精神疾患とその治療

2016 年度
精神保健福祉士 国家試験受験対策講座
2016/10/16
精神疾患とその治療
・統合失調症、うつ病(最近は双極性感情障害-躁うつ病-について)、認知症、
アルコール関連障害の4疾患については、必ず確認しておくこと。
【疾患】
Ⅰ)統合失調症
罹患率:およそ1%
症状
妄想:一次妄想
妄想着想、妄想気分、妄想知覚(内容は被害的なものが多い。)
幻覚:幻聴、特に声の幻聴(幻声と呼ぶこともある)
無為自閉、被影響体験、させられ体験なども見られる。
連合の障害:滅裂思考など
陽性症状(滅裂思考、支離滅裂、連合弛緩、妄想、幻覚)と陰性症状(感情鈍麻、
感情の平板化、意欲低下、無為自閉)に分けて捉える。
病型
単純型:妄想幻覚のない、思考の障害(まとまりのなさなど)、感情の障害(平板化、
意欲の低下など陰性症状が主となる。経過は不良)
破瓜型:妄想幻覚もあるが、滅裂思考、感情の平板化が主
緊張型:緊張病性興奮、あるいは昏迷
妄想型:幻覚妄想が主
治療
薬物療法
抗精神病薬
定型抗精神病薬:ドーパミン系遮断作用。
非定型抗精神病薬:ドーパミン系以外のセロトニン系等にも作用する。
副作用として、眠気、筋肉・運動系の異常(錐体外路症状)、悪性症候群。性ホ
ルモンへの影響(乳汁分泌など)。
非定型抗精神病薬では、血糖値の上昇を見ることもある。
一般に、薬物療法は陽性症状に有効と言われてきた。
(新しく開発された非定型
抗精神病薬には、陰性症状に有効とされるものもある。)
*心拍に関して、QT延長への配慮
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*関連する重要な人物
クレッペリン:早発性痴呆
schizophrenia (独 Schizophrenie) 4つのA(Assoziations=
ブロイラー:分裂病
連合、Affect=感情、Ambivalent=両価性、Autism=自閉性)
クルト・シュナイダー:一級症状
考想化声:自分の考えが声になって聴こえる
考想伝播:自分の考えが周囲につつ抜けになっているように感じる
身体被影響体験:何者かによって身体に何かをしているような感じ
思考奪取:思考が突然何者かに抜き取られてしまうような感じ
作為体験:身体や思考が何者かにあやつられているような感じ
妄想知覚:見るもの聞くものが妄想のテーマに一致して曲解・誤認される
対話形式の幻声
自分の行為にいちいち口出ししてくる幻聴
Ⅱ)感情(気分)障害
うつ病と躁うつ病(双極性障害)
自殺予防の視点からうつ病が注目されているが、最近、双極性障害(躁うつ病)の存在
も関心を集めている。
うつ病(うつ病相)
症状
感情:憂うつ、無力感、悲哀、罪業感、絶望、寂しさ、不安、焦燥感
思考:思考制止、悲観的な思考内容、心気妄想、貧困妄想、罪業妄想
意欲:興味の減退、意志発動性の低下、自殺念慮
自律神経症状(身体症状)
:睡眠障害、食欲不振、性欲減退、便秘
その他:精神運動制止、記憶力・決断力の低下
症状の日内変動:一般に午前に悪く、午後に改善する
躁病相
感情:愉快、爽快、幸福
思考:思考奔逸、誇大的内容、誇大妄想
意欲:多弁、多動、脱抑制
自律神経症状(身体症状)
:睡眠障害、食欲亢進
治療
うつ病相に対して
三環系抗うつ薬:早くに開発された抗うつ薬。副作用は、尿閉、口渇、便秘な
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ど。
SSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬):比較的新しい抗うつ薬
セロトニ
ン系に特異的に働く。副作用は少ないといわれているが、下痢、不穏、焦燥と
いったセロトニン症候群を生ずることがある。
このほか、四環系抗うつ薬、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り
込阻害薬)もある。
電気痙攣療法:電流により意識消失発作を引き起こす。本来全身けいれんを伴
うが、全身けいれんを起こさないように麻酔下で行う修正型電気痙攣療法が開
発されている。
認知療法:物事への反応のパターンを知る。
躁病相に対して
抗精神病薬
炭酸リチウム
双極性障害に対して
感情調整剤/気分安定薬(バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、炭酸リチ
ウム)
一般的なかかわり方
励まさないこと。重要な決断を先送りにさせること。
Ⅲ)認知症
記憶の障害、認知の障害、見当識の障害がみられる。
認知症を来す病気
アルツハイマー型:神経原線維変化、緩徐な発症、人格変化(認知症の約半数)
脳血管性:脳内血管の閉塞、あるいは出血、段階的発症、感情失禁、巣症状(局在
症状)
、高血圧、高脂血症が背景、(認知症の約 3 割)
レビー小体病:神経細胞内にレビー小体、早期に幻覚妄想・運動障害を示す、
ピック病(前頭側頭葉型):早期に行動の変化、脱抑制、性格変化をみる。
プリオン病(クロイツフェルトヤコブ病):脳組織の海綿化
パーキンソン病:本来運動の障害が中心の疾患
検査
長谷川式簡易知的機能評価スケールが一般に多く使われている。
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治療法
「治す」治療法はない。
アルツハイマー病に対して:進行を遅らせる塩酸ドネぺジル(アセチルコリン系)が使われる。
2011 年、メマンチン(グルタミン酸系)、ガランタミン(アセチルコリン系)、リバスチグミ
ン(アセチルコリン系)が承認された。
