#6222 ネット通販で成長する通信販売市場 目次 1. 市場の概況 1 2. 市場規模 2 3. インターネット通販の動向 8 1.市場の概況 (1)多様化する通信販売 通信販売は 「特定商取引法」 による規制を受ける小売業態で、 「新聞、雑誌、イ ンターネット (インターネット・オークションも含む) 等で広告し、郵便、電話等 の通信手段により申込を受ける販売 ( 「電話勧誘販売」 に該当するものを除く) 」 と 定義されるものである。 通信販売は、利用するメディアによって主に以下のような形態に分類すること ができる。 ■カタログ ■ダイレクトメール ■テレビ、ラジオのCMや番組 ■新聞、雑誌広告や折込チラシ ■インターネット、携帯電話ネットの通販サイト 従来はカタログ雑誌によるものが多く、主に女性向けの商品を扱うニッセン、 千趣会、セシール、ベルーナ、ムトウ、イマージュ・ネットなどのカタログがよ く知られている。三越や高島屋など大手百貨店のカタログ通販も以前から行われ ている。最近カタログによる販売額は減少傾向にあるが、未だ人気は根強いと言 える。 テレビ通販は、2000年のBS/CSデジタル放送の開始で専用チャンネル数が急 増、2006年度にはテレビ通販業界の売上高が3000億円を超えるなどここ数年間で 急成長している。2007年にはDVD「ビリーズ・ブートキャンプ」が大ヒット商品 となり、テレビ通販の認知拡大に大きな役割を果たした。 最近では複数のメディアを利用した展開を行う企業が増加している。特にイン ターネット通販の隆盛により、これまでカタログやテレビショッピングなどを主軸 として成長してきた企業も、オンラインショップを開設しているところが多い。 不況による消費低迷が長引き小売市場の低迷が続く中、通信販売 (通販) 市場は 著しい成長を見せている。2008年度の通販全体の全国売上高を8兆円強と推定 し、コンビニエンスストアや百貨店の規模を上回ったとする計算もある。中でも パソコンや携帯電話によるインターネット通販(ネット通販、BtoC EC:消費者 向け電子商取引) が7割以上を占めるなど大幅な成長を遂げており、通販市場全体 を牽引している。 1 (2) BtoC(消費者向け電子商取引)の拡大 通信販売は、従来のカタログ販売からインターネットが主体となり、中でも楽 天の運営する 「楽天市場」 やアマゾンジャパンの 「Amazon.co.jp」 、ヤフーの 「Yahoo! ショッピング」 などのECサイトの利用が圧倒的である。ネット通販は参入の障壁 が低いため多くの企業が参入しており、ECサイトやネットショップの数、取り扱 う商品の種類も大幅に増えた。ネットでしか買えない商品に限らず、これまでリ アル店舗で購入していた商品をネット通販で購入するなど、利用の機会は増加し ている。また、大手衣料品店や家電量販店は実店舗を持ちながらネット通販を行 うなど、通販専業以外にも拡大を見せている。不況による販売減少を補うため に、老舗や有名ブランドも、コストのかからないネット通販に力を注いでいる。 ネット通販の拡大の背景には、長引く不況で節約志向が高まる中、ネット通販 を利用する消費者が急増していることが挙げられる。ネット通販なら、実際の店 舗で買うよりも安い価格で、手軽に欲しいものを手に入れることができる。店に わざわざ出向く必要もなく、全国どこからでも注文することができ、自宅まで配 達してくれるという利便性も魅力だ。ネット上で価格の比較も簡単なので、少し でも安い商品を選ぶことができる。忙しくて店の営業時間内に買い物ができない 人も、自分の時間に合わせて買い物をすることができるし、時間の節約にもな る。こういった特性が消費者のニーズに合致していると言える。 2.市場規模 (1)売上高推移 経済産業省の 「商業販売統計」 によれば、小売業の市場規模は1996年をピークに 緩やかな減少傾向が続き、ここ数年は135兆円程度の横ばいで推移している。 