第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 第1節 税効果会計の 税効果会計の概要 1.税額計算の仕組み (C) 税法上は,益金から損金を差し引き所得金額を算定し,その所得金額に対して一定の税率を乗じて,税額を 算定している。 税法上の益金・損金と会計上の収益・費用は,ほとんど一致しているが,一部分において差異が生じている。 このため,税法上で算定される課税所得と会計上で算定される利益の間にも差異が生じることになる。 税法上 益金-損金=課税所得 (課税の公平性) 会計上 収益-費用=利益 (適正な期間損益の算定) ここで,税法上は,個別に益金と損金を算定し,それらの差額から課税所得を計算するのではなく,会計上 の利益を基礎として,税法上と会計上の差異について一定の調整を行うことによって所得金額を計算している のである。この調整のことを「申告調整」という。 ここで,貸倒引当金を例に,課税所得の算定の過程を見ていく。×1 年に 1,000 千円の売上債権に対し貸倒 引当金を 100 千円設定し,×2 年に実際に貸し倒れたとする。この場合,会計上と税法上では費用もしくは損 金として認識される時期が異なることになる。 税法上 実際に貸し倒れた時に損金として処理→×2 年度に損金 100 千円として処理 会計上 貸倒引当金を設定した時に費用として処理→×1 年度に費用 100 千円として処理 この場合,会計上の損益計算書と税務上の課税所得の算定を見てみると以下のとおりになる(収益・益金は各 年度 1,000 千円とする)。 58 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) ×1 年度損益計算書(会計) 税法上でやりたいこと 収益 1,000 益金 1,000 費用 100 損金 0 税引前利益 900 課税所得 1,000 課税所得の実際の計算 税引前利益 900 調整 100 課税所得 税法上は,会計上認識した 100 千円の費用 実際は,益金と損金を別個に算定す は損金としては認識されないため,課税所得 るのではなく,会計上の利益を調整す は会計上の利益より 100 千円多くなる。 ることにより,課税所得を算定する。 1,000 このように算定された課税所得に税率を乗じることにより,企業が支払うべき税金の額を算定するのである。 例えば,税率 40%とすると,税金の額は課税所得 1,000 千円×40%=400 千円と算定される。 補 足 法人税等の範囲 (C) 法人税等には,以下のものが含まれる。なお,外国法人税等も法人税等に含まれる。 ①法人税,②都道府県民税,市町村民税,③利益に関連する金額を課税標準とする事業税 (収入金額その他利益以外のものを課税標準とする事業税については,販売費及び一般管理費の区分において, 「租税公課」等 の科目で表示することになる) 2.税効果会計の必要性と目的 (B) 税効果会計の必要性を考えるにあたって,まず税効果会計を適用しない場合の問題点を考察してみる。この 問題点は,大きく以下の2点が挙げられる。 ① 損益計算書の観点 課税所得を基準とした法人税等の額が費用として計上され,法人税等の額が税引前当期純利益と期間的, 合理的に対応しない。 ② 貸借対照表の観点 将来の法人税等の支払額に対する影響が表示されない。 59 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) (1) 損益計算書の観点からの問題点 損益計算書の観点からの問題点を前述した具体例を使って考えてみたい。 各年度の会計上の税引前利益と税法上の課税所得をまとめると以下のようになる。 ×1 年度損益計算書(会計) ×2 年度損益計算書(会計) 収益 1,000 収益 1,000 費用 100 費用 0 税引前利益 900 税引前利益 ×1 年の課税所得(税法) 1,000 ×2 年の課税所得(税法) 益金 1,000 益金 1,000 損金 0 損金 100 課税所得 900 課税所得 1,000 ここで,税効果会計を適用しない場合の損益計算書は以下のとおりとなる。なお,税率は 40%とする。 ×1 年度損益計算書(会計) ×2 年度損益計算書(会計) 税引前利益 900 税引前利益 1,000 法人税等(課税所得 1,000×40%) 400 法人税等(課税所得 900×40%) 360 税引後利益 500 税引後利益 640 対応していない ×1 年度を見てみると,会計上 900 千円の利益に対して,税法上,課税所得に税率を乗じて算定された法人 税等(税金)が 400 千円計上されている。