業界トップクラスの生産性を誇る御堂筋税理士法人 その経営の秘密に迫る

INTERVIEW
業界トップクラスの生産性を誇る御堂筋税理士法人
その経営の秘密に迫る
御堂筋税理士法人 代表社員 税理士 小笠原士郎
代表社員 税理士 才木 正之
御堂筋税理士法人(大阪市中央区)は、
「Solution
(問題解決)& Accompany(伴走)」をスローガ
ンに掲げ、中小企業の経営支援と計画実行管理に
力を注いでいる。十数名のスタッフの半数以上が
税理士有資格者という少数精鋭のコンサルタント
集団であり、1 人当たりの生産性が極めて高い税
理士法人として知られる。全国の会計事務所が集
ってナンバーワン事務所を決める「会計事務所甲
子園」では、決勝大会まで勝ち残った。そのプレ
ゼンテーションで発表したのが、「御堂筋流会議」
と呼ばれる独特の社内会議法。長年の試行錯誤を
経て生み出されたツールを用い、徹底的な目標管
理、行動管理を行い、会議を運営。目標とゴール
を定めることで、ブレない会議を実現している。
代表社員の小笠原士郎氏(写真右)と才木正之氏
(同左)に、高い生産性を誇る御堂筋税理士法人の
運営方法と、「御堂筋流会議」の仕組みについてお
話を伺った。
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INTERVIEW 業界トップクラスの生産性を誇る御堂筋税理士法人、その経営の秘密に迫る
会計事務所甲子園に参加して
得られたこと
︱︱ 御堂筋税理士法人は、全国ナンバーワン
事務所を決めるイベント﹁会計事務所甲子園﹂
スタートでしたが、有資格者を中心に少しずつ
開業した個人事務所が始まりです。3人からの
きました。このイベントに参加することで、少
なか名前が認知されず、社員の採用で苦労して
もあり、組織としてのゴーイングコンサーンを
が8人です。会社として体制が整ってきたこと
た。
年に税理士法人化しました。
ずは、事務所の沿革からお伺いします。
法人の経営方針、運営の仕組みに迫ります。ま
度がうなぎ上りです。本日はその御堂筋税理士
人当たりの生産性も業界トップクラスと、知名
法による所内会議﹁御堂筋流﹂に加え、職員1
会でプレゼンテーションされた、独特の運営方
また、御堂筋税理士法人に商号変更後、なか
ンに共鳴したのがひとつです。
才 木 ま ず、﹁ 共 に 学 び、 共 に 成 長 し、 共 に 元
気にする﹂という会計事務所甲子園のスローガ
ったのでしょうか。
を進めたわけですが、参加を決めた理由は何だ
︱︱ 会計事務所甲子園では、書類審査、面談
審査、地方大会を経て、見事、決勝大会まで駒
きました。
強みなどについて、じっくり再考することがで
析手法︶、経営戦略、フレームワーク、自社の
才木 ひとつは、われわれが今まで取り組んで
きたことを振り返る機会が得られました。SW
OT分析︵目標を達成するための意思決定の分
︱︱ 副産物とは、どのようなものでしょうか。
本当によかったと思っています。
小笠原 当事務所は平成3年、私の独立に伴い
ているのではないかと思います。
ないだけに、感動が増幅されるのでしょう。そ
た。会計事務所業務にはアクティブな要素が少
ッフの姿を見て、感動で涙が出そうになりまし
ことで、壇上でプレゼンテーションをするスタ
者がリスタートするといったケースが多いです
ません。新規の場合、オールドビジネスの後継
小笠原 %です。当事務所は基本的に、起業
家やアーリーステージの方を顧客対象としてい
︱︱ ちなみに自計化率はいかがでしょう。
がつくる資料より数段優れたものでしたが、そ
料を見せてもらったことがあります。われわれ
小笠原 2年前に訪ねてこられたある社長さん
から、顧問税理士がいつも出してくるという資
︱︱ 巡回監査を形骸化させず、きちんと経営
者と向き合って、経営について話し合われてい
こが会計事務所甲子園の素晴らしさです。多く
ね。
れは会計事務所の自己満足にすぎない。私が求
生産性は上がらない
︱︱ 貴社は、1人当たりの生産性が高い事務
所としても知られています。現在の売上はどれ
くらいですか。
なければできませんし、長年の研究と試行錯誤
も必要です。
マーケティングや生産革新といった分野はも
ちろん、経理の改善、人事制度、組織変革など
す。
の部分まで対応できるようになることが理想で
1700万円くらいでしょうか。
︱︱ 税務とコンサルティングの売上比率はど
