューチンの理論
–
–
–
–
–
家族間の境界が弱く、極端に接近している
お互いに過保護的である
意見の違いを認識しないようにしている
自分たちの交流パターンに固執する
両親たち自身が互いに葛藤を持っている。
• 2.ブルックの理論
– 「摂食障害の本質は表面に現れた食欲や食行動の異
常ではなく、背後にある自我同一性の葛藤である。」
– 身体像や身体概念の障害
– 身体から発する刺激を正確に認知できない
– 自己に対する無力感や不信感がある
71
• 産褥期精神障害
– 出産後急性の躁うつ、錯乱状態などを
呈する。
– 出産後6ヶ月の精神障害発生率は通
常期の2.5∼3.2倍。
– 産褥期に発症した53例中14例(24%)が
次の出産時に再発した。
– 出産自体が心理的ストレスである。
– 急激なホルモン状態の変化も誘因。
• マタニティーブルー
– 出産後1∼2週間以降
– 軽度の抑うつや涙もろさ
– ほぼ自然寛解
72
妊娠関連うつ病の発生率
妊娠関連うつ病(%)
70
60
50
40
夫への高信頼度
夫への低信頼度
30
20
10
0
肯定的
否定的
現在の妊娠への態度
紹介した疾患
•
•
•
•
•
•
•
•
精神分裂病
躁うつ病
自閉症
PTSD
薬物依存
摂食障害
産褥性精神障害
マタニティー・ブルー
紹介していない疾患
不安障害
パニック障害
解離性障害
多重人格
性同一性障害
睡眠障害
睡眠時無呼吸症候群
適応障害
人格障害
てんかん
73
自殺
順位
疾患名
総数(人)
死亡率
割合(%)
1
悪性新生物
300,658
238.8
31
2
心疾患
148,292
117.8
15.3
3
脳血管疾患
131,856
104.7
13.6
4
肺炎
85,305
67.8
8.8
5
不慮の事故
39,496
31.4
4.1
6
自殺
29,375
23.3
3
7
老衰
22,145
17.6
2.3
8
腎不全
17,690
14
1.8
9
肝疾患
15,848
12.6
1.6
10
慢性閉塞性肺疾患
13,069
10.4
1.3
死亡率は人口10万人対
平成13年度
毎日新聞:2004年7月23日
• 自殺者:昨年の人数、最悪の3万4000人 経済
苦、初の8000人台−警察庁
– 昨年1年間の自殺者が3万4427人と前年より2284
人(7%)増え、統計を取り始めた78年以降で最悪を
記録したことが、警察庁の調査で分かった。景気低迷
などを反映して、特に働き盛りの40∼50代を中心に、
負債や生活苦、失業といった「経済・生活問題」が動
機とみられる自殺者が急増し、初めて8000人台に達
した。4年連続で減少傾向だった少年の自殺も増加に
転じた。
– 警察庁まとめ:自殺者の総数は2年連続の増加となり、
6年連続で3万人を超えた。これまでは99年の3万3
048人が最も多かった。
74
動機別にみると..
– 1.病気やアルコール依存症などの「健康問題」
• 1万5416人
– 2.経済・生活問題
• 8897人
– 3.離婚など「家庭問題」
• 2928人
– 4.仕事がうまくいかないなど「勤務問題」
• 1878人
– 5.その他
40
自殺−男
自殺−女
交通事故−男
交通事故−女
自殺と交通事故の比較
死亡率(人口10万対)
35
30
25
20
15
10
5
0
1950
1960
1970
1980
1990
2000
年度
75
自殺による死亡と年齢
平成7年のデータ
死 亡 率 (人 口 10万 対 )
50
40
30
男性
女性
20
10
0
15- 20- 25- 30- 35- 40- 45- 5019 24 29 34 39 44 49 54
年齢 (才)
年齢別、年次別推移
百
120
昭 和 55年
昭 和 60年
平 成 2年
平 成 7年
平 成 12年
100
80
人
60
40
20
0
19歳以下
20歳台
30歳台
40歳台
50歳台
60歳以上
76
原因
• 元来うつ病・統合失調症などの精神障害
に罹患していた場合。
• 単独または複数の心理・社会的ストレス
を有する場合。
• 重篤なまたは慢性的な身体疾患を有す
る場合。
7つの神話
• 自殺を口にする人は実際にはしない
– 80%は意思表示をしている
• 自殺は予告なしに生じる
– 多くは警告や予兆を示す
• 完全に絶望している
– 救ってほしいと願っている
77
• 悲嘆は極めて長期間続く
– 介入や治療はその期間を短縮する
• 一度未遂に終わったら心配ない
– 数ヶ月は注意深く接する
