June 25, 2015 Vol. 10 グローバル・マーケット・ストラテジー・チーム シニアストラテジスト 岸義明 フィリピン ~経済の安定性、若い労働力、立地の良さが強み 個 人消費がけん引役となって、高成長が継続 実質GDP(前年比)と支出項目別寄与度 フィリピンでは、過去、政治的な混乱や治安上の問題、さら (%) 14 その他 投資 実質GDP に貧困層による出稼ぎ労働者など、負のイメージが先行し ていました。しかし、2010年に就任したアキノ大統領が汚職 撲滅や財政改善、投資環境整備など、様々な問題に取り 組むなか、若年層中心の豊富な労働力(総人口は約1億 純輸出 消費 7 人)、賃金水準の低さ、英語が公用語などの観点から、近 年、労働・消費市場の有望国として注目されています。 実質GDP(国内総生産)成長率をみると、経済発展により 所得水準が上昇するなか、GDPの約7割を占める個人消 費がけん引役となっています。さらに、近年、投資や純輸出 も追い風となって、アジアのなかでも有数の高成長(6%前 後)が継続し、経済の安定性が高まっています。 フ 0 -7 07/3 09/3 11/3 13/3 (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 15/3 (年/四半期) ァンダメンタルズは健全 経常収支と財政収支(対名目GDP) マルコス大統領の独裁体制(1965~86年)以降も、政治ス (十億米ドル) 10 キャンダルやクーデター未遂事件が発生するなど、長らく不 安定な政治情勢が続きました。このため、海外からの直接 財貨 第1次所得 経常収支 サービス (%) 第2次所得 4 財政収支(右軸) 投資があまり流入せず、工業化が大きく遅れ、輸入に依存 していることなどから、慢性的に貿易赤字となっています。 5 2 しかし、過去、米国の植民地で英語が堪能、政府も海外就 労を支援してきたことなどから、OFW(フィリピン人海外就労 0 0 -5 -2 者)が1,000万人強(国民の約1割)存在し、OFWによる海 外からの送金額によって経常黒字を維持しています。 なお、アロヨ前政権(2001~2010年)が歳出削減や税制改 革などに取り組み、アキノ政権も財政健全化路線を継承し ていることなどから、財政収支も改善傾向にあります。 -10 07/3 09/3 11/3 (出所)CEICのデータを基に三菱UFJ投信作成 13/3 -4 15/3 (年/四半期) B PO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング) などサービス業が成長のけん引役 先進国を中心にコスト削減の一環などから業務のアウトソー シング化が進展するなか、フィリピンでは、ソフトウェア開発や コールセンター、バックオフィス業務などIT・BPOが急速に発 展しています。この背景には、聞き取りやすい米国英語を話 すことや、人件費を含めた総コストが安いことなどがあり、 コールセンター分野では世界トップシェアを有するなど、世 界的なプレゼンスが上昇しています。 更に、IT・BPOに関連した人材育成や語学研修なども発展 し、直接・間接雇用者数ともに増加するなど、サービス業は GDPの6割弱を占め、主要産業となっています。 約 IT・BPO市場規模と直接・間接雇用者数 (億米ドル) 270 (%) 9.0 市場規模 225 7.5 名目GDP構成比(右軸) 180 6.0 135 4.5 90 3.0 45 1.5 0 0.0 2006⇒ 2009 2010 2011 2012⇒ 2016 (注)2012年は推定値、2016年は予測値 (出所)BPAP(フィリピン・ビジネス・プロセッシング協会)の資料を基に三菱UFJ投信作成 (年) 1,000万人のOFW送金が経済を下支え OFWと送金額(政府機関確認ベース) OFWによる送金額は名目GDPの8%強に相当し、個人消 (億米ドル) 300 その他 欧州 海外就労者(右軸) (万人) 1,200 アジア 北中南米 費を始め国内経済成長の原動力となっています。なお、近 年、増加傾向にあったOFWが頭打ちとなるなかでも、送金 250 額の拡大(≒1人当たり送金額の増加)が継続しています。 200 800 150 600 100 400 50 200 これは、国内経済が好調で求人が増加していることに加え、 海外で景気の影響を受けやすい単純労働から、医療やエ ンジニアなど専門性(≒賃金水準)の高い分野へ移行して いることなどが考えられます。今後も過度に世界景気の影 響を受けることなく、専門性の高いOFWがけん引役となっ て、送金額の拡大が見込まれます。 雇 0 0 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 (注)フィリピン人の海外就労者は2013年末まで、海外送金は2014年まで (出所)Bloomberg、CEICのデータを基に三菱UFJ投信作成 用環境や貧困問題や汚職など課題が散見 若年層を中心に豊富な労働力を有するものの、競争力を 有する製造業が少なく(産業のすそ野が狭い)、製造業の 雇用吸収力が乏しいことなどから、雇用環境や貧困問題の 貧困率(1日2米ドル以下で暮らす人の構成比) 不完全就業者率 失業率 40 30 い、大きな被害を受けやすいことも課題となっています。 