TDK EMC Technology 実践編 高速差動インタフェースのEMC対策 コモンモードフィルタはどのように差動伝送回路のEMIを抑えるのか? TDK株式会社 アプリケーションセンター 梅村 昌生 1 高速インタフェースの種類 写真1 USBとは PCのみならず情報家電化が進んでいく中で、AV関連機器でもイ ンターネット接続ができるようになり、信号の劣化のないデジタル ・PCとその周辺機器を接続するためのインタフェースで、 Universal Serial Busの略 情報のインタフェースが多く使用されるようになってきています。 ・Data+、Data-の差動信号ラインと、電源・GNDラインの計4ラ インによって構成される ここでは、PCや、情報家電といわれる機器で使用が進んできて ・転送スピードは3種類 USB1.1では、LS(Low Speed):1.5MbpsとFS(Full Speed): 12Mbpsの転送をサポートしていたが、2.0では、これらに HS(High Speed):480Mbpsが加えられた いる高速インタフェースについて、信号の説明と適切なEMC対策 について述べていきます。 ・接続にはホストになるPCが必要 ・HUBを用いてポートの拡張を行い、最大で127のデバイスが利 用可能 主な高速インタフェース USBのコネクタ USB:PCの周辺機器(図1)とその周辺機器(CD-ROM、スキャナ、 プリンタ、DSCなど)を接続するのに使われます。2000年に策定 されたUSB2.0の規格になってからLS(1.5Mbps)、FS(12Mbps)、 HS(480Mbps)の3種類の転送スピードが使用可能であり、DSC シリーズA シリーズB USBのレセプタクル の写真データなども高速に転送できるようになっています(写真1)。 図1 USBとIEEE1394の使用機器 シリーズA リムーバブル ディスク DSC スキャナ USB2.0 DVC USB2.0 HUB 写真2 IEEEとは HDD USB1.1 HUB IEEE1394 STB ・PCやその周辺機器、AV機器等を接続するためのインタフェース ・TPA、TPBの2組の差動信号ラインと、電源・GNDラインの計6 ラインによって構成される (電源・GNDラインを省いた4ピンのコネクタもある) PC USB1.1 プリンタ マウス HDD キーボード シリーズB DVDプレーヤ ・転送スピードは3種類(S100:100Mbps、S200:200Mbps、 S400:400Mbps) ただし、1394.bでは800Mbps∼をサポート予定 TV、デジタルTV ・基本的にはホストPCは不要であり、デバイス同士で接続可能 ・1つのバスにつき、最大で63のデバイスが利用可能 デジタルオーディオ機器ではPCを通してインターネットから音 IEEE1394のコネクタ 楽ファイルのダウンロードに標準インタフェースとして使用されて おります。 最近では、音楽ファイルだけでなく動画コンテンツを携帯機器で 6ピンタイプ 視聴することもできるようになり、さらなる高速化も必要となりそ IEEE1394のレセプタクル 4ピンタイプ うです。 そ の 要 望 に 応 え る 形 で2008年 に5Gbps伝 送 を 可 能 に す る 「USB3.0」の規格がリリースされました。大容量の動画コンテン ツ配信などの需要を背景にPCだけでなく、携帯電話やデジタル オーディオ機器にも広がる可能性もあり、今後の動向が注目される インタフェースです。 63 6ピンタイプ 4ピンタイプ IEEE1394:Apple Computer社によって提唱されたFirewireと言 うインタフェースが、IEEEで規格として採用され一般的になって 図3 HDMI Interfaceの使用例 * HDMI:High Definition Multimedia Interface きたものです(図1、写真2)。100 ∼ 800Mbpsまで実用化されてき ソースデバイス 送信側 ており、薄型TV、DVDレコーダ、DVCなどを中心として映像機 DVD Player シンクデバイス 受信側 器関連の標準的なインタフェースとなっています。 3.2Gbpsまでの高速化のロードマップも策定されており、今後、 DVD Recorder より高速な通信が可能になると考えられます。特別な場合を除いて Repeater Device Digital TV Plasma-TV Projection-TV LCD-TV Digital AMP HOSTという概念を必要とせず、AV機器どうしの接続でもリモコ Digital Set Top Box ンなどからの簡単な操作でMPEG信号などの高速な転送、録画な どが可能となっています。方向性は半2重となっています。 