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Ⅱ.ノルウェーにおける消費者教育
1.ノルウェーにおける消費者教育の概要
ノルウェーの消費者教育の方針は、ノルウェー政府が主体となって学校カリキュラムを
通じて策定し、学校教育の現場で実施されている。方針策定にあたっては、北欧閣僚評議
会の北欧諸国共通の消費者教育ガイドラインが用いられている。
現行のカリキュラム「ナレッジ・プロモーション」(Knowledge Promotion)(2006 年に導
入)では、義務教育課程、後期中等教育課程において、消費者教育は単独科目ではなく、
様々な科目の中で消費者教育の要素を学習する統合教科として実施されている。学習方法
としてはテーマ学習、課題研究、ゲーム学習等の生徒が主体となった学習方法が中心とな
っている。特に過去約 10 年間で、
「消費者市民」(consumer citizenship)と「持続可能な
消費」(sustainable consumption)の概念がノルウェーにおいて発展、普及し、ノルウェー
における消費者教育の重要な要素となっている。
2.消費者教育の実施主体、対象
(1)消費者教育の実施主体
ノルウェーにおいて消費者教育の方針を策定し、実質的に推進する主体はノルウェー中
央政府である。政府内では、子供・平等省(Ministry of Children and Equality)が消費者
教育を所管し、消費者教育に関わる部分の教育カリキュラム策定支援、学校現場における
消費者教育の実践支援(生徒、教員向け教材の作成、配布、消費者知識のテストの実施等
を通じて)を行っている。大学と協力して消費者教育における教員養成も実施している20。
教育・研究省(Ministry of Education and Research)は教育カリキュラム全体の策定を
担当している。
就学前教育の保育園・幼稚園は教育・研究省が所管している(2005 年秋に子供・家族問
題省(Ministry of Children and Family Affairs)から移管)。
初等教育及び前期中等教育はノルウェー中央政府が、規則、教育の内容、資金面での責
任を持ち、市政府は学校の運営に対して責任を有している。後期中等教育は、ノルウェー
中央政府が同様に規則、教育の内容、資金面での責任を持ち、県政府が学校の運営に責任
を持っている21。
ノルウェーの消費者教育において、非営利組織及び民間企業の役割は限定的である。教
育現場では、一般的に企業が作成した教材を授業で活用することや学校が企業をスポンサ
ーとすることは避けられる傾向にあると言う22。
20
ノルウェー政府 子供・平等省消費者部門、上級アドバイザー オーレ・エーリック・イル
ヴィン氏とのインタビュー
21
Norwegian Ministry of Education and Research,“Education-from Kindergarten to Adult
Education”
22
同上 及び OECD(2009),“Promoting Consumer Education: Trends, Policies and Good
Practices”
20
(2)消費者教育の対象
①ノルウェーの学校制度
ノルウェーの学校制度は 10 年間の義務教育(7年間の初等教育(6 歳∼12 歳)
、3年間
の前期中等教育(13 歳∼15 歳)、3年間の後期中等教育(16 歳∼18 歳)
、3年間以上の高
等教育(19 歳∼)から構成される。義務教育前には保育園・幼稚園(0 歳∼5 歳)で就学前
教育が行われている23。
図表 13 ノルウェーの学校制度
年齢
学
年
19
14
18
13
高等教育
後期中等教育
16
11
13
8
義務教育(前期中等教育)
義務教育(初等教育)
6
1
就学前教育
資料)外務省ホームページ 諸外国の学校情報
Norwegian Ministry of Education and Research
“Education-from Kindergarten to Adult Education”
②消費者教育の対象
消費者教育は、就学前教育、初等教育、前期中等教育、後期中等教育において実施され
ている。主な対象は初等教育以降の生徒であるが、就学前教育においても消費者教育は実
施されている。
23
後期中等教育における職業教育課程等は省略している
21
3.ノルウェーにおける消費者教育の歴史
(1)1960 年代∼1970 年代
我が国では北欧の消費者教育の取組みとして、1970 年代のマルメ・プロジェクト(北欧
諸国の消費者教育関係機関が連携して消費者教育のカリキュラムや教材開発を行った)が
有名である。しかし、ノルウェーにおける消費者教育の歴史はマルメ・プロジェクト以前
に遡ることができる24。
1960 年代からノルウェー消費者委員会(The Norwegian Consumer Council)は学校にお
ける消費者教育に関する取組みを開始している。取組み成果の一つとして、大学出版社と
協力を行って作成した教員向け消費者教育教材(ブックレット)「The Basic Book in
Consumer Teaching」の作成が挙げられる。
1971 年に策定された教育カリキュラムにより、初等教育において消費者教育は必須テー
マとなった。学習方式としては、消費者教育は単独科目としてではなく、様々な関連教科
の中で学際的に採り上げられる統合教科として開始された。新カリキュラムに沿って、ノ
ルウェー消費者委員会は消費者教育の様々な教材開発を行い、1973 年には 12 万部の教材の
コピーが 250 以上の学校に配布された。
