イタリアのアルベルゴ・ディフーゾの

公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.14, 2016 年 2 月
Reports of the City Planning Institute of Japan, No.14, February, 2016
持続可能なツーリズムをとおした集落再生の取り組み
-イタリアのアルベルゴ・ディフーゾの取り組みを事例として-
Approach to Rural Regeneration through Sustainable Tourism
: A Case of Albergo Diffuso which is a model of original hospitality and sustainable development in Italy
松 下 重 雄※
Shigeo Matsushtia
This paper is outline of a case of Albergo Diffuso which is a model of original hospitality and sustainable development of
small historical villages in Italy. A Feature of this approach is to create a sustainable community through a way of
conservation use of area resources and implementation of tourism. It is ideally based on authenticity of the environment and
an innovative system of rural regeneration.
Keywords
農村集落再生、サステナブル・ツーリズム、アルベルゴ・ディフーゾ、地域経営
Rural Regeneration, Sustainable Tourism, Albergo Diffuso, Local Management
に関する諸研究の蓄積が図られている5。
1.はじめに
少子高齢化・人口減少が進展する社会環境のもと、と
こうしたことを背景に、本稿では、AD の取り組み実
くに地方の中山間地域など、集落レベルにおける持続可
態を把握するため、主に海外の文献調査で得られる知見
能なまちづくりのモデルを見出すことが社会的な課題と
を再整理し、今後の AD に関する研究の基礎資料とする
なっている。本稿においては、こうした課題に対応した
ことを目的とする。
モデルの一つであるイタリアのアルベルゴ・ディフーゾ
2.アルベルゴ・ディフーゾとは
(Albergo Diffuso)(以下、AD とする)の取り組みを採
(1)アルベルゴ・ディフーゾの特徴
AD とは、過疎高齢化の進展するイタリアの地方の小
り上げる。
AD は、直訳すれば「分散型ホテル」を意味する。すな
集落において展開されている、地域再生および観光まち
づくりの取り組みである。
わち、集落内に点在する空家を宿泊施設として再生利用
するとともに集落全体をホテルと見立てた地域経営のし
くみであり、持続可能な観光まちづくりのモデルとして
注目されている。AD の試みは、まちづくりコンサルタ
ントのジャンカルロ・ダッラーラ氏(現 AD 協会会長)の
発案により、1980 年代初頭より取り組まれたものである
が1、現在ではイタリア全土に広がるとともに、近年高く
評価され2、ポルトガル、スペイン、クロアチア、スイス、
(描画:渡辺康氏)
スロベニアなど近隣のヨーロッパ諸国にも展開しつつあ
図1
る。
アルベルゴ・ディフーゾのイメージ6
わが国においては、これらの取り組みについては一部
のメディアや一般書籍で紹介されてきたが3、とくに近
その特徴の第一は、集落全体をホテルという経営体に
見立てた、新しい地域経営のモデルの構築である。宿泊
年、北海道地方で地域活性化策として導入が検討される
など 、地域再生の手法として日本型の導入方策を見出
施設として再生された地域内に点在する空き家を宿泊施
すことへの期待が高まりつつある。
設として再生させたものを核とし、地域内に配置された
4
AD に関する先行研究は、日本国内においては少なく、
受付機能、飲食機能、生活サービス機能、地域ビジネス
山崎による AD の概要紹介と日本国内への適用に関する
等の諸機能と一体なって地域経営をおこなっていこうい
考察、渡辺らによる AD の運営および改修方法に関する
うものである。それらの諸機能は、既存の諸施設であっ
事例研究などが近年おこなわれている。また、国外にお
たり、新たに起業されるものであったり、地域の多様な
いてはイタリアを中心とするヨーロッパ諸国において、
主体の協働によって実現される。
持続可能なまちづくりやツーリズムの観点からみた AD
* 正会員
第二の特徴は、独創的で新しいホスピタリティのモデ
長野大学環境ツーリズム学部 (Nagano University)
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② 統一的なマネジメント組織
ルの提供という点にある。AD を利用する訪問客は、新
規に建てられたホテルではなく、地域環境に馴染んだ住
