[依頼講演]月周回衛星かぐや搭載ハイビジョンカメラシステム

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
[依頼講演]月周回衛星かぐや搭載ハイビジョンカメラシステム
太刀野 順一 1
山崎 順一 2
三橋 政次 2 山内 正仁 2
本田 理恵 3
1
E-mail:
NHK エンジニアリングサービス 〒157-8540 東京都世田谷区砧 1-10-11
2
日本放送協会 〒150-8001 東京都渋谷区神南 2-2-1
3
高知大学 〒780-8520 高知県高知市曙町 2-5-1
1
[email protected],
2
{yamazaki.j-gq , mitsuhashi.s-jo, yamauchi.m-gm }@nhk.or.jp
3
[email protected]
あらまし かぐや(SELENE)搭載ハイビジョンカメラシステム(HDTV)の開発過程と現在までに得られた新し
い映像を紹介するとともに、宇宙環境におけるハイビジョンカメラシステムの現状、運用状況について報告する。
また、ハイビジョンカメラの今後の撮影計画および、将来性と課題について報告する。
キーワード かぐや, SELENE, ハイビジョンカメラシステム, HDTV, 宇宙
1. か ぐ や の 概 要
台 は WIDE( 1 0 m m レ ン ズ 装 着 ) と な っ て い る 。 光
月 周 回 衛 星 「 か ぐ や 」 は , 2007 年 9 月 14 日 に 種 子
学系諸元を表2に示す。撮影する時は 2 台のうち 1 台
島宇宙センターから打ち上げられた。衛星の大きさは
を 選 択 し て 撮 影 を 行 う 。電 子 装 置 部 は 電 源 部 、I/F( イ
2.1m×2.1m×4.8m で あ り 、 燃 料 込 み の 質 量 が 3t も あ
ンタフェース)部、メモリ部、エンコーダ部の構成に
る 日 本 で は 最 大 級 の 衛 星 で あ る 。「 か ぐ や 」 に は 14 の
な っ て い る 。「 か ぐ や 」の 太 陽 電 池 パ ネ ル で 発 電 さ れ た
科学観測機器が搭載されており,月の進化の謎を解明
電 力 は HDTV シ ス テ ム の 電 源 部 に DC52V を 供 給 す る 。
す る の が 目 的 で あ る 。「 か ぐ や 」 は 月 の 高 度 100km の
電 源 部 で は DC52V を 受 け て 、 + 5V 電 源 、 ±12V 電 源
極 軌 道 を 周 回 し な が ら 、 2007 年 12 月 後 半 か ら 観 測 を
を 各 部 に 供 給 し て い る 。 I/F 部 は 衛 星 か ら の HDTV シ
行 っ て い る 。「 か ぐ や 」 は 主 衛 星 (月 周 回 衛 星 )と 、 2 機
ス テ ム 専 用 の コ マ ン ド を 受 信 し た り 、 HDTV シ ス テ ム
の 子 衛 星 ( リ レ ー 衛 星 ( お き な )・ VRAD( ブ イ ラ ド )
の健康状態を示すテレメトリを衛星側に送ったりする
衛 星 ( お う な )) か ら 構 成 さ れ て い る 。「 か ぐ や 」 で は
部分である。メモリ部はエンコーダ部からのデータを
月表面の元素分布、鉱物組成・分布、地形、表面付近
メ モ リ す る 。EEPROM を 使 用 し て お り 、容 量 は 1 分 間
の地下構造、磁場分布、重力分布の観測を月全域にわ
の 映 像 デ ー タ( 圧 縮 さ れ た も の )が 保 存 可 能 な 1GB を
たって行う。これらの観測によって、総合的に月の起
2 系 統 と し て い る 。エ ン コ ー ダ 部 は カ メ ラ と セ ッ ト で 1
源・進化の解明に迫ると期待されている。同時に周回
式ずつの構成である。メモリ部は 2 系統あり冗長性を
衛星に搭載された観測機器で、プラズマ、電磁場、高
持たせている。メモリ部に記録した映像データは,高
エネルギー粒子など月周辺の環境計測を行う。これら
速データインタフェース回路を経由して衛星本体に転
計測データは、科学的に高い価値を持つと同時に、将
送する。