• 遺伝である
– その証拠はない
• 自殺者は精神疾患である
– 必ずしも正しくない
自殺防止対策
– 予防(発生予防)
– 危機介入(早期発見早期、治療、対処)
– 事後援助(アフターケア,再発防止)
– 連鎖反応の防止
78
相談窓口
• 名大 学生相談室
– 789−2178,2177,3520
• 名古屋いのちの電話
– 052−971−4343 (苦労ない、しみじみ)
10.高齢化社会と痴呆
79
痴呆の原因
脳血管障害
変性疾患
脳梗塞、脳出血
アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、
パーキンソン病
脳外傷、脳腫瘍、水頭症
中毒性疾患 一酸化炭素中毒
栄養欠乏性疾患
ビタミン欠乏、葉酸欠乏、アルコール性痴呆
感染症
細菌性脳炎、ウイルス性脳炎、AIDS脳症
脱髄疾患
多発性硬化症
プリオン病
Creutzfeldt-Jacob病
代謝内分泌疾患
甲状腺機能低下症、Cushing症候群、
Wilson病
アルツハイマー型痴呆の定義(DSM-IV)
1.
記憶障害
1. 新しい情報を学習したり、以前に学習した情報を想
起する能力の障害
2.
以下の認知障害の1つ以上
1. 失語
言語の障害
2. 失行
運動機能が損なわれていないにもかかわら
ず動作を遂行する能力の障害
3. 失認
感覚機能が損なわれていないにもかかわら
ず対象を認識または同定できないこと
4. 実行機能の障害
計画を立てる、組織化する、順序を立てる
80
実際の症状
大塚俊男訳、「アルツハイマー病の病期分類」
• 年齢相応
– 物の置き忘れを訴える。換語困難。
• 境界域
– 熟練を要する仕事の場面では機能低下が同僚に
よって認められる。新しい場所に旅行することが困
難。
• 軽度の痴呆
– 客を招く段取りをつけたり、家計を管理したり、買物
をしたりする程度の仕事でも支障をきたす。
•
中等度の痴呆
–
•
高度の痴呆
–
•
介助なしでは適切に洋服を選んで着ることができな
い。入浴させるとき何度もなだめすかして説得する
ことが必要なことがある。
不適切な着衣や入浴に介助を要する。入浴を嫌が
る。トイレの水を流せなくなる。失禁など。
非常に高度の痴呆
–
言語機能、理解し得る語彙の低下。歩行能力、着座
能力、笑う能力の喪失。昏迷および昏睡。
81
Ronald Reagan (1911-2004)
•
•
•
•
•
第40代アメリカ大統領 (1981-1989)
出身:イリノイ州生まれ
最終学歴:Eureka College卒 (1932)
所属政党:共和党
経歴:
– 俳優
– カリフォルニア州知事 (1967-75)
– アメリカ大統領
• 国内政治: 経済政策 社会福祉削減
• 国際政治: ソ連との関係改善 グレナダ侵行
• 1994年に自らアルツハイマー病であることを公表
老年痴呆者の精神ケアの原則(室伏)
• 老人の生き方の受容と理解。
(心への接近・つながり)
• なじみの人間関係を尊重。
• 老人のペースにあわせる。
(老人の立場)
• 理屈による説得より、感性的な納得。
(老人の精神世界)
• 老人と行動をともにする。
82
• 間違いを矯正、叱責、侮蔑し続けない。
• 老人の良い点を認め、好い付き合いを
する。 (生き方の尊重)
• 孤独に放置しないこと。
(寝込ませない)
• 絶えず刺激を与えること。
• 老人を生活的に扱うこと。
(「今」を大切に、安心、安住)
長生きの秘訣
国立療養所中部病院 長寿医療研究センターより
• 塩分は控えめに。
– 1日9gまで
• 食事はバランスよく、腹八分目で。
– 身長170cmの45歳の男性で67kg位の体重であると死亡
率、疾患の罹患率が最も低くなる。
– 170cmの身長の人では、一生を通して10年間で約5kgの
体重増加があると、各年齢での死亡率の最も低い肥満度
を保つことが出来る。
– 健康で長生きをするためには、特に痩せようとせずに、年
齢とともに少しずつ太っていくのがよい。
83
• たばこは百害あって一利なし。
– タバコの一服が4分寿命を縮めるともいわ
れています。
• お酒はほどほどに飲めば良い。
– 適度の飲酒は、血液循環を促進させ、ま
た動脈硬化を予防する善玉のHDLコレス
テロールを増加させる。
• 適度な運動。
• 趣味や生きがいを持ち、ストレスをため
ない。
長谷川式痴呆テスト
• 質問 1
– お歳はいくつですか?(2年までの誤差は正解)
• 質問 2
–
–
–
–
今日は平成何年ですか?