AD に取り組みたいとする起業家あるいは組織体に
居のままの宿泊施設に滞在することで、観光客としてで
よって全体が運営されること。一般的には協同組合
はなく、一時的な地域住民として地域に存在する(being
方式が多いが、地域に適合した運営スタイルを選択
local)ことになる。このことが独創的で真正性のある、
すること。
③ ホテルサービス
質の高い観光プログラムを提供することになる。
第三の特徴は、こうした取り組みが、総合的には地域
受け付け・案内業務、家具備え付けの居室配備、室
の持続可能な発展のしくみのモデルとして構築されいて
内清掃など、一般的なホテルの基本的なサービスが
いる点である。小規模集落の再生に向けた小さな経済を
提供されること。また、受け付け・案内業務は、一
基調とする新しい地域経営モデルと、環境負荷の少ない
日あたり少なくとも 14 時間以上は保障される必要
地域資源の再生とネットワーク化を基調としたホスピタ
がある。
④
リティ・モデルの導入は、持続可能な観光まちづくり(サ
合理的な配置
ステナブル・ツーリズム)の新しいモデルとして位置づ
居室はいくつかの地域内の既存の建物に分散配置す
けられる。
る。それらは合理的な部屋数(イタリアの法律では
(2)AD のもつ二面性
全体で最低 7 部屋必要)を持ち、それらから 200 メ
AD の宿泊環境の特徴として「家にいるような感覚」
ートルの圏内に諸サービス機能が配置されること。
と「ホテルにいるような感覚」の二面性を備えている点
また、少なくとも 9 年間は、居室を AD として使用
が指摘されている(表 1)。すなわち、あたかも集落の一
できること。
⑤
員である「地域住民」として時を過ごしつつも、
「観光客」
飲食環境の提供
としてホテル滞在で得られる標準的なサービスも得られ
レストラン・サービスが宿泊施設の内側あるいは外
る環境が確保されている点に特徴がある。
側で提供されること。すなわち、地域内に飲食店が
あること。また、朝食が保障されること。
表1
⑥
アルベルゴ・ディフーゾのもつ二面性
家にいるような感覚
・丁寧で親切
・真正性
・標準的でない居室
・地域性と温かみのある
家具類
・細部への配慮
・地域との連携
・地域住民との交流
・日常の環境
生活サービスの提供
ホテルにいるような感覚
地域内で薬局や食料品店、日用品店など、最低限の
・プロフェッショナルな
生活サービスが得られること。また、レクリエーシ
ョン、スポーツ、文化的活動を体験できること。
サービスの提供
・効率性
⑦
・簡単な予約
魅力的な周辺環境
・異なる居室に応じた、
周辺地域が、豊かな田園環境、海・山などの自然環
さまざまな料金設定
境、遺跡などの文化環境に囲まれ、魅力的であるこ
・快適さ
と。また、それらの周辺地域の情報が容易に入手で
・幅広いサービス
き、移動も容易にできる環境が整備されていること。
・滞在客との接触
・プライバシー
⑧
活気のある開かれたコミュニティ
豊かで多様な地域住民の生活をベースに、地域コミ
(出典:参考文献1)
ュニティに活気があり、訪問客に地域が開かれてい
ること。すなわち、コミュニティが一体となってホ
(3)アルベルゴ・ディフーゾの条件
スピタリティを形成していること。
こうした AD について、複数の既往文献を踏まえ、そ
⑨
の成立条件を再整理すると、次のとおり、
「内発的な取り
真正性の確保
組み」「統一的なマネジメント組織」「ホテルサービスの
地域の独自性やまちづくりの革新性を備えながら、
提供」
「合理的な配置」
「飲食環境の提供」
「生活サービス
集落としての本物の環境が保持されていること。
の提供」「魅力的な周辺環境」「活気のある開かれたコミ
ュニティ」および「真正性の確保」の 9 点に集約される。
3.アルベルゴ・ディフーゾの立地
①
(1)アルベルゴ・ディフーゾ協会
内発的な取り組み
これらの AD の全国的な普及啓発とブランド価値を高
AD に取り組むアイデアが地域コミュニティの中か
ら生まれてきたものであること。また、それに対し
めるための全国組織が AD 協会(L’associazione
て、地域の関係者が進んで共に動くこと。
nazionale Alberghi Diffusi: Adi)で、AD 提唱者のジャン
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カルロ・ダッラーラ氏を会長として、2006 年に設立さ
整理すると表 2 のとおりである。イタリアの行政区分制
れた。
度の歴史的背景もあり、AD の立地するコムーネ人口は
最小で 81 人(Canosio)、最大で 80,857 人(Varese)の
AD 協会では、イタリア国内における AD の発展を図
るため、公的機関に対するロビー活動や資金獲得活動、
広がりをもつが、全体的には人口 2,000 人以下の小規模
広報活動、インターネットなどを活用した AD の予約シ
自治体に立地する割合が半数程度(46.4%)を占めるこ
ステムの構築、AD 間の経験交流の促進等をおこなって
とがわかる。
いる。
4.アルベルゴ・ディフーゾの運営
(2)アルベルゴ・ディフーゾの分布状況
2015 年度現在、AD 協会に登録された AD の数は 86 地
(1)AD と既存の宿泊施設機能の比較
