Vol.7 No.2

environment Update
−海外環境関連情報誌−
第 38 号
Vol.7 No.2 (2005.7)
CONTENTS
WEEE & RoHS 指令、EuP 指令等の最新動向
RoHS 追加除外等の検討進まず・EuP 指令は成立
2
講演録
今後の地球環境問題への対応について
経済産業省 産業技術環境局 環境政策課長
伊藤
5
仁
モニタリング
欧州 ・連載 欧州環境規制動向
〜 在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
16
米国 ・連載 米国における環境関連動向
〜 在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
41
中国〖20〗環境保護法制定プロセス・中国企業の EU2 指令への対応
52
随想
「環境」問題で思うこと
前貿易関連環境問題対策委員会副委員長
前貿易と環境専門委員会委員長
松藤
59
洋治
組合員のページ
コニカミノルタの環境への取り組み
コニカミノルタビジネスエキスパート株式会社
社会環境統括部
品質環境安全部
北 陽子
63
環境・安全グループニュース
環境・安全グループ担当委員会活動の状況
事務局便り
70
68
WEEE & RoHS 指令、EuP 指令の最新動向
RoHS 追加除外等の検討進まず
EuP 指令は成立
環境・安全グループ
WEEE 指令の実施が本年 8 月 13 日に迫る中、同日以降に指令対象の電気電子機器を上市する際に
必要なマーキングの規格について決着しておらず、また実施までに 1 年を切った RoHS 指令に関
する追加除外の検討も進展がみられない状況にある。一方、EuP 指令については、先に欧州議会、
理事会、欧州委員会の三者間で合意されていたところ、7 月 6 日に議会および理事会の代表者の
署名により成立した。当組合ブラッセル事務所からの情報等に基づき、これらの動向について以
下に報告する。
I.
WEEE & RoHS 指令関連動向
1.7 月 6 日 TAC の概要
7 月 6 日に TAC(技術適合委員会)が開催され、懸案事項の検討が行われた。その状況および
結果の主な点を以下に紹介する。
なお、7 月 6 日の TAC に先立ち、欧州委員会は、除外追加の検討対象となっている項目の各グ
ループを以下のように名称変更している。
*第 1 パッケージ: 第 1 次コンサルテーション(昨年 7 月締め切りのもの)のうち本年 3
月 16 日 TAC で再投票を行って可決されたもの
*第 2 パッケージ: 第 1 次コンサルテーションのうち本年 4 月 19 日 TAC で特定多数に達
せず否決され、その後理事会に諮られているもの(具体的には「ポリ
マー用途中の Deca-BDE」と「鉛・青銅ベアリング・シェルおよびブ
ッシュ中の鉛」)
*第 3 パッケージ: 第 2 次コンサルテーション(本年 2 月締め切りのもの)の対象となっ
た 19 項目
(本誌前号において報告したように当初の 22 項目から変更)
およびそれ以降に受理したいくつかの追加要望
(1)RoHS 追加除外
・ 第 1 パッケージについて、欧州委員会は、除外案を 3 月 16 日 TAC の投票結果とともに欧
州議会と理事会に再提出しており、議会に対する義務については議会のコメントに応じる
ことにより果たしたとして、間もなく正式に採択される見込みであると表明した。
・ 第 2 パッケージについては、除外案が理事会に提出されている(理事会文書によると提出
日は 6 月 7 日)。理事会の審議期間は最大 3 ヶ月(3 ヶ月以内に採択するか何も決定しない
場合、欧州委員会案が採択される)。また本件については、7 月 8 日に COREPER(Comité des
Représentants Permanents/常駐代表委員会:理事会の補佐機関であり、ブラッセルに常駐
する各国代表からなる委員会)で議論される旨加盟国に伝えられた。
(注 1)TAC 以降の動向:7 月 8 日の COREPER では除外案に対して賛否にいずれにおいて
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RoHS 追加除外等の検討進まず・EuP 指令は成立
も特定多数にない模様のため理事会にポジションの確認を求めた。7 月 18 日の理
事会ではデンマークの要請により同除外案は議題から撤回され、審議期限の 9 月
7 日までに理事開催の予定がないことから、書面手続きにより進める可能性を検
討するため COREPER に戻された。これを受けて COREPER は理事会決定を書面に
より行うことを決定した。書面手続きの期限は 8 月 31 日。COREPER は 9 月 2 日
の会議で加盟国に書面手続きの結果を伝える予定である。
(注 2)Deca-BDE の除外に関する欧州委員会などの主張については、本誌 22 ページに掲
載。
・ 第 3 パッケージについては、第 2 次コンサルテーションの対象となった 19 項目およびそ
れ以降に受理したいくつかの追加要望から成るとした。コンサルテーションへの反応が期
待はずれだったため、これらの除外要望すべてを見直すために独立の技術専門家を指名す
ることが既に決定されていた。欧州委員会は、さらなる技術的研究を始める計画は今や全
くなく、その代わり現在の除外要望とそれ以降に受理されたさらなる要望を見直すため、
進行中の技術支援契約に関して、専門家が指名されることを決定したと言明した。
(2)RoHS 追加除外に関する猶予期間
・ 要望が出されているが合意されていない除外を利用したいと望む企業のための「猶予期間」
の問題について、欧州委員会が何らかの見解に達したかどうか英国が質問した。企業が合
意された特定の除外に依存する RoHS コンプライアンス・アプローチをとっていて後日そ
の除外が拒否された場合、2006 年 7 月 1 日に間に合うよう生産工程を変更するには十分
な時間がないことを現在、産業界は主張している。これに対して、欧州委員会は、
「猶予期
間」の可能性は元々産業界から出た考えであり、本件に関して最終的な見解には達してい
ないと返答した。
(3)RoHS 最大許容値(MCVs)
・ 欧州委員会は、RoHS 禁止物質の最大許容値決定案についての理事会の審議期間 3 ヶ月を
経過したと発表した。その結果、最大許容値は採択されて 7 月末までに加盟国に正式に通
知され、その後、欧州委員会決定が出される見込みとされた。
(4)カテゴリー8、9 問題
・ 欧州委員会は、本年 3 月 17 日にカテゴリー8 と 9 に関する調査を実施し、これらを RoHS
の対象範囲に含めるかどうか勧告を行うことに関して入札を行った。現在、入札者の選定
過程にあり、夏休み前に首尾よく契約できるよう期待された。
(5)RoHS 監視システム
・ RoHS 適合性を市場監視するシステムを EU 内で確立されるような方法について議論するた
めに 5 月 19 日に英国 DTI が主催して開催したワークショップの報告があった。ワークショ
ップでは現存のコンプライアンス・アプローチ(ELV 指令、カドミウム指令)から学ぶべき
もの、および実践的で効果的な「自己宣言」コンプライアンス体制に情報伝達する方法につ
いての議論が含まれた。TAC は、ワークショップで述べられたアプローチおよび秋に合意に
達するよう加盟国が検討予定の実務的ガイダンス案を作成することについて合意した。
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RoHS 追加除外等の検討進まず・EuP 指令は成立
(6)WEEE マーキング規格
・ 欧州委員会は、昨年 12 月に CENELEC から規格案を受け取ったが、本規格が 2 つの特定部
分について指令の要求事項を正確に満たしていないと結論付けており、その旨 CENELEC
にコメントを送付したことを説明した。これらの問題は 7 月 11 日、12 日に開催予定の会
議で解決されることが望まれた。
II. EuP 指令案の動向
(1)EuP 指令案については、4 月 6 日、議会、理事会及び欧州委員会の間で実質的に合意され、
手続き的には 4 月 13 日に議会で案を採択、5 月 23 日に理事会で同じ案を採択し、7 月 6 日、
議会と理事会の代表者が書名し、成立の運びとなった。(EuP 関連記事は 24 ページ参照)
(2)同指令は第 26 条で EU 官報に公布の 20 日後に発効とされており、7 月 22 日に官報公布さ
れたことから、8 月 11 日発効となる。
(3)欧州委員会によると今後の予定としては以下が想定されている。
・ 実施対策指令の策定に向け
Consultation forum と
Regulatory committee を立ち上げ
る。加盟国のメンバーは両方の組織に参加。Regulatory Committee (←実施対策を決定す
る委員会)は2007年まで会合が開かれることはないであろう。
・ Consultation forumは2005年末又は2006年始めに立ち上げる。本フォーラムは意見を表明
するための場であり、決定権限は有さない。実施対策指令についてのパブリック・コンサ
ルテーションは、Consultation forumに諮った後に行うことになる予定。
・ 加盟国は指令を各国法令に移植するのに2年間を与えられており、この間に欧州委員会が実
施対策指令を採択する見通しはない。欧州委員会は今後2年以内に作業計画を策定する。欧
州委員会は実施対策指令についての予備調査を開始する。10程度の調査を考えており、
12-18ヶ月かけて実施する予定。
□
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講 演
今後の地球環境問題への対応について
経済産業省
産業技術環境局
環境政策課長
(現 同省 貿易経済協力局 通商金融・経済協力課長)
伊藤 仁
日本機械輸出組合では、去る 5 月 24 日の平成 17 年度第 1 回「貿易関連環境問題対策委員会」において、
経済産業省 産業技術環境局環境政策課長 伊藤 仁氏より、標記テーマでご講演いただきました。本稿はその
講演内容を取りまとめ、同氏のご校閲を得て掲載するものです。
書の目標(▲8%)の達成は日本やカナダのよ
うに森林シンクのない EU にとっては必ずしも
容易ではなく、しっかりと排出削減対策に取り
組まなければいけないということです。
I. 京都議定書を巡る現状と政策の動き
EU の排出量の現状・見通し
EU の環境対応は進んでいてそれに対し日本
はまったく遅れている、という話がマスコミに
紹介されることがよくあります。そこで EU 自
身が認めているところをご紹介すると、2002
年の EU(15 ヶ国)の温室効果ガス排出量は、
1990 年比 2.9%減ですが、2004 年末に発表さ
れた欧州委員会のレポートによると、今のまま
では、2010 年の温室効果ガス排出量は 90 年比
1.0%の削減にとどまるとされており、京都議定
図表1の通り EU 各国ごとに状況をみると、
英国、スウェーデン、フランスなど既に削減目
標に達している国もありますが、その他多くの
国々では、追加的な施策を早急にとる必要があ
るとしています。
図表 1.EU 各国の温室効果ガス排出実績と京都議定書目標との差(2002 年)
(%)
<参考>
基準年排出量に対する最新年実績の増加率(%) ー 京都議定書の目標(%)
25
20
15
10
5
0
-5
カナダ
米国
日本
スペイン
オーストリア
デンマーク
アイルランド
イタリア
ポルトガル
ベルギー
フィンランド
オランダ
EU
ドイツ
ギリシャ
フランス
イギリス
スウェーデン
-10
(出典) 欧州環境庁(2004)等より算出
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今後の地球環境問題への対応について
図表 2.EU 主要国の最終エネルギー消費伸び率と部門別の寄与(1990 年〜2001 年)
期間増加率(%)
60
50
産業
運輸
民生
消費計
40
30
20
10
0
米国
日本
スウェーデン
ポルトガル
ベルギー
オランダ
スペイン
イタリア
フランス
イギリス
ドイツ
-10
(参考)
(出典)IEA、
Energy Balances of OECD countries
もちろん、日本もオランダなどと同じ 6%削減
どの国もが突き当たっている課題であろうかと思っ
ています。
を求められており、2003 年環境省算定値で基準年
(1990 年)よりも約 8%増と大きく増えてしまって
世界各国のエネルギー効率と日本の貢献
いるので、やはり目標達成はなかなか難しく、真剣
に取り組まなければならない状況であるといえます。
21 世紀は 環境の世紀 であり、日本は既に世界
に冠たる省エネルギー国家です。
日本の「もったいな
2004 年末の欧州委員会レポートによると、EU 内
い」、
「節約」といった伝統的手法と先進的な技術革新
の2 大排出国であるドイツとイギリスの排出削減の
による積極的な省エネルギー手法等をもっと活用し
うち、50%は特殊要因(東西ドイツ統合、イギリス
ていこうと思っております。
の燃料転換)によるものであり、また、炭鉱閉鎖に
よるメタン排出減は、EU 全体の排出量の約 1%に相
世界に占める日本の GDP の比率と CO2 排出量の
当し、基準年からの温室効果ガスの減少は、ガス別
比率により、1GDP を生むのにどれだけ CO2 を排出
にみると、二酸化炭素ではなく、メタンや一酸化二
するかといった比率を取った図表3 各国の経済規模
窒素の排出減が主因であるとしています。
(GDP)と CO2 排出量」を作成してみました。すると、
やはり日本は都市部に人口が集中して生活をしてい
排出の中身を図表 2『EU 主要国の最終エネルギー
ること、気候の温暖性という地理的・自然的条件も
消費伸び率と部門別の寄与(1990 年〜2001 年)
』で
多く影響しているけれども、かなり効率のよい CO2
見ると、日本の場合と殆ど同じように、民生部門、
排出構造をもった国であるのだと言えると思います。
運輸部門のエネルギー消費が大きく伸びていて、全
逆に、中国、ロシア、インド、アメリカという国々
体の伸びを押し上げてしまっていることが判ります。
におけるエネルギー消費の多さ、効率の悪さも理解
したがって、民生、運輸の伸びをいかに効果的に抑
できると思います。
えられるのかが、
『京都議定書』の目標達成の中で、
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今後の地球環境問題へ対応について
図表 3 各国の経済規模(GDP)と CO2 排出量
世界全体の GDP に占める割合
(2001 年)
世界全体のCO2 排出量に占める割
合(2001 年)
同じ GDP を生むために排出する
CO2(日本を 1 とした場合)
日本
EU15
米国
中国
ロシア
インド
16%
29%
26%
4%
1%
1%
5%
13%
24%
13%
6%
4%
1
1.6
3.2
12.2
20.1
10.3
(出典)GDP:OECD2003、CO2 排出量:IEA2003
また、国際比較をエネルギー多消費産業について
冒頭でも申し上げた「ヨーロッパに比較して日本
行ったのが図表 4 各国の産業部門におけるエネル
が遅れている」という論調は、そういった分野があ
ギー効率」です。日本の優れた省エネ技術を海外に
るのは否定しませんが、こと省エネルギーのところ
広げて行くことで、地球規模でのより本質的な対応
については、かなり優れている点があることを機会
になると思います。
あるごとに強調して、関係各位に正しく認識してい
ただきたいものと思っています。
図表 4 各国の産業部門におけるエネルギー効率
(日本を 100 とした場合)
鉄鋼のエネルギー原単位
(粗鋼生産1 単位に必要なエネルギー消費量)
160
150
150
140
130
130
120
120
110
100
100
105
110
90
日本
韓国
EU
米国
中国
(大規模)
中国
(全国)
セメント1単位の生産に必要なエネルギー消費量
200
180
160
145
140
120
100
130
131
西欧
韓国
177
178
米国
ロシア
152
100
80
日本
中南米
中国
(出典)日本経団連資料
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
今後の地球環境問題への対応について
図表5.国際的枠組み(京都議定書)と国内対策(地球温暖化対策推進大綱・京都議定書目標達成計画)の流れ
(第1ステップ)
(第2ステップ)
(第3ステップ)
2008年
1990年比(基準年比)
[国際的枠組み]
2005年2月16日
京都議定書
02年6月批准
[国内対策]
発効
評価・見直し( ‘04年)(※2)
02〜 04年
地球温暖化
対策推進大綱
2012年
第一約束期間(※1)
我が国は、1990年比で6%の
温室効果ガスの排出を削減。
08年〜 12年
02年3月政府決定
2005年4月28日
評価・見直し( 07年)(※2)
京都議定書
目標達成計画
策定
※1 「2013年以降の枠組み」については、2005年末までに国際的な検討が開始される予定。
※2 節目節目(第2ステップ、第3ステップの前の2004年、2007年)に、対策の進捗状況について評価・見直しを行い、段階的に
必要な対策を講じていく。
現在は第 2 ステップの 1 年目に当たる 2005
年におり、これからの 3 年間は今年 4 月に作成
した
「京都議定書目標達成計画」
の実施を行い、
3 年目にあたる 2007 年、早ければ 2006 年の後
半ぐらいから見直し作業に入り、2008 年から始
まる第一約束期間の直前に見直しをするという
スケジュールです。
京都議定書を巡る主要日程(2005 年)
・ 2 月 16 日 京都議定書発効
・ 3 月 15〜6 日 環境エネルギー大臣 RT
・ 4 月 28 日 京都議定書目標達成計画
閣議決定
・ 5 月 19 日〜27 日 気候変動に関する政府
専門家セミナー
・ 7 月 6 日〜8 日 G8 サミット
(地球環境とアフリカ)
・ 11 月 28 日〜12 月 9 日 COP/MOP
(将来枠組みに関する交渉等)
本年 2 月 16 日、
『京都議定書』が発効しまし
た。それまでは発効するのかどうか未確定のも
のをどこまで真剣に取り組むべきかという議論
が根強くありましたが、さすがに発効してから
は、一般の方々を含めて「きちんと約束を守ろ
う」と言う姿勢が固まったように思います。し
かし実際のところ、
『京都議定書』
の目標達成に
は非常に難しい、
困難な部分があると思います。
上記は、既に過ぎた日程もありますが、今年
における主要なスケジュールです。2 月に発効
し、4 月に閣議決定した後、7 月に G8 サミット
となっています。
「地球環境とアフリカ」
と謳っ
ていて、ホスト国であるイギリスのブレア首相
が地球環境のところに重点を置いてやろうとし
ています。今のところは具体的にどこまで地球
環境のところで話がまとまるかは見えておりま
せんけれども、ホスト国のイギリスが、かなり
力を入れているのは間違いないところです。
「京都議定書目標達成計画」は法律に基づいた
政府の決定であり、確実に実施できるものとし
て作りました。しかしながら、成果が出るかに
ついては様々な不確定要素があります。した
が っ て 実 施 状 況 を 毎 年 レ ビ ュ ー し 、 PDCA
(Plan・Do・Check・Action)を回しながら、さ
らに 3 年後の見直しの時点で、施策の見直しを
行うといったシナリオになっています。
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今後の地球環境問題へ対応について
11 月から 12 月にかけて『京都議定書』発効
後の初めての COP/MOP(将来枠組みに関する
交渉等)がカナダで行われます。私どもは、2013
年以降、つまり『京都議定書』後の枠組みにつ
いての交渉を、事実上キックオフできるような
形にしたいと思っており、現状で、いろいろな
ことを行っているという日程の中にあるという
わけです。
てしまいます。これには経済成長、その他の要
因がありますが、
『京都議定書』
削減約束達成の
目標排出量は、基準年約 12 億トンの 6%減の
11 億 6,300 万トンです。したがって、2010 年
の見通しからは実に 12%の削減ということに
なります。
そこで追加対策の削減量として、エネルギー
起源 CO2▲4.8%、代替フロン▲1.3%、メタン
等▲0.4%、森林吸収源▲3.9%、京都メカニズ
ム▲1.6%と、改めて対策を割り振ることにより
何とか基準年▲6%の達成を目標にしています。
京都メカニズムと森林吸収源の併せて▲5.5%
は国内で減らす分ではありませんので、国内排
出ガスの削減分は基準年(1990 年)比▲0.5%
とほぼ横ばいといった水準を達成したいという
絵姿の形になっています。
将来枠組みの議論については、アメリカは、
『京都議定書』の延長線上の枠組に対しては、
極めて否定的です。この 5 月に気候変動に関す
る会議がボンで行われ、アメリカも途上国も出
席しておりましたが、皆さん率直な意見を述べ
合いました。そして「議論をして行くことは必
要であるとの共通認識ができた」という点では
評価できるものの、中身については、どういっ
たものをイメージするのか各国まったくバラバ
ラの印象を否めないような状況でしたので、こ
れからの道行きはかなり難航するであろうと予
想されるところです。
京都議定書目標達成計画の基本的考え方
基準年の「6%の削減約束達成」のためには
「森林吸収源対策」で▲3.9%、
「京都メカニズ
ム」で▲1.6%を達成し、
「省エネルギー法の抜
本強化、エネルギー特会の重点活用による省エ
ネ対策の推進、産業界の自主行動計画の目標達
成に向けた努力」で▲2.9%の貢献、
「原子力発
電所の稼働率の向上等」で▲1.9%の貢献、
「フ
ロン等その他のガス」で▲1.7%の貢献、を期待
しています。
II.目標達成計画のポイント
排出量の現状と目標達成
上記計画では、日本として排出量の削減見通
しをどのように達成して行くかということが閣
議決定されたので、以降はそのポイントをご説
明します。
基本的には、環境保全と経済活力・産業競争
力を向上させ、生活者と企業が環境先進国の担
い手
(高い環境意識と世界最高水準の産業技術)
となることを目指し、国民各主体による排出削
減への挑戦として、国民運動の展開、国・地方
公共団体の率先的な取り組みの推進、
「点」
の対
策から「面的」
・
「ネットワーク型」の対策へ、
対策の事後的な評価・見直し等を行うつもりで
す。
民生部門・運輸部門では、機器単位ではエネ
ルギー消費効率の改善が進展していますが、世
帯数、床面積等の増加や自動車保有台数の増加
等の要因によって、全体としては増加傾向にあ
ります。「温室効果ガスの排出量」は、基準年
(1990 年)12 億 3,700 万トン、2002 年度 13
億 3,100 万トンで 7.6%増、2003 年度は 13 億
3,600 万トンで 8.0%増の見通しでしたが、確定
値が 8.3%と上回ってしまっているので、2003
年の温室効果ガスの総排出量は 13 億 3,900 万
トンになります。
部門ごとの削減ポテンシャルを想定し、これ
を削減に結びつけるため、各主体が排出を認知
し、排出削減に取り組み「客観的データの可視
化」を図ることとしています。そして「新たな
エネルギー、
消費統計の整備」
「国民行動のため
の目安」
「排出量報告・公表制度」等も織り込ま
そして、
現行対策のみで 2010 年を見通すと、
温室効果ガスの排出量は基準年の 6%増となっ
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Vol.7 No.2 (2005 7)
今後の地球環境問題への対応について
な運動を展開して、効果ができるだけ上がるよ
うに盛り上げて行きたいと考えています。
れています。
しかし何といっても、やはりエネルギー供給
のところのウェイトは大きいと思います。
重油、
石炭等よりも、特に電気をたくさん使っておら
れる業種におかれては、電力の原単位がどれく
らい改善するかによって、かなり排出量の数字
も変わると思います。波及効果の大きいここの
ところを、政府としても取り組みをしっかり行
うことが大事だと思っています。
率先実行計画の目標達成
政府は、率先実行計画の目標達成に努めると
ともに、地方公共団体を始めとした公共部門に
おいては率先して温室効果ガスの削減に関する
計画を定め削減に努めるべきであると考えてお
ります。具体的には、1.各省庁は 2006 年度を
目標年度として、2001 年度比 7%の削減を達成
すべく「実施計画」を策定し、各種対策に取り
組む、2.地方公共団体については、地球温暖
化対策推進法に基づき、その事務及び事業につ
いて、温室効果ガスの排出抑制等の実行計画を
策定する義務があるため、政府の率先実行計画
に準じ具体的な削減目標を含めた計画を、速や
かに策定すべきである、3.国・地方公共団体
以外の公的機関に対しては、情報提供を行うと
ともに、率先した取り組みを促していく、とか
なり厳しい目標を課しております。
国民運動の展開
「温暖化対策」は、本来、国民各界各層が主
体的に取り組むことが重要で、政府が一体と
なって戦略的な広報活動を含めた様々な対策を
実施し、取り組みの機運を醸成することで、国
民運動に繋げて行くこととしています。
しかし、
なかなか簡単ではありません。適切な言葉では
ありませんが「国家総動員令」的に政府が号令
をかけ、これを受けて国民全体に盛り上がって
欲しいものだと思っています。
前述のように政府全体として 2006 年度は
2001 年度比で7%の削減を達成することを目標
に掲げているのですが、実は、今のところほと
んどの省庁が減っておらず、むしろ増えている
状態です。経済産業省は自由化の旗を振ってい
て、現在、電力は入札でいわゆる PPS(Power
Producer and Supplier:特定規模電気事業者)
の電力にシフトしていますが、結果として電力
の原単位は以前より悪化しています。自由化の
議論と CO2 とどっちが大事なのかという議論に
なるのですが、非常に悩んでいるところです。
環境政策の観点からすればできるだけ CO2 排出
の少ないものを使いたいと考えており、省 CO2
化の観点を入札に盛り込むことを検討していま
す。
また、国民各界各層が主体的に温暖化対策に
取り組むために、様々な取り組みを実施するこ
ととして、1.国民行動のための目安の提示(目
標に対する国民一人ひとりの現状、位置付けを
身近に感じられるような目安)
、2.各省庁が連
携した、戦略的な広報活動、3.企業の自主的
取り組みの推進及び通勤における公共交通機関
の利用促進等、4.企業、学校等における環境
教育の実施、5. 地域における総合的な温暖化対
策の検討のための体制整備、等を挙げ、こうし
た取り組みを通じ国民各界各層の意識を高め温
暖化対策の国民運動に繋げていくこととしてい
ます。
次に「各省庁が連携した、戦略的な広報活動」
ですが、経済産業省、環境省、資源エネルギー
庁等々が連携して、温暖化に関する意識が国民
一人一人に行きわたるよう取り組みたいと思っ
ています。国土交通省からは、通勤をはじめ、
いろいろな機会に公共交通機関を利用していた
だくようにということですが、各地域の工場、
事業所等にお願いするととともに、労働組合に
も声をかけています。今年 1 年、お話したよう
JMC environment Update
エネルギー起源 CO2 以外の温室効果ガスの
排出量見通しと主要対策
業務用冷凍空調機器やカーエアコンからのフ
ロン回収の強化、マグネシウム圧延・鋳造分野
の関係産業界における更なる排出抑制の促進等
により、代替フロン、CO2、メタンというエネ
ルギー起源 CO2 以外の排出量は、今のところど
の数字も改善の方向にあります。この辺りは比
10
Vol.7 No.2 (2005 7)
今後の地球環境問題へ対応について
「住宅・建築物」 :今までは業務用のビルに
しかかかっていなかった規制を、今後は住宅に
も広げることになります。また、ストック対策
の強化として、現行の届出が 2,000 ㎡以上の建
築物の新築、改装をする場合に限っていました
が、これに大規模な改修の場合を追加すること
となりました。住宅についても、同様に 2,000
㎡以上のもの、大体 25〜30 軒ぐらいの中小の
