2 0 8 放射光第 11 巻第 3 号 (1998年) るトリアシルグリセロール単成分 における結晶多形現象の解明 聡ぺ湊明義*ぺ矢野淳子* 慶幸料ぺ佐藤清隆* *広島大学生物生産学部,料ニッポンリーバ B.V. ,料キ東京大学大学院工学研究科 o fP o l y m o r p h i c Sy阻む柱。盟畏adiatio盟玄闘関y Di賀ractio設 Study a System 認闘義務i困窮ry 関i対韓首es Syste翻 s i盟主宮iacylglycerols SatoruUENO ヘ Akiyosbi MINATO 料, Junko YANO ヘ YosbiyukiAMEMIYA 料* and区iyotaka SA官。* ヤαculty 01AppliedB i o l o g i c a lScience, H i r o s h i m aUniversity , ヰ口~Nippon L e v e rB .V. , * * * F a c u l t y01Engineering, U n i v e r s i t y01Tokyo Polymorphicc r y s t a l 1 iz a t i o no ft r i a c y l g l y c e r o l(TAG), 808 , andt h ep h a s eb e h a v i o randm o l e c u l a ri n t e r ュ e e ne x a m i n e dw i t h a c t i o n so ft h eb i n a r ym i x t u r e so fTAGs , POP-PPP , POP-PPOandPOP-OPO , haveb s i n gs y n c h r o t r o nr a d i a t i o n(8R-TXRD). Fort h es t u d yo fs i n g l e at i m e r e s o l v e dX r a ydi飴action methodu s y s t e mo fTAG , twomainr e s u l t shaveb e e no b t a i n e d :( 1 )t h em e l tm e d i a t i o nw i t h o u tt h e r m a la n n e a l i n g g a v er i s et ot h ef o r m a t i o no fal i q u i dc r y s t a l l i n es t r u c t u r eh a v i n gl o n gs p a c i n gv a l u e so f5 . 1nmand4 . 6nm 2 )t h ef o r m a t i o nofl a m e l l a ro r d e r i n go f808o c c u r r e dmorer a p i d l yt h a nt h a to fs u b c e l lp a c k i n g . i n808 , ( nPOP-PPOandPOP-OPOmixtures , t h em o l e c u l a rcomュ Fort h es t u d i e so fb i n a r ym i x t u r e so fTAGs , i e v e a l i n gl e a s ts t a b l eformso fa l p h aandt h emoststa幅 poundsw e r eformeda tt h e1 : 1c o n c e n t r a t i o nratio , r b l ef o r m so fb e t a .I na l lforms , t h ec h a i nl e n g t hs t r u c t u r ewasdouble , makingac o n t r a s tt ot h et r i p l ec h a i n l e n g t hs t r u c t u r ewhichwasformedi nt h ea l lcomponentm a t e r i a l s .Consequently, t h eu s eo f8R-TXRDunω v e i l e dq u i t enewera s p e c t so ft h ep o l y m o r p h i cc r y s t a 1 l i z a t i o no ft h et r i a c y l g l y c e r o l sfromn e a tliquid , which weren o td e t a c t a b l ei nc o n v e n t i o n a IXRDt e c h n i q u e s . し 品形が現れ,機能性を有する結品多形が選択される 2,3) 。 はじめに トリアシルグリセロール(以下, TAG と略記)は,脂 例えば,チョコレートにおける安定型結品多形の V 型や マーガリンにおける準安定結晶多形 (ß') などである 4) 白 質の一種であり,グリセリン l 分子に 3 分子の脂肪酸が 工ステル結合した分子組成をしている(国1)。チョコレ これら脂質の機能性の本質を理解するためには,それぞれ ートなどの食用国体脂の主要な構成成分であり,生体中で の状態における脂質の構造や物性を調べることが必須であ は脂肪として体内 る。 TAG の場合は,結品多形現象の解明が極めて重要で れエネルギー源としての役割を あり,これを遂行するためには, (1)結晶多形構造の解析, 担っている九 一般に,脂質が機能性を発揮する状態では,エマルショ (2)結晶多形間の構造転移のダイナミクス, (3)結晶多形発生 ン,液品,結品,薄膜など,自己組織化された特定の分子 のカイネティクス,の 3 つの観点からの研究が必要であ 集合体を形成する。例えば,生体膜やリボソームなどの液 る。ここで, (3) のカイネティクスとは,結品化@融解挙動 品 2 分子膜がその好例である。 TAG においては,結晶多 や多形転移の速震論を指す。このうち,多形の時間的変化 形現象,すなわち同一分子の集合体に複数のさまざまな結 を伴う (2) と (3) の課題に対しては,これまで示差走査熱測定 *広島大学生物生産学部 干 739-8528 東広島市鏡山 1-4-4 TEL 0 8 2 4 2 4 7 9 3 4 FAJ{ 0 8 2 4 2 2 7 0 6 2 e.叩 8 (C) 1998 The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research 放射光第 11 巻第 3 号 2 0 9 (1998年) ( a ) ( a ) 狂2 C-O-R l R 2-O-CH 日2 C-O-R3 R1 . R2 . R3:a c y lc h a i n ( b ) I~ 内 C , C、 C , C'C , C'C , C、 C , C'C , C, C 点、c ム c , C'o' ÿ Hl C___円,C、円,C、内, C… C_, C… C,_,C、,C_ L しししし c C C 昨 ) ( o、 hu i s t e a r o y lc h a i n sI |oleoyl c h a i nI s u b c e l ls t r u c t u r e ç'c, c'c,c'c,c'C 同λC,C、C ,C'C, C, C 1 'C'-'CIも SOS(1 , 3-Distearoyl帥乙oleoyl胸glycerol) F i g u r e1, ( a )M o l e c u l a rm o d e lo ft r i a c y l g l y c e r o L ( b )M o l e c u l a rm o d e lo fSOS , 法 (DSC)5 , 6) ,開光顕微鏡観察7),従来の X 線源を用いた doublechainl e n g t h s t r u c t u r e t r i p l echainl e n g t h s t r u c t u r e . C h a i nl e n g t hstructure , s u b c e Ua n dl o n gs p a c i n g . F i g u r e .2 X 線回折法8 , 9) ,さらに中性子回折法 10 , 11) などを駆使した さまざまな研究が行われてきたが,多形転移の複雑さおよ TAG 分子の炭化水素鎖(脂肪酸鎖)の隣接する横方向の び時間的変化の速さなどを考慮すると,放射光を用いた時 引力相互作用が,炭化水素鎖のメチ jレ基末端どうしの縦方 間分割 X 線回折測定(以下, SR-TXRD と略記)が最も 向の相互作用より強いためである。