れくらいですか。
小 笠 原 今 年 の 売 上 が 約 2 億 4 0 0 0 万 円
で、 ス タ ッ フ は 名 で す か ら、 1 人 当 た り
︱︱ 平 均 的 な 会 計 事 務 所 職 員 の 生 産 性 は
800万円前後ですから、倍以上という驚異的
ひ けつ
な数字です。秘訣は何でしょうか。
の社長さんは﹁こんなことは分かっている。こ
おっしゃ
めているのはこんなものじゃない﹂と仰るので
お客様と「一緒に考える」という
高いコミュニケーション能力
︱︱ 高い生産性を実現するために、貴社では
スタッフにどのような指導をされているのです
か。
小笠原 当事務所は、有資格者を中心に採用し
ているため、税務の勉強は短期間で済みます。
その分、経営に関する勉強に多くの時間を割く
ことができます。
また、月次決算において社長とコミュニケー
トすることを、スタッフの第一の使命としてい
%くらいになりそうです。
小笠原 月次決算で経営者としっかりコミュニ
ケーションを取っていれば、自ずとニーズが引
るので、必然的に経営計画や人材育成といった
%対
るかどうかは、経営コンサルティングがどれだ
き出されますから、それに対してご提案してい
ソリューションに進んでいきます。そうなれば、
高まり、
才木 税務が6割、コンサルと教育事業を合わ
せて4割です。今年はさらにコンサルの比率が
小笠原 税務は市場価格があり、それ以上伸ば
すことは困難です。当事務所は原則として記帳
けできるかにかかっていると思います。
く形で、無理なくコンサルティングに移行でき
代行をしない方針ですから、生産性を高められ
パートさんなどはあまり使わず、コアスタッ
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るのですね。
の先生方にエントリーをお勧めしたいですね。
︱︱ お客様の経営支援をサービスの中軸とさ
れているわけですね。
す。その言葉が忘れられません。
コンサルティングを軸に据えなければ、
小笠原 支援というより、一緒に問題を解決し
ていくスタンスです。これは明確な意志を持た
おの
フだけで仕事を回しているので、自ずとそのよ
考え、平成
準優勝という期待以上の成果が得られただけ
でなく、素晴らしい副産物もあって、参加して
スタッフを増やし、現在は
しでも知名度が上がればという期待もありまし
御堂筋税理士法人代表社員、税理士。昭和27年
生まれ。昭和51年、大阪大学経済学部経営学科
卒。久保田鉄工株式会社(現株式会社クボタ)
退社後、大阪市内の税理士事務所入所。昭和60
年12月に税理士試験合格。平成3年6月、大阪市
天王寺区にて開業。翌年11月、大阪市中央区に
移転。平成7年9月、現在地に移転。
人のうち有資格者
■小笠原 士郎(おがさはら・しろう)
うな経営になっていきます。
の第1回大会で、決勝大会まで進みました。大
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もうひとつの副産物は、スタッフに著しい成
長が見られたことです。これは本当に想定外の
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INTERVIEW 業界トップクラスの生産性を誇る御堂筋税理士法人、その経営の秘密に迫る
小笠原 そのとおりです。私は日頃﹁社長にも
しものことがあったら、代わりに経営できるよ
︱︱ スタッフ一人ひとりが、お客様の会社の
一員として経営問題を考えているわけですね。
れるという仕組みです。
ドですから、﹁一緒に考える﹂ポジションにな
れが生まれます。ここまで来れば半分インサイ
お客様の社内会議にも参加するという自然な流
積み重ねがノウハウを培い、分からないことは
もちろん、成功例ばかりではありませんし、
たびたび痛い目にも遭いました。しかし、その
います。
とは、一緒に考え、実践していきたいと思って
専門分野に関わることで、自分たちにできるこ
なスタンスをとりたくないのです。われわれの
れが間違いだとは言いませんが、私はそのよう
う﹂と返す税理士先生もいらっしゃいます。そ
賜物だと思います。
客様の会社の経営者、幹部、若手を問わずコミ
かについてです。当事務所のスタッフが今、お
係であり、いかに組織を開発し、活性化させる
的なことだけでなく、人と組織の力学や人間関