マンション・集合住宅から対象になってくると
いうことです。そのような規模の集合住宅の新
築、改築、大規模な改修をする場合、省エネ措
置をきちんと取っているかどうかについての規
制を強化するということです。
較的順調に推移していると言って良いと思いま
す。
エネルギーの使用の合理化に関する法律の
一部を改正する法律案について
省エネ法の改正に関しましては、国土交通省
とも連携して、省エネルギー対策の抜本強化を
目指しております。
省エネ法の改正案の内容は、
以下のようになっています。
「工場・事業場」 :産業部門における取り組
みの強化として、従来の熱・電気の区分を廃止
し、熱と電気を合算したルールにします。今ま
では熱か電気のどちらかもがそれぞれの規制値
に該当しない場合には、規制の対象にはならな
かったのですが、今後はそれらを合算したエネ
ルギー使用量が一定値を超えた場合には規制の
対象になるということです。つまり裾切りが下
がったので、
対象の企業数も約 1 万→1 万 3,000
ということで、産業全体のエネルギー使用量の
約 8 割をカバレッジする規制になりました。
「その他」 (新設)
:新たに消費者への省エ
ネルギー情報の提供が促進されることとなりま
す。1 つには電力・ガス会社等による省エネ機
器の普及や情報提供事業の実施と実績の公表、
もう 1 つは家電等の小売業者による店頭での分
かりやすい省エネ情報(年間消費電力、燃費等)
の提供ということです。
地球温暖化対策推進法の改正
「運輸」 (新設)
:新たに輸送事業者(貨物・
旅客)と荷主を省エネ法の対象として、輸送分
野での省エネ対策を導入しました。
今回の地球温暖化対策推進法の改正の基本
的内容は、温室効果ガスを一定量以上排出する
者に対して、その排出量を算定し、国に報告す
ることを義務付け、国が報告されたデータを集
計・公表する「温室効果ガスの算定・報告・公
表制度」を導入するということと、地球温暖化
対策推進本部の所掌事務として「長期的展望に
立った地球温暖化対策の実施の推進に関する総
合調整」を追加するということです。
① 「輸送事業者(貨物・旅客)の義務内容」
は、低燃費車・エコシップ等の導入、エコ
ドライブの推進等の計画を策定(年1回)
し、輸送に関するエネルギー使用量等の定
期報告(年1回)をすることです。
② 「荷主の義務内容」は、貨物輸送における
省エネ責任者の設置、鉄道や船舶の利用マ
ニュアルの策定等の計画を策定(年1回)
し、委託輸送に関するエネルギー使用量等
の定期報告(年1回)をすることです。
「温室効果ガスの算定・報告・公表制度」の
趣旨は、排出者自らが排出量を算定することに
より、自主的取り組みのための基盤を確立する
ことであり、情報の公表・可視化による国民・
事業者全般の自主的取り組みの促進へのインセ
ンティブ・気運を高めることを狙いとしていま
す。その際、秘密の保護は適切に措置すること
としています。
③ 「法的措置」として、荷主や輸送事業者の
いずれにおいても、省エネへの取組が不十
分な場合には、勧告・公表・命令・罰則と
いう措置を行うという法改正の内容に
なっています。
JMC environment Update
排出量の算定は、一定の裾切り量以上の温室
効果ガスを排出する事業者等を対象とし、
産業、
業務(公的部門を含む)
、運輸部門の事業所単位
11
Vol.7 No.2 (2005 7)
今後の地球環境問題への対応について
豊田通商、住友商事等の申請もありますが、電
源開発、関西電力、中部電力、東京電力等の名
前が多いことは、電気事業各社による CDM/JI
の積極的活用の具体的現れであると思います。
(運輸部門は事業者単位)6 ガスごとに算定し
て報告していただきます。報告は、基本的には
事業所管大臣のところへ報告いただき、集計し
たものを公表するということです。集計の単位
は、企業、業種、都道府県となっています。事
業所ごとの個別な公表は行わず、企業ごとに合
算して公表します。
欧州各国の京都メカニズム活用状況
欧州各国の京都メカニズム活用状況は、①
京都議定書目標は、オランダ ▲6%、スペイン
15.0%、イタリア ▲6.5%、② 基準年排出量(t
‐CO2)は、オランダ 2 億 1,100 万トン、スペ
イン 2 億 9,000 万トン、イタリア 5 億 900 万
トン、③ 京都メカニズム活用量(予定)(t‐
CO2)は、オランダ ▲2,000 万トン、スペイン ▲
2,000 万トン、イタリア ▲1,000 万トン、④
2010 年における超過排出量見込みに対する京
都メカニズム活用比率は、オランダ ▲51%、
スペイン ▲86%、イタリア ▲11%となってい
ます。
特定のガスの排出量が企業秘密に該当するこ
とが懸念されるので、予め報告する際にはしか
るべき理由をもって対外的に開示しないよう請
求することができる形にしておき、それを各事
業所管大臣のところで止め置くという仕組みを
考えております。
地球温暖化対策推進法によってカバーされる
温室効果ガス排出量の把握率は日本全体の約半
分と見ております。エネルギー起源 CO2 につい
ては、今回強化される省エネ法で届出の対象と
なる事業所とほぼ一致するものと考えておりま
す。
因みに、日本の場合、① ▲6.0%、② 12 億
3,700 万トン、③ ▲2,000 万トン、④ ▲13%
となっております。
国内のところは、色々な支援策に加えて、上
記のようなある種規制的な手法も講じながら対
策を強化して行くということです。
④は、CO2 の削減に関して京都メカニズムを
どれほど使っているかという数字ですが、もと
もと京都メカニズムには、国内対策を主として
取り組んだ上での補完的な役割にとどめるべき
という考えがありますが、実際には、オランダ
は 51%、スペインにいたっては 86%という利
用比率になっています。これらに比べると日本
はまだ 13%であるため、国内の削減がうまくい
かない場合は、京都メカニズムをもっと活用し
てもよいのではないかと考えているところです。
日本政府が承認した CDM/JI プロジェクト
CDM/JI(Clean Development Mechanism/Joint
Implementation)プロジェクトは、平成 14 年
12 月に政府がはじめて NEDO(独立行政法人
新エネルギー・産業技術総合開発機構)の JI を
承認以来、現在 17 件まできています。まだま
だ多くの問題がありますが、京都メカニズムが
より円滑に使えるようにしていく必要があると
思っております。17 件の CO2 削減予想量は、合
計して年間約 850 万トンになりますが、日本全
体で京都メカニズムで確保したいと思っている
量は、1.6%の約 2,000 万トンです。
ここでオランダの取組状況に注目すると、オ
ランダは約 1,000 億円を用いて必要削減量の約
50%に相当する約 1 億トン CO2(2,000 万 t/年
×5 年)のクレジットを取得する方針で、2001
年から具体的なプロジェクトからのクレジット
取得契約を進めているということです。我が国
もたまたまオランダと同じ規模の京メカクレ
ジットの活用量(約1億トン)を計画に入れて
います。クレジット価格がトン=千円と想定す
ると、5 年間で 1、000 億円、年間 200 億円程度
の予算が必要になります。オランダは、対外的
電気事業連合会は原単位を改善して行くこと
を目標に掲げられておられます。国内の稼働率
の上昇や天然ガス化などではその削減目標に届
かないので、電力各社は京都メカニズムの活用
に本格的に取り組んでおられます。これまでに
日本政府が承認した CDM/JI プロジェクトには
JMC environment Update
12
Vol.7 No.2 (2005 7)
今後の地球環境問題へ対応について
を期待しているところが多いので、理事会の審
査をいかにやりやすくするか、どのように対応
していくか工夫が必要ではないかと思っている
ところです。
に予算を用意することに踏み込んでいて、それ
をベースにして具体的なプロジェクトからのク
レジット取得契約を進めているのです。日本政
府も同じような状況であるとすれば、この部分
についてかなり進めて行かなければいけないだ
ろうと覚悟しているところです。
「CDM/JI プロジェクトの発掘、実施支援等」
については主に以下の通りです。
我が国の京都メカニズム活用に向けた取り
組み
① CDM/JI ホスト国において京都メカニズ
ム促進に必要な人材育成、制度構築支援
等のキャパシティビルディング協力を実
施
我が国の取り組みを「CDM の国際ルール改善
への働きかけ」
、
「CDM/JI プロジェクトの発掘、
実施支援等」
と大きく分けてご説明いたします。
② 我が国へのクレジット供給量の拡大を図
るため、「CDM/JI プロジェクト 100 構
想」によって、潜在的な CDM/JI プロジェ
クトの発掘を強化(2004 年 11 月開始)
。
また、我が国との相互理解促進、関係強
化を図るため、CDM/JI ホスト国の官民の
代表を日本に招聘し、国際フォーラムを
開催(3 月下旬、於東京)
。内外 300 名が
参加。
まず「CDM の国際ルール改善への働きかけ」
の主な内容は以下の通りです。
① 2004 年 12 月の COP10(於ブエノスアイ
レス)において、日本から CDM における
省エネ事業の重要性について積極的に提
起し、その結果、省エネ等の分野での CDM
を促進する旨の決定がなされました。
② COP10 での決定の具体化を図るべく、内
外の専門家の参加を得て、省エネ分野の
CDM 事業の促進に向けたワークショップ
を開催しました(3 月下旬、於東京)
。
③ 政府の平成 17 年度京都メカニズム関連
予算は約 100 億円。
(補助金交付額に相
当するクレジットを政府へ移転すること
を条件として、民間事業者が実施する
CDM/JI プロジェクトに必要な経費を 1/2
以内で補助する制度などを平成 17 年度
から創設。
)
③ 省エネルギーを始めとする CDM の円滑な
推進に向けて、他の京都議定書締約国と協
力して CDM の今後について議論する
「Future CDM 会合」を設置し、5 月 21 日
に第 1 回会合(於ボン)を実施しました。
CDM の承認を受けるには、国連の中にある
CDM 理事会の場で承認を受けなければならな
いのですが、
かなり厳しくされています。
特に、
一番ポテンシャルが大きいと思われる省エネプ
ロジェクトについては、未だに CDM 理事会で 1
件も通っておりません。理事会を通していかな
いことには技術移転にもならず、プロジェクト
数が全く足りないのではないかと思っています。
プロジェクト全体の数としてはやはり CO2、省
エネのプロジェクトをできるだけ多く、しかも
早く掘り起こして行くことが大事ではないかと
思います。途上国側も、そういうプロジェクト
JMC environment Update
13
上記②のクレジットの供給量というものが果
たしてどれくらい出てくるのか。需要が供給を
作り出す関係なので、需要家側である先進国が
かなり積極的に掘り起こす、発掘して行くこと
が大事であろうと思っています。
オランダの京都メカニズム活用のところで申
し上げましたが、5 年間で毎年 200 億円ずつの
予算が必要ということでしたので、100 億から
200 億ぐらいのオーダーの予算があると、あの
程度のクレジットの量は確保できるだろうと私
どもは思っています。
Vol.7 No.2 (2005 7)
今後の地球環境問題への対応について
環境税
ることが必要ではないかという議論もしている
ところです。
環境税につきましては、環境省が 2004 年 11
月に具体案を出しておりますが、私どもは税の
設計に係る各論ではなく税の必要性そのものの
総論のところで、今本当に環境税が必要なのか
否か、環境税に効果があるのか否か、という議
論を基本とし、その姿勢を崩さずに検討を進め
てきております。
EU−ETS(EU 排出量取引制度)
EU−ETS(emission trading system)
(EU 排出
量取引制度)については、日本の国内において
も同様の制度を導入すべきではないかという議
論があります。環境省は、国内排出取引につい
てはまだ実施する段階ではないと考えています。
政府全体としても、「総合的に検討していくべ
き課題」として位置付けています。EU の動きが
うまく行くようであれば、「日本も国際的に遅
れてはいけない」といった声が強まり、排出量
取引制度の議論が湧いてくる可能性があると思
います。
環境税については、「国民に広く負担を求め
ることになるため、関係審議会をはじめ各方面
における地球温暖化対策に係る様々な政策的手
法の検討に留意しつつ、地球温暖化対策全体の
中での具体的な位置付け、その効果、国民経済
や産業の国際競争力に与える影響、諸外国にお
ける取組の現状などを踏まえて、国民、事業者
などの理解と協力を得るように努めながら、真
摯に総合的な検討を進めていくべき課題であ
る」としています。
EU の ETS は 2005 年 1 月から運用が開始され
ています。各国ごとにはめられたナショナル・
アロケーション(National Allocation)のキャッ
プの量は、実際の排出量よりも緩い枠が課せら
れているところが殆どです。したがって、この
排出量取引制度によって、2007 年までの段階で、
大口の排出事業者の排出量を総量で削減する政
策にはなっていないと思います。ただ、ETS の
ようなシステムを導入することによって、一部
の企業では、取りあえず外から買ってくるとい
うところも出てくると思います。2005 年〜
2007 年までが第1期ですが、そういった緩い枠
の中で試行的に実施し、そして 2008 年からは
その試行結果の状況を踏まえながら、より強い
枠をはめるのかどうかを検討することになると
思います。
京都議定書目標達成計画案作業の中では「環
境税」の位置付けについて、はっきり「必要だ」
という結論にも「不要だ」という結論にもなっ
ておりません。
京都議定書目標達成計画に位置付けられた
対策の実施に要する追加的な経済的支援の
量(環境省試算)
環境省では、京都議定書目標達成計画に位置
付けられた対策の実施に要する追加的な経済的
支援について、産業部門、運輸部門、業務部門、
家庭部門・・・など部門別に試算しております
が、私どもの場合、既に 2,500 億の省エネ・新
エネ対策予算があるため、追加的予算は必要な
しとしております。森林吸収源について所轄官
庁の林野庁は、森林整備に追加的予算が毎年
1,700 億円以上必要とされています。財源の問
題は別として、森林整備は重要な課題です。林
野対策について協力できることがあったら是非
協力していただきたいと我々も産業界にお願い
しているところです。既に間伐材を利用して名
刺を作ったり、あるいはオフィス家具に国産材
を使用したりしている企業もあります。日常的
に様々な知恵を絞って活動を展開し森林整備の
難しさと重要性の理解を広く一般の方々に拡げ
JMC environment Update
しかし、個人的には恐らくそういう方向には
向かわないのではないかと思っています。
今回、
ETS のキャップをはめるプロセスの中で、ドイ
ツなどは典型ですが、政府内あるいは産業界と
の調整の段階でかなり厳しい議論があったよう
です。EU では京都議定書で定められた数値は
放っておいても達成できそうだと思っていた人
たちが多いのではないかと思います。ETS 制度
が運用されることになって初めて自らの問題と
して対策を講じなければならないことが理解さ
れているのだと思います。
14
Vol.7 No.2 (2005 7)
今後の地球環境問題へ対応について
私は過去に容器包装リサイクル法や電気事業
者による新エネルギー等の利用に関する特別措
置法(RPS 法)の制定に関わりましたが、これ
らの対象は、自治体が集めて分別したもので
あったり、電気といった生産量や使用量の計測
が正確に行える分野の話であったため、制度設
計において、①公平性の確保、②社会費用の最
小化、が何とか可能となり、様々な問題があっ
たものの成立に至ることのできた法律でしたが、
これが CO2 の排出量の話となると、ありとあら
ゆるところから CO2 は排出されますので、まず
はその把握が非常に大変ですし、全ての人に義
務をかけられないので大口の事業者だけの負担
になり、しかもそこに値段がつくとなるといく
らでもごまかす誘因が出てくるので、そういっ
た意味で制度設計上非常に難しいと思っていま
す。政策としての良し悪しもありますが、制度
設計的に難しいと思っていて、その意味で EU
の制度の今後の運用については非常に関心を
持って興味深く見ております。
そのような意味で、繰り返しになりますが、
目標達成計画は決まりましたが、様々なリスク
が引き続き存在し、そのリスクはむしろ徐々に
高くなっていくかもしれないので、それを如何
に、どう対応するかという議論を皆様も徐々に
始めていく段階に入っているのではないかと思
います。その点について本日は折角の場ですの
で、皆様にお伝えしたかったものです。
(本稿は、当組合会報「JMC ジャーナル」2005 年 7・8 月号に掲載された記事、
「講演 今後の地
球環境問題への対応について」を転載したものです。
)
JMC environment Update
15
Vol.7 No.2 (2005 7)
連載
欧州環境規制動向
〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
I.
REACH 案は、金属、化合物、合金および鉱石
EU
などの輸入品のすべてを対象とする。これら
1. 金属業界、欧州議会議員に REACH 修正を
は化学業界の下位区分と見なされている。
陳情
MIRG が強く主張している点は、金属は元々
欧州議会議員は、今後何週間かにわたり、
複雑な鉱石を原料としているが、低リスクで
REACH が金属業界に不相応な不利益をもた
あること、および金属は使用後のリサイクル
らさないよう同法案の修正を求める英国・欧
が進んでおり、埋立地や焼却炉で処分される
州金属業界代表らの圧力を受け続けることに
のではないということである。
なるであろう。
また、合金や特殊素材金属にしばしば使用さ
金属業界 REACH グループ(MIRG:The Metals
れる素材は現行 EU 分類に容易にあてはめる
Industry REACH Group)は、すでに超党派の
ことはできないし、特殊素材金属も現行 EU
欧州議会議員グループと会談をもち、同法案
分類や REACH 案に容易にあてはめることは
が修正されなかった場合には REACH 制度の
できない。MIRG によると、欧州委員会は無
意図に反して EU 金属製造業の競争力が失わ
機業界の REACH 改善提案をほぼすべて無視
れ、金属リサイクル業および特殊金属製造業
してきたように、この問題も以前から頑なに
の EU 域外流出が加速化されると警告した。
無視してきたという。
MIRG は、アングロアメリカン社、コーラス
MIRG は、REACH を修正して金属を除外しな
社、リオティント社などの生産者、ロンドン
い限り、代替物質の試験および評価のために
金 属 取 引 所 ( LME : The London Metal
「付加価値を生まない活動(試験)に乏しい
Exchange)やレアメタル事業者団体(MMTA:
人材や資金が大量に投入され、実行可能性の
The Minor Metals Trade Association)などの
問題が発生し、社会全体には極めて小さな恩
市場および事業者団体、アルミニウム連合
恵しかもたらされない」と論じている。
(ALFED:The Aluminium Federation)や非鉄
アライアンスなどの業界グループ(リサイク
このような MIRG の異議申し立てをさらに増
ル業者を含む)から構成されている。
幅しようと、LME もこのような化学物質の取
り扱いは欧州における金属の自由な流れを損
MIRG は、今後、2005 年 5 月 24 日の締め切
なう可能性があると警告した。この世界最大
りまで、欧州議会の関連委員会に多数の修正
の非鉄金属市場は、会員への通知の中で、
案を提出する見込みである。これらの修正案
REACH 対象化学物質の定義が広範であるた
は、英国政府 REACH 政策チームにすでに提
め、欧州市場へのアクセスおよび欧州域内の
出されている同様の修正を大いに反映した内
アクセスが阻害され、金属業界のサプライチ
容になる可能性が高い。
JMC environment Update
ェーン全体に脅威を与えると主張している。
16
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
REACH の定めよると対 EU 輸出のために EU
であるとして、これに反対するであろう。同
域外企業はライセンスを取得する必要がある。
様に、代替金属および合金の開発は極めて複
LME によると、そのために EU 域外企業は相
雑かつ特殊であるとして、いわゆる「代替主
当な毒性・リスク評価データを提出する必要
義」にも反対するであろう。
があるという。輸入業者が REACH によって
定められた EU ライセンス取得のための金属
2. REACH による影響は中程度との予想を
の登録をしないことにした場合、最も考えら
めぐる見解の相違
れる影響は金属の流れおよび価格に歪みが生
EU 化学物質規制案により化学物質が大量に
じることである。
市場から消えることも、多くの企業が「多大
な」コスト負担を強いられる可能性も低い、
MIRG および LME は、金属の一次および二次
と化学業界および EU 経営者団体にとって重
原料を REACH 除外にすること、また合金の
要な研究の結果が 2005 年 4 月に発表された。
適切な定義および扱いを求めている。このよ
うな EU レベルの取り組みをさらに強化して
コンサルタントの KPMG 社が実施した研究−
いるのが金属フォーラムである−これは
REACH 案が特定業界の化学物質バリューチ
Eurométaux(非鉄金属業界)
、Eurofer(鉄鋼
ェーンに及ぼす潜在的影響に関する研究−の
業界)および EIMAG(合金業界)が、これら
報告がようやく発表されたが、以前の結果報
の金属業界の REACH 案に関する利害を代表
告をおおむね確認する内容であった。
するために設置した別の非公式連合組織であ
る。
この研究に関するハイレベル会議の成果につ
いてブラッセルで記者会見を開き、フェアホ
これらのグループはいずれも、金属業界のよ
イゲン企業・産業担当委員は、欧州化学工業
うに取引商品の基本販売価格が国際取引所で
連盟(CEFIC:The European Chemical Industry
世界的に平等に設定されるという市場の場合、
Council)と経営者団体の欧州産業経営者連盟
REACH のコストを顧客に転嫁することがで
(UNICE)の委託研究について、この研究結
きないので、金属業界は REACH による被害
果は「2003 年 10 月以降の欧州委員会の影響
を受けると主張している。
評価をおおむね確認する内容である」と発表
した。委員会の評価では、REACH 実施に係る
いずれのグループも、自然に存在する原料で
総コストは 11 年間で 23〜30 億ユーロであっ
ある金属鉱物、鉱石および精鉱は REACH 除
た。
外扱いの自然に存在する有機体の原料(重油、
オイル、ガス)と同じ扱いにすべきだと主張
ディマス環境委員は、業界別および企業別の
するであろう。
「結果を一般化できるものではない」としな
がらも「最悪のシナリオでも・・・管理可能
また、二次原料(金属リサイクル業への供給
な範囲である」と補足した。
原料)も REACH 除外扱いにしておくことを
求めるであろう。二次原料を承認対象にして
この研究の目的は実施コストの定量化ではな
おくとリサイクルが減少するか、EU 域外に移
いが(152 種類の化学物質について、化学、
転せざるを得なくなるからである。
自動車、フレキシブルパッケージング(軟包
装)、無機材料およびエレクトロニクス業界の
また、一般的なこととして、これらのグルー
企業を対象に具体的実施状況を評価する研
プは、量的基準による優先順位設定は大量だ
究)
、一部の部門では登録によって収益の 6%
が低リスクである EU 金属・合金産業に不利
JMC environment Update
17
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
〜20%が減少する可能性があると推定して
中小企業の業界団体 UEAPME の Hans-Werner
いる。
Müller 氏は、声明の中で、
「登録負担を軽減す
る必要があり、さもなければ中小企業が深刻
さらに、生産者が市場占有率の維持および川
な危機に直面することを示す他の証拠」が研
下ユーザーへの供給に努める可能性が高く、
究結果に示されていると述べている。
また川下ユーザーも生産者の製品の使用にこ
だわると思われることから、EU 市場から化学
「企業は製品ラインナップの『合理化』によ
物質が著しく消えることはないと予想される。
ってコストを低減できると示唆されているが、
規模が小さく専門性が高いほど合理化は難し
「確かにコスト高になるが、製品の供給業者
くなる。」
は品揃えを維持しようとするであろう」と、
Klaus Mittelbach 氏は、CEFIC およびドイツ産
この研究は様々な利害関係者が重視している。
業連盟(BDI)を代表して、研究結果につい
それは、化学物質サプライチェーン全体にわ
てコメントを発表した。
「コストは吸収される
たり REACH 制度をチェックし、産業界およ
か、サプライチェーンに転嫁されるかのいず
び欧州委員会の両者によって支持され、委員
れかであろう。」
会が委託した独立機関の専門家にもすでに認
められている研究という意味で、これは「初
さらに予想通り、研究結果では、生産量の少
の」研究であるからである。
ない製造業者(年間の化学物質生産量が 100
トン未満)および中小企業は、大企業より収
しかしながら、REACH 追加影響評価作業に関
益に大きな影響が出る可能性があると論じら
するハイレベルグループに参加している二つ
れている。このことは、特に、化学物質取扱
の環境団体−世界自然保護基金(WWF:The
量が限定的な企業および(または)国際的な
World Wide Fund for Nature)と欧州環境ビュ
製品取引に深く関わっている企業に当てはま
ーロー(EEB:The European Environmental
るという。
Bureau)−は不満を表明し、一時はこの研究
の方法論が業界寄りだとして支持を撤回した。
ブ ラ ッ セ ル の 記 者 会 見 で 、 CEFIC の Alan
Perroy 会長(Director-General)は、化学物質
EU 組織内の利害関係者については、欧州議会
供給業者は「サプライチェーンに支障をきた
内で共同責任を有する環境委員会、産業委員
さないよう全力を尽くす」と中小企業に対し
会および域内市場委員会の三つの委員会に所
て改めて保証した。しかしながら、同氏は、
属する欧州議会議員が、この新影響評価の結
研究結果によると REACH が定める様々な義
果を配慮すべく、REACH に関する審議および
務を果たすことによって「供給業者の製品の
(または)採決を遅らせている。今後、この
多くは採算が取れなくなる可能性がある」の
三つの委員会はいずれも、2005 年 10 月に本
で、これは「厳しい決定」になると述べた。
会議で第一読会の採決を行うことができるよ
うに、全力で同法案に取り組んでいくものと
また、Mittelbach 氏は、
「わずかな値上げであ
予想される。
っても」規模の小さい企業ほど影響を受けや
すく、しかもその規模の小さい企業がしばし
事実、この研究結果が公表された翌日には、
ば「世界的な有力企業」であるので、供給業
欧州議会最大の中道右派勢力である欧州人民
者が「自動的にコストを転嫁することはない」
党が、同法案に関する立場を明らかにした。
と、同意する意見を述べた。
その立場は、
「関係する三つの主要委員会の委
JMC environment Update
18
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
員を務める同党の議員」の支持を得たもので
見に対して警告を発した。同氏は「新法遵守
あった。
のための仕事を重視すべきであり、新たな技
術革新を推進することでは断じてない」と、
一方、フェアホイゲン委員は、関係者はいず
発言した。
れも「2005 年末までに」欧州議会第一読会、