今、何月ですか?
今日は何日ですか?
今日は何曜日ですか?
• 質問 3
– 私達が今いるところはどこですか?(自発的に言えれ
ば2点、家ですか?病院ですか?施設ですか?の中か
ら正しい選択をすれば1点)
84
• 質問 4
– これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでま
た聞きますのでよく覚えておいてください。
• 桜 猫 電車
• 質問 5(それぞれ正解なら1点)
• 100−7は?
• 93−7は?
• 質問 6
– 私がこれから言う数字を逆から言ってみてください(そ
れぞれ正解なら1点、2個とも正解なら2点)。
• 6−8−2
• 3−5−2−9
•質問 7
– 先程覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。
ヒントなしに回答があれば各2点。(ヒント:植物、動物、
乗り物)
•質問 8
– これから5つの物を見せます。それを隠しますので何
があったか言ってください。例えば、めがね、ペン・手
帳・はんこ・時計など。
•質問 9
– 知っている野菜の名前を10個言ってください。5個ま
では0点、10個言えれば5点
•判定
•合計20点以下は痴呆疑い
•21点以上が正常(満点は30点)
85
名古屋市の高齢化の状況
65歳以上(人)
25
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
20
%
15
10
5
22
年
年
年
平
成
19
成
平
成
平
成
平
18
17
年
年
年
平
成
16
15
成
平
平
成
14
年
年
年
13
12
成
平
7年
成
平
成
平
年
成
平
60
55
和
和
昭
昭
2年
0
年
人
万
65歳以上(高齢化率%)
年度
名古屋市のデータから 平成13年度以降は推定
介護保険の目的とは?
1. 高齢化の進展に伴って、寝たきりや痴呆の
高齢者が急速に増える。
2. 介護が必要な期間が長期化している。
3. 介護する家族の高齢化が進んでいる。
4. 現行の制度は、医療と福祉の縦割りの制度。
5. 介護費用を国民全体で公平に賄う仕組みの
確立
厚生省より
86
介護にかかる費用は年間約4兆円
•
– ちなみに医療費は年間約30兆円
•
65才以上で死亡した人の平均寝たきり期間
→8.5ヶ月
•
85才以上の25%が介護を必要とする状態
•
介護する者の半数は60歳以上
•
老人福祉(老人ホーム、デイサービスなど)
と老人医療(老人保健施設、一般病院、訪問看
護)とのかい離。
全国における介護状況
400
2500
300
250
2300
200
2200
150
100
2100
50
2000
要 介 護 ・要 支 援 者 数 (万 人 )
6 5 歳 以 上 高 齢 者 数 (万 人 )
350
2400
65歳以上
要介護 ・要支 援者
0
H12
H13
H14
87
介護保険で何が良くなるか?
1. 自らの選択によりサービスを利用できる
2. 福祉と医療の総合・一体的な提供
3. 公的機関、民間事業者の参入促進
4. 社会的入院の是正
だれが対象となるか?
•65才以上の人
•40才∼64才までで老化に基づく疾患にかかっ
ている人(脳卒中、痴呆など)
かつ
•入浴、排泄、食事などの日常生活動作につい
て介護を必要とする状態(要介護状態)にある
か、なるおそれのある状態
88
どのようなサービスを受けられるか?
