創造的な新製品開発のための組織能力

専門職学位論文
研究目的
シャープの事例研究を通して、
創造的な新製品開発のための組織能力
ーシャープの事例研究ー
創造的な新製品を生み出し続ける
企業の組織能力とはどのようなものか
明らかにすること
神戸大学大学院経営学研究科
原拓志研究室
056B221B 陰山孔貴
研究方法
<シャープを選んだ理由>
・創業から94年間、一貫して新しい製品を生み出すことに
こだわってきた企業だから
:イノベーションを起こすには?
先行研究
1.『ヘルシオ』の製品開発
2.『除菌イオン』の製品開発
<対象製品を選んだ理由>
1.シャープが生み出した比較的新しいヒット製品から選んだ
2.比較しやすいように同じ電化製品から選んだ
3.市場的にも技術的にも革新性の高い製品から選んだ
連結化
暗黙知
(データは、公開された文献とインタビューから収集)
認識論的次元
形式知
・ケーススタディー
表出化
内面化
共同化
存在論的次元
個人
グループ
組織
組織間
知識のレベル
出所:『知識創造企業』
(野中・竹内,1996)
『個人知』から『組織知』への移転が必要
イノベーションに必要な2つの要素
先行研究:
イノベーションの種となる知識は、いつも『個人』から
生まれ、イノベーションは、『組織』によって実現され
る。
①『個人』
ハイパーテキストとは?
先行研究:
いくつかのテキストを重ね合わせた
複数のレイヤーから構成されたテキストのこと
知識を創造する個人 、支援者としての個人
②『組織』
『ハイパーテキスト型組織』 などの知識を育てる組織
出所:『知識創造企業』(野中・竹内,1996)
1
ハイパーテキスト型組織
先行研究:
③プロジェクト・チーム・レイヤー
市場の知
ハイパーテキスト型組織の3層
先行研究:
③プロジェクト・チーム・レイヤー
ビジネス・システム・レイヤーの様々な部署から集められた人
材からなるプロジェクトチーム。プロジェクト完了後には、解散。
組織ビジョンを共有す
るチームが知をダイ
ナミックに共創する
チーム・メンバーはビ
ジネス・システムから
選ばれる
個人は自由に組織の知にア
クセスできる
②ビジネス・システム・レイヤー
①知識ベース・レイヤー
ダイナミックな知識スパイラ
ルが、絶え間なく知識を創造
し、蓄積し、活用する
組織ビジョン・組織文化、技
術、データベースなど
②ビジネス・システム・レイヤー
通常のルーティン業務が行われる層。ルーティン業務を効率
よくするため、階層的なピラミッド構造をしている。
①知識ベース・レイヤー
現実の組織実体としては存在せず、企業ビジョン、組織文化、
技術の中に含まれる。3層の中で形成が最も困難な層。
出所:『知識創造企業』(野中・竹内,1996)
出所:『知識創造企業』(野中・竹内,1996)
主な登場人物紹介
ケース・スタディー:
井上氏
町田社長
『ヘルシオ』開発者
1998年就任
電化商品開発センター
第二開発室室長
ケーススタディー
西川氏
就任時に「2005年までに、
全てのテレビを液晶テレ
ビに置き換える」と明言
『除菌イオン』開発者
電化商品開発センター
第一開発室主任研究員
1.『ヘルシオ』の製品開発
2.『除菌イオン』の製品開発
1986年から1998年まで社長
早川創業者
1912年~1970年まで社長
「他社に真似される商品を
作れ」という文化を形成
『ヘルシオ』の開発
ケース・スタディー1:
辻相談役
液晶に特化した戦略により
現在の液晶のシャープを作
り上げた
『除菌イオン』の開発
ケース・スタディー2:
<開発の流れ>
<開発の流れ>
・1998年
町田が社長に就任『マグネトロンのないレンジはできないか』
・1998年 暮れ
電化開発センター内に開発企画部発足
・1998年10月 「室内の空気を吸い込む」から「浄化物質を室内に
巡らす」という新たな発想の空気清浄機の開発が開始
・2000年12月
井上氏が、『過熱水蒸気』と山口県で出会う
・1999年
・2001年 初旬
『過熱水蒸気』に関する開発を担当2名で開始
・2001年10月
大阪府立大学との共同研究を開始
・2002年 初旬
調理システム事業部へ『過熱水蒸気』を初めて提案
・2003年
井上氏の度重なる提案により、やっと調理システム事業部
が重い腰をあげて動き出す
・2000年 3月 『除菌イオン』が、カビ菌に効果があることが実証
・2003年 末
辻相談役が八尾工場への視察時に健康調理器という
コンセプトに興味をもち、強く後押し『20年に一度の技術』
・2000年10月 『除菌イオン』搭載 空気清浄機の発売
・2004年 4月
調理事業部にウォータープロジェクト推進プロジェクト発足
・2001年 6月 市場を拡大を目指し、ウイルスへの効能を立証するため
町田社長指示のもと『緊急プロジェクト』が発足
・2004年 9月
『ヘルシオ』発売 大ヒット商品へ
・2002年10月 ウイルスへの効能が立証され、大ヒット商品へ
西川氏が、体内のウイルスを殺菌する白血球が、殺菌時
にプラスとマイナスの両方のイオンを発生することを知る。
・1999年10月 プラスとマイナスのイオン両方からなる『除菌イオン』の
発生に成功
・2000年 4月 町田社長が『除菌イオン』に興味をもち、強く後押し
2
ケーススタディーから
ケース・スタディーから
ケースにおいて
町田社長と辻相談役が担った二つの役割
『緊急プロジェクト』
③プロジェクト・チーム・ レイヤー
事業部制に対応した
R&D体制
②ビジネス・システム・レイヤー
①知識ベース・レイヤー
『他社にまねされる
商品を作れ』という
組織文化の浸透
ケース・スタディーから
③プロジェクト・チーム・ レイヤー
1. 新しく生まれた知識を選び、集中的に投資
するという知識を選択する役割
2. 各レイヤーを結びつけ、連動した働きをさせ
る役割
ケース・スタディーから
従来の3層構造では、
この二つの役割を行
うレイヤーがない!