Home Server DVI/HDMI:従来使用されていたPCの、モニタなどへの画像信号 の出力に使用されていたアナログRGBをデジタル化するためのイ * HDMI: ンタフェースです。非圧縮のまま生のデジタル映像信号を高速で転 送します。TMDS方式を使用し最高速度は1.65Gbpsにも達し、伝 送に使われる周波数は、基本はで850MHzにも達します。DVIは、 High Definition Multimedia Interface 図4 S-ATA(Serial-ATA)の使用例 * S-ATA: Serial AT Attachment HDD 映像信号のみを伝送します(図2)。 PC Motherboard (Incl. Note PC) 図2 DVI Interface(Panel Link)の使用例 * DVI: Digital Visual Interface Tx Device 送信側 デスクトップ PC Rx Device 受信側 プロジェクタ ODD DisplayPort:HDMI規格がAV機器同士をつなぐデジタルインタ フェースであるのに対してDisplayPortはPCとモニタをインタフ ェースといえます。PCとモニタを接続するインタフェースとして はこれまでDVIが用いられてきましたがより小型でより高速の伝送 ノート PC (ドッキングステーション) が可能なDisplayPortに替わって行くものと考えられます。 LCDモニタ 差動ペアラインは全部で4Laneあります。1LaneあたりのLink rateは1.62Gbps(Low bit rate) と2.7Gbps(High bit rate) HDMIは、AV機器を接続するためにDVIの映像信号に加え、音 の2つのモードが存在します。また、DisplayPortではクロック信 声信号も同時に送信でき、著作権保護のためのコピープロテクショ 号がデータ信号に埋め込まれているためHDMI/LVDSのようにク ンも包含しており、アメリカでは、デジタルTVへのHDMI端子の ロックラインが存在しません。従って最大伝送レートは2.7Gbps× 装備が義務付けられており、今後急速に普及していくインタフェー 4=10.8GbpsでQXGA(2048×1536)以上の解像度にも対応できる スとなっています(図3)。方向性はHOSTからTARGETへの1方向 仕様となっております。 となります。 2.7Gbps伝送時の基準周波数は1.35GHzと、GHzを超えることに なり、これまでの高速インタフェースのノイズ問題と言えば1GHz S-ATA:HDDのPC内でのインタフェースとして長く、IDE方式 までの帯域がほとんどでしたが、DisplayPortではGHz帯に基準 が使われていましたが、大容量化や高速転送への対応のため、より 周波数のノイズスペクトラムが存在するため、無線機器に対する干 高速なインタフェースが求められており、シリアル化された高速な 渉問題をよく検証する必要があります。 Serial-ATAが使用されてきています(図4)。スピードは3Gbpsに この他にPC内部のバス接続用のPCI-Express、サーバ同士をつ なっており、内部接続用、外部HDD接続用などでいくつかのクラ なぐInfinibandなど3Gbpsを超えるような高速なインタフェース ス分けがされており、伝送に使われる電圧も数種類に上ります。方 も続々発表されてきており、配線数を最小化した上で、より高速に 向性は半2重となっています。 信号伝送できるインタフェースとして差動伝送方式の採用が今後も 増えていくと予想されます(表1)。 64 表1 主な高速インタフェースの種類とスピード USB1.1/USB2.0 IEEE1394.a/b LVDS Mini-LVDS RSDS SATA I/II/III DVI HDMI DisplayPort PCI Express(I/II) USB3.0 2 単線の信号によるデータ伝送ではなく、位相が180°違う2つの信 12Mbps/480Mbps 400Mbps/800Mbps 1.12Gbps:UXGA 1.12Gbps:UXGA 160Mbps 1.5Gbps/3Gbps/6Gbps 1.65Gbps:UXGA 3.4Gbps:1080p/16bit階調 2.7Gbps 2.5Gbps/5Gbps 5Gbps 号を用いた2線式の伝送方式になっています。この伝送方式は平衡 伝送とも呼ばれ、通常のシングルエンドの伝送方式と比較して不要 輻射が小さく、また他のデバイスからのノイズの影響も受けにくい という特徴を持っています。しかし、現実には差動信号のアンバラ ンスによってコモンモードノイズが発生したり、基板上の他の回路 からノイズ電流がコネクタを経由して外に漏れたり、ケーブルをア ンテナとして輻射されることもあります。 