区である(表 2)。2011 年度はその数が 35 地区であった
イタリアにおいては、歴史的な建物をホテル等を再利
ことから、約 5 年で約 2.5 倍の増加をみせている。
用する例は枚挙にいとまがない。また、いわゆるアグリ
分布状況は、イタリア全 20 州のうち北西部ヴァッレ・
ツーリズモに対応した農家民宿も数多く見受けられる。
ダオスタ州を除くすべての州に広がっている。地域的に
これらの伝統的ホテル、農家民宿と AD とを空間特性、
は中部4州に相対的に多く集中し(29 地区)、なかでも
運営形態より比較すると、表 3 のとおりである。
AD においては、その成り立ちからも地域コミュニテ
トスカーナ州(8 地区)やラツィオ州(9 地区)が多い。
また、離島部のサルデーニャ州(10 地区)にも多くの立
ィとの関係性が空間面および運営面の双方において強い
地がみられる。
ことが特徴である。空間的には、域内の既存の建物に分
(3)アルベルゴ・ディフーゾの立地する基礎自治体
散配置される AD は、必然的に地域環境に溶け込んだも
AD の立地する基礎自治体(コムーネ)とその人口を
のとなる。また、居室においても極力従来の環境を活か
した空間特性を保持しているようである。
表2
アルベルゴ・ディフーゾの地域分布(コムーネ別)
州
ピエモンテ
リグーリア
ロンバルディア
Casa Tomà
ADの名称
Masera
人口
1,566
Locanda degli Elf
Canosio
81
Muntaecara
Apricale
613
Relais del Maro
Borgo Maro
Borgo di Mustonate
Varese
Cascina di Nonna Teresa
Anzano del Parco
Mamma Ciccia
Mandello del Lario Lecco
Ornica
Torre Soca
トレンティーノ・Conte Ramponi
ヴェネト
コムーネ
州
アブルッツォ
868
80,857
1,787 モリーゼ
10,421
Ornica
159
ADの名称
コムーネ
Rocca di Mezzo
Sextantio
Santo Stefano di Sessanio
117
Borgo delle Fonti
Acquaviva Collecroce
663
Borgo Tufi
Castel del Giudice
343
Colle d'Anchise
815
La Sorgente
Macchiagodena
Locanda Alfieri
Termoli
Perbacco
Angelo Limosano
Lovere
5,345
Residenza Sveva
Termoli
2,178
Borgo di Castelvetere
Castelvetere sul Calore
カンパニア
1,530
La Piana dei Mulini
Magras di Malè
1,825
33,576
353
33,576
1,624
Albergo Diffuso Costauta
Costalta di Cadore
Convento San Basilio Relais
Amalfi
Albergo Diffuso Polcenigo
Polcenigo
3,157
Monopoli
Monopoli
フリウリ・ヴェ
Altopiano di Lauco AD-Paese Albergo
Lauco
Locorotondo
14,265
Borgo Soandri
Sutrio
744
1,351 プーリア
Sotto le Cummerse
ネツィア・ジュ
Trulli Holiday
Alberobello
10,790
リア
Forgaria Monte Prat
Forgaria nel Friuli
1,796
Trullidea
Alberobello
10,790
Sauris
Sauris
421
Vecchia Mottola
Mottola
16,116
Al vecchio convento
Portico di Romagna
772
Albergo diffuso Villa Rosamaria
San Chirico Raparo
エミリア・ロ
Casa delle Favole
Ferriere
1,336
La Grotta dell’Eremita
Castelmezzano
マーニャ
La Rocca
Brisighella
7,689
Le Costellazioni
Pietrapertosa
Verucchio
10,065
Le Case Antiche
トスカーナ
ウンブリア
マルケ
ラツィオ
-
人口
Robur Marsorum
バジリカータ
5,167
49,246
1,093
816
1,056
Sextantio Le Grotte della Civita
Matera
Borgo Giusto
Borgo a Mozzano
7,093 カラブリア
Ecobelmonte
Belmonte Calabro
Borgo Medievale di Peccioli
Peccioli
4,861
Albergo diffuso Borgo Santa Caterina
Castiglione Di Sicilia
Borgo Mocale
Castelfranco di Sopra