1971 年から 1977 年にかけてスウェーデン、マルメ市の教員養成大学「ルァーレルフォグ
スコーラン」(Lærerhøgskolan)でマルメ・プロジェクトが実施された。ノルウェー消費者
委員会はマルメ・プロジェクトをはじめとして、北欧諸国間の消費者教育における連携の
動きに積極的に参加した。マルメ・プロジェクトでは9つの教材が開発され、これらは教
員と生徒によって実際に試された後に、通常の配布教材として使われることとなった。
(2)1980 年代∼1990 年代
①債務危機
ノルウェーでは、1980 年代の金融、住宅市場の規制緩和の結果として、1988 年∼1993 年
に累積債務危機が発生した。当時、ノルウェー人口の 60%が銀行で住宅ローンを組んでいた
ため、債務危機が生活に与える影響は大きかった。ノルウェーでは危機のピークは 1990-91
年に訪れ、他の北欧諸国も同様に危機に陥った25。
こうした状況下で、債務危機の再発を避けるために消費者教育は何ができるのかという
議論が行われた。ある調査によると、債務危機というノルウェー社会の現役世代が未経験
の事態を前に、当時の若者は、両親の世代の経験は自分たちの世代にとって既に時代遅れ
のものと感じており、新しい消費者教育が若者にとって必要とされていた。しかしながら、
当時のノルウェーには、消費者教育の正確な定義は見られなかった。そこで、消費者教育
で求める事項に関して、政府、教育関係者の間での対話が開始された。
1990 年代には同時に学校制度の大改革が行われた時代であった。1997 年に義務教育期間
は従来の9年間から 10 年間に拡大された。改革には学校カリキュラムの改定も含まれ、1994
年には後期中等教育課程(16 歳∼18 歳)で新カリキュラム(R94)、1997 年には義務教育課
24
25
「(1)1960 年代∼1970 年代」については、元ノルウェー消費者委員会情報部部長、マルメ・
プロジェクト ノルウェー代表 カリン・ホルタン・ノデネス氏へのインタビュー より
「①債務危機」については、Ole-Erik Yrvin(1999), “Experience 4: Curriculum development
in consumer education Norway”より
22
程(初等教育課程及び前期中等教育課程、6歳∼15 歳)で新カリキュラム(L97)が導入さ
れた。
②義務教育課程カリキュラム(L97)
義務教育課程(6歳∼15 歳)における新カリキュラムは 1997 年に導入された。新カリキ
ュラムは人間と自然との共生、人間らしさ、持続可能な発展につながる価値観を教える必
要性を重視している点が特徴であった。
消費者教育は新カリキュラムの中で強調され、単独科目ではなく、様々な関連教科の中
で学際的に採り上げられる統合教科として実施された。消費者教育の要素は、「家計」「消
費者の権利と責任」
「広告と影響力」
「消費と環境」
「食育」「安全」であり、1995 年に策定
された北欧閣僚評議会による北欧諸国共通の消費者教育ガイドラインを用いている。消費
者教育の要素は、家庭科を始めとして、社会科学、ノルウェー語、芸術、数学、体育、キ
リスト教(宗教と倫理)等、様々な科目で教えられることとなった26。
当時の教会・教育・研究省(Ministry of Church, Education and Research)は子供・家
族問題省(Ministry of Children and Family Affairs)と協力して、義務教育課程におけ
る消費者教育のガイドライン27を発行し、ノルウェーの全ての学校に配布している。ガイド
ラインでは 15 の指導例を掲載している。
③後期中等教育課程カリキュラム(R94)における消費者教育
後期中等教育課程(16 歳∼18 歳)における新カリキュラムは 1994 年に導入された。新
カリキュラムにおいては、家計に関する授業を強調する Grete Berget 前子供・家族問題省
大臣、Gudmund Hernes 前教会・教育・研究省大臣らの主導によって、単独科目「経済とI
T」(Economy and Information Technology)が、消費者教育の一つとして実施されること
となった28。
「経済とIT」の主な目的は、①経済的な選択は価値に基づくものであるという意識を
生徒の間で高める、②広告の影響力からの独立性を高める、③基本的な知識、専門的な知
識を発展させる、④日常生活上の問題を解決する能力を発展させ、急速に変化する社会に
対応できる準備を行う、となっている。経済の知識、能力を発展させると同時に、情報通
信技術の急速な発展に対応して、批判的な消費者として相応しい能力を身につけることが
主な目的である。
経済については家計を重視しつつも、マクロ経済の初歩もカリキュラムに含まれていた。
26
27
28
The Consumer Council of Norway(2002), “Consumer Education in schools”, The Consumer
Council of Norway, The Ministry of Children and Family Affairs, The Ministry of Church,
Education and Research(1998), “Selections from the Consumer Education Guide for Primary
Schools in Norway”
英訳版は The Consumer Council of Norway, The Ministry of Children and Family Affairs,
The Ministry of Church, Education and Research(1998), “Selections from the Consumer
