第5回国際成年後見学会(Public Trustees and Public Guardians 5 th International Conference)に参加して 社団法人 成年後見センター・リーガルサポート 埼玉支部 伊藤 亥一郎 1.はじめに 本年6月5日から6月8日まで、イギリス(UK)はロンドンにおいて、第5回国際成年 後見学会が開催された。たまたま機会を得て参加することとなったので、そこで見聞きした 事柄のうち、わずかな紙面ではあるが、司法書士として興味深かったことをあれこれ報告す る。 2.I'm a solicitor. 参加した職能は、学者、弁護士、社会福祉士そして司法書士(私のほか埼玉会から高橋弘・ 杉山春雄、千葉会から長谷川秀夫の各会員)であるが、他の国々から参加した職能も似たよ うなものであった。まさに!似たような"職能と表現できる現実に出会ったのである。その 中でも、特に!ソリシタ(solicitor) "である。 日本語では、 !(英国の)事務弁護士"と訳されるのであるが、成年後見人(guardian) の業務はソリシタが担っており、まさに名前のとおり法廷外で法律事務を取り扱うのである から、成年後見事務はうってつけの業務だと思う。 そこで、司法書士である私の自己紹介の際には、とっさに、 “I'm a solicitor.”と言わざ るを得なかった。 “shihoshoshi lawyer”なるものは、半分日本語であるから到底通じない し、これを発言した上で、英語でこの職能を説明する英語能力は持ち合わせていないので、 ソリシタで通した。 ところが、これの通りのよいことよいこと。参加各国がほとんど英米法体系の国であった ため(例外はわが国日本くらいか?香港やシンガポールからの参加者もいたが、ラテン系は いなかったし、大陸法系もいなかったな)だろうとも思われるが、シンガポールから来たソ リシタ(顔は全く日本人みたいだった。茨城会の川又会長に似ていた)も、後見人の業務と 破産の業務をやっていて、全くわれわれと同じだと思わされたわけであるが、それもこれも ソリシタとしての職能のもと行われているのであるから、ソリシタ(!事務弁護士)という のはなかなかに素敵な名称なのかなと思ったしだいである。 日司連では、司法書士の業務の国際化に伴って、司法書士の英語名称について検討してい るようであり、その結論はまだ出ていないようである。私自身、フランスの公証人(ノテー ル(notaire) )制度の研究のためにフランスを訪れたときは、notaire japonais(ノテール ジャポネ 日本の公証人(職名詐称?) )の一点張りだったが、わが職能は、外国語でな んと表記すべきかということは、かなり興味を持っていたところであり、今回の経験は、solicitor の国際通用力を再認識させてくれたものである。でも、ラテン・大陸系の国が参加 してないんだからね。 61 司法書士 Monthly SHIHO-SHOSHI 2006.10 3.新井先生面目躍如 学会での発表は、それぞれ各国の担当者(学者・弁護士(ソリシタ)・社会福祉士等)が 行ったが、筑波大学法科大学院新井誠教授により、日本における成年後見制度について、特 に日本独自の仕組みの説明があった。以下のとおりである。 ① 任意後見制度(voluntary guardianship system) 公証人(notary public)が関与するが、その選任・就任は全くの私的自治のもとに 行われるものであって、ラテン法(日本の公証人の出自はフランスの公証人(notaire) である)の名残りを継受している日本独自のシステムで、自慢できるものである。 ② 補助人制度(adviser ship system) 成年後見人・保佐人以外に、意思能力がそれほど減衰してはいないが、それでも若干 の遜色がある者の法的保護の制度があることが評価された。 ③ 後見システムを強固にする施策(enriching the guardianship system) ! 法人後見・複数後見人の許容 " 身上監護義務の創設 # 後見監督人等の設置 これらは、後見業務をより豊かなものにするために考え出されたもので、かなり使い 勝手の良いものになっていると評価できよう。 ④ 公示方法の改良 旧制度の禁治産者・準禁治産者の戸籍簿(family register)への記録から、成年後 見登記(adult guardianship register)への登記 ⑤ 市町村長の申立権の創設(right of petition conferred upon mayors) これらのシステムは、わが国が成年後見制度を作ったのが、若干立ち遅れて作ったという 面はあるのであろうが、それを割り引いても、なかなかに気配りされたものであると評価さ れたと感じる。 日本人の発表は新井教授一人であったが、極東の島国にも、きちんとした後見システムが 存在するということが、各国の参加者に十分伝わったと感じられて、私も(別に、強烈なナ ショナリストではないつもりであるが)嬉しかった。 4.終わりに 本当に短い紙面で、ほとんど$ニューズ% でしかないが、各国それぞれ、認知症性高齢 者等の福祉の問題には、真剣に取り組んでい る現状が確認された。そして、わが国のシス テムは他の国と較べても、それほど遜色があ るとは思われないと実感できたのは事実であ るが、システムは良くても、実際の成年後見 人等の担い手が絶対的に不足していて、もっ ともっと高齢化が進む、わが国の状態を考え ると、司法書士の成年後見人の育成を急がな ければならないと考えさせられた。 司法書士 Monthly SHIHO-SHOSHI 2006.10 60
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