EU 加盟国の共通方針およびそれに対する欧
UEAPME の評価はさらに厳しく、特に登録コ
州委員会の対応の最終決定に向けて協力する
ストが収益の最大 20%に達する中小企業の
ことに合意していると述べた。
存在を考慮すると、具体的な中小企業支援策
を講じることが不可欠であると指摘した。
「こ
「一種類の化学物質につき一回の登録
れにより大部分の中小企業が多大な影響を受
(OSOR)」という仕組みを REACH に導入し
けることになり、破綻を余儀なくさせられる
ようとするハンガリーおよび英国の各提案に
可能性もある。」
ついて意見を求められ、同委員は、いわゆる
「OSOR 方式は、コストではなく・・・事務
化学業界大手の立場とは反対に、UEAPME は、
的負担という意味での簡素化をはかる方式で
声明の中で「強制的データ共有」を求めてい
ある」と答えた。
る。
「それにより、中小企業は・・・同規制へ
の適合が容易になる」としている。
同委員は、
「データ保護・・・の諸問題が解決
できれば」この考え方を同制度に適切に導入
また、紙、ガラス、金属などの製造や採掘を
できるであろうと発言した。すなわち、一部
目的とする無機素材または天然素材の取引に
大手化学会社の懸念と同じことを述べた。
関わる 12 業界の代表が構成する REACH アラ
イアンス(全体の年間生産量および収益の規
手元の影響評価研究の結果について、フェア
模はそれぞれ 15 億トンおよび 3,600 億ユー
ホイゲン委員は、研究結果の有効性に関して
ロ)は、別の反応を示した。
「幅広いコンセンサス」が形成されていると
発言した。但し、
「この報告書に対するハイレ
同アライアンスの場合、欧州セメント協会
ベル委員会参加者の受け止め方は異なる可能
( CEMBUREAU ) の 代 表 で あ る Jean-Marie
性がある」と述べた。
Chandelle 氏は、REACH の定義は不明瞭であ
り、12 業界への適用が難しいと発言した。
会議前に記者会見を開いた CEFIC と UNICE
CEMBUREAU の同代表(Chief Executive)は
は、研究結果、REACH の目的および制度導入
「人々は登録の必要があるのかどうかさえ分
の暫定的日程を全面的に支持していると述べ
からない」と指摘している。
ながらも、一連の「修正」を同案に求めた。
アライアンスの声明には、二次原料および代
両団体は、特に、登録対象化学物質について
替燃料に関する規定からの除外を求めるこれ
優先順位設定を早期に進めることや、企業の
までの要求が繰り返され、また鉱物、鉱石、
機密事項保持について一段の保証を求めると
自然に存在する物質および素材は、1996 年以
ともに、有害化学物質を有害性の低い化学物
降 統 合 的 汚 染 防 止 管 理 ( IPPC : Integrated
質に代替することを同制度の基本原則の一つ
Pollution Prevention and Control)に関する EU
とすることに反対意見を表明した。
法によって「すでに規制されている」と、声
明には述べられている。
同様に、CEFIC 代表の Perroy 氏は、REACH
制度が新製品の研究開発を奨励するという意
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
また、同アライアンスは、欧州委員会が廃棄
しかし、ディマス委員やフェアホイゲン委員
素材は REACH 案の対象外とすることを保証
の見方は異なる。両者は、この研究が、REACH
しているにもかかわらず、EU に廃棄素材に対
の将来的影響に関する欧州委員会の元々の判
す る REACH 適 用 免 除 を 求 め て い る 。
断をさらに強める結果になったことに疑いの
Chandelle 氏は、
「廃棄物も対象となっている」
余地はないと、記者会見で発言した。
「コスト
と主張している。
はサプライチェーン全体で希薄化される」と、
ディマス委員が述べたところ、「11 年間かか
欧州委員会によると、企業は「化学物質が廃
る」と、フェアホイゲン委員も同意する発言
棄物化した場合の処理方法」を安全データシ
をした。
ートに明記しなければならないことになって
おり、そのことが「混乱の原因」であるとの
「[以前に]公表された数字は全く誇張であ
ことである。
る」と、フェアホイゲン委員は主張し、企業
が「巨額の」事務経費および試験費用を負担
一方、ハイレベルグループにおける追加影響
することになり、失業や海外への移転を招く
評価に関する議論をフォローしてきた二つの
と予測した以前の業界による影響評価を激し
環境団体は、今回の研究結果によって、EU
く非難した。同委員は「資金面の議論は消え
は REACH 規定を実施することが認められ、
た」と発言している。1
これまでの業界の研究結果が誤りであったこ
3. 水銀輸出禁止案をめぐり EU 加盟国間で
とが証明されたとの見方を示している。
論争
EEB と WWF の共同声明には「最悪のシナリ
EU 加盟国は、2011 年までに EU からの水銀
オを想定した場合でも、各企業のコスト面の
輸出を段階的に禁止する案をめぐり、依然と
影響は中程度に留まる」と述べられている。
して対立していることが明らかになった。
両団体は、業界の研究結果は、欧州委員会の
各国環境閣僚は、
2005 年 6 月 24 日の会合で、
評価の 4 倍という「過大評価された試験費用
EU 水銀戦略案に関する統一方針に合意する
に基づき」計算されたものであると主張し、
ことになっている。
従って、
「一回限りの場合のコスト上昇はさら
に小さくなり、最終製品の価格上昇は極めて
しかしながら、環境閣僚理事会の結論を準備
わずかとなる。データ共有によってさらにコ
している理事会交渉担当者は、欧州委員会案
ストが低減する可能性がある。すなわち強制
を「大筋で受け入れている」ものの、輸出禁
的データ共有、すなわち OSOR が重要である
止を承認するかどうか、また発効日の時期を
ということである−そうすれば総コストを
めぐり依然として厳しい交渉を続けていると、
24.4%削減できる」と EEB および WWF は補
EU 議長国を務めるルクセンブルグの職員が
足した。
某環境紙に語っている。
一方、CEFIC と UNICE を代表して、Mittelbach
議長国の作成による理事会結論案−2011 年
氏は、研究の目的はコストではなくビジネス
輸出禁止を支持し、さらなる国際的対策を求
への影響を定量化することであると主張した。
実際に、研究結果は「多くのマクロ経済研究
を支持する結果になった」と、同氏は指摘し
1
ている。
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KPMG が実施した研究の要旨は以下のサイトを参照のこ
と。
http://europa.eu.int/comm/enterprise/reach/docs/reach/
kpmg_summary.pdf
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
める内容−に加盟国多数派の支持を取り付け
水銀の「安全な」保管に関する法案の策定を
たと、これまで報じられてきたが、同職員は
欧州委員会に求めている。
それを認めようとはせず、様々な意見を「上
手く反映させた内容」になっている、として
同時に、加盟国は結論として禁止の「重要性
いる。
を強調」すべきか、その「潜在的重要性を強
調」すべきかをめぐり対立しており、その文
2005 年 5 月 13 日に開かれた理事会作業グル
言は EU 禁止措置案がいかに論争を呼んでい
ープの結論案に関する会議に先立ち、環境五
るかを証明するものとなっている。
団体が構成する組織が「一部の国−英国、ド
イツ、ポーランドなど−が、国際的貿易規制
議長国の文言では、将来戦略には、民生用お
対策が講じられるまで、EU 水銀輸出規制発効
よび医療用の非電子的測定制御装置の販売規
日の決定を先延ばしにしようとしている」と
制を含むべきであるとしている。
の声明を発表した。
しかしながら、さらに、同文言は、EU に要求
これに関して前述の議長国職員は、「2011 年
されている取り組みは「人間の健康および環
は文言に入っているが、一部の国の代表
境を守るには不十分である」としている。そ
が・・・疑問を呈している。
・・・2008 年と
れは、水銀排出に国境は関係ないにもかかわ
いう別の選択肢もある」と発言している。
らず、この措置が第三国に適用されないから
である。
2008 年までに輸出を段階的に禁止するとい
う日程は、議長国による初期の戦略文書に登
従って、EU は「水銀に代わる代替物質の利用
場した数字であり、また前述の環境五団体、
可能性に配慮しつつ、水銀の一次生産におけ
すなわち EEB、グリーンピース、欧州公衆衛
る国際的な段階的禁止措置の実現、余剰分の
生連盟(EPHA:The European Public Health
市場再投入の終了および水銀の使用および取
Alliance)環境ネットワーク、水銀禁止作業グ
引の段階的禁止を目指して、世界レベルの排
ル ー プ ( BAN HG-WG : The Ban Mercury
出および曝露削減に関する国際的取り組みを
Working Group)および天然資源防衛委員会
継続および強化」していくべきである。
(The Natural Resources Defense Council)が
さらに、議長国の文言には、EU 戦略案の発展
支持している日程である。
および実施に「不可欠な」内容として以下に
この五団体は、国連での交渉の場で「米国そ
示す点が強調されている。
の他の国々が引き続き国際水銀条約を阻止す
るなら・・・国際的対策はかなり先のことに
・ 「現行の国際的な法的枠組みおよび国際
なるかもしれない」との見通しを示している。
ルールに配慮しながら」EU および世界レ
従って、EU は、水銀輸出国の世界リーグ代表
ベルの取り組みを追求すること。
として、この有害かつ広範囲にわたり越境し
ていく重金属を段階的に禁止する経済的およ
・ 例えば、歯科用アマルガムやワクチンな
び 道 義 的 義 務 が あ る と 、 BAN の Michael
ど、EU に今なお残る水銀使用の問題に取
Bender 氏は述べている。
り組むこと。
一方、理事会結論案は、この戦略案を歓迎す
・ 燃料燃焼による水銀排出をさらに削減す
る内容になっており、EU 輸出禁止および廃棄
るための新技術を開発すること、また金
採掘に使用される水銀を代替すること。
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
・ EU 内外の関係者と「戦略、その原則、目
水銀戦略により大きな影響を受ける塩素アル
的および関連する目標について共通ビジ
カリ業界のある代表は、会議でのスピーチの
ョンを持つこと、戦略の発展に積極的に
中で、水銀排出の大半は生産ではなく他の活
参加すること、また業界による自主的イ
動が原因であると主張した。同氏は、国連環
ニシアティブに配慮しつつ、戦略の実施
境計画の研究による推定に言及し、世界にお
に対する責任を共有する」こと。
ける人為的水銀排出の 70%は石炭火力発電
所および廃棄物焼却が原因であると指摘した。
・ 「これまでのプロセスの特徴である」透
4. EEE 製品への Deca-BDE 使用を認める欧
明性および開放性を確実にすること。
州委員会の主張
・ 水銀および戦略に関する情報提供や啓蒙
2005 年 4 月 22 日、委員会は、2006 年 7 月
活動により市民の意識をさらに高めるこ
から電気電子機器への使用が禁止される有害
と。
物質リストから Deca-BDE を除外する提案を
推進する意向を明らかにした。
・ 戦略の目的と目標に関して、すべての利
害関係者が「所有意識と長期的な政治的
委員会は、特別委員会の会合で特定多数決に
コミットメント」をもつこと。
よる過半数の支持票を加盟国から得ることが
できなかったにもかかわらず、これを決定し
・ 水銀の研究および技術に関する優先課題
た。
に取り組むこと。
さらに、スウェーデンは、欧州司法裁判所に
・ 石炭など固形燃料への依存度が高い移行
おいて、この例外措置を阻止する構えを見せ、
経済諸国や発展途上国に対して、クリー
欧州議会も同措置に反対すると警告を発して
ンかつ効率的な燃料使用の推進を支援す
いる。
ること。
この委員会提案は、RoHS 指令を実施するた
環境保護団体によると、EU には水銀輸出を継
めに設置されている特別委員会 TAC で、2005
続する「根拠がない」と、EPHA 環境ネット
年 4 月 19 日に行われた採決の際に特定多数
ワーク(EPHA-EN)のディレクターである
決による過半数の獲得に失敗した。
Genon Jensen 氏は述べている。むしろ、EU
は「世界最大の水銀輸出圏」だったので「こ
その後、同案は環境閣僚理事会に送付された。
の分野において EU がリーダーシップを発揮
することは経済的かつ道義的義務である」と、
Deca-BDE は、デカ臭素化ジフェニールエー
BAN の Bender 氏は述べている。
テルの略語であるが、主に、繊維産業および
エレクトロニクス産業で使用されている。今
EU は、今後 10〜15 年間にわたり開発途上国
回の禁止措置はエレクトロニクス機器への使
に約 12,000 トンを輸出する見込みであった
用に限り影響を及ぼす。
と、
EEB の Elena Lymberidi 氏は主張している。
EU 法の手続きに基づき、環境閣僚理事会(全
委員会の推定によると、世界で年間に生産さ
25 ヶ国が再度採決を行う)において十分な支
れる 3,400 トンの水銀のうち、EU は約 1,000
持が得られない場合でも、同案件は委員会に
トンをスペインの採掘販売会社で生産してい
る。
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
戻された後、同委員会が最終決定を下すこと
よび潤滑剤の製造に溶剤として広く使用され
ができる。
ている。
委員会の広報官 Lone Mikelson 氏は、「10 年
欧州議会は、2005 年 4 月 13 日に、一回の読
間かけてリスク評価分析が行われ、その結果、
会の後に(共同決定手続き)、この二種類の物
環境への否定的な影響が示唆されていないの
質を販売・使用禁止物質リストに追加する案
で、委員会としては、Deca-BDE 除外案は科
に合意した。同措置は、特定有害物質および
学的根拠のある法案であると確信している。
化合物の販売および使用を規制する指令
われわれは、Deca-BDE による環境への脅威
76/405/EEC に従っている。
を示唆する新たな科学的知見が得られた場合
には、この除外措置を見直すと常々発言して
Karl-Heinz Florenz 報告の執筆者(ドイツ、
きた」と述べ、同案を擁護した。
EPP-ED)から、修正が一件提案され本委員会
で採択された。トリクロロベンゼン由来の物
2005 年 4 月 19 日の採決に先立ち、スウェー
質で、いわゆる機微でない軍需物資(偶発的
デンは、Deca-BDE に代わる代替物質が存在
に爆発しない)の製造に使用されているトラ
するとして、この除外案を撤回するよう委員
ミノベンゼンと、塩素化反応に使用されるト
会に求めた。スウェーデン政府、環境団体お
リクロロベンゼンを規制除外対象とする修正
よび欧州議会議員は、当該化学物質による健
であった。
康への影響に関するリスク評価が完了してい
ないとして、同例外措置は正当性に欠けると
同指令案は、質量の 0.1%以上のトルエンま
主張している。
たはトリクロロベンゼンを含有する製品の販
売および使用の規制を目的とするため、公衆
「健康リスク評価の予備的結果によると、子
衛生要件および現在は国家基準という形の障
供に対する潜在的神経学的リスクの存在が示
害がある域内市場要件を組み込んでいる。対
唆されている」と、EPHA 職員の Christian
象となるトルエン含有製品には、接着剤およ
Farrar-Hockley 氏は述べている。
びエアロゾルが含まれる。一方、トリクロロ
ベンゼンは、中間製品を除き、すべての使用
また、この例外措置を阻止すると発言する議
が対象となる。
員もいる。2003 年の調停委員会で有害物質指
6. 欧州委員会、英国の排出量取引枠拡大を
令に関する合意に達した時には予見されなか
ったことであるとして、例外措置について忌
却下
憚のない意見を表明している。
委員会は、EU 排出量取引制度において英国企
業に温室効果ガス排出枠の拡大を認めてほし
5. 新たな危険物質の規制
いとする要求を再び却下した。
トルエンおよびトリクロロベンゼンが間もな
く EU 公式有害製品リストに追加される。ト
委員会は 2005 年 4 月 12 日にこの正式決定を
ルエンは、塗料、ワニス、印刷用インキ、接
公表したが、それによると電力会社およびエ
着剤およびワックスの溶剤として使用されて
ネルギー集約型企業に配分する排出枠を 736
いる。トルエンは中枢神経系への毒性と、皮
トンから 756 トンに拡大するという英国政府
膚、目、呼吸器官への刺激性を有する。トリ
の計画は承認できないという。
クロロベンゼンも、殺虫剤、除草剤、染料お
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
ブレア政権は、以前、欧州司法裁判所に訴え
7. 理事会と欧州議会、エコデザイン指令の
ると発言していたが、当面は 2004 年 7 月に
採択に合意、7 月 22 日付 EU 官報 L19 に
委員会が認めた 736 トンの排出枠を配分する
公示
ことになる。
理事会および欧州議会は、厳しい交渉の末、
議会の第二読会での採決予定日まであと数日
委員会は、声明の中で、同制度の公正さ、効
という最終段階で、エネルギー使用製品
率性および環境目標達成を確実にするための
(EuP:Energy-using Products)エコデザイ
慎重な均衡を崩すことはできないとして、今
ン案件に決着をつけた。
回の決定の正当性を主張している。さらに、
EU の 2003 年排出量取引指令では、英国が昨
今回合意に達したということは、両者は、ほ
年 7 月に承認された当初の「国家配分計画」
ぼ確実視されていた調停委員会での交渉長期
の変更を要求することは法的に認められない
化を避けることができたということである。
としている。
今回の合意では、欧州議会は、第三者認証に
関して譲歩し、製造業者による指令実施措置
「加盟国が該当する委員会決定の規定範囲を
遵守の自己認証を受け入れなければならなか
超えて新たな修正を通知することは認められ
った。
ていないので、委員会は英国の要求を却下す
る」と、声明には述べられている。
一方、委員会および理事会は、最初に実施措
置の対象となる製品グループのリストを指令
「配分枠の総量は、委員会の評価の根本的要
の中で規定するという欧州議会の要求に合意
素である。いったん委員会が決定を下した後
しなければならなかった。EuP 指令は製品を
には、承認された総配分枠の安定性を最大限
直接規制するのではなく、委員会が具体的な
に保つことが、取引市場を適切に機能させる
実施措置を採択した後に製品に適用される広
ために極めて重要である。」
範なエネルギー効率化要件を規定している。
実際に、委員会は、英国に当初の計画の調整
この実施措置を承認する仕組みが欧州議会と
を認めると、他の加盟国から同じような要求
の論点になった。議会に発言権が与えられな
が多数出てくる可能性があるという事実に極
いからである。しかし、最終的に、欧州議会
めて敏感にならざるを得なくなるであろう。
は、各国当局が欧州委員会の独自案採択を認
委員会は、制度開始以降、排出枠の撤回を適
める制度に合意することになった。
宜に認めてほしいというドイツの要求をすで
に却下している。
また、原案では、最も省エネの可能性が高い
製品という幅広い基準に基づき、どの製品が
「英国当局には英国の要求は容認できないと
実施措置の対象となるかは委員会に任せるこ
すでに伝えてあるので、われわれの決定が意
とになっていた。今回の合意で、委員会は、
外だと受け止められることはないはずであ
温室効果ガス排出削減の可能性が最も高いと
る」と、ディマス欧州環境委員は声明の中で
見なされる優先分野に関して、二年間の実施
述べている。
措置検討期間を与えられた。優先分野を以下
に列挙する。
配分枠1単位は CO21 トンに対応しているの
で、英国企業の配分枠が 20 単位追加される
・ 暖房および給湯機器
と、さらに 20 トンの CO2 を無料で大気中に
・ 電気モーターシステム
放出できるということになる。
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
・ 家庭用およびサービス業用の照明
同案に関する欧州議会の意見を執筆し、議会
・ 家庭用電気製品
と理事会との交渉を指揮したベルギー自由党
・ 家庭用およびサービス業用の事務機器
の起草者 Frederique Ries 氏は、採決前日の議
・ 民生用電子機器、暖房・換気・空調シス
論の中で、「この枠組み指令により、EU は環
テム(HVAC:Heating Ventilating and Air
境保護のための新たなツールを獲得する。環
Conditioning Systems)
境汚染の約 80%は生産の設計段階で生じて
・ ある製品群の待機時電力損失を削減する
いる。従って、問題の発生源に取り組むこと
ための別の実施措置
が重要である」と発言した。
これらの優先分野を合わせると、約 2 億トン
当然の事ながら、委員会は欧州議会による今
の CO2 の大気中への放出を防ぐことができる。
回の採決および指令の採択が間近に迫ったこ
これはオランダに匹敵する大きさの国が発生
とを歓迎している。声明には、エネルギー使
させる汚染の規模である。また、京都議定書
用製品のエコデザインに関して、一貫性のあ
に定められた EU 排出削減目標のほぼ半分が
る EU 全域ルールが存在すれば各国規制間の
達成できる。
ギャップが域内貿易障壁になることはないと
述べられている。
これらの優先分野以外に、欧州議会はまた、
製造業者間の自主規制協定により不必要な場
ピエバルグス欧州エネルギー担当委員は、声
合を除き、製品群毎に1つの実施措置という
明の中で「この指令は恒久的かつ拡大的な省
ことを定めている。但し、かかる協定には、
エネ効果を消費者にもたらすことになり、結
欧州議会によって採決された文書の中に慎重
果的に共同体の安定的エネルギー供給の強化
に規定された明確な基準が適用される。
に貢献することにもなる」と述べている。
製造業者および販売業者は、幅広いエコデザ
フェアホイゲン副委員長は、
「エコデザイン指
イン要件を満たさなければならなくなる。エ
令により、EU 産業界は、製品の環境面の改善
ネルギー消費目標は、国際市場で最も優れた
に関する国際的な課題に直面する準備ができ
パフォーマンスを示す製品を考慮に入れて定
る」と補足している。
められる。
欧州議会の採決後、CECED(欧州家電工業会
加盟国はまた、特に支援のためのネットワー
は、エコデザイン規則の違反を防止するには
クや仕組みを強化するなど、中小企業が将来
実施が極めて重要になると述べている。
の EU 法に対処するために必要な適合化資源
CECED)は、
「自主的イニシアティブおよび市
を得られるようにする義務を課される。
場勢力には変化を推進する可能性があるとい
自動車その他の乗り物は別の法律によってす
う認識」に歓迎の意を表明し、「CECED のメ
でに規制されているので、当該指令はそれ以
ンバーはこのアプローチが機能することを証
外のエネルギー使用製品を対象とする。委員
明している」としている。
会および欧州議会の推定によると、洗濯機、
コンピュータ、ヘアドライヤーなど、指令の
また、同組織は、加盟国は EU 指令の範囲を
対象となる製品は、EU において一次エネルギ
超える厳しい規則を導入できないと定める域
ーの約 30%を消費し、大気中への CO2 排出量
内市場に関する法的根拠(第 95 条)を採用
の 40%を占めている。
する決定にも歓迎の意を表明した。
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Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
8. 廃棄物−電池:リサイクル業界、回収率
「しかし−そしてこれは大きな『しかし』で
あるが−CECED は、当該指令およびその実施
の引き上げを要求
対策の潜在的可能性が十分に発揮され、統一
欧 州 電 池 リ サ イ ク ル 協 会 ( EBRA : The
市場が維持されるには、委員会および加盟国
European Battery Recycling Association)は、
がこの規則を適正に執行する以外に方法がな
閣僚理事会の電池・蓄電池指令案に関する共
いと明言する。」
通方針に示された回収目標はまったく不適切
であると指摘している。同協会は、新指令に
「合意内容の中でも決定的に重要な部分は、
は、一段と意欲的な最低回収目標および実施
この新法をすべての市場関係者に尊重させる
時期の前倒しを定めるべきとする要求を繰り
ために、市場監視の執行を目指していること
返している。また、同協会は、リサイクルに
である。EU 市場に製品を上市する各関係者に
関する BREF(利用可能な最善技術に関する
対して明確な要件が定められており、特に輸
参照文書)起草への反対を表明している。
入業者の果たす役割への言及がなされてい
る。」
EBRA は、第一読会で欧州議会が一段と意欲
的な回収目標−指令を国内法に置き換える政
「産業界は、現行規則が十分に明瞭でないた
令の施行から 4 年後に 50%(移行期間として
めに、期待されている影響が得られない可能
18 ヶ月間をプラス)−を支持したことに言及
性があることに懸念を抱いている。特に、輸
し、理事会が大幅に目標を引き下げたことに
入業者は欧州において製品の適合を証明する
遺憾の意を表明した。EBRA は、以下に示す
技術文書の提供が義務づけられていない。」
小型電池回収制度を導入している加盟国にお
ける成果を考慮すると、理事会が提案する回
「共同体において、このような技術ファイル
収率は低すぎると主張している。ベルギー
の提供を求める産業界の要求を無視すると、
(1996 年制度導入:2 年後 39%、
4 年後 53%)、
加盟国による執行への取り組みが損なわれて
ドイツ(1998 年)
:2 年後 30%、4 年後 37%、
しまう。税関職員は、輸入貨物が規則を尊重
オランダ(1995 年)
:2 年後 42%、フランス
しているかどうか容易にチェックできないで
(2003 年):2 年後 27%。
あろう。加えて、われわれは、製品のトレー
サビリティを確実にする要件が導入されなか
同案に関する第二読会を見越して、同協会は
ったことも遺憾に思う。」
欧州議会に対して一段と意欲的な内容の文言
に戻すよう強く求め、具体的に、各国政令の
EICTA(欧州情報通信技術製造者協会)は、
施行から 3 年後(または同指令の採択から 5
欧州の情報システム、民生用の技術および電
年後)に 50%という最低回収目標を各加盟国
気機器に関する業界団体であるが、EICTA も、
に対して設定するよう提案している。
欧州議会の採決結果に関する声明を発表した。
「理事会、委員会および欧州議会は、バラン
EBRA は、理事会が採択した文書にリサイク
スの取れた提案に合意した。競争力と環境の
ルに関連する利用可能な最善技術について言
両方に適切に寄与する内容である」と、同声
及がなされていることに触れている。同協会
明には述べられている。
は、利用可能な最善の技術の定義に関して、
電池リサイクルに関する BREF 文書(IPPC 指
EuP 指令は、7 月 6 日付で議会及び理事会が
令に規定される参照文書)の作成に参加する
サインをし、final text となった後、7 月 22
用意があることを示唆している。
日付 EU 官報 L191 に掲載された。発効は官報
掲載後 20 日後なので 8 月 11 日となる。
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
リサイクル効率に関して、EBRA は、理事会
加盟国は、18 ヶ月間以内に包装及び包装廃棄
が欧州委員会および欧州議会の提案に関して
物開示データを提供することになっているの
酸化鉛電池 65%、ニッカド電池 75%、その
で、新書式は 2003 年のデータから適用され、