Education Guide for Primary Schools in Norway”
「③R94」については、Ole-Erik Yrvin(1999), “Experience 4: Curriculum development in
consumer education Norway”,The Consumer Council of Norway(2002), “Consumer Education
in schools”
23
情報通信技術(Information and Communication Technology)における訓練も重視され、経
済の問題を解く際には ICT 技術が応用された。
「経済とIT」は高等学校の新入生のうち約半数の生徒にとっては必修科目で、週に5
回の授業を受けることとされていた。5回の授業のうち、2回までの授業で消費者教育に
該当する要素が教えられていた。消費者権利は、「法律」の授業の中で扱われ、全ての 18
歳の生徒のうち約 10%が授業を受講していた。
(3)2000 年以降
①新カリキュラム「ナレッジ・プロモーション」
(Knowledge Promotion)の導入
2006 年秋には義務教育課程及び後期中等教育課程の新カリキュラム「ナレッジ・プロモ
ーション」が導入された。
「ナレッジ・プロモーション」は生徒が社会に積極的に参加する
ための基礎的な技術と能力を発展させることを主目的としている。基礎技術としては、「口
頭で自分を表現する能力」「読む能力」「計算能力」「文章で自分を表現する能力」「情報通
信技術を活用する能力」が挙げられる。
従来の学校教育からの主な変更点は、①基礎技術の重視、②1年生(6歳)からの読み、
書きを重視、③各科目について生徒が身に付けるべき能力に関する目的を明確に記載して
カリキュラムをつくる、④中等教育課程で新しい構成の授業を導入する、⑤学習方法、教
材、教育の構成については地域の選択を重視する、点である29。
②「ナレッジ・プロモーション」における消費者教育
義務教育課程における消費者教育は、引き続き統合教科として実施されることとなった。
後期中等教育課程では、消費者教育の中心であった「経済とIT」が廃止され、消費者教
育の要素は社会科学、食品と健康、ノルウェー語、自然科学、芸術と工芸、持続可能な発
展など、関連する様々な科目の中で学際的に統合教科として、教えられることとなった30。
「経済とIT」がカリキュラムから姿を消した理由の一つとして、新カリキュラムでは
情報通信技術(information and communication technology)は一つの科目ではなく、全て
の科目と統合して教えるべきと定められ、経済については、これまでのように家計中心で
はなく、マクロ経済などを含めた通常の形の経済学を学ぶことが定められたからである。
消費者教育に関しては、以前のカリキュラムと比較して徹底したものではなくなったが、
新カリキュラムにおいて消費者教育の優先度は全般的に高くなっている。特に、持続可能
な消費(sustainable consumption)はより改善され、その他の要素も多くの科目で網羅され
ている。特に、ソーシャル・スタディーの科目で消費者教育関連の要素が多く見られる。
29
30
Victoria Thoresen(2005), “The Consumer: A Fellow Human Beiing”
「②」については、ノルウェー政府 子供・平等省消費者部門、上級アドバイザー
エーリック・イルヴィン氏とのインタビュー
24
オーレ・
③消費者市民(consumer citizenship)と持続可能な消費(sustainable consumption)の概念
31
ノルウェーの消費者教育において過去 10 年間に特に発展してきた概念は「消費者市民」
(consumer citizenship)と「持続可能な消費」(sustainable consumption)である。
消費者市民はもともと 1980 年代にカナダでつくられた概念で、オーストラリア、米国、
ヨーロッパにおいて過去数十年間において発展した(前述、P10)。ノルウェーにおいては、
コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークの活動、ノルウェー政府、教員養成大
学の協力もあり、過去 10 年間に発展している。
図表 14 コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークにおける消費者市民の定義(再掲)
消費者市民とは、倫理、社会、経済、環境面を考慮して選択を行う個人である。消費者市
民は家族、国家、地球規模で思いやりと責任を持って行動を通じて、公正で持続可能な発展
の維持に積極的に貢献する
資料)The Consumer Citizenship Network(2005), “Consumer citizenship education
Guidelines, Vol. 1 Higher Education”
消費者市民を育てる消費者市民教育(consumer citizenship education)は、自分自身の
消費態度と消費行動の結果に対する知識と洞察力を発展させること、生徒が自分自身の生
活を管理する能力を育てるのみならず、地球社会の集団生活の管理に参加することに貢献
することを目的としている。消費者市民教育とは、消費者教育、市民教育(civic education)、
環境教育(environmental education)を合わせた学際的な教育である32。
コンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク等が中心となった消費者市民教育の
ガイドライン(Consumer citizenship education: Gudelines Vol.1 Higher Education)の
策定、消費者市民教育に係る教員養成のための年次会議の開催等の取り組みにより、消費
者市民教育の教材が教員の間で普及し、教員が授業において消費者問題に触れることや、
消費者教育を市民教育と結びつけて実施することが容易になったと言える。
消費者市民の概念と同様に、近年、ノルウェーにおいては持続可能な消費の概念も発展、
普及している。持続可能な消費とは、「現在の世代のニーズと将来世代の商品とサービスに
対するニーズを経済的、社会的、環境的に持続可能な形で満たす」ことである33。1987 年に
国連環境と開発に関する世界委員会報告書「我ら共通の未来」(Our Common Future)で、
「持
続可能な発展」の概念が提言され、1992 年の環境と開発に関する国連会議(リオ・サミッ
ト)、2002 年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)
、持続
可能な消費と生産に関する 10 年枠組み(マラケシュ・プロセス)等によって、促進されて
きた。コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークは 2008 年に国連環境計画(UNEP)、
持続可能な消費教育に係るマラケッシュ・タスクフォース(Marrakech Task Force on
31
32
33
ヘッドマーク大学 准教授、コンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク代表、
ビクトリア・トールセン氏とのインタビュー
Victoria Thoresen(2005), “The Consumer: A Fellow Human Beiing”
United Nations(2003), “United Nations Guidelines for Consumer Protection (as expanded
in 1999)”
25
Education for Sustainable Consumption)による持続可能な消費教育に関する提言とガイ
ドライン34の策定に協力をしている。ノルウェーにおいても政府や教員養成大学の努力によ
り、持続可能な消費の概念が普及し、消費者教育の一部として持続可能な消費により焦点
が当てられるようになっている。
4.消費者教育の定義、目的、目標、学習領域、教育・学習方法
(1)消費者教育の定義、目的
ノルウェーの消費者教育の政策決定者は、北欧閣僚評議会による共通のガイドライン等
を重視し、カリキュラムの策定、教員養成、教員のための教材の道具として活用している35。
1994 年から導入された後期中等教育課程新カリキュラム(R94)の策定は、ノルウェーが関
わった 1995 年の北欧閣僚評議会の消費者教育共通ガイドラインの策定と並行して行われた。
1997 年導入の義務教育課程新カリキュラム(L97)策定にあたっても、北欧閣僚評議会による
消費者教育関連の文書は大変役に立つものであったと言う36。
図表 15 北欧閣僚評議会による消費者教育の定義及び目的(再掲)
学校における消費者教育の目的は、自立した、識別力のある、知識のある消費者を育てる
ことである。それは、消費者法、家計、経済、広告と影響力、消費と環境、地球上の資源、
住まい、衣類、価格と品質、食と健康のような領域に関する基礎的な知識を提供することに
よって、複雑で多面的な社会において消費者として存在するために必要な知識と洞察力を身
に付けさせることである。学校は、ライフスタイル、消費習慣、価値と態度について、生徒
がさらされている影響力に気づかせるよう貢献すべきである
資料)The Nordic Council of Ministers(1992),
“Konsumentundervisning i skolenforprosjekt”(Consumer education in schoolspreliminary project)
日本語訳は大原明美(2005)「消費者教育第3フェーズにおける
パイロット・ロールとしての「北欧型」消費者教育に関する研究:学校における消費者教
育を対象として」
(2)消費者教育の目標、学習領域
新カリキュラム「ナレッジ・プロモーション」において、消費者教育はソーシャル・ス
タディー、社会科学、食品と健康、ノルウェー語、自然科学、芸術と工芸、持続可能な発
展など、関連する様々な科目の中で学際的に統合教科として教えられている。「ナレッジ・
プロモーション」では、各科目で生徒が習得すべき能力(コンピテンス)を定めている。
①義務教育課程における消費者教育の目標
図表 16 は義務教育課程で、各科目において生徒が習得すべき能力のうち、消費者教育に
関連するものを抜粋して整理したものである。「ソーシャル・スタディー」「食品と健康」
34
35
36
UNEP and the Marrakech Task Force on Education for Sustainable Consumption(2008), “HERE
and NOW: Education for sustainable consumption Recpmmendations and Guidelines”
OECD(2009),“Promoting Consumer Education: Trends, Policies and Good Practices”
ノルウェー政府 子供・平等省消費者部門、上級アドバイザー オーレ・エーリック・イル
