における結晶多形現象の解明

2
0
8
放射光第 11 巻第 3 号
(1998年)
るトリアシルグリセロール単成分
における結晶多形現象の解明
聡ぺ湊明義*ぺ矢野淳子*
慶幸料ぺ佐藤清隆*
*広島大学生物生産学部,料ニッポンリーバ B.V. ,料キ東京大学大学院工学研究科
o
fP
o
l
y
m
o
r
p
h
i
c
Sy阻む柱。盟畏adiatio盟玄闘関y Di賀ractio設 Study
a
System 認闘義務i困窮ry 関i対韓首es Syste翻 s i盟主宮iacylglycerols
SatoruUENO ヘ Akiyosbi MINATO 料, Junko YANO ヘ
YosbiyukiAMEMIYA 料* and区iyotaka SA官。*
ヤαculty
01AppliedB
i
o
l
o
g
i
c
a
lScience, H
i
r
o
s
h
i
m
aUniversity ,
ヰ口~Nippon
L
e
v
e
rB
.V. ,
*
*
*
F
a
c
u
l
t
y01Engineering, U
n
i
v
e
r
s
i
t
y01Tokyo
Polymorphicc
r
y
s
t
a
l
1
iz
a
t
i
o
no
ft
r
i
a
c
y
l
g
l
y
c
e
r
o
l(TAG), 808 , andt
h
ep
h
a
s
eb
e
h
a
v
i
o
randm
o
l
e
c
u
l
a
ri
n
t
e
r
ュ
e
e
ne
x
a
m
i
n
e
dw
i
t
h
a
c
t
i
o
n
so
ft
h
eb
i
n
a
r
ym
i
x
t
u
r
e
so
fTAGs , POP-PPP , POP-PPOandPOP-OPO , haveb
s
i
n
gs
y
n
c
h
r
o
t
r
o
nr
a
d
i
a
t
i
o
n(8R-TXRD).
Fort
h
es
t
u
d
yo
fs
i
n
g
l
e
at
i
m
e
r
e
s
o
l
v
e
dX
r
a
ydi飴action methodu
s
y
s
t
e
mo
fTAG , twomainr
e
s
u
l
t
shaveb
e
e
no
b
t
a
i
n
e
d
:(
1
)t
h
em
e
l
tm
e
d
i
a
t
i
o
nw
i
t
h
o
u
tt
h
e
r
m
a
la
n
n
e
a
l
i
n
g
g
a
v
er
i
s
et
ot
h
ef
o
r
m
a
t
i
o
no
fal
i
q
u
i
dc
r
y
s
t
a
l
l
i
n
es
t
r
u
c
t
u
r
eh
a
v
i
n
gl
o
n
gs
p
a
c
i
n
gv
a
l
u
e
so
f5
.
1nmand4
.
6nm
2
)t
h
ef
o
r
m
a
t
i
o
nofl
a
m
e
l
l
a
ro
r
d
e
r
i
n
go
f808o
c
c
u
r
r
e
dmorer
a
p
i
d
l
yt
h
a
nt
h
a
to
fs
u
b
c
e
l
lp
a
c
k
i
n
g
.
i
n808 , (
nPOP-PPOandPOP-OPOmixtures , t
h
em
o
l
e
c
u
l
a
rcomュ
Fort
h
es
t
u
d
i
e
so
fb
i
n
a
r
ym
i
x
t
u
r
e
so
fTAGs , i
e
v
e
a
l
i
n
gl
e
a
s
ts
t
a
b
l
eformso
fa
l
p
h
aandt
h
emoststa幅
poundsw
e
r
eformeda
tt
h
e1
:
1c
o
n
c
e
n
t
r
a
t
i
o
nratio , r
b
l
ef
o
r
m
so
fb
e
t
a
.I
na
l
lforms , t
h
ec
h
a
i
nl
e
n
g
t
hs
t
r
u
c
t
u
r
ewasdouble , makingac
o
n
t
r
a
s
tt
ot
h
et
r
i
p
l
ec
h
a
i
n
l
e
n
g
t
hs
t
r
u
c
t
u
r
ewhichwasformedi
nt
h
ea
l
lcomponentm
a
t
e
r
i
a
l
s
.Consequently, t
h
eu
s
eo
f8R-TXRDunω
v
e
i
l
e
dq
u
i
t
enewera
s
p
e
c
t
so
ft
h
ep
o
l
y
m
o
r
p
h
i
cc
r
y
s
t
a
1
l
i
z
a
t
i
o
no
ft
h
et
r
i
a
c
y
l
g
l
y
c
e
r
o
l
sfromn
e
a
tliquid , which
weren
o
td
e
t
a
c
t
a
b
l
ei
nc
o
n
v
e
n
t
i
o
n
a
IXRDt
e
c
h
n
i
q
u
e
s
.
し
品形が現れ,機能性を有する結品多形が選択される 2,3) 。
はじめに
トリアシルグリセロール(以下, TAG と略記)は,脂
例えば,チョコレートにおける安定型結品多形の V 型や
マーガリンにおける準安定結晶多形 (ß') などである 4) 白
質の一種であり,グリセリン l 分子に 3 分子の脂肪酸が
工ステル結合した分子組成をしている(国1)。チョコレ
これら脂質の機能性の本質を理解するためには,それぞれ
ートなどの食用国体脂の主要な構成成分であり,生体中で
の状態における脂質の構造や物性を調べることが必須であ
は脂肪として体内
る。 TAG の場合は,結品多形現象の解明が極めて重要で
れエネルギー源としての役割を
あり,これを遂行するためには, (1)結晶多形構造の解析,
担っている九
一般に,脂質が機能性を発揮する状態では,エマルショ
(2)結晶多形間の構造転移のダイナミクス, (3)結晶多形発生
ン,液品,結品,薄膜など,自己組織化された特定の分子
のカイネティクス,の 3 つの観点からの研究が必要であ
集合体を形成する。例えば,生体膜やリボソームなどの液
る。ここで, (3) のカイネティクスとは,結品化@融解挙動
品 2 分子膜がその好例である。 TAG においては,結晶多
や多形転移の速震論を指す。このうち,多形の時間的変化
形現象,すなわち同一分子の集合体に複数のさまざまな結
を伴う (2) と (3) の課題に対しては,これまで示差走査熱測定
*広島大学生物生産学部
干 739-8528
東広島市鏡山 1-4-4
TEL 0
8
2
4
2
4
7
9
3
4 FAJ{ 0
8
2
4
2
2
7
0
6
2
e.叩
8
(C) 1998 The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research
放射光第 11 巻第 3 号
2
0
9
(1998年)
(
a
)
(
a
)
狂2 C-O-R l
R 2-O-CH
日2 C-O-R3
R1
. R2
. R3:a
c
y
lc
h
a
i
n
(
b
)
I~ 内
C , C、 C , C'C , C'C , C、 C , C'C , C, C 点、c ム c , C'o' ÿ Hl
C___円,C、円,C、内, C… C_, C… C,_,C、,C_
L
しししし
c
C
C
昨
)
(
o、
hu
i
s
t
e
a
r
o
y
lc
h
a
i
n
sI
|oleoyl c
h
a
i
nI
s
u
b
c
e
l
ls
t
r
u
c
t
u
r
e
ç'c, c'c,c'c,c'C 同λC,C、C ,C'C, C, C
1
'C'-'CIも
SOS(1 , 3-Distearoyl帥乙oleoyl胸glycerol)
F
i
g
u
r
e1, (
a
)M
o
l
e
c
u
l
a
rm
o
d
e
lo
ft
r
i
a
c
y
l
g
l
y
c
e
r
o
L
(
b
)M
o
l
e
c
u
l
a
rm
o
d
e
lo
fSOS ,
法 (DSC)5 , 6) ,開光顕微鏡観察7),従来の X 線源を用いた
doublechainl
e
n
g
t
h
s
t
r
u
c
t
u
r
e
t
r
i
p
l
echainl
e
n
g
t
h
s
t
r
u
c
t
u
r
e
. C
h
a
i
nl
e
n
g
t
hstructure , s
u
b
c
e
Ua
n
dl
o
n
gs
p
a
c
i
n
g
.