ラメラの両端には,通 有効であると考えられる。このような理由から, 1990年 常,メチル基末端が位置する。このメチル基末端のつくる 代に入札油脂の物性研究の分野でも放射光が利用される ラメラ面に対する, TAG 分子軸の傾きを分子鎖傾斜とい ようになり,これまでに数例の興味深い研究成果が報告さ う。隣接するメチル基末端は向一平酷上にはないので,ラ メラ部に分子が垂誼に配向するのは不安定であり,安定な れている 12-21) 。 ところで, TAG の結晶多形現象に関する従来の研究 結晶構造では,分子はラメラ面に対して傾斜している。粉 は,高純度試料を用いて,単成分系で行われてきた。しか 末 X 線回折の格子定数で,ラメラの厚みに対応する f誌を しながら,実際の酉体脂食品は多成分の TAG からできて 長田間関と呼ぶ(図 2(a)) 。 いる。したがって実際的な課題にアプローチするために 鎖長構造とは, TAG 結品中の繰り返しの基本となる l は,単成分系から 2 成分系,さらにはより多成分の混合 ラメラ内に含まれる独立の脂肪酸鎖の数を指す。構成する 系における多形現象の解明が必須で、ある。 脂肪酸鎖の性質(炭素数や不飽和結合の数など)が向ーか 本稿では,まずココアバターの主成分の一つであり,代 あるいは類似の場合は, 2 鎖長構造,すなわち基本ラメラ 表的な TAG である SOS C1 , 3-distearoyl-2・oleoyl・'glycerol) 内には 2 本の脂肪酸鎖が含まれる鎖長構造をとる(密 2 の単成分系の多形転移, ( b ))。不安定な多形では 2 鎖長構造を形成する場合が多 とくに後述する「融液媒介転移」 の転移メカニズムの解明に関する話題を紹介し,次により い。一方,構成する脂肪酸鎖の炭素数の差が大きかった 複雑な TAG の 2 成分系の相挙動解明に関する話題を紹介 り,飽和脂肪酸鎖と不飽和脂肪酸鎖が混在する場合は,安 したい。なお,以後に述べる詳細な実験結果の理解を容易 定な結晶多形では 3 鎖長構造を形成する(図 2 (b)) 。 にするために,ここで TAG の結晶多形を要約する。 副格子構造とは, TAG 分子を構成する炭化水素鎖(脂 肪酸鎖)の,隣接する横方向の配列様式(1ateral 2 . TAG 結品多形 TAG の結晶多形構造は分子鎖傾斜,鎖長構造 Cchain l e n g t hstructure) および副格子構造 Csubcell s t r u c t u r e ) で特徴づけられる 22 ,23) p a c k i ュ ng) を指す(悶 2(a)) 。これは, TAG のみならず,脂肪 (図 2) 。 一般に, TAG 結品はラメラ構造を形成する。これは, 酸やリン脂質の結晶状態をも特徴づけており,脂質結品全 般にわたり,結品多形を区別するための重要な因子であ る。安定な結晶多形では, 3 斜品平行型 (T//) , 形では,斜方品垂直型 (0 j_)やヘキサゴナル型(狂)を 9- 2 1 0 放射光第 11 巻第 3 号 (1998年) とる。 一般に TAG の結品多形では,分子鎖傾斜,鎖長構造お よび剖格子構造の組み合わせで, α 型, β' 型および P 型の 3 つを基本多形として,分子構造の違いにより数種類の多 形が存在する。 α 型は, 2 鎖長構造で,副格子構造は狂型 である。最も融点が低く, TAG 分子が低密度に配列して おり,熱力学的に不安定な多形である。反対に , ß 型は最 も融点が高く,安定で, TAG 分子が最密に詰まった構造 である。鎖長構造は分子穏により異なる。副格子構造は す//型である。 β' 型は,熱力学的にはこの両者の中間に位 る多形で, α 型と β 型の中間の融点を有し, TAG 分 l i q u i d 子が比較的ゆるく配列した結品構造をもっ準安定状態であ 一一一 LCl -一一 LC2 る。鎖長構造は分子種により異なり,副格子構造は O ょ型 がその代表例である。 食用間体脂として用いられる場合,一般に β' 型が機能 的である o ß 型結晶では,分子が固く配列しているため溶 G けにくく,また粒径も大きくなるため,国体脂中の粗大な 結晶粒が形成される要因となり,食用国体脂の品質を劣化 させる 4,24) 。ただし,例外としてチョコレートが挙げられ る(これはココアバターの β 型結晶からなる) 25,26) 。 結晶多形の代表例として,本研究で用いた SOS の結晶 多形,鎖長構造,副格子構造および熱物性等を表作に, 結晶多形モデルを図 3 8 ,27) に示す。また, SOS の各結品多 形の熱力学的安定性を国 4 20 ) に示す。ここで G はギブスの 自由エネルギーを表す。図 4 の実線が結品多形を表す。 2 F i g u r e4 . Thermodynamics t a b i l i t yo ft h ef i v ep o l y m o r p h i ccrys帽 t a l sandtwol i q u i dc r y s t a lf o r m so fSOS. …一一 種類の破線については第 4 節で触れる。図 4 から明らか なように, TAG の結晶多形は,一般に単変形的 (monotropic) な系である 28) 。 測定条件 本研究では,高エネルギー加速器研究機構の放射光実験 施設 'Photon Factory' の BL-15A にて, SR-TXRD を行 v g a VvハU m児 川川 c a a M a n H 3 . った。分割時間は 10秒に統一して行った。波長は 0.15 nm である。図 5 に実験装置を示す。 TAG の結晶多形を同定 、、,,, m入 ロM41 問5 円。代人 、、.J , ハumv -UMP仏P - pω ‘、 pr ,t tl ミJa r' 域には,一次元位置敏感型比例計数管 (PSPC) を設置し 釦“ w V八 V E - n u v n U ・‘ 五 's ATt 円u 、 ( 2 8 ' "15-30 度)の伺時測定を行った。それぞれの角度領 ロ川一一 (28"'0.5-3 度)と広角領域 e anu する必要から,小角領域 た。ここで,小角領域の由折ピークから鎖長構造と分子鎖 傾斜を反映する長面間隔が求められ,広角領域の回折ピー α s o s y ゚ ' ゚ 2 β1 2 3 . 5 3 5. 4 3 6 . 5 41 .0 4 3 . 0 L lH h a i ns s p L ( n a o e m n m ) g E c b c e l l l e n g t h u ( K J / m o l ) 4 7 . 