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
訪問介護
訪問入浴
訪問看護
訪問・通所によるリハビリ
医学的管理
日帰り介護
短期入所サービス
グループホーム、有料老人ホーム
福祉用具の貸与、住宅改修費
施設入所
在宅サービス利用の流れ
申請
市町村の窓口
↓
要介護認定
訪問調査や医師の意見
↓
を元に審査会で認定
↓
自立、要支援、要介護1−5
ケアプランの作成
↓
サービスの利用 利用者負担は費用の1割
↓
介護度により利用限度額あり
認定の見直し
89
名古屋市の状況(H16年)
• 65歳以上の被保険者数(第1号被保険者)
– 388,577人
• 要介護・要支援者数=60,112人
– 57,747人(第1号被保険者数)
• 65歳以上の被保険者の15%
‒ 2,375人(第2号被保険者数)
• 40歳∼64歳で老化性疾患
介護度別割合
要支援
7,472
12%
要介護5
6,220
10%
要介護1
21,047
36%
要介護4
7 ,5 6 0
13%
要介護3
7 ,9 2 7
13%
要介護2
9,892
16%
• 介護度1の割合が上昇中
90
11−天才と精神医学
病跡学について
病跡学(Pathography)とは?
• 精神的に傑出した人物、すなわち天才
の創造過程を精神医学、心理学的な視
座から研究する方法である。(福島章)
• 天才の中には性格的に大きな偏りのあ
る人や、病的、または明らかに精神障
害であったと推定される人が著しく多い。
• 単なる天才研究から人間存在の本質
への研究へと進む。(作田明)
91
歴史的背景
• イタリアの Lombroso 「天才人」を発表(1894年)
– 天才と変質(平均からの逸脱)
• ドイツのMobiusはゲーテとニーチェの生涯を綿密に
検証(1902年)
• 社会学的考察(Lange-Eichbaum)
– 天才とは集団が特定の人に対して抱く価値評価的関係で
ある。
• 体型と気質、才能との関係(Kretschmer)
• 精神分析学(Freud)の影響
• 操作的診断法を用いた実証的・科学的なアプローチ
天才の分類
• 分裂病圏
•ニ ュ ー ト ン 、 カ フ カ 、 ム ン ク 、
芥川龍之介、三島由紀夫
• 躁うつ病圏
•ダーウィン、ゲーテ、ゴッホ
• てんかん圏
•ドストエフスキー、ナポレオン
92
ゲーテ(1749∼1832)
• 7年周期で躁うつの周期を示している。
• 「若きウェルテルの悩み」
– 20代で書いた作品
– 主人公は典型的なうつ病の症状を示す。
– 冬至の日に自殺する。
• 「ファウスト」
– 最晩年の作品
– ここでも主人公はうつ病の症状を呈している。
– その解放(治癒)を目的に悪魔と契約する。
ゲーテと冬季うつ病
• Eckermannの伝記
– 「彼は毎年、冬至前の数週間を憂うつな気持
ちで過ごすのであった。」
• 冬になるとドイツからイタリアへ転地する。
• 光の研究家としても知られている。
• 臨終の言葉
– 「もっと光を!」
93
今回取り上げる天才
• ルードウィッヒⅡ世
• モーリス・ユトリロ
• 佐伯祐三
• シャルル・メリヨン
• エドワード・ムンク
ルードウィッヒⅡ世
(1845−1886)
•
•
•
•
•
•
統合失調症?、同性愛?
19才でドイツ・バイエルン国王
24才 政治・経済を省みず築城
ワーグナーに心酔
病弟 オットー(1848−1913)
グッデン教授(ミュンヘン大学)の精神鑑定書
により禁治産宣告→幽閉
• 41才 主治医とともに湖畔へ散歩に出て戻
らず、夜半に2名の溺死体が発見される。
• ヴィスコンティ 映画 「ルードウィッヒ」
94
モーリス・ユトリロ
(1883−1955)
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