20 また、2014年の世界腐敗認識指数(公的分野での腐敗度 10 メージアップにはもう暫く時間を要する見通しです。 (年) 不完全就業者率・失業率と貧困率 (%) 50 改善は大きく進展していません。さらに、首都マニラ以外の 地方では社会インフラが脆弱で、台風などの自然災害に伴 を指数化、上位が健全)で174ヵ国・地域中85位、2012年 の世界殺人発生率で218ヵ国・地域中70位にとどまり、イ 1,000 0 03/7 06/1 09/1 12/1 15/1 (注)不完全就業者率は、就業しているが、労働条件が劣っていたり、就業が不安定であるなど、 半失業状態の就業者構成比。貧困率は3年、不完全就業者率・失業率は3ヵ月ベース。 (出所)CEIC、World bankのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年/月) 輸 (出張トピックス①) 出が緩やかに拡大 労働人口が拡大基調(≒労働者の確保が容易)、人件費が相対的に低位な水準、さらに政府による優遇税制措 置があることなどから、近年、電気機器や自動車部品など日系企業の進出先として注目が高まっています。 日系の中小企業でも工業団地進出後に安心したきめ細かいサービスが受けられる工業団地も存在していることな どから、日系企業の進出は増加基調でタイやインドネシアに匹敵しつつあります。足下、電気機器産業の輸出拠点 としての存在感が高まりつつあるなか、今後、輸出産業のすそ野が広がっていくと考えています。 ファーストフィリピン工業団地 主要ASEAN諸国における日系企業数 (社) 1,800 フィリピン インドネシア タイ 1,500 1,200 12 900 9 600 6 300 3 0 10/10 観 11/10 12/10 13/10 (出所)海外在留邦人数調査統計を基に三菱UFJ投信作成 (出所)筆者撮影(フィリピン出張:2015年6月7~10日) 主要品目別輸出額 (十億米ドル) 18 その他製造品 電気機器 15 1次産品他 14/10 (年/月) 0 06/3 09/3 12/3 (出所)CEICのデータを基に三菱UFJ投信作成 15/3 (年/四半期) (出張トピックス②) 光業も本格的に始動 セブ島やボラカイ島など世界的に有名なリゾート地や6ヵ所の世界遺産に加えて、近年、カジノ、ショッピング、語学 (英語)研修など、サービス産業を強化しており、近隣のアジア諸国を中心に訪問者数が増加しています。 特に、アジアでカジノ市場が拡大しているなか、マニラでは官民一体となってカジノを始めとするエンターテイメント やホテルなど総合リゾート施設開発が進展するなか、2014年12月に高級ホテル・レストランなどを擁する「City of Dreams Manila」が開業しました。観光地としての魅力が高まっていることから、さらなる発展が期待されます。 フィリピンへの主要地域別訪問者数 (万人) 50 40 「City of Dreams Manila」と併設する子供向けテーマパーク「Dream Play」 その他 米州地域 アジア地域 30 20 10 0 00/3 05/3 (出所)CEICのデータを基に三菱UFJ投信作成 10/3 15/3 (年/月) (出所)筆者撮影(フィリピン出張:2015年6月7~10日) (出所)筆者撮影(フィリピン出張:2015年6月7~10日) F (出張トピックス③) DI(海外直接投資)も拡大基調 マニラ空港へのアクセス向上を企図するハイウェイ建設など、民間主導のインフラ開発が多数計画されるととも に、日本政府もJICA(国際協力機構)を通じて交通インフラや災害などへの防災対策などを支援しており、引き続 き社会インフラの整備・拡充が緩やかに進展していくとみています。 労働・消費市場として高い成長が見込まれるなか、インフラ整備の進展に加え、東アジアや東南アジアの中間に 位置する地理的な重要性という要素も追い風となって、今後も日本や米国を中心にFDIの拡大が見込まれます。 マニラ市内のハイウェイ建設現場 円借款の業種別構成比 主要国別累積FDI(承認ベース) (1971~2012年の累計ベース:約2.3兆円) 鉱工業, 6% その他, 7% 運輸, 39% 社会的 サービス, 8% (兆米ドル) 2.5 その他 オランダ 米国 日本 2.0 1.5 灌漑・治 水・干拓, 10% 1.0 0.5 商品借款 等, 18% 電力・ ガス, 12% (出所)筆者撮影(フィリピン出張:2015年6月7~10日) 個 0.0 1999 2004 2009 (出所)CEICのデータを基に三菱UFJ投信作成 (出所)JICAフィリピン事務所の資料を基に三菱UFJ投信作成 (出張トピックス④) 人消費は活況 OFWによる海外送金の拡大も追い風となって、2014年の国内自動車販売累計台数は約23万台と、インドネシア の約120万台、タイの約88万台と比較して低位なものの、前年比3割増と急速に拡大しています。さらに、住宅建 設市場も拡大基調で推移しています。 経済発展にともない所得水準が上昇するなか、富裕・上位中間層がけん引役となって自動車や住宅など耐久消 費財が拡大しており、今後、ライフスタイルの変化も追い風となって、個人消費のすそ野の広がりが期待できます。 