7 9 8 . 5 1 0 4 . 8 1 4 3 . 0 1 51 .0 4 . 8 3 7 . 0 5 7 . 0 6 . 6 3 6 . 6 唱伸一一回 w a t e r F i g u r e5 . I n s t r u m e n to fX r a yd i f f r a c t i o nw i t hs y n c h r o t r o nr a d i a ュ t i o ns o u r c ea tBL-15Ai nPhotonF a c t o r y . T a b l e1 . P h y s i c a lp r o p e r t i e so fSロS eolctzai)n t g p o l y m o r p h mp「 Temperature C o n t r o lBath 2 3 3 3 3 クから副格子構造を反映する短面間隔が求められる。な お,小角散乱測定用の PSPC はビームステーションに設 H れているものを用い,広角散乱用の PSPC は広 ( / / ) (ロ_ t ) ( T / / ) T / / より持参して使用した。両方の PSPC からの情報の取 り込みと保存には,瀬戸秀紀博士(広島大学総合科学部) により開発された制御用ソフトウェア (SANX) を用い -10- 放射光第 11 巻第 3 号 2 1 1 (1998年) 4 . 3 た。 試料の温度変化は,単成分系の多形転移の測定では温度 SOS における融液媒介転移 そこで,融液媒介転移のメカニズムを解明するため, 設定の異なる恒温槽を 2-3 台用意し,サンプルホルダー SOS を試料として, SR-TXRD を行った。 α 型からの融 に流す冷@温水を切り替えることにより行った。 TAG の 液媒介転移により,より安定な β' 型多形を出現させるた 2 成分系の相挙動の測定では,ゼームステーションに設置 め,図 6 (a) のような温度変化を行った 20) 。すなわち, されている X 線回折との同時測定用の DSC 装置の電気炉 50 C から 10 C へ急冷し α 型を出現させた後, α 型融点、 を温度制御に用いた。 (23.5T) 以上の温度に急速に加熱し, α 型を融解させ, 0 0 その融液からのより安定な多形 (ß' 型)を出現させた。 4 . 4 . 1 SOS 単成分系の多形較移 国 7 は,図 6 (a) の温度履歴により 30 C に加熱した際の 0 匝棺転移と融液媒介転移 多形転移の様子を観察した SR-TXRD プ口ファイルであ 図 4 のような単変形的 (monotropic) な系において, ある多形からより安定な多形への転移が生ずる場合, 2 る。図の l 本 1 本の回折線は 10 秒間の測定結果であり, 時間経過とともにグラブの下から上へと重ねて描かれてい 類の転移機構が存在する 29) 0 1 つは回相転移で,多形間の る。ただし,関を簡素化するため,回折線の半分は省略し 自由エネルギー差L1 G が駆動力となり,結品中の分子の てある。すなわち, 20 秒間隔で 10 秒間の測定結果を表示 再配列によって転移が進行する。もう一つは融液媒介較移 してある。図の左側は鎖長構造に,右側は副格子構造に対 4. 4nm , (melt幽mediated crystallization) である。これは,低融点 応する回折ピークを示す。 α 型に対応する 5.3 nm , 多形が融解し,その産後に高い融点をもつより安定な多形 0. 43nm , 0. 41nm が核生成し,結晶成長することにより生じる多形転移であ 途中で, α 型の融点 (23.5 C) を越えた‘直後に消失した。 る。この場合の転移の駆動力も,国相転移と同じく,自由 その後,広角側のプ口ファイルには回折ゼークが現れてい の回折ピークは, 30 C への加熱過程の 0 0 エネルギー差L1 G である。しかし,転移のポテンシャル ない。これは α 型が融解した後,融液状態であることを エネルギー障壁は,準安定多形の帯、解と安定多形の核形成 示している。しかし,小角側のプロファイルには, α 型に とその後の結晶成長である。一般に,融解のための活性化 対応する 5.3 nm , エネルギーは極めて小さいので,融液媒介転移の速さは, nm の周期性に対応する回折ピークが現れた。そして,急 4 . 4nm の回折ピ…クの消失直後に, 5 . 1 融解後に現れる安定多形の核形成とその後の結品成長で決 冷開始後約 10分で小角側のプロファイルに, 7.lnm の回 まると考えられる。 折ゼークが出現し,数 10秒遅れて広角側のプロファイル に, 4 . 2 融液媒介転移のメカニズム 0 . 4 5nm , 0 . 4 4nm , 0. 42nm , 0 . 3 8nm の回折ピークが 現れた。いずれの屈折ピークも ß' 型に対応している。そ TAG では,多形により,融液媒介転移が国相転移より して , ß' 型の出現とともに 5.1 nm の周期性に対応する屈 速い場合がある。両者の転移速度の差が何故生じるのかに 折ゼークは徐々に消失していった。この 5.1 nm の周期性 ついては,脂質一般の結品多形発現機構の解明を行ううえ に対応する回折ピークは,長周期構造の存在を示してい で興味ある課題である。また,工業的な応用の観点では, る。また広角備のプロファイルには回折ピークが現れてい 融液媒介転移は,食用田体脂の製造工程で特定の物性を示 ないことから,この長周期構造は液晶であり,その回折ピ す油脂多形を選択的に得るために利用されている。このよ ークの鮮明な様子からラメラ周期を持つスメクティック液 うな融液媒介転移のメカニズムについては,これまでに 2 つの仮説が提示されている。 一つは,融液中に何らかの構造が存在することである。 1972 年, Larsson は, X 線回折測定の結果から,融液媒 α幽crystall i z a t i on ( a ) 介転移において,スメクティック型の液品状態が融液中に α欄 melt ると提案した 30) (ここでは液晶説と呼ぶことにす (O 。 X 線回折32) ,電子顕微鏡観察 33 , 34) 等による結果を α幽crystallization ( b ) ( T t ) • A n n e a l i n g( 2 20C ) • 50 る)。その後,このモデルをめぐり, NMR31) ,中性子回 折 10 , 11) , • α-melt ( T t ) 40 もとに,多数の賛否再論が出されており現在も論争中であ る。 もう一つは,より不安定な多形の結晶中で,より安定な 多形の結晶核が形成され,不安定多形の結晶の融解後に, その結晶核を種結晶として液体状態から安定多形が結晶化 するという考え 35) (種結晶説と呼ぶことにする)である。 1 0 o 5 1 0 1 5 T I M E( m i n ) o 5 1 0 1 5 T I M E( m i n ) F i g u r e6 . Diagramso ft h etwot y p e so ft h e r m a lp r o c e s s e s .( a ) . w i t h o u tannealing, ( b )w i t ht h e r m a la n n e a l i n ga t22C 0 -11 2 1 2 放射光 第 11 巻第 3 号 (1998年) 門H 川町 H阿 O国 (広) agωト 包お何一 。。 )ω 回目白 (gg 。。否認言。g仏 出 25 20 1 5 1 0 5 。 1 .0 . 0 1 .5 2 2. 