他の電池 50%、最後のカテゴリーについては
その期限は 2005 年半ば頃となる。
5%の削減と目標を定めていることに言及し
ている。同協会は、一次電池のリサイクル効
この決定により、加盟国は以下に示すデータ
率目標 50%と、ニッカド電池の 70%は受け
を自主的に追加資料として提供できるように
入れる用意があることを示唆しているが、リ
なる。
サイクル効率の計算方法は技術適合委員会
(TAC:The Technical Adaptation Committee)
・ 空パッケージの製造および輸出入。
に定義させるよう要求している。
・ 再利用可能な包装。
・ 複合包装などの包装材を構成する断片。
最後に、同電池リサイクル業界団体は、理事
・ 包装に含まれる重金属の濃度および有毒
会の共通方針から削除された、リサイクル工
その他有害物質および素材の存在。
場の登録と正式な認可取得を義務づけるリサ
・ 製品内容物による汚染により有害と見な
イクル規定を復活するよう要求している。
される廃棄物。
9. 包装に関するデータベースの報告書式が
10. 業界団体、包装リサイクル基準を要求
決定
欧州持続可能な資源利用協会(ASSURRE:The
に関する統計データを報告する際に使用する
Association for the Sustainable Use of
Resources in Europe)のマネージング・ディ
書式を決定した。
レクターの Bill Duncan 氏は、EU における包
欧州委員会は、加盟国が包装及び包装廃棄物
装廃棄物管理を改善するには欧州共通リサイ
この委員会決定は 2005 年 3 月末に合意され
クル基準が必要であるとして、
1998 年〜2002
たもので、これにより 1997 年に定められた
年の包装廃棄物統計に関する最近の分析研究
以前の書式は廃止される。この新しい書式に
の結論を引用した。
ついては、2004 年半ば頃までに、
(包装指令)
第 21 条委員会において各国包装担当者が大
Duncan 氏は、統計の数字から欧州がリサイ
筋で合意していたが、拡大 EU の全言語への
クルにおいて真の調和を達成しつつあること
翻訳に関する問題により公表が遅れていた。
が分かるが、リサイクル工場に関する欧州基
準があれば、さらなる進歩が促されるであろ
今後、加盟国は、新しい表形式による電子デ
うと発言した。現在は、処理方法もリサイク
ータを委員会に送付しなければならない。ま
ル費用も加盟国によって大きく異なっている。
た、今回の決定は、素材の再利用、包装廃棄
物の輸出入および複合素材などの定義を明確
「現在、低コストのリサイクルは投棄と考え
にすることにより「加盟国間のデータ互換性
られている」と同氏は述べ、その真偽はとも
の保証」を目的としている。その後、委員会
かく、基準があれば業界が抱える諸問題の解
は公式サイトに当該データを公表する。
決およびパフォーマンスの改善に役立つと付
言した。
新書式では、複合素材は、別の項目ではなく
主たる素材の項目で報告される−以前は業界
ASSURRE の分析は、欧州委員会の最新公式統
の懸念事項となっていた点である。
計を基にしたものである。すなわち、12 加盟
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Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
国における 2002 年までの統計である−元々
統計は、この包装指令の目標に実効性があり、
の EU「原加盟国」15 ヶ国から、包装指令に
埋立地への依存は終焉しつつあることを示唆
定められた目標達成に免除措置として猶予を
している。
「リサイクルされている包装の総量
認められているギリシャ、アイルランドおよ
は 1998 年〜2002 年までに 20%増加した」
と、
びポルトガルを除く。
同氏は述べ、「最終的に処分される包装が
1998 年には上市された包装材の 45%であっ
リサイクル率には二つの傾向が顕著になって
たのが、2002 年には上市された包装材の
きている−達成率が最も高い国の横ばいまた
37%にまで減少したことは指摘しておく価
は低下傾向と、達成率が最も低い国の著しい
値がある」と続けた。もちろん、2002 年の方
改善傾向である。
「開始時は緩やかな傾向を示
が 1998 年より上市された包装材の量は多か
していた一部の加盟国が 1998 年以降に目覚
った。
ましい伸びを示している。イタリアは 19%、
英国は 16%、スペインは 10%である。ルク
包装指令は、包装廃棄物を「end of pipe(末
センブルグも 1998 年の 42%というかなり高
端処理)問題」として対処することには成功
い回収率から 2002 年には 57%に上昇するな
していると、Duncan 氏は述べている。しか
ど、実績がさらに伸びている」と、Duncan
しながら、同氏は、長期的には、資源の利用
氏は指摘している。
や廃棄の方法に関して、製品のライフサイク
ル全体を視野に入れた、一段と戦略的なアプ
「リサイクル実績には依然として加盟国間に
ローチが必要になると続けた。そのためには、
格差がある」と、同氏は述べている。
「しかし
個別の製品と経済成長だけに目を向けるので
ながら、最も高い国と最も低い国との格差は
はなく、廃棄物の素材に注目したアプローチ
1998 年の 52%から 2002 年には 30%に縮小
を取る必要があるという。
している。」
「ライフスタイルの変化、単身世帯の増加、
同氏は、この格差は将来的には半分になり、
人口の増加によって消費パターンさらには包
最も高い国と最も低い国との格差は約 15%、
装材の進化に影響が及ぶことを考慮すると、
全加盟国の包装廃棄物リサイクル率は 50%
上市された包装材の増加は依然として中程度
〜65%になるとの予想を示した。
である」と、同氏は述べている。
「われわれは、
現在進行中の社会経済的変化を考慮に入れる
1998 年、実績が最も高い国と最も低い国との
と、総包装量はさらに増加すると予想してい
格差は大きかった。首位のドイツは包装廃棄
る。」
物リサイクル率が 80%であったのに対して、
最下位の英国は 28%であった。しかしながら、
しかし、加盟国によって、製造される包装量
この格差は 2002 年には縮小した。ドイツは
の変化には相当の格差がある。従って、実際
依然として首位の座にあったが 72%、英国も
にどのようにデカプリング(分離)が起きた
最下位のままであったがスペインとともに
のか疑問が生じる可能性がある。包装量の変
44%であった。
化は、加盟国によって経済状態や環境優先課
題が異なることを示唆しているといった方が
Duncan 氏は、現在の傾向に基づき、全ての
いいかもしれない。2002 年、英国、オランダ、
加盟国が 2008 年欧州目標を達成できるとの
ルクセンブルグおよびスウェーデンでは、上
自信を示した。欧州目標では、上市された包
市された包装材が 2000 年に比べて 5%以上
装材の廃棄物の 55%をリサイクルし、60%を
増加したが、オーストリア、スペイン、フラ
再生することが定められている。
ンスおよびベルギーでは正味量が減少した。
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欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
また、1人当たりの包装材およびその変化に
扱い業者に直接販売できる点に対しては懸念
も 12 ヶ国の間に大きな格差がある。フラン
が表明されている。
スは1人当たりの包装材の量が 205kg と最も
また、回収カテゴリーが五種類しかないので、
多く、フィンランドはわずか 86.7kg である。
再生業務の質に関する懸念もある。すなわち、
また、英国(+9%)、ドイツおよびスウェー
異なる電気製品が一緒に回収されることによ
デン(いずれも+5%)は 2000 年以降1人当
り、環境に優しい製品設計を促すインセンテ
たりの包装材の量が増加しているが、オース
ィブが弱まり、製造業者のコストが増大する
トリア(−9%)、スペイン(−7%)、ベルギ
と、製造業者は指摘している。
ーおよびフランス(いずれも−3%)はいず
れも減少している。
2. 未処理廃棄物の埋立てはもはや過去の慣
行−6 月 1 日より廃棄物保管令施行
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
国内廃棄物管理の新時代の幕が開けた。2005
年 6 月 1 日よりドイツでは未処理廃棄物の埋
立処分が禁止される。これにより、われわれ
Ⅱ. ドイツ
の健康と気候が保護され、雇用が創出される。
1. ドイツ WEEE を国内法制化、但し製造業
トリッティン連邦環境大臣は「本日をもって
者による実施は 2006 年まで延期
将来の世代にわたりおびただしい数の汚染さ
ドイツ連邦議会は、ようやく WEEE 指令の実
れた土地を生み出してきた慣行(埋立地に廃
施法を承認したが、製造業者による全面的な
棄物を埋めて、そのまま忘れてしまうという
生産者責任の履行は 2006 年 3 月まで、すな
慣行)が終わる。この抜本的改革は、自動車
わち EU が定める国内法制および実施期限の
用触媒コンバーターの法的規制導入にも匹敵
8 ヶ月後まで延期される。
する環境保護に向けた画期的な出来事といえ
る。」
ドイツの制度の主な特徴の1つは、製造業者
が 2005 年 11 月までに中央登録機関に登録し
ちょうど 15 年前、大量の未処理の一般家庭
なければならないことである。本来、環境庁
ゴミおよび商業廃棄物はゴミの山に処分され
に登録することになっているが、環境庁は中
ていた。まず住民がその悪臭に対する苦情を
央登録機関としての権限を業界が組織するク
訴え、次にダイオキシンなど汚染物質が地下
リアリングハウス EAR(廃電子機器登録財団)
水や飲料水の中から検出された。ゴミ埋立地
に委任しているので、実際には EAR に登録す
から分解時に発生するメタンが気候に及ぼす
ることになる。EAR は、市販量のデータを収
影響は、二酸化炭素(CO2)の 21 倍である。
集し、各製造業者の資金的負担を市場占有率
国内のゴミ埋立地が汚染された結果、修復コ
に基づいて決定し、回収および遵守証明書の
ストやアフターケアに係るコストは数十億ユ
発行を行う。
ーロに達している。
業界は、同制度の場合、地方自治体が一般家
庭から出される WEEE の回収に責任を持ち、
2005 年 6 月 1 日以降、
この慣行が変わった。
製造業者および販売業者は古い製品の引き取
廃棄物は、さらなる分解や汚染物質の放出を
り義務を負わない点を歓迎している。また、
防ぐために保管前に処理することが義務づけ
回収の手配や承認工場の取り扱いなどは、生
られた。将来的には、最先端施設で再生可能
産者遵守制度の管轄となる。しかしながら、
な物質が分離され、廃棄物を利用するエネル
地方自治体が電気製品を回収後に廃棄物取り
ギーが活用されるようになる。しかし、最大
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Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
30%程度のわずかな再生不能廃棄物につい
社会民主党および緑の党からなる連立政権は
ては、設備の整ったゴミ埋立地に保管しなけ
2002 年に CHP 法(「KWK-Gesetz」)法を採択
ればならない。遮水が不十分かつ技術的モニ
したが、このエネルギー形態は「嘆かわしい
タリングができないという埋立地は、2009
ほどに存在感が薄い」と、グリーンピースお
年までに徐々に閉鎖されていく。
よ び ド イ ツ 環 境 支 援 協 会 ( DUH : The
Deutsche Umwelthilfe)を含む諸団体は 2005
業界、地方自治体および環境団体は 12 年間
年 4 月 27 日付共同声明の中で述べている。
にもわたり、2005 年 6 月 1 日に向けて取り
組みを進めてきた。地方自治体だけでも、特
不足の理由は、支配的な大手電力供給事業者
に過去 4 年間に 75 億ユーロも投資している。
が体系的に市場を管理しているからであると、
また、15,000 人の雇用が創出されている。ト
指摘している。
「あらゆる信頼できるデータか
リッティン連邦環境大臣は「地方自治体およ
ら、政府の目指す CO2 削減目標の達成にはほ
び民間廃棄物管理会社にとって、これは大き
ど遠いことが分かる」と、B.K.WK 副会長の
な成果である。これは雇用創出という点で有
Klaus Traube 氏は述べている。
意義な投資である。また、われわれは新たな
土地の汚染を回避することができ、将来の世
コジェネレーションはドイツの国家気候保護
代に多大な修復コストを負担させることにな
戦略の最も重要な施策の1つである。このエ
ったと思われる環境被害を防止することがで
ネルギー効率の高い技術により、温室効果ガ
きるのだから。」
スの排出が 2010 年まで毎年 2,300 万トン程
削減されると予想されている。
また、廃棄物保管令により 1999 年 EU 埋立指
令が実施されることになる。従って、オース
その量の半分が CHP 法導入によって達成さ
トリア、デンマークおよびオランダとともに、
れなければならない。同法により、CHP 事業
ドイツの廃棄物管理は EU 指令の実施という
者は、コジェネレーションコストが市場価格
点において先駆的な役割を担うことになる。
を上回った場合に助成を受けられる。しかし、
「EU 域内外の他の国は大量の廃棄物問題を
ドイツ経済研究所(DIW)の著名なエネルギ
未解決のまま抱えている」と、トリッティン
ー専門家である Hans-Joachim Ziesing 氏は、
環境大臣は述べている。
「すなわちドイツの先
某環境紙に、初の試算によると同法による効
端的環境技術を輸出するには絶好の機会であ
果は予想の半分程度にすぎないと認めている。
る。従って、廃棄物保管令の実施はビジネス
拠点としてのドイツの位置づけを強化するこ
CHP 法が義務づける個別モニタリングは、
とにもなる。」
2004 年後半に予定されていた。コジェネレー
ションのシェア増大が十分に速いペースでな
3. ドイツのコジェネレーション業界への支
ければ、追加的対策が講じられるはずであっ
た。「これまでのところそのような動きはな
援を要求
ドイツの主要環境 5 団体および連邦コジェネ
い」と、B.K.WK 副会長の Traube 氏は述べて
レーション協会 B.K.WK は、環境に優しい熱
いる。結局の所、ドイツは CHP のシェアを
電併給(CHP:Combined Heat And Power
2002 年〜2010 年の間に倍増しようとしてい
Generation)すなわちコジェネレーションを
るのである。
推進するための政策を積極的に講じるよう求
DUH 広報官の Gerd Rosenkranz 氏は、そのこ
めている。
とでクレメント経済大臣を批判している。
「経
済大臣が執拗にブレーキをかけている」のは、
JMC environment Update
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Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
大手電力会社を優遇しているからである。経
度であるのに対して、コジェネレーションの
済省は同法に従ってモニタリングを実施すべ
場合、その効率が 80%以上に高まる。これま
きであるという。
でのところ、環境には優しいがコストが高い
というコジェネレーションに投資してきたの
CHP 法をめぐる激しい論争は一年以上に及び、
は、主に小規模な Stadtwerke(小規模な都市
各種業界団体と連立与党は対立してきた。大
の住民にエネルギーを供給する会社)である。
手電力会社、保守派野党勢力、石炭業界ロビ
しかし、今後、連邦政府が適切なインセンテ
ー団体およびクレメンツ経済大臣さえも同法
ィ ブ を 提 供 し な け れ ば 、 Stadswerke の
を阻止しようとしてきた。これらの勢力は、
Winifred Damm 氏は「数年後には」CHP 発電
この事態を「新たに自由化された電力市場を
所を閉鎖する可能性があるという。
再び規制する動きである」と攻撃し、小規模
分散型 CHP 発電所の割合が増えることで、大
手電力会社が有する巨大な従来型の火力発電
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
所の割合が減ることに懸念を示した。
同法は、労働組合、市町村の小規模電力会社
Ⅲ. 英国
(Stadtwerke)、プラントエンジニア、環境団
1. 英国政府、包装廃棄物の前処理業者およ
体、議会の緑の党および社会民主党議員が広
び輸出業者に対する申請期限を変更
く同盟して、ようやく成立させたという経緯
政府との緊急協議の後に、2005 年末まで、環
がある。
境省に前処理業者および輸出業者の双方に対
する承認申請を認める法律が定められた。
しかし、某環境紙が連立政権筋から入手した
情報によると、現在、エネルギー派の政治家
2005 年 2 月 8 日に公表された協議文書では、
は CHP 法が期待通りに機能していないこと
(修正された)1997 年生産者責任(包装廃棄
を認識していながらも、緑の党および社会民
物)規制および権限移譲機関に関する対応す
主党は静観姿勢を取っているという。
る法令から、前処理業者または輸出業者とし
ての認定を受けるための申請提出期限を翌年
静観姿勢を取る理由は、与党連立政権が 2005
の 9 月 30 日とすることを削除する提案がな
年 5 月下旬に、社会民主党および緑の党によ
された。
る連立政権を有する唯一の州である国内最大
のノルトライン−ヴェストファ−レン州にお
1997 年生産者責任(包装廃棄物)規制(修正
いて非常に重要な選挙を控えているからであ
後)
(「包装規制」)は、英国が EC 包装・包装
る。ここの連立政権の経済大臣と議会勢力は
廃棄物指令 94/62/EC に定められた再生・
一触即発の状態にある。
リサイクル目標を確実に達成できるように、
企業すなわち「生産者」に対する再生・リサ
しかしながら、緑の党は、新設 CHP 発電所に
イクル目標を定めた。新包装・包装廃棄物指
対するインセンティブを拡充するために排出
令 2004/12/EC には 2008 年を期限とする
量取引制度の調整を検討している。
一段と高い再生・リサイクル目標が新たに定
められ、2003 年には、英国が 2008 年に当該
CHP の場合、発電によって発生する「廃」熱
新指令目標を達成するのに必要な企業目標を
も利用される。廃熱は地域暖房に利用される
定めるために、この包装規制は修正された
のが一般的である。従来型の発電所の場合、
一次エネルギーの利用効率が 30%か 40%程
JMC environment Update
31
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
(2003 SINo.3294)。
同制度により、処理当局が埋立処分できる紙
類、食糧および庭から出るゴミなど市町村の
環境庁の認可を受けた前処理業者および輸出
生分解性廃棄物の量は徐々に削減されること
業者だけが包装廃棄物再生証明書(PRN:
になる。
Packaging Waste Recovery Note)および包装
廃棄物輸出再生証明書(PERN:Packaging
市町村の生分解性廃棄物の流れを埋立地から
Waste Export Recovery Note)を発行できる。
転換させることは、埋立処分指令に定められ
これらは生産者が当該規制に定められたリサ
た重要な目標の1つである。2010 年までに、
イクル義務を遵守していることを証明する証
埋立処分される生分解性廃棄物を 1995 年比
拠として使用される。
の 75%まで減量しなければならない。また、
2013 年までにさらに 50%、2020 年までには
35%にまで減量することになる。
当該規制は、2004 年 9 月 30 日までの1年以
内に認可申請を提出するよう義務づけていた。
すなわち、それを過ぎると 2005 年について
現在の試算によると、イングランドの市町村
環境庁はそれ以上前処理業者や輸出業者を認
ゴミの約 68%が生分解性廃棄物である。すな
可しないということを意味するはずであった。
わち、イングランドでは、当該埋立廃棄物を
政府とステイクホルダーとの協議の中で多く
2009/2010 年度には 1,120 万トンに減量す
の問題点が明らかになった結果、政府はこの
るという意味である−2003/2004 年度の埋
問題について協議することを決定した。
立廃棄物から 970 万トンの減量になる。
2005 年生産者責任(包装廃棄物)
(修正)
(イ
生分解性廃棄物の埋立処分は、浸出水を発生
ングランドおよびウェールズ)規則は 2005
させるなど環境問題を引き起こしたり、強力
年 3 月 17 日に議会に提出され、2005 年 4 月
な温室効果ガスであるメタン放出したりする
7 日に施行された。スコットランドおよび北
など気候変動の原因となる可能性がある。
アイルランドにおける対応する法的措置は別
途同様に制定される2。
イングランドの地方自治体は、埋立処分でき
る市町村生分解性廃棄物に限度を定めている。
2. 世界初の市町村廃棄物排出量取引制度が
この「埋立処分枠」は取引が可能である。地
方自治体の埋立処分量が所有する処分枠によ
スタート
埋 立 処 分 枠 取 引 制 度 ( LATS : The Landfill
って許容される量を超えると予想される場合
Allowance Trading Scheme)が、埋立処分さ
には、追加処分枠を購入できる。また、埋立
れる生分解性廃棄物を減量するための政府の
処分率の低い地方自治体は余剰処分枠を売却
主要施策の1つとして、2005 年 4 月 1 日よ
できる。廃棄物処理当局はまた未使用の処分
り実施される3。
枠を貯蓄したり(banking)、将来の配分枠の
一部を前倒ししたりして使用できる
(borrowing)。
取引または前借により処分枠を移転する場合
2
3
には、LATS 登録簿への登録が必要となる−こ
詳細情報は以下のサイトを参照すること。
www.defra.gov.uk/environment/waste/topics/packaging
/faq.htm
埋立処分枠取引制度に関する詳細情報および指針は以
下のサイトを参照すること。
www.defra.gov.uk/environment/waste/localauth/lats/
index.htm
JMC environment Update
れは各廃棄物処理当局に配分された処分枠を
すべて記録し、処分枠の貯蓄、前借および取
引を促進するオンライン・システムである。
32
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
このシステムが 4 月 1 日よりスタートした。
モーリー環境大臣は次のように締めくくった。
但し、アクセスは廃棄物処理当局に限られる。
「他の取引制度の経験から、コスト効果の高
い目標達成方法が提供できるようにすれば成
取引、貯蓄および前借など柔軟な方法が利用
功することは実証されている。」
できるので、当局は、個々の状況に応じて、
3. 廃電子機器処理施設の認可に関する協議
最もコスト効果の高い、廃棄物目標達成方法
を構築できる。
の開始
廃電気電子機器処理施設が 2005 年末に導入
処理当局が保有する処分枠によって定められ
予定の一段と厳しい許認可制度の基準を満た
る限度を超えた場合には、上限を 1 トン上回
すことのできる方法についてを検討する協議
る毎に 225.26 ユーロの罰金が課される。
(コンサルテーション)が開始された4。
モーリー環境大臣は同制度に歓迎の意を表し、
WEEE 指令に規定されている廃電気電子機器
いかに地方自治体の廃棄物目標達成に寄与す
の処理に関する修正案について意見が求めら
る制度であるかを強調した。
れている。
同大臣は次のように述べている。
「埋立処分枠
当該 WEEE 指令第 6 条には、WEEE 処理に関
取引制度は、革新的かつ柔軟なアプローチで
する要件が定められている。同指令は今年の
ある。規制による硬直的目標に代わる方法を
夏に国内法に転換され、2006 年 1 月から施行
提供され、政府は従来の命令・管理方式から
される予定である。貿易産業省(DTI)は、
脱却することができる。」
同指令の残りの部分を国内法に置換する責任
があり、すでに規制案の協議を行っている。
「同制度は、埋立処分される廃棄物を減量す
るだけでなく、廃棄物最小化の推進や、再利
DEFRA とウェールズ議会は、WEEE 指令の許
用、コンポスト化、リサイクルおよびエネル
認可要件を国内法制化し、また WEEE 関連事
ギー再生など積極的な廃棄物管理策の利用を
業に関する例外規定を設けるために、1994
地方自治体に奨励する制度である。」
年廃棄物管理許認可規則に以下の修正を提案
している。
同制度は、市町村の廃棄物部門では初の試み
であるが、その他の分野では取引制度は世界
・ WEEE 処理施設の認可には、WEEE 指令の
的に活用され、成功している。最も代表的な
第 6 条および付属書ⅡとⅢに規定されて
例は大気中への排出削減を目的とする取引制
いる各種要件や技術要件を確実に満たす
度である。
のに必要な WEEE 管理・処理条件を含む
必要があること。
環境庁長官の Barbara Young 氏は、環境・食
糧 ・ 農 村 地 域 省 (DEFRA :Department for
・ 廃棄物認可条件に基づき、利用可能な最
Environment, Food and Rural Affairs)と密接
善の処理・再生リサイクル技術を WEEE
に協力している。同氏は次のように述べてい
に適用すると条件に明記すること。
る。
「環境庁は、取引の登録を管理し、地方自
治体の活用状況をチェックする。また、明確
かつ最新の情報を提供して、地方自治体が厳
4
しい目標をできる限り順調に達成できるよう
役立てもらえるようにする。
」
JMC environment Update
33
当該協議文書は他の協議文書とともに以下のサイトに
おいて PDF 形式で参照可能である。
www.defra.gov.uk/corporate/consult/weee-article6/
index.htm
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
・ WEEE の処理に当たり、最低条件として、
・ いずれの例外規定も有害廃棄物および非
すべての液体を除去すること、また WEEE
有害廃棄物の両方に適用される。すなわ
指令の付属書Ⅱに規定される処理基準を
ち、政府は有害廃棄物に関する例外規定
満たすと明記すること。付属書Ⅱの第 1
案を欧州委員会に送付し、TAC の承認を
節および第 2 節には、除去しなければな
得る必要がある。
らない構成部品および素材を列挙すると
ともに、第 3 節の規定により当該構成部
2006 年 1 月 1 日以降、当該施設は、廃電気
品に対して実施しなければならない追加
電子機器とその部品および構成部品ができる
的処理を条件に列挙する。
限り再生されることを確実にする諸条件が明
記された廃棄物管理の認可を申請することが
・ WEEE 処理施設は WEEE 指令の付属書Ⅲ
必要となる。
に規定される技術要件を遵守しなければ
2005 年 8 月 19 日までの 3 ヶ月間に及ぶ協議
ならないと条件に明記すること。
期間中に、100 箇所以上の組織がコメントを
・ 例外登録を利用している現行事業者は、
求められる。
2006 年 1 月以降も WEEE の処理を継続す
る意向であれば、新 WEEE に基づく例外
英国環境省のブラッドショー政務次官は次の
登録または新たな認可申請を行わなけれ
ように述べた。
ばならない。
「このイニシアティブの意図は、廃電気電子
・ 現行事業者が 2006 年 3 月 31 日以前に修
機器処理施設の環境パフォーマンスの改善と、
正または新たな認可の申請を行っている
当該指令の要件を満たすための基盤整備であ
場合、当該事業者が指令の基準を遵守し
る。結果的に、われわれは、この分野のリサ
ている限り、当該申請の決定が下されて
イクルが増え、最終処分される廃棄物が減る
いなくても、2006 年 1 月以降 WEEE を処
ことを期待している。」
理できるものとする。
4.
