この冒頭陳述は、公聴会で - Canterbury Earthquakes Royal

TRANS.20120625.OS.1
この冒頭陳述は王立事実調査委員会の公聴会にて提示公開される。この冒頭陳述は、公聴会で提
示公開され同時に王立事実調査委員会の一般ウェブサイトに掲載されるまで、機密文書であると
する。この冒頭陳述の翻訳は、特に専門技術用語において、直訳では無く、翻訳者の最大限の努
力を尽くした原文の解釈であるとする。
1908 年制定事実調査委員会法令に基づく
王立事実調査委員会のカンタベリー地震による建造物倒壊原因事実調査
KOMIHANA A TE KARAUNA HEI TIROTIRO I NGA WHARE I HORO I NGA RUWHENUA
O WAITAHA(上記マオリ語訳)
およびカンタベリーテレビジョンビル(Canterbury Television Building:以下CTVビル)の
倒壊調査
王立事実調査委員会弁護士による公聴会冒頭陳述
公聴会:2012 年 6 月 25 日開始
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王立事実調査委員会弁護士による公聴会冒頭陳述
序文
1.
2011年2月22日、CTVビルは6.3マグニチュードの余震の影響下で倒壊しました。
2.
CTVビルが被った余震の影響は突発的かつ衝撃的でした。王立事実調査委員会弁護士(以
下王立委員会弁護士)が審問した証人のほとんどが、ビルは数秒の内に倒壊したと証言して
います。このような危機状態下での我々の感覚は信頼性に欠ける場合がある一方、目撃者の
多数の証言はビルがほぼ即時に倒壊したという点で一致しています。
3.
ビルは極端に急速に倒壊しただけでなく、ほぼ完全に倒壊しました。倒壊後でもビルにかな
りの空洞が残ったために多くの人が脱出できたPGCビルとは異なり、CTVビルは完全に
平に潰れました。唯一残ったのは、ビルの北核の痛烈な姿だけでした。北核にはエレベータ
ーまたその他の設備が入っており、ビルの耐震部位の核となるよう設計されていました。
4.
ビルのもう一方の耐震部位は南並列せん断壁でした。この壁は北に向かって床スラブの上に
倒れました。床スラブが部分的に北核せん断壁に連結したまま残っているのが数枚の写真か
らわかりますが、ほとんどの床スラブは落ちました。
5.
また、ビル倒壊後の目撃者の証言及び観察証拠は、ビルが、まるで計画的な解体工事であっ
たかのようにほぼ垂直に倒壊した様子を示唆しています。ビルの南側に隣接して駐車してあ
った車両はほぼ全く被害を受けないまま残っていました。
6.
CTVビル倒壊の結果115名の命が亡くなりました。倒壊寸前にビルから走り出たCTV
受付のマリアンジャクソン以外に1階または2階からの生存者はありませんでした。生存者
の数が最も多かったのは、リレーションシップサービスが賃借していた最上階(6階)でし
た。これは床がほぼ原形を保って地上レベルまで落下し、6階にいた多くの人々は瓦礫から
脱出することができたからでした[WIT.MITCHELL.0001.9]。
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7.
ビル倒壊時、ビルのすべての階または部屋が賃借されていなかったのは極めて幸運な事でし
た。また、倒壊が起こったのがお昼時であったため、そうでなければビル内に居り、ほぼ確
実に亡くなったであろう数人の人が昼食を取りに外出していたのも幸運でした。
8.
CTVは2000年からビルの1階と2階を賃借していました。
9.
ゴーイングプレースエデュケーションがビルの3階を賃借していましたが、2010年12
月20日、21日に移転しました。この移転は当時のビルの状態とは全く関係はありません
でした。2月22日時点でビルの3階は空いたままでした。
10. 4階の主な部屋を賃借していたのは、語学または老人介護の教育プログラムを実施していた
キングスエデュケーションでした。
11. 診療所のザ・クリニックは2011年1月初旪にビルの5階に移転しました。これは、診療
所の元のビルに赤色ステッカーが貼られた後でした。
12. リレーションシップサービスは6階最上階の半分を利用しており、賃借は数年にわたってい
ました。2月22日時点で6階の残りの半分は空いていました。
13. 建築住宅庁に2012年1月25日付けで提出された建築物倒壊調査報告書(コンサルタン
ト報告書)は、予想を上回った地面の水平加速、そして極端に激しい地面の縦加速の両方が、
ビルの倒壊に関与している事を指摘しています。地震応答スペクトルの記録によると、9月
の地震でCTVビルが被った水平加速度は、ビルが設計された当時の建築負荷基準NZS4
203:1984で推定された加速度にほぼ近い規模でした[BUI.VAR0056.25:図 4.9]。そ
して、2月の余震の水平加速度はこの推定基準を上回りました[BUI.VAR0056.25:図 4.10]。
14. ビルが設計された当時の該当基準は、構造技術者が潜在的な縦加速度を考慮して設計する事
を義務付けてはいなかったようである。しかしながら、この公聴会の鑑定人の多くがこの縦
加速度は、CTVビル倒壊の重要な要因の一つであったとみなしています。
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王立事実調査委員会に委託された任務および権限
15. この公聴会のはじめに、王立事実調査委員会(以下王立委員会)に委託されている任務、及
び王立委員会が行うCTVビル倒壊事実解明調査の内容と性質について述べておくのは重
要な事でしょう。DBH(建築住宅庁)の依頼で実施されたCTVビルの調査は、技術面の
みの調査でしたが、王立委員会はより広範囲に渡る調査を実施します。この公聴会に備えて、
王立委員会弁護士と鑑定人を含む多くの調査員が、建築許可、DBHの報告書で指摘されて
いる建設不備、及び当時の法規準拠の問題についての厳密な調査を行いました。また、CT
Vビルの最終設計案に至るまでの過程、そして1990年と1991年の、床ダイヤフラム
と北せん断核の連結の深刻な欠陥の指摘とそれに伴った修復工事について関連の許可申請
の問題も含めて調査しました。
16. 王立委員会の調査目的は以下の事項の解明にあります。
a.
CTVビルが完全倒壊した理由。
b.
CTVビルの倒壊が多数の死傷者を出す結果になった理由。
c.
CTVビルは完全倒壊し、他のビルは完全倒壊に至らなかった理由。
d.
設計時、建設時、改装時、又は維持時に関わらず、1986年にビルが設計建設された
当時及び2010年9月4日の時点もしくはそれ以前に、該当耐震基準及びその他業界
業務基準に準拠していたか。
e.
2010年9月4日以前にCTVビルの耐震補強不足は指摘されていたか、又はビルの
地震被害による危険性を緩和するための対策が採られていたか、そしてその場合、ビル
が満たしていた耐震基準。
f.
CTVビルの地震後査察及び2010年9月4日の地震と12月26日の余震後に実
施されたビルの修復工事の性質とその効果。
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g.
上記の事項から派生する又は関連する事項で王立委員会が調査すべきであるとみなさ
れる問題。
17. 王立委員会はまた、建築物全般の設計、建設、維持、及び耐震対策に関する業務基準の実際
を問う任務も担っています。CTVビルの調査目的にはこのような一般的事項は含まれてい
ませんが、CTVビル倒壊調査から得た知識が、より広範囲な領域の問題にも影響する限り、
これらの一般的事項の再検証も王立委員会の任務であります。
18. 重要な点は、王立委員会は責任の帰属を明らかにするための審理、審判、及びその報告を任
務とはしません。これは、多くの死傷者を出すに至ったCTVビル倒壊原因解明のための事
後査察、建築許可過程、施工不備等の調査とは別の審議となります。王立委員会は、責任帰
属の問題に対処することできません。
火災
19. 遺族の多くの方々が関心を寄せているのは、CTVビル倒壊直後に発生し、以後数日に渡っ
て続いた火災の発火源です。この点の調査はDBHの調査には含まれていません。
20. 王立委員会弁護士は、消防サービスにこの火災についての質問を以下の通りしました。
a.
消防サービスが火災源についての調査を実施したか。
b.
現在までに入手した情報に基づいて、火災源についての当局の見解がまとまっているか。
c.
CTVビルに潜在的な危険物質/物体が存在したという報告があったか。
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21. 消防サービスから以下のとおり各質問の回答がありました[BUI.MAD249.0418]。
a.
火災直後、消防サービスは捜索救助業務に専念していたため、火災源の調査は実施され
ませんでした。
b.
捜索救助活動中も、CTVビルの倒壊は継続して進んだため、火災がいつどのように発
生したかの有力な証拠収集は全くできませんでした。この作業の為には、静止した環境
を必要としたからです。
c.
火災源解明の複雑な性質から、ビデオ、写真、又は各証言書の参照からだけでは、有効
な結論的見解に至ることはできていません。
d.
