眼球移動とミスキュー・アナリシス - Princeton University

 EMMA研究(眼球移動とミスキュー・アナリシス)からの調査:
読解中の日本語助詞の利用について
山下吉友
EMMA RESAERCH (EYE MOVEMENTS AND MISCUE ANALYSIS) : THE USE OF
JAPANESE PARTICLES WHILE READING A TEXT
Yoshitomo Yamashita (Ursinus College)
1.はじめに
本稿は日本語学習者が日本語のテキストを読む際に助詞をどのように認知し、理解に
利用しているかをミスキュー・アナリシスと眼球移動の点から調査し、読解指導の視点
を考察しようとするものである。ミスキュー・アナリシスは音読の際、テキストと異な
った読みのサンプルを分析して、どのように読解を進めているのかを調べるものである。
また、眼球移動は眼球の凝視点の動きから読みの理解過程を調べることにある。この両
者を使用することによって、読解中にどのようなプロセスをおこなっているかかなり詳
細に調べることができる。
日本語は意味と構造の情報を担う語 (head)が比較的文末に位置し、読解過程が述語
の意味を基本にした項構造からくるのではないがことが推測される。一方、英語では述
語が比較的文頭に近い位置に来るので、項構造が読みにおいて推測されやすい。つまり、
読みと文生成があまり区別されることがないといえる。しかし、日本語の場合はどのよ
うにプロセスしているのか、読みと文生成を区別していく必要があると思われる。本稿
ではどのようなミスキューが現れ、眼球移動から、どのように助詞が利用されているの
か考察していく。まず、第一に述語の意味を基本にして項構造から文を理解しているか。
第二に助詞にミスキューが起こるか。おこるとすればどんなミスキューが起こり、何を
意味しているのか。第三に Eye movements は何を表し、ミスキューとどんな関係が言え
るのか示すことによって日本語の助詞の読みを考察する。
2.先行研究から
2.1. 眼球移動の調査から
読みの調査では Fixation Point(凝視点)の位置、移動の仕方、どのぐらいの時間凝視
点が置かれているか(fixation duration time)、凝視点と凝視点の時間または距離が主な研
究となっている(Rayner & Pollastec 1987; Rayner & Serreno 1994)。本稿ではどのような動
き方をしているかをみた。
Poulson (2000; 2002), Ducket( 2001, 2002), Paulson & Frieman (2005) では全ての文字に
fixation point が置かれわけではないとしている。すると、一字や、二字の助詞は
fixation point が置かれない可能性があるはずである Carpenter & Just(1981)では英語の機
能語の 14%しかFPが置かれないとし簡単な語彙であればあるほどFPのおかれる率
はは低くなるとしている。また Underswood & Batt(1996)では、難しい語であれば、F
118
Pは長い時間おかれる率が高くなるとし、Rayner & Duffy (1976 )では頻出語でよく見か
ける語はFPはすくなるとした。Rayner & McConkie (1976) では語彙が短かければ、F
P の時間が短く、語彙が長ければ、FP時間 は長くなると指摘している。つまり、語
が長ければ長いほどFPが置かれる率が高くなり、短ければ短いほど語にはFPが置か
れる率が低いくなるとしている。それからすると、助詞は一モーラか二モーラの単純な
音声構造のため、先行研究からすると、時間がかかるどころか、fixation points さえお
かれないことが予測される。ところが、山下(2003)では、助詞「は」、「が」におい
て通常の語彙よりも長い Fixation time で、しかも高い率で fixation points がおかれてい
ることを指摘している。
さらに、項構造が述語とともに理解されるとすれば、述語に fixation point がおかれ
るはずである。かりに述語に fixation points がおかれないとすれば、読みの際に、名詞
句と助詞の関係からしかプロセスされないことになる。それは、読み理解が述語の意味
からプロセスされるということから異なっていることを示してくれる。それは日本語の
理解プロセスにおいては述語の意味を基本にした項構造から理解しているのいではない
ことを示している。
2.2ミスキュー(Miscue)の概念:
読みのプロセスでは、視覚情報を意味が通るように独自のテクストをパラレルに作り
上げながら、読み進めているとしている(Goodman 1994, Goodman & Y. Goodman
1977)。これはすべての文字、語彙、文構造などの視覚から入るテクスト情報をそのま
まコピーしながら理解するのではないとしている。(Goodman 1996, 2005, 2007)それ
は、音読の際、テクストの語彙を同義語に言い換えたり、まったく別の語彙に置き換え
たり、語彙を省いたりしながら、意味の通るように自分のテキストを作り上げて読んで
いるからである。この現象をみると、読み手は誤用を犯すのではなく、アクテイブに独
自にテキストを作り上げながら意味の通るように、作り上げているとしている。このア
クテイブな行動を読みの「間違い」、「誤用」、「誤り」のようなネガティブな評価を
下すのではなくミスキューという語を使って、ポジティブな行動とみなした(Goodman
1996, 2005) 。その実際の読みとテキストとの違いを分析する方法が主なミスキュー・
アナリシスの方法である。言い換え、省略、挿入、入れ替え、をミスキューのタイプと
し、原因を文字の類似、語彙の類似、意味の類似、統語上からおこるミスキューなどを
段階的に、調査者がテキスト(Expected Response)と実際の読み(Observed Response)
の違いの度合いを調べながら、どのようにテキストを構築して意味理解をしようとして
いるのか調査する方法である(Y. Goodman et.al,, 1987; 1996; Y. Goodman et. al, 1996; Y.