F
i
g
u
r
e
.2
X 線回折法8 , 9) ,さらに中性子回折法 10 , 11) などを駆使した
さまざまな研究が行われてきたが,多形転移の複雑さおよ
TAG 分子の炭化水素鎖(脂肪酸鎖)の隣接する横方向の
び時間的変化の速さなどを考慮すると,放射光を用いた時
引力相互作用が,炭化水素鎖のメチ jレ基末端どうしの縦方
間分割 X 線回折測定(以下, SR-TXRD と略記)が最も
向の相互作用より強いためである。ラメラの両端には,通
有効であると考えられる。このような理由から,
1990年
常,メチル基末端が位置する。このメチル基末端のつくる
代に入札油脂の物性研究の分野でも放射光が利用される
ラメラ面に対する, TAG 分子軸の傾きを分子鎖傾斜とい
ようになり,これまでに数例の興味深い研究成果が報告さ
う。隣接するメチル基末端は向一平酷上にはないので,ラ
メラ部に分子が垂誼に配向するのは不安定であり,安定な
れている 12-21) 。
ところで, TAG の結晶多形現象に関する従来の研究
結晶構造では,分子はラメラ面に対して傾斜している。粉
は,高純度試料を用いて,単成分系で行われてきた。しか
末 X 線回折の格子定数で,ラメラの厚みに対応する f誌を
しながら,実際の酉体脂食品は多成分の TAG からできて
長田間関と呼ぶ(図 2(a)) 。
いる。したがって実際的な課題にアプローチするために
鎖長構造とは, TAG 結品中の繰り返しの基本となる l
は,単成分系から 2 成分系,さらにはより多成分の混合
ラメラ内に含まれる独立の脂肪酸鎖の数を指す。構成する
系における多形現象の解明が必須で、ある。
脂肪酸鎖の性質(炭素数や不飽和結合の数など)が向ーか
本稿では,まずココアバターの主成分の一つであり,代
あるいは類似の場合は, 2 鎖長構造,すなわち基本ラメラ
表的な TAG である SOS C1 , 3-distearoyl-2・oleoyl・'glycerol)
内には 2 本の脂肪酸鎖が含まれる鎖長構造をとる(密 2
の単成分系の多形転移,
(
b
))。不安定な多形では 2 鎖長構造を形成する場合が多
とくに後述する「融液媒介転移」
の転移メカニズムの解明に関する話題を紹介し,次により
い。一方,構成する脂肪酸鎖の炭素数の差が大きかった
複雑な TAG の 2 成分系の相挙動解明に関する話題を紹介
り,飽和脂肪酸鎖と不飽和脂肪酸鎖が混在する場合は,安
したい。なお,以後に述べる詳細な実験結果の理解を容易
定な結晶多形では 3 鎖長構造を形成する(図 2 (b)) 。
にするために,ここで TAG の結晶多形を要約する。
副格子構造とは, TAG 分子を構成する炭化水素鎖(脂
肪酸鎖)の,隣接する横方向の配列様式(1ateral
2
. TAG 結品多形
TAG の結晶多形構造は分子鎖傾斜,鎖長構造 Cchain
l
e
n
g
t
hstructure) および副格子構造 Csubcell s
t
r
u
c
t
u
r
e
)
で特徴づけられる 22 ,23)
p
a
c
k
i
ュ
ng) を指す(悶 2(a)) 。これは, TAG のみならず,脂肪
(図 2) 。
一般に, TAG 結品はラメラ構造を形成する。これは,
酸やリン脂質の結晶状態をも特徴づけており,脂質結品全
般にわたり,結品多形を区別するための重要な因子であ
る。安定な結晶多形では, 3 斜品平行型 (T//) ,
形では,斜方品垂直型 (0 j_)やヘキサゴナル型(狂)を
9-
2
1
0
放射光第 11 巻第 3 号
(1998年)
とる。
一般に TAG の結品多形では,分子鎖傾斜,鎖長構造お
よび剖格子構造の組み合わせで, α 型, β' 型および P 型の
3 つを基本多形として,分子構造の違いにより数種類の多
形が存在する。 α 型は, 2 鎖長構造で,副格子構造は狂型
である。最も融点が低く, TAG 分子が低密度に配列して
おり,熱力学的に不安定な多形である。反対に , ß 型は最
も融点が高く,安定で, TAG 分子が最密に詰まった構造
である。鎖長構造は分子穏により異なる。副格子構造は
す//型である。 β' 型は,熱力学的にはこの両者の中間に位
る多形で, α 型と β 型の中間の融点を有し, TAG 分
l
i
q
u
i
d
子が比較的ゆるく配列した結品構造をもっ準安定状態であ
一一一 LCl
-一一 LC2
る。鎖長構造は分子種により異なり,副格子構造は O ょ型
がその代表例である。
食用間体脂として用いられる場合,一般に β' 型が機能
的である o ß 型結晶では,分子が固く配列しているため溶
G
けにくく,また粒径も大きくなるため,国体脂中の粗大な
結晶粒が形成される要因となり,食用国体脂の品質を劣化
させる 4,24) 。ただし,例外としてチョコレートが挙げられ
る(これはココアバターの β 型結晶からなる) 25,26) 。
結晶多形の代表例として,本研究で用いた SOS の結晶
多形,鎖長構造,副格子構造および熱物性等を表作に,
結晶多形モデルを図 3 8 ,27) に示す。また, SOS の各結品多
形の熱力学的安定性を国 4 20 ) に示す。ここで G はギブスの
自由エネルギーを表す。図 4 の実線が結品多形を表す。 2
F
i
g
u
r
e4
. Thermodynamics
t
a
b
i
l
i
t
yo
ft
h
ef
i
v
ep
o
l
y
m
o
r
p
h
i
ccrys帽
t
a
l
sandtwol
i
q
u
i
dc
r
y
s
t
a
lf
o
r
m
so
fSOS.
…一一
種類の破線については第 4 節で触れる。図 4 から明らか
なように, TAG の結晶多形は,一般に単変形的
(monotropic) な系である 28) 。
測定条件
本研究では,高エネルギー加速器研究機構の放射光実験
施設 'Photon Factory' の BL-15A にて, SR-TXRD を行
v
g
a
VvハU
m児
川川
c
a
a
M
a
n
H
3
.
った。分割時間は 10秒に統一して行った。波長は 0.15 nm
である。図 5 に実験装置を示す。 TAG の結晶多形を同定
、、,,,
m入
ロM41
問5
円。代人
、、.J
,
ハumv
-UMP仏P
-
pω
‘、
pr
,t
tl ミJa
r'
域には,一次元位置敏感型比例計数管 (PSPC) を設置し
釦“ w
V八
V
E
-
n
u
v
n
U
・‘
五
's
ATt
円u
、
(
2
8
'
"15-30 度)の伺時測定を行った。それぞれの角度領
ロ川一一
(28"'0.5-3 度)と広角領域
e
anu
する必要から,小角領域
た。ここで,小角領域の由折ピークから鎖長構造と分子鎖
傾斜を反映する長面間隔が求められ,広角領域の回折ピー
α
s
o
s
y
゚
'
゚
2
β1
2
3
.