・ WEEE が認可処理施設に引き渡される前
EU 排出量取引制度:英国の登録開始に
より取引制度に青信号
の保管に関して、廃棄物枠組み指令の第
EU 排出量取引制度の対象企業は、2005 年 5
11(1)
(b)条に例外規定を提案する。当
月末までに、英国炭素口座を開設することが
該例外規定が適用される場合には、WEEE
できると、政府は発表した。同制度は気候変
指令の第 6 条に定める要件の対象とはな
動に対する主要な対策の1つである。
らないものとする。
今回の発表に先立ち、同制度に基づく第一期
・ さらに、再使用を促進するために WEEE
対象施設への配分枠が公表されている。英国
の修理および改修に関する例外規定を提
の登録簿の運用が開始され、同制度に参加す
案する。修理および改修とは、部品交換、
る事業者がそれぞれの排出枠にアクセスでき
当該機器の条件および運転に関する安全
るようになると、英国の排出量取引が開始さ
性その他のテストを含む。また、小規模
れることになる。
に実施された場合、これらの活動による
リスクは低いものと予想される。
すなわち、英国は取引制度への本格的参加に
向けて最終段階にきたといえる。登録簿に口
JMC environment Update
34
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
座が開設されると、事業者は排出枠の取引を
ジョンソン貿易産業担当国務大臣は次のよう
開始できるようになる。この取引制度に助け
に述べている。
られて、今後 3 年間で、同制度対象施設の予
想排出量から CO2 排出量が約 6,500 万トン
「今回の配分により、英国産業界は、この新
(約 8%)削減される見込みである。
興炭素取引市場に本格的に参加できる。同制
度のおかげで、英国は、競争力を維持しつつ
5
排出量取引簿はインターネット上にあり 、企
気候変動目標を実現するという重要なニーズ
業の口座にある CO2 排出枠を記録する。登録
のバランスを取ることができる。」
簿から英国内および他の参加国にある他の口
座に排出枠を移転することができる。DEFRA
これは以前に承認された 7 億 3,600 万トンの
が開発した登録簿のソフトウエアは、他の 12
排出枠を基にした発言であり、この件に関す
加盟国にもライセンス提供され、大きな成功
る法的な異議申し立てに不利益を与えるもの
を収めている。
ではない。
ベケット環境大臣は次のように述べている。
5. 英国、WEEE 規則実施を延期
英国政府は、未解決問題の存在および電気機
「同制度が英国で開始されることになり、嬉
器の製造業者や小売業者からの陳情により、
しく思う。同制度は、経済成長を維持しつつ、
WEEE 指令遵守規則を 2006 年 1 月までに延
CO2 排出量を削減する有力な手法の1つにな
期すると発表した。
る。」
英国はドイツなど他の欧州諸国とともに、欧
「排出量取引は、英国および拡大欧州による
州委員会が定める 2005 年 8 月 13 日の実施期
気候変動対策の主要な要素である。同制度に
限を守ることができなくなる。製造業者およ
は、産業界が CO2 排出削減を進める刺激とな
び小売業者は、今回の政府の発表を歓迎した。
るものが明らかにある。しかも最低コストで
これは小売業者や電気機器製造業者が制度の
排出削減が可能になるのである。英国の登録
導入にもっと時間をかけるよう求めて陳情活
簿が開設されることにより、英国企業は本格
動をしてきたことに対する回答であった。
的に取引制度に参加できるようになり、ロン
ドンの新興炭素市場は国際的炭素取引センタ
貿易産業省の Chris Tollady 氏は、2005 年 3
ーとしての潜在的可能性を十分に発揮する機
月 24 日付書簡の中で新たな日程を産業界に
会が与えられる。
」
伝えており、2005 年夏に同指令を英国法に転
換する規則を実施し、その後、2006 年 1 月か
「政府は、2005 年に G8 および EU の議長国
ら一般家庭から出る WEEE および一般家庭以
を務めるという英国の立場を生かして、益々
外から出る WEEE に関する生産者責任要件お
大きな問題となりつつある人為的気候変動問
よび小売業者や販売業者の引取義務を適用す
題に取り組む決意である。」
るという。
「2005 年 8 月 13 日という WEEE 指令の実施
5
期限を実現する上で、政府は大きな実務的困
登録簿解説の詳細は次の DEFRA および環境庁のサイト
を参照すること。
www.defra.gov.uk/environment/climatechange/trading/
eu/index.htm
および
www.environment-agency.gov.uk/business/444217/590
750/590838/1009544/?version=1&lang=e
JMC environment Update
難に直面した」と、Tollady 氏は述べている。
35
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
同氏は、
「他にも主要な EU 加盟国の中に、同
定されていることを分かってもらう必要があ
じように日程を延期して実際的な実施を計画
る。料金が不透明であれば、サプライチェー
している国がいくつかあるようである」と、
ンの中で引き上げられ、必要以上の負担を強
指摘している、
いられることになる。」
しかしながら、Tollady 氏は、上市の日付の記
ナショナル・クリアリング・ハウスに対する
入など、機器へのマーキング制度に関する義
アプローチが「修正される」と、Tollady 氏は
務は 8 月の期限までに実施すると述べている。
述べている。英国環境庁は製造業者の登録を
「そうしないと、永久に、英国は指令違反と
行い、DTI は製造業者に対する WEEE の配分
いうことになる」と、同氏は述べている。い
を行う。大規模製造業者および遵守制度は、
くつかの未解決問題に関する協議を継続した
回収場所における物理的配分に対する責任を
後に、実施規則は英国法に転換される。
担い、小規模製造業者は金銭的義務を負う。
電気機器製造業者によるコンソーシアム
DTI はさらに協議を通じて同制度の詳細部分
( REPIC : Recycling Electrical Producers
を解決する必要があると述べている。DTI は、
Industry Consortium)の CEO の Dr Philip
2008 年までの指令導入初期は、クリアリング
Mortonne 氏は、「これは重要な問題であり、
ハウスに対して「不必要なものを取り除き」
英国のすべての家庭に影響を与える。家庭に
簡素化したアプローチを取ることに決定した。
は同制度の対象となる製品が少なくとも 30
〜40 点あるはずである。REPIC とわれわれが
英 国 小 売 業 者 協 会 ( The British Retail
代表する製造業者は WEEE 実施の延期を全面
Consortium)との小売遵守制度の財源に関す
的に支持する。今後解決の必要な重要問題が
る協議も続く。「一般家庭から出る WEEE の
多く存在する。また、Mike O’ brien(貿易産
回収制度に関する不明瞭さを解消する必要が
業閣外大臣)氏はわれわれの懸念にしっかり
ある。
」
と耳を傾けてくれた。同指令の時期尚早な実
施は消費者の負担コストを増大させ、英国の
この記事は全国紙 The Guardian の第二面に
雇用を脅かすことになったであろう。われわ
掲載された。この記事は、英国政府が EU 環
れはようやくすべての人に望ましい解決策を
境法を実施してこなかったという不名誉な過
見いだす機会を得ることができた。」
去と「大失敗」−そして巨大な電気製品の山
−が冷蔵庫リサイクルに関する旧 EU 法に対
REPIC の会員が特に懸念しているのは、リサ
する準備不足の結果であったことを強調した。
イクル料金の請求によって消費者にコストを
転嫁する権利である。この料金を透明にすべ
英国の自由党議員 Chris Davies 氏も予定通り
きだと強く訴えている。
に環境法を実施できなかったとして政府を非
難した。
「閣僚らはブラッセルでは1つの日程
「製造業者はできる限りリサイクルコストを
に同意しておきながら、ホワイトホールでは
低く維持するよう努力するが、消費者へのコ
環境問題の優先順位を下げてしまっている。
スト転嫁を認めてもらう必要がある。同時に、
これが知的な思考であるとは納得しがたい。」
われわれは、消費者が実際のコスト以上のリ
サイクル費用を負担することがないようにし
さらに、Davies 氏は、英国はすでに WEEE 規
なければならない。また、消費者には、正当
定を設けている他の国を見習うべきだと述べ
な WEEE 関連コストに対してリサイクル料を
ている。
「廃電気電子機器リサイクル法は何年
支払っていること、そのためだけに使途が限
も前から多くの EU 諸国で実施され成功を収
JMC environment Update
36
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
めている。英国はわざわざ一からやり直す必
る。また、廃棄物処理方法として焼却の増大
要はない。最善の環境実践を模倣すればいい
が必要であるとしている。そのために、DEFRA
だけである。」
は「廃棄物処理に関する適切な統計を作成す
るとともに、これらの達成方法に関する明確
6. 英国議員、英国の埋立処分戦略は失敗と
な戦略を必要とする」としている。
発言
埋立処分に対する規制強化および料金値上げ
現在の業界内の不透明感および廃棄物規制の
は、市町村ゴミの不法投棄を増大させる可能
変更に関する情報不足により、目標達成に向
性があると、英国議会の環境・食糧・農村地
けての進展が妨げられていると、レポートに
域委員会(EFRA)は指摘する。
は述べられている。同レポートは次のように
結論づけている。「当委員会は、DEFRA の意
同委員会は最近発表した埋立処分戦略に関す
欲的な埋立廃棄物削減目標が達成されるとの
る報告書の中で、2004 年 7 月のゴミ埋立処分
確信を依然としてもつことができない。
」
規則の変更により、全国ですでに 700,000 ト
ンの有害廃棄物が不法投棄されているとの試
加盟国におけるゴミ埋立処分からの転換の進
算を明らかにし、当該規制に伴う執行措置を
捗状況に関して欧州委員会がまとめたレポー
強化しないと不法投棄はさらに増える可能性
トによると、英国はユーロ圏の中で最下位で
があると警告している。
ある。英国は、ギリシャとともに、埋立廃棄
物を 1995 年比の 75%にまで削減するのに、
DEFRA は、同報告書の数字は誇張されており、
2006 年の期限からさらに 4 年間を必要とす
厳しい規則および高いコストの導入前に有害
る。一方、一部の国はすでに埋立処分される
廃棄物の投棄が上昇したことによるものであ
生分解性廃棄物を 1995 年比の 35%にまで削
ると述べている。2004 年夏以降、埋立処分さ
減している−しかも、この目標の達成期限よ
れる有害廃棄物の量は、廃棄物の分別が改善
り 10 年以上も早い。
されたことにより減少している。また、埋立
処分のコスト増はコスト効果の高い解決策へ
の移行を促すインセンティブになったという。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しかしながら、DEFRA は、変更による影響は
もっと後にならなければ定量化できないと述
Ⅳ. フランス
べている。
「われわれは EFRA 報告書のデータ
1. 仏グリーンドット制度、新協定による包
は時期尚早と考える」と、広報官は語った。
装製造業者のコスト引き上げを否定
当該委員会のレポートは、英国の廃棄物は急
仏グリーンドット制度を運営するエコ・アン
速に増大し、かつてないほどに複雑な問題に
バラージュ(Eco Emballages)社は、2005 年
なりつつあるとしながらも、気候変動などの
度グリーンドット料金は 2004 年度料金のま
問題に比べると優先順位が低いとの結論を示
ま据え置かれるとして、2005 年初めに発効し
している。
た新資金調達協定による製造業者のコスト引
き上げはないと強調した。
この問題の対策としてレポートの中で提案さ
れているツールは埋立税の引き上げ、家庭向
一部の情報筋によると、新協定すなわち「料
け変動料金制度、廃棄物規制の執行強化であ
JMC environment Update
金制度(barème)」に基づき業界が今後 3〜4
37
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
年間にエコ・アンバラージュ社に支払う金額
また、費用も一般予算からではなく家庭ごみ
が 25%増加する−2004 年の約 4 億ユーロか
税から負担されるように変わってきている。
ら約 5 億ユーロになる−との試算がある。し
1990 年には一般予算が総額の 50%を占めて
かし、ゼネラルマネージャの Bernard Herodin
いたのが現在は 20%になり、1990 年には廃
氏は、2005 年 4 月末に開かれたエコ・アンバ
棄物処分コストの 50%を占めていた家庭ご
ラージュ社の年次記者会見の後、2005 年度の
み税が現在は 80%を占めている。
グリーンドット料金は 2004 年度と同水準に
据え置かれると指摘して、このような懸念を
また、コスト上昇のもう一つの理由は欧州の
もみ消した。
環境基準が強化されたことである。従って、
一段と環境に優しい廃棄物処理工場への投資
ガラスの料金は 0.36 セント/kg、プラスチッ
が必要になってきたのである。例えば、焼却
クは 17.79 セント/kg そしてスチールは 2.27
費用は 15 億ユーロも増大している。この要
セント/kg である。Herodin 氏は、業界が支
因により今後もコストは増大するが、特に一
払う総額が増加したとしても「インフレや市
段と効率化を進めることができるなら、包装
場のパッケージの量が増大した場合」に限ら
リサイクルは他の処理方法より好ましいもの
れ、これらの料金は今後数年間変更されない
になっていくということである。
と述べた。
しかし、家庭ゴミの総量は 1990 年の 2,600
新料金制度はパフォーマンスを基準とし、こ
万トンから 2003 年には 3,400 万トンに増大
の再生制度を最適化するための資金的インセ
する一方、包装廃棄物の量は 2003 年が約 500
ンティブを備えている。すなわち、回収され
万トンすなわち総量の 15%と安定的である。
る包装の量を増やし、質を高めることによっ
これは、この 10 年間に 20%増大した商業廃
て包装廃棄物の分別回収コストを引き下げる
棄物とは対照的である。
ことが、来年度のエコ・アンバラージュ社の
同時期の分別回収量は三倍に増えて 300 万ト
重点であると、同氏は述べた。
ンに達した。一人当たり 47kg である。
Herodin 氏は、今や分別回収およびリサイク
同時期、分別回収コストはほぼ 2.5 倍増大し
ルは埋立処分や焼却より安価で、経済的に「適
た。分別回収の総コストは 1990 年の 5,000
切な」解決策になったと述べている。しかし、
万ユーロから 2003 年には6億 5,000 万ユー
増大する廃棄物処理コストに対して中央政府
ロに増大した。しかしながら、エコ・アンバ
の財源が減少しているため、包装リサイクル
ラージュ社の支払いを差し引き、二次資源の
を極力効率化することが不可欠であるという。
売却によって収入を得た後の市町村の純コス
トは 3 億ユーロとなった。
昨年、エコ・アンバラージュ社は、フランス
における分別回収コストの 52%を負担した。
エコ・アンバラージュ社がコスト削減の可能
総額は 3 億ユーロに達した。1990 年以来、家
性があると主張する分野の一部を以下に示す。
庭ゴミ処理にかかる総コストは 33 億ユーロ
増大した。23 億ユーロから 140%増加して
・ 家庭包装廃棄物分別回収コストの最良地
56 億ユーロに達した。このような増大の理由
域と最悪地域の格差をなくすことが不可
の一つは、地方自治体による財源拠出が変化
欠である。
「最善の実績を示す地方自治体
した結果、廃棄物処分コストの透明性が増し
では、分別回収により廃棄物処分コスト
たことにあると、Herodin 氏は述べている。
をほぼ 100%カバーできる」と、Herodin
氏は述べている。しかし、同氏は、最善
JMC environment Update
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Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
と最悪との間には大きな差が存在すると
かの分野において、デンマークは正しい軌道
付言した。
を進んでいることが明らかになった。エコラ
ベル表示製品の数は増加しており、認証企業
・ フランスには処理能力の低い回収センタ
の数も同様に増加している。他の分野におい
ーが多くて非効率である。また、ガラス
ては、それほど急速な進展はなく、引き続き
のリサイクルは過剰設備状態にある。
取り組みが必要である。
・ 回収・リサイクルセンターに優れた技術
これらの指標には、以下のような広範囲の背
を導入すること。
景指標が含まれている:環境報告書制度を導
入する企業の数、オゾン層の状態およびエネ
・ 分別回収の利点を市民に伝えることによ
ルギーや水などの資源の流れなど、。13 種類
り、回収資材の質および量が改善され、
の主要指標により重点分野の進展を迅速にチ
二次素材の価格が上昇する。シャンベリ
ェックすることができる。
(Chamberry)では、コミュニケーショ
ン・イニシアティブによりパフォーマン
再生可能エネルギーや農業における環境管理
スが 22%上昇し、コストは 16%低下した。
を推進する試みは成功している。しかしなが
ら、交通関連の温室効果ガス排出や有機農家
・ 質を高めると二次素材の価格上昇につな
の数では、前年度ほどの進展は見られなかっ
がる。
た。
プラスチックは、急速に発展している市場の
持続可能性という場合、環境だけではなく社
一例である。2000 年まで、市町村に支払われ
会経済的発展も対象となる。指標を見ると、
る二次素材としてのプラスチックの価格はゼ
環境認証制度の登録企業の数が増加している。
ロであった。2003 年には 13 ユーロ/トンにま
これは環境管理を重視することによりメリッ
で上昇した。現在は、119 ユーロ/トンである。
トが得られる可能性があるという認識がある
Herodin 氏の推定によると、新料金制度によ
からである。将来に対して責任を負うことが
り二次素材の平均価格が+20%上昇するとい
競争の障害にはなることはもはやなく、むし
う。
ろ企業の市場における位置づけを高めるツー
ルとなっている。
エコ・アンバラージュ社は、32,000 の自治体
の 35,000 社の企業および全体で 5,500 万人
の人々を対象としている。2004 年の結果は
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2005 年 6 月に公表される。
Ⅵ. スウェーデン
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1. スウェーデンのグリーンドット組織、無
責任な廃棄物回収に警告
廃棄物管理会社は、
「生産者責任を果たすこと
Ⅴ. デンマーク
にならない無責任な回収サービス」により、
1. デンマークの持続可能性に向けて
プラスチック製造業者を迷わせていると、ス
最近公表されたデンマーク政府の持続可能な
ウェーデンのグリーンドット組織の REPA は
開発指標に関するレポートによると、いくつ
述べている。
JMC environment Update
39
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
欧州環境規制動向 〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [39]
REPA は、スウェーデン環境保護庁(EPA:
Svensk Kartonnegätervinning(紙およびカー
Environmental Protection Agency)宛ての書
トン包装廃棄物)および MetallKretsen(金属
簡の中で当該案件を取り上げ、REPA の回収
包装廃棄物)など各種素材廃棄物管理会社と
組織 Plastikretsen の競合組織が廃棄物規制の
いう形で協力している。製造業者は、REPA
要件を満たさないままプラスチック包装廃棄
に参加することによってこれらの管理会社に
物を回収していると主張した。すなわち、こ
加わることができ、REPA は関係企業のため
れらの回収組織を利用する企業は生産者責任
に料金の回収業務を行う。
を果たせないかもしれないという。これらの
回収組織は、顧客の企業が実際に発生させた
プラスチック包装を回収するのではなく選別
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
していると、REPA は指摘している。
スウェーデン EPA は、同国の包装に関する法
Ⅶ. オランダ
令に反して、容易な場合に限り回収を行う事
1. ユニークな NOx 排出量取引制度が 2005
業者の存在を認めている。同庁は、廃棄物回
年 6 月にスタート
収会社は顧客が発生させる廃棄物を、顧客が
企業は、自社で対策を講じるか他社の排出枠
発生させる場所で回収しなければ、当該法を
を購入するか、独自に削減達成方法を決定す
遵守したことにはならないと強調した。
ることができる。毎年年度末に、企業は排出
した NOx と同量の排出枠を差し出さなけれ
「もし企業がスウェーデン全域で製品を市販
ばならない。
した場合、全域で回収しなければならない」
と、スウェーデン EPA の某代表は述べている。
参加企業は、取引に参加するためにオランダ
REPA は、同制度は他の事業者との競争を受
排出当局から排出許可を取得する必要がある。
け入れるが、
「他の事業者の制度にもわれわれ
現在、10 社が排出許可を取得しようとしてい
と同じような要件を課さねばならない。すな
る。全体で、約 200 社が NOx 排出量取引に
わち、包装に関する法令を遵守させなければ
参加する予定である。これらは、精油所、金
ならない。しかし、現状ではそうなっていな
属、製紙、化学、発電および食品業界の企業
い。」スウェーデン EPA は、この申し立てを
など、大規模なエネルギー集約型企業である。
引き続き調査すると述べている。
当該法案が下院で審議されていたとき、ヴァ
ンギール大臣(環境)は、最初の数年間は中
Förpackningsinsamlingen(スウェーデン包装
小企業が同制度から離脱できるようにする
回収組織)は、政府が包装に関する生産者責
(いわゆるオプトアウト制度)よう求められ
任という概念−包装を製造、輸入または販売
た。今のところ、99 件の離脱申請が受理され
するものはすべてその回収とリサイクルに責
ている。
任を有する−を導入した 1994 年に設立され
た。
概して同じ企業の参加がみられる。欧州の協
定によると、オランダは、2010 年の NOx 排
実際、商工業界は、Plastkretsen(プラスチッ
出量を 260,000 トン以下に制限しなければな
ク包装廃棄物)
、Returwell(段ボール廃棄物)、
らない。
<本モニタリング情報は、競輪の補助金を受けて実施したものです>
JMC environment Update
40
Vol. 7 No.2 (2005. 7)
連載 米国における環境関連動向
〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
【今月号のまとめ】
廃電子機器のリサイクル法規制は、連邦レベルでの包括的な法規制が存在しないまま、すでに
3 つの州(カリフォルニア州、メイン州、メリーランド州)で法律が成立している。電子機器
メーカーや環境団体は、州ごとの対応は難しいとして包括的な連邦法の制定を渇望している。
民間セクターの強い要望を受けて現在、連邦議会では廃電子機器リサイクル関連法案が 3 本提
出されている。これらは、①ARFによる助成金、②リサイクルへの税控除、③埋め立て禁止と
リサイクルへの税控除、といったようにそれぞれが異なったアプローチとなっている。現在、
これら 3 つの法案はいずれも本会議にかけられていないが、初めての超党派の法案も提出され
たことなどが注目されている。
欧州委員会がRoHS指令により含有を禁止した臭素系難燃剤(PBB、PBDE)について、米国連
邦政府はその環境への影響が立証されていないことを理由に、製造や販売を禁止していない。
しかし、すでに 5 つの州でPBDEの製造・販売を禁止する法律が成立しており、電子機器メー
カーはそれぞれに対応する必要がでている。また、有害物質を「含有していない」ことを証明
する試験技術も統一されていないことが危惧されていたが、試験技術標準作成機関のASTM
インターナショナルが新たな試験技術標準の作成に動き出した。ここでは、RoHS指令を含め、
将来的に米国政府や他の国々で有害物質の含有を禁止する法規制が施行された場合でも対応で
きるような、普遍的な試験技術の標準作成を目指している。米国では、連邦政府による包括的
な対応がなされないため、このように民間の電子機器メーカーや標準作成機関が主体となって
対応策を構築する状況にある。
Ⅰ. 廃電子機器リサイクルに関する連邦議会法案の動き
米国における廃電子機器のリサイクルは、連邦法による包括的な枠組みがない。廃電子機器リサイ
クル法は現在、カリフォルニア州、メイン州、メリーランド州1にて成立している。その他の州でも、
2005 年 1 月から 5 月までに関連法案がすでに 31 件提出されているが、現在のところ成立の見通し
はない2。このため、不要となった電子機器が家庭内に放置されたり、あるいはそのまま埋め立てら
れたりすることで、電子機器に含まれている鉛や水銀、六価クロムといった有害物質が地中に流出
する懸念が問題視されている。
現在成立している各州法や提出されている法案は、それぞれが異なったアプローチであるため、特
に家電業界が中心となり、連邦政府による包括的な法規制の必要性を訴えている。例えば家電小売
業者連盟(Consumer Electronics Retailers Coalition)は、
「州ごとの法律は、州内に事務所を置かな
1
本誌 Vol.5 No.4(カリフォルニア州)
、Vol.6 No.6 (メイン州)
、Vol.7 No.1 (メリーランド州)参照。
2
ABI/INFORM 紙、2005 年 5 月 1 日。
JMC environment Update
41
Vol.7 No.2 (2005.7)
米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
いオンライン販売などが適用除外となり ARF(Advanced Recovery Fee)3が免除される。このため
製品を安く提供できるといった市場競争での不公平がうまれる」4と批判する。また全米民生電子機
器協会(Consumer Electronics Association)は、家電のリサイクルは業界全体の責任として取り上
げるべきとみており、州ごとにパッチワーク的にリサイクル義務を負う現状に不満を示している5。
このように、メーカーや小売業界および環境保護団体といった利害関係者より、連邦レベルでの法
的整備が渇望さるものの、過去に連邦議会に提出された廃電子機器リサイクル関連会法案はいずれ
も成立には至っていない。
2005 年 1 月より開会した第 109 連邦議会(第一期)においては、廃電子機器リサイクル法案が 3
件(下院 2 件、上院 1 件)提出されている。いずれの法案も、上下院の委員会に提出された段階で
あり、本会議での審議には至っていない。これら法案提出者は米国でも有数の廃電子機器リサイク
ル支持者であり、議会ごとに積極的に法案を提出し続けているため、今後、廃電子機器リサイクル
関連の連邦法の成立可否はこれら議員が担っているといっても過言ではない。
このような背景から、
将来的な連邦法成立に向けた方向性を把握するため、現在提出されている 3 つの連邦法案を取り上
げ、それぞれの異なるアプローチや法案に対する利害関係者の見解などをまとめてみた。
1. 下院法案 HR425「全米コンピュータ・リサイクル法」
2005 年 1 月 26 日、マイク・トンプソン下院議員(Mike Thompson、民主党、カリフォルニア州選
出)により、法案「全米コンピュータ・リサイクル法(National Computer Recycling Act:HR425)
」
が下院エネルギー商業委員会(House Committee on Energy and Commerce)に提出された。法案
HR425 は、
全米規模の包括的な廃電子機器リサイクルの仕組みを構築した機関や企業、
個人に対し、
環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)が助成金を支給することを認めるものである。
また、この助成金は ARF を資金源とする。以下は、全米コンピュータ・リサイクル法の概要である。
図表 1 法案 HR425(全米コンピュータ・リサイクル法)のポイント
関係者
義務・役割
内容
全米規模の廃電子機器リサイクルの仕組みを構築した組織
廃電子機器の仕組み
に対する助成金制度を創設する。この助成金制度により、
に助成金制度を創設
地方自治体、個人、企業、各種機関による廃電子機器リサ
環境保護庁
イクルの仕組みの構築を促進する。
廃電子機器の調査と
廃電子機器の包括的な調査を実施し、政策を提言する。
政策の提言
3
ARF:廃電子機器の回収・リサイクル費用を前払いで集金する仕組み。電子機器の購入時にリサイクル費用が加算される。
4
ABI/INFORM 紙、2005 年 5 月 1 日。
5
同上。
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米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
関係者
義務・役割
内容
新品のコンピュータの販売時に、最大 10 ドルまでの ARF
を徴収し、リサイクルの仕組みの構築に対する助成金の資
ARF を徴収
金源とする。
尚、すでにリサイクルの仕組みを独自に構築・運営してい
る電子機器メーカーや小売業は、ARF の適用外とする。
出所:HR425 をもとに作成
この法案は、トンプソン下院議員が過去 2 期の連邦議会においても同様の内容で 2 回にわたり提出
したものの、いずれも下院本会議にかけられることなく不成立となっている。トンプソン下院議員
は、2 度目の法案提出時に、1 度目の法案名「コンピュータ有害物質廃棄物インフラストラクチャー・
プログラム法(Computer Hazardous Waste Infrastructure Program Act)
」から、より一般にも馴染
みやすい「全米コンピュータ・リサイクル法」へと変更するなど、法案成立に向けた戦略を展開し
てきた。今回、3 度目の提出を行った同氏は、
「廃電子機器のリサイクル問題が報道などに多く取り
上げられ始めた今こそ、より多くの支持を得られる」6と考えているという。
トンプソン下院議員がこのように廃電子機器リサイクル法案を熱心に提出し続けている背景に、
「従
来は 5 年毎であったコンピュータの買い換えサイクルが 2 年に短縮されており、
米国では毎日 3,000
トン以上の有害物質を含む電子機器が廃棄されている。米国ならびに電子機器業界は、これら廃電
子機器を安全に廃棄する統一プログラムが必要である。
」7との危機感がある。しかし、現在は同氏
が推し進めるような連邦法が存在しないため、
「各州がパッチワーク的な政策を作成しており、関連
業界のすべてがこれら政策への対応に苦労している」8問題があり、連邦法の必要性が急務であると
強調している。
ARF を資金源とするリサイクルの仕組みは、廃棄物管理業界団体に支持されている。しかし、これ
ら団体の中には、法案 HR425 の可決の見通しについて悲観する声もある。例えば、廃棄物管理・リ
サイクル業者の業界団体、全米廃棄物管理協会(National Solid Wastes Management Association:
NSWMA)の州政府施策担当ディレクター、チャズ・ミラー氏(Chaz Miller)は、共和党が多数派と
して議席を握る連邦議会において、民主党員の法案が可決される可能性が低い点を懸念している。
ミラー氏は「同様の内容の法案が共和党員から提出されていればより真剣に取り扱ってもらえたは
ずだ」とし、また「現在の議会はその他の優先案件で手一杯であるため、このような(廃電子機器
リサイクルの)問題は眼中にないと思われる」9との見解も示している。また、北米廃棄物協会(Solid
Waste Association of North America:SWANA)のジョン・スキナーCEO(John Skinner)は、HR425
の仕組みの場合、実際にリサイクルを行う地方自治体に ARF が必ず届くとは限らない点を指摘し、
実際に運営するためには「法案内容をより深堀りする必要がある」10と述べている。
6
トンプソン下院議員広報担当者発言。ウエスト・エイジ紙(Waste Age)
、2005 年 3 月 1 日。
7
ユリイカ・タイムス・スタンダード紙(Eureka Times-Standard)
、2005 年 1 月 28 日。
8
ウエスト・ニュース紙(Waste News)
、2005 年 2 月 14 日。
9
ウエスト・エイジ紙、2005 年 3 月 1 日。
10
同上。
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米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
2. 下院法案 HB320「リサイクル促進のための税控除法」
2005 年 1 月 25 日、デューク・カニングハム下院議員(Randy “Duke” Cunningham、共和党、カリ
フォルニア州選出)が、法案 HB320 を下院歳入委員会(House Committee on Ways and Means)に
提出した。この法案は、消費者がリサイクルできる仕組みを構築した電子機器メーカーに対する、
税金優遇策を提示している。ここでは、コンピュータ・周辺機器(キーボード、マウスも含む)の
ほかに、携帯電話ならびにテレビもリサイクルの対象となっており、現在成立している電子機器リ
サイクル法(州法)や関連法案に比較して、その対象範囲が広い点が特徴的である。前出のトンプ
ソン下院議員法案と同様、カニングハム下院議員も前会期(第 108 期議会)にて同法案を下院歳入
委員会に提出したが、下院本会議にかけられることはなかった。通称「リサイクル促進のための税
控除法(Tax Incentives to Encourage Recycling Act)
」11あるいは「TIER(ティア)法」と呼ばれる
法案 HR320 の概要は以下のとおり。
図表 2 法案 HR320(リサイクル促進のための税控除法)のポイント
対象機器と税控除額12
関係者
CPU
4 ドル
モニタ
4 ドル
プリンタ
4 ドル
マウスとキーボード(両方で)
1 ドル
テレビ
4 ドル
携帯電話と充電器(両方で)
1 ドル
消費者が利用できる、環境にやさしい
リサイクルの仕組みを構築した電子機
器メーカー
出所:HR320 をもとに作成
カニングハム下院議員は、トンプソン下院議員と共同で 2005 年 3 月 2 日に下院科学委員会(House
Committee on Science)のシャーウッド・ボーラート委員長(Sherwood Boehlert、共和党、ニュー
ヨーク州選出)宛てに連名で書簡を提出し、廃電子機器リサイクル関連法の重大さをアピールして
いる。この書簡にてトンプソン議員及びカニングハム議員は、
「それぞれの法案のアプローチは異な
るものの、廃電子機器リサイクル問題を連邦議会で取り上げるべきとの信念は同じである」とし、
「下院科学委員会で両法案を取り上げることを希望する」と請願している。尚、現時点では下院科
学委員会で HB320(カニングハム下院議員法案)ならびに HR425(トンプソン下院議員法案)を取
り上げていない。
3. 上院法案 S510「廃電子機器のリサイクル推進及び消費者保護法」
2005 年 3 月 3 日に上院に提出され、その後上院金融委員会(Senate Committee on Finance)で 2
度議題として取り上げられているのが、法案 S510「廃電子機器のリサイクル推進及び消費者保護法
11
HB320 法案の正式名称は「コンピュータ、携帯電話、テレビ装置のメーカーが、これら機器を廃棄したい消費者が利用できる環
境にやさしいリサイクル・プログラムを運営することを奨励することを目的として、
1986 年内国歳入法を修正する法」
(To amend
the Internal Revenue Code of 1986 to provide tax incentives to encourage manufacturers of computer, cell phone, and television
equipment to operate an environmentally sound recycling program for use by consumers who want to discard the equipment.)