ヴィン氏とのインタビュー
26
の科目で消費者教育関連の能力が比較的多く置かれているが、「ノルウェー語」「数学」「自
然科学」「英語」「美術・工芸」
「音楽」においてもいくつかの能力が目指されている。これ
らの科目の中で、北欧閣僚評議会の消費者教育共通ガイドラインに示された「家計」
「消費
者の権利と責任」「広告と影響力」「消費と環境」「食育」「製品の安全性と生活上の安全」
の分野における能力を生徒は身につけることとされている。
例えば、メディア、テクノロジーに関する能力としては、
「ノルウェー語」の科目では広
告、メディアの習性、利用されている言語とイメージの役割、「英語」の科目ではインター
ネットやパソコンなどのデジタルツールの活用と、デジタル情報に対する批判的見方、著
作権、個人情報保護に対する認識、
「ソーシャル・スタディー」ではマスメディアとコマー
シャルが消費習慣に与える影響、等を学ぶことが目指されている。
図表 16 消費者教育により生徒が習得すべき能力(義務教育課程)
科目
学年
7年生
(12 歳)
ノルウェー語
数学
自然科学
英語
ソーシャル
スタディー
10 年生
(15 歳)
生徒が習得すべき能力
文章、テレビ番組、広告、音楽、ドラマ、映画を評
価し、メディアの習性について説明できる
ドラマ、映画、音楽ビデオ、新聞、広告において使
われている美しく飾り立てた表現を説明し、言語と
イメージの様々な役割について議論、詳述
10 年生
(15 歳)
簡単な家計簿をつくり、計算をできるようになる
1-10 年生
(6 歳-15 歳)
自然の多様性についての知識の発達と自然の多様性
の尊重
いくつかの植物、動物の種、生態系の相互作用の要
素の名前を知る
持続可能な発展の必要要件、自然界における人間の
位置、どのように人間の活動が自然環境を地域規模、
地球規模でこれまでに変化させ、今後も変化させ続
けるのか
1-10 年生
(6 歳-15 歳)
言語技術を発達させ、他の国の人がどのように生活
し、人生に対してどのような考えをもっているかを
理解する
読む楽しさを教え、個人の成長、成熟、創造性の基
礎を作り上げる
英語でデジタルツールを使えるようになることで、
英語を真に使い、新たな学習の場を開く
デジタル情報の情報源を批判的に判断し、著作権の
問題、個人情報保護の問題を認識する
4年生(9 歳)
(地理学)
自分たちの出生地、生まれた自治体、県、国を、図、
地図、模型を使って、名前を挙げ、場所を示すこと
ができる
学校や自宅の周辺の地形を探索することで、地形の
形成、地理学の用語を表現することができる
27
科目
学年
生徒が習得すべき能力
ノルウェーの重要な風景、地形について、写真、フ
ィルム、その他の資料を活用して他人に説明するこ
とができる
地球儀、地図、デジタル情報から情報を集め、これ
らを使って、場所、人々、言語について話すことが
できる
世界の海洋、地域を示すことができ、主要な地理学
用語を使うことができる
コンパスを使って現在地を確認でき、何故、時差が
あるのかを説明することができる
ノルウェーでの生活と仕事を他国のものと比べる
地図とインターネットを使って、隣接地域への旅行
を計画し、示すことができる
(社会学)
家族の仕事、様々な家族の形態(一家の稼ぎ手が一
人の家族、大家族、両親が同性の家族 等)につい
て話すことができる
男子と女子に対する異なる期待の例を挙げ、こうし
た期待をどのように感じるのかを議論し、詳しく話
すことができる
男子と女子がどのようにお金を使うのかを描き、消
費に影響を与えるものを議論することができる
7年生
(12 歳)
(地理学)
どのように生産と消費が生態系を破壊し、土壌、水、
大気を汚染するのかを説明できるようになる。こう
した事態を防ぎ、地球を元に戻すにはどうしたらよ
いかを議論し、詳しく話すことができる
ノルウェーでは、どのように国外で獲られる資源を
利用しているかを説明できるようになる
(社会学)
様々な情報源を活用して、テーマを選び、質問を作
り出し、答えを明らかにできるようになる
マスメディアの情報とコマーシャルの影響が消費習
慣にどのように影響を与えるかを説明できるように
なる
10 年生
(15 歳)
(地理学)
資源の利用、誤用、それらが環境と社会に与える影
響、地域規模、地球規模で生じ得る対立について評
価できるようになる
人口規模、構成、増加について詳しく話すことがで
き、都市化を含めて最近の人口と移民に関する状況
について、議論でき、詳しく話すことができるよう
になる
地球の様々な地域の生活環境について、説明し、議
論、詳しく話すことができるようになる。豊かな地
域と貧困地域の違いを比較し、評価できるようにな
る
ソーシャル
スタディー
28
科目
学年
生徒が習得すべき能力
持続可能な発展の前提について議論し、詳しく話す
ことができるようになる
(社会学)
ノルウェーでは消費形態がどのように発展してきた
かを表すことができる。消費者権利について詳しく
話すことができる
7年生
(12 歳)
日常生活で慣れ親しんでいる工芸品のデザイン、そ
の生産過程を評価できるようになる。簡単な消費者
テストを行う
10 年生
(15 歳)
広告、映画、ウェブサイト、コンピューターゲーム
上の様々なメッセージ、倫理的な問題、視覚上の質
を評価できるようになる
形と機能による技術仕様書に基づいて製品のデザイ
ンを行う
製品のライフサイクルを示し、持続可能な発展、環
境、価値の創出という観点から結果を評価する
10 年生
(15 歳)
芸術、表現の一つの形態として、消費財として、娯
楽としての音楽に対する考えを表現し、示すことが
できるようになる
4年生
(9 歳)
様々な食料品を味見して、テストすることができる