5
3
5.
4
3
6
.
5
41
.0
4
3
.
0
L
lH
h
a
i
ns
s
p
L
(
n
a
o
e
m
n
m
)
g
E c
b
c
e
l
l
l
e
n
g
t
h u
(
K
J
/
m
o
l
)
4
7
.
7
9
8
.
5
1
0
4
.
8
1
4
3
.
0
1
51
.0
4
.
8
3
7
.
0
5
7
.
0
6
.
6
3
6
.
6
唱伸一一回
w
a
t
e
r
F
i
g
u
r
e5
. I
n
s
t
r
u
m
e
n
to
fX
r
a
yd
i
f
f
r
a
c
t
i
o
nw
i
t
hs
y
n
c
h
r
o
t
r
o
nr
a
d
i
a
ュ
t
i
o
ns
o
u
r
c
ea
tBL-15Ai
nPhotonF
a
c
t
o
r
y
.
T
a
b
l
e1
. P
h
y
s
i
c
a
lp
r
o
p
e
r
t
i
e
so
fSロS
eolctzai)n
t
g
p
o
l
y
m
o
r
p
h mp「
Temperature
C
o
n
t
r
o
lBath
2
3
3
3
3
クから副格子構造を反映する短面間隔が求められる。な
お,小角散乱測定用の PSPC はビームステーションに設
H
れているものを用い,広角散乱用の PSPC は広
(
/
/
)
(ロ_
t
)
(
T
/
/
)
T
/
/
より持参して使用した。両方の PSPC からの情報の取
り込みと保存には,瀬戸秀紀博士(広島大学総合科学部)
により開発された制御用ソフトウェア (SANX) を用い
-10-
放射光第 11 巻第 3 号
2
1
1
(1998年)
4
.
3
た。
試料の温度変化は,単成分系の多形転移の測定では温度
SOS における融液媒介転移
そこで,融液媒介転移のメカニズムを解明するため,
設定の異なる恒温槽を 2-3 台用意し,サンプルホルダー
SOS を試料として, SR-TXRD を行った。 α 型からの融
に流す冷@温水を切り替えることにより行った。 TAG の
液媒介転移により,より安定な β' 型多形を出現させるた
2 成分系の相挙動の測定では,ゼームステーションに設置
め,図 6 (a) のような温度変化を行った 20) 。すなわち,
されている X 線回折との同時測定用の DSC 装置の電気炉
50 C から 10 C へ急冷し α 型を出現させた後, α 型融点、
を温度制御に用いた。
(23.5T) 以上の温度に急速に加熱し, α 型を融解させ,
0
0
その融液からのより安定な多形 (ß' 型)を出現させた。
4
.
4
.
1
SOS 単成分系の多形較移
国 7 は,図 6 (a) の温度履歴により 30 C に加熱した際の
0
匝棺転移と融液媒介転移
多形転移の様子を観察した SR-TXRD プ口ファイルであ
図 4 のような単変形的 (monotropic) な系において,
ある多形からより安定な多形への転移が生ずる場合,
2
る。図の l 本 1 本の回折線は 10 秒間の測定結果であり,
時間経過とともにグラブの下から上へと重ねて描かれてい
類の転移機構が存在する 29) 0 1 つは回相転移で,多形間の
る。ただし,関を簡素化するため,回折線の半分は省略し
自由エネルギー差L1 G が駆動力となり,結品中の分子の
てある。すなわち, 20 秒間隔で 10 秒間の測定結果を表示
再配列によって転移が進行する。もう一つは融液媒介較移
してある。図の左側は鎖長構造に,右側は副格子構造に対
4.
4nm ,
(melt幽mediated crystallization) である。これは,低融点
応する回折ピークを示す。 α 型に対応する 5.3 nm ,
多形が融解し,その産後に高い融点をもつより安定な多形
0.
43nm , 0.
41nm
が核生成し,結晶成長することにより生じる多形転移であ
途中で, α 型の融点 (23.5 C) を越えた‘直後に消失した。
る。この場合の転移の駆動力も,国相転移と同じく,自由
その後,広角側のプ口ファイルには回折ゼークが現れてい
の回折ピークは, 30 C への加熱過程の
0
0
エネルギー差L1 G である。しかし,転移のポテンシャル
ない。これは α 型が融解した後,融液状態であることを
エネルギー障壁は,準安定多形の帯、解と安定多形の核形成
示している。しかし,小角側のプロファイルには, α 型に
とその後の結晶成長である。一般に,融解のための活性化
対応する 5.3 nm ,
エネルギーは極めて小さいので,融液媒介転移の速さは,
nm の周期性に対応する回折ピークが現れた。そして,急
4
.
4nm の回折ピ…クの消失直後に, 5
.
1
融解後に現れる安定多形の核形成とその後の結品成長で決
冷開始後約 10分で小角側のプロファイルに, 7.lnm の回
まると考えられる。
折ゼークが出現し,数 10秒遅れて広角側のプロファイル
に,
4
.
2 融液媒介転移のメカニズム
0
.
4
5nm , 0
.
4
4nm , 0.
42nm , 0
.
3
8nm
の回折ピークが
現れた。いずれの屈折ピークも ß' 型に対応している。そ
TAG では,多形により,融液媒介転移が国相転移より
して , ß' 型の出現とともに 5.1 nm の周期性に対応する屈
速い場合がある。両者の転移速度の差が何故生じるのかに
折ゼークは徐々に消失していった。この 5.1 nm の周期性
ついては,脂質一般の結品多形発現機構の解明を行ううえ
に対応する回折ピークは,長周期構造の存在を示してい
で興味ある課題である。また,工業的な応用の観点では,
る。また広角備のプロファイルには回折ピークが現れてい
融液媒介転移は,食用田体脂の製造工程で特定の物性を示
ないことから,この長周期構造は液晶であり,その回折ピ
す油脂多形を選択的に得るために利用されている。このよ
ークの鮮明な様子からラメラ周期を持つスメクティック液
うな融液媒介転移のメカニズムについては,これまでに
2 つの仮説が提示されている。
一つは,融液中に何らかの構造が存在することである。
1972 年, Larsson は, X 線回折測定の結果から,融液媒
α幽crystall i
z
a
t
i
on
(
a
)
介転移において,スメクティック型の液品状態が融液中に
α欄 melt
ると提案した 30) (ここでは液晶説と呼ぶことにす
(O
。
X 線回折32) ,電子顕微鏡観察 33 , 34) 等による結果を
α幽crystallization
(
b
)
(
T
t
)
•
A
n
n
e
a
l
i
n
g(
2
20C
)
•
50
る)。その後,このモデルをめぐり, NMR31) ,中性子回
折 10 , 11) ,
•
α-melt
(
T
t
)
40
もとに,多数の賛否再論が出されており現在も論争中であ
る。
もう一つは,より不安定な多形の結晶中で,より安定な
多形の結晶核が形成され,不安定多形の結晶の融解後に,
その結晶核を種結晶として液体状態から安定多形が結晶化
するという考え 35) (種結晶説と呼ぶことにする)である。
1
0
o
5
1
0
1
5
T
I
M
E(
m
i
n
)
o
5
1
0
1
5
T
I
M
E(
m
i
n
)
F
i
g
u
r
e6
. Diagramso
ft
h
etwot
y
p
e
so
ft
h
e
r
m
a
lp
r
o
c
e
s
s
e
s
.(
a
)
.
w
i
t
h
o
u
tannealing, (
b
)w
i
t
ht
h
e
r
m
a
la
n
n
e
a
l
i
n
ga
t22C
0
-11
2
1
2
放射光
第 11 巻第 3 号
(1998年)
門H
川町
H阿
O国
(広)
agωト
包お何一
。。
)ω
回目白 (gg
。。否認言。g仏
出
25
20
1
5
1
0
5
。
1
.0
.