「 か ぐ や 」衛 星 か ら の デ ー タ は ,長 野 県 佐 久 市
来月の利用の可能性を調査するためにも重要な情報と
の臼田宇宙空間観測所で受信し,地上の回線で相模原
なる。
市 の 月 ミ ッ シ ョ ン 運 用 解 析 セ ン タ ー ( SOAC) に 送 ら
れる。地上側の設備は,搭載機器の動作状態(温度,
2. HDTV の 概 要
HDTV シ ス テ ム の 外 観 を 図 1 示 す 。 構 成 と し て は カ
電圧,コマンドやパラメータ)を監視するテレメトリ
表示装置(クイックルック)と,送られてきた映像デ
メ ラ 部 と 電 子 装 置 部 と か ら な る 。カ メ ラ 部 は 2/3 型 200
ー タ を 復 元 す る 復 調 装 置 か ら 構 成 さ れ て い る ( 図 2 )。
万 画 素 の IT-CCD を 用 い た 3 板 方 式 の カ メ ラ を 2 台 搭
HDTV シ ス テ ム に は 質 量 削 減 の た め 、 雲 台 、 ズ ー ム 機
載 し て お り 、1 台 は TELE( 35mm レ ン ズ 装 着 )、も う 1
能はない。よって、撮影可能な場所は衛星の軌道に依
存 す る 。 ま た 、 HDTV シ ス テ ム は 衛 星 の 下 部 モ ジ ュ ー
ルの月面側に取り付けられており,レンズの向きは進
行 方 向 に 対 し て 2 台 を 逆 向 き に し て い る( 図 3 )。衛 星
の 軌 道 高 度 誤 差 ( 100±30km) や 他 の 観 測 機 器 が 画 角
に入らない等の考慮をして,月の地平線と地球が画角
の中にバランスよく収まるように取り付け角度を決定
している。
HDTV シ ス テ ム に は 温 度 変 化 で の 故 障 を 防 ぐ た め に 、
項目
焦 点 距 離 (mm)
視 野 角 (°)H×V,D
F値
減光フィルタ
寸 法 (mm)LxΦ
質 量 (g)
取付角度
広 角 (W)
10
50.1×29.5,56.3
F5.6 固 定
ND=1
112.5×60
330
22.5
温度センサをカメラ部、エンコーダ部周辺に 1 個ずつ
表2
望 遠 (T)
35
15.5×8.7,17.8
F5.6 固 定
ND=1/8
81.5×60
260
18.5
光学系諸元
取り付けている。なお,電源,インタフェースおよび
センサは,宇宙用高信頼性部品を使用している。
HDTV シ ス テ ム が 衛 星 か ら 地 球 へ 向 け て の デ ー タ 伝
送には,高速と低速の二つのモードがある。高速伝送
は ,7.6Mbps の レ ー ト で 1 分 間 の 動 画 デ ー タ を 約 20 分
で 伝 送 可 能 で あ る 。 低 速 伝 送 は , 100kpbs で 静 止 画 の
伝送予備となる。
カメラの露光調整は電子シャッタで行っており,こ
れにはマニュアルとオートの 2 種類がある.そのほか
電気ゲイン,ガンマ,ペデスタル,ホワイトバランス
項
目
ゲ イ ン 調 整 (dB)
露出調整
A: オ ー ト
諸
元
-6,-3,0,+3,+6,+12,+18
電子シャッター
ピーク値制御、平均値制御
露 出 補 正 1/63.4~ 1/1983
1/63.4~ 1/16000
Knee(ポ イ ン ト 、 ス ロ ー プ ),
ブ ラ ッ ク ガ ン マ 、 PED
カ ラ ー バ ー 、 CAL
シリアル、パラレル
中心座標、シャッター速度
B: マ ニ ュ ア ル
その他の調整
基準信号
コントロール信号
スーパーインポーズ
表3
などの多くの映像調整項目が地上からのコマンド制御
144Mbps
1.5Gbps
で行える。また,非常時の原因調査のために地上品と
WIDE
同様のテスト信号も組込んでいる。通常はシリアル制
映像調整機能
1.5Gbps
TELE
エンコーダ A
メモリ A
エンコーダ B
メモリ B
TFG
観測装置
御で行うが,重要項目は,パラレル制御も行えるよう
にしている。映像調整機能を表3に示す。記録方式に
コントロール部
RUT/PIU
は標準モード(1 倍)の他にインターバル記録モード
(2 倍,4 倍,8 倍)を用意した.