差動信号のアンバランスがコモンモードノイズの原因になると述 べましたが、ここではアンバランスについて具体的に説明します。 差動伝送とは? 図5は理想的な差動伝送と、差動信号間で位相ずれを持った信号波 いろいろな高速信号伝送の方式が提案、実用化されていますが、 形を示しています。2つの信号の和で表されるコモンモード電圧は、 それらのEMC対策を行う上で、これらのインタフェースで多く使 理想的には直線になりますが、チャンネル間の対称性が悪い信号の 用されている差動伝送方式とはどういうものなのか見ていくことに 場合には、不平衡成分が生じます。これはスキュー(以下SKEW) します。 とも呼ばれます。不平衡成分は、この他にも図6のような立ち上がり・ 図5 差動信号の不平衡成分 差動信号波形 D+ + D−(コモンモード電圧) (a)理想的な差動信号 0.5 0.5 0.4 0.4 VD++VD−(V) VD+−VD−(V) (a)理想的な差動信号 0.3 0.2 0.1 0.3 0.2 0.1 0 −0.1 0 0 2 4 6 8 10 12 時間(ns) 16 14 18 (b)位相ずれ(0.1nsec.) 0.5 0.5 0.4 0.4 0.3 0.2 0.1 2 4 6 8 10 12 時間(ns) 16 14 18 20 16 14 18 20 0.3 0.2 0.1 0 −0.1 0 (b)位相ずれ(0.1nsec.) VD++VD−(V) VD+−VD−(V) −0.1 20 0 0 2 (a)の拡大図 4 6 8 10 12 時間(ns) 16 14 18 −0.1 20 0 2 (b)の拡大図 0.5 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0 0 −0.1 −0.1 65 4 6 8 10 12 時間(ns) 図6 その他考えられるアンバランスの原因 図7のように2つのチャンネルの入力電圧をV1、−V2として、そ (a)立ち上がり・立ち下がり時間のずれ の出力電圧をV1out、−V2outとします。このときの出力電圧は、 D+ それぞれのチャンネルを通過する電圧aV1、−aV2と誘導される電 圧−bV1、bV2の和になります。 従って、 V1out=aV1+bV2 D− V2out=−aV2−bV1 (b)電位差 D+ となります。係数a、bはチャンネル間の結合係数やコモンモード インダクタンス、終端抵抗を含んだものです。 ここで、 D− 結合係数:K=1、 コモンモードインピーダンス:Zc>>終端抵抗:Z0の場合には、 (c)パルス幅の違い D+ a=b=1/2と等価できるので、 V1out=−V2out=V1/2+V2/2 となり、V1とV2が違う値であっても、出力される電圧の絶対値は 等しくなります。 D− 図8は、USB2.0のHS(High Speed)モードでの差動信号波形 立ち下がり時間のずれや、パルス幅・振幅の違いなどによるアンバ です。CMFを挿入することによってコモンモード電圧の不平衡成 ランスによっても発生します。また、不平衡成分の振幅が大きいほ 分が補正されていることがわかります。これにより、コモンモード どコモンモードでの不要輻射は大きくなります。 での不要輻射に対する効果が得られます。この結果からも、コモン コモンモードフィルタ(以下CMF)は2チャンネル間のコイルが モードフィルタは差動信号ラインのEMC対策に適した部品である 結合している、1:1のトランスの特性を持つ部品です。本来の目的 といえます。 はコモンモード電流の抑制ですが、差動信号のアンバランスを補正 また、CMFのディファレンシャルモードインピーダンスは、 する効果も併せて持っています。片側のチャンネルに信号が入力さ チャンネル間の磁気結合によって高周波帯域まで低く抑えられてお れると、もう一方のチャンネルにも同様の信号が誘導され、両ライ り、高速差動信号の波形品位に影響を及ぼす心配はありません。結 ンのバランスが保たれるのです。 合の高いコモンモードフィルタほど、ディファレンシャルモードイ ンピーダンスが低く、良い部品であるといえます。SKEWの補正 効果の詳細については、第4章で実験結果を示しながら説明します。 具体的にどのようにEMIを抑えるのか体感できると思います。 