?
③プロジェクト・チーム・ レイヤー
?
?
②ビジネス・システム・レイヤー
①知識ベース・レイヤー
『緊急プロジェクト』
『緊急プロジェクト』
事業部制に対応した
事業部制に対応した
R&D体制
R&D体制
『他社にまねされる
商品を作れ』という
組織文化の浸透
新たな層の提示
①知識ベース・レイヤー
シャープの組織能力
各レイヤーを連動して働かせる
④マネージメント・ レイヤー
新たな層の提示!!
③プロジェクト・チーム・ レイヤー
『他社にまねされる
商品を作れ』という
組織文化の浸透
②ビジネス・システム・レイヤー
企業が有する
知識資源の把握
『緊急プロジェクト』
事業部制に対応した
④マネージメント・ レイヤー
経営トップの意思のもと
開発を加速
③プロジェクト・チーム・ レイヤー
製品開発を通し
知識を組織に拡大
知識を個人から組織
R&D体制
②ビジネス・システム・レイヤー
②ビジネス・システム・レイヤー
①知識ベース・レイヤー
『他社にまねされる
商品を作れ』という
組織文化の浸透
知識を生み出す
個人の育成
組織文化の強化
①知識ベース・レイヤー
3
まとめ
今後の課題
1. 創造的な新製品を生み出すためには、『個人』と『組織』と
いう相反する二つの存在の融合が必要
2. シャープの場合、「ハイパーテキスト型組織」の中で『個人』
と『組織』の融合を行なっていた。さらに、本研究では、そ
の組織構造は、従来、野中・竹内(1996)が提唱していた3
層構造ではなく、新たな層(マネージメントレイヤー)を加え
た4層構造である可能性を提示した。
本研究において、提示した新たな層(マネージメン
トレイヤー)は、まだ仮設導出レベルであり
• 働きの実証
• 形成過程の分析
を、今後より深く行っていく必要がある。
3. 新たな層(マネージメントレイヤー)の役割は、「知識を選択
する役割」と「各レイヤーを連動させる触媒の役割」である
ことを提示した。
イノベーションの分類
革新性
革新製品
革新製品
改善性
市場の革新性
補足資料
市場主導型
改善製品
技術主導型
革新製品
改善的
革新的
技術の革新性
製品開発組織の類型
機能重視組織
出所:『製品開発の知識』
(延岡,2002)
「ハイパーテキスト型組織」と「マトリクス組織」の相違点
・機能別組織
1. 「マトリクス組織」の場合、二つの組織に属するが、ハイパーテキスト型
組織の場合、たった一つの組織に属し、プロジェクトに集中が可能
2. 「ハイパーテキスト型組織」では、知識創造が進む仕組みであるが、「マ
トリクス組織」では、特に知識変換を意識して作られた組織ではない
・マトリクス組織
3. 「ハイパーテキスト型組織」では、各レイヤー毎にことなる知識の内容を
時間をかけて柔軟に組み合わせることが可能
4. 「ハイパーテキスト型組織」では、プロジェクトに期限があり、資源とエネ
ルギーをその期限内に集中的に使うことが可能
プロジェクト組織
プロジェクト重視組織
出所:『製品開発の知識』
(延岡,2002)
機能部門長
プロジェクト・マネジャー
5. 「ハイパーテキスト型組織」の場合、プロジェクトはトップ直轄のため、トッ
プからロワーまでのコミュニケーションが、形式的な階層組織より圧倒的
に早いスピードで行われる
出所:『知識創造企業』(野中・竹内,1996)
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