倒壊現場から潜在的な危険物質/物体が発見されたという報告は受けていません。しか
し、クライストチャーチ市議会の記録から、ビルに9キログラムのガスシリンダーが存
在した事を確認しています。シリンダーから漏れたガスがビル倒壊の結果、点火した可
能性はあります。
22. 消防サービスからの回答は、王立委員会のウェブサイトにて参照できます。王立委員会は、
消防最高責任者兼臨時全国指揮官のマックギル氏に、公聴会での証言を要請してあります。
ニュージーランド基準の法的地位
23. CTVビルが設計された当時、二つのニュージーランド基準が該当した。これらの基準は、
NZS3101:1982:コンクリート構造設計の業務基準及びNZS4204:198
4:一般構造設計と設計荷重の業務基準でした。
24. ニュージーランド基準は基準審議会によって発令されます。審議会は1965年制定の基準
法に基づいて設立されました。ニュージーランド基準の法的地位は、各基準の法令または条
例への法制化によって決まります。クライストチャーチ市議会条例第105号(1986年)
は、上記二つの基準を部分的に法制化したものです。また、同条例の第二附則には、上記二
つの基準、仕様基準、業務基準、付属が掲載されています。同条例には、第二附則に掲載し
た基準は同条例に則るための指針であり、同条例の条項そのものではないと明記されていま
す[ENG.CCC.0044A.9]。
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25. 同条例第5条項には以下のように規定されている。
同条例遵守にあたっての指針
同条例の第二付則に掲載した仕様基準、その他基準、及び付属の遵守の証明は、相反する場
合の証明の不在とみなし、同条例遵守の十分な証拠としてみなす事とする。
同条例の第二附則に掲載した仕様基準、その他基準、及び付属は同条例の条項そのものでは
無いとする。
26. 同条例の第二附則に以下のように規定されている[ENG.CCC.0044A.11 and 12]。
第二附則は、同条例遵守のための指針となる基準、仕様基準、業務基準、及び付属を詳述し
た。同付則は同条例の条項そのものではないとする。
…
NZS4203:1984
一般構造設計と設計荷重業務基準
NZS3101…コンクリート構造設計―
第一部:1982 コンクリート構造設計の業務基準
第二部:1982 コンクリート構造設計解説
27. 同条例の第一附則は十二部からなり、部分的にCTVビルの設計に関連しています。
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28. 第 8.4.1 条項に以下のように規定されている[ENG.CCC.0044A.72]。
NZS3101及びその他同等の認定基準の条件に則って設計されたコンクリート部材は、
同条例に遵守しているとみなすとする。
29. 一般構造設計と設計荷重に関する第一附則第十一部第 11.1.5 条項では、以下のように規定さ
れている[ENG.CCC.0044A.86]。
一般構造設計(同条例の他の条項に規定される特別な建設部材に適したより詳細な設計と区
別)および設計荷重は、以下の条件を満たした上で認可するとする。
a.
建築物の存在期間中の全荷重は、安全許容範囲内に維持されるとする。
b.
建築物の変形は、許容限度を超えないとする。
c.
一般的な地震または激しい風等の稀に発生しうる事象に対して建築物構造破損のおそ
れがなく、その他の損傷も最小限に抑えられるとする。
d.
大規模な地震または強風等の極度に稀に発生しうる事象に対して建築物倒壊および修
復不可能な破損のおそれがなく、建物内または周辺から死傷者が出る可能性は最小限に
抑えられるとする。
30. 第 11.1.6 条項には、
NZS4203に則った一般構造設計および設計荷重は、
同条例第 11.1.5
条項の条件を満たしているとみなすと規定されている[ENG.CCC.0044A.86]。
31. 重要なのは、同条例第十一部が、先に言及したNZS3101とNZS4203の両方の基
準の特定の箇所又は条項に関連している点です[ENG.CCC.0044A.87]。特に重要な部分を以
下に挙げる。
a.
地震力に抵抗する建築主要部は、実現可能な限り建物の重心上に左右対称に配置すると
する:第 11.2.5.1 条項。
b.
建築物全体及び地震力又は地震動に抵抗する建築部位で、その破損が人命を危険にさら
す全ての建築部位は、靭性設計する事とする…。
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c.
靭的譲歩による地震力散消を目的とした構造体系は、「十分な靭性」を持たせて設計さ
れるとする。
d.
地震力に抵抗する為のすべての主要建築部位が、本条例の該当部材基準に詳述されてい
る靭性条件に則って詳細に設計された場合において、…「十分な靭性」とみなすとする:
第 11.2.5.2 条項。
32. 市議会条例第105号によって、クライストチャーチにおいて、NZS4203:1984
の靭性規定が法制化された事は重要な点であるといえるかもしれない。 この点については、
CTVビルの構造部位、特に柱の設計を重力抵抗のみの部位とする事が当時認可されていた
か否かについての鑑定人の見解を考慮した上で審議する必要がありますが、CTVビルの柱
が靭性設計されてはいなかった事に異論はないようであります。
33. DBHコンサルタント報告でハイランド博士は、CTVビルの設計はいくつかの点で該当法
規に準拠していなかったという見解を示しています。また、報告書共同執筆者であるアシュ
リースミス氏も博士とは異なる根拠ではありますが、同様にCTVビルの設計は法規に準拠
していなかったと提起しています。ハイランド博士、アシュリースミス氏両者とも、尐なく
ともビルの柱の何本かは靭性設計されるべきだったと確信しているようであります。
34. これは、クライストチャーチ市議会(以下市議会)の鑑定人である工学技術者のアーサーオ
ーレアリー氏の見解と一致しています。ビルのF線上(ビル東側)の柱と、柱と梁の連結部
は靭性設計されるべきであったし、床ダイヤフラムと北せん断核の連結は1991年の修復
工事で法規基準を満たすようになったが、建築許可が下りた当時及び竣工時ともに法規に準
拠していなかったという旨の証言がオーレアリー氏からある予定になっています。 この修
復工事については後にさらに詳しく触れていきます。
35. 王立委員会は、この法規準拠問題の調査のために、オークランド拠点の非常に経験豊かな構
造工学技術者ムライジェイコブス博士を鑑定人として確保しています。博士もまた、CTV
ビルの設計が複数の点で法規に準拠していなかったという証言をする予定になっています。
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36. ARCLの鑑定人のジョンマンダー教授は、これとは相反する見解を示しています。彼は、
証言書に、ビルは該当設計及び建築法規に準拠して設計されたと記しています。
37. そして、レアイ博士は、時の経過とともに、ビルの建築許可申請関連書類の信頼性が乏しく
なっており、ビルが市議会条例に準拠していたか否かを現在の時点で確定するのは不可能で
あるという旨の証言をする予定になっています。
CTVビルの歴史
38. CTVビルの建築設計は、クライストチャーチのアルンウィルキーアーキテクト社が請け負
いました。建築許可申請の際に提出された建築設計図の複写は確認されていますが、原本は
確認されていません。
39. CTVビルが設計建設された当時、アランレアイ博士は、「アランレアイコンサルティング
エンジニア」という名で自身の会社を営んでいました。CTVビルの構造設計はこの会社が
請け負う事になり、主に同社のデビッドハーディング氏が担当しましたが、レアイ博士もい
くぶん関与していました。レアイ博士のこの設計への関与の範囲については、博士とデビッ
ドハーディング氏の間で論争されることになると思われますが、ごく最近確認されたタイム
シートには、CTV資料をレアイ博士が利用した記録時間数は、3.5時間のみと記されて
います。
40. 1988年8月18日、アランレアイコンサルタント社は、アランレアイを唯一の代表取締
役及び株主として株式会社登録されました。レアイ博士は、現在、5人の取締役と株主の内
の一人です。この会社自体はCTVビルの元の設計には関与していませんが、1990年代
に実施された北せん断核と床ダイヤフラムの連結部の重要な修復工事には関与しています。
41. CTVビルの基本的な見取り図は、当時、ウィリアムズコンストラクション社の常務取締役
であったマイケルブルックス氏の初期スケッチに基づいて制作されたという証言がある事
になっています[BUI.MAD249.0189.316]。ウィリアムズコンストラクション社はCTVビル
の施工会社でした。
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42. CTVビルが建設された249マドラス通りの土地は、1980年代の不動産開発業者で、
同時期のニュージーランド中の多数の開発業者と同様に最終的には管財人の管理下に置か
れる事になったプライムウェスト社が所有していた空き地であったという主旨の証言がブ
ルックス氏からある事になっています。ブルックス氏はプライムウェスト社のネイルブレア
氏とのつながりがありました。ブルックス氏はブレア氏に249マドラス通りでのビル建築
を提案し、議論の結果、1986年初期には正式にプライムウェストからブルック氏にオフ
ィスビルの設計・建築企画案の依頼がありました。プライムウェストの関心を引くため、ブ
ルック氏は北せん断核をビルの4面の壁の外に配置した間取り図をスケッチし、この初期の
スケッチが最終的には構造設計案まで反映されるに至りました。このせん断核の配置は賃借
スペースを最大限に広げる事を目的としていたと思われます。ブルックス氏は、建築費とビ
ル価格の算出も行った上で、ネイルブレア氏に建築企画案を提出しています。
43. プライムウェストから、アルンウィルキーアーキテクト社に建築設計、アランレアイ氏の会
社に構造設計の依頼があったのはその後の事でした。CTVビルの建築は初期の段階から、
開発業者主導の事業企画でした。
44. ウィルキー氏は、ブルックス氏の事を記憶してはいるが彼からのCTVビル建築に関する概
要説明の正確な内容は記憶していないと証言しています。ウィルキー氏は現在海外に居り、
彼の証言は論争が予想される内容ではないので、証言書の提出のみとなっています。
45. デビッドハーディング氏はレアイ博士の会社の技術者として雇用されていました。同社にC
TVビルの構造設計の依頼があった時、ハーディング氏はその構造計算を任されました。ハ
ーディング氏とレアイ博士の間で、この設計過程の関与の範囲を廻って論争が予想されてい
る。 レアイ博士は、CTVビルの設計には全く関与しておらず、ハーディング氏が構造図
面、計算書、及び仕様書を制作し、市議会対応そして建設中の現場視察も行ったと証言する
予定になっています。ハーディング氏はこの証言に反論する予定になっており、レアイ博士
は、初期の仮計算書および仮基本構想を制作し、仮建築図面の修正を手配し、ビルの重要な
構造特徴の検討に関与し、図面草稿制作過程の監督もしたと証言する予定です。しかしなが
ら、構造計算は、ハーディング氏が主要担当者として実施した事に両者の間に異論はないよ
うです。
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46. ハーディング氏は最初に、1978年から1980年5月までアランレアイの会社で雇用さ
れており、この間は高層建築物の設計には全く関与していませんでした。以後、ワイマイリ
地方議会に就職し主に土木技術士として働きました。その後、CTVビルの構造設計の依頼
