1.研究の目的 「ビッグイシュー」はイギリス(ロンドン)で始まったホ

ビッグイシューによるホームレス自立支援について
R03042 塩田 純也
指導教員 盛 香織
1.研究の目的
「ビッグイシュー」はイギリス(ロンドン)で始まったホ
ームレスの人々に収入を得る機会を提供する事業であるが、
日本でどのくらい浸透しているのか、またどれくらいのホ
ームレスの人々が「ビッグイシュー」を基に自立すること
が出来ているのかを検証する。そして、ホームレスという
社会問題がどのような背景で生じているのかを明らかにし、
今後更にホームレスの人々の自立を促すためにはどうすれ
ばいいのかということを研究の目的とする。
2.研究の方法
インターネット、文献を参考にし、ホームレスという社
会問題がどのような背景で生じているのかを明らかにする。
そして、ビッグイシューの事務所に、どれくらいのホーム
レスの人々がビッグイシューを基に自立することが出来て
いるのかを質問し、ビッグイシューが自立するために役に
立っているのか等を検証する。
3.ホームレスの現状
平成15年1月から2月にかけて厚生労働省が「ホーム
レスの自立に関する支援特別措置法」に基づき全国でホー
ムレスの実施調査を行った。その結果、全国で 25,296 人
のホームレスが確認されている。その後全国的な調査は行
われていないが、増加傾向にあるのは確かで
ある。
主要 都市における ホー ム レスの 数( 平成 1 5 年 )
ホ ー ム レスの数( 平成1 5 年 )
9000
8000
7000
3886人
749人
男性
女性
不明
20661人
6000
5000
人
4000
3000
2000
1000
0
7757
6361
2121
1187
東京都
愛知県
大阪府
福岡県
4.ホームレスの生じる背景
近年の日本では正規雇用労働者とその家族の生活をモデ
ルとした「生きていく場所」自体が大きく転換し、
「非正規
雇用」が全般的に拡大することによって、あるいは家族の
縮小や非婚化がホームレスの生じる背景になっている。こ
の中で、日雇のような不安定就労の形態やライフサイクル
の特定時期が貧困を代表するという構図が崩れ始め、多様
な「非正規雇用」の再編成、単身世帯の増大などが顕著に
なってはいるが、近年の「ホームレス」の主要部分がこの
ような「場所」の入れ替えの中で生じている。
下図は厚生労働省による路上生活になった主な理由の調
査結果である。「仕事が減った」が 768 人(35.6%)と最も多
く、次いで「倒産・失業」が 708 人(32.9%)となっており、
やはり仕事関係が原因であることがわかる。
路上(野宿)生活になった 理由
倒産・失業
仕事が減った
病気・けが・高齢で仕事ができなくなった
収入が減った
ローンが払えなくなった
家賃が払えなくなった
ホテル代、ドヤ代が払えなくなった
建て替え等による住宅の追い立てにあった
借金取立により家を出た
差し押さえによって立ち退きさせられた
病院や施設などから出た後行く先がなかった
家庭内のいざこざ
飲酒、ギャンブル
その他
理由なし
0
100
200
300
400
500
600
700
800
件数
5.ホームレスへの対策
5−1.日本(厚生労働省)の取り組み
ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法に基づき、
国は、平成15年7月末に「ホームレスの自立の支援等に
関する基本方針」
(以下、
「基本方針」という。
)を策定し、
雇用、住宅、保健医療、福祉等の各分野にわたる施策を推
進するための方針を示している。
ホームレス対策事業については、総合相談推進事業等を実
施するとともに、生活相談・指導、職業相談、健康診断等
を行う自立支援事業の実施箇所数の増を図ることとしてお
り、積極的な取り組みを図るとともに、必要に応じて、社
会福祉法人、NPO等の民間団体との連携、協力の下での
事業の実施を検討するとしている。
5−2.城北労働・福祉センターの活動内容
山谷地域の日雇労働者は、高齢化や就業構造の変化など
により、失業の常態化や野宿化が顕著な状況である。この
ため、財団法人城北労働・福祉センターでは、短時間の軽
作業の機会を提供し、就労意欲を引き出すとともに、一定
期間継続して就労させることにより、定期的な就労習慣を
回復させる就労自立支援事業を実施している。また、労働
者の生活相談、訓練も実施している。
6.ビッグイシューとその仕組み
●「ビッグイシュー」はイギリス(ロンドン)で成功し現在、
世界 28 カ国、55 都市に広がっているホームレスの人にし
か売ることが出来ないストリートペーパーのことで、
「ビッ
グイシュー」の使命はホームレスの人々の救済(チャリテ
ィ)ではなく彼らの仕事をつくることにある。
ビッグイシュー日本版は 2003 年に大阪で創刊され、2004
年 9 月より月2回発行体制となった。大阪で販売を開始し
た当初は 19 人だった販売員が、今では 6 倍の約 120 人に
まで増加した。大阪のみだった販売地域も東京、京都、神
戸と現在、10 都市までに拡大した。
●具体的な仕組みは、最初一冊 200 円の雑誌を 10 冊無料
で受け取り、この売り上げ 2,000 円を元手に、以後は定価
の 45%(90 円)で仕入れた雑誌を販売、55%(110 円)
を販売者の収入とするというものである。
●右図はホームレス自立への
三つのステップアップを表し
たものである。今、販売員の
多くは第 2 ステップに挑戦中
である。
ホームレス自立への三つのステップ