。
12
法案 HB320 では具体的な控除の仕組みについては触れていない。
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米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
(Electronic Waste Recycling Promotion and Consumer Protection Act)
」である。ロン・ワイデン上
院議員(Ron Wyden、民主党、オレゴン州選出)とジム・タレント上院議員(Jim Talent、共和党、
ミズーリ州選出)が共同で提出した同法案は、超党派支持法案であることから共和党が政権を握る
今議会でも注目されやすく、連邦法としての成立にもっとも近いと期待が寄せられている。
法案 S510 は、画像ディスプレイ・スクリーン13ならびにコンピュータをリサイクルの対象としてい
る。同法案は、成立の 3 年後から対象廃電子機器の埋め立て・焼却を禁止するとともに、廃電子機
器を年間 5,000 台以上リサイクルした企業(あるいは機関)に対して 1 台につき 8 ドルの税控除を
行う。消費者も、リサイクルした 1 台につき 15 ドルの税控除が受けられる。また、連邦政府への
リサイクル義務や、環境保護庁に対するリサイクル・プログラム構築義務を課している。以下に、
上院に提出された法案 S510 の概要をまとめる。
図表 3 法案 S510(廃電子機器のリサイクル推進及び消費者保護法)のポイント
関係者
内容
リサイクル業者
消費者から対象廃電子機器を回収し、年間 5,000 台以
税控除額14:
電子機器メー
上をリサイクルしたもの/あるいはリサイクルの手配
1 台につき
カーなど
を行ったものが税控除対象。
8 ドル
環境保護庁長官より認定されたリサイクル業者にて、
税控除額:
対象廃電子機器をリサイクルしたものが税控除対象。
1 台につき 15 ドル
消費者
埋め立て業者
法案可決から 3 年後、消費者から対象廃電子機器を埋め立て・焼却目的で受け
焼却業者など
取ることが禁止される。
環境保護庁の一般廃棄物規則(Universal Waste Rule)を改訂する。具体的に
は、法案の対象廃電子機器のディスプレイ・スクリーンを「一般廃棄物」に分
類しなおすことで、ディスプレイ・スクリーンのリサイクルを容易にする。
環境保護庁
法案可決から 1 年以内に、環境保護庁長官は、州の既存の廃電子機器リサイク
ル法に代わり機能する全米レベルのリサイクル・プログラム構築について検討
し、その結果を連邦議会に対して報告する。
連邦政府省庁
調達したすべての対象廃電子機器をリサイクルする。
出所:S510 をもとに作成
13
法案 S510 では対象となる画像ディスプレイ・スクリーンのサイズといった詳細は未だ規定していない。
14
法案 HB320 では具体的な控除の仕組みについては触れていない。
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米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
このように、すべての利害関係者にリサイクル責任があることから、この法案は環境保護団体の全
米リサイクル連盟(National Recycling Coalition)と環境技術委員会(Environmental Technology
Council)から支持されている。同様に、業界団体である家電小売業者連盟(Consumer Electronics
Retailers Coalition)も支持を表明している。民間企業からは、廃棄物処理最大手のウエスト・マネ
ジメント社(West Management Corporation)
、インテル社(Intel Corporation)並びに独自のリサ
イクルシステムを構築しているヒューレット・パッカード社(Hewlett Packard)により支持されて
いる。また、電子機器業界団体も、ARF やメーカーのリサイクル責任を問わない S510 の内容を支
持している。
一方で、全米廃棄物管理協会(NSWMA)州政府施策担当ディレクターのミラー氏は、S510 が埋め
立て・焼却を禁止している点に疑問を投げている。同氏は、
「廃電子機器の埋め立てにより、これら
に含有されている有害物質が人体に危険を及ぼすという証拠は現在のところない」
という観点から、
埋め立てを一律に禁止する同法案の姿勢を批判している。
廃電子機器リサイクル利害関係者から多くの支持を取り付けている法案 S510 であるが、その成立
の可能性については懐疑的な見方が多い。例えば、同法案を条件付きながら支持する環境保護団体
のカリフォルニアン・アゲインスト・ウエイスト(Californian Against Waste)もそのひとつである。
同団体のエグゼクティブ・ディレクター、マーク・マライ氏(Mark Murray)は、
「このように洗練
された法案が提出されたことは重大な一歩である」と支持している。ただし、今後は民間のリサイ
クル業者や地方自治体に対してリサイクル資金源を確約していないなど具体性に欠けることから、
同法案の 2005 年中の法案可決は難しいと見ている。前出の北米廃棄物協会(SWANA)のスキナー
CEO も、基本的には同法案を支持する姿勢であるが、廃電子機器を実際に回収する地方自治体にも
必ず税優遇が行われるよう法案内容を改正することを求めている。
また、電子工業会(Electronic Industries Alliance:EIA)の環境問題担当ディレクター、リチャード・
ゴス氏(Richard Goss)も、
「電子機器業界はこのような税制優遇策を支持するものの、現在の連邦
政府の財政状況を鑑みると(税制優遇という内容の本法案の)可決への道は遠いだろう」との見解
を示している。
このように、現在に至るまで州政府主導で行われてきた廃電子機器リサイクルの仕組みが、包括的
な連邦法の施行により全米規模で統一されることは、電子機器メーカーや業界団体、環境保護団体
のほか、消費者の観点からも渇望されている。このような中、第 109 議会(2005 年〜2006 年)に
て初めて超党派の法案 S510 が提出されたことは新しい動きとして注目されている。しかし、米国
電子工業会(EIA)など利害関係者は、現在の連邦議会が抱えるその他の議題の重大さや連邦政府
の財政状態に鑑みると、税制優遇という仕組みの法案 S510 が連邦議会で受け入れられるかという
点については、現時点では懐疑的な見方が多い。
Ⅱ. 有害物規制関連動向
1.臭素系難燃剤を禁止する州法が相次いで成立
2003 年、欧州委員会(EC)は RoHS 指令(2002/95/EU)15を発行し、電子機器の難燃剤として使用
15
正式名称は「電子機器における特定の有害物質の使用制限指令(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical
and electronic equipment)
」
。
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米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
される臭素系難燃剤(brominated flame retardants:BFR)の PBB(ポリ臭化ビフェニール)
、PBDE
(ポリ臭化ジフェニールエーテル)を含む 6 物質16の、新しい電子機器への含有を 2006 年 7 月以
降に禁止することを決定した。一方、米国は 2003 年 11 月に環境保護庁が PBDE による健康や環境
への不合理な影響を証明できないと発表しており、その後も連邦政府はこのような臭素系難燃剤の
製造を禁止していない。このような中、州レベルで臭素系難燃剤の製造、加工、販売を禁止する法
律が制定され始めており、州ごとに異なる法規制への対応が難しくなることを懸念する声があがっ
ている。
—
臭素系難燃剤の禁止法の状況
現在、臭素系難燃剤の禁止を法制化している州は 4 つある。まず、全米のすべての州に先駆けてカ
リフォルニア州が 2003 年に 2 種類の PBDE(ペンタ-BDE、オクタ-BDE)の製造、加工、販売を禁
止した(2006 年 1 月 1 日施行)
。その後、メイン州とニューヨーク州は 2 種類(ペンタ-BDE、オク
タ-BDE)の PBDE、ミシガン州とハワイ州も 2 種類の PBDE(ペンタ-BDE、オクタ-BDE)の製造、
加工、販売を禁止している。また、イリノイ州議会にてペンタ-BDE、オクタ-BDE を禁止する法案
(HB2572)が上下院を通過しており、早い段階で法制化されるとみられる17。
このような中、2005 年 5 月 26 日、
メリーランド州ロバート・L・アーリッ
ヒ・ジュニア知事(Robert L. Ehrlich,
Jr.、共和党)が同様の法案 HB83 に
署名し、全米で 5 番目の州(右図参
照)として臭素系難燃剤の製造・加
工・販売を禁止する法律を成立した。
この法律により、2008 年 10 月 1 日
以降、メリーランド州にてペンタ
-BDE、オクタ-BDE の含有が 0.1%を
超えた製品の製造が禁止される。違
反企業には 1 製品につき 1,000 ドル(最大 1 万ドル)の罰金が課せられる。
—
臭素系難燃剤禁止法への反対意見
臭素系難燃剤は、疾病・死亡事故の報告例がない半面、これら難燃剤を使用してない電子機器から
の火災による怪我・死亡の事故例が報告されている点が指摘されている。また、PBDE の代替とし
て使用される物質の、環境への影響に関するデータが少ないことも懸念されている18。
メリーランド州環境局(Department of the Environment)は、このような臭素系難燃剤は米国・欧
州ではすでに製造されていないことを理由に、法案 HB83 の法制化に反対してきた。例えば、米国
で唯一ペンタ-BDE・オクタ-BDE を製造していたグレート・レイクス・ケミカル社
(Great Lakes Chemical
Corp.)も、2004 年 12 月 31 日にて臭素系難燃剤の製造を中止し、ペンタ-BDE に代替する化学製品
19
に切り替えている。メリーランド州商工会議所(Maryland Chamber of Commerce)も、州レベル
16
鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB(ポリ臭化ビフェニール)
、PBDE(ポリ臭化ジフェニールエーテル)
。
17
レイモンド・コミュニケーションズ紙(Raymond Communications)
、2005 年 6 月 24 日。
18
サーキトリー紙(Circui Tree)
、2005 年 4 月 1 日。
19
「Firemaster 550」
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米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
での法制化が進むことで関連企業がラベル表示などの対応を行うといった負荷が大きくなる点を懸
念して、法案 HB83 に反対してきた。同会議所はまた、すでに製造されていない物質が製造禁止の
対象となっている点や、環境保護庁をはじめ未だ臭素系難燃剤の人体・環境への影響が証明されて
いない状態での法制化に難色を示している20。
このように、米国ではすでに 5 つの州にて臭素系難燃剤の製造・加工・販売が禁止されている。現
在、連邦レベルでは「危険性が証明できない」という理由で対応されていないが、RoHS 指令で PBB、
PBDE の含有が禁止されたこともあり、今後も環境面での安全性に力を入れる州を中心とした州レ
ベルでの個別の禁止法規制が施行されていくとみられる。
2.申告すべき有害物質の試験技術標準の作成が開始
欧州委員会が 2003 年 2 月 13 日に EU 官報に掲載して発令された RoHS 指令の施行が間近に迫って
いる。RoHS 指令が含有を禁止する物質が「含有されていないこと」を証明するための試験は現在、
RoHS 指令の対象電子機器のメーカーが独自に行っている状況にある。しかし、これら物質は、電
子機器の材料レベルで含有されるものである。このため、電子機器を構成する膨大な部品群にこの
ような有害物質が「含有されていないこと」を証明するために、OEM などのメーカーが重複する試
験を何度も行うといった不具合が招かれている。
このような RoHS 指令の影響により、将来的に電子機器メーカーや関連メーカーの競争力が低下す
21
ることを危惧した試験技術標準作成機関の ASTM インターナショナル
(ASTM International)
は 2005
年 1 月、試験技術標準作成委員会の「F40 委員会(Declarable Substances in Materials:材料中の申
告すべき物質)
」22を新設した。この F40 委員会は、RoHS 指令を含めた、有害物質の含有を禁止す
る法規制に企業が対応するための試験技術の標準作成を目的としている。以下に、RoHS 指令の概
要と、F40 委員会の最近の動向をまとめる。
—
RoHS 指令
RoHS 指令は、2006 年 7 月 1 日以降に販売される新しい電子機器に以下 6 種類の有害物質を含有す
ることを禁止した条例である。同条例の対象機器は、電子機器メーカーの廃棄物処理責任を定めた
WEEE 指令(2002/96/EU)の対象電子機器から医療用デバイス及び監視・制御機器を除外し、電球
及び家庭用照明器具を追加したものである。
20
レイモンド・コミュニケーションズ紙、2005 年 6 月 24 日。
21
ASTM インターナショナル:国際的な試験技術標準作成機関。旧名称は「アメリカ材料試験機関:American Society for Testing and
Materials」で、約 100 年前に設立された。現在は、世界 100 カ国以上から約 3 万名の会員(技術者、メーカー、消費者、政府
関係者、学術会など)を抱えている。
22
F40 委員会ウェブサイト:
http://www.astm.org/cgi-bin/SoftCart.exe/COMMIT/COMMITTEE/F40.htm?L+mystore+thoi5753+1121294257
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図表 4 RoHS 指令が含有を禁止する物質と対象機器
鉛(Lead)
、水銀(Mercury)
、カドミウム(Cadmium)
、
含有が禁止される物質
六価クロム(Hexachromium)
、ポリ臭化ビフェニール(PBB)
、
ポリ臭化ジフェニールエーテル(PBDE)
大型家庭用電気製品(Large household appliances)
小型家庭用電気製品(Small household appliances)
IT 通信機器(IT and telecommunications equipment)
民生用機器(Consumer equipment)
対象となる電子機器
照明器具(Lighting equipment)
(電球、家庭用照明器具を含む)
据付型の大型産業用工具を除く電動工具(Electrical and electronic
tools with the exception of large-scale stationed industrial tools)
玩具、娯楽・スポーツ機器(Toys, leisure and sports equipment)
自動販売機類(Automatic dispensers)
出所:RoHS 指令
—
ASTM インターナショナル F40 委員会
F40 委員会は、以下の活動目的を掲げている。
本委員会は、RoHS 指令及び関連する規制に遵守するための材料・製品の試験技術標準を作成
する。本委員会は、このような試験技術標準の作成のための研究を促進し、討論会(シンポ
ジウム)
、研究会(ワークショップ)
、並びに出版活動を支援する。また、ASTM インターナ
ショナル内の関連する委員会や、同様の目的を持つ他の機関とのリエゾン活動も推進する。
F40 委員会は、2005 年 5 月 26 日及び 27 日に第一回会議を開催した。この会議では、F40 委員会内
の各小委員会(F40.01 試験技術小委員会、F40.02 基準遵守のための指針管理委員会、F40.03 法規
制動向対応小委員会、F40.04 既存の試験技術標準調査・リエゾン小委員会、F40.91 用語小委員会)
の活動目的や今後の活動の方向性について、その概略を決定した。会議の参加者は、主に民間の試
験機関23やメーカー24の研究所、並びに米国政府機関25から、管理職クラスの技術者を中心に約 30
名程であった。
23
SGS 社、アンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriters Laboratories:UL)
、STR 社、IMR テストラブズ社(IMR Test Labs)
など。
24
モトローラ社(Motorola)
、デュポン社(DuPont)など。
25
商務省標準技術局(National Institute of Standards and Technology:NIST)
、米海軍研究所(U.S. Navy Research Laboratory)な
ど。
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F40 委員会第一回会議ではまず、共通の問題認識として、以下が確認された。
・ F40 委員会は RoHS 指令のみへの対応ではなく、その他米国や他国における関連規制で
も将来的に有害物質の申告を義務付けられた場合に対応できるように、普遍的な内容に
すること。
(ここで対象とする規制は、米環境保護庁、米国食品医薬品局(Food and Drug
Administration:FDA)
、カリフォルニア州 SB50 などを指す。
)
・ 有害物質を「含有していない(Negative)
」ことを証明するのは難しいため、
「含有する
場合(Positive)
」を証明する技術標準を作成する。
また、RoHS 指令の遵守にあたり、以下のような利害対立者がでてくることも共通認識として確認
された。
・ 非技術系・技術系の対立――営業・購買担当者など非技術系のスタッフが、契約書に「有
害物質を含有しないことを証明する」条項を軽々しく定めてしまうことで、研究所側に
多大な労力がかかっている。またこのような契約内容の場合、材料サプライヤーから購
買した材料を、OEM メーカーが一つ一つ試験しなければならないという結果も招いて
しまう。
・ 材料サプライヤー/OEM メーカーの対立――材料サプライヤーは、材料に少しでも有害
物質が含有されていれば OEM メーカーとの取引が停止される危険性がある。
一方の OEM
メーカーは、
材料の一つ一つを試験することは物理的に不可能なため、
材料サプライヤー
の申告内容(有害物質を含有していない)を信じて購入する。したがって、材料サプラ
イヤーにとっての試験技術標準は
「含有していないことを証明する唯一の手段」
であり、
OEM メーカーにとっての試験技術標準は「含有していないことを確認するための最後
の手段(ラストリゾート)
」である。
F40 委員会の第一回会議では、具体的な試験標準の内容までは踏み込まず、利害関係者が一堂に会
して共通認識の確認を行うことに留まった。
しかし、
RoHS指令の施行まで約 1 年となった現在でも、
統一された試験技術標準が存在しないことに不満を抱えていたメーカーやサプライヤーからは、
ASTM
インターナショナルによる標準技術作成の遅延に対する批判が相次いだ。更に、
「たとえ今日(2005
年 5 月)の時点で試験技術標準が完成したとしても、材料サプライヤーすべてがRoHS指令施行日ま
でに試験技術標準に対応するのは確実に間に合わない」段階にまで対応が遅れているといった、強
い批判もあった。一方で、
「RoHS指令」の読み方(ロハスかロスか)26やRoHS指令の法的効力はあ
26
F40 委員会のティム・マグレディ委員長(Tim Mc Grady、IMR テストラブズ社出身)は、
「欧州では一般的に『ロス』と読まれ
ているが、正式な読み名はわからない」としている。
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米国における環境関連動向 〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [34]
るのか27といった、基本的な質問も挙がった。このような基本的な質問が挙がることについて、RoHS
指令の施行による企業への影響について連邦政府が充分な啓蒙活動を行っていないためとする不満
の声も挙がっている。
このように、RoHS 指令や州レベルでの有害物質の含有を禁止する法規制が相次いで出されている
ため、民間企業が独自に対応策を講じるといった状況にある。連邦政府レベルでの対応の遅れが指
摘される中、民間の試験技術標準機関が主導となった技術標準の作成の動きもそのひとつとして位
置づけられる。
調査委託先:
ワシントン・コア
Website: http://www.wcore.com
<本モニタリング情報は、競輪の補助金を受けて実施したものです>
27
RoHS 指令は、そのものには法的執行力はないものの、①政府が RoHS 指令を参照して法規制として導入した場合(米国ではこ
の例が多い)
、②企業同士の売買契約などで RoHS 指令への順守を求める場合、において法的効力が発生する。
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Vol.7 No.2 (2005.7)
中国【20】環境保護法制定プロセス・中国企業の EU 2 指令への対応
Ⅰ. 環境保護法制定プロセスに関する規定の公布
Ⅱ. 中国企業における EU WEEE・RoHS 指令への対応の動き
Ⅰ. 環境保護法制定プロセスに関する規定の公布
2005 年 4 月 25 日、中国国家環境保護総局は、
「環境保護法制定プロセスに関する規定」
(中国語「環
境保護法規制定程序弁法」
、以下「規定」と略称)を公布した(2005 年 5 月 19 日付「中国環境報」
に掲載)
。当「規定」は、2005 年 6 月 1 日より施行する。この「規定」の施行と同時に、1990 年 3
月 12 日、国家環境保護局が公布した「国家環境保護局法規性文件管理弁法」は廃止された。
「規定」
は 8 章 38 条からなる。
中国は WTO 加盟後、立法化までの透明性の向上を目指している。法律・法規制定過程において、
法律・法規が正式に認可される前に、一般市民の意見を聴取することが頻繁に行われるようになっ
た。国家環境保護総局によるこの「規定」の制定は、環境保護分野における行政規定制定の透明度
向上努力の反映である。この「規定」内容を理解することにより、今後中国環境保護分野の立法プ
ロセスを把握し、場合により、企業は法律法規の草案形成段階で、自己の意見を関連当局に提出し
たり、ロビーイングしたりすることができるようになる。以下は、
「規定」の要旨をまとめたもので
ある。
第 1 章 総則(第 1 条−第 3 条)
1. 環境保護法規制定プロセスを規範化し、立法の質を向上させるため、
「立法法」
、
「行政法規制定
プロセス条例」
、
「部門規章制定プロセス条例」
、
「法規規定届出条例」および「法制行政の全面的
推進に係る実施綱要」などにもとづき、本規定を制定する。本「規定」が称する「環境保護法規」
は、国家環境保護総局(以下「総局」と略称)が、全国人民代表大会(中国の議会、以下「全人
大」と略称)関連機関の委託を受け、または法律法規の授権、行政職権に基づいて、下記の規範
性書類を制定する。
1)全人大関連機関の委託を受け、代行して作成した環境保護法律草案の原案
2)国務院による審査に提出する予定の環境保護法律または行政法規の審査用原案
3)環境保護行政当局の部門規章(規定)
2. 環境保護関連の法律、行政法規の立案、起草、審査、許認可取得、環境保護の部門規章の立案、
起草、審査、決定、公布、届け出およびその解釈は、本「規定」に従う。
第 2 章 立案(第 4 条−第 8 条)
1.「総局」は、年度の初めに当該年度の立法計画を制定する。立法化のための年度計画で確定した
立法案件は、第 1 類、第 2 類、第 3 類の 3 カテゴリーに分類する。
1)第 1 類:①全人大常務委員会の立法計画、または国務院の立法年度計画に入っているもの
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
中国【20】環境保護法制定プロセス・中国企業の EU2 指令への対応
②「総局」が年内に法案を提出する必要があり、またはすでに審査のために提出され、
全人大あるいは国務院関連組織の審査に協力する必要のあるもの
2)第 2 類:立法の根拠および立法の緊急性があり、
「総局」が年内に審議に提出希望のもの
3)第 3 類:検討、論証、起草を要する立法案件
第 3 章 起草(第 9 条−第 15 条)
1. 環境保護法規起草の担当部室は、立法作業担当者、実務者および専門家・学識経験者から組織
され、立法の起草を担当する。
2. 環境法規の起草過程において、広範囲に資料収集、調査研究を行い、関連機関・組織および一
般市民の意見を聴取すべきである。意見聴取は専門会議、専門家による論証会議、部門間の協調
会議、企業代表者座談会、立証会など、多岐にわたる形式で行う。
3. 起草担当部室は、法規の草案の完成後、