がアランレアイの会社にある尐し前の1985年8月に同社での再雇用が決まりました。
47. ハーディング氏は、同社での再雇用が決まった時、そしてCTVビルの構造計算を始めたそ
の日の時点での高層建築物設計経験は浅くしかもETABSと呼ばれるプログラムを使っ
た高層ビル設計の経験は全くなかったと証言しています[BUI.MAD249.0286A.RED]。ET
ABSは建築物体系の三次元解析(Three-Dimensional Analysis of Building Systems)を
意味する頭字語です。NZS4203:1984第 3.4.7.1 条項(c)に、4階以上の高さ
で「不規則な(異例の)」構造をもつ建築物設計では、水平のねじれ現象を確認するために
三次元解析を行うよう規定している[ENG.STA.0018.53]。ハーディング氏はこの事をアラン
レアイ氏に伝えたと証言する予定です。
48. 第 3.4.7.1 項の(b)か(c)のどちらがCTVビルの場合に該当するか、またETABS
の使用はNZS4203:1984基準によって強制されていたのか、単に推奨されていた
のかについては、対立する証言が出る事が予想されますが、どの見解もCTVビルが「規則
的(標準格)
」であったとみなされるか否かに帰すると考えられます。そして審議の結果に
関わらず、ETABS分析は実際に実施されました。
49. 高層建築物設計業績をつむ事そしてETABS分析を習得する事はハーディング氏の希望
で、アランレアイの会社でその機会が提供されるようになった事は再雇用契約を決めるにあ
たって考慮に入れた条件の内の一つであったと、ハーディング氏は証言する予定です。 ハ
ーディング氏の再雇用の時の事情は、レアイ博士の見解とある程度の不一致があるようです
が、全体的な成り行きは同意にいたると予想されます。
50. CTVビルの建築設計は、実際はより高く全体の大きさも異なっていたが、299ダーラム
通りのコンツアーズのビルを基本にしていたようである[BUI.MAD249.0269A.1]。 CTV
ビルの構造計算書作成及びETABS分析のために、過去にアランレアイの会社で設計を請
け負ったランズボロウハウスの計算書が、方式ひな形として利用された事に異論はないよう
です[BUI.MAD249.0269.1]。
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51. ランズボロウハウスは、ハーディング氏の再雇用が決定する以前に、アランレアイの会社で
設計したビルでした。このビルの構造計算は、ホルムズコンサルティンググループ(HCG)
からレアイの会社に移転したジョンヘンリー氏によって行われました。彼は、HCGで高層
せん断核建造物の設計およびETABS分析の相当な業績をつんでいました。
52. ハーティング氏は、計算書の作成およびETABS分析のために、そのランズボロウハウス
の計算書及びコンピュータ入力データと出力ファイルを方式ひな形として利用しました。こ
れはレアイ博士の指示によっての事であったのか、彼自身が率先して取った行動であったの
かを公聴会の過程で明確にする必要があります。ハーディング氏は、リアイ博士がその計算
書とコンピューターデータを彼に渡し、CTVビルのコンピュータモデリング(三次元分析)
の方式ひな型として使うよう指示したと証言する予定になっています。
53. ハーディング氏が遂行していたこの業務をレアイ博士がどれだけ監督したかについては、両
者の間に明確な意見の相違がみられることになるでしょう。ハーディング氏は、質問があれ
ばレアイ博士に相談する事、また設計の進行状況を常に博士に連絡するよう指示されていた
と証言する予定です。一方、レアイ博士は、この業務はハーディング氏に託した仕事であっ
たとみなしているようです。
54. もしレアイ博士の証言が事実として認められた場合、適切な代表者又は主任による職員の業
務監督範囲の問題が浮上し、これは王立委員会が審議すべき事項であると考えられます。
55. ランズボロウハウスの計算書及びコンピュータ入力データと出力ファイルはCTVビルの
設計の基本となったという点で重要であるため、ジョンヘンリー氏から、ランズボロウハウ
スの設計について証言を聞く予定になっています。ランズボロウハウスとCTVビルの構造
設計で最も重要で明白な違いは、ビルの主要部であるせん断核の配置でした。CTVビルの
場合はせん断核はビルの囲い(外面)の外側に配置されており、これはブルックス氏が最初
にスケッチした間取り図と一致しています。この配置がCTVビルの倒壊過程で生じたねじ
れ反応とどのように関係しているかの証言もある予定になっています。
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56. ハーディング氏に渡された建築図面と基本構想では、北せん断核のみが地震荷重への抵抗部
位となっていた。しかしながら、最初のETABS分析でビルの中間階の偏差が過剰である
事がわかり、そのために南並列せん断壁と現在呼ばれている部位が追加される事になった
[BUI.MAD249.0284.11]。これは横の地震力影響下でのビルのねじれ回転反応を緩和する事
を目的としていました[BUI.MAD249.0189.46]。
57. ハーディング氏は、この壁の寸法はアランレアイ、アルンウィルキ―、そして土地所有者(建
築依頼者)によって決定されたと考えており、これに相違する意見が出るかどうかは明確で
はありません。いずれにせよ、ハーディング氏は、南並列壁を加えて再度ETABS分析を
行ったところビル中間階の偏差値は法規基準値を満たしていたと証言しています。
58. ハーディング氏がビルの偏差を正確に算出したか否かは、王立委員会が審議すべき重要な問
題です。ジョンヘンリー氏は、ハーディング氏が行ったCTVビルの構造計算を慎重に検証
し、彼自身が行ったランズボロウハウスの計算の再把握をした上で、ハーディング氏はビル
の偏差を正確に算出できていなかったという証言をする事になっています。特に、ヘンリー
氏は、ハーディング氏がビルの重心での偏差の計算だけをしたようで(当時のETABS分
析の計算法通り)
、一般的にビルの偏差が重心よりも著しいと推定されるビルの角の偏差を
確認するための手計算を怠ったと証言する事になっています[NZS 4203:1984, Commentary
[ENG.STA.0018.53]。ハーディング氏はこの証言を認める予定になっています。そしてその
理由を、ETABS以外に必要であった計算は、アランレアイ氏から渡されたランズボロウ
ハウスの諸書類には確認されなかったからであるとしています。
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59. ここで、尐なくとも、市議会条例105の法的効力の一解釈及び先に言及した二つのニュー
ジーランド基準が該当すると言えますが、せん断壁だけを靭性設計する構造設計が認可され
たか否かは、各建築物の設計偏差容量の程度に拠ると考えられます。
60. 1986年の該当法規の基で、建築部位の靭性設計がいつから義務付けられるようになった
のかについて構造技術者の間で相当な意見の相違がみられるのは、業界関係者でない者にと
って驚くべき事でしょう。王立委員会は多数の鑑定人からこの点についての見解を聞く予定
になっています。構造技術者ではない者にとって、1986年に尐なくとも存在した法規定
が、複雑な高層建築物の設計に関与するこのような根本的基準おいて、共通の理解を生まな
かったとは意外であるとしか言いようがないでしょう。
61. あ る 見 方 に よ っ て は 解 釈 は 明 確 で あ る と 思 わ れ る 。 N Z S 4 2 0 3 : 1 9 8 4
[ENG.STA.0018.38]に、以下のように規定されている。
3.2.1 建築物全体及び地震力又は地震動に抵抗する建築部位で、その破損が人命を危険にさ
らす全ての建築部位は、靭性設計されるとする…
62. この基準条項は市議会条例第105で法制化されている。
63. この条項は、靭性の具体的な程度を明確に規定しているわけではないが、議論の出発点とし
ては明瞭な定義である。しかしながら、もしこの規定が法的効力をもつ規定として見られて
いない場合、基準を参照する者は1984年の基準とNZS3101:1982のコンクリ
ート構造設計基準の間を行ったり来たりする迷路に迷い込むことになる。後者の第 3.5.1.1
条では、靭性構造と制限付きの靭性構造の規定があり、二次的な構造部位はグループ1とグ
ループ2に分類し、グループごとに異なった靭性が規定されている。
64. 弁護士は、1982年基準の靭性規定の条項は一見して目的明瞭な1984年基準の第 3.2
条項に包括されているとみなす傾向にあるかもしれない。第 3.2 条項は建築物一般構造設計
と設計荷重の業務基準の条項とされている。王立委員会はこの見方を支持する証言を鑑定人
から聞くことになりますが、一方でこれに相反する見解も提起されています。この点の審議
の潜在的な重要性は、もしNZS4203:1984の 3.2.1 項が法的効力を有したならば、
CTVビルの柱の破損は明らかに人命を危険にさらす事になり、従ってビルの柱は靭性設計
されるよう義務付けられていた事になるが、実際には柱は靭性設計されていなかったという
事にあります。そしてこの靭性設計の規定が必然的にビルの柱の拘束力の程度を規定する事
になるのも注目すべき点です。
14
TRANS.20120625.OS.15
建築許可
65. クライストチャーチ市議会はクライストチャーチの建築許可を交付する規制当局です。王立
委員会の調査の一環として、市議会は、当局が保有する全てのCTVビル関連ファイルの複
写を提出する義務があります。しかしながら、CTVビル関連の市議会の記録は完全ではな
いことは明らかで、その例として、ARCLから提出された構造図面は市議会が保管してい
た構造図面の内容と完全には一致していません。
66. 市議会にその理由の証言を要請しました。市議会の資源利用認可/建築政策部の部長のステ
ファンマッカーシーが、市議会のファイル管理体系には長年に渡って問題があった事、また
ファイル管理施設が9月の地震で受けた被害についても証言をする事になっています。
67. C T V ビ ル の 建 築 許 可 申 請 書 は 1 9 8 6 年 7 月 1 7 日 付 け に な っ て い ま す
[BUI.MAD249.0141.8]。構造図面の日付は1986年8月で、デビッドハーディングによっ
て署名されています[BUI.MAD249.0284.1 and .3]。クライストチャーチ市議会ファイルによ
ると、市議会は1986年8月26日に構造図面を受領していることが伺えます。
68. マッカーシー氏によると、建築許可申請はレオオーラウリン氏によって受信及び処理された
事になっています。オーラウリン氏の職務は主に建築許可審査の調整でした。彼も後に証言
する事になっています。
69. しかしながら、オーラウリン氏は建築許可申請の審査もしくは許可の交付是非を判断する立
場の職員ではありませんでした。この役目を担った市議会員は建築技術長ブライアンブラッ
クでした。補佐建築技術者のグラームタッパーが市議会序列ではブラック氏の直属の部下で
した。彼がCTVビルの建築許可申請に対応しました。
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TRANS.20120625.OS.16
70. 1986年8月27日に建築許可申請と構造図面を受領してから、タッパー氏は建築企画案
に確認された問題点を挙げた長いリストを作成しています[BUI.MAD249.0141.14-15]。リス
トの中には図面S15とS16への懸念も含まれていました。両図面には床ダイヤフラムと