Goodman et.al, 2005)。
Paulson (2000) Duckey(2001; 2002)ではミスキュー eye movements の両方法を使用し、
パラレルに独自のテキストを構築しながら読解をすすめていることを裏付けた。本稿で
はこの両者の手法を利用して助詞がどのように利用されているのか調査をおこなった。
119
3.研究手続き
28文の物語からなる物語“象の目方”国際学友会日本語学校編(1982)を使って、ア
メリカ人5人の日本語学習者に音読してもらった。アイ・トラッカー(Eye tracking
camera; ASL Eyenal 5000 )の前に座り、読んでもらったものをミスキューと eye
movements のデータ処理をした。
4.1結果1.項構造からの理解:
五人のデータから28文からなる物語全体で140文のうち、fixation がおかれたも
のを調査した。140文のうち、述語から読まれた文は一例もみられなかった。つまり、
述語の意味を中心にした項構造から構文を理解しているのではないことがわかる。この
ことは日本語の読みの場合は語と助詞の関係から文構造を構築しているのであって、英
語の読解のプロセスのように項構造と意味を同時に把握しながら読み進んでいるのでは
ないといえる。
4.2デイスカッション:
英語のように項構造が文頭から推測できないとすれば、それにかわるものは何なのか、
という疑問が残る。日本語の分析は述語、特に動詞の意味からの分析が英語の項構造理
論からの影響で主流となってきたといえる。寺村(1984), 仁田(1987,1993), 村木(2000)
など動詞の意味が助詞の使用を規定しているとした。この 80 年代から主流となってき
た分析方法は文生成と読解のプロセスが区別されないまま、英語からの項構造理論が応
用されてきたことによる。しかし、日本語の読みにおいては、述語の影響というよりは
名詞と助詞そして連接した名詞と助詞との関係から予測と確認をしながら読み進めてい
る可能性がある。
5. 結果2.助詞における Fixation Point
仮に述語に至るまでの助詞と実質語が理解過程の基本としていくのであれば、
fixation point(FP) は助詞または実質語におかれる可能性がある。はたして、助詞にお
かれるであろうか。
結果では 69%の助詞に fixation point がおかれている。この結果は、Osaka (1987)の指
摘した、漢字語彙をジャンプしながら文が読まれているという報告とも異なっている。
表1 日本語学習者の助詞のFP.