「総局」各関連部室、直属部門からの意見を求め、その
フィードバックにもとづいてドラフトを修正し、法規の「意見徴求用法規草案」を作成後、総局
局長審査会の審議に提出する。審査会は草案が係っている法律法規、法的措置の必要性、設定す
る行政許可、行政処罰の妥当性とその合法性などの内容に関し、審議を行う。
4. 総局局長審議会の審査結果に基き、起草担当部室は草案を修正し、
「環境保護法規意見請求草案」
およびその説明を完了し、総局公文書にて省レベル環境保護部門および国務院関連部に送付し、
その意見を求める。起草担当部室は、法規意見請求草案が係っている分野については、関連の地
方人民政府、省レベル以下の環境保護担当部門、代表性のある企業、一般市民の意見を求めるこ
とができる。意見請求草案の説明は、立法の必要性、主要制度・措置などの内容に関する説明を
包括すべきである。
5. 環境保護法規が、一般市民、法人またはその他組織の直接的利益にかかわっている場合、意見
請求草案を公表し、公開して意見を求めることができる。環境保護部門による規定が貿易、投資
に影響を与える場合、国家の関連規定にもとづいて、対外通報の手続きを履行し、意見請求草案
を公布すべきである。
6. 起草担当部室は、求められた意見に基づき、意見請求草案およびその説明を修正し、環境保護
法規の審査用草案およびその説明を作成した後、その他関連資料を添付して、
「総局法規司」
(以
下「法規司」と略称)の審査に提出する。審査用草案は立法の必要性、草案起草過程、主要制度・
措置に関する説明、意見聴取状況、採用しない意見に関する処理状況などの内容を含むものとす
る。その他関連資料は、以下の内容を含む。
1)現在の管理状況および存在する主要問題点に関する分析
2)草案規定の主要制度・措置の必要性や可能性に対する論証・立証資料
3)意見請求およびその処理状況のまとめ総括表
4)採用されない主要意見に対する説明
5)当該立法の調査研究報告書、法規条文を含むその他内外の立法参考資料
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
中国【20)環境保護法制定プロセス・中国企業の EU2指令への対応
第 4 章 審査(第 16 条−第 20 条)
1.「法規司」は、起草担当部室と共同で、以下の方面から環境保護法規審査草案について、審査を
行う。
1)設定する環境保護行政許可案件は、
「行政許可法」およびその他法律、法規および国務院その他
法規性書類が、行政許可に関する規定に合致しているか否か。
2)設定する環境保護行政処罰は、その他法律、行政法規および国務院その他法規性書類の行政処
罰に関する規定に合致しているか否か。
3)国家の関連法規、政策と合致しているか否か。
4)立法の技術的要求に合致しているか否か。
2. 審査過程で、
「法規司」が環境保護法規審査草案に係っている法律問題について、さらに検討を要
すると判断した場合、座談会、立証会を開き、各種の意見を聴取することができる。審査草案が
係っている行政許可が一般市民、法人またはその他組織の直接的利益に係っており、関連機関、
組織または一般市民が草案に対し重大な異議がある場合、
「法規司」および草案起草担当部室は、
公開の意見を求めたり、または聴聞会などの形式で、関連機関・組織および一般市民の意見を聴
取したりすることができる。
3.「法規司」と草案起草担当部室は 20 営業日以内に、環境保護部門規章審査草案は 40 営業日以内
に、環境保護法律、行政法規審査草案の修正を完成し、環境保護法規の審議用草案を作成しなけ
ればならない。重大な意見相違があり協調作業が必要などの特殊事情がある場合、審査期限を適
宜延長することができる。ただし審査期限は最長 60 営業日を超過してはならない。
「法規司」は
法規認可審査の稟議手続きを行い、
起草担当部室との共同稟議が完了した後、
法規の決済用草案、
起草説明、審査説明および関連の論証材料目録を、
「総局」局務会議の審議に提出する。
第5章 審議への提出、決定および公布(第 21 条−第 27 条)
1. 環境保護法規草案は、
「総局」局務会議の審議を受けるべきである。審議時に、起草担当部室は
起草の説明を行い、かつ管理の現状、主要管理制度・措置の必要性や可能性などの専門的問題に
ついて、説明および答弁を行う。
「法規司」は審査説明を行い、かつ行政許可、行政処罰設定の合
法性、環境保護法規とその他法律、法規との関連性などの法律問題について、説明、答弁を行う。
2.「法規司」と起草担当部室は、
「総局」局務会議の審議意見に基づいて、環境保護の部門規章草案
をさらに修正し、環境保護の部門規章を作成後、それを「総局」局長署名による命令の形式で公
布する。環境保護法律、行政法規の場合、
「法規司」は、起草担当部室と共同で、
「総局」局務会
議での審議意見に基づいて修正後、環境保護法律あるいは行政法規の送審稿(審議提出用草案)
を作成し、それを「総局」文件の形式で国務院に提出する。総局が全人大関連機関の委託を受け
て起草した環境保護法律草案の代擬稿(代替として作成した草案)は、
「総局」公文書にて委託機
関に送付する。
3. 環境保護の部門規章を公布する命令は、環境保護部門規章の序列番号、名称、認可期日、施行期
日、
「総局」局長署名および公布期日を明記しなければならない。環境保護部門規章は、公布日よ
り 30 日後に施行すべきである。公布後即時施行しなければ環境保護規定の施行を妨げる場合、
公布日より規定を実施することができる。
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
中国【20】環境保護法制定プロセス・中国企業の EU2 指令への対応
第6章
届け出と解釈(第 28 条−第 30 条)
1. 環境保護部門が公布した日より 30 日以内に、
「法規司」は「立法法」および「法規規章届出条
例」の規定に基づいて、その届け出を行う。届け出は届け出報告書、部門規章原文・説明を規定
形式でファイルして行うべきである。
2. 環境保護の部門規章の解釈権は、
「総局」に属する。
「総局」がその他国務院関連部と共同で公
布した部門規定の解釈は、
「総局」と国務院関連部が共同で行う。環境保護部門が制定した規章
の解釈は、環境保護部門規章と同等の効力を有する。
第 7 章 他部門の部門法規意見請求草案の処理(第 31 条−第 34 条)
他の国家行政機関、部門が起草した法律、行政法規または部門規章を、意見を求める目的で「総局」
に提出した場合、
「法規司」が受理し、内容にもとづいて関連部室に転送する。各担当部室は、規定
の期限までに意見を提出し、
「法規司」に返送する。
「法規司」は原則として、その内容が環境保護
の法律・法規・規定と協調、対立するかどうかを研究し、返信のための文書を作成する。
第8章 附則(第 35 条−第 38 条)
1. 環境保護の部門規章が貿易・投資に影響を及ぼすものである場合、規章を公布した後に、関連規
定に基づいて規章の英文翻訳を行い、一定の手続きを経て対外的に公布する。
2. 環境保護部門規章の修正、廃止は、本「規定」の関連規定に基づいて行う。
3. 本「規定」は 2005 年 6 月 1 日より施行する。同時に、1990 年 3 月 12 日、国家環境保護局が公
布した「国家環境保護局法規性文件管理弁法」は廃止する。
Ⅱ. 中国企業における EU WEEE・RoHS 指令への対応の動き
1. 外国バイヤーから製品 2 指令基準達成の要求急増
EU の WEEE 指令および RoHS 指令の実施開始時期が近づくにつれ、中国地場企業の指令対応に対す
る関心も高まっている。中国企業の関心度が高くなっているもう一つの背景は、欧米企業などの外
国バイヤーから、一定期限までに製品の基準達成要求を受けた企業が増えていることである。
2005 年 7 月上旬、
香港品質保証局は同局主催の 2 指令対応セミナーに参加した地場企業 40 数社
(香
港資本の色彩が濃い広東省企業)に対し、アンケート調査を行った。その結果、製品を外国に輸出
している企業 44 社のうち、外国のバイヤーから WEEE および RoHS 指令基準クリアの要求を受け
たことがある企業は 38 社あった。多くの中国企業による 2 指令に対す認識は、外国バイヤーの要
求があってはじめてスタートしたといえる。ある電子部品メーカーの品質管理部長は、
「現在のとこ
ろ、当社に対し 2 指令基準達成を要求する取引先は、わが社の欧米向け輸出の半分を占めている」
と述べた。
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
中国【20)環境保護法制定プロセス・中国企業の EU2指令への対応
2. 地場の電子製品大手メーカーも部品メーカーを再選択
日系家電大手メーカーなど外資企業は、仕入れ先の部品メーカーに対し、製品の指令基準合格を要
求している。これに対し地場の大手電子製品メーカーも、部材供給業者に対し、2 指令基準クリア
の要求に動き始めた。2005 年 4 月、広東省順徳で開催された家電部品商談会では、部品調達に来訪
した完成品アセンブラーは、いずこも RoHS 基準クリアを購買の前提条件として打ち出した。
広東省の某家電大手メーカーは、自社の部材サプライヤーについて、その対応状況を調査した。調
査の対象となった全体の 9 割に及ぶサプライヤーのうち、2 指令基準合格と回答した企業は 55%で
あった。同社の資材調達管理担当者は、
「基準にまだ達成していない企業の基準早期達成のため、当
社は技術、その他の指導を行う。当社の資材供給者は、珠江三角洲地域において比較的水準が高く、
双方の協力関係も長年に渡っていることから、当社としても彼等をを安易に手放すことはできな
い。
」とコメントした。
2005 年 7 月、同家電メーカーは、ある欧米系大手家電バイヤーとの商談で、2005 年末までに RoHS
指令基準合格製品を供給することを承諾した。仮に年末時点でこの目標を達成できなければ、この
欧米大手バイヤーとの取引は解消されると、同社は覚悟している。同社の家電品質管理担当責任者
は、次のようにコメントした。
「わが社はすでに資材仕入れ測定システム、供給者審査システム、生
産保証システムなどの分野で、2 指令対応の管理体制を形成しつつある。2005 年 8 月 1 日より、わ
が社は RoHS 指令基準達成に向けた生産体制の導入を開始し、10 月 1 日より、RoHS 指令基準対応
の生産体制が全面的に発足する。12 月の時点で、わが社は RoHS 指令基準合格製品の量産が可能に
なる。
」
3. RoHS 認証取得を市場参入のテコに
報道によれば、各地場系電子機器・部品メーカーは、中国系認証機関から RoHS 認証を取得した。
また一部の外国系認証機関も、中国で類似の業務を展開している。中国の某大手認証センターの関
係者は、EU 当局は個別の認証を認可しないものの、輸出業者や小売業者などのバイヤーが、製品の
RoHS 基準合格を要求するため、認証機関の認証があれば、製品の EU 市場参入に有利となると説明
している。
同認証センターが実施している RoHS 認証は、企業認証申請書の提出、実験室でのテスト実施、関
連組織による合格性評価、合格認定証発行のプロセスまでを含む。これらの作業全般には 10−15
営業日を要する。費用については、ひとつの部品を例にとると、RoHS 指令制限対象である 6 項目
全部の測定に約 1200 元かかり、申請・認証手続き費用として約 1000 元かかる。また完成品本体の
認証の場合、多くの部品が含まれるため認証費用も高くなり、時には数万元に及ぶこともある。
RoHS 認証は認証機関にとって新しいビジネスであり、当業務に熱意をみせていることがよくわか
る。事実、中国各地で行われる EU2 指令対応セミナーは、地場系および外資系の認証機関が協賛で
開催していることが多い。特に外資系認証機関は、中国市場における大きなビジネスチャンスを十
分自覚しており、この分野の事業開拓に注力している。
例えば某米系認証機関は、地場企業に対し RoHS 指令対応ソリューションを提供し、測定、継続的
監査、データバンク提供、環境管理体系登録・評価など、一連のサービスを行っている。うちデータ
バンク 1 年間の利用料金は 1200−2000 米ドル、6 種有害物質測定の場合、サンプルごとの測定価
格は 135−165 米ドルである。
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
中国【20】環境保護法制定プロセス・中国企業の EU2 指令への対応
「2 指令の施行は、わが社の製造コストを 10−20%アップさせる。しかし指令対応の早期実現は、
ビジネスチャンス獲得において意義あるものだ」と、
年間数千万個の小物家電を欧州に輸出している
広東省某小物家電メーカーの社長は力説した。
4. WEEE 指令対応で輸出価格の引き上げ
2005 年 8 月 13 日より、WEEE 司令が部分的ではあるが、EU 加盟国で実施スタートされる。中国の
家電製品輸出の約 3 分の1は EU 向けのものであり、中国製家電製品の EU 市場におけるシェアは約
25%である。WEEE 指令実施後、中国地場系家電メーカーの製造コストは上昇し、外国製品と比べ
中国製品の価格競争力が弱体化することが懸念される。業界関係者は、WEEE 指令の施行により、
中国家電製品の輸出価格は 10%程度引き上げられると予測している。
WEEE 指令施行後、EU 向け輸出の家電製品は 1 個当り 1−20 ユーロの処理費用が徴収されると予
想される。これに伴い、メーカーの製造コストも上昇する。あるエアコンメーカーは、WEEE 指令
の実施により、同社の輸出用エアコンのコストは、15−20 米ドル上昇すると予測している。
コスト増加の対抗策として、EU 市場向けに輸出している地場の家電メーカーは、輸出価格引き上げ
で調整を行った。某地場系エアコン大手メーカーは、2005 年 3 月、原材料コストの価格上昇および
WEEE 指令実施の影響から、輸出価格の引き上げに踏み切った。EU 向け輸出製品に付随する回収・
処理コストを抑えるため、中国企業は回収・処理チャンネルを共同で構築し、中国の人的・物的資
源を活用する方法や、外国の回収・処理施設を利用する方法など、あらゆる対応策を挙げている。
WEEE 指令が全面的に実施されれば、単に価格優位性で勝負してきた家電メーカーは、市場で淘汰
されるとみられる。この結果、中国家電製造業の再編成が促進されるという見方もある。
「環境問題
解決の過程において、
メーカーは川上産業、
川下産業にリスク回避のためのコストを転嫁するため、
家電業界で産業構造の大変化が起きることは不可避である」と、ある研究者はコメントした。
地場企業も外国企業も EU2 指令の影響を受けるものの、今まで中国家電業界は価格優位性を武器と
してきただけに、技術改革に対する研究開発は相対的に弱い。2 指令実施に伴い、地場メーカーが
部材調達先を国内から海外にシフトすれば、地場メーカーの価格優位性はなくなると、同研究者は
指摘した。ある業界筋は、地場の家電メーカーは海外市場を再認識し、自力で海外市場戦略を再構
築するには、さらに 5 年以上かかるとコメントした。
5. 中国国内立法化の進捗状況
EU2 指令実施に伴い、中国は「電子情報製品汚染防止管理方法」および「廃棄家電電子製品回収処
理管理条例」の立法化を進めている。
2004 年 9 月、国家発展改革委員会は、
「廃棄家電電子製品回収処理管理条例」の草案を公表し、一
般市民からの意見聴聞を行った。この草案はすでに国務院に提出され、国務院の 2005 年度立法計
画に組み入れられている。現在、国家発展改革委員会は財政部など関連当局と共同で、廃棄物回収
費用の概算、回収方法などの問題について研究している。政府はさらに廃棄家電回収・処理の専門
基金を設立する計画である。
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
中国【20)環境保護法制定プロセス・中国企業の EU2指令への対応
一方、中国信息産業部が制定した「電子情報製品汚染防止管理方法」は、すでに関連部門での審議
が終了し、国務院の審議・認可に付された。この「管理方法」は、2005 年下半期に正式に公布され
るとみられる。
政府が立法化を進めているなかで、地場メーカーもこれに対処すべく努力している。一部の地場家
電メーカーでは、中古家電の回収を試みている。2005 年 7 月、某家電大手メーカーは、北京市のあ
る家電チェーン店と提携し、同社製の新品のテレビを購入する顧客に対し、同社ブランドの中古テ
レビを 1 台当り 100−500 元の価格で下取り回収するキャンペーンを行った。
顧客は中古テレビを持ち込んで同チェーン店で電器製品を購入すれば、店は一定比率で購入価格を
割引する。チェーン店および家電メーカーによって回収された中古テレビは、資格のあるリサイク
ル機関で処理される。同家電メーカーは、リサイクル機関に対し、総額 100 万元近くの処理費用を
支払う。
☐
調査委託先:
Thrace Investments Limited(華南投資顧問有限公司)
HP: http://chinasouth.info/(日本語・English)
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JMC environment Update
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Vol.7 No.2 (2005. 7)
随
想
「環境」問題で思うこと
前貿易関連環境問題対策委員会副委員長
前貿易と環境専門委員会委員長
松藤
洋治
環境問題が社会現象化し、企業に環境関連の
ったことは冷房の効きすぎ(私にとって)であ
部署ができて十数年が経過した。この名の下に
る。表を歩く時は灼熱の太陽の下汗だくだく、
環境マネジメントだ、
省エネだ、
リサイクルだ、
電車やオフィスなど屋内に入れば一気に冷やさ
グリーン調達だと実に様々な取り組みが行われ
れるのでネクタイはともかく上着はどうしても
てきた。私は環境問題という言葉があまり好き
手放せない。年を取ると体温調節もままならな
ではない。今我々がやらねばならないことを考
いようで冷房病にもなりかねない。このような
えてみると、この「環境」という言葉が曖昧で、
状況ではいくら掛け声を掛けても実践は難しい
事の本質を見誤るのではないかと思うからであ
と思わざるを得ない。
る。私がこれらの問題に取り組みながら常に考
えていたことの一つは、資源の「有効活用」と
従って社会全体で温度調節をやることが肝要
「確保」ということである。両方とも資源の有
である。今でも室温を夏 28 度、冬 20 度にする
限性に起因する問題であるが、その重要性が今
よう呼びかけているが、自主的行為に頼ってい
の社会ではまだまだ理解されていないように感
ては達成は難しい。空調機の機能を気温が 30
じている。
度を切ったら自動的に冷房から送風になる(こ
れこそエコ製品?)ように規制するなどハード
最近の身の回りに起きた事を事例にしてこの
とソフトの両面で大胆な施策が必要ではないだ
問題について述べてみたい。
ろうか。
私が社会人になった頃はむろん冷房など無く
この 6 月 1 日から環境省の肝いりで「クール
オフィスでも扇風機で涼を取っていた。会議な
ビズ」が始まった。小泉首相や閣僚らが率先し
どノータイ、ノー上着で何ら失礼などというこ
てノータイでテレビに出て宣伝している。それ
とも無かった(当時は、気温が高くても 30 度
を見ながらふと「北風と太陽」の話を思い出し
を少し越える程度で今のように 35 度を越える
た。旅人のコート(いや上着かな)を脱がすた
ことなど無かったが)
。
しかし生まれたときから
めに「北風」と「太陽」が競争する、皆さん良
冷房の中にいる若い世代の人たちや、冷房に慣
くご存じの話である。結果は太陽が照らすこと
れた国民に受け入れられるのはなかなか難しい
により気温が上がりいとも簡単にコートを脱が
であろうから、社会が省エネを推進しなければ
すことに成功し「太陽」の勝ちである。
ならない理由を更に積極的にアピールする必要
があると思う。
このように軽装をさせたければ室温を高くす
ればよい。サラリーマン時代夏の通勤で一番困
JMC environment Update
今のように温暖化対策だけを主張しても無理
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Vol. 7 No.2 (2005. 7)
「環境」問題で思うこと
ではないか。100 年後にこうなるなどといくら
で、中国政府はそれこそ血眼になってエネルギ
言っても一般の人の行動を変えるインパクトは
資源の確保に全力を挙げている。少々のトラブ
生まれないだろう。この問題については、もっ
ルなど意に介さないであろう。
と資源の枯渇問題をアピールすべきであると考
えている。日本は原子力による電力供給が遅々
日本は隣国との摩擦を考えて今まで手を着け
として進まない状態にあるので、(個人的には
なかったと言う声も耳にするが、このガス田の
原油を生炊きのような状態で浪費する火力発電
埋蔵量の多少に関わらず、日本政府は常にエネ
を奨めたくはないが)
、
まだ当分の間化石燃料に
ルギ資源の確保に国の存亡を掛けるぐらいの強
頼るしかない。石油資源の将来についてはすっ
い気持ちを持っていないと、外交的に対等な交
かり「狼と少年」になった感もあるが、流石に
渉は期待できないと思う。
最近言われている数十年レベルという値はある
程度信用しても良いのではないか(但し安価な
企業いや社会にとって電気やエネルギが停ま
天然のエネルギ資源としては、天然ガス、メタ
るということは致命的なことになるので、日本
ンハイドレート、石炭などまだまだあるようだ
としてエネルギ資源の確保は最優先の課題であ
が)
。
り鷹揚として構えている時代は終わったと考え
ているのだが。
世界が豊かになってきて多くの国で多大なエ
ネルギを必要としており化石燃料の奪い合いは
更に激しさを増すだろう。こうした中、日常生
無論エネルギ以外の資源についても同様な状
活に「温暖化」よりも先に資源不足による影響
況にある。
「持続性社会」
の実現に向けて資源の
が現れてくると見ている。ここ数年世界各地で
有効活用が叫ばれている中で、法律も整備され
停電騒ぎが起きている。原因は色々だが結果と
企業側の対策もだいぶ進んでいるようだが問題
して起きている混乱は重大である。近い将来日
はないのだろうか。
本も同様な状態になって初めて事の重大さに気
付き社会レベルでの改革が進むのかも知れない
今年になって我が家の天井据え付け型の蛍光
(オイルショックレベルでは済まない)
。
灯と電話のターミナルアダプタが壊れた。早速
修理を考えた。蛍光灯はユニット(電子基板)
が一つあるだけでこれを交換すれば良いことは
エネルギ問題といえば、昨年当たりから東シ
誰にでも直ぐ判る構造だ。メーカに電話して修
ナ海のガス田開発が政治問題化し、日中間に大
理依頼をしたところ部品代は数千円だったが、
きな摩擦を生んでいる。開発は中国が先行し日
出張費や工賃で 1 万円をゆうに超す値段になる。
本が後を追う形になっているが事の本質は何処
大型で少し高い製品なので買い換えるよりは少
にあるのだろうか。
しは安いがユーザの立場に立てばやはり高い。
自分で交換するつもりで部品のみの購入を交渉
新聞やニュースなどで色々と言われているが、
したが対応して貰えなかった。結局別の機能を
日本が中国の行為に異議を唱えている理由が、
持った蛍光灯を求めていたこともあり新しいの
当該ガス田が海底を介して日本領土にまで広が
を買うことにした。電話のアダプタも NTT に電
っておりそれを勝手に取り出すことを問題視し
話して修理依頼をしたところ似たような費用で
ているように聞こえる(イラクとクウェートみ
ある。気になって家電量販店で最近の製品を調
たいだが)
。
べたところ案の定 3 年前に比べて市販価格が可
成り下がり修理費用と大差がない。自分で買っ
中国では今や国内の膨大な人々の生活や経済
て付け替えた方が修理に来て貰うより早く、結
活動をまかなうためのエネルギの不足は明らか
JMC environment Update
局両方とも新しい物になってしまった。
60
Vol.7 No.2 (2005. 7)
「環境」問題で思うこと
私が環境問題に取り組んでいる時もこの「製
使用済みの金属やプラスチックが、中国で安く
品の修理」はかなり難しい問題であった。資源
て豊富な労働力を駆使して立派に資源として活
の有効利用から見れば修理して長く使う方がよ
用されるようになったことに端を発している。
いが、企業からすれば新しい物を売る良い機会
価格や品質面で国内で使えなくなった資源を開
である。それを部品交換だけで済ますとなれば
発途上国に輸出し、そこで製品化して再度輸入
同じとまでは行かなくてもある程度の利益を確
するという循環が主旨であるが、果たして成り
保しようとするので費用が割高になる。ユーザ
立つのであろうか。
中国に持ち込まれた材料は、
が修理を考えるのはどんな時だろうか。8 年も
一部は日本の 100 円ショップなどで売られる物
10 年も使った製品なら最初から買い換えを考
もあるが、殆ど中国内で使用されている。輸出
えるに違いない。製品の寿命から見て 3 から 4
に対応できるような高品質・高機能の製品を作
年程度だと修理する気になるのではないか。企
ることは出来ないので、中国で日本メーカの現
業の中には有料で保証期間を延長するなどの取
地法人が使用している材料は国内と同じ物で決
り組みも出てきているが、やはり製品の寿命近
してリサイクル材ではない。リサイクル製品が
くまで使用されるのが理想であるから、早い段
低所得な資源生産国に行き渡ればグローバルな
階の故障は商売とは違う理念で可能な限り安く