太陽電池
電源部
(+5V,±12V)
HDTV
SELENE
10Mbps
テレメトリ
モニタ
地上局
(臼田)
SOAC
(相模原)
デコーダ
DATA
CMD/TLM
コマンド
図2
システム系統図
パラボラアンテナ
図1
HDTV シ ス テ ム の 外 観
項 目
CCD
カラー方式
圧縮部
記録部
伝 送 I/F
寸法
質量
諸
元
2/3 型 IT-CCD 1920×1080 有 効 画 素
ダ イ ク ロ イ ッ ク プ リ ズ ム 3 板 (RGB)
DCT 圧 縮 HDCAM 方 式 144Mbps
EEPROM メ モ リ 1GB
CCSDS パ ケ ッ ト 方 式 7.6Mbps
460(W)mm×280(H)mm×420(D)mm
16.5kg
消費電力
最 大 50.0W
撮影モード
動 画 (×1, ×2, ×4, ×8),静 止 画
表1
システム諸元
下部
モジュール
推進
モジュール
上部
モジュール
進行方向
2008.04-2008.09
広角
図3
HDTVシステム
望遠
衛 星 で の HDTV シ ス テ ム の 取 付 位 置
3. 環 境 試 験
HDTV シ ス テ ム を 宇 宙 に 持 っ て 行 く に は 、 厳 し い 宇
宙での環境を模擬した試験を行い、耐久性があること
を実証しなくてはならない。ロケット打上げ時に加わ
の観測機器との相互干渉試験を実施し,問題がないこ
る振動、ロケット分離や衛星に搭載されている分離機
とを確認した。
構など分離時に加わる衝撃、宇宙環境に入ってからの
真 空 中 環 境 下 で の ±150℃ に も な る 温 度 変 化 、宇 宙 空 間
3.3. 振 動 試 験
を飛び交う宇宙放射線など、これらの地上とは異なっ
振 動 は ,ロ ケ ッ ト が 大 気 圏 を 抜 け る ま で の 80 秒 間 ,
た環境を模擬した試験を行う。また、宇宙に飛び立っ
衛 星 へ の 取 り 付 け 位 置 で 16G が 加 わ る 。地 上 で の 振 動
てしまうと、修理することができないというのも重要
試験では,レンズがその重心位置に対して片側だけで
な項目である。
支えている片持ち構造のために振幅を増幅させ,レン
ズエレメントが脱落,フィルタディスクの欠き切り部
3.1. 放 射 線 試 験
分でも、振幅の増加によってフィルタハウジングが破
宇宙放射線の影響としては,ガンマ線による長期劣
損 し た 。 そ の た め , 色 変 換 ( CC) と 濃 度 ( ND) フ ィ
化と,粒子線(重粒子,高エネルギー粒子)による瞬
ルタおよびレンズと絞りは,一体形状にして強度を高
間的なダメージの二つがある.前者ではレンズのガラ
め た 。フ ォ ー カ ス は 無 限 遠 と し ,絞 り は F5.6 固 定 と し
スが黄色く変色するブラウニング現象が認められたた
た。
め,レンズ前面に石英ガラスを配置し,放射線による
劣化のない石英に吸収させる手法をとった。電子装置
3.4. 衝 撃 試 験
部は月軌道 1 年間分のガンマ線照射を行い問題がない
衝撃試験は,衛星をロケットから切り離す際に,ボ
ことを確認した。後者の粒子線では,粒子の種類やエ
ルトを火薬で一瞬に焼き切る時に生じる衝撃を再現す
ネ ル ギ ー に よ っ て 挙 動 は 異 な る が ,CCD 撮 像 素 子 で は
るものであるが,重量物が切り離されるため,低周波
白 キ ズ( 画 素 欠 陥 )が 多 数 発 生 す る こ と が 予 想 さ れ た 。
から高周波までの幅広い周波数を含んでいる。この試
対策として地上側の画像処理により映像を補正する新
験は本来であれば、落下法を用いて試験を行うことが
た な 装 置 を 開 発 し た 。 ま た , LSI 等 に 論 理 反 転 現 象 が
通常である。しかし、試験設備の関係からハンマー打
生じるため,カメラのメインソフトウェアの二重化と
撃 法 に よ っ て 極 短 時 間 に 1,000G を HDTV シ ス テ ム に
バンク切替え,制御データの三重化と多数決判定処理