Total
fixated
particles out
of 121
particles
L2 A
L2 B
L2 C
L2D
L2E
L2 Total
76
97
76
71
99
419
62.8%
80.2%
62.9 %
58.7%
81.8%
605
69.2%
Total particles in L2 (121x5 participants=605)
120
表1はFPのおかれた結果を示している。その結果からみると、高い率で助詞にFPが
置かれている。このことは、読みにおいて助詞と名詞(名詞句)が重要な要素であって、
読みにおいては助詞は単なる付随要素ではないことを示している。この結果からすると、
かなり高い率で凝視点が置かれていることがわかる。各助詞へのFPは後述する。
6.1 ミスキュー・アナリシスからの結果
通常,何かを読んでいると、助詞の部分で、区切ったり、引き伸ばしていることが経
験的にわかる。また、音読をすると、助詞にミスキューが起こるのではないかという予
測もできる。本稿では音読の際にはミスキューが起こるのではないかと、予測をたてて
調査を行った。
6.2. ミスキュー結果
実際には24、のミスキューが起こったにすぎない。また経験的にミスキューが起こ
るのではないかという予測と反対の結果がでるのは何が原因なのか。また FP 眼球の
凝視点が高い率で出現し、助詞のミスキューが予想外に起こらないということは、何を
意味しているのだろうか。はじめにミスキューのタイプを示しながら、考察していく。
6.3.ミスキューのタイプ
ミスキューの出現タイプを示すと表2のような結果となる。上段左側から読み手、物
語の文の番号、ミスキューの出現、ミスキューの種類、FPが起こったかどうかを表に
したものである。日本語学習者をL2とし学習者の名前をA,B,C,D,Eとして表
にした。
表2ミスキュータイプと凝視点(FP)の関係
読み手 テキスト中の文 ミスキュー ミスキュー・タ
イプ FP(凝視点) L2A (8) /no/ Æ /o/ 置き換え Yes (14) /no/ ‐‐.> /na/ 置き換え・文法
カテゴリー Yes L2 B (5) /hazu/‐> /wa//zu/ 区切れ (13) /o/‐> /no/= 置き換え No (14) /ni/‐> no= 置き換え Yes (20) /hakaru/ ‐> 区切れ Yes /wa dono/ 区切れ Yes ‐> /hodo/ /no/ 文字からのミス
キュー Yes /wa/ / karu/ L2 C (3) 文法カテゴリー (14) /kara/ ‐>/mono/ 置き換え Yes 文法カテゴリー (24) /hitotsu//hitotsu/
121
挿入 Yes Æ/hitotsu// hitotsu// o/ L2 D (1) /no/ Æ $a= 置き換え Yes (1) /ga/ Æ φ 省略 Yes (8) /made‐Æφ 省略 Yes (12) /no/Æ φ 省略 Yes (14) /ga/Æ φ 省略 Yes (21) /o‐/ >/ni / 置き換え Yes (18) /de/ Æ φ 省略 2 No / wa/Æ φ 省略 (21) /ni/ ‐> /no/ 置き換え Yes (26) /o/ ‐‐> φ 省略 Yes (28) /no/ ‐‐> φ 省略 Yes L2 E (1) /e/ Æ /he/ 置き換え Yes 文字・区切れ L2 E (4) /hazu/‐> /wa//zu/ 区切れ No 文法カテゴリー (5) /hakari/‐> /wa//kari/ 区切れ Yes 文法カテゴリー (20) /no/ ‐> /ni/ 置き換え Yes Total number 24 Miscues 置き換え 10:
41,7%
21 fixated 87.5 % 省略 8
33.3%
区切れ 5
20.8%
挿入 1
4.2% 置き換え 90% was fixated 省略 87.5% 区切れ 80% 挿入 100% 日本語学習者のミスキュー出現数は 24 で置き換え、10 (41.7%)、省略 8(33.3%)
区切れ 5(20.8%)挿入 1(4,2%)という結果が出た。ミスキュー研究では前述したよ
うにセグメンテーションのような分類はないが、結果をみるとかなりの数で現れている
ので、日本語の場合この分類を設けることにした。またいくつかの要素が重なっている
場合には表に記入したが、最終には代表的な要素を基本にした。
6.3.1. 置き換え:
122
助詞がほかの助詞に入れ換えられているので、名詞と助詞の関係がわかっていないか、
構造理解がされていないことによるものとみられる。読み手は名詞と助詞の連接を手が
かりに文構造を理解しようとしているはずなので、名詞の意味によって、文構造を組み
立てようとする表れがみえる。つまり、語彙の意味理解と文構造への予測から助詞を使
用し、読み進めていることがうかがえる。
6.3.2. 省略:
助詞の省略は読まなくても意味が通ずる、もしくは、読者の使用する口頭表現が優先