のは、マーケティングや人事制度といった技術
は模倣しにくいと思います。私が研究してきた
御堂筋流会議のノウハウを
クライアントと会計事務所へ提供
たまもの
ュニケートできているのは、そういった研究の
うになれ﹂とスタッフに言っていますし、私自
とことん探求するという精神風土を育み、今日
の御堂筋税理士法人をつくり上げてきたのです。
共有することで、円滑な会議を実現しています。
会議促進技法﹁ファシリテーション﹂を全員が
また、組織開発の第一人者である組織デザイ
ン研究所の本山雅英所長に教えていただいた、
化した6カ月シートです。
績検討資料であり、後者は経営課題を目標管理
表、ネットワーク管理表、チーム別・個人別目
す。前者は経営実績報告書、品質改善課題管理
特に、﹁経営のコックピット﹂と﹁アクショ
ンナビ﹂は、﹁御堂筋流会議﹂に必須の資料で
の会議です。
オリジナルツールを用いて情報を共有し、各人
のコックピット﹂﹁アクションナビ﹂といった
小笠原 ﹁御堂筋流会議﹂は、経営計画の実行
もう
管理のための仕組み、﹁ けのカーナビ﹂﹁経営
さい。
われても、﹁それはそちらが考えることでしょ
うアレンジするかが
ピット﹂を、クライアントの事業に合わせてど
〝見える化〟するためのツール﹁経営のコック
実は、これらのツールはクライアントにもご
提供しています。その際、企業活動の全体像を
ムの形がより明確になりました。
う言葉まで生まれ、この体験を経て、プログラ
への取り組みを通じて、﹁会議の仕組み﹂とい
ころ、大変評価されました。会計事務所甲子園
てご紹介しました。若手スタッフで実践したと
才木 会計事務所甲子園でも、これら3つのツ
ールを、われわれが試して成功したやり方とし
ながるのですから。
問して提言やアドバイスをするときの自信につ
あり、最も重要なことです。それがお客様を訪
小笠原 フィードバックを受けてものを考える
ことが、経営の発展と人間の成長には不可欠で
︱︱ 確かに、その資料をつくることで自分自
身も整理ができますね。
課すのです。
となります。さらに、そ
忙しくてもやるべき仕事のひとつとして社員に
に手を抜いてはならないと思います。どんなに
ることだ﹂と言っています。私も、そこは絶対
小笠原 ですから、われわれが行っていること
す。
ミナールームで、定期的に開催していく予定で
始めました。場所は、経営エンジン研究所のセ
けの見学会の形で、﹁御堂筋流会議﹂の公開を
の発展に寄与できればと思い、会計事務所様向
をいただいています。
才木 おかげさまで、お客様と会計事務所様の
双方から、対応しきれないほどのお問い合わせ
か。
︱︱ 会計事務所甲子園以降、同業者からの問
い合わせもかなり増えているのではありません
供できればと考えています。
営方法を学んでいく。そのようなサービスが提
を﹁実行﹂︵アクション︶しながら、会議の運
でいただく。模擬的にでも、一緒になって会議
し な い と 思 い ま す。 で す か ら、﹁ コ ッ ク ピ ッ
才木 アクションラーニングという言葉を、わ
れわれは好んで使うのですが、﹁学ぶ﹂と﹁実
ースウエアまで提供されているのですね。
にアレンジした上で、活用の仕方、いわゆるユ
︱︱ 作業レベルのノウハウではなく、信頼関
係で顧問料が担保される世界の話ですね。
ませんか。
れらのツールを使った会議に、当事務所のスタ
︱︱ 会計事務所甲子園で反響を呼んだ﹁御堂
筋流会議﹂とはどのようなものか、ご説明くだ
小笠原 確かに﹁あれだけの資料をつくるのは
大変ではないか。逆に生産性が落ちるのではな
ッフも参加して、﹁一緒に考えていく﹂わけで
ページを超える膨大な業
を発揮できるようプログラムされた全員参加型
標管理シートなど、
︱︱ ページ以上とはすごい量ですね。資料
の作成だけでかなりの時間がかかるのではあり
そこで、この﹁会議の仕組み﹂を多くの会計
事務所業界の方々と共有し、少しでも中小企業
ト﹂を一緒につくることを通じて、思想も学ん
践する﹂が一体にならないと、﹁理解﹂に到達
い か ﹂ と、 よ く 質 問 さ れ ま す。 し か し、 P・
す。
が限られた時間の中で最大限のパフォーマンス
F・ドラッカーは、﹁小さな企業がなすべき3
﹁売上を上げるにはどうすればよいのか﹂と問
社長さんに﹁利益を上げなさい。そのために
は売上を上げなさい﹂と言うのは簡単ですし、
身がそうありたいと思っています。