3,098
Albergo Diffuso Scicli
Scicli
27,100
Il Borgo Dei Corsi
Ortignano Raggiolo
Il borgo di Sempronio
Semproniano
870
l Canto del maggio
Terranuova Bracciolini
La pietra antica
Villa Collemandina
Locanda Senio
Palazzuolo sul Senio
Borgo Badia
Badia San Cristoforo
Borgo Sant Angelo
Gualdo Tadino
Castello di Casigliano
Acquasparta
4,849
La Locanda del Prete
Gualdo Cattaneo
6,262
60,524
2,018
3,270
Home Hotels
Piazza Armerina
22,006
Le Case dello Zodiaco
Modica
54,651
Resort Borgo San Rocco
Savoca
1,746
1,354
Val di Kam
S'Antangelo Muxaro
1,395
1,168
Aghinas
Bosa
7,965
1,086
シチリア
12,388
15,367
La Malvarina
Assisi
Residence Antica Torre del Nera
Scheggino
28,266
Torre della Botonta
Castel Ritaldi
3,299
Albergo Casa Oliva
Bargni di Serrungarina
2,629
Antica Locanda La Diligenza
Borgo Pace
623
Il Castello
Monte Cerignone
683
サルデーニャ
474
La Loggia Relais
Gradara
4,862
Villa Tombolina
Montemaggiore al Metauro
2,907
Albergo Diffuso Crispolti
Labro
Borgo Vistalago
Trevignano Romano
384
5,703
Castello di Proceno
Proceno
La Locanda del Ditirambo
Castro dei Volsci
4,836
562
Le Costellazioni
Pietrapertosa
1,056
Locanda lo Specchio di Diana
Nemi
1,920
Sotto Le Stelle
Picinisco
1,219
Terrae Palliani
Paliano
8,336
Villa Retrosi
Amatrice
2,660
- 361 -
Antica Dimora del Gruccione
Santu Lussurgiu
2,412
Aquae Sinis
Cabras
9,247
Corte Fiorita
Bosa
7,965
Mannois
Orosei
6,993
Monte Granatico
Sadali
Omu Axiu
Orroli
Sardinna Antiga
Santa Lucia di Siniscola
948
2,325
11,526
Ses Benas
Tresnuraghes
1,185
Villa Asfodeli
Santu Lussurgiu
2,412
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表 3 AD と既存の宿泊施設機能の比較
比較項目
伝統的ホテル
建物(居室空間)の
観光客のために再デザイン
デザイン
プライベート空間
居室とバスルーム
農家民宿
オーナー、訪問客のためにデ
ザイン
居室とバスルーム
AD
居住者のためにデザイン
全体がプライベート空間
顧客(観光客)に
対する商品
通常、一棟の中層建築物の
一室
レセプション、掃除、レス
トラン、プロフェショナル
なサービスなど
ホテルのサービス・パッケ
ージと生産物
顧客と地域との接触
ホテル職員に限定
限定的(オーナーや宿泊客)
地域コミュニティの
関与
関与はほとんどない
間接的な関与
AD の運営に直接的に関与
経営形態
通常、企業経営
通常、家族経営
個人、協同組合など
収益性
収益性
収益性、地域コミュニティや地
域環境への関わり
企業の経営環境の発展と地
域貢献
個人の経営環境の改善と地域
連携
地域全体の活性化
居室の配置
提供されるサービス
求められる
アウトプット
求められる
アウトカム
通常、一棟の低層家屋の一室
レセプション、掃除、レスト
ラン、オーナーの個性による
サービスなど
民宿のサービス・パッケージ
と生産物
分散する街路沿いの建物の多様
な空間
レセプション、掃除、
(レストラ
ン)地域全体からの多様なサー
ビス
AD を含む地域全体のサービ
ス、生産物
直接的に地域コミュニティに接
触
(参考文献 7 および 10 をもとに、筆者により作成)
運営面においては、食事の提供をはじめ、地域からの多様
・
協同組合の資産が約 50 万ユーロに達成。
なサービス提供をとおして AD の運営が成立する。地域全体
・