146,000 144,000 ■小売業の市場規模推移 (単位:10億円) 143,833 142,000 140,000 140,930 139,743 138,000 136,000 134,000 135,109 132,000 130,000 135,250 135,055 135,674 133,279133,703 132,289 128,000 126,000 平成10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 (年度) 出所:経済産業省「商業販売統計」 2 主にカタログ通販やテレビ通販の主力企業が加盟している業界団体 (社) 日本通 信販売協会 (正会員企業数483社) のデータによれば、2007年度の通信販売業界全 体の売上高は3兆8800億円と推計されている。前年度の3兆6800億円に比べて5.4 %増となっており、過去最高額をマークした。 同協会の会員企業のみの2007年度の売上高は2兆7600億円で、前年度の2兆5700 億円より3.4%増となり、こちらも過去最高額となった。同協会によれば、上位 10社の売上高は約1兆1800億円で、会員社全体の売上高の42.8%を占める。ま た、前年度と比較した2007年度の伸び率を売上規模別に見たところ、年商10億円 未満の企業が9.1%と最も大きく、その他は10億∼40億円未満の企業が2.9%、40 億∼100億円未満の企業が5.4%、100億∼300億円未満の企業が5.7%、300億円以 上の企業が2.8%となった。 ■通信販売売上高の推移 (単位:億円) 45,000 40,000 協会会員企業 通販全体 36,800 33,600 35,000 30,000 25,000 38,800 21,800 22,700 23,900 24,900 26,300 27,900 30,400 20,000 15,000 19,200 19,600 20,300 20,800 21,400 21,900 22,700 24,900 26,700 27,600 10,000 5,000 0 平成10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 (年度) 出所:(社)日本通信販売協会 ■売上規模別に見た2007年度売上高の伸び率 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 9.0 10.0 9.1 2.9 5.4 40 億 ∼ 100億 円 未 満 5.7 1 00 億 ∼ 300億 円 未 満 300億 円 以 上 8.0 (%) 年 商 10億 円 未 満 10∼ 40億 円 未 満 7.0 2.8 出 所 :( 社 )日 本 通 信 販 売 協 会 3 (2)販売形態別に見た市場規模 2008年1∼2月に (社) 日本通信販売協会が全国の消費者を対象に行った 「全国通信 販売利用実態調査報告書」 によれば、通信販売の利用経験率は全体で89.9%とほぼ 9割が経験している。性別で見ると、女性が93.4%、男性が85.2%となっている。 「購入に利用した媒体」 で、最も多かったのが 「パソコンによるインターネット」 で47.1%と半数近くを占め、以下、 「国内カタログ」 が41.6%、 「テレビショッピン グ」が24.5%、「ダイレクトメール」が22.8%、「折り込みチラシ」が21.3%と続い た。2005年∼2007年にかけて媒体の利用の変化を見てみると、 「パソコンによる インターネット」 の利用の割合は着実に伸びているのに対して、他の媒体につい てはあまりはっきりした変化が見られなかった。 ■媒体別に見た利用率の推移 (%) 50 40 47.1 43.3 39.3 2005年(n=965) 2006年(n=981) 2007年(n=1005) 41.8 40.3 41.6 30 24.0 21.0 20 24.2 21.5 22.3 22.8 22.3 21.1 21.3 21.2 18.3 16.9 17.9 18.5 16.7 10 0 イパ ンソ タコ ーン ネに ッよ トる 国 内 カ タ ロ グ ダ イ レ ク ト メ ー ル テ レ ビ シ ョ ッ ピ ン グ 折 り こ み チ ラ シ 新 聞 広 告 雑 誌 広 告 出所:( 社 )日本通信販売協会 ①カタログ通販 カタログ通販企業は、多様な種類の商品カタログを扱う 「総合型」 のほか、衣料 や靴、化粧品、文具に特化した 「専門型」 に分けられる。