図7 CMFの効果 信号ライン1から信号ライン2に 誘導される電圧 コモンモードフィルタ 信号ライン1 bV2 信号ライン2 V1 GND V2 −bV1 −aV2 信号ライン2から信号 ライン1に誘導される 電圧 Z0 aV1 部品を通過 する電圧 V1out Z0 V2out 終端抵抗 66 図8 差動信号の不平衡成分 差動信号波形 D+ + D−(コモンモード電圧) (a)USB2.0デバイスの差動信号 0.5 0.5 0.4 0.4 VD++VD−(V) VD+−VD−(V) (a)USB2.0デバイスの差動信号 0.3 0.2 0.1 0 2 4 6 8 10 12 時間(ns) 16 14 18 0.1 −0.1 20 (b)CMF適用例(ACM2012-900-2P) 0.5 0.5 0.4 0.4 0.3 0.2 0.1 0 −0.1 3 0 2 4 6 8 10 12 時間(ns) 16 14 18 20 14 18 20 (b)CMF適用例(ACM2012-900-2P) VD++VD−(V) VD+−VD−(V) 0.2 0 0 −0.1 0.3 0.3 0.2 0.1 0 0 2 4 6 8 10 12 時間(ns) 16 14 18 −0.1 20 0 2 4 6 8 10 12 時間(ns) 16 ており、双方向ではありません。スピードは1.6Gbpsにも達し、基 ギガビット伝送インタフェースのEMC対策 本周波数が800MHz以上に達します。USB、IEEE1394に比べても DVI(Digital Visual Interface)と、HDMI(High Definition 4−5倍程度の周波数に達するため、信号品質への要求はより詳細に Multimedia Interface) で は、 高 速 なTMDS(Transition 規定されています(図9)。 Minimized Differential Signaling)という方式を用いて圧縮な 項目的には しのHDTV映像信号など大量の情報を送れるように設計されてい EYEパターン ます。 伝送線路(ケーブルや、PCB上の配線)の特性インピーダ デジタルテレビ、PC、DVD、STB、DVDレコーダなどのマル ンス チメディア機器に多く使用されるようになってきています。方式的 などになります。 には送信側から受信側へ一方的に情報を送るための回路構成となっ EMI対策をする上で、重要になるのがより高周波(800MHzの 図9 HDMIインタフェースの接続概念図 HDMI source Video HDMI sink Video TMDS channel 0 TMDS channel 1 Audio Transmitter TMDS channel 2 Receiver Audio TMDS clock channel EDID ROM Display Data Channel(DDC) CEC line 67 5次̶7次以上)のEMIが発生する場合が有り、より高周波でのEMI ある2.225Gbps(約1.1GHz)の5次高調波を十分に通すことができ 対策が、求められます。 ますのでHDMIの信号品質を保つことができます。DisplayPort用 こ こ で は、DVI・HDMI・DisplayPort用 に 新 た に 開 発 さ れ た コモンモードフィルタ(TCM-Uシリーズ)ではさらにカットオフ CMFの特性と信号への影響、EMI低減効果についてみていくこと 周波数を伸ばし、8GHzを実現しており、2.7Gpsの信号に対しても にします。 全く信号品質を劣化させません(図10、図11)。 1)HDMI/DVIに は カ ッ ト オ フ 周 波 数6GHz、DisplayPortに は 2)EYEパターン 8GHzのコモンモードフィルタ HDMIでは、EYEパターンの規定があり信号に歪があると規格 ギガビット信号を扱うインタフェースに挿入してEMI対策に使用 値に合格できなくなります。HDMI用コモンモードフィルタでは、 する部品ですが、USB、IEEE1394でも説明したように信号品質へ 6GHzの帯域幅を確保することにより余裕を持ってEYEパターンテ の影響をより強く受けてしまいます。そのために必要な特性として ストに合格することができます。図12に測定条件を、図13(a)に ディファ レ ン シ ャ ル モ ー ド で の 挿 入 損 失 の カ ッ ト オ フ 周 波 数 DVIにおける測定結果を示します。 を 各 イ ン タ フ ェ ー ス ご と に 最 適 化 し ま し た。それによって高速 同 様 にDisplayPortで もEyeパ タ ー ン の 規 定 が あ り ま す。 なTMDS信号をひずみなく伝送することができます。デジタル信 DisplayPort用TCM1210Uシ リ ー ズ は2.7Gbpsの 信 号 に 対 し て、 号伝送では、最低でも基本波の5倍(5次の高調波)まで伝送するこ 信号劣化を起こすことはありません。図13(b)は送信側基板で とによって伝送時の信号品質を保つことができます。 のEye diagramです。図13(c)は10mケーブルを使用した時の HDMI用コモンモードフィルタ(ACM-H、TCM-Hシリーズ)で Eye diagramで す。