AD を実施する集合住宅が、3 棟から 14 棟に増加。
で AD を運営するという方策をとおして、地域全体の活性化
・
(AD の宿泊機能でない部分も含めて)地区の集合住宅
の不動産価値が過去 3 年で 2 倍に増加。
を目指すことが AD 運営の特徴である。
こうしたことに加え、AD を伝統的ホテルと比較した際の
・
強みとして、環境負荷の低い整備プロセスによる質の高い観
光環境の創出、地域内における観光ネットワークの創出、地
協同組合として EU のファンドを約 73 万ユーロ獲得し、
地域内の集合住宅の修復や都市的環境整備に活用。
・
2007 年においては、AD それぞれの居室の年間平均稼働
域内における持続可能なツーリズムの発展および歴史的中心
日数が約 80 日であったのに対し、民間のいわゆる貸し
市街地の人口流出の低減に貢献すると指摘されている 。
別荘は年間 15 日平均。結果として、AD の年間の売り上
(2)AD の整備と運営
げ平均は、各々約 4,000 ユーロ。AD を構成するすべての
①AD の整備
宿泊施設が黒字を達成。
7
AD の整備にあたっては、いわゆる投資家・起業家が対象
・
地域の空き家となっている集合住宅や居室を購入あるいは借
りて経営者になるケースと、AD 事業に取り組みたいとする
AD の発展にともないクラブハウスとやレクリエーショ
ン・センター地域内に整備された。
・
地域住民が村から流出する傾向が逆転して、16 世帯の増
地域の複数の関係者がコンソーシアムを作り協同組合方式に
加。結果として、あちこちで子供の声が聞かれる環境が
よって運営するケースに大別される。また、いずれの場合も
うまれた。
地元行政が、インキュベーターとして創業段階の支援を行う
・
地域内に新しい小さなビジネスが生まれた。とくに村内
ことが多いようである。
で生産物を販売する果物や野菜の生産者、宿泊客に暖炉
②事例にみる AD の運営実績8
の薪を供給する木材加工業者などが活躍。
運営事例として、ラツィオ州の人口約 2,600 人のコムーネ
③AD 全体の利用者層
Amatrice にある AD の Villa Retrosi について紹介する。Villa
AD 協会等の実施した AD 全体の利用実態調査によると、
Retrosi の運営母体である La Conca Amatriciana 協同組合は
AD への滞在日数は平均で2~3 泊程度ようであり(ADI 2014)、
2001 年に Retrosi 地区の活性化を目的に設立され、AD の運営
比較的短期滞在の傾向にあるようである。利用者は国際的な
に 2002 年より取り組んでいる。AD 設立数年後の実績(2008
傾向が非常に高く、
滞在客の約半分の 47.4%が外国人である。
年)を示すと、以下のとおり、地域に対して大きな成果をあ
また、利用者層の多くはカップル層で約半分強の 54.8%、平
げている様子がうかがえる。
均年齢は 34 歳程度である。次にファミリー層(33.8%)
、競
・
協同組合のメンバーが、設立時の数団体から37までに
技者層(6.1%)と続き、70 歳以上の高齢者層はは全体の 3.2%
成長。
と少ない(JFC srl 2013)
。高齢者層の少なさは、AD 所在地へ
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のアクセシビリティに関連しているようである。
ービスに取り組むことによって、地域の活動全体が活性
④地域経済への影響
化する。
地域経済への影響の観点からは、AD の取り組みが地域で
・
地域にある空き家の所有者が、それらの歴史的資産をこ
活性化することによって、地域コミュニティで新しい雇用が
れまでとは異なった視点で見始める。すなわち「観光客」
創出される傾向にある。ある統計では、AD の地域において、
の視点にたってその資産の問題点を認識し、それらの解
一定期間に概ね 25%から 30%の就業率の増加がみられてい
決するために実践する。
るようである。これは、AD のスタッフ雇用をはじめ、AD の
・
AD の取り組みと効果的に連携することで収益をあげる
運営に関連する地域の建設業、地域の商店、その他の地域ビ
ことのできる、さまざまなサービス部門、農産加工物や
ジネスなどでの雇用や起業が生じたことによる。とくに AD
ワインなどの飲食部門、手工芸などのコミュニティビジ
のスタッフ雇用をみると、全体の 4 分の 3 の 75.8%が地元
ネス部門等における地域ビジネスの起業化が地域内で
採用されている(JFC srl 2013)
。
積極的に行われるようになる。
また、AD の立地する地域の人口動向をみると、ある一定
期間においては、平均 5%の増傾向にあるデータも得られて
5.おわりに
いる(JFC srl 2013)
。
本稿においては、文献調査にもとづき、イタリアの集落再
生モデルである AD について、全体像や特徴、運営実態、地
このように、AD によるまちづくりは地域への貢献をみて
とれるが、こうした成果を通じて、AD の運営への地域参加
域への波及効果など、その概要を整理した。
が促進される循環的なしくみが構築される。すなわち、ダッ
本稿で示したように、AD は集落に残る地域の歴史的資産
ラーラ氏が指摘するように 、以下のようなプロセスを通じ