されて助詞を省いた可能性がある。この場合、読まなくても意味がわかり句全体を把握
して読んでいる場合と語彙の一部に焦点を当ててはいるものの助詞を読まなかった場合
とが考えられる。L2D例は語彙がわからなかった場合助詞を省く傾向がみられ、語彙
と助詞との関係から、読めなくては助詞の機能がわかりようがないということを無意識
のうちに持っている傾向を示す。つまりこの結果は助詞のみではなく意味を成す語の影
響から助詞を読み取ろうとしていることにも通じる。
6.3.3. 挿入
表の例では「を」を挿入し、前の語彙との関係から助詞の「を」入れることで意味が
通るようにしている表れと見ることができる。
6.3.4. 区切れ
このタイプのミスキューは英語では語彙が分離されて記されているので、あまり考慮
にいれられていない。日本語の場合、通常の文は分かち書きされて書かれていないので、
この区切れのミスキューがかなりの要素を占めている。そのため、これまで考慮に入れ
られていなかった区切れ(segmentation または word boundary のミスキュー)のミスキ
ューを設けた。この区切れのミスキューは助詞を語と判断、助詞を前接する語の一部ま
たは後接語の一部として取り込まれていることがわかる。つまり、読者の理解の仕方が
読みの区切れによって意味理解をしていると予測できる。実際には新たな語彙を作りあ
げて読んでいるので、理解していない可能性がある。この区切れは読みの際、重要な意
味を含んでいることを示してくれる(後述)。分かち書きにされた文を念頭において読
解のプロセスの研究を行った場合この区切れの現象が見落とされてしまう可能性がある。
本稿の結果では日本語の読みにおいてはこの区切れを判断することが重要なプロセスに
なることを示すことができる。
7. FPとミスキュータイプの関係
表2の結果からFPとミスキュータイプの関係をみると、凝視点が置かれる場所は置
き換えのミスキューには90%、省略には87.5%、区切れには80%挿入には10
0%置かれている。助詞のミスキューには89.4%もの凝視点がおかれている。これ
は助詞のミスキューが単なる読み違えや見落としではなく、かなり深い何らかの関係を
意味している。その例を次に説明する。
8. ミスキューの原因とプロセス
123
ミスキュー、FPが現れる原因の例をここではあげて単なる読み違えや見落としでは
ないことを説明する。最下位置の文は実際に書かれたのテキストで読み手がそれを読む
と期待さている文である(Expected Response)。実際に読まれた音声的な現われを、
Observed Response(OR)としてミスキューが記入される。ミスキューの部分を で示した。
この例は読み手がどのような理解の過程をしながら読みすすめているか説明できる。「目方」が
読めないので「何とか 」という置き換えのミスキューがおこり、次の助詞「の」にミスキューが起こ
っている。この助詞「を」のミスキューは「目方」との関係だけから起こるミスキューではなく、実は
「の」の後の 「はかりかた」のセグメンテーションのミスキューから意味と統語関係を調節しなが
ら読み進めているために起こったものとみられる。複合語の前半の「はかり」を単純動詞として扱
おうとしたことによる。そのため、動詞の前の「の」を「を」に置き換えて意味の通るよう
に文を作りあげている。前の「目方」は名詞のカテゴリーとして扱い、動詞として扱っ
た「はかり」の目的語として助詞「を」を要求するものとしてこのミスキューがおこっ
たことがわかる。この実例から、助詞は前接する名詞との関係のみならず、後接する語、
(この場合は動詞)の意味要素を関連させて意味の通るように助詞を理解している。
図 1. ミスキュー原因とプロセス
NP
Particle
Sentence 1
Miscue 3
NP3
NP2
Particle
Miscue 4
NP1
Noun
Particle
の
象
象
Verb
の
Miscue1. N
なんとか
目方
の
Boundary Miscue2
を
はかり
はかり
124
かた
かた
を (ER)
を
(OR)
この図から助詞のミスキューは見落としや読み違いではなく、読み手が意味の通るよ
うな自分のテキストを記載されたテキストと平行的に作り上げている際に起こっている
ことがわかる。
更にこのような見方ができるかどうか、眼球移動の FP(Fixation Points)の動きをみ
た。図1のミスキューにはどのようなFPの動きがあるのか。わかるように図2を示し
た。
文の一部を最上段から二番目に記し、最上段にはミスキューを記した。ミスキューの
部分には
を記した。
FP の動きは 153 から 161 まで示している。この番号は物語全体に起こったFPの順
番の番号のことである。何度かFP が同じ語で起こっているので見やすくするため I,
II, III, IV,V, V I とグループ分けした。
図2.ミスキューとFPの関係
なんとか
(8)象
の
を=
目方