5 1 8 22 20 28(deg.) F i g u r e7 . SR-TXRDs p e c t r ao ft h e叶melt剛mediated t i o na t30Cw i t h o u ta n n e a l i n g( F i g .6 a ) . crystalliza四 0 F i g u r e8 . SR-TXRDs p e c t r ao ft h eα-melt刷mediated c r y s t a l l i z a ュ t i o na t30C w i t ha n n e a l i n g( F i g .6 b ) . 0 晶であると考えられる。すなわち, Larsson の提唱した融 より明らかとなった。このよ nm , 0 . 3 9nm の回折ピ…ク)が出現を始め, 30 Cへの加熱 うな 5.1 nm の周期性を持つ液晶状態 (LC1 と呼ぶことに で α 型 (5.0 nm , 0. 4 2nm の回折ピーク)の融解後も y 型 0 0 する)は, α 型からの温度上昇が 24.5T から 31 C の温度範 が成長し続けていることが明らかである。図 6(b) の温度 囲の時に観察された。 LC1 が現れた後に,温度上昇を続 履歴による,これまでの測定結果では, α 型融点直下の温 けた条件下での SR-TXRD の結果によれば, LC1 は約 度で放置(アニーリング)した時開が 5 分以上の場合, 32 C で融点を持つことが判明した。この結果を裏づける 図 8 と同様の結果が生じることが明らかとなっている。以 ように, α 型からの温度上昇が 31 C から 32.5 C の温度範 上の結果は, 22 C に放置している間に , y 型結品の種結品 0 0 0 0 西,すなわち LC1 の融点に近い温度範囲の時には LC1 は が生じ,その種結品から y 型多形が出現したことを表わし 現れず,急冷開始後約20 分で y 型が現れ,引き続いて β' ている。また, 5 分間あれば種結品が生じることも示唆し 型が現れた。さらに α 型からの温度上昇が 32.5 Cから 35 C ている。 0 0 の温度範囲の時には,図 7 とは異なり, 4.6nm の周期性 を示す液品状態 (LC2 と呼ぶことにする)が観察された。 図 7 および図 8 より, SOS の融液媒介較移のメカニズ ムについて,以下の 2 つのことが明らかとなった。 以上の結果より, LC1 と LC2 を考慮した,ギブスの自 ( 1 ) 融液媒介転移のメカニズムについて,これまで考え 由エネルギーと温度の関係を描くと図 4 のようになる。こ られていた 2 つの説,液品説および種結品説のどち こで,破線は LC1 と LC2 を表す。これによれば, LC1 らも起こり得る。 と LC2 ともに α 型と互変形的 (enantropic) な関係,す ( 2 ) 液晶および種結晶出現の相違は,温度履陸の相違に なわち低温領域で曲線が交差し,熱力学的安定性が逆転す よる。すなわち,急速に加熱した場合には液晶が発生 るのではないかと考えられるが,この実証は今後の課題で し,アニーリングした後に加熱した場合には種結晶が ある。 発生する。 図 8 は,留 6(b) の温度履歴により,国 7 の場合と同じ 0 上記の SOS の結果が,他の TAG にあてはまるかどう 30 C に加熱した際の SR-TXRD プロファイルである。図 かは今後の課題である。しかし,ごく最近になって, 0 1 - 7 の場合同様,図の l 本 l 本の屈折線は 10秒間の測定結 livon らは, SR-TXRD により,ココアバターの融液媒介 果であり,時間経過とともにグラフの下から上へと重ねて 転移で液品の存在することを報告している 21) 。ココアバ 描かれている。図 6(b) の温度履歴では, 50 C から約 10 C ターの主成分の l つが SOS である(ココアバターは へ急冷し α 型を出現させた後, α 型融点直下の祖度で 15分 SOS , POS , POP 開放置(アニーリング)した後に, α 型融点以上の温度に ことを考えると,ココアバターの液晶が本研究で示された 0 0 0 急速に加熱した。図 8 によれば,この場合は, 22 C に放 している間に, α 型の他に y 型 (7.3 nm , 0. 47nm , 0 . 4 5 という 3 種類のすAG の混合系である) SOS の液晶によるものなのか,それとも POS , POP とい う他の 2 種類の TAG も関係しているのか注目に値する報 -12- 放射光 第 11 巻第 3 号 213 (1998年) てまず形成され,続いてく 110) ,すなわち a s 軸方向の側方 告である。 パッキングがそろうことが明らかとなった。その他の 4 . 3 9nm , 0 . 3 8nm , 0 . 3 7nm) つの回折ピーク (0 .40 nm , 0 4.4 融液媒介転移における結品化の時系列 SR-TXRD によって,融液媒介転移における結晶化で の秩序化の時系列の確認は今後の課題である。 は,鎖、長構造の周期性の方が,副格子構造,すなわち 4.3 節および4 .4節の知見は,融液媒介転移の転移機構お TAG 分子の脂肪酸鎖の側方パッキングよりも秩序化が速 よび多形発現に関する秩序化過程のその場観察の軍要な結 いことが明らかとなった 20) 。 論であり,従来の X 線回折法や DSC などの熱測定法では 図 9 は,国 6 (a) の混度履歴で融液媒介転移により得ら 得られなかった全く新しい知見である。 0 0 れた戸'型を,その融点 (36.5 C) 以上の 38 C で融解させ た後の多形の経時変化を調べた SR-TXRD プロファイル 5 . 作用 である。図の構成は,図 7 および図 8 と同じである。ただ し便宜上, 10秒毎の回折線を間ヲ i いて, 8 本に 1 本(す なわち 80秒毎に 10秒の測定と向じ)の間隔で表現してい る o ß' 型の融液中から,より安定なん型多形の出現が観 れている。この図によれば,鎖長構造に対応する小角 散乱領域の回折ピーク (6.6 nm) が,副格子構造に対応 TAG2 成分混合系の相挙動および分子間相互 5 . 1 油指 2 成分混合系研究の意義 第 l 節に記したように,油脂の結晶多形現象に関する 従来の研究は,高純度試料を用いて,代表的な油脂分子, すなわち TAG の単成分系で行われてきた。しかしなが ら,実際の間体脂食品は多成分の TAG からできている. する広角散乱領域の回折ピーク (0 .46 nm , 0 . 4 0nm , 0 . 3 9 したがって突際的な課題にアプローチするためには,単成 nm , 0 . 3 8nm , 0 . 3 7nm) より約20分早く出現している。同 分系から 2 成分系,さらにはより多成分の混合系におけ 様の傾向が, SOS の他の多形 (β' 型)や, POP の 6 型, トリステアリン (SSS) の β' 型や β 型など,他の TAG の多形の出現においても観察された。この傾向は, SOS を例にとると, }'型よりも β' 型で 3 る多形現象の解明が必要不可欠であり,これまでさまざま な研究が行われてきた 36) 。 しかしながら, TAG 分子が 2 成分以上の多成分系で 比単成分系の特徴に加えて,混合系の相挙動が重なった また β' 型よりも β で著しく,安定多形になるほど,ラメラ構造の周期構造と 複雑な現象が発生し実験結果の解析が飛躍的に難しくな 副格子構造に対応する回折ピーク出現の時間差が大きい。 り,それにふさわしい実験方法を導入する必要がある。