を活かしながら環境負荷の少ない手法でまちづくり基盤を整
て地域内でさまざまな波及効果がみられることが AD の魅力
え、多様な主体が協働的に地域内で関わるツーリズム手法を
であると思われる。
導入することで、持続可能な地域社会の形成を図ろうとする
9
・
・
・
地域関係者が AD への取り組みを通じて、そのことから
ものである。その取り組みの理念的な特徴は、本物の環境に
得られる社会性や経済的価値の優位性や地域資源保全
こだわる「真正性」と小さいながらも地域に新しいしくみを
の大切さに気づく。
導入しようとする「革新性」にあると思われる。
AD の活性化にともなう行政需要が増すことにより、公
今後、この「集落まるごとホテル」というユニークな発想
共空間(コモンスペース、地域へのアクセシビリティな
を日本型にアレンジした観光まちづくりの導入が期待される
ど)や公共施設の充実化(図書館、スポーツ施設など)
ところである。こうした取り組みの一助となるよう、AD に
が図られる。
関して、とくに地域協働の運営体制の実態的な観点から研究
地域のさまざまな組織が新しい地域イベントや顧客サ
を推進することが、今後の研究課題として求めらよう。
1
1976 年 5 月北イタリアのフリウリ地方を襲った地震の震災復興の
取り組みの中から生まれたまちづくり。
2
2008 年には国連開発計画の Europian BICs Network コンテストで
グランプリ、2012 年にはワールド・トラベルマーケット(ロンド
ン)にてグローバル賞(観光部門)を受賞している。
3
参考文献 3, 5 などに詳しい。
4
北海道経済産業局が推進する「ドゥーチエ・プロジェクト」にお
いて平成 27 年度より日本版アルベルゴ・ディフーゾの導入が検討さ
れている。
5
参考文献 7, 9, 11, 12 をはじめ、多くの研究蓄積がある。参考文献
7)に詳しい。
6
参考文献 8) からの抜粋。描画は、1) の渡辺氏による。参考文献
1)には AD の実態調査による空間配置図が詳しい。
7
参考文献 11。
8
参考文献 11。
9
参考文献 11。
(参考文献)
1) 渡辺康ほか:イタリアの集落の空き家再生における運営と改修
の調査研究‐アルベルゴ・ディフーゾの事例,日本建築学会学
術講演梗概集 2015(農村計画),pp.101-102,2015.9
2) 山崎雅夫:イタリアの新たな形態のホテル「アルベルゴ・ディ
フーゾ」~その概要と北海道での導入について~,NETT No.88,
北海道東北地域経済総合研究所,pp.34-37,2015
3) 島村菜津:スローシティ 世界の均質化と闘うイタリアの小さな
町,光文社新書,2013.3
4)
宗田好史:なぜイタリアの村は美しく元気なのか‐市民のスロ
ー志向に応えた農村の選択,学芸出版社,2012.8
5) 陣内 秀信:イタリアの街角から スローシティを歩く,弦書房,
2010.6
6) NHK・BS 番組『よみがえれ過疎の村〜イタリア』
「こだわりラ
イフヨーロッパ」2006
7) Teresa Villani,Giancarlo Dall’Ara: L’Albergo Diffuso come
modello di ospitalità originale e di sviluppo sostenibile dei
borghi, TECHNE 10, Firenze University Press, pp.169-178,
2015
8) Giancarlo Dall’Ara : What is an Albergo Diffuso?,
http://www.albergodiffuso.com/, 2015.9
9) Cinzia Vallone et al.: Sustainability and Innovation in
Tourism Services: the Albergo Diffuso Case Study, Eurasian
Journal of Social Sciences, 1(2), pp.21-34, 2013
10) Amele Racine: Albergo Diffuso:An Alternative form of
Hospitality, tourism intelligence, 2012
11) Marinela Dropuli et al.: Albergo Diffuso Hotels - A Solution to
Sustainable development of Tourism, Knowledge for
Sustainable Development, 27th International Conference on
Organizational Science Development, pp.607-617,2008.3
12) Giordano Dichter, Giancrlo Dall’Ara: Albergo Diffuso Developing Tourism Through Innovation and Tradition,
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Cooperation, 2008
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