商品の簡単なラベルについて理解できるようになる
特定の原材料について説明でき、生産から消費まで
の食品システムの中での位置づけを述べることがで
きるようになる
7年生
(12 歳)
様々な食品の商品情報と広告について議論できる
環境意識を伴って、商品の評価、選択、買い物がで
きるようになる
産業的につくられた食品、大量につくられた商品に
ついて話すことができるようになる
10 年生
(15 歳)
メディアにおける食品情報と広告を評価できる
商品購入を計画し、巨大な食品市場における商品を
評価し、選択する
様々なマーケティング手法が消費者の商品選択に与
える影響を議論し、詳しく説明できるようになる
商品の情報、商品の広告を作成、準備することがで
きる
倫理、持続可能性の観点から食品を評価、選択する
ことができる
芸術・工芸
音楽
食品と健康
資 料 ) Norwegian Directorate for Education and Training(2007), “Consumer relevant
competence aims in “The knowledge promotion” 2006”を価値総合研究所が整理
注)主な事項を抜粋している
29
②後期中等教育課程における消費者教育の目標
後期中等教育課程時で目標とされる消費者教育関連の能力は図表 17 に示す通りである。
図表 17 消費者教育により生徒が習得すべき能力(後期中等教育課程)37
科目
経済学
自然科学
学年
Vg1P
(11 年生/16 歳)
Vg1P
(11 年生/16 歳)
Vg1/Vg2
ノルウェー語
(11/12 年生
/16-17 歳)
英語
ソーシャル・
スタディー
-
Vg1/Vg2
(11/12 年生
/16-17 歳)
生徒が習得すべき能力
物価指数、貨幣価値、実質賃金、名目賃金を使って計
算できる
賃金、予算の計算を様々なツールを使って行える
税金と手数料の計算ができる
消費とローン、貯金の様々な用語をインターネットウ
ェブ上の消費者計算機を活用して調査、査定できる
生徒が「石橋をたたいて渡る」
(look before you leap)
の原則とは何か、持続可能な発展という概念を説明
し、事例を挙げることができる
消費者の選択とエネルギーの利用についての環境面
での原則を評価することができる
国際コミュニティーがどのように世界的な環境変化
に取組んでいるかを詳述することができる
演劇、映画、音楽ビデオ、新聞、広告の中での美的な
表現を描写し、言葉とイメージがもつ様々な役割につ
いて議論し、詳しく話すことができる
様々な用法で、世界言語としての英語の知識を発展さ
せる
英語の技術を発展させ、世界の人々の生活、文化、人
生に対する考え方を理解する
英語の文学を読むことで、個人の発展、成熟、創造力
の基礎をつくる
(個人と社会)
生徒が収入を計算し、様々なツールを使って家庭の予
算計画を立て、貯金とローンが家計にどのような影響
を与えるかを評価することができる
消費者権利について議論、詳細に説明し、消費者の倫
理的な責任について議論することができる
(勤労と経済活動)
生活水準の概念を定義し、ノルウェーの生活水準が何
故上昇しているのかという理由を説明し、生活水準の
上昇がより質の良い生活へと繋がるかどうかを議論
することができる
デジタルツールを活用して生徒がいくつもの職業に
ついての情報を収集し、今日の労働市場の機会と課題
について議論することができる
資 料 ) Norwegian Directorate for Education and Training(2007),“Consumer relevant
competence aims in “The knowledge promotion” 2006”を価値総合研究所が整理
37
主な事項を抜粋している
30
(3)消費者教育の教育・学習方法
①教育・学習方法の概要
ここでは消費者教育の教員向けガイドブック「消費者:我ら同胞」(The Consumer: A Fellow
Human Being)から消費者教育の教育方法を紹介する38。「消費者:我ら同胞」は統合教科と
して消費者教育を行う教員向けのガイドブックである。2005 年にノルウェーで発行され、
ノルウェーの教員、生徒を主な対象に無償で配布された。執筆者はコンシューマー・シテ
ィズンシップ・ネットワーク代表のヴィクトリア・トールセン(Victoria Thoresen)准教授
である。
教育方法として中心となる原則は、生徒が消費者教育を通じて、関連する知識を単に得
るのみではなく、日常生活において責任をもって行動し、活動することができるように教
育することである。最も重要な原則としては次のものが挙げられる。
図表 18 消費者教育の教育方法で最も重要な原則
問題志向:現実問題を扱う
行動志向:行動と内省の対話
生徒の積極的な参加、批判的、創造的思考を手助けする
学校以外の機関との協力、対話を促進する:生徒の積極性を促進し、生徒が生活経験上過
ちを犯さないために
地域での見方、グローバルな見方を対比させること
弁証法的/力強い思考:矛盾、ジレンマ、アンビバレンス(ある対象に対して全く反対の
二つの思考、感情、態度などが存在すること)とそれらへの対処方法
資料)Victoria W.Thoresen(2005), “The Consumer: A Fellow Human Being”
②消費者教育の実践事例
ここでは、現地調査で訪問したオスロ市内の公立中学校「ブランフェル・スコーレ」
(Brannfjell skole)における消費者教育の事例を報告する。
「ブランフェル・スコーレ」は
1972 年に設立されたオスロ市内にある公立中学校。2007,2008 年に欧州委員会(EUROPEAN