10mケ ー ブ ル に お い て もCMFに よ っ てEye は、6GHzのカットオフ周波数で1080pのDeep Color伝送レートで diagramが潰れることはなく、TCM1210Uが信号品質を確保しな がらノイズ抑制を行うことができる部品であることを示しています。 図10 6GHz帯域を確保したHDMI用コモンモードフィルタ ディファレンシャル信号に対する挿入損失のカットオフ周波数が6GHzまで拡大 より高速な差動信号インタフェースにも使用が可能になる 0 カットオフ周波数(3dB) 2 4 減衰量(dB) ACM2012H-900 従来品 6 UP HDMI向けCMF 8 10 12 6GHz (Typ.) UP ACM2012D-900 3.5GHz(Typ.) ACM2012-900(std) 1.6GHz 14 16 18 20 1 10 100 周波数 (MHz) 1000 10000 図11 高帯域・高品質巻線タイプ CMF 2.0mm×1.2mm 小型(1.2mm×1.0mm) シングルタイプ ACM2012H-900-2P 6GHzカットオフ周波数 巻線工法 2.0mm×1.2mm×1.2mm 1080p-Deep Color (2.225Gbps) TCM1210H-900-2P 6GHzカットオフ周波数 薄膜工法 1.2mm×1.0mm×0.6mm 1080p-Deep Color (2.225Gbps) Low profile & array(2.0mm×1.0mm) アレイタイプ TCM2012H-900-4P Thin film type 低ストローク特性 1080p-Deep Color (2.225Gbps) 68 TCM1210U-500-2P 8GHzカットオフ周波数 薄膜工法 1.2mm×1.0mm×0.6mm DisplayPort対応 (2.7Gbps) 図12 DVI(UXGA:1.65Gbps)波形測定条件 Tektronix TDS6604 ACM2012H-900 Differential probe(P7330) Clock IC(Tx) Data0 IC(Rx) Data1 Data2 DVI cable AGP video card DDWG test access board with receptacle (TPA-R) 3)特性インピーダンスへの対応 図13 HDMIの規格の中にTDR(Time Domain Reflectometry)と (a)HDMIの波形 いう特性が規定されています。これは、高速の信号を送るため、伝 送線路の特性インピーダンスを規定しているもので、ICを搭載す るPCB上のパターン、伝送線路の大部分を占めるケーブル、接続 用のコネクタなどに対し、100±15Ωと規定されています。TMDS 用(あるいはDVI用、HDMI用)として推奨されていないコモンモ ードフィルタを、EMI対策のためにTMDSラインに不用意に挿入 ACM2012H-900挿入 従来型コモンモードフィルタ 挿入 すると、この規定に外れて、HDMIの場合、相互接続性を規定して いるテスト条件に合格できなくなります(HDMIには相互接続性 を保証するためにコンプライアンステストが規定されており、こ れに合格しないとHDMI機器として認められないことになります)。 HDMI用コモンモードフィルタでは、線路間の特性インピーダンス が100Ωに設計されていますので安心して挿入することができます (図14)。 (b)送信基板側でのDisplayPort波形(2.7Gbps伝送時) (c)10mケーブル使用時の受信基板側でのDisplayPort波形 (2.7Gbps伝送時) No-Filter 図14 TCM1210U-500-2P 120 特性インピーダンス(Ω) No-Filter 100 80 60 40 TCM1210U-500-2P 100psec./div 特性インピーダンスが低いコモンモード フィルタ(55Ω) HDMI用コモンモードフィルタ ACM2012H-900(特性インピーダンス100Ω) 69 4)EMI測定例 HDMIにおけるEMI対策の効果例を図15に示しておきます。また、 図17 DisplayPortが無線機器(WLAN)に与える影響を 検証(測定条件) 使用部品の搭載回路例を図16に示しておきます。 