与えた。金属性のハンマーでは低周波成分が不足し、
とした。メモリ部に関しては論理反転が起こったとし
柔らかいハンマーでは高周波成分が不足することから,
ても、映像は 1 フレーム分の欠損で済むので、対策は
大型の木製ハンマー(掛谷)を用いて試験を実施し耐
講じていない。
性を確認した。
3.2. 熱 真 空 試 験
熱真空試験では,真空チャンバーの中で,深宇宙を
見 立 て た 液 体 窒 素 の 円 筒 状 シ ュ ラ ウ ド( 隔 壁 )に よ り ,
衛星の周回に相当する 2 時間周期で加熱と冷却を繰り
返 し て 動 作 試 験 を 実 施 し た 。 HDTV シ ス テ ム は デ ー タ
量が多く,一方で衛星の伝送レートは低いため,連続
撮影はできない。撮影時間はメモリー容量(1 分間の
映 像 デ ー タ 分 )に よ っ て 決 ま り ,全 体 と し て は OFF の
時間の方が長く,内部の温度はヒーターがなければマ
イ ナ ス 側 で 平 衡 す る た め 、 HDTV カ メ ラ は 2 系 統 の ヒ
ータを持っている。一つは衛星システムで制御するヒ
図4
打撃法による衝撃試験
ー タ( サ バ イ バ ル ヒ ー タ )で あ る 。こ れ は HDTV シ ス
テ ム が OFF の 状 態 で も 温 度 を 極 端 に 低 温 に し な い よ
4. 撮 影 ま で の 計 画 立 案
う に 保 持 す る た め 、- 4℃ で ON,+1℃ で OFF と し て い
HDTV シ ス テ ム で の 撮 影 に 際 し て は 、 コ マ ン ド シ ー
る 。も う 一 つ は HDTV 側 で 持 つ 機 器 ヒ ー タ で あ り 、こ
ケンスを立案しなくてはならない。具体的には何時何
のヒータはサバイバルヒータのバックアップ的な意味
分 何 秒 に 、こ の コ マ ン ド を 衛 星 か ら HDTV に 発 行 し な
合 い が 強 い 。 HDTV シ ス テ ム の 外 側 が 黒 色 な の は , チ
さいという命令群である。この命令群なくしては
ャージアップを防止するカーボンコーティングがなさ
HDTV は 動 作 し な い 。 立 案 の 方 法 は 、 ま ず 、 撮 影 し た
れているためである。完成した搭載機(フライトモデ
い 日 時 の 直 近 の 軌 道 デ ー タ( 衛 星 が 通 る 軌 道 の デ ー タ )、
ル)は衛星と組合せた状態で,さらに各種の試験と他
太陽方向情報ファイル(太陽の位置が示してあるデー
タ )、イ ベ ン ト 時 刻 対 応 表( 可 視 時 刻 な ど の 衛 星 の イ ベ
ーム番号、パケット番号が付加されている。
ントが記述されているファイル)をシミュレータに読
1分間の動画データ=1800フレーム
み込ませ、撮影したい場所を決定する。次に撮影場所
で の カ メ ラ の 設 定 な ど の HDTV シ ス テ ム 内 で の 設 定 を
1フレーム=588パケット
撮影開始時刻などを考慮しながら、コマンドシーケン
スとして立案する。立案が完了したらシステム運用者
にデータを渡し問題がないことを確認する。立案は衛
星の昇交点通過時刻からの相対時間で記述をする。こ
1パケット=1Kバイト
フレームカウンタ
れは衛星の昇交点通過時刻がずれたとしても、衛星内
パケットカウンタ
図7
動画データ
HDTVのデータ構成
で修正してくれるという利点がある。これに対して、
絶対時刻で記述した場合は衛星の昇交点通過時刻がず
6. 打 ち 上 げ 後 の HDTV の 撮 影 ポ イ ン ト
れ て も 、 コ マ ン ド 発 行 の 時 刻 は 修 正 さ れ な い 。 HDTV
「 か ぐ や 」は ,2007 年 9 月 14 日 に ,種 子 島 か ら ,H
の場合、数十秒の誤差により、撮影したい場所をはず
Ⅱ A ロ ケ ッ ト に よ り 打 ち 上 げ ら れ た 。9 月 29 日 に は 月
す恐れもあることから、相対時間による記述は有効で
