「混合診療は禁止です」―ようやく最高裁が初判決― 札

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札医通信
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「混合診療は禁止です」―ようやく最高裁が初判決―
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0月2
5日最高裁第3小法廷は、混合診療禁
止を適法とした二審判決を支持し、混合診療
の是非についてようやく決着をみました。札
幌市医師会はこれまで何度も決議文の中で混
合診療の全面解禁に反対を表明してきました
ので、会員の皆様の中には、混合診療の禁止
に対して今回初めて最高裁が判断したという
報道に違和感を覚えた方もいらっしゃるので
はないでしょうか。ここではこの件につき内
容を整理してQ&A形式でお届けしたいと思
います。
Q:そもそも法律(健康保険法)で混合診療
は禁じられていたのではないのですか?
A:実は明文化されたものはなく、混合診療
の禁止は解釈論だけで成り立っていました。
具体的に述べますと、「健康保険法6
3条1項
で医師が行う診療のうち特定の診療を保険者
が被保険者に行う『療養の給付』と定めてお
り、同法8
6条では混合診療のうち保険外併用
療養費を支給するものを限定列挙しているか
ら、これに該当しない混合診療はおおよそ保
険給付をしない」という厚労省の解釈から成
り立っていた理論です。
Q:それではようやく混合診療は禁止となる
わけですね。
A:実は単純に「はい」とは言えません。そ
もそも保険外併用療養費については混合診療
が認められていますし、最高裁も今回の判決
はむしろそれを支持する立場を表明したもの
です。
Q:よくわからなくなりました。今回の判決
をもっとわかりやすく教えてください。
A:たしかに「混合診療」という言葉が独り
歩きして、それ自体が悪く思われていますか
らね。きちんと言葉を整理しないと理解しづ
らいかもしれません。
ご存知の通り、混合診療とは公的医療保険
が適用される保険診療と適用されない自由診
療とを併用して行う診療のことです。そして
その一部についてはすでに解禁されていま
す。それが保険外併用療養費制度というもの
で、自由診療部分であっても「評価療養」と
「選定療養」に認められているものについて
は保険診療部分についての保険給付を認めて
いるというものです。評価療養とは先進医療
や治験診療に該当しますし、選定療養とは個
室ベッドの負担などのことです。
Q:なるほど、ここまではわかりました。
で、今回最高裁が出した判決というのは単純
に混合診療を禁止したというわけではないの
ですね。
A:その通りです。単に混合診療を認めない
というものではなく、保険外併用療養費以外
の保険外診療については混合診療を認めない
というものです。
Q:ようやく概要がつかめてきました。それ
では今回の訴訟内容を具体的に教えてくださ
い。
A:これは神奈川県立がんセンターで腎癌の
頚椎転移などに対してインターフェロン療法
(保険診療)と活性化自己リンパ球移入療法
(自由診療)を受けた際にインターフェロン
療法を含む全額を自己負担すべきとされたの
は健康保険法に違反すると主張、インターフ
ェロン療法については療養の給付を受ける権
利があることの確認を求めたものです。裁判
の争点は、「個別に見れば保険診療であるイ
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ンターフェロン療法が、自由診療である活性
化自己リンパ球移入療法と併用されると、い
かなる法的根拠で「療養の給付」として取り
扱いを受けないことになるのか」という点で
す。国側のこれまでの解釈に対して、今回原
告(患者側)が主張したのは、健康保険法6
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条1項では医師が行う診療のうち特定の診療
を保険者が被保険者に行う『療養の給付』と
定めており、また同法7
4条1項では被保険者
がこのような『療養の給付』に当たる診療を
受けた場合、それに要した費用の一部を負担
すれば足ると定めているのだから、インター
フェロン療法についても給付を受けることが
出来るのではないかというものです。
Q:最高裁が判決を下すまでに至る過程を教
えてください。
A:2
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1月一審の東京地裁判決は「混合
診療を保険対象外から排除する規定はなく、
国の法解釈は誤り」と今回の判断とは正反対
なものとなりました。これに対して2
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9年9
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月の二審・東京高裁判決は、一定の条件下で
保険診療と保険外診療の併用を認める「保険
外併用療養費制度」があることから「制度に
該当するもの以外は保険給付を受けられない
と解釈すべきで、混合診療は原則禁止と解す
るのが妥当」と、原告側逆転敗訴を言い渡し
た。そして今回最高裁第3小法廷は二審の結
論を支持するに至ったわけです。
Q:もしかして、これは単に健康保険法に混
合診療禁止の原則がきちんと謳われていれば
すんだ話ですか?
A:その通りです。最高裁の裁判官も同じ点
を指摘しています。田原睦夫裁判官は「健康
保険法に明文の規定を設ける機会があったに
もかかわらず、規定を設けようとせず、法改
正に関する国会審議の場でも、原則の適否が
正面から議論されることがなかった」と指摘
し、法の規定を明解にすべきとの考えを示し
ました。
(政策部担当理事 鈴木 伸和)