前者は千趣会、ニッセン、 ベルーナ、セシール、ディノス、カタログハウスなど、後者はピーチジョン (女性 用下着) 、ディーエイチシー (化粧品) 、ドクターシーラボ (化粧品) 、オルビス (化 粧品) 、ヒラキ (靴) 、アスクル (文具) 、カウネット (文具) などが代表的である。 (社) 日本通信販売協会の調べでは、ネット以外の電話、FAXや郵便を使う通販 の売上高は、ここ数年1兆7000億円前後で推移していると言う。また、富士経済 4 の調査による2008年のカタログ通販の市場規模は1兆5450億円と推測されてお り、さらに2010年には1兆5209億円と縮小が予測されている。 カタログ通販は長く主要な通信販売として業界を牽引してきたが、インター ネット通販の拡大により縮小傾向にある。カタログを見てネットで注文する顧客 も多いため、カタログ通販を主力としてきた企業もネット通販への取り組みを強 化している。 カタログ通販業界においては長年培ってきたブランド力が大きく、業界二大大 手の千趣会、ニッセンなどは主婦層を中心に知名度が高い。ネット通販の急成長 の一方で、カタログのニーズも未だ根強いようだ。ネット通販に完全に移行する のではなく、インターネットで新しい顧客層を開拓しつつ、カタログとの相乗効 果を狙っていく動きが見られる。 ■主なカタログ通販企業 ジャンル 総合 企業名 2008年売上高 (百万円) 主なカタログ ニッセン ニッセン、smileland、tesera、なかよし共和国 142,630 千趣会 ベルメゾン(暮らす服、ファッションプラス、 新住まいと雑貨、新生活館) 150,729 ベルーナ、RyuRyu、ルアール、素敵な雑貨と インテリア 86,106 ベルーナ ディノス ディノスリビング、ハウススタイリング、カーラ 63,254 セシール レディセシール、メンズセシール、キッズセシール、 暮らしがすきになる本 62,220 フェリシモ haco、kraso、iedit、ecolor 54,801 ムトウ ラプティ、生活雑貨 52,670 カタログハウス 通販生活、ピカイチ事典 35,291 イマージュ・ネット IMAGE、IMAGE ROUGE 590 オットー・ジャパン オットーマダム、オットーウィメン (旧:住商オットー) 百貨店 化粧品 15,668 丸井 Voi 高島屋 タカシマヤファッションカタログ、アイトゥロア 18,193 三越 三越カタログ、sage、定番物語、時好 18,794 ディーエイチシー オルビス ― オリーブ倶楽部、DHCのこだわり雑貨、ディーコロン、 ラブランジェ hinami、La 49,196 ドクターシーラボ 文具 105,800 20,918 アスクル (法人向け) ASKUL、ASKUL家具カタログ カウネット (法人向け) Kaunet、 189,097 72,791 靴 ヒラキ エキサイティングプライス、ひらきっず 24,690 衣料品 ピーチ・ジョン PJ、GJ 15,138 出所:TSR企業情報及び各社HP 5 ②テレビ通販 テレビ通販市場は、便利さと安心を売り物にここ数年成長を続けている。富士 経済の調査による2008年のテレビ通販の市場規模は、3818億円と見込まれてお り、2010年には3950億円との予測がなされている。BS/CS放送の普及により24 時間生放送の通販専門チャンネルの視聴可能世帯数が増え、需要拡大につながっ ているとみられる。国内シェアは、住友商事の関連会社ジュピターショップチャ ンネルと、三井物産とアメリカQVC Incの合弁会社QVCジャパンの業界二大大手 が5割近くを占め、次いでジャパネットたかた、大ヒット商品「ビリーズブート キャンプ」 で知られる 「ショップジャパン」 のオークローンマーケティングが続く。 