軌 道 に 向 か う 途 中 ,地 球 か ら 11 万 km の 距 離 か ら 上 弦
ある。
の 地 球 を 撮 影 す る こ と に 成 功 し た 。 そ の 後 衛 星 は 10
月 1 日 に 高 度 約 100km の 月 周 回 観 測 軌 道 に 投 入 さ れ た 。
HDTV カ メ ラ は ,2007 年 11 月 7 日 に ,「 地 球 」が 月 の
地平線の向こうからゆっくり昇ってくる様子をとらえ
ることに成功した。月面の撮影では,短い時間の中で
多くの地形を撮影したいという理由から,8 倍のイン
タバル記録モードを使い広角レンズで撮影している。
こ の 場 合 1 回 の 撮 影 で 緯 度 に し て 約 24 ゚の 広 い 領 域 を
移動した映像が得られる。月面を撮影する上では、太
陽高度が非常に重要になってくる。太陽高度が高けれ
ば、影のほとんどない映像になる。太陽高度が低けれ
図5
実際の計画立案画面(月面撮影時)
ば 、 陰 影 の つ い た 映 像 に な る 。 2008 年 4 月 6 日 に は ,
太陽,衛星,月,地球が一直線上に並んだ。この現象
は 1 年 間 に 2 回 し か な い チ ャ ン ス で , 「満 地 球 の 出 」の
撮影にも成功した。この時はゆっくり昇る地球を撮影
するために標準の 1 倍モードにより望遠レンズで撮影
し た 。2008 年 7 月 4 日 に は 、他 の 観 測 機 器 の 校 正 運 用
に 相 乗 り し た 形 で 撮 影 を 行 っ た 。「 か ぐ や 」は 通 常 、月
心 指 向 で 姿 勢 を 保 っ て い る た め 。 HDTV シ ス テ ム は い
つ も 月 の 地 平 線 を 撮 影 す る こ と が 可 能 で あ る 。し か し 、
こ の 時 は 慣 性 指 向 で の 運 用 と な る 。し た が っ て 、HDTV
システムから見ると、画角全体が月面になるなど通常
図6
実際の計画立案画面(地球撮影時)
では得られない映像を取得することができた。
5. HDTV シ ス テ ム の デ ー タ 構 造
HDTV シ ス テ ム の デ ー タ は 、 1 フ レ ー ム 588 パ ケ ッ
ト 、 1 パ ケ ッ ト の デ ー タ 長 は 1k バ イ ト で あ る 。 1 分 間
分 の 動 画 デ ー タ は 30 フ レ ー ム ×60 秒 =1,800 フ レ ー ム
分 な の で 、 588×1,800×1,000=1,058,400,000 バ イ ト で
あ る 。 HDTV は こ の デ ー タ 量 を 保 存 で き る だ け の 不 揮
発 性 メ モ リ ( EEPROM) を 搭 載 し て い る 。 こ の デ ー タ
を 衛 星 に 送 信 し 、7.6Mbps で 約 20 分 か け て 地 球 に 送 ら
れることとなる。データの中には地上でどのパケット
が抜けたかが判別できるように、各パケットにはフレ
図9
2007 年 9 月 29 日 に 撮 影 し た 上 弦 の 地 球
かぐや
撮影範囲
Moon
図13
図8
2008 年 7 月 4 日 に 撮 影 し た 特 殊 運 用 時 の 画 像
「かぐや」の定常運用での飛行状態
7. HDTV の 現 状 ( 白 傷 評 価 )
HDTV シ ス テ ム の 構 成 部 品 に お い て 、 劣 化 が 懸 念 さ
れ る も の に カ メ ラ の 撮 像 素 子 で あ る CCD が あ る 。劣 化
要 因 と し て は 、太 陽 風 に よ り プ ロ ト ン が CCD に 衝 突 す
ることによりフォトダイオードに結晶欠陥が発生し、
画 像 モ ニ タ に 白 傷 と し て 現 れ る 。 そ こ で 、 HDTV シ ス
テ ム と し て は 、「 か ぐ や 」の 放 射 線 環 境 を 考 慮 し 、事 前
に CCD 等 の 放 射 線 試 験 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 20,000