使用したコモンモードフィルタ TCM1210U-500-2P Anechoic chamber (dBμV) (dBμV) 図15 HDMI機器でのHDMI用フィルタによるEMI低減効果 Peak level 70 60 50 40 30 20 10 0 10 Resolution: 1600x1200(UXGA) DP(Tx) WLAN antenna 100 70 60 50 40 30 20 10 0 10 1000 周波数(MHz) ノートPC (DUT) 10000 1000 周波数(MHz) Coaxial cable WLAN仕様: IEEE802.11b チャネル1: Ch8 周波数: 2447MHz 10000 DP (Rx) 100mm Monitor ノートPC(DUT) DP (Rx) DP Side view DP (Tx) シールドBOX 図16 データチャンネル3対とクロック信号1対の合計4対の差 動ラインに同様の対策を施す ・ DisplayPortケーブルがNote-PC内蔵のWLANの受信感度にどれだけ影響を 与えるか検証。 ・ DisplayPortの送信側にはGraphicボードを使用。コモンモードフィルタは DisplayPortコネクタの根元に取り付けられている。 ・ 受信側にはW-QXGA対応のLCDモニタを使用した。 HDMI用コモンモードフィルタ (ACM2012H-900) D+ Top view DP WLAN テスタ 100 DP cable HDMIケーブル D- シンクデバイス (Rx) 図18 DisplayPortが無線機器(WLAN)に与える影響を 検証(測定結果) フラットTV等 100 90 ソースデバイス(Tx) DVDプレイヤ等 DisplayPortでは他のインタフェース同様、輻射ノイズを考慮し なければなりませんが、 PC/ディスプレイが対象セットとなるため、 PCに搭載されるWLAN、Bluetoothなどの無線機器に対するノイ ズ干渉を考慮する必要があります。このノイズ干渉問題においても Packet error tate(%) 80 70 60 50 40 30 コモンモードフィルタが有効となります。図17は無線機器の影響を 20 検証するための測定図です。図18に測定結果を示します。無線機器 10 0 -30 としてはWLANを使用しました。2.4GHz帯の11bですが、ノイズ 対策部品なしの場合と部品搭載時のWLAN受信感度が異なること が確認されます。フィルタ搭載により2dB ∼ 3dB程改善されてい ることが示されます。 このようにノイズ対策と言えばFCC、CISPRのようなノイズ規 格に準拠するために行ってきたのに対して、今後は無線機器など実 際の機器動作に影響を与える電磁雑音に対して対策を行っていかな No filter With TCM1210U-5002P -32 -34 -36 -38 -40 -42 -44 -46 -48 -50 Power level(dBm) ・ No filterは、 フィルタを搭載せずにショートした状態を意味する。 コモンモードフィルタはTCM1210Uを使用。 ・ 縦軸のPacket error rateは送信パケット (1000 packets)に対するエラーパケット 数で計算。 ・ 横軸はWLANテスタのPowerを表す。 フィルタによって2dB程度の感度改善が見ら れる。 ければならない時代となっていくことが予想されます。 70 4 コモンモードフィルタはどのように差動信号の ノイズを抑えるのか? 図19は、すでに述べたような一般的に使用されている差動伝送 方式の周波数において、PCBのパターンがどのくらいずれると すでに紹介したように、差動伝送方式が多く使われるようになっ SKEWが発生し得るのかをグラフにしたものです。各周波数で、 てきていますが、より詳細にコモンモードフィルタがどのように差 1%のSKEWが発生するのに必要な伝送時間を簡単に計算したもの 動信号のEMIを低減させているのかについて、基礎的な実験の結果 で、例えばDVI/HDMIのように800MHz程度の信号になりますと、 を基に紹介します。 パターンの長さのずれが約2mm位で、約1%のSKEWを起こし得 ここでは実験を単純化するために、実際のICではなく信号発生器 るという結果になります。高次の高調波成分では更に厳しいパター を用いて、正確な信号を使用し、差動信号にSKEWを与え、その ン設計が必要とされます。 差動ラインにコモンモードフィルタを挿入し、その効果を確認して 図20は、実験に使用した装置と回路図です。信号発生器からの いきます。 差動信号を基板で受けて部品を載せるパターンを用意し、100Ωの ICの出力自体ですでにSKEWを持ってしまっていることもあり 特性インピーダンスをもつ約1mのシールドケーブルを取り付けて ますし、立ち上がりと立下りの特性のばらつきにより差動信号伝送 100Ωで終端しています。ここでは、基本周波数を100MHz、振幅 においてSKEWが発生することがあります。また、ICから出た差 400mVとしてSKEWを0−3%変化させることで、その波形、EMI 動信号をPCBのパターンや、ケーブルで伝送するときにその長さ を観測しました。 