0
1
.5 2
2.
5
1
8
22
20
28(deg.)
F
i
g
u
r
e7
. SR-TXRDs
p
e
c
t
r
ao
ft
h
e叶melt剛mediated
t
i
o
na
t30Cw
i
t
h
o
u
ta
n
n
e
a
l
i
n
g(
F
i
g
.6
a
)
.
crystalliza四
0
F
i
g
u
r
e8
. SR-TXRDs
p
e
c
t
r
ao
ft
h
eα-melt刷mediated c
r
y
s
t
a
l
l
i
z
a
ュ
t
i
o
na
t30C w
i
t
ha
n
n
e
a
l
i
n
g(
F
i
g
.6
b
)
.
0
晶であると考えられる。すなわち, Larsson の提唱した融
より明らかとなった。このよ
nm , 0
.
3
9nm の回折ピ…ク)が出現を始め, 30 Cへの加熱
うな 5.1 nm の周期性を持つ液晶状態 (LC1 と呼ぶことに
で α 型 (5.0 nm , 0.
4
2nm の回折ピーク)の融解後も y 型
0
0
する)は, α 型からの温度上昇が 24.5T から 31 C の温度範
が成長し続けていることが明らかである。図 6(b) の温度
囲の時に観察された。 LC1 が現れた後に,温度上昇を続
履歴による,これまでの測定結果では, α 型融点直下の温
けた条件下での SR-TXRD の結果によれば, LC1 は約
度で放置(アニーリング)した時開が 5 分以上の場合,
32 C で融点を持つことが判明した。この結果を裏づける
図 8 と同様の結果が生じることが明らかとなっている。以
ように, α 型からの温度上昇が 31 C から 32.5 C の温度範
上の結果は, 22 C に放置している間に , y 型結品の種結品
0
0
0
0
西,すなわち LC1 の融点に近い温度範囲の時には LC1 は
が生じ,その種結品から y 型多形が出現したことを表わし
現れず,急冷開始後約20 分で y 型が現れ,引き続いて β'
ている。また, 5 分間あれば種結品が生じることも示唆し
型が現れた。さらに α 型からの温度上昇が 32.5 Cから 35 C
ている。
0
0
の温度範囲の時には,図 7 とは異なり, 4.6nm の周期性
を示す液品状態 (LC2 と呼ぶことにする)が観察された。
図 7 および図 8 より, SOS の融液媒介較移のメカニズ
ムについて,以下の 2 つのことが明らかとなった。
以上の結果より, LC1 と LC2 を考慮した,ギブスの自
(
1
) 融液媒介転移のメカニズムについて,これまで考え
由エネルギーと温度の関係を描くと図 4 のようになる。こ
られていた 2 つの説,液品説および種結品説のどち
こで,破線は LC1 と LC2 を表す。これによれば, LC1
らも起こり得る。
と LC2 ともに α 型と互変形的 (enantropic) な関係,す
(
2
) 液晶および種結晶出現の相違は,温度履陸の相違に
なわち低温領域で曲線が交差し,熱力学的安定性が逆転す
よる。すなわち,急速に加熱した場合には液晶が発生
るのではないかと考えられるが,この実証は今後の課題で
し,アニーリングした後に加熱した場合には種結晶が
ある。
発生する。
図 8 は,留 6(b) の温度履歴により,国 7 の場合と同じ
0
上記の SOS の結果が,他の TAG にあてはまるかどう
30 C に加熱した際の SR-TXRD プロファイルである。図
かは今後の課題である。しかし,ごく最近になって, 0
1
-
7 の場合同様,図の l 本 l 本の屈折線は 10秒間の測定結
livon らは, SR-TXRD により,ココアバターの融液媒介
果であり,時間経過とともにグラフの下から上へと重ねて
転移で液品の存在することを報告している 21) 。ココアバ
描かれている。図 6(b) の温度履歴では, 50 C から約 10 C
ターの主成分の l つが SOS である(ココアバターは
へ急冷し α 型を出現させた後, α 型融点直下の祖度で 15分
SOS , POS , POP
開放置(アニーリング)した後に, α 型融点以上の温度に
ことを考えると,ココアバターの液晶が本研究で示された
0
0
0
急速に加熱した。図 8 によれば,この場合は, 22 C に放
している間に, α 型の他に y 型 (7.3
nm , 0.
47nm , 0
.
4
5
という 3 種類のすAG の混合系である)
SOS の液晶によるものなのか,それとも POS , POP とい
う他の 2 種類の TAG も関係しているのか注目に値する報
-12-
放射光
第 11 巻第 3 号
213
(1998年)
てまず形成され,続いてく 110) ,すなわち a s 軸方向の側方
告である。
パッキングがそろうことが明らかとなった。その他の 4
.
3
9nm , 0
.
3
8nm , 0
.
3
7nm)
つの回折ピーク (0 .40 nm , 0
4.4 融液媒介転移における結品化の時系列
SR-TXRD によって,融液媒介転移における結晶化で
の秩序化の時系列の確認は今後の課題である。
は,鎖、長構造の周期性の方が,副格子構造,すなわち
4.3 節および4 .4節の知見は,融液媒介転移の転移機構お
TAG 分子の脂肪酸鎖の側方パッキングよりも秩序化が速
よび多形発現に関する秩序化過程のその場観察の軍要な結
いことが明らかとなった 20) 。
論であり,従来の X 線回折法や DSC などの熱測定法では
図 9 は,国 6 (a) の混度履歴で融液媒介転移により得ら
得られなかった全く新しい知見である。
0
0
れた戸'型を,その融点 (36.5 C) 以上の 38 C で融解させ
た後の多形の経時変化を調べた SR-TXRD プロファイル
5
.
作用
である。図の構成は,図 7 および図 8 と同じである。ただ
し便宜上, 10秒毎の回折線を間ヲ i いて, 8 本に 1 本(す
なわち 80秒毎に 10秒の測定と向じ)の間隔で表現してい
る o ß' 型の融液中から,より安定なん型多形の出現が観
れている。この図によれば,鎖長構造に対応する小角
散乱領域の回折ピーク (6.6 nm) が,副格子構造に対応
TAG2 成分混合系の相挙動および分子間相互
5
.
1 油指 2 成分混合系研究の意義
第 l 節に記したように,油脂の結晶多形現象に関する
従来の研究は,高純度試料を用いて,代表的な油脂分子,
すなわち TAG の単成分系で行われてきた。しかしなが
ら,実際の間体脂食品は多成分の TAG からできている.
する広角散乱領域の回折ピーク (0 .46 nm , 0
.
4
0nm , 0
.
3
9
したがって突際的な課題にアプローチするためには,単成
nm , 0
.
3
8nm , 0
.