北せん断核の連結部の設計が見てとれます。CTVビル倒壊解明においてこの連結が重要な
点になる可能性が高い中、すでに許可申請時点で床ダイヤフラムの連結が懸念材料として挙
がっていた事は憂慮すべき問題です。タッパー氏はハイボンド体系床の使用にあたっての火
災防止率といった部分的な問題を指摘する一方で、床ダイヤフラムの連結といった構造全体
の統合性にも問題があるとみなしていたようです。タッパー氏はまた、提出書類に詳細さが
欠けている事やまだ提出されていない必要書類がある事も指摘しています。
71. 1986年9月5日付でアランレアイの会社からタッパー氏へ出された書類変更届けから
[BUI.MAD249.0141.1]、8月27日付けのタッパー氏の通知に対応して、追加書類が市議会
へ提出された事が伺えます。書類変更届けはデビッドハーディング氏の名前で提出されてい
ます。
72. しかしながら、市議会とARCLから入手したどの書類にも、タッパー氏が提起した懸念事
項の対応がなされたという証拠はなく、書類変更届けに言及されている書類も確認されてい
ません。ですが、1986年9月10日にビルの構造図面の認可が下り、グラームタッパー
が承認の署名をしています[BUI.MAD249.0141.8]。
73. その後、建築許可が1986年9月30日に交付されました[BUI.MAD249.0141.6]。
74. タッパー氏、ブラック氏共に死去しています。しかしながら、市議会の元職員のピーターニ
コール氏から、CTVビルについてブラック氏と持った会談の内容、そしてビル建設中に交
付された許可証についての証言がある事になっています。タッパー氏の未亡人のパトリシア
タッパー婦人(パット)からは、タッパー氏がCTVビルの構造の統合性について常に懸念
していたという証言を聞くことになっています。
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TRANS.20120625.OS.17
75. これらは伝聞証拠ではありますが、証拠力のある証言であり、グラ―ムタッパー氏がCTV
ビルの数点の問題を挙げて通知した日から、建築許可が交付されるまでの間に起こったこと
の理解を得るのに有益であるといえます。ジョンヘンリー氏の証言には、ブラック氏とタッ
パー氏の仕事上の人間関係についての証言も含まれており、それは、ニコール氏とタッパー
婦人の証言の信頼性を高めています。
76. CTVビルの設計が当時の市議会条例及びその他基準に準拠していたか否かについての市
議会の見解を示すよう要請しました。マッカーシー氏が、建築許可が市議会の担当者によっ
て署名されているという事は、市議会は当時CTVビルの建築企画案は基準を満たしている
と判断したという事になるという証言をする事になっています。
77. 先に触れましたが、市議会の鑑定人のアーサーオーレアリー氏は、F線の柱を含む設計の数
箇所が法規に準拠していなかったという見解を示しています。
ウィリアムズコンストラクション社
78. 王立委員会はウィリアムズコンストラクション社の元社員の3人から証言を聞くことにな
っています。元専務取締役のマイケルブルックス氏、元品質管理担当者トニースコット氏、
そして現場監督であったビルジョーンズ氏です。ジェラルドシャートクリフ氏への証言要請
もしました。しかしながら、シャークリフ氏は現在オーストラリアに居り、最終的にEメー
ルでの通信は確立できたものの、彼は居場所を明らかにする事は否定しました。彼はウィリ
アムズコンストラクションの建築管理者でした。従って、ビルが、確実に、認可された図面、
計算書に応じ、構造技術者、建築士、及び市議会からの指示を順守した上で建設された事を
保証する施工会社としての最終責任を担っていた人物だったということになります。
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79. 王立委員会はシャートクリフ氏に、DBHコンサルタント報告書によって重大な構造欠陥が
指摘されており、その欠陥のいくつかがCTVビルの倒壊に関与した可能性がある事、そし
て彼は関係当事者であり、公聴会または王立委員会CTVビル倒壊調査報告書で相反する見
解の対象になる可能性がある事の正式な通知をしています。王立委員会はビデオリンクでの
公聴会証言の機会も提供しました。彼はビデオリンクに応じていませんが、数日前、DBH
コンサルタント報告書を参照したいという依頼がありました。
80. ウィリアムズコンストラクションのマイケルブルックス氏が最初の間取りスケッチを描い
た当人であったという事すでに言及しました。施工工事もまた、尐なくとも最初の段階では
ウィリアムズコンストラクションによって進められました。
81. 王立委員会が入手した書類にある現場工事に関わる最初の日付は、最初のコンクリート注入
の日です。1986年10月13日でした[BUI.MAD249.0324.58]。基礎工事の市議会員の
視察日も同じ日になっています。構造用鋼鉄および金属加工物のすべての供給を依頼されて
いたクライストチャーチスティールとウィリアムズコンストラクションの契約日は198
6年11月3日で、最初の職人及び物資の供給日は1986年12月5日となっています
[BUI.MAD249.0338.6]。
82. 市議会条例105号の第 2.15.2 条項は、土地所有者、建築事業雇用者、及び建築業者がビル
施工開始および遂行において、市議会条例の該当条項が完全に準拠されている事を確認する
事を規定している。しかし同条例では、基礎掘削工事の視察以外は、特にその他の必須視察
を規定してはいない。視察の内容および頻度は市議会の工学技術者および視察官の裁量にゆ
だねられていたようである。
83. 市議会の視察官は、ビル施工中の視察において、現場監督あるいは事業主任の役目を担う立
場のものでないという見解を市議会は示しています。
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84. 実際に市議会の基礎工事があったのは1986年12月11日で[BUI.MAD249.0117B.1]、
続いてビル1階の視察が1987年2月にあり、「良し」とだけ記されたかなり簡潔な視察
記録が残っています[BUI.MAD249.0117B.1]。
85. 次の市議会の視察は1987年3月8日にあり、「せん断壁、良し、ガントリー設置完了」
と視察記録にあります[BUI.MAD249.0117B.1]。
86. 1987年3月中旪にせん断壁施工の市議会の視察があってまもなく、マイケルブルックス、
トニースコット、そしてジェラルドシャートクリフは、ユニオンコンストラクション社とい
う新会社組織を結成しました[BUI.MAD249.0238]。起業後、3者はウィリアムズコンスト
ラクションから退社しています[BUI.MAD249.0404.31]。
87. この時点から1987年9月までの間、ウィリアムズコンストラクションがCTVビルの施
工に関与したか否か、またその関与の詳細は明確ではありません。1986年末に同社を買
収していたスマートグループ社が、ブルックス氏、スコット氏、及びシャートクリフ氏に対
して差し止め命令の訴訟手続きをとっていました。ウィリアムズコンストラクションからユ
ニオンコンストラクションへの正式なCTVビル建築の譲渡契約が交わされた9月頃にこ
の訴訟手続きは解消したようである。
88. 訴訟騒ぎ及び施工会社の変更が、ビル施工工事の進行に何らかの混乱を招いたであろう事は
明らかでしょう。この契約譲渡が成立した時点で、施工工事はどの段階まで進んでいたのか、
そしてこの混乱がDBHコンサルタント報告で指摘されている施工不備に関与しているの
かを公聴会の過程で審議していく必要があります。
89. 次 の 市 議 会 の 視 察 の 記 録 は 1 9 8 7 年 3 月 3 1 日 付 け に な っ て い ま す
[BUI.MAD249.0117B.1]。以後、1987年8月20日の視察までほぼ5カ月の間隔があき
ました。この8月の視察記録には、「ジブ修正、違うカードを残した、新しい現場監督」と
記されています[BUI.MAD249.0117B.1]。
90. この数カ月に渡る空白の間に、ブライアンブラック氏からウィリアムズコンストラクション
社へ通知があり、その内容はビルの竣工が近い事の知らせを含んでいた。この通知にはまた
「最近の視察」と記されている。この記述が何を意味しているのかは明確ではありません
[BUI.MAD249.0152.2]。この通知の後、ARCLのデビッドハーディンングからもウィリア
ムズコンストラクション社に通知が出されています[BUI.MAD249.0152.3]。
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91. 8月の視察後、4回だけ視察があった事が記録からわかります。これらの視察の日は、19
8 7 年 1 0 月 9 日 [BUI.MAD249.0117B.1] 、 1 9 8 7 年 1 0 月 1 6 日
[BUI.MAD249.0117B.1]、1988年1月11日[BUI.MAD249.0117B.1]、そして1988
年2月22日[BUI.MAD249.0117B.1]でした。
92. レオオーラウリン氏は、視察の内容がCTVビル規模の建物には「軽すぎる」と証言書に記
しています。
93. CTVビルの建築許可に付随していた条件2は、構造設計担当の技術者が、ビルにテナント
が入る前に、ビルが設計案に順守して建築されている事を承認する証明書を提出するよう要
請しています[BUI.MAD249.0141.10]。マッカーシー氏によると、このような条件が許可証
に付随するのは当時一般的な事であったようである。アランレアイの会社が証明書を提出し
たという記録は市議会のファイルにはありません。
94. このような証明書又は竣工日を記したその他の書類は欠乏していますが、ビルの竣工は19
88年初期であったと推定されます。これは市議会の1988年2月22日の視察記録に、
柱のひさし準備完了と記されている事から確認できます。このひさしはCTVビルの写真に
写っているひさしであると思われます。
プライムウェストコーポレーション管財人の管理下に入る(破産手続き)
95. プライムウェストコーポレーションが管財人の管理下に入って間もなくの1988年9月
に、プライムウェスト社債権者はKPMGのピートマーウィックに管財業務を依頼しました。
1989年1月12日、KPMGはCTVビルを投資物件として売りに出し、物件価値は四
百十五万ドルでしたがそれ相応の額であれば交渉可となっていました
[BUI.MAD249.0208D]。この時ビルにテナントは入っておらず空きビルになっていました。
96. ビルが市場に出てから一年以上ビルは空きビルのままでした。1990年1月24日、ホル
ムズコンサルティンググループ(以下HCG)は、ブドルフィンドライ社とシュルズナイト
コンサルタント社から249マドラス通りのビル(CTVビル)の構造調査の依頼を受けま
した。この依頼はCTVビルの潜在的買主であったカンタベリー地方議会からの委託による
ものでした。カンタベリー地方議会はCTVビルの買収を検討していました。
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TRANS.20120625.OS.21
97. HCGはまず初期評価報告書を出しました。日付は 25/9/90 と記されています。ジョンハレ
氏が、実際の日付は1990年1月25日であったと証言する事になっています。これには
耐震分析の概要が報告されており、特に該当するのは以下の部分です。
「ラインD(エレベーターシャフト―吹き抜け階段部)北/南―鋼鉄強化部が全くない―も
しくはほとんどない、
ラインD/E(東エレベーターシャフト)北/南―鋼鉄強化部なし?