消費者にとってテレビ通販の利点は、チャンネルを合わせればすぐに見ること ができるという便利さ、買いやすさに加え、ネット通販に比べてトラブルが少な く安心という点が挙げられる。テレビ通販を行うには、番組制作、コールセン ターや物流拠点の整備など多額の費用が必要で、資金力のない問題業者が参入し にくいためだ。 大手の専門チャンネルを視聴できる世帯数は2000万世帯を突破し、国内全体の 約3割を占めている。一方で日本でのテレビ通販の利用者は、専門チャンネルを 視聴できる世帯数の5%程度にとどまっている。米国では同10%前後が利用して いるだけに、テレビ通販の市場にはさらなる伸びが期待されている。 店舗や販売員が不要なテレビ通販はコストを低く抑えることができるが、その ためにはより多くの顧客を確保し売上を伸ばす必要がある。だが、家電量販店や 健康食品メーカーなどが独自の通販番組の放送を開始するなど、過当競争に突入 しつつあるとの懸念もある。また一方では増加の一途をたどる通販番組に視聴者 からの不満も多く、政府による新規参入業者への規制の動きも見え始めている。 ■テレビ通販市場シェア(集計対象=上位30社) ジュピターショップ チャンネル 27.0% その他 35.0% ディノス 3.0% QVCジャパン 20.0% オークローン マーケティング 6.0% ジャパネットたかた 9.0% 6 出所:通販新聞 ③インターネット通販 経済産業省の 「平成19年度電子商取引に関する市場調査」 によれば、2007年の消 費者向け電子商取引 (BtoC EC) 市場規模は、5兆3440億円となり、前年比21.7%増 となった。2006年は前年比27.1%増で、5.4ポイント鈍化している。このうち、 「小売業」 のみは2兆5550億円を占め、前年比21.0%増加であった。2006年の前年 比は23.5%増であり、こちらも成長率は鈍化している。 また、携帯電話による通販 (モバイル通販) も、高速データ通信やパケット定額 制の普及と携帯通販サイトの増加によって急速に市場を拡大している。モバイ ル・コンテンツ・フォーラムの調べによれば、2007年のモバイル通販市場は3292 億円、対前年比27%増にのぼり、テレビ通販に迫る勢いを示している。購買層も これまでの利用者であった10代後半から20代前半の女性に限らず、男性や中年層 にまで広がっており、今後も成長が見込まれている。 ■消費者向け電子商取引(B to C EC)市場規模推移 (億円) 60,000 B to C EC市場規模 小売業 50,000 40,000 53,440 43,910 34,560 30,000 25,550 21,110 17,100 20,000 10,000 0 2005 2006 2007 (年) 出所:経済産業省「平成19年度電子商取引に関する市場調査」 ■携帯電話による通販(モバイル通販)市場規模推移 3,500 (億円) 3,292 3,000 2,583 2,500 2,000 1,542 1,500 1,000 969 500 0 2004年 2005年 2006 2007年 出所:モバイル・コンテンツ・フォーラム 7 (社) 日本通信販売協会は2008年10月、東京・神奈川・埼玉・千葉在住の20∼59 歳のインターネット通販利用者1080人を対象に 「インターネット通販利用者実態 調査」 を行った。その結果、利用するサイトは 「楽天市場」 「Amazon.co.jp」 「Yahoo ! ショッピング」 の3大総合ショッピングサイトで94.9%を占めた。それぞれの利用 率 (複数回答) は、 「楽天市場」 75.7%、 「Amazon.co.jp」 49.3%、 「Yahoo !ショッピン グ」37.7%で、圧倒的に利用者が多い。大手サイトで買う理由として、最も安い 店舗で購入できるなど、多くの店舗から条件に合った商品を選ぶことができる 点、ポイントが貯まる点を支持する消費者が多かった。 