3
7nm) より約20分早く出現している。同
分系から 2 成分系,さらにはより多成分の混合系におけ
様の傾向が, SOS の他の多形 (β' 型)や, POP の 6 型,
トリステアリン (SSS) の β' 型や β 型など,他の TAG
の多形の出現においても観察された。この傾向は, SOS
を例にとると, }'型よりも β' 型で 3
る多形現象の解明が必要不可欠であり,これまでさまざま
な研究が行われてきた 36) 。
しかしながら, TAG 分子が 2 成分以上の多成分系で
比単成分系の特徴に加えて,混合系の相挙動が重なった
また β' 型よりも β
で著しく,安定多形になるほど,ラメラ構造の周期構造と
複雑な現象が発生し実験結果の解析が飛躍的に難しくな
副格子構造に対応する回折ピーク出現の時間差が大きい。
り,それにふさわしい実験方法を導入する必要がある。た
さらに ~9 に示した SOSß2 型多形の場合,広角側の回
折ピークのうち 0.46 nm の回折ピークがその他の回折ピー
とえば,
トリパルミチン
(PPP)
とトリステアリン
(SSS) のように準安定多形の α 型や β' 型では相溶する
クの出現に先立って現れている。 0 .4 6nm の回折ピークは
(miscib1e) が,最安定多形の P 型では分離して共晶 (eu欄
副格子の b s 軸方向(図 2(a)) の繰り返し周期に対応して
tectic)
おり,脂肪酸鎖間の側面方向のパッキングは b s 軸に沿っ
となる 14,36) 。
また, Engs坑trom はv ま SOS と SSO
(は1 , 2-dis坑te
悶
aroy
討
7刈l幽3
与“oleωoy
討1:嗣-閉 r
が , ß 型で分子化合物 (molecular compound) を形成す
COZEE&gトo
仲町出。(口比ロ)
ると報告している 3初
7η) 。従来の示差走査熱測定 (ωDSC)
を
主体とした混合系の栢挙動の解析では,このような複雑な
挙動を分子レベルで正確に理解することはむずかしい。
そこで,我々は混合系の相挙動を解明するための研究手
として, 2 成分混合系の最安定多形と準安定多形の相挙
動の解析のために, DSC および SR-TXRD を用い 38) , 2
成分混合系の微細構造の解析のために,赤外分光法 (FT­
IR) を用いた。用いた TAG は,
7
0
dipalmitoyl-2-o1eoyl-glycerol),
6
0
PPP ,
POP (1 , 3醐
PPO (1 , 2-dipalmitoylふ
oleoyl幽rac幽glycero1) および OPO (1 , 3-dio1eoyl・与palmitoyl­
50
glycerol) である。いずれも食用国体脂に含まれる代表的
4
0
な TAG で,
3
0
とくに POP と PPO は,食用油脂や石鹸な
ど多用な用途のあるパーム油(榔子油)の主成分である。
20
1
0
5
.
2
POP-PPP 系 17)
。
1
.0
.
0 2.
5
1
.5 2
1
8
20
この混合系は,国相において 2 成分が互いに混ざり合
22
2
8(
d
e
g
.
)
わない偏晶相 (monotectic phase) を形成していた(図
p
e
c
t
r
ao
fβ2 c
r
y
s
t
a
l
l
i
z
a
t
i
o
nf
r
o
mβ二melt a
t
F
i
g
u
r
e9
. SR-TXRDs
0
3SC
.
10) 。そして POP 50% 以下の濃度領域においては,多形
が α 型から直接 P 型へ転移し, POP50% 以上の濃度領域
-13-
2
1
4
第 11 巻第 3 号
放射光
(
a
)
POP
PPP
80
PPO
POP
L
iquid(し)
ε40
乞 60
(1998年)
0
L鵬
コ
.
.
.
ω
0
L四
コ
.
.
. 40
~
。
国
~ 30
為問
。
明・ (1 )三三J〆二一:ぞ)・・・-ー
ß'ppo 十戸c
0
c
_
ト
ε20
ßc 十戸POP
0
ト
。
0
o 20 40 6
08
01
0
0
,
、
では α 型から β' 型を経て β 型に転移することが明らかに
az/
、、
JSE
竃1
F
i
g
u
r
e1
0
. Ak
i
n
e
t
i
cp
h
a
s
ed
i
a
g
r
a
mo
fPPP-POPm
i
x
t
u
r
e
.
(
1
):゚'pPO+し (2) :゚POP+し
hυ
POPC
o
n
c
e
n
t
r
a
t
i
o
n(%)
2
0 40 60 80 1
0
0
POPconcentration(%)
POP
PPO
40
。
なった。すなわち, POP と PPP の混合系では,いずれの
。
、同〆
O
L酬
多形状態においても相溶せずに,独立した結晶化挙動を示
コ
~ 20
すことが判明した。
0
0
.
.
ε
5
.
3
芝 10
POP-PPO 系 18)
αppo+αc
図 11 は, DSC 測定により作成された POP-PPO 2 成分
。
おける相図である。図 11 (a) は,最安定状態 (β
形)における相図である。 POP と PPO が 1
。
:1 の割合で
20 40
60 80 100
POPconcentration(弘)
分子化合物が形成されることが確認された。この分子化合
物の P 型の融点は 3 1. 2 C で,また X 線回折測定の結果,
0
(
1
):゚'pPO+し (
2
):ß'C 十日'PPO'
(
3
):゚
'
C+ P
'
OP, (
4
):゚
'
C+持'POP ,
(
5
):αppo+ し
この分子化合物の鎖長構造は 4.1nm であった。一方,図 11
(b) は準安定多形の相図である。 50 C の融液状態から o
0
0
まで 15 Cj 分で冷却し,
o
C
5 分間保持した試料を 2 Cj 分で加
0
熱測定した結果である。準安定多形である分子化合物 α
F
i
g
u
r
e1
1
. P
h
a
s
ed
i
a
g
r
a
m
so
fPPO-POP m
i
x
t
u
r
e
:(
a
)s
t
a
b
l
e
f
o
r
m
sa
n
d(
b
)m
e
t
a
s
t
a
b
l
ef
o
r
m
s
.
型 , ß' 型の融点はそれぞれ 15.2 C, 27.2 C で,ラメラ周期
0
0
は 4.6 および4.2nm であった。 β 型の場合と同様に POP
と分子化合物,分子化合物と PPO ともに備品相を形成し
4
.
2nm) と POP Y 型 (YpoP; 3
.
4nm , 0.
47nm , 0.
40nm)
ており,相溶性がなかった。相挙動に関しては, POP と
が現れた。さらに温度を上昇させると,これらの多形も融
PPO それぞれの物質が α 型から ß' 型へ転移を行ったが,
解し , 2TC 以上で POPß' 型 (βトOP;
POP 濃度 90% 以上の場合, POP は α 型から y 型を経て
0
.
4
3nm , 0.
41nm) が現れていることがわかる。また,こ
β' 型へ転移した。
の時,わずかではあるが ß' 型とともに δ 型 (δPOP ;6
.
6
4
.
2nm , 0.
4
4nm ,
SR-TXRD において,図 11 (b) のような複雑な
nm) の出現も確認された。この SR-TXRD の結果より図
相挙動が実際どのように回折プロファイルとして現れ,ま
1
2(a) で現れた後雑な発熱@吸熱ピークの嬬属が明らかと
ここで,
たどのように多形の同定が行われるのかを紹介するため,
なった。また,以上の結果を通して,分子化合物は α, ß' ,
一例を挙げて詳細な説明を試みる。
β の 3 つの多形において, 2 鎖長構造を形成していること
POP:PPO 口 95 :5 での相挙動を示す DSC 測
が明らかとなった。図 11 の 2 つの状態図は,図 12 に例示
(図 12 (
a
))および SR-TXRD (図 12 (
b
))の結果であ
した DSC と SR-TXRD を,さまざまな濃度比で測定し
図 12 は,
る。図 12 (a) では,多くの発熱および吸熱ピークが現れて
て作成されたものである。
いるが,これだけではどのピークがどの多形の融解や結晶
化を表すのかが定かでない。しかしながら, SR-TXRD
により,すべての DSC ピークの帰属が可能となった。図
5
.
4
POP-OPO 系 19)
この混合系においても, POP-PPO 混合系と同じよう
1:1
1
2(b) では, 10 C で形成された分子化合物 α 型 (αc; 4
.