COMMISSIONN)が実施するコメニウス学校パートナーシッププロジェクト(Comenius School
Partnerships Project)39で、消費、持続可能性などをテーマにスペイン、ドイツの学校と
の共同プロジェクトを実施するなど消費者教育に意欲的に取組む中学校の一つである。
しかし、ノルウェーの公立中学校は教育内容についてカリキュラムで厳しく定められて
いるため、学校によって教育内容の方針に大きな特色を出せるものではない。ブランフェ
ル・スコーレは消費者教育をテーマとしたEUレベルでの取り組みにプロジェクトベース
で参加を行っているが、学校として消費者教育の方針を定めているわけではない。実態と
しては、統合教科としての消費者教育を各教科の中でどのように実践するかは、教員の裁
量に委ねられていると言う40。
38
39
40
Victoria Thoresen(2005), “The Consumer: A Fellow Human Beiing”
ヨーロッパ内の学校間の共同の取組みを促進することでヨーロッパレベルでの協力を進める
ことを目的としたプロジェクト
ブランフェル・スコーレ 教員 ロバート・ウッド氏インタビュー
31
図表 19
図表 20
ブランフェル・スコーレ
ブランフェル・スコーレにおけるコメニウス学校パートナーシッププロジェクト
ブランフェル・スコーレは 2007 年∼2008 年にスペイン、ドイツの学校をパートナーとし
て、“消費、ライフスタイル、持続可能性に関する若者の対話”(Youth dialogue on
consumption, lifestyle and sustainability)をテーマとしてコメニウス・プロジェク
トを実施。
国際的なコミュニケーション手段としての英語の利用、持続可能性、経済システムにお
ける消費者の役割、ライフスタイルに与える環境上の影響を意識すること、情報通信技
術の自由な活用、国際レベルでのアイデアの交換、教材の交換がプロジェクトの主な目
的である。
プロジェクトでは、先生、生徒がスペイン、ドイツのパートナー校と相互訪問、電子メ
ールの交換、会議の実施などを行い、家庭生活についての比較、買い物習慣、余暇、栄
養計画についての比較などについて意見交換を行っている。2008 年4月にはベルリン
で”フードマイル”(foodmiles:食品が収穫されてから、飛行機によって移動する距離を
示す)
、過程でのエネルギー消費等について共同の会議を開催し、消費者問題に対する意
識を相互に高めている。
資料)ブランフェル・スコーレ提供資料
ここでは現地視察調査で訪問した社会科教員ロバート・ウッド氏(Robert Wood)の「ソー
シャル・スタディー」の授業の様子を報告する。
訪問した授業は、生徒にテーマに沿った課題を与え、教員の指導の下で生徒が雑誌、イ
ンターネット、書籍等から情報収集を行い、レポートをまとめる課題学習の授業であった。
具体的には、ロバート・ウッド教員が生徒に、環境、消費に関するいくつかのトピック(風
力発電、地球温暖化、エコカー、プラスティックと環境、ゴミ問題
等)を提示し、生徒
が調べたいテーマを選択する。その後、1−2週間程度で、生徒がインターネット情報、
図書館などを活用してテーマに関連した情報を収集する。この間に、教員はテーマや調べ
方の主なポイントを指導するのみで、生徒が主体的に学習することが期待されている。
調べた事項を基に、生徒はマイクロソフト社のソフト「Office Publisher」を利用してA
4サイズ2ページ程度の小冊子と、同社の「Power Point」を利用してプレゼンテーション
資料を作成する課題が与えられる。ここでは、選択したテーマについての解説、現状、課
32
題等をまとめると同時に、ビジュアル面でも分かりやすいものをつくることが求められて
いる。資料は英語のみならず、ノルウェー語でも作成する。学習成果は、生徒が授業で生
徒、教員に対してプレゼンテーションを行い、テーマについての議論をすることで更に理
解を深める。
学習過程では、単に生徒が消費、環境の知識を得るのみではなく、自主的に課題研究を
行うことで、テーマに対する知識、理解を積極的に深めると同時に、インターネットを活
用した情報収集能力、インターネット情報に対する批判的な見方、パソコンソフトの利用
技術、英語での表現能力、プレゼンテーション能力を向上させることが期待させている。
学習結果のいくつかは、「Yomag.cz/yomag.net」(消費者問題、ライフスタイル、持続可能
な発展、経済、環境、等に焦点を当てた若者による若者のためのインターネットの雑誌)
などのメディアで掲載し、生徒は自分の学習成果を直接、社会に伝える機会を持つことが
できる。こうすることで、生徒の学習に対する動機、喜びを増大させる工夫を行っている。
教員によって教育方法が異なるが、ロバート・ウッド氏は、レクチャーによる学習方法
ではなく生徒自らが主体的に参加する参加型の学習方法を重視し、担当する授業の6割程
度は参加型の学習方法を採っている41。
図表 21 パソコンを使って学習成果をまとめている生徒の様子
資料)価値総合研究所撮影
41
ブランフェル・スコーレ
教員
ロバート・ウッド氏インタビュー
33
図表 22 生徒によるプレゼンテーションの様子
資料)価値総合研究所撮影
図表 23 生徒が作成した風力発電についての冊子
資料)ブランフェル・スコーレ提供資料
34
図表 24 若者による消費者教育ウェブサイト「Yomag.cz/yomag.net」で掲載された生徒の記事
(シャンプーの含有物が身体に与える影響についての記事)
資料)YOMAG ホームページ
http://www.yomag.net/1254-hairstyling-products-can-kill-you/