アルコール依存症
パリのモンマルトルで出生
母はモデル、父は不明
18才でアルコール乱用のため入院
このころからデッサンの練習
極貧と大酒、刑務所
「白の時代」(1907−1914)
個展で成功を収め、経済的にも裕福に
「色の時代」
アルコール依存は軽快する
創造力は低下したが信仰心は強く
71才で死去
佐伯祐三
•
•
•
•
•
•
•
•
•
(1898−1928)
統合失調症と肺結核
大阪で住職の次男として出生
旧制中学より油絵、東京美術学校へ入学
26才でフランス・パリへ留学
画風の変遷、帰国
29才で再度パリへ留学し30才で死亡
この間「6ヶ月で145枚の絵を描いた」
精神変調をきたし、失踪事件
30才で精神病院へ入院後衰弱にて死亡
95
シャルル・メリヨン
(1821−1868)
•
•
•
•
•
•
•
•
統合失調症、色弱
私生児として出生
海軍兵学校を卒業、寄港地のスケッチ
23才ころから精神変調
29才で展覧会に入選「パリの銅版画」
被害妄想、被毒妄想が悪化
37才 精神病院へ入院
45才 再入院し拒食にて死亡
エドワード・ムンク
(1863−1944)
• 30才ころ 「叫び」など一連の傑作を生む
• 絵の特徴として
– 前景に正面向きの人物
– 背後には不気味な空間
– 遠方に数名の人物
•
•
•
•
留学先のパリで恋愛問題
被害妄想、幻覚
45才 精神病院へ入院
46才 退院してオスロに戻る
96
創造性と精神障害
作家とその家族についての研究
平均年齢
作家群(30名) 対象群(30名)
37歳
37歳
躁うつ病 24名(80%)
統合失調症 0名(0%)
アルコール依存 9名(30%)
薬物依存 2名(7%)
自殺
2名(7%)
9名(30%)**
0名(0%)
2名(7%) *
2名(7%)
0名(0%)
Iowa大学での調査
作家の親と子での調査
作家群(116名)対象群(121名)
躁うつ病 21名(18%)
3名(2%) **
アルコール依存 8名(7%)
7名(6%)
自殺
3名(3%)
0名(0%)
97
創造性と精神病理
291名の傑出人の自伝研究
科学者:ベル、ボーア、ボルツマン
政治家:ビスマルク、ヒトラー、リンカーン
思想家:キルケゴール、ニーチェ、マルクス
作曲家:ムソルグスキー、シューマン
画家:セザンヌ、ゴーギャン、ムンク
作家:ヘミングウェイ、ヘッセ、マン、
生涯における精神病理学的所見
青:正常 赤:軽度 黄:中度 緑:重度
科学者
2.2
政治家
10.9
17.8
作曲家
2.2
11.5
11.5
34.8
40
27
40
思想家
14
画家
2
24
60
50
52.1
4.2
25
20.8
50
作家
20
2
8
70
98
12.犯罪と精神医学
事例
• レーガン大統領狙撃事件
– 1981年3月30日
• 24人のビリー・ミリガン
– ダニエル・キース
99
レーガン大統領狙撃事件
1955年 JH生まれる
裕福な家庭で育つが、孤独を好む傾向
映画「タクシー・ドライバー」に触発される
女優ジュディ・フォスターのストーカー
ジョン・レノンの死
学業の不良と家族との離別
犯行
精神鑑定
– 検察側:うつ状態と人格障害
– 弁護側:統合失調症(精神分裂病)
• 判決は精神異常により無罪
• 強制入院
• 米国内に大きな論争
•
•
•
•
•
•
•
•
24人のビリー・ミリガン
• 1977年 誘拐・強姦の犯人として逮捕
• 弁護士は精神障害を疑う
• 複数の精神鑑定の後「多重人格」と診断
– 小児期の性的虐待
– 人格の解離(複数人格の存在)
– 別人格の犯行
• 1年後無罪の判決を受け強制入院
• 作家のダニエル・キースが取材しベスト
セラーになる(早川文庫)
• 1991年に退院
• 問題点
– 診断の信頼性
– 多重人格は免責か?