©JAXA/NHK
個 /年 の 発 生 と い う 非 常 に 多 い も の で あ っ た 。た だ 、こ
の条件としては、太陽活動がもっとも活発な時期を設
図10
2008 年 4 月 6 日 に 撮 影 し た 満 地 球
定し、もっとも厳しい条件での予想結果である。
現 在 、 HDTV シ ス テ ム は 、 2008 年 2 月 か ら 1 回 ~ 2
回 /月 に 白 傷 の 評 価 画 像 の 撮 影 を 暗 所( 月 面 が 日 陰 )で
行っている。白傷評価の画像取得時の設定は、
Gain=+12dB, ShutterSpeed=1/63.3 固 定 で あ る 。
図 1 4 は HDTV シ ス テ ム の TELE 側 の カ メ ラ で 白 傷
評価画像を撮影したものを使用して、映像レベルの
43%( 画 像 の ブ ラ ッ ク ノ イ ズ の 標 準 偏 差 の 3 倍 ) 以 上
のレベルの画素を白傷とした場合の撮影時の温度と白
傷の個数を示したものである。これを見ると、打上げ
前に解析した値と比べて、観測を開始してから約半年
図11
月面撮影の画像(アリスタルコスクレータ)
間、飛躍的に白傷の個数が増加している傾向はない。
理由としては、解析条件がもっとも厳しい条件であっ
かぐや
撮影範囲
た た め 、現 状 の 環 境( 太 陽 活 動 が 最 も 静 か な 時 期 な ど )
とはかなり異なっている結果と考えられる。
また、図15は温度と白傷の相関関係を示している。
これは温度が高ければ、白傷の個数が多く見えるとい
う相関関係を示している。
Moon
図12
「かぐや」の特殊運用での飛行状態
試験、運用を行えば,厳しい宇宙環境に耐えられるこ
画素数と温度の時間推移
(TELE,Gain +12dB, シャッター時間1/63.3sec)
とを実証できた。このことは,今後の月着陸船などの
120
宇宙搭載機器として技術的な可能性があることを示し
画素数、温度(℃)
100
blue
80
red
化が挙げられる。
60
green
40
T
20
0
2008/1/3
2008/2/22
図14
2008/4/12
2008/6/1
取得日
2008/7/21
2008/9/9
画素数と温度の時間推移
画素数の温度依存性
(TELE,Gain +12dB,シャッター時間1/63.3sec)
120
blue
100
画素数
ていると同時に次の技術的なステップとして、カメラ
雲台・レンズズーム機構の実装、また、更なる高画質
80
red
60
green
40
20
0
0
5
図15
10
cam_T(℃
℃)
cam
15
20
画素数の温度依存性
8. HDTV の 今 後 の 撮 影 計 画
HDTV シ ス テ ム の 今 後 の 撮 影 計 画 と し て は 、 9 月 30
日に予定されている 1 年に 2 回のみの撮影チャンスで
ある「満地球の出」を撮影することにある。4 月 6 日
に撮影した前回は、南半球からの出であったが、今回
は北半球からの出になる。また、今までに地球を撮影
した動画の中に日本列島を確認することはできていな
い 。9 月 30 日 の 撮 影 で は 日 本 列 島 も 視 野 に 入 れ た 撮 影
を 行 う こ と が 期 待 さ れ て い る 。 HDTV シ ス テ ム で は 、
他の観測機器に迷惑をかけないという制約条件の下、
地球への伝送が限られているため、月面の全球マップ
を 作 成 す る こ と は で き な い が 、12 月 か ら 1 月 に か け て
は、太陽高度が低く、月面を撮影するには陰影がはっ
きりした魅力的な映像を可能な限り取得する予定であ
る。
9. ま と め
今 回 、ハ イ ビ ジ ョ ン カ メ ラ が 38 万 km 離 れ た 宇 宙 に
飛び出したのは世界で初めてのことであり,アポロ計
画以来の月から見た地球の映像は日本のみならず,世
界中から大きな反響があった。今回の衛星搭載によっ
て,地上用のハイビジョン機材でも適切な改修と環境