また、インターネット調査会社のネットレイティングスが、2009年4月のパソ コンからの通販サイト利用状況について調べたところ、上位3サイト以外では ニッセンやセシールなどカタログ通販大手の運営サイトの利用者が大幅に伸びて いる。景気低迷を背景に、衣料品などを少しでも安く購入しようという動きが高 まっているようだ。 ■通販サイト利用者数ランキング(2009年4月) 順位 サイト名 利用者数(万人) 増減率(前年同月比較) 1 楽天市場 1,617 ▲3.9 2 amazon.co.jp 1,352 ▲3.9 3 yahoo!ショッピング 1,218 3.9 4 ニッセン 421 30.1 5 ベルメゾンネット 282 4.1 6 ツタヤオンライン 253 9.1 7 セブンアンドワイ 227 ▲23.9 8 セシール 222 22.2 9 ビッダーズ 220 ▲13.7 ディノス 218 10 44.6 出所:ネットレイティングス 3.インターネット通販の動向 (1)消費者動向 前出の (社) 日本通信販売協会 「インターネット通販利用者実態調査」 (2008年10 月実施)の調査結果によれば、インターネット通販の利用頻度は「月1回程度」が 33.0%、 「月2∼3回程度」 が28.4%を占めた。 「週3回以上」 というヘビーユーザーも 3.6%存在したが、その中では男性 (20歳代)が9.6%と高い割合を占めた。 月平均の購入金額は、「5000円以上1万円未満」が33.6%、「5千円以下」が30.2 %、 「1万円以上3万円未満」 が27.7%を占め、月に3万円未満の買い物をする利用 8 者が全体の9割にのぼった。「3万円以上」 は8.5%で、男性40代がその中心を占め ている。インターネット通販を頻繁に利用し、積極的に金額を費やす傾向は男性 に強く見られるようだ。 購入商品については、 「書籍/雑誌」 が49.4%と最も多く、半数近くが利用して いる。次いで 「食料品/飲料 (酒類を除く) 」 が37.1%、 「生活雑貨・小物類」 が30.5 %、 「CD」 が27.6%、 「化粧品」 が26.7%、 「DVD/ビデオソフト」が24.5%、 「旅行 (ツアー・ホテル予約) 」 が23.5%であった。店舗とインターネット通販のどちら の利用が多いかとの設問では、 「書籍/雑誌」 は実際の店舗で買う方が多いとの回 答が多く、 「チケット」 「CD、DVD」 「美容・ダイエット食品」 「健康食品」 「ホテル・ 航空券」 はネットで買うとの回答が多かった。 また、インターネット通販で購入する商品の特徴として最も多く挙げられたの は 「重たい/かさばる商品」 で78.3%、次いで 「実際の店舗よりも安く売っている 商品」 が54.5%、 「珍しい商品/入手困難な商品」 が49.7%、 「実物を見て検討する 必要のない商品」 が47.8%、 「店舗が遠くにあるなど、買い物の手間がかかる商品」 が45.1%となった。 ■インターネット通販の利用状況 利用頻度 月平均購入金額 1位:月1回程度 33.0% 1位:5千円以上1万円未満 33.6% 2位:月2∼3回程度 28.4% 2位:5千円未満 30.2% 3位:年に数回以下 23.9% 3位:1万円以上3万円未満 27.7% 4位:週1回程度 8.7% 4位:3万円以上5万円未満 6.4% 5位:週3回以上 3.6% 5位:5万円以上 2.1% 購入品目(複数回答) 1位:書籍/雑誌 商品の特徴(複数回答) 49.4% 1位:重たい/かさばる商品 78.3% 2位:食料品/飲料(酒類を除く) 37.1% 2位:実際の店舗よりも安く売って いる商品 54.5% 3位:CD 23.9% 3位:珍しい商品/入手困難な商品 49.7% 4位:化粧品 26.7% 4位:実物を見て検討する必要のな い商品 47.8% 5位:DVD/ビデオソフト 24.5% 5位:店舗が遠くにあるなど、買い 物の手間がかかる 45.1% 6位:旅行/ (ホテル・ツアー予約) 23.5% 6位:通販でしか購入できない商品 39.9% 出所:(社)日本通信販売協会 9 (2)業界の動向と課題 ①医薬品のネット販売規制 2009年6月1日より、改正薬事法施行に伴いインターネット販売を含めた医薬品 の通信販売が規制されることとなった。