100
• 我国の刑法
• 第七章 犯罪の不成立及び刑の減免
• 第三十九条
– 心身喪失者の行為は、罰しない。心身耗弱
者の行為は、その刑を減軽する。
• 第四十一条
– 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
• 民法
– 後見および保佐、補助、任意後見
精神鑑定
• 起訴前鑑定(日本の場合殆どがこれにあたる)
– 検察官の裁量で行う
• 簡易鑑定→被疑者の同意の下、短時間で行う。
• 本鑑定→病院へ移し、数週間かかる
– 起訴、不起訴を決定する。
• 公判鑑定
– 裁判官の裁量で行う。
101
事件発生
精神鑑定
不起訴
措置入院
退院・通院医療
起訴
入院継続
裁判
自傷・他害のおそれがある場
合、2名の精神保健指定医の
判断により行う
措置症状改善
措置解除
任意入院
医療保護入院
保護者の同意がある
時、1名の精神保健
指定医の判断により
行う
退院・通院医療
心神喪失等の状態で重大な他害行為を
行った者の医療及び観察等に関する法律
公布日 H15.7.16
• 殺人、強盗、強姦、傷害、放火などの場合で、
–
–
–
–
–
不起訴処分または、
裁判で無罪もしくは刑を軽減された場合に、
検察官の申し立てで、
裁判官と精神科医各1名が、
処遇の要否・内容に関する審判を行う。
• 入院決定では
– 指定医療機関で専門的治療
• 保護観察所
– 生活環境の整備
• 退院後は3年間の通院と保護観察
102
精神障害者の犯罪
犯罪白書(平成14年)から
• 刑法犯総検挙者数:347,558人‐A (除 交通犯)
• うち精神障害者等数(疑い含む):2359人‐B → B/A=0.68%
• 一般人口に占める精神障害者の数は約2-5%と推定される
• ここ5年間は0.6%台で推移している
• 総人口(1億2千万人)に占める刑法犯(35万人)の割合は約
0.3%である
• 精神疾患患者数(260万人)に占める触法行為者数(2359人)
の割合は約0.1%である
• 内訳は窃盗など(54%)が最多で、次いで傷害暴行(15%)な
ど
• 精神障害者の犯罪は一般人口に比べて
– 頻度は高くない
– 増加してはいない
– 内容にはやや特異性がある
103
• 不起訴処分=664人
– 心神喪失360人+心神耗弱304人
• 裁判=70人
– 心神喪失により無罪 1人
– 心神耗弱により刑の軽減 69人
• 統合失調症:薬物中毒:そううつ病=63%:9%:8%
13.比較文化精神医学
Transcultural
Psychiatry
精神医学と文化人類学
Psychiatry and
Anthropology
104
西洋における狂気の起源
•
•
•
•
ギリシャ時代
ローマ時代
中世
近代
– フランス
– ドイツ
ギリシャ時代
• 幻聴を持った男の記載
• 神殿における治療
• Hippocrates(BC475∼380)
– てんかん、メランコリー、フレニテス、
マニ-、(子宮性)窒息
– 身体的治療を優先
• 下剤、吐剤、水浴、瀉血
105
ローマ時代
• 新約聖書
– キリストがてんかんや精神障害の治療を行った。
(マルコ伝第5章など)
• Celsus (BC25∼AD45)
– 有熱性(フレニテス)と無熱性、その他
• Aretaios(1世紀頃)
– メランコリーとマニー(躁うつ病の最初の記載)
• Soranos(2世紀頃)
– ヒステリー
• Galenos(130∼201)
– フレニテス(有熱性)、マニー、メランコリー
中世
• 医療モデルと宗教モデルの並立
• 障害者⇔異端者、治療⇔処罰
• 魔女裁判(15世紀中頃以降、17世紀まで、
主に中央ヨーロッパで)
• 治療と宗教的儀式
– 祈祷、悪魔払い、民間療法、音楽療法
• 精神障害の治療として開頭術
• 放逐と巡礼
– 愚者の船
• 施設化
– 都市の発達、社会福祉
106
フランスでの近代精神医学の黎明
•
•
•
•
•
パリの救済院への立入調査(1785年)
パリにおけるPinelの貢献「鎖からの解放」(1794年)
フランス革命(1789年)との歴史的一致
Esquirolの全国精神医療実態調査(1818年)
神経病学の発展とCharcot
– 催眠とヒステリー
– 19世紀末のパリ、アールヌーボー
• 病を巡る理解の宗教的モデルから医学的モデルへ
の変換。
• オカルティズム、心霊術の流行
ドイツでの近代精神医学の黎明
• 19世紀の産業革命と経済発展、都市化
• 増加率(1898年/1852年)
– 総人口10%、精神病院100%、精神科医573%、
患者数537%
• 各地で巨大精神病院が建設される。
• 19世紀末から20世紀に入り各大学に精神
医学講座が開設される。
– 疾患概念の体系化
– 1860年:早発性痴呆(モレル)、1871年:破瓜病
