S4 3. 1 1. 1 第3種郵便物認可 札医通信 !5 32号 2 3. 1 2. 20 !1 3" 「混合診療は禁止です」―ようやく最高裁が初判決― 1 0月2 5日最高裁第3小法廷は、混合診療禁 止を適法とした二審判決を支持し、混合診療 の是非についてようやく決着をみました。札 幌市医師会はこれまで何度も決議文の中で混 合診療の全面解禁に反対を表明してきました ので、会員の皆様の中には、混合診療の禁止 に対して今回初めて最高裁が判断したという 報道に違和感を覚えた方もいらっしゃるので はないでしょうか。ここではこの件につき内 容を整理してQ&A形式でお届けしたいと思 います。 Q:そもそも法律(健康保険法)で混合診療 は禁じられていたのではないのですか? A:実は明文化されたものはなく、混合診療 の禁止は解釈論だけで成り立っていました。 具体的に述べますと、「健康保険法6 3条1項 で医師が行う診療のうち特定の診療を保険者 が被保険者に行う『療養の給付』と定めてお り、同法8 6条では混合診療のうち保険外併用 療養費を支給するものを限定列挙しているか ら、これに該当しない混合診療はおおよそ保 険給付をしない」という厚労省の解釈から成 り立っていた理論です。 Q:それではようやく混合診療は禁止となる わけですね。 A:実は単純に「はい」とは言えません。そ もそも保険外併用療養費については混合診療 が認められていますし、最高裁も今回の判決 はむしろそれを支持する立場を表明したもの です。 Q:よくわからなくなりました。今回の判決 をもっとわかりやすく教えてください。 A:たしかに「混合診療」という言葉が独り 歩きして、それ自体が悪く思われていますか らね。きちんと言葉を整理しないと理解しづ らいかもしれません。 ご存知の通り、混合診療とは公的医療保険 が適用される保険診療と適用されない自由診 療とを併用して行う診療のことです。そして その一部についてはすでに解禁されていま す。それが保険外併用療養費制度というもの で、自由診療部分であっても「評価療養」と 「選定療養」に認められているものについて は保険診療部分についての保険給付を認めて いるというものです。評価療養とは先進医療 や治験診療に該当しますし、選定療養とは個 室ベッドの負担などのことです。 Q:なるほど、ここまではわかりました。 で、今回最高裁が出した判決というのは単純 に混合診療を禁止したというわけではないの ですね。 A:その通りです。単に混合診療を認めない というものではなく、保険外併用療養費以外 の保険外診療については混合診療を認めない というものです。 Q:ようやく概要がつかめてきました。それ では今回の訴訟内容を具体的に教えてくださ い。 A:これは神奈川県立がんセンターで腎癌の 頚椎転移などに対してインターフェロン療法 (保険診療)と活性化自己リンパ球移入療法 (自由診療)を受けた際にインターフェロン 療法を含む全額を自己負担すべきとされたの は健康保険法に違反すると主張、インターフ ェロン療法については療養の給付を受ける権 利があることの確認を求めたものです。裁判 の争点は、「個別に見れば保険診療であるイ !1 4" !532号 2 3. 1 2. 2 0 札医通信 ンターフェロン療法が、自由診療である活性 化自己リンパ球移入療法と併用されると、い かなる法的根拠で「療養の給付」として取り 扱いを受けないことになるのか」という点で す。国側のこれまでの解釈に対して、今回原 告(患者側)が主張したのは、健康保険法6 3 条1項では医師が行う診療のうち特定の診療 を保険者が被保険者に行う『療養の給付』と 定めており、また同法7 4条1項では被保険者 がこのような『療養の給付』に当たる診療を 受けた場合、それに要した費用の一部を負担 すれば足ると定めているのだから、インター フェロン療法についても給付を受けることが 出来るのではないかというものです。 Q:最高裁が判決を下すまでに至る過程を教 えてください。 A:2 0 0 7年1 1月一審の東京地裁判決は「混合 診療を保険対象外から排除する規定はなく、 国の法解釈は誤り」と今回の判断とは正反対 なものとなりました。これに対して2 0 0 9年9 S43. 1 1. 1 第3種郵便物認可 月の二審・東京高裁判決は、一定の条件下で 保険診療と保険外診療の併用を認める「保険 外併用療養費制度」があることから「制度に 該当するもの以外は保険給付を受けられない と解釈すべきで、混合診療は原則禁止と解す るのが妥当」と、原告側逆転敗訴を言い渡し た。そして今回最高裁第3小法廷は二審の結 論を支持するに至ったわけです。 Q:もしかして、これは単に健康保険法に混 合診療禁止の原則がきちんと謳われていれば すんだ話ですか? A:その通りです。最高裁の裁判官も同じ点 を指摘しています。田原睦夫裁判官は「健康 保険法に明文の規定を設ける機会があったに もかかわらず、規定を設けようとせず、法改 正に関する国会審議の場でも、原則の適否が 正面から議論されることがなかった」と指摘 し、法の規定を明解にすべきとの考えを示し ました。 (政策部担当理事 鈴木 伸和)
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