SPA 企業のブランディング戦略―競争激化するインテリア業界―

SPA 企業のブランディング戦略―競争激化するインテリア業界―
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I.
研究の目的
現在、日本のインテリア業界では、SPA ブランドが
注目を集めている。SPA とは「素材調達・企画・開
発・製造・物流・在庫管理・店舗企画などすべての工
程を自社で管理、運営する」いわゆる製造小売業で
あり、フレキシブルな経営手法として、インテリア業
界をはじめとする多くの企業やブランドが採用してい
る1。本研究では、インテリア業界シェア上位を独占
するニトリ・無印良品・IKEA の 3 つの SPA ブランド
の多様なブランディング活動を比較・分析し、これら
が SPA の手法をどのように活用した戦略を採用して
いるのか明らかにする。
II. 研究成果の概要
以下は個々のブランディング戦略についての比較
分析および評価の概要である。
1.
商品と価格戦略
(1)商品展開・価格戦略
ニトリが多彩な商品と価格競争力で他の 2 ブラン
ドに先行している。社内憲法に「安さ」を謳うニトリが
低価格を実現している要因としては、物流へも積極
的に関不する営業スタイルを採用していることが最も
大きい。また、低価格の商品が多いということは、買
い替え需要の掘り起こしにも貢献している。ニトリの
商品展開のもう一つの特徴は、コーディネートである。
確かに、ニトリ商品のデザインは、無印良品の場合と
同じくシンプルであるが、個々の商品のカラーバリエ
ーションが豊富であり、コーディネートされた様々な
部屋のパターンの提案を可能にしている。
(2)商品開発
無印良品の開発戦略が秀逸である。アイテム数、
バリエーションは少ないものの、顧客の意見を積極
的に参考にするマーケティング手法を用い、顧客の
ニーズをリアルタイムに把握して、素早く新規商品開
発に反映させている。これは SPA の強みを十分に活
かした戦略であり、他の 2 ブランドを凌駕している。
(3)商品陳列
ニトリの店舗戦略こそ、SPA の利点が十分活用で
きている点で、最も高く評価できる。店舗内の商品
陳列は、それぞれの SPA ブランドにおいて、ブランド
イメージとの関連性が顕著に見いだせる。ニトリの場
合在庫の色・形・デザイン・素材・価格を見やすくか
つ、比較しやすくしていることや、トータルコーディネ
ートされた陳列で、顧客が商品を使用しているイメー
ジが膨らませやすいことが最大の特徴である。
2.
コミュニケーション 高橋史朗研究室
川村 友果子
G078022 四戸 大介
高橋 まどか
G078043 西 辰也
店舗と経営
(1)店舗展開
価格競争力を活かしたニトリの店舗展開が秀でて
いる。ニトリには商圏人口 30 万人以上という条件で
出店し、他社との競争を前提化するというユニーク
な規定がある 2 。インテリアショップは食料品や衣料
品と比べ同業他社が少ない。従って、都市の競争的
な環境においてのみ、相対的な価格競争力が際立
つ。ニトリは、消費者に同業他社との価格差を認識
させることによって、自社の魅力をより強くアピールし
ているのである。
(2)近年の販売実績
厳しい経済情勢の下、価格競争力の高いニトリは、
順調に営業成績を向上させている 3。ニトリの堅調は、
毎年 20 から 30 店舗の増加を見せる出店数の推移
からも明らかである4。ニトリの売上高はこの 4 年間に
51%増を記録した。一方、無印良品のブランドイメー
ジは景気後退期には必ずしも有利ではなく、ニトリや
IKEA など低価格のインテリアショップにシェアを奪
われていることが裏付けられている。また IKEA は店
舗数に比例して売上が伸長しているものの、1 店舗
当たりの業績は向上していない。
3.
広告戦略
(1)新聞折り込み広告
折り込み広告はブランドにとって、第一義的には、
消費者に買い物という行動を起こさせる動因でなけ
ればならない。また同時に、その動因がブランドイメ
ージに合致していなければ、長期的な売上の向上に
は結びつかないことも重要である。そのような観点か
ら、各ブランドの折り込み広告の分析を概括すると、
ブランドイメージと整合性の高い広告宣伝活動を行
っていること、また、TVCM と効果的に連動し、徹底
的に価格訴求に特化して消費者の購買意欲を高め
ていることから、ニトリの戦略を最も高く評価できる。
(2)口コミ
3 つのブランドの中で口コミ戦略が最も効果を発
揮しているのは IKEA である。後述のユニークな
OOH 広告や買い物を楽しませるというブランドコン
セプトが、ブログの話題に適していることがその主た
る要因である。国内市場における認知度がニトリや
無印良品と比較して、かなり低いであろうにも関わら
ず、ブロガーの関心を集めている IKEA の口コミ戦
略の効果は、ブランドイメージを向上させる上で極め
て高いといえる。
(3)OOH 広告
OOH 広告(Out Of Home Media)とは屋外広告、
交通広告、車内動画広告などの自宅外で接触する
広告媒体を指す5。無印良品にも優れた OOH 広告
があるものの、この分野では IKEA の戦略のクオリテ
ィが高い。神戸出店時に実施されたポートライナーと
のコラボレートによる広告はその好例である。列車の
外装に加え内部まで宣伝媒体とするような OOH 広
告は、ブランドコンセプトの一つである外国ブランドと
しての新奇さを巧みに強調・宣伝している。
(4)TVCM
3 つのブランドそれぞれに、特徴的な戦略を採用
しているものの、ニトリの TVCM が最も高く評価でき
る。その最大の理由は、価格訴求に特化している点
にある。例えば、繰り返し行われた「値下げ宣言」キ
ャンペーンの TVCM は、価格競争力に力点を置い
たブランドというイメージの認知度を飛躍的に高めた。
さらに、ニトリの TVCM は折り込み広告や店内の
POP 広告、web サイトと連動したクロスメディア戦略
の一部を構成しており、わかりやすく繰り返してブラ
ンドの強みを訴求することで、ニトリの業績向上に大
きく貢献している。価格に敏感なファミリー層の顧客
確保を念頭にゴールデンタイムを中心に提供数を増
やしているが、そのターゲティングと投資戦略の明快
さも TVCM の広報効果を高めている。
4.