改正薬事法では副作用リスクに応じて一 般用医薬品 (大衆薬) を第1類 (H2ブロッカー、一部の育毛剤など) 、第2類 (主な風 邪薬、鎮痛剤、漢方薬、妊娠検査薬など) 第3類 (うがい薬、ビタミン剤、消毒薬 など) に分類し、このうち第1類と第2類の医薬品については薬剤師による対面販 売のみ可能としている。そのため、需要の多い解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬、水 虫薬、妊娠検査薬、漢方薬のインターネット販売ができなくなり、最もリスクの 低い第3類の医薬品のみの販売に制限される。ただし、厚生労働省では経過措置 として、 「薬局・店舗のない離島居住者」 と 「改正法施行前に通信販売で購入した 医薬品の継続購入者」 については、2年間 (2011年5月31日まで) 第2類医薬品の通信 販売を認めるとする改正省令を2009年5月29日に公布した。 健康食品や医薬品のネット通販サイトを運営するケンコーコムは、規制に伴う 一般用医薬品の販売方法の変更により、2009年6月の一般用医薬品の売上高が前 月から62%減少したと発表した。同社の2009年4月の一般用医薬品売上高は6477 万1000円、5月が1億5万円だったが、6月は3766万6000円にとどまった。また、継 続購入履歴が確認できずに販売を断ったケースが6月だけで約2300件にも上り、 大きな打撃を受けている。同社と医薬品・健康食品のネットショップ、ウェル ネットは、医薬品のネット販売の権利確認請求、意見・違法省令無効確認・取消 を求めて行政訴訟を提起、その初公判が2009年7月に東京地方裁判所で開かれ た。今後の動向が注目される。 業界団体の日本オンラインドラッグ協会と、ネット事業者のヤフー、楽天らは 今後も国に対し、一般用医薬品のインターネット販売規制の撤回を求め続けてい くとしている。日本オンラインドラッグ協会では2009年2月、業界ルール案とし て 「一般用医薬品のインターネット販売における安全策について」 を発表した。違 法販売サイトや個人輸入サイトと都道府県への届け出済みの薬局を区別するため の確認の仕組みや、薬局・店舗がネット上に掲示しなければならない事項の表記 義務付け、医薬品の添付文書に基づいた注意事項の明示、購入者の健康状況を把 握するためのチェックボックスの導入、メールや電話を通じて相談に応じる仕組 みの整備など、ネットで可能な安全策を提案した。一律に禁止するのではなく、 安心・安全を確保しながら販売するための方策を早急に定めることが、ネット販 売再開のためにも必要であると言えよう。 10 ②百貨店が通販拡大 2009年上半期の売上高が過去最悪を記録するなど、百貨店業界では長期にわた る低迷が続いており、回復の兆しはなかなか見られない。そのような中、百貨店 各社はインターネットによる通信販売を拡大し、店頭での販売苦戦を補おうと試 みている。ネット通販はこれまで大手百貨店でも30億∼40億円規模止まりだった が、100億円規模を目指して拡充を図っていく。従来の百貨店通販の中心だった 中元・歳暮ギフト需要の食料品に加え、衣料品や雑貨中心に品揃えを拡大し、事 業強化に乗り出している。 日本百貨店協会の発表によれば、2008年度の百貨店業界のインターネット通販 売上高は233億8700万円で、前年度比23%増となった。ネット会員数は前年度よ り50%増となる12万6000人と大きく伸びた。パソコン用サイトにおける売上高が 9割以上を占める一方で、携帯サイトでの売上高が前年の4.7倍の3億8000万円と 急増しており、成長に期待が寄せられている。 丸井の会員制通販サイト 「マルイウェブチャンネル」 の売上高は、2008年4月か ら2009年2月の累計で100億円を突破し、今期は前期比1.6倍の130億円近くを目標 とする。