(ヘッカ-)、1874年:緊張病(カールバウム)、
1896年:クレペリン、1911年:精神分裂病(ブロイ
ラー)
107
本邦における狂気の歴史
• 古事記、日本書紀→「タブレ」
• 大宝律令の中の医疾令(701年)
– 「癲者、発時仆地吐涎沫無所覚也」
– 「狂者、或妄触欲走、或自高賢称聖神者也」
• 平安時代→「モノグルイ」 「モノツキ」
• 近世→「****」
– 乱心、乱気、狐憑→親類預け
– 酒狂→一般に厳しい処置
– 15歳以下の者→大人より一等軽い処遇
• 明治→癲狂院、脳病院(北杜夫・楡家の人々)
• 戦前はドイツ、戦後は米国の精神医学
憑依
• 「超人間的存在が、個人の意識や行動に
影響を与えていると信じられていること」
• 世界中の伝統社会の90%に認める
• 意識野の狭小化と意識変容(トランス状態)
• 一過性(数分から数時間)かつ随意的
• 多くは儀式の枠組みの中で職能者(巫女、
霊媒師=シャーマン)に生じる
• 依頼者に現実的な利得を与える
108
文化結合症候群
• 非西洋文明
– Windigo:人肉を食べる氷の精
• 冬期の食物不足と食人のタブー
– Koro:独自文化を背景とした疾病不安
– Amok:ヒステリー性怒り反応
– Latah:原始的恐怖反応
• 西洋文明
–
–
–
–
–
ヒステリー(19世紀末)
摂食障害(現代)
慢性疲労症候群
パニック障害
対人恐怖
本邦における「心の病」症候群
• 燃え尽き症候群
– バーンアウト・シンドローム
• ピーターパン・シンドローム
– パラサイト・シングル
• 空の巣症候群
• 無気力症候群
109
人間と行動 キーワード
1. 概論
一元論 二元論 認知神経科学 脳波 事象関連電位 神経画像
2.脳科学の歴史
局在論 全体論
3.中枢神経系の構造と機能
大脳 小脳 前頭葉 側頭葉 頭頂葉 後頭葉 連合野 感覚野 運動野
視覚系 視野大脳皮質 神経細胞 シナプス 受容体 神経伝達物質
4.認知と脳の働き
ブロカ野 ウェルニッケ野 前頭葉障害 注意 カクテルパーティー効果
失認 記憶 顕在記憶 エピソード記憶 意味記憶 健忘 海馬
5. 性と脳
性的二型性
6. ライフサイクルの心性と病気
胎児期 新生児期 乳児期(精神発達遅滞) 幼児期(自閉症 てんかん)
児童期(学習障害 不登校 心身症 非行) 青年期(精神分裂病 神経
症 人格障害 摂食障害 薬物乱用) 成人期(精神分裂病 神経症 躁う
つ病)中年期(躁うつ病 アルコール依存症 睡眠障害) 老年期(痴呆 う
つ病)
7. ストレスと精神障害
統合失調症(疫学 病因 病型 妄想 幻聴 思考障害) 躁うつ病(感情 気
分 周期性 病因 躁状態 うつ状態) 自閉症(社会性の障害 反響言語 同一
性への固執) 災害と心の病(心的外傷後ストレス障害)自殺 ストレス 精神保
健(メンタルへルス)
8.
薬物乱用と依存
精神依存 身体依存 離脱症状 耐性 アルコール依存(臓器障害 精神病
胎児障害)覚せい剤 麻薬 シンナー
9.
女性と心の病
摂食障害(拒食症 過食症) 産褥精神障害 マタニティーブルー
10.
高齢化社会と痴呆
痴呆の概念と種類 病因 アルツハイマー病 症状 ケア 介護保険
11. 天才と精神医学
病跡学
12. 犯罪と精神医学
心神喪失 心神耗弱 精神鑑定
13. 比較文化精神医学
心の病と起源・文化 文化結合症候群 憑依 シャーマン
110
参考文献
1. 概論
脳を究める 立花隆 朝日文庫 2001年
脳と心を考える 伊藤正男 紀伊国屋書店 1993年
脳と心(現代心理学シリーズ2) 宮田洋 培風館 1996年
脳と情動(ブレインサイエンスシリーズ6) 堀哲郎 共立出版 1991年
2. 脳科学の歴史
Neuroscience Exploring The Brain M.F. Bear Lippincott William & Wilkins 2001
3. 中枢神経系の構造と機能
脳(別冊日経サイエンス) 日本経済新聞社 1977年
脳と心(別冊日経サイエンス) 日本経済新聞社 1993年
ザ・ブレイン脳の最前線 塚田裕三 ダイヤグラムグループ 1983年
脳と心のバイオフィジックス 松本修文 共立出版 1997年
脳を知る(細胞工学別冊) 久野宗 秀潤社 1999年
神経心理学と病巣解析 Hダマジオ他 河内十郎訳 医学書院 1991年
解剖学2(脈管系神経系) 平沢興他 金原出版 昭和54年
The Cognitive Neurosciences M.S. Gazzaniga MIT Press 1995
心の病気と分子生物学 Sバロンデス 石浦章一訳 日経サイエンス社 1994年
Neuroscience Exploring The Brain M.F. Bear Lippincott William & Wilkins 2001
4.