御堂筋税理士法人代表社員、税理士。大阪生ま
れ。大阪府立大学経済学部経済学科卒。平成6
年、税理士小笠原士郎事務所に入所。入所後10
年間は税理士業務、財務コンサルティング業務
を中心に行い、その後は、税務業務全般と企業
組織変革、営業チームマネジメントコンサルタ
ントとして業務を遂行。またセミナー講師とし
ても三菱東京UFJリサーチ、大阪商工会議所等
に登壇。現在は、御堂筋税理士法人代表社員
(COO)として、組織のマネジメント業務も行
う。
︱︱ ツールを提供するだけでなく、お客様用
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■才木正之(さいき・まさゆき)
つのうちのひとつが、経営管理情報体系をつく
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きは、製造業の生産性アップです。既に、そち
らかた終わっています。そこで、今後注力すべ
ただひとつ言えるのは、御堂筋税理士法人は
実験場だということです。ここでまずビジネス
ます。
らを専門とする先生とも提携しました。いずれ
の仕組みを導入したいという事務所様には、私
にご覧いただきたいと思います。その上で、こ
りでも多くの会計人の方に、会議見学会で実際
﹁百聞は一見に如かず﹂といいますから、ひと
くの方に知られるようになりました。しかし、
才 木 会 計 事 務 所 甲 子 園 を き っ か け に、 メ デ
ィアにも取り上げられ、﹁御堂筋流会議﹂も多
︱︱ 最後に、御堂筋流会議も含めた、貴社の
今後の事業展開について伺います。
ら、私自身は﹁新製品の研究開
ろですが、引き継ぎが完了した
また現在、会社の経営移譲を5年計画で進め
ています。2年目に入ったとこ
ていきたいと考えています。
ーする形で、中小企業をトータルにサポートし
分は専門の先生方とネットワークを組んでカバ
コンテンツがおおむねそろいます。足りない部
して組織開発、人事制度、内部管理制度などの
会計をベースに経営マーケティング、生産、そ
︱︱ 本日は、大変貴重なお話をいただきあり
がとうございました。
り組めると思います。
説得力を持ってコンサルティングビジネスに取
つまり、お客様の手本となって初めて、自信と
ャピタルゲインを得られるほどの組織にする。
考えています。御堂筋税理士法人を、社員がキ
新しい仕組みやツールの開発、
実験の場としての役割
たちが全力でサポートいたします。それがひい
発三昧﹂にふけりたいと、今か
は一体化することになるでしょう。そうなると、 として成功させて、利益を出すことが重要だと
ては、顧問先である中小企業の発展につながる
ら楽しみにしています。
商品の開発に加え、それらのツ
下記の日程でセミナーを開催いたします。
■7月11日㈮ 「御堂筋税理士法人●●●セミナー」
講師:才木正之先生
会場:実務経営サービスセミナールーム
■9月4日㈭ 「御堂筋税理士法人見学会」
講師:小笠原士郎先生、才木正之先生
会場:御堂筋税理士法人(大阪市中央区)
詳細は、実務経営サービスホームページ(http://www.jkeiei.
co.jp/)をご覧ください。
また、御堂筋税理士法人では、偶数月月初に会計事務所
向け「御堂筋流会議のしくみ見学会」を実施しています。
し
と信じ、ぜひご協力させていただきたいと考え
︱︱ 事業全体としては、どのようなビジョン
を描かれていますか。
人にご活用いただくことで、中
で検索してみてください。
ています。
小笠原 この 年、マーケティングに取り組ん
できました。まだまだとはいえ、こちらでは自
小企業全体の底上げにつながる
御堂筋 会議見学会
☜
︱︱ 小笠原先生は既に多くの
ツールを開発されています。新
動的にお客様が増える仕組みが出来上がりつつ
のではないでしょうか。
ご興味のある方は、
ールをより多くの経営者、会計
あります。今後は、人材をより充実させ、さら
方々のご協力を賜りたいと思い
なる事業展開を図っていくつもりです。
小笠原 その点については、わ
今、税理士・会計事務所業界を含め、製造業、 れわれはまったく力不足ですの
自動車整備業、工務店その他の重点業種をピッ
で、より多くの先生方、業界の
クアップしていますが、それらの商品開発はあ
セミナー開催のご案内
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