せん断核全体が、若干疑わしい」。
98. 1990年1月26日、グラントウィルキンソン氏の監督下で調査を進めていたHCGのジ
ョンハレ氏が、ARCLの事務所で、CTVの全ての設計、土壌調査結果、図面及びその他
関連書類を点検しました。ハレ氏のARCL担当者との会議のメモに、元の設計担当者であ
ったデビッドハーディングがすでに退社していたので、かわりにジェフバンクス氏と会議を
持った事が回想されています[BUI.MAD249.0018.12; BUI.MAD249.0081.24-27]。
99. 1990年1月31日、シュルツナイトコンサルタント社は、HCGのジョンハレから報告
書の草稿を受け取った[BUI.MAD249.0081.7]。報告書には、ラインDとD/E、床ダイヤフ
ラム/北せん断核の連結に深刻な問題があることが指摘されており、「ビルの関係図面及び
書類によると、現行の設計法規に準拠していない決定的な部分は床とせん断壁の一部の連結
にある」とも記されていました[BUI.MAD249.0081.11]。報告書の 6.3 項ではまた、地震が
発生した場合、ビルがせん断核から脱離する可能性がある事も 指摘されていました
[BUI.MAD249.0081.14]。
100. この報告書の一環として、HCGは確認されたビルの欠陥の修復工事の設計スケッチを作成
し[BUI.MAD249.0081.19-22]、1990年2月1日には、修復工事のさらに詳細な提案計画
諸を提出した[BUI.MAD249.0081.18]。提案事項には各階へのニ部ずつの山形鋼の設置が含
まれていた。同日に、HCGのグラントウィルキンソンはカンタベリー地方議会とその他の
潜在的ビル買主、そしてHCGの間の仲介の立場にあったウォレン&マホニー社に、修復工
事の見積もりを約$14,000.00+GST として通知しています[BUI.MAD249.0081.17]。
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TRANS.20120625.OS.22
101. 1990年2月1日、KPMGはHCGの報告書の内容の知らせを受けた。KPMGのこの
日の記録に「1990年1月に出されたホルムズコンサルティンググループ社の報告書に指
摘があるように現行法規に準拠していない疑い有り」と記されている。これは、CTVビル
の管財人であったKPMGのPWヤングの記録である。ヤング氏は、構造床とせん断壁の一
部の鋼鉄連結部材の調査をしているが、鋼鉄部材は設置されていなかったという推定の基で
修復工事に踏み切る方向で同意したという通知が、アランレアイとジェフバンクスス氏から
あった事にも触れている。また、HCGの修復工事提案にどこまで応じるか、またARLC
の既存の権利を妨げる事は無いという条件の基で修復工事の全技術設計と工事完了までの
監督をすべて同社の負担で実施するというアランレアイの申し出にどこまで同意するか、そ
して最終的に誰が工事費用を負担するかの問題についても記録されている。 さらにヤング
氏は、修復工事がHCGの承認を確実に得た上で実施されるようアランレアイに通知してい
る。そうでなければ、HCGはビルが現行法規に完全に準拠しているとカンタベリー地方議
会に報告できないからであった。また、この通知の最後には、カンタベリー地方議会のビル
買収を脅かす事態になりかねない工事の遅滞は避けるよう促す文面があります。
102. この後、ARCLは同社保険仲介業者のアダム&アダム社の保険金手続き部のアレキサンダ
ーステンハウス氏及びジェフバンクスの仲介業者のインデムニティー&ジェネラルに、保険
金請求申請をする可能性がある通知をしています
[BUI.MAD249.0129.2-3;
BUI.MAD249.0129.23; BUI.MAD249.0129.32-34];[BUI.MAD249.0129.29] (請求書の通
知)
。
103. KPMGの会議記録にある日付の日あたりに、カンタベリー地方議会はビル買収交渉を中断
する決断をし、HCGは、CTVビル関連の業務をこれ以上進めないよう地方議会より指示
を受けたと述べています。
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TRANS.20120625.OS.23
104. 1990年2月2日に、バンクス氏はARCLの修復工事の提案書をHCGのウィルキンソ
ン氏に通知している[BUI.MAD249.0081.2-3]。バンクス氏とアランレアイ氏は、設計工事内
容を提起した提案書の最後に、「もし先方のビル状況把握が私たちが提案する計画にそぐわ
ない場合、弊社の事務所に本日中にご連絡ください」と要請しています。
105. この通知に対するウィルキンソン氏からの返答の記録はないが、この両者間のやり取りが、
現在、HCGとARCLの間で大きな論争を呼ぶことになっています。ここで最終的に修復
工事に使われた設計案の責任者は誰なのか、ARCLが遂行した修復工事はHCGが意図し
ていた工事内容に合致していたのかを明らかにしなければなりません。王立委員会は、AR
CLのジェフバンクス氏、アランレアイ博士、そしてHCGのジョンハレ氏、グラントウィ
ルキンソン氏からこの点に関する証言を聞くことになっています。
106. この点の解明が重要であると言えるのは、ARCLが最終的には、4階、5階、そして6階
にのみ鋼鉄引き棒を設置し、DBHコンサルタント報告書で2階と3階に引き棒が設置され
ていなかった事がビル倒壊過程に関与している可能性を指摘しているからです。この指摘に
は、ARCLの鑑定人のジョンマンダー教授を含む数人の鑑定人が同意している所であるよ
うです。
107. カンタベリー地方議会とのビル買収交渉が挫折した後、CTVビルに指摘されていた構造上
の欠陥の修復工事はすぐには実施されませんでした。しかしながら、ほぼ一年後の1990
年末に、マドラスイクイティー社がビルに関心を持ち、1990年12月21日にビルを買
収しました。ビルはこの売買が決定するまで空きビルになっていました。
108. マドラスイクイティー社は、ビルの売買契約が成立した時点でHCGが指摘していた深刻な
構造問題の知識は無く、KPMGからもARCLからもこの事実を知らせられる事はなかっ
たという証言をする事になっています。
109. 売買成立後まもなく、ビル賃貸借無条件契約がANZバンキンググループと成立しました。
これは1990年12月21日付けの文書に確認できます。
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110. 王立委員会が入手している証拠書類から、後にARCLがビルの売買成立を知り、同社の立
場について懸念し始めていた事は明白です。1991年2月4日のジェフバンクス氏のCE
AS(コンサルティングエンジニアアドバンスメント協会を指していると思われる)のピー
タースミスとの会談の記録からそれが示唆されます。バンクス氏はスミス氏に保険金請求の
際の協会からの会員援助について尋ねています[BUI.MAD249.0227.6]。
111. 協 会 が 弁 護 士 相 談 料 を 負 担 す る 承 認 を 得 た 後 ( 1 9 9 1 年 2 月 7 日 の 通 知 )
[BUI.MAD249.0129.37]、1991年9月11日に、ARCLはマドラスイクイティーにビ
ルに問題がある事を通知しました[BUI.MAD249.0129.50-51]。その時にはすでに、ANZバ
ンキングコーポレーションの入居に備えての内装作業が始まっており、その賃借契約は19
91年11月1からとなっていました。
112. 1991年9月11日の文書には、マドラスイクイティーがARCLのジェフバンクスから
知らされたビルの問題が記されている。王立委員会弁護士は、ARCL,CEAS、またイ
ボットソン氏に審問しましたがこの文書の複写は確認されていません。文書には「構造設計
の欠陥または手落ちのため、一般的な耐震条件を満たすに不十分な荷重容量」と記されてお
り、またマドラスイクイティーはこの事実をKPMGから聞いていないとも記されている。
そして、全く問題が無い可能性もありARCLがさらに調査を実施し問題の有無を確認する
といった旨のARCLからの通知があったことにも触れている。また、修復工事の費用の負
担先がまだ解決していない事も記録されています。
113. 最終的に修復工事にかかった費用は$4,633.50+GST[BUI.MAD249.0129.49]で、HCGが
見積った額の$14,000 より相当低い額になっている。さらに、ARCLは同社の既存権利を
何ら妨げる事が無い事を条件としてこの工事を遂行する事を随時マドラスイクイティーに
念を押していました。
114. 1991年10月24日までには、ARCLとマドラスイクイティーの間で話合いがついた
ようで、これは3通の文書から確認することができます[BUI.MAD249.0129.53-55]。最終的
には修復工事費はマドラスイクイティーが負担する事になりました
[WIT.IBBOTSON.0001.10]。
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TRANS.20120625.OS.25
115. 王立委員会弁護士が確保している鑑定人のアンドリューディクソン氏から、修復工事でビル
に設置された鋼鉄引き棒の強度についての証言がある事になっています。アンドリューディ
クソン氏は、実際の引き棒の強度はDBHコンサルタントのコンピュータ分析に使われた数
値より相当低かったと指摘しています。これは床ダイヤフラムの北せん断核からの離脱の原
因と関連している可能性があります。
116. この修復工事の建築許可は交付されていません。クライストチャーチ市議会は建築許可は必
要であったという見解を示しています。一方、許可は必要ではなかったし市議会は元々許可
した建築の一環として修復工事を許可したであろうというのがARCLの見解です。ジョン
ハレ氏もまた、建築許可は必要であったと証言する予定になっています。
117. この修復工事の許可申請もその認可もなかったために、後に市議会のファイルに保管された