の違いから、受信端に届くまでの距離の違いなどが生じSKEWと 図21-1は、SKEWが0 % の 時 の 波 形 に な り ま す。Throughは、 して観測されてしまうこともあります。 ノイズ部品がないときの波形です。ACM2012-201-2Pは、USB、 IEEE1392などのEMI対策によく使用されているコモンモードフィ 図19 周波数特性例 PCB のパターンずれ(mm) 100 ルタです。比較対照として、差動信号以外のEMI対策によく使用さ れているチップビーズを測定してみました。 Ex.: DVI,HDMI harmonics frequency 1段目の波形は、差動信号そのものをシングルエンドのプローブ で測定したものです。2段目の波形は、差動信号を足し算して、コ 10 モンモード電圧を測定したものです。ここに電圧が発生すると、そ れがEMIとして放射ノイズを発生させることになります。 1 2 1 3 4 3段目の波形は、差動信号の差を求めたもので、この波形が受信 5 端のICの入力として伝送されます。注目するのは2段目のコモンモ ード電圧です。 0.1 100 1000 図21-2は、信号発生器からの差動信号に1%のSKEWを与えたと 10000 きのものです。少しですが、コモンモード電圧が観測されています。 周波数(MHz) 条件:ガラスエポキシ基板上伝送ラインε4.5で計算 ε4.5ガラエポキシ基板上の信号伝搬速度141,323km/秒 ただし、EMI部品なし>チップビーズ>コモンモードフィルタの順 に電圧の発生が少なくなっており、ACM2012のコモンモードフィ 図20 実験用装置と回路図 テスト条件 オシロスコープ TDS6604 放射ノイズ 信号発生器 DTG5274 100Ω終端 テストポイント コモンモードフィルタ or チップビーズ 50Ω STP:1.0m サンプル: コモンモードフィルタ TDK ACM2012-201-2P チップビーズ 信号源: 信号発生器 周波数 100MHz 電圧振幅 400mV SKEW 0∼±3% 71 50Ω ルタを挿入したときにはほとんど観測されていないことがわかりま モンモードフィルタを挿入していると、SKEWが補正されてほと す。これが、コモンモードフィルタのSKEWの補正効果といえます。 んど発生していないことがわかります。またチップビーズでは、差 図21-3、図21-4は、信号発生器からのSKEWを2%、3%を大き 動信号、受信端での信号の電圧振幅に若干の影響を与え、波高値が くしていったときの波形になります。コモンモード電圧の発生が、 小さくなっていることが観測されます。 EMI部品なしとチップビーズでは、徐々に上がっていきますが、コ 図21-1 Skewをかけたときの波形データ SKEW:0% 立上り特性に影響なし 立上り特性・波高値に少し影響している EMI部品なし コモンモードフィルタ挿入 チップビーズ挿入 EMI部品なし コモンモードフィルタ挿入 チップビーズ挿入 EMI部品なし コモンモードフィルタ挿入 チップビーズ挿入 EMI部品なし コモンモードフィルタ挿入 チップビーズ挿入 図21-2 SKEW:1.0% 図21-3 SKEW:2.0% 図21-4 SKEW:3.0% 72 図22は、このコモンモード電圧の変化をグラフにプロットしたも 図23 EMI放射の抑制効果 のです。コモンモードフィルタの場合、SKEWが大きくなっても SKEW:1.0% 80 図22 SKEWによるコモンモード電圧の発生 60 レベル(dBμV/m) ほとんどコモンモード電圧の発生がないことがわかります。 1200 800 Harmonic noise 40 20 600 0 400 200 50 100 周波数(MHz) 500 1000 500 1000 500 1000 SKEW:2.0% 0 −4 −3 部品無し −2 −1 0 1 SKEW(%) コモンモードフィルタ 2 3 80 4 チップビーズ 図23は、3m法の電波暗室内でEMIの放射特性を測定したデータ ですが、コモンモードフィルタの方が、圧倒的にEMI抑制効果があ ることを示しています。 レベル(dBμV/m) コモンモード電圧(mV) 1000 EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ 図24は、EMI放射特性を、基本波を含めて奇数次の高調波につい 60 40 20 0 てグラフにプロットしたものです。 EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ 50 チップビーズの場合基本波の振幅に多少影響をおよぼしているた め、0%の時にコモンモードフィルタよりEMIの発生が少し抑えら SKEW:3.0% 80 れています。