消費者教育の教材は、政府、コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークなどの
消費者教育団体、地方自治体が作成した教材など、様々な教材が学校に配布されており、
インターネットウェブ上でも多数の教材が公開されている。教材の選択、利用の有無は教
員の裁量に任せられている。
例えば、ノルウェー子供・平等省、ノルウェー消費者委員会、ノルウェー消費者オンブ
スマン等が作成した教材(Arbeidshefte om reklame)は広告、広告の影響力をテーマとした
消費者教育の冊子である。教員によってはこうした教材を用いて、消費者教育を行ってい
る。
35
図表 25 広告に関する消費者教育教材
資料)ノルウェー子供・平等省、ノルウェー消費者委員会、ノルウェー消費者オンブスマン
「Arbeidshefte om reklame」
5.消費者教育の評価
消費者教育の効果に関する包括的な評価は、評価手法の困難さなどの理由からこれまで
に行われていないと言う42。高校生を対象とした消費者としての知識を問う試験を用いた調
査は 1990 年代に実施されている。
現在、コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークは個人の消費に関する評価指
標の開発を試みている。従来の大半の指標は経済的効果や環境的効果のみに着目したもの
で、社会的側面が十分に考慮されていない。携帯電話の購入を例に挙げると、購入した携
帯電話がきちんと機能するかどうか、生産、廃棄過程での環境負荷はどの程度かという点
にとどまらず、携帯電話の購入が家族・友人との関係の親密化、高齢者と家族・友人との
意思疎通にどれだけ役に立っているか、どれだけ害を与えているか、携帯電話に没頭し、
どれだけ目の前にあるものに対する注意、集中力を失わせているのか、という点を考慮し
て指標を開発する必要性をコンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク代表のヴィ
クトリア・トールセン氏は指摘している43。
42
43
ノルウェー政府 子供・平等省消費者部門、上級アドバイザー オーレ・エーリック・イル
ヴィン氏とのインタビュー
ヘッドマーク大学 准教授、コンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク代表、ビク
36
6.学校外における成人向け消費者教育
成人向け消費者教育を行っている機関の一つに Vox (Norwegian Institute for Adult
Learning)がある。Vox は教育・研究省所属の機関で、成人の基礎能力(読み、書き、計算)、
情報通信技術の活用能力の向上を目的としている。特に、移民、求職中の成人に対する教
育機関として重要な役割を果たしている。近年、Vox はノルウェー政府と協力して、特にデ
ジタル能力を高める取組みを開始している。家計、消費者の権利、義務に関する消費者教
育の点でも両者は協力関係を拡大しようとしている。
特に、成人向けの消費者教育ではメディアの役割が重要である。ゴールデンタイムには
しばしば視聴率の高い消費者向け番組が放映されている。ここでは、消費者教育関連団体
がメディアと協力し、番組のコンテンツの提供、教材の提供を行っている。メディアは国
全体で消費者政策、消費者機関に対する国民の意識を向上させるために役立っている44。
7.消費者教育の課題、今後の方向性
消費者教育の課題としては、情報通信技術の発展が著しい現代社会の中で、インターネ
ットなどのニューメディアに対応した消費者としてのデジタル能力をつけていくことが最
も重要な課題である。現在の生活のあらゆる領域で浸透している情報通信技術に対応して、
インターネットなどの情報を批判的に利用、評価する能力、ブログ、オンラインゲーム、
ソーシャルネットワーキングサイトの賢い使い方、オンラインショッピングにおける消費
者権利の理解、著作権、個人情報に対する認識、批判的な買い物を行う能力、等を習得す
る必要がある。
改定中の北欧諸国の消費者教育共通ガイドラインでは消費者教育における共通テーマと
して「メディアとテクノロジーに関する能力」が挙げられ、北欧諸国全体で取組んでいく
ものとされている。ガイドラインの改定にあたっては、ノルウェーはフィンランド、エス
トニアと共に重要な役割を果たしている。OECD(経済協力開発機構)においても、2009 年
中に消費者教育に関する提言が取りまとめられる予定で、その中で消費者のメディアとテ
クノロジーに関する能力が採り上げられることとされている。ノルウェー政府としては、
今後、こうした能力を実際の教育現場でどのように教えていくのかを更に検討、具体化し
ていく必要がある。
既存の消費者教育教材(「重要な消費者関係法」
「コマーシャルの圧力」
、UNEP 作成のグリ
ーン購入に関する教育ツールキット「Youthxhange」ノルウェー語版、教員向けマニュアル)
なども、新たなガイドラインに併せてアップデートを行っていく45。
44
45
トリア・トールセン氏とのインタビュー
ノルウェー政府 子供・平等省消費者部門、上級アドバイザー オーレ・エーリック・イル
ヴィン氏とのインタビュー、OECD(2009), “Promoting Consumer Education: Trends, Policies
and Good Practices”
ノルウェー政府 子供・平等省消費者部門、上級アドバイザー オーレ・エーリック・イル
ヴィン氏とのインタビュー
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