しかし,会計上はあくまで 900 千円しか利益が計上されていない以上, 法人税等は 900×40%=360 千円が計上されるべきである。 一方,×2 年度は会計上 1,000 千円の利益に対して,税法上,課税所得に税率を乗じて算定された法人税等(税 金)が 360 千円計上されている。しかし,会計上は 1,000 千円の利益が計上されている以上,法人税等は 1,000 ×40%=400 千円が計上されるべきである。 つまり,税効果会計を適用しない場合,会計上算定される税引前利益と法人税等が期間的,合理的に対応し ないという問題が生じてしまうのである。 60 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) (2) 貸借対照表の観点からの問題点 貸借対照表の観点からの問題点を前述した具体例を使って考えてみたい。 (1)にもあるように,税効果会計を適用しない場合の損益計算書は以下のとおりとなる。なお,税率は 40% とする。 ×1 年度損益計算書(会計) ×2 年度損益計算書(会計) 税引前利益 900 税引前利益 法人税等(課税所得 1,000×40%) 400 法人税等(課税所得 900×40%) 360 税引後利益 500 税引後利益 640 会計上,360 千円の税金を 会計上,400 千円の税金を支 支払えばいいところ,40 千円 払わなければならいところ,40 多く支払っている。 千円少なく済んでいる。 1,000 ×1 年において, 会計上の観点からは税引前利益 900 千円×40%=360 千円の法人税等を支払えばいいところ, 実際は 400 千円支払っていることから,40 千円多く支払っていることになる。 一方,×2 年においては,会計上の観点からは税引前利益 1,000 千円×40%=400 千円の法人税等を支払う必 要があるところ,360 千円しか支払わなくてよいことになる。 つまり,×1 年度においては,会計上の観点から,×1 年に 40 千円分将来に支払うべき法人税等を前払いし ていることになるが,税効果会計を適用しない場合には,この将来に支払うべき税金を前払いしていることが 貸借対照表上,明らかにされないのである。 (3) 税効果会計の適用による問題点の解消 上記の問題点を解消するためには,以下の結果になるように処理すればよいことになる。 会計上,法人税等が 40 千円過大となっているため,法人税等を 40 千円減額する。また,将来 ×1 年度 の法人税等を 40 千円前払いしている事実を示すために,当該金額を資産として計上する。 会計上,法人税等が 40 千円過少になっているため,法人税等を 40 千円増額する。また,将来 ×2 年度 の法人税等を前払いしている事実は解消したため,×1 年に資産計上された 40 千円を取崩す。 つまり,以下の仕訳を行うことになる。 <×1 年度> (借) 繰延税金資産(資産) 40 (貸) 法人税等調整額(法人税等の減額) 40 40 (貸) 繰延税金資産(資産の取崩し) 40 <×2 年度> (借) 法人税等調整額(法人税等の増額) 61 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 以上の仕訳を行った場合の損益計算書と貸借対照表を見てみると以下のようになる。 ×1 年度損益計算書(会計) 税引前利益 ×2 年度損益計算書(会計) 900 税引前利益 1,000 法人税等(課税所得 1,000×40%) -400 法人税等(課税所得 900×40%) -360 法人税等調整額 + 40 法人税等調整額 - 40 税引後利益 540 税引後利益 600 ×1 年度貸借対照表(会計) 繰延税金資産 40 ここで,損益計算書の観点からは,×1 年度に法人税等調整額 40 千円を法人税等の減額として処理すること により,税引前利益 900 千円に対して,実質的に法人税等 360 千円(400 千円-40 千円)を計上することができ るため,税引前利益と法人税等が期間的,合理的に対応することになる。 