資源循環になるとの意見もあるが余りにも虫の
できる様に企業側の意識変革を望みたいもので
良い勝手な言い分ではなかろうか。結局リサイ
ある。
クル資源はカスケード利用1という形で一方的
に流出してしまうだけの結果になる。
一歩踏み込んでユーザに修理を任すのは無理
だろうか。最近の製品はユニット化が進み交換
このような利用価値の高いバージン資源を日
はかなり容易になっている。比較的小さなユニ
本が利用しリサイクル資源を途上国が使うとい
ットや部品を社員がわざわざ車を使って修理に
った構図が何時までも続くとも思えない。膨大
来るよりも郵送や宅配便を使った方が安上がり
な途上国の市場要求を満たすには現状のリサイ
で且つ効率的でもある。メーカでは資源の有効
クル資源量では到底足りず、バージン資源の奪
利用ということで回収した製品をリユースした
い合いが始まることは必至である。トータルと
り、部品を取り出して修理用部品などのリユー
しての資源逼迫が起きれば今までのように無尽
スに廻すなど色々なことが行われるようになっ
蔵にバージン資源を入手することは不可能にな
た。このユニットや部品を使用すれば更に安く
り、国内の生産に大きな痛手となる。
修理が可能になるはずである。むろん誰でもが
可能とは思わない。きちんとした自己責任の確
輸出国である日本が輸入した資源をすべてス
立も必要である。PL 法や他の法律など規制がネ
トックすることは無理な話であるが、少なくと
ックになることも考えられる。しかしながら何
も国内で使用した製品はリサイクルし 100%国
処かで壁を越さないとこの問題の解決が見えな
内で使用することが大事である。
既に家電製品、
いであろう。
パソコン、複写機など国内で可成り高いリサイ
クル率を達成しているが、企業が生産を続ける
にはクローズドリサイクルが不可欠である。そ
資源の有効活用
(処分場対策との見方もある)
のためには安価で良質なリサイクル資源の確保
という点で具体的に推進されているリサイクル
が重要で、リサイクル技術の向上もさることな
分野では、最近資源循環、特に「国際資源循環」
がら、無人による解体、単一素材への容易な分
がキーワードになっていろいろな議論がなされ
離、素材の共通化など設計段階での更なる努力
ている。
1
リサイクル物質を元の製品に使用せずに、他の低品質な製品
に利用するリサイクル。
日本国内で不要となり廃棄物扱いされている
JMC environment Update
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Vol. 7 No.2 (2005. 7)
「環境」問題で思うこと
が必要である。また資源量が少なく利用価値の
てても後の祭りである。
高い稀金属などは補助金を出すなど国策レベル
で国外への流出を防ぐ事も考えるべきである。
日本は資源の最貧国にもかかわらず、世界で
生産される 1/3 の資源を毎年輸入し製品化して
既に可採年数が 20 年、30 年と言われている
自ら使い又輸出して経済を成している国である。
有用金属が複数ある。この数値は現在の生産量
これからも日本で生産や経済活動を継続するた
に対してであり需要に合わせて生産量が増えれ
めには安定的に資源を確保する必要がある。
ば更に短くなる。その後はすべてリサイクル材
を使用しなければならない。クリアすべきハー
国だけに頼るのではなく必要な資源を確保す
ドルは高いがリサイクルこそが資源確保の最後
るために企業自らが行動を起こすことも視野に
の手段であることを肝に銘ずるべきである。
入れておく必要はないだろうか。このままで行
くと近い将来輸出立国日本は過去の幻影になっ
何を馬鹿なことを言うと思うだろうが、それ
てしまうのではないかと危惧するところである
ほど遠くない将来、ワールドワイドで資源の適
(ソフトの輸出は継続すると思うが)
。
正配分が問題となり、
「資源権」のような仕組み
が考案され、排出権取引みたいに取り引きされ
る時代が来るかも知れない。その時になって慌
□
(本稿は、当組合会報「JMC ジャーナル」2005 年 7・8 月号に掲載された記事、
「寄稿『環境』問
題で思うこと」を転載したものです。
)
JMC environment Update
62
Vol.7 No.2 (2005. 7)
寄
稿
コニカミノルタの環境への取り組み
コニカミノルタビジネスエキスパート株式会社
社会環境統括部 品質環境安全部
北 陽子
1.はじめに
関 係 会 社
コニカミノルタグループは「イメージングの入力から出力まで」を事業ドメインとし、中心となる
4 つのコア技術「光学技術」
「ナノ技術」
「画像技術」
「材料技術」によって、複写機・プリンタ・光学
製品・カメラ・カラーフィルム・X
線フィルム・印刷用フィルム・高精
コニカミノルタグループ
〈持株会社〉
〈事業会社〉
度計測機器・インクジェットプリン
コニカミノルタ
コニカミノルタ
タなど、幅広い分野にわたって新し
ビジネステクノロジーズ株式会社
ホールディングス株式会社
コニカミノルタオプト株式会社
い次代のイメージング環境を実現す
コニカミノルタ
る多彩なサービスを提供しています。
フォトイメージング株式会社
コニカミノルタエムジー株式会社
製品分野はさまざまですが、
ISO14001 の統合認証を要として、
関係会社も含めたグループワイドで
統率のとれた環境経営を進めていま
す。その中でもコニカミノルタなら
ではの、先進的でユニークな活動を
ご紹介します。
コニカミノルタセンシング株式会社
コニカミノルタ IJ 株式会社
コニカミノルタ
プラネタリウム株式会社
〈共通機能会社〉
コニカミノルタ
テクノロジーセンター株式会社
コニカミノルタ
ビジネスエキスパート株式会社
ゼロエミッション活動のポイント
2.ゼロエミッション活動
コニカミノルタ
2−1 経済性、環境効率を考慮
「排出物を再資源化し、埋立物をなくす」
というゼロエミッションの活動を、形だけで
終わらせないためには、不法投棄のリスクを
減らし、採算を考慮した息の長い活動にする
ことが必要です。そこでコニカミノルタは、
ゼロエミッションを一過性のものにしないた
めに、コストダウンもゼロエミッション達成
基準のひとつにあげています。
JMC environment Update
資源
不要な物は
買わない
入れない
生産活動
(あらゆる
業務を含
む)
製品
サービス
内部リサイクル
排出を
とことん減らす
別の資源
外部リサイクル
埋立
63
できる限り
埋め立てない
Vol. 7 No. 2 (2005. 7)
コニカミノルタの環境への取り組み
まずレベル 1 として、
「再資源化率 90%以上、最終処分率 5%以下、外部支払い費用 90%以上削減
(対 1998 年度)」の目標を定め、国内全 21 生産サイトのうち 19 サイトが達成・継続中です。
次のレベル 2 は「売上高あたりの外部排
出物量 30%削減(対 2001 年度)」
が目標で、
現在3サイトが達成・継続中です。
再資源化は、工程で出る端材などの内部
リサイクルからまずは最優先で進めます。
そのために、新たなリサイクル技術や生産
技術の開発研究も行っています。また、最
終処分量削減のために、分別を徹底しリサ
イクルルートを確保します。さらに、処理
が難しい排出物についてはルートを複数用
意し、
たとえひとつのルートが止まっても、
リサイクルの流れが途切れないようにして
います。
排出物フロー (2004年度
(2004年度))
総排出物量
31,633トン
減量化量
32トン
外部排出物量
21,080トン
内部リサイクル量
10,551トン
中間処理量
5,334トン
減量化量
787トン
15,745トン
4,458トン 外部リサイクル量
20,203トン
処理残渣量
4,547トン
89トン
149トン
再資源化後の残渣
埋立量
238トン
2−2 不法投棄などのリスクを回避
排出物の分別が進むに従って、グループ内で利用する産業廃棄物処理業者の数は飛躍的に増加しま
した。そこで、廃棄物取引先業者の選定をグループ全体でルール化し、安心して処理委託できる業者
を廃棄物審議委員会で選定することによ
りリスクを回避するとともに、取引先業
産業廃棄物処理業者選定フロー
者をデータベースで一元的に管理してい
候補業者
ます。
委託再開
また、廃棄物業者の情報だけでなく、
廃棄物処理法、不法投棄などの廃棄物に
関するあらゆる情報をデータベースに蓄
積し、
品質環境安全部で管理しています。
これらの情報は、グループ内に電子メー
ルで配信され、共有化しています。
委託不可
問題あり
業者選定
ルール
ルール
選定
委託停止
ルール
問題なし
委託開始
トラブル
あり
排出停止
なし
継続
3.化学物質管理
3−1 製品の安全のために
コニカミノルタは、フィルム、印画紙、現像処理剤など、さまざまな化学物質を使った製品を生産
しているため、化学業界での化学物質管理をスタンダードとしています。情報機器、カメラ、レンズ
などの機械・光学分野も例外ではなく、化学分野のレベルに合わせた高度な自主管理に、グループ全
体で取り組んでいます。化学製品開発の中で候補に上る何十という化学物質は、法規制への対応、環
境への負荷、性能、コストなどを検討して最適物質へと絞り込まれていきます。この開発のフェーズ
に合わせて、文献調査や各種安全性確認試験を段階的に行い、危険性や有害性の高い化学物質が製品
に組み込まれないようにするしくみ、これがコニカミノルタの「安全性確認システム」です。
JMC environment Update
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コニカミノルタの環境への取り組み
まず開発企画段階で「禁止・制限物質(約 1500 物質)
」として、無条件にふるい落すべき化学物質
を決めています。次の段階では、あらゆる側面での調査・試験に基づいて安全性を確認すると共に、
化学物質のリスクをその危険・有害性と使用量から算出する「危険・有害性ポイント計算」を用いて
の評価も行っており、いずれも合格基準は明確にされています。この基準に達しない製品は開発研究
を進められないことになっており、研究者はこの基準をクリアできる素材・製品を探索するための努
力を強いられることになります。
安全性確認システム
素材探索研究 初期製品化研究 製品化研究
量産化
9 性能確認会議
製品化
素材決定
8 環境適性評価
7 安全性本試験
工場実験
6 安全性判定会議
安全性 スクリーニング試験
5 危険有害性判定書
候補化合物2〜3物質
4 安全性確認試験
3
候補化合物10物質以下
2 デザインレビュー
禁止制限物質 リスト
1 文献調査
初期段階で゜の絞り込み
「安全性確認システム」は、製品アセスメントの中に組み込まれており、コニカミノルタで使用さ
れる化学物質すべてについて適用され、環境に逆行するような化学物質は決して採用できません。ま
た、新たに原材料物質を外部で合成してもらう場合にも、その合成ルートにベンゼン、クロロホルム
などの極めて有害な物質を使用してはいけないという規定も設けています。
化学物質のデータおよび情報は、全て環境データベースによって管理されており、これによって
「MSDS 作成」
「危険・有害性ポイント計算」など化学物質管理に必要なデータの加工を自動的に行う
ことができます。また、このデータベースはイントラネットで社内に公開しており、研究開発や各職
場での化学物質の取り扱いに活用されています。
3−2 労働安全衛生のために
生産現場はもとより、研究開発も含めた全職場での化学物質の取り扱いについて、統一の管理体制
を構築し、社則化しています。
各職場での化学物質の使用状況は、
「使用化学物質リスト」によって、使用量・使用目的を問わず
全て把握し、集中管理しており、その中で取り扱いに特に注意が必要な 1,000 種類あまりの化学物質
を「管理物質」に選定しています。その取り扱いについては、社内向け MSDS とも言うべき「化学物
質安全シート」が 1 物質に 1 枚ずつ作成されており、これに従い作業管理を行っています。
化学物質安全シートは、社内で実際に化学物質を使用する作業者の安全を考慮したもので、職場で
の作業管理に必要な情報(教育方法、保護具、該当法規など)を盛り込み、専門的な「有害性・爆発
危険性」について極力わかりやすいように記載しています。保護具の素材や必要な局所排気装置の能
力、作業環境測定の頻度にまで言及しており、1枚のシートで、その化学物質の取り扱いに必要な全
情報を網羅しています。作成したシートはすべて産業医の監修を受けており、イントラネットで公開
して、各職場でダウンロードできるようになっています。
JMC environment Update
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コニカミノルタの環境への取り組み
3−3 有害化学物質の自主的削減のために
化学物質総合安全管理計画
国内で使用する化学物質の中で、有害性と
使用量からリスクが高いと判断される 8 種類
の VOC(揮発性有機溶剤)と RoHS 対象重金
属については 1997 年から削減目標を定めて、
優先して自主的な削減を行っています。2004
年度には、計画通りホルマリンと N,N-ジメチ
ルホルムアミドの全廃を達成したほか、クロ
ロホルムについても 6 年前倒しで全廃を達成
しました。
■使用量削減目標
マスタープラン
実績
ベンゼン
2003年度全廃
2003年度 全廃達成
全廃
ホルムアルデヒド
2004年度全廃
2004年度 全廃達成
全廃
RoHS対象重金属
2005年度全廃
内製部品対応完了
クロロホルム *1
2010年度全廃
2004年度 全廃達成
全廃
1,2-ジクロロエタン *2
2010年度全廃
2004年度 3.4t
■大気排出量目標
マスタープラン
4.対話活動
実績
ジクロロメタン
2006年度 120t
2004年度 161.5t
酢酸エチル
2006年度 165.5t
2004年度 126.6t
メタノール
2006年度 50t
2004年度 80.1t
メチルエチルケトン
2005年度 22t
2004年度 20.4t
N,N-ジメチルホルムアミド
2004年度全廃
2004年度 全廃達成
全廃
4−1 地域環境報告会
社会との共存のために、情報開示とコミュニケーションの重要性が高まっている中、コニカミノル
タでは、リスクコミュニケーションの一環として工場周辺住民に対する対話活動を進めています。
従来より地域自治会長の方々と年 1〜2 回定期的に懇談会を持ち、情報交換を行っていましたが、
東京サイトおよび小田原サイトでは、どなたにもご参加頂ける「地域環境報告会」を 2002 年より毎
年開催し、環境負荷と取り組みについて対話を行っています。この 2 サイトは、いずれも四方が住宅
地に囲まれた化学工場であり、住民に対する説明責任が強く求められます。また、平素より地域住民
をパートナーとして受け入れ、正直でオープンに情報を共有して理解し合うことにより信頼関係を深
め、有事の際にもお互いに冷静に話し
合える土壌を作っておくことは重要だ
と考えています。
私たちの基本
--信頼の積み重ね-「地域環境報告会」は、広く公開す
--日常のコミュニケーション-るために参加条件不問・事前予約不要
コニカミノルタの統一ポリシー
で、既に東京で3回、小田原で2回開
„ 近隣住民に、やむを得ずご迷惑をかけていることを自覚。
催しましたが、これによって地域の
„ 苦情は、まず相手の話をトコトン聞く。
人々とのつながりが一層広がりました。
„ 相手の気持ちを思いやり、コニカミノルタの事情を
また、情報公開による環境活動のチェ
押しつけない。
ックが行われ、対話を通じて用水使用
„ すぐに回答が出なくても良い。「どうすれば良くなるか、
量削減という新たな課題が生まれまし
一緒に考えましょう。」の姿勢。
た。
„ 判らないことは、正直に「判らない」と言う。
4−2 化学物質リスクコミュニケーションの模索
化学物質についての情報をわかりやすく表現し、一般の方に正確に理解して頂くためには、これか
らも説明手法を研究していく必要があります。その手がかりを探して、2005 年 1 月に神戸サイトと西
神サイト合同で、
「リスクコミュニケーションのモデル事業」を(財)ひょうご環境創造協会、
(社)
環境情報科学センターとともに実施しました。
JMC environment Update
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Vol. 7 No. 2 (2005. 7)
コニカミノルタの環境への取り組み
このプログラムは、一般市民の化学物質に対する関心や懸念を把握し、よりよい情報提供の方法を
検討するためのものです。当日は、一般の神戸市民の方々や NPO とともに、化学物質アドバイザーや
行政関係者、他企業の方々などの専門家も交えて、工場見学の後に、ワークショップ形式の意見交換
を行いました。その結果、次のようなことが解りました。
■市民の化学物質に対する意識について
○企業や専門家と同じ理解であるところ
・化学物質の有害性に対しては良く解らないところが多い
・化学物質にはベネフィットがある反面リスクもある
○企業と違う意識であるところ
・
「工場からの排出量」より「地域の濃度」が重要
■市民の化学物質リスクコミュニケーションでの期待と興味
・プレゼンテーションよりも、工場見学を重視する
・知りたいのは「自分や家族への健康影響」につきる
5.おわりに
ISO14001 統合認証の取得によって、環境課題の報告ルールが統一され、グループ全体に同質の情
報がより迅速に水平展開されるようになり、分社化されたグループ全体において統一的、効率的な施
策展開が可能になりました。これからも、コニカミノルタは「測定なくしてコントロールなし」のス
ローガン通り、信頼性のある測定データをもとに環境課題の解決をグループ一丸となって進めます。
なお、コニカミノルタの環境取り組みは、下記ホームページでも公開しています。ご高覧頂ければ
幸いです。
http://konicaminolta.jp/about/environment/
〔当組合 貿易関連環境問題対策委員会 委員会社〕
JMC environment Update
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Vol. 7 No. 2 (2005. 7)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
1.貿易関連環境問題対策委員会
<平成 17 年度 第 2 回委員会(7/27:組合会議室)>
Œ 「REACH 規則案の最近の動向について」
―― 経済産業省 製造産業局 化学課機能性化学品室 課長補佐 瀬尾 充氏より、EU の新化
学物質規制である REACH 規則案の最近の動向について講演を伺った後、意見交換を
行った。
Œ 「最近の EU 環境規制動向について」
―― 平塚 敦之 日機輸ブラッセル事務所次長兼 JBCE 事務局長より、EU における最近の
環境規制動向(RoHS を中心に)について報告があり、その後意見交換を行った。
Œ 中東欧の WEEE/RoHS 指令実施体制に関する現地調査報告を行った。
2.貿易と環境専門委員会
<平成 17 年度 第 3 回委員会(6/16:機械振興会館)>
Œ 「アジア諸国における製品のリサイクル及び資源循環の可能性」調査報告
―― ㈱リサイクルワン
取締役 CFO
辻本大輔氏から、アジア諸国(マレーシア、ベトナム、タイ、
インド)における資源循環可能性調査の中間報告があった。
Œ 最近の環境関連情報(WEEE & RoHS、EuP 等)について情報交換を行った。
<平成 17 年度 第 4 回委員会(7/20:組合会議室)>
Œ 欧州環境関連動向(WEEE & RoHS 指令、EuP 指令案、TC111 動向等)について情報交換を
行った。
Œ 中東欧の WEEE/RoHS 指令実施体制に関する現地調査報告を行った。
3.環境法規専門委員会
<平成 17 年度 第 2 回委員会(6/13:組合会議室)>
Œ 欧州(WEEE & RoHS、REACH、EuP、電池指令 等)
、米国(カリフォルニア州、メリーランド州のリサイクル
法、難燃剤規制 等)、中国(WEEE & RoHS 等)の情報交換、意見交換を行った。
<平成 17 年度 第 3 回委員会(7/21:組合会議室)>
Œ 欧州(WEEE & RoHS、電池指令 等)、米国(リサイクル規制、省エネ規制、難燃剤規制 等)
、ア
ジア(中国:WEEE & RoHS 等、香港:省エネラベル、等)の情報交換、意見交換を行った。
Œ 中東欧の WEEE/RoHS 指令実施体制に関する現地調査報告を行った。
JMC environment Update
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Vol.7 No.2 (2005.7)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
4.環境問題関西委員会
<平成 17 年度 第 3 回委員会(7/26:大阪支部会議室)>
Œ 中東欧の WEEE/RoHS 指令実施体制に関する現地調査報告および最近の環境関連情報につ
いて情報交換を行った。
<環境関連施設見学会(6/23:㈱クボタ 阪神工場)>
Œ ㈱クボタ 阪神工場(ダクタイル鋳鉄管製造)の環境への取り組みについて説明を伺い、ダ
クタイル鋳鉄管の製造ライン、排水処理設備を見学後、質疑応答を行った。
5.海外 PL 関連セミナー
<7/6:虎ノ門パストラル(東京)、7/13:輸出繊維会館(大阪)、7/14:名古屋銀行協会(名古屋)>
――「欧州主要国における PL 制度関連セミナー」を開催し、㈱インターリスク総研
法務・
環境部マネージャー・主席研究員 佐藤 彰俊 氏より「米国における最近の PL 情勢と
企業の対応」について、法務・環境部主任研究員 田渕 公朗氏より「欧州3カ国(英
国、ドイツ、フランス)における PL 制度の実態」についてそれぞれ講演があり、そ
の後、質疑応答を行った。
□
JMC environment Update
69
Vol.7 No.2 (2005.7)
事務局便り
◇
WEEE&RoHS指令については、TACでの議論に進展が見られず、WEEEマーキング規格さえ最終
決定しないまま 8 月 13 日に突入することになりそうという、曰く言い難い事態です。RoHSの
追加除外についても欧州議会の介入が強まって欧州委員会は思うように動きがとれず、このま
までは企業への影響が極めて大きくなってしまいます。早期の進展が望まれるところです。進
展しないことを書くのは何とも気が進みませんでしたが、経緯や現状の把握に供するため状況
をご紹介しました。
◇
一方、EuP指令は欧州議会、理事会、欧州委員会の合意に基づき手続きが進められ、7 月に成
立を見ました。秋頃から実施対策指令に向けての動きが活発になりそうです。今後とも注目し
て、関連動向の報告に心がけます。
◇
地球環境問題は益々重要な課題となっている中、当組合の貿易関連環境問題対策委員会におい
て経済産業省の伊藤仁環境政策課長(当時)に「今後の地球環境問題への対応」についてご講
演いただきましたので、その講演録を掲載しました。本年 2 月に発効した京都議定書に関わる
内外の状況や目標達成計画のポイントについて分かり易く解説されております。
◇
モニタリング情報としては、欧州については REACH に関する業界の動き、水銀輸出禁止案を
めぐる EU 諸国の論争等、米国については連邦レベルでの廃電子機器リサイクル関連法案の動
向および臭素系難燃剤規制の動向、また中国については環境保護法制定プロセスおよび EU の
WEEE&RoHS 指令への対応について報告しております。
◇
当組合「貿易関連環境問題対策委員会」前副委員長および「貿易と環境専門委員会」前委員長
の松藤洋治氏からの寄稿文”「環境」問題で思うこと”は、”JMC JOURNAL”7,8月合併号に掲載
されたものですが、広い視点から問題提起しており、その考え方は本誌の読者各位にも非常に
参考になると考え、
「随想」として転載しました。是非、ご一読下さい。
◇
組合員のページとしては、
「コニカミノルタ」グループの環境対応をご紹介します。
「貿易関連
環境問題対策委員会」委員会社「コニカミノルタビジネスエキスパート」の北様からのご寄稿
です。コストダウン基準も含めたゼロエミッション活動、製品開発のフェーズに合わせた化学
物質管理、社会との共存のための対話活動など様々な分野に配慮しながら環境対応を実施して
いることが注目されます。
□
JMC environment Update
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Vol.7 No.2 (2005.7)
本レポートの全部または一部の無断転載を、翻訳、原文の如何を問わず禁ず。
environment Update
― 海外環境関連情報誌 ―
第 38 号
2005 年 7 月(Vol.7 No.2)
発行: 日 本 機 械 輸 出 組 合
環境・安全グループ
TEL: 03-3431-9230
FAX: 03-3436-6455
HP: http://www.jmcti.org/
〒105-0011
東京都港区芝公園 3-5-8
機械振興会館 401 号
印刷:株式会社 伸榮
〒158-0096
東京都世田谷区玉川台 2-3-10
本誌バックナンバーの詳細は、
当環境・安全グループのサイト http://www.jmcti.org/kankyo/index.htm →
環境関連のページ
→ 海外関連情報誌−environment Update
→ 既刊号の目次
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