た さらに ~9 に示した SOSß2 型多形の場合,広角側の回 折ピークのうち 0.46 nm の回折ピークがその他の回折ピー とえば, トリパルミチン (PPP) とトリステアリン (SSS) のように準安定多形の α 型や β' 型では相溶する クの出現に先立って現れている。 0 .4 6nm の回折ピークは (miscib1e) が,最安定多形の P 型では分離して共晶 (eu欄 副格子の b s 軸方向(図 2(a)) の繰り返し周期に対応して tectic) おり,脂肪酸鎖間の側面方向のパッキングは b s 軸に沿っ となる 14,36) 。 また, Engs坑trom はv ま SOS と SSO (は1 , 2-dis坑te 悶 aroy 討 7刈l幽3 与“oleωoy 討1:嗣-閉 r が , ß 型で分子化合物 (molecular compound) を形成す COZEE&gトo 仲町出。(口比ロ) ると報告している 3初 7η) 。従来の示差走査熱測定 (ωDSC) を 主体とした混合系の栢挙動の解析では,このような複雑な 挙動を分子レベルで正確に理解することはむずかしい。 そこで,我々は混合系の相挙動を解明するための研究手 として, 2 成分混合系の最安定多形と準安定多形の相挙 動の解析のために, DSC および SR-TXRD を用い 38) , 2 成分混合系の微細構造の解析のために,赤外分光法 (FT IR) を用いた。用いた TAG は, 7 0 dipalmitoyl-2-o1eoyl-glycerol), 6 0 PPP , POP (1 , 3醐 PPO (1 , 2-dipalmitoylふ oleoyl幽rac幽glycero1) および OPO (1 , 3-dio1eoyl・与palmitoyl 50 glycerol) である。いずれも食用国体脂に含まれる代表的 4 0 な TAG で, 3 0 とくに POP と PPO は,食用油脂や石鹸な ど多用な用途のあるパーム油(榔子油)の主成分である。 20 1 0 5 . 2 POP-PPP 系 17) 。 1 .0 . 0 2. 5 1 .5 2 1 8 20 この混合系は,国相において 2 成分が互いに混ざり合 22 2 8( d e g . ) わない偏晶相 (monotectic phase) を形成していた(図 p e c t r ao fβ2 c r y s t a l l i z a t i o nf r o mβ二melt a t F i g u r e9 . SR-TXRDs 0 3SC . 10) 。そして POP 50% 以下の濃度領域においては,多形 が α 型から直接 P 型へ転移し, POP50% 以上の濃度領域 -13- 2 1 4 第 11 巻第 3 号 放射光 ( a ) POP PPP 80 PPO POP L iquid(し) ε40 乞 60 (1998年) 0 L鵬 コ . . . ω 0 L四 コ . . . 40 ~ 。 国 ~ 30 為問 。 明・ (1 )三三J〆二一:ぞ)・・・-ー ß'ppo 十戸c 0 c _ ト ε20 ßc 十戸POP 0 ト 。 0 o 20 40 6 08 01 0 0 , 、 では α 型から β' 型を経て β 型に転移することが明らかに az/ 、、 JSE 竃1 F i g u r e1 0 . Ak i n e t i cp h a s ed i a g r a mo fPPP-POPm i x t u r e . ( 1 ):゚'pPO+し (2) :゚POP+し hυ POPC o n c e n t r a t i o n(%) 2 0 40 60 80 1 0 0 POPconcentration(%) POP PPO 40 。 なった。すなわち, POP と PPP の混合系では,いずれの 。 、同〆 O L酬 多形状態においても相溶せずに,独立した結晶化挙動を示 コ ~ 20 すことが判明した。 0 0 . . ε 5 . 3 芝 10 POP-PPO 系 18) αppo+αc 図 11 は, DSC 測定により作成された POP-PPO 2 成分 。 おける相図である。図 11 (a) は,最安定状態 (β 形)における相図である。 POP と PPO が 1 。 :1 の割合で 20 40 60 80 100 POPconcentration(弘) 分子化合物が形成されることが確認された。この分子化合 物の P 型の融点は 3 1. 2 C で,また X 線回折測定の結果, 0 ( 1 ):゚'pPO+し ( 2 ):ß'C 十日'PPO' ( 3 ):゚ ' C+ P ' OP, ( 4 ):゚ ' C+持'POP , ( 5 ):αppo+ し この分子化合物の鎖長構造は 4.1nm であった。一方,図 11 (b) は準安定多形の相図である。 50 C の融液状態から o 0 0 まで 15 Cj 分で冷却し, o C 5 分間保持した試料を 2 Cj 分で加 0 熱測定した結果である。準安定多形である分子化合物 α F i g u r e1 1 . P h a s ed i a g r a m so fPPO-POP m i x t u r e :( a )s t a b l e f o r m sa n d( b )m e t a s t a b l ef o r m s . 型 , ß' 型の融点はそれぞれ 15.2 C, 27.2 C で,ラメラ周期 0 0 は 4.6 および4.2nm であった。 β 型の場合と同様に POP と分子化合物,分子化合物と PPO ともに備品相を形成し 4 . 2nm) と POP Y 型 (YpoP; 3 . 4nm , 0. 47nm , 0. 40nm) ており,相溶性がなかった。相挙動に関しては, POP と が現れた。さらに温度を上昇させると,これらの多形も融 PPO それぞれの物質が α 型から ß' 型へ転移を行ったが, 解し , 2TC 以上で POPß' 型 (βトOP; POP 濃度 90% 以上の場合, POP は α 型から y 型を経て 0 . 4 3nm , 0. 41nm) が現れていることがわかる。また,こ β' 型へ転移した。 の時,わずかではあるが ß' 型とともに δ 型 (δPOP ;6 . 6 4 . 2nm , 0. 4 4nm , SR-TXRD において,図 11 (b) のような複雑な nm) の出現も確認された。この SR-TXRD の結果より図 相挙動が実際どのように回折プロファイルとして現れ,ま 1 2(a) で現れた後雑な発熱@吸熱ピークの嬬属が明らかと ここで, たどのように多形の同定が行われるのかを紹介するため, なった。また,以上の結果を通して,分子化合物は α, ß' , 一例を挙げて詳細な説明を試みる。 β の 3 つの多形において, 2 鎖長構造を形成していること POP:PPO 口 95 :5 での相挙動を示す DSC 測 が明らかとなった。図 11 の 2 つの状態図は,図 12 に例示 (図 12 ( a ))および SR-TXRD (図 12 ( b ))の結果であ した DSC と SR-TXRD を,さまざまな濃度比で測定し 図 12 は, る。図 12 (a) では,多くの発熱および吸熱ピークが現れて て作成されたものである。 いるが,これだけではどのピークがどの多形の融解や結晶 化を表すのかが定かでない。しかしながら, SR-TXRD により,すべての DSC ピークの帰属が可能となった。図 5 . 4 POP-OPO 系 19) この混合系においても, POP-PPO 混合系と同じよう 1:1 1 2(b) では, 10 C で形成された分子化合物 α 型 (αc; 4 . 6 に, nm , 0 . 4 3nm) と POPα 型 (αPOP; 4 . 6nm , 0 . 