また,×2 年度に法人税等調整額 40 千円を法人税等の増額として処理することにより,税引前利益 1,000 千 円に対して,実質的に法人税等 400 千円(360 千円+40 千円)を計上することができるため,税引前利益と法人 税等が期間的,合理的に対応することになる。 一方,貸借対照表の観点からは,×1 年度末において,繰延税金資産が 40 千円資産の部に計上されることに なるため,×2 年度に支払うべき法人税等 40 千円を前払いしている事実を示すことができるのである。 (4) 税効果会計の目的 以上のように,税効果会計を適用しない場合には問題点が生じることになる。これを解消するために税効果 会計を適用する以上, 「税効果会計に係る会計基準」においては税効果会計の目的を以下のように定めている。 税効果会計は,企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合にお いて,法人税等の額を適切に期間配分することにより,法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理 的に対応させることを目的としている。 補 足 税効果会計の目的② (B) 「税効果会計に係る会計基準」においては損益計算の観点から税効果会計の目的が示されているが,資産・負債(貸借対照 表)の観点からもその目的を示すことは可能である。以下,参考にしてほしい。 会計上,過大な税金支出が求められた場合,将来における税金を減額することが可能となり,逆に過少な税金支出で済んだ 場合は,将来における税金が増額されることになる。このような事実を財務諸表に反映させるためには,将来の税金減額もし くは増額の影響を資産もしくは負債として計上する必要がある。税効果会計の目的はこのように,損益計算の観点からのみな らず,資産・負債の適切な認識・評価という観点から説明されることもある。 62 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 第2節 税効果会計の 税効果会計の対象となる 対象となる差異 となる差異 1.一時差異と期間差異 (B) 一時差異とは,貸借対照表及び連結貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資 産及び負債の金額との差額をいう。 対して,期間差異とは,損益計算書及び連結損益計算書に計上されている収益及び費用の金額と課税所得計 算上の益金及び損金の金額との差額のうち,損益の期間帰属(計上時期)の相違に基づく差額をいう。 この一時差異と期間差異は,基本的に会計上の収益・費用と課税所得計算上の益金・損金との計上時期の違 いによる差異を,貸借対照表の観点から見るか,損益計算書の観点から見るかの違いであるため,両者の範囲 はほぼ一致することになる。 設 例 一時差異と期間差異 今までの例と同様に,×1 年に 1,000 千円の売上債権に対し貸倒引当金を 100 千円設定(税法上,全額損金不算入)し,×2 年に実際に貸し倒れたとする。 ×1 年度会計上の資産額 ×1 年度課税所得計算上の資産額 売上債権 1,000 売上債権 1,000 貸倒引当金 △100 資産額 1,000 資産額 900 一時差異 会計上と課税所得計算上 の資産額は 100 ずれている。 ×1 年度会計上の費用 費用 ×1 年度課税所得計算上の損金 100 損金 0 期間差異 費用と損金は 100 ずれ ている。 このように貸借対照表と損益計算書は密接な関係にあるため,基本的には一時差異と期間差異は一致することになる。 63 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 2.一時差異と期間差異の範囲の違い (C) 上記にて説明したように,一時差異と期間差異は基本的に一致する。しかし例えば,その他有価証券を時価 評価した場合には,一時差異と期間差異は一致しないことになる。 その他有価証券評価差額金は,会計上,時価評価により資産の額が変動するが,評価差額は収益・費用に含 まれず純資産の部に計上される。一方,税務上,その他有価証券は原価評価であるため,益金・損金は勿論の こと資産の額も変動しない。 このため,一時差異は発生するが,期間差異は発生しないことが生じるのである。 上記の点を参考にすると,一時差異は以下の場合に生じる。 ① 収益又は費用の帰属年度が相違する場合 (期間差異) ② 資産の評価替えにより生じた評価差額が直接純資産の部に計上され,かつ,課税所得の計算に含まれてい ない場合 このように一時差異は①の期間差異と②のような差異も含む概念である以上,一時差異の方が期間差異より も広い概念であるということができる。 