ビルの構造図面を参照した人物は皆、引き棒が設置された事実を知る事はなく、問題になっ
ているビルの連結部は建築許可が交付された時のままの状態であると理解したという事に
なります。
118. 1997年に、オ―プス社がビルの賃借を検討していた当時の経緯にそれが確認できます。
同社の上級技術者のムライミッチェル氏が、ビルの構造図面の精密な机上査定を行ったとこ
ろ、1990年1月にHCGが摘出した同じ問題がすぐに発見された。その結果オープス社
は賃借契約を見送る事になっています。王立委員会はミッチェル氏からこの点についての証
言を聞くことになっています。彼の証言で特に注目すべきは、構造図面を査定した時、どれ
だけ早くすでに指摘されていたビルの欠陥に気付いたかという事です。同様の内容の証言が
ハレ氏からもある事になっています。
119. 床ダイヤフラムと北せん断核の連結が法規条件を満たしていた否かについて大きな意見の
相違があるかどうかは明らかではありません。王立委員会弁護士の審問で、ジェフバンクス
氏は、ビルは1990年の該当法規に準拠していなかった事に同意しています。ビルの建築
許可が交付された1986年と1990年の間に該当法規条項の更新はなかったので、バン
クス氏は、ビルは1986年の法規にも準拠していなかった事にも同意しているようです。
一方、ハーディング氏はこれとは異なった見解を提起しています。ですが、王立委員会が聞
くことになっている証言の大半は、ビルの主要な耐震部位であるべきであったこの床ダイヤ
フラムと北せん断核の連結の設計に批判的であります。
25
TRANS.20120625.OS.26
ビル用途変更
120. CTVビルが設計された当時の構造設計及び設計荷重の業務基準は1992年と2004
年に更新されています。新しい基準には大規模な地震による建築物倒壊の危険性を最小限に
抑える事を意図した条項が含まれています。
121. 基準更新の以前に設計及び建築された建物に新しい基準を満たすための強化工事を実施す
る法的義務はありませんでした。しかしながら、ビル所有者が建物用途の変更を希望する場
合は実現可能な限り新しい基準に準拠させる事が義務付けられていました。
122. 数年に渡り、CTVビルには多数のテナントの入れ替わりがあったため、王立委員会弁護士
は、市議会にこれらのテナントの変更がビルの用途変更に相当したか否かの質問をしました。
123. 2000年にカンタベリーテレビジョン(CTV)の入居のための内装工事の建築許可が交
付されているが、これはビルの用途変更とはみなされていませんでした。
124. 2001年のゴーイングプレースの入居のための工事の際にも建築許可が申請されていま
す。許可証には、
「語学学校内装」とい記されている。また申請書には用途変更の申告があ
り、市議会がこれに同意している記録もあります[BUI.MAD249.0151C.37]。
「妥当な質の近
代建築物1986」
、
「枠、南壁/ビル-良し」といった申請審査に関わると思われる記録が
残っている。この記録から、市議会は用途変更に伴うビル全体の構造改善の必要はないと判
断した可能性が高いで言えるでしょう。
26
TRANS.20120625.OS.27
125. レアイ博士は、この用途変更に伴った工事によって左右の設計荷重係数が上昇し、耐震及び
重力荷重容量に大きな影響を及ぼす事になったという証言をする事になっています。
126. 市議会はキングスエデュケーションの賃借の通知は受けておらず、同社の入居がビルの用途
変更に相当したかどうかの審査は行われていないと証言しています。
127. 同様に、市議会は2011年のザ・クリニックの賃借の通知も受けていませんでした。市議
会は、この賃借がビルの用途変更に相当したか否かを審査した法的報告書を提出する予定に
なっています。
128. 王立委員会は、市議会が、2010年9月4日の時点でCTVビルは潜在的に地震による倒
壊の危険性の高いビルであったと認識していたか否という質問をしました。市議会は、CT
Vビルは地震による倒壊の危険性の高い建築物だとは認識されていなかったという見解を
示しています。これは基準規定がNBS率33%以上であった当時、CTVビルは40%か
ら55%と分析されていたであろうというDBHコンサルタント報告書の見解と一致して
います[BUI.MAD249.0189.145]。
9月4日の地震
129. 9月4日の地震発生後、ビル一階からの迅速な視察がありました。これはビルの外装の目視
視察でした。緑色ステッカーと査定されました。9月7日、3人の市議会員によりビル2階
のこれもまた素早い視察がありました。この視察はビルの内装と外装の目視視察でした。王
立委員会はこの視察をした人物から証言を聞く予定になっています。彼らはビルを緑色ステ
ッカーと査定しましたが、ビルの管理者にさらに綿密な技術査察を緊急に実施するよう勧め
たと証言する予定になっています。
130. この技術査察を手配する立場にあったのは、ビル所有者の代表者で当時ビル管理の役を担っ
ていたジョンドリュー氏でした。ドリュー氏は、マドラスイクイティー社の主要株主であっ
た信託会社の株主の内の一社であったリオネルハンター社からの株の買収に同意していた。
しかしながら、売買契約は地権の手続き差止め令の解除をもって成立することになっていた。
この手続き差止め令は2011年2月22日の時点でまだ解除になっておらず、地震が発生
した時点でまだこの株売買は成立していませんでした。
27
TRANS.20120625.OS.28
131. ドリュー氏は、CPGコンサルティングエンジニアのデビッドコッツワ―ス氏にさらに綿密
な査察の依頼をしました。コッツワ―ス氏は査察提案書を2010年9月24日付けのEメ
ールでドリュー氏に送信しています[BUI.MAD249.0099.6]。Eメールには、ビルの所有者が
独立した構造査察の実施を依頼しており、CPGがこの依頼を受けるに相当する経験を有し
ている事、そしてコッツワ―ス氏が予想するビルが被ったであろう損傷の性質が提起されて
いた。コッツワ―ス氏はまた以下のようにも記しています。
「詳細なビルの査察を実施する事をお勧めします。査察には、ビル外部、地盤、窓、そして
屋根から又はその他の観察に適した場所からの点検を行い、知覚できるすべての内装の点検
も行います。適当な場所で天井のタイルを外し、床表面の下、梁、梁と柱の連結部の点検を
する事も提案します。壁内張りの除去は、特にその必要性が確認されない限りお勧めはしま
せん…ビルの構造および建築図面があれば非常に有効です。もしこれらの図面があれば、ビ
ル内の構造体系を知る上で役に立ちます。」
132. コッツワ―ス氏は2010年10月6日にジョンドリュー氏に査察報告書を提出していま
す。報告書ではビル外部及び内部で観られた様々な損傷を指摘してあります。
133. コッツワ―ス氏はまた、以下のように報告書に記しています[BUI.MAD249.0082.4]。
査察中近づく事ができなかった西の壁を除く外壁を地面から点検しました。ほとんどの部屋
の内装と壁を点検しました。数箇所で天井のタイルを取り外し、床の下、壁/柱と梁の連結
部を点検しました。
28
TRANS.20120625.OS.29
構造部の数箇所は厚い内張りの背後になっていました。これらの内張りの除去はしませんで
した。2本のエレベーターシャフトのある場所には入っていません…
ビルの構造図面は見ていません。ビル管理者は図面を入手する事ができず、市議会の記録は
地震で管理システムが被害を受けたため利用できない状態であると理解しています…
特に明白な構造欠陥は観られませんでした。その点からすると、ビルは良く耐震した方だと
思われます。
134. 9月4日の地震後、かなりの数のビル利用者が、ビルが地震前よりよく揺れていた事を指摘
しています。ビルは外の車両の往来にも反応しており、特にCTVビルのすぐ西側に建って
いたビルの解体作業に伴ったビルの揺れには多くの人が警戒心を抱いていました。この解体
作業は2月22日の余震のほぼ前日に完了しています。
135. この解体作業の建築物解体許可の交付ついて市議会の証言を要請しました。2010年10
月13日に解体許可が下りているというのが市議会の見方です。許可申請の際にビル解体方
法の申告もあり、市議会はこの解体方法の近隣のビルへの影響も含めて許可申請の審査をし
たと証言しています。
136. 市議会はまた、近隣のビルの利用者からこの解体作業に対する不平及び懸念を示す報告を受
けた記録はないと証言しています。
137. DBHコンサルタント報告書では、この解体作業によってCTVビルの耐震能力に影響する
程の構造上の損傷が発生した可能性は低いと判断されています[BUI.MAD249.0189.88]。
138. 王立委員会はまた、床ダイヤフラムと北せん断核の連結の離脱が9月の地震の結果起こり、
そのためにビルの利用者が証言しているようにビルの揺れが増した可能性があるという証
言も聞く事になっています。ビルの梁は東西に走っており、現場打ちコンクリートの床はハ
イボンドシステムによって支えられていたので、離脱が起こっていても床は支持された状態
を保ち、倒壊する事はなかったはずであると言えます。しかしながら、もし実際に離脱が発
生していたなら、北せん断核への荷重回路に影響を及ぼす事になり、2月22日の余震への
耐震力を下げる事になった可能性は高いでしょう。
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TRANS.20120625.OS.30
139. ボクシングデー(12月26日)の余震後、再度一階の迅速な視察がありました。ビルは今
回も緑色ステッカーと査定され、USAR(都市捜索救助隊)の記録に、技術査察の必要な
しと記されています[BUI.MAD249.0167.1]。全体的なビルの損傷は0-1%と推定されてい
ました。
140. この視察結果にも関わらず、ビル利用者からのビルの状態の深刻な懸念の声は続きました。
王立委員会は多数の証人からその証言を聞く予定になっています。特にCTVの受付のマリ
ーアンジャクソンはビルが危険であると確信しており、大きな余震がある度にビルから走り