4 3nm) が, 多形の長面間隔は 4.2nm ,融点は 32.5 C であった。準安定 20 C への昇温過程で融解した後,分子化合物 β' 型 (βc , 多形では, α 型の形成直後から誼接 P 型に国相転移が生じ 0 0 の組成比で分子化合物が形成され,その最安定 0 -14- 放射光 第 11 巻第 3 号 215 (1998年) O DZ O ハυ 。 C, P ' OP 目 -, 10 20 30 40 TemperatureCC) 3 f C+ 3 f pop ハu 』 o ~]__ ì'ゆ判 p内 OP 3 f ' C .13ず布 'p問 O C, u, POP POP nU non/ , 」沼goaEO (O )φ ト 。 ¥ 1 3 f ' P O P ゐ習V oEω 2ili-- 1 1 2 1 1 1 1 υ一 E福音 ESF4. 、‘ rg 圏、 a ( a ) f3opo十戸c 1 0 0 o o p . rs 司、 〆 0 、E ‘ arnu hU4 7rハU ハUハU 宮刈 i ~ 10卜_j , ?γ131 ()P()+ し o\~~ 円 L ~ 20t・一一日)し 1n ふ 0. ・- I a I" E ro I 10 40 ( 5 ト ロ 40r下一一一一一一一一「 ~ 30~\ POP L iq u i d(υ. 2221 22 18 20 28 ( d e g . ) ( 5 ) (301 バてて\恥庁ず 在 2 . 0 20 40 6 0 8 0 1 0 0 POPC o n c e n t r a t i o n(%) 0I l I 1 0 2 0 3 0 4 0 T i m e( m i n ) i_ j I D (2) . iαPOp+αC+ f3c 欄 10 ~If3'oPO+αC+f3~ 2 0 ~一一---勺 i o 2 0 40 6 0 8 0 1 0 0 POPC o n c e n t r a t i o n( % ) ( 1 ): 1 3 1OPO十戸C , ( 2 ): 1 3 2OPO+αC+戸C , ( 3 ): f3C+L, ( 4 ):f3 POp+L, ( 5 ): f3 POp+ f3c, ( 6 ):[3' poP十戸c F i g u r e1 2 . D a t ao fm e t a s t a b l ef o r m so fPPO/POP 口 5/95: ( a ) DSCh e a t i n gthermogram , ( b )SR-TXRDs p e c t r a . 3 . P h a s ed i a g r a m so f OPO-POP m i x t u r e :( a )s t a b l e F i g u r e1 f o r m sa n d( b )m e t a s t a b l ef o r m s . た。また,分子化合物はすべての多形において, 2 鎖長構 て詳細な説明を試みる。 造を形成していた。 図 13 は, DSC 測定により作成された POP-OPO 2 成分 図 14 は, POP:OPO 口 90 :10 での相挙動を示す DSC 系における相関である。図 13 (a) は最安定多形の相図であ 測定(図 14 (a)) および SR-TXRD (陸 14 ( b ))の結果で る。図 13(b) は準安定多形の相図で,混合融液を 5 Cj 分 ある。図 14(a) では,多くの発熱および吸熱ピークが現れ 0 0 で冷却し,それぞれ 5 分間保持した試料を 5 Cj 分で加熱 ているが,これだけではどのピークがどの多形の融解や結 鴻定した結果をまとめたものである。 POP と分子化合物, 晶化を表すのかが定かでない。しかしながら, SRュ 分子化合物と OPO とで儒品相を形成していた。 POP 濃 TXRD により,すべての DSC ピークの帰罵が可能となっ 度 50% 以下の領域では, OPO は融液から α 型を経た場合 た。図 14(b) では, と,融液から α 裂を経ずに直接 ß' 型を形成した場合では, ( ゚ c ;4 . 2nm, 0. 46nm) と分子化合物 α 型 (αc; 4 . 6nm, 転移経路が異なっていた。すなわち,前者では α 型から 0 . 4 3nm) および POPα 型 (αPOP; 4 . 6nm, 0. 43nm) のう ß' 型を経てム型に転移したのに対し,後者では β' 型から ち, 32 C への昇温過程において,分子化合物 α 型と POP o -20 C で形成された分子化合物 β 型 0 ん型を経てん型に転移した。また, POP 濃度 50% 以上 α 型が融解し, POPβ' 型 (βトOP; 4 . 2nm, 0. 4 4nm, 0. 43 の領域では, POP は α 型から β' 型を経て融液媒介転移に nm, 0 . 3 9nm) が現れた。温度上昇の過程で 4.2nm の回折 よりん型に転移した。 ピークはしだいに強度を増し, POPβ' 型の結品化が進行 ここで,前節の POP-PPO 2 成分系の場合と同様に, 0 していることがわかる。しかし, 22 C で POPβ' 型が融解 0 SR-TXRD において,図 13 (b) のような複雑な相挙動が実 し,代わりに 18 C から徐々に現れていた POP ß 型(んOP; 際どのように回折プロファイルとして現れ,またどのよう 3 . 2nm ( 6. 4nm (002)) , 0. 45nm) の結晶化が進行した 0 に多形の再定が行われるのかを紹介するため,一例を挙げ 26 C 以上でこの多形も融解した。この SR-TXRD の結果 0 -15- 2 1 6 放射光第 11 巻第 3 号 ( a ) ( a ) αPOP→ ß'POP (1998年) ( b ) POP /OPQ_躄mpound ili-- 竹川川 けいい引い川 IM--ハμIllall i-- ーハ lull4/ /a圏、、 hu POP POP /PPOcompound OPO PPO y, 1 3 2, 1 3 1f o r m s α , 13' f o r m s 3 1f o r m F i g u r e1 5 . S t r u c t u r em o d e l so fPPO-POPcompound , OPO-POP compound , POP , PPOandOPO. 2 0 1 . 0 2 . 0 22 24 5 . 6 TAG2 28 ( d e g . ) F i g u r e1 4 . Datao fm e t a s t a b l ef o r m so fOPO/POP= 1 0 / 9 0 :( a ) DSCh e a t i n gthermogram , ( b )SR-TXRDs p e c t r a . 成分系の相挙動のまとめ 以上に詳細に解析した TAG の 2 成分系の相挙動は,次 のような基礎的,応用的な意義を有している。まず, TAG の相挙動の一般性という視点からいえば,飽和脂肪 酸鎖一不飽和脂肪酸鎖混合型 TAG の 2 成分系は,ほとん より園 14(a) で現れた複雑な発熱@吸熱ゼークの帰属が明 どの場合が共品的であるが,特殊な例として POP らかとなった。密 13 の 2 つの状態図は,図 14 に例示した OP019) , POP-PP018) ,さらには DSC と SR-TXRD を,さまざまな濃度比で測定して作成 SOS 37)の系では 1 :1 の成分比で分子化合物を形成するこ されたものである。 とが確認された。一方応用面からみると, POP の ß' 型か 5 . 