設 例 一時差異と期間差異 ×1 年期首にその他有価証券を 1,000 千円を購入し,×1 年期末には当該有価証券の時価が 1,100 千円であるとする。当社 はこれ以外に取引を行っていないものとする。 ×1 年度会計上の資産額 投資有価証券 ×1 年度課税所得計算上の資産額 1,100 投資有価証券 1,000 一時差異 会計上,その他有価証券は時 価評価するが,税法上はしない ため,資産額が 100 ずれる。 ×1 年度会計上の収益・費用 ×1 年度課税所得計算上の益金・損金 収益・費用 益金・損金 0 0 × 期間差異 会計上,評価差額は純資産の 部に計上されるため,両者にず れはない。 このように, その他有価証券評価差額金が計上される場合には, 一時差異は生じるものの, 期間差異は生じないことになる。 64 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 3.現行制度上の取扱い (B) 「税効果会計に係る会計基準」においては,一時差異の概念が用いられている。つまり,個別貸借対照表及 び連結貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額に係 る税金の額を適切な会計期間に配分し,計上することになる。 補 足 永久差異 (C) 永久差異とは,税務上の交際費の損金算入限度超過額等,税引前当期純利益の計算において費用又は収益として認識される が,課税所得の計算上は永久に損金又は益金に算入されない項目をいう。具体的には,交際費の損金算入限度超過額,損金不 算入の罰科金,受取配当金の益金不算入額等が上げられる。 永久差異は,会計上の収益又は費用と課税所得計算上の益金・損金の範囲が異なることから生じるが,これにより,利益と 課税所得の金額に差異が生じることになる。 しかし,永久差異は将来,課税所得の計算上で加算又は減算させる効果をもたないため一時差異等には該当せず,税効果会 計の対象とはならないのである。 差異が解消する場合 (一時差異) ×1 年に 1,000 千円の売上債権に対し貸倒引当金を 100 千円設定(税法上,全額損金負算入)し,×2 年に実際に貸し倒れた とする。 ×1 年度損益計算書(会計) ×2 年度損益計算書(会計) 費用 費用 100 ×1 年の課税所得(税法) 損金 0 ×2 年の課税所得(税法) 0 損金 100 ×1 年度には,会計上は費用が 100 認識されるものの,税法上は損金は認識されない。しかし,×2 年度において,税法上 において会計上×1 年度に認識した分の 100 が損金として認識されるため, 最終的には両者の差異は解消される。 したがって, この差異については,税効果会計の対象となる。 差異が解消しない場合 (永久差異) ×1 年に交際費 200 千円を支出したが,税務上,全額損金算入限度を超過したとする。なお,×2 年には何ら取引は行われ ていない。 ×1 年度損益計算書(会計) ×2 年度損益計算書(会計) 費用 費用 200 ×1 年の課税所得(税法) 損金 0 0 損金に算入することはない。 ×2 年の課税所得(税法) 損金 税法上,永久に当該交際費が 0 ×1 年度には,会計上は費用が 200 認識されるものの,税法上は損金は認識されない。税法上,損金として認識されないの は×1 年度のみならず,永久に当該 200 が損金に算入することはないため,永久に当該差異は解消されないことになる。した がって,この差異(永久差異)については,税効果会計の対象とはならない。 65 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 4.一時差異の生じる原因と分類 (B) (1) 一時差異の生じる原因 個別財務諸表上の一時差異は,以下のような場合に生じる。 ① 収益又は費用の帰属年度が相違する場合 ② 資産の評価替えにより生じた評価差額が直接純資産の部に計上され,かつ,課税所得の計算に含まれて いない場合 前者は期間差異に該当するものであり,具体例として貸倒引当金等の引当金の損金算入限度超過額,減価償 却費の損金算入限度超過額,損金に算入されない棚卸資産等に係る評価損等が挙げられる。 一方,後者の具体例として,その他有価証券評価差額金等が挙げられる。 (2) 一時差異の分類 一時差異は,将来減算一時差異と将来加算一時差異に分類される。 将来減算一時差異 当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を減額する効果を持つもの 将来加算一時差異 当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を増額する効果を持つもの ① 将来減算一時差異 将来減算一時差異は当該差異が解消するときにその期の課税所得を減算させる効果をもつものをいうが, この具体例としては,貸倒引当金の損金算入限度超過額が挙げられる。 今,×1 年に 1,000 千円の売上債権に対し貸倒引当金を 100 千円設定(税法上,全額損金不算入)し,×2 年 に実際に貸し倒れたとする。なお,毎期の収益・益金は 1,000 千円とする。 ×1 年度損益計算書(会計) ×2 年度損益計算書(会計) 収益 1,000 収益 1,000 費用 100 費用 0 税引前利益 900 税引前利益 1,000 税法上,100 分の減算調整さ れるため,差異解消時に課税所 ×1 年の課税所得(税法) 税引前利益 調整 課税所得 1,000 0 1,000 ×2 年の課税所得(税法) 税引前利益 1,000 調整 -100 課税所得 得が当該 100 だけ減額される。 900 このように将来減算一時差異が生じる場合においては,差異の解消時点において,課税所得を減額させる ことになる。 次に,この将来減算一時差異が生じる場合の会計処理を考えてみる。 ×1 年度では, 「会計上の利益 900<課税所得 1,000」となっていることから,会計上の利益に対して法人 66 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 税等を過大に支払っていることになるため,法人税等を減額し,法人税等の前払いとして資産を計上する必 要がある。よって,差異発生時の仕訳は以下のようになる。 差異発生時 (借) 繰 延 税 金 資 産 ××× (貸) 法 人 税 等 調 整 額 ××× 一方,×2 年度では, 「会計上の利益 1,000>課税所得 900」となっていることから,会計上の利益に対し て法人税等を過少にしか支払っていないことになるため,法人税等を増額し,また×1 年に法人税の前払い した事実が解消されるため,資産を取崩す必要がある。よって,差異解消時の仕訳は以下のようになる。 差異解消時 (借) 法 人 税 等 調 整 額 ××× (貸) 繰 延 税 金 資 産 ××× ② 将来加算一時差異 将来加算一時差異は当該差異が解消するときにその期の課税所得を増額させる効果をもつものをいうが, この具体例としては,当期の決算において積立金を積み立てる方式による圧縮記帳が挙げられる。 今,×1 年期首に国庫補助金を 30,000 千円受け入れ,直ちに建物 50,000 千円(耐用年数 40 年,残存価額 10%,定額法)を購入した。なお,毎期の収益・益金は 50,000 千円とする。 * 会計上:取得資産を取得原価で計上し,圧縮額は圧縮積立金(任意積立金)として積み立てる。 税法上:圧縮額を損金算入し,帳簿価額は圧縮後の金額となる。 ×1 年度損益計算書(会計) 収益 費用 税引前利益 50,000 収益 1,125 費用 48,875 ×1 年の課税所得(税法) 税引前利益 48,875 調整 -30,000 調整 +675 課税所得 ×2 年度損益計算書(会計) 税引前利益 50,000 1,125 48,875 ×2 年の課税所得(税法) 税引前利益 調整 課税所得 48,875 +675 49,550 19,550 税法上,675 分の加算調整される ため,差異解消時に課税所得が当 会計上の減価償却費 1,125-税法上の減価償却費 450 該 675 だけ増額される。 このように将来加算一時差異が生じる場合においては,差異の解消時点において,課税所得を増額させる ことになる。 次に,この将来加算一時差異が生じる場合の会計処理を考えてみる。 ×1 年度では, 「会計上の利益 48,875>課税所得 19,550」となっていることから,会計上の利益に対して 法人税等を過少にしか支払っていないことになるため,法人税等を増額し,法人税等の未払いとして負債を 計上する必要がある。よって,差異発生時の仕訳は以下のようになる。 