でていたと証言書に記しています。彼女は、2月の余震の発生時、ビルが背後で倒壊してい
く中何とか逃げ出す事ができました。
DBHのCTVビル倒壊調査
141. DBHの依頼で実施された倒壊調査は、倒壊したビルの残部又写真の検証、ビル生存者、倒
壊目撃者又ビルの設計に関与した人物との面接、設計図面の参照、及びビルの重要な部位が
負ったと推定される荷重とその対応力のコンピュータ分析から成っています。
142. 詳細な法的科学検査ができるようになる前に現場のビル残部は除去されたので、ビル倒壊原
因及び筋書き解明のために有益な情報は失われてしまった可能性は高いと言えます。もちろ
ん、数人の鑑定人からこの点に関しての証言を聞くことになっており、その内の一人はAR
CLの鑑定人のロビンシェパード教授です。
30
TRANS.20120625.OS.31
143. 報告書作成をハイランド博士とスミス氏に依頼したのに加えて、DBHは彼らの調査を監督、
点検、及び承認するための専門家パネルを選任しました。専門家パネルの主任に構造建築法
専門家のシャーウィンウィリアムズズ、副主任に耐震構造設計専門家のナイジェルプリスリ
ーが指名されました。その他のパネルメンバーはハイランド博士、BECAのロブ ジュリ
ー、カンタベリー大学工学部のステファノパムパニン教授、ダニングソーントンのアダムソ
ーントンです。加えて、ヘレンアンダーソン博士、マーシャルクック、ピーターフェル、ピ
ーターミラー、そしてジョージスキミングが、地質学、建築、建設、地質工学技術、及び地
方自治体の建築物権利獲得の権限についての知識を提供しました。
144. DBHコンサルタント報告書は、倒壊の開始源であった可能性が最も高いのは、水平の地震
力による階ごとの偏差の結果生じた追加荷重によるラインFの柱の破壊であったという見
解を示しています[BUI.VAR.0056.50: Figure 5.14]。専門家パネルはビルの倒壊の開始源が
柱であったという見解には全般的にコンサルタントと同意しているが。どの柱が開始源であ
った可能性が最も高いかについては意見が分かれています。
145. コンサルタントと専門家パネルの全員一致の見解は、柱のコンクリート拘束力が東西と南北
の横の荷重に耐震できるに十分な強さはではなかったということである。一本の柱が破壊し
たとたん残りの柱も連続してすぐにそれに続いたと考えられます。報告書ではまた、柱の拘
束力の弱さは激しい縦の加速力によってさらに悪化した可能性があり、それはこの縦の加速
力が柱の重力荷重を増加させ、柱の地盤の南北と東西の揺れを安全にそらせる能力が低下し
たからであるという見解が示されています。
146. コンサルタントと専門家パネルの間での意見の相違がある部分は多々あり、それはハイラン
ド博士、アシュリースミス氏と専門家パネルの間のEメールの通信の内容に明白です。DB
HはこれらのEメール通信の複写を王立委員会へ提出しており、王立委員会の調査に関心を
示している該当者が閲覧できるようになっています。王立委員会に、ARCLの弁護士から、
公聴会資料にこのEメール通信の複写を部分的に含めるよう依頼がありました。
31
TRANS.20120625.OS.32
147. 専門家の間で意見が一致していない点として、その他の(柱以外の)構造部位もビルの倒壊
の要因となったか又その他の部位が倒壊の開始源となり得たかという点、そしてどの柱が倒
壊の開始源となった可能性が最も高いかの点が挙げられる。DBHコンサルタント報告書で
は、ラインFとライン2のビルの3階の柱が倒壊開始源であったという見解が有利であると
見ているようである。これはビルの南端に近い外部の柱を指している。一方、最も先に被害
を負いやすかった柱はビル内部の柱であった可能性が高く、おそらく3階の柱D2であった
であろうという見解も出ています。内部の柱は外部の柱より荷重が高く、地震力をそらす能
力が低かった可能性は高いと言えます。もし内部の柱の破壊が先に生じたのであれば、ビル
は内側へ倒壊した可能性が高く、それは数人の目撃者からの、ビルの制御的な内側への倒壊
の様子の証言に一致しています。
148. DBHの調査過程で、各部位の倒壊への関与についてかなりの意見の相違が生じた点を以下
に示す。
a.
スパンドレルの柱の横耐震力への影響。
b.
床ダイヤフラムと北せん断壁の間の連結の離脱がビル倒壊の開始源となったか。
c.
梁と柱の連結の分離は単に弾力によって生じたか。
d.
ビルの剛性の中心と重力の中心が著しく離れていた事のビル倒壊への影響。
e.
西壁の影響。西壁はビルの西側の柱の間に設置されたコンクリートブロック壁になって
おり4階まで続いていた。この壁がビル倒壊にどのように関与したかは、壁がアランレ
アイの会社の意図に応じて施工されたかが明確でない為に複雑かつ混乱している。構造
図面ではブロック壁はビルの構造から独立した壁になっており、壁の柱との隣接部の隙
間は柔軟なシ―ラント材で埋められる事になっている。これは地震対応のための間隔で
壁が地震力によって偏差するのと同時にビルの構造から孤立させる事を意図していた
と考えられる。しかしながら、この壁は実際には構造に固定されて施工されその結果ビ
ルにねじれ反応を生じさせたという可能性もある。DBH報告書の主要著者であるクラ
ークハイランド博士はこの見解が有力であると考えている。王立委員会はこのようなビ
ルの施工問題についての証言も聞く事になっているが、決定的な結論に至る事ができな
い可能性が高い[BUI.MAD249.0249.0284.47;0284.18]。
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TRANS.20120625.OS.33
149. ハイランド博士、スミス氏の両者から、調査の内容及び調査結果についての証言がある事に
なっています。ロブジュリーは専門家パネルからの報告書を提示することになっています。
150. DBHコンサルタント又は専門家パネルの見解といくつかの点で異なる見解を示している
ナイジェルプレスリー教授からは、彼の個人的な見解に基づいた証言がある事になっていま
す。
151. DBHコンサルタント報告書は、CTVビルの構造はいくつかの点において法規に準拠して
いなかったという結論を出しており[BUI.MAD249.0189.57-59]、特に以下の点が重要である
と言えます。
a.
CTVビルの柱は綿密に靭性設計されるよう義務付けられていた。
b.
CTVビルの柱は柱のせん断強化条件を満たしていなかった。
c.
梁と柱の連結は綿密に靭性設計されるよう義務付けられていた。
d.
北せん断核と床ダイヤフラムの連結は法規に準拠していなかった(あるいは、尐なく
ともそのように結論付けられると考えられる)。
152. コンサルタント報告書の共同執筆者のアシュリースミス氏は、法規準拠に関しての彼の個人
的な見解をまとめた証言書を別途提出している。コンサルタント報告書の法規準拠に関する
問題の結論の一部は共同執筆者のクラークハイランド博士のみの見解であって、彼自身の見
解とは一致しないというのが理由であるようである。
33
TRANS.20120625.OS.34
153. 先に触れたように、マンダー教授はビルは法規に準拠していたと証言する予定になっていま
す。
コンピュータモデリング
154. その他DBHの専門家の間で意見の相違がある点は、コンピュータモデリングの利用につい
てです。このモデリングは9月と2月の地震に対するビルの耐震反応の分析に利用されまし
た。専門家がコンピュータでビルの模型を作製し、模擬的な地震力を掛けてビルの反応を検
証します。もしこの模擬分析がビルの強度及び地震力を正確に反映できていたなら、分析結
果はビルの耐震力と倒壊の過程の把握に有効であると言えます。
155. モデリング分析はコンピューソフト社に委託されました。同社はCTVビルの非線形時間履
歴解析(Non-Linear Time History Analysis:NLTHA)によって、9月と2月の地震によ
るビルへの影響を分析しました。この分析結果はDBHコンサルタント報告書及び報告書の
付属に掲載されています。
156. このようなコンピュータ分析の信頼性は、ビルの建築部位と地震を模擬化するための入力デ
ータの正確さに相当依存しています。コンピュータ上でビルの各部位の模型を作製しなけれ
ばならないため、何千ものデータの入力が必要になる場合もあります。一定のデータは入力
者の判断を要し一定のデータはより客観的に明確である事があり、曖昧なデータ入力が不正
確な結果につながる潜在的リスクを伴っています。
157. ARCLの鑑定人が、DBHが使用したデータとは異なったデータ入力でさらにNLTHA
分析を実施する事を検討しているという通知を受け、王立委員会はNLTHA分析について
証言をする予定になっている鑑定人に、事前協議を行い、各分析結果を一致と不一致に分類
し一つの報告書にまとめて提起するよう要請する目標指令を出しました。アソルカー教授が
この鑑定人パネルの進行役に任命されています。この作業は現在も進行中です。
34
TRANS.20120625.OS.35
158. 鑑定人に事前協議を支持する事は、非常に複雑な審議事項の証人供述の公聴を円滑に進める
ために法廷で一般的にとられる手段であります。
159. 王立委員会は弾性応答スペクトル解析(Elastic Response Spectra Analysis:ERSA)とし
て知られるコンピュータモデリングについての証言も聞く予定になっています。この解析は
ETABSコンピュータ分析の改新版で、1986年にデビッドハーディングが利用した分
析法です。彼は当時、ビルの設計が該当建築基準を満たしているか否を確認する事を主な目
的としてこれを利用しています。
160. ハイランド博士とアシュリースミスも、調査の一環としてERSA分析を実施ました。コン
サルタント報告書の付属にこの分析についての言及があります。
161. このERSA分析に使われたデータについても論争が予想されるため、王立委員会は鑑定人
パネルの事前協議を指示しました。ERSAの再分析結果を含めた鑑定人パネルの見解が示
される事になっています。
コンクリート