5 (b)) , PPPß 型や POP-OPO 分子化合物の存在下で促進 OSO-SOS40) , SSO- ら β 型への転移が PPO の添加により抑制され(図 11 分子化合物の分子構造39) 上記のように, PPO-POP および OPO-POP 2 成分系 される(図 10 (b) および密 13 ( b ))ことが明らかになっ において分子化合物が形成されることが, DSC および た 41) 。このような多形転移の促進や抑制に関する知見は, SR-TXRD を用いて明らかにされた。 TAG において分子 パーム油間体脂の粒経の粗大化防止など,国体脂の品質改 化合物を形成する場合,分子間相互作用により 1 :1 の割 良や品質劣化への対処法として利用できると考えられる。 合で 2 量体状の構造を形成しなければならない。分子化 合物の分子レベルでの構造を探るため,顕微 FT-IR 法に 6 . おわりに よる測定を行った。その結果,分子化合物の構造に関して 以上,ここでは, SR-TXRD を応用した我々の最近の 図 15 のようなモデルを推定した.分子化合物の形成は,一 成果である, TAG の単成分系の多形転移の解明に関する 分子中の飽和鎖とシス型オレフィン基を含む不飽和鎖との と複雑な TAG の 2 成分系の相挙動解明に関する話題 立体障害に由来すると考えられる。 POP-OPO や poP を紹介した。これまで述べてきたように, TAG において PPOにおける分子化合物形成においては,互いに別の分 は,さまざまな多形が現れては消え,まことに複雑な相変 子と隣合いペアを組むことにより,単独分子中では解消し 化を行うが,これは TAG のみならず脂肪酸やリン脂質な 得なかった飽和鎖と不飽和鎖闘の立体障害を解消し,結晶 どの単成分系やそれらの多成分系など脂質全般にあてはま 全体としての格子エネルギーを減少させているものと考え ることであり, SR-TXRD を応用した多くの優れた仕事 られる。 が行われている 42) 。放射光に携わっておられる多くの研 究者の方々に対して,本稿が, TAG を含む脂質の研究 に,少しでも興味を持っていただける一助となれば幸いで 16- 放射光第 11 巻第 3 号 2 1 7 (1998年) す。ところで,多くの仕事では,本稿でも取り扱ったよう な,小角散乱と広角散乱の同時測定や SR-TXRD と DSC との同時測定などをはじめとして,賠費研究,ひい ては生体物質研究にふさわしいさまざまな手法が駆使され ている。この場をお借りして,このような装量開発に対し て,技術的なそして財政的な援助への今後のより一層のご 理解とご協力をお願いします。 本稿で紹介した研究を行うにあたりまして,多くの方々 のご協力をいただきました。ここに感謝申し上げます。特 に,放射光実験全般にわたり,ひとかたならぬご支援を賜 りました広島大学総合科学部の瀬戸秀紀博士に深謝いたし ます。また, BL-15A に設置されている X 線回折との同 時測定用 DSC の使用法をご指導いただきました工業技術 院物質工学工業技術研究所の坂口 酪博士,およびビーム ラインの光学系調整をはじめ多大なご協力をいただきまし た総合研究大学院大学の伊藤和輝博士に深謝いたします。 参考文献 1 ) D .M.S m a l l :TheP h y s i c a lC h e m i s t r yo fL i p i d s (Plenum , NewYork , 1 9 8 6 )p p .7 . .S a t o :Advancesi nA p p l i e dL i p i dResearch , Vol .2, e d .by 2 ) K JAIP r e s sInc. , Greenwich嗣U. K., 1 9 9 6 )p .2 1 3 . F .P a d l e y( 0 2( 1 9 9 5 ) 3 ) 佐藤清隆:油化学 44 , 7 4 ) 佐藤清睦:食品の品質と成分間反応、,並木満夫・松下雪郎 編(講談社,東京, 1990) , p .1 5 7 . .Am.O i lChem.S o c .73 , 1 0 5 1 5 ) P .R o u s s e ta n dM.R a p p a t z :J ( 1 9 9 6 ). 6 ) P .R o u s s e ta n dM.R a p p a t z :] .Am.O i lChem.S o c .74 , 693 ( 1 9 9 7 ). .Hachiya , T .Arishima , K .S a t oa n dN .S a g i : ] . 7 ) T .Koyano , 1 7 5( 1 9 8 9 ) . Am.O i lChem.S o c .66 , 6 .Sato , T .Arishima , Z .H. 羽Tang , K .Ojima , N .S a g ia n dH . 8 ) K 6 4( 1 9 8 9 ) . M o r i :] .Am.O i lChem.S o c .66 , 6 l .C hem.S o c .67 , 8 1 1 9 ) D . ] .C e b u l aa n dP .R .S m i t h : ] .Am.O i ( 1 9 9 0 ). .J .McClementsa n dM.].W.P o v e y : ] .Am. 1 0 ) D . ] .Cebula , D 6( 1 9 9 0 ) . O i lChem.S o c .67 , 7 .] .McClements , M.] .W.Poveya n dP .R . 1 1 ) D . ] .Cebula , D 3 0( 1 9 9 2 ) . S m i t h :] .Am.O i lChem.S o c .69 , 1 .R i e k e la n dH .R e y n a e r s : 1 2 ) M. Kellens , W. Meeussen , C 9( 1 9 9 0 ) . Chem.P h y s .L i p i d s52 , 7 . Gehrkeand 註. R e y n a e r s : 1 3 ) M. Kellens , W. Meeussen , R 3 1( 1 9 9 1 ) . Chem.P h y s .L i p i d s58 , 1 .Hammersleya n dH .R e y ュ 1 4 ) M. Kellens , W. Meeussen , A 4 5( 1 9 91 ) . n a e r s :Chem.P h y s .L i p i d s58 , 1 1 5 ) A .B l a u r o c k :INFORM4, 2 54( 1 9 9 3 ) . -17 1 6 ) R .N .M.R .Gelder , N .Hodgson , K . ] .R o b e r t sandA .R o s s i : d .byA .S .Myerson , C r y s t a lGrowtho fO r g a n i cMaterials , e D.A .Greena n dP .Meenan( A m .Chem.Soc. , Washington 9 9 6 )p p .2 0 9 . D.C. , 1 .Ueno , ] .Yano , Z .H.Wang , H. Seto , Y . 1 7 ) A. Minato , S .S a t o :] .Am.O i lChem. S o c . 73 , 1 5 6 7 AmemiyaandK ( 1 9 9 6 ). .Ueno , K .Smith , Y .AmemiyaandK .S a t o :] . 1 8 ) A.Minato , S P h y s .Chem.B101 , 3 4 9 8( 1 9 9 7 ) . . Minato , S . Ueno , ] . Yano , K . Smith , H. Seto , Y . 