認知と脳の働き
認知心理学2 記憶 高野陽太郎 東京大学出版会 1995年
認知心理学重要研究集1 視覚認知 斎藤勇他 誠信書房 平成7年
認知心理学重要研究集2 記憶 斎藤勇他 誠信書房 平成8年
記憶と脳 Lスクワイア 河内十郎訳 医学書院 1989年
前頭葉 Dスタス他 融道男訳 共立出版 1990年
表情分析入門 Pエクマン他 工藤力訳 誠信書房 1987年
左右差の起源と脳 久保田競 朝倉書店 1991年
左と右の心理学 Mコーバリス他 白井常訳 紀伊国屋書店 1978年
右半球の神経心理学 杉下守弘 朝倉書店 1991年
神経学の歴史 Lマクヘンリー 豊倉安雄訳 医学書院 1977年
認知神経心理学 Rマッカーシー 相馬芳明訳 医学書院 1996年
Cognitive Neuroscience of Emotion R.D. Lane Oxford University Press 2000
Left Brain, Right Brain S.P. Springer Freeman 1981
111
5.
性と脳
話を聞かない男、地図が読めない女 アラン・ピーズ他 藤井留美 主婦の友社 2000年
脳が決める男と女 サイモン・ルベイ 新井康充訳 文光堂 2000年
6.
ライフサイクルの心性と病気
異常心理学講座第3巻 人間の生涯と心理 土居健郎他 みすず書房 1987年
7.
ストレスと精神障害
精神医学 大月三郎 文光堂 1990年
DSM-Ⅳ(精神疾患の分類と診断の手引)米国精神医学会 高橋三郎訳 医学書院 1995年
精神分裂病 Eクレペリン 西丸四方訳 みすず書房 1985年
躁うつ病とてんかん Eクレペリン 西丸四方訳 みすず書房 1986年
内因性精神障害と心因性精神障害 Aブロイラー 切替辰哉訳 中央洋書出版部 1983年
精神医学の古典を読む 西丸四方 みすず書房 1989年
情動と側頭葉てんかん 扇谷明 医学書院 1993年
分裂病の認知神経心理学 Cフリス 丹羽真一訳 医学書院 1995年
新しい精神保健福祉法 精神保健福祉研究会 中央法規 平成11年
自殺学ハンドブック Lウェクスタイン 大原健士郎訳 星和書店 1981年
災害の襲うとき Bラファエル 石丸正訳 みすず書房 1989年
8.
薬物乱用と依存
アルコール臨床ハンドブック 斎藤学他 金剛出版 1982年
9.
女性と心の病
女性の精神障害 山下格他 診療新社 平成5年
食の病理と治療 下坂幸三他 金剛出版 昭和60年
10.
高齢化社会と痴呆
老化のバイオサイエンス 香川靖雄 羊土社 1998年
老年者の頭部CT診断 大友英一他 中外医学社 1990年
厚生省ホームページ(http://www.mhw.go.jp)
国立療養所中部病院 長寿医療研究センターホームページ(http://www.nils.go.jp)
11. 天才と精神医学
作品のこころを読む 宮本忠雄 吉富製薬 1996年
12. 犯罪と精神医学
日本の精神鑑定 内村祐之他 みすず書房 1990年
精神鑑定の事件史 中谷陽二 中公新書 1997年
24人のビリー・ミリガン D キース 堀内静子訳 早川書房 1999年
112
13. 比較文化精神医学
憑霊とシャーマン 佐々木宏幹 東京大学出版会 1988年
疫病と狐憑き 昼田源四郎 みすず書房 1986年
日本の狂気誌 小田晋 思索社 1990年
分裂病と現代文明 Eトリー 志村正子訳 三一書房 1983年
精神医学と人類学 Iガルドストン 江草安彦訳 星和書店 1981年
地球をめぐる精神医学 Jレフ 森山成杉訳 星和書店 1991年
比較精神医学 Hマーフィー 内村幸雄訳 星和書店 1992年
精神医学と文化人類学 大平健他 金剛出版 1988年
この冊子は名古屋大学 全学教育 文系教養科目
「人間と行動」のテキストとして作成されました。
複製・再配布などには著者の許可が必要です。
著者
飯高哲也
第2版 制作日 2004年8月17日
113