162. DBHコンサルタントがコンピュータ分析に使った入力データで、最も激しい論争が予想さ
れるのはCTVビルのコンクリート強度のデータであります。
163. 報告書には、ビルの残部から取ったサンプルの分析によると柱のコンクリート強度が基準値
より低かったと指摘されています。この指摘は二つの点で激しく論争されています。第一に、
オ―プスが実施した検査を含めDBHが採用した検査手順は認定国際基準に則っていなか
ったという点。第二に、この検査結果のコンクリート強度は誤りであり、従ってその著しく
低いコンクリート強度を推定して実施されたDBHの分析結果は信頼性に欠けるという点
である。
35
TRANS.20120625.OS.36
164. NLTHA分析の実施にあたってコンピューソフト社は、コンサルタント報告書にある低い
コンクリート強度データを採用しませんでした。分析に使われたのは時間と共に増す強度値
を推定して基準値強度に2.5MPa を加算した数値でした。王立委員会は、ARCLの数人
の鑑定人、特にマンダー教授から分析に使われた強度値は低すぎるため、その数値よりもか
なり高いデータを基にしたNLTHA分析の再実施の必要性を提起する証言を聞くことに
なっています。
165. クライストチャーチ市議会はビル建設中のコンクリート強度検査の記録はないと証言して
います。ウィリアムズコンストラクションの現場主任のジョーンズ氏が、コンクリートの搬
入の度に領収書を供給先から受け取ったという証言をする事になっています。ハーディング
氏からは、コンクリート供給先からの書類を随時確認していたという証言がある事になって
います。
166. 王立委員会の業務規定に、専門家の報告書に対して独立した他の専門家からの評価を採用す
るよう定められています。王立委員会はDBHが採用したコンクリート強度検査手順の調査
をジェームズマッケチニーに依頼しました。マッケチニー氏は検査プロセスに確認された数
点の欠陥を指摘した報告書を提出する予定になっています。ニュージーランドセメント&コ
ンクリート協会もこの指摘と同様の見解を示す証言をする事になっています。
167. 一方、ビルの柱がコンクリート強度の指定基準を満たしていた事を示す検査結果の証言がA
RCLの鑑定人のダグラスハーヴィックからある事になっています。
その他の倒壊に関する証言
168. レアイ博士はDBHの調査で十分に考慮されていない別の倒壊シナリオの提起をする事に
なっています。ARLCの鑑定人のジョンマンダ―教授から、その代替倒壊シナリオの詳細
な証言がある事になっています。そしてまたそれ以外の倒壊シナリオがこの公聴会進行中に
提起される可能性も多いにあります。
36
TRANS.20120625.OS.37
169. レアイ博士とマンダー教授が提起しているコンピューソフト社が実施したNLTHA分析
に対する批判の一つは、9月の地震ではビルが全く被害を受けなかったかのように2月22
日の余震による影響分析に9月の地震の影響が全く反映されていないという点である。これ
は、CTVビルが設計レベル(設計事象)の地震の影響を受け耐震したが、その後も深刻な
余震の影響下にあり、その過程でビルは9月の地震以前よりも弱化していたという推定が根
拠となっています。ARCLの鑑定人はコンピューソフト社によるNLTHA分析はこの事
実を考慮して実施されるべきであったと指摘しています。
170. この指摘にはNLTHA分析を協議及び検証している鑑定人パネルも同意しており、この根
拠に基づいたNLTHAの再分析が実施されることになっています。
171. CTVビルが設計意図通りに設計レベル(設計事象)の地震に耐震した事実の強調に加えて、
マンダー教授とレアイ博士は、2月の地震でCTVビルが強烈な縦加速力の影響下にさらさ
れた事実も強調しています。マンダー教授はこの加速力は例外的に強烈な加速力であったと
みなしています。レアイ博士はこの強烈な加速力は構造部位の重力荷重を相当増加させたと
いう証言をする事になっています。デビッドハーディングもまた、この縦の加速力の結果、
柱が相当の追加荷重を負うことになったという証言する事になっています。
172. マンダー教授の証言書に付属されている「提言書」の通り、王立委員会は、慎重に再分析さ
れた代替倒壊シナリオについての証言を聞く事になっています。マンダー教授は、DBHコ
ンサルタントの倒壊シナリオとは異なる、梁と柱の連結状態、連結強化不足、及び床スラブ
と北核の連結の潜在的な役割に特に重点を置いた倒壊シナリオを提起する事になっていま
す。 マンダー教授はビルの剛性と冗長性の乏しさを指摘している他の鑑定人に同意してい
るようですが、その根拠はDBHコンサルタントのそれとは異なっています。DBHコンサ
ルタントが外部の柱が倒壊開始源となったという結論を出している一方、彼自身が実施した
柱の検査結果から、内部の柱の荷重は外部の柱よりも大きく、よって先に地震力の影響を受
けやすかったというプレスリー教授と同様の見解を示しています。3階は柱の強度と偏差容
量の両点において事実解明のために最も決定的な階であると見られています。
37
TRANS.20120625.OS.38
CTVビルの土地状態
173. 1986年6月に、CTVビル設計技術者が土地の調査結果を入手しています。報告書には、
浅い基礎もしくは杭(打ち)基礎が適していると記されています。
174. DBHの調査の一環として、トンキン&テイラー社がCTVビルの基礎工事についての調査
を実施しており、CTVビルの基礎は当時のCBD(都市中心部)の同等の規模のビルには
典型的な基礎で、液状化の問題がない限りビルに適した基礎であったと報告されています。
175. ビル倒壊後、ビルの西方の土地に孤立した液状化がありましたが、ビルのすぐ近辺での明ら
かな液状化の報告はありませんでした。
176. 液状化はビルの倒壊に関与していなかったと見られます。ビルの基礎が該当基準を満たして
いなかったという見解を示している鑑定人はいません。
公聴会の仕組み
177. 王立委員会は尐なくとも77の証人からの証言を聞くことになっています。証言者には、他
国から、特にアメリカ合衆国からの専門家を含む多数の鑑定人を含んでいます。証言は、王
立委員会弁護士が特別に要請した場合もあれば、召喚による場合もあります。また、王立委
員会弁護士以外の弁護士からの要請による証言もあり、これはDBH及びARCLの鑑定人
の証言を含みます。
178. 公聴会の仕組みは公開されている公聴会予定表に説明されています。公聴会は月曜から木曜
までのスケジュールで、8週間に渡ると現在の時点では予定されています。
179. 公聴会は各主題のセクションごとに分かれています。証人はそれぞれのセクションの主題に
応じて召喚されます。そのため証人の何人かは一回以上召喚される事になります。
38
TRANS.20120625.OS.39
180. 公聴会は、倒壊の目撃者証言及び9月の地震後のビルの状態ついてのビル利用者からの証言
の公聴から始まります。2月の地震後のビルの状態についての証言もある事になっています。
181. そして、9月と2月の地震の間に実施されたビルの査定についての証言があります。
182. そして、ビルの倒壊調査の証言へと進み、この証言にはDBH報告書の著者及び報告書の批
評又倒壊の原因と過程の独自の見解を示す鑑定人からの証言を含みます。
183. そして、ビルの設計、建築許可、ビルの法規準拠に関する証言及び施工問題の証言へと続き
ます。
184. 最後に、1991年に実施されたビルの修復工事についての証言があります。
185. 予定されているすべての証言の公聴終了後、希望する該当者があれば、閉会にあたっての提
言陳述があります。
ステファンミルズ QC(王室顧問弁護士)
王立委員会弁護士
2012年6月25日
39
TRANS.20120625.OS.40
スケジュール
頻繁に使用される工学技術用語一覧
186. この公聴会の証言には多数の工学技術用語が使われる事になります。クラークハイランド博
士とアシュリースミス氏の建築住宅庁CTVビル倒壊調査報告書に有効な用語集が付属さ
れています[BUI.MAD249.0189.25-.30]。公聴会で最も頻繁に使われるであろう用語を以下
に挙げておきます。
軸最大容量 - コンクリート柱が破壊する前の最大軸圧縮容量。これは歪曲荷重無しの状
態での押し込み荷重容量に同じ。
圧縮破壊 - 構造部位が最大軸圧縮容量を越えた時に起こる破壊。
拘束コンクリート
-
横断型鉄筋強化によって外に破裂しないよう拘束されたコンクリ
ート(主要鉄筋に直角に交差する鉄筋を入れたコンクリートを指す。例:柱の縦鉄筋とその
接合部のまわりの旋回鉄筋)
。
偏差 - 停止状態又は基準位置からの移動。
変形 - 構造部位およびその他の部位の原型の変形。ビルの変形は、偏差の影響による追
加荷重に反応した結果として起こる。
ダイヤフラム - 面内力を横荷重抵抗各部位へ又はその間に伝達する構造部位。建築業界
では稀に床がダイヤフラムと呼ばれる。
移動値 - 移動値は、指定の位置と移動後の位置の間の差違。地震の移動値は地震の前の
位置からの距離を指す。
40
TRANS.20120625.OS.41
鋼鉄引き棒 - 床スラブからの横荷重を地震荷重に抵抗する部位(例:壁)に移動させる構造
部位。
靭性 - 構造もしくはその他の部位が、反復かつ反逆する弾力性のない偏差に耐える容量。靭
性設計の利点は、弾性設計よりも低い強化レベルでより大きな荷重に耐える事ができる事、さら
には設計レベルの地震より大規模な地震の影響下でも、ビルは倒壊しないか尐なくとも脾弱で急
激な破損が発生する可能性が低い。
弾性 - 構造動作パターンで、時に線形弾性とも言われる。これは部位の荷重が解除された時
に元の位置に弾き戻る反応を指す(反応過程でエネルギーは消費されない)
。
屈曲 - 曲げによって誘発される作用(動き)
。
屈曲亀裂 - 屈曲の結果、生じる亀裂。
非弾性 - 部位がその弾性制限を越える事(元の位置に弾き戻る能力を失い、エネルギーが消
費される)
。
せん断壁 - ビルの横の荷重に抵抗する耐震壁。
ねじれ - 構造部位またはビル全体のねじれ作用を指し、荷重が構造部位又はビルの剛性の中
心を通らずに掛った場合に発生する。
41