1 9 ) A AmemiyaandK .S a t o :] .Am.O i lChem. S o c . 74 , 1 2 1 3 ( 1 9 9 7 ). .Minato , H .Seto , Y .AmemiyaandK .S a t o :] . 2 0 ) S .Ueno , A P h y s .Chem.B101 , 6 8 4 7( 1 9 9 7 ) . ) C .Loisel , G .Keller , G .Lecq , C .BourgauxandM.O l l i v o n : ] . 21 2 5( 1 9 9 8 ) . Am.O i lChem.S o c .75 , 4 2 2 ) 佐藤清睦:食品物理化学,松野 i盗ー@矢野俊正編(文永堂 出版,東京, 1996) , p .6 8 . 2 3 ) 佐藤清隆,小林雅通:脂質の構造とダイナミクス(共立出 版,東京, 1992) , p .1 0 4 . 2 4 ) N.G a r t i :C r y s t a l l i z a t i o na n dP o l y m o r p h i s mo fF a t sa n dF a t ュ d .byN .G a r t ia n dK .S a t o( M a r c e lDekker , New t yAcids , e p .2 6 7 . York , 1988) , p 9 9 2 ) . 2 5 ) 蜂屋巌:チョコレートの科学(講談社,東京, 1 2 6 ) 蜂屋巌,古谷野哲夫,佐藤清隆:食品の物性,第 15 集,松 本幸雄, 111 野善正編(食品資材研究会,東京, 1990) , p . 1 1 5 . .Ueno , K .Sato , T .Arishima , N .Sagi , F .Kaneko 2 7 ) ] .Yano , S 2 9 6 7( 1 9 9 3 ) . andM.K o b a y a s h i :] .P h y s .Chem.97 , 1 . 2 8 ) K.S a t oandN .G a r t i :i nr e f .24 , 3 nr e f .23 , p .1 21 . 2 9 ) 佐藤清隆: i 3 6( 1 9 7 2 ) . 3 0 ) K.L a r s s o n :F e t t eS e i f e nA n s t r i c h m .74 , 1 .W.] o l l e y :] .Chem.P h y s .67 , 4773 3 1 ) P .T .C a l l a g h a na n dK ( 1 9 7 7 ). a r s s o n :] .C o l l o i dI n t e r f a c eS c i .72 , 1 5 2( 1 9 7 9 ) . 3 2 ) K.L 3 5( 1 9 9 2 ) . 3 3 ) K.L a r s s o n :] .Am.O i lChem.S o c .69 , 8 .L a r s s o n :Chem.P h y s .L i p i d s35 , 3 4 ) T .G u l i k K r z y w i c k ia n dK 127( 1 9 8 4 ) . a t o :] .P h y s .D :App l .P h y s .23 , B77( 1 9 9 3 ) . 3 5 ) K.S p .3 7 8 . 3 6 ) D .M.S m a l l :i nr e f .1, p .E n g s t r o m :] .F a tS c i .Techno l .94 , 1 7 3( 1 9 9 2 ) . 3 7 ) L 38) 湊明義:放射光 11 , 5 0( 1 9 9 8 ) . .Yano , S .Ueno , K .S m i t handK .S a t o :Chem. 3 9 ) A .Minato , ] 3( 1 9 9 7 ) . P h y s .L i p i d s88 , 6 .H a c h i y aa n dK .S a t o :] .P h y s . Chem. 96 , 4 0 ) T . Koyano , 1 1 0 5 1 4( 1 9 9 2 ) . ) A.M i n a t o :P h y s i c a lS t u d yo nM o l e c u l a rI n t e r a c t i o n sand 41 P h a s eB e h a v i o ro fB i n a r yM i x t u r e so fT r i a c y l g l y c e r o l s ( P h . D .t h e s i so fH i r o s h i m a Univ. , Higashi-Hir・oshima , ]apan) , p .6 9( 1 9 9 7 ) . .Koynova , 4 2 ) 例えば最近では次のようなものが挙げられる. R B .Tenchova n dG .R a p p :Chem.P h y s .L i p i d s88 , 4 5( 1 9 9 7 ) . 2 1 8 放射光第 11 巻第 3 号 (1998年) f事蒜議議 ( 1 ) 脂質(lipid) ある多形の曲線が別の多形と交点(転移点)を持つものを互 脂質には,未だ明確な定義が存在しないが,一般に,次の 変形的 (enantropic) な多形転移と呼ぶ。脂肪酸の多形はこ ような範瞬の物質を指す。「生体成分であって,疎水性が強 のタイプのものが多い。さらに,互変形的 (enantropic) な く,水に難溶,有機溶媒に可溶の一群の低分子物質J (井上 多形転移は,ニつに分けられるが,詳しくは文献23 および 圭三:脂質の化学と生化学(季刊化学総説,日本化学会編, 28 を参照されたい。 学会出版センター), 16 , 3(1992)) 。脂肪酸,グリセロリン 脂賞,スフィンゴ脂質,アシノレグリセロール,蝋(ろう), ステロイド類などが含まれる G ( 3 ) 共品,混品,分子間化合物 混品とは, 2 種類以上の元素または化合物が,徴視的にも 毘視的にも均一に存在し, 1 つの間相を形成している状態。 (2) 単変形的 (monotropic) と五変形的 (enantropic) な この場合,各元素(分子,化合物)に規則性は容在しない。 多形現象 これに対 L ,共品とは, 2 種類以上の元素または化合物が, 脂賞の多形現象は,多形転移の性質により二つのタイプに 徴視的にはそれぞれの微小な結品(ドメイン)を形成し巨 分類できる。一つは,単変形的 (monotropic) な多形転移 祝的には 1 つの間相を形成している状態。共品系では,各 で,融点以下で常に多形の安定性の序列に変化がない。すな 元素(分子,化合物)は相溶していない。また,分子化合物 わち,ギプスの自由エネルギーを温度に関してプロットした とは, 2 種類以上の元素または化合物が,ある特定の比率 擦に,本文図 4 の場合のように各多影の曲線(実線)が互い で,特別な分子(間)化合物を形成する状態。例えば A と に交差せず,したがって熱力学的安定性の逆転が起こらな B の間で C という分子(間)化合物を形成する場合を考え い。一般に, トリアシルグリセロール (TAG) ではこのタ イプの多形転移が起こる。これに対し,融点に達する前に, ると, A と B の相閣は, A と C および C と B という 2 つ の相図が組み合わさったものとなる。 -18-
© Copyright 2024 Paperzz