①易宿泊所(1泊千円前後)などに泊まり路
上生活から脱出
(1日25∼30冊売れば可能に)
②自力でアパートを借り、住所を持つ
(月2回刊により、1日35∼40冊売り、毎日
1000円程度を貯金、7∼8ヶ月で敷金をつくる)
③住所をベースに新たな就職活動をする。
7.ビッグイシューの読者像
ビッグイシューの読者像は、社会問題を自分のこととし
て考える、オピニオンリーダーの素質を持った若い人たち
である。読者の 64%が女性で、年齢では 20∼30 代の人が
6 割を占めている。20∼30 代は、仕事時間が長く、テレビ、
新聞などの既存のメディアとの接触が少ない人々であると
いう調査結果があり、このような人々とビッグイシューは
街角や駅、移動時間中にコンタクトし交流している。
購読者年代比較
10代 2%
60代 5%
50代
19%
20代 37%
1600
1400
1200
1000
800
600
人 400
200
0
購
読
者
数
男性
女性
(
40代
17%
男女別購買層比較
30代
21%
)
10代
20代
30代
40代
50代
60代
8.ビッグイシューの自立への貢献度と問題点
ビッグイシュー創刊号は、一人1日平均 32 冊を販売し
ており、1冊 90 円の仕入れを差し引いたとしても 3,520
円の収入が得られ、簡易宿泊所と3度の食事代はまかなえ
る計算である。多い人で1日 50 冊程度売っており、1ヶ
月の収入で 10 万円以上稼いでいる計算になる。しかし、
売り上げが季節や天候に左右されるため安定した収入を得
るのは難しいといえる。また、販売場所は道路、ガード下、
商店街、駅構内などで、場所によって、国、都、区、鉄道
会社、商店会など許可する団体、部署がバラバラなため、
申請自体が難しく販売場所を制限されてしまうという問題
もある。更に、ある程度貯金ができアパートを借りるとい
うとき現住所がないため借りられないといった問題も多々
あるようである。
現在、120 人中 51 人が簡易宿泊所やアパートを借りる
など路上生活から脱却できている。しかし、本来の目的で
ある“自立”に関しては思うようにいかず、別の仕事に就
けたのは約 30 人程度である。
9.ビッグイシュー日本の取り組み
9−1.売上げを伸ばすために実施していること
●月に一度、新宿、池袋、上野のいずれかでミーティング
が開かれている。時間は 2 時間から 2 時間半ほどで、主に
情報提供や意見交換などを目的としており、強制参加では
ない。自己紹介から始まり、各区域のリーダーが、1 ヶ月
間の平均販売数やその月の出来事について報告したり、他
の販売員の販売方法を実演し合ったりもする。また、炊き
出しやホームレスの寝床等で直接話したり、勧誘のチラシ
を配布している。
●ボランティアの協力を得て、販売員のモチベーションア
ップのために、一緒に立って販売の応援をする。
●クラブ、イベント会場等で販売を実施し、販売員の気分
転換、臨時収入につなげている。
9−2.NPOとの協力
大阪市西成区にある「NPO釜ヶ崎支援機構」と協力を
し、大阪事務所とは別のビッグイシューの仕入れ場所とし
ている。また、販売員の様子など、随時連絡を取り合って
いる。
9−3.今後の予定
ホームレスの人々全体をも対象とした、生活自立、就業
トレーニング、スポーツ・文化活動の三つ観点から自立と
社会復帰をするための事業プログラムを推進するため、ビ
ッグイシューファウンデーションの創設を検討しており、
現在その事業構想案まで完成にいたっている。
10.考察
現在、120 人中 51 人と約半分の人が路上生活から脱却
できており、別の仕事に就けたのは約 30 人である。創刊
から3年目ではあるが、新たなビジネスモデルであり、最
初はビッグイシューのスタッフも販売員も手探り状態であ
ったということを考えると決して悪い結果とは言えないの
ではないだろうか。問題はこれからである。一刻も早くビ
ッグイシュー・ファウンデーションを設立し、販売員の健
康管理や売り方のアドバイスをする生活自立支援や、履歴
書の書き方やパソコンの使い方を教える就業支援等を行え
るようにしなければならない。
また、国や地方公共団体の雇用、福祉、住宅等各分野に
おける協力も必要不可欠であるといえる。例えば、販売場
所の許可や現住所を持っていないために入居できないとい
った問題はどうすることもできない。やはり、自立支援や
生活相談等だけではなく根本的に制度を見直す必要がある
と思われる。
11.おわりに
「住居が定まらない」ということの人に与える影響は大
きい。
「帰れる場所がある」ということほど生きていて安心
することはない。
「帰れる場所」とはつまり「自分の居場所」
である。もし帰る場所が無かったら、人は、計り知れない
恐怖と絶望感を感じるだろう。住居があるということはプ
ライバシーが守られ、自分らしくいられる。集団の中で生
活する人間にとって唯一自分でいられる時間である。
あくまでも、このビッグイシューや自立支援制度等は自
立するための一つの方法であり、生きるための術でしかな
いといえる。本当の自立をするためには、個人の社会的自
立と精神的自立が必要である。
12.参考文献
・ホームレス/現代社会/福祉国家
・ビッグイシューと陽気なホームレスの復活戦
・ビッグイシュー日本hp(http://www.bigissue.jp/)
・厚生労働省hp(http://www.mhlw.go.jp/)
・城北労働・福祉センター(http://homepage3.nifty.com/johoku/)