Web ブランディング
無印良品の web 戦略が他の 2 ブランドを凌駕し
ている。美的に優れたコンテンツはもちろん、新しい
メディアを積極的に活用してコンバージョン率を高め
ていることや、くらしの良品研究所を立ち上げ、ブラ
ンド側の一方的な商品展開にならないよう顧客のニ
ーズを把握し、それにより新しい商品の企画を進め
て実際に販売に至っていることが、評価の最大の理
由である。これは SPA の特長を最大限に活かした戦
略であり、消費者との融和的な関係性を実現するこ
とで、ブランドイメージの向上に果たす役割も極めて
大きい。これらの要素を巧みに表現することで、無印
良品の web サイトは、ブランドイメージの改善に大き
く貢献している。一方、ニトリの場合、web サイトの特
徴を活かしきれておらず、TVCM の繰り返しに過ぎ
ない印象がある。また、IKEA には、ユーザビリティに
課題がある上に、インテリアブランドにとって極めて
重要な通販サイトが整備されていない。無印良品に
も瑕疵が散見されるものの、他の 2 ブランドに比して、
秀逸な web 戦略が採用されている。
高い価格競争力は丌況期ほど効果を発揮し、現在
の世界的な景気後退さえ、ビジネスチャンスに変え
ている。さらにニトリでは、価格戦略にとどまらず様々
なブランディングに SPA としての営業上の統率性を
反映させていることにも注目すべきである。トータル
コーディネートを具体的に提案して、顧客が容易に
それを愉しめる商品展開は、全店で統一実施されて
おり、コストと時間のマネジメントが行き届いた洗練さ
れた陳列によって表現されている。売り場のデザイン
面では、その半分以上が買い替え需要の高い商品
に不えられており、高額商品の陳列面積が大きい同
業他社との差異化の一助となっていることにも言及
しておきたい。子会社であるニトリパブリックへの一
元化が可能としたクロスメディア広報は、価格訴求力
とブランド認知度の拡大に貢献している。また、幅広
いターゲットに満足感を不えるよう構成されたユーザ
ビリティが高い Web サイトは、高い価格競争力を兼
ね備えているために、相対的なブランド価値の向上
に寄不するところが大きい。店舗展開についても価
格競争力を背景に、競争的環境の中で同業他社と
の価格差を認識させるという興味深い戦略で、シェ
アの拡大に繋げている。実際、Ⅱで述べたように毎
年 20 から 30 店舗のペースで出店を拡大しているニ
トリは、堅調に営業成績を向上させている。超 SPA
ブランドとして価格競争力の向上に努め、経済状況
に関わらず売り上げを伸ばし続けるニトリのブランデ
ィング戦略は、現在のインテリア業界において、最も
優れておりかつ成功していると評価する。
IV. 主たる参考文献
1.書籍
石井淳蔵 『ブランド 価値の創造』 (岩波新書 1999 年)
川島蓉子 『ブランドのデザイン』 (弘文堂 2006 年)
吉川京二 『製造小売業革命』 (プレジデント社 2004 年)
国友隆一 『無印良品が大切にしているたった一つの考え方』
(ぱる出版 2009 年)
仁科貞文 田中洋 丸岡吉人 『広告心理』 (電通 2007 年)
リュディガー・ユングブルート 瀬野文教訳 『IKEA 超巨大小
売業、成功の秘訣』 (日本経済新聞出版社 2007 年)
2.Web 資料
『IKEA』 http://www.ikea.com/jp/ja
『ニトリ』 http://www.nitori.co.jp/
『無印良品』 http://www.muji.net/
III. 考察と結論
註
本研究は、複数の分析において高いパフォーマン
スを示したニトリのブランディングを、総合的に最も
優れていると評価する。その要因を取りまとめて述
べれば、ニトリが SPA の利点を最も有効に活かして
いるからである。ニトリは自らを SPA すなわち製造小
売業ではなく、製造物流小売業と称している。生産・
流通・販売のあらゆる側面で、コスト管理を徹底する
手法は、まさしく超 SPA と呼ぶに相応しい。ニトリの
1
『j-marketing.net』
http://www.jmrlsi.co.jp/mdb/yougo/my08/my0810.html 「マーケテ
ィング用語集 SPA とは」。
2
『ニトリ』 http://www.nitori.co.jp/partner/shop/shop/index.html 「店
舗物件募集(商業デベロッパー様向け)」。
3
『ニトリ』http://www.nitori.co.jp/ir/index.html「IR 情報」他。
4
『株式会社ニトリ』
http://www.nitori.co.jp/ir/financial_information/6phc1300000001ea-a
tt/200905tanshin.pdf「平成 22 年 2 月期 第 1 四半期決算短信」他。
5
仁科 田中 丸岡 『広告心理』 p.152。