2008年秋に衣料・雑貨部門でネット販売商品数を増やし、期間限定で無 料配送を行うなどの方策が功を奏した。2009年1月からは、自社カード会員であ れば通販サイトでの会員登録をしなくても利用できるようにし、使いやすくし た。 今後は、通販サイトと実店舗との連動を強化する方針だ。店頭を訪れた客に通 販サイトのパンフレットを配り、通販サイトへの利用につなげるほか、特定の店 の商品を購入できる専用ホームページを開設したり、従来は通販サイトのみで 扱っていた商品を実店舗で展示販売したり、さまざまな取り組みを行っている。 また、オンラインショッピングでの中国市場進出も視野に入れており、今後の売 上における重要度はますます高まっていくようだ。 高島屋は2008年9月、従来の通販サイトに加え、婦人服・雑貨の専門サイト 「タ カシマヤ ファッションモール」 を新設した。店頭販売の不振が続く中、ネット 通販は好調に売上を伸ばしており、今後5年間でネット売上高全体を100億円規模 に引き上げていく計画だ。 「大丸」と 「松坂屋」 を傘下に置くJ・フロントリテイリ ングでは、季節商品などの取り扱いを強化し、今後2年のうちにグループ全体で 100億円規模を目指し、事業拡大に取り組む。東急百貨店は2009年2月末でカタロ グ通販事業から撤退、ネット販売に注力する。 11 ③カード不正問題 通信販売での支払いによく使われるクレジットカードだが、他人のカード情報 を不正利用してインターネット通販で高額商品を購入するといった犯罪も増加し ている。増加の背景には、インターネット通販では店頭での買い物と違ってカー ド本体は必要なく、本人確認も行われない上に、通販サイトの多くが有効期限と カード番号だけで手軽に買い物できるという仕組みをとっていることがある。国 民生活センターに寄せられた2008年度のカード不正使用に関する相談件数は1875 件にも上り、この10年で約4倍にも増えた。不正使用の認定を巡りカード所有者 が、カード会社とトラブルになるケースも少なくないという。 手口としては、機械を使ってカードの磁気情報を盗み取る 「スキミング」 や、金 融機関などからのメールを装って、カード番号や有効期限などのカード情報を詐 取する 「フィッシング」 がよく知られているが、2009年6月から7月にかけて 「クレ ジットマスター」という新しい手口を使った犯罪が相次いで摘発され、問題と なっている。 「クレジットマスター」 は実在するクレジットカード番号に特定の計 算式をあてはめて、他人のカード番号と有効期限を割り出すもので、単純な計算 を繰り返すだけの簡単な手口という。これによってカード番号を知られることを 防ぐ方策はなく、 (社) 日本クレジット協会では 「本人確認のための入力項目を増 やすのが一番の対策」 であるとしている。 通販サイトは、大手でも多くがカード番号と有効期限を打ち込むだけで簡単に 商品を購入できる仕組みを採用している。入力項目が増えると利用客が不便を感 じるため、客離れの原因になるとして対策を講じたがらないネット通販業者も多 い。しかし、安心してインターネット通販を利用してもらうためにも、ネット上 でのクレジットカード決済におけるセキュリティ強化は業界全体の急務と言える だろう。通販サイト上でより多くのカード情報や暗証番号、個人情報を入力する システムに変えるなど、業界でのルール統一が必要となってきている。 ④海外への進出 景気悪化による国内消費の冷え込みは、これまで好調を続けてきた通信販売業 界にもわずかながら影を落としている。 (社) 日本通信販売協会が2009年7月にま とめた調査概要によれば、2009年5月度の会員企業133社の総売上高は1249億6600 万円となり、前年同月比でみると4.0%のマイナスとなった。そのため、通信販 売業界は新たな市場として、中国を中心とした東アジアへの進出を開始してい る。 12 中国の人口は13億人、そのうち都市人口が4億人、富裕層が4000万∼5000万人 と言われる。中国のインターネットユーザーはすでに3億人、携帯電話によるイ ンターネット利用者も1億1760万人と急増しており、市場の持つ潜在力の大きさ が注目されている。