6
に,
nm , 0
.
4
3nm) と POPα 型 (αPOP; 4
.
6nm , 0
.
4
3nm) が,
多形の長面間隔は 4.2nm ,融点は 32.5 C であった。準安定
20 C への昇温過程で融解した後,分子化合物 β' 型 (βc ,
多形では, α 型の形成直後から誼接 P 型に国相転移が生じ
0
0
の組成比で分子化合物が形成され,その最安定
0
-14-
放射光
第 11 巻第 3 号
215
(1998年)
O
DZ
O ハυ
。 C, P
'
OP
目
-,
10 20
30 40
TemperatureCC)
3
f
C+
3
f
pop
ハu
』
o
~]__ ì'ゆ判
p内
OP 3
f
'
C
.13ず布
'p問
O
C, u, POP
POP
nU
non/
,
」沼goaEO
(O
)φ
ト
。
¥
1 3
f
'
P
O
P
ゐ習V
oEω
2ili-- 1 1 2 1 1 1 1
υ一
E福音
ESF4.
、‘
rg
圏、
a
(
a
)
f3opo十戸c
1
0
0
o
o
p
.
rs
司、
〆
0
、E
‘ arnu
hU4
7rハU ハUハU
宮刈 i
~ 10卜_j
,
?γ131 ()P()+ し o\~~ 円 L
~ 20t・一一日)し
1n ふ
0. ・- I
a
I"
E ro I
10
40
(
5
ト
ロ 40r下一一一一一一一一「
~ 30~\
POP
L
iq
u
i
d(υ.
2221
22
18
20
28 (
d
e
g
.
)
(
5
)
(301 バてて\恥庁ず
在
2
.
0
20 40 6
0 8
0 1
0
0
POPC
o
n
c
e
n
t
r
a
t
i
o
n(%)
0I
l
I
1
0 2
0 3
0 4
0
T
i
m
e(
m
i
n
)
i_
j
I
D
(2)
.
iαPOp+αC+ f3c
欄 10 ~If3'oPO+αC+f3~
2
0
~一一---勺
i
o
2
0 40 6
0 8
0 1
0
0
POPC
o
n
c
e
n
t
r
a
t
i
o
n(
%
)
(
1
):
1
3
1OPO十戸C , (
2
):
1
3
2OPO+αC+戸C ,
(
3
):
f3C+L, (
4
):f3 POp+L, (
5
):
f3 POp+ f3c,
(
6
):[3' poP十戸c
F
i
g
u
r
e1
2
. D
a
t
ao
fm
e
t
a
s
t
a
b
l
ef
o
r
m
so
fPPO/POP 口 5/95: (
a
)
DSCh
e
a
t
i
n
gthermogram , (
b
)SR-TXRDs
p
e
c
t
r
a
.
3
. P
h
a
s
ed
i
a
g
r
a
m
so
f OPO-POP m
i
x
t
u
r
e
:(
a
)s
t
a
b
l
e
F
i
g
u
r
e1
f
o
r
m
sa
n
d(
b
)m
e
t
a
s
t
a
b
l
ef
o
r
m
s
.
た。また,分子化合物はすべての多形において, 2 鎖長構
て詳細な説明を試みる。
造を形成していた。
図 13 は, DSC 測定により作成された POP-OPO 2 成分
図 14 は,
POP:OPO 口 90 :10 での相挙動を示す DSC
系における相関である。図 13 (a) は最安定多形の相図であ
測定(図 14 (a)) および SR-TXRD (陸 14 (
b
))の結果で
る。図 13(b) は準安定多形の相図で,混合融液を 5 Cj 分
ある。図 14(a) では,多くの発熱および吸熱ピークが現れ
0
0
で冷却し,それぞれ 5 分間保持した試料を 5 Cj 分で加熱
ているが,これだけではどのピークがどの多形の融解や結
鴻定した結果をまとめたものである。 POP と分子化合物,
晶化を表すのかが定かでない。しかしながら, SRュ
分子化合物と OPO とで儒品相を形成していた。 POP 濃
TXRD により,すべての DSC ピークの帰罵が可能となっ
度 50% 以下の領域では, OPO は融液から α 型を経た場合
た。図 14(b) では,
と,融液から α 裂を経ずに直接 ß' 型を形成した場合では,
(
゚
c
;4
.
2nm, 0.
46nm) と分子化合物 α 型 (αc; 4
.
6nm,
転移経路が異なっていた。すなわち,前者では α 型から
0
.
4
3nm) および POPα 型 (αPOP; 4
.
6nm, 0.
43nm) のう
ß' 型を経てム型に転移したのに対し,後者では β' 型から
ち, 32 C への昇温過程において,分子化合物 α 型と POP
o
-20 C で形成された分子化合物 β 型
0
ん型を経てん型に転移した。また, POP 濃度 50% 以上
α 型が融解し, POPβ' 型 (βトOP; 4
.
2nm, 0.
4
4nm, 0.
43
の領域では, POP は α 型から β' 型を経て融液媒介転移に
nm, 0
.
3
9nm) が現れた。温度上昇の過程で 4.2nm の回折
よりん型に転移した。
ピークはしだいに強度を増し, POPβ' 型の結品化が進行
ここで,前節の POP-PPO 2 成分系の場合と同様に,
0
していることがわかる。しかし, 22 C で POPβ' 型が融解
0
SR-TXRD において,図 13 (b) のような複雑な相挙動が実
し,代わりに 18 C から徐々に現れていた POP ß 型(んOP;
際どのように回折プロファイルとして現れ,またどのよう
3
.
2nm (
6.
4nm (002)) , 0.
45nm) の結晶化が進行した 0
に多形の再定が行われるのかを紹介するため,一例を挙げ
26 C 以上でこの多形も融解した。この SR-TXRD の結果
0
-15-
2
1
6
放射光第 11 巻第 3 号
(
a
)
(
a
)
αPOP→ ß'POP
(1998年)
(
b
)
POP
/OPQ_躄mpound
ili--
竹川川
けいい引い川
IM--ハμIllall
i--
ーハ
lull4/
/a圏、、
hu
POP
POP
/PPOcompound
OPO
PPO
y, 1
3
2, 1
3
1f
o
r
m
s α , 13' f
o
r
m
s
3
1f
o
r
m
F
i
g
u
r
e1
5
. S
t
r
u
c
t
u
r
em
o
d
e
l
so
fPPO-POPcompound , OPO-POP
compound , POP , PPOandOPO.
2
0
1
.
0 2
.
0
22
24
5
.
6 TAG2
28 (
d
e
g
.
)
F
i
g
u
r
e1
4
. Datao
fm
e
t
a
s
t
a
b
l
ef
o
r
m
so
fOPO/POP= 1
0
/
9
0
:(
a
)
DSCh
e
a
t
i
n
gthermogram , (
b
)SR-TXRDs
p
e
c
t
r
a
.
成分系の相挙動のまとめ
以上に詳細に解析した TAG の 2 成分系の相挙動は,次
のような基礎的,応用的な意義を有している。まず,
TAG の相挙動の一般性という視点からいえば,飽和脂肪
酸鎖一不飽和脂肪酸鎖混合型 TAG の 2 成分系は,ほとん
より園 14(a) で現れた複雑な発熱@吸熱ゼークの帰属が明
どの場合が共品的であるが,特殊な例として POP­
らかとなった。密 13 の 2 つの状態図は,図 14 に例示した
OP019) , POP-PP018) ,さらには
DSC と SR-TXRD を,さまざまな濃度比で測定して作成
SOS 37)の系では 1 :1 の成分比で分子化合物を形成するこ
されたものである。
とが確認された。一方応用面からみると, POP の ß' 型か
5
.