乗用車・商用車販売台数(月次) (万台) 2.4 2.0 主要地域別住宅建設金額(四半期) マニラ市内の一般デパート (百万フィリピンペソ) 50 その他 メトロマニラ 40 商用車 乗用車 1.6 30 1.2 20 0.8 10 0.4 0.0 00/5 05/5 10/5 (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 15/5 (年/月) 0 00/3 05/3 10/3 (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 15/3 (年/月) (出所)筆者撮影(フィリピン出張:2015年6月7~10日) 2014 (年) 為 替:良好なファンダメンタルズが下支えと なって、底堅く推移 フィリピンペソ(対米ドル)は、リーマンショック時に大きく下落 フィリピンペソ(対米ドル)と外貨準備高 (フィリピンペソ・逆目盛) 38 (十億米ドル) 90 したものの、堅調な内需を背景に経済が早期に持ち直した ことや、財政改善の進展などが追い風となって、再び上昇 43 70 基調に転じました。しかし、その後、米国での量的緩和縮小 観測の高まり(2013年5月頃)や中国との領土問題などが 48 50 重石となって、足下、横ばいで推移しています。 フィリピンペソ高 中国との関係悪化が懸念材料として残存するものの、良好 なファンダメンタルズを背景に、今後も高い経済成長が継 続していくことなどから、フィリピンペソは底堅く推移していくと 考えています。 債 53 30 58 05/6/24 対米ドル 外貨準備高(右軸) 10 15/6/24 10/6/24 (注)株価は日次、外貨準備高は月次(2015年5月まで)ベース (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年/月/日) 券利回り:投資適格国への引上げ、インフ レ率も落ち着いていることから、安定推移 10年国債利回りとCPI(消費者物価指数・前年比) フィリピンの10年国債利回りは、リーマンショック時に大きく上 13 昇するものの、その後のファンダメンタルズの改善に加え て、2011~12年に主要格付機関が相次ぎ格付けを引上げ 11 たことなども追い風となって、低下基調に転じました。近年、 米国で金融正常化に向けた動きが顕在化し、その影響を 受けるも、引き続き4%前後の安定推移が見込まれます。 また、インフレ率(消費者物価指数・前年比)については、O FW海外送金やFDIなど海外資金の流入などを背景に、景 気過熱感を有するものの、中央銀行による適切な金融政 策が奏功し、今後も落ち着いた展開が想定されます。 株 (%) 9 7 5 3 1 05/6/24 のの、その後、内需主導で景気回復・拡大が明確化するな か、名目GDPの増加(≒経済成長の継続)に伴い、上昇ト レンドが継続しています。 10/6/24 15/6/24 (注)債券利回りは日次、CPIは月次(2015年5月まで)ベース (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 価:好調な内需を背景に上昇基調が継続 フィリピン総合指数は、リーマンショック時に大きく下落したも 10年国債利回り CPI(前年比) (年/月/日) フィリピン総合指数と名目GDP (ポイント) 8,500 7,000 (十億フィリピンペソ) 14,000 名目GDP(右軸) フィリピン総合指数 12,000 5,500 10,000 4,000 8,000 2,500 6,000 同国の株式市場は、銀行・不動産が約4割を占め、次に小 売や建設など複合型産業が約3割、通信が約1割と、サー ビス業の構成比が高いという特徴を有しています。引き続 き、内需主導で経済成長の恩恵を受けやすいことに加え て、FDIの増大による経済の活性化などが追い風となって、 株価は上昇基調で推移していくと考えています。 1,000 05/6/24 10/6/24 (注)株価は日次、名目GDPは年次ベース、2014-2015年はIMF推定・予想値 (出所)Bloomberg、IMFのデータを基に三菱UFJ投信作成 4,000 15/6/24 (年/月/日) 当資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定は お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。当資料に示されたコメント等は、当資料作成日現在の見解であり、事前の 連絡なしに変更されることがあります。投資信託は株式、公社債等値動きのある証券に投資しますので、基準価額は変動しま す。したがって、金融機関の預金とは異なり元本が保証されているものではありません。投資信託は、預金保険の対象とはなり ません。金融商品取引業者以外でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象ではありません。本資料は当社が 信頼できると判断したデータにより作成しましたが、その正確性、完全性等について保証・約束するものではありません。
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