また、日本の商品は品質の良さから中国でも人気があり、イ ンターネット通販によって入手しやすくなればより売上の拡大が見込める。 すでに通販大手のニッセンは2009年1月、中国最大の検索サイト 「Baidu.com」 を 展開する 「百度 (Baidu) 」 と提携した。 「Baidu.com」 上に開設されたニッセンのサイ ト「 百 度 日 本 の 窓 」か ら 、 ニ ッ セ ン の 海 外 顧 客 向 け シ ョ ッ ピ ン グ サ イ ト 「JSHOPPERS.com」 にアクセスできる。ニッセンは 「百度 (Baidu) 」 のブランドロゴ を使用し、販路拡大と認知率向上を狙う。 同じく大手の千趣会も、2007年より中国版の通販カタログを発行し、ネットと カタログによる通販事業を展開してきた。2009年1月には上海にリアル店舗を オープンしている。さらに同社の中国関連会社 「上海千趣商貿有限公司」 は同年7 月、中国電子商取引 (EC) 企業の最大手 「アリババ (Alibaba) 」 が運営するショッピ ングサイト 「淘宝網 (タオパオ) 」 に 「BELLE MAISON」 をプレオープンしており、 9月より本格運営の予定である。 「淘宝網 (タオパオ) 」 は、ネットユーザーの3人に 1人が利用しているといわれるが、ネットオークションなどの消費者間取引が中 心であり、千趣会は日本の通販企業という信頼性・安全性をアピールして顧客獲 得を図る方針だ。 インターネット通販による中国市場進出は通信販売企業だけにとどまらない。 2009年4月、オンライン決済サービスプロバイダーのSBIベリトランスは三井住友 カードと提携し、中国向けの日本製品通販サイト 「佰宜杰.com (バイジェイドット コム) 」 を本格オープンした。このサイトでは、中国人に幅広く普及している 「銀 聯 (ぎんれん) カード」 (日本のデビッドカードに相当) での決済が可能であり、購 買層の拡大が期待できる。カジュアルウェア最大手のファーストリテイリング も、2009年4月より 「淘宝網 (タオパオ) 」 に 「ユニクロ」 のオンラインショップを開 設し、中国ネット通販市場に本格参入した。 ネットショッピングモール 「楽天市場」 を運営する楽天は、2009年1月に中国語 サイトをオープンし、現地の言語でショッピングが可能となっている。同社は商 品の配送サービスの提供など、小規模企業の海外通販も支援していく。また、楽 天グループのリサーチ会社である楽天リサーチは、インターネット通販での中国 進出を考えている企業に対し、中国の企業信用調査や業界動向調査、消費者調査 などを提供している。 13 国内EC大手のネットプライスドットコムは2009年4月、 「アリババ」 グループと 提携し、中国の通販サイトに出店する事業者への商品卸を支援する 「中国向けオ ンライン貿易サービス」 を開始した。中国での商品販売を検討している日本企業 に対し、決済や通関、物流などの実務をネットプライスドットコムが代行し、輸 出に伴う煩雑な業務負担を軽減する。急成長が続く中国では日本製品の人気が高 く、仲介ニーズが見込めると判断した。開始当初は食品卸大手の伊藤忠食品など 100社が参加しており、さらに参加企業1000社、取扱商品2万∼3万アイテムへ拡 大する計画だ。 インターネット通販による中国進出は大企業だけでなく中小企業にとっても魅 力が大きいが、言語の壁を始め、サイト製作、中国の検索エンジンへの対応、 マーケティング、決済方法、配送ルートなどのノウハウに欠けるなどの問題があ る。今後はそういった面のサポートを行う企業も増えてくると思われる。 東京商工リサーチ (2010年3月作成) 14 本リポートの内容は執筆時点における法令および社会情勢に基づ いて記されています。なお、リポート利用者の経営結果について は責を負いかねますので、ご了承ください。
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