67 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) 差異発生時 (借) 法 人 税 等 調 整 額 ××× (貸) 繰 延 税 金 負 債 ××× 一方,×2 年度においては, 「会計上の利益 48,875<課税所得 49,550」となっていることから,会計上の 利益に対して法人税等を過大に支払っていることになるため,法人税等を減額し,また×1 年に法人税等の 未払いしている事実が解消されるため,負債を取崩す必要がある。よって,差異解消時の仕訳は以下のよう になる。 差異解消時 (借) 繰 延 税 金 負 債 ××× (貸) 法 人 税 等 調 整 額 ××× (3) 一時差異に準ずるもの 税務上の繰越欠損金は,その発生年度の翌期以降で繰越期限切れとなるまでの期間(以下「繰越期間」という) に課税所得が生じた場合には,課税所得を減額することができる。 ここで,このような繰越欠損金は一時差異ではないが,一時差異に準じて処理する。 今,A社の×1 年の税引前当期純損失(欠損金の額と一致している)は△8,000 千円であり,×1 年度末におい て, 「×2 年に 5,000 千円の税引前当期純利益が,×3 年に 3,000 千円の税引前当期純利益が見込める」と判断 した。なお,税率は 40%とし,諸資産 50,000 千円,諸負債 10,000 千円,資本金 30,000 千円,利益準備金 18,000 千円とする。 ×1 年度貸借対照表(会計) 諸資産 繰越利益剰余金 ×1 年度貸借対照表(税法) 50,000 諸負債 10,000 諸資産 8,000 資本金 30,000 繰越欠損金 利益準備金 18,000 × 50,000 諸負債 10,000 8,000 資本金 30,000 利益準備金 18,000 一時差異 会計上と税法上で,資産・負 債の額に差異はないので,一時 差異は存在しない。 確かに,厳密な意味で言うと,繰越欠損金は一時差異の定義に当てはまらないといえるが,課税所得が実質 上マイナスである場合,税務上7年間は当該マイナス分の金額を繰り越して課税所得がプラスとなった年度に 相殺することが認められている。 ここで,繰越欠損金は将来の課税所得を減額できるため,将来における課税所得の減額分に実効税率を乗じ た分だけ税額を減額する効果がある。つまり,将来支払う税金の額を減額するという意味で将来減算一時差異 と同様の性格を有すると考えられるため,繰越欠損金は一時差異に準じて処理するのである。 なお, 「税効果会計に係る会計基準」では,このような一時差異に準じるものと一時差異を総称して「一時差 異等」としている。 68 第15章 税効果会計に係る会計基準 (WEB講義で使用する範囲を抜粋) ×1 年 税引前当期純利益(純損失) △8,000 法人税等調整額 税引後当期純利益(純損失) ×3 年 5,000 3,000 △5,000 △3,000 △8,000 0 0 3,200 △2,000 △1,200 △4,800 3,000 1,800 繰越欠損金控除額 課税所得 ×2 年 将来支払う税金を減額できるた め,繰延税金資産を計上する。 ×1 年度末 (借) 繰 延 税 金 資 産 3,200 (貸) 法 人 税 等 調 整 額 3,200 ×2 年度末 (借) 法 人 税 等 調 整 額 2,000 (貸) 繰 延 税 金 資 産 2,000 ×3 年度末 (借) 法 人 税 等 調 整 額 1,200 (貸) 繰 延 税 金 資 産 1,200 税引前利益と法人税等の期間的,合理的な対応を図るため,法 人税等調整額を借方計上するとともに,繰延税金資産を取崩す。 補 足 繰越外国税額控除 (C) 税務上の繰越外国税額控除が発生した場合には,翌期以降の繰越可能な期間に発生する外国税額控除余裕額を限度として税 額を控除することが認められることから,繰越外国税額控除についても一時差異に準ずるものとされる。 補 足 重要性が乏しい場合の取扱い (C) 重要性が乏しい一時差異等については,繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しないことができる。 (4) 差異に関するまとめ 以上,各種の差異について説明してきたが,これらをまとめると以下のようになる。 69
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