5
(b)) , PPPß 型や POP-OPO 分子化合物の存在下で促進
OSO-SOS40) ,
SSO-
ら β 型への転移が PPO の添加により抑制され(図 11
分子化合物の分子構造39)
上記のように, PPO-POP および OPO-POP 2 成分系
される(図 10 (b) および密 13 (
b
))ことが明らかになっ
において分子化合物が形成されることが, DSC および
た 41) 。このような多形転移の促進や抑制に関する知見は,
SR-TXRD を用いて明らかにされた。 TAG において分子
パーム油間体脂の粒経の粗大化防止など,国体脂の品質改
化合物を形成する場合,分子間相互作用により 1 :1 の割
良や品質劣化への対処法として利用できると考えられる。
合で 2 量体状の構造を形成しなければならない。分子化
合物の分子レベルでの構造を探るため,顕微 FT-IR 法に
6
.
おわりに
よる測定を行った。その結果,分子化合物の構造に関して
以上,ここでは, SR-TXRD を応用した我々の最近の
図 15 のようなモデルを推定した.分子化合物の形成は,一
成果である, TAG の単成分系の多形転移の解明に関する
分子中の飽和鎖とシス型オレフィン基を含む不飽和鎖との
と複雑な TAG の 2 成分系の相挙動解明に関する話題
立体障害に由来すると考えられる。 POP-OPO や poP­
を紹介した。これまで述べてきたように, TAG において
PPOにおける分子化合物形成においては,互いに別の分
は,さまざまな多形が現れては消え,まことに複雑な相変
子と隣合いペアを組むことにより,単独分子中では解消し
化を行うが,これは TAG のみならず脂肪酸やリン脂質な
得なかった飽和鎖と不飽和鎖闘の立体障害を解消し,結晶
どの単成分系やそれらの多成分系など脂質全般にあてはま
全体としての格子エネルギーを減少させているものと考え
ることであり, SR-TXRD を応用した多くの優れた仕事
られる。
が行われている 42) 。放射光に携わっておられる多くの研
究者の方々に対して,本稿が, TAG を含む脂質の研究
に,少しでも興味を持っていただける一助となれば幸いで
16-
放射光第 11 巻第 3 号
2
1
7
(1998年)
す。ところで,多くの仕事では,本稿でも取り扱ったよう
な,小角散乱と広角散乱の同時測定や SR-TXRD と
DSC との同時測定などをはじめとして,賠費研究,ひい
ては生体物質研究にふさわしいさまざまな手法が駆使され
ている。この場をお借りして,このような装量開発に対し
て,技術的なそして財政的な援助への今後のより一層のご
理解とご協力をお願いします。
本稿で紹介した研究を行うにあたりまして,多くの方々
のご協力をいただきました。ここに感謝申し上げます。特
に,放射光実験全般にわたり,ひとかたならぬご支援を賜
りました広島大学総合科学部の瀬戸秀紀博士に深謝いたし
ます。また, BL-15A に設置されている X 線回折との同
時測定用 DSC の使用法をご指導いただきました工業技術
院物質工学工業技術研究所の坂口
酪博士,およびビーム
ラインの光学系調整をはじめ多大なご協力をいただきまし
た総合研究大学院大学の伊藤和輝博士に深謝いたします。
参考文献
1
) D
.M.S
m
a
l
l
:TheP
h
y
s
i
c
a
lC
h
e
m
i
s
t
r
yo
fL
i
p
i
d
s (Plenum ,
NewYork , 1
9
8
6
)p
p
.7
.
.S
a
t
o
:Advancesi
nA
p
p
l
i
e
dL
i
p
i
dResearch , Vol
.2, e
d
.by
2
) K
JAIP
r
e
s
sInc. , Greenwich嗣U. K., 1
9
9
6
)p
.2
1
3
.
F
.P
a
d
l
e
y(
0
2(
1
9
9
5
)
3
) 佐藤清隆:油化学 44 , 7
4
) 佐藤清睦:食品の品質と成分間反応、,並木満夫・松下雪郎
編(講談社,東京, 1990) , p
.1
5
7
.
.Am.O
i
lChem.S
o
c
.73 , 1
0
5
1
5
) P
.R
o
u
s
s
e
ta
n
dM.R
a
p
p
a
t
z
:J
(
1
9
9
6
).
6
) P
.R
o
u
s
s
e
ta
n
dM.R
a
p
p
a
t
z
:]
.Am.O
i
lChem.S
o
c
.74 , 693
(
1
9
9
7
).
.Hachiya , T
.Arishima , K
.S
a
t
oa
n
dN
.S
a
g
i
:
]
.
7
) T
.Koyano , 1
7
5(
1
9
8
9
)
.
Am.O
i
lChem.S
o
c
.66 , 6
.Sato , T
.Arishima , Z
.H. 羽Tang , K
.Ojima , N
.S
a
g
ia
n
dH
.
8
) K
6
4(
1
9
8
9
)
.
M
o
r
i
:]
.Am.O
i
lChem.S
o
c
.66 , 6
l
.C
hem.S
o
c
.67 , 8
1
1
9
) D
.
]
.C
e
b
u
l
aa
n
dP
.R
.S
m
i
t
h
:
]
.Am.O
i
(
1
9
9
0
).
.J
.McClementsa
n
dM.].W.P
o
v
e
y
:
]
.Am.
1
0
) D
.
]
.Cebula , D
6(
1
9
9
0
)
.
O
i
lChem.S
o
c
.67 , 7
.]
.McClements , M.]
.W.Poveya
n
dP
.R
.
1
1
) D
.
]
.Cebula , D
3
0(
1
9
9
2
)
.
S
m
i
t
h
:]
.Am.O
i
lChem.S
o
c
.69 , 1
.R
i
e
k
e
la
n
dH
.R
e
y
n
a
e
r
s
:
1
2
) M. Kellens , W. Meeussen , C
9(
1
9
9
0
)
.
Chem.P
h
y
s
.L
i
p
i
d
s52 , 7
. Gehrkeand 註. R
e
y
n
a
e
r
s
:
1
3
) M. Kellens , W. Meeussen , R
3
1(
1
9
9
1
)
.
Chem.P
h
y
s
.L
i
p
i
d
s58 , 1
.Hammersleya
n
dH
.R
e
y
ュ
1
4
) M. Kellens , W. Meeussen , A
4
5(
1
9
91
)
.
n
a
e
r
s
:Chem.P
h
y
s
.L
i
p
i
d
s58 , 1
1
5
) A
.B
l
a
u
r
o
c
k
:INFORM4, 2
54(
1
9
9
3
)
.
-17
1
6
) R
.N
.M.R
.Gelder , N
.Hodgson , K
.
]
.R
o
b
e
r
t
sandA
.R
o
s
s
i
:
d
.byA
.S
.Myerson ,
C
r
y
s
t
a
lGrowtho
fO
r
g
a
n
i
cMaterials , e
D.A
.Greena
n
dP
.Meenan(
A
m
.Chem.Soc. , Washington
9
9
6
)p
p
.2
0
9
.
D.C. , 1
.Ueno , ]
.Yano , Z
.H.Wang , H. Seto , Y
.
1
7
) A. Minato , S
.S
a
t
o
:]
.Am.O
i
lChem. S
o
c
. 73 , 1
5
6
7
AmemiyaandK
(
1
9
9
6
).
.Ueno , K
.Smith , Y
.AmemiyaandK
.S
a
t
o
:]
.
1
8
) A.Minato , S
P
h
y
s
.Chem.B101 , 3
4
9
8(
1
9
9
7
)
.