コモンモードフィルタは、波形を乱すことなく忠実に 9次までの放射特性では、コモンモードフィルタがSKEWの大きさ に係らず、高周波まで良好にEMI放射を抑制していることがわかり ます。 このようにコモンモードフィルタは、原理的にSKEWの補正効 レベル(dBμV/m) 伝送しているため、EMI部品なしのときより下がっていますが、チ ップビーズの時より少し大きめの放射特性を示しています。3次̶ 100 周波数(MHz) 果を示しながら、本質的なところでEMIの対策を行っていることが 60 40 20 0 わかります。 実際のICなどでも、このような効果は期待できるものであり、よ り高速になっていく差動信号のEMI対策に、コモンモードフィルタ は、欠かせない大切な部品として注目されているのです。 図25、図26に代表的なコモンモードフィルタの例を示します。 73 EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ 50 100 周波数(MHz) 図24 高調波スペクトラムのEMI放射抑制効果 700MHz 100MHz 80 80 EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ 60 50 40 60 50 40 30 30 20 −3 −2 −1 0 1 SKEW (%) 2 20 3 300MHz −3 −2 −1 0 1 SKEW (%) 2 3 2 3 900MHz 80 80 EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ 70 EMIレベル(dBμV/m) 70 EMIレベル(dBμV/m) EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ 70 EMIレベル(dBμV/m) EMIレベル(dBμV/m) 70 60 50 40 30 60 50 40 30 20 −3 −2 −1 0 1 SKEW (%) 2 3 2 3 20 −3 −2 −1 0 1 SKEW (%) 500MHz 80 EMI部品なし コモンモードフィルタ チップビーズ EMIレベル(dBμV/m) 70 60 50 40 30 20 −3 −2 −1 0 1 SKEW (%) 図25 コモンモードフィルタの例(1) ACM2012タイプ 形状・寸法と推奨ランドパターン 0.4 0.4 0.6 0.75 1.1 0.75 0.3 0.5 0.05 0.3 0.8 3 1.2±0.2 4 2 1.3max. 1 0.4 2.0±0.2 1.2 0.4 0.4 Dimensions in mm 電気的特性 品名 ACM2012-900-2P ACM2012-121-2P ACM2012-201-2P ACM2012-361-2P ACM2012-102-2P インピーダンス 直流抵抗 (Ω)typical[100MHz] (Ω)max.[1ラインあたり] 90 0.19 120 0.22 200 0.25 360 0.5 1000 1.1 74 定格電流 Idc(A)max. 0.4 0.37 0.35 0.22 0.1 定格電圧 Edc(V)max. 50 50 50 50 50 絶縁抵抗 (MΩ)min. 10 10 10 10 10 図26 コモンモードフィルタの例(2) TCM1210タイプ TCM1608タイプ 形状・寸法 形状・寸法 3 1 2 0.8±0.1 4 0.4±0.1 0.4±0.1 1.25±0.1 0.55±0.1 0.6+±0.1 0.25±0.15 8 7 6 5 1 2 3 4 0.16±0.1 1.6±0.1 1.0±0.15 0.2±0.1 Dimensions in mm 0.3±0.1 Dimensions in mm 電気的特性 品名 TCM1210-650-2P TCM1210-900-2P TCM1210-201-2P TCM1210-301-2P TCM1608-350-4P TCM1608-650-4P TCM1608-900-4P TCM1608-201-4P インピーダンス 直流抵抗 (Ω)typical[100MHz] (Ω)max. 65 1.5 90 1.75 200 2.7 300 3.5 35 0.85 65 1.3 90 1.5 200 3.0 定格電流 Idc(A)max. 0.1 0.1 0.1 0.05 0.1 0.1 0.1 0.05 ・動作温度範囲:-25 〜 +85℃ 75 定格電圧 Edc(V)max. 10 10 10 10 10 10 10 10 絶縁抵抗 (M Ω)min. 10 10 10 10 10 10 10 10
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