脳血管性に対して:再発防止のため、血圧のコントロール、高脂血症の治療が行わ
れる。
Ⅳ)アルコール関連障害(物質依存)
2 種の依存:身体依存と精神依存
身体依存:離脱症状と耐性
精神依存:使用時の快楽の希求
物質依存は、精神依存の出現が重要である。(身体依存の存在はない場合もある)
身体依存を来しやすい物質は、アルコール、モルヒネ、バルビツレートである。
症状
酩酊:単純酩酊
異常酩酊
よくみられる酩酊(発揚期、酩酊期、泥酔期、昏睡期)
複雑酩酊 大量飲酒、著しい興奮を示す。見当識は保たれている。
病的酩酊 少量の飲酒でも起こりうる。
もうろう型:健忘、見当識を失う。
譫妄型:見当識の障害、幻覚の出現、
振戦譫妄:離脱時にみられる、体、手足の震え、意識障害を見る。見当識の障害、
小動物幻視を主とする幻覚が現れる。
コルサコフ症候群:記銘障害、失見当識、作話。アルコール長期摂取の結果生じる。
ウィルニッケ脳症:痙攣、意識障害を伴う。
(コルサコフ、ウィルニッケともに、ヴィタミン欠乏(VB1)による。
)
嫉妬妄想
治療
対症療法
振戦譫妄など離脱症状にベンゾジアゼピン系(抗不安薬)、抗精神病薬を使うことが
ある。
節酒はあり得ない。断酒を目指す。断酒会や Alcoholic Anonymous への参加。
Ⅴ)心身症
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心理的要因で生じた身体疾患。機能的あるいは器質的な身体変化を認めるもの。
Ⅵ)神経症性障害
パニック障害:動悸、窒息感、めまいなど身体症状と、死ぬのでは/正気を失うのではな
いかとの強い不安。もともと、誘因なく突然に始まる。
広場恐怖:何かが起こった時に逃げ出すこと、助けを求めることのできない場所への不
安。パニック障害の予期不安のために生じる場合もある。
社会恐怖:対人場面で人から注視されることへの不安。赤面恐怖、対人恐怖などと言わ
れていたもの。
強迫性障害:強迫思考(強迫観念) 強迫行為
確認強迫、計算癖、洗手強迫
不合理であることの自覚
解離性障害:解離性健忘、解離性遁走、解離性運動障害
身体表現性障害
身体化障害:身体症状があると訴える。
心気障害:身体症状にかかっているのではないかというとらわれ。
PTSD(外傷後ストレス障害)
:再体験、回避・麻痺、覚醒亢進
適応障害:ストレスが誘因となって生じる、抑うつその他、社会生活に支障をきたす精
神症状を示すもの。
Ⅶ)神経性無食欲症
痩せることへのこだわり。太っているという思いこみ。
標準体重から15%下回っていること。無月経、除脈、低血圧、産毛の密生
突然死の可能性
Ⅷ)境界型(境界性)人格障害
虚無感、対人関係の不安定さ
Ⅸ)てんかん
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脳神経細胞の過剰放電に由来する意識消失、痙攣を繰り返す疾患。
全般発作:意識を消失する(全身けいれんを伴うものと伴わないものがある)
部分発作:体の一部の痙攣。精神機能の一部分の異常。
治療:抗てんかん薬
フェニトイン、バルプロ酸、カルバマゼピンなど
Ⅹ)睡眠関連障害
神経症性不眠症(非器質性不眠症)
睡眠覚醒リズム障害
ナルコレプシー:睡眠発作、情動性脱力発作、入眠幻覚、睡眠麻痺
睡眠時無呼吸症候群
XI)児童期に関連するもの
自閉症スペクトラム障害(旧 広汎性発達障害、小児自閉症、アスペルガー障害)
:
社会性の障害
コミュニケーションの障害
想像力の障害とそれに伴う行動の問題
男性に多い
多動性障害:不注意、多動、衝動性
薬物療法の可能性
メチルフェニデート、アトモキセチン
選択性緘黙:家庭では普通に話せ、生活できる力があるが、集団の中で言葉を発さない。
トゥーレット症候群(ジル・ドゥ・ラ・トゥーレット):
音声チック、運動チックなど複数のチック
【検査手法】
人格検査:ロールシャッハ検査(投影法)、Minnesota 多面人格検査(質問紙法)
知能検査:WAIS-III、WISC-IV、ビネー式
長谷川式:認知症スクリーニング
脳波検査:てんかんなど、脳の機能的疾患が疑われるとき
頭部 MRI、CT、髄液検査:脳の器質的疾患が疑われるとき。
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【治療法】
薬物療法
抗精神病薬、抗うつ薬、感情調整薬、抗てんかん薬、抗不安薬、睡眠導入薬
身体療法
電気痙攣療法
精神療法
非指示的カウンセリング
神経症性の障害
認知療法
うつ病/物事の認知のゆがみ、自動思考
森田療法
神経症性の障害/臥褥期、作業期
精神分析療法
自由連想
自律訓練法
緊張の緩和
森田正馬(マサタケ)
行動療法
環境・社会療法
作業療法
SST
レクリエーション療法
心理教育
【精神保健及び精神障害者福祉に関する法律】
精神科入院の形態:措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院、任意入院
*行動制限の原則
*医療保護入院での同意者:
「家族等(配偶者、親権者、直系血族、裁判所に選任され
た扶養義務者、後見人または保佐人をいう)のうちいずれかの者」。市町村長が同
意する場合もある。
**医療観察法『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に
関する法律』
:司法と精神保健医療との連携。精神保健審判員、指定入院・通院医
療機関、社会復帰調整官
【精神医療】
基本的に外来診療重視に転じつつある。訪問看護などの活用が行われている。
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