. Minato , S
. Ueno , ]
. Yano , K
. Smith , H. Seto , Y
.
1
9
) A
AmemiyaandK
.S
a
t
o
:]
.Am.O
i
lChem. S
o
c
. 74 , 1
2
1
3
(
1
9
9
7
).
.Minato , H
.Seto , Y
.AmemiyaandK
.S
a
t
o
:]
.
2
0
) S
.Ueno , A
P
h
y
s
.Chem.B101 , 6
8
4
7(
1
9
9
7
)
.
) C
.Loisel , G
.Keller , G
.Lecq , C
.BourgauxandM.O
l
l
i
v
o
n
:
]
.
21
2
5(
1
9
9
8
)
.
Am.O
i
lChem.S
o
c
.75 , 4
2
2
) 佐藤清睦:食品物理化学,松野 i盗ー@矢野俊正編(文永堂
出版,東京, 1996) , p
.6
8
.
2
3
) 佐藤清隆,小林雅通:脂質の構造とダイナミクス(共立出
版,東京, 1992) , p
.1
0
4
.
2
4
) N.G
a
r
t
i
:C
r
y
s
t
a
l
l
i
z
a
t
i
o
na
n
dP
o
l
y
m
o
r
p
h
i
s
mo
fF
a
t
sa
n
dF
a
t
ュ
d
.byN
.G
a
r
t
ia
n
dK
.S
a
t
o(
M
a
r
c
e
lDekker , New
t
yAcids , e
p
.2
6
7
.
York , 1988) , p
9
9
2
)
.
2
5
) 蜂屋巌:チョコレートの科学(講談社,東京, 1
2
6
) 蜂屋巌,古谷野哲夫,佐藤清隆:食品の物性,第 15 集,松
本幸雄, 111 野善正編(食品資材研究会,東京, 1990) , p
.
1
1
5
.
.Ueno , K
.Sato , T
.Arishima , N
.Sagi , F
.Kaneko
2
7
) ]
.Yano , S
2
9
6
7(
1
9
9
3
)
.
andM.K
o
b
a
y
a
s
h
i
:]
.P
h
y
s
.Chem.97 , 1
.
2
8
) K.S
a
t
oandN
.G
a
r
t
i
:i
nr
e
f
.24 , 3
nr
e
f
.23 , p
.1
21
.
2
9
) 佐藤清隆: i
3
6(
1
9
7
2
)
.
3
0
) K.L
a
r
s
s
o
n
:F
e
t
t
eS
e
i
f
e
nA
n
s
t
r
i
c
h
m
.74 , 1
.W.]
o
l
l
e
y
:]
.Chem.P
h
y
s
.67 , 4773
3
1
) P
.T
.C
a
l
l
a
g
h
a
na
n
dK
(
1
9
7
7
).
a
r
s
s
o
n
:]
.C
o
l
l
o
i
dI
n
t
e
r
f
a
c
eS
c
i
.72 , 1
5
2(
1
9
7
9
)
.
3
2
) K.L
3
5(
1
9
9
2
)
.
3
3
) K.L
a
r
s
s
o
n
:]
.Am.O
i
lChem.S
o
c
.69 , 8
.L
a
r
s
s
o
n
:Chem.P
h
y
s
.L
i
p
i
d
s35 ,
3
4
) T
.G
u
l
i
k
K
r
z
y
w
i
c
k
ia
n
dK
127(
1
9
8
4
)
.
a
t
o
:]
.P
h
y
s
.D
:App
l
.P
h
y
s
.23 , B77(
1
9
9
3
)
.
3
5
) K.S
p
.3
7
8
.
3
6
) D
.M.S
m
a
l
l
:i
nr
e
f
.1, p
.E
n
g
s
t
r
o
m
:]
.F
a
tS
c
i
.Techno
l
.94 , 1
7
3(
1
9
9
2
)
.
3
7
) L
38) 湊明義:放射光 11 , 5
0(
1
9
9
8
)
.
.Yano , S
.Ueno , K
.S
m
i
t
handK
.S
a
t
o
:Chem.
3
9
) A
.Minato , ]
3(
1
9
9
7
)
.
P
h
y
s
.L
i
p
i
d
s88 , 6
.H
a
c
h
i
y
aa
n
dK
.S
a
t
o
:]
.P
h
y
s
. Chem. 96 ,
4
0
) T
. Koyano , 1
1
0
5
1
4(
1
9
9
2
)
.
) A.M
i
n
a
t
o
:P
h
y
s
i
c
a
lS
t
u
d
yo
nM
o
l
e
c
u
l
a
rI
n
t
e
r
a
c
t
i
o
n
sand
41
P
h
a
s
eB
e
h
a
v
i
o
ro
fB
i
n
a
r
yM
i
x
t
u
r
e
so
fT
r
i
a
c
y
l
g
l
y
c
e
r
o
l
s
(
P
h
.
D
.t
h
e
s
i
so
fH
i
r
o
s
h
i
m
a Univ. , Higashi-Hir・oshima ,
]apan) , p
.6
9(
1
9
9
7
)
.
.Koynova ,
4
2
) 例えば最近では次のようなものが挙げられる. R
B
.Tenchova
n
dG
.R
a
p
p
:Chem.P
h
y
s
.L
i
p
i
d
s88 , 4
5(
1
9
9
7
)
.
2
1
8
放射光第 11 巻第 3 号
(1998年)
f事蒜議議
(
1
)
脂質(lipid)
ある多形の曲線が別の多形と交点(転移点)を持つものを互
脂質には,未だ明確な定義が存在しないが,一般に,次の
変形的 (enantropic) な多形転移と呼ぶ。脂肪酸の多形はこ
ような範瞬の物質を指す。「生体成分であって,疎水性が強
のタイプのものが多い。さらに,互変形的 (enantropic) な
く,水に難溶,有機溶媒に可溶の一群の低分子物質J (井上
多形転移は,ニつに分けられるが,詳しくは文献23 および
圭三:脂質の化学と生化学(季刊化学総説,日本化学会編,
28 を参照されたい。
学会出版センター),
16 , 3(1992)) 。脂肪酸,グリセロリン
脂賞,スフィンゴ脂質,アシノレグリセロール,蝋(ろう),
ステロイド類などが含まれる G
(
3
) 共品,混品,分子間化合物
混品とは, 2 種類以上の元素または化合物が,徴視的にも
毘視的にも均一に存在し, 1 つの間相を形成している状態。
(2)
単変形的 (monotropic) と五変形的 (enantropic) な
この場合,各元素(分子,化合物)に規則性は容在しない。
多形現象
これに対 L ,共品とは, 2 種類以上の元素または化合物が,
脂賞の多形現象は,多形転移の性質により二つのタイプに
徴視的にはそれぞれの微小な結品(ドメイン)を形成し巨
分類できる。一つは,単変形的 (monotropic) な多形転移
祝的には 1 つの間相を形成している状態。共品系では,各
で,融点以下で常に多形の安定性の序列に変化がない。すな
元素(分子,化合物)は相溶していない。また,分子化合物
わち,ギプスの自由エネルギーを温度に関してプロットした
とは, 2 種類以上の元素または化合物が,ある特定の比率
擦に,本文図 4 の場合のように各多影の曲線(実線)が互い
で,特別な分子(間)化合物を形成する状態。例えば A と
に交差せず,したがって熱力学的安定性の逆転が起こらな
B の間で C という分子(間)化合物を形成する場合を考え
い。一般に,
トリアシルグリセロール (TAG) ではこのタ
イプの多形転移が起こる。これに対し,融点に達する前に,
ると, A と B の相閣は, A と C および C と B という 2 つ
の相図が組み合わさったものとなる。
-18-