の
I
…………...OR
計り方を
……... ER
II
= 153
155
PB
1.333
0867
(III) IV
154
VI
0.117
160
161
IV
156
0.167
157
V
158
159
1.13
125
(Parafoveal view)
FPの動きを I, II, III, IV,V, V I で示した。ただし、III は実際にはFPは置かれてい
ない。つまり、眼球移動の研究 Parafoveal area の一部として語を認知した動きとして
みることができる Parafoveal view はFPの周辺で漠然としたっ資格情報を得ることが
できるとしている(Infhoff & Rayner 1986; Rayner & Balota 1989)。 FP は実際に置かれた
場所を示し、その周辺の情報は Parafoveal area から察知しているとみることができる。
この例は明らかに Parafoveal view からの情報を察知しながら文構造を予測し, 意味
の通るように文を構築しながら読み進んでいることの例ともいえる。
III の動詞の意味要素を察知、IV にFPを移動させながら、助詞を確認し、その上で、
Vの実質語のミスキューにFPが置かれ、助詞「の」を「を」に置き換えたミスキュー
にFPが置かれている。
「の」を「を」に置き換えたものは後接する動詞的意味の一部の意味から読者は意味の
通るように他動詞の取る「を」を使用した。これは自らのメンタルなテキストをつくり
あげていることを示している。また、助詞から助詞へFPが移っていることは読み手は
助詞を探しFPをおきながら、文を読んでいる可能性を示している。その際、実質語は
parafoveal view で意味を理解しているのではないかとみられる。この例から、助詞
を探しているのであれば、助詞にミスキューが起こりにくいという説明が成り立つ。
9. まとめ
(1)どうしてミスキューがおこらないのか。:複雑にもかかわらずミスキューが思っ
た以上におきないのは、読み手が助詞を探し、語彙の区切りをさがしながら読むため、
助詞のミスキューが起こりにくいのではないかということができる。区切りのプロセス
が実は助詞と名詞の関係を示し、関係を予測するための手助けになっているのではない
かといえる。つまり、日本語の読みでは項構造から統語的処理と、それに名詞がスロッ
トされながら、読まれているのではなく、名詞と助詞の関係から、述語の意味をもとに
した項構造とは異なった理解の仕方がなされているといえる。
(2)ミスキューの種類から何がいえるのか。:単なる助詞の読み違えや、見落としで
はなく、読みの際の読み手が自分のメンタルなテキストを構築し意味の通るようにして
いる。前接または後接する語との関係を常に利用しながら、意味と構造を推測するのに
助詞を利用している。
また、語彙の区切りのプロセスは実は前接、後接する語との関係を理解する過程で分
かち書きされるとそれができにくくなるのではないか。
(3)Eye Movement は何をあらわしているのか。:文字、語彙を認知し統語的な予測を
たて、自らのテキスト構築を、予測と確認をしながら読んでいることをしめしてくれる。
これは全ての文字、語彙が認知されて、そのままコピーされながら理解しているのでは
ないということを説明してくれる。また、助詞のミスキューは単なる見落としやいい違
えではなく、テキスト構築に使用されていることをしめしてくれる。
10.今後の課題と読解指導への応用
126
読解指導において、推測させながら読むということはいわれるものの、予測可能な文
脈内容に関したものが多い。文構造からの推測、(Predictable sentence)文と語彙から
の推測(predictable word)、あまり、区別はされていないように思われる。特に区切れ
に対する推測と確認など初級期では分かちがきで書かれているため、かえって練習がさ
れにくくなっている。またふりがな等がかえって読みの妨げになっている可能性がたか
い。助詞と名詞の関係を推測し文のどの意味関係を担うかというよいうな練習が必要で
はないかと思われる。
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参考資料
I.
予測可能な文と確認 (Predictable sentence and confirmation)
(1)統語関係から述語を予測するもの。語彙の連結における推測可能なものを提示して
いく。
例 a. 学生は九時に学校へ(
b. 図書館で本を三冊(
)。
)。
c. 図書館で本をノートにとりながら三冊(
d. 参考にするため図書館で本を三さつ(
128
)。
)。
II. 選択と確認 selection & confermation
(2) 名詞と助詞の関係:助詞を入れるもの, 名詞を入れるもの。
a.きのうともだち(
b.きのう(
